1: 2021/09/22(水) 19:30:14.161
中学校にて――

少女「あーあ、魔法少女になりたいなぁ」

女友「またいってる」

少女「魔法少女になったら、こうやってステッキを振りかざして……」

女友「それホウキじゃん」

少女「人助けしたり、敵をやっつけたりするの!」ブンブン

女友「危ないっ! んもー、魔法少女っていうか無法少女じゃん」

少女「えへへ……ごめん」

2: 2021/09/22(水) 19:33:14.331
少女(あーあ、魔法少女になりたいなぁ)スタスタ…

妖精「そんなになりたいか」

少女「きゃっ!?」

少女(可愛い動物……? だけど顔にキズがある……)

少女「あ、あなたは?」

妖精「魔法の妖精だ。素質ある女の子を魔法少女にすることができる」

少女「え、えええ……?」

妖精「今度はこっちの質問に答えろ。魔法少女になりたいか?」

少女「うん、なりたい!」

妖精「そうか。じゃあならせてやろう」

少女「ええっ!?」

3: 2021/09/22(水) 19:36:06.430
少女「どうやって……」

妖精「もうなった。お前は魔法少女だ」

少女「早い! なんの余韻も感動もない!」

妖精「呪文を唱えれば、いつでも魔法少女に変身できる」

少女「へぇ~、だったら呪文教えてよ」

妖精「自分で決めるシステムだ。紙に書いて、俺に渡せ」

少女「えーとじゃあ……」

妖精「7文字以上、どこかに英数字も入れなきゃダメだぞ」

少女「なにそれ」

4: 2021/09/22(水) 19:39:19.918
少女「じゃあ、『0303マホウ』で」

妖精「ちゃんと数字入ってるな……0303ってのは?」

少女「私の誕生日!」

妖精「まるでパソコンかなんかのパスワードだな。血は争えないな」

少女「どういう意味よ」

妖精「いや、なんでもねえ。とにかく『0303マホウ』でいいんだな?」

少女「うん!」

5: 2021/09/22(水) 19:42:13.361
妖精「よし、いいぞ。通行人もいないし試しに唱えてみろ」

少女「0303マホウ!」

パァァァァ…

少女「体が……!」

妖精「変身するぞ」

魔法少女「やったーっ! わっ、可愛い~!」

妖精「なにしろ俺がデザインしたからな」

魔法少女「へー、あなた結構デザインセンスあるのねえ」

妖精「グッズ化も視野に入れてるからな」

魔法少女「嫌な妖精だなぁ」

6: 2021/09/22(水) 19:45:11.115
魔法少女「で、どんなことができるの?」

妖精「ほぼ万能といっていい。火を出したり、水を出したり、風を吹かせたり……」

魔法少女「わっ、すごい!」

妖精「体は強化されるし、空も飛べるし、物探せるし、透視できるし……」

魔法少女「すごいすごい! なんでもありじゃない!」

魔法少女「で、私はどんな敵と戦うの?」

妖精「は? 敵?」

魔法少女「うん。魔法少女っていうからには敵と戦うでしょ?」

妖精「敵なんかいないぞ」

魔法少女「え?」

7: 2021/09/22(水) 19:48:15.700
魔法少女「敵いないの!?」

妖精「いないぞ」

魔法少女「だってアニメでは、魔法少女は敵と戦うじゃない。悪魔とか怪人とか」

妖精「知るかよ。いないもんはしょうがないだろ」

魔法少女「敵がいないなら、この魔法どう使えばいいのよ!」

妖精「使い道なんざいくらでもあるだろ」

妖精「風を吹かせて商品運んで万引きとか、透視してカンニングとか」

魔法少女「そりゃ悪いことじゃない! そんなことしたらホントに無法少女だよ!」

8: 2021/09/22(水) 19:50:17.905
妖精「とにかく、そういうことだから」

魔法少女「えぇ~」

妖精「平和な世界で魔法少女を思う存分楽しめ!」

魔法少女「はーい……」



…………

……

9: 2021/09/22(水) 19:54:15.465
次の日――

父「行ってらっしゃい」

少女「行ってきまーす!」

少女「遅刻遅刻~!」

妖精「ったく、パンくわえて走るなんてベタなことやってるな」

少女「うるさい!」

妖精「てか、今まさに魔法の使いどころだろ。空飛べば学校までひとっ飛びだぞ」

少女「あ、そっか」

11: 2021/09/22(水) 19:57:12.402
少女「……って」

ザワザワ…

少女「人たくさんいるし、こんなところで変身できないよ!」

妖精「たしかに」

少女「しかも空なんて飛んだら、絶対目撃されるじゃない!」

妖精「大騒ぎだろうな。新しい都市伝説の誕生だ。口裂け女ならぬ空飛び女」

少女「結局自力で走るしかないじゃない!」

妖精「ま、頑張りな」

12: 2021/09/22(水) 20:01:53.261
教師「今日は抜き打ちテストだ」

えぇ~……

少女(どうしよ、全然分かんない)

妖精「苦労してるようだな」

少女(あっ! なんでここに……大騒ぎになっちゃう!)

妖精「俺の姿は他の奴には見えねえよ。ところで、今テスト中か?」

少女「うん、そうだけど」

妖精「だったらカンニングすりゃいいじゃねえか。魔法少女になってよ」

少女「こんなとこで変身できないでしょ! それにカンニングなんか絶対しない!」

教師「よくいった! カンニングせずいい点取れよ! だけど、テスト中は静かにな」

女友「何やってんだか……」

クスクス… ハハハ…

少女「あ……」

14: 2021/09/22(水) 20:04:10.693
体育――

少女「はぁ、はぁ、はぁ……」

少女(持久走、苦しいなぁ)

妖精「なっちゃえよ、魔法少女に。いくら走っても苦しくないぜ?」

少女「やだ! ちゃんと自力でやる!」

タッタッタッ…

少女「き、きつい……」

妖精「フッ……」

15: 2021/09/22(水) 20:08:08.971
少女「ただいまー」

少女「おやつを食べる前に……お母さんに挨拶しなくちゃ」

少女「お母さん、ただいまー」

妖精「この写真は……お前の母ちゃんか」

少女「うん、そうだよ」

妖精「氏んじまったのか?」

少女「うん、私が五歳になった時に」

妖精「そっか……」

17: 2021/09/22(水) 20:11:19.741
妖精「寂しいか?」

少女「ううん、不思議と寂しくないんだ」

妖精「なぜだ?」

少女「だってお母さん、私のことめいっぱい愛してくれたから。他の子のお母さんに負けないぐらい愛してくれたから」

少女「まだ子供だったけどそれだけは分かるの。だから……」

妖精「そうか、ならいいんだ」

少女「さーて、宿題やらなくちゃ。もちろん魔法なしで!」

18: 2021/09/22(水) 20:15:19.126
少女「宿題終わったーっ!」

妖精「終わったイコールちゃんと正解してる、とは限らないよな」

少女「ほっといてよ! あ、もうこんな時間か」

少女「そろそろお父さん帰ってくるし、晩ご飯作らなきゃ」

少女(あ、だけどこれぐらい魔法使っていいかも。誰か見てるわけじゃないし……)

少女「0303マホウ!」パァァァ…

魔法少女「ジャーン!」

魔法少女「キャベツを……切る!」

ザンッ

魔法少女「え、一回だけ? 千切りは?」

妖精「千切りにするには、今のを何回もやらないとな。しかも加減しないと、まな板まで切れるぞ」

魔法少女「め、めんどくさい! 普通に作った方が早い!」

妖精「だろうな」

魔法少女「魔法少女の格好で、普通に千切り……なんかシュールだなぁ」トントントン

20: 2021/09/22(水) 20:18:25.651
魔法少女「あーあ、魔法少女になれてもなかなか使い道ないんだなぁ」

妖精「ま、そんなもんだ」

妖精「日常のことやろうとするには力が大きすぎるし、自分のために使えばどうしても不正みたいになる」

魔法少女「やっぱり敵がいないとねえ……。ねえ、ホントに敵っていないの?」

妖精「お前もしつこいな。いないっていってるだろ」

魔法少女「ひょっとしてあなたが悪い敵ってオチじゃ……」

妖精「なら俺と勝負するか?」ニヤ…

魔法少女「や、やめときます!」

魔法少女(なんか勝てる気しない!)

22: 2021/09/22(水) 20:21:19.357
魔法少女「だったら……敵を探しに行くか!」

妖精「たとえばどこへ?」

魔法少女「この町!」

妖精「ずいぶん平和そうな町に見えるけどな」

魔法少女「そうなんだよね。昔はすごく治安悪かったらしいけど、今はとっても平和!」

魔法少女「交通事故すらめったに起きないし」

妖精「いいことだな」

魔法少女「いいことなんだけどねえ……」

25: 2021/09/22(水) 20:24:28.981
魔法少女「じゃあ、別の県とか、いっそ海外とか……」

妖精「ああ、それ無理」

魔法少女「なんで?」

妖精「この町は特殊な魔法磁場の上にあってな。だからこそお前は強力な魔法少女になれる」

妖精「よその土地じゃ大した力は発揮できないぜ。とてもスーパーマンみたいなことはできない」

魔法少女「そ、そんなぁ~」

魔法少女「やっぱり敵と戦うのは無理か……」

妖精「諦めるんだな」

26: 2021/09/22(水) 20:27:26.028
……

父「うーん……」

少女「どうしたの? お父さん」

父「重要な書類がなくなってしまったんだ」

父「どこいったんだか……」

少女「困ったねえ……。私もちょっと探してみるよ」

父「ああ、頼むよ」

妖精「おーい」ヒソヒソ

少女「ん?」

妖精「魔法少女なら探せるぞ」

少女「あ、そっか!」

28: 2021/09/22(水) 20:30:17.646
少女「0303マホウ!」パァァァァ…

魔法少女「書類はどーこだ!」

……

少女「お父さん、書類あったよ!」

父「本当か! どこにあった?」

少女「洗濯機の裏! きっと洗濯物入れる時になにかの拍子に……」

父「あー、いわれてみれば! どうもありがとう!」

妖精「魔法少女としてようやく活躍できたな」

少女「うん……だけど地味!」

29: 2021/09/22(水) 20:34:37.591
学校――

少女「はぁー……」

女友「おや、あんたが悩むなんて珍しいじゃん」

少女「そんなことないでしょ!」

女友「で、どうしたの? あたしでよけりゃ相談に乗るよ」

少女「力を持ってても、平和な世界じゃなかなか使いどころないよなぁって」

女友「こりゃまたずいぶんハイレベルなお悩みで。核ミサイルでも手に入れたの?」

少女「そんなようなもんかな」

女友「いいなぁ、あたしにも一発ちょうだいよ。ぶっ放したいから」

少女「ホントに撃ちそうで怖いよ」

30: 2021/09/22(水) 20:37:37.543
少女「もし、もしだよ? 魔法少女になったとして……」

女友「うん」

少女「戦うべき敵がいなかったらどうする?」

女友「あたしだったら……たとえば魔法で万引きしたり、カンニングしたりするかな」

女友「少しでもバレる可能性があるならあたしは絶対不正はしないけど、バレなきゃ不正じゃないもの」

少女「発想がおんなじ!」

女友「え、誰と?」

少女「いやいやいや、なんでもない!」

32: 2021/09/22(水) 20:40:01.953
女友「真面目に答えるなら、力なんて使わないに越したことないでしょ」

女友「ほら漫画とかでも、力を手に入れたら、調子に乗ってバッドエンド迎えちゃう人いるじゃん」

少女「うん」

女友「たとえば銃や剣も戦うための武器だけど、それを使うってことは誰かしら傷つけることになる」

女友「だからせいぜい、戦う必要のないことに感謝しながら、細々と生きてくのが一番じゃないかなって」

少女「……」ジーン

女友「え」

少女「あなた、いいこというねえ!」

女友「そうかな?」

少女「あなたが友達でよかった!」

女友「はあ、こりゃどうも」

34: 2021/09/22(水) 20:43:05.571
少女「私、決めたよ!」

少女「これからは平和な世界で魔法少女として細々と暮らす!」

妖精「そりゃなによりだ」

少女(だけど一つ気になることがあるんだよなぁ……)

少女(この妖精さん、絶対すごい敵と戦ってきたって空気してるのよね。顔にキズあるし)

少女(聞いても答えてくれないだろうけどさ……)

36: 2021/09/22(水) 20:46:16.510
それからというもの――

ブロロロロ…

バシャッ!

少女「あーもう、水たまりのせいで制服が!」

パァァァ…

魔法少女「水たまりよ、ずれろ!」

ズズズズ…

魔法少女「ふー、これでもう安心! 他の人が泥をはねられる心配なし!」

37: 2021/09/22(水) 20:48:05.738
少女「猫ちゃんが屋根から降りられないでいる……よーし」

パァァァ…

魔法少女「風よ!」

ビュオオッ

猫「ニャン!?」

フワフワ… スタッ

魔法少女「大丈夫?」

猫「ニャーン!」

39: 2021/09/22(水) 20:50:12.709
女友「なんだかこのところ調子いいね?」

少女「分かる? 吹っ切れたおかげで、心も体も生まれ変わったみたい!」

教師「こないだのテストを返すぞ~」

教師「ほら、50点だ。もっと勉強しろ」

少女「……」

女友「頭の調子は悪いね」

少女「はっきり言わないでよ!」

40: 2021/09/22(水) 20:54:21.176
少女「アイスおいしい!」

女友「たまには買い食いもいいよね」

少女「ねー!」

スタスタ…

チンピラ「……」ズカズカ

ドンッ

女友「きゃっ!」

ベチョッ

チンピラ「あーあ、俺の服にアイスついちまった。どうしてくれんだ!」

41: 2021/09/22(水) 20:57:06.856
女友「ごめんなさい」

チンピラ「ごめんで済むと思ってんのか!?」

女友「……!」

少女「あ、あの、今ぶつかってきたのそっちじゃ……」

チンピラ「ああ!?」

少女「ひっ!」

チンピラ「お前ら、ちょっとこっち来いやァ! 逃げても無駄だかんな!」

42: 2021/09/22(水) 21:02:36.083
女友「……」

少女「……」オドオド

チンピラ「よし、脱げや」

女友「え……」

チンピラ「写真撮るからよ。二人とも脱げ」

女友「な、なんでよ……」

チンピラ「決まってんだろ? それ売って金にすんだよ! 中学生なんていくらでも需要あるしよ!」

女友「クリーニング代は払いますから、勘弁して下さい」

チンピラ「ふざけんな! 脱げっつったら脱げや!」ガンッ!

少女&女友「!」ビクッ

43: 2021/09/22(水) 21:04:50.361
少女(どうしよう、写真なんか撮られたら……オシマイ……)

女友「あの……」

チンピラ「なんだ」

女友「アイスをぶつけたのはあたしです。だからあたしだけで勘弁して下さい」

チンピラ「いいだろ。お前だけで勘弁してやる」

女友「約束しましたよ」サッ

チンピラ(んな約束守るわけねーだろ。小娘が)

少女(そんなっ! そんなことさせちゃいけないっ! 魔法少女にならなきゃ! だけど怖くて声が――)

44: 2021/09/22(水) 21:07:08.548
妖精「待ちな」

チンピラ「!?」

女友「……!?」

少女「え!?」

チンピラ「今の声は……こいつか?」

女友「なに、この動物……犬でも猫でもない……」

少女(みんなに見えてる! 実体化してるってこと!?)

46: 2021/09/22(水) 21:10:14.254
チンピラ「なんだこの珍妙な生き物は……」

妖精「正義の味方だよ。すぐその女の子二人を解放しな」

チンピラ「ふざけんなァ!」ブオンッ

妖精「……」ヒュッ

チンピラ「踏み潰してやる!」グワッ

妖精「……」サササッ

チンピラ「はやっ!」

妖精「こっちだこっち」

チンピラ「くそぉっ!」

妖精「実体化は疲れるんでな。ちょいと手荒くやるぜ」

47: 2021/09/22(水) 21:12:26.234
ドカッ! バキッ! ガッ!

チンピラ「あ、あうう……」

妖精「消えろ。今度こういうことやったら命ねえぞ」

チンピラ「は、はい……ごめんなしゃい……」ヨタヨタ…

妖精「せっかく平和な町になったのに……時間が経つとああいうゴミが出るんだな」

妖精「じゃあな!」ババッ

女友「助かった……」

少女「……」

女友「だけど今の動物、なんだったんだろ。海外の動物かなにかかな?」

少女「さあ……」

48: 2021/09/22(水) 21:15:23.276
……

少女「……」

妖精「よう、さっきは危なかったな」

少女「うん……」

妖精「なんだ、なにか不満そうだな」

少女「不満だよ! あなたは私が魔法少女になれるって知ってるのに、どうして助けてくれたの!?」

少女(ってホントは怖くて呪文唱えられなかったけど……)

妖精「だってお前に敵はいないからな。戦わせるわけにいかないだろ」

少女「……」

49: 2021/09/22(水) 21:18:32.971
少女「ねえ、教えて! さっきのあなた、ものすごく強かった」

少女「本気でやってたら、あの悪い人氏んじゃってたはず」

少女「あなたは……何者なの?」

少女「本当にただ、女の子を魔法少女にするだけの存在なの? とてもそうは思えない!」

妖精「その様子じゃ、ずっと気になってたか」

少女「うん……。だけど聞いても教えてくれないと思って……」

妖精「いいだろ、教えてやる。いずれ話すつもりだったしな」

50: 2021/09/22(水) 21:21:44.843
妖精「俺は昔、お前の母ちゃんとコンビ組んでた」

少女「え?」

妖精「お前の母ちゃんは魔法少女だったのさ。いわば先代だな」

少女「ええっ!? そうだったの!?」

妖精「昔この町が治安悪かったってのは知ってるな」

少女「う、うん……犯罪発生件数が全国有数だったって……」

妖精「それは魔王が、町の住民を操って犯罪をさせてたからなんだ」

少女「魔王……!?」

妖精「魔法磁場のあるこの町で犯罪発生率を高めることで、負の気を蔓延させ、自分をパワーアップさせようとしてた」

妖精「パワーアップしたら、おそらく日本……いや世界を征服するつもりだったろう」

妖精「それを阻止するために俺は戦ったんだが、一人で立ち向かえる相手じゃねえ」

妖精「だから、素質があり魔法少女願望もあったお前の母ちゃんを魔法少女にしたんだ」

51: 2021/09/22(水) 21:25:26.744
妖精「ザコを倒し幹部を倒し、俺とお前の母ちゃんはついに魔王を追い詰め――トドメを刺した」

妖精「だがその時、魔王は恐るべき呪いをお前の母ちゃんにかけた。一生の不覚だった」



魔王『フハハハハ……貴様から“母”になる喜びを奪ったぞ!』

魔王『貴様はもし子供を産んだら、五年後に氏ぬ!』

魔王『子供の成長を見ることなく氏ぬのだ……』



妖精「最悪だった。魔王ほどの奴が氏に際に放った呪いだ。解くのも絶対に不可能だった」

妖精「俺はもう、自害してでもあいつに詫びるつもりだった」

妖精「だが……あいつはこういったよ」

52: 2021/09/22(水) 21:28:50.121
『えー、子供産まなきゃいいんでしょ? 気にすることないってー。絶対氏んだらダメだよ』



妖精「こうして町に平和が戻った」

妖精「やがて母ちゃんも大人になり、俺の手から離れてた」

妖精「だが……あいつはある男を愛し、その子供を産んだ」

妖精「いうまでもない。ある男ってのはお前の父ちゃんで、子供はお前だ」

少女「……!」

53: 2021/09/22(水) 21:31:38.886
妖精「俺はあいつのところにいったよ。そして……問い詰めた」



妖精『なぜ産んだ!? 五年経ったら氏ぬんだぞ!』

母『うん……だけど、私あの人愛しちゃったし、どうしても子供欲しくてね』

妖精『この子が五歳になったらお前は……』

母『だから、この五年間は精一杯、愛情を注ぐつもり』

母『この子が、母親の愛情を知らないなんてことにならないように……』



少女「お母さん……」

55: 2021/09/22(水) 21:35:28.911
少女「このこと、お父さんは?」

妖精「知ってる。実体化して会いに行ったからな」

少女「そうなんだ……」

妖精「ブン殴られたよ。いいパンチだった。このキズは……その時のもんだ。今でも残してある」



父『お前がっ! 妻を魔法少女なんかにしなければっ……!』



妖精「だが、最終的には母ちゃんの選択を尊重し、俺を許してくれた」

妖精「あの父ちゃんもホントいい男だよ」

少女「うん……」

56: 2021/09/22(水) 21:38:07.711
妖精「もうすぐ五年経つって時、俺とあいつは会った」

妖精「その時――」



母『ねえ、私がそうだったように……この子も魔法少女に憧れちゃうと思うんだ』

妖精『かもな。血は争えねえ』

母『だからもし、この子が魔法少女になりたいと心から願ったら、してあげてくれない?』

妖精『いいのか?』

母『うん……戦う必要のない平和な世界で魔法少女を満喫させてあげたいの……』

妖精『分かった……約束する。たとえ魔法少女にしても、敵と戦わせたりしねえ』

57: 2021/09/22(水) 21:41:26.081
少女「お母さん……」

妖精「いっとくが、母ちゃんが氏んだのは自分のせいだなんて思うんじゃねえぞ」

妖精「あいつは自分の意志でお前を産み、精一杯生きたんだ」

妖精「俺だってもう、あいつを魔法少女にしたことを悔やむ気はない」

妖精「だから……」

少女「うん、分かってる! 大丈夫! 自分を責めたりしないよ!」

少女「それにあなたにもお礼いわなくちゃね」

妖精「お礼?」

58: 2021/09/22(水) 21:44:17.148
少女「お母さんとこの町を平和にしてくれて……そして、私を魔法少女にしてくれてありがとう!」

妖精「お前って奴は……」

少女「私、平和になった世界で敵と戦ったりせず、魔法少女として生きるよ!」

妖精「ああ……それがあいつの願いだ」

少女「最後に一つ、お母さんは魔法少女になる時、どんな呪文唱えてたの?」

妖精「ええとたしか……誕生日が5月5日だったから『0505マジカル』だったかな」

少女「私とそっくり!」

妖精「だからいったろ。血は争えねえって」

アッハッハッハッハ…

61: 2021/09/22(水) 21:47:10.943
……

少女「お父さん!」

父「なんだ?」

少女「私ね、魔法少女になったの!」

父「えっ……」

少女「だけど、安心して。敵と戦ったりしないから」

父「どういうことだ?」

少女「だって敵は頼もしい妖精が倒してくれるもん! 私は戦わず平和に魔法少女するよ!」

父「……」

父「あの妖精君に……いつだったかは殴ってすまなかったと伝えておいてくれ」

少女「はーい!」

62: 2021/09/22(水) 21:49:15.795
少女「おはよー!」

女友「おはよ」

少女「いやー、昨日は怖かったね」

女友「平気平気、今度来たら……この強烈催涙スプレーでやっつけるから。むしろリベンジしたい」

少女「おお……!」

少女(やっぱりこの町にもう、戦う魔法少女は必要ないみたい)

少女(お母さん、私平和に暮らすからね……天国で見ててね!)

…………

……

63: 2021/09/22(水) 21:52:30.063
やがて少女は大人となり、結婚し、主婦となっていた。

息子「ただいまー」

娘「ただいまー」

主婦「あ、帰ってきたらまず宿題を……」

息子「行ってきまーす!」

娘「まーす!」

主婦「まったくもう……二人とももうすぐ中学生だってのに」

主婦「だけど、元気に育ってるからいいか」

64: 2021/09/22(水) 21:56:59.028
主婦「さて、洗濯物取り込まなくちゃ」

主婦「たまには……0303マホウ」パァァァ…

魔法主婦「うふふっ、魔法主婦!」

魔法主婦「風よ、洗濯物を取り込めっ!」

ビュオオオッ

フワッ…

魔法主婦「魔法を使うのは久しぶりだけど上手く出来たわ」







―おわり―

65: 2021/09/22(水) 21:58:10.481
いい話だった

68: 2021/09/22(水) 22:08:46.082

父ちゃん母ちゃんいい人だわ

引用元: 少女「今日から私は魔法少女ね!で、敵は?」妖精「敵なんかいないぞ」