1: 2009/05/24(日) 15:18:12.40
のび太「少し寝過ぎたかなぁ?」

2: 2009/05/24(日) 15:20:06.96
のび太が目を覚ますと、部屋にはすでに夕陽が差し込んでいた

のび太「お腹すいた…寝過ぎたせいか身体もなんかダルいや…」

のび太「ママー、ママー?」

のび太は階段を降りながら呼び掛けたが、返ってくるのは静寂だけ

4: 2009/05/24(日) 15:21:50.76
のび太「出掛けているのかな…?」

そう呟き階段を降りきったのび太は驚いた

あたりには血が飛び散り、夕陽とは違う赤に染まっていたからだ

のび太「うわああああ!い、一体何が…何があったんだ…!?」

7: 2009/05/24(日) 15:24:03.63
のび太は廊下に人が血まみれで倒れているのに気がついた

のび太「…?ジャイアン…!?スネ夫…!?」

二人は呼吸をしていなかった

のび太「そんな…そんな…」

ふと居間に目をやると、襖の隙間から血がみえた

9: 2009/05/24(日) 15:26:58.14
のび太「まさか…ママ!?パパ!?」

のび太は襖を開けた

そこには、すでに事切れた二人の亡骸があった

のび太「ママああああ!パパああああ!そんな…そんなあ…」

のび太「ぼ、僕が寝ている間に、一体何が……!?」

12: 2009/05/24(日) 15:28:09.11
のび太「…ドラえもん…そうだ…ドラえもんは!?ドラえもーーん!!」

のび太はドラえもんの名を叫んだ

しかし、返ってくるのは相変わらず静寂だけ

のび太「ドラえもん、こんなときにどこにいるんだよ…まさか…ドラえもんも…」

しばらくうつむいたまま、動けないのび太

16: 2009/05/24(日) 15:29:14.74
のび太「そうだ!タイムマシン!」

のび太が閃いたそのとき、玄関の戸が開いた

のび太がそちらをみると、そこには見覚えのある二人がいた

出来杉としずかだった

17: 2009/05/24(日) 15:30:38.69
二人はあたりの凄惨な光景に、驚きを隠せない様子だった

のび太「ふ、二人とも大変だよ!ママやパパやジャイアンやスネ夫が…」

のび太が言い切らないうちに、出来杉は傘立てから傘を一本手にとり、のび太に襲いかかった

のび太「出来杉くん!何をするんだ!!」

19: 2009/05/24(日) 15:32:24.85
のび太の言葉にも耳を貸さず、出来杉はのび太に向けて傘を突き刺してきた

のび太「うわっ!」

傘はのび太の左太股に刺さった

のび太「ぐっ!まさか…君がみんなを…!?」

出来杉の目は血走っている

20: 2009/05/24(日) 15:35:21.31
なおも出来杉は執拗に傘で突いてくる

のび太はそれらをなんとか防ぎ、足を引きずりながら二階の自分の部屋へと逃げ込んだ

のび太の身体は傷だらけだった

のび太「このままじゃ出来杉のやつに殺される…!なんとかしなきゃ…!」

辺りを見渡したのび太の目に野球のバットがとまった

22: 2009/05/24(日) 15:37:41.56
のび太「これで身を守るしか…」

のび太がバットに手をかけたそのとき、ゆっくり階段を上がってくる音が聞こえてきた

のび太「く、くる…!」

のび太は、バットを強く握りしめた

ギシッ、ギシッと階段の軋む音が近づいてくる

24: 2009/05/24(日) 15:39:23.25
バットを握った手にジンワリと汗が滲む

音は、のび太の部屋の前で止まった

のび太は息を頃し、出来杉が姿みえるのを待った

そして、スッと襖が開いた

のび太「うわああああああああああ」

叫び声とともに、のび太は出来杉に襲いかかり、手に持ったバットで殴った

25: 2009/05/24(日) 15:40:52.66
不意打ちを頭にくらった出来杉は、その場に崩れ落ちるように倒れ込んだ

さらにのび太は出来杉に抵抗する隙を与えぬよう、執拗に殴った

殴った

殴りつけた

何度も

何度も


のび太は、出来杉が動かなくなってもさらに殴り続けた…

29: 2009/05/24(日) 15:43:32.03
のび太「はあ、はあ、はあ、出来杉…なんで…なんでこんなことを…」

のび太はただの肉塊と化した出来杉に問いかけた

しかし返事は返ってくるはずもなく、空しい静寂だけが辺りを包んだ

39: 2009/05/24(日) 15:50:15.87
のび太が出木杉だったものの前で立ち尽くしていると、急に耳鳴りとともに目眩がしてきた

のび太「あれ?クラクラする…」

血を流しすぎたのか、のび太は意識を失った

遠くでサイレンの音が聞こえた気がした……………

42: 2009/05/24(日) 15:52:37.40
……………のび太が気が付くと、そこは薄暗い部屋だった

机を挟んで中年の男と若い男がいる

ふと辺りを見渡すと、のび太は出木杉につけられた傷が治療されているのに気が付いた

のび太「これはあなたが手当てしてくれたんですか?」

中年の男「…?何を言っているんだね?」

44: 2009/05/24(日) 15:54:20.86
男はため息を一つ溢し、のび太に問いかけた

中年の男「何度も聞くが、なぜあんなことをしたんだね?」

のび太「あんなこと…?何を言っているんです?そ、そうだ!それより大変です!出木杉がみんなを…!」

中年の男「知っているよ、何があったのか」

のび太「そ、そうですか…それで…ここは?」

45: 2009/05/24(日) 15:56:22.75
中年の男「ここは警察だよ、のび太くん。そして今、君の取り調べ中なんだ…」

のび太「え…?」

のび太は何が起きているのか理解できなかった

のび太「一体どういうことですか!?」

中年の男「君が、みんなを殺害したんだよ…のび太くん」

47: 2009/05/24(日) 15:58:47.73
のび太「そ、そんな!何を言っているんですか!?

のび太「僕は出木杉が襲ってきたから、自分の身を守っただけです!!

のび太「他のみんなは目が覚めたときにはもう…!!」

のび太はパニックに陥り、とても取り調べができる状況ではなかった

50: 2009/05/24(日) 16:00:43.38
取り調べを一時中断し、中年の男と若い男は困り果てていた

若い男「困りましたね…あんな調子では」

中年の男「うむ、精神鑑定が必要かも知れないな…」
若い男「多重人格…というやつですかね…?」

52: 2009/05/24(日) 16:02:36.01
中年の男「断定はできんよ…。だが可能性は大いにある…」

中年の男「取り調べ当初の彼と、今の彼ではあまりに違いすぎるからな…」

若い男「これから…大変ですね……」

二人はチラリと取り調べ室のほうをみた………………

55: 2009/05/24(日) 16:05:33.30
……………遡ること一週間ほど前

出木杉「え?のび太くんの様子がおかしい?」

ドラえもん「そうなんだ…最近…突然人が変わったように暴れることが多くて…」

ドラえもん「ボクやママやパパを殴ったりもするんだ…。でものび太くんはそのことをすぐ忘れちゃうみたいで…」

出木杉「うーん……。解離性同一障害かもしれないね。」

59: 2009/05/24(日) 16:07:22.53
しずか「なーに?それ」

出木杉「解離性同一障害。多重人格障害ともいわれる場合があるね。」

出来杉「人間は想像を絶する苦痛に見舞われた場合に、防衛機制として解離という現象を起こすことがあるらしいんだ。」

60: 2009/05/24(日) 16:09:17.77
出木杉「痛覚や知覚や記憶や意識などを、自我から切り離すことによって苦痛から逃れようとするんだね。」

出木杉「解離性同一性障害は、この解離現象が繰り返し起こることによって、自我の同一性が損なわれる病らしいんだ。」

しずか「なんだかよくわからないわ。」

62: 2009/05/24(日) 16:11:43.85
出木杉「つまり、繰り返し強い心的外傷を受けた場合、自分を守るために、その心的外傷が自分とは違う『別の誰か』に起こったことにしてしまうんだ」

出木杉「心的外傷を受けるたびに『別の誰か』になり、それが終わるとまた元の自分に戻る。」

ドラえもん「じゃあのび太くんはその『別の誰か』のせいで…?」

出木杉「断定は出来ないよ。でもこの障害をもった人の多くは、『別の誰か』になっている間の記憶を覚えていないらしいから、ドラえもんの話と辻褄はあうね。」

65: 2009/05/24(日) 16:14:24.11
しずか「のび太さんがその病気だとしたら、治す方法はあるのかしら」

出木杉「そればかりは僕も詳しくはわからないよ。近年明らかになってきた病だしね。」

出木杉「でも治っている人もいるみたいだから、早めに病院に連れていった方がいいんじゃないかな?」

ドラえもん「ありがとう、出木杉くん…。引きずってでものび太くんを病院に連れていくよ。」

ドラえもんとしずかは出木杉の家を後にした

67: 2009/05/24(日) 16:17:05.31
しずか「のび太さんに一体何が起きたのかしら…。」

ドラえもん「ボクにもわからないよ…。でも心的外傷だけになら思い当たる節がある…。」

しずか「………たけしさんと、スネ夫さんね?」

ドラえもん「…うん。だけどそれだけじゃないんだ…。毎日のようにパパやママに叱られ、学校でも先生に叱られて、のび太くんにとって嫌なことはいっぱいあったんだ…」

しずか「そうなの…」

68: 2009/05/24(日) 16:21:31.18
ドラえもん「それに、のび太くんが病気になったんだとしたら、ボクにも責任がある。」

しずか「ドラちゃんは悪くないわよ。」

ドラえもん「いや、のび太くんがそこまで苦しんでいたのに、今まで気付いてあげられなかった…。だから…」

しずか「ドラちゃん……」
ドラえもん「あとはボクにまかせて。のび太くんのこと、心配してくれてありがとう…。」

そう言ってドラえもんは一人、のび太の家へと帰っていった

78: 2009/05/24(日) 16:29:21.62
それから数日後、町を歩くしずかは、しょんぼり歩くドラえもんの姿をみつけた

しずか「ドラちゃん!!」
ドラえもん「?ああ、しずかちゃんか…」

しずか「どうしたの?元気がないみたいだけど…」

しずか「それにあちこち傷だらけで…。まさか、のび太さんが…?」

ドラえもんは黙って頷いた

79: 2009/05/24(日) 16:33:19.87
しずか「そんな…病院には連れていかなかったの?」
ドラえもん「連れていこうとしたさ…。あのあとすぐに…」

ドラえもん「でもダメなんだ…。連れていこうとすると、ひどく暴れだしてさ…。」

ドラえもんの唇は小刻みに震えている

81: 2009/05/24(日) 16:36:28.09
ドラえもん「毎日毎日何度も何度も連れていこうとしたけど…やっぱり、ダメなんだ…」

しずか「ドラちゃん…」

ドラえもん「でも、ボクは諦めない。何としてものび太くんを病院に連れていくよ。」

しずか「ええ!頑張ってね!ドラちゃん!わたしに出来ることがあったら何でも言って。協力するから」

ドラえもん「ありがとう…。それじゃ…。」

92: 2009/05/24(日) 17:20:00.65
ドラえもんと別れ、帰ろうとしたしずかは、途中、見覚えのある二人に出くわした

ジャイアンとスネ夫だった

ジャイアン「よう、しずかちゃん」

スネ夫「やあ」

しずか「たけしさん…、スネ夫さん…」

93: 2009/05/24(日) 17:23:23.10
ジャイアン「そういや噂で聞いたんだけどよ。最近、のび太のやつ、なんか様子がおかしいんだって?」

スネ夫「どうせまたテストで0点とって、落ち込んでるだけでしょ。ハハハハハハハ」

ジャイアン「のび太のやつならありえるな。ガハハハハハハ」

しずかは、二人の態度に小さな怒りを覚えた

が、少し迷いながらも、二人にのび太のことについて話しはじめた

94: 2009/05/24(日) 17:26:24.79
しかし、しずかは二人に、解離性同一障害の原因になるとされている、心的外傷のことだけは話さなかった

話してしまったら、二人が傷つくことを知っていたから

ジャイアン「マジかよ…。それ…」

スネ夫「そんな…」

ジャイアン「なんで…なんでのび太はそんなことに?」

しずかには、答えられなかった…

97: 2009/05/24(日) 17:31:06.83
長い長い沈黙ののち、ようやくスネ夫が口を開いた

スネ夫「……ぼくたちの……せいかなぁ」

ジャイアン「え?」

スネ夫「ぼくたちが、のび太にひどいことしてたから…」

ジャイアン「……そうだな、散々のび太に…辛く当たってきたからな…。そういう病気になっても、おかしくないのかもな…」

98: 2009/05/24(日) 17:34:07.53
しずか「そ、そんなことないわ!」

しずかはわざと明るい声で言ったが、動揺は全く隠せていない

スネ夫「嘘、つかないでよ、しずかちゃん」

ジャイアン「本当は、のび太が病気になった原因、知っているんだろ?」

しずか「そ、それは…」

99: 2009/05/24(日) 17:37:15.62
ジャイアン「頼む!本当のことを教えてくれ!この通りだ!!」

ジャイアンは、その場に土下座した

スネ夫「ぼくからもお願いする!!」

しずか「………原因を知って、どうするの…?」

100: 2009/05/24(日) 17:40:13.72
ジャイアン「…病気になった原因が、俺たちにあるのなら……」

ジャイアン「……のび太に、謝りたい…………」

再び長い長い沈黙が、三人に重くのしかかった

107: 2009/05/24(日) 18:23:56.57
しずか「…わかったわ……」

ようやく、しずかが沈黙を破り、原因と思われる心的外傷のことについて話し出した

ジャイアン「やっぱり…俺たちのせいで……」

スネ夫「のび太……」

109: 2009/05/24(日) 18:26:29.06
しずか「二人とも、安心して。出木杉さんが言うには、治らない病気ではないらしいの。」

しずか「今、ドラちゃんがのび太さんを病院に連れていこうと頑張っているわ」

しずか「きっと、すぐにもとののび太さんに戻るわよ」

ジャイアン「そうだと、いいけどな…」

スネ夫「それでも…やっぱり、のび太にちゃんと謝らなくちゃ……」

110: 2009/05/24(日) 18:28:46.07
ジャイアン「そうだな…。のび太に、謝りに行こう…!」

スネ夫「うん…!」

ジャイアン「でも…いざ謝るとなると、心の準備が…」

スネ夫「ぼ、ぼくも…。のび太に許してもらえなかったらと思うと不安で…」

111: 2009/05/24(日) 18:31:22.40
ジャイアン「…明日、明日謝りに行こうぜ!なぁ、スネ夫」

スネ夫「そ、そうだね…。ほ、ぼくもそれがいいと思う…。」

ジャイアン「よし!それじゃ、明日までに腹くくれよ、スネ夫!」

スネ夫「う、うん」

しずか「二人とも頑張ってね…!のび太さんなら、優しいからきっと許してくれるわ。」

114: 2009/05/24(日) 18:34:03.68
ジャイアン「ありがとな、しずかちゃん」

スネ夫「ぼくたちが悪いんだから、当然だよ…」

ジャイアン「じゃあな、しずかちゃん。のび太の病気が治ったら、またみんなで遊ぼうな!」

スネ夫「その前に、しっかりのび太に許してもらわないとね。」

ジャイアン「わ、わかってるよ!」

しずか「フフフ…じゃあ、またね」

126: 2009/05/24(日) 19:53:38.68
三人はその場で別れ、それぞれの家路についた

しずか「明日…。明日か…。」

しずか「日曜日だし、わたしもピアノのレッスンが終わったら、のび太さんの様子を見に行ってみようかしら」

歩きながらそんなことを考え、しずかは家へと急いだ

127: 2009/05/24(日) 19:56:01.92
翌日、のび太の家では…


ドラえもん「のび太くん、病院に行こう」

のび太「最近どうしたんだい?やけに病院に連れていきたがるじゃないか?」

のび太「行かないって言っただろう?」

128: 2009/05/24(日) 19:59:02.52
のび太「第一、僕はどこも悪くないよ。なのに病院に行こうなんて。」

のび太「そりゃあ頭は悪いけど、病院に行って治るものじゃないことくらい、いくらなんでもわかるよ」

ドラえもん「いいから、病院に行こう」

のび太「行かないったら行かないよ。理由がないもの」

ドラえもん「頼むから…!」

129: 2009/05/24(日) 20:01:43.72
のび太「それなら理由を教えてよ、ドラえもん。僕が病院に行かなきゃいけない理由をさ」

ドラえもん「それは………。言えないよ」

のび太「言えないと言うなら、僕は絶対に行かないよ」

ドラえもん「意地でも行かないって言うなら、ボクは力ずくでも君を病院に連れていくぞ!!」

のび太「やってみれば?」

そう言ったのび太に、耳鳴りと目眩が……

131: 2009/05/24(日) 20:05:18.42
ドラえもん「?どうかしたの?のび太くん」

異変に気付いたドラえもんが心配そうに見つめる

のび太?「ああ、何でもないよ…ドラえもん」

のび太?「それより、病院だったね。さあ、行こうじゃないか。」

ドラえもん「ほ、本当にかい?」

のび太?「ああ、本当だとも。さあ、善は急げだ」

ドラえもん「うん…!うん…!」

132: 2009/05/24(日) 20:07:38.83
ドラえもんがのび太に背を向けた途端、頭部に衝撃が走った

ドラえもん「ま、まさか、き、君は…のび太くんじゃ…な…」

ドラえもんが喋りきらないうちに、次の衝撃が、また次の衝撃が頭部に襲いかかってくる

ドラえもんは、振り返ることすらできずに、完全に機能を停止した

のび太?「やれやれ、ようやく邪魔ものが消えたか…」

133: 2009/05/24(日) 20:10:00.56
そう言ってのび太は手に持ったバットを投げ捨てた

のび太?「俺を消されては困るのでな。悪く思うなよ、ドラえもん。」

のび太はボロボロに壊れたドラえもんを押し入れの中に押し込んだ

そして、その足で階段を降り、台所へ向かった

143: 2009/05/24(日) 20:53:31.31
のび太は包丁を手にし、居間へと足を向けた

居間からは、テレビの音と笑い声が漏れている

居間の前までくると、のび太は包丁を後ろ手に隠した

そして、のび太は、そっと襖を開けた

144: 2009/05/24(日) 20:54:35.83
ママ「あら?のびちゃん。どうかしたの?」

パパ「宿題は終わったのか?」

のび太?「うん…。今、終わらせるところなんだ…」

145: 2009/05/24(日) 20:57:23.44
その頃、ジャイアンとスネ夫は……

ジャイアン「よう!スネ夫!遅かったじゃねぇか」

スネ夫「ごめんごめん。いざとなったら、ちょっと怖くなっちゃってさ…」

ジャイアン「怖いのは、俺も同じだ…」

スネ夫「ジャイアンも…?」

146: 2009/05/24(日) 21:00:31.57
ジャイアン「ああ、今までのび太にしてきたことを考えるとな…」

スネ夫「そっか…」

ジャイアン「おいおい!しんみりするのは、のび太に謝って、ちゃんと許してもらってからにしようぜ!」

スネ夫「そ、そうだね…。」

ジャイアン「さあ、行くぞ!」

スネ夫「う、うん!」

二人は剛田家を後にし、のび太の家へと向かった

147: 2009/05/24(日) 21:02:56.93
スネ夫「…でも、やっぱり気が引けるな…」

のび太の家に向かう道を歩きながら、スネ夫がポツリと呟いた

ジャイアン「おいおい、腹くくってきたんじゃないのかよ…?」

スネ夫「くくってきたつもりだよ…。のび太に殴られるくらいの覚悟はしてきたつもり…。だけど…」

150: 2009/05/24(日) 21:04:52.72
スネ夫「これまで、ぼくは、のび太に本当にひどいことしてきたんだなって…」

スネ夫「それに気付いて、考えるようになってから、のび太に申し訳ない気持ちで一杯で…。ぼくは…」

ジャイアン「そうだな…。だけど、だからこそ、ちゃんとのび太に謝らなきゃいけないんだ…。そうだろ?スネ夫」

スネ夫「うん…わかってるけど…やっぱり…」

151: 2009/05/24(日) 21:09:17.28
ジャイアン「……のび太は、優しいやつだ。優しすぎるくらいに、優しいやつだ。」

ジャイアン「俺たちが本気で反省して、本気で謝ったなら、きっと、許してくれるさ」

スネ夫「そ、そうだよね…。うん…きっとそうだ。あいつは、バカみたいに優しいやつだから…」

ジャイアン「ああ、そうだ!俺たちがちゃんと謝って、のび太の病気を治す手助けをしてやろうぜ!」

スネ夫「うん!」

そんなことを話しているうちに、二人はのび太の家に着いてしまった

152: 2009/05/24(日) 21:11:14.18
ジャイアン「いよいよだな…スネ夫」

スネ夫「う、うん…!」

二人はのび太の家の玄関の戸を、恐る恐る開けた…

161: 2009/05/24(日) 22:03:14.62
ジャイアン「ご、ごめんください!のび太くんはいますか!!」

ジャイアンの大きな声が、のび太の家に響き渡った

すると、奥の部屋からのび太が出てきた

のび太?「やあ、ジャイアンにスネ夫じゃないか…」

のび太?「ちょうどいいところにきた。僕も二人に用があったんだ」

163: 2009/05/24(日) 22:05:34.06
ジャイアン「そ、その前に、お、俺たちの話を聞いてくれないか?」

ジャイアンは酷く緊張している

のび太?「ああ、いいとも。なんだい?」

ジャイアン「じ、実は、お、俺たち…その…。のび太に、謝りたくてよ…」

のび太?「謝る?何を?」
ジャイアン「その…今までのことをさ…。」

164: 2009/05/24(日) 22:07:23.74
スネ夫「これまでぼくたち、のび太にひどいことしてきたろ?だからさ…」

のび太?「ああ、なんだ…そんなことか…」

のび太?「気にすることはないよ」

ジャイアン「ほ、本当か!?」

のび太「ああ、本当だとも」

ジャイアン「よ、よかったな、スネ夫!」

スネ夫「うん!」

165: 2009/05/24(日) 22:09:31.25
のび太?「そんなことよりも、まあ、上がりなよ…。」

ジャイアン「お、おう」

スネ夫「お邪魔しまーす」
二人は靴を脱ぎ、家の中へ入って行った

167: 2009/05/24(日) 22:10:35.94
のび太?「そうだ…。そこでちょっと待っていてくれないかい?」

途中でのび太は足を止めて言った

ジャイアン「お、おう」

スネ夫「うん」

のび太は二人をその場に待たせ、奥にある台所へと消えていった

168: 2009/05/24(日) 22:12:06.06
スネ夫「ホント、よかったね…ジャイアン」

ジャイアン「ああ!のび太に許してもらえたんだ…!よかったと思わないはずがないだろ…?」

二人は今にも泣き出しそうなのを、必氏に堪えた

スネ夫「そういえば、のび太がぼくたちに用があるって言ってたけど…」

スネ夫「一体なんなんだろうね?」

169: 2009/05/24(日) 22:15:01.94
ジャイアン「さあな…。戻ってきたら聞いてみようぜ」

スネ夫「そうだね…。ん?」

のび太を待つ間に、スネ夫は、すぐ傍の部屋の隙間から、赤い液体が流れ出しているのをみつけてしまった

スネ夫「なんだろ?この赤いの…」

スネ夫は疑問に思い、ちょっとした好奇心からか、音を立てないように襖をそっと開けた

170: 2009/05/24(日) 22:16:42.11
スネ夫「うわああああああ!」

ジャイアン「どうした!?スネ…わああああああ!」

そこは、辺り一面血の海だった

部屋の隅に、のび太の両親らしき遺体が二つ重なって倒れていた

のび太?「あーあ、見つかっちゃったか…」

ジャイアンとスネ夫のすぐ後ろで、のび太の声がした

172: 2009/05/24(日) 22:20:36.63
のび太?「抵抗されたりすると面倒だからねぇ…」

のび太?「本当は君たちを、俺より先に階段をのぼらせてさ…」

のび太?「後ろからこいつで刺して始末するつもりだったのになぁ…」

のび太の手には包丁が握られている

のび太?「残念…。予定が変わっちゃったよ…」

のび太?「まあ、いいか。ここでやれば…」

174: 2009/05/24(日) 22:22:24.87
ジャイアン「スネ夫!逃げろ!」

スネ夫「ジャイアン!」

ジャイアンはのび太に掴みかかった

175: 2009/05/24(日) 22:25:36.36
ジャイアン「こいつは、のび太の姿をしているが、中身はのび太なんかじゃない!!」

ジャイアン「早く逃げろ!スネ夫!殺されるぞ!!」

のび太?「逃がさない…。二人ともまとめてあの世に送ってあげるよ…!」

揉み合う二人に何もできないスネ夫

恐怖と混乱から、スネ夫はその場から一歩も動くことができなかった

191: 2009/05/24(日) 23:02:24.82
のび太?「ふん…手間取らせやがって…」

スネ夫が気付いたときには、既にジャイアンは血まみれで倒れていた

スネ夫「ジャ、ジャイアン…!」

のび太?「安心しろよ、スネ夫…。苦しまないようにしてやるからさ…」

そう言って近付くのび太

192: 2009/05/24(日) 23:03:58.18
スネ夫「ち、近付くな…」

のび太?「向こうへ行っても寂しくはないさ。ジャイアンがいる…」

スネ夫「ま、待っ…」

のび太?「待てないよ。ジャイアンがお前が来るのを待っているんだ」

スネ夫「や、やめ…」

のび太?「やめてといっても、お前たちはやめてくれなかっただろう?」

またもスネ夫に近付くのび太

193: 2009/05/24(日) 23:07:12.41
のび太は包丁を逆手に持ち、振り上げた

のび太?「ダメだね…」

そして、スネ夫目掛け一気に降り下ろした

スネ夫「ひ…ひぎゃああああああああああ」

家中に悲痛な叫び声が響き渡った

194: 2009/05/24(日) 23:10:27.67
のび太?「あーあ、また服が返り血で汚れちゃったよ…」

遺体の前で、のび太は呟く

のび太?「さっき取りかえたばかりなのになぁ、全く」

のび太?「シャワーもまた浴びなきゃな」

のび太?「しかし疲れたな。シャワーを浴びたら少し休むかな…」

のび太は風呂場に向かった

195: 2009/05/24(日) 23:13:18.67
一方、その頃しずかはピアノのレッスンを終えたところだった

しずか「随分長引いちゃったわ…。」

冷たい夕陽に照らされ、しずかの影は長くのびていた

しずか「今頃、たけしさんとスネ夫さんは、のび太さんと仲直りできてるかしら」

しずかはのび太の家へと向かった

196: 2009/05/24(日) 23:14:59.11
途中、しずかは反対側から歩いてくる男の子を見つけた

しずか「あら?出木杉さん」

出木杉「やあ、しずかちゃん。今帰り?」

しずか「ええ、ピアノのレッスンが遅くなっちゃって」

出木杉「そうなんだ…。大変だね。」

197: 2009/05/24(日) 23:17:24.72
しずか「出木杉さんは?」

出木杉「僕はお使いの帰りさ。」

出木杉「ところで、家に帰るには、方向が違うんじゃないかい?」

しずか「帰る前に、のび太さんの様子を見に行こうかと思って」

出木杉「今からかい?」

198: 2009/05/24(日) 23:22:19.08
しずか「ええ。そうだ!出木杉さんも一緒に行きましょうよ」

出木杉「え?僕が行ってもいいのかなぁ」

しずか「ええ。のび太さんもきっと喜んでくれるわ。」

出木杉「そうだなぁ…。僕ものび太くんのことは気になるし…。」


出木杉「うん。そうだね。お言葉に甘えさせてもらうとするよ」

二人はのび太の家へと向かった

199: 2009/05/24(日) 23:24:14.23
また書いてくる

210: 2009/05/25(月) 00:05:16.25
しずかと出木杉は、のび太の家の前に着いた

家の中からは物音一つ聞こえない

しずか「やけに静かね…。誰もいないのかしら」

出木杉「ドラえもんが、のび太くんを病院に連れていったのかもしれないよ」

しずか「そうかもしれないわね…。会えないのはちょっと残念だけど、それならそれでよかったわ…」

出木杉「あれ?でも家の中からかすかに声が聞こえるよ」

213: 2009/05/25(月) 00:09:22.51
耳を澄ますしずか

すると、かすかに誰かが喋っているような声が耳に届いた

しずか「…本当。誰かいるのね。」

出木杉「のび太くんかな?」

しずか「わからないわ。」
出木杉「ともかく開けてみよう」

しずか「そうね…」

出木杉は玄関の戸を開けた

215: 2009/05/25(月) 00:14:03.46
出木杉「っ!?」

入ってすぐ、二人は異変に気付いた

辺りには血が飛び散り、すぐ先には血にまみれた人が倒れていたからだ

しずかはあまりの凄惨な光景に、悲鳴をあげることすらできなかった

二人はあまりの衝撃に立ち尽くすほかなかった

ふと出木杉は倒れている人の方を見た

そして、倒れている人の傍でうずくまっている男に気が付いた

216: 2009/05/25(月) 00:15:36.92
のび太だった

のび太を見た瞬間、出木杉はこの場で何が起きたのかを悟った

のび太という少年が、いや、のび太の姿をした別人が、このような凄惨な光景を作り出したのだと…

出木杉(こ、これは…)

出木杉は隣にいるしずかにチラリと目をやった

218: 2009/05/25(月) 00:17:00.51
しずかは青い顔して、震えている

恐怖で声すらあげられないようだ

出木杉(しずかちゃんを…しずかちゃんだけは守らないと…)

出木杉は武器になりそうなものを探した

だが玄関の周りにあるのは靴や飾りの置物だけ

出木杉(これじゃ、しずかちゃんを守れない…)

219: 2009/05/25(月) 00:20:24.62
そう考えている出木杉は、傘立ての傘に気が付いた

出木杉(これなら、なんとか…)

出木杉(でも…これじゃあ下手をすればのび太くんの命を奪ってしまうかもしれない…)

出木杉(それにまだ、うずくまっているのが、のび太くんの別人格と決まったわけじゃない…)

出木杉が一人、考え、悩んでいると、のび太が立ち上がり近付いてきた

220: 2009/05/25(月) 00:22:19.44
のび太「ふ、二人とも大変だよ!ママやパパやジャイアンやスネ夫が…」

出木杉(っ!迷っている暇はない…!しずかちゃんを守るんだ…!)

出木杉は傘を手にとり、のび太に襲いかかった

のび太「出来杉くん!何をするんだ!!」

出木杉はのび太に向けて傘を突き刺した

のび太「うわっ!」

223: 2009/05/25(月) 00:24:57.17
傘はのび太の左太股に突き刺さった

のび太「ぐっ!まさか…君がみんなを…!?」

出木杉(しずかちゃんは…しずかちゃんは僕が守る…!)

出木杉はしずかを守りたい一心で、のび太に向かって傘を突いた

244: 2009/05/25(月) 02:07:26.72
のび太は、出木杉が傘で突いてくるのをなんとか振り払った

そして、足を引きずり、二階へと逃げていった

出木杉「はあ、はあ、はあ」

しずか「で、出木杉さん…」

出木杉に近寄り、しずかがようやく言葉を発した

246: 2009/05/25(月) 02:09:53.42
出木杉「はあ、はあ、しずかちゃん…僕は大丈夫だよ。

出木杉「でも、のび太くんにケガをさせちゃった…あとで謝らなきゃ…」

しずか「ど、どうして突然あんなことを…」

出木杉「ああしなければ、僕たちが殺されるかも知れないと思ったからね…」

しずか「じ、じゃあ、や、やっぱり、こ、これをのび太さんが?」

恐る恐る辺りを見渡しながら、しずかが尋ねた

247: 2009/05/25(月) 02:14:31.07
そして、辺りを見渡した結果、血まみれで倒れている人物が誰なのか、しずかは気付いてしまった

しずか「っ!たけしさん…!スネ夫さん…!そんな…」

しずか「また、みんなで遊ぼうって…約束したじゃない…」

しずか「なのに…こんなのって……。う、ううっ」

しずかは、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ

目からは、大粒の涙が止めどなく流れ落ちていた

248: 2009/05/25(月) 02:18:23.35
泣き崩れるしずかを見て、出木杉は決意を固めた

出木杉「……僕はのび太くんのところに行く」

しずか「何を、言ってるの…?そんなの、危険よ…」

顔をあげ、しずかは泣きながら出木杉を引き止めた

出木杉「大丈夫だよ…しずかちゃん」

出木杉「あれは、きっといつもの優しいのび太くんさ。『別の誰か』なんかじゃない」

しずか「どうして…!?どうしてそう言い切れるのよ…!?」

249: 2009/05/25(月) 02:24:09.82
出木杉「さっきは無我夢中で気付かなかったけど、あの時ののび太くんの目、凄く優しかったんだ…」

出木杉「それに、僕に向かって言ったじゃないか」

出木杉「まさか君がみんなを?ってさ」

出木杉「さっきののび太くんが別人格だとしたら、そんなことを言うのはおかしいんじゃないかな…?」

しずか「そんな…!演技かも知れないじゃない…!」

252: 2009/05/25(月) 02:27:10.92
出木杉「僕は、彼がのび太くん自身だと信じるよ」

しずか「それでも…危険なのは変わりはないわ…!」

しずか「さっきはのび太さんだったとしても、今は違うかもしれないじゃない…!」

しずかの嗚咽まじりの言葉にも、出木杉の決意は揺るがなかった

254: 2009/05/25(月) 02:32:01.48
出木杉「はは、大丈夫だよ。のび太くんのところに行って、病気のこと、説明してくるよ」

出木杉「それが、のび太くんを傷つけることになっても…ね」

しずか「でも…」

出木杉「それに、彼は武器になるようなものを持ってなかった」

出木杉「いくら人格が変わっても、武器を持った相手には敵わないはずさ」

そう言って出木杉は傘を軽く持ち上げてみせた

269: 2009/05/25(月) 03:29:24.57
いつの間にか、しずかは泣き止んでいた

しずか「わかったわ…。でも気をつけて…」

出木杉「うん。ありがとう…」

出木杉はしずかの言葉に、緊張が少し和らいだことに気が付いていた

出木杉「しずかちゃんは早くこの家を出るんだ」

出木杉「こんな悲惨な場所に、女の子一人だけ残していくなんて、さすがに気がひけるからね」

270: 2009/05/25(月) 03:31:07.71
しずか「出木杉さん…」

出木杉「それと、家を出たら、警察を呼んでくれないかな…」

出木杉「さすがにこの状況で、いつまでも警察を呼ばないのはまずいからね」

しずか「ええ…わかったわ」

出木杉「ありがとう…それじゃ、行くんだ…」

しずかはゆっくりと立ち上がり、何度も振り返りながら家を出ていった

271: 2009/05/25(月) 03:33:01.85
出木杉「さてと…」

しずかが家を出たのを確認した出木杉は、階段へと身体を向けた

出木杉(ああは言ったものの、やっぱり少し怖いな…)

出木杉(でも、行くしかない…!のび太くんのためにも…!)

出木杉はゆっくりと階段をのぼりはじめた

273: 2009/05/25(月) 03:34:47.56
一段一段、丁寧にのぼる

その度に、ギシッ、ギシッと階段が軋む

出木杉「大丈夫…のび太くんならわかってくれる…」

小さな声で自分にそう言い聞かせ、出木杉は階段をのぼりきった

275: 2009/05/25(月) 03:35:47.36
出木杉(確か、ここが…のび太くんの部屋だったな)

出木杉はのび太の部屋の前で立ち止まった


傘を握る手に、ジンワリと汗が滲む

出木杉(よし…いくぞ…!)

そして、スッと襖を開けた

276: 2009/05/25(月) 03:37:30.87
のび太「うわああああああああああ」

襖を開けた途端、のび太が叫びながら出木杉に殴りかかってきた

出木杉は頭に不意打ちをくらい、その場に倒れ込んだ

出木杉(し、しまっ…)

出木杉はすぐさま起き上がろうとしたが、のび太がそれを許さなかった

277: 2009/05/25(月) 03:39:42.31
何度も、何度も、抵抗すらできないまま殴られ続ける出木杉

全身に走る激痛

この強烈な痛みに、出木杉は、自分がもう助かることはないと悟った

徐々に意識が遠のくなか、出木杉はしずかのことを考えていた

279: 2009/05/25(月) 03:43:19.18
出木杉(しずかちゃんは、無事でいてくれるだろうか…)

出木杉(しずかちゃんは、僕をどう思っていたんだろうか…)

出木杉(しずかちゃんは、僕が氏んだら泣いてくれるだろうか…)

出木杉(しずかちゃんは、これから先、幸せに生きていけるのだろうか…)

出木杉「……ず……か…………」

凄まじい痛みに薄れいく意識の中、出木杉の心に最後に浮かんだのは、しずかの笑顔だった…

354: 2009/05/25(月) 16:23:23.02
…………はじまりはいつだったか……

その日も、ジャイアンとスネ夫は、のび太をいじめていた

理由は相変わらず下らないことだった

のび太が野球でエラーしたとか、まあ、そんなところだ

355: 2009/05/25(月) 16:25:57.74
だが、その日の二人は虫の居どころが悪かったらしい

いつもよりのび太をひどく痛めつけた

のび太は泣きながら謝った

だが、二人は決して許さなかった

痛み、苦しみ、悲しみ、恐怖、不安

のび太が抱えていたそういったものが、俺を生み出した

356: 2009/05/25(月) 16:30:15.13
そうだ、俺はそのとき生まれたんだ

そして、のび太が知らず知らず抱いていた憎しみの赴くまま、四人を頃した…

俺はそのために生まれたんだから

目的は果たした

本当はもう一人残っているが、捕まってしまっては仕方がない…

俺は、しばらく眠るとしよう……………

358: 2009/05/25(月) 16:35:15.34
…………のび太は落ち着きを取り戻し、何が起きたのか考えていた

出木杉のこと

殺害されたみんなのこと

中年の男の言葉のこと

そして今、自分が置かれている状況のこと

だが考えれば考えるほど、頭の中にはモヤがかかっていく

359: 2009/05/25(月) 16:36:34.95
のび太(そういえば、最近時々記憶が抜け落ちることがあったなぁ…)

のび太(それと関係しているのだろうか…?)

のび太が必氏に考えていると、中年の男と若い男が戻ってきた

中年の男「…落ち着いたかね?」

のび太「ええ、まあ…」

360: 2009/05/25(月) 16:39:59.79
中年の男「そうか、じゃあもう一度聞くよ?」

中年の男「なぜ、あんなことをしたんだね?」

のび太「わかりません……。考えてみたけれど、やっぱりよくわかりません…」

中年の男「そうか…。じゃあ、質問をかえよう。」

中年の男「君が覚えている範囲でいい」

中年の男「事件が起きた日のことを、教えてくれないかな?」

のび太「は、はい…」

361: 2009/05/25(月) 16:48:08.16
のび太「えっと、日曜日だったから昼過ぎまで寝ていたと思います」

のび太「起きたら、ドラえもんがやけに病院に行こう、病院に行こうってうるさくて……」

のび太「……?そういえば…ドラえもんは…?ドラえもんはどうしたんですか!?」

中年の男「ドラえもん?」
若い男「ああ、通報者の話によると、あの青いのがドラえもんという名前らしいですよ」

中年の男「ふむ、あれがね……」

362: 2009/05/25(月) 16:50:15.76
のび太「ドラえもんはどこですか!?」

のび太「ドラえもんなら僕の無実を証明してくれる!!」

のび太「ドラえもんなら僕を助けてくれるんだ!!」

のび太は少し興奮したらしく、声を張り上げた

のび太「ドラえもんはどこ!?教えてください!」

中年の男「落ち着きなさい。君にとっていかにあの機械が大切かはわかったよ。」

363: 2009/05/25(月) 16:51:39.30
中年の男「だからこそ、落ち着いて聞いてほしいんだ」

のび太「ドラえもんが機械だって?僕の大切な友達だぞ!!バカにするなぁ!!」

のび太は興奮している

中年の男「バカになんてしてないよ」

中年の男「だが、彼はもう君を助けることはできないんだよ…」

のび太「なんで…!?どうして…!?」

365: 2009/05/25(月) 16:53:38.78
のび太「ドラえもんはいつだって僕の味方だった!!」

のび太「ドラえもんはいつだって助けてくれた!!」
のび太「なのに…なんで…!?」

中年の男「もう、壊れてしまっているからだよ、のび太くん…」

のび太「な、なんだって…?ドラえもんが、壊れたって…?」

368: 2009/05/25(月) 17:09:44.36
のび太「そんなことがあるもんかぁ!!」

のび太「嘘をついて僕を騙そうっていうんだな!?そうはいかないぞ!!」

のび太は若干錯乱している

中年の男「嘘じゃない。我々が押し入れの中に彼をみつけたときには、もう…」

中年の男「…ボロボロに壊れてしまっていたよ…」

のび太「そ、そんな…」

370: 2009/05/25(月) 17:14:58.44
のび太はあまりのショックに、しばらくの間、言葉を失った

のび太「……お、お前たちだな!お前たちがドラえもんを壊したんだな!!」

のび太はかなり錯乱している

のび太「許さない!!」

そう言って、のび太は中年の男に掴みかかった

若い男「やめないか!」

若い男が、力ずくでそれを引き離す

のび太「う、うぅ…」

声を上げて泣き出すのび太

またも、取り調べは中断せざるを得ない状況になった

387: 2009/05/25(月) 18:42:23.55
若い男「あんな調子じゃ取り調べなんてできませんよ?」

中年の男「無理もない…。相手はまだ子供なんだ…」

中年の男「今日の取り調べは、ここまでにしよう…」

中年の男は取り調べ室をあとにした……

395: 2009/05/25(月) 19:29:51.70
………あの凄惨な事件から数週間が経った

取り調べ中、のび太は、警察の人間の話を一切信じようとしなかった

聞く耳すら持とうとしなかった

そして、取り調べもうまくいかないまま、のび太は施設に送られていた

そこで理由もわからず、精神鑑定をうけたりもした

医者が診察をしてきたりもした

そんなある日、施設で過ごすのび太に面会がきた

396: 2009/05/25(月) 19:34:31.78
のび太「せ、先生…」

先生「野比くん…」

面会室にいたのは、のび太の担任教師だった

のび太「せ、先生、お久しぶりです」

先生「うむ、元気だったかね?」

のび太「は、はい、なんとか…」

先生「そうか…」

先生は暫く黙り込んだあと、ようやく言葉を発した

397: 2009/05/25(月) 19:36:26.80
先生「……君は成績はよくない。」

先生「だが、人にとって大切なものを数多く持っていると、わしは思っていた」

先生「なのにどうして…?」

のび太「せ、先生…」

のび太が喋ろうとした途端、また耳鳴りと目眩が

のび太「うっ!」

398: 2009/05/25(月) 19:41:00.88
のび太の意識は薄れていく

先生「どうした?野比くん?大丈夫かね?」

のび太?「いや、なんでもありませんよ、先生…」

先生「そうか…?ならいいんだが…」

先生は一つ、ため息をついた

先生「ふぅ、野比くん、君はなんであんなことをしたんだね…?」

のび太?「あんなこと?ああ、みんなを頃したことですか?」

399: 2009/05/25(月) 19:44:33.78
のび太?「それなら理由はないです。ただ殺りたいから殺ったですよ」

その言葉を聞いて、先生の目つきが変わった

先生「野比っ…!おまえっ…!」

のび太?「ハハハ、怒らないで下さいよ、先生」

のび太?「いやぁ、本当は、先生のことも殺ろうと思ったんですけどねぇ…」

のび太?「その前に捕まってしまいまして…」

400: 2009/05/25(月) 19:49:22.82
のび太?「いやぁ、残念だなぁ…。」

のび太?「捕まっていなければ、今頃とっくに殺っているのに…」

先生「野比!!おまえ、何を言っている!?正気かね!?」

のび太?「ええ、正気ですよ?」

先生「野比…!?」

のび太?「先生、すみませんけど、目の前から消えてもらえせんか?」

のび太?「あなたがいると、不愉快なんですよ」

403: 2009/05/25(月) 19:53:31.66
先生「野比…本気で、言っているのか…?」

のび太?「ええ、本気ですよ?」

のび太「わざわざ来てもらったのに、申し訳ないですね」

のび太は面会室を出ようとした

先生「待て!まだ話は終わ…」

のび太?「いいから消えろ!!!そして二度と来るな!!!!」

先生の言葉を、のび太の怒号が遮る

404: 2009/05/25(月) 19:55:28.20
先生「…………!!」

今まで見たこともないのび太の態度に、先生は驚いた

そして、ゆっくり立ち上がり、振り返ることなく面会室を出ていった

のび太?「フン!気分を悪くしてくれたよ、全く…」

のび太もまた、面会室を後にした……

426: 2009/05/25(月) 21:28:44.46
それから数日もしないうちに、またものび太に面会があった

のび太「また先生かな?」

のび太「前に先生と会ったときのことは、ほとんど覚えていないからなぁ」

のび太「今度はしっかりしないと!」

のび太は自分に気合いを入れた

そして、面会室の扉を開けた

そこで待っていたのは、先生ではなく…………しずかだった

428: 2009/05/25(月) 21:33:01.04
のび太「し、しずかちゃん!」

のび太の表情がパッと明るくなる

しずか「のび太さん、久しぶりね。元気だった?」

のび太「うん!うん!すごーく元気だよ!」

しずか「そう、よかったわ…」

しずか「本当はもっと早く会いに来たかったんだけどね…」

429: 2009/05/25(月) 21:38:14.78
しずか「ママがね、なかなか許してくれなくて…」

のび太「え?どうして?」

しずか「その…犯罪者とは…会わせたくないって……」

のび太「そ、そんな!?僕はやってないのに!!」

のび太「そりゃあ…出木杉の命を奪ったのは、僕だよ…」

のび太の表情が一気に暗くなる

431: 2009/05/25(月) 21:45:14.34
のび太「でも、あれは出木杉が襲ってきたのであって…!」

しずか「そのことについて、話したいことがあるの…」

しずかは、ゆっくりと話をはじめた

ドラえもんが、なぜ病院に連れて行こうとしていたのか

ジャイアンとスネ夫が、なぜのび太の家にいたのか

出木杉が、なぜのび太を襲ったのか

しずかは一つ一つ、丁寧に丁寧に説明した

433: 2009/05/25(月) 21:51:15.40
すべてを聞き終わったのび太は、酷く動揺した

のび太「ほ、本当なの…?しずかちゃん…?」

しずか「ええ、残念だけど…」

のび太「そ、それじゃあ、や、やっぱり、僕が、み、みんなを…!」

のび太は頭を抱える

のび太「うわああああああああああ!」

437: 2009/05/25(月) 21:58:22.03
罪の重さに、のび太の心は潰れそうになった

のび太「僕がみんなを頃した僕がみんなを頃した僕がみんなを頃した…」

しずか「のび太さん!」

のび太は頭を抱えたままブツブツ呟いている…

のび太「僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が…」

しずか「のび太さん!!!!」

しずかの言葉に、のび太はハッとして顔を上げた

441: 2009/05/25(月) 22:05:23.15
驚くほど、のび太の顔色は悪い

のび太「ぼ、僕が…僕がみんなを…」

のび太は、泣いていた

しずかもまた、泣いていた

しずか「しっかりして!心を強く持って!」

のび太「で、でも、僕が…僕がぁ…」

443: 2009/05/25(月) 22:12:24.93
しずか「自分のしてしまったことを悔やむことは大切よ!」

しずか「でも、それで自分を見失ってはダメよ!」

しずか「あなたは、ここで、確かに生きてるのよ…!」

のび太「は、励まして…くれるのかい…?こ、こんな、僕を…」

しずか「当たり前でしょ!!!友達だもの!!!!」

のび太「しずかちゃん…。だけど…僕はみんなを…」

445: 2009/05/25(月) 22:18:11.21
しずか「罪を償うの…。」

しずか「自分の罪を悔やんで、そして一生かかってでも償うのよ……」

しずか「罪を犯してしまった人間が…氏んだ人のために出来ることは、多分それしかないから…」

のび太「うん……!うん……!」

しずか「大丈夫…」

しずか「きっと病気も治るわ」

449: 2009/05/25(月) 22:22:17.98
しずか「まずは、自分の心と、ちゃんと向き合うの…」

しずか「逃げないで、のび太さん…」

のび太「しずかちゃん…」
しずかの言葉に、のび太は自分の罪と病と、そして心と向き合って生きていくことを決めた……………

456: 2009/05/25(月) 22:31:14.08
…………あれからどれくらいの月日が経っただろうか

結局、精神鑑定の結果、僕はほとんど罪に問われることはなかった

治療のお陰で、二度と僕の別人格が現れることもなかった

僕がみんなを殺めてしまった事実は消えないけれど、今じゃ、結婚もして、子供もいる

460: 2009/05/25(月) 22:34:27.95
今日は日曜日

二人を遊園地に連れていく予定

天気もいい

さて、そろそろ行こうか

僕はゆっくり立ち上がった

すると、耳鳴りと目眩が………

のび太「あれ?クラクラする…」


      終

461: 2009/05/25(月) 22:34:46.29
ひぃぃぃぃ

464: 2009/05/25(月) 22:37:06.54
なんとか完結することができました
読んでくださった方や、支援や保守して下さった方、ありがとうございました

485: 2009/05/25(月) 23:40:16.48
ちょっと廃人ルート書いてくる

488: 2009/05/26(火) 00:03:03.29
罪の重さに耐えきれずに、のび太の心は潰れてしまった

のび太「僕がみんなを頃した僕がみんなを頃した僕がみんなを頃した…」

しずか「のび太さん!」

のび太は頭を抱えたままブツブツ呟いている…

のび太「僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が…」

しずか「のび太さん!!!!」

しずかの言葉は、のび太に届くことはなかった

489: 2009/05/26(火) 00:05:53.01
尚ものび太はブツブツ呟いている

のび太「ボクガボクガボクガボクガ…」

のび太は、何もない一点を見つめている

その目は完全に常軌を逸していた

口からはヨダレが垂れている

のび太「ボクガミンナヲコロシタボクガミンナヲコロシタボクガミンナヲ…」

492: 2009/05/26(火) 00:07:44.27
のび太は機械のように、同じ言葉を繰り返し続けている

しずか「のび太さん!のび太さん!」

しずかは何度も何度も呼び掛けた

しかし、のび太がしずかの言葉に反応することは二度となかった………

493: 2009/05/26(火) 00:09:26.49
…………それから一年が過ぎた

病院の庭に、車イスを押す一人の少女の姿があった

少女「ねぇ、みて、あの花…。綺麗ね…」

少女の言葉にも、車イスに乗った少年は全く反応しない

494: 2009/05/26(火) 00:11:21.83
車イスの少年は、力なく背もたれにもたれ掛かっている

口からはヨダレを垂らし、何もない一点を見つめている

そして、なにやらブツブツ呟いている

少年「ボクガボクガボクガボクガボクガ…」

496: 2009/05/26(火) 00:13:04.05
遠くの空を見つめる少女

少女「風が、強くなってきたわね…」

少女「そろそろ、病院に戻りましょう…」

少女は車イスを押しながら、病院に向けて歩き出した…


       終

515: 2009/05/26(火) 08:37:58.91

引用元: のび太「ふわぁ~あ。よく寝た。やっぱり昼寝は気持ちいいなぁ。」