1: 2014/01/13(月) 22:12:36.33


「痛い? それとも、気持ちいい?」


笑ってんじゃねえ馬鹿野郎!! 痛いに決まってんだろうが!!

クソ女め、答えられねぇの分かってて聞いてやがるな。

人を痛めつけて何が楽しいんだよ。畜生め、給料良いからって、こんな所に来るんじゃなかった。

大体、こんなのが見つかったら、この女だってタダじゃ済まない筈だ。


「その目、最高だわ。とっても、ゾグゾクする」


氏ね。拷問好きの変態女め。

此処へ来て初めて会った時は、淑やかで美しい女性だと感じたよ。





2: 2014/01/13(月) 22:16:02.37

正直、見惚れた。

こんなに美しい女性がいるものかと、目を丸くして驚いたさ。

でも、現実はこれだ。


「ふふっ、次は……」


女ってのは怖い生き物だよ、本当に。

男は馬鹿だ。

見た目や上っ面に、まんまと騙される。いや、オレだけなのかもしれないが。

五日前に地下へ連れられてから、その美しさは剥がれ落ち、抱いていた全ての想いは憎しみに変わった。


3: 2014/01/13(月) 22:17:13.70


貴方に大事な話しがあるの……なんて言われて、心躍らせてた自分が情けない。

今や、頭の中で何度頃したか分からない。


「姫様、奴が到着しました」

「あらそう、思ったより早かったわね。ごめんね? もう行かないと……」


二度と来んな、そんで氏ね。

つーかこっから出せ、クソったれが。


「やっぱり素敵」


触んな、顔掴むな、目玉を舐めるな。

手下が待ってるぞ、さっさと服着て出てけ、変態。


4: 2014/01/13(月) 22:19:05.89


「すぐに戻るから。少しだけ待ってて、ね?」


やっと行きやがった。

あぁ畜生、体中が酷く痛む。とてもじゃないが、人に見せられる体じゃない。


『その目、最高だわ。とっても、ゾグゾクするの』


オレは、小さい頃から目つきが悪いと言われてきた。

それを好きだと言ってくれた唯一の人は絶世の美女で、拷問好きの変態。

何だそれ? ふざけんな。オレが何かしたのか?

それでもこんな目に遭うのが、不幸ってやつか。


不幸っつーか、理不尽だろ。


氏なずに済んでんのは、あの女がオレを気に入ってるからに過ぎない。

はぁ、普通に愛してくれりゃあ、最高だったのにな。


5: 2014/01/13(月) 22:20:19.49

ーーーーーー


「鬼姫よ、お主も遂に結婚か。知らせを聞いた時は驚いたぞ」

鬼姫「魔王様自ら来て下さるなんて……有り難き幸せに御座います」

魔王「良い、お主の父には世話になった」

魔王「奴自身に恩は返せないが、せめて、お主の式を盛大に祝ってやりたいのじゃ」


結婚なんてしない。

私は家庭なんて欲しくない。欲しいのは、そんな下らない物じゃないの。

老いぼれの魔王様、貴方が作り上げた人間との和平、それも今日でお終り。



これからは、暴力が支配するの。



6: 2014/01/13(月) 22:21:41.22


地下拷問部屋


「ーー!! ーー!!」


やっぱ、ダメだ。

どんだけ叫んでも声が出ねぇ、あの女が珍妙な力で声を奪ったせいだ。

喉を潰されたわけじゃねぇのに、これが魔法ってやつか?


ん? 何か、上が騒がしいな。

この部屋にまで響くなんて相当だぞ、爆弾でも爆発したのか?

それとも、拷問趣味がバレて踏み込まれたのか?


いいぞ、派手にやっちまえ。

出来れば氏んで欲しい、爆弾如きで氏ぬ奴じゃないだろうが。


7: 2014/01/13(月) 22:22:48.95


「ーーー!?」


何だ何だ何だ!?

何かが、落ちて来やがった!! 屋敷から地下まで突き抜けて来たのか!?

つーか、煙が酷過ぎて、落ちてきたのが何なのか分からねえ。


「誰か、おるのか?」


人!? あり得ねえだろ、普通なら原型留められる筈が無い。

ここに落ちるまでに、皮膚やら肉やらが削ぎ落とされてズタボロ……って事は、魔族か?


上で一体何があったんだ?


8: 2014/01/13(月) 22:23:25.30


「氏体、ではないな。時間が無い……賭けるしかあるまい」

「ーーー!! ーーーーー!!」


何だ畜生!! 何かが、何かが入って来やがる!!

うえっ、気持ちわりぃ、吐きそうだ。

クソッ、何しやがった!!


「もう少しで終わる。辛抱してくれ」


ふざけんな!! すっげえ痛いんだぞ!! せめて何してんのか教えろ!!


クソッ、吐き気の次は、中が熱い、体が燃えるみてえだ。


9: 2014/01/13(月) 22:24:35.69


「儂の魔力を、全て与えた。その力を以て、鬼姫を打ち倒してく……れ」


この爺さん、読心術でも使えんのか?

それは兎も角、鬼姫……あぁ、あの変態女か。

あの女を倒せ? ああ良いさ、頃しても構わねえならな。

たが今じゃねえ、魔力とやらの使い方も分からねえのに戦いを挑んでも、負けんのがオチだ。

つーか、爺さんの魔力で勝てるかも怪しい。


取り敢えず、此処を出ないと始まらねえな。


10: 2014/01/13(月) 22:25:26.97


魔族領・貧困街


何とか抜け出せた。そこかしこで戦闘が始まってたのが好都合だったな。

あの爺さんは結構な要人だったのか? まあ、今はいい。


追っ手は居ないが、魔族領にいる限り安全とは言えない。


人間領まで行ければなんとかなるか? いや、見てくれはゾンビみてえなもんだ。

化け物だと思われて兵士に殺されるかも分かんねぇしな。

何しろ声出せないのがキツい。


取り敢えず、ぼろ切れでも羽織って夜を待つか……


11: 2014/01/13(月) 22:27:24.75

魔族領・森林


魔物「ギャアッ!!」


なる程、なる程な。

確かに前とは違う、内から力が溢れてくるのが分かる。

以前なら、魔物なんて怖くて怖くて仕方なかったのに、今は全然だ。

魔物に怯えずに暮らせるなんて、魔族ってのは幸せだな。

さっさとあの変態女を殺せりゃあ最高なんだが、魔法も使えないんじゃ話しにならない。


どんなに汚い手段を使っても、必ず追い詰めて、頃してやる。


12: 2014/01/13(月) 22:29:22.80


魔族領・鬼姫の屋敷


鬼姫「今頃、彼は牙を研いでるのよね……はぁ、待ち遠しいわ」

側近「本当に、逃がして良かったのですか? 危険なのでは?」


鬼姫「貴女は分かってないわね。それが良いのよ。彼は、必ず私を頃しに来るわ」

鬼姫「それまでは、平和呆けした各地の領主を潰して行けば良い」

鬼姫「人間は関与して来ないでしょうし、私も人間に手出ししないわ。此方が片付くまでの間だけれど」


側近「全く、相変わらずですね」


13: 2014/01/13(月) 22:30:44.78


鬼姫「なにが相変わらずなのかしら?」

側近「相変わらず、狂っておられます」

鬼姫「あら、酷いわね。私はやりたい事をやっているだけよ?」


側近「でしょうね。女の私に、あの男の声を与えるなんて事、普通はしませんし」

側近「ですが、それが強き者の特権。間違ってはいないでしょう」



鬼姫「そうね、強さが正しさ。私は、誰よりも正しくて、強いのよ……」



17: 2014/01/13(月) 23:11:02.24


魔族領・山中


魔狼「くぅーん」


あれから二週間経った。

オレは、未だ魔族領で呑気に魔法の練習中だ。

その間に出来た友達が、この狼。

魔物だが、ふかふかしてて、中々可愛い。

オレを見て悲鳴を上げる奴等とは、全然違うな。


魔狼「グルルル……」


大丈夫だ。何も怖く無い、安心しろ。


18: 2014/01/13(月) 23:11:44.20


魔狼「…………」


よし、偉いぞ。

依然、追っ手は来ない。それはいいんだが、外がやけに騒がしい。

人間領には、出れそうにないな。まあ、出るつもりもないが。

外がああだから、こいつも気が立ってるんだろうな。

あの変態女が戦でもおっ始めやがったのかも……


魔狼「……!!」ピクッ


ん、どうした? 魔物か?


「おっ、本当にゾンビがいやがった」


19: 2014/01/13(月) 23:12:14.57


魔狼「ガルルルッ……」


「うおっ!? ず、随分でけぇのを従えてんな……」


待て、話しを聞いてからだ。オレ達の練習成果を見せてやろう。

行くぞ……集中、集中しろ。


魔狼「「 オマエは、だれダ? 」」



チッ、やっぱ、まだ不安定だな。



21: 2014/01/13(月) 23:41:07.30


ーーーーー


魔狼「「 それハ本当か? 」」


トロール「ああ、本当だ。魔族領は鬼姫の所為で滅茶苦茶さ」

トロール「二週間で、多くの領主がやられちまったよ。オレ等の親方もな……」


魔狼「「 デ? こんなゾンビになんの用だ? 」」


トロール「力を貸してくれ、仇を取って欲しいんだ」

トロール「此処に居座ってた魔物を退治したのはアンタだろ?」


魔狼「「 そうだケドよ、あんな魔物なんテ 」」


トロール「あんな魔物だって? オレ達だって手を焼く魔物だぞ?」

トロール「それを、アンタは二週間足らずで全滅させたんだ」

トロール「だから、その力を貸して欲しい」


22: 2014/01/13(月) 23:41:41.16


魔狼「「 仇ハ取れるか分かんねェが、鬼姫の居所は分かるのカ? 」」


トロール「それは、協力してくれると受け取って良いのか?」


魔狼「「 アあ、オレは、鬼姫殺せりゃあいいんだカラな 」」


トロール「……そうか、じゃあ、付いてきてくれ」


魔狼「「 マテ 」」


トロール「ん? ッ!!」


ザヒュッ……ドサッ…



トロール「……ッ、片腕で、満足か?」ボタボタッ



23: 2014/01/13(月) 23:44:47.12


トロール「信じてくれるなら、目玉だってくれてやる」グッ


魔狼「「 イや、悪かった 」」


シュウウウ……


トロール「腕が……これは、幻惑の法か?」


魔狼「「 そうイウのか、つーカ、オレの傷治せる? 」」


トロール「そんな高等魔法使えるのに、回復の法は使えないのか?」

トロール「今から向かう場所にはエルフも居る。何とか出来るさ」


魔狼「「 えるふカァ…… 」」


二週間前、森で話し掛けたら逃げられたんだよな。だから、この山に来たんだっけ。

見た目ゾンビじゃ、仕方ねえのかもな。


24: 2014/01/14(火) 00:16:34.82

ーーーー

ーー

エルフ「済まないが、無理だ」

魔狼「「 エ? なんで? 」」


エルフ「そういう風にされている。状態を維持されているような感じだ」


魔狼「「 維持ネ、まあいいや 」」


あの変態女を殺せば良いんだ。姿格好は関係無い。

まあ、体が痛いのは変わりない。


トロール「オレ達が道を開く。後は頼むぜ?」


魔狼「「 なあ、鬼姫は強イのか? 」」


トロール「殆ど鬼姫一人で殺ったようなもんだ。間違い無く強い」

エルフ「我々は、主によって逃がされたに過ぎない。魔王様も……亡くなられたよ」


25: 2014/01/14(火) 00:17:12.88


魔族の王様まで頃したのか、あの変態。


そりゃあ強いんだろうな。


まあ、話しを聞くに、この連合軍で一番強いのはオレらしいし、居場所も分かってる。




後はコイツ等に着いて行くだけだ。



26: 2014/01/14(火) 00:19:09.86


鬼姫「あら、遅かったわね。牙は十分に研いできた?」


黙れクソ野郎。

人を散々傷付けた変態女、頃しに快楽を得る殺人狂が。

普通にやって勝てる相手じゃねえのは、何となく分かる。

まあ、勝てりゃあ良いんだ。


鬼姫「楽しみにしていたのに、何て芸の無い……」



ドッ!! ガガガガガガッ!!



鬼姫「けほっ、けほっ。全ての魔力を使った爆裂の法」

鬼姫「氏体は、何処かしら? 残っていれば良いけれど……」



魔狼「「 氏ネ 」」



鬼姫「えっ?」


ドブッ……ズルリ……



鬼姫「そう……最初か…ら」



27: 2014/01/14(火) 00:33:58.84


お前には、髪の毛一本やらねえよ……

氏に姿は、まあまあ綺麗だな。


「そう? ありがと」ニコッ


「鬼姫ッ……あれ、声、何で……」


ギュッ…


「もう離さない。貴男の全て、髪の毛一本まで、全部私の物」

「貴男の瞳が、私を狂わせたのよ?」



「ふざけんな、離せ変態。お前は間違ってる。お前の全てが、間違ってる」




「私は間違って無いわ」

「だって、この世界で唯一正しいのは、私なのだから」



30: 2014/01/14(火) 15:56:42.05


あの御方は、未だ、何かを求めているかのようだ。

魔族領も人間領も、全ての枠を暴力で破壊して、全てを手に入れたのに。


決して強欲という風では無い。

今や城から一切出ず、たまに天守から外を眺めるだけだ。


誰と誰が争った、反乱軍が組織されている等々。

そんな話しを聞いても、あの御方は一切動かない。


自身の作り上げた世界に、望んだ世界に、興味が無いのだろうか?

あの御方にとって、世界すら玩具に過ぎないのだろうか?


31: 2014/01/14(火) 15:58:10.86


あれ程の力を持っていれば、分からない話しでは無い。

強き者のみが持つ虚しさ、なのかもしれない。


私如きには想像も出来ないが、あの御方は、寂しいのだろう。

だが、ある時から、笑う事が多くなった。

たった一つの、それも眉唾物の情報が、あの御方の心に何かを灯したのだ。


それは、屍の王と呼ばれる男の噂。


傍らに魔狼を従え、桁外れの魔力を持ち、あの御方に戦いを挑む時を待っているらしい。


それを聞いた時の、あの御方の表情は、今でも忘れられない。


32: 2014/01/14(火) 15:59:39.82


強き者は、美しい。


私は、改めてそれを知った。


あの御方は、力の化身であり、美そのものだ。


屍の王が実在し、如何に凄まじい力を持っていたとしても、あの御方には及ばない。





あの御方は世界であり、万物の理なのだ。




33: 2014/01/14(火) 16:01:54.27



「ふふっ、待ち遠しいわ」




「あら、今日も来ないのね……」




「今でも、貴男が来るのを待っているわ」




「あの瞳を見られるのなら、何年、何百年だって……」




「あぁ、早く来ないかしら」












「私だけを憎む瞳、私を狂わせる瞳を、早く見せて……」






28: 2014/01/14(火) 00:34:46.51
終わり

引用元: 鬼姫「早く来ないかしら」