1: 2012/02/09(木) 06:53:58.25
「あっ。おはようございます、あずささん」

ゆっくりと目を開けると、見慣れた天井
そしてプロデューサーさん

えぇっとぉ、私…

「最近忙しかったですからね。疲れてたんでしょう」

事務所のソファーで眠ってしまっていたみたい


4: 2012/02/09(木) 06:57:33.49
「隣にいて下さったんですか?」

「ずっといたワケではないですけど…心配だったんで」

「…夢を見ていました」

「どんな夢?」

「おかしな夢です」

「夢なんてどれもおかしなもんですよ」

そう…
とってもおかしな夢だった

6: 2012/02/09(木) 07:00:42.36
「私は迷子になっていました」

「夢の中でも?」

「…」

「あ、すいません…」

「最初は律子さんや竜宮小町のメンバーといたのですけれど…」

「はぐれたんですか?」

「いいえ。私が逃げ出したんです」


8: 2012/02/09(木) 07:05:56.37
ライブに向かう車の中

最初は四人で楽しくお喋りしていたのだけれど…

いつの間にか車は雪原の上を走っていました

「どこの雪原ですか?」

「地名までは…でも、地面にはたくさん穴が空いていました」

「穴?」

「はい。律子さんは"また雪歩の仕業ね"って」

10: 2012/02/09(木) 07:11:10.70
「…雪歩はそういうキャラなんですね。あずささんの中では」

「夢の話ですから」

「はい。夢の話です」

「それから…」

その中でもとりわけ大きな穴に車が落ちてしまって…

高さは20メートルくらいかしら?

みんな無事だったけれど、車は壊れてしまいました

「無事で何より」

「はい。何よりでした」

14: 2012/02/09(木) 07:17:05.54
律子さんは慌てていました

どうしよう、ライブに間に合わない、って

「小町の三人は?」

「亜美ちゃんは何度もジャンプしてました。だけど、穴の一番上には10㎝くらい届かなくて…」

「すごいジャンプ力ですね」

「伊織ちゃんはどこかに電話をかけていました。なぜか公衆電話で。おウチかしら?」

「助けを呼ぼうとしたのかな?」

「えぇ、たぶん」

15: 2012/02/09(木) 07:22:08.72
私は…

何もせずに空を見上げていました

ライブに行きたく無かったから…

青空には白いウロコ雲がゆっくりと流れていました

そのうち雪が落ちてきて、穴の中にどんどん積もっていって…

「穴から出れたんですね?」

「はい。何とか」

19: 2012/02/09(木) 07:26:14.01
「なんでライブに行きたくなかったんですか?」

「自分でもわかりません…」

「疲れてたのかな?」

「いえ…ある人と会う約束をしていたから」

「誰です?」

「…内緒です」

「はぁ…」

20: 2012/02/09(木) 07:30:58.23
律子さんは走ろうと言い出しました

亜美ちゃんは雲に乗ろう、って

伊織ちゃんは…雪ダルマを作っていました

「三者三様ですね」

「えぇ。そして…」

私は一人で歩き出していました
早く行かないとある人との待ち合わせの時間に間に合わないから、早足で


22: 2012/02/09(木) 07:35:43.86
「そして迷子になった、と」

「はい。途中に美希ちゃんがいたのですけれど、ぐっすり眠っていて」

「起こしました?」

「…お尻を蹴って」

「…あずささん、そういう願望が?」

「ありません!」

何回か蹴ったのだけれど、起きてくれなくて…
だから、前髪を蝶々結びにしてその場を後にしました

「…けっこう酷いですね」

「ゆ、夢の中ですから」

23: 2012/02/09(木) 07:42:56.53
しばらく歩いていると、春香ちゃんが手招きしているのが見えました
大きなゴミ箱の上に立っていて、なぜか体操服を着ていました

私が近づくと、春香ちゃんはニッコリと微笑んで言いました

呼んだだけです、って

「それはムカつきますね」

「でしょう?私、さすがに腹が立ってしまって」

「どうしたんです?また蹴ったとか?」

「…リボンの代わりに赤い靴下を巻きました」

「ずいぶんと地味な報復ですね」

25: 2012/02/09(木) 07:46:47.50
またしばらく歩いていると、砂浜に出ました
海はとっても綺麗で、波は穏やか

「誰かいました?」

「沖の方で響ちゃんが泳いでいました」

「それで?」

「楽しそうだなぁ、って」

「それで?」

「それだけです」

「あぁ…そうですか」


27: 2012/02/09(木) 07:52:40.61
砂浜はどこまでも続いていて…

私がどれだけ進んでも、尽きることはありませんでした
そして沖では、響ちゃんが泳いでいました

「…声かけましょうよ」

「楽しそうだったから…邪魔をしてはいけないと思って」

「…なるほど」

そのうちに辺りは暗くなってきて…
月明かりだけが頼りになりまし

「ちなみに響は?」

「もう見えませんでした」

28: 2012/02/09(木) 07:58:56.23
その月から、何かが飛んでくるのが見えました
じっと目を凝らすと、貴音ちゃんでした

「格好いい登場の仕方ですね」

「でも、体操服姿でした」

「いや、服装はどうでも…」

貴音ちゃんは私の前に降り立ち、こう言いました

わたくし、もう少しで兎になるところでした

「…月の?」

「えぇ、おそらく」

「そのあと貴音は?」

「どこかに飛んで行ってしまいました」

29: 2012/02/09(木) 08:03:37.00
さらに歩いていると、やっと砂浜が尽きました

「良かったですね」

「はい。でも…」

「何かあったんですか?」

「小さな街に出たのですけれど…」

「けれど?」

「真ちゃんに…その…ナンパされてしまいました」

「…その真は女の子なんですか?」

「もちろんです。白いワンピースを着ていましたから。それがとっても似合っていました」

31: 2012/02/09(木) 08:08:24.63
真ちゃんは言いました

お姉さん、いま何時ですか?

「それ、ナンパですか?」

「以前、同じような感じでナンパされたことがあったので…」

「えっ?真に?」

「いえ、知らない男性にです」

「なるほど。それで、どうしたんですか?」

「事務所を通して下さい、って」

「そんなことで事務所を通されても困るんですけど」

「夢ですから」

32: 2012/02/09(木) 08:12:33.98
街の中を歩いていると、小さな喫茶店が見えました
とても可愛らしい喫茶店

お腹が空いていたので、入ってみることにしました

「けっこう余裕ありますね」

「喫茶店が可愛いかったんです、とても!」

「あぁ、そうですか…」

中にはテーブルが一つしかなくて…
そこにやよいちゃんが座っていました

33: 2012/02/09(木) 08:19:12.88
「やよいは何て?」

「あずささん、豚の角煮でいいですかぁ?って」

「なかなか渋いですね」

私は頷きました
だけど…
出てきたのは豚足でした

「さらに渋いですね」

「でも美味しかったんですよ?」

「それは良かった」

私はお金を払おうとしたのですけれど、やよいちゃんが

ここは私が

って

「奢ってくれたんですか?」

「はい」

35: 2012/02/09(木) 08:23:26.85
私はやよいちゃんにお礼を言って喫茶店を出ました

「よく考えたら、可愛い喫茶店で豚足なんですよね?」

「…」

「…まぁ、夢の中ですからね」

喫茶店から出ると雨が降っていました
傘を持たずに雨の中を歩いていると、千早ちゃんに声をかけられました

あずささん、風邪を引きますよ?

って

「…それだけですか?」

「はい、それだけです」


36: 2012/02/09(木) 08:28:14.00
「あ、そうそう」

「何です?」

千早ちゃんはこう聞いてきました

あずささん、春香を見ませんでしたか?

「何て答えたんですか?」

「…見てない、って」

「えっ?見ましたよね?」

「だって…春香ちゃんには腹が立っていたから」

「…夢の中でも怒りは持続するんですね」

「…そうみたいです」

38: 2012/02/09(木) 08:35:17.62
そのまま雨の中を歩いていると、街の外に出ました

そこはまた雪原でした

穴がいくつも空いていて

あぁ、戻ってきてしまったんだ、って思いました

あの人には会えないんだな、って

俯いて涙ぐんでいると、真美ちゃんの声がしました

「真美だって分かったんですか?亜美と同じような声なのに」

「真美だよー、って」

「真美のクセに親切ですね」


39: 2012/02/09(木) 08:41:06.03
真美ちゃんは私の方に走り寄ってくるなり、雪玉をぶつけてきました
とても硬い雪玉でした

それから言いました

あずさお姉ちゃん、ここで何してんの?

「ぶつけてから聞いたんですか?」

「まぁ、真美ちゃんですから」

「…納得することにします」

私は事情を説明しました
すると真美ちゃんは

真美についてきて

って言ってくれました

41: 2012/02/09(木) 08:45:01.81
私は言われるがまま、真美ちゃんの後を歩きました

しばらく歩くと、急に視界が暗くなりました

穴に落ちてしまったんです

浅い穴でしたけど、足を挫いてしまったみたいで立ち上がれません…

「真美は?」

「もういなくなっていました」

「まぁ、真美ですからね」

「えぇ、真美ちゃんですから」

44: 2012/02/09(木) 08:48:46.15
穴の中で立ち上がることもできずに、私は泣いていました

すると、上から私を呼ぶ声がしたんです

…あの人の声でした

あずささん、大丈夫ですか?

そう言って、私に向かって手を差し出してくれました

その手を握ると、まるで本当に手を握られているような感覚でした

「…はい」


45: 2012/02/09(木) 08:52:00.60
その人は穴から私を引き上げてくれました

そして

遅いから迎えにきました。迷子になってたんですか?

そう言って、優しく笑ってくれました

手を繋いだままで

「…繋いだままで、ですか」

「はい。温かい手でした。本当に繋いでいるみたいに」

「…はい」

46: 2012/02/09(木) 08:56:58.26
「そこで目が覚めたんです」

「ホントにおかしな夢ですね」

「えぇ、本当に」

「…あの」

「どうしました、プロデューサーさん?」

「手は、温かかったんですよね?」

「…はい。とっても」

「えっと、俺、その…」

「…はい」

48: 2012/02/09(木) 09:03:56.36
「手をですね…ホントに…」

「…プロデューサーさん?」

「はい!」

「…もう少し眠っても構いませんか?」

「…またおかしな夢を見てしまうかもしれませんよ?」

「そのときは…またあの人が手を握ってくれると思います、きっと」

「…はい、きっと」

ソファーに横になり、ゆっくりと目を閉じた
今度は私から迎えにいこう
迷子になっても、必ずあの人のいる場所に

だからもう一度、夢の中へ…

右手に温もりを感じながら



お し ま い

50: 2012/02/09(木) 09:05:03.25
おしまい

あずささんは天女

読み返してきますぅ

51: 2012/02/09(木) 09:06:01.06
あずささんマジ女神

55: 2012/02/09(木) 09:20:23.65
>>53
NTTwww

引用元: あずさ「夢の中へ」