【エヴァ】Omit Scenes 前編
144: 2015/09/04(金) 00:20:32.33
第拾八話 「命の選択を」

==== 昼 米国上空 ====

   ヱヴァ3号機を吊り下げて雲上を飛ぶ大型輸送機

無線の声『エクタ64より、ネオパン400。前方航路上に積乱雲を確認』

無線の声『ネオパン400確認。積乱雲の気圧状態は問題なし。航路変更せず、到着時間を遵守せよ』

無線の声『エクタ64、了解』

   積乱雲の中に消えていく輸送機

   輸送機が消えた積乱雲で稲妻が数回、閃く

   :
   :


==== 朝 ミサトのマンション 玄関 ====

(中略)

   学生服姿のシンジと、ネルフの正装のミサト

シンジ「――でも、アメリカから参号機が来るって。松代でするんでしょ、起動実験」

   ミサトの旅行鞄を見るシンジ

ミサト「うーん、ちょっち4日ほど留守にするけど、加持が面倒見てくれるから心配ないわよ」

シンジ「でも実験は……」

ミサト「リツコも立ち会うんだし、問題ないわよ」

シンジ「でもパイロットは?」

ミサト「その……パイロットなんだけど……」

   呼び鈴の音

シンジ「はーい!」

   開くドア

ケンスケ「おはようございます! 今日は、葛城三佐にお願いにあがりました!」

   気をつけしてお辞儀しているケンスケ

シンジ、ミサト「……」

ケンスケ「自分を……自分をエヴァンゲリオン参号機のパイロットにしてください!」

ミサト「へ?」

:
:

(中略)

==== 昼 第壱中学校 屋上 ====

   ひとり佇むトウジ

レイ「鈴原くん」

トウジ「ん?」

   わずかに振り返るトウジ

トウジ「なんや、綾波か……シンジやったら、ここにはおらんで」

レイ「……」

トウジ「知っとんのやろ? ワシのこと。惣流も知っとるようやし」

レイ「うん」

145: 2015/09/04(金) 00:25:50.15
トウジ「知らんのはシンジだけか……」

*   ぽかんとするレイ

*レイ「……碇くんは、葛城三佐から伝えられていると……思う」

*トウジ「さよか……なら、ええけどな……」

トウジ「人の心配とは珍しなあ」

レイ「そう? よくわからない」

トウジ「おまえが心配しとんのは、シンジや」

   はっとするレイ

レイ「そう……そうかもしれない」

トウジ「そや」

*レイ「……」

*   眉をひそめるレイ

   :
   :

(中略)

==== 放課後 道路上 ====

   歩道を並んで歩くヒカリとアスカの後姿

ヒカリ「ごめんねアスカ。いつもなら碇君と一緒に帰ってるのに」

アスカ「いいのよ、シンジとは義務でいるだけだし、今日は顔見たくない気分だったし」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 夕方 レイのマンション ====

   戸口に出てくるシンジとレイ

   手をつないでいる

シンジ「じゃあね」

レイ「うん」

   つないだ手をほどく

   共用廊下を歩み去るシンジ

   後姿を不安げに見送るレイ

   :
   : 

==== 道路上 ====

シンジ「あ……」

   立ち止まるシンジ

   何かに気付きレイの家の方を振り返る

シンジ「……」

シンジ(聞きそびれちゃったな……)

   少し頬を紅くするシンジ

   またミサトのマンションに向かって歩き始める

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****


146: 2015/09/04(金) 00:28:16.66
==== 夕暮れ 高台 ====

(中略)

ヒカリ「鈴原の好きな子って、綾波さんかもしれない」

アスカ「鈴原が!? あの優等生を!?」

ヒカリ「お昼、仲良さそうだったし……」

アスカ「安心してヒカリ! それはないわ! あの女はシンジの1万倍も人との付き合い知らないもの」

ヒカリ「そう?」

アスカ「そう!」

   微笑むヒカリ

アスカ「ね、ひとつ聞いていい?」

ヒカリ「なに?」

アスカ「あの熱血バカのどこがいいわけ?」

ヒカリ「……」

   赤面して顔をそむけるヒカリ

ヒカリ「……やさしいところ……」

アスカ「へ……」

   固まるアスカ

   :
   :

==== 夜 ミサトのマンション リビング====

   座卓で雑誌を読んでいるシンジ

   床にうつ伏せに寝転んで雑誌を読んでいるアスカ

   テレビがつけっ放しになっている

テレビ(女)『ああ! やっぱりあの時、あなたと撚りを戻したのが全ての

間違いだったのよ!!』

テレビ(男)『今更そんな――』

シンジ「そういえばさあ――」

アスカ「加持さんお風呂長いのねー」

シンジ「……参号機って、誰が乗るのかな?」

アスカ「えっ?」

   思わずシンジを振り返るアスカ

アスカ「……まだ聞いてないの?」

シンジ「誰?」

アスカ「……」

   面白くなさそうな表情になり、そっぽを向くアスカ

アスカ「知らない」

   不満そうなシンジ

   :
   :

147: 2015/09/04(金) 00:41:45.02
(中略)

==== 深夜 リビング ===

   布団を敷いて雑魚寝している加持とシンジ

   月光が室内に影を落としている

シンジ「もう寝ました? 加持さん」

加持「いや、まだ」

シンジ「僕の父さんって、どんな人ですか?」

加持「こりゃまた唐突だな。葛城の話かと思ってたよ」

シンジ「加持さん、ずっと一緒にいるみたいだし」

加持「一緒にいるのは副司令さ。君は自分の父親のことを聞いて回っているのかい?」

シンジ「ずっと……一緒にいなかったから……」

加持「知らないのか」

シンジ「でも、このごろ分かったんです、父さんのこといろいろと。仕事のこととか、母さんのこととか。だから――」

加持「それは違うな。分かった気がするだけさ」

シンジ「……」

加持「人は他人を完全には理解できない。自分自身だって怪しいもんさ。100パーセント理解し合うのは、不可能なんだよ」

シンジ「……」

加持「ま、だからこそ人は、自分を……他人を知ろうと努力する。だから面白いんだな、人生は」

シンジ「ミサトさんとも、ですか?」

加持「彼女というのは、遥か彼方の女と書く。女性は向こう岸の存在だよ。われわれにとってはね。男と女の間には、海よりも広くて深い川があるって事さ」

シンジ「僕には大人の人は分かりません」

*   肩越しにシンジの方を窺う加持   ふと笑って

*加持「いや……すまなかったな。おやすみ」

*シンジ「……おやすみなさい」

*   目を閉じるシンジ

*   しばらくして聞こえてくる加持の寝息

*   ヤシマ作戦の直前、月を背景に佇むレイの後ろ姿を想い起す

*シンジ「……」

*   イヤフォンを片耳に挿して目を閉じて音楽を聴いているレイの横顔

*   寝間着代わりのワイシャツ姿で紅茶のカップを持って微笑むレイ

*   目を開けるシンジ

*シンジ(僕と綾波との距離は、出逢った頃に比べたら確実に縮まっていると思ってたけど……)

*   ふと頭を動かして半月の浮かぶ夜空を見上げる

*シンジ(本当は……向こう岸の存在なのかな……)

*   一片の雲が月を隠していく

*シンジ(……寝よ)

*   窓とは逆の方に寝返りを打ち、毛布にくるまり直すシンジ
   :
   :

148: 2015/09/04(金) 00:45:31.38
(中略)

==== 翌日 昼 第壱中学校 2年A組教室 ====

   弁当箱の包みを提げて教室を見回すヒカリ

ヒカリ「まだ来てないよねえ、アスカ」

アスカ「ああ……今日は来ないかもね」

ヒカリ「今日こそはと思ったのに……」

   アスカに弁当の包みを差し出すヒカリ

ヒカリ「食べる?」

   :
   :

==== 屋上 ====

ケンスケ「参号機って、もう日本に到着してんだろ?」

シンジ「うん。昨日着いたみたいだけど」

ケンスケ「いいなあ……誰が乗るのかなあ……」

   うなだれるケンスケ

ケンスケ「トウジの奴かなあ……今日休んでるしなあ……」

シンジ「まさか!」

   笑うシンジ

*シンジ「きっと、パイロットも一緒なんだよ。弐号機のときは、アスカが

いっしょだったし……」

*   哀願するようにシンジを見上げるケンスケ

*   また肩を落とす

*ケンスケ「そうかあ……そうだよなあ……」

   :
   :

==== 長野県松代第2実験場  エヴァ3号機起動実験 中央統括指揮車内 ====

(中略)

ピピピピ…

   画面上、次々に赤からグリーンへ切り替わっていく接続状態表示

女性オペ『リスト、ニーゴーゴーマルまでクリア。ハーモニクス、すべて正常位置』

   見守るリツコとミサト

女性オペ『絶対境界線、突破します』

   画面上、「BORDER LINE」のマーキングを超える接続表示

ピーーーーー

   参号機の目が赤く光る

ビーッ ビーッ ビーッ…

   突然、鳴り響く警報音

リツコ「実験中止、回路切断!」

   切り離される電源ソケット

   なおももがく参号機

女性オペ『だめです。体内に高エネルギー反応――』

リツコ「まさか――」

149: 2015/09/04(金) 00:49:42.09
   参号機頸部のプラグカバーが跳ね上がる

   粘着性の物質が白く糸を引く

リツコ「――使徒!?」

   咆哮する参号機

   閃光――

   :
   :

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== 昼 第壱中学校 屋上 ====

ピピピピ…

   ポケットから携帯電話を取り出すシンジ

シンジ「――はい……え?」

ケンスケ「?」

シンジ「今から……ですか?」

マヤ『詳しいことはこちらで説明するわ。とにかく、すぐに来て!!』

**** Omit Scene ここまで ****

==== ネルフ本部 発令所 ====

*冬月「目標jの状況は?」

*シゲル「本部に向かい、接近中」

マコト「パターンオレンジ、使徒とは確認できません」

ゲンドウ「第一種、戦闘配置」

シゲル『総員、第一種戦闘配置!』

マコト『地、対地戦用意!』

マヤ「エヴァ全機、発進!」


==== 初号機ケージ ====

   開くフェンス

マヤ『迎撃地点へ緊急配置』

男性オペ『空輸開始は、フタマルを予定』

   :
   :

(中略)

==== ネルフ本部 発令所 ====

(中略)

ゲンドウ「……エヴァンゲリオン参号機は現時刻をもって破棄。目標を第拾参使徒と識別する」

マコト「しかし!」

ゲンドウ「予定通り野辺山で戦線を展開、目標を撃破しろ」

150: 2015/09/04(金) 00:51:56.90
==== 野辺山付近 初号機プラグ内 ====

シゲル『目標接近!』

マコト『全機、地上戦用意!』

シンジ「えっ?」

   驚いて顔を上げるシンジ

シンジ「まさか……使徒……これが使徒ですか?」

ゲンドウ「そうだ。目標だ」

シンジ「目標って、これは……エヴァじゃないか!」

   モニタの中、夕日を背景に歩いてくるエヴァ参号機

アスカ「そんな……使徒に乗っ取られるなんて……」

シンジ「やっぱり、人が……子供が乗ってるのかな……同い年の……」

アスカ『あんた、まだ知らないの!?参号機にはね――』

   突然アスカの通信ウィンドウがノイズに満たされる

シンジ「アスカ?」

アスカ「きゃああああああ!」

   突然、通信ウィンドウが消える

シンジ「アスカ!?」

   :
   :

==== 野辺山付近 ====

(中略)

   零号機がライフルを構えてうずくまる山影を通り過ぎ、背中を見せる参号機

   インダクションレバーを握り直すレイ

ピピピピピ…

   照準が重なったモニタに目を凝らす

レイ(乗っているわ……彼……)

   ふいに立ち止まる参号機

   不自然に体を丸めた次の瞬間、零号機に向かって後ろ向きに跳躍する

レイ「あっ……きゃあ!」

   一瞬で組み伏せられる零号機

   零号機に粘液のようなものをしたたらせる参号機

レイ「ああああっ!!」

   左腕を押さえて痛みをこらえるレイ

==== 発令所 ====

マヤ「零号機、左腕に使徒侵入!神経節が侵されて行きます!」

ゲンドウ「左腕部切断。急げ!」

マヤ「しかし、神経接続を解除しないと!」

ゲンドウ「切断だ」

マヤ「はい……」


151: 2015/09/04(金) 00:59:41.71
==== 野辺山付近 零号機プラグ内 ====

バシュッ!

   ちぎれ飛ぶ零号機の左腕

レイ「きゃあ!」

ドゴオオオオォン

   家屋を押しつぶし落下する左腕

レイ「く……!」

   左肩を押さえて痛みをこらえるレイ

   歩み去る参号機

マヤ『零号機中破、パイロットは負傷』

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「そんな……」

ゲンドウ『目標は進行中だ。あとフタマルで接触する。おまえが倒せ』

シンジ「でも目標って言ったって……」

   夕日を背景に歩いてくる参号機のシルエット

シンジ「人が乗ってるんじゃないの?………同い年の子供が……あっ!!」

   初号機にとびかかる参号機  弾き倒される初号機

   :
   :

(中略)

==== 発令所 ====

ゲンドウ「シンジ、なぜ戦わない」

シンジ『だって、人が乗っているんだよ、父さん!!』

ゲンドウ「構わん! そいつは使徒だ。我々の敵だ!」

シンジ『でも……でも、できないよ!……助けなきゃ……人頃しなんてできないよ!!』

ゲンドウ「おまえが氏ぬぞ」

シンジ『いいよ! 人を頃すよりはいい!』

   立ち上がるゲンドウ

ゲンドウ「構わん。パイロットと初号機のシンクロを全面カット」

マヤ「カットですか?」

ゲンドウ「そうだ。回路をダミープラグに切り替えろ」

マヤ「しかし、ダミーシステムにはまだ問題も多く、赤木博士の指示もなく……」

ゲンドウ「今のパイロットよりは役に立つ。やれ」

マヤ「はい…」

==== 初号機プラグ内 ====

ブヒュウウウウウゥン…

   内壁モニタが消え、青い非常灯の灯りに包まれるプラグ内

シンジ「ぐはっ!……ハァ……ハァ……あ?」

   首を絞められる感覚から解放されるシンジ

   照明が赤色に変り、シートの背後でディスクが高速回転を始める

シンジ「何だ……?」

   高まる回転音  「OPERATION  DUMMY SYSTEM REI」の文字が浮かび上がる

シンジ「何をしたんだ、父さん!」

152: 2015/09/04(金) 01:10:39.31
(中略)

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「くっそう……止まれよ!」

   インダクションレバーをやみくもに押し引きするシンジ

シンジ「止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!」

   血に染まる川

   なおも参号機を蹂躙する初号機

シンジ「……」ハッ…

   参号機の素体の残骸の上、エントリープラグを握り締める初号機の右手

シンジ「やめろーっ!」

   プラグを握りつぶす初号の右手   飛び散るL.C.L.

シンジ「やめろおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!」

==== 発令所 ====

   自席で顔を覆っているマヤ

   呆然と主モニターを見あげるオペレーターたち

*==== 零号機プラグ内 ====

*   蒼白になりモニタ上で繰り広げられる光景に目を見開いているレイ

==== 発令所 ====

   停止する初号機

シゲル「エ……エヴァ参号機……あ、いえ……目標は、完全に沈黙しました……」


(中略)

==== 夜 野辺山付近 ====

   山裾に跪いている初号機のシルエット

   足元で明滅する赤色灯の群れ

==== 初号機プラグ内 ====

(中略)

   シートについたままうなだれ、すすり泣くシンジ

シンジ「ミサトさん……僕は……僕は人を……父さんが……やめてって頼んだのに……」

ミサト『シンジ君……ごめんね……ごめんね……』

マヤ『エントリープラグ回収班より連絡。パイロットの生存を確認――』

シンジ「生きてた!?」

   ぱっと顔を上げるシンジ

   初号機の足元で行われている救助作業の様子がモニタに映し出されている

ミサト『あの……参号機のパイロットは……』

シンジ「……」

   眉をひそめ、身を乗り出すシンジ

153: 2015/09/04(金) 01:11:56.62
ミサト『フォースチルドレンは……』

   防護服の人物に脇の下を掴まれて引き出されるトウジ

   黒いプラグスーツ姿  ぐったりとして口から血を流している

シンジ「……トウジ?」

ミサト『シンジ君?』

   目を見開くシンジ

ミサト『シンジ君……シンジ君?……シンジ君!?……シンジ君!!』

シンジ「……」

   見開かれたシンジの目  瞳孔がすっと窄まる

   絶叫

(第拾八話 おわり)

158: 2015/09/12(土) 10:58:49.94
第拾九話 「男の戦い」

(中略)

==== ネルフ本部 発令所 ===

   主モニターの中、ケージに固定された初号機の映像

マヤ「シンジ君、話を聞いて!」

   立ち上がるマヤ

マヤ「碇司令の判断がなければ、みんな氏んでいたかもしれないのよ!」

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「そんなの関係ないって言ってるでしょう!?」

   怒りに震えるシンジの手

シンジ「父さんは……あいつは、トウジを殺そうとしたんだ!」

   インダクションレバーを叩くシンジの手

シンジ「この……僕の手で!!」


==== 発令所 ====

シンジ『父さん! そこにいるんだろ!? 何か言ってよ! 答えてよ!!」

ゲンドウ「……L.C.L.圧縮濃度を限界まで上げろ」

マヤ「えっ?」

ゲンドウ「子供の駄々に付き合っている暇はない」

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「まだ直結回路が残っ――」

   赤い光に満たされるプラグ内

シンジ「がはっ!」

   目を見開くシンジ
   
シンジ「ちくしょう……」

   くずおれるシンジ

シンジ(ちくしょう……ちくしょう……)

   :
   :

(中略)

==== ネルフ中央総合病院  病棟の廊下 第壱脳神経外科前 ====

   壁に背を預けて立つアスカ  頬には絆創膏

   長椅子に腰かけているレイ

アスカ「――だめかもしれないわね。あのバカ、立ち直れないわよ、きっと」

レイ「碇くんは?」

アスカ「怪我はしてないんだし、そのうち気付くわよ。今ごろ夢でも見てんじゃないの?」

レイ「夢?」

アスカ「そう。……あんた、見たこと無いの?」

レイ「……」

   俯くレイ

   :
   :

159: 2015/09/12(土) 11:00:26.96
==== ネルフ 中央総合病院 病室 ====

ピッ……ピッ……

   ベッドに横たえられているトウジ  酸素マスクをつけられている

   目を開ける

   ふと右隣に目をやる

トウジ(シンジ……)

   やはり酸素マスクとモニタをつけられたシンジが横たわっている

トウジ(なんでシンジが横に寝とんのや……)

   天井を見上げる

トウジ(ここは……どこやろ……妹の病院か……)

   深く息を吐き、目を閉じるトウジ

   :
   :

==== 夕暮れの列車 ====

   吊革につかまって立つトウジ

   隣の車両、シンジが座席に座り、その向かいにレイが座っている

トウジ(何や……シンジと綾波やないか)

   聞こえてくる会話

レイ「碇くん、どうしてあんなことしたの?」

シンジ「許せなかったんだ、父さんが。僕を裏切った父さんが」

レイ「……」

*シンジ「あのとき……」

*   シンジ回想

*   ユイの墓前に立つゲンドウとシンジ

シンジ「せっかくいい気持ちで父さんと話ができたのに、父さんは僕の気持ちなんか分かってくれないんだ」

レイ「碇くんは分かろうとしたの? お父さんの気持ちを」

シンジ「分かろうとした」

レイ「なぜ分かろうとしないの?」

シンジ「分かろうとしたんだよ!」

   頭を抱えるシンジ

レイ「そうやって、いやなことから逃げているのね」

シンジ「いいじゃないか! いやなことから逃げ出して、何が悪いんだよ!」

   :
   :

トウジ(なに口ゲンカしとんのや、あの二人……)

   :
   :

==== 闇 ====

   「面会は特別だから、5分だけよ」

   「はい、ありがとうございます」

   明るくなる視界

   病室の灯具

   ベッド際に座るヒカリ   こちらを見つめている

160: 2015/09/12(土) 11:01:48.62
==== ネルフ 中央総合病院 病室 ====

ピッ……ピッ……

トウジ「……なんや、イインチョやんか」

ヒカリ「鈴原、大丈夫?」

トウジ「ああ、生きとるみたいやな」

   隣のベッドを見やるトウジ

トウジ「なんや……シンジがおったような気がしとったけど、夢やったんかいな」

ヒカリ「碇くんは、昨日退院したそうよ。3日も寝てたんだから、鈴原は」

トウジ「そうか……3日もか……」

*トウジ「……綾波は?」

*ヒカリ「えっ?」

*トウジ「……綾波がおったような気がしたんやけど……夢やったんかな……」

*ヒカリ「……あ、あの……鈴原?」

*トウジ「ん?」

*ヒカリ「あの、やっぱり……綾波さんと……」

*トウジ「何言うとんのや」

*ヒカリ「だって! あの時、屋上で――」

*トウジ「あ?」

*ヒカリ「だから……」

*   失笑するトウジ

*トウジ「あのな、あん時、綾波と話しとったのは、シンジのことや」

*ヒカリ「えっ……」

*トウジ「ワシがエヴァに乗るのをシンジが心配するて、綾波が心配しとって、それでワシのところに来たんや」

*ヒカリ「そ……そうだったの……」

*   天井を見るトウジ

*トウジ「シンジと……綾波がおったような気がしたんやけどな……」

*ヒカリ「……」

   ヒカリに視線を移すトウジ  微笑む

トウジ「イインチョは――」

ヒカリ「あっ……」

   うろたえるヒカリ  少し紅くなって

ヒカリ「ここに来たのは委員長として、公務で来たのよ! それ以外の何でもないのよ」

トウジ「ああ、分かっとるわ」

ヒカリ「……分かってないわよ……」

   すねるように横を向くヒカリ

トウジ「済まんかったな……弁当、食えへんで」

ヒカリ「いいのよ、そんなこと……でも、ごめんね。ここでお弁当食べさせちゃいけないんだって……」

トウジ「イインチョ……」

ヒカリ「なに?」

トウジ「一つ、頼んでええか?」

ヒカリ「うん……」

トウジ「妹に、ワシは何でもあらへんと、言うといてんか?」

ヒカリ「……うん」

161: 2015/09/12(土) 11:03:31.77
(中略)

==== ネルフ本部 総司令公務室 ====

   手錠をかけられゲンドウのデスクの前に立つシンジ

ゲンドウ「命令違反、エヴァの私的占有、稚拙な恫喝……これらはすべて犯罪行為だ。何か言いたいことがあるか」

シンジ「はい。僕はもう、エヴァに乗りたくありません。ここにもいたくありません」

ゲンドウ「では出て行け」

シンジ「はい。先生のところへ戻ります」

   踵を返すシンジ

ゲンドウ「また逃げ出すのか」

シンジ「……」

ゲンドウ「おまえには失望した。もう会うこともあるまい」

シンジ「はい、そのつもりです」

   退室するシンジ

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 通路 ====

   ややうつむいて歩いてくるシンジ

   ふと顔を上げるシンジ

   少し先にレイが立っている   制服姿

   立ち止まるシンジ

レイ「碇くん」

シンジ「……」

   憮然として顔をそむける

シンジ「綾波は……知ってたんだろ?」

レイ「え?」

シンジ「トウジが乗るってこと。……父さんから聞いてたんだろ?」

レイ「……私は――」

シンジ「どうして言ってくれなかったんだよ」

レイ「……」

シンジ「わかってたら……もしかしたら……もしかしたら、もっと……何か出来たかも知れないのに」

レイ「碇くん――」

シンジ「それなのに……父さんは――」

レイ「でも!」

シンジ「……」

レイ「あの時、碇くんは、戦うことができたはずだわ」

シンジ「……」

レイ「碇司令の命令がなかったら、碇くんは――」

シンジ「父さんか……」

   はっとするレイ

シンジ「父さんなんか、もうどうだっていいよ」

レイ「碇くん――」

シンジ「綾波は……結局、僕なんかより父さんの方が大事なんだろ」

レイ「そうじゃない――」

162: 2015/09/12(土) 11:06:06.79
シンジ「父さんが……あんな……ダミーシステムなんて――」

   はっとするシンジ

   レイの顔を見るシンジ

   怪訝な顔で見るレイ

シンジ「……それも知ってたの?」

レイ「え?」

シンジ「ダミーシステム……綾波の『実験』って――」

レイ「違う、私は――」

シンジ「……もういいよ」

レイ「聞いて、碇くん――」

シンジ「もういいよ!」

レイ「……」

   レイの脇をすり抜けて出口に向かうシンジ

シンジ「僕はもう……エヴァには乗らない」

   スカートの太腿のあたりを掴んでいるレイ

   歩み去るシンジ

   取り残されるレイ  俯いている

レイ(ダミー……システム……)

   眉をひそめるレイ

レイ(……実験?)

   顔を上げ、シンジが去った方を見るレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== 地上 ====

   道路を歩み去るシンジの後姿

   聞こえてくるゲンドウの声

ゲンドウ『私だ。サードチルドレンは抹消。初号機の専属パイロットはレイをベーシックに、ダミープラグをバックアップに回せ』


==== ミサトのマンション シンジの部屋 ====

   ベッドに横たわり灯具を見上げているシンジ

   携帯電話の呼び出し音

   横たわったまま、携帯電話を耳にあてているシンジ

ケンスケ『シンジか? ここから出てくってホントか?……ホントなんだな?」

シンジ「……」

ケンスケ『でもなぜだよ、なぜいまさら逃げんだよ』

シンジ「……」

ケンスケ『俺はおまえに憧れてたんだ。羨ましいよ、俺たちとは違うんだからな』

シンジ「……」

ケンスケ『ちくしょう……トウジまでエヴァに乗れるって言うのに、俺は――』

女性オペ「この電話は盗聴されています。機密保持のため回線を切らせていただきました。ご協力を感謝いたします」

   切れる電話

163: 2015/09/12(土) 11:08:00.81
**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 総司令公務室 ====

   ゲンドウのデスクから少し距離を置いて立つレイ

ゲンドウ「どうした、レイ」

   顔を上げるゲンドウ

レイ「お聞きしたいことが……」

ゲンドウ「……」

レイ「ダミーシステムのことで……」

   レイを見ているゲンドウ

   立ち上がる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== 駅 改札口前 ====

(中略)

ミサト「わかってると思うけど、これから先、あなたの行動にはかなりの制限がつくから」

シンジ「はい…あの…」

ミサト「なあに」

シンジ「一つだけ教えてください。なぜトウジなんですか?フォースチルドレンが」

ミサト「……第4次選抜候補者は、全てあなたのクラスメートだったのよ。私も最近知ったわ。全て……仕組まれていたことだったの」

シンジ「みんなが……クラスのみんなが……」

   苦しげにつぶやくシンジ

ミサト「鈴原君のことは、いくら言葉で謝っても取り消されるミスではないわ……でもシンジ君、正直私は、あなたに自分の夢、願い、目的を重ねていたわ。それがあなたの重荷になってるのも知ってる」

シンジ「……」

ミサト「でも私たちは、ネルフのみんなは、あなたに未来を託すしかなかったのよ。それだけは、覚えておいてね」

シンジ「勝手な言い分ですよね……」

ミサト「それは分かってるわ」

シンジ「……」

ミサト「本部までのパスコードとあなたの部屋は、そのままにしておくから」

シンジ「無駄ですよ。片付けておいてください」

ミサト「……」

シンジ「僕はもう、エヴァには乗りません」

==== 黒塗りの車の車内 ====

   後部座席に座るミサト

ミサト(積極的に話をしている……初めてね、こんなの)

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 地上施設 廊下 ====

   肩を落として歩くレイ

   ふと立ち止まり窓を見上げる

   青空に白い雲が流れている

   憔悴した面持ちで見上げているレイ

**** Omit Scene ここまで ****

164: 2015/09/12(土) 11:09:13.85
==== 駅のホーム ====

   2番線ホームに立ち列車を待つシンジ

   街に鳴り響くサイレン

シンジ「!」

   頭上の電光表示を見上げるシンジ

構内放送『ただいま東海地方を中心に、非常事態宣言が発令されました」

   「政府専用特別急行列車R-13 13:38発 新厚木行」の標示が「避難通路 EMERGENCY PASSAGE」に切り替わる

構内放送『住民の皆さまは、速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返します――』 

シンジ「使徒だ…」

(中略)

==== 発令所 ====

男性オペ『第1から18番装甲まで損壊!』

マコト「18もある特殊装甲を、一瞬に?」

   駆け込んでくるミサト

   片腕を三角巾で吊っている

ミサト「エヴァの地上迎撃は間に合わないわ。弐号機をジオフロント内に配置、本部施設の直縁に廻して!」

   射出されていく弐号機

ミサト「アスカには目標がジオフロント内に侵入した瞬間を狙い撃ちさせて!」

ミサト「零号機は?」

マヤ「A.T.フィールド中和地点に配置されています!」

リツコ「左腕の再生がまだなのよ」

ミサト「戦闘は無理か……」

ゲンドウ「レイは初号機で出せ。ダミープラグをバックアップとして用意」

ミサト「はい」

* ==== 通路 ====

*   走るレイ   プラグスーツ姿

*女性オペ『エヴァンゲリオン初号機、発進準備』

*レイ「!」

*   思わず立ち止まり、天井を見上げるレイ

*女性オペ『零号機パイロットは、7番ケージへ』

*レイ「……」

*   表情を引き締めるレイ

*   再び走り出す

==== 初号機ケージ ====

   頸部に挿入されるエントリープラグ

   閉じる頸部カバー

女性オペ『エントリースタート』

165: 2015/09/12(土) 11:10:33.93
==== 初号機プラグ内 ====

レイ「……」

   プラグ内壁モニタの表示状態が次々に変っていく

マヤ『L.C.L.電化』

レイ「……」

リツコ『A10神経、接続開始』

レイ「うっ!?」

   全面真っ赤に染まるプラグ内壁モニタ

   口許を押さえるレイ

レイ(だめなのね……もう……)

==== 初号機ケージ ====

女性オペ『パルス逆流!』

   モニタ上、次々に切れていく接続状態表示

マヤ「初号機、神経接続を拒絶しています!」

リツコ「まさか、そんな……」

冬月「碇……」

ゲンドウ「ああ」

   厳しい表情でモニタを睨むゲンドウ

ゲンドウ「私を拒絶するつもりか」

==== 初号機プラグ内 ====

レイ「……」

   赤い光に満たされたプラグの中、うずくまるレイ

==== 発令所 ====

ゲンドウ「起動中止。レイは零号機で出撃させろ。初号機はダミープラグで再起動」

ミサト「しかし零号機は!」

レイ『構いません。行きます』

ミサト「レイ!」

==== 初号機プラグ内 ====

   赤い光の中

   口を押えて背を丸めているレイ

レイ「……」

**** Omit Scne ここから ****

  (レイ回想)

==== セントラルドグマ L.C.L.プラント ====

   暗い室内

   呆然と立ち、こちらにある何かを見上げているレイ

   オレンジ色の光に正面から照らされている

レイ「ダミー……」

   手前の方をときどきゆったりと横切る人体の一部のようなシルエット


166: 2015/09/12(土) 11:12:24.95
レイ「これが……」

   レイの後方の闇から歩み出るゲンドウ

ゲンドウ「そうだ」

   レイに並び、レイと同様に手前にある何かを見上げるゲンドウ

   断続的に聞こえるかすかな音声

   多数の少女の重なり合った笑い声のように聞こえる

   呆然と見上げているレイ

   :
   :

  (レイ回想終わり)

**** Omit Scene ここまで ****

レイ(私は氏んでも、代わりはいるもの……)

==== 地上 市街地 ====

   眩い光を閃かせる使徒   

   多数の十字形の爆炎があがる

   見下ろしているシンジ

シンジ(僕はもう、乗らないって決めたんだ……)

男性「君、何をしている! 早くシェルターに避難しなさい!」

(中略)

==== ジオフロント シェルター付近 ====

   針葉樹林の向こう、飛び交う対空砲火の光

   それを見上げているシンジの後姿

   崩壊した外壁の外、ジオフロントの地表を右往左往する人々

男性職員「怪我人は第6ブロックへ!」

男性職員「無事なものは第3シェルターへ集合しろ!」

男性職員「こっちだ! 早く!」

   男性職員の一人がシンジを見咎め立ち止まる

男性職員「おい君! 何をしている! 氏にたいのか!」

   弐号機の残骸を呆然と見るシンジ

シンジ「アスカ……」

   「シンジ君じゃないか」

   振り返るシンジ

シンジ「加持さん……」

   樹林の手前、ワイシャツ姿の加持がじょうろを持って佇んでいる

シンジ「何やってるんですか、こんなところで」

加持「それはこっちのせりふだよ。何やってるんだ、シンジ君は」

シンジ「……僕は……僕はもうエヴァには乗らないから…そう決めたから…」

加持「そうか……」

シンジ「……」


加持「アルバイトが公になったんでね。戦闘配置に俺の居場所はなくなったんだ。以来ここで水を撒いてる」

   じょうろの下、丸々としたスイカが実っている

167: 2015/09/12(土) 11:14:10.01
シンジ「こんな時にですか?」

加持「こんな時だからだよ。葛城の胸の中もいいが、やはり氏ぬ時はここにいたいからね」

シンジ「氏ぬ……」

   使徒の目が閃き、また爆発が起こる

加持「そうだ。使徒がここの地下に眠るアダムと接触すれば、人は全て滅びるといわれている。サードインパクトでね」

シンジ「……」

加持「それを止められるのは、使徒と同じ力を持つエヴァンゲリオンだけだ」

   地下からリフトで上昇してくる零号機

   左腕の肩から下がない

シンジ「綾波!? ライフルも持たずに!」

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「くっ……」

   インダクションレバーを押し込むレイ

==== ジオフロント ====

   使徒に向かって駆け出す零号機 

==== 発令所 ====

リツコ「自爆する気!?」

ゲンドウ「レイ!」

==== ジオフロント ====

   突進する零号機

   直前で零号機に向き直る使徒

   右手に掴んだN2爆雷を押し付ける零号機

   使徒のA.T.フィールドに阻まれる

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「A.T.フィールド、全開!」

*   歯を食いしばるレイ

*レイ(碇くんが、もう――)

*   使徒のA.T.フィールドを押しのけコアに肉薄するN2爆雷

*レイ(エヴァに乗らなくてもいいようにする! だから!!)

   コアに叩きつけられるN2爆雷

   一瞬早くコアをシャッターのようなものが覆う

   閃光――

==== ジオフロント スイカ畑 ====

シンジ「うっ!……」

   爆風から顔をかばうシンジ

==== 発令所 ====

マコト「零号機は……」

   たたずむ零号機の頭部を使徒の腕が直撃する

   倒れる零号機

ミサト「レイ!」

リツコ「何てことを……」

168: 2015/09/12(土) 11:16:23.27
==== ジオフロント スイカ畑 ====

シンジ「あ……あ……」

   目を見開き震えるシンジ

加持「シンジ君、俺はここで水を撒くことしかできない。だが、君には君にしかできない、君にならできることがあるはずだ」

シンジ「……」

加持「誰も君に強要はしない。自分で考え、自分で決めろ。自分が今、何をすべきなのか」

シンジ「……」

加持「ま、後悔のないようにな」

   爆発音

シンジ「……」

   表情を引き締め、ひとつ頷く

(中略)

==== 初号機ケージ ====

   モニタを埋める赤い警報表示

男性オペ『ダミープラグ、拒絶』

ゲンドウ「……」

男性オペ『だめです! 反応ありません!』

ゲンドウ「続けろ。もう一度、ヒトマルハチからやり直せ」

   「乗せてください!」

   アンビリカルブリッジを見下ろすゲンドウ

   膝に手をついて息を切らせているシンジ

シンジ「僕を……僕をこの……初号機に乗せてください!」

   シンジを見下ろすゲンドウ

   睨みかえすシンジ

シンジ「父さん……」

ゲンドウ『なぜここにいる』

   拳を握りしめるシンジ

シンジ「僕は……僕は、エヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジです!」

   :
   :

==== 発令所 ====

シゲル「目標は、メインシャフトに侵入、降下中です!」

ミサト「目的地は!?」

マコト「そのまま、セントラルドグマへ直進しています!」

ミサト「ここに来るわ! 総員待避! 急いで!」

マコト「総員待避! 繰り返す、総員待避!」

   鳴り響く警報

   明滅して消える主モニター

   主モニターのある壁面が崩れ、使徒が踏み込んでくる

マコト「ああっ!」

マヤ「きゃあああ!!」


169: 2015/09/12(土) 11:18:47.44
ミサト「!!」

   ミサトの立つ司令塔に肉薄する使徒

   目が光を帯びる

   突如、側壁が崩れ、エヴァ初号機がなだれ込む

   エヴァに殴り飛ばされる使徒

ミサト「エヴァ初号機!!……シンジ君!?」

   使徒とともにケージになだれ込む初号機

==== 初号機ケージ ====

シンジ「うわあああああ!」

   使徒に殴りかかろうとする初号機

   使徒の目が輝き初号機の腕がちぎれ飛ぶ

   ゲンドウが立つ作業通路のすぐ近くの側壁に叩きつけられる初号機の腕

   飛び散るエヴァの体液にまみれるゲンドウ

シンジ「わああああああ!」

   左肩を押さえて絶叫するシンジ

   使徒を射出口に追い込む初号機

シンジ「ミサトさん!」

ミサト「5番射出、急いで!」

   きらめきとともに打ち出される初号機と使徒

   高速で行き過ぎていく内壁に使徒を押し付ける初号機

==== ジオフロント ====

   使徒もろとも高々と打ち上げられる初号機

   地表に叩きつけられた使徒に殴りかかる初号機

   使徒の外皮を引きちぎろうとする初号機

   と、糸が切れたように動きが止まる

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「はっ!」

   ゼロを示す内部電源残時間表示

シンジ「エネルギーが切れた!?」

(中略)

==== ジオフロント ====

   破壊された地上施設から地表に駆けだすミサト達

一同「ああっ!!」

   高々と掴み上げられ、地上施設に叩きつけられる初号機

ミサト「シンジ君!」

(中略)

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け!」

   使徒の攻撃の振動がプラグ内にも伝わってくる

   必氏でインダクションレバーを動かし続けるシンジ

シンジ「動け、動け、動いてよ!」

   外部映像が消えたプラグ内壁が亀裂で覆われていく

170: 2015/09/12(土) 11:21:54.01
シンジ「今動かなきゃ、今やらなきゃ、みんな氏んじゃうんだ! もうそんなの嫌なんだよ!」

   絶叫するシンジ

シンジ「だから、動いてよ!」

   心臓の拍動のような音――

   はっと顔を上げるシンジ

   :
   :

==== ジオフロント ====

   突如として光を帯びるエヴァ初号機の目

   使徒の腕を捉え使徒本体を掴みよせる

   使徒を蹴り飛ばす初号機

   無残に転がる使徒

   その様子を眺めている加持

   立ち上がるエヴァ初号機

マヤ「エ……エヴァ、再起動……」

(中略)

   動かなくなった使徒に四つんばいで肉薄する初号機

   使徒の残骸に顔をうずめ喰らいつく

ミサト「使徒を……食ってる……」

リツコ「S2機関を自ら取り込んでいるというの!? エヴァ初号機が!」

マヤ「うっ!……」

   嘔吐するマヤ

   立ち上がるエヴァ初号機

   上体の装甲板がはじけ飛ぶ

リツコ「拘束具が!」

マコト「拘束具?」

リツコ「そうよ……あれは装甲板ではないの。エヴァ本来の力を私たちが押え込むための拘束具なのよ。その呪縛が今、自らの力で解かれていく」

   咆哮するエヴァ初号機

リツコ「私たちには、もうエヴァを止めることはできないわ」

(中略)

==== 総司令執務室 ====

冬月「始まったな」

ゲンドウ「ああ」

   咆哮する初号機

ゲンドウ「全てはこれからだ」


(第拾九話 おわり)

171: 2015/09/19(土) 15:07:31.51
第弐拾話 「心のかたち、人のかたち」

(中略)

==== 第1日 ネルフ本部 第1発令所 ====

マヤ「エヴァ両機の損傷は、ヘイフリックの限界を超えています」

リツコ「時間がかかるわね。全てが戻るには」

マヤ「幸い、マギシステムは移植可能です。明日にも作業を開始します」

リツコ「でも、ここはだめね」

シゲル「破棄決定は、もはや時間の問題です」

リツコ「そうね……とりあえずは、予備の第2発令所を使用するしかないわね」

マヤ「マギはなくとも、ですか?」

==== 第2発令所 ====

リツコ「そうよ。埃を払って、午後には仕事を始めるわよ」

マヤ「椅子はきついし、センサーは硬いし、やりづらいんですよね、ここ」

シゲル「見慣れた第1発令所と造りは同じなんですが」

マヤ「違和感ありますよね」

リツコ「今は使えるだけマシよ。……使えるかどうか分からないのは、初号機ね」

==== 初号機ケージ ====

   ケージに固定されているエヴァ初号機

   拘束具が失われた部分肩口から頭部にかけて包帯のような布で巻かれている

   むき出しになった瞼のない眼球

   包帯の表面のあちこちに血のような染みがある

ミサト「ケイジに拘束……大丈夫でしょうね」

マコト「内部に熱、電子、電磁波ほか、化学エネルギー反応無し。S2機関は完全に停止しています」

ミサト「――にもかかわらず、この初号機は3度も動いたわ」

(中略)

==== ネルフ本部 総司令公務室 ====

加持「いやはや、この展開は予想外ですな……委員会、いえ、ゼーレの方にどう言い訳つけるつもりですか?」

冬月「初号機はわれわれの制御下ではなかった。これは不慮の事故だよ」

ゲンドウ「よって初号機は凍結。委員会の別命あるまでは、だ」

加持「適切な処置です。しかし、ご子息を取り込まれたままですが?」

ゲンドウ「……」

==== 発令所 ====

   鳴り響く警報音

   マギ・バルタザールからの排出コマンドをエヴァ初号機が拒否したことを表す表示が明滅している

マヤ「やはりだめです、エントリープラグ排出信号、受け付けません」

リツコ「予備と疑似信号は?」

マヤ「拒絶されています。 直轄回路もつながりません」

マコト「プラグの映像回線つながりました。主モニターに回します」

   どよめきが漏れる

   シートにはだれもおらずシンジのプラグスーツだけが漂っている

ミサト「何よ、これ!」

リツコ「……これが、シンクロ率400パーセントの正体」

172: 2015/09/19(土) 15:09:39.29
(中略)

==== 第2日目 夜 ネルフ中央総合病院 病室 ====

   病室の中央   ベッドに横たわっているレイ

   頭に巻いた包帯に片目までおおわれている

   目を開け呟くレイ

レイ「……まだ生きてる……」

**** OmitScene ここから ****

   室内をぼんやりと見まわすレイ

   (レイ回想)

   ジオフロント

   頭部を破損し地面に横たわる零号機

   エントリープラグの中

レイ「っ……」

   苦しげに眼を開けるレイ

   周囲の風景が消えたプラグ内壁面モニタ

   生命維持モードに入っていることを示す文字が明滅している

   装甲を通じて伝わってくる震動

   大儀そうにコンソールを操作してモニタを起動するレイ

   暗視モードの粗い映像

   闇の中を四つん這いで行き過ぎていく初号機

レイ「!」

   地表にうずくまっている初号機のシルエット

レイ「……」

   その様子を呆然と見るレイ

   身を起こし咆哮する初号機
     :
     :

   ベッドの上   起き上がるレイ

   怯えた表情

レイ(碇くん……)

**** Omit Scene ここまで ****

==== 夜 ミサトのマンション ====

アスカ「あの女が無事だって言うのは分かったわよ!」

   灯りの消えた室内

   床に散らばるカップの欠片、破れた雑誌、中綿のはみ出したクッション

アスカ「ミサトもいちいちそんなことで私に電話しないでよ、もう!」

   荒々しく受話器を叩きつける音

   ベッドにうつ伏せに寝転び顔を枕に押し付けているアスカ

アスカ「何も……何もできなかったなんて! ……あのバカシンジに負けたなんて……」

   更に枕を顔に押し付けるアスカ

アスカ「……悔しい!」

173: 2015/09/19(土) 15:12:23.64
(中略)

==== 第3日 初号機ケージ ====

   包帯を巻かれた初号機の頭部

   作業灯に照明されている

マヤ「――そうです。プラグの中のL.C.L.成分は、化学変化を起こし、現在は原始地球の海水に酷似しています」

ミサト「生命のスープか……」

リツコ「シンジくんを構成していた物質は、すべてプラグ内に保存されているし、魂と言うべき物もそこに存在している。現に彼の自我イメージが、プラグスーツを擬似的に実体化させているわ」

マヤ「つまりサルベージとは、彼の肉体を再構成して精神を定着させる作業です」

ミサト「そんな事できるの?」

リツコ「マギのサポートがあれば」

ミサト「理論上は、でしょ? 何事も、やってみなくちゃ分からないわよ」

**** OmitScene ここから ****

==== 夜 初号機ケージ ====

   作業員が去り照明がほとんど落とされたケージ内

   初号機の前に佇むレイ

   頭に包帯を巻き、腕を吊っている

     :
     :

**** Omit Scene ここまで ****

==== 第4日 初号機プラグ内 ====

   抜け殻のようなプラグスーツが漂っている

シンジ「何だ、これ? どこだ、ここ? エントリープラグ? 初号機の? でも誰もいない。僕もいない」

シンジ「何だこれ、何だこれ、何だこれ? よくわかんないや……」

   波打ち際のイメージが明滅する

シンジ「この人達……そう、僕の知っている人たち、僕を知っている人たち」

   ミサト、レイ、アスカ、クラスメートたちの顔が目まぐるしく浮かぶ

シンジ「そうか、みんな僕の世界なんだ……」

(中略)

   ネルフ本部 長い下りエスカレーターに乗って運ばれているシンジとレイ

レイ『なぜお父さんが嫌いなの?』

シンジ「当たり前だよ! あんな父親なんて」

レイ『お父さんが分からないの?』

シンジ「当たり前だよ……ほとんど会った事もないんだもの……」

レイ『だから嫌いなの?』

シンジ「そうさ、父さんは僕がいらないんだ。父さんが僕を捨てたんだ!」

レイ『その代わりが私なの?』

シンジ「そうさ! そうに決まってる! 綾波がいるから僕は捨てられたんだ!」

レイ(幼児)『自分から逃げ出したくせに』

シンジ「うるさい、うるさい、うるさい! 父さんがみんな悪いんじゃないか! あの時だって、ほんとは父さんに嫌いだって言うつもりで!」

シンジ『これに乗って、恐い目に遭えって言うの? 父さん』

ゲンドウ『そうだ』

シンジ『なんだよ、嫌だよ、何を今更なんだよ、父さんには僕がいらないんじゃなかったの?』

ゲンドウ『必要だから呼んだまでだ』

174: 2015/09/19(土) 15:15:22.35
シンジ『なぜ僕なの?』

ゲンドウ『ほかの人間には無理だからな』

シンジ『無理だよそんなの! 見たことも聞いたこともないのに、できるわけないよ!』

   うずくまるエヴァに乗る前のシンジ

   それを見ているプラグスーツ姿のシンジ

シンジ「違う……僕は知っていた」

   はっとするシンジ

シンジ「そうだ、僕はエヴァを知ってた……そしてあの時、僕は逃げ出したんだ!」

   窓ガラスに手をついて、手前にある何かを笑顔で見下ろしている幼いシンジ

シンジ「――父さんと母さんから!」

**** Omit Scene ここから ****

==== 夜 レイのマンション ====

   カーテンの隙間から漏れてくる月明かり

   ベッドの上に横たわっているレイ   目を開いている

   部屋の中

   キッチンの洗い物かごに置いたままの二つのカップ

   視線を動かすレイ

   半開きになったクローゼットの中

   折りたたまれたテーブルと巻きとられたレジャーシートが少し覗いている

   (レイ回想)

シンジ『綾波は……結局、僕なんかより父さんの方が大事なんだろ』 

レイ「……」

シンジ『父さんが……あんな……ダミーシステムなんて――』

レイ「……」

   セントラルドグマ

   オレンジ色の光に照らされ、呆然と何かを見上げているレイ

   :
   :

   ベッドの上

   目をぎゅっと閉じ、枕で頭をおおうレイ

   かすかにこだまする多数の少女の笑い声のような音

   :
   :   
   

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)

==== 第30日目 ネルフ本部 初号機ケージ 管制室 ====

マヤ「サルベージ計画の要綱。たった一か月でできるなんて、さすが先輩ですね!」

リツコ「残念ながら原案は私じゃないわ。10年前に実験済みのデータなのよ」

マヤ「そんなことあったんですか? エヴァの開発中に?」

リツコ「まだここに入る前の出来事よ。母さんが立ち会ったらしいけど、私はデータしか知らないわ」

マヤ「その時の結果は、どうだったんですか?」

リツコ「失敗したらしいわ」

   :
   :

175: 2015/09/19(土) 15:17:58.75
==== 第31日目 ====

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 ジオフロント 噴水のある庭園 ====

レイ「……」

   泉水のほとりにしゃがみ込み、片手を水に浸しているレイ   

   「こんなところにいていいのかい」

   レイの後姿  わずかに頭が上がる

   加持がぶらぶらと歩いてくる

   片手に作業用のヘルメットをぶら下げている

加持「シンジくんのサルベージ作業がもうすぐ始まるんだそうだが……行かなくていいのか?」

レイ「……どうして、私にそういうこと言うの」

   振り向かずに言うレイ

   物憂げに自らの後ろ頭をかく加持

加持「いや、すまん。君はいつも碇司令といっしょだったから……つい、ね」

   ポケットを探る加持

加持「アスカにも言ってみたんだがね。シンジくんの名前を言ったとたんに電話を切られちまった」

レイ「……」

   煙草を取り出し、火をつける加持

加持「鈴原君の一件があったからな……顔を合わせづらいのはわかるが……」

レイ「……」

加持「シンジくんは、一度はここを去った。だが、もう一度、エヴァに乗ることを決めた。シンジ君自身の意志で、だ。そして、俺たち全員を救ってくれた」

   頭上を仰ぎ、煙を吐き出す加持

加持「そのことは、認めてあげてもいいんじゃないか」

   泉水に浸していた手を引き揚げ、しばらく見つめるレイ

レイ「……私にはそんな資格、ないもの」

加持「どうして、そんな風に思うんだい?」

レイ「……」

加持「物事を知るって言うのは、いいことばかりじゃない。中には受け入れがたいことだってある」

   わずかにレイの後姿がこわばる

   それを見ている加持

加持「いろんなことを見たり、聞いたり、自ら経験することで、否応なく人は変わっていく。だが、変わらないものもある」

レイ「……」

   レイに背を向ける加持

加持「君にシンジくんに会う資格があるかどうか、俺にはわからない。だが、それはシンジ君と顔を合わせることができたらの話だ。違うかい」

   レイの横顔

   わずかに目が見ひらかれる

レイ「碇司令は……赤木博士に一任していると……」

   携帯灰皿に煙草を押し付ける加持

加持「りっちゃんは、はっきりとは言わなかったが……」

   同じ姿勢のまま泉水を見つめているレイ

   肩越しにレイの後姿を見ている加持

**** Omit Scene ここまで ****

176: 2015/09/19(土) 15:19:52.12
========

シンジ「優しい……あったかい……」

   青空のイメージ

シンジ「人の温もりなのかな、これが……知らなかったな……」

   水音

   エレベーターに乗っているシンジとレイ

レイ『「寂しい」って何?』

シンジ「これまで分からなかった。でも今は分かるような気がする」

レイ『「幸せ」って何?』

シンジ「これまでは分からなかった。でも今は分かる気がする」

レイ『優しくしてくれる? 他の人が』

シンジ「うん」

レイ『どうして?』

シンジ「それは、僕がエヴァのパイロットだから」

シンジ「僕がエヴァに乗っているから、大事にしてくれる。それが、僕がここにいてもいい理由なんだ。僕を支えている全てなんだ」

   夕暮れの列車

   向かい合って座るシンジとレイ

シンジ「だから僕は、エヴァに乗らなきゃいけない」

レイ『乗って?』

シンジ「敵……そう、みんなが敵と呼んでいるものと戦わなきゃいけない」

レイ『戦って?』

シンジ「勝たなきゃいけない……そう、負けちゃいけないんだ」

シンジ「みんなの言う通りにエヴァに乗って、みんなの言う通りに勝たなきゃいけないんだ」

シンジ「そうじゃないと、誰も、誰も……誰も……」

(中略)

シンジ「……誰か僕に優しくしてよ。こんなにまで戦ったんだ。こんなに一生懸命戦っているんだ」

シンジ「僕の事を大事にしてよ、僕に優しくしてよ!」

   絶叫するシンジ

ミサト「優しくしてるわよ?」

(中略)

ミサト「私と一つになりたい?」

アスカ「心も体も一つになりたい?」

レイ「とてもとても気持ちいいことなのよ」

ミサト「ほら、安心して」

ミサト、レイ、アスカ「心を解き放って――」

==== 初号機ケージ ====

女性オペ『全探査針、打ち込み終了』 

男性オペ『電磁波形、ゼロマイナス3で固定されています』

   初号機頸部に固定されているエントリープラグ

177: 2015/09/19(土) 15:21:16.90
**** Omit Scene ここから ****

==== 通路 ====

   走ってくるレイ

   片手に作業用ヘルメットを掴んでいる

   ケージに続く入口の前で立ち止まる

   息を切らしているレイ

   表情を引き締め、入口をくぐる

==== 初号機ケージ ====

   初号機の後姿を見下ろす作業通路のひとつ

   作業通路のひとつに佇むレイ

   初号機を見下ろす

**** Omit Scene ここまで ****

==== 管制室 ====

マヤ「自我境界パルス、接続完了」

リツコ「了解、サルベージ、スタート」

マコト「了解、第1信号を送ります」

シゲル「エヴァ、信号を受信。拒絶反応無し」

マヤ「続けて、第2、第3信号送信開始」

男性オペ『対象カテクシス異常無し』

女性オペ『デストルドー、認められません』

リツコ「了解、対象をステージ2へ移行」

   リツコたちの後ろで腕組みをして立つミサト

ミサト「……シンジくん……」


========

シンジ「……」ハッ!

   目覚めるシンジ

アスカ『バカシンジ!』

シンジ「……」ハッ!

リツコ『シンジくん!?』

シンジ「……」ハッ!

トウジ『おう、シンジ!』

シンジ「……」ハッ!

ケンスケ『やあ、シンジ!』

シンジ「……」ハッ!

レイ『碇くん』

   :
   :

(中略)

   次第に早回しになる呼びかけの声

==== 管制室 ====

   鳴り響く警報音

マヤ「だめです、自我境界がループ上に固定されています!」

リツコ「全波形域を全方位で照射してみて!」

178: 2015/09/19(土) 15:23:16.09
リツコ「だめだわ……発信信号がクライン空間に捕われている……」

ミサト「どういう事!?」

リツコ「つまり……失敗……」

   苦しげな表情を浮かべるリツコ

ミサト「えっ……」

リツコ「干渉中止! タンジェントグラフを逆転。加算数値をゼロに戻して」

マヤ「はい!」

シゲル「Qエリアにデストルドー反応。パターンセピア!」

マコト「コアパルスにも変化が見られます。プラス0.3を確認!」

リツコ「現状維持を最優先、逆流を防いで!」

マヤ「はい!」

女性オペ『体内アポトーシス作業、予定数値オーバー、危険域に入ります!』


*==== 初号機ケージ内  作業通路のひとつ ====

*   響き渡る切迫したアナウンスにはっとするレイ

*   スピーカーがあると思しき天井を振り仰ぐ

==== 管制室 ====

マヤ「プラス0.5……0.8……変です。せき止められません!」

リツコ「これは……なぜ……」

   思わず主モニターを見上げるリツコ

   エントリープラグ内  さかんに泡立つL.C.L.

リツコ「帰りたくないの? シンジくん……」

==== エントリープラグ内 ====

   うずくまっているシンジの像

シンジ「分からない、分からない……僕は……僕は……」

ミサト『何を願うの?』

アスカ『何を願うの?』

レイ『何を願うの?』

   こちらを向いている大人の女性 逆光で顔立ちは見えない

女性『何を願うの?』

==== 発令所 ====

マヤ「エヴァ、信号を拒絶!」

シゲル「L.C.L.の自己フォーメーションが、分解していきます!」

マコト「プラグ内、圧力上昇!」

リツコ「全作業中止、電源落として!」

マヤ「だめです、プラグがイグジットされます!」

   突如開く初号機のエントリープラグのハッチ

   アンビリカルブリッジにあふれ出すL.C.L.

   L.C.Lに乗って浮かんで手前に流れてくるシンジのプラグスーツ

ミサト「シンジくん!!」

* ==== 初号機ケージ 作業通路 ====

* 怯えた表情のレイ

179: 2015/09/19(土) 15:24:47.15
========

シンジ「……」ハッ…

   ベッドの上で目を開くシンジ

シンジ「ここは……」

   いつの間にか夕暮れの列車に乗っている

   「エヴァの中だよ」

   シンジの向かいに座る幼いシンジが答える

シンジ「エヴァの中? 僕はまた、エヴァに乗ったのか……どうして……」

ミサト「もうエヴァには乗らないの?」

シンジ「僕はエヴァにはもう乗らないって、決めたんです」

ミサト「でもあなたは乗ったわ。エヴァンゲリオン初号機に」

シンジ「……」ハッ…

ミサト「シンジくん。あなたはエヴァに乗ったから、今ここにいるのよ」

ミサト「エヴァに乗ったから今のあなたになったのよ」

ミサト「その事を、エヴァに乗っていた事実を、今までの自分を、自分の過去を、否定する事はできないわ」

ミサト「ただ、これからの自分をどうするかは、自分で決めなさい」

シンジ「僕は……僕は…… 」

==== 初号機ケージ ====

   露出している初号機のコアの前

   シンジのプラグスーツを抱きしめ、作業通路にうずくまってむせび泣くミサト

ミサト「人一人……人一人助けられなくて、何が科学よ……」

ミサト「シンジくんを返して……返してよ!」

**** Omit Scene ここから ****

   作業通路上

   呆然と立つレイ  手すりを握り締めている

   初号機の後頭部を見るレイ

   水の中

   逆さになって漂うレイの裸身

   ケージの作業通路上、初号機の後頭部を見ているレイ

   目を閉じる

   水の中を漂っていくレイ

   視界の奥  暗がりにたたずむ巨大な黒い影

レイ(碇くん……どこ?)

   水中の闇の中、あたりを見回すレイ

レイ(碇くん……どこ?)

   行く手を遮っている巨大な黒い影

   それに向かって泳ぐレイ

レイ(碇くん……どこ?)

   :
   :

180: 2015/09/19(土) 15:26:34.62
========

   電線から飛び立つ鳥たち

   ベッドの上で目を開けるシンジ

シンジ「匂い……人の匂い……」

シンジ「ミサトさん……?」

シンジ「綾波……?」

シンジ「いや、違う……」

シンジ「そうだ、お母さんの匂いだ……」

ゲンドウ『セカンドインパクトの後に生きていくのか、この子は。この地獄に』

ユイ『あら、生きていこうと思えば、どこだって天国になるわよ。だって、生きているんですもの。幸せになるチャンスは、どこにでもあるわ』

ゲンドウ『そうか……そうだったな』

シンジ「母さん…… 」

ユイ『決めてくれた?』

ゲンドウ『男だったらシンジ、女だったらレイと名づける』

ユイ『シンジ……レイ……フフ……』

シンジ「母さん……」

   :
   :

==== 初号機ケージ ====

   泣いているミサト

   背後で何かがあふれ出す音

   振り返るミサト

   むき出しになった初号機のコアの前の通路 ずぶ濡れで倒れているシンジ

ミサト「シンジくん!」

****  Omit Scene ここから ****

==== 初号機ケージ 作業通路 ====

   手すりにつかまったまま通路に座り込むレイ  肩で息をしている

   ヘルメットをかぶった頭を手すりにもたせ掛ける

   脳裏にこだまする多数の少女の笑い声のような音

   目をぎゅっとつぶるレイ

==== アンビリカルブリッジ上 ====

   シンジを抱きしめて座り込んでいるミサト

   かけつける救護員

   毛布でくるまれ、ストレッチャーに運び上げられるシンジ

   ふと顔を上げるミサト

   作業通路を見上げる

   誰もいない

   不思議そうな顔で通路を見上げているミサト

   背後で動き出す、シンジを乗せたストレッチャー

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

183: 2015/09/23(水) 22:21:30.11
>>182
ありがとう

>>181の微修正版から。

184: 2015/09/23(水) 22:24:39.05
==== 第33日 夜 ミサトの運転する車内 ====

リツコ「――初号機の修復、明後日には完了するわ」

ミサト「結局、神様の力まで道具として使っちゃうのね、人間ってやつは」

リツコ「どうかしら。委員会では凍結案も出ているそうよ」

ミサト「人造人間エヴァンゲリオン……人が造ったにしては、未知のブラックボックスが大きすぎない?」

リツコ「……」

ミサト「ま、結果としてシンジくんが助かったから、いいけどさ」

リツコ「私の力じゃないわ、あなたの力ね、多分……どう? 久しぶりに飲んでかない?」

ミサト「ん? ごめん! 今日は、ちょっちね……」

リツコ「そう…… 」

==== 交差点 ====

   ドアが閉まる音

ミサト「じゃ」

   走り出すミサトの青いルノー

リツコ「シンジくんが無事と分かったら、男と密会とはね……」

   見送るリツコ

リツコ「人の事は言えないか……」


**** Omit Scene ここから ****

ミサト「……」

   運転するミサト

   リツコの言葉を思い出す

リツコ『あなたの力ね、多分……』

ミサト「……」

   (ミサト回想)

   作業通路を見上げているミサト

   誰もいない

ミサト(……私の力でもないわね、多分……)

   眉をひそめるミサト

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)

==== ホテルの一室 ====

ミサト「――いやだ! 変なもの入れないでよ!」

   枕元に薬のカプセルのようなものを置くミサトの手

ミサト「こんな時に、もう……何!?」

加持「プレゼントさ、8年ぶりの」

ミサト「……?」

加持「最後かもしれないがな……」


(第弐拾話 おわり)

185: 2015/09/23(水) 22:27:33.42
第弐拾壱話 「ネルフ、誕生」

==== 西暦2000年 南極大陸 ====

   古いビデオ映像

(中略)

   爆発音

   荒廃した鉄骨コンクリート造りらしい施設内の映像

男「……槍を引き戻せ!」 

男「自分で行くぞ!」

男「わずかでもいい!  被害を最小限に食い止めろ!」

女「ガフの扉が開くと同時に、……処理を開始」

男「コンマ一秒でもいい。奴に、アンチA.T.フィールドに干渉可能なエ

ネルギーを絞り出させるんだ!!」

男『――解除不能!』

自動音声「カウントダウン、進行中――」

   重々しい足音のような音

男「羽を広げている! 地上に出るぞ!!」

   低い獣のような唸り

   廃墟のような通路の向こうを白い人型が通り過ぎていく

   途切れる映像

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 2015年 夕暮れ ネルフ中央総合病院 病室 ====

   病室の中央に置かれたベッド

   横たわっているシンジ

   目を開ける

   ドアが開く音   頭を動かしてドアの方を見るシンジ

   カートを押してレイが入ってくる

   見ているシンジ

   レイに見えた人影が看護師になっている

   まだ見ているシンジ

看護師「具合はどう?」

シンジ「……問題ありません」

   テーブルの用意を始める看護師

   上体を起こすシンジ

看護師「今夜様子を見て、異常がなければ退院していいそうよ」

シンジ「……ありがとうございます」

   カートから夕食のトレーを取り出す看護師

   また入り口をぼんやり見ているシンジ

**** Omit Scne ここまで ****

186: 2015/09/23(水) 22:34:08.12
==== 日中 新第三東京市郊外 ====

   緑色の公衆電話 残り度数は999と表示

ミサトの声『はい、ただいま留守にしています。発信音の後にメッセージをどうぞ』

   公衆電話に向かう加持の後姿

   青い空  草の生い茂った道路端  奥には林

   受話器を置く音

加持「最後の仕事か……」

   電話機から取り出したネルフの赤いカードを見る加持

加持「まるで血の赤だな」


**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 初号機ケージ ====

   アンビリカルブリッジに一人たたずむゲンドウ

ゲンドウ「……」

   エヴァ初号機の頭部を見上げている

==== ネルフ本部 通路 ====

   歩いてくる冬月

冬月(息子が無事、生還したと言うのに、面会もなしか)

   物思いに沈む冬月

冬月(まったく……碇は何を考えている?)

   冬月の背後に差す何者かの影


**** Omit Scene ここまで ****


==== ネルフ本部 ミサトのオフィス ====

   デスクについているミサト

   デスクの前に立つ黒服、黒眼鏡の男たち

ミサト「拉致されたって、副指令が?」

諜報部員「今より2時間前です。西の第8管区を最後に、消息を絶っています」

ミサト「うちの所内じゃない! あなたたち諜報部は何やってたの?」

諜報部員「身内に内報、および先導したものがいます。その人物に裏をかかれました」

ミサト「諜報2課を煙に巻ける奴? ……まさか!」

諜報部員「加持リョウジ。この事件の首謀者と目される人物です」

ミサト「……で、私のところにきたわけね」

諜報部員「ご理解が早く、助かります。作戦課長を疑うのは、同じ職場の人間として心苦しいのですが、これも仕事ですので」

   黙って懐から拳銃を取り出し、相手に銃把を向けて机に置くミサト

ミサト「彼と私の経歴を考えれば、当然の処置でしょうね」

   机に置かれている拳銃とIDカード

諜報部員「ご協力感謝します。――お連れしろ」

187: 2015/09/23(水) 22:35:19.85
==== 闇の中 ====

   照明が灯され、椅子に座らされ後ろ手に縛られている冬月の後姿が浮かびあっがる

冬月「久しぶりです、キール議長。まったく手荒な歓迎ですな」

   浮かび上がるモノリス状の通信ウィンドウ

キール(モノリス01)「非礼を詫びる必要はない。君とゆっくり話をするためには、当然の処置だ」

冬月「相変わらずですね……私の都合は関係無しですか」

モノリス07「議題としている問題が急務なのでね。やむなくの処置だ」

モノリス03「分かってくれたまえ」

冬月「委員会ではなく、ゼーレのお出ましとは……」

モノリス02「われわれは新たな神を作るつもりはないのだ」

モノリス09「ご協力を願いますよ、冬月先生」

冬月(冬月先生……か……)

   回想に没入する冬月

   :
   :

(中略)

==== ネルフ本部 第4隔離施設 ====

   暗闇の中

   膝を抱えてうずくまるミサト

ミサト(暗いとこは、まだ苦手ね……いやな事ばかりを思い出すわ……)


(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 通路 ====

   廊下を歩くシンジ

   学生服姿

   ふと顔を上げる

   庭園に日が降り注いでいる

   視線を廊下に戻し歩き続けるシンジ

   ふと立ち止まる

   また窓外を見るシンジ

   泉水のほとりに座っている壱中の女子制服がぽつりと見える

   無意識に握ったり開いたりするシンジの手

   少し眉を寄せて窓外を見ているシンジ

   手が静かに握られる

   歩き出すシンジ

   :
   :   

188: 2015/09/23(水) 22:36:58.34
==== ネルフ本部 噴水のある庭園 ====

   降り注ぐ日差し  流水の音

   泉水のほとり

   石段に膝を抱えて座るレイ

   とめどなく流下する泉水をぼんやりと見ているレイ

   「あの……」

   身をこわばらせるレイ

シンジ「……ごめん」

レイ「なぜ、謝るの」

   レイの後ろ、少し離れたところに立っているシンジ

シンジ「このあいだ、僕、君にひどいこと――」

レイ「ごめんなさい」

シンジ「……」

レイ「謝るのは、私の方だわ」

シンジ「ううん」

   首を振るシンジ

   シンジを見るレイ

シンジ「綾波の言うとおりだった。僕がちゃんとしなきゃいけなかったんだ。僕がちゃんとやってれば、トウジだって……」

レイ「……」

シンジ「この前だって、僕が勝手にエヴァを降りて……使徒が来て……アスカや綾波や、みんなを危ない目に遭わせて」

レイ「いいの」

   また俯くレイ

レイ「いいの。私は」

シンジ「……」

レイ「私が氏んでも、代わりはいるもの」

シンジ「……」

レイ「だから――」

シンジ「違う」

レイ「……」

シンジ「それは……僕も同じだよ」

   顔を上げるレイ   ゆっくりと振り返る

   流れる水を見ているシンジ

シンジ「アスカだって……ミサトさんに聞いたんだ。僕たちのクラス、全員パイロット候補だったって」

レイ「……」 

シンジ「エヴァのパイロットなんて、いくらでも代わりがいるんだ。何も知らないで、危ない目に遭って……トウジみたいに」

レイ「違う。そういう意味じゃ――」

シンジ「でも、綾波は綾波しかいない」

レイ「え?」

   レイを見るシンジ

シンジ「エヴァのパイロットだって、そうじゃなくたって、綾波は綾波しかいない」

   目を見開くレイ

189: 2015/09/23(水) 22:38:49.26
   俯くシンジ

シンジ「考えてみたら、僕のせいで綾波を危ない目にあわせてばっかりだ」

レイ「……」

シンジ「初めてここに来た時も、僕がすぐ乗るって言ってれば、綾波は連れてこられずに済んだのに」

レイ「……」

シンジ「ごめん」

レイ「いい」

シンジ「……」

レイ「最後は助けてくれたもの。あの時も、このあいだも。でも……」

シンジ「……」

レイ「碇くんは、これでよかったの?」

シンジ「……」

   無言で流れる水を見ているシンジとレイ


**** Omit Scene ここまで ****

==== ネルフ本部 初号機ケージ ====

リツコ「……」

   アンビリカルブリッジに立ち、初号機を見上げるリツコ

マヤ「あの、先輩!」

   物思いから覚めるリツコ

リツコ「ああ、ごめんなさい。――レイの再テスト、急ぎましょ」

   マヤと連れ立ってブリッジ上をケージ外へ向かうリツコ

マヤ「葛城さん、今日、見ませんね」

リツコ「え?……そうね」

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 噴水のある庭園 ====

   泉水のほとりに座っているレイ

   並んで佇むシンジ

シンジ「――ねえ」

レイ「なに?」

シンジ「いま、僕たちにはエヴァに乗ること以外、何もないかもしれないけど……」

レイ「……」

シンジ「生きてさえいれば、いつか必ず……生きててよかったって思う時が、きっとあるよ。それは、ずっと先のことかもしれないけど」

レイ「……」

シンジ「だから、その時までは生きて行こうよ。」

レイ「……」

シンジ「いっしょに行けば、何か見つかるかもしれない……こんな、苦しいことばっかりの世界でも」

   手を差し伸べるシンジ

   少しためらってから手を伸ばすレイ

   ほっとしたように笑うシンジ

190: 2015/09/23(水) 22:39:47.69
   手をつないだまま立ち上がるレイ

レイ「私、碇くんに遭えてよかった」

   真顔で言うレイ

シンジ「僕も、綾波に遭えてよかった」

   はにかむように笑うシンジ

シンジ「案外、戻って来られたのは、綾波のおかげかもしれない」

レイ「え?」

シンジ「あの中にいたときのことはよく覚えてないんだけど……ずっと、綾波と話していたような気がする」

レイ「……そう」

シンジ「そうだ、加持さんにお礼を言うわなきゃ」

レイ「加持一尉?」

シンジ「うん……あの時、自分で決めろって言われたんだ」

レイ「……」

シンジ「僕にしかできないことだから、誰も強要しないからって。それで……」

レイ「私も」

シンジ「え?」

レイ「碇くんが、自分の意志で戻ってきたって。そのことは認めてやってもいいんじゃないかって」

シンジ「加持さんが?」

レイ「だから、行ったの。碇くんのところへ」

シンジ「……」

   レイの顔を見るシンジ

   レイの携帯電話が鳴る

   ポケットから引き出し、画面を見るレイ

   口惜しそうにシンジを見るレイ

   苦笑するシンジ

レイ「ごめんなさい」

シンジ「いいよ」

レイ「行ってくる」

シンジ「うん」

   名残惜しげにほどかれる手と手

シンジ「頑張って」

レイ「うん」

   走り去るレイ

   見送るシンジの後ろ姿

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

191: 2015/09/23(水) 22:42:27.63
(中略)

==== 2010年 箱根 ゲヒルン本部 発令所 ====

   薄暗い発令所

   自席から振り返る赤木ナオコ

   暗がりに立っている幼いレイ

ナオコ「……何かご用? レイちゃん」

幼いレイ「道に迷ったの」

ナオコ「あらそう……じゃ、私と一緒に出ようか?」

幼いレイ「いい」

ナオコ「でも、一人じゃ帰れないでしょ?」

幼いレイ「大きなお世話よ、ばあさん」

ナオコ「……何?」

幼いレイ「一人で帰れるからほっといて、ばあさん」

ナオコ「人のこと『ばあさん』なんて言うもんじゃないわ」

幼いレイ「だってあなた、ばあさんでしょ?」

ナオコ「……怒るわよ、碇所長に叱ってもらわなきゃ」

幼いレイ「所長がそう言ってるのよ、あなたのこと」

ナオコ「嘘……」
幼いレイ「『ばあさんはしつこい』とか、『ばあさんは用済み』だとか」

   ゆらぐナオコの視界
幼いレイ『ばあさんは用済み。所長が言ってるのよ』

ユイ『あなたの事。ばあさんは用済みだとか』
幼いレイ『所長が言ってるのよ、あなたのこと……』

   :
   :

   息が詰まる音

   幼いレイの細い首を掴んでいるナオコの両手

   碇にゆがむナオコの顔

ナオコ「あんたなんか……あんたなんか氏んでも代わりはいるのよ、レイ! 私と同じね」

   だらりと垂れさがる幼いレイの両腕

ナオコ「……」ハッ…

   息を呑み目を見開くナオコ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

レイ「……」ハッ!

   :
   :
==== ネルフ本部 零号機プラグ内 ====

   呆然と目を見開くレイ

   プラグの作動音が耳に戻ってくる

リツコ『どうしたの? レイ』

レイ「……」

   不安げにプラグ内を見回すレイ

192: 2015/09/23(水) 22:44:29.68
==== ネルフ本部 実験場 管制室 ====

レイ『何でもありません』

リツコ「……」

マヤ「ハーモニクス正常。精神汚染の兆候はありません」

   不安げにリツコを見上げるマヤの顔

   手元のコンソールからの照明に照らし出されている

リツコ「そう……」

   レイが写ったモニタを見るリツコ

リツコ「レイ?」

レイ『はい』

==== 零号機プラグ内 ====

リツコ『続けるわよ。いいわね?』

レイ「はい」

   喉元を指先でおそるおそる触れるレイ

   眉をひそめる

レイ(……これは……何? )

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****


(中略)

   (冬月の回想)

冬月「――キールローレンツを議長とする人類補完委員会は、調査組織であるゲヒルンを即日解体。全計画の遂行組織として特務機関ネルフを結成した。そしてわれわれは、そのまま籍をネルフへと移した。」

冬月「ただ一人、マギシステム開発の功績者、赤木博士を除いて……」

   発令所のフロアに血が飛び散った後

   不自然に手足が捻じれた形の人型が白墨で描かれている

   :
   :

==== 公衆電話の前 ====

   テレフォンカードのイジェクト音

加持「さて……行きますか」

**** Omit Scene ここから ****

==== ミサトのマンション ダイニング ====

   テーブルの上に置かれた電話

   ツー、ツーと話中音が数回したあと途切れ、録音ありを示すランプが点灯する

   部屋の入口

   駆け込もうとしていた風で入口に手をかけ、半ば身を乗り出した姿勢で固まっているアスカ

   眉をひそめている

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

193: 2015/09/23(水) 22:46:34.79
==== とある建物の中 ====

   開くドア

   暗闇の中 後ろ手に拘束され椅子に座らされている冬月

冬月「君か……」

   椅子に座ったまま大儀そうに振り返る冬月

加持「ご無沙汰です。外の見張りには、しばらく眠ってもらいました」

   冬月の拘束を解く加持

冬月「この行動は、君の命取りになるぞ」

加持「真実に近づきたいだけなんです。僕の中のね」

==== 通路 ====

   辺りをうかがいながら進んでくる加持

   続く冬月

加持「――それに、アダムのサンプルを碇司令に横流ししたのがバレそうなんでね。自己保身も兼ねとかないと……やばいんですよ。いろいろね」

**** Omit Scene ここから ****

==== ミサトのマンション ====

シンジ「ただいま……」

   静まり返った室内

   誰もいないリビング

   襖が半分開いたままのミサトの部屋

   襖が閉じているアスカの部屋

シンジ「……」

   自室に入り、着替え始める

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== ネルフ本部 第4隔離施設 ====

諜報部員「ご協力、ありがとうございました」

   銃とカードを差し出す諜報部員

ミサト「もういいの?」

諜報部員「はい、問題は解決しましたから」

ミサト「そう……」

   怪訝な顔で銃とカードを受け取るミサト

ミサト「彼は?」

諜報部員「……存じません」

   目を伏せるミサト

   出ていく諜報部員

   悲しげに眼を開くミサト

194: 2015/09/23(水) 22:48:49.86
==== 夕暮れ 新第三東京市内 ====

   壁面に据え付けられた巨大な換気ファン

   その前に立つ加持

加持「よう、遅かったじゃないか」

   銃声


==== 夜 ミサトのマンション ====

   自室で膝を抱えS-DATに聞き入っているシンジ

ミサト「ただいま……」

   ダイニングに入ってくるミサト

   冷蔵庫を開けビールを引き出すミサトの手

    :
    :

   ダイニング・テーブルに肘をつき、合わせた手を額に当て、祈るように電話を待っている風のミサト

ミサト「?」

   電話機の留守番電話に録音があることを示す赤いランプが明滅している

ミサト「……!」

   用件再生ボタンをおすミサトの震える指

加持「葛城、俺だ。多分この話を聞いている時は、君に多大な迷惑をかけた後だと思う。すまない。リッちゃんにもすまないと謝っておいてくれ」

   呆然と電話機を見つめるミサト

加持「あと、迷惑ついでに……俺の育てていた花がある。俺の代わりに水をやってくれると嬉しい。場所はシンジ君が知ってる」

加持「葛城……真実は君とともにある。迷わず進んでくれ。もし、もう一度会えることがあったら、8年前に言えなかった言葉を言うよ。……じゃ」

自動音声「午後、0時、2分、です」

   テーブルに突かれたミサトの両手

   ぱたぱたと落ちる水滴

ミサト「バカ……」

   とめどなく流れる涙

ミサト「あんた、ほんとにバカよ……」

   嗚咽するミサト

シンジ「……」

   シンジの部屋  イヤフォンをはずすシンジ

   ダイニングをのぞき、慌てて引っ込む

   声を上げて泣くミサト

   自室のベッドで枕をかぶってうずくまるシンジ

シンジ(語り)「その時僕は、ミサトさんから逃げることしかできなかった。他には何もできない、何も言えない子供なんだと、僕は分かった」

(第弐拾壱話 おわり)

195: 2015/09/30(水) 23:02:23.74
第弐拾弐話 「せめて、人間らしく」

==== 夜 太平洋上 ====

  空母の飛行甲板に寝転んで星空を見上げているアスカと加持

(中略)

アスカ「――ちぇー! 加持さんともしばらくお別れか。つまんないの。ブー!」

加持「日本に着けば新しいボーイフレンドもいっぱいできるさ。サードチルドレンは男の子だって話だぞ」

アスカ「あーあ、バカなガキに興味はないわ」

   ごろごろと転がって隣の加持に抱き着き、馬乗りになるアスカ

アスカ「私が好きなのは加持さんだけよ」

加持「……そいつは光栄だな」

   興味無さそうに上を見上げたままの加持

アスカ「もう! 加持先輩だったら、いつだってOKの3連呼よ。キスだって、その先だって!」

加持「アスカはまだ子供だからな。そういうことはもう少し大人になってからだ」

アスカ「えー、つまんなーい! 私はもう十分大人よ!」

   自分の襟元を両手でつかんで胸元を加持に見せつけるアスカ

アスカ「もう大人よ!」

   リフレインされるセリフ

   さまざまな場面がフラッシュバックされる

幼いアスカ「だから私を見て!」

   :
   :


==== ネルフ本部 実験場 ====

   窓の向こうには半ばL.C.L.に浸かったテストプラグ

リツコ「聞こえる? アスカ。シンクロ率、8も低下よ。いつも通り、余計な事は考えずに」

アスカ『やってるわよ!』

   シンクロ率を表すモニタ表示

マヤ「……最近のアスカのシンクロ率、下がる一方ですね」

リツコ「困ったわね、この余裕のない時に……やはりレイの零号機を優先させましょう。今は同時に修理できるだけのゆとりはないわ」

(中略)

==== 初号機ケージ ====

   初号機を見上げているミサト

ミサト(あのアダムより生まれしもの、エヴァシリーズ……セカンドインパクトを引き起こした原因たるものまで流用しなければ、私たちは使徒に勝てない)

ミサト(逆に生きるためには、自分たちを滅ぼそうとしたものをも利用する……それが人間なのね……)

ミサト「やはり私はエヴァを憎んでいるのかもしれない。父の仇か……」

マコト「葛城さん!」

   :
   :

196: 2015/09/30(水) 23:07:24.23
==== 夕刻 ジオフロント ====

   灯りが灯った遊歩道の一角

   背後の森の向こうではピラミッド型の本部施設の再建が進む

ミサト「――エヴァ13号機までの建造開始? 世界7個所で?」

マコト「上海経由の情報です。ソースに信頼は置けます」

ミサト「なぜこの時期に量産を急ぐの?」

マコト「エヴァを過去に2機失い、現在は22機も大破ですから。第二次整備に向けて予備戦力の増強を急いでいるのでは?」

ミサト「どうかしら……ここにしてもドイツで建造中の5、6号機のパーツを廻してもらってるのよ。最近、ずいぶんと金が動いてるわね……」

(中略)

==== 夕暮れ 駅のホーム ====

アスカ「……」

   携帯電話を耳に当てているアスカ  学校の制服姿

自動音声『おかけになった電話番号は、お客様の都合により、現在使われておりません』

アスカ「変ね……やっぱりつながらない。またどっかに行っちゃったのかな……」

   通話を切るアスカ

*   マンションで聞いた加持の留守電を思い出すアスカ

*アスカ「……」

*   眉をひそめるアスカ

女性アナウンス『まもなく2番線に電車がまいります。危ないですから白線の内側に下がってお待ちください――」

アスカ「……!」

   向かいのホームを振り返り、はっとするアスカ

   ベンチに腰かけているレイと、傍らに立つシンジの後姿

アスカ「……」

   シンジが何か盛んにレイに話かけている

   アスカの表情が険しくなる

アスカ「……こないだまで1か月もエヴァに溶け込んでたくせに……何よ、すっかり元のサヤにおさまっちゃってさ!」

   レイに話続けているシンジ

   何か楽しそうに目を細める

アスカ「どうせ私は負けたわよ……あんたなんかに!」

(中略)

==== 夜 ミサトのマンション 浴室 ====

   浴槽の栓を手にぶら下げ、湯船を眺めているアスカ

アスカ「――ミサトもイヤ。シンジもイヤ。ファーストはもっとイヤ!」

   揺れる水面を見ているアスカ

アスカ「パパもイヤ。ママもイヤ」

   腹部を押さえ身を折るアスカ

アスカ「でも!……自分が一番イヤ!!」

   蹴とばした洗面器が脱衣所のドアに当たって跳ね返る

アスカ『もうイヤ! 我慢できない!!』

   自室でアスカの叫びを聞いているミサト  厳しい表情

アスカ『何で私が! 私がああああああぁっ!!』

   :
   :

197: 2015/09/30(水) 23:10:11.31
==== 翌日 ネルフ本部 実験場 ====

マヤ「シンクログラフ、マイナス12.8。起動指数ギリギリです」

リツコ「ひどいものね。昨日より更に落ちてるじゃない」

ミサト「アスカ、今日調子悪いのよ。2日目だし――」

リツコ「シンクロ率は表層的な身体の不調に左右されないわ。問題は、もっと深層意識にあるのよ」

   険しい表情でモニタを見るリツコ

リツコ(弐号機のコア、変更もやむなしかしらね……)

リツコ「アスカ、上がっていいわ」

(中略)

==== ネルフ本部 エレベーター前 ====

   エレベーターを待っているアスカ

女性オペ『第七環状ルートは現在事故のため閉鎖中です。迂回ルートは12号線を利用してください――』

チン…ガラガラガラ……

   開く扉

アスカ「!」

   不機嫌そうに肩をいからせて乗り込むアスカ

   閉まる扉

==== エレベーター内 ====

レイ「……」

アスカ「……」

   ドア付近、ドアの方を向いて立つレイ

   奥の壁に腕を組んで不機嫌そうに壁にもたれているアスカ

   エレベーターの作動音だけが聞こえる

レイ「――心を開かなければ、エヴァは動かないわ」

アスカ「心を閉ざしてるってえの? この私が!」

レイ「そう。エヴァには心がある」

アスカ「あの人形に?」

   あざけるように笑うアスカ

レイ「分かってるはずよ」

アスカ「はん! あんたから話かけてくるなんて、明日は雪かしらね!?」

レイ「……」

アスカ「何よ、私がエヴァに乗れないのが、そんなに嬉しい? 心配しなくっても、使徒が攻めてきたら無敵のシンジ様がやっつけてくれるわよ! 私たちは何にもしなくていいのよ、シンジだけがいればいいのよ!」

レイ「……」

アスカ「あーあ、シンジだけじゃなく、機械人形みたいなあんたにまで同情されるとは、この私も焼きが回ったわねー!」

レイ「私は人形じゃない」

アスカ「うるさい! 人に言われたまま動くくせに! あんた碇司令が[ピーーー]と言ったら氏ぬんでしょ!?」

レイ「そうよ」

アスカ「くっ!……」

   頬を叩く乾いた音

198: 2015/09/30(水) 23:12:50.44
==== エレベーター前 ====

   開く扉 あとずさりに降りてくるアスカ

アスカ「やっぱり人形じゃない! あんたって人形みたいで、ほんと昔っから大っ嫌いなのよ!」

レイ「……」

   左頬が腫れているレイ

アスカ「みんな、みんな、大っ嫌い!」

   閉じる扉

   足音高く歩み去るアスカ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 午後 レイのマンション ====

   ベッドの上に足を崩して座っているレイ   寝間着代わりのワイシャツ姿  

   レイの頬に濡れたタオルのようなものを当てるシンジの手

   少し顔をしかめるレイ

シンジ「あ、ごめん」

レイ「ううん」

   シンジの手の上からタオルを押さえるレイの手

   そっと手を引き抜くシンジ

   レイに向かい合って足を崩して座っている  Tシャツ姿

シンジ「……命令なら氏ぬの?  本当に?」

レイ「命令なら、そうする」

   床の方を見ながら言うレイ

シンジ「でも――」

レイ「そうしなければ、他の人たちが氏ぬもの」

シンジ「え?」

レイ「私たちにしか、できないことだもの」

シンジ「そっか……そうだよね」

レイ「……」

   まだ床の方を見ているレイ

   その横顔を見ているシンジ

レイ「……ごめんなさい」

シンジ「え?」

レイ「私、思い切り叩いたもの」

   きょとんとするシンジ

シンジ「あ……あの時のこと?」

   ネルフ本部のエスカレーター上

   振り向きざまにシンジの頬を張るレイ

シンジ「仕方ないよ……綾波は、父さんしか頼る人いないの、知らなかったし」

   シンジの頬に手を伸ばすレイ

レイ「……痛かった?」

   表情を曇らせてシンジの目を見るレイ


199: 2015/09/30(水) 23:16:39.37
シンジ「う、うん。まあね」

   苦笑するシンジ

シンジ「――ねえ、さっきみたいに言えば、わかってくれたんじゃないかな、アスカも」

   気を取り直したように言うシンジ

レイ「……うまく言えなかった」

シンジ「うん……」

レイ「……」

   頬にタオルを当てているレイの手の甲を包むように触れるシンジ

   目を閉じ、顔をシンジの手に預けるように少し傾けるレイ

シンジ「……」

   アスカの荒れた様子を思い出すシンジ

シンジ「それとも……やっぱり聞いてくれなかったかな……」

レイ「……」

   シンジを見るレイ

   浮かない表情のシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****


==== 夜 シンジの部屋 ====

シンジ「……」

   ベッドに仰向けになって天井の灯具を見上げているシンジ


==== 翌朝 第壱中学校 教室 ====

ケンスケ「――シンジ、今日も来ないな。綾波はいつもの事として」

ヒカリ「アスカも来ない。鈴原もまだ退院できないし……」

   生徒の数もまばらな教室内

ケンスケ「学校どころじゃないんだな、今や」

(中略)

==== 翌日 新第参東京市 市街地 ====

   低く垂れこめる雨雲

   降りしきる雨

   上空から斜めに射し込む光条に包み込まれている弐号機

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「いやあああああ!」

   頭を抱えるアスカ

アスカ「私の、私の中に入ってこないでええええぇ!」

200: 2015/09/30(水) 23:19:02.15
正誤表

>>197
saga忘れ 
× アスカ「うるさい! 人に言われたまま動くくせに! あんた碇司令が[ピーーー]と言ったら氏ぬんでしょ!?」
○ アスカ「うるさい! 人に言われたまま動くくせに! あんた碇司令が氏ねと言ったら氏ぬんでしょ!?」
さらにsage忘れ

201: 2015/09/30(水) 23:20:37.49
(中略)

==== 市街地  ====

   ライフルを構える零号機

男性オペ『――薬室内、圧力最大』

マコト『最終安全装置、解除!』

女性オペ『解除、確認』

マコト『すべて、発射位置!』

   HMDをかぶっているレイ

レイ「くっ!」

   ライフルを発射する零号機

   雲を貫いて宇宙空間に達するビーム

   使徒が展開したA.T.フィールドに阻まれ四散する

==== 発令所 ====

シゲル「ダメです。この遠距離でA.T.フィールドを貫くには、エネルギーがまるで足りません!」

マコト「しかし、出力は最大です! もう、これ以上は……」

マヤ「弐号機、心理グラフ、シグナル微弱!」

リツコ「L.C.L.の精神防壁は?」

マヤ「だめです。触媒の効果もありません!」

リツコ「生命維持を最優先。エヴァからの逆流を防いで!」

マヤ「はい!」

リツコ(この光はまるでアスカの精神波長を探っているみたいだわ……まさか、使徒は人の心を知ろうとしているの!?)

(中略)

==== 夜の街 (アスカの心の中) ====

   人並みに逆らって進もうともがくアスカ  プラグスーツ姿

アスカ「助けて!助けて、加持さん!」

   ミサトのマンションの廊下

   加持の腕にまとわりついていたアスカ

   顔を曇らせ手を放す

加持『――アスカはまだ子供だからな』

アスカ「!」

   加持の腕の中に隠れるように立つシンジ

   目を見開くアスカ

アスカ「なんでアンタがそこにいるのよ!」

   荒々しく襖を閉めるアスカ

アスカ「何もしない……私を助けてくれない! 抱きしめてもくれないくせに!!」

   クレヨンで書きなぐられた絵

   子どもの絵のようだが凄惨な絵柄

アスカ「誰も! 誰も! 誰も!……だから私を見て!」

   :
   :

202: 2015/09/30(水) 23:22:47.52
(中略)

==== 弐号機 プラグ内 ====

   頭を抱えてインテリアシート上にうずくまるアスカ

アスカ「……汚された……私の心が……」

アスカ「加持さん! ……汚されちゃった……どうしよう……汚されちゃったよう……」

   光を失う弐号機の目

==== 発令所 ====

(中略)

シンジ『僕が初号機で出ます!』

冬月「いかん! 目標はパイロットの精神を侵蝕するタイプだ!」

ゲンドウ「今、初号機を侵蝕される事態は、避けねばならん」

シンジ『だったら、やられなきゃいいんでしょう!?』

ゲンドウ「その保証はない」

シンジ『でも、このままじゃアスカが!』

ゲンドウ「構わん。レイ、ドグマを降りて、槍を使え」

*==== 零号機プラグ内 ====

*   驚いた顔のレイ

*ゲンドウ『……聞こえたか、レイ』

*レイ「……はい」

*==== 発令所 ====

冬月「ロンギヌスの槍をか! 碇、それは――」

ゲンドウ「A.T.フィールドの届かぬ衛星軌道の目標を倒すには、それしかない。急げ!」

(中略)

女性オペ『セントラルドグマ10番から15番までを開放。第6マルボルジェ、零号機、通過。続いて、16番から20番、開放』

   メインシャフトをワイヤにつかまり降下していく零号機

*   零号機プラグ内

*   下方の闇に目を凝らすレイ

==== セントラルドグマ ====

   ワイヤを空中で放し、残りの距離を落下して降り立つ零号機

==== 発令所 ====

女性オペ『エヴァ零号機、セントラルドグマ最下層へ到達――』

冬月「碇、まだ早いのではないか?」

ゲンドウ「委員会はエヴァシリーズの量産に着手した。チャンスだ、冬月」

冬月「しかし、だが……」

ゲンドウ「時計の針は元には戻らない。だが、自らの手で進めることはできる」

   L.C.L.だまりに腰まで浸かりながら進む零号機

冬月「老人たちが黙っていないぞ!」

ゲンドウ「ゼーレが動く前にすべて済まさねばならん」

   リリスの胸に刺さったロンギヌスの槍の柄を両手でつかむ零号機

*   表情を引き締め前方を見ているレイ

   槍を引き抜く零号機

203: 2015/09/30(水) 23:25:01.96
ゲンドウ「今、弐号機を失うのは得策ではない」

冬月「かと言って、ロンギヌスの槍をゼーレの許可なく使うのは面倒だぞ」

   リリスの下半身が泡立つように膨張し、2本の脚が生える

*   レイ「……」

*   零号機プラグ内、呆然とリリスを見るレイ

ゲンドウ「理由は存在すればいい。それ以上の意味はないよ」

冬月「理由? おまえが欲しいのは、口実だろう?」

マコト『弐号機のパイロットの脳波、0.06に低下!」

マヤ『生命維持、限界点です!」

シゲル『零号機、2番を通過。地上に出ます!」

==== 地上 ====

   警報音とともに地下からリフトで斜めに上昇してくる零号機

*   プラグ内 上空を見上げているレイ

==== 発令所 ====

ミサト「あれがロンギヌスの槍……」

シゲル「零号機、投擲体制!」

マコト「目標確認、誤差修正よし!」

==== 地上  ====

   槍を両手で掴み掲げる零号機

マヤ『カウントダウン、入ります。10秒前――」

*   零号機プラグ内

*   インダクションレバーを握り、半身で上空を見上げているレイ

*   プラグ内壁モニタ上で小刻みに揺れている、使徒の位置を示すカーソル

   槍を引き絞るように後方に上体をひねる零号機

マヤ『8、7、6、5、4、3――』

   左脚を踏みしめる零号機

マヤ『2、1、ゼロ!』

   歯を食いしばるレイ

   2本に分かれた槍の先端が互いにまきつく様に捻じれる

   数歩踏み出し槍を雨雲に放つ零号機

   雨雲を薙ぎ払って宇宙空間へ駆けあがっていく槍

   使徒のA.T.フィールドに阻まれる槍

   捻じれた先端部に櫛の目のような模様が浮かび上がり、A.T.フィールドを突き破る

   弾けるように消える使徒

==== 発令所 ====

シゲル「目標、消滅!」

マヤ「エヴァ弐号機、開放されます」

冬月「ロンギヌスの槍は!?」

マコト「第一宇宙速度を突破。現在、月軌道に移行しています」

冬月「回収は不可能に近いな……」

マコト「はい。あの質量を持ち帰る手段は、今のところ、ありません」

ゲンドウ「……」

204: 2015/09/30(水) 23:30:10.33
==== 大気圏外 ====

   宇宙空間を回転しながら飛び去るロンギヌスの槍


(中略)

==== 数時間後 雨上がりの市街地 ====

   リフトで地下へ下降していく弐号機

   「CAUTION 立入禁止」と黒字でプリントされたオレンジ色のテープで非常線が張られている

   その奥、リフトの開口部の縁に膝をかかえて座り込んでいるアスカの後姿

   非常線の後方に立つシンジ

シンジ「……よかったね、アスカ」

アスカ「うるさいわね! ちっともよくないわよ!!」

   シンジに背を向けたまま叫ぶアスカ

アスカ「よりにもよって、あの女に助けられるなんて! あんな女に助けられるなんて……そんなことなら氏んだ方がマシだったわよ!」

シンジ「……」

アスカ「嫌い嫌い! みんな嫌い、大っ嫌い!」

*   後ろを気にするように、わずかに首を振り向かせるシンジ

*   シンジの後方の建物の陰

*レイ「……」

*   アスカから見えない位置で壁にもたれて俯いているレイ

(第弐拾弐話 おわり)

207: 2015/10/10(土) 11:51:31.29
第弐拾参話 「涙」

==== 夜 ミサトのマンション ミサトの部屋 ====

   薄暗い室内

   積み上げられたインスタント食品の容器、ビールの空き缶

   机の上の電話機から流れる加持のメッセージをきくミサト

(中略)

加持『――葛城、真実は君とともにある。迷わず進んでくれ。もし、もう一度会える事があったら、8年前に言えなかった言葉を言うよ。じゃ』

ミサト「鳴らない、電話、か……」

(中略)

==== 夜 ヒカリの家 ====

   テレビの前に座り込んでゲームに没頭するアスカ

   ベッドに腰掛け、その様子を見ているヒカリ

ヒカリ(学校にも行かず、家にも帰らず、ずっとゲームばっかり……)

(中略)

==== 夜 ジオフロント ネルフ本部 リツコの研究室 ====

リツコ「そう、いなくなったの、あの子」

リツコ「ええ、多分ね。ネコにだって寿命はあるわよ。もう泣かないで、おばあちゃん」

リツコ「うん、時間ができたら一度帰るわ。母さんの墓前にも、もう三年も立ってないし」

リツコ「今度私から電話するから。じゃ、切るわよ」

   電話を切るリツコ

リツコ「……そう、あの子が氏んだの……」

   猫の置物を見るリツコ

*リツコ「……」

*   姿勢を変え、机の上の書類を取り上げるリツコ

*リツコ「……」

*   リツコが見ている書類の上部

*   「サード・チルドレン行動」……と読める

**** Omit Scene ここから ****

==== 翌日 朝 ミサトのマンション リビング ====

   電話の呼び出し音

ミサト「……はい……ああ、リツコ――」

リツコ『シンジくんはいる?』

   視線を動かすミサト

   わずかに襖が開いているシンジの部屋

   気配がない

ミサト「もう出かけたわ」

リツコ『どこへ?』

ミサト「どこって……学校――」

リツコ『きょうは臨時休校のはずよ』

ミサト「……」

208: 2015/10/10(土) 11:53:38.75
リツコ『レイのところね』

ミサト「……」

==== レイのマンション ====

   椅子に腰かけ、チェロを奏でているシンジ 制服姿

   背筋を伸ばしてベッドに腰掛け、目を閉じて聴き入っているレイ 制服姿

==== ネルフ本部 リツコの研究室 ====

   受話器を肩で支え、手にした書類をめくるリツコ

リツコ「通いづめじゃない」

ミサト『……』

リツコ「あなた……いつから知ってたの?」

ミサト『私たちには、あの子達にとやかく言う権利は無いわ』

   ため息をつくリツコ

==== ミサトの部屋 ====

リツコ『しかたないわね……でも――』

ミサト「……」

リツコ『辛い思いをするのは、シンジくんよ』

ミサト「え?」

   切れる電話

   怪訝な顔で受話器を見るミサト

==== リツコの研究室 ====

   受話器を置くリツコ

   椅子の背もたれに体をあずけ、額に手をやる

==== レイの部屋 ====

   台所で洗い物をしているレイの後姿

   パッヘルベルのカノンの旋律を小さく口ずさんでいる

   ふと動きが止まり室内を振り返る

   部屋の中ほどに置かれた折り畳みテーブル

   その前のクッションに座ったまま眠りかけ船をこいでいるシンジ

   その様子を見ているレイ

     :
     :

   目をぼんやりと開けるシンジ

   明るくなる視界

   次第に焦点が合う

   こちらを見下ろしているレイ

シンジ「綾波……」

   レイに膝枕をされていることに気付く

シンジ「ごめん……僕……」

レイ「いいの」

シンジ「……ありがとう」

   安心したように微笑むシンジ

   シンジの顔を覗き込みわずかに微笑むレイ

209: 2015/10/10(土) 11:54:48.39
レイ「碇くん」

シンジ「何?」

レイ「私、主婦が似合うの?」

シンジ「え?」

レイ「前にそう言ったわ」

シンジ「あ……そうだったね」

   はにかむシンジ

レイ「なら、そうしたい」

シンジ「え?」

レイ「主婦になりたい」

シンジ「い……いいと思うけど……でも……」

   天井を見るシンジ

シンジ「綾波、頭いいし……もっと、普通の人にはできないような仕事だって――」

   首を振るレイ

レイ「普通がいい。人と違うことは、もう一生分やったもの」

   レイの顔を見上げているシンジ

   顔を上げ、室内を見るレイ

レイ「掃除をして、洗濯をして――」

シンジ「……」

レイ「買い物をして、晩ごはんをつくって――」

シンジ「……」

レイ「待っている。碇くんが、帰ってくるのを」

シンジ「えっ?」

   驚くシンジ

シンジ「僕?」

   シンジを見下ろすレイ

レイ「誰のことだと思ったの?」

シンジ「でも……綾波は……それでいいの?」

レイ「他に考えたこと、ないもの」

   シンジの前髪を少しかきわけてみるレイ

   見上げるシンジ

   見下ろしているレイ

   レイの後姿  背中が少し丸まり、シンジが少し身を起こす

   互いの顔が重なる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== 闇の中 ====

ゼーレ「ロンギヌスの槍……回収はわれらの手では不可能だよ」

ゼーレ「なぜ使用した!?」

ゼーレ「エヴァシリーズ。まだ予定には揃っていないのだぞ」

ゲンドウ「使徒殲滅を優先させました。やむを得ない事情です」

ゼーレ(モノリス)「やむを得ないか……言い訳にはもっと説得力を持たせたまえ!」

210: 2015/10/10(土) 11:57:26.23
モノリス「最近の君の行動には、目に余るものがあるな」

   電話の呼び出し音  受話器をとるゲンドウ

ゲンドウ「冬月、審議中だぞ」

   聞き入るゲンドウ

ゲンドウ「……分かった」

   受話器を置くゲンドウ

ゲンドウ「使徒が現在接近中です。続きはまた後ほど」

モノリス「その時君の席が残っていたらな」

   消えるゲンドウの映像

   闇の中に取り残されるモノリス群

モノリス01「碇……ゼーレを裏切る気か?」

**** Omit Scene ここから ****

==== レイのマンション ====

   折り畳みテーブル

   視界の端、床の上に衣類が少し見える

   テーブルの上の二つの携帯電話が同時に鳴り出す

   聞こえてくる声

シンジ「綾波……綾波!」

レイ「ん……」

   鳴りつづける呼び出し音

   跳ね起きる音

**** Omit Scene ここまで ****

==== 昼 地上 ====

   疾走するミサトの車の中

ミサト「あと15分でそっちに着くわ。零号機を32番から地上に射出、弐号機はバックアップに廻して……そう、初号機は碇司令の指示に。私の権限じゃ凍結解除はできないわよ。じゃあ」

   電話を切るミサト

   窓外、流れ去る木立のむこう  青空に浮かぶ、輝くリング状の物体

ミサト「使徒を肉眼で確認……か……」

==== ネルフ本部 カタパルト ====

   射出される零号機

==== 発令所 ====

女性オペ『零号機発進、迎撃位置へ!』

マコト「弐号機は現在位置で待機を!」

ゲンドウ「いや、発進だ」

   驚いて振り向くマコトとシゲル

マコト「司令!」

ゲンドウ「構わん、囮くらいには役に立つ」

マコト「はい……」

(中略)

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「……」

シゲル『目標は、大涌谷上空にて滞空。定点回転を続けています』

211: 2015/10/10(土) 11:58:21.46
==== 発令所 ====

マコト「目標のA.T.フィールドは依然健在」

   駆け込んでくるミサト

リツコ「何やってたの?」

ミサト「言い訳はしないわ、状況は!?」

シゲル「膠着状態が続いています」

*ミサト「初号機は?」

*リツコ「4番ケージで待機中よ。凍結はまだ解除されてないわ」

*ミサト「そう……」

**** Omit Scene ここから ****

==== 初号機プラグ内 ====

   シートに付きインダクションレバーを握るシンジ

シンジ(くそ……)

シンジ(前はあんなに戦うのがイヤだったのに……待つのがこんなにつらいなんて)

   目を閉じるシンジ

シンジ(また僕だけこんなところで手をこまねいているだけなのか)

   モニタウインドウに映し出されている地上の零号機の映像

シンジ(これでもし、あのときのアスカみたいに、綾波に何かあったら)

シンジ(あったら……僕は……)

**** Omit Scene ここまで ****

==== 発令所 ====

マコト「パターン青からオレンジへ、周期的に変化しています!」

ミサト「どういう事?」

マヤ「マギは回答不能を提示しています!」

シゲル「答えを導くには、データ不足ですね」

リツコ「ただあの形が固定形態でない事は確かだわ」

ミサト「先に手は出せないか……」

==== 零号機プラグ内 ====

   モニタを睨んでいるレイ

ミサト『レイ、しばらく様子を見るわよ』

レイ「いえ、来るわ!」

   輪をほどき零号機に向かって伸びる使徒

==== 発令所 ====

ミサト「レイ、応戦して!」

マコト「だめです、間に合いません!」

==== 地上 ====

   零号機のA.T.フィールドをやすやすと突き抜けて零号機の腹部に突き刺さる使徒の先端

レイ「くっ……」

   使徒の胴体を左手でつかみ右手でライフルを撃ち込む零号機

   零号機の腹部と左手の接触部の表面に植物の根のような隆起が伸びていく

212: 2015/10/10(土) 12:00:16.09
==== 発令所 ====

シゲル「目標、零号機と物理的接触!」

ミサト「零号機のA.T.フィールドは?」

マヤ「展開中、しかし、使徒に侵蝕されています!」

リツコ「使徒が積極的に一次的接触を試みているの? 零号機と!」

   山の斜面に背中から倒れこむ零号機

*==== 初号機プラグ内 ====

*シンジ「綾波!!」


==== 零号機プラグ内 ====

   レイの腹部にも隆起が広がっていく

==== 発令所 ====

マヤ「危険です! 零号機の生体部品が侵されて行きます!」

ミサト「エヴァ弐号機、発進、レイの救出と援護をさせて!」

==== カタパルト ====

   射出される弐号機

==== 地上 ====

   さらに使徒に押され倒れこむ零号機

==== 零号機プラグ内 ====

マヤ『目標、さらに侵蝕!』

レイ「……」

   顔をしかめてモニタを見ているレイ

==== 発令所 ====

リツコ「危険ね、すでに5%以上が生体融合されているわ」

==== 地上 ====

   22番ゲートが開き弐号機の機体が現れる

ミサト「アスカ、あと300接近したら、A.T.フィールド最大でパレットガンを目標後部に撃ち込んで! いいわね?」

   兵装ビルから現れるパレットガン

ミサト「エヴァ弐号機、リフトオフ!」

   立ったまま動かない弐号機

ミサト「出撃よ、アスカ、どうしたの? ……弐号機は!?」

マヤ「だめです、シンクロ率が二桁を切ってます!」

ミサト「アスカ!」

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「動かない……動かないのよ……」

==== 発令所 ====

ミサト「このままじゃ餌食にされるわ。戻して、早く!」

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== 初号機ケージ ====

シンジ「父さん!!」

   インダクションレバーをもどかしげに動かすシンジ

シンジ「僕を出して! 今すぐ僕を出してよ!!」

213: 2015/10/10(土) 12:00:48.50
==== 発令所 ====

ミサト「司令!!」

ゲンドウ「……」

**** Omit Scene ここまで ****

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「……」ハァ…ハァ…

   身をのけぞらせて抵抗するレイ

   暗転する光景
   
レイ「誰? 私……エヴァの中の私」

レイ「いいえ、私以外の誰かを感じる……あなた、誰?」

   オレンジ色の水面、赤い空

   立った姿勢で浮かんでいるレイ

レイ「使徒? 私たちが使徒と呼んでいる人?」

   レイの前、赤い海に半ば浸かって立つ、もう一人のレイ

もう一人のレイ(使徒)『私と一つにならない?』

レイ「いいえ、私は私。あなたじゃないわ」

使徒『そう……でもだめ。もう遅いわ』

   レイの体に浮かび上がる根のような隆起

使徒『私の心をあなたにも分けてあげる。この気持ち、あなたにも分けてあげる』

   顔を上げるもう一人のレイ  微笑んでいる

使徒『痛いでしょう? ほら、心が痛いでしょう?』

レイ「痛い……いえ、違うわ……サビシイ……そう、寂しいのね……」

使徒『サビシイ? わからないわ』

レイ「一人が嫌なんでしょ? 私たちはたくさんいるのに、一人でいるのが嫌なんでしょ? それを、寂しい、というの」

使徒『それはあなたの心よ。悲しみに満ち満ちている。あなた自身の心よ』

レイ「……」

*使徒『気付いていたはずよ。あの時から』

*レイ「!」

*   セントラルドグマ

*   オレンジ色の光を浴びて何かを呆然と見上げているレイ

*   笑う使徒

*使徒『あなたはもう、知っているもの。否定することも、逃れることもできないことを』

*   さまざまな場面のシンジの笑顔

*   にじんで白い光に溶ける

   レイのプラグスーツの太腿にぽたぽたと落ちる水滴

   それを掌でうけるレイ

レイ「これが……涙……? 泣いているのは、私?」

==== 地上 ====

   零号機の背中が隆起し、様々な使徒のような形に膨れ上がる

*==== 初号機プラグ内 ====

*シンジ「綾波!」

214: 2015/10/10(土) 12:02:04.26
==== 発令所 ====

ミサト「レイ!」

ゲンドウ「初号機の凍結を現時刻をもって解除。直ちに出撃させろ」

ミサト「え?」

ゲンドウ「出撃だ」

ミサト「はい!」

*==== 初号機ケージ ====

*ミサト『シンジくん、聞こえたわね!?』

*==== 初号機プラグ内 ====

*ミサト『行くわよ!』

*シンジ「はい!!」

==== カタパルト ====

   射出される初号機

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「何よ、私の時は出さなかったくせに……」

==== 地上 初号機プラグ内 ====

ミサト『A.T.フィールド展開、レイの救出急いで!』

シンジ「はい!」

*==== 初号機プラグ内 ====

*インダクションバーを握るシンジの手

*シンジ(待ってろよ、綾波。今行くから!)

==== 地上 ====

   A.T.フィールドを展開する初号機

   それに反応し襲い掛かる使徒の先端

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「碇くん!」

==== 地上 ====

   ムチのように初号機に襲い掛かる使徒の先端部

シンジ「うっ!」

   身をかわす初号機

   砕けるパレットガン

   両手で使徒を掴む初号機

   使徒を掴んだ初号機の腕に「根」が広がる

シンジ「!」

   シンジの手にも「根」が広がる

ミサト『シンジ君、プログナイフで応戦して!』

*シンジ「はい!」

   プログレッシヴナイフを使徒に突き立てる初号機

使徒『グアアアアアアアアアアアア』

シンジ「!」

   シンジの手に多数の小さな顔が浮かび上がる

215: 2015/10/10(土) 12:03:34.40
レイの声『痛い……痛いの、碇くん……』

*シンジ「綾波!?」

   レイの裸身の形に変化する使徒の先端

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「これは……私の心? 碇くんといっしょになりたい?」

==== 地上 ====

   レイの姿をした使徒の先端が初号機に迫る

*   ナイフを向ける初号機

*   耳にこだまするレイの笑い声

*   ためらうシンジ

*シンジ(ダメだ! やらなきゃ僕も綾波もやられる!)

*   近づく使徒

*シンジ(やるんだ!)

*   使徒の体を縦に引き裂くナイフ

*使徒『きゃああああああ!!』

*   のけぞる使徒   響き渡るレイの悲鳴

*シンジ「綾波!!」

*   使徒の体が分岐し新たなレイの姿の先端が初号機に向かってくる   

   初号機の頭部にまとわりつく使徒

   されるままの初号機

*   初号機の頭部の側面に侵食が広がる

*シンジ「ぐっ!」

*   プラグ内、シンジの片頬に根のような隆起が現れる

*シンジ「ううっ……綾波……」

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「だめ!」

   歯を食いしばり身を縮めるレイ

==== 発令所 ====

マヤ「ATフィールド反転、一気に侵食されます」

リツコ「使徒を押え込むつもり?」

==== 地上 ====

   零号機に引きずり込まれていく使徒

レイの声『きゃっ!』

   レイの形をした先端部が初号機からはがれ、零号機に引き戻されていく

   膨張する零号機のコア

==== 発令所 ====

マヤ「フィールド限界。これ以上はコアを維持できません!」

ミサト「レイ、機体は捨てて逃げて!」

==== 零号機プラグ内 ====

   明滅するモニタ

レイ「だめ。私がいなくなったら、A.T.フィールドが消えてしまう」

   シート座面のスイッチを操作するレイ

216: 2015/10/10(土) 12:04:43.87
レイ「だから、だめ」

   レバーを引くレイ

   シート後部のディスクが高速回転しMODE-Dの文字が浮かび上がる

==== 発令所 ===

ミサト「レイ、氏ぬ気?」

*ミサト「エントリープラグを強制射出!」

*マヤ「ダメです! 反応しません!」

*ミサト「そんな……」

==== 地上 ====

   零号機の膨張したコアが陥没していく

==== 発令所 ====

マヤ「コアが潰れます。臨界突破!」

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「!」

   振り返るレイ

   光りの中、ゲンドウが微笑んでいる

レイ「……」

*レイ(碇司令?)

   見開かれる瞳   頬を伝う涙

*レイ(碇くんも……髭を伸ばすのかしら……)

==== 地上 ====

   中空に手を伸ばす零号機

   天使の輪を帯びて立ち上がる

   レイの姿に変化する

   閃光――

*==== 初号機プラグ内 ====

*シンジ「えっ!?」

==== 新第三東京市 遠望 ====

   大爆発

   吹き飛ぶ市街地

==== 発令所 ====

   白い光に埋め尽くされた主モニター

   呆然と見上げるミサトたち

==== 炎の中 ====

   立ち尽くす初号機

*シンジ「綾……波……?」

   呆然とモニタを見つめるシンジ

217: 2015/10/10(土) 12:06:34.72
==== 発令所 ====

シゲル「目標、消失……」

ミサト「現時刻をもって作戦を終了します……第一種警戒態勢へ移行」

マコト「了解。状況イ工口ーへ速やかに移行」

ミサト「零号機は? 」

マヤ「エントリープラグの射出は、確認されていません…… 」

ミサト「生存者の救出、急いで!」

リツコ「もしいたら、の話ね」

ミサト「くっ!」

   激しくリツコの方を振り返るミサト

   顔をそむけているリツコ

リツコ「……」

(第弐拾参話 涙 Aパート おわり)

218: 2015/10/11(日) 14:47:50.62
第弐拾参話 「涙」 Bパート

==== 芦ノ湖畔 零号機爆発クレーター ====

   芦ノ湖の湖水が瀑布となって流れ込んでいる

   遊弋するVTOL群

==== とある山中 ====

男性オペ『第16使徒の構成物質はいまだ発見できず。現在探索作業を続行中――』

女性オペ『零号機のパーツは損傷が激しく、回収は困難です――』

   オレンジ色の「立入禁止」の標識が掲げられた非常線

   変形し中央付近に亀裂が入ったエントリープラグが横たわっている

   取り巻くオレンジ色の防護服の人物たち

防護服の男「赤木博士……」

   裂け目からプラグの闇を覗き込んでいる防護服の人物

リツコ(防護服)「この事は極秘とします。プラグは回収、関係部品は処分して」

   立ち上がるリツコ

男「了解」

男「作業、急げ!」

(中略)

==== ミサトのマンション シンジの部屋 ====

   ベッドに横になって天井を見上げているシンジ

   S-DATの音楽が流れているがヘッドフォンはベッドに転がったまま

ミサト「シンジ君、開けるわよ」

   襖が開きミサトのシルエットが床に落ちる

   シンジの隣に腰を下ろすミサト

*シンジ「綾波は……」

*ミサト「……まだ連絡はないわ」

*シンジ「この前の……自爆の時とは違う……」

*ミサト「……え?」

   シンジの顔を見るミサト

   天井を見ているシンジ

*シンジ「この目で見た……A.T.フィールドの内側で……使徒といっしょに吹っ飛んだんだ」

*ミサト「……」

*シンジ「氏んだのかな……綾波……」

*   レイが微笑みを見せたいくつかの場面

*ミサト「……」

*   諜報部の報告書の束

*   「サードチルドレン行動」……との標題が読める

*ミサト「……」

*   正面に向き直るミサト

シンジ「ミサトさん……出ないんだ、涙。悲しいと思ってるのに、出ないんだよ、涙が……」

ミサト「シンジ君……今の私にできるのは、このくらいしかないわ……」

   シンジの手に、自分の手を伸ばすミサト

219: 2015/10/11(日) 14:49:23.42
シンジ「やめてよ!」

   寝返りを打ってミサトから離れる

シンジ「やめてよ、ミサトさん……」

   うずくまるシンジ

ミサト「ごめんなさい……」

   立ち上がる音  去っていく足音  閉じる襖

(中略)

==== セントラルドグマ ====

   空っぽのガラスの円柱  天井に続くヒトの脊髄と脳を思われる複雑な配管

   見上げているゲンドウ

   隣に佇む冬月

冬月「レイか……彼女は俺の絶望の産物であり、いまだお前の希望の依り代でもある」

ゲンドウ「……」

冬月「やはり忘れる方が無理というものか……」

==== 朝 ミサトのマンション ミサトの部屋 ====

   鳴り響く電話の呼び出し音

   机に突っ伏していたミサト

ミサト「はい……もしもし……」

   身を起こすミサト

ミサト「なんですって!?」

==== シンジの部屋 ====

   学生服姿でベッドに横たわっているシンジ

ミサト「シンジ君!」

==== ネルフ中央総合病院 第1脳神経外科 ====

女性アナ「第一内科のウガイ先生、ウガイ先生、至急、第二会議室へご連絡ください――」

   廊下

   窓に手をやり外を見ているレイ

   入院着  右腕を三角巾で吊っている

   走ってくる足音

シンジ「綾波!」

   振り向くレイ 額にまかれた包帯 右目には眼帯

*シンジ「……」ハァ…ハァ…

*   立ち止まり肩で息をしているシンジ  驚いた顔

*   後方に立っているミサト

*レイ「……」

*シンジ「綾波……」

*   笑顔になるシンジ

*   笑顔がゆがみ、嗚咽し始める

*シンジ「うっ……うぐっ……」

*   涙をぬぐうシンジ

*   シンジに並び、肩を支えるミサト

*レイ「……」

*   無表情にその様子を見ているレイ

220: 2015/10/11(日) 14:51:17.04
==== 廊下 ====

   長椅子に座っているレイ  制服姿に変っているが包帯はそのまま

   壁にもたれているシンジ  制服姿

シンジ「良かった……綾波が無事で……」

レイ「……」

シンジ「あの、父さんは来てないんだ……」

レイ「……」

シンジ「ありがとう、助けてくれて」

レイ「何が?」

   レイを見るシンジ

シンジ「何がって……零号機を捨ててまで助けてくれたんじゃないか、綾波が」

レイ「そう、あなたを助けたの……」

シンジ「うん……覚えてないの?」

レイ「いいえ、知らないの」

シンジ「……」

レイ「多分……私は三人目だと思うから」

*シンジ「……三人目?」

*レイ「……」

*シンジ「三人目って……どういうこと?」

*マヤ「レイ」

*   振り返るシンジとレイ

*マヤ「お待たせ。行きましょう」

*   立ち上がるレイ

*シンジ「えっ……」

*マヤ「ごめんなさい、シンジくん。ちょっと、手続きがあるから」

*   少し後ろめたそうに言うマヤ

*シンジ「え?」

*   歩き出すマヤ   ついていくレイ

*シンジ「綾波! 待っ……」

*   歩み去るマヤとレイ

*   怪訝な顔で見送るシンジ

==== レイのマンション ====

   包帯をほどき鏡の前に立つレイ

   何の傷跡もない

   部屋を見回すレイ

   チェストに歩み寄りゲンドウのメガネを冷たく見下ろし、握り締める

   軋むメガネ

   レンズに滴る水滴   

レイ(これが……涙? 初めて見たはずなのに、初めてじゃないような気がする)

レイ「私、泣いてるの? ……なぜ、泣いてるの?」

   :
   :

221: 2015/10/11(日) 14:53:19.00
(中略)

==== 夕方 ミサトのマンション リビング ===

   電話の呼び出し音

シンジ「――はい、もしもし?」

リツコ『そのまま聞いて。あなたのガードを解いたわ。今なら外に出られるわよ』

シンジ「……リツコさん?」

==== ネルフ本部 立入禁止区域 ターミナルドグマ レベル1 セクター2 ====

   何か入力しカードリーダーにIDカードを通すリツコ

   エラー表示

リツコ「……ん?」

ミサト「無駄よ」

   銃が突き付けられる音

リツコ「!」

ミサト「私のパスがないとね」

   リツコの背中に押し当てられた銃口

リツコ「そう……加持くんの仕業ね」

ミサト「ここの秘密、この目で見せてもらうわよ」

リツコ「いいわ。ただしこの子も一緒にね」

   灯る照明  リツコの横に佇み不安げにこちらを見ているシンジ

シンジ「……」

   銃口を少し下げるミサト

ミサト「……いいわ」

==== 旧・人工進化研究所 3号分室 ====

   殺風景なコンクリート張りの一室

シンジ「まるで綾波の部屋だ……」

リツコ「綾波レイの部屋よ。彼女の生まれ育ったところ」

シンジ「ここが?」

リツコ「そう、生まれたところよ」

リツコ「レイの深層心理を構成する光と水は、ここのイメージが強く残っているのね」

*シンジ(綾波……)

ミサト「赤木博士? 私はこれを見に来たわけじゃないのよ」

リツコ「分かっているわ、ミサト」

==== 廃棄物置き場 ====

   広大なフロア

   円形や四角形のピットに巨大な人体骨格のようなものが無造作に投げ込まれている

   それを見下ろすデッキに佇むリツコ、ミサト、シンジ

シンジ「エヴァ?」

リツコ「最初のね。失敗作よ。10年前に破棄されたわ」

シンジ「エヴァの墓場……」

リツコ「ただのゴミ捨て場よ。あなたのお母さんが消えたところでもあるわ。覚えてないかもしれないけど、あなたも見ていたはずなのよ。お母さんが消える瞬間を」

シンジ「あ……」

   怯えた表情でリツコを振り返るシンジ

222: 2015/10/11(日) 14:55:18.42
==== ダミープラント ====

   広大な暗い部屋

   天井から続く、ヒトの脳と脊髄を思わせる複雑な配管

ミサト「これが、ダミープラグの元だというの?」

リツコ「真実を見せてあげるわ」

   手元のリモコンのスイッチを押すリツコ

   壁面がオレンジ色の光に満たされる

ミサト、シンジ「!!」

   周囲を取り巻くオレンジ色の水槽に目を見張るシンジとミサト

   無数のレイの裸体が液体の中に浮かんでいる

シンジ「綾波……レイ……」

   シンジの声が聞こえたかのように一斉にシンジを見るレイたち

   息を呑むシンジ

ミサト「まさか、エヴァのダミープラグは!」

リツコ「そう、ダミーシステムのコアとなるもの……その生産工場よ」

ミサト「これが!?」

リツコ「ここにあるのはダミー。そしてレイのためのただのパーツに過ぎないわ」

   水槽の中、笑みを浮かべて漂う無数のレイ

   循環する液体に髪がなびいている

*シンジ「そんな……」

*   ふらつくシンジ

*ミサト「シンジくん!」

*   支えるミサト

*ミサト「しっかり――」

*シンジ「わかってます……でも……」

リツコ「人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だからバチが当たった。それが15年前……せっかく拾った神様も消えてしまったわ……でも今度は神様を自分たちで復活させようとしたの。それがアダム。そしてアダムから神様に似せて人間を作った。それがエヴァ」

シンジ「ヒト……人間なんですか!?」

リツコ「そう、人間なのよ。本来魂のないエヴァには、人の魂が宿らせてあるもの。みんな、サルベージされたものなの。魂の入った容れ物はレイ、一人だけなの。あの子にしか魂は生まれなかったのよ。ガフの部屋は空っぽになっていたのよ。ここに並ぶレイと同じものには魂がない。ただの容れ物なの」

リツコ「だから壊すの。憎いから」

   リモコンの別のスイッチを押すリツコの指

*   泡立つ液体

   液体の中を沈んでいく、無数のレイの体の断片

*シンジ「!」

   周囲を満たす少女の笑い声

*シンジ「うわあああああああっ!!」

ミサト「あんた、何やってるか、わかってんの!?」

   リツコに銃を向けるミサト

リツコ「ええ、わかっているわ。破壊よ。人じゃないもの。人の形をしたものだもの」

   液体の中を沈んでいくおびただしい人体の残骸

リツコ「でもそんなものにすら私は負けた。勝てなかったのよ。あの人の事を考えるだけで、どんな……どんな陵辱にだって耐えられたわ! 私の体なんてどうでもいいのよ!……でも、でもあの人は、あの人は……分かっていたのに……」

   うなだれるリツコ

223: 2015/10/11(日) 14:57:50.11
リツコ「バカなのよ、私は! 親子そろって大バカ者だわ!」

シンジ「……」

リツコ「……私を頃したいのならそうして……いえ、そうしてくれると嬉しい……」

   銃を降ろすミサト

ミサト「それこそバカよ、あなたは……」

   リモコンを取り落とし床に座り込むリツコ

   すすり泣き始める

ミサト(エヴァに取り憑かれた人の悲劇……)

   肩を震わせて泣くリツコ

ミサト(私も……同じか……)

*   呆然とやりとりを見ているシンジ

*シンジ(父さんは……いったい何をしようとしているんだ)

*   零号機のアンビリカルブリッジの上で話すレイとゲンドウの横顔

*シンジ(綾波……)

*   初号機ケージ、シンジの腕の中で歯を食いしばるレイ

*   月明りが射し込むエントリープラグの中で微笑むレイ

*   教室、雑巾を絞るレイの横顔

*シンジ(君は……知っていたの?)

*   シンジが贈ったしおりを本のページに挟みなおすレイ

*   ベッドに腰掛けてシンジの演奏を聞き入っているレイ

*   レイの膝の上から見上げたレイの微笑み

*シンジ(君は……何を考えていたの?)

*   泣いているリツコ   それを見ているミサト

*シンジ(僕はこれから……どうしたらいい?)


**** Omit Scene ここから ****


==== 零号機の爆発クレーター湖のほとり ====

   湖岸に膝を抱えて座るシンジ

シンジ「……」

   初号機ケージ、シンジの腕の中で痛みをこらえるレイ

   ゴミ袋を提げたシンジに驚いた顔をするレイ

   微笑むレイ

シンジ「……」

   病院で会った、無表情な三人目のレイ

シンジ「……」

   レイ『知らないの……多分私は三人目だと思うから』

シンジ「……」

   レイ『多分私は三人目だと思うから』

シンジ「……」

   レイ『三人目――』

シンジ「そっか……」

   湖面を見つめ無表情でつぶやくシンジ

シンジ「氏んだんだ……綾波レイは……」

224: 2015/10/11(日) 14:59:44.75
==== レイのマンション ====

   クローゼットを開けるレイ

レイ「……」

   折り畳みテーブルと巻かれたカーペットが収められている

レイ「……」

==== 道路 ====

   とぼとぼと歩くシンジの後姿

==== レイのマンション ====

   ベッドにうつ伏せになっているレイ

   枕の匂いを確かめるように顔をうずめる

カチャン……

   身を起こすレイ

   俯いたシンジが入ってくる

   ふと顔を上げるシンジ

シンジ「!」

   レイに気付き驚いて立ち止まるシンジ

   ベッドで上体を起こしているレイ

シンジ「……!」

   開かれたクローゼット、無造作に床に投げ出されたままのテーブルとカーペットが目に留まる

   表情が険しくなる

シンジ「なんで……」

レイ「……」

シンジ「なんで君がここにいるの?」

   絞り出すような声  震えるシンジの拳

レイ「え?」

シンジ「ここは……綾波の部屋だぞ!? それなのに……」

レイ「……」

   ゆらりとベッドに歩み寄るシンジ

シンジ「なんで君がここにいるんだよ!」

レイ「……」

シンジ「綾波じゃ……ないのに!」

   つかみかかるシンジ

   自分にのしかかってくるシンジを無表情に目で追うレイ

   :
   :

225: 2015/10/11(日) 15:02:10.87
   ベッドの上に背中から倒されたレイ

   その体にまたがりレイの首に両手をかけているシンジ

シンジ「うっ……く……」

レイ「……」

   無表情に見つめ返しているレイ

   歯をむき出してレイを見下ろしているシンジ

   と、その頬に添えられる白い手

レイ「……」

   レイの頬にポタポタと滴る涙

シンジ「う……うう……」

   嗚咽するシンジ

シンジ「……っ!!」

   部屋を飛び出すシンジ

   共用廊下を走るシンジの足音が遠のいていく

   身を起こすレイ

レイ「……碇くん?」

   ドアがきしみながら閉じる音

レイ「……」

   ベッドの上に座ったまま鏡の中の自分を見るレイ

レイ(綾波じゃ……ない……)

   :
   :

==== 道路 ====

    走っていくシンジ


**** Omit Scene ここまで ****

(第弐拾参話 おわり)

228: 2015/10/18(日) 21:47:38.53
第弐拾四話 「最後のシ者」

(中略)

==== ミサトのマンション リビング====

   頬を張る音

   聞こえてくる会話

アスカ「いい加減なこと言わないでよ、バカシンジのくせに!」

シンジ「だから、何度言ったらわかるんだよ!」

   コーヒーポットが床に転がり、こぼれたコーヒーが広がる音

シンジ「もう加持さんはいないんだってば!!」

   呆然とするアスカ

アスカ「……ウソ」

(中略)

==== ネルフ本部 発令所 ====

マコト「諜報2課から、セカンドチルドレンを無事保護したそうです」 

ミサト「そう……ロストした挙げ句、7日後に発見とは、2課らしくないわね」 

マコト「わざと、でしょ。嫌がらせじゃないんですか? 作戦課への」
 
ミサト「かもね……」 

ミサト(で、今日、アスカの代わりのフィフス到着……出来過ぎてるわね、シナリオ) 


==== 昼 ミサトのマンション シンジの部屋 ====

   学生服姿でベッドに横たわり天井を見上げているシンジ

シンジ「綾波レイ……」

   回想   ダミープラントで見た数多くのレイの姿

シンジ「やっぱりそうなのか……あの感じ……」

   回想   ユイの墓標

シンジ「母さんの……」

   天井を見上げているシンジ

シンジ「綾波レイを……母さんを……何をしているんだ、父さん!」 


==== ネルフ本部 独房 ====

(中略)

   椅子に座りうなだれているリツコ

   その背後に立つゲンドウ

ゲンドウ「――なぜ、ダミーシステムを破壊した?」 

リツコ「ダミーではありません。破壊したのはレイですわ」 

ゲンドウ「いま一度問う。何故だ?」 

リツコ「あなたに抱かれても嬉しくなくなったから」

(中略)

==== 弐号機ケージ ====

   アンビリカルブリッジから弐号機を見上げるシンジ

シンジ「どこに行ったんだろう……アスカ……」 

シンジ(でも会ってどうするんだ……綾波の話でもするのか?)

シンジ「……」

229: 2015/10/18(日) 21:49:07.82
==== 夕暮れ  零号機クレーター湖岸 ====

   打ち寄せる波  オレンジに染まる湖面を見ているシンジ   

シンジ(トウジもケンスケもみんな家を失って他のところへ行ってしまった。友達は……友達と呼べる人はいなくなってしまった……誰も……) 

   回想   オレンジ色の水槽を沈んでいく人体の一部

シンジ(綾波には会えない……その勇気がない。どんな顔をすればいいのか、分からない)

*シンジ(もう……僕の知ってる綾波じゃない……)

シンジ(アスカ……ミサトさん……母さん……僕はどうしたら……どうすればいい?)

*   回想  最後に見たレイ(二人目)の微笑み

*シンジ(綾波……どうしたらいい? 僕は……)

   聞こえてくる鼻歌

   ベートーベン交響曲第9番第4楽章のメロディ

   声のする方を振りむくシンジ

   湖面から突き出した瓦礫の上に学生服の少年が腰掛け、湖面を眺めながら音楽を口ずさんでいる

   見とれるシンジ

カヲル「歌はいいね」 

シンジ「え?」 

カヲル「歌は心を潤してくれる。リリンが生み出した文化の極みだよ」

   シンジの方を向くカヲル

カヲル「そう感じないか? 碇シンジ君」 

(中略)

==== ネルフ本部 実験場 管制室 ====

   窓の向こう、L.C.L.に半ば浸かっている3本のテストプラグ

   プラグ内モニタの中でカヲル、シンジ、レイが目を閉じている

冬月「あと0コンマ3下げてみろ」 

   モニタ上、カヲルの棒グラフが3人の最高値を示している

冬月「このデータに間違いはないな?」 

マコト「全ての計測システムは、正常に作動しています」 

マヤ「マギによるデータ誤差、認められません」 

冬月「よもや、コアの変換も無しに弐号機とシンクロするとはな。この少年が」 

マヤ「しかし、信じられません! ……いえ、システム上、ありえないです……」 

ミサト「でも事実なのよ。事実をまず受け止めてから、原因を探ってみて」 


==== ネルフ本部 エスカレーターの上がり口 ====

   エスカレーターで上がってくるレイ

レイ「!」

   踊り場に佇んでいるカヲル

カヲル「君がファーストチルドレンだね?」 

レイ「……」 

カヲル「綾波レイ……君は僕と同じだね」
 
レイ「……」

カヲル「お互いに、この星で生きていく体はリリンと同じ形へと行き着いたか……」

レイ「……あなた誰?」 

230: 2015/10/18(日) 21:50:31.00
(中略)

==== 夜 ミサトのマンション ミサトの部屋 ====

ミサト「……」

   アスカの部屋の前に立つミサト

   立ち入り禁止の貼り紙

ミサト「シンジ君も未だ戻らず……」

   空っぽの部屋

ミサト「保護者失格ね、私」 


==== ネルフ本部  エントランスゲート前 ====

   通路の床に座り込んでS-DATプレーヤーで第九を聞いているシンジ

   やってくるカヲル

カヲル「やあ。僕を待っててくれたのかい?」 

シンジ「いや……別に……そんなつもりじゃ……」 

カヲル「今日は?」 

シンジ「あの……定時試験も終わったし、後はシャワーを浴びて帰るだけだけど……」

カヲル「……」

シンジ「でも、本当はあまり帰りたくないんだ。このごろ」 

カヲル「帰る家、ホームがあるという事実は幸せにつながる。良いことだよ」 

シンジ「そうかなあ……」 

カヲル「僕は君ともっと話がしたいな。いっしょに行っていいかい?」 

シンジ「え?」 

(中略)

==== 大浴場 ====

(中略)

   湯船につかっているシンジとカヲル

カシャン…

   浴室の明かりが消える

シンジ「時間だ……」 

カヲル「もう終わりなのかい?」 

シンジ「うん、もう寝なきゃ」 

カヲル「君と?」 

シンジ「えっ!? ……あ、いや、カヲルくんには部屋が用意されていると思うよ。別の――」 

カヲル「そう……」

   浴槽から立ち上がるカヲル

カヲル「常に人間は心に痛みを感じている。心が痛がりだから、生きるのも辛いと感じる」 

シンジ「……」

カヲル「ガラスのように繊細だね。特に君の心は」 

シンジ「僕が?」 

カヲル「そう。コウイに値するよ」 

シンジ「……コウイ?」 

カヲル「好きってことさ」 

   微笑むカヲル

231: 2015/10/18(日) 21:51:31.45
(中略)

==== 初号機ケージ ====

   アンビリカルブリッジにたたずみ初号機を見上げるゲンドウ

ゲンドウ「――まもなく最後の使徒が現れる。それを消せば願いがかなう」 

   ゲンドウの掌に紫色の胎児のようなアダムが埋まっている

ゲンドウ「もうすぐだよ、ユイ」 

==== 月夜 レイのマンション ====

   明かりの消えた部屋

   ベッドにうつ伏せになっているレイ

レイ「私、なぜここにいるの? 私、なぜまた生きてるの? 何のために? 誰のために?」 

レイ「フィフスチルドレン……あの人、私と同じ感じがする……どうして?」 


(中略)

==== ネルフ本部 単身寮 カヲルの部屋 ====

   ベッドに横たわっているカヲル

   ベッドの横、床に横たわっているシンジ   

シンジ「――いろいろあったんだ、ここに来て。来る前は、先生のところにいたんだ。穏やかで何にもない日々だった。ただそこにいるだけの……でもそれでも良かったんだ。僕には何もすることがなかったから」 

カヲル「人間が嫌いなのかい?」 

シンジ「別に、どうでも良かったんだと思う……ただ、父さんは嫌いだった」

シンジ(どうしてカヲルくんにこんな事話すんだろう……) 

   カヲルを見るシンジ

シンジ「!」 

   シンジを見ているカヲル

カヲル「僕は君に遭うために生まれてきたのかもしれない」 

   笑うカヲル

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== カヲルの部屋 ====

   ベッドに横たわり、微笑を浮かべたまま目を閉じているカヲル

シンジ「……」

   ベッドの隣の床に横たわり、天井を見ているシンジ

   回想

   カヲル『好きってことさ』

シンジ「……」

シンジ(「好き」……)

   回想   レイ(二人目)の微笑んだ顔

シンジ(そう言えば……言われたこと、なかったな……)

シンジ(違う……僕も……言ってなかった)

シンジ(あんなに一緒にいたのに……)

   天井を見ているシンジ

232: 2015/10/18(日) 21:54:34.44
カヲル「……」

   微笑みを浮かべたまま、また視線を天井に向け、静かに目を閉じるカヲル

    :
    :

**** Omit Scne ここまで ****

(中略)

**** Omit Scne ここから ****

==== 朝 レイの部屋 ====

レイ「……」

   ベッドに腰掛けているレイ

   部屋の中を見るともなしに見ている

   ふと、流しに置いてあるティーポットが目に留まる

レイ「……」

   立ち上がるレイ

   紅茶の茶葉の缶を掴んで眺める

    :
    :

   コンロで湯気を吹き上げる薬缶

レイ「……」

   紅茶の缶からスプーンを引き揚げるレイ

   茶葉が山盛りに盛られている

    :
    :

   薬缶を掴もうとするレイ

レイ「……つっ!」

   反射的に把手から手を引くレイ

   薬缶がひっくり返りそうになりながらかろうじて元の位置に落ち着く

   しばらく右手を左手で押さえているレイ

    :
    :

レイ「……」

   ティーカップにポットの中身を注ぐレイ

   ほとんど真っ黒な液体

   すするレイ

レイ「……」ケホ…ケホ…

   顔をしかめてせき込むレイ

レイ「……」

   右手の指の一部が赤くなっているのに気づく

   少し考えてから水道水にさらす

レイ「……」

   指を流れ落ちていく流水を無心に眺めているレイ

    :
    :

233: 2015/10/18(日) 21:56:21.81
レイ「……」

   ふたたび紅茶の缶からスプーンを引き揚げるレイ

   ほぼ適量が盛られているスプーン

    :
    :

   部屋のなかほどに置かれた折り畳みテーブル

   少し紅茶が残ったカップが置かれている

   部屋の隅に置かれたチェロのケースを開けてみるレイ

レイ「……」

   無造作に弦をつま弾いてみる

   残響に聞き入るレイ

レイ「……」

   心臓のあたりに拳をあてがうレイ

レイ「……痛い」

   口に出してみるレイ

レイ「……いえ……違う」

   レイの脳裏に浮かぶ文字

   ”サビシイ”

   レイの足元

レイ(「寂しい」?)

   床に水滴がいくつか落ちて染みを作る

レイ(……寂しいの?)

   レイの頬を伝う涙

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****


(中略)

==== ネルフ本部 弐号機ケージ ====

カヲル「さあ行くよ。おいで、アダムの分身……そしてリリンのしもべ」 

   アンビリカルブリッジから中空に歩を進めるカヲル

   そのまま宙に浮いている

**** Omit Scene ここから ****

==== レイのマンション ====

   顔を上げるレイ

レイ「……」

   窓外を見やる

**** Omit Scene ここまで ****

==== 発令所 ====

マコト「エヴァ弐号機、起動!」 

ミサト「そんなバカな! アスカは!?」 

シゲル「303病室です。確認済みです」 

ミサト「じゃあいったい誰が……?」 

マヤ「無人です。弐号機にエントリープラグは挿入されていません!」 

234: 2015/10/18(日) 21:57:06.60
ミサト(誰もいない? フィフスの少年ではないの?) 

マコト「セントラルドグマに、A.T.フィールドの発生を確認!」 

ミサト「弐号機?」 

マコト「いえ、パターン青! 間違いありません! 使徒です!」 

ミサト「何ですって!?」 

(中略)

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「嘘だ嘘だ嘘だ! カヲルくんが、彼が使徒だったなんて、そんなの嘘だ!」 

ミサト『事実よ。受け止めなさい。出撃、いいわね?』 

==== メインシャフト ====

   宙に浮かんだまま下降していくカヲルと弐号機

カヲル「遅いな……シンジ君」 

==== 初号機プラグ内 ====

男性オペ『エヴァ初号機、ルート2を降下! 目標を追撃中!』

シンジ「裏切ったな……僕の気持ちを裏切ったな……父さんと同じに裏切ったんだ!」 

==== 発令所 ====

シゲル「初号機、第4層に到達、目標と接触します」 

==== メインシャフト ====

シンジ「いた!」 

カヲル「待っていたよ、シンジ君」 

(中略)

==== ターミナルドグマ ====

   空中を浮かんですすむカヲル

   施錠装置に視線をやりロックを解除するカヲル

==== 発令所 ====

シゲル「最終安全装置、解除!」 

マコト「ヘヴンズドアが、開いて行きます……」 

ミサト「遂にたどり着いたのね、使徒が……」 

一同「……」

ミサト「日向君」 

   黙ってうなずくマコト

(中略)

==== 発令所 ====

ミサト「状況は?」 

マコト「A.T.フィールドです!」 

シゲル「ターミナルドグマの結界周辺に、さっきと同等のA.T.フィールドが発生」 

マヤ「結界の中へ侵入していきます!」 

ミサト「まさか、新たな使徒?」 

シゲル「だめです、確認できません! あ、いえ、消失しました!」 

ミサト「消えた!? 使徒が?」 


==== メインシャフト ====

   メインシャフトから見下ろすレイ

235: 2015/10/18(日) 21:57:43.04
==== ターミナルドグマ ====

(中略)

   初号機に握り締められているカヲル

シンジ「カヲルくん……どうして……」 

カヲル「僕が生き続けることが僕の運命だからだよ。結果、人が滅びてもね」

シンジ「……」


カヲル「だが、このまま氏ぬこともできる。生と氏は等価値なんだ、僕にとってはね。自らの氏、それが唯一の絶対的自由なんだよ」 

シンジ「何を……カヲルくん……君が何を言っているのか分かんないよ! カヲルくん……」 

カヲル「遺言だよ」 

シンジ「!」

カヲル「さあ、僕を消してくれ。そうしなければ君らが消えることになる。滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれないんだ」 

シンジ「……」

カヲル「そして、君は氏すべき存在ではない」 

   天井の方を見上げるカヲル

   レイが作業通路から冷やかに見下ろしている

   レイに向かって微笑むカヲル

カヲル「君たちには未来が必要だ」 

   初号機に捕まれているカヲル

カヲル「ありがとう……君に逢えて、嬉しかったよ」 

   顔を伏せているシンジ

   カヲルを握り締めたまま動かない初号機

   :
   :

   破砕音

   L.C.L.溜まりに人頭大の物体が落下し水柱が上がる

**** Omit Scene ここから ****

==== リリスの間 ====

   握り締めた拳を掲げたままの姿勢で動かないエヴァ初号機

レイ「……」

   天井付近の足場から見下ろしているレイ

==== 初号機プラグ内 ====

   インテリアシートの上にうずくまっているシンジ

シンジ「うっ……うっ……」

   微かに漏れる嗚咽

==== リリスの間 ====

   見下ろしているレイ

   少し眉をひそめる

   心臓のあたりを押さえるレイの手

   :
   :

236: 2015/10/18(日) 21:58:45.84
==== 発令所 ====

   表示がよみがえるモニタ

マコト「モニター、復活しました! 初号機パイロットの生命反応に異常なし。A.T.フィールドはふたつとも消失しています」

マヤ「弐号機からの信号もありません」

シゲル「エヴァ初号機、セントラルドグマを上昇します」

   メインシャフトの階数表示の間を上昇していく初号機の位置アイコン

ミサト「……」

マヤ「倒したってことですよね……17番目の使徒を……」

   後方で手を組み合わせてじっと正面を見据えているゲンドウ

ミサト(シンジくん……)

**** Omit Scene ここまで ****

==== 初号機ケージ ====

   高圧水で洗浄されているエヴァ初号機

ゲンドウ、レイ「……」 

   レインコートを着て足場に立ち、見上げているゲンドウとレイ

*レイ「……」

*   見上げているレイ

   :
   :

==== 夜  零号機クレーター湖畔 ====

   たたずむミサト  膝を抱えて座っているシンジ

シンジ「カヲルくんが……好きだって言ってくれたんだ……僕のこと」

ミサト「……」

シンジ「初めて……初めて人から好きだっていわれたんだ……」 

ミサト「……」

シンジ「僕に似てたんだ……綾波にも……」

ミサト「……」

シンジ「好きだったんだ。生き残るなら、カヲルくんのほうだったんだ……」

ミサト「……」

シンジ「僕なんかより、彼のほうがずっといい人だったのに……カヲルくんが生き残るべきだったんだ……」 

ミサト「違うわ。生き残るのは生きる意志を持った者だけよ」 

   険しい表情で応じるミサト

シンジ「……」

ミサト「彼は氏を望んだ。生きる意志を放棄して、見せ掛けの希望にすがったのよ。シンジくんは悪くないわ」 

シンジ「冷たいね……ミサトさん……」 

**** Omit Scene ここから ****

ミサト「……」

シンジ「……」

   傍らのシンジを見るミサト

   ふとミサトの表情から険しさが薄れる

ミサト「すまなかったわね……もっと早くに、彼が使徒だとわかっていれば……」

シンジ「……」

237: 2015/10/18(日) 22:01:18.79
ミサト「でも……あなたがやったことは正しいことよ。守るべきものを守ったんだもの」

シンジ「……」

   踵を返すミサト  シンジの方を見ずに言う

ミサト「今夜からしばらく本部に泊まり込みになるわ。当面必要そうなものは、寮に届けさせるから」

シンジ「……」

   ふとシンジの方を振り返るミサト

   無言で湖面を見ているシンジ

   しばらくその様子を見、歩み去るミサト

シンジ「……」

   時折、シンジの足元近くまで打ち寄せる波

シンジ(正しいこと?……守るべきものを……守った?)

   回想  加持、レイ(二人目)、カヲルの笑顔

シンジ(僕が本当に守りたいものは……次々と失われていくのに……)

   虚ろな表情で湖面を見ているシンジ

   対岸の灯りが湖面に揺れている

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第弐拾四話 おわり)

240: 2015/10/27(火) 23:01:46.24
第25話「Air」

**** Omit Scene ここから ****

==== 闇の中 ====

   パイプいすに座り、脳裏に浮かぶ言葉に頭を抱えているシンジ

   『何故 頃した』

シンジ「だって、仕方なかったんじゃないか!」

   『何故 頃した』

シンジ「だって、カヲル君は、彼は、使徒だったんだ!」

   『同じ人間なのに?』

シンジ「違う、使徒だ! 僕らの敵だったんだ!」

   『同じ人間だったのに?』

シンジ「違う、違う! 違うんだ!」

ガシャン…

   スポットライトを浴びてシンジの前に立つレイ

レイ「私と同じ人だったのに?」

シンジ「違う……使徒だったんだ……」

レイ「だから頃したの?」

シンジ「そうさ……ああしなければ僕らが氏んじゃう。みんなが殺されちゃうん

だ」

レイ「だから頃したの?」

シンジ「好きでやったんじゃない! でも仕方なかったんだ!」

   また脳裏に浮かぶ言葉

   『だから頃した』

シンジ「助けて……」

   『だから頃した』

シンジ「助けて……」

   『だから頃した』

シンジ「助けて!」

   『だから頃した』

シンジ「誰か、助けて……」

   『だから頃した』

シンジ「お願いだから、誰か、助けてよ!」

   :
   :

241: 2015/10/27(火) 23:02:33.54
シンジ「……」ハッ…

=== ネルフ本部 第6ブロック 単身寮 ====

   目覚めるシンジ   ベッドに突っ伏している

   上体を起こして室内を眺めまわし、はっとする

シンジ(カヲルくんの……部屋)

   ふたたび、おそるおそる部屋を見渡す

シンジ(ちがう……造りが同じだけだ……でも……)

   先ほどの夢を思い出すシンジ

   冷やかに見下ろす3人目のレイ

シンジ「綾波……」

   夜が明けようとしている

**** Omit Scene ここまで ****

==== 昼 零号機クレーター湖畔  ====

シンジ「……」

   照りつける日差し

   独り佇むシンジ
   

==== ネルフ中央総合病院 アスカの病室 ====

   ベッドに横たわるアスカ

   心電図などが取り付けられモニタが断続的に電子音を発する

   ベッド際に立つシンジ

シンジ 「ミサトさんも、綾波も怖いんだ。助けて……助けてよアスカ」

*シンジ「綾波が……もう綾波じゃないんだ……ねえ、アスカ」

   眠ったままのアスカ

シンジ「「ねえ……起きてよ……ねえ……目を覚ましてよ」

   アスカを揺さぶるシンジ

シンジ 「ねえ……ねえ、アスカ……アスカ……アスカ! 助けて……助けて

よ……助けてよ……」

   半泣きでアスカを揺さぶるシンジ

シンジ 「助けてよ……助けてよ……またいつものように、僕をバカにしてよ…

…ねえ!!」

   揺さぶった反動でアスカの体位が変る

   センサーのパッチがはじけ飛び、衣類の前がはだける

シンジ「!」

  目を見張るシンジ


242: 2015/10/27(火) 23:04:34.28
シンジ「……」

   胸をはだけたまま動かないアスカ

   見下ろしているシンジ

   次第に早く、荒くなるなるシンジの息遣い

シンジ「……」

*   薄暗いマンションの一室

*   シンジの息遣い

*   揺れる視界

*   寝乱れたシーツの上

*   無防備に横たわるレイの白い裸身

*   美しく眉を歪め片方の拳を口許に添えているレイ

*   次第に早くなるシンジの息づかい

*   次第にシンジのものではない細い息遣いが混じる

*   半ば目を開き、救いを求めるようにこちらを見る赤い瞳

*   耳を弄するばかりのシンジ自身の息遣い

*   再び瞼をぎゅっと閉じるレイ

*   ふいに首をのけぞらせる

……沈黙

   病室のベッド脇に佇むシンジ

   規則的に響く電子音

シンジ 「最低だ……俺って……」


==== 夕方 ネルフ本部 発令所 ====

   薄暗い司令塔に残っているマヤ、マコト、シゲル

マヤ 「――本部施設の出入りは、全面禁止?」

マコト「第一種警戒体制のままか……」

マヤ「なぜ? 最後の使徒だったんでしょ? あの少年が」

シゲル「ああ。全ての使徒は消えたはずだ」

マコト「今や平和になったってことじゃないのか」

マヤ「じゃあここは? エヴァはどうなるの? 先輩も今いないのに……」

シゲル「ネルフは、組織解体されると思う。俺たちがどうなるかは、見当もつかないな」

マコト「補完計画の発動まで、自分たちで粘るしかないか……」

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== 夕暮れ ====

   半ば廃墟と化した市街地を歩くシンジ

   ふと顔を上げる

   遠くにレイのマンションが見える

シンジ「……」

   また背を丸めて歩くシンジ

   ミサトのマンションが見えてくる

   :
   :

243: 2015/10/27(火) 23:08:00.85
=== 闇の中 ====

レイ「私は誰?」

もうひとりのレイ(別レイ)『綾波レイ』

レイ「あなた、誰? あなたも綾波レイなの?」

別レイ『そう。綾波レイと呼ばれているもの。みんな、綾波レイと呼ばれているもの』

レイ「どうして、みんな私なの?」

別レイ『他の人たちがみんな、私たちを綾波レイと呼ぶからよ。あなたは、偽りの心と体を、なぜ持っているの?』

レイ「偽りではないわ。私は私だもの」

別レイ『いいえ。あなたは偽りの魂を碇ゲンドウという人間によって作られたヒトなのよ。人の真似をしている偽りの物体に過ぎないのよ』

レイ「……」

別レイ『ほら、あなたの中に、暗くて何も見えない、何も分からない心があるでしょ? 本当のあなたがそこにいるの』

レイ「私は私。私はこれまでの時間と他の人たちとのつながりによって私になった。他の人たちとの触れ合いによって今の私が形作られている。人との触れ合いと、時の流れ。私の心の形を変えていくの」

別レイ『……』

レイ「そう。綾波レイと呼ばれる、今までの私を作ったもの。これからの私を作るもの」

別レイ『でも、本当のあなたは他にいるのよ。あなたが、知らないだけ。見たくないから。知らないうちに避けているだけ』

レイ「……」

別レイ『人の形をしていないかもしれないから。今までの私がいなくなるかもしれないから。自分がいなくなるのが恐いのよ。みんなの心の中から消えるのが恐いのよ』

レイ「恐い? 分からないわ」

別レイ『自分だけの世界も、無くなるの。自分が消えるのよ』

レイ「いえ、嬉しいわ。私は氏にたいもの。ほしいものは絶望。無へと還りたいの」

別レイ『……』

レイ「でも、だめ。無へは還れないの。あの人が還してくれないの。まだ還してくれないの」

別レイ『……』

レイ「あの人が必要だから私はいたの。でももう終わり。要らなくなるの、私。あの人に捨てられるの、私」

別レイ『……』

レイ「その日を願っていたはずなのに、今は、恐いの……」

   目に浮かぶシンジの怯えた顔

レイ「……」

   闇

   明るくなる視界

   初号機ケージの天井

   天井付近の管制室から見下ろしているゲンドウ

   レイに覆いかぶさっているシンジのシルエット

   自分の掌を見つめて目を見開いている

レイ「知らない」

244: 2015/10/27(火) 23:09:31.07
   レイのマンションの天井

   覆いかぶさって呆然とレイを見下ろしているしているシンジ

   自分の声がする

   『どいてくれる?』

レイ「知らない」

   暗いエントリープラグの中

   左前方の非常用ハッチが開いている

   外は夜の森

   涙を流して微笑んでいるシンジ

レイ「知らない」

   レイのマンション

   ベッドに腰掛け半身をよじって、赤面してこちらを見ているシンジ

   近づいてくるシンジの顔

レイ「知らない」

   レイのマンション

   部屋のなかほどの椅子に座り一心にチェロを奏でているシンジ

レイ「知らない」

   レイの膝に頭を預けて眠っているシンジ

レイ「……知らない」

ゲンドウ『さあ行こう。今日この日のためにお前はいたのだ、レイ』

レイ「はい」

**** Omit Scene ここまで ****

レイ「……」ハッ…

==== 夜 レイのマンション ====

レイ「……」

   目を覚ますレイ

   虫の声   月明かり

   月をおおっていく雲

    :
    :

レイ「……」

   玄関から出ていくレイ

   部屋の床

   ゲンドウのメガネが割れて転がっている

   :
   :

==== 夜 ミサトのマンション シンジの部屋 ====

シンジ「……」

   ベッドに横たわりS-DATのイヤフォンを耳に差しているシンジ

   S-DATプレイヤーの表示板で電池切れ表示が明滅している

   救急車のサイレンが遠ざかる


245: 2015/10/27(火) 23:10:41.25
==== 明け方 ネルフ本部 コンピューター室 ====

   配線スペースにもぐりこみノート型端末を操作しているミサト

(中略)

ミサト「!!」

   「DELETED」の文字がモニタを埋め尽くしていく

ミサト「気付かれた!?」

   とっさに銃を掴んで立ち上がるミサト

ミサト「……いえ、違うか……」

   室内を睨むミサト

ミサト「始まるわね……」

   :
   :

247: 2015/10/31(土) 22:59:05.58
(中略)

(第25話 おわり)

第26話「まごころを、君に」

(中略)

=== 衛星軌道上 ====

   12枚の翼を広げ身を起こす巨大なリリス

==== 黒き月 ネルフ本部 発令所 ====

(中略)

   床にうずくまってノート型端末のキーボードに手をかざしているマヤ

マヤ 「A.T.フィールドが……みんなのA.T.フィールドが消えていく……これが答えなの? ……私の求めていた……」

   マヤの手を後ろから延びた手が包み込む

マヤ「!」

   振り返るとリツコが微笑んでいる   

リツコ「マヤ……」

   マヤの頬をなで、抱きしめるリツコ

マヤ「センパイ!」

   涙を流してリツコを抱きしめるマヤ

マヤ「センパイ!……センパイ!……センパイ――」

   水風船がはじけるようにL.C.Lに還るマヤ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== ジオフロント ====

   横たわる弐号機の残骸

   引き裂かれたエントリープラグ

   L.C.Lが流失したプラグ内のシートに氏んだように横たわるアスカ

   左の頬に、前髪に隠れた左目から流れ出した血が固まってこびりついている

   右腕の肘から先が血まみれになっている

   失血により落ち窪んだもう片方の目が虚ろに開かれている

アスカ「頃してやる……頃してやる……」

   かすかにうわごとのように唇が動き続けている

   その顔に差す影

   アスカの目がわずかに見ひらかれる

   見下ろしている加持  微笑んでいる

   アスカの眼から涙が流れ落ちる

   アスカを抱き起そうとするようにかがむ加持

   アスカの左腕が力なく持ち上がり、加持の首にまわりかける

パシャン……

   L.C.Lが飛び散る

   プラグの奥の暗がりに制服姿のレイが佇んでいる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****


248: 2015/10/31(土) 23:04:16.27
(中略)

==== オレンジ色の世界 ====

シンジ「……」

   シンジの顔を見下ろしているレイ

シンジ「綾波……」

   裸で仰向けに横たわっているシンジ

   シンジに跨っているレイ

*シンジ「違う……君か……」

   下腹部や、シンジの胸に突いた腕がシンジの体と同化している

シンジ「……ここは?」

レイ「ここはL.C.L.の海。生命の源の海の中。A.T.フィールドを失った、自分の形を失った世界」

レイ「どこまでが自分で、どこからが他人なのか判らない曖昧な世界。どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている静寂な世界」

シンジ「僕は、氏んだの?」

レイ「いいえ。全てが一つになっているだけ。これが、あなたの望んだ世界そのものよ」

    手のひらに握っていたミサトの十字のペンダントを離すシンジ

    ゆっくり漂いだすペンダント

*レイ「そして……綾波レイの望んだ世界そのもの」

*シンジ「綾波の?」

*レイ「そう」

シンジ「……でも、これは違う。違うと思う」

    ペンダントを見つめるシンジ

*シンジ「違うと思う。綾波だって……」

レイ 「他人の存在を、今一度望めば、再び心の壁が全ての人々を引き離すわ。また、他人の恐怖が始まるのよ」

シンジ「いいんだ――」

   レイの手を握るシンジ

シンジ「ありがとう」

   :
   :


   レイに膝枕をされて寝転んでいるシンジ

   二人の頭上で水面が揺れている

*シンジ「綾波が氏んだ日……こうしてもらったんだ」

*レイ「……そう」

*シンジ「あれが最後だった……その後は、もう……」

*レイ「……」

*   レイの顔を見上げるシンジ

*シンジ「君は……知らないよね」

*   あきらめたように笑うシンジ

*レイ「……知らない」

*シンジ「……」

*レイ「でも――」

*   シンジの前髪を愛おしげにかき分けるレイ

*シンジ「……」

*   不思議そうにレイを見上げながら髪をとかされているシンジ

249: 2015/10/31(土) 23:08:17.58
*レイ「……」

*   無心にシンジの前髪を鋤いているレイ

*シンジ「君は……僕の心の中の綾波?」

*レイ「……」

*シンジ「君は……僕の心の中のカヲル君?」

*カヲル「……」

*   シンジ達の前に立ち、微笑んでいる制服姿のカヲル

*シンジ「みんなは……父さんは……アスカは……誰を見てるのかな……」

*レイ、カヲル「……」

シンジ「あそこでは、イヤな事しかなかった気がする。だから、きっと逃げ出してもよかったんだ」

レイ、カヲル「……」

シンジ「でも、逃げたところにもいいことはなかった。だって……僕がいないもの。誰もいないのと、同じだもの」

カヲル「再びA.T.フィールドが、君や他人を傷付けてもいいのかい?」

シンジ「構わない。でも、僕の心の中にいる君達は何?」

   制服姿で立つシンジ

レイ「希望なのよ。ヒトは互いに判りあえるかも知れない……ということの」

   シンジの前に立つ制服姿のレイ

カヲル「好きだ、という言葉とともにね」

   足元に浮かんでくる無数の人の体

シンジ「だけど、それは見せかけなんだ。自分勝手な思い込みなんだ。祈りみたいなものなんだ。ずっと続くはずないんだ。いつかは裏切られるんだ。僕を……見捨てるんだ」

   脳裏に浮かび上がる様々な風景

* 「僕は……綾波を守れなかった。アスカには酷いことしたんだ。カヲル君も頃してしまった。ミサトさんも……父さんも……みんなも……」

*レイ、カヲル「……」

*シンジ「もう、取り返しはつかないんだ、今さら。でも――」

*レイ、カヲル「……」

シンジ「でも……僕はもう一度会いたいと思った。その時の気持ちは本当だと思うから」

   浮かび上がる仲間たちのイメージ

    :
    :

(中略)

   宇宙空間を遠ざかっていくロンギヌスの槍と初号機

シンジの声『さよなら……母さん……』

(第26話 おわり)

251: 2015/11/07(土) 10:10:42.57
■正誤表(再掲含む)

>>4
×トウジ「いらっしゃたで~!」
○トウジ「いらっしゃったで~!」

>>34
×女性オペ『エヴァ零号機、発進準備』』
○女性オペ『エヴァ零号機、発進準備』


>>36
× 第弐種警戒体制
○ 第2種警戒体制

>>48
× ==== 通路 ====


○ (中略)

  ==== 通路 ====

>>52
× 〇号機
○ 零号機

>>70
×女性オペレータ「A.T.フィールド、
○女性オペ「A.T.フィールド、

>>71
×オペレータ「60、38、39、
○男性オペ「60、38、39、

×オペレータ「6の42に
○男性オペ「6の42に

>>84
×破頑
○破顔

>>109
×レイ「ここまで簡単にやられると、
○アスカ「ここまで簡単にやられると、

>>112
×アスカ「そりゃもう、こういうのは、成績優秀、勇猛果敢、シンクロ率ナンバーワンの殿方の仕事でしょう?
○アスカ「そりゃもう、こういうのは、成績優秀、勇猛果敢、シンクロ率ナンバーワンの殿方の仕事でしょう?」

>>118
×本当ににエヴァは味方なのでしょうか?
○本当にエヴァは味方なのでしょうか?

>>149
× *冬月「目標jの状況は?」
○ *冬月「目標の状況は?」

>>196
×現在は22機も大破ですから
○現在は2機も大破ですから

>>197
× 碇司令が[ピーーー]と言ったら
○ 碇司令が[ピーーー]と言ったら

>>214
× *インダクションバー
○ *インダクションレバー

>>216
× 光りの中
○ 光の中

>>222
× 陵辱
○ 凌辱

>>236
× 後方で手を組み合わせてじっと正面を見据えているゲンドウ
○ ミサト達の後方、手を顎の下に組み合わせてじっと正面を見据えているゲンドウ

254: 2015/11/07(土) 11:42:51.53
「ONE MORE FINAL:I need you.」

==== 夜 浜辺 ====

   白い砂浜に寄せては返す赤い水

   ところどころに突き出す建物や電柱の残骸

   地平に横たわる崩壊した巨大なリリスの半面

   杭に打ち付けられたミサトの十字のペンダント

   空に浮かぶ月  夜空を横切る赤い帯

   砂浜に横たわる学生服姿のシンジとプラグスーツ姿のアスカ

   アスカの右腕と左眼に包帯が巻かれている

シンジ「……」

   首だけ動かして側方を見るシンジ

   波間に佇んでいる制服姿のレイ

   再び見たときにはいなくなっている

   上半身を起こし、傍らのアスカを見下ろすシンジ

   :
   :

シンジ「くっ……うっ……」

   横たわるアスカの首を絞めているシンジ

   シンジの頬をなでるアスカの手

   首を絞めていたシンジの手がゆるむ

   むせび泣くシンジ

   アスカの顔にしたたるシンジの涙   

アスカ 「気持ち悪い……」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

   波の音

   砂浜に横たわるアスカ

   その横に膝を抱えて座って赤い海を眺めているシンジ

   地平に横たわる崩壊した巨大なリリスの半面

シンジ「ありがとう」

   海を見たままぽつりと言うシンジ

   上体を起こすアスカ

   座っているシンジ

   その後姿を見ているアスカ

シンジ「アスカにすがったってダメなんだ……いまさら……」

   自分の右手を見つめるシンジ

アスカ「……」

シンジ「自分でやるしかないんだ。これは……罰だから」

アスカ「……」

シンジ「僕がしたことの……ううん――」

アスカ「……」

シンジ「――僕が、何もしようとしなかったことの」

255: 2015/11/07(土) 11:46:42.26
   背後で立ち上がるアスカ

   シンジの後姿を見下ろす

アスカ(レイの声)「……どうするの」

シンジ「わからない……でも――」

   アスカの赤いプラグスーツ着て右腕と左眼に包帯を巻いたレイがシンジの後姿を見下ろしている

シンジ「言われたんだ、ミサトさんに。あんた、また生きてるんでしょうって」

レイ「……」

   シンジの後姿を見ているレイ  第壱中学校の制服姿になっている

   立ち上がるシンジ

   レイの方を振り返らず赤い水面を見ている

   東の空が白んでいる   

   :
   :

==== 昼 浜辺 ====

   打ち寄せる赤い波

   ミサトのペンダントが打ち付けてあった流木

   ペンダントがなくなっている

==== 砂丘 ====

シンジ「……」ハァ…ハァ…

   砂丘地を彷徨うシンジ

   ワイシャツの胸に揺れているミサトのペンダント

シンジ「……」ハァ…ハァ…

   なかば砂にうずもれたコンビニエンスストアの看板

   表情が明るくなるシンジ
  
==== 店内 ====

   窓とドアガラスが割れ店内の半ばまで砂に埋まっている

   店内を見回すシンジ

   客や店員のものと思しき一揃いの衣類があちこちに山になっている

==== 夜 店内 ====

   店内の奥の方、砂のない床の一隅でに何か敷いて眠っているシンジ

   窓から月明かりが差し込んでいる   

==== 朝 ====

   入口にまとめられたレトルト食品の空容器

   砂丘の稜線に向かってゆるやかに蛇行しながら伸びている足跡

   稜線の向こうへ消えて行こうとしているシンジの後姿

==== 昼 ====

   照りつける日差し

   日陰に腰をおろしペットボトルの飲み物を一口飲むシンジ

   傍らにリュックサック

   人はおろか生き物の気配すらない一面の赤い砂漠

256: 2015/11/07(土) 11:49:16.94
==== とある建物の中 ====

   部屋を覗きこむシンジ

   円をなして並べられた小さな椅子

   壁一面に貼られた、つたないクレヨン画

   椅子の輪の外側に数個の大人の衣類の山

   それぞれの椅子の近くにちょこんと山になっている小さな衣類

   目を見開くシンジ

     :
     :

   椅子の輪の近くに跪き、衣類をていねいに畳んでいるシンジ

   制服の胸の部分に花の形のプラスチックの名札がついている

   シンジ回想

   レイ『自らの心で自分自身をイメージできれば、誰もがヒトの形に戻れるわ』

   たたんだ衣類を、すでに畳んである衣類の横に並べるシンジ

   袖で涙をぬぐい、次の衣類にとりかかる

   シンジの後ろ、制服姿のレイが佇んでいる   

     :
     :


==== 夜 駅の待合室らしき部屋 ====

   月明かりの下でノートに何か書きつけているシンジ

   夜空を見上げる

   輝く月の表面に血のような赤い筋があるのがわかる  

==== 昼 ====

   リュックサックを背負って川のあとらしき窪地を歩くシンジ

   水は一滴もない

   :
   :

   赤い海の海岸線

   破壊された町並みを歩いて行くシンジ

   ふと足をとめ、赤い水平線を見る

   :
   :

   繰り返される昼と夜

   歩き、何か探索し、眠るシンジ

257: 2015/11/07(土) 11:53:50.09
==== とある昼 ====

   一面の赤い砂漠

   ところどころに折れた電柱や建物の残骸が突き出している

   炎天下に横たわっているシンジ

   落ち窪んだ目  こけた頬       

   力なく仰向けになって空を見上げている

   数羽の大型の鳥のシルエットが上空を旋回しているのが見える

シンジ「鳥だ……」

   アスカが弐号機プラグ内で見たのと似た光景

シンジ「生き物が……」

   半ば目を開き微笑んだまま動かないシンジ

シンジ「ミサトさん?」

   空を見上げたままつぶやくシンジ

   砂の上に投げ出されたシンジの掌に乗っているペンダント

   包みこもうとするように指がわずかに曲がる

シンジ「これでよかったんだよね……」

   シンジの頭の少し後方に立ち、見下ろしている制服姿のレイ

   :
   :

==== 夕暮れ ====

   砂の上、レイに膝枕をされているシンジ

   レイの顔を見上げながら頬におずおずと手を伸ばすシンジ

   その様子を無表情に見下ろしているレイ

   力なくその頬をさするシンジ

   微笑みに似た表情でレイを見上げているシンジ

   シンジの顔を見下ろしているレイ

   ぱたりと地面に落ちるシンジの手

   レイの顎のライン 引き結ばれた唇

   微笑みを浮かべてレイを見上げたままのシンジの顔

   動かない視線

   その顔にぽつり、ぽつりと水滴が落ちる

   シンジに膝枕をしているレイの後姿

レイ「うっ……うっ……」

   時折漏れる嗚咽

   肩が震えている

   背が次第に丸まる

    :
    :

   水音  水面に広がっていく波紋

    :
    :

258: 2015/11/07(土) 11:59:53.84
========

シンジ「……」ハッ…

   目を開くシンジ

   夏の日差しが降り注ぐ路上に立っている

   学生服姿 鞄を背負っている

   自分の手を見るシンジ

   オレンジ色の受話器が握られている

シンジ「……」

   首を巡らせるシンジ

   シャッターが下ろされた商店の軒先

   目の前にはオレンジ色の「非常用公衆電話」

シンジ「!」

   道路の先

   陽炎のゆらめく路面に佇む制服姿の少女

シンジ「……」

   瞬きするレイ

バサバサバサ……

   頭上の電線に止まっていた鳥の群れがいっせいに飛び立つ

   思わず頭上を振り仰ぎ、しまったと言うように視線を路上に戻すシンジ

シンジ「!」

   輝きだすレイの体

   光を帯びたおびただしい胞子のようなものがレイの体から発散され風に吹き流されていく

   シンジの頭の中に響くレイの声

レイ『さよなら、碇くん』

シンジ「えっ?」

レイ『あなたの願いは、今、私の中にある』

   足元から上に向かって順に光の粉になって消えていくレイ

シンジ「『綾波』!!」

レイ「!」

   驚いて目を見張るレイ

   表情が寂しげな微笑みに変わる

シンジ「待って!」

   思わず手を伸ばすシンジ

レイ『私は、綾波じゃない』

   その顔が光に溶け込んでいく

シンジ「綾波!」

   突如として輝きを増し四散するレイの像

シンジ「!」

   とっさに目をギュッと閉じ、顔を庇う

   目を開けるとレイのいたあたりに、輝く胞子のようなものが空からゆらゆらと降り注いでいる

   しだいに輝きを失い見えなくなる胞子の群れ

   顔を庇っていた腕を降ろして佇み、レイのいたあたりの路面を呆然を見つめるシンジ

259: 2015/11/07(土) 12:01:26.31
==== 同時刻 ネルフ中央総合病院 病室 ====

   ベッドに横たわるレイ

   額に包帯を巻かれ、眼帯をした片目も、半ば包帯に隠れている

   目を閉じ、眠っているように見える

レイ「……」

   ベッド際に立つ制服姿のレイの後姿   

   ベッドの上のレイ   うっすらと目を開く

   白い天井

   目を開いて横たわっているレイ

   視線を巡らせる

   自分のほか、誰もいない病室

    :
    :

==== 同時刻 市街地 ====

ズズーーーーン……ビリビリビリ……

   くぐもった轟音に続き、商店街のシャッターや頭上の電線を揺らす空震

   音の方を振り仰ぐシンジ

   山あいから戦闘VTOL群が後退してくる

   続いて現れる第三の使徒の巨大な黒い姿

シンジ「……」

   唇を引き締めるシンジ

   踵を返し、ミサトの車が迎えに来ると思しき方向へ駆けだすシンジ

   向こうから疾走してくる青いルノー

   シンジのすぐ手前でスピンターンしながら助手席のドアを開け放つミサト

ミサト「グッドタイミング!!」

   サングラスをしたミサトがほくそ笑む

   助手席に飛び込みドアを荒々しく閉じるシンジ

   接地面から青い煙を上げスキール音を響かせながら、元来た方へ猛加速で走り去っていく青いルノー

   最初にシンジがいた辺りに落下するVTOLの残骸

   :
   :

260: 2015/11/07(土) 12:06:08.43
==== 1年後 新第三東京市 ====

   半ば破壊されたビル群

   その向こう、市街地の一角から十字形の炎が立ち上り、虹がかかる

==== ネルフ本部 発令所 ====

マヤ「エヴァシリーズ、沈黙!」 

   発令所にあがる歓声

ミサト「よしっ!」

   ガッツポーズをとるミサト

   傍らで大きく息をつく白衣姿のリツコ

冬月「勝ったか……」

   冬月の傍ら、顔の前に手を組んで司令席についているゲンドウ

ゲンドウ「……」

   ゲンドウの肩に手をおく冬月

   映像が回復する主モニター

   量産機の機体の一部を片手にぶら下げて佇む初号機

   片腕がなく、あちこちの装甲が脱落し筋肉組織が破断しているのが見える

ミサト「状況終了。第二種警戒態勢に移行」

シゲル「了解。 第二種警戒態勢に移行」

   主モニターの中、立ち尽くしている傷だらけの初号機

   と、眼の光が失われ、片手からから量産機の一部が落下する

   轟音

一同「!」

   糸が切れたようにくずおれる初号機

   立ち上る土煙

ミサト「パイロットの救出、急いで!!」

マコト「はい!」

   :
   :

==== 地上 市街地の一角 ====

   白い機体と折り重なるようにして倒れている緑色のエヴァ

   頸部のカバーが吹き飛ばされ、エントリープラグが半ば飛び出して止まる

   開くハッチ

マリ「痛ってててて……」

   這い出してくるマリ  緑色のプラグスーツ  背面に「5」のマーキング

   眼鏡の片方のレンズが外れ、額から少し血を流している

   市街地の惨状を見回す

マリ「あちゃあ……こいつはシッチャカメッチャカな状況ねー」

   自機の残骸をしみじみと見降ろすマリ

   手近な緑色の装甲の表面をさする

マリ「さよなら、エヴァ5号機。お役目ご苦労さん」

トウジの声「おーい!」

   視線を上げるマリ

261: 2015/11/07(土) 12:12:45.75
   地表をこちらに近づいてくるトウジとカヲル

   ともにプラグスーツ姿

   足をひきずるカヲルにトウジが肩を貸している

   トウジのスーツ背中に「3」、カヲルの背中に「4」のマーキング

   手を振るマリ

マリ「姫はー?」

トウジ「シンジたちと一緒ちゃうんかー?」

   :
   :

==== 市街地の別の場所 ====

レイ「……」ハッ…ハッ…

   不安げな顔で走っているプラグスーツ姿のレイ

   背後に零号機の残骸
 
   初号機の残骸によじ登るレイ

   歯を食いしばって頸部のハンドホールを開け、スイッチを操作する

   吹き飛ぶプラグカバー

   思わず顔を庇うレイ

   エントリープラグが半ば飛び出して止まる

レイ「うう……」

   渾身の力でプラグ側面の非常用ハッチのハンドルを回すレイ

==== 初号機プラグ内 ====

   闇

   くぐもった金属音

   側面の非常用ハッチが開き、光が射しこむ

   気を失っていたシンジ、目をあける

   ハッチから覗き込むレイ

   しばらく見て、微笑むシンジ

   その顔を見て微笑むレイ  涙があふれ出す

   インテリアシートの横に跪くレイ

   レイの手を握るシンジ

シンジ「いいんだ、もう」

   互いに引き寄せあうシンジとレイ

シンジ「これでいいんだ……」

   肩にかかるレイの青い髪に頬をよせ、目を閉じるシンジ

==== 地上 ====

アスカ「……」

   左腕を右手で押さえながら歩いてくるアスカ

   初号機の残骸を見上げる

   頸部からエントリープラグが飛び出しているのが見える

   立ち止まるアスカ

アスカ「エコヒイキ!!」

   初号機の頸部

   ハッチから顔をのぞかせるレイ

262: 2015/11/07(土) 12:15:10.31
アスカ「バカシンジは!?」

   後ろを振り返るレイ

   レイに支えられ、ハッチをくぐって出てくるシンジ

アスカ「……ったく。無理しちゃって」

   苦笑するアスカ   

   初号機の機体の上を伝わって降りてくるシンジ

   ふと立ち止まり、振り返って巨大な頭部を見上げる

   光を失っている初号機の目

シンジ(ありがとう……母さん)

   立ち止まり、シンジを見上げているレイ

   向き直るシンジ

   シンジの顔を不安げに見ているレイ

   寂しげに微笑むシンジ

シンジ「行こう」

   また降り始めるシンジとレイ

   機体の傍ら、こちらを見上げているアスカ

    :
    :

==== とある洋館 ====

   重厚な内装

   カーペットが敷かれた廊下の突き当たり

   分厚い木製のドアが開かれている   

   数多くの警官に脇を固められて出てくるキール・ローレンツ

   警官たちが去った後、扉から出てくる加持

   立ち止まって煙草を加える

   上衣のポケットに手をつっこんで、はたと動きを止める

   上衣のあちこちを手で探り出す加持

   立哨の警官がライターを差し出す

加持「すまん」

   苦笑する加持

警官「いいえ」

   火のついた煙草を吸い込み、天井に向かって長々と煙を吐き出す加持

   天井に行きつかず中空に渦を巻く白いの煙

    :
    :

263: 2015/11/07(土) 12:19:08.70
==== 14年後 晴れた昼下がり 新第三東京市 ====

   山裾に延びる道路に沿って真新しいマンションが立ち並んでいる

   子供たちのはしゃぐ声が響いている

   付近に立つ1棟の外壁に、デザイン化された「6」の文字

==== マンションの一棟(6号棟) 共用廊下 ====

   開いているドアから作業着の男たちが帽子をとってお辞儀をしながら後ずさりに出てくる

作業員「じゃあ、失礼しまーす」

   帽子をかぶり直して通路を歩き出す作業員たち

   見送りに若い男女が出てきて、男たちの去っていく方に頭を下げる

女性「ありがとうございました」

   顔を上げる女性  空色のショートヘア

   しばらく見送ってから部屋に入っていく二人

   閉じるドア

   ドアの脇の表札

   「402 碇」

==== 室内 ====

   戸口に立って、室内をひとわたり眺める女性 赤い瞳

   まだ梱包された家具や段ボール箱が積み上げられている

   部屋を横切ってベランダに出る女性

==== ベランダ ====

   手すりにもたれて屋外の景色を眺める女性

   風が空色の前髪をそよがせる

   眼下の広場では子供たちが嬌声をあげて走り回っている

   道路脇、先ほどの作業員たちが引っ越し業者のロゴが描かれたトラックに乗り込み走り去る

   隣接棟の向こうに新第三東京市の中心ビル群が覗いている

   部屋の奥から黒髪の若い男性が出てきて女性の隣に並ぶ

男性「天気が良くて、よかったね」

女性「そうね」

   しばし黙って景色を見ている

男性「……ホントに、ここでよかったの?」

女性「ええ」

   男性の方に顔を向け、微笑む

   手すりにかけた男性の腕に手を添える

   左手の薬指に指輪が光っている

女性「私たちの、はじまりの場所だもの」

   一瞬、あっけにとられる男性

   じっと見ている女性

男性「そうだね」

   少し紅くなって微笑む男性

   また正面の景色に向き直る二人の後姿

   鳥のさえずり  子供たちの声

   遠くにビル群と山並みが見えている

   二人の髪が風に少し揺れ、また止まる

264: 2015/11/07(土) 12:22:55.47
女性「お茶を入れるわ」

   手すりを離れる女性

男性「あ、僕がやるよ――」

女性「入ったら、呼ぶから」

   微笑んで踵を返し部屋に入る女性

   顔を向けて見送ってからまた正面に向き直る男性(シンジ)

シンジ(綾波……)

   真顔でどこか遠くを見る

シンジ(これで、よかったんだよね……)

   街並みを眺めながら心の中でつぶやく

   子供たちの声が響いている

==== 室内 ====

   部屋を横切る女性(レイ)

   ダンボール箱のひとつ  写真の額が少し覗いている

   結婚式の写真

   中央で正装しているシンジとレイ

   とりまく元パイロット、ネルフ職員の面々

   成人したサクラの顔も見える

   部屋の隅に置かれた姿見の前でふと足を止めるレイ

   鏡に相対する

   真顔で鏡を覗き込んでいる

   鏡の中  学校の制服を着た少女が佇んでいる

少女「……」

レイ『あなたは、これでいいの?』

   空色の髪 紅い瞳 無表情にレイを見つめ返している

少女(別レイ)『ええ』

   鏡の中のもうひとりのレイ(別レイ)と相対するレイ

レイ『なら……なぜ、あなたは泣いているの?』

   少女の手が少し震えて自分の頬まで持ち上がる

   涙のあとを指先で触れるもうひとりのレイ

別レイ『わからない』

レイ『あなたには、感謝している』

別レイ『……』

レイ『あの人を、私のところに連れてきてくれたから。でも――』

別レイ『……』

レイ『私は知りたい。あなたしか知らない、あの人の時間のことを』

別レイ『知らない』

   少し声が震えている

別レイ『私も、知らない』

   涙にぬれた目でレイを見る鏡の中の少女

レイ『いいえ』

   首を振るレイ

265: 2015/11/07(土) 12:24:05.44
   少し怯えた表情で鏡の中から見つめ返している

   優しげに微笑みかけるレイ

レイ「……」

   ゆっくりと差出した手の指先を鏡の面に沿わせ、掌をつける

   鏡の中の少女の手が持ち上がり、レイの掌に自分の手のひらを鏡越しに触れさせる

   鏡に触れた掌を中心に波紋が広がる

   波紋が重なり合い、鏡の中の像は乱れ判別がつかなくなる

レイ「……」

   波紋がおさまり、ただの鏡に戻っている

   鏡の中にもう少女はおらず、レイ自身の姿しかない

    :
    :

==== ベランダ ====

   景色を眺めているシンジ

   ふと我に返り、屋内を振り返る

シンジ「……レイ?」

   返事がない

シンジ「……」

   部屋に戻ろうと体の向きを変えるシンジ

   奥から、少し伏し目がち歩いてくるレイ

   すまなそうに笑うシンジ

シンジ「ごめん、わかんなかったかな……青いしるしを付けた箱に――」

   立ち止まり、シンジを見つめ返しているレイ
  
シンジ「……?」

   眉をひそめるシンジ

レイ「……碇くん」

シンジ「!」

   ぎこちなく微笑むレイ

   目を見開くシンジ

シンジ「綾……波?」

266: 2015/11/07(土) 12:27:17.42
   笑って首を振るレイ

シンジ「え?」

レイ「同じだから」

シンジ「……同じ?」

レイ「あの時も、今も――」

   先ほどより柔らかく微笑むレイ

レイ「これからも」

   レイの顔を見るシンジ

   エントリープラグの中、プラグスーツ姿で微笑み返すレイの顔が重なる

   シンジの顔を見上げているレイ

   ハッチの縁に手をかけ、涙を浮かべて微笑んでいるプラグスーツ姿のシンジの顔が重なる

==== ベランダ俯瞰 ====

   互いに歩み寄るシンジとレイ

==== 6号棟俯瞰 ====

   手前の広場で子供たちが駆けまわっている

   ベランダの上、ゆっくりど抱きしめあうシンジとレイの姿がぽつんと見える

==== 市街地俯瞰 ====

   行きかう人々、車の列

   芦ノ湖の湖面にのびる船の航跡

   箱根の外輪山越しに見える、雪を頂いた富士の山容

   :
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**** Omit Scene ここまで ****

(ONE MORE FINAL おわり)

─── 終劇 ───

268: 2015/11/07(土) 21:11:44.71
おつ、『綾波』と結ばれたんだね
いいSSだった。まさにリリンが産んだ文化の極み

引用元: エヴァ Omit Scenes