1: 2021/12/03(金) 19:15:43.48

2: 2021/12/03(金) 19:18:23.13
<ネイチャのお店>


『おい見たか、今のっ!』

『なんだあの走りはァ!?』

ワーワー…


イクノ「……」じっ

タンホイザ「あーっ、イクノってばまたその動画見てる」

イクノ「ええ。何度見ても驚きです……まさかウララさんがブライアンさんに勝つ日が来るとは」

タンホイザ「“榛名のウララ” 、ねぇ……ウララちゃん、いつの間にそんなに強くなったんだろうね?」

イクノ「断片的に投稿された動画で判断するしかありませんが、この走りは一朝一夕で身につくものではないでしょう。よほど榛名の峠を走り込んでいると見て間違いありません。もしかすると、彼女の走ることに対する情熱は、学園にいた頃より今の方が高いのかも……」


「ふっふっふ……でもこれって、チャンスだよね!!」

タンホイザ「おわっ、ターボ起きてたの?」

ターボ「寝てないよ! ずっと考えごとしてたんだもん!」

イクノ「チャンスとはどういうことですか? ターボさん」

ターボ「だってだって、ウララがナリタブライアンを倒したって言うんだったら……そのウララをターボが倒しちゃえば、ターボがブライアンに勝ったってことにもなるし、一気にさいきょーの走り屋ウマ娘になれるでしょ!?」

タンホイザ「……まあ、勝てばそういうことになるかもねぇ」

イクノ「ええ。勝てば、ですけどね」

ターボ「勝つもん! ターボ絶対勝つもん!」

「ほいよー、モツ煮込みお待ちー」ことん

タンホイザ「お?、ありがとーネイチャ」


ネイチャ「なになにー、さっきからちょいちょい聞いてれば……ターボ、ウララに挑戦するの?」

ターボ「あったりまえじゃん! ターボの強さをみんなに知らしめる絶好の機会だもん!」

ネイチャ「あはははっ、まったくいつまでたっても子どもみたいなんだから。まあ無茶できるうちに心ゆくまで走ってた方がいいのかもしれないけどさ」

タンホイザ「ってことはターボ、榛名山に乗り込む気?」はふはふ

イクノ「こちらから試合を申し込むとなると、レースは榛名で行う可能性が高いでしょうね」

ネイチャ「あちゃ?、ってことはかなりアウェーな状況下で走ることになりそうだねぇ……」

タンホイザ「?」

ネイチャ「いや、最近お客さん同士の会話でもウララの話題が出ることが多いんだけどさ、今榛名は本当にウララフィーバーが凄いらしいよ? そんなところに正面切って挑んでいく勇気、申し訳ないけど私にはないかな?……」

ターボ「そんなこと全然かんけーないもんっ。ターボが勝てばみーんなターボのファンになるでしょ? 」

タンホイザ「そうだといいけどねぇ」

ターボ「それにターボはウララに勝つ秘策をもう思いついちゃったんだから!」

ネイチャ「秘策?……?」

ターボ「イクノはわかるよね? ターボが考えてること!」

イクノ「……ええ、確かに今のターボさんなら、作戦次第でウララさんに勝つことは充分可能だと思います」

タンホイザ「え、ほんと!?」

ターボ「ふふんっ。この勝負、完全にもらった……!」くっくっく

――――――
――――
――

3: 2021/12/03(金) 19:20:25.49
<榛名湖畔>


スカイ「……」

キング「……」


ぴくっ


キング「……ひゃっ、かかった……?」

スカイ「おおお?、引いてる引いてる」

キング「ど、どうすればいいのよ!」じゃばじゃば

スカイ「落ち着いて落ち着いて。竿を立ててゆっくりリールを巻くんだ。糸がたわまないようにね」

キング「ぬ、ぬぬぬ……」

スカイ「そうそう、ゆっくり巻き取っていって……」


ざばぁ!


キング「つ、釣れたわ……!///」

スカイ「あっはは、やっと釣れたね?」

キング「この湖で釣り糸を垂らしてはや一週間! ようやく私にも初の釣果が……!」

スカイ「おーおー。よかったよかった」


スカイ「……ってあれ、もう一週間もいるんだっけ?」

キング「え……そうだけど、なによ?」

スカイ「えーっと、ウララの初レースがこの前あって、そのあと一旦帰って、またこっちに来て……そっか、もうそんな経つか」

キング「……」


スカイ「……キングさー、そんなに榛名が気に入った?」

キング「なあっ! そんなわけないじゃない!///」

スカイ「いやいやいや、最初は数日程度遊びに来ただけかと思ったのに、一旦東京に帰ったと思ったらまたこっちに戻ってきて、しかもこっちで別荘まで借りちゃったじゃん」

キング「仕事場に使えそうな物件をこの近所にたまたま見つけたから借りただけよ。確かにここは涼しくていいところだけど、店は遠いし都会とのアクセスは悪いし……まったく不便ったらありゃしないわ」

スカイ「じゃあなんでわざわざ榛名に?」

キング「仕方ないでしょ。ここにいると勝負服作りに活かせそうないいアイデアがたくさん思い浮かぶんだから。ウララさんのレースに刺激を受けてからというものの、仕事の調子がいいのよ。私にとってそれは何よりも優先されるべきことなの。幸い仕事は遠隔でもなんとかやっていけるし」

スカイ「でも仕事のとき以外は別荘じゃなくてずっとウチにいるよね。夜もずっとウチに泊まってるし」

キング「そ、それはウララさんが泊まっていってって毎日うるさいから……!///」

スカイ「ってことは、ウララがいるからここに居続けてるんだ」

キング「ま、まあそういうことになるかしら? 本当に仕方なくなのよ? じゃなきゃ一流の私にふさわしくないこんなど田舎に居続けるなんてとてもとても……」

スカイ(……どんだけウララのこと好きなの)

4: 2021/12/03(金) 19:20:51.99
キング「それにしても、ウララさんのこの前のレースは未だに反響を呼び続けてるみたいね」

スカイ「あー、私はあんまりネットとか見ないけどそうらしいね?。うちの農作物の売り上げまで上がってるくらいだし」

キング「でもそうなると……ウララさんと戦いたいっていう新たなウマ娘も来るはずよ」

スカイ「……」

キング「すでに宣戦布告しているビワハヤヒデ先輩だけじゃなく、各地にいる走り屋ウマ娘にウララさんはターゲットにされるはず」

スカイ「走り屋ウマ娘って、好戦的な子が多いからね~……榛名は平和なもんだけど、コースの縄張り争いをしたり、チーム内でエースの座を争ったり。トゥインクル・シリーズの方がよっぽど平和かもって思うくらい」

キング「そんな世界に、ウララさんは飛び込んでしまったのね……」

スカイ(……ま、時間の問題だったと思うけどね)


スカイ(今のウララが相当に速いのは確か……だけど世界は広い。ストリートで速いウマ娘はゴロゴロいる……)


スカイ(特に赤城のビワハヤヒデ……彼女はきっとウララの弱点をとことん分析し、勝利の方程式を組み立てて来る……それ以外のウマ娘だって、もうそろそろ榛名に乗り込んでくるに違いない)


スカイ(……手を打っておいた方がいいかな~)

5: 2021/12/03(金) 19:21:31.85
<翌朝>


ちゅんちゅん……


ウララ「ん~……やっぱりみずうみの朝は涼しいねぇ~」


ウララ「うんしょ、うんしょ……」ぐっぐっ


ウララ「よーし、ストレッチ終わりっ。キングちゃーん、行ってくるね~」

キング「……zzz」

ウララ「えへへっ、まだ寝てるみたい」


ウララ「セイちゃーん、今日配達するにんじんはー?」

しーん……

ウララ「あれっ? セイちゃんどこ……?」きょろきょろ


ウララ「いないなぁ……あっ、書き置きがある!」


[ウララへ

ちょっと用事があるから出かけるね。
今日の分のにんじんは外に置いてあるから。
気を付けて行ってきてね~

          麗しきスカイちゃんより]


ウララ「なーんだ、お出かけしてるんだ」


ウララ「こんな朝早くにどこ行ったのかなぁ……まあいいや、お仕事いってこよーっと」

6: 2021/12/03(金) 19:22:07.06
<榛名峠>


ウララ「……」たったった


ウララ(うんっ、やっぱり朝走るのは気持ちいいね!)


ウララ「よーし、今日も飛ば……」

びゅんっ!

ウララ「っ!?」


「……」だだだっ


ウララ(だっ、誰!?)


ウララ(フード被ってて顔が見えない……でも、ウマ娘さんだ!)


ウララ「おはよーっ! ね~ね~、そんなに急いでどこに行くのー?」

フード「……」

ウララ(あ、あれ……?)

フード「……」だっ

ウララ「あっ、行っちゃった……!」


ウララ(っていうかこの人、速いっ! この前のブライアンさんに負けないくらい……!)


ウララ(よ、よ~し……っ)だっ


ウララ「ハルウララっ、行くよ~っ!」

7: 2021/12/03(金) 19:22:38.02
<榛名山・中腹>


ブライアン「……眠い」

ハヤヒデ「しゃんとしろブライアン。もうすぐここを通るはずだ」

ブライアン「なんだってこんな朝っぱらから、榛名の峠なんぞに来なけりゃならないんだ……もう少し寝かせろ」

ハヤヒデ「仕方ないだろう。ウララ君は毎朝この時間に配達のために榛名を走っているんだ。あの子が普段どんな走りをしているのかはとても興味がある……彼女の強さの秘密はここにあるかもしれない」

ブライアン「だからって、私まで連れてこなくても……」


ハヤヒデ「! ……見ろ、来たようだぞ」

ブライアン「ん……? おい、あれ……」


フード「……っ」だだだだっ

ウララ「くっ……くぅ~~……っ!」だっ


ハヤヒデ「なっ……だ、誰だ!? あのウララ君の前を走るウマ娘は!」

ブライアン(速い……っ!)


ウララ(届きそうで、届かない……っ)


ウララ「こうなったら~……!」ぴょんっ

フード「!」

ウララ「本気でいくしかな~いっ!」ががががんっ


ハヤヒデ「出たっ、ガードレール走り……!」

ブライアン「どういうことだ! あいつは普段から毎日こんなレースをしてるって言うのか!?」

ハヤヒデ「毎日かはわからない……それに、これは単純なレースではないのかもしれない。だが本気で走っていることは確かだ! あの走り方は相当なスピードが出ていないとできないものだからな……」

ブライアン「ああ……あれは本来ウマ娘がコーナーを曲がり切れる速さを超えた、オーバースピードが前提の危険な走り方だ」

ハヤヒデ「だが、あのフードのウマ娘……そのウララ君に前を譲らない……なんて速さだ!」

ブライアン「一体誰なんだ、あいつは……!?」


ハヤヒデ「……」

ブライアン「……とんでもないものが見れたな」

ハヤヒデ「ああ……」

ブライアン「やれやれ、ぬくぬくと寝ている場合じゃなかった。榛名のウララは今もこうして進化を続けているのか……」

ハヤヒデ「……この前のレースで戦力を見切ったと思ったが、まだまだ私たちの知らないウララ君の顔があるということだろう」

ブライアン「それに、ウララを標的にしているのは私たちだけじゃないってことも分かった。朝の配達を狙って、ああやって無理やり勝負を挑むヤツもいるんだ」

ハヤヒデ「それはある程度予想がついていたことだが……あのフードのウマ娘もそんじょそこらにいる峠好きではないな。どうやら情報収集を急ぐ必要がありそうだ」


ハヤヒデ(ウララ君以上に強い存在が、早くも現れてしまったのかもしれない……)


ハヤヒデ(この榛名で、何かが起ころうとしている……?)

8: 2021/12/03(金) 19:23:50.81
<グリーン牧場>


ウララ「はぁ……はぁ……」

タイキ「グッモーニ~ン、ウララ~♪ 今日も配達ご苦労サマデース!」

フクキタル「おはようございますっ、今日もいい天気ですねぇ~」

ウララ「……う、うん……」ぜーぜー

タイキ「ホワッツ!? どうしてソンナニ息を切らしているんデスカ?」

ウララ「あ、あのね……今榛名を走ってきたときに、知らないウマ娘さんと競争になって……」

フクキタル「えぇぇ~~~!? そんなっ、こんな朝っぱらからレースを挑まれたんですかぁ!?」

ウララ「ううんっ、そういう感じじゃなくて……最初の坂のあたりで後ろから急にウマ娘さんが現れて、わたしを抜かして走っていったから……わたしもなんか負けたくなくて、一生懸命追いかけたんだけど……」

タイキ「そ、ソレデ?」

ウララ「もうちょっとだったんだけど……追いつけなかった」

フクキタル「負けちゃったんですか!?」

ウララ「う~ん……たぶん」

タイキ「ノォォォ~~~ウ!! せっかくブライアンに勝って、ウララのレジェンドストーリーが始まったばかりだって言うのに、もう負けちゃうナンテ~……っ」

フクキタル「い、いやいやっ、ウララさんはにんじんをたくさん持って走ってたんですよね? だったら条件はアンフェアもいいところ! そんなのレース結果として認められませんよ!」

タイキ「そ、そうデース! ウララがちゃんとレースの準備をして臨んでたら、負けるはずありマセン!」

ウララ「うん……」

フクキタル「それにしても非常識な人がいますねぇ。配達を狙って無理やり勝負に持ち込もうとするだなんて」

タイキ「ウララっ、走りたくなかったら無理に付き合わなくていいんですからネっ? ウララもキャロッツの一員なんですカラ、バトルの誘いもキャロッツを正式に通したものしか認めないようにスレバ……」

ウララ「ううんっ、わたしね、べつにレースしたくなかったとかじゃないの。ちょっと楽しかったし!」

フクキタル「そ……そうなんですか?」

ウララ「ただ……わたしと走り方が全然違うのに、どうしてあんなに速く走れるのかが気になっちゃって……」

タイキ「ウェ~ル……と、とりあえずヒツジさんをモフって元気出してクダサイ!」

フクキタル「そうですそうですっ! つめたい牛乳も飲んでいってください!」

ウララ「えへへっ、ありがとー!」

9: 2021/12/03(金) 19:24:50.44
<スカイ宅>


キング「そ、それ本当なの!? いきなり現れた知らないウマ娘に負けたただなんて……!」

ライス「さっきタイキさんからも連絡があったけど……そうなんだよね、ウララちゃん?」

ウララ「うん……わたしはにんじんを持って走ってたけど、もしにんじんがなくても勝てたかなぁ……本当にすっごい速かったんだよ、そのフードのウマ娘さん!」

キング「どう思う? スカイさん……」

スカイ「ん~、まあ世の中にはいろんなウマ娘がいるからね。今日はほんの様子見のつもりで、あとで正式にバトルを挑んでくるかもよ~」


ぴんぽーん


ウララ「あっ、タイキちゃんたち来たみたい!」


「……」しーん


ライス「あれっ? 入ってこないね」

スカイ「ウララ、ちょっと見に行ってあげて」


ウララ「タイキちゃん? どうしたのー?」がちゃっ

タイキ「オウッ、ウララ。ソーリー、ちょっとビックリしちゃっテ……」

フクキタル「あ、あのスカイさん! 玄関のこれはインテリアの一種か何かですか……?」

スカイ「?」

フクキタル「なんか、ドアに矢が刺さってたんですけど……」

スカイ「えっ、なにそれ」

キング「ちょっ、これ……手紙がくくりつけられてるじゃない! 矢文よ!」

スカイ「なに~? 読んでみてよ」


ぴらぴら……


[妥当 ウララ!]ばーん


キング「だ、打倒ウララ!?」

ライス「漢字間違ってるよね……?」

フクキタル「これって……ウララさんへの宣戦布告じゃないですか!?」


『ハルウララ~~~~~っ!!』きーん


ウララ「うわぁーっ!?」

タイキ「あっ、あそこに誰かいマース!」


ターボ『聞け~~!! ナリタブライアンに勝ったくらいで調子に乗るな~~!!』

キング「つ、ツインターボさん!?」

スカイ「あーあー、あんなにスピーカーでうるさくしちゃって……」

ライス「近所迷惑になっちゃうよぉ~……」


ターボ『この妙義のターボを倒さない限り、群マ最強の走り屋ウマ娘にはなれないんだから!! ターボと戦え~~~っ!!』

タイキ「妙義のターボ! そう言えバ、ターボが妙義山で走ってるって聞いたことありマース」

キング「と、とりあえずやめさせてきなさいよ! ご近所さんに変なウワサ立てられるじゃない!」

スカイ「キングはすっかりここの住民の立場なんだね……」

ウララ「ターボちゃ~~ん! やめてやめて~~~!!」だっ

10: 2021/12/03(金) 19:25:19.99
<スカイ宅>


タンホイザ「えへへへ……ごめんね~? ターボがどうしてもこういう形で宣戦布告したいって言うから……」

フクキタル「まったく、ビックリさせてくれますねぇ」

キング「まさかあなたたちも走り屋ウマ娘として群マにいたなんてね」

ターボ「それでどうなの? 勝負してくれるの?」

ウララ「う、うーん……」

ターボ「えーーっ!? なにその反応! ターボと戦いたくないの!?」

ウララ「ううんっ、そういうわけじゃないんだけど……今日はちょっといろいろあって、悩んでるっていうか……」

ライス「そうなのっ、実は今日……」

すっ

ライス(っ?)むぐ

スカイ「まあまあ、その話はいいじゃない。ウララ、受けてあげたら?」

ウララ「セイちゃん……」

スカイ「走りの中で生まれた悩みは、机の前でウンウン考えてても解決しないよ。考えるより先に走れ、ってね。もしかしたら、ターボとのバトルを通して何か掴めるかもしれないよ?」

ウララ「!」


ターボ「よ、よくわかんないけど……やるの? やらないの?」

キング「日程はいつ?」

タンホイザ「今週末とかどうかなー。天気もいいって言ってたし!」

ウララ「うん……それじゃ、やってみる!」

ターボ「ほんと!?///」

ウララ「うんっ、一緒に走ろっ?」

ターボ「わぁぁ……! ……じゃなかった、よーし決まりっ! せいぜい走りこんで練習しておけー!」ぴゅーん

フクキタル「あらら、行っちゃった」

タンホイザ「うふふっ、ターボは嬉しいんだよ。久しぶりにトレセン時代のみんなと一緒に走れるから」

ウララ「あっ、タンホイザちゃん! ちょっと聞きたいんだけど……ターボちゃんって、今朝榛名を走ってたりした……?」

タンホイザ「えっ、榛名を? そんなことないよ、だってここに来たのはついさっきだもん。これから練習でちょっと走るかもしれないけど」

ウララ「そっか……じゃあターボちゃんじゃなかったんだね……」

タイキ「例のフードのウマ娘デスカ?」

ウララ「う~ん……ほんと誰だったんだろ?」

11: 2021/12/03(金) 19:25:46.63
<夜・榛名湖畔>


スカイ「……」ちゃぽん

ウララ「あっ、いたいた。セイちゃーん」

スカイ「ん~ ?」

ウララ「キングちゃんがね、ご飯できたよーって」

スカイ「あー呼びに来てくれたんだ。ありがとー」

ウララ「……」


スカイ「ウララ。フードのウマ娘さんは速かった?」

ウララ「えっ!」

スカイ「……」

ウララ「……うん、すごく速かった……」

スカイ「そっか。どうしてその人が速かったか、わかる?」

ウララ「う~ん……それが全然わかんないのっ。わたしと走り方が全然違うのに、どうしてだろうって……」

スカイ「……私はね、なんとなくわかるんだ。その人が速い理由」

ウララ「えーっ!? そうなの!?」

スカイ「うん。でもそれを教える前にひとつ聞いておきたいことがある」

ウララ「……?」


スカイ「ウララがこの前のレースでも見せた、ガードレールを使った走り方。あれを最初に思いついたときのことを聞かせて?」

ウララ「あれはねっ、本当にぐーぜんだったんだよ! まっすぐな道でどこまでスピードが出るかな~って試してみて、カーブで曲がり切れなくて『危な~い!』ってなったときに、とっさにガードレールを蹴って走ったら、うまい感じに曲がれたの!」

スカイ「あはは、やっぱそんな感じか。危ないな~もう」

ウララ「う、うん……ごめんなさい」

スカイ「ま、そのおかげでウララは速い走り方を身に着けたんだね。確かにその走り方は画期的な速さを実現してくれたと思う。それはこの前のレースで皆もわかったんじゃないかな」

ウララ「でしょでしょ!? すごいよね!」

スカイ「でもね、それは必ずしも『峠を一番速く走る』方法ではないかもよ?」

ウララ「っ!」どきっ


スカイ「コーナーに突っ込むスピードを次の直線に活かすための走り。いわばスピードの減速を最小限に抑えてコーナーを曲がりきるための走り。それがあのガードレールを使った走り方だと思う。全部のコーナーをあれで走り切れたら大したもんだ」


スカイ「でもそれは同時に、『すべてのコーナーを大外で走らされている』のと同じことなんだよ」

ウララ「あっ……!!」


スカイ「ウララもトレセン学園にいたころ、レース場で走ったからわかるよね。コーナーは内側を走るほど距離が短く、外側になるほど距離は伸びてしまう。前にウマ娘がいて塞がれているときは外側から追い抜くことが多いけど、コーナーっていうのは内側を走っているウマ娘が距離的には一番有利なんだ」


スカイ「ウララみたいに身体が小さくなくて、ガードレールに頼った走り方ができないウマ娘でも、速く走るための『ライン』ってものがある。そこにフードさんが速い理由が隠れてるんじゃないかな~」

ウララ「そっか……そうなんだ……」


キング「ちょっとあなたたちー! ごはん冷めちゃうわよ!」

スカイ「おっとっと……さーて、ごはんごはん~♪」

ウララ「……」

スカイ(ふふふ……たくさん悩みな。そして成長していくんだ……ウララ)

――――――
――――
――

12: 2021/12/03(金) 19:26:41.41
<週末・榛名山>


ざわざわ……


フクキタル「ひぇ~、この前よりギャラリー増えてませんかコレ!?」

タイキ「ウララの注目度はすごいでデスネ~……」

ライス「それに、ターボさんがこの前ウマッターで宣戦布告の動画を出してたりもしたから……余計に人が集まっちゃったんじゃないかなあ」

フクキタル「前回のレースのギャラリーは、もともとブライアンさんとスカイさんを見に来た人たちでした。でも今回集まったひとたちは正真正銘、ウララさんとターボさんを見に集まってるんですよっ」

ウララ「う、うん……!」

キング「ちょっとフクキタルさん、あんまりプレッシャーかけること言わないの……!」

フクキタル「すすすすみません! そんなつもりじゃ……!」


「うきゃーーーー! あの尊み溢れる姿はまさしく私の推しウマ娘っ、ウララさーん!!」

キング「ん?」

デジタル「学園を卒業してどこに行ってしまったのかと思えばこんな山奥にっ……ううう~~、でも頑張って来た甲斐がありましたぁ! しかもあの頃と全然変わってな~い! はぁぁ、しゅき……///」

キング「……なんか見覚えある人も来てるわね」

タイキ「まさしく、 “ウララを見にきた人” デース」

フクキタル「夜の峠でサイリウムは目立ちますねぇ……」


「待っていたぞ、ウララーっ!」ざっ

ウララ「?」

ターボ「ふっふっふ……よく逃げずに来たな! そのこころいきは褒めてやる!」

ネイチャ「おお~! 懐かしい顔がいっぱいじゃ~ん♪」

イクノ「お久しぶりです、皆さん」

タンホイザ「やっほー。ターボの応援に来たよ~」

ウララ「みんなー!」

スカイ「あはは、なんか同窓会みたいになってきちゃったね。でもここにいる人たちみんな群マに住んでるんでしょ?」

イクノ「我々は妙義山をホームコースとして走り屋ウマ娘のチーム活動を始めました。もっとも今走っているのはターボだけですが」

タンホイザ「だいたいいつも妙義の峠を走ったり、ネイチャのお店でごはん食べたりしてるよ~」

ターボ「ターボねっ、あっという間に妙義山最速に上り詰めたんだから! だから今日のレースでウララにも勝って、一気に群マで最速のウマ娘になってやる!」

13: 2021/12/03(金) 19:27:12.36
「本日の勝者が群マ最速の称号を手に入れる……というのは、いささか早計ではないかな。君たち」

イクノ「なっ……! あなたは!」


ハヤヒデ「私と戦わずしてそんな称号を名乗られるのは、到底納得できないのだが」

ブライアン「……フン」

ターボ「ビワハヤヒデ! ナリタブライアン! 何しに来たの!?」

ブライアン「……私たちが来てはいけない理由などあるのか?」

ハヤヒデ「心配しなくていい、今日はただのギャラリーさ。最近妙義山最速の座に上り詰めたというツインターボ君が、本当に “榛名のウララ” に通用するのか気になってね」

ターボ「……なにそれ、ウララの方がターボより速いって決めつけてない!?」むかっ

ハヤヒデ「戦い方を間違えなければそういう結果になる……私の計算ではそう出たんだ」

イクノ「勝負は時の運。不確定要素の多い峠のレースは、やってみなければわかりませんよ」ずいっ

ハヤヒデ「……ふふ、君の言うことはもっともだ。では見せてもらうとするよ。今日のレースの勝者には、私から正式にバトルを申し込ませてもらう。群マ最速の座はそこで決めようじゃないか」

ターボ「ふんっ。いいもん、ウララもビワハヤヒデも、このターボが倒してやる!」

ハヤヒデ(……まあ、最速争いに参加するウマ娘が、私たち3人だけとは限らないがな)


ブライアン「……おい、ハルウララ」

ウララ「な……なに?」

ブライアン「こんなちっこいの相手につまらない負け方をするのは許さないぞ。お前は私に勝ったんだからな」

ターボ「ちっこいって言うな! ウララよりターボの方がちょっとだけ大きいんだぞ!」

ブライアン「フン……“榛名のウララ”には、いずれ私もリベンジするつもりだ。それまで絶対に負けるなよ。こいつにも、あのフードのウマ娘にも」

ウララ「え……!!」

ブライアン「……じゃあな」

ターボ「ふーど? 誰それ」

ウララ(ブライアンさん……どうして知ってるの!?)



ネイチャ「うっわ~、バチバチじゃん……なにあれ」

ライス「走り屋ウマ娘の世界は基本的に1対1のレースだから、大勢でひとつのレースを走るトゥインクル・シリーズよりライバル意識が強く芽生えやすいんだって……」

キング「1着だけが勝者となる普通のレースと違って、勝者は1人、敗者も1人しか出ないものね」

タンホイザ「えへへ……本当はみんなともっと親睦を深めたいところなんだけど、一応私たちは敵同士だし、そういうのはレースが終わってからだね! ごめんね~」

フクキタル「あーあーいいんですよっ。こちらこそよろしくお願いしますね~」

タイキ「終わったらみんなでバーベキューといきまショ~ウ♪」

ネイチャ「おおっ、楽しみ~!」

キング「まったく……のん気なものね」

14: 2021/12/03(金) 19:28:23.13
「勝ってくれよー! ウララーっ!」

「またこの前みたいな熱い走りを見せてくれーっ!」

ワーワー…!


ターボ「くっそ~、みんなしてウララウララって……! 絶対にターボが勝ってやるんだから!」

ウララ「っ……」


スカイ(ん……?)


スカイ「ウララ、どうかした?」ぽん

ウララ「えっ?」

スカイ「さっきから落ち着きが見られないからさ。峠のレースはガッツが大事。気持ちで負けてちゃ勝てないよ??」

ウララ「うん……」

スカイ「……どーしたの」なでなで

ウララ「……あのね、本当にわたしはこのまま走ってもいいのかなぁって思って……」

スカイ「え?」


ウララ「こんなにいっぱいの人が見てくれて、応援してくれて……でもわたしは、この前フードさんに負けちゃったでしょ? だからもし今日勝てたとしても、いつかみんなの前で負けちゃうのかなあって考えたら……怖くなっちゃって……」

スカイ「……あははっ! なんだそんなことか~」

ウララ「え~っ? 笑いごとじゃないよぉ!」

スカイ「大丈夫だって。ウララはこの前にんじん持ちながら走ってたんでしょ? 何も持たずに走ればどんな相手にも負けないよ」

ウララ「でもねでもねっ、あれから何回か榛名のおやまで走ったけど……あのときのフードさんが目に焼き付いちゃってるのっ。どうすればフードさんを追い抜かせるか、わからないの……」

スカイ「……トレセン学園にいたころはたくさん負けてきたウララが、こんなに負けを怖がるようになるなんてね~」

ウララ「うう~……」

スカイ(……ま、それは自分の走りに自信が出てきた証拠でもある)


スカイ(毎日毎日走って築き上げてきた、ウララなりの榛名の走り方。それがおびやかされて動揺してるんだ)


スカイ「……しょうがないなぁ。それじゃ、フードさんが速く走れる理由をもうちょっとだけ教えてあげようかな」

ウララ「えっ!?」

スカイ「ふふ、一度しか言わないからよーく聞きなよ?」

ウララ「う、うん……!」

スカイ「ヒントはね……」こそこそ


ターボ(……何やってんだ? ウララのやつ)

イクノ「ターボさん、そろそろスタートの時間です。準備はできてますか?」

ターボ「うんっ! いつでも行けるよ!」

イクノ「……私の計算では、ターボさんが考えた例の秘策はきっとうまくいきます。ギャラリーに見せつけてあげましょう、我々が妙義で築き上げてきた成果を」

ターボ「おーう!!」

15: 2021/12/03(金) 19:29:07.60
スカイ「……とまあ、そんな感じだけど、とりあえず今日のところは自分なりの走りをした方がいいよ? そんなすぐに走り方を変えたって、うまくいく可能性は低いからさ」

ウララ「そうだね……今はターボちゃんの相手に集中しなきゃっ」

スカイ「そうそう。このレースを通していっぱい成長して、フードさんより速いウマ娘になっちゃえば悩みは全部解決するよ。そしてウララにはそれができるって、私は信じてる」

ウララ「セイちゃん……!///」

スカイ「ハチマキきつく締め直して、行っといでっ」

ウララ「うんっ!」きゅっ


タンホイザ『それじゃあ、カウント始めるよ~~~!!』


ウララ「ターボちゃんっ」

ターボ「ん?」

ウララ「わたし……負けないからねっ」

ターボ「!」


ターボ「ふふん……こっちこそ!」


ターボ(圧倒的に逃げ切って、勝つ!!)


タンホイザ『3!……2!……1!』


ターボ「ついてこい、ウララーっ!」

ウララ「いっくよ~!」

タンホイザ『GOーーッ!!』


だっ!


タイキ「GOーGOー!ウララ~っ!」

キング「スタートは悪くないわ!」

ライス「でもっ、ターボさんのほうが速い……!」

ネイチャ「あの子のロケットスタート、相変わらず冴えわたってるね~」

スカイ(……やっぱり平坦な直線ではターボの方が速いか。でもウララも相当速くなってるな)


スカイ(毎日毎日ダウンヒルを走って……そして帰ってくるための上りが、坂路トレーニングにもなってるからね)


スカイ(あの子、前は上りの道を歩いてたみたいだけど……いつからか上りも走るようになった。自分の意志でトレーニングをするようになったんだ。速くなるために)


スカイ(あの子の走りに対する情熱は……本物だ!)

16: 2021/12/03(金) 19:29:51.88
ターボ(よし、最初のコーナーまでで結構な差をつけた!)だだだっ

ウララ(速い……ターボちゃん、本当に速い……っ!)


ウララ(でも、あのときのブライアンさんはもっと遠くにいた。まだまだ追いつけるはず……っ)だっ

ターボ(ふっふっふ……よーく目に焼き付けてよねっ)


ターボ「これができるのは、ウララだけじゃないんだってこと!!」ががががんっ

ウララ「!!」



タンホイザ「ねーねーイクノ、そろそろ教えてよっ。ターボが勝つための秘策ってなんなの?」

ネイチャ「そうそう、本当にあの子にそんなことができるの?」

イクノ「……もうレースは始まりましたからね。いいでしょう、ではお教えします」


イクノ「私とターボさんがここ最近妙義で取り組んできた特殊な走法です。私は最初、危ないからやめるようにと言ったのですが……その走り方を取り入れてから劇的に速くなりました。熟練度が増すたびに、何度もコースレコードを更新しています」


イクノ「しかしその走法を私たちより先に有名にしたのは、あのウララさんでした」

ネイチャ「ウララが……? それってまさか……」

イクノ「……ええ、“ガードレール走り”です」

タンホイザ「ええ~っ! ターボもできるの!?」

イクノ「ウララさんと同じように、小柄かつ軽量のターボさんも可能なのです。もう少しで世間にお披露目というところで、ウララさんに先を越されてしまいましたが」

ネイチャ「あ~あ、あの子そういうのすっごい残念がりそ?」くすくす

イクノ「ふふ……ですが、ターボさんも大人になりました。彼女はぐっとこらえ、今日この機会をずっと狙っていたのですよ」

17: 2021/12/03(金) 19:30:40.04
タイキ「レアリィ!? ターボもガードレール走りをしてるッテ……!?」

フクキタル「ちゅ、中継映像を見てください!」

ライス「ほんとだぁ……2人とも、ガードレールを使ってる……!」

タイキ「こんなのっ、前代未聞のバトルデース!!」


キング「で、でもこれって……まずいんじゃないの!?」

スカイ「……そうだね。ウララにとって最悪のケースかもしれない」

ライス「どうして?」

スカイ「よく考えてごらん……」


ウララ(ど、どうしよう……っ)だだだっ


ウララ(このままじゃ……このままじゃ負けちゃうよぉ……!)


スカイ「あの子は直線ではターボの速さに追いつけない。あの子の強みは高速でコーナーを曲がること……だから追い抜きのポイントは基本的にコーナーになる。この前のブライアン戦のようにね」


スカイ「でも今回は相手が先にガードレールを使ってしまっている……つまり、ウララはコーナーで前に出ることができないんだ」

ライス「あっ……!!」


イクノ(これが……我々の秘策です!)すちゃ



「見ろ! ガードレールから火花が上がってるぞ!」

「2人とも、それだけの速さで走ってるってことだ!」

「おいでも、このままじゃウララはターボに勝てないんじゃないのか……!?」

ワーワー…


ハヤヒデ「……」

ブライアン「姉貴は予想していたのか? 今回のこのケースは」

ハヤヒデ「……ああ。データから見て、ターボ君がウララ君と同じような走りをすることは分かっていた」


ハヤヒデ「そして、大逃げを打つターボ君の走り方も昔から変わっていない。そうなると、2人ともまったく同じラインを走ることになる以上、ウララ君が追い抜くチャンスはないと言っていい」

ブライアン「……でも姉貴は、ツインターボよりハルウララの方が速いと言い切っていた」

ハヤヒデ「ああ。だから言ったんだ。『戦い方を間違えなければ』、ウララ君が勝つとな」

ブライアン「戦い方……」

ハヤヒデ「これはタイムアタックではなくバトルだ。コースには相手がいる。峠を速く走ることと峠でバトルに勝つことは別物だ。今日のレースではウララ君のバトルのセンスが問われるだろう」

ブライアン「チッ……負けるなよ、榛名のウララ……」

18: 2021/12/03(金) 19:31:26.80
ウララ「はっ……はっ……!」

ターボ「ぐぅぅ~……っ!」


ががががんっ!


ウララ(まっすぐでは離されちゃうけど、カーブでは近づける……でもこのままじゃ、前に出させてもらえないよ……!)


ターボ「逃げ切る……逃げ切ってやるっ!! ターボがずっと一番なんだから!!」

ウララ「くっ……」


ターボ「ずっとそこにいろ! 榛名のウララっ!!」だんっ

ウララ「!!」はっ


ウララ(そうだ……ターボちゃんは、わたしとすっごく似てるんだ……!)


ウララ(だったら、わたしより速い人みたいに走ればいい……)


ウララ(フードさんみたいな走り方ができれば、ターボちゃんを……“今までのわたし” を抜けるかも!!)

がんっ!


ターボ「なっ!?」


ターボ(ガードレールから離れた……いや、走り方が……変わった!?)

19: 2021/12/03(金) 19:32:02.35
キング「そういえばスカイさん、スタート前にウララさんと何か話してたわね」

スカイ「あー、ちょっと緊張をほぐしてあげただけだよ」

キング「それだけ? 速くなるためのコツでも教えてあげたらいいのに」

スカイ「はははっ、そんな言葉ひとつで速くなれたら誰も苦労しないって。速さっていうのは自分の頭で考えて、何度も走ってやっと身につくものでしょ?」

キング「ま、まあそうだけど……」

スカイ「それに私とあの子じゃ、走り方が根本的に違う。あの子の走り方はすっごい特殊なんだ。だから『一般的な走り方』をちょこっと教えてあげたけどね」

キング「一般的な走り方……?」


スカイ「今ウララとターボがやっているガードレール走りは、ダウンヒルを速く走り抜く画期的な方法だよ。でもすべてのコーナーをそう走る必要はないんだ。なぜならガードレールを走っている以上、絶対的な走行距離は長くなってしまうからね」

キング「確かにそうね……あんな外いっぱいに走っているんだもの」

スカイ「かといって、ゴールまでの走行距離が最も短くなる走行ラインをなぞっても、今度はコーナーが急角度になりすぎて減速が激しくなってしまう。そうなると、ウララみたいに高速でコーナーを曲がれるウマ娘に抜かされてしまう」


スカイ「あの走り方ができない私たちみたいな普通のウマ娘は、基本は『アウト・イン・アウト』でコーナーを攻めるんだ。角度の急なコーナーは道幅をなるべく使って大きく弧を描くように外側から入り、ハングを切ってコーナーの一番内側を通って、直線的に外側に抜けていく。なるべく減速しないように、かつ再加速の負担が少ないように」


スカイ「最も距離的に短いラインと、ウマ娘がスピードを落とさずに曲がり切るためのライン。これを擦り合わせて作り上げられるのが、『ウマ娘が速く走るためのライン』なんだ」

キング「なるほど……それは、ターフのレースにはない考え方ね」

スカイ「でも峠のコーナーってやつはターフと違って複雑で、角度も大きさも一定じゃないし、コーナーに突入する前の直線だって距離も勾配もそれぞれ違う。どこを通れば一番速いタイムが出るかなんて、何回も走りこんだ人にしかわからないんだよ。誰かが理想的なラインを作り上げたとしても、それを曲がり切れるかどうかは走るウマ娘次第だし」

キング「曲がり切れなかったら……大惨事じゃない!」

スカイ「……まあね。よくてガードレールに激突。悪けりゃそれを突き破って、谷底に真っ逆さま……」

キング「っ……」

スカイ「今回のレース……ウララは一体どんなラインを走るのか」

キング(ウララさん……お願い、最後まで無事に走り切って……っ)

20: 2021/12/03(金) 19:32:48.02
ウララ「っ……」だだだっ


ターボ(どういうこと……ウララは急に走り方を変えた! あれからいくつかのコーナーを、ガードレールを使わずに走るようになった……)


ターボ(それなのに……ターボとウララの差は、離れるどころかどんどん縮まってる!!)


ウララ「はっ――はっ――」たっ


ウララ(まだ思い出せる……フードさんの走り方……フードさんが走ったライン!)


ウララ(わたしと全然走り方が違うのに速かったのは、こういうことだったんだ! たしかに、思ったより走りやすいかも……っ!)だんっ

ターボ「なっ!?」


ターボ(な、並ばれた……!?)

ウララ(榛名のおやまは、いろんなカーブがあるもんね。ガードレールを使った方がいいところもあるけど、そうしない方が速く曲がれるとこもある……!)


ウララ(身体をめいっぱい傾けて、アスファルトを蹴って……)


ウララ(下り坂を利用しながら走れば、もっと速くなれるっ!!)


ウララ「チャンスは……ここだぁ~~っ!!」だんっ


ライス「ああっ!」

タイキ「Wow!」

フクキタル「行った……!」

キング「やったわ!!」


ターボ「くっ……くっそぉぉ~~~!!」


イクノ「ええっ!? ターボさんが抜かれた!?」

タンホイザ「そんなっ……秘策は~!?」

ネイチャ「あちゃ~、通じなかったか……」


ブライアン「……フッ、終わったぞ。勝ったのはハルウララだ」

ハヤヒデ「ふむ、さすがというべきか。バトル中にも走り方を変えられる柔軟性、そしてコースに対する熟練度が勝敗を分けた」

ブライアン「この榛名を何度も走りこんでいるからこそ、走行ラインが変わっても感覚的に走り方を理解し、ペースを乱さなかったということか……」

ハヤヒデ(それは……あのフードのウマ娘との走りを通して身に着けたのかもしれないな……)


ハヤヒデ「フフ……わくわくするよ。こんな気持ちになったのは久しぶりだ」

ブライアン「!」

ハヤヒデ「相手にとって……不足はない」ゴゴゴ

ブライアン(姉貴……?)

21: 2021/12/03(金) 19:33:31.77


ターボ「……」


ターボ(勝てると思ったのに……もうちょっとだったのに……///)ぐすっ


「ターボちゃんっ」

ターボ「?」くるっ

ウララ(な、泣いてる……)


ウララ「あ……あのね、えっとね……な、なんて言ったらいいのかな」

ターボ「……いいよ、何も言わなくて」

ウララ「ううんっ、あのね……その……あ、ありがとうっ!」

ターボ「え……?」


ウララ「ターボちゃんと走って、いろんなことに気付けた気がするの! 榛名のおやまでわたしと同じように走る人に出会ったのは、これが初めてだったし……その、嬉しかったよ!」

ターボ「嬉しかった……」

ウララ「うんっ」


ターボ「……ターボも、嬉しかった。それに……楽しかった」

ウララ「!」

ターボ「ありがとう……///」


「お~いっ、ターボー! ウララちゃーん!」ききーっ

ターボ「あっ、マチタンだ」


タンホイザ「迎えに来たよー! 2人ともよく頑張ったね~」

ネイチャ「スタート地点に戻ろっ。みんな待ってるよ?」

ターボ「うんっ!」

――――――
――――
――

22: 2021/12/03(金) 19:34:00.39
<翌日>

キング「ウララさーん? 洗濯するものあるかしら?」

ウララ「あっ、あるあるー! これとー、あとこれとー……」ぽいぽい

キング「まったく、栗東寮にいた頃から何も変わらないわね。脱いだら脱ぎっぱなしはやめなさいと言ったでしょう」

ウララ「えへへ、ごめんね?」

キング「ええと、これで全部かしら? 今日は洗濯物多いわね」

ウララ「あれキングちゃん、それも洗濯物?」

キング「ああこれ? テーブルの上に置いてあったからついでに洗っちゃおうと思って」

ウララ「んん? こんなの見たことないなー」

キング「そういえば何なのかしらこれ……」ばさっ


キング「……マント? フードも付いてるわね」

ウララ「あっ…………あああ??????っ!!!」

キング「ええっ! どうしたの!?」


ウララ「これ……この色……!!」

スカイ「ちょっと何二人ともー? 大きな声出して」がちゃ

ウララ「セイちゃんこれ! このフード!」

スカイ「あ…………あ?……見つかっちゃった?」

ウララ「もしかして、フードさんの正体って……!!」

スカイ「ん?……いやー、参ったね……///」

ウララ「セイちゃんだったんだー!! どおりであんなに速いと思った?!!」

キング「なによ、あなたなの!? ウララさんに勝った人って!」

スカイ「も?キングが勝手に洗濯とかするからバレちゃったじゃ?ん♪」

キング「そんなのくしゃくしゃで家の中に置きっぱなしにしておく方が悪いのよ! っていうかこれ見よがしに置いてあったわよ!? 本当はわざとバラしたかったんでしょう!」

ウララ「やっぱりセイちゃんってすっごいんだねー! ねーねーなんであんなに速いの!? おしえておしえてー!」ぴょんぴょん

スカイ「ちょっと~くすぐったいよ、落ち着いてって~……///」

キング「なに嬉しそうな顔してるのよ!///」


~fin~

引用元: 【ウマ娘】頭文字U Second Corner