1: 2010/10/16(土) 17:50:38.71
梓「ほら、憂! 遅いよ!」

純「憂~引っ張るのも楽じゃないんだよぉ~」

憂「だってぇ…」


『憂』

それが私の名前

この字には辛い、悲しいって意味がある
『憂』を使った言葉も悪いイメージだらけ


梓「そんな悲しそうな顔してほっとけないよ?」

憂「で、でも私やっぱり…」

純「ダメダメ! 憂はそうやって我慢する気だね?」

梓「うんうん、たまには甘えた方がいいと思う!」

純「よーし、行くよっ!」

憂「わわっ、引っ張らないでよぉ~」

6: 2010/10/16(土) 17:53:46.20
私は今この『憂』という名前が原因で落ち込んでいる

普通は名前に使われないような漢字
でも実は私はもともと自分の名前がちょっとだけ好きだった
そのきっかけは小学3年生の春
始業式を終え、教室で自己紹介をする時間での事だった


――――――

――――――――――――

――――――――――――――――――


憂「私の名前は平沢憂です! 好きなものはお姉ちゃんです!」

先生「へぇお姉ちゃんと仲良いんだね! それにしても珍しい名前だね~」

憂「え、そうかなぁ?」


私はその時『憂』があまり人名に使われるようなものでない事を知らなかった
だから自分の名前が珍しいものなんて考えたことはなかった
この頃の私は自分の名前に特に関心はなかったんだと思う

9: 2010/10/16(土) 18:00:14.16

先生「う~ん…でもこの漢字は…」

憂「?」

先生「あ、もしかして『にんべん』がくっつくと『優』って文字になるからかな?」

憂「にんべん?」

先生「『人』の部首だよ」

先生「『憂』って漢字の隣に『人』が来ると『優』って字になるでしょ?」

憂「うん」

先生「だからきっと憂ちゃんは隣に人が来ると優しくなれるんだね!」

憂「あ、なるほどー」

純「わあ、ういちゃんかっこいい!」

憂「じゅんちゃん?」

純「優しくなれる名前なんてかっこいいね!」

10: 2010/10/16(土) 18:03:34.04

当時すでに仲良しだった純ちゃんが大きな声でそう言う
それに続くようにクラスメイトたちが私の名前を賛美してくれた


憂「人に優しくなれるから憂…かぁ……」

純「いいなー、私もその名前がいいなー」

憂「えへー、ちょっとかっこいいかも!」


みんなにチヤホヤされて私もまんざらじゃなかったのを覚えてる
私の名前にはそういう意味があったんだ
この日初めて自分の名前の由来を知った

自分の名前をちょっと好きになった瞬間だった

11: 2010/10/16(土) 18:10:28.37
・・・

それでも年を重ねるにつれて『憂』の持つ言葉の意味も理解するようになっていった

ちょうど中学生になったあたり
新しく出来た友達で私の名前に疑問を持つ子も少なくはなかった


友「憂って名前珍しいよね~」

憂「うーん、そうだね」

友「『憂』って悲しいとか辛いとかって意味があるんでしょ?」

憂「うん、憂鬱って言葉にも使われてるよね」

友「なんかあんまり良いイメージないよね? あ、気を悪くしたらゴメン」


そうそう、この頃って実はちょっとだけ怖かったんだ
名前の事で誰かに酷い事言われちゃわないかなって

12: 2010/10/16(土) 18:14:06.81
憂「ううん、ぜんぜん大丈夫だよ」

友「さすが憂! じゃあ聞くけどさ、憂って名前の由来あるの?」

憂「もちろんあるよ! 実はね…」

純「ふっふっふ、知りたいかい?」

憂「あ、純ちゃん」

友「純、知ってるの?」

純「ふふん、まあね。私達の小学校では有名な話だよ」

友「教えて教えて!」

純「『憂』って字はね『人』、つまりにんべんが隣に来ると『優』になるでしょ?」

純「つまり憂は隣に人がいる時に優しくなれるから『憂』なんだよ!」

純「ねっ、憂?」

憂「うん! ありがとう純ちゃん」

友「おぉぉ~~ホントだぁ! 超かっこい~~!」

憂「えへへ~♪」

13: 2010/10/16(土) 18:20:19.90

でもそんな心配する必要無かった

私の名前にはちゃんと意味があって
何よりいつも私の周りには思いやりのある友達がいてくれたから
みんな私の名前の由来を聞くとかっこいいって言ってくれる
今考えても私はつくづく友達に恵まれていたと思う

悪いイメージの漢字でも理由があるから褒めてもらえる
その頃はそれが純粋に嬉しかったなぁ
なんだかんだで『人』に優しくなれる名前は私のちょっとした自慢のひとつになっていた


友「だから憂は天使みたいに優しいんだね~」

憂「て、天使じゃないよぉ…」

純「へへ~ん、すごいでしょ!」

友「うん!でも純がいばる事じゃないよね~?」

純「なによぉ~!」

15: 2010/10/16(土) 18:26:42.76
隣に『人』がいる時優しくなれる
さっきまではこれが私の性格なんだって思ってた

でも、今思うとこの頃の私は自分の名前に振り回されてたんだ

隣に『人』がいれば優しくなれるんじゃなくて
隣に『人』がいるから優しくなくちゃいけない

『憂』を『優』に見せる為の努力をしていた
『憂』の持つ悪いイメージを一掃したかった

ううん、この頃だけじゃない…
きっと今もそう

だから、もしかしたら私は自分の本当の性格を知らないのかもしれない


――――――――――――――――――

――――――――――――

――――――

17: 2010/10/16(土) 18:32:55.70
梓「憂、音楽室着いたよ?」

純「なにボケーっとしてんのさ?」

憂「はっ! も、もう着いたの!?」

純「……これは重症だね、早く診てもらわないと」


うぅ、まずい…
考え事してたら音楽室の前に着いてしまった


梓「ほら、行くよ憂」

憂「ね、ねえやっぱり止めない?」

梓「いまさら何言ってるの! もう唯先輩しかいないでしょ?」

憂「うぅっ、でも心配かけたくなくて…」

18: 2010/10/16(土) 18:39:20.99
純「憂なんてもっともっと心配かけさせられてるんだからオールチャラだってば!」

純「むしろお釣りがくるね、大量に!」

梓「純の言うとおり! 憂も唯先輩に慰めてもらえば元気出るよ!」


あぁ、二人の心遣いは本当に嬉しい、嬉しいんだけどね?
やっぱりお姉ちゃんに心配をかけるのだけは避けたいんだよぉ…


憂「ふ、二人とも人が良すぎるよ…」

純梓「憂にそう言われても嫌味にしか聞こえなーい!」


うぅん、この息ぴったりコンビなかなか手強い
でもなんとかこの場から離れないと…


律「なにやってんの? きみたち…」

憂「あ…」

20: 2010/10/16(土) 18:45:48.84
梓「あっ律先輩! 唯先輩いますか!?」

律「ん? みんな揃ってるけど…とにかく入んなよ」


しまった…どうやら部屋の前で騒ぎすぎたみたいだ…
様子を見に来た律さんに見つかってしまった
律さんに促され、私達3人は音楽室へと足を踏み入れる


純「し、失礼シマース…」

梓「なんで緊張してんの…」

純「だ、だってぇ~」

梓「純は大雑把なのに変なの」

純「私だってちゃんと女々しいところありますー!」

21: 2010/10/16(土) 18:54:47.79

純ちゃんと梓ちゃんが得意の漫才を披露しはじめたので私はお姉ちゃんの様子を伺ってみる

あ、予想通り白くなってる
今日は3年生も私達と同じように期末試験の返却日だったんだね
心ここにあらずって感じだ
これならうまくいけばこの場を切り抜けられるかも!
お姉ちゃんの前では笑顔でいたいもんね


紬「憂ちゃん? いらっしゃ~い」

憂「あ、お邪魔します!」

澪「憂ちゃん! と、鈴木さんだっけ?」

純「はっ、はい! 純と呼んでいただいても構いませんよ!」

澪「そ、それは恥ずかしいから……」

唯「ん、ういー?」

憂「お姉ちゃん、授業お疲れ様♪」

22: 2010/10/16(土) 19:03:44.22

顔を上げて私を見つめるお姉ちゃんに笑顔を見せる
隣で梓ちゃんと純ちゃんが呆れ顔で私を見てるけど気にしない
だってしょうがないよ
お姉ちゃんは本当に心のあったかい人
例えテストの結果で落ち込んでいても私を優先して心配してくれる

だから私は笑顔を作る
お姉ちゃんは今年受験だから…きっと今は勉強のことで色々悩まなきゃいけない
そんな大事な時に私なんかのせいで余計な心配をかけさせる必要なんてない


唯「……?」

律「ままま! 立ったままもなんだし座りなよ!」

澪「そうだな、ほら憂ちゃんも」

憂「はい! ありがとうございます!」

23: 2010/10/16(土) 19:11:21.00
梓「ちょ、ちょっと憂!」

憂「ありがとう梓ちゃん、私は大丈夫だから…ねっ?」

純「も~~!」


小声で私を咎める二人に強がりを返す

こうして私は『優』になる
きっと今までも私はこうやって自分を偽ってきたんだろうな


紬「はぁいどうぞ~、3人の分のお茶ね~」

梓「あっ、ムギ先輩すいません」

純「んっ! これすっごいおいしい!」

紬「そう? ふふ、ありがとう」

25: 2010/10/16(土) 19:20:19.12
梓「ふふん、ムギ先輩の淹れてくれるお茶は軽音部1の自慢だからね」

澪「いやいや軽音部1って…確かに美味しいけど」

純「あっそのドヤ顔やめてよ!羨ましくなんて…ないんだもん……」

梓「ぷぷ、こんなにおいしいのに?」

純「うぅ、ていうか梓が自慢することじゃないじゃん!」

梓「別にいいでしょ!」

紬「!! ふ、二人とも仲良いのね!」

憂「はい、この二人は羨ましくなっちゃうくらい仲良いんです」

純「いやどう見ても憂と唯先輩のほうが…」

澪「おーいムギ、反応しすぎだぞー」

律「いやいや、その前にこれって仲良いかぁ?」

唯「……ねえねえねえねえ!」

27: 2010/10/16(土) 19:28:46.77
澪「どうしたんだ、唯?」

唯「ねぇ憂!」

憂「私? どうしたの?」

唯「憂、なにかあったの?」

憂「えっ…?」

唯「言ってよ」

憂「な、なんで…?」

唯「だって憂の笑顔いつもと違う」

澪「な、なにか違うか…?」

律「いやぁ、気付かなかったけど…」


私の笑顔がいつもと違う?
そんな事ない! 私はいつもと同じ!
自分を『優』に見せられているはずなのに…

ううん、今はそれよりも…

30: 2010/10/16(土) 19:41:17.77
純「ていうか、さぁ…」

梓「うん、唯先輩、ちょっと怖い……」


そう、純ちゃんと梓ちゃんの言うとおり
お姉ちゃんが怒ってる……
駄々をこねるお姉ちゃんなら何回でも見た事があるけど
こんな風に静かに怒りを露にするお姉ちゃんは何年ぶりだろう
いや、初めて見たかもしれないくらい


唯「そんな憂、見たくないよ……」

律「ゆ、唯……どうしたんだよ?」

紬「唯ちゃん?」


こぶしを握り締めて震えながら話すお姉ちゃん
その目にはうっすらと涙が浮かび上がっている
軽音部の皆さんも戸惑っているみたい


唯「だってそんなのは憂じゃない! 憂の笑顔じゃないもん!」

憂「わ、私の笑顔……?」

33: 2010/10/16(土) 19:50:42.56
唯「あずにゃん、純ちゃん!」

純梓「は、はいっ」

唯「憂に何かあったんでしょ? だから皆で音楽室に来たんでしょ?」

梓「そ、そうです」

律「お、おい唯? 後輩が怖がってるから…」

唯「はっ! わわっごめんね! でも、どうしても教えてほしいんだよ」

唯「憂の為なんだよねっ?」

梓「唯先輩……」

純「……分かりました! 話します!」

純「唯先輩の言うとおり私達がここに来たのはその為ですから!」

純「憂は唯先輩に心配かけさせまいとして平気な振りをしてたんです!」

唯「うん、そうだと思ったよ」

34: 2010/10/16(土) 19:59:55.25
梓「いいよね、憂?」

純「観念しなさい!」

憂「……うぅ」


お姉ちゃんの勢いに押されてしまった
でもこれ以上怒ってるお姉ちゃんも見たくなかった


梓「では、皆さんも同じだと思うんですけど今日は学期末試験の返却日でしたよね?」

澪「ああ、さっきまで唯も白くなってたよ」

律「まさか憂ちゃんも成績悪くて落ち込んでたーとか?」

紬「憂ちゃんに限ってそれは無いと思うけど…」

純「えぇ、むしろ逆です」


純ちゃんと梓ちゃんが軽音部の皆さんに説明を始める
私もそれに従うようにその時の事を思い出すことにする

42: 2010/10/16(土) 20:25:32.48
――――――

――――――――――――

――――――――――――――――――


先生「平沢ぁ~」

憂「はい」

先生「今回もお前クラスで1番だったぞ!」

純「おぉ~! 憂さっすがぁ!」

梓「毎日家事してるのに…反則だよ……」

先生「それにしても本当に平沢はすごいな」

純「自慢の娘です!」

憂「もーっ! たまたまだよ?」

梓「たまたまで毎回トップにならないでよ~」

憂「うぅ……」

43: 2010/10/16(土) 20:34:13.58
先生「鈴木も中野も平沢を見習え」

梓「見習えったって……ねぇ、純?」

純「うん…見習えてるならとっくにクラスでトップだよね」

先生「お前らはまったく……ん? 平沢の名前って…」

純「おっ、先生も気付きましたか」

先生「もしかして『人』と比べると優れてるのが分かるから『憂』なのか!」

純「そうそう! ……えっ?」

憂「え……」


一瞬、先生の発言を理解できなかった
だって、私は今までずっと誰かが隣にいると優しくなれるから
だから『憂』なんだって思ってたから
実際それを聞いた友達はみんな納得してくれてた


純「違いますよ~隣に『人』が来ると優しくなれるから『憂』なんですっ!」

44: 2010/10/16(土) 20:43:37.73
先生「あ~そういう解釈もあるのか」

先生「まぁ先生達から見れば平沢は優秀が制服着て歩いてるみたいなもんだからなあ」

純「あーまぁそれは確かにその通りですけど…」

憂「違います! 私優秀なんかじゃありませんっ!」

梓「憂?」


そうだ、私は優秀じゃない
私は二人みたいに部活をやってない
家事を済ませた後お姉ちゃんが帰ってくるまで退屈だから
だから勉強をしているだけ


先生「うーん、まぁ平沢は謙虚だからな」

先生「でも悪い意味じゃないだろう? ひとつの意見として捉えてもらえば良い」

梓「だってさ、憂」

憂「……」

45: 2010/10/16(土) 20:51:22.13
純「憂?」

憂「う、うん…」


悪い意味じゃない?そんなことない
そもそも私は人と比べられるのが嫌いだ
私はテストで良い点を取れたけどそれで人の価値がすべて決まるわけじゃない
テスト以外でも人にはいろいろ評価出来ることがある
それを無視して私の方が優秀だなんて間違ってる


憂「……」

梓「憂、どうかした?」

憂「いやっなんでもないよっ!」

純「はい、嘘バレバレね~」

憂「えぇっ!?」

48: 2010/10/16(土) 21:01:24.00
梓「はぁ~…ま、何考えてるかは大体分かるけどさ」

純「だね、憂は良い子なんだから! もう!」

憂「そんな事ないってば……」

純「余裕であるって」

梓「まぁ先生も悪気があって言ったんじゃないんだし! 深く考えないほうが良いよ」

純「そうそう憂は自分の事そんな風に思ってないって事ちゃんと分かってるからさ」

憂「純ちゃん梓ちゃん、ありがとう」

梓「良いって! それより間違ってるところ質問していい?」

憂「うん、いいよ!」


二人とも凄い
私が何で落ち込んでるのか一瞬で判断して慰めてくれた
やっぱり親友って良いな

49: 2010/10/16(土) 21:08:48.56
・・・

憂「はぁ…」


それから時間が経ち放課後になった
二人に考えないようにって言われてたけど駄目だった
先生の言っていた言葉がやっぱり気になってしまう
私は結局あれからずっと悩んでいた


純「じゃあ私ジャズ研行ってくるから」

憂「…」

梓「うん、私も軽音部行こっと」

憂「…」

純梓「じゃあまた明日ね~」

憂「…」

憂「…」

純梓「って、こらぁ~っ!!」

50: 2010/10/16(土) 21:19:02.21
憂「わわっ!? ど、どうしたの二人とも!」

梓「どうしたもこうしたもないよ、憂」

純「もぉ~あんたって子は本当に……まーだ悩んでるんでしょ?」

憂「うぅ…やっぱり考えないようにってのは無理だよぉ」

梓「純、手っ取り早く解決する為にはもう…」

純「うん、唯先輩しかいないね」

憂「あっ、それ駄目!」

純「行くよ、憂!」

憂「だ、駄目駄目! お姉ちゃんだけは止めて!」

憂「それに純ちゃんはジャズ研に行かないと!」

純「憂の為ならサボり余裕だよっ!」

梓「純の場合は軽音部に参加したいだけなんじゃないの~?」

純「ぜーんぜん参加したくありません~ジャズ研最高ですぅ」

51: 2010/10/16(土) 21:27:44.33
純「ほら! 憂立って!」

憂「んぐぐっ……お姉ちゃんにだけは……」

純「うわっ強っ!憂ちから強っ!」

梓「任せて!二人で引っ張ろう!」

純梓「んんんんういーーーっ!!」

憂「んぐぐぐぐ……わぁっ!」

梓「よしっこのまま連行するよ!」

純「了解!」


――――――――――――――――――

――――――――――――

――――――

52: 2010/10/16(土) 21:34:44.44
純「と、いうわけで憂は今落ち込んでるんですよ」

澪「なるほどな」

紬「憂ちゃん頭も良いのね」

律「いやいやいや! 憂ちゃんは先生に優秀だなって褒められただけだろっ?」

梓「まぁ簡単に言えばそうですね」

律「だったら落ち込む必要なんてなくない!? むしろ私なら自慢するけどね」

澪「……」

梓「………はぁ」

律「ため息っ!?」

澪「すまん、律は成績で人に褒められたことがないから…」

梓「あぁ、了解です…」

律「お、お前らぁ~~!!」

54: 2010/10/16(土) 21:43:42.71
唯「憂は人が褒められた時の方が喜ぶからね~」

梓「はいです! 他人の幸せを喜ぶタイプです!」

梓「どう取り繕っても憂が優秀なのは変わりませんから」

憂「そ、それは違うけど……」

梓「だから憂を誰かと比べた場合、どうしても誰かが下に見られてしまうんです」

律「あぁ~、なるほどぉ」

純「あとは自分の名前をそういう風に解釈されるのが嫌だったから…」

純「人と比べたとき優秀だと分かる、なんて憂の性格を考えたら一番許しがたい由来ですからね」

純「だよね、憂?」


……あれ? う~~~ん、ちょっと違うなぁ…
先生に言われた名前の由来が嫌だって言うのは表面的な部分
私が本当に落ち込んでる原因は自分の名前と性格を信じられなくなってしまったこと

でも、名前は一生変わらない
この悩みを皆さんに伝えたところで解決の方法なんか無いんだ……
だったら私はこの表面的な理由を解決して皆さんを安心させたほうが良い

55: 2010/10/16(土) 21:53:01.14
憂「うん、変な悩みですよね、えへへ」

紬「でもそんな悩みを持っちゃうのも憂ちゃんらしいかも」

澪「ああ、律なら絶対持てない悩みだな」

律「くっそぉ~もういいだろっ」

憂「あっ、でも皆さん面白くてなんか悩みも吹き飛んじゃいました」

律「おっ、そう? なら私も馬鹿にされた甲斐があるってもんだなぁハハハ~」

憂「えへへ、律さんありがとうございます」

唯「うーいー?」

憂「なぁに、お姉ちゃん?」

唯「……いい加減にしないとお姉ちゃん、本当に怒るよ~?」

澪「ひぃっ!?」

憂「お、お姉ちゃん……?」

56: 2010/10/16(土) 22:01:58.30
純「えぇっ!? これが原因じゃないの!?」

梓「わ、私もてっきりそうだと思ってた!」

純「憂の事なんでも分かってるみたいな顔しちゃってたよ…」

梓「私も……今考えると相当恥ずかしいよね」

澪「唯こわい…」

律「おい澪、一体いつまで…」

澪「ひぃっ!?」

律「いや怯えすぎっ!!」

唯「どうして落ち込んでるの?」

唯「憂がいつもの笑顔になるまで私は聞くよ」

律「それにしても本当に分っかんねえ…いつもと同じようにしか見えないぞ…」

梓「はい、いつもの優しい笑顔です」

57: 2010/10/16(土) 22:09:00.16
紬「憂ちゃん、本当にもう心配事は無いの?」

憂「え、えっと……」


お姉ちゃん、本当に私の気持ちが分かってるみたい
でもどうして? 皆だっていつもと同じ表情だって言ってるのに


唯「あのね、憂」

唯「私達いつも一緒に、一番近くで暮らしてきたよね」

憂「うん…」

唯「だからかな? 私、目を閉じるとちゃんと憂の笑顔が思い出せるんだよ」

唯「いつも輝いてるんだよ」

唯「今の憂の笑顔は輝いてないよ?」

憂「そ、そんな事…」

唯「……怒ってごめんね」

憂「ううん……」

58: 2010/10/16(土) 22:16:11.64
唯「でもちゃんと話してよ憂」

唯「辛い事があったらもっと頼ってよ」

唯「私、頼りないかもしれないけど……でもっ、憂の事守ってあげたいんだよ!」

憂「……!」


お姉ちゃんは私が何か言わなくたってちゃんと私を見てくれてるんだ
なのに私はそんなお姉ちゃんを騙そうとしてた
私だってお姉ちゃんに隠し事されるのは嫌だ
いつでも頼ってもらいたいし、お姉ちゃんの笑顔が見たいから


憂「お姉ちゃんは頼りなくなんてないよ!」

唯「憂…」

憂「ありがとうお姉ちゃん」


だから私も話すよ
そしてちゃんと笑顔を見せてあげたい

59: 2010/10/16(土) 22:21:14.97
憂「あのね……」

憂「私、自分の名前が怖いの」

唯「名前が怖い?」

憂「私は今まで自分の名前がちょっと好きだった」

憂「それはね、ちゃんと私の名前には由来があったから」

純「人が隣に来ると優しくなれる…」

憂「うん、純ちゃん昔かっこいいって言ってくれたよね」

純「あぁあの時ね、本当にそう思ったもん」

憂「あの時は私もただかっこいいなぁって思ってたんだ」

憂「でも、大きくなって『憂』の持つ意味も分かるようになった」

憂「『憂』って印象の悪い漢字でしょ?」

澪「まぁ…否定できないな」

60: 2010/10/16(土) 22:26:17.97
憂「はい、だから私も名前の由来を聞かれることが多くなったんです」

憂「でもそんな時、隣に人がいると優しくなれるって教えてあげると皆納得してくれたんです」

憂「どうして私は『憂』なんて悲しい名前なんだろう?」

憂「私が名前の事で不安になった時、いつもこの由来が私を守ってくれました」

憂「純ちゃんみたいに褒めてくれる子もたくさんいたよね」

純「あぁ~そうだったねぇ、まぁ実際に憂は優しかったからね」

憂「ありがと、だから性格通りって言ってもらえる自分の名前もちょっと気に入ってたの」

憂「でも、さっき先生の言ってた私の名前の由来」

梓「でも、あれは先生が憂の事をよく知らないから!」

憂「うーん、そうかもしれないけどそういう解釈もあるんだって思った」

憂「もしかしたらそういう風に思ってる人は他にもたくさんいるかもしれない」

紬「下に見られる立場からすると確かに良い気分とは言い難いもんね…」

憂「はい、その人達から見たら私は立派な嫌な人間なんです…」

梓「憂が嫌な子なんてあるわけ…」

律「そうだよ、憂ちゃんは真面目すぎっ!」

61: 2010/10/16(土) 22:32:53.60
憂「でも、そう考え出したら止まらなくなって…ずっと信じてきた由来が信じられなくなって……」

憂「私は隣に人がいるから無理やり優しい自分を演じてるんだって考えるようになっちゃってた……」

唯「……」

憂「そして私は気付いたの…」

憂「私は『憂』じゃなくて『優』になりたかったんだって」

憂「私の優しさは『憂』を『優』に見せる為の手段に過ぎない」

憂「私は『人』を利用して『優』になろうとしてたんです」

憂「だからきっと、私は今まで本当の自分を偽ってきていたんです…」

憂「自分の名前も自分の性格も…もう今は、信じられないっ……」

律「そういうことか…」

澪「それが……憂ちゃんの悩んでいた本当の理由か?」

憂「はい…」

62: 2010/10/16(土) 22:38:55.52
純「ま、待ってよ憂! 憂の性格が演技なんてあり得ないよ!」

梓「そうだよ! 憂の今の性格は絶対本物だよ!」

憂「でも『憂』の悪いイメージを消す為に努力してたのは確かだよ」

純「でもさ、こういう考え方も出来ない?」

憂「?」

純「人に優しくしようと努力するのも、十分優しさなんじゃないの?」

純「私だってたまには人に何かしてあげよっかなって思うっ……あ、本当にたまにはだけど」

純「でもそれを実行に移そうと思うとなかなか出来ないもんだよ」

梓「そうだよ! 例え憂の性格が名前の後付けだったとしても皆に評価されるくらい優しいもん」

梓「人に優しく出来る! それで十分だよ」

梓「ちゃんと努力が実った本当の憂の姿なんだよ」

憂「純ちゃん、梓ちゃん…」

純「だから名前の由来なんて関係なしに憂は優しいと思う! これ絶対!!」

66: 2010/10/16(土) 22:49:07.89

二人の暖かい想いがすっと心に染み渡る
でも、名前の由来が関係ないなんて…
私が今までこの由来に守られてきたのも事実
いまさら関係ないなんて言えない…言いたくない……


唯「ね、憂」

唯「確か憂が小学3年生の時だっけ? 嬉しそうに名前の由来を教えてくれたのって」

憂「お姉ちゃん、そんな事ちゃんと覚えてくれてたんだ」

唯「うん、憂がそれで満足してたから何も言わなかったけど私は絶対違うって思ってたよ」

憂「えっ?」


関係ないどころか間違ってる?
なんだか訳が分からなくなってきた

67: 2010/10/16(土) 22:53:44.44
唯「だってさ、隣に人がいなくたって憂は優しいもん」

純「あ、確かに」

唯「それに誰かと比べなくたって憂が優秀なことくらい分かるよ」

梓「はい、それも間違いないです」

唯「あと憂はもともと優しいよ? その由来を知るもっともっと前からね!」

唯「私は生まれた時から憂の事を見てるから分かるよ」

唯「憂、もっと自分を信じて良いんだよ?」

憂「で、でもぉ…だったら名前の由来は…」

純「いらないんじゃない?」

梓「だね」

憂「えぇっ!?」

68: 2010/10/16(土) 22:58:55.59
純「だってさ、それって初対面の先生に教えてもらった由来じゃん?」

純「唯先輩みたいにがっつり否定は出来ないけど信用も出来ないね!」

純「憂の事もっとよく知ってる人が言ったんだったら間違いないだろうけど」

梓「そうそう、私達は憂の名前よりも憂自身を信用してるよ」

純「そーゆーこと! だから捨てちゃえばいいんだってば! ねっ!」


私の名前より私を信用してくれる、かぁ

ずっと私を支えてくれた憂の由来
でも、きっと私を支えてくれてるのは由来だけじゃない
みんなの温かい心が私を守ろうとしている


澪「なぁ憂ちゃん」

澪「私は当然唯やこの二人ほど憂ちゃんの事は知らない」

澪「だから私なんかが言ってもあんまりピンと来ないかもしれないけどさ」

唯「澪ちゃん?」

69: 2010/10/16(土) 23:05:15.23
澪「憂ちゃんの言う『優』に見せる為に自分を偽ってきたってのはやっぱり違うと思うぞ」

憂「澪さん…」

澪「クリスマスや大晦日、憂ちゃんには私達もお世話になってるから分かる」

澪「少なくとも君の優しさに触れた事のある人なら皆分かると思う」

純「さっすが澪先輩! よく分かってらっしゃる!」

律「みーおっ! そんな積極的なんてらしくないじゃん!」

澪「なっ、なんだよ律ぅ! 茶化すな!」

律「まぁ、さ」

律「お姉ちゃんに言った言葉と同じで申し訳ないんだけど」

律「みーんな、憂ちゃんの事大好きだよ」

憂「律さん…」

律「へへっ」

70: 2010/10/16(土) 23:08:36.23
紬「うんっ、二人の言うとおり!」

紬「本当に作り物の性格だったらね、こんなに皆に愛されないもの」

紬「それに憂ちゃんが例え自分を偽っても今日みたいにすぐにバレちゃうんじゃない?」

紬「憂ちゃんの事に関しては世界の誰よりも鋭いお姉ちゃんに、ねっ♪」

唯「だねっ♪」

憂「紬さんも…」


澪さん、律さん、紬さん
友達の妹相手でもこんなに親身になって話してくれる素敵な人達
お姉ちゃんの友達になってくださって本当にありがとうございます

71: 2010/10/16(土) 23:12:59.53
純「本当にいい先輩達だね、梓」

梓「でしょ? へへ、羨ましい?」

純「さすがにもう強がれないよ! 羨ましいぃぃ私も軽音部入るううぅぅ!!」

梓「うわっ、今度は曝け出しすぎ……」


ふふっ、相変わらず仲の良いこの二人もそうだね
私の為にこんなに真剣になってくれるなんて
二人とも、私の友達になってくれて本当にありがとね


憂「……皆さん本当にありがとうございます」

憂「私、自分の名前を気にしてこだわりすぎてました」

純「うんうんっ」

憂「でも、由来よりもっと大切なものを見つけられたような気がします」

憂「名前に理由が無くてもこれが私の性格なんだって信じてみようと思います!」

澪「うん、きっと周りの人達がそれを証明してくれるはずだよ」

憂「はいっ」

72: 2010/10/16(土) 23:18:41.47

一生変わらないのはなにも名前だけじゃない
私の周りにはこんなにも思いやりのある人達がいる
名前にこだわらず自分のやりたいように生きてみよう
それでも私を変わらず愛してくれる人達がいるなら
きっと私は『優』じゃなく『優しい憂』になれているんだと思うから


憂「あ、でも…」

梓「どうしたの?」

憂「由来とか聞かれたらやっぱり困っちゃうかも…」

純「あ、そっか…」


うーん
由来にこだわらないとなるとやっぱり自分の名前は好きになれない
理由が無いならただの悪いイメージだけが残るから

73: 2010/10/16(土) 23:22:45.46
憂「うん、憂って名前はやっぱり印象よくないから…」

紬「確かに憂ちゃんの事知らない人だと変に捉えられちゃうかも…」

律「あ~そうかもしんないな~」

唯「憂、自分の名前嫌い?」

憂「うーん…やっぱり優の方が良かったかな」

梓「由来が無いなら、まぁそうなるよね」

唯「ちゃんと由来があればどう?」

憂「うーーーん……」

唯「私の考えた『憂』の由来を言っても良い?」

憂「……えっ?」

唯「私が考えた理由なら憂も信じてくれる?」

律「おっ、なんだよ唯! あるなら言っちゃえ言っちゃえ」

純「気になります!」

74: 2010/10/16(土) 23:27:37.53
唯「お父さんもお母さんもどう考えてるかは分からないけど……」

唯「私が憂と一緒に生きてきて、憂を見て考えたんだ」

唯「だからちゃんと憂の性格通りの由来だよ」


お姉ちゃんから飛び出した意外な言葉
お姉ちゃんの考える私の名前の由来…?


唯「『人』という文字が『憂』にくっつくと『優』になる」

唯「だから憂は人が隣に来たら優しくなれるって思ってたんだよね」

憂「う、うん…」

唯「でも私は反対だと思う!」

憂「……?」

唯「『憂』が隣に来たから『人』が『優』になれるんだと思うよっ!」

78: 2010/10/16(土) 23:33:36.69
憂「私の隣の『人』が…『優』に……?」

紬「……なるほど!」

唯「もし、憂が『優』って名前だったら隣にいても『人』は『優』になれないよね?」

純「あ、本当だ…」

唯「憂は『憂』だから『人』が優しくなれるんだよ」

唯「誰よりも綺麗な心を持ってる憂と触れ合えば誰でも優しい気持ちになれる」

唯「『人』を優しい気持ちにさせる事が出来るから『憂』」

唯「これが私の考えてる憂の名前の由来だよ!」

唯「憂は今まで皆に愛されて生きてきた、それが証拠だよっ」

澪「それだ、唯! それなら一番納得できる!!」

唯「えへへ、『憂』って本当に素敵な名前だよ?」

憂「お姉ちゃん…」

83: 2010/10/16(土) 23:40:16.55
お姉ちゃんが教えてくれた由来、ものすごく納得できる
私の事を一番知ってるお姉ちゃんが教えてくれたからってのもあるけど
何より私はずっと友達に恵まれてた

みんなきっと私なんかいなくたって良い子だよね
でも私が今感じてる、この溢れそうな気持ち
皆に分けてあげられてるんだとしたらすごく嬉しい
そうやって分けた優しさに、私は今支えられている

だったら私は『憂』でありたい!


純「あっ、私実はこの高校偏差値足りてなかったんですよ」

純「でも憂に勉強見てもらって合格することが出来たんです」

律「てーことは純ちゃんは…」

純「はいっ」


律さんと純ちゃんが同じようにニヤリと笑う
お姉ちゃんも楽しそうにその様子を眺めている


純「憂のおかげでちょっと優秀になれたんです」

85: 2010/10/16(土) 23:44:07.46
唯「憂が純ちゃんを『優』にしてあげたんだね」

唯「さっきも言ったけど憂はもともと『優』なんだよ」

唯「でもそれを『人』に分けてあげたくて『憂』になったんだと思う」

澪「ああ、それは『憂』ちゃんじゃないと出来ないな」

唯「うん、だから憂は人の幸せを本気で喜べる優しい子なんだよね」

律「おお~っ!!」

紬「パーフェクトだわ唯ちゃん!」

純「それなら『優』より『憂』の方がはるかに憂らしいです!」

梓「唯先輩すごい…尊敬します……」

唯「すごくないよ~だって私がそうだもん」

唯「愛されて優しくなれて、優しくなるからまた憂が愛してくれて…」

唯「どこまででも優しくなれるからどこまででも愛してもらえる」

唯「憂のおかげで私が『優』になれてるんだよ」

86: 2010/10/16(土) 23:46:45.59
右手で頬をポリポリ掻きながら照れた様に笑うお姉ちゃん
私の心の中が穏やかな気持ちで一杯になる
これぞ、あったかあったか♪だね


唯「だから笑って、憂」

唯「憂の笑顔は皆を笑顔にするんだよ」

憂「お姉ちゃん…ありがとう…」

唯「ううん、私の方こそ」

唯「優しさをありがとね、憂」


お姉ちゃんが見せてくれる最高の笑顔、優しさ
私のおかげだって、そう言ってくれる

長い間ちょっとだけ好きだった私の名前
さっきまで信じられなくなってた私の名前

なのに今はこんなに誇らしくて、大好きな私の名前

あれ、おかしいな
あったかくなりすぎて目の奥が熱くなってきちゃった

88: 2010/10/16(土) 23:50:45.30
律「よーっし! 一件落着って事で皆でファミレスでも行くかぁー!」

澪「うぉい律ぅ! 良い雰囲気が丸潰れだろ!」

紬「まあまあまあまあまあまあ」

澪「でも…そうだな、行こうか」

澪「憂ちゃん、言っておくけど私達も憂ちゃんの笑顔好きだぞ」

律「そうそう! あとでちゃーんと笑顔見せてね、憂ちゃん」

憂「……はいっ…」

律「っとと! さっさと行くぞー」

紬「ほら、梓ちゃんも純ちゃんも行こう?」

純「やっぱりかっこいいよ、憂の名前」

憂「純ちゃん…」

純「ちぇー、にしてもやっぱり唯先輩には敵わないなぁ」

梓「純、しょうがないよ」

89: 2010/10/16(土) 23:53:30.01
純「てゆーか、だったら憂とずっと一緒にいる唯先輩って世界一幸せじゃない?」

純「だってさ、大好きな相手にどこまででも愛してもらえるんだよ?」

梓「んー、でも私は一人だけ唯先輩より幸せな子知ってるかも」

純「えぇっ!? 誰!?」

梓「うわっ、純本当にわかんないの?うわあ~」

純「ちょっと何その態度!」

梓「あっ、なに、やる気!?」

律「おまえらホントに楽しそうだなー」

紬「シャランラシャランラ~♪」

梓「あっ、ムギ先輩そんな猫みたいな掴み方やめてください!」

純「わ、私は猫じゃないのにぃ」

澪「おぉムギ2人同時か、相変わらず力持ちだな」

律「って事で、唯! 先に行ってるからな~」

唯「ほーい、ありがとね~」

90: 2010/10/16(土) 23:57:33.53
今音楽室には私とお姉ちゃんの二人だけ
やっぱり私は周りの人に恵まれてるなぁ


唯「えへへ、皆気を使ってくれたね」

憂「…うんっ……」

唯「今、二人きりだよ」

憂「…そう……っだね………」

唯「……憂、おいで」


両手を広げて微笑むお姉ちゃん
きっと誰より大きな愛情で私を包み込んでくれる

せっかくの機会だし今は我慢しないで思いっきり甘えよう
だってもう、緩みきった涙腺を押さえられそうにないっ


唯「おっとと…えへへ、いい子いい子♪」

91: 2010/10/17(日) 00:00:27.72
・・・

唯「ふぃ~満腹満腹~」

憂「おいしかったね~」

唯「憂の料理のほうが何百倍もおいしいよ」

憂「そんなことないよぉ」

唯「憂のご飯よりおいしいものは食べた事ないよ~」


ファミレスからの帰り道
満足そうにお腹をさするお姉ちゃん
その姿を見てるとまた幸せな気持ちが膨らんでくる


憂「お姉ちゃん、えっとね、今日は……」

唯「ふふん、いつでも頼っていいんだよ~?」

憂「……うんっ! 頼りにしてるからね!」

唯「おっ、憂はやっぱり笑顔が一番だね!」

憂「えへへ、私もお姉ちゃんの笑顔大好き」

92: 2010/10/17(日) 00:02:16.72
隣同士、笑顔の私とお姉ちゃん
実はお姉ちゃんが教えてくれた名前の由来ね
ひとつだけ違うところがあったんだよ


憂「あのね、私やっぱり一人だと優しくなれないと思う」

唯「え~、絶対憂は最初から優しいよ?」

憂「ううん、正確には分からない……かな?」

唯「ほぇ?」

憂「だってね、私には生まれた瞬間から……」

憂「いつも隣にいてくれる『人』がいるんだもん」

唯「あ、それって……」

93: 2010/10/17(日) 00:04:20.38
憂「今なら人が隣にいる時優しくなれるって由来も信じられるよ」

憂「私も愛されて優しくなれて、また愛されて…もっともっと優しくなれてるから……」

憂「きっと隣にいてくれる『人』も私も……一緒に優しい気持ちになれるから『憂』なんだよね」

唯「おぉ…!」

憂「『憂』の本当の意味、やっと見つけたよ」


ポン、と手を叩き納得した様子のお姉ちゃん
その仕草がかわいらしくて私はクスクスと笑ってしまう

あれ、ちょっと目を離した隙に隣にいたお姉ちゃんが消えている
慌てて振り返るとお姉ちゃんは立ち止まって私を見つめていた
それにどうしてかな?
私を見つめるお姉ちゃんの表情、ちょっとだけ硬いかも


憂「……お姉ちゃん?」

唯「だ、だったらさ……」

94: 2010/10/17(日) 00:09:06.87

……やっぱりちょっと緊張してる

安心したくて、安心させてあげたくて
私は右手を差し出す


唯「憂……えへへ~」

憂「ふふっ♪」


ギュッと手を握って私のとっておきの場所に案内する
お姉ちゃんはいつもの笑顔
私の心もポカポカとあったかい

やっぱり一番隣にいてほしいのはお姉ちゃん


唯「憂の手あったかいね~」

憂「お姉ちゃんの手もだよ~」

唯「……よーしっ!」

95: 2010/10/17(日) 00:10:53.34
お姉ちゃんは立ち止まってコホン!と咳払いをする

手を握ったまま私達は向き合い、お互いを見つめる
嬉しいんだけどなんだかちょっと恥ずかしい…


唯「憂、さっきの続き言うね」

唯「これからも、ずっと……優しい憂のままでいてくれる?」


優しくてあったかくて、でもどこか真剣なお姉ちゃんの表情
だから、私の答えも決まってる


憂「……うんっ」

憂「こちらこそ、ずっと優しいお姉ちゃんでいてほしいな」

96: 2010/10/17(日) 00:13:15.80

隣に『人』がいる時、私が優しくなれて
隣に私がいる時、『人』が優しくなれる

隣にいたい『人』と一緒に優しくなれるから『憂』
それが私の名前


唯「ずっとずっとずぅーっとだよ?」

憂「うん、いつまでもずっと……約束っ!」

唯「えへへ、約束だよっ!」


世界で一番幸せになれる私の名前

97: 2010/10/17(日) 00:14:37.95
なんかすんません
おわりです

98: 2010/10/17(日) 00:15:12.73
正直ちょっと感心した

引用元: 憂「マイネーム!」