1: 2009/01/23(金) 20:21:19.16
 古泉一樹は疲れていた。
 彼の日々の生活は、過酷なものだった。
 神と呼ばれる少女の機嫌取りをし、彼女の機嫌が損なわれた時に誕生する神人という
化け物を倒し、そしてまた次の日も少女の機嫌取りをする。
 かれこれ三年もこんな調子だ。
 
 古泉一樹も、三年前は普通の子供だったのだ。
 けれど、彼はもうそれを思い出すことが出来ない。
 学校には本音を言える友達が居て、そして温かい家庭があったのだが、もう彼はそれを
すっかり忘れてしまっている。好きで忘れているわけではなく、それほどまでに疲れている
のだ。そう、思い出す余裕がない程に。

 
 古泉一樹は、神人の発生に応じて、生活をしなければならない。
 酷いときは、睡眠時間が一週間続けて一時間だったこともあった。
 ただただ呼吸をするだけの生活。そこには、幸福などある筈もなかった。

 どうせ眠りについても、また神人の発生を伝える携帯の着信に起こされるのだ、と思い、夜
眠るのをやめた。たちまち、大きなクマが出来上がり、上司に酷く怒られた。不条理ではない
だろうか。眠るだけの時間を与えてすらくれないくせに。

 
 そんな生活も、彼女が高校に入ってからは、改善された。一度は世界が崩壊しかけたものの、
その後の彼女の精神状態は極めて安定していると言え、神人の発生回数も大分減少した。

 
 古泉一樹が、涼宮ハルヒに生活を振り回されることは殆ど無くなった。
 普通ならば、それを喜ぶべきだろう。夜も安心して眠ることが出来る、自分の娯楽に時間を充て
ることが出来る、と。
 けれど、古泉一樹は、それらのことが、全て涼宮ハルヒの裏切りのように感じていた。

3: 2009/01/23(金) 20:27:39.22
「古泉くん、じゃあねー」
「はい、さようなら」
 廊下ですれ違う女子に挨拶をしながら、僕はいつもの通り、部室へと向かう。けれど、
僕が行かずとも、部活が普通に機能することは分かっている。いや、僕だけではない。
それは、朝比奈みくるも長門有希も同じだろう。彼女にとっては、彼以外は、ただの邪
魔者でしかないのだから。
 表面上は、朝比奈みくるや長門有希、そして僕にも笑顔を投げかけ、明るく接してく
れているが、そんなものは演技だ。そう、彼に気に入られるための。
 あんな化け物を発生させる精神を持っているくせに、人に慈愛を与えようとするなんて。


 考え事をしていると、時間は早く過ぎる。
 気が付けば、僕は部室の前に立っていた。
「こんにちは」
 笑みを浮かべながら扉を開けると、そこには机に突っ伏した涼宮さんしか居なかった。

4: 2009/01/23(金) 20:34:04.93
 いつもなら、部室に入るときに挨拶をすると、彼女はいつも答えてくれる。けれど、今日は
いくら待っても返答が無かった。どうしたのだろうか。彼女が一人だけ部室に居ないことなら
度々あるが、彼女が一人で部室に居るのは極めて珍しかった。

 なるべく音を立てないように椅子を引き、そして座る。部屋には珍妙な空気が流れていた。
雑音を拒むような静寂。それは誰でもない、彼女が作り出しているのだ。

「古泉くん」
 永遠に続くのではないかと思われた静寂は、しかし永遠には続かなかった。それは当たり前
なのだが、何だか拍子抜けしてしまう。
 相変わらず机に突っ伏したまま僕の名前を呼んだ彼女に、どうしたのですか、と問いかける。
「うん……いや、なんでもない」
 やはり突っ伏したまま答える彼女の声は、少し震えていた。

6: 2009/01/23(金) 20:42:18.27
 泣いているのだ、と、そのとき気付いた。
 問い詰めるべきか、知らないふりをしておくべきか迷う。
「そうですか……」
 迷った末に、どちらもしないことにした。人に話せるような悩みならば、僕が
強制しなくても自分から話す筈だ。それに、無理矢理聞き出すような真似をし
て、機嫌を損ねるのも、あまり好ましくない。触らぬ神にたたりなし。

 十分程経った頃だろうか、彼女がもう一度口を開いた。
「古泉くんに聞きたいことがあるんだけど」
 とても小さな声だった。しかし、それは静寂の中に響くには充分な大きさだった。
 何を聞いてくるつもりなのだろうか。少し緊張しつつも、僕は冷静を装い答える。
「なんでしょうか」
「うん、あのね」
 一息置いてから、彼女が決心したように言葉を発した。
「古泉くんは、みくるちゃんのこと、どう思う?」

9: 2009/01/23(金) 20:52:12.26
 予想外の質問に、え、と声を漏らしてしまった。
 突っ伏している彼女の肩が、びくりと震える。
「あ……う、ううん、何もないの。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
 何もないわけがない。
「変なことだとは思いませんよ。ただ、どんなことを聞かれるのかと意気込ん
でいたものですから、少し拍子抜けしてしまっただけです」
「そ、そう……」
「それで、朝比奈さんがどうかしたのですか?」
「あ、いや、……やっぱり、男ってみくるちゃんみたいなのが好きなのかなって思って……」
 意味が飲み込めない。そもそも、質問からして、わけがわからない。僕の理解力に問題がある
のだろうか、それとも、彼女の表現力に問題があるのだろうか。後者であってくれると、嬉しいのだが。
「人によって好みは違うと思いますが」
 当たり障りのない返答をすると、彼女はそっと顔を上げた。目は少し赤くなっていて、頬には涙の跡
がある。泣いていたことは一目瞭然だった。
 泣いている、と知ってはいたものの、実際に見ると驚いてしまった。彼女は悲しくても、寂しくても泣い
たりすることは滅多に無い人なのだ。泣く代わりに、閉鎖空間を発生させ、無意識下でストレスを解消
しようとする。それほどまでに、自分の痛みと向き合おうとしない人なのだ。
 そんな人が自分の痛みを認め、泣いていたのかと思うと、とても不思議な気分になった。
「じゃあ、キョンは」
 何がこれほどまでに彼女を普通の人間に仕立て上げたのだろうか。
「キョンは、みくるちゃんのこと、どう思ってると思う?」
 彼への、恋心か。

10: 2009/01/23(金) 20:59:08.50
「優しい先輩として見ているのではないかと思いますが」
 何故だろう。無性に苛々してきた。きちんと笑顔で喋れているだろうか。
「そうなのかな……」
 なんでだ。
 色々な感情が渦巻いて爆発しそうだった。
 どうして、そんな人間みたいな顔をするのだろうか。まるで人間のように傷付いている顔を
しているのだろうか。苛々する。神だ、神だ、と崇められているのに。それなのに、そんな人
間みたいな顔付きをするのは非情に卑怯だと思うのだ。違うだろうか。いや、僕は間違った
ことを思っていない筈だ。あんな化け物を生み出してきたくせに、そんなにいけしゃあしゃあ
と人間になろうとするなんて、あっていいのだろうか。いや、言い筈がない。彼を愛し、そして
普通の女子高生としてこれからを過ごすつもりでいるのだろうが、そんなことはさせない、さ
せてなるものか。
 認めない。
「古泉くん?」
 名前を呼ぶ声で、ふ、と我に返った。
「ああ、いえ、すみません」
「ううん、いいんだけど……ごめんね、変なこと言っちゃって」
「何があったんですか?」

11: 2009/01/23(金) 21:04:41.26
 そんなに人間みたいになっちゃうなんて、一体何があったんですか?
 本当に聞きたかったことはそれだが、彼女はそれを違う意味で捉えた。
「うん……さっきのことなんだけどね……」
 それから、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
 なんでも、彼がずっと朝比奈みくるのことばかり見ているので、怒鳴った
ところ、彼は無言で部室を出て行ったのだと言う。そして、朝比奈みくるもそ
れに続くように……。
「付き合ってるのかな、あの二人」
 そういう彼女の眼には、涙が溜まっている。今にもこぼれそうだ。
「付き合ってるわよね……みくるちゃん可愛いし」
 
 あ、と、思いつく。
 そうだ。
 
「涼宮さん」
 あなたに教えてあげたい。
「朝比奈さんを消しましょうか」
 あなたが人間として存在することは罪なのだ、と。

13: 2009/01/23(金) 21:09:54.26
「え……みくるちゃんを消すって……」
 驚いた表情を浮かべながらも、その眼には期待の色が浮かんでいる。
 僕は笑いたくなるのを必氏で堪えた。そうだ、涼宮さん。それが、あなた
の本性だ。
「頃すんですよ」
 彼女の眼が見開かれる。
「え……何、言ってるの……」
「とぼけなくてもいいですよ。頃すんです。子供じゃあるまいし、分かるでしょう」
 沈黙が走る。
 けれど、もうその沈黙は僕の敵ではなかった。
 寧ろ、僕にまとわりついてくる。沈黙が逆に語りかけてくるのだ。

 できればそうしてくれ。ころしてくれ。でも、わたしが加害者になるのはいやだ。
ころしてくれ。わたしの許可など取らずにころしてくれ。はやくはやく。

「なんてね、嘘ですよ、冗談です。本気にしてしまいましたか?」

17: 2009/01/23(金) 21:19:46.79
「え……」
 落胆の表情を浮かべる彼女。
 喋ってしまえばいいのに、言ってしまえば良いのに、望みを全て、汚らしい望みを全て
僕に投げつけてしまえばいい、僕はあなたが良心的な人間ではないことくらい、よく知っ
ている、常識や理性に囚われずに本能のまま、偉そうに振舞ってみせればいい。常識
なんて、あなたの一番嫌いな言葉だったのに、それなのに、いつの間に、そんなものに
囚われるようになってしまったのだろうか、ああ、彼に惹かれてからか。
「涼宮さん」
 三年間、ずっと振り回されてきた。
 それなのに、あっさりと棄てるなんて許さない。認めない。
「本当に欲しいものは口に出さないと」
 もう僕は戻れないのだ、三年前に。
 よくは思い出せないけれど、僕の幸せは三年前に詰まっていたような気がする。きっと
あんな幸せに包まれることはもうないだろう。僕は余計な感情を覚えてしまった。猜疑心。
絶望。殺意。……三年前までは知らなかった感情を、知ってしまった。
 誰の所為だ。彼女の所為だ。
「大丈夫です。あなたは、自分が思ってるほど綺麗な人間ではありませんよ。
 僕はそれをよく分かっています。素直に、言ってみてください」
 一度道から踏み外れたくせに、しかも一人でだけならまだしも、たくさんの犠牲者をつれて
踏み外れたくせに……。
「……みくるちゃんを……頃して……」
 一人だけまともな道を歩こうなんて、絶対に認めない。

20: 2009/01/23(金) 21:28:15.57



 朝比奈みくるは簡単に氏んだ。
 僕が頃したのではない。彼女が消したのだ。

「人を頃すのは初めてです。上手くいかないかもしれません。
 ……応援していて下さいませんか? 殺人がうまくいくように」
「応援って……」
「ああ、いえ、涼宮さんにも殺人をさせるわけではありません。
 ただ、心の中で『朝比奈みくる、氏ね。朝比奈みくる、氏ね』と
 願ってくだされば……」
「それだけで、いいの?」
「ええ、それだけでいいんです」

 
 一体、どれほど強く朝比奈みくるの消失を願ったのだろうか。
 
「ふふふ、はは、あはははははははははは」
 心の中でずっと、朝比奈みくる氏ね、と繰り返している彼女を想像すると、
滑稽で堪らなかった。笑い転げた。どんなバラエティ番組よりも、それは面
白いことのように思えた。

23: 2009/01/23(金) 21:37:42.76
「朝比奈さん、どうしたんだろうな」
 彼がぼそっと呟く。誰も返事はしない。

 朝比奈みくるは行方不明扱いになった。
 まあ、それで大体当たっているのだが。
 涼宮ハルヒは、僕が朝比奈みくるを頃して、そして適当な場所に氏体
を隠したのだと思い込んでいる。以前よりも、閉鎖空間の発生数が少し
増加した。もしかすると、氏体が見つかったらどうしようと冷や冷やして
いるのかもしれない。いや、冷や冷やしているのだろう。
 実際彼女は、朝比奈みくるが行方不明だと全校朝会で告げられた日
の昼休みに、僕を呼び出して興奮気味に問いかけてきた。
「氏体はどこに隠したの」
 よくやった、とも、ごくろうさま、とも言わないで、第一声がそれか。さすが、
神は格が違う。
「大丈夫ですよ」
「そんなことを聞いてるんじゃない! どこに隠したのよ」
 僕の冷静な態度が気に食わないのか、彼女は、きっ、と睨みつけてくる。
「絶対に見つかりませんから」
「古泉くんってさ、ちょっとおかしいわよね」

24: 2009/01/23(金) 21:41:35.42
 何を言いだしたのだろう。
「私は冗談のつもりだったのに本当に頃しちゃうし」
 はあ。
「ありえないでしょ、普通。冗談でしょ、普通」
 今更そんな。
「私は本当に頃してもらおうだなんて思ってなかった!」
 まだ正常な道を歩こうとするのか。
「殺人者は古泉くんだけなんだから! 私は悪くない!」
 僕だけを取り残して、幸福を飲み干そうとするのか。
「だから、氏体が見つかっても、私は何も関係ないんだからね」
 往生際が悪いにも、程がある。

26: 2009/01/23(金) 21:47:02.16
「でも、涼宮さんは頼みましたよね」
 せいぜい悪あがきをするがいい。
「朝比奈みくるを頃して、と頼んできましたよね」
 絶対に逃がさない。
「それは……」
「頼みましたよね」
「そんなの……」
「頼みましたよね」
 もう、笑顔を浮かべることなど忘れていた。きっと、僕の顔は、
今まで彼女が見たことのない表情を浮かべていたに違いない。
その証拠に、いつもは人の眼を見て話をする彼女が、いまこの
時は、僕の眼をしようとしなかった。
「頼みましたよね」
 心の中で何度も願ったんでしょう。朝比奈みくる氏ね、朝比奈
みくる氏ね、と。ああ、また笑えてきた。必氏で堪える。
「……頼んだわよ」
「それは冗談ではなかったですよね」
「……たしかに、冗談じゃなかったわよ」
「本当に頃して欲しかったんですよね」
「……」
「本当に頃して欲しかったんですよね」
「…………そうよ」

29: 2009/01/23(金) 21:57:08.57
「やけに、急に認めるようになりましたね。どういう心変わりですか」
「別に」
 そういうと、彼女はにやりと笑った。その顔の醜さは、人間のものではなかった。
「ここで認めたからってどうもならないもの」
 化け物が、自慢げな表情で喋りだす。
「だって、私は心の中で思っただけよ? みくるちゃんなんか氏ねばいい、って。
 実際に手を加えたのは、古泉くんでしょ? 私には関係ないわ。
 頃してって頼んだからって何? それを知ってるのは私と古泉くんだけ。
 万が一氏体が見つかったとして、古泉くんが捕まって、『涼宮さんに殺せと
 命令された』と供述したところで、証拠は何もないわ。そうでしょ?」
 森さん。僕たちが崇めている神は、こんなに浅はかですよ。
 ああ、あとであなたにも聞かせてあげたい。森さんだけでなく、皆に聞かせてあげたい。
全校放送で、いや、全国放送でこれを流したい。
「ええ、そうですね」
 顔がニヤつくのを抑えきれない。
「……なに、ニヤニヤしてんのよ。古泉くん、やっぱりおかしいわよ。
 おかしいから、人を頃しちゃったりするのよ。私は関係ないからね。
 大体、氏体をどこに隠したか聞いたのだって、私は古泉くんの心配をしてたのよ?」
 どうしてそんな嘘と分かる嘘を吐くのだろうか。
「もし見つかったら、古泉くん、きっと酷い一生を送ることになるわよ。
 刑務所に入って、仮に出所できたとしても、世間からは偏見の眼で見られ……、
 こわいわね。世間って酷いものよね。
 古泉くんだって、そんなことで人生を棒に振りたくないでしょう?」
 どの口がそんなことを言うのだろうか。もう既に僕の人生は、あなたの所為で滅茶苦茶だ。

34: 2009/01/23(金) 22:04:15.80
「僕は別に構いませんよ」
 彼女の顔が引き攣る。
「ああ、そう。じゃあ、自首でもなんでもすれば?
 古泉くんとも今日でお別れかしらね。
 短い間だったけど、副団長ご苦労様」
 話は終わったとでも言わんばかりに、スカートを翻し、僕に背を向ける彼女。
 けれど、彼女はそのまま歩き出すことは出来ない筈だ。数分後、彼女はまた
僕と向かい合っている。そうせざるを得ないのだ。

36: 2009/01/23(金) 22:10:29.57


『氏体はどこに隠したの』

 彼女の歩みが、ぴくりと止まる。

『大丈夫ですよ』
『そういうことを聞いてるんじゃない! どこに隠したのよ』

 震えながら振り向く彼女。

『絶対に見つかりませんから』
『古泉くんってさ、ちょっとおかしいわよね』

 あなたは、異常なことがお好きじゃないですか。
 だから、そんなあなたに異常をプレゼントして差し上げただけですよ、僕は。

「一部始終を、テープに取らせていただきました」
 喜んで受け取ってくださいますよね。
「自首でもなんでもすれば? と仰いましたね。
 自首しましょうかね。このカセットテープと共に」
「いや、いや、こ、古泉くん、だめ、違う、それは……」
 慌てて駆け寄り、僕からテープレコーダーを奪いとろうとする。けれど、その手は
震えていて、全く力など入っておらず、振り払うことは容易だった。

「共犯者ですね、僕たち」

42: 2009/01/23(金) 22:17:52.64
「どうしたの、古泉。なんだか、最近御機嫌じゃない」
 森さんは優しい人だ。
 僕が喜んでいると、まるで自分のことのように喜び、僕が悲しんでいると、
まるで自分のことのように悲しみ、そして僕が疲れきっていると、僕のことを
必氏で休ませようとする。
 もう思い出せないけれど、僕の母はこんな人だったような気がする。
「分かりますか?」
「分かるわよ。オーラが穏やかになったわ」
 穏やか。今の僕の現状には似ても似つかない言葉だ。
「そうですか」
「どんないいことがあったの?」
 慈愛を含む瞳で見つめてくる彼女に、あのカセットテープを聞かせてやりたい。
けれど、我慢だ。それは出来ない。

「内緒です」
 もう少しだけ、楽しみたいんだ。

47: 2009/01/23(金) 22:30:49.18
 朝比奈みくるが失踪したとされて、一ヶ月が経った。
 もう彼も、朝比奈みくるの名前を出すことはなかった。まるで最初から居なかった
人物のようだ。彼女の淹れるお茶の味も、もう思い出せない。

 涼宮さんとも、あまり喋らなくなった。喋る場が無くなったのだ。自然と、団活は無くな
っていった。長門さんは、毎日あの部屋で本を読んでいるようだが、もう、あまり集まら
なくなった。どうしてそうなったのだろうか。よく分からない。
 
 無口な宇宙人しか居ないと分かっている部屋に、自ら好んで行くほど、イカれてはいない。
学校が終わると、家に帰り、閉鎖空間の発生を告げる電話が鳴れば、現場に行き、そして
それ以外の時間は、カセットテープを聴くようになった。

『私は本当に頃してもらおうだなんて思ってなかった!』
 ふふ。
『殺人者は古泉くんだけなんだから! 私は悪くない!』
 くくく。
『だから、氏体が見つかっても、私は何も関係ないんだからね』
 ははははははは。


 時折、僕の彼女に対するこの気持ちは何だろうかと考える。
 こんなに一人の人間に執着するなんて異常かもしれない。
 これが恋なのだろうか。いや、違う。僕は決して彼女のことが好きなわけではない。


 



 強いて言うならば、復讐心。

51: 2009/01/23(金) 22:35:24.69
「古泉」
 放課後、僕の教室の前に珍しい人物が立っていた。
「おや、どうしたんですか」
「いや、ちょっとな」
 久しぶりに見る彼は、少しやつれているように思えた。
「大丈夫ですか、具合が悪いようですが……」
「いや、大丈夫だ。ちょっと、話せるか?」
「ええ、それは大丈夫ですが……」
 よく見ると、目の下のクマも酷い。
「じゃあ、ちょっと、公園ででも話さないか」

55: 2009/01/23(金) 22:44:20.94
「それで、どうしたんですか」
 ベンチに座り、本題を問うと、彼は少し気まずそうにした。
「少し言いにくいことなんだが」
「ええ」
「ハルヒのやつが、おかしいんだ」
 思わず噴出しそうになる。彼女なら随分前からおかしい。そう、三年程前から。
「具体的に、どういう風にですか?」
「……朝比奈さんが居なくなっただろう」
「ええ……」
 どうしてその話が出てくるのだろうか。
「この間、ハルヒと電話をしていたんだ。……それで、俺が朝比奈さんの話を振ったんだよ」
「ええ」
「そしたら、ハルヒが急に喚きだしてだな……」
「喚く、とはどういう風なことを」
「耳元でガンガンガンガン煩かったから、逆に聞き取り辛かったんだが……、
 みくるちゃんが居なくなったのに、まだみくるちゃんのこと気にかけてるの、だの、
 私は頃してない知らない、だの、カセットテープさえ取り戻すことが出来れば、だの」
 想像するだけで笑えてくる。実際に聞きたかった。彼は、その様子を録音したりはして
ないのだろうか。
「あとは、その……」
 僕の顔をチラチラ見ながら、彼が発言すべきかどうか迷っている。なんだろう。そこまで
言っておいて、言いよどむのもおかしな話だ。
「あとは、なんですか」
 
「古泉くんが、みくるちゃんを頃したのよ、だの」

57: 2009/01/23(金) 22:50:58.91
「僕が、ですか?」
 目を見開き、声も高めにそう言うと、彼は安心したような表情になった。
「ああ、いや、すまん。お前のことを疑ってたわけじゃないんだ。
 寧ろ、俺が疑ってるのは……ハルヒなんだ」
「と、いいますと」
「その日から、おかしいんだよ。ほら、席が後ろのやつの独り言って、
 結構よく聞こえるだろ? ハルヒって、別に前までは、独り言多い
 やつじゃなかったんだよ。でも、その日を境に、ブツブツブツブツ
 聞こえるんだ。教師の声に遮られて、全部が全部聞こえるわけではないんだが……」
「何を言ってるんですか、涼宮さんは」
「……お前を」
 いつもは気だるそうな彼の眼が、今日は真剣に見開かれている。僕は、それを、
不思議な気持ちで見ていた。なんだろう、まるで第三者として、自分の視界を見て
いるかのような……。

「お前を頃す、と」

 

61: 2009/01/23(金) 22:58:16.85
 家に帰り、ベッドになだれ込み、彼との会話を思い出す。
『お前の頃す、と』
 はは。
 乾いた笑いしか出なかった。

 共犯者、なのに。
 共犯者とはそういうものではない筈だ。もっと、支えあう存在じゃないか。いや、別に
僕は彼女と支えあいたいと思っているわけではない、けれど、彼女にはあまりにも共犯
者としての自覚が無さ過ぎる。

「身勝手な人だ」
 声に出すつもりはなかった。けれど、気がついたら、言葉として口を出ていた。

64: 2009/01/23(金) 23:06:14.51
 それから、放課後、彼と落ち合うようになった。
「ハルヒと、今度の日曜日遊ぶ約束をしたんだが」
「楽しそうですね」
「そんなわけないだろ。あいつ、俺のこと財布だとしか思ってないからな」
「そうでしょうか」
「そうだろ。SOS団の、不思議探検のときの、俺の財布のこき使われ方を見れば分かるだろ」
「あれが彼女の愛なんですよ」
「そんな愛は要らんがな」

 度々、彼は、彼女が邪魔だというような発言をした。
「俺、実は松延のことが気になってるんだ」
「松延さんですか」
「ああ、素直で小さくて可愛い子なんだ、これが」
「そうなんですか」
「でも、松延と喋ってると、決まってハルヒが邪魔してくるんだ」
「あなたのことが好きなんですよ」
「そんな好意は要らないんだがな」

 彼の口から、彼女の悪口のような発言が出るたびに、僕は幸福を覚えた。
もっと言え、もっと言え、と思う。
 機関全員から肯定されている彼女の存在を、もっと否定してくれ。
「古泉、お前は、ハルヒのこと好きか?」
「愛すべき方だとは思いますよ」
「愛すべき、なあ……。お前、個人としては、どうなんだ?」
「……僕、個人としてですか?」
「ああ」
「……そうですね……。内緒です」

71: 2009/01/23(金) 23:15:11.50
「なんだそりゃ」
 不平の声を上げながらも、彼は笑っていた。僕の本心が分かったのだろう。
「なあ、お前も、ハルヒが邪魔だと思うことあるんだろ?」
「さあ、どうでしょうね」
「提案があるんだ」
 ニヤニヤとしたその顔は、いつか見た涼宮さんの顔とよく似ていた。
 化け物の顔だ。

「ハルヒを殺さないか」

 デジャブ。なんだろうか、これは、どこで聞いたのだろう。
 いや、聞いたのではない。僕は以前、これによく似た台詞を言ったのだ。
「はは、頃すだなんて物騒ですね」
「古泉。笑い話じゃない。えらくマジだ」
 確かにその目は本気だった。本気で、そして狂っていた。
「あいつが居たら、俺は普通の青春を謳歌出来ないんだ。
 お前だって、そうだろう。あいつの所為で、たくさんの普通を奪われただろう」
 その言葉は、僕の言葉へ、ゆっくりとけれど確かに進入してきた。
「もう、いいんだよ。長門もそうじゃないか。あいつに振り回されて。
 皆被害者だ。頃したっていいんだ。あんなの公害だ、公害」
 心臓がどくどくと鳴っているのが分かる。
「あんなのにいつまでも囚われてる必要は無いんだ、そうだろ?」
 僕は、何も答えられない。

「古泉。一週間、待っておいてやる。いい返事を期待してるからな」

77: 2009/01/23(金) 23:21:36.70
「じゃあ、俺は帰るから」

 一人公園に取り残された僕は、彼の言葉を頭の中で繰り返していた。

『お前だって、そうだろう。あいつの所為で、たくさんの普通を奪われただろう』

 確かにそうだ。彼女さえ居なければ、僕はいまごろ普通の男子高生で、家に帰れば、
おかえり、といってくれる人が居て、そして、あたたかいご飯を食べて、幸せな気持ちで
入浴をし、ほどよい疲労に包まれながら眠っていた筈だ。
 それが、どうだろう。いまのこの生活は。
 電気のついていない暗い部屋に帰り、コンビニ弁当を、もそもそと食し、薄暗い中入浴
をし、気持ちの悪い疲労に包まれながら、気味の悪い静寂の中を一人で眠る。

 けれど、今更彼女をどうかしたからといって、普通が手に入るわけではない。
 そう思い、朝比奈みくるを頃したのだ。
 どうせなら、涼宮ハルヒを異常にしてやれ、と。

 それが最高の復讐なのだ。
 頃してしまっては、それではいけない。だめなのだ。

79: 2009/01/23(金) 23:26:24.40
 一週間、という期限は、あまりにも短いように感じた。
 あっという間に、日は過ぎていく。
「あと二日か……」
 ぼそりと呟いた、そのときだった。
「古泉くん、なんか女の子が呼んでるよ」
 隣の席の子が、トントンと肩を叩き、教えてくれた。誰だろうか。
のろのろと席から立ち上がり、声の主を見る。

「古泉くん、ちょっと来て」

 随分と変わった、涼宮ハルヒがそこに居た。

83: 2009/01/23(金) 23:32:45.10
「屋上まで行きましょう」
「でも、あと三分ほどで次の授業が始まりますが……」
「サボればいいでしょ」
 
 彼女の髪はボサボサだった。制服も薄汚れている。頬はこけ、目には力が無い。
声もしゃがれてしまっていて、以前のはきはきとしたものとは、全く異なっている。
「随分と、変わりましたね」
「ふふふ、分かる?」
「ええ、それは意図的にやってらっしゃるんですか?」
「ふふふふふふふふふふ」
 不気味だった。
 確かに、僕は彼女が異常になればいい、と願った。けれど、これは違う。なんだか違うのだ。
「涼宮さん、僕、教室に戻ります」
「嫌よ、古泉くん。屋上に行くの。ふふふふ」
「いえ、次、数学なんです。中野先生、凄い怖いじゃないですか」
「ふふふふふ、中野は今日、出張よ」
 そのとき、チャイムが鳴った。彼女はニタリと笑う。
「一秒遅れるのも、一分遅れるのも、一時間出ないのも変わらないわよ。
 私、古泉くんに話があるの。いいでしょ?」
 冷や汗が背中を伝う。
「ね、いいわよね?」
 何を怖がっているのだろうか、僕は。

92: 2009/01/23(金) 23:37:07.69
 屋上へ出ると、心地よい風が吹いていた。少し、ほっとする。
「ねえ、古泉くんさあ」
 僕の方は見ずに、空を見ながら、彼女は話し始める。
「みくるちゃん頃したのって、なんでか分かってる?」
「彼と、涼宮さんの邪魔をしたからです」
「そうそうそう。そうなのよね」
 そう言いながらも、陽に照らされた彼女の顔は、氏人のようだった。
「でもさ、みくるちゃんが消えても、全然うまくいかないの」
「はあ」
「あのね、私のクラスに松延っていうのが居るのよ」
「……ええ」
「知らないだろうけど。すごい不細工なの。もう、人間とは思えないくらいのブサ」
「そうなんですか」
「そうなのよ。そいつが、邪魔してくるの」

99: 2009/01/23(金) 23:42:51.20
「私とキョンが喋っている間に、割って入ってくるのよ。
 ねえ、どう思う? ありえないでしょ?
 私とキョンってお似合いじゃない? 美男美女って感じで……。
 でも、あいつは美女じゃないのよ。キョンとお似合いなわけないの!
 ふふ、ふふふふふふふふふ、で、気づいたのよ。
 キョンってB専だったのねぇ、ふふふふふ。私、美人過ぎたんだわ。
 ねえ、見て? いまの私、凄い不細工でしょう? 髪の毛もボサボサだし、
 目の下にクマも出来てる。制服だって、もう三日も洗ってないのよ?」
「……」
 何もいえなかった。そもそも彼女の言っていることが理解出来なかった。

 狂ってしまった。
 彼女は本当に狂ってしまった。
 
「でも、不細工になったのに、キョンは松延とつるむのよ!
 おかしいじゃない、そんなの! なんで、どうして、なんでよ!
 私は、キョンのためにみくるちゃんまで頃したのに!
 あ、ねえねえ、もういいわ。みくるちゃん頃したの私にしていいわよ。
 古泉くんは何もしてないわ。私がキョンのために頃したの、ふふふ」

105: 2009/01/23(金) 23:47:44.66
「でね、松延を殺そうと思ったの。
 みくるちゃんを私が頃したことにするっていっても、
 実際みくるちゃんを頃したのは古泉くんなんだものね。
 キョンは多分それが気に入らなかったのね。
 だから、私に構ってくれなかったのよ。
 お前の愛は、そんなものか、って絶望しちゃったのね、きっと。
 だから、松延を頃して、私の愛情の深さを教えてあげようと思ったの、ふふふ」

 無責任な程に青い空が、とても白々しく見えた。
 僕が、彼女をこんな風にしてしまったのだろうか。
 違う。こんな復讐がしたかったわけではない。
 もっと、正常な状態の彼女を追い詰めたかったのだ。

「でもね、気付いたのよ。ねえ、古泉くん聞いてる?」
「ええ、聞いてますよ」
「そう? なんか、私の眼、見てない気がしたから。
 ……ああ、私、いま不細工なんだった。あんまり直視したくないわよね。
 それでね、気付いたのよ。松延を頃しても、どうにもならないってことにね。
 邪魔者なんて次から次へと沸いてくるの」

116: 2009/01/23(金) 23:55:41.28
「だから、気付いたのよ」
「何に、ですか」
「ふふ、ふふふふふふふふ、ふふ。
 キョンを監禁しちゃえばいいのよ。そうすればキョンは私のものなの。
 それでね、キョンを遊びに誘ったりして、家に招こうと思ったんだけど、
 中々来てくれないのよ……。
 で、さ。古泉くん、最近、キョンと放課後遊んでるでしょ?」

 ドキリとした。まさか、どこかから会話を聞いていたのではないだろうか。

「キョン、古泉くんのことなら信頼してるみたいだから、
 ……なんとかうまく古泉くんからキョンを誘い出してくれない?」
「……誘い出すとは?」
「そうね……三日後の土曜日くらいに、遊びに誘って、
 そして、そこで飲み物を買ってあげて飲ませるでしょ?
 その中に、睡眠薬を混ぜて、眠りについたキョンを私が受け取るわ」
「…………」
「すぐに答えが出せないのは分かるわ。
 でも、あんまりもたもたされても困るのよ。
 出来れば、明後日までには答えを出して欲しいんだけど……」

 二日後。
 偶然にも、彼が申し付けてきた期限と同じだ。

127: 2009/01/24(土) 00:06:02.90
 教室に戻り、席に座り、ひたすらに考える。
 一体どうするべきなのだろうか。
 彼は、ハルヒを一緒に殺さないか、と言い、彼女は、彼を監禁したいから
誘い出してくれと言う。
 どちらの言うことを聞くべきなのだろうか。
 
 もう正直、どちらにも関わりたくなかった。
 もとはと言えば、自分の巻いた種だ。自業自得だ。
 けれど、尻拭いをする気にはなれなかった。
 いっそのこと自首をしてしまった方が楽かもしれない。

『ふふふふふ』

 頭の中で彼女の笑い声が反響する。
 彼の話によると、僕のことを殺そうともしていたらしい。
 彼女は敵に回したくない。
 けれど、だからといって、彼女に彼を明け渡すのも、後味が悪い。

『ふふふふふ』


 

139: 2009/01/24(土) 00:15:59.75
 放課後、僕は部室へと足を走らせた。
 きっと彼女は居る筈だ。無表情で、読書をしながら、椅子に座っている筈だ。

「長門さん!」
 扉を勢いよく開け、名前を呼ぶと、案の定、彼女――長門有希は居た。
 彼女はそろりと本から顔を上げ、僕を見るなり言った。
「何」
 その無機質な声に、まさか安心する日が来るとは思いもしなかった。
「いえ、その……」
 ここまで来たのはいいものの、何を話せば良いのかが分からない。
 いや、彼女のことだ。案外全てを見抜いているような気がする。

「変化無し」
 
 発言内容を悩んでいると、ふいに彼女がそう呟いた。
 変化無し……変化無しとは、何だ?

「すみません、あの……変化無し、とは……」

143: 2009/01/24(土) 00:22:09.65
「これで、1917回目」
 全くわけが分からない。
「あの……説明を……」
「記憶が無いのは、これで1879回目」
「記憶が無い?」
「そう」
 長門さんの無機質な目は、少し悲しそうに見えた。
「前回は、記憶があった」
「すみません……あの、記憶、とは……」
「前回の記憶」
「……前回とは」
 長門さんは本を閉じ、僕と向き合い、話し始めた。

150: 2009/01/24(土) 00:29:48.99
「最初にループが起こったのは、彼と朝比奈みくるが付き合ったため。
 涼宮ハルヒが無意識的にループを起こした。
 けれど、ループを起こしても変わらないものは変わらない。
 彼と朝比奈みくるは毎回毎回付き合い、そしてその度にループは起こる」

「三十二回目のとき、あなたには記憶があった。
 彼と朝比奈みくるを付き合わせないように、と最大の努力を払った。
 けれど、無理だった。二人はまた付き合い、そしてまたループは起きた」

「二百五回目、また、あなたには記憶が蘇る。
 あなたは今度、朝比奈みくるを頃す。
 それは最初は、彼と朝比奈みくるが付き合うのを阻止するためだけだった。
 けれど、その回を境に、あなたは段々とおかしくなる」

「それから、あなたは毎回、朝比奈みくるを頃した。
 殺人理由は、段々と涼宮ハルヒへの復讐へと変わっていった。
 ループの記憶が無くても、殺人の記憶だけは受け継がれているかのように、
 あなたは毎回毎回朝比奈みくるを頃した。
 今回のように、涼宮ハルヒの能力を利用したこともあれば、
 あなたが自分の手で頃したこともあった」

160: 2009/01/24(土) 00:37:39.88
 信じられなかった。
 僕はこんなことを何回も何回も繰り返していたのだろうか。

「朝比奈みくるを頃したあとで、彼と一緒に涼宮ハルヒを殺そうとしたこともある。
 けれど、即氏させることは出来ないため、朦朧とした意識の中、涼宮ハルヒはまたループを起こす」

「彼を涼宮ハルヒに明け渡したこともあった。
 けれど、彼は毎回すぐに氏んでしまう。
 理由は不明。……彼が氏んだことを認めたくない涼宮ハルヒは、またループを起こす」

「私へと相談を持ちかけてくるのは、これで、1328回目。
 けれど、当然私にも解決策が分からない。
 もたもたしているうちに、松延と彼が付き合い、涼宮ハルヒはループを起こす」

 頭痛がしてきた。これは本当の話なのだろうか。

「仮に、松延さんを頃したらどうなるのですか」
「彼も後追い自殺をする。涼宮ハルヒはループを起こす」
「そんな……。それじゃあ、このループからはどうやって抜け出せばいいのですか」
「不明」

167: 2009/01/24(土) 00:45:16.91
「不明って、じゃあ何回も何回もこんなことを繰り返すんですか!」
 思わず怒鳴ってしまう。
 けれど、彼女は動揺した様子もなく、僕の質問に、こくんと頷く。
 その冷静さにも腹が立った。
 彼女の胸倉を掴み、壁に叩き付けた。彼女は呻きもしない。
 そのことにまた腹が立つ。
 何度も何度も彼女を壁に叩きつけると、彼女の頭から血が出てきた。
 
「あなたが私を頃すのは、四十三回目」

 長門さんは無機質な声でそれだけ言うと、そっと目を閉じた。

177: 2009/01/24(土) 00:53:31.70




 目が覚めて、これが1918回目だと気付く。
 またループからは抜け出すことが出来なかった。


 


 いつも通りの日常。
 放課後、部室に行くと、古泉一樹が先に来ていた。
「こんにちは」
 彼の挨拶に、頷くと、ふ、と彼が笑った気配がした。
「1918回目ですね、長門さん」
 今回は記憶がある。
「ふふ、前回は頃してしまってすみません。痛かったですか?」
「痛覚は無い」
「そうですか。長門さん。今度こそ、ループを抜け出しますよ」
「どうやって」
「ふふ、焦らないで下さい。これはいい考えです」

 笑みを浮かべながら、そう言う古泉一樹。
 彼がとてつもなく不思議な生き物に見え、じっと眺めていると、彼は私の眼を見て、
嬉しそうに呟いた。


「共犯者ですね、僕たち」
                                       (完)

183: 2009/01/24(土) 00:55:15.51

187: 2009/01/24(土) 00:55:41.10
見切り発車で、ところどころ矛盾があり、
そして腑に落ちない終わりだったと思います。すみません。
保守をしてくれた数多くの方に感謝します。ありがとうございました。
今度投稿する際は、きちんと一度書きおこしてからにします。
本当に、駄文につき合わせてしまいすみませんでした。

それでは、おやすみなさい。よい休日を。

引用元: 古泉「共犯者ですね、僕たち」