2: 2010/09/12(日) 21:45:01.46

赤い空。
烏は鳴かない。

耳にはイヤホン。
曲の繋ぎ目、暫しの空白。
プレーヤーが選曲するその一瞬。

私は無音の海を泳いだ。

そして流れてくるのはドラムのフィルイン、ギターのリフ。
泣きたくなるよな懐かしさを感じるのはなんでだろう。
歩くペースを曲のテンポに合わせて気分は大統領。

‐Without You, I don't want anybody

夕暮れ時にぴったりの選曲に私の心は少し躍っていた。
サビのメロディを口ずさみながら暫しの間、目を瞑る。

今日はこの曲にお世話になろう。
そう決めてランダム再生からリピートに切り替えた。

3: 2010/09/12(日) 21:49:58.63

風が吹く。
木々は靡かない。

気分屋の風、西から東へ意味なくそよぐ。
そう、意味のないもの。ご都合主義の私は件の風をそう片付けた。
そしてくしゃくしゃに丸めて頭の中のゴミ箱にポイ。

簡単だよね。
そうやってさらりと全てのことを流してしまえれば。
行く当てもなくゆらゆらと歩みを進めながら私は思う。

嫉妬、柵(しがらみ)、社会、嫌いなもの全て。
大人を取り巻いているのは面倒なものばかり。
俯いたり、余所見したり、寄り道したり、立ち止まったり。
どうしてあんなにつまらなさそうに生きているんだろう。

夕飯前の散歩道、そんなことを考える。
早めに終わってしまった部活も、有り余った自分の時間も嬉しくない。

珍しく一人になりたくて家を出た。
本当はわかっていた。
家を出なくたって私はひとりぼっちなんだって。
最近はね、誰といても何をしていても寂しくて虚しくて空っぽなんだよ。
ごめんね、憂。そういう意味じゃないよ。

4: 2010/09/12(日) 21:52:36.80

私らしくないけどね。
見えない何かに背中を押されている気がしてちょっと焦ってるんだ。

高校一年生。
みんなが輝いていた。
これからの生活、進路、人生、全てに希望を抱いていたと思う。

高校二年生。
みんな一生懸命だった。
恋愛、部活、勉強、その他の趣味、遊び。
欲張りだった私達は色んなことにチャレンジして、知らないことを知った。

なのに、最近はどうだろう?

高校三年生。
進路を目前にして誰もが少し先の未来ばかり見る。
そうやって一分一秒、一瞬、今を蔑ろにしている。
二年前に抱いていた夢なんて現実との狭間に落っこちて消えた。
それでもすました顔で痛くないフリをする。

大人ぶって背伸びしてまで大きく見せた背丈。
そんな偽りの大きさに、いつの間にか追いついちゃって。
気付くと足元を見ると踵は地面にくっついたまま。

6: 2010/09/12(日) 21:57:12.10

こうやって大人になるのかな。
カッコつけてた自分がいつの間にか『周りから見た本当の自分』になっちゃって。
理想の自分を取り繕いながら、息苦しく生きていくのかな。

落ちる方向へ続く道。
駄目駄目スパイラル。

私達は少しずつ大人になっていく。
それはきっと仕方のないこと。

だからその前にけりをつけなくちゃ。
大人になっちゃうと言えなくなると思うから、今のうちに。

-ギター抱えて、スリーコード
-理論も理屈もリズムも気にせずやりたいように
-ワン、ツー、スリー

そんな風に終わりにしたい。
そこから何かが始まればいいな、とは思うけど。
私の理想に現実がついてきてくれるとは到底思えない。

7: 2010/09/12(日) 22:00:24.01

それでも。

世界中が敵になっても、好きなものは好きだと言いたい。
いつになるかはわからないけど、きっと近い将来。
あなたと過ごした時間の中で芽生えた気持ちを風化させてたまるもんか。

つまらない世界、さようなら。
言葉で引き金を引くよ。
スリー、ツー、ワン。
ばきゅーん。
なんちゃって。

-商店街のおいしい匂いに誘われながら何を考えているんですか。

不意にあの子のつっこみが聞こえた気がした。


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8: 2010/09/12(日) 22:04:42.49

夕暮れ。
捻くれた視線に映るは斜傾した景色。

太陽が沈んでいるんじゃない。
太陽が地球の裏へ引っ張られているんだ。

なんてくだらない妄想。
馬鹿な考えはもうよそう。

「あー…。暇、かも。」

かも、じゃない。
これは誰がどう見ても明らか。
できる事なら背負っているギターを取り出して掻き鳴らしたい。

何故私がこんなに暇を持て余しているか。
夕陽を拝んでいるか。

それに意味はない。
家に帰りたくない、それだけ。
誰もいない家に帰っても虚しさがつのるだけ。
受け手がいないとわかりきった状況では私の口も開かない。
静寂を切り裂くのはメトロノームが刻む単調なリズムと
それに合わせた一人ぼっちのギターだけ。

9: 2010/09/12(日) 22:07:32.49

だからこうして待ちぼうけ。
何を待っているわけではないけど、待ちぼうけ。
暇そうにだらだらと商店街を歩くギターを抱えた女子高生。
不審者一歩手前のその風景がショーウィンドウに映り、急に心細くなる。

漠然と行き交う人々を眺めながら、私もそれに混ざる。
考えるのは律先輩のこと。

10: 2010/09/12(日) 22:10:17.13

正確に言うと、律先輩と澪先輩のこと。
もう一年くらい前になるだろうか。
ある日突然、付き合っているとカミングアウトされた。

もちろん女子高だからそういう話に免疫があったつもりではいたけど。
それにしても驚いた。
だって、二人はそんな素振りを一切見せなかったから。
あくまでも『親友』『幼馴染』の範疇から逸脱せずに接し合えた二人に感心さえした。
そういうのは普通隠していても出てしまうものだ、とばかり思っていた私の考えを根底から覆された気分だった。

だけど最近、私は気付いてしまった。
あの二人の表向きの関係が偽りのものであることを。
子供みたいな飯事(ままごと)じみた恋愛ゴッコじゃなくて、本気で愛し合っているんだと。

というよりも依存し合っていると言った方が正しいかもしれない。
だけどムギ先輩も唯先輩もそんなことには気付いていないようだった。

本当のところはわからないが、二人ともそんな素振りは見せない。
まるで律先輩と澪先輩がカミングアウトする前のように。

だから私も知らないふりをした。
時には鈍感な後輩を演じたりもした。

11: 2010/09/12(日) 22:13:22.46

私は軽音部が好きだ。
あの二人の関係に口出しをしてしまえば、絶妙に保たれているこのバランスを壊してしまいかねない。
だから私は口を噤む。

なんであの二人がこんなに気になるかって。
カミングアウトされたとき、驚いたと同時に羨ましくもあったから。

何故そう感じたかはわからない、ということにしておく。
今もまだ謎のまま、ということにもしておく。

この感情には気付かない方がいいんじゃないかと
もう一人の私が警笛を鳴らしているような気がしてならない。
そのせいでこのところずっと頭の中がもやもやしているから、いい加減尻尾を掴んでやりたい気もするけれど。
ずるりと引っ張り出したものが猛獣である可能性は高い。
自分にもコントロールできないようなものと関わるなんて馬鹿のすること。

12: 2010/09/12(日) 22:16:47.79

家に居たくない理由。
本当は寂しいからなんて子供みたいな理由じゃない。
黙ってギターを弾いてる時間、嫌いじゃない。
それが嫌ならとうにギターなんて辞めている。

気を抜くと知りたくないはずの自分の中のモンスターを探してしまう。
それが嫌。

もっと簡単に言おうか。
唯先輩で頭の中がいっぱいになる。
それが怖い。


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13: 2010/09/12(日) 22:20:16.11

授業中に出てくる未来の話。
それは近い未来の話。

卒業を控えた私達が目の当たりにする現実の話。
それはギターを弾いていても、お風呂に入っていてもたまに思い出す寂しい事実。

三年生になったんだから勉強もちゃんとしなさい。
耳にタコができたよ、もういいよ。

楽しい筈の高校生活。
果たしてそうやって消化されるべきなのかな。
もう一年あるよ、ギリギリまで一緒に居させてよ。

でもそれが私の我が侭だって、最近気付いたんだ。
私の一年を返して。
そんな風に訴えても周りには頭のおかしい子だと思われるだけ。

まだ大人になんてなりたくない。
そんな想いが止まらない。
きっと、私は少しずつ大人になっているんだ。
だからこんなにも切ないんだ。

14: 2010/09/12(日) 22:23:38.95

悪あがきなのはわかってる。
だけど目の当たりにした現実に頭の中がぐしゃぐしゃだよ。

全部音楽で片付けられたらいいのに。
全部感情で片付けられたらいいのに。

形のないそれらが認められない世界なんて間違えてるよ。
楽譜が全てじゃないよ、本に記しただけの心が全てじゃないよ。

そんな私の主張を鼻で笑って、誰かがまた大人になる。
踏み台にされるだけ。
だけど足跡のついたそれを私は捨てようとはしない。

15: 2010/09/12(日) 22:25:56.95

「あはは、うんうん…」
「ねー、だよねー…」

すれ違う誰かの声が聞こえる。
名前は知らないけど、同じ高校の子みたい。
リボンの色からあの子と同じ学年だという事がわかる。

「あーあ、いいな…。」

何が。
今更だけど、それは内緒。


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16: 2010/09/12(日) 22:28:14.96

「はぁ。もうそろそろ帰ろうかな。」

数分前から思っていたことがついに口をついて出た。
結局、どこにいても私の考えることは変わらなかった。
ギターを無心状態で弾いていれば流石にあの人のことを考えずに済むかもしれない。

夕立でも降ってくれればいいのに。
そうすればなんの躊躇いもなく家路につける。

ここにいてもいいし、帰ってもいい。
そんな自由が私を翻弄している、本当に些細なことだけど。

何かに夢中になるのは素敵なことだと思う。
例えばギターの上達やバンドの成功のために努力するのはとても有意義なこと。

だけど、報われもしないことに思考を巡らせるなんて時間の無駄だと思う。
例えばあの人に触れられたことを思い出して赤面したり、
人懐っこく誰にでも飛びつくところを見て苛立ってみたり。

そんな一喜一憂。
ふと冷静になると酷く馬鹿馬鹿しく感じることばかり。

17: 2010/09/12(日) 22:30:21.46

報われる可能性なんて万に一つもありもしないのに。
せめてこれが異性間のことであったなら私も少しは前向きになれたかもしれないけど。

この気持ちが異常なものであることは間違いなくて。
自分だけが良ければそれでいいなんて簡単に割り切れるようなものではなくて。

律先輩と澪先輩を見ていると羨ましく思う反面、
私はまだ一線を超えていない、安全地帯に立っているんだと少しホッとする。
そんな自分が臆病で汚いと感じることはあるけれど、
それが身も心も小さな私の本音であるから仕方がない。

こうやって昨日も一週間前も考えたことを反芻する間も時間は流れる。
同じ高校の生徒で居られる時間は今もこうして少しずつ削られているんだ。

焦って結論を出すような問題じゃないのはわかってる。
そもそも結論を必要とするような問題じゃないのもわかってる。

だけど私はあの人との未来が知りたい。
怖いけど、知りたい。

18: 2010/09/12(日) 22:32:37.58

あと半年もすれば通う学校すら変わってしまう。
同性に抱くべきではない気持ちだからと割り切って捨てるべきか、
開き直って受け入れるべきか。
どうすればいいのか、私にもわからない。

「う、うーん…。」

疾走感だとかを求めるたびに背景は淡白なものになっていくし、
焦燥感だとかを感じるたびに背景は背景ですらなくなる。

「…。」

足元に名前も知らない白い花が咲いていた。
しっかりと目に写っている筈なのに、それを見ても私の心は動かない。

冷静じゃない。
つまりはそういうこと。

19: 2010/09/12(日) 22:36:29.19


当てもなく歩いてきたけど、そろそろ夕飯の支度ができてるだろうし帰ろうかな。
くるりと反転、綺麗な夕焼け。

「……。」

この景色が綺麗だと思えることが少し切なかった。
昔は怖かった。
夕暮れ時は友達と私を切り離す無情な時間帯だった。

懐かしいな、そんな風に過去を振り返る。
やはり私も少しずつ大人になっているんだと自覚せずにはいられなかった。

そうして前を向き直して視界に映るのは見慣れた後ろ姿。
声を掛けるよりも先に可愛いな、反射的にそう思った。

「おーい!あずにゃーん?」

小さな身体、ツインテール、極めつけは見知った形のギターケース。
人違いである訳がないけれど、その人影は私の声に反応を示さない。

イヤホンを外して私は走った。
そしてかなり近い距離から、わざとらしく改めて声を掛ける。

「あー!あずにゃんだー!」

21: 2010/09/12(日) 22:39:22.28

追いかけていた後姿がピタリと止まった。
いきなり止まったら危ないよ?

「わぁ!?」
「きゃあ!?」

後ろから抱きつく格好になってしまった。
いつも通りと言えばいつも通りなんだけど、あんなことを悶々と考えていた後だから少し気まずい。

「あ、あははは。ごめんね?」
「もう、急にびっくりしたじゃないですか。」
「えへへ。たまたまお散歩してたらあずにゃんが見えたから。」

たははと笑いながら少し早口で説明する。
事実なのに言い訳をしている感覚が拭えないのは、やっぱりそういうことなんだろうね。

ぱっと手を離し、彼女が振り返るのを待つ。
時間にするとほんの一瞬のはずなのに、体感時間は酷く長い。
ゆっくりゆっくり時間が流れるような感覚。
まさにスローモーション。
こんなの、ライブの時以来だ。

後ろから射す沈みかけの太陽の暖かい光。
揺れる髪。
振り向き様の少しふてぶてしい表情。
その全てが愛おしく見えた。

22: 2010/09/12(日) 22:45:42.71

「…。」
「唯先輩?」
「あ、ごめんごめん。」

誤魔化すように笑う。
続ければいいのに。
『あずにゃんがあんまり可愛いから何も言えなくなっちゃった。』って。
そんな軽口のような本音が容易に言えなくなったのはいつからだろう。

「そういえば散歩って…、そろそろ帰らないと憂が心配するんじゃないですか?」
「うん、丁度今帰ろうと思ってたところなんだー。」

なんの変哲もない会話。
寂しい気もするけど、これ以上の話は出来そうにない。

ふと無邪気にじゃれ合っていた過去に戻りたいなんて思うけど。
そんな過去、あったのかな?とも思う。
『無邪気に』じゃれあっていた過去なんて、振り返っても振り返っても出てこない。
今考えれば最初から私はこの子に惹かれていたのかもしれない。

「…。」
「唯せんぱーい?」
「ん、なぁに?」
「いえ、また黙っちゃったんで。もしかして具合悪いんですか?」

心配そうに覗き込むその飾りっ気のない顔。
そんな表情も可愛いなんて反則の域だよ、あずにゃん。

23: 2010/09/12(日) 22:49:18.54

例えば写真を撮るための作り笑顔。
シャッターが押されてからカシャリと鳴るまで、
二、三秒の間維持し続けなければならないその笑顔。
私はああいうのが苦手。
誰かに見せたり見られることを前提とした作り物だから。

きっと今の表情は誰にでも見せられるものではない、なんて。
少し自惚れてもいいかな。

「ううん。平気だよ、ごめんね。」

心の中で
-変なこと考えて
と付け足しておいた。

「あずにゃんはどうしてこんなところにいるの?」

私は思ったままを口にした。
ギターを背負っているということはまだ家に帰っていない可能性が高いけど…。

「これは、実はちょっとお使い頼まれちゃって。あ、もう済んだんですけどね?」
「そうなんだ。ちぇー私も一緒に行きたかったよー。」
「先輩と買い物すると寄り道ばっかりで時間かかるから嫌です。」

ぷいとそっぽを向いて口を尖らせながら言うその言葉は、
本当なのか嘘なのかわからない。
他の子に言われたら笑って流せるのに。

24: 2010/09/12(日) 22:52:31.17

ときにあなたの言葉は私を幸せにする。
ときにあなたの言葉は私を不安にさせる。

どうしてだろうね?

「ちぇー。あずにゃんってば酷いよー。」
「でも事実です。」

こんなやり取りが出来るのもあと少し。
残された時間を噛み締めるように過ごすか、全てを無に帰す覚悟で引き金を引くか。
ふざけ合ってる時ですら究極の二択で私の心は揺れている。

「じゃあ、そろそろ行くね?」
「あ、はい。」

そして結局、なんにも結論が出ないまま一日が終わるんだ。

「バイバイ。」

そんな言葉でずっと続けばいいと願っていた時間を終わりにした。
大丈夫だよ、また明日会えるから。
自分にそうやって言い聞かせて可愛い後姿を見送る。

25: 2010/09/12(日) 23:01:26.12

夕焼け、大きな雲、緩やかな風。
思えばこれ以上ないくらいに穏やかな夕方。
そんな中、私はとあることを決意した。

もし、あずにゃんが振り返ってくれたなら。
私は引き金を引くよ。

きっかけを相手に委ねるなんてちょっとかっこ悪いけど。
それでもそのきっかけを定めたのは私、最後に勇気を出すのも私。
駄目じゃないよね?

「……。」

後姿を眺めながら。
ひたすらに思うこと。

「……。」

振り返って欲しい。
振り返らないで欲しい。

「……。」

どっちなんだろうね。
私にもわからないや。

26: 2010/09/12(日) 23:08:08.59

「……。」

小さくなった後姿。
きっと、もう振り返ることはない。

「……。」

安心してるくせに、ちょっと寂しいような。
寂しいくせに、ちょっと安心してるような。

不思議な感覚。

「……。」

もうそろそろ帰らなきゃ。

ローファーが小石を蹴って道の隅へ転がる。
賑やかな商店街の雑踏にかき消されて、すぐに見えなくなった。

イヤホンを耳に。
そして私は逃げるようにその場を後にした。


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27: 2010/09/12(日) 23:13:44.08

手を振り合う。
そして別れる。
これは自然な流れ。

さっきまで私は運命なんて信じていなかった。
だけど、大げさかもしれないけど、まるで奇跡のような巡り合わせに私は運命を信じざるを得なくなった。

あの人はちゃんと一人で帰れるのだろうか?
もちろん、もうそんな子供じゃないんだし問題ないんだけど。

それにしても先輩のことが気になり過ぎる。
心配、心配なの。
とことん素直じゃない私は先ほどの胸の高鳴りなんて
なかったことにして自分に嘘をつく。

もういいんだ、わかってるんだ。
きっと私は唯先輩にどうしようもなく惹かれていて。
初めて知ったこの感情の制御の仕方なんてわからなくて。
だから不完全な心の経過を反芻しているんだ。

28: 2010/09/12(日) 23:18:10.85

「……。」

少しだけ自分の気持ちに正直になれた今の私には、
名残惜しんでいる気持ちを受け入れることができた。

また明日会えるんだから。
だけど。
最後に一度だけ。

きっとまだ私の後姿を眺めているはずだから。
そんな自惚れを胸に。

私は振り返った。

29: 2010/09/12(日) 23:25:33.28

私の目に映ったのは少し大人な唯先輩の後姿だった。

「……。」

こちらを向いていないのは少し寂しかったけど。
夕日に照らされた先輩の後姿を見ることができたから…。

「まぁ、いっか。」

誰にも聞こえないように呟いて。
私は再び帰路についた。


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30: 2010/09/12(日) 23:32:43.36

『想いを伝えるかもしれない』
そんな奇妙な状況で高鳴った胸の鼓動は今も尚収まらない。

残念、かな。
きっと。

怖かったはずなのに。
一度覚悟を決めるとこんなにも楽になるんだね。
また一つ大人になってしまった気がするよ。

装着済みの弾丸。
この言葉はどこに放てばいいんだろう?
くるりと振り返る。

もうあの子の姿は見えない。

「……。」

意味のないことだと分かっていても。
それでも。

「好きだよ、あずにゃん。」

私は夕焼けに向かって引き金を引いた。

31: 2010/09/12(日) 23:38:30.63

口にした途端、急に恥ずかしくなって、なんとなくプレーヤーの音を上げる。
流れてくるのはさっきと同じ曲。

私があずにゃんと話していた間も、ずっと流れ続けていたんだろうね。
まるで私の想いを歌ったような歌。

‐Without you,I don't need anybody

もう、わかってるってば。




おわり

32: 2010/09/12(日) 23:38:39.35
唯も梓も可愛い…
ハッピーエンドになることを祈ってるぜ

33: 2010/09/12(日) 23:39:30.95
と思ってたら終わっちゃった…

引用元: 唯「黄昏とりがー」