164: 2014/11/14(金) 12:14:57.42
ほむら「ゲッターロボ!」 第四話


ほむら「ゲッターロボ!」 第三話
165: 2014/11/14(金) 12:15:37.04
風見野市

某所


魔法少女 佐倉杏子は、今日も日課である魔女退治を行うため、縄張りとしている風見野氏を徘徊していた。

その手に握るは、彼女のソウルジェム。魔女の住処である結界の反応を光で示してくれる。

・・・と。

ソウルジェムにわずかな変化が現れた。些細ながらも確かな、光の揺らぎ。


杏子 「へっ」


杏子はその変化を見逃さない。


杏子 「この先から、結界の反応がある。さて、今夜のメインディッシュはどんなお味かな・・・と」
ゲッターロボ VOL.1 [DVD]
166: 2014/11/14(金) 12:18:11.47
言うが早いか、杏子は駆け出した。

ソウルジェムの示す方へ、獲物のいる結界へと向かって。

自分が到着する前に、魔女が結界を閉じてしまっては元も子もない。

初動に遅れて、獲物を逃すようなへまを犯すような彼女ではないのだ。

だが・・・


杏子 「・・・」


導かれて到着した場所で杏子は肩を落とす。そこで見たものが、期待したものとは違っていたのだ。

杏子を落胆させたもの、それは・・・使い魔の結界。

167: 2014/11/14(金) 12:20:32.86
いわゆる”はずれ”。

この中に魔女はいない。戦っても、グリーフシードは手に入らないのだ。


杏子 「なんだよ、期待させやがって。とんだ無駄足だったじゃないか」


こればかりは、目の前で実物を確かめるまでは分からない。

残念だが、そうと分かれば長居は無用だ。


杏子 「こんな所で貴重な魔力を無駄使いしても仕方がねぇ~。もう遅いし、今夜は退散するとします・・・か・・・」

杏子 「・・・ん?」


きびすを返し、建物の陰へ回った所で、杏子の視界の端を何かが横切った。


杏子 「あれは・・・」


物陰から顔を半分だけ出し、立ち去ったばかりの使い魔の結界の方を伺う。

168: 2014/11/14(金) 12:22:55.46
するとそこには、杏子と入れ違いにやってきた、何者かの姿が。


? 「・・・」


その姿を目で追い、杏子は確信する。あの格好、間違いない・・・


杏子 「・・・魔法少女」


杏子が驚いている間に人影は、結界に吸い込まれるように、彼女の視界から姿を消していた。

使い魔の結界の中へと、入っていったのだ。


杏子 「あいつっ・・・ここはあたしのテリトリーだって言うのに!」

杏子 「どこかから流れてきたハグレの魔法少女か、それともルーキーか・・・」

杏子 「なんにしても、好き好んで使い魔の結界なんかに入っていくなんて、気に入らないな。まるで・・・」


杏子 「・・・」


杏子 「ええーい、そんなことはどうでも良いんだよ。とりあえず、後でもつけてみるか」

杏子 「あいつが使い魔を倒してホッとした所で、お灸を据えてやろうじゃないの」

杏子 「思い知らせてやる。この街の獲物は、全てあたしの物だって事を、さ」

169: 2014/11/14(金) 12:25:57.07
・・・
・・・


使い魔の結界内


杏子 「さて、さっきの奴はどこへ行った・・・?こっちか・・・?」

杏子 「・・・」きょろきょろ

杏子 「・・・いた」


結界内を探索し、程なく杏子はあっさりと目的の魔法少女を発見する。

場所は、入り口からそれほど遠くない、まだ結界の序盤といった所。

そこで例の魔法少女はまさに今、一匹の使い魔と対峙している所であった。


使い魔 「きしゃーっ!」

? 「う、うわわっ、きゃ、きゃあっ、うああああああっ!!」


杏子 「お、ちょうど使い魔との戦闘中か。どれ、お手並み拝見といこうじゃないか」


? 「あわわわ・・・こ、来ないで!来るなこっち来るなぁ!あ、ああああっ!!」


襲い掛かる使い魔に、抵抗しようとする魔法少女。

170: 2014/11/14(金) 12:28:19.02
しかし彼女の武器は、何も無い空間を空回りするばかりで、まったく使い魔にダメージを与える事ができていない。

あまりにも不慣れで無様な戦いぶりに、杏子はただただ呆れるばかりだ。


杏子 「・・・なんだ、あの戦い方・・・まるでなってねぇ。ルーキーもルーキー・・・魔法少女に成り立てホヤホヤッって感じだな」

杏子 「まぁ、いくらなんでも使い魔の一匹くらい、どうってことないだろ」


そう思い、傍観を決め込んでいた杏子であったが・・・


使い魔 「きしゃしゃー!!」

? 「っうう!!うわあああああ、ぎゃっ!!!!」

使い魔 「がぶっちょ」


杏子 「・・・え」

171: 2014/11/14(金) 12:31:20.56
使い魔 「がりっ!ばりばり・・・」

? 「い、痛い!!いやぁ、いやああ!やめて!離れて!」


杏子 「お、おいおい・・・」


使い魔 「ばりんごりん、ばりぼり・・・」


一端喰らい付いた使い魔は、魔法少女がどんなに暴れようと、その牙を抜くことはなく。

より一層、深くえぐるように。

彼女の柔肌に食い込んでゆく。


やがて・・・


魔法少女の悲鳴も、そして抵抗も、力を失いか細くなっていった。

命の灯火が、立ち消えようとしているのだ。


? 「い、いやあああ・・・ああ・・・あ、ああ・・・」


杏子 「う、嘘だろ」

172: 2014/11/14(金) 12:42:03.74
使い魔 「ばりばりばりぼりぼりぼり」

? 「・・・」


杏子 「はっ・・・!く、くそ!」


予想を裏切るあまりの出来事に呆然としていた杏子だったが、やっと我を取り戻すと俄然地を蹴って飛び出した。

使い魔の元へと。

得物の槍を振りかざしながら!


杏子 「この使い魔野郎!どけ、そこをどけえぇ!!」

使い魔 「?」


ザシュッ!!

槍が使い魔を貫く。

耳障りな悲鳴を後に残し、文字通り霧散して消えうせる使い魔。

173: 2014/11/14(金) 12:43:44.09
いつも通りの、何の手ごたえも無い、ただのつまらない雑魚でしかなかった。

なのに・・・


杏子 「お、おい!大丈夫か!?」


慌てて、ピクリとも動かない魔法少女を抱き上げ呼びかけるが・・・


? 「」

杏子 「・・・くっ」


杏子が抱き起こした”それ”は、身体の大部分を損傷し、ソウルジェムまで砕かれた、ただの物言わぬ骸へと成り果てていた。


杏子 「どういうことだよ・・・いくらルーキーたって、こんなチンケな使い魔一匹に、まともに反撃もできずにやられちまうなんて・・・」

杏子 「・・・くそぅ・・・胸糞悪い。嫌なモン、見せ付けやがって・・・」


なんともいえない後味の悪さが、杏子の胸に染みる。

174: 2014/11/14(金) 12:45:22.87
あの時様子を見るなんて悠長な事なんかせずに、すぐに飛び出していたなら・・・

自分が直にぶん殴って、この弱っちい魔法少女に”身の程”という物を、存分に思い知らせてやれただろうに。


杏子 「なぁ・・・」


杏子は骸に語りかける。


杏子 「あんた、一体どんな願いを叶えて、魔法少女になったんだい?どんな願いをすれば、こんなにもろく・・・」


当然、それに応える者など、いようはずもなかった。

175: 2014/11/14(金) 12:47:56.53
・・・
・・・


同時刻 ほむホーム


ほむら 「それで・・・」


私は最大の懸念点にして、最も切実な問題についての話を切り出した。


ほむら 「私の魔力消耗の件についてなのだけれど・・・」

竜馬 「ああ」

ほむら 「流君には心当たりがある、そう言っていたわね」

竜馬 「推測さ。だが、当たらずとも遠からず程度の自信はあるぜ」

ほむら 「聞かせて欲しいわ。この問題が解決しない事には、まどかを守るための行動すら、満足に行う事ができないもの」

武蔵 「何の話だっけ?」

竜馬 「暁美の魔力がな、意味も分からずに消耗する現象についての考察さ」

176: 2014/11/14(金) 12:49:27.45
ほむら 「魔力が尽きれば私たち魔法少女は戦えないし、人としての生にも終止符が打たれる・・・」

武蔵 「え・・・、それってどういう意味だよ」

竜馬 「あのな」


竜馬がかいつまんで、私たち魔法少女と魔女の関係を武蔵に説明する。

体育会系の竜馬の直情的な解説は、同じく体育系の武蔵にはピッタリとはまったようだ。

さほど時間を得ずして、武蔵はことの深刻さを十二分に理解してくれた。


武蔵 「つ、つまり魔力ってのはほむらちゃんにとって、エネルギーであると同時に、人間として生きるのに必要な飯みたいな物だってのか」

竜馬 「だな。ちょっと語弊があるが、まぁ、そんなところだ」

武蔵 「え、あれ・・・?待てよ?てことはつまり、マミちゃんも魔力が尽きたり、絶望してしまったりしたら・・・」

ほむら 「魔女になるわ。事実、そういう結末の時間軸も存在したし」

177: 2014/11/14(金) 12:50:49.40
武蔵 「そ、そんな・・・なんでだよ、何でそんな酷い・・・」


武蔵、絶句。


竜馬 「おい、武蔵・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「お前、泣いてるのか?」

ほむら 「え・・・」

武蔵 「だ、だってさ・・・あんまり可哀想で・・・」


目に大粒の涙を湛え、しゃくりあげながら何とか言葉を続ける武蔵。


武蔵 「魔法少女って、自分の願いを叶えたくてなるものなんだろ?マミちゃんにいたっては、ただ命が助かりたかった、それだけの理由で」

ほむら 「・・・」

武蔵 「そんな当たり前のことを望んだだけなのに、なんで悲惨な目に遭わなきゃならないんだ?なぁ、ほむらちゃん、君は納得できてるのか?」

ほむら 「私は・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「納得、できるわ」

武蔵 「え・・・」

178: 2014/11/14(金) 12:53:10.81
ほむら 「世の条理に反する願いを叶えれば、その歪みがわが身に振り返ってくるのは当然だもの」


そう、だから人は、自分の分を過ぎた願いなんか、叶えようとしてはダメなんだ。


ほむら 「だからこそ、許せないのよ。人を甘言で惑わして、本来叶わないはずの願いで運命を狂わせる、あいつのやり方と存在そのものが・・・」

武蔵 「ほむらちゃん・・・」

ほむら 「私も巴マミも、こうなってしまった以上は行きつく場所は一緒。願ってしまった以上は、それは仕方がない。その事自体に納得はいくわ。だけれど・・・」


一人の少女が、私の脳裏で微笑む。

無垢な笑顔。優しい眼差し。

そんな彼女の顔を、苦しみで曇らせることは絶対に許されない。


ほむら 「私やマミのような人間がこれ以上増える必要もない。だから、そのために・・・」


まどかのために・・・


ほむら 「私は、何度も同じ時間を繰り返しているの。できれば今回が、その長い旅の終わりになれば良い。いつもそう思っているわ」

武蔵 「そうか・・・」


そう呟いたきり、武蔵はもう何も言わなかった。

179: 2014/11/14(金) 12:55:25.44
だが、彼の表情は、とても私の言葉を肯定したようには見えなかった。

人の良い彼にとって、理不尽な魔法少女の境遇なんて、どうあっても納得できる事柄ではないのだろう。

だけれど、当事者の私がこう言う以上、継ぐべき言葉が見つからない。そんな風だった。


竜馬 「・・・武蔵。思えば俺たちの境遇だって、充分に理不尽だったじゃねぇか。だが、そんな境遇に折り合いをつけ、意義を見出し、これまで戦ってきた」

武蔵 「ああ」

竜馬 「暁美も、今は同じ気持ちなんだろう。与えられた境遇に意味を見出さなければ、俺たちは生きて行けやしない。武蔵にだって分かるはずだ」

武蔵 「・・・」

竜馬 「そして、俺たちが力無き人の盾となって恐竜帝国と戦っているように、暁美もまた大切な人を自分と同じ境遇に落ち込ませないよう、それが為に戦っている」

武蔵 「ほむらちゃん・・・君も、俺たちと同じなんだな」

ほむら 「あなた達みたく、全ての人の為になんて、大仰なことは考えていないけれど・・・」

武蔵 「守りたい人がいる。その気持ちは一緒だ・・・」


そう言ってもらえる事は、何と言うか・・・素直に嬉しい。


武蔵 「だけれど、俺は・・・」


言いながらスマホを見つめる武蔵。

180: 2014/11/14(金) 12:57:34.16
画面あるのは、私たちも先ほど見せて貰った、幼いマミと武蔵の姿。


武蔵 「・・・」

竜馬 「考え込むな。柄でもないだろう。それにその写真や感覚はまやかしだ。俺たちが本来歩いてきた人生じゃねぇ」

武蔵 「分かってるさ・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「話が横道に逸れちまったな。本筋に戻そうぜ。いいな、暁美」

ほむら 「ええ・・・」


その存在は公にされず、誰に知られることもなく戦い、氏んでいく運命。それが魔法少女。

悲しまれもせず、ただ忘れ去られてゆくのみの私たちの運命に、今は本気で哀れんでくれる人が目の前にいる。

同じゲッターチームの仲間同士なのに、こうも竜馬とは感じ方が違うものなのかと驚かされもしたが・・・

武蔵の優しさは、確かに私の胸に沁みた。

嬉しかった。

181: 2014/11/14(金) 12:59:45.10
・・・
・・・


竜馬 「この世界には、ゲッター線が存在しない」


私の魔力消耗減少の件で話し出したはずの竜馬が、まず口にしたのがこれだった。

まったく意味が分からない私と裏腹に、武蔵は大口を開けて驚いている。


武蔵 「は・・・どういうことだよ、そりゃ」

竜馬 「どうもこうもねぇ。例の魔女の結界でゲッターと再会し、乗り込んで分かった。ゲッター炉が機能していないんだ」

武蔵 「だって、お前。あの時ゲッターは動いていたじゃないかよ」

竜馬 「確かにな」

武蔵 「ゲッター線が無くてゲッター炉が動かないというなら、ゲッターだって活動できないはずじゃないかよ?それに・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「ゲッター線も無しで、この世界の人類は、どうやって人に進化したって言うんだ?」

ほむら 「ちょ、ちょっと待って」


さすがに話題の飛躍が大きすぎる。

ついて行けない私は、思わず口を挟んでいた。


ほむら 「ゲッター線とか炉とか、はては人の進化とか・・・それが私の魔力消耗とどう関係があるの?分かるよう説明してもらえないかしら」

182: 2014/11/14(金) 13:00:42.93
竜馬 「ああ、すまねぇ。そうだな。まずは暁美には、ゲッター線というものがどういったものか説明しとかないとな」


そう前置きして竜馬が説明してくれたゲッター線とは、次のような物らしい。

彼らの世界で、地表に降り注いでいる宇宙線。それがゲッター線。

ゲッターロボは、内蔵しているゲッター炉でゲッター線を取り込み、稼動するためのエネルギーとしている。

ゲッターロボの名前の由来も、この宇宙線に因んでいるそう。


しかもこのゲッター線、ただエネルギーに変換できる、便利な物というだけでは済まないらしい。

今を去る太古の昔・・・まだ恐竜が闊歩していたころ。

そのころ降り注ぎ始めたゲッター線は、恐竜を氏滅せしめ、代わりに地を這う下等な生物だった哺乳類に劇的な進化をもたらす。

そして生まれたのが、現生の人類だったというのだ。


武蔵 「つまり、俺たちの世界ではゲッター線の存在無しでは、人間の存在自体もありえないのさ」

183: 2014/11/14(金) 13:03:43.82
竜馬 「もっとも、その時地の底に逃れた恐竜の末裔が、今になって俺たち人類を絶滅の淵に追いやっているんだから、皮肉な話だがな」

ほむら 「じゃあ、あなた達が戦っているとい恐竜帝国って・・・」

竜馬 「ああ」

ほむら 「・・・」


なんてスケールの大きな話なんだろう。

竜馬の語った人類の創世史に、私はたまらず言葉を失ってしまう。


武蔵 「だから、疑問に思ったんだ。こっちの人類はどうやって誕生したんだろうってね」

ほむら 「普通に猿から進化したとしか。学校でもそう習ったし・・・」

武蔵 「それは、俺たちの世界でも一緒だったよ。ゲッター線云々の話は、俺達みたいにゲッターに深く関わっている者以外には、あまり知られていないはずだ」

ほむら 「つまり、私たちも知らない真実が、私たちの世界にも隠されているかもしれない。そういう事ね」

竜馬 「魔女や魔法少女の存在こそが、まさにそれだろうな。一部の者以外には知られていない、しかし厳然と存在する真実・・・他に何があったっておかしくはない」

ほむら 「・・・」

竜馬 「まぁ、過ぎ去った過去の話よりも、重要なのは今現在の直面している問題だ。で、ここからが俺の仮説なんだが・・・」

ほむら 「あ、う、うん」

184: 2014/11/14(金) 13:06:39.30
竜馬 「ゲッターは失ったエネルギーの補充を、暁美の魔力で補っているんじゃないかと思うんだ。そうすりゃ、色々と辻褄が合う」

ほむら 「え・・・でも・・・」

武蔵 「竜馬、そりゃおかしな話だぜ。俺だって分かる。ゲッター線と魔力ってのは、別のエネルギーなんだろ。代用なんか利きっこないじゃないか」


私が抱いた当然の疑問を代弁する形で、武蔵が竜馬に問いかけた。

それはそう。電池で動く機械にガソリンをぶちまけたって、動くはずがない道理・・・

だけど、竜馬はキッパリと返す。


竜馬 「両者が同じ性質のものだったとしたら、どうだ」

ほむら 「・・・!」

武蔵 「どういう意味だよ、それって」

竜馬 「俺たちには魔女や使い魔の姿が見える。本来であれば、魔法少女やその素質のある者にしか見えないはずの物が、だ。これは一体、どうしてだ?」

武蔵 「どうしてって・・・」

ほむら 「まさか・・・」

竜馬 「そうだ。ゲッター線と魔力が同じ物なら説明がつく。俺と武蔵はゲッターに選ばれたものなんだからな」


確かに、竜馬の言うとおりなら合点がいく。

魔力消耗に悩まされるようになったのは、この時間軸に来てからの事。

そして、ゲッターロボは、それと同時に私のバックラーに入り込んでいたのだ。

あんな巨大なロボットが、その巨体に見合ったエネルギーを私の魔力から補充しようとしているなら、際限なく魔力を吸い上げられていくのにも納得できる。

185: 2014/11/14(金) 13:09:32.65
ほむら 「あ・・・」


ふ、と。

私の記憶が呼び戻される。

あれは前の時間軸。初めてゲッターロボを目の当たりにした時の事だ。

私の側で共にゲッターを見ていたあいつが、確かにこう言ったのだ。


(キュウべぇ 「・・・あのロボット、あれはもしかして、同じ・・・」)

(キュウべぇ 「感じるんだ、あのロボットから。あれは・・・僕たちと同じ・・・」)


あいつはあの時、なにが自分と同じと言おうとしたのだろう。

私には分からなかった。キュウべぇが全ての言葉を吐き終る前に、私は今の時間軸へと遡行してしまったから。

だけれど、今の竜馬の話を聞いて、私の中で竜馬の説とキュウべぇの言葉が、どこかで繋がりそうな気がするのだ。


ほむら 「・・・」


だけれど、あと一歩が届かない。

186: 2014/11/14(金) 13:24:31.96
武蔵 「それにしても、驚いたぜ」

竜馬 「何がだよ」

武蔵 「お前だよ、リョウ。よく、そこまで考えられたな。お前はもっと脳筋派で、考察なんて退屈なことはブン投げちまうヤツだと思ってたのによ」

竜馬 「なんだ、その言い草は。褒めてるのか貶してるのか、どっちだ」

武蔵 「褒めてるんだよ。素直に感心しているの」

竜馬 「まぁ・・・な。そっち専門の奴がいなくなっちまったんだ。誰かが代わりを務めるしかないじゃねぇか」

武蔵 「だとしても、たいしたもんだ。俺には、やろうとしたってできる事じゃないもんな」

竜馬 「やれる奴がやれる事をすりゃ良いのさ。そんだけのこった」

ほむら 「・・・」

竜馬 「どうした、暁美」

ほむら 「考えていたのよ。あなた達が来た世界とは、人類の成り立ちからして違うんだなって」

竜馬 「ああ」

187: 2014/11/14(金) 13:27:15.59
ほむら 「私と流君・・・思った以上に遠い存在なのかもね」

竜馬 「・・・暁美?」

ほむら 「・・・」

竜馬 「成り立ちはどうだろうが、今は近くにいて仲間と認め合った仲だ。なんの遠い事がある?」

ほむら 「うん・・・」

竜馬 「よし、当座の事を考えようぜ。ゲッターロボの稼動には暁美の魔力が必要だ。俺や武蔵が暁美の力になるためには、ゲッターロボの存在はどうあっても必要」

武蔵 「だな。生身であの魔女に対抗するのは、どうあっても限界がある」

竜馬 「グリーフシードの確保・・・が最優先だな。それも大量に」

武蔵 「だとすれば、たくさんの魔女をやっつけて回るって方法しかないわけだよな」

竜馬 「ああ・・・だが、暁美の魔力が尽きてしまっては意味がない。要するに、ゲッターロボは使えない」

武蔵 「・・・俺たち、足手まといにしかならないんじゃないか」

竜馬 「そうなんだよな・・・卵が先かヒヨコが先か・・・よくある例え話だが、今の俺たちはまさにそんな状況だ」

ほむら 「・・・一つ、宛てがあるわ」

188: 2014/11/14(金) 13:29:57.09
竜馬 「大量にグリーフシードを落としてくれる魔女の心当たりでもあるのか?」

ほむら 「そんな都合の良い魔女なんていないわよ。でも、大量のグリーフシードは確保できるかもしれないし・・・」

武蔵 「し・・・?」

ほむら 「上手くいけば、仲間の数を増やせるかもしれない」

竜馬 「・・・へぇ、一石二鳥って訳か」

ほむら 「そうすれば、今度こそ・・・ワルプルギスの夜を越えられるかもしれない。いいえ、超えて見せる」

武蔵 「わるぷ、ぎ・・・?」

竜馬 「俺たちがこの世界に来て、はじめて見た、あの巨大な化け物の事だな」

ほむら 「・・・ええ」


実際は違う。

竜馬たちが見た魔女こそ、ワルプルギスをも超える最凶最悪の魔女。

私が守ろうとしている、鹿目まどかが化身した姿に他ならなかった。

だけれど・・・


ほむら 「そう、私が目指しているのは、あの魔女を倒した先に訪れる、平穏な日々・・・」


あえて事実を私は伏せた。

知られたくなかったのだ。仲間と認めた二人に、私の大切な人の成れの果ての姿を。

どのみち、ワルプルギスを倒せなければ、この時間軸での数々の試みも失敗に終る。

その後に訪れるのは、形はどうあれ、避けられない鹿目まどかの氏という現実。それは揺るがない。

私にとってはワルプルギスも魔女となったまどかも、抗わなければならない存在だと言うことに変わりはないのだ。


ほむら 「とりあえず私は、明日学校を休むわね。ちょっと、隣の街まで行ってみるわ。それと武蔵さん」

武蔵 「なんだい?」

ほむら 「あなたには同道してもらいたいのだけれど。良いかしら」

197: 2014/11/16(日) 12:59:26.95
・・・
・・・


翌日 早朝

風見野市 廃墟となった教会内


見る影もなく荒れ果ててしまった”元・実家”で、杏子は目を覚ました。

普段はあまり寄り付く事もない場所。ここには杏子にとっての、嫌な思い出があまりにも多すぎたから。

そんな杏子が昨晩、深夜まであてど無くブラブラ歩き回った後で、自然と足が向いたのが、何故かこの場所だった。

教会の入り口を潜るなり、床に倒れ付して眠りについた杏子。

そのまま、泥のように眠る・・・つもりだったのだが。


杏子 「・・・くそ、結局あまり眠れやしなかった」


ほぼ日の出と同時に、杏子は夢の世界から呼び戻されてしまった。


杏子 「あたしには関係ないとはいえさ、魔法少女のあんな氏に方を見せ付けられちゃぁな・・・」


夢身が悪くて、良く眠れやしない。


杏子 「・・・ちっ」

杏子 「むしゃくしゃする。魔女でもぼこって気を晴らさないと、どうにも腹の虫がおさまらねぇ」

杏子 「行くか・・・昨日の使い魔の親玉が、たぶん近くにいるはずだ。見つけ出して、あたしの魔力の足しになってもらうぜ」

198: 2014/11/16(日) 13:03:20.66
・・・
・・・


風見野市

街中 某所


杏子 「・・・」

杏子 「・・・お、早速ソウルジェムに反応。くく、待ってろよ。すぐにグリーフシードに変えて、あたしのコレクションに加えてやるからな」


ソウルジェムの光に導かれるまま、杏子は駆ける。

やがて、辿り着いた先で目にしたもの、それは・・・


杏子 「ビンゴ、当たりだ!」


魔女の結界。杏子が目的としていた物に違いなかった。

この中に、昨日の使い魔の親玉である魔女が居座っているはず。

そう思うと、否が応にも彼女の闘志は燃え上がる。


杏子 「昨日の名も知らないあんた、氏に様を見届けたのも何かの縁だ。柄でもないが、敵くらいは討ってやるよ」

199: 2014/11/16(日) 13:05:38.35
杏子 「よーし、そんじゃぁ、いく・・・ぜ・・・」

杏子 「・・・」


だが、杏子は気がつく。

この結界の中から感じる気配が、魔女のそれだけではない事に。


杏子 「この気配・・・まさか、またなのかよ」


間違いない。

この中にいるのだ。

自分と同じ、魔法少女が。

200: 2014/11/16(日) 13:06:48.94
・・・
・・・


魔女の結界内


杏子 「・・・ん?」


結界のごく浅い場所で、杏子はある物を発見する。

それは無残に食い荒らされ、原形すらとどめていない・・・

まごうことない、人間の氏体。


杏子 「これは・・・食い散らかされて良く分からないが、大人のようだな。男女二人分・・・」

杏子 「結界が顕現する時にでも巻き込まれちまったのか、なんにしても不運な事だ。ま、これもあんたらの運が無かったためだ。気の毒だけどね」


だが、ここにあったのはあくまで普通の人間の氏体。

杏子が気配を感じ取った、魔法少女の物ではない。

ということは・・・


杏子 「さ、て、と・・・」


(きょろきょろ)


杏子 「思ったとおりだ。こっちには、この二人を食った奴らしい使い魔どもの氏骸が転がっている」

201: 2014/11/16(日) 13:09:00.86
杏子 「やはり私より先にここに入った奴がいるようだ。それも今回は、多少は戦える奴がな」

杏子 「へっ。まったく、やれやれだ・・・」

杏子 「・・・って!」

杏子 「な、なにホッとしてんの、あたし!違うから!今のは、是対違うから!」

杏子 「えーい、くそ!ともかく早く見つけ出して、ギタギタにしてやる!この街の獲物は、全部あたしのだって身体で教えてやるんだ!」

杏子 「逃げずに待ってろよーっ!!」(たたたたっ)

202: 2014/11/16(日) 13:10:27.95
>>201

是対→絶対

失礼しました。

203: 2014/11/16(日) 13:12:54.16
・・・
・・・


結界内 深部


だが。

自分に無断で風見野で魔女を狩ろうとする魔法少女に灸を据える。

そんな杏子の望みは、あっさりと絶たれる事となってしまう。


杏子 「・・・結局、こうなっちまうのかよ」


そこで彼女が見た物は、魔法少女の氏体。

周りには使い魔の氏体も転がっている。奮戦むなしく、相打ちして果てたのだろう。


杏子 「・・・ここまで来て、魔女にたどり着けなかったなんてな。あんたも、因果な氏に方したモンだよな」


杏子は舌打ちをする。

これで仇を討たねばならない魔法少女が二人になってしまった。

204: 2014/11/16(日) 13:16:07.84
杏子 「・・・?」


だが、視線を氏体から逸らしたところで、杏子はあることに気がつく。

結界の奥に向かって、さらに続いている”小さな”足跡があるのだ。


杏子 「氏体はここにあるって言うのに、足跡が他にも・・・?」

杏子 「てことは、魔法少女は一人じゃなかったって事か・・・!?」


? 「きゃあああっ!!」


杏子の予想を肯定するように、結界内に響き渡る少女の悲鳴。


杏子 「!!」

杏子 「んなろっ、待ってろ!あたしの縄張りで、勝手に氏ぬなんて絶対に許さねぇ!!」

杏子 「あたしが一発ぶん殴るまで、くたばるんじゃねぇぞ!!」

205: 2014/11/16(日) 13:19:14.01
・・・
・・・


同日 正午

風見野市


私はバスを降りると、記憶の糸をたどりながら、ある場所へと向かって歩を進め始めた。

少し遅れて、後ろを歩くのは巴武蔵。

はじめて見る街並みを物珍しそうに眺めながら、私の後を付いて来る。


武蔵 「なぁ、ほむらちゃん」

ほむら 「なに?」

武蔵 「なんで、俺を連れてきたんだ?」


当然の疑問だ。


ほむら 「これから会う人と、あなたを引き合わせたかったのよ」

武蔵 「なんでまた」

ほむら 「彼女は、私の知る魔法少女の中でも、一番のリアリスト。だから、賭けてみようと思うの」

武蔵 「・・・??」

ほむら 「本当のことを言ってみる。私の目的、あなた達の来歴。そして・・・」


魔法少女の逃れられない運命までも。

206: 2014/11/16(日) 13:21:56.76
かつての時間軸でも、私は彼女に同じことを話したことがある。

そしてその結果は、言わずもがな。一笑に付されて、まったく信用してもらえなかった。

だけれど、あの時と今では、多少状況が違う。

その状況の違いに、賭けてみたいと思ったのだ。


ほむら 「彼女を説得するのに、私だけでは役不足だと思ったのよ。男の身でありながら、魔女を認識できるあなたが一緒にいれば、説得力も増すと考えたわけ」

武蔵 「そっか。いや、俺が聞きたいのはそこじゃなくって、なんでリョウじゃなく、俺だったのかって事だよ」

ほむら 「ああ、特に特別な理由はないの。ただね、最近流君は授業をサボりがちだったから、これ以上目立って欲しくなかったのよ」

武蔵 「ああ、それでか」

ほむら 「それに私は、何だかんだで彼と一緒にいることが多いし、一緒に学校を休んだりして、変な噂でも立てられたりしたら、それはとっても困るのよ」

武蔵 「ははは、なるほど。そりゃぁちょっと、女の子らしい理由だなぁ」

ほむら 「ほむぅ」

武蔵 「うん、事情は了解したぜ。それで、俺たちがこれから会うって子は、どんな子なんだい?」

ほむら 「マミに次ぐベテランの魔法少女よ。仲間にできれば、とても心強い存在となってくれる・・・」

武蔵 「名前は?」

ほむら 「杏子・・・佐倉杏子・・・」

207: 2014/11/16(日) 13:23:20.77
・・・
・・・


教会前


ほむら 「ついたわ」


崩れかけた外壁を見上げながら呟く私に、武蔵はいぶかしげに問いかける。


武蔵 「ついたって・・・どう見たってここ・・・」

ほむら 「ええ、廃墟よ」


そう、ここは廃墟と化した教会の前。

多くの信者を迎えたであろう信仰の場は、今やかつての面影は微塵も残されていない。

幾年もの風雨に野晒しにされ、壁は苔むし、荘厳であったろうステンドグラスは割れるに任されたまま。

敷地は手を入れる者がいないため、うっそうとした雑草で覆われ、蒸せる様な草いきれが顔を覆う。

・・・見るも無残な有様だった。


武蔵 「ここにいるのかい?その、佐倉杏子っていう子は・・・」

208: 2014/11/16(日) 13:25:02.64
ほむら 「・・・」


正直分からなかった。

杏子はねぐらを転々とし、定まった住居など持ってはいなかったのだから。

ある時は野宿をし、またある時はホテルに部屋を取り・・・

だから、杏子に会うためにここにきたのも、これまた一つの賭けだったのだ。

杏子の居場所についての、唯一の手がかり。

それは、彼女が生まれ育った、この教会以外には無かったのだから。


ほむら 「ともかく、入ってみましょう」


武蔵を促し、入り口へと向かう。

209: 2014/11/16(日) 13:26:24.40
・・・と。

朽ちかけた扉を開こうとして、私は中に人の気配を感じ取った。


ほむら 「いる・・・」

武蔵 「分かるのかい?」

ほむら 「ええ」


確かに感じる。

この特有の気配は、紛う事ない・・・

魔法少女特有のものだ。

それも・・・


ほむら 「二人、いる・・・」

210: 2014/11/16(日) 13:27:28.13
武蔵 「それも、想定内の出来事なのかい?」

ほむら 「いいえ」


一人の気配は、間違いなく佐倉杏子のものだろう。

だけど、もう一人は・・・?

あまりに微弱で、その正体まで掴む事ができない。

それとも、もともと私が知らない誰かなのか。


ほむら 「予想外の出来事よ・・・」

武蔵 「危険は無いのか?いったん出直したほうが・・・」

ほむら 「ううん、それは平気だと思う」


杏子の闘気は感じられない。

211: 2014/11/16(日) 13:28:41.89
微弱な気配、もう一人の魔法少女が衰弱している理由は、おそらく佐倉杏子との戦いが原因ではないはず。

危険な状況とは思えなかった。


ほむら 「もっとも、何が起こるのか分からないのが私たちの日常だけれど。ともかく、入ってみましょう」

武蔵 「ま、俺はほむらちゃんに付いて行くだけさ」


武蔵の返事を待って、扉の取っ手に手をかける。

重苦しい音を立てながら、軋むように開く扉。

一歩踏み込むと、そこに広がるのは、外から見る以上に惨憺たる光景。


武蔵 「うわ、こりゃ酷いな」

212: 2014/11/16(日) 13:33:21.86
ほむら 「火事で全焼したのだから。悲惨なのは当然よ」

武蔵 「そうなのか・・・」


? 「おい」


教会の奥から、不意に声をかけられた。

教会の最奥。そこはかつて、立派な教壇があったであろう、一段高い場所。

そこから一人の少女が、私たちを見下ろしている。

仁王立ちで、スマートな身体をすっくと伸ばし。

燃えるような真紅の瞳で、射るように鋭い視線を飛ばして来る彼女こそが・・・


ほむら (佐倉、杏子・・・)

213: 2014/11/16(日) 13:35:16.83
杏子 「なんだ、あんたら。神様を拝みに来たなら、ここにはもういないぜ。よそをあたりな」

ほむら 「・・・」

杏子 「・・・違うな。あんた、魔法少女か」

ほむら 「ええ」

杏子 「はっ、一体どうなってるんだか。今日び、魔法少女の特売セールでも開催中なのかね」

ほむら 「・・・どういうこと?」

杏子 「こっちの話だ。用件はなんだい?まさか、偶然ここに迷い込んだって訳でもないんだろ?」

ほむら 「話が早くて助かるわ。あなたに用があって来たのよ」

杏子 「・・・」

ほむら 「佐倉杏子」

杏子 「っ!?あんた、どこかで会ったことがあったか・・・?」

ほむら 「ええ。あなたは覚えていないでしょうけれど、私はあなたと会ったことがある。何度も、何度もね」

杏子 「・・・なにを言ってやがる?」

214: 2014/11/16(日) 13:36:25.30
ほむら 「単刀直入に言うわ。あなたと取引に来たのよ」

杏子 「取引だぁ?」

ほむら 「あなたにとって、絶対に損にならない話よ。聞く気はある?」

杏子 「面白いな、あんた。とりあえず、敵対する気はないと取っていいのか」

ほむら 「ええ。あなたと戦う気はないわ。縄張りを奪う気もない・・・」

杏子 「へぇ・・・」

ほむら 「用件を言ってもいいかしら」

杏子 「あんたとどこで会ったのか、用件はなんなのか。気になることは幾らでもあるが、聞いてやる義理があるわけでもない」

ほむら 「・・・」

杏子 「あいにく、信用できないヤツの持ちかける話に乗ってやるほど、私はお人好しじゃないよ。戦う気が無いと言うなら、私の前から消えてくれ。それと・・・」

武蔵 「あんな事言ってるけど・・・」

ほむら 「まぁ、最初からスムーズに話し合いを進めるとは思っていなかったから」

杏子 「あんただ、あんた」

武蔵 「あ・・・俺?」

杏子 「そうだよ。なんでシレっと魔法少女同士の話に立ち会ってるんだ?どう見たってあんた、魔法少女には見えないけれどな」

215: 2014/11/16(日) 13:44:01.07
武蔵 「確かに魔法少女ではないな。でも、魔法少女が何なのかは知ってるし、シレっと話に立ち会っていたわけでもないぜ」

杏子 「魔法少女でもないのに、魔法少女を知るあんたは、何者なんだい?」

武蔵 「俺は、この子の仲間だ」

杏子 「仲間、だぁ・・・?」


警戒の色は隠さないまでも、どこか飄々としていた杏子の声音が武蔵の一言で変わった。

不快な言葉を聞かされた。

そんな苛立ちを寸分も隠すことなく言葉に乗せ、私たちに投げつけてきたのだ。


杏子 「仲良しごっこで、お気楽なこったな。不愉快だ。とっととここを出ていきな」

武蔵 「気楽なんかじゃないぜ。こっちはこっちで、色々と大変なんだよ。俺も、この子もな。大変な者同士、助け合おうってだけの話さ。これのどこが仲良しごっこなんだい?」

杏子 「・・・何がどう大変だってんだよ」

216: 2014/11/16(日) 13:45:44.45
武蔵 「それはさ」

ほむら 「待って」

武蔵 「・・・?」

ほむら 「佐倉杏子」

杏子 「あん?」

ほむら 「こちらの事情、教えてあげる義理は無いわ」


杏子の口上をそっくり頂いて、きり返してみる。


杏子 「・・・てめぇ」

ほむら 「だけれど、取引の話。大人しく聞いてくれるなら、こっちの事情を話さないでもない。だって、両者は密接に関わっている事柄だから」

杏子 「・・・」

ほむら 「気にならない?この人がなぜどうやって、魔法少女に関わっているのか。そして、その事に関わる取引の内容・・・」 

217: 2014/11/16(日) 13:50:49.41
杏子 「言ったろうが!気にはなるが、聞いてやる義理はねぇと!これ以上ゴタゴタぬかすと、二度と無駄口たたけなくなるまで、ぶちのめしてやるぞ!!」

ほむら 「・・・」


だめか。

上手いこと杏子の好奇心に火をつけ、こちらのペースに巻き込めればと思ったのだけれど・・・

さやかの時と同じ。結局は相手を怒らせてしまうに終った。

あの時の竜馬のように、上手く事が運べない。やっぱり私には、相手の心の機微を推し量るという能力が、絶対的に欠けているようだ。


武蔵 「あの子、怒っちゃったぞ・・・」

ほむら 「・・・」


仕方がない。

杏子が頭を冷やすまで、ここは引き下がるべきか。

218: 2014/11/16(日) 13:52:34.51
そう、武蔵に告げようとした時だった。


? 「きょ・・・きょーこ・・・?」


教会の奥から、か細い声が聞こえてきたのは。

声のした方に目を向けると、朽ちた装飾品の陰に身体を隠すように・・・

小さな人影がこちらの様子を伺っているのが目に入った。


? 「ケンカしてるの、きょーこ・・・?」


物陰を出た人影は、おずおずとこちらへと近づいてくる。


? 「だ、だいじょうぶ、きょーこ・・・」

武蔵 「小さな女の子・・・?」

杏子 「・・・なんだ、目が覚めたのか。こっちくんなよ、奥に引っ込んでいろ」

? 「だ、だって・・・きょーこが心配で・・・」

杏子 「ちっ」

219: 2014/11/16(日) 13:54:11.89
ほむら 「この子は・・・」


私はこの子に見覚えがあった。

知り合いというには、関わりあいはあまりに希薄なものではあったけれど・・・

確かに彼女とは、いつだったかの時間軸で顔を合わせたことがある。

そう、彼女の名前は確か・・・


ほむら 「ゆま・・・?」

? 「え、お姉さん、ゆまの名前、知ってるの・・・?」

ほむら 「ええ、千歳ゆまね」

杏子 「なっ・・・!?」

ゆま 「お姉さん、ゆまとどこかで会ったことがあるの?」

ほむら 「ええ。あなたは覚えていないでしょうけれど、何度かね」

ゆま 「・・・?」

220: 2014/11/16(日) 13:56:04.46
杏子 「こいつが魔法少女になったのは、つい昨日だったはずだぜ。それが何で、お前なんかと面識があるんだ」

ほむら 「・・・」

杏子 「あたしの名前も知っていた・・・何者だよ、お前」

ほむら 「話、聞いてくれる気になったかしら」

杏子 「・・・いいだろう。だけど、取引の話は後だ。物には順序ってもんがあるだろ?」

武蔵 「正論だな」

ほむら 「良いわ。まずは自己紹介から行きましょう。互いにね」


千歳ゆま。

思いがけない場所での再会ではあったけれど、彼女の予想外の登場に救われた形となった。

後は何とか、杏子の気を引きつつ、私たちの仲間にできたなら・・・

225: 2014/11/18(火) 20:13:47.09
杏子 「互いにったって、そっちはあたし等のことは知ってるんだろ?」

ほむら 「千歳ゆまに関しては、それほど情報は持ち合わせていないわ。それに、こちらの武蔵さんは、あなたの事も元より知らない」

武蔵 「俺とは正真正銘、初対面って事だ!」

杏子 「しらねぇよ。なんにしても、尋ねてきたのはそっちだ。まずはそっちから自己紹介するのが筋じゃないのかい」

武蔵 「まぁ、違いない。んじゃあ、まずは俺から。俺の名前は巴武蔵。訳あって、ほむらちゃんと行動を共にしている」

杏子 「巴・・・巴って、あんたまさか」

ほむら 「佐倉杏子は、かつて巴マミとコンビを組んでた事があるのよ」

武蔵 「あ、それはそれは。妹がお世話になったようで」

杏子 「あんた、マミの兄貴かよ。話に聞いてはいたが、まったく似てないな」

武蔵 「えー?双子のようにそっくりだろ」

杏子 「どこがだよ」

武蔵 「肉感的なボディとか」

杏子 「アホかよ」


容赦の無い突込みが、間髪いれずに飛ぶ様は、ある意味心地よくすら感じられる。

・・・突っ込まれた当の本人には悪いけれど。あ、ほら。武蔵が少ししょげてしまった。


杏子 「ていうか、そっちのあんた。あたしとマミの過去についてまで、随分と詳しいようだな」

226: 2014/11/18(火) 20:16:42.12
ほむら 「・・・私は暁美ほむら。あなたと同じ、魔法少女」

杏子 「涼しい顔して、なんでもお見通しよってか。あんた、面白くねぇ奴だな」

ほむら 「そんな万能なものじゃないわ。さてと、次はそちらが名乗る番だけれど」

杏子 「・・・佐倉杏子。風見野を縄張りに適当にやってる」

武蔵 「そんだけ?」

杏子 「他に何を言えって言うんだよ」

武蔵 「ま、良いか。えーと、それじゃあ、次は君の番だけれど。お名前は?」


武蔵がゆまに向かい、人懐っこい笑顔を浮かべながら尋ねる。

腰を屈め、目線まで幼い少女に合わせて。

・・・随分と、子供の扱いに慣れているようだ。


ゆま 「え・・・えっと・・・」

武蔵 「ん・・・?」

ゆま 「あ・・・あわ・・」

227: 2014/11/18(火) 20:22:32.33
武蔵 「緊張してるのかな?あ、そうだ、いいものがある!」


武蔵がゴソゴソと懐をさぐり・・・

取り出したのは、昨日私の部屋で食べたのと同じ、外国のお菓子だった。


ほむら 「持ってきていたの・・・」

武蔵 「いつ、何があるか分からないしな。非常食の備蓄は、いざという時の為に大切な準備なんだぞ」

ほむら 「はぁ・・・」

武蔵 「さぁ、お菓子をどうぞ。お兄ちゃんが外国で買ってきたものだけれど。ほら、美味しいよ」

228: 2014/11/18(火) 20:31:19.98
ゆま 「え・・・いいの・・・?」おずおず


遠慮がちに、武蔵とお菓子を交互に見つめるゆま。

・・・どうやら、自分に向けられた好意に戸惑いを受けるような、そんな育ち方をしてしまったようね。

だけれど、武蔵はそんな事を意にも介さぬように、手に持ったお菓子をゆまの視界いっぱいになるように近づける。

顔を庇うように、反射的にお菓子を手にとってしまう千歳ゆま。

後はもう、武蔵の思う壺だった。


武蔵 「ほら、お食べよ」

ゆま 「・・・」


おずおずと包み紙を開いて、お菓子を口へと運ぶ。

子供の味覚は正直だ。

一回二回と噛みしめているうちに、ゆまの顔にみるみる笑顔が広がっていく。


武蔵 「おいしい?」

ゆま 「うん!」

229: 2014/11/18(火) 20:33:18.18
上手いものだわ。

やはり武蔵をつれてきて正解だった。私は子供の扱いなんてどうして良いか分からないし、柄の悪い竜馬だと無駄に怖がらせるだけだったろうから。


武蔵 「まだあるから、後でもっとあげるからね。でも、その前に、まずは君のことを教えてもらいたいなぁ」

ゆま 「う、うん。ゆまは千歳ゆまって言うの。昨日、キュウべぇから言われて、魔法少女になったんだ」

ほむら 「どうして、佐倉杏子と一緒にいたの?」

ゆま 「それは・・・」

杏子 「あたしから説明するよ。今朝、魔女の結界の中で拾ったのさ。あたしが、こいつを」

ほむら 「拾った?」

杏子 「ああ」


ここで杏子は、ゆまと出会った経緯をかいつまんで説明してくれた。

杏子の言によると、二人が出会ったのは今日の朝はやく。

杏子が見つけた魔女の結界に先に入り込んでいたゆまは、魔女に襲われ対抗しきれず、気を失っていたらしい。

あわやと言うところで駆けつけた杏子に救われたわけだ。


杏子 「で、とりあえず連れて帰って傷の手当をしてやったのさ。いくらあたしでも、こんなガキを見捨ててきたんじゃ、あとあと夢身が悪いからな」

ほむら 「では、二人も出会ってまだ、間がないというわけね」

杏子 「そういうこった。さ、自己紹介はもういいだろ。そろそろ説明してもらおうか。あんたが私たちのことを、なぜ知っているのかを」

230: 2014/11/18(火) 20:34:59.69
ほむら 「・・・いいわ」


ここからは賭けだ。

かつての時間軸で、私は全ての真実を杏子をはじめ、まどかやみんなに話した事がある。

そして、誰一人として、真実を受け入れてくれる人はいなかった。

結果、私は誰のことも信用するのを止めた。結局、自分の心の内を受け止められるのは、自分自身以外にいないのだと諦めて。


だけれど。


竜馬が美樹さやかの運命を変えたのを目の当たりにし、私ももう一度運命に立ち向かってみたいと、切に思った。

私では竜馬のようには行かない。それは重々承知の上で、それでも明らかに、この時間軸は流れが今までと異なっている。

まどかを救いたい。

いつもと変わらない想い。ただ今回は、まどかを救った後で、ともに笑いあえる皆がいてほしい。

そう思うのだ。

かつての友達と。全てが終った後で。

頑張ったねと、共に喜びを分かち合いたいのだ。


私は告げる。

真実を。これから起こる事を。

目の前に佐倉杏子に。

231: 2014/11/18(火) 20:37:35.54
・・・
・・・


杏子 「ワルプルギスの夜って、あの最強の魔女だって言われる、あのワルプルギスの夜の事かよ!?」

ほむら 「ええ、あなたも話には聞いたことがあるでしょ。それが、間もなく見滝原で顕現する」

杏子 「まじかよ・・・」

ほむら 「そこで取引よ。佐倉杏子。どうか私の仲間になって、ともにワルプルギスの夜と戦ってくれないかしら」

杏子 「仲間・・・」


仲間という二文字を耳にした途端、杏子の眉間に深い皺が刻まれた。

よっぽど、この言葉が嫌いなのだと見える。


ほむら 「仲間という間柄に引っ掛かりがあるなら、一時的な同盟関係ということでどうかしら」


名目なんか、どうでも良かった。

ただ、佐倉杏子が共に戦ってくれる。そのこと自体が重要なのだ。


杏子 「・・・まぁ、良い。取引云々以前に、まずは確認しておきたい事がある。なんであんたに、そんな先のことが分かるんだ」

ほむら 「・・・」

232: 2014/11/18(火) 20:38:38.44
杏子 「教えろよ。じゃなけりゃ、取引も何も答えようがないだろう」

ほむら 「・・・てきたからよ」

杏子 「ああ・・・?」

ほむら 「私はもう何度も、ワルプルギスと戦ってきたからよ。そのたびに敗れ、時間を遡行し、奴に挑み続けているの」

杏子 「・・・何を言ってるんだよ、訳わからねぇ」

ほむら 「私の能力は、時間を超える力。佐倉杏子、そして千歳ゆま。あなたたちの事を知っていたのも、かつての時間軸で出会っていたからよ」

ゆま 「???」

杏子 「つまりあんた、未来から来たって事なのか?」


さすが、佐倉杏子は察しが良い。私の言葉少なな説明で、充分に理解してくれたようだ。

勘の良さは、私の知る魔法少女の中では、飛びぬけている彼女だ。


ほむら 「ええ、そう。と言っても、たった一ヶ月ほどの時間を行き来しているだけだけれど」

杏子 「・・・で、何度も行き来している時間の中で、私やこのガキとも出会ってたって、そういうことか?」

ほむら 「信じられない?」

233: 2014/11/18(火) 20:40:55.79
杏子 「魔法少女は条理を覆す存在だって、キュウべぇも言っていたな。だとしたら、あんたの言う能力が存在していても、不思議ではない・・・か」

ほむら 「私たち、そのキュウべぇに騙されていたのよ」

杏子 「・・・?」

ほむら 「・・・」


私は無言で武蔵に目配せをする。

いくらなんでも、これから始める話。あんなに幼い少女に告げるには酷過ぎる。

武蔵は私の意を理解してくれると、コクリと一度うなづいた。


武蔵 「ゆまちゃん、ちょっとお兄ちゃんと外で遊んでこようか」

ゆま 「え・・・でも・・・」

杏子 「・・・行って来いよ。目が覚めてから、あまり動いてないだろ。少し身体をほぐして来い」

ゆま 「うん・・・」

武蔵 「さ、行こうか」


武蔵に促され、ゆまは後ろ髪を引かれるようにしながらも、教会から出て行ってくれた。

残ったのは、私と杏子の二人のみ。


ほむら 「ご協力に感謝するわ」

杏子 「・・・良いから、早く先を続けてくれ」

234: 2014/11/18(火) 20:47:09.93
ほむら 「ええ・・・佐倉杏子。あなたは魔法少女の行き着く先というのを、考えた事がある?」

杏子 「ねぇよ。今を楽しく生きられれば良い。あたしはそう思うことに決めてるんだ。先のことなんか、知ったことじゃないよ」


知っていた。

杏子の過酷すぎる過去が、彼女を刹那的な考え方の持ち主へと導いたのだ。

だけれど、そんな考えでは魔法少女の本質へと辿り着ける事は、決して無い。


ほむら 「では・・・もし、魔力が尽きたら。あるいは、絶望に心を苛まれ、ソウルジェムが黒く染まりきったらどうなるのか。考えた事はある?」


だから、私が彼女の思考を真実へと導く。


杏子 「・・・ねぇっていってるだろう」

ほむら 「・・・マミ以上のベテランの魔法少女の存在、噂だけでも聞いたことがある?例えば、そうね。二十歳を過ぎた元・魔法少女とか」

杏子 「なにが言いたいんだよ、それのどこにキュウべぇが関係して来るってんだ。抽象的過ぎて、意図がさっぱり伝わってこねぇぞ」

235: 2014/11/18(火) 20:48:30.56
ほむら 「私たちの願いは、世の条理を覆し得られたもの。その結果生まれた歪みは、確実にわが身へと返って来る・・・」


杏子がピクリと体を震わせる。

彼女にとっては、痛いほど身に染みた事だったはず。


ほむら 「私たちの行きつく先は決まっている。そう遠からずに、生じた歪みに心を苛まれ、ソウルジェムを黒く染め上げるのよ」

杏子 「はっ、何を言って・・・」

ほむら 「誰もその歪みに耐えられない。だから、年を取った”元・魔法少女”なんていうのも存在しないの」

杏子 「えっ・・・?」

ほむら 「皆、消えていくのだから・・・」

杏子 「消えていくって、どういうことだよ、おい・・・」

ほむら 「ソウルジェムは黒く染まりきると、グリーフシードとなる・・・」

杏子 「え・・・」

ほむら 「聡いあなたなら分かるでしょう。グリーフシードは魔女が落とす物。つまり・・・」

杏子 「えっと、ちょい待てよ。じゃあ、あたしたちが普段倒してる魔女って、あれって元々は・・・まさ、か・・・」

ほむら 「ええ、そのまさかよ」

236: 2014/11/18(火) 20:50:18.21
杏子 「は、はははっ・・・、そんな馬鹿な話、あってたまるもんかよ。戯言であたしを惑わして、どうしようってんだ・・・?」


そう、それは受け入れがたい事実。

だけど、厳然たる真実だ。

かつての時間軸では、杏子本人が身をもって実証した事だってある。

だから、受け入れてもらう。

真実を見つめ、心の中に向かい入れ、さらには過酷な運命に立ち向かってもらおう。

私と同じように。


ほむら 「私は嘘は言っていないわ」

杏子 「・・・だっ、だけどっ!キュウべぇはそんなこと、一言もあたしには・・・あっ!」

ほむら 「そう、言っていない。誰も聞かなかったから」

杏子 「・・・っ」

237: 2014/11/18(火) 20:53:25.79
ほむら 「分かった?あいつは確かに嘘は言っていないかもしれない。だけれど、意図的に告げるべき事実を選択して、私たちをミスリードしているのよ」

杏子 「それが本当だってんなら・・・」

ほむら 「ええ、私たちはいずれ、魔女となる。それは避けられない運命。あなたも私も、あの千歳ゆまも・・・」

杏子 「・・・だけれど、それならキュウべぇの目的ってのは、一体なんなんだよ!?そんな事して、奴に何の得があるって言うんだ!?」

ほむら 「私たちが絶望し、ソウルジェムがグリーフシードへと生まれ変わる瞬間に、莫大なエネルギーが生み出されるらしいわ。奴の目的は、そのエネルギーを回収する事・・・」

杏子 「エネルギー・・・だぁ・・・?」

ほむら 「この宇宙に存在する数多の文明が費やすエネルギー。それを補うだけの量を私たちは生み出す事ができるらしいわ」

杏子 「はは・・・意味わからねぇ。話がでかすぎて、笑いしか出やしねぇよ・・・」

ほむら 「実感がわかない内は、そうでしょうね。やがて、大切な人や自分自身が魔女となる危険に迫られた時、その笑いは怒りに変わるのよ」

杏子 「・・・じゃあ、あたしたちは、奴に家畜のように扱われてるって、あんたはそう言うのかよ」

ほむら 「そう。羊が羊毛を刈られ、豚や牛が肉に加工されるのと同様にね」

杏子 「・・・そして、あたし等は魔力を刈られて魔女になる、と」

238: 2014/11/18(火) 20:57:21.33
ほむら 「逃れ得ない運命よ。だけれど、そうなるのを少しでも遅らせたいと思うのも人情でしょう」

杏子 「そりゃそうだ。与えられただけの運命に、はいそうですかと乗っかるだけの結末なんて、まっぴらゴメンだぜ」

ほむら 「そう思うわよね。だけれど、このままだとあなたは・・・」

杏子 「なんだよ、どうなるってんだ?」

ほむら 「私が見てきた時間軸では、あなたがワルプルギス戦を乗り越えたことは一度も無いわ。そこで戦氏するか、それ以前に戦線離脱するか」

杏子 「だから、取引って事か?共に戦えって。だけれど、一緒に戦ったって、ワルプルギスに勝てたことは一度も無いんだろ?」

ほむら 「今まではね。だけれど、今回は事情が違う」

杏子 「?」

ほむら 「さっきの武蔵さんね、別の世界から来たのよ」

杏子 「・・・はぁ?」

ほむら 「そこで彼はロボットに乗って、敵と戦っていた。今、そのロボットは事情があって私が預かっている状態なの」

杏子 「別の世界?は?ロボットぉ・・・?」

239: 2014/11/18(火) 21:03:15.85
ほむら 「彼らが私たちの闘いに手を貸してくれる。だけれど、そのロボットが動力源としているエネルギーが、こちらの世界には存在していないらしくて」

杏子 「・・・」

ほむら 「私の魔力を代用に動かしているの。だから、私の魔力は常に枯渇状態。いつ、魔女になってしまってもおかしくない状況に置かれているというわけ」

杏子 「ちょっと待てよ。いきなりロボットとか言われても、子供のマンガじゃあるまいし、なに言っちゃってんのって感じなんだけどさ」

ほむら 「魔女がいて魔法少女がいて、喋る小動物までいる。ロボットが存在する世界があったとしても、それはそんなに驚くほどの事?」

杏子 「・・・分かったよ、話を続けてくれ」

ほむら 「強大な力を秘めたロボットらしいわ。その力を遺憾なく発揮できれば、あるいはワルプルギスの夜だって・・・」

杏子 「はん、読めたぜ、あんたの言う取引って奴が」

ほむら 「そう、佐倉杏子。あなたが大量のグリーフシードを溜め込んでいるのは知っている。それを私に提供して欲しいの」

杏子 「やっぱりな。けどさ、そんなことをして、私に何のメリットがあるんだよ」

ほむら 「ワルプルギスの夜を乗り越えられるかもしれない。それだけじゃ不足?」

杏子 「あたしがグリーフシードを溜め込むのに、どれだけの苦労をしてきたと思ってんだよ、ええ?」


この返答は想定内だった。

240: 2014/11/18(火) 21:06:04.58
だから、私は用意しておいた答えを彼女に投げつけてやる。


ほむら 「では、ワルプルギスの夜のグリーフシードをあなたにあげるわ」

杏子 「はぁ?」

ほむら 「あれだけ強大な魔女のグリーフシードよ。どれだけ巨大な物を落とすのか、想像もつかないわね。それをあなたに提供する。それでどう?」

杏子 「・・・」

ほむら 「巨大なグリーフシードがあれば、少なくとも魔力の枯渇から魔女化する危険性を先延ばしにできる。悪くない提案でしょ」

杏子 「ははっ、そういうの取らぬ狸のなんとやらって言うんだぜ。確実にワルプルギスが倒せるって確証でもないかぎりな」

ほむら 「そんなのあるわけないわ」

杏子 「話になりゃしねぇn
ほむら 「だけれど、ワルプルギスを超えられなければ、どのみちあなたも氏ぬ事になる」

杏子 「・・・」

ほむら 「・・・」

241: 2014/11/18(火) 21:11:35.13
杏子 「・・・私がワルプルギスに関わらなければ済む話だろ?」

ほむら 「一度顕現したワルプルギスが、見滝原を壊滅させた後で、風見野に矛先を向けないと、あなたは言い切れるのかしら」

杏子 「・・・へぇ、そう来るか」

ほむら 「・・・」


告げるべきことは告げた。

後は彼女の心次第だ。

私の言うことを事実と受け取ってくれるのか。それとも、かつての時間軸と同様に、ただの戯言と切って捨てられるのか。

・・・これは勝率の分からない、ギャンブルなのだ。

242: 2014/11/18(火) 21:16:29.89
・・・
・・・


教会の外。かつての中庭。

雑草に埋もれている何かを見つけ、ゆまが嬉しそうに駆けて行った。

その様子を、武蔵が目を細めながら見守っている。


武蔵 (小さい子を見てると、元気ちゃんのこと、思いだすなぁ)


ややあって、ゆまがその手に何かを握りながら戻ってきた。


武蔵 (元気ちゃん、元気にしてるかなぁ・・・俺もリョウも隼人もいなくなって、寂しい想いしてるんだろうな・・・)

ゆま 「お兄ちゃん・・・?」

武蔵 「おっと、なんだい?」

ゆま 「へへ・・・はいっ」

武蔵 「お、なんだろう??」

ゆま 「四葉のクローバー、あそこに咲いてたから持ってきたの。幸運のお守りなんだって」

武蔵 「へぇ、よく見つけたね。俺にくれるのかい?」

ゆま 「うん、お菓子のお礼!」

武蔵 「そっかぁ、そりゃ嬉しいなぁ。ありがとね、大事にするから」


言うと武蔵はゆまの手からクローバーを受け取り、懐に大事にしまった。

243: 2014/11/18(火) 21:19:20.00
優しく、無垢な少女。

こんな少女がどうして、魔法少女となる事を望んでしまったのか。

ほむらから魔法少女の結末がどうなるかを聞いていた武蔵。

これからゆまを待ち受けるであろう運命を思うと、気が重くなるのを抑える事ができない。


武蔵 「ねぇ、ゆまちゃん」

ゆま 「なぁに?」

武蔵 「君はどうして、魔法少女になろうって思ったんだい?」

ゆま 「・・・」

武蔵 「あ、言いたくないなら良いんだよ。だけど、ちょっとお兄ちゃん、気になちゃってさ」

ゆま 「いいの・・・あのね・・・ゆま、悪い子なんだ」

武蔵 「え・・・ゆまちゃんが?俺にはそう思えないけど、どうしてそう思うんだい?」

244: 2014/11/18(火) 21:21:30.71
ゆま 「いっつもお母さんがゆまの事ぶつから・・・きっとゆまが悪い子だから、お母さん、怒ってばかりなの・・・」

武蔵 「・・・っ」


ふと、気がつく。

武蔵はゆまの頭を撫でるふりを装い、そっと彼女の前髪を掻き分けてみた。

そこにあったのは、巧妙に隠れるようにして額に焼き付けられた、タバコの跡。


武蔵 (この子、親に・・・)

ゆま 「だからね・・・ゆま、キュウべぇにお願いしたんだ。ゆまは良い子になれるように頑張るから、その代わりに・・・」

武蔵 「・・・」

ゆま 「もう、お母さんがゆまをぶたなくなりますようにって」

武蔵 「・・・っ」


武蔵 (なんだ、いま強烈に嫌な感覚が波のように押し寄せてきやがった・・・この子の願い、まさか・・・まさか、な・・・)

245: 2014/11/18(火) 21:24:55.96
・・・
・・・


同時刻

見滝原中学校 2年生の教室


昼食も終わり、昼休みの残された時間。

ほむらもいなく、特に話す相手もいない教室で、流竜馬は退屈な時間を過ごしていた。

机に突っ伏して一眠りとも思ったが、どうにも目が冴えて睡魔を引き寄せる事ができない。

彼にしては珍しい事だった。


竜馬 (やはり、暁美のことが心配なのかな、俺。会いに行った奴の素性も俺は知らないし、まぁ・・・武蔵が一緒なんだから案ずる事は何も無いはずなんだが・・・)

? 「流くんっ」


不意に声をかけられ、思案の世界から現実へと引き戻される竜馬。

顔を上げると、そこには自分を覗き込む、物憂げなまどかの顔があった。


竜馬 「よう、鹿目。どうした?」

まどか 「うぇひ・・・起こしちゃってごめんね、流君。寝てたんでしょ?」

246: 2014/11/18(火) 21:33:29.49
竜馬 「いいや、別に。ちょっと気だるくって目を瞑ってただけさ。で、何か用か?」

まどか 「うん~・・・ほむらちゃん、風邪なんでしょ。だいじょうぶなのかなって」

竜馬 「ああ・・・」


今日、ほむらは病気を理由に学校を欠席していた。

竜馬のように、無断で学校を休むようなことはしない。彼女は基本的に優等生なのだ。

・・・仮病という点では、竜馬と五十歩百歩なのだけれど。


竜馬 「鹿目な、あいつの事は心配しなくていいぜ。病気ってのは、あれ嘘だから」

まどか 「うぇひっ!?」

竜馬 「内緒だぜ」

247: 2014/11/18(火) 21:35:55.60
まどか 「だ、だけどほむらちゃんったら、どうしてそんな嘘を言ったんだろ・・・まさか、不良になっちゃった!?」

竜馬 「ぷっ!」


不良だったら学校くらい、何も言わずにふけるだろうさ。

竜馬は、まどかのあまりのまっすぐな素直さに、思わず噴出してしまうのを堪えられなかった。


まどか 「???」

竜馬 「いや、悪い。お前がそれだけ暁美の事を心配してると知ったら、あいつも喜ぶだろうなって思ってな」

まどか 「うぇひ・・・なんだか、馬鹿にされてる??」

竜馬 「んなこたねぇさ」


馬鹿になどしていない。ただ、微笑ましかったのだ。

色々と嫌な物を見すぎて、年齢以上に擦れてしまった自分や、そしてほむらにも。

まどかの様に素直な角度で物事を眺めることは、もうできそうに無かったから。


竜馬 「むしろ、褒めてやりたいくらいだぜ」

まどか 「むぅ~・・・」

248: 2014/11/18(火) 21:43:37.29
竜馬 「暁美な、隣街の魔法少女に会いに行ってるんだよ。それで今日は、学校を休んだって訳さ」

まどか 「えっ、隣街って言ったら風見野市だよね!風見野にもいるんだ、魔法少女!マミさんみたいな人なのかな!?」

竜馬 「さぁ、俺は知らないが。だが実際、魔法少女ってのはあちこちにいるらしいぜ。俺たちが知らないだけでさ」

まどか 「そうなんだ~」

竜馬 「・・・」

まどか 「へぇ~」

竜馬 「・・・一応言っておくが」

まどか 「うぇひっ?」

竜馬 「魔法少女に変な親近感を抱くなよ。この前も言ったが、お前を大切な想う人を、悲しませるようなマネはするんじゃねぇぞ」

まどか 「う、うん・・・」


竜馬に釘を刺され、しゅんとしながらも、ほむらが病気ではないと分かって安堵の表情を浮かべると、まどかは自分の席へと戻っていった。

そんなまどかを見送りながら、竜馬は思う。

ほむらが会いに行った魔法少女は、一体どんな理由があって、自分の運命を戦いの日々の中に投げ入れたのだろう。


(竜馬・・・)


竜馬 「!?」

249: 2014/11/18(火) 21:52:47.87
(竜馬、聞こえるかい?)

竜馬 「頭の中に直接声が・・・この声、キュウべぇか!?」

キュウべぇ (やはり思ったとおり、君とは思念上での会話が可能のようだね。さすがは男性にして、魔法少女となる資格を持つ者だ)

竜馬 「相変わらず手品のような真似を弄してくる奴だな、てめぇは。今更いちいちおどろかねぇが、俺に何の用がある?」

キュウべぇ (実は君と一つ取引がしたいと思ってね)

竜馬 「取引・・・だぁ・・・?」

キュウべぇ (話だけでも聞いてみないかい?もちろん無理強いはしないし、気が乗らないなら断ってくれても良い)

竜馬 「・・・」


風見野で一つの取引がなされている中、図らずもここ見滝原において、別の取引が開始されようとしていた。

250: 2014/11/18(火) 21:55:50.71
・・・
・・・


見滝原中学

屋上


キュウべぇに呼ばれた竜馬は、教室を抜け出して一人、屋上へとやってきた。

昼休みも終わり、他に生徒の姿はない。

ただ一匹、ベンチで丸くなっている小動物の姿があるだけだ。


竜馬 「キュウべぇ」

キュウべぇ 「やぁ、竜馬。きてくれたね」

竜馬 「お前と無駄話をするつもりはない。とっとと用件を話してもらおうか」

キュウべぇ 「僕もそのつもりだよ。君は他の魔法少女達と違って、まどろっこしい事を抜きに話ができるから助かる」

竜馬 「で、話ってのは・・・?」

キュウべぇ 「竜馬・・・君は元の世界へと戻りたがっている。その方法を探して、暁美ほむらと行動を共にしている。そうだよね」

竜馬 「聞かれるまでもねぇ。俺には俺のやるべき事がある。そのためにも、元いた場所に戻らなきゃならねぇからな」

キュウべぇ 「でも、その方法は依然として謎のまま。この先、ほむらと一緒にいても、解明できるのかどうかは分からない」

251: 2014/11/18(火) 22:00:50.66
竜馬 「・・・無駄話をするつもりはないと言ったぞ」

キュウべぇ 「僕が、君が元の場所に戻る手伝いをしよう。そう提案しようと思ってね」

竜馬 「・・・!?」

キュウべぇ 「もちろん、さっきも言ったとおり、これは取引だよ。君も僕のお願いを聞き入れてくれればという条件つきの話だけれどね」

竜馬 「お前・・・俺や武蔵が元の世界に戻る方法を知っているって言うのか?」

キュウべぇ 「知らないよ」

竜馬 「・・・は?」

キュウべぇ 「言っただろう?君はとびきりのイレギュラーだって。僕達が有する膨大なデータバンクにも、君のような存在への対処法は記憶されていない」

竜馬 「お前、俺を馬鹿にしてるのか」

キュウべぇ 「慌てる乞食は貰いが少ない。これは君たち人間の諺だよね。そう、結論を急ぐものじゃないよ」

竜馬 「だったらお前もはっきり言ったらどうなんだ。一体お前は、俺になにが言いたい?」

キュウべぇ 「僕自身は君の知りたい情報を持ち合わせてはいない。でもね、推論ではあるけれど、君が元の世界へ戻る。そのヒントは提示できると思うんだ」

竜馬 「なんだってんだよ、それは」

キュウべぇ 「ここからが取引だ。僕からの願い、君が呑んでくれたら、そのヒントを君に教えてあげる。これは単純な交換条件という奴だよ」

竜馬 「・・・」

キュウべぇ 「現状、八方ふさがりの君が取るべき道の、指針ともなるはずの重要なヒントだ。この取引、決して君の損にはならないと断言できるけれど、どうかな」

竜馬 「それで、お前は俺に何をさせようとしている」

キュウべぇ 「それはまず、僕との取引を成立させてからじゃないと教えられないよ。話だけ聞いて、やっぱり止めますじゃ、僕のこれからの活動にも影響を及ぼす事柄だからね」

竜馬 「・・・」

キュウべぇ 「さぁ、答えを。君の立場を思えば、考えるまでもないと、僕は思うけれど・・・」

竜馬 「・・・」

256: 2014/11/19(水) 12:51:24.04
・・・
・・・


ほむら 「どう、私の話、信じてもらえるかしら」

杏子 「突拍子も無さ過ぎて、疑う気も失せるよ」

ほむら 「言ってる自分でも、そう思うわ」

杏子 「魔女となる運命のあたし達に、異世界から来たロボット乗りときた。騙す気で来たなら、もう少しましな嘘をつくだろうさ」

ほむら 「それじゃ・・・」

杏子 「だけれど、だからと言って即信用できるほど、私は早計でもお人好しでもない。まずは、事実である証を示してもらおうか」

ほむら 「何を見れば、証と取ってもらえるのかしら」

杏子 「まずはお試しってことで、お前とその仲間とやらの戦いに同行させてもらう。直に見せて貰おうじゃねぇか、そのロボットとやらをよ」

ほむら 「良いわ。私のもう一人の仲間は見滝原にいる。あなたにも見滝原に来てもらっても・・・?」

杏子 「構わないぜ。どの道あたしは住所不定、気楽な根無し草みたいなもんだからな。どこへ行こうと気ままなものさ」

ほむら 「話は決まったわね。それじゃ、さっそく見滝原に・・・」

杏子 「あ、ちょっと」

ほむら 「?」

257: 2014/11/19(水) 12:54:00.61
杏子 「あたしからも一つ、聞きたいことがあったんだ」

ほむら 「なに?」

杏子 「なぁ・・・見滝原で最近、見慣れない魔法少女とか・・・遭遇した事があるか?」

ほむら 「・・・?見滝原にいる魔法少女は、私と巴さんだけだけれど・・・言っている意味が分からないわね」

杏子 「なら良い。つまらない事を言っちゃったね」

ほむら 「??」


最後、杏子が何を言いたかったのかは気になる所だけれど・・・

それはともかく。

まずはお試しでも何でも、杏子の協力を取り付けることができた。

後は実際にゲッターロボを見てもらうだけ。魔女の結界さえ発生してくれれば、これは簡単に済ませる事ができる。

杏子がグリーフシードを提供してくれれば、ゲッターロボを安定して運用できるようになるし、魔女との戦いも安全に進める事ができる。

なによりも、ワルプルギスの夜を上回る力を得られたのなら、今度こそまどかを救えるかもしれないのだ。

しかも、さやかやマミ、そして杏子といった仲間達の誰一人も欠けさせる事のないままに・・・

258: 2014/11/19(水) 12:55:10.48
杏子 「それじゃ、行こうか」


私が物思いにふけっている間に身支度を終えたらしい杏子が、私の前に立って教会の出口へと歩いてゆく。

背中には無造作に背負ったリュックが一つ。その中身は、おそらく大量のグリーフシードに違いない。

身支度がたったそれだけなのが、フットワークの軽い杏子らしいといえば杏子らしいのだけれど。


ほむら 「・・・ええ、行きましょう」


私も杏子を追って、出口の扉を潜った

外で待っていた武蔵が、私の姿を認め、駆け寄ってくる。

その傍らには寄り添うようにピタリくっついている、千歳ゆまの姿。

この短い時間のうちに、随分と懐かれてしまったようね。


武蔵 「話は済んだのかい?」

ほむら 「ええ、これから見滝原へ戻るわ。彼女も一緒に」

259: 2014/11/19(水) 12:59:23.39
杏子 「一応、よろしくな」

武蔵 「ああ、こちらこそ!」


笑顔で握手を求める武蔵を無視し、杏子はゆまの方へと顔を向ける。


杏子 「・・・そんじゃ、これでお別れだな」

ゆま 「・・・え」

杏子 「行きがかり上助けはしたが、あんたとあたしは赤の他人だ。怪我は治してやったし、これ以上一緒にいる意味も無いだろ?」

ゆま 「で、でも・・・」

杏子 「分かったら家へ帰りな」

武蔵 「ちょっと待ってくれ」


いきなり、武蔵が二人の間に割って入る。


ほむら 「武蔵さん・・・?」

杏子 「なんだよあんた、関係ないだろ。いきなり割り込んでくるんじねーよ」

260: 2014/11/19(水) 13:07:41.75
武蔵 「俺、この子を連れて帰るよ」

ほむら 「え・・・は、はぁ!?」

武蔵 「今日から俺が面倒を見る。さっき話して、そう決めたんだ。な?」

ゆま 「うんっ」


にっこり微笑みながら頷きあう武蔵とゆま。

なんだか場と不釣合いなホンワカムードが二人を覆っているけれど・・・


武蔵 「てことで、今日から俺はゆまちゃんのお兄ちゃんだ!」

杏子 「んなっ・・・!?」


杏子も呆れて物が言えないといった顔で、あんぐりと口を開けて固まっている。

なんて間の抜けた顔。普段の彼女からは想像もできない表情ね・・・

でも、それは私だって同じ。

武蔵の真意が分からず、私の顔も呆け気味。


ほむら 「ちょ、ちょっと待って・・・武蔵さん、自分で何を言ってるか分かっているの?」

261: 2014/11/19(水) 13:09:21.93
武蔵 「この子さ、両親を亡くしたばかりなんだ」

ほむら 「え・・・」

武蔵 「だからさ、家に帰しても誰もいないんだよ。こんな小さい子、一人にはできないだろ」

杏子 「亡くしたばかりだって?」

武蔵 「ああ、だから・・・」

杏子 「じゃあ、あの結界で氏んでた二人って、もしかして・・・」

ゆま 「・・・」


ゆまは何も答えない。

それを杏子は無言の肯定と受け取ったようだった。


杏子 「親が氏んだそぶりなんて、あたしには微塵も見せなかったね、あんた。たいしたタマだぜ」


もしくは、その程度の親だったと言うことかしら。

親といっても所詮は同じ人間。無条件に愛し、尊敬できる相手とは限らない。

その事を杏子は、身をもって知らされていた。

だから特段、ゆまが天涯孤独の身となった所で、杏子にはそれほど同情してやる気にはなれないのだろう。


杏子 「話は分かったけど、武蔵だっけ?あんた、物事を簡単に考えすぎてないか」

武蔵 「どういう意味だよ」

262: 2014/11/19(水) 13:11:18.99
杏子 「連れていくったって、犬や猫を拾うのとは訳が違うんだ。第一、こいつの事、どこに住まわすつもりなんだ」

武蔵 「そりゃ、俺と一緒に・・・」

ほむら 「いきなり妹が増えましたと言って、マミが承諾するかしら」

武蔵 「あ、そ、そうか!確かに・・・!」

ほむら 「はぁ・・・」


やはり、深くは考えていなかったようだ。

人のいい武蔵はあれこれ考えるより先に、哀れな少女を思う同情心から言葉を発していたのだろう。

人の立場や境遇を思いやる事ができる。それは武蔵の持つ美点には違いないのだろうけれど。

だけれど。


ほむら 「甘すぎるわね」

武蔵 「・・・」


武蔵は意気消沈。とたんに勢いがなくなってしまう。

263: 2014/11/19(水) 13:13:21.37
雲行きが怪しくなってきたのを、幼いながらも敏感に察知したゆまが、不安げに武蔵の袖を引く。


ゆま 「お、おにいちゃん・・・」

武蔵 「ゆまちゃん、俺・・・」

杏子 「宛てが外れて残念だったね。でも、現実なんてこんなもんさ。せめて、命があっただけでも幸運だったって思うこったな」


突き放すように言い捨てると、杏子はくるりと皆に背を向ける。

そのままスタスタと、教会の敷地外へと歩き出してしまう杏子。

おそらく魔法少女となる前の千歳ゆまと出会っていたなら、杏子も多少はゆまの身の振り方などに気を回そうとしたのかも知れない。

だけれど、魔法少女はしょせん一匹狼。

徹頭徹尾、魔法は自分自身の為に使い、刹那的に日々を過ごす事を旨とする”現在”の杏子にとって、ゆまはすでに心を配ってあげる対象ではなくなっていたのだ。


ほむら 「・・・佐倉杏子の言うとおりだわ」

武蔵 「ほむらちゃん・・・」

264: 2014/11/19(水) 13:15:39.17
ゆま 「・・・あぅ」


ゆまが心細げに武蔵を見上げる。

すがる様な瞳が、武蔵を一点に捉えて離さない。

だけど、頼られた武蔵も、この儚げな幼い少女の期待にどう応えて良いのか分からないのだろう。

なにせ彼自身が、この世界や魔法少女の事に対して、まだまだ不案内なのだから。


ほむら 「・・・」


だから、私が武蔵に替わって決断しなくてはならない。

ゆまに言うべき言葉、ゆまに告げるべき処遇。

私は口を開く。

生半可な同情なんて、却ってこの子のためになりはしないのだから。

265: 2014/11/19(水) 13:17:28.29
・・・
・・・


竜馬 「言いたいことはそれだけか?」

キュウべぇ 「概ねはね」

竜馬 「だったら、とっとと俺の前から姿を消しな。正直、お前の姿は目障りなんだよ」

キュウべぇ 「・・・驚いたな。これは予想外の回答だ。君は、自分のいた世界に戻る事、それこそが至上の目的ではなかったのかい」

竜馬 「そうだぜ」

キュウべぇ 「だったらなぜ、僕の差し出す手を取ろうとしないんだい?」

竜馬 「お前が信用ならないからだ」

キュウべぇ 「・・・短絡的だね。確かに僕と君の間に信頼関係は存在しない。だけれど、そんな僕を利用するだけの度量が君にはあると思ったんだけれどな」

竜馬 「真に信用のおける奴は、そんなセリフは吐かないもんだぜ」

キュウべぇ 「訳が分からないよ」

竜馬 「わからねぇなら、お前は人間ってもんをまったく理解できてねぇ」

キュウべぇ 「・・・」

266: 2014/11/19(水) 13:25:47.72
竜馬 「俺は暁美と約束した。互いの目的の為に協力し合うとな。仲間と誓ったんだ、そこにお前の立ち入る隙間はねぇのさ」

キュウべぇ 「愚かだね。そんな目に見えない絆とやらにすがって、元の世界に帰れなくなったら元も子もないだろうに」

竜馬 「すがる相手をお前にしなくとも、俺は元の世界に帰れると確信しているぜ」

キュウべぇ 「どういう意味だい?」

竜馬 「俺がこっちに飛ばされて来た現象に、お前は絡んでいなかった。だったら、お前抜きでだって帰る事ができる。何か間違ったこと言っているか?」

キュウべぇ 「へぇ・・・呆れたよ。どこまで楽天的なんだ、君は」

竜馬 「お前みたいに、暁美の留守を狙ってこそこそ画策するほど、腹黒じゃねぇって事さ」

キュウべぇ 「その決断、後悔する事がないよう祈るよ。自分で自分の取る道を狭めてしまった事に・・・」

竜馬 「道なんてもんはな、俺の歩いた後にできるもんだ。お前の敷いた獣道を歩くつもりなんざ、さらさらねぇんだよ」

キュウべぇ 「・・・」


音もなく、姿を消すキュウべぇ。

それを黙って見送った後で、竜馬は一言呟いていた。


竜馬 「あいつでも、捨て台詞っての吐くんだな・・・」

271: 2014/11/21(金) 21:12:00.75
再開します。

272: 2014/11/21(金) 21:13:09.30
・・・
・・・


同日 夕刻

ほむホーム


顔合わせのために、私たちは一堂に会した。

場所は私の部屋。

集まった面々は、私。

お試しではあるけれど、とりあえず行動を共にすることで話が決まった、佐倉杏子。

竜馬と武蔵のゲッターチーム。

そして・・・


杏子 「おい」


杏子が不機嫌さのにじみ出た顔で、私ににじり寄ってきた。


ほむら 「なにかしら」

杏子 「何でこいつが、ここにいる」


言いながら、一転を指差す杏子。

273: 2014/11/21(金) 21:15:38.32
そこには座っている武蔵。そして、その武蔵に寄り添うようにしている一人の少女。

千歳ゆまの姿があった。


ほむら 「ああ・・・この子、ね。しばらくここで暮らす事になったから」

杏子 「は、はぁ?」

ほむら 「仲間に加えたのよ。一緒に戦ってもらうわ」

杏子 「お、お前・・・本気で言ってるのかよ」

ほむら 「本気よ」

武蔵 「良かったなぁ、ゆまちゃん」

ゆま 「うんっ」

杏子 「ちょっt
竜馬 「ちょっと待てよ」


何か言いたげな杏子を制して、代わりに口を開いたのは竜馬だった。


竜馬 「見たところ、随分と幼いようだが、こんなんで本当に戦えるのか?悪いが、足を引っ張られるのはゴメンだぜ」

274: 2014/11/21(金) 21:17:31.79
ほむら 「その点なら心配ないわ。この子が得意とするのは、回復魔法。私や杏子では攻撃しかできない。誰かが傷ついた時、この子の力はきっと必要になる」

杏子 「初耳だぞ、そんなの。おい、ゆま。それ、本当なのか?」

ゆま 「え、えっと・・・たぶん、そんな気がする・・・」

杏子 「そんな気ってなんだよ、はっきりしないな」

ゆま 「だって、まだ使った事、ないから」

杏子 「・・・本人にもハッキリしない事を、あんたは随分と詳しく知っているんだな」

ほむら 「言ったでしょ、私は未来から来たと。以前の時間軸で見たことがあるのよ」

杏子 「なるほどね・・・」

ほむら 「流君も納得してくれた?」

竜馬 「暁美が見込んだんなら、役には立ってくれるんだろうさ。だが、本人はキチンと理解してるのか?俺たちの戦いのことに付いて・・・」

ほむら 「ええ」


その事は、すでにゆまには説明してある。

275: 2014/11/21(金) 21:20:04.95
竜馬の言うとおり幼い彼女の事だ、どこまで正確に理解してくれたかは分からないけれど。

だけどゆまは私の話を聞き、その小さな頭で考え決断し、今ここにいる事を自ら望んでくれた。

ただ一点、魔法少女と魔女の繋がりについてだけは伏せさせてもらったけれど。

隠し事をするようで後ろめたくはあったけれど、この酷すぎる運命、今のゆまでは受け止められるはずもない。

でもいずれ・・・

ワルプルギス戦を乗り越え、その時には彼女の心が成長してくれていたなら、その時には・・・


ほむら 「生半可な同情は彼女のためにならない。だから、私は全てを話して、住む場所の提供をする代わりに助力を願ったのよ」


激しい戦いの渦中に飛び込む以上、回復の力を持った者の存在は非常に心強い。

かつての時間軸では美樹さやかが担っていた事もあるポジションだが、今回彼女は普通の少女でいる道を掴み取る事ができた。

さやかに代わる治癒魔法の使い手と出会えたのは、嬉しい誤算だったのだ。

276: 2014/11/21(金) 21:24:48.06
竜馬 「だったら納得だ。よろしくな、俺は流竜馬だ」

ゆま 「うぇ・・・っと・・・」

武蔵 「このお兄ちゃんは俺の友達だ。顔は怖いが、食べられたりしないから安心して良いよ」

竜馬 「顔の怖さでは、お前にとやかく言われる筋合いはねぇ」

ゆま 「・・・千歳ゆまです。よ、よろしく」

竜馬 「ああ」

杏子 「なんだよ、随分とあっさり受け入れやがったな。どんだけ間口が広いんだよ、ガキが相手だぞ」

竜馬 「そうは言っても、暁美もお前にしても、まだ中学生だろ。この子とそう変わるもんでもないんじゃないか」

杏子 「けっ。潜ってきた修羅場が違うんだよ。しらけるけど、まぁいいや・・・あたしは佐倉杏子」

竜馬 「ああ、よろしくな」

杏子 「言っとくけど、よろしくするかどうかは、まだ決めてないからな」

竜馬 「ふーん・・・暁美?」

ほむら 「まだ杏子は、私の話した事柄を信用していないの。まずはゲッターロボを実際に見せろって」

277: 2014/11/21(金) 21:28:38.96
竜馬 「ま、もっともだな。そんじゃ行くか」


竜馬は一人で勝手に納得すると、おもむろに席から立ちあがった。


ほむら 「流君・・・?」

竜馬 「善は急げだ。さっそく魔女の結界を探しに行こうぜ」

ほむら 「今から?」


呆れて問い返す私に、竜馬はにやりと笑って見せた。


竜馬 「早ければ早いほど良い。存分に知ってもらうのさ。ゲッターの強さと、恐ろしさを、な」

278: 2014/11/21(金) 21:31:07.62
・・・
・・・


キュウべぇ 「取引は不首尾に終ったか。できれば、穏当に行きたかったんだけれどね。お互いのためにも」

キュウべぇ 「まぁ、いいや。すでに準備は始めているし、舵はどうとでも切ることができる」

キュウべぇ 「・・・」

キュウべぇ 「ゲッターロボ・・・暁美ほむらの魔力の消耗・・・僕の予想に間違いはないだろう」

キュウべぇ 「とすれば、僕は何としても手に入れなければならない。あの力を・・・」

キュウべぇ 「さて、そのための方法だけれど・・・」

キュウべぇ 「うん、彼女達に役に立ってもらおうかな」

キュウべぇ 「さて、そのためには彼女達を納得させるに足る”餌”を用意しなくちゃいけないのだけど」

キュウべぇ 「・・・」


キュウべぇ 「切るか、鹿目まどかを・・・」

279: 2014/11/21(金) 21:37:16.36
・・・
・・・


次回予告


連綿と長きに渡り続けてきた、己の計画の立て直しを図るキュウべぇ。

そのために彼は、二人の魔法少女に接近する。

キュウべぇの思惑を策略と知りながらも、敢えてそれに乗る彼女達の思惑は!?

そして、敵となり牙をむく魔法少女に抗したほむらの運命には、新たな悲劇の幕が切って落とされるのだった!



次回 ほむら「ゲッターロボ!」第五話にテレビスイッチオン!

280: 2014/11/21(金) 21:39:31.89
以上で4話終了です。

281: 2014/11/21(金) 22:20:20.35
乙でした QBまさかの決断に俺に衝撃走る
二人の魔法少女ってあの二人か
強敵になりそうだな

282: 2014/11/21(金) 22:21:44.91

おぉう冷徹だなキュウべぇ…

引用元: ほむら「ゲッターロボ!」 第三話