286: 2014/12/30(火) 11:39:10.55
ほむら「ゲッターロボ!」 第五話

ほむら「ゲッターロボ!」 第四話
287: 2014/12/30(火) 11:40:16.38
・・・某所


キュウべぇ 「助かったよ。君が僕の提案を呑んでくれて」

? 「・・・」

キュウべぇ 「正直言うと、宛てが外れてね。最も期待していた人物からの協力が得られないと分かって、難儀していたんだ」

? 「利害が一致しただけ。あまり気安く話しかけないで」

キュウべぇ 「・・・まぁ、僕としては、君が僕をどのように思ってくれていても構わない」

? 「・・・」

キュウべぇ 「成すべきことが成されるか否か。それだけが重要だ」

? 「それには同意するわ。で・・・お膳立てはどの程度、済んでいるのかしら」

キュウべぇ 「この街と、隣の風見野で、かなりの少女達との契約を済ませているよ。適応者が見つかれば、これからもドンドン契約していくからね」

? 「・・・そう」
ゲッターロボ VOL.1 [DVD]
288: 2014/12/30(火) 11:41:10.76
キュウべぇ 「もっとも、そのほとんどは一人じゃ使い魔にも勝てない程度の力しか持っていない」

? 「では・・・早いうちにこちらに引き込む必要があるわね」

キュウべぇ 「すでに何人か、初戦で斃れてしまっているしね。急いだ方が良いと思うよ。もっとも・・・」

? 「・・・」

キュウべぇ 「あの程度の素質で済むなら、そこら辺にいくらでも代わりは歩いているけれどね」

? 「黙りなさい。余計なことは言わないで。潰すわよ」

キュウべぇ 「おっと、僕の代わりだっていくらでもいるけど、無意味に殺されてはたまらない」

? 「ねぇ」

キュウべぇ 「なんだい?」

? 「なぜ、あなたは私のやる事に力を貸してくれるの?」

キュウべぇ 「君の予知した災いで、魔法少女や人間達が滅んでしまったら、僕だって困るからね。当然の事じゃないか」

? 「・・・」

キュウべぇ 「・・・」

? 「・・・いいわ。どの道、他に術が無いもの。なんにしても時間がない。今はすぐにでも行動を起こさなければいけない時」

キュウべぇ 「期待しているよ、織莉子」

289: 2014/12/30(火) 11:42:27.04
・・・
・・・


とある魔女結界の中。

私たちは群がる使い魔を蹴散らしつつ、その最奥まで辿り着こうとしていた。

今、私たちの目の前には木目調の扉が一つ。

扉を開けて中に踏み込めば、そこでは魔女が待ち構えているはずだった。


ほむら 「じゃあ・・・」


扉の前に整列した一同を前に、私は言う。


ほむら 「ゲッターロボを呼ぶわ」


自然と、口調が厳かになってしまう自分が、多少こっけいではあったけれど。

290: 2014/12/30(火) 11:43:57.32
すみません。


ほむら「ゲッターロボ!」 第五話


↑入れ忘れました。

291: 2014/12/30(火) 11:44:46.55
ごくり・・・

誰かが唾を飲み込んだ音が、辺りに響いた。

音の主は竜馬か武蔵か。

緊張してしまうのも無理はない。それにそれは私だって同じ。

何せ、自分の意志でゲッターロボを呼び寄せるのは、今回が初めてなのだから。


武蔵 「いよいよだな・・・」

竜馬 「ああ。それより佐倉・・・」

杏子 「分かってるよ、ほら」


杏子が無造作に、いくつかのグリーフシードを投げてよこした。


ほむら 「ありがとう」

292: 2014/12/30(火) 11:46:03.03
杏子 「まだ、やると決めたわけじゃねぇ。ゲッターとやらが出て来なかったら、それは返してもらうからな」

ほむら 「分かっているわ」


これで、魔力を全て吸い取られて魔女になってしまう危険は、ひとまず無くなったわけだ。


ほむら 「では・・・皆、私から離れて」


皆を下がらせて、準備は全て整った。

今こそ・・・

ゲッターを呼ぶ!!

293: 2014/12/30(火) 11:47:54.11
竜馬 「・・・」

武蔵 「・・・」

杏子 「・・・?」

ゆま 「ねー、まだー??」

ほむら 「・・・えっと」

竜馬 「どうした、暁美。何か問題でも?」

ほむら 「あの、ね。ちょっと、言いにくいんだけれど・・・」

竜馬 「どうしたってんだ?」

ほむら 「ゲッターって、どうやって呼んだら良いのか、分からない・・・」

竜馬 「・・・え」

武蔵 「・・・」

ゆま 「あははっ、変なのー!」

杏子 「笑い事じゃないだろ。なんだよ、それ。さんざん期待させといて、そんな落ちは求めちゃいねーぞ」

294: 2014/12/30(火) 11:49:15.37
ほむら 「だって仕方がないじゃない。自分で呼んだ事、無いんだもの」


そう、前にゲッターに乗った時は、謎の声に言われるがままだったのだ。

しかも、乗った後のことは、気を失っていて覚えてすらいない。


杏子 「いや、仕方がないって言われたってさぁ」


杏子が呆れるのも分かるけれど、こっちだって困っているのだ。

ふだん普通にバックラーの中から武器を取り出したりしてるから、今の今まで気にもしなかったけれど。

あんな大きな物、どうやって取り出せば良いのか、まったく見当がつかなかった。


ほむら 「どーしよ・・・」ほむぅ

竜馬 「呼んでみたらいいんじゃねーか」

ほむら 「え、それって・・・?」

295: 2014/12/30(火) 11:50:55.20
竜馬 「叫ぶんだよ。心で、魂でな。ゲッターと俺たちは強い絆で結ばれていた。隼人の跡を継いだお前だって、それは変わらないはずだ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「だったら、ゲッターはお前の声に応えてくれる。必ずだ」

杏子 「はは、そんなアニメじゃあるまいし」

ほむら 「いいえ」


笑い飛ばそうとする杏子を私は制した。

他に手がないなら、なんだって試してみるより他に無い。


ほむら 「それに」


私には何故か、竜馬の言葉が真実だと思えたから。


ほむら 「やってみるわ」

296: 2014/12/30(火) 11:52:38.08
杏子 「えー、マジかよ・・・」


明らかに引いている杏子をよそに、私は目を閉じる。

意識をバックラーの中へと。その中で眠っているであろう、ゲッターロボへと向ける。

程なくして・・・


ほむら 「・・・いた」


私の意識は、異次元のなかで漂う”それ”を認識した。

熱く、強く脈打つ、巨大な力の塊。

紛れもない。

あれこそが・・・ゲッターロボ!

297: 2014/12/30(火) 11:53:45.16
(呼べっ!)


私がゲッターを見つけるのと同時に、頭の中で何者かが命令する声が響く。


(叫べっ!)


私は深く頷くと、その声に従った。

バックラーの中へと。その中に広がる異次元へと。心の中へと。魂の奥へと。

私を構成する全てに響き渡れといわんばかりに、私は声を限りに叫ぶ!


ほむら 「出ろぉっ!ゲッタァーーーー!!!」

298: 2014/12/30(火) 11:55:40.08
・・・
・・・


次に目を開いた時、私は見覚えのない場所に座っていた。

目の前には数々の計器と、無骨な操縦桿らしきもの。

私は直感で悟る。

ここが、ゲッターロボの操縦席なのだ、と。


竜馬 「暁美」


竜馬の声が聞こえる。

そちらに目を向けると、モニターに移る竜馬と仲間達の姿。声はモニターと一体化しているスピーカーから聞こえてきていた。

竜馬がゲッターを・・・いえ、私を見上げている。

どこか誇らしげな、普段の不敵さを感じさせるのとは、また違った笑みを浮かべながら。


竜馬 「やったな」

ほむら 「・・・うん」

299: 2014/12/30(火) 11:56:21.68
竜馬の後ろでは、杏子が呆けた顔で突っ立っていた。


杏子 「ほ、本当に出やがった・・・」

ゆま 「かっこいーっ!!」

武蔵 「おっと、二人とも。驚くのも感激するのも、ちょっと気が早いってもんだぜ。本番はこれからなんだ」

竜馬 「そういうことだな。待ってろ、暁美。今、俺と武蔵も乗り込む。今回は操縦は慣れた俺達に任せるんだ」

ほむら 「ええ、乗って。だけれど、操縦は・・・」


操縦桿が手に馴染む。

計器が私に語りかける意味が分かる。

次に何をすれば良いのか、私には理解ができる。


ほむら 「操縦は私がする。魔女を倒す」

竜馬 「・・・暁美」

ほむら 「私が、このゲッターで」


そう、私はゲッターを動かす事ができる。

300: 2014/12/30(火) 11:57:08.01
・・・
・・・


二人が乗り込むのを待って、私はゲッターを動かす。

現在のゲッターは、私の乗っているジャガー号がトップとなる”ゲッター2”の状態。

つまり今のメインパイロットは、この私。

まさにおあつらえ向きな状況。これってやっぱり・・・


ほむら 「私を試そうとしているのかしら」


だったら、お望み通り試されてやろう。

私がゲッターのパイロットとして相応しいか、どうか。

あれ以来音沙汰のない神隼人に見せ付けてやる。

301: 2014/12/30(火) 11:57:55.57
ほむら 「行くわ」

竜馬 「応っ」

武蔵 「行こうぜ」


二人の返事を受けて、私はゲッターの左手のドリルで、魔女の住処の壁を扉ごと破壊する。


ほむら 「さぁ、ここの魔女。まずはあなたを最初の獲物とさせてもらうわ」


これからの戦いを占う、大事な一戦。その生贄となる栄光に感謝なさい。

私は進む。魔女の住処の奥に向かって。

そこに巣くう魔女へと向かって。


ほむら 「さぁ、とくと思い知ってもらうわよ。ゲッターの、私の恐ろしさを!」


今の私は、ゲッターを操縦できる悦びに満たされていた。

感激が言葉となって、口から継いで出るのを留めることができない。


そう、私が。

私こそが、ゲッターなのだから!

302: 2014/12/30(火) 11:58:40.31
・・・
・・・


一時間後

ほむホーム


武蔵 「いやぁ・・・」


再び、私の家に会する一同。

テーブルを囲い、それぞれの前にはおなじみの安物の紅茶。


武蔵 「瞬殺だったなぁ・・・」


紅茶に一口つけた後で、武蔵がぽつり。感慨深げに呟いた。


武蔵 「ほむらちゃん、躊躇せずに突っ込んで行っちゃうんだもんな。あっという間にドリルで魔女を貫いちゃってるし」

ゆま 「強かったね、ロボット。かっこよかったー!」

竜馬 「ああ。正直、相手がどんな魔女だったかすら、見ている暇がなかったくらいだ」

ほむら 「まぁ・・・湧き上がる闘志が抑えられなかったってところかしら」

竜馬 「だろうな」にやにや

ほむら 「なによ」

303: 2014/12/30(火) 11:59:33.47
竜馬 「いやな、魔女に挑む直前のお前のセリフ、まさにゲッター乗りって感じだったなって感心してたところさ」

ほむら 「・・・あれは何と言うか、自然に口から出ちゃって」(ほむぅ)

竜馬 「照れる事ねーよ。古くからの仲間と一緒に戦ってたみたいで、俺は嬉しいんだ」

ほむら 「流君・・・」

杏子 「お話中、悪いんだけどさ」

ほむら 「・・・佐倉さん。あなたには礼を言わなくちゃね。ありがとう」


私は頭を下げながら、懐からあるものを取り出しテーブルの上へと置いた。


杏子 「空になったグリーフシードか・・・」

ほむら 「ええ、たったあれだけの稼動でグリーフシードを一個、使い切ってしまった。あなたが提供してくれた分が無ければ、持たなかったわ。だから・・・」

304: 2014/12/30(火) 12:00:24.82
杏子 「礼は良いよ。そういう約束だったんだ」

ほむら 「じゃあ・・・」

杏子 「約束は守るよ。ロボットの実物も見せてもらったし、あんたらの言うことを信用する事にする。一緒に戦うよ」

竜馬 「じゃ、今度はよろしくって言っても、問題ないな」

杏子 「ああ・・・だけど・・・」

ほむら 「なに?」

杏子 「さっきから疑問だったんだけど、ここにはなんでマミの姿がないんだ?」

武蔵 「あ・・・」

ほむら 「・・・」

305: 2014/12/30(火) 12:01:20.35
杏子 「見滝原をずっと守ってきたのはマミだし、ここにはその兄貴までいるってのに、どうしてマミ本人がいない?」

ほむら 「それは・・・」

杏子 「今日は何か、出て来れない用事でもあったのかい?」

ほむら 「いえ、そうではなくて・・・」


ちらり・・・私は、武蔵の膝の上にチョコンと乗っかり、ご機嫌なゆまに視線を向ける。


ゆま 「・・・ん、なぁに?」

ほむら 「ううん、なんでも」


・・・私がマミに本当のことを話すのを躊躇している理由。

それを今、ゆまの前で説明するわけにはいかない。

306: 2014/12/30(火) 12:02:05.13
ほむら 「流君、お願いしても良いかしら」

竜馬 「・・・任されたぜ」

杏子 「ふーん・・・」


杏子も訳ありな雰囲気を察してくれ、この場ではこれ以上深く追求してくることは無かった。

こういう空気を読んでくれる杏子の性質は、相変わらず私みたいな人間には好ましい限りね。


杏子 「さ・て・と。じゃあ、あたしはこれで失礼させてもらうよ」

ほむら 「泊まる宛はあるの?」

杏子 「どうとでもなるさ。今までだってそうやって生きてきたんだ。心配は要らないよ」

ゆま 「・・・きょーこ、行っちゃうの?」

杏子 「お前らと馴れ合うつもりは無いって言ったろ。約束は守るが、それ以外の干渉はお互いに無しにしようぜ。それじゃーな」

ゆま 「うん・・・」

307: 2014/12/30(火) 12:02:38.18
竜馬 「佐倉、待て。俺も帰るから、そこまで一緒に行こう」

杏子 「ああ」


ゆまの寂しそうな眼差しなど意に介さず、杏子は竜馬と連れ立って部屋を出て行ってしまった。

そんなゆまの頭を、武蔵の大きな手が優しく撫でる。


武蔵 「ゆまちゃんは、杏子お姉ちゃんが大好きなんだなぁ」

ゆま 「・・・」

ほむら 「あんなにぞんざいに扱われているのに・・・」

ゆま 「助けてくれたから・・・」

ほむら 「え・・・」

ゆま 「助けてくれたし、怪我も治してくれたから。ゆまが痛いって泣いていた時、ずっと励ましてくれたから」

武蔵 「ゆまちゃん・・・」

308: 2014/12/30(火) 12:04:22.01
ゆま 「その時、ゆまのことを心配そうな目で見てくれたから、だからゆま・・・」


この子は・・・

出会ってから一日に満たない短い時間で、佐倉杏子の冷厳な仮面の下に隠れた本質を見抜いていたのかも知れない。

辛い経験から世間を斜めに見、他人に興味なさそうにふるまう杏子の、本当の素顔というものに・・・


武蔵 「きっと、杏子ちゃんから向けられた親切が、この子にとって初めて人から与えられた真心だったのかもしれないな」

ほむら 「・・・」

ゆま 「ゆま、きょーことも仲良くなりたいよ。いろいろ、お話したい・・・」

ほむら 「・・・大丈夫」

ゆま 「ほむらおねえちゃん?」

ほむら 「あの子は、口下手だし意地っ張りだから、あなたとどう接していいのか分からないの」

ゆま 「ほんとう?じゃあ、ゆま。これからきょーことも仲良くなれるかな?」

ほむら 「なれるわ。だって私は、あなた達が仲間になれる事を知っているもの」


もちろん、確証は無い。そういう時間軸もあった。ただそれだけの話。

だけれどゆまは、そんな私の気休めに過ぎない言葉にも、愛らしい顔を嬉しそうにほころばせてくれた。


ゆま 「・・・うん。ゆま、がんばるよ!」

313: 2015/01/02(金) 22:36:53.59
あけましておめでとうございます。

再開します。

314: 2015/01/02(金) 22:37:24.97
・・・
・・・


ほむホームからの帰り道

路上

夜の街。街灯がアスファルトを冷たく照らす中、竜馬と杏子は連れ立って歩いていた。

杏子に行くべき宛てなどない。今は黙って、竜馬の後をおとなしく歩くのみだった。

もとより世間話に花を咲かせるような間柄でも性格でもない、この二人。

今はただ、無言で歩を進めるだけ。


竜馬 「・・・」

杏子 「・・・」


しばらくして。

もうすでにほむらの家から大分離れた頃合。

先に口を開いたのは、杏子の方であった。


杏子 「もう良いだろ」

315: 2015/01/02(金) 22:43:11.17
竜馬 「そうだな」

杏子 「聞かせてもらおうか。なぜあの場にマミがいなかったのか。その理由とやらをさ」

竜馬 「単純なことさ。巴マミには、俺たちが集って共に戦おうという企てを話していない」

杏子 「・・・見滝原は元々がマミのテリトリーだ。それって、筋が通ってないんじゃないの?」

竜馬 「そういうの、気にするんだな」

杏子 「自分の気分が悪くなるのさ。あたしだったら、自分の縄張りを荒らす奴は絶対に許さねぇ」

竜馬 「お前は良い奴だな。暁美が仲間に引き込もうとしただけの事はある」

杏子 「その仲間ってのはよせよ。あたしはそう言う、ねちょねちょした関係は大嫌いなんだ」

竜馬 「分かったよ。じゃ、とっとと本題に行くが、巴マミを誘わなかった理由・・・」

杏子 「・・・」

竜馬 「・・・それは、巴マミが真実を知った時、その重さに耐えられないから、だそうだ」

316: 2015/01/02(金) 22:44:43.18
杏子 「あたしらが魔女になるって言う、あれか」

竜馬 「暁美は言っていたな。巴マミは強い人を演じている。それは繊細すぎて、傷つきやすい人だからなんだと」

杏子 「・・・」

竜馬 「暁美はかつての時間軸で、お前を含めた仲間達に全てを打ち明けたことがあったらしいぜ。だが、誰も真実を受け入れる事ができなかった」

杏子 「・・・だろうな。今のあたしだって、あんなロボットを見せ付けられなけりゃ、とても信じる気に離れなかったと思う」

竜馬 「その口ぶりからしたら、今は信用してくれているように取れるが?」

杏子 「ゲッターロボが現実にあることを証明できたなら共闘する。それが前提だったからな」

竜馬 「そうか。だが、巴マミは、正気を保てずに暴走してしまった。なまじ実力のある彼女のことだ。手が付けられなかったってよ」

杏子 「マミが暴走・・・?ははっ、まさか」

竜馬 「信じられないか?まぁ、俺だって自分で見てきたわけじゃない。信じる信じないは、お前の裁量に任せるしかないわけだがな」

317: 2015/01/02(金) 22:46:57.38
杏子 「・・・マミは・・・あいつは、確かに糞がつくほど真面目で融通が利かないところがある。ある、けどな・・・」

竜馬 「それだけ、余裕が無いとも言うな」

杏子 「だってそれは・・・仕方がないだろ。そういう奴なんだよ、あいつは。だけれど、だからってマミはそんな柔な奴じゃない」

竜馬 「・・・」

杏子 「あたしはそれを・・・知ってるんだ」

竜馬 「なんにせよだ。そういった理由から、暁美は巴マミに言い出せないんだとさ。暁美は決して引く事ができない願いを持って戦っている」

杏子 「・・・」

竜馬 「マミが暴走して暁美の前に立ちふさがったなら、その時はかつての仲間だろうと先輩だろうと、頃すしかない」

杏子 「それは、分かるよ・・・」

竜馬 「もちろん、そんなことは暁美の望むことじゃない。だから、言えない、と」

318: 2015/01/02(金) 22:49:10.39
杏子 「だけど、だからって、納得できることじゃない・・・」

竜馬 「どうやら、お前と暁美の中での巴マミ像には、決定的な違いがあるらしいな」

杏子 「・・・いずれにしたってさ」

竜馬 「?」

杏子 「実際問題、マミも活動してる見滝原で、あたし達が徒党を組んで魔女退治。そんなん、マミにばれないはず無いだろ?」

竜馬 「そりゃま、そうだろう」

杏子 「だまってて、いざばれちまったら、それこそいらないイザコザが起きるんじゃないのかなって。そう思うんだよ、あたしは」

竜馬 「・・・」


杏子が本当に言いたい事は言葉とは別の所にあるのを感じつつ、しかし、いま述べた杏子の意見もまた正鵠を射ていた。

だから竜馬は、敢えて抱いた疑問には触れず、彼女の表に現した言葉に対する答えだけを告げることにした。


竜馬 「お前の懸念ももっともだ。だが、その事は少し暁美に時間を与えてやってはくれないか」

杏子 「え、あいつ、マミのことで、何か考えがあるの??」

319: 2015/01/02(金) 22:51:37.53
竜馬 「ああ、らしいぜ。その考えとやらは俺も聞いてはいないがな。まぁ、暁美なら上手くやるさ」

杏子 「ずいぶんと、あいつの事を信頼しちゃってるのな」

竜馬 「仲間、だからな」

杏子 「またそれか・・・」


仲間という言葉に、過剰に拒否反応を示す杏子。

だが、そんな態度の裏側に、杏子のもう一つ別の顔が潜んでいるように、竜馬には感じられた。

それがどんな感情かまでは、推し量れなかったが・・・


竜馬 「・・・お前は暁美と、どこか似ているな」

杏子 「はぁ・・・!?よせよ、あんなすかした奴とあたしを一緒にするな!」

竜馬 「いや、似ているよ」


自分の感情を押し頃し、今ある自分を演じようとしている辺り。

そして、演じきれずに所々で素の自分をさらけ出してしまい、だけれど自分では、そんな事に気がついてもいない所とか。


320: 2015/01/02(金) 22:55:11.31
竜馬 「お前と暁美、良い友達になれるんじゃねぇのかなぁ・・・と」

杏子 「んなっ・・・!?」

竜馬 「俺は思うんだがなぁ」

杏子 「んなわけないだろっ、ばっ馬鹿じゃねぇの。つーか、馬鹿だろ、お前!ばーか、ばーか!」

竜馬 「・・・そりゃまぁ、頭は良い方ではないとは思うが」

杏子 「うっせー、バーカ!バーカバーカッ!ちねっ!」


杏子は竜馬に「バカ」をたたみかけるように浴びせると、クルリと背を向けて駆け出してしまった。


竜馬 「え、おい・・・!」


慌てて追おうとするが、とんでもない速さで走り出した杏子は、瞬く間に夜の街の中へと消えてしまう。

あとには、むなしく取り残されてしまった、竜馬がぽつんとただ一人。


竜馬 「なんだよ、あいつは・・・ふっ」


杏子の消えた方角を眺めながら、思わず噴出してしまうのを竜馬はこらえる事ができなかった。


竜馬 「面白い奴だな、佐倉杏子」

321: 2015/01/02(金) 22:57:12.64
・・・
・・・


ほむホーム


杏子と竜馬が去り、武蔵もマミの待つ部屋へと帰っていった、今。

この部屋には私と千歳ゆまの二人だけが残されていた。

これから、少なくともワルプルギス戦が訪れるまでの数日の間、私はこの良く知らない娘と共同生活を営まねばならなくなった。

・・・まぁ、勢いとはいえ、私から言い出した事ではあるのだけれど。


ほむら 「・・・」

ゆま 「・・・」


テレビも無い。雑誌も無い。当然ゲーム機なんて無用なものは置いていない。

だから、とりあえずの話題も無い。その結果として、私たち二人の間には会話が無い。

・・・気まずくも重い雰囲気が今、私の部屋を満たしていた。

322: 2015/01/02(金) 23:01:28.70
ほむら (困ったわ。子供って、どう扱えば良いのかしら)


武蔵がどうゆまと接していたか。見てはいたし覚えてもいるが、自分でできるかどうかはまた別の問題だ。

と、私が思い悩んでいた、その時。

きゅるる~っと、静寂に包まれていた部屋に鳴り響く、可愛い音。


ゆま 「///」

ほむら 「お腹、空いたの?」

ゆま 「ご、ごめんなさい」

ほむら 「そんな、謝らなくて良いのよ」


そういえば、やる事や話す事が多すぎて、食べる事をすっかり忘れていた。

幼いゆまが、我慢できなくなるのは当然だ。


ほむら 「私こそ、ごめんなさい。遅くなったけれど、夕食にしましょう」

ゆま 「うん!」


とたんにゆまの顔に笑顔の花が咲く。

323: 2015/01/02(金) 23:04:00.90
こういう自分の欲求に素直でいられるのも、子供の利点・・・いや、美点なのだろう。

少し、羨ましくもある。


ほむら 「待って。今、持ってくるから」

ゆま 「あ、あの、お手伝いする事があったら、ゆまもするよ」

ほむら 「・・・?持ってくるだけだから、あなたはそこで座ってて」

ゆま 「え??」


私は”食料”を放り込んでいる収納へ向かうと、いくつかを無造作に選んで、ゆまの元へ戻った。

持ってきたものを、これまた無造作にテーブルに並べる。ゆまがその様子を、興味深げに見ている。


ゆま 「なぁに、それ・・・」

ほむら 「缶詰、某栄養調整食品、パン、カップ麺、レトルトのカレーと温めるだけで食べられるご飯。お好きなのをどうぞ」

ゆま 「・・・」

ほむら 「・・・?」

324: 2015/01/02(金) 23:04:48.86
ゆま 「ほむらお姉ちゃん、お料理しないの?」

ほむら 「しないわ。しなくても、ご飯は食べられるもの」


料理に費やす時間があったら、身体を休めたり、ワルプルギス戦の作戦を考えたり、まどかの事を(ぴー)たり・・・

他に有益な時間の使い方が、幾らでもある。

しなくても良い事をしていられるほど、私には時間の余裕など無いのだ。


ゆま 「でも、こんなのばかり食べてたら、身体を壊しちゃうよ」

ほむら 「良いのよ。私はワルプルギスの夜が来るまでの健康が維持できたのなら・・・」


言いかけて、はっとする。

そうだ、この子はこの世界で、ワルプルギスの夜が去った後も生きていかねばならないのだ。

成り行きとはいえ、人ひとりを預かった以上、いい加減な食事を与えて病気にでもさせてしまったら・・・


ほむら 「とはいえ、私には料理のスキルなんかないし・・・どうしよう」


こんな事なら、簡単なおかずの作り方くらい覚えておけば良かった。

325: 2015/01/02(金) 23:07:44.87
ほむら 「・・・ん?」


料理、といえば。

私の周辺には、料理の先生としてうってつけの人が一人いたじゃないか。


ゆま 「・・・ほむらお姉ちゃん?」

ほむら 「ごめんなさいね、ゆま。今日はここにあるので我慢してくれる?近いうちに必ず、きちんとしたものを食べさせてあげるから」

ゆま 「うん」


素直に頷くと、ゆまはどれを食べようかと目の前の食料郡に目を移した。

あれこれ手にとって選んでいる姿を、何とはなしに眺めながら思う。

明日にでも彼女と接触してみよう。どの道、彼女とは話しをしなければならなかったのだ。

その良いきっかけが、ゆまのお陰で得られる事ができたと考えれば、これも僥倖だ。

326: 2015/01/02(金) 23:10:09.56
ゆま 「えっと、なぁに?ゆまの顔、じっと見て」

ほむら 「なんでもないわ。選び終わった?」

ゆま 「うん、これ!」


ゆまがいてくれたお陰で、佐倉杏子との話し合いもスムーズに進める事ができた。

そして、あの人との話にも・・・

もしかして千歳ゆまは、これからの戦いを占う上で、私たちを良い方向へと導いてくれる天使ともなってくれる存在なのかもしれない。


ほむら 「じゃあ、私も同じ物にしようかな。ちょっと待ってね、お湯を持ってくるから」

ゆま 「えへへー、うんっ」


明日、さっそく彼女と接触してみよう。

そして、告げる。これから起こる事を。真実を。

だけれど、もう同じ過ちは繰り返さない。


巴マミ・・・

必ず私たちの仲間にして見せるわ。

327: 2015/01/02(金) 23:15:36.13
・・・
・・・


翌日
 
見滝原中学校

昼休み。

私は巴マミと接触するべく、三年生の教室へと向かった。

教室の入り口にさしかかると、折りよく巴マミがお弁当を片手に、廊下へと出てくる所に行き当たる。

・・・幸先がいいわ。


マミ 「・・・あら」


だけれどマミは、私の顔を認めるやいなや、表情に険しい陰を刻んでしまう。

それはそうか。

成り行きで食事を共にした事はあるとはいえ、私たちは依然として敵のままなのだ。


マミ 「暁美さん・・・三年の教室に何か用?」

ほむら 「巴さん、どこかへ行くの?」

マミ 「屋上へ。お昼は鹿目さんと食べる約束をしていたから」

328: 2015/01/02(金) 23:17:55.58
ほむら 「そう。私は、あなたに話しがあってきたのよ」

マミ 「・・・用事は話だけかしら?」

ほむら 「ここは学校。事を荒立てるつもりは無い。歩きながらで良いわ。私の話を聞いてくれるかしら」

マミ 「・・・良いわ」


警戒の色を残しながらも、マミは頷くと屋上への道を歩き始めた。

私もその後を追う。


ほむら 「何もしないわ。そんなに警戒しなくても・・・」

マミ 「なんのことかしら」

ほむら 「まるで背中に目があるよう。私の気配を間断なく把握しようとしている。いつ襲い掛かられても良いように・・・」

マミ 「当然の処置だわ。あなたと私は、敵同士なんだから。そうでしょう?」

ほむら 「少なくとも、私にとっては違うわ」

マミ 「・・・」

329: 2015/01/02(金) 23:19:41.38
ほむら 「巴マミ。あなたにお願いがあるの」

マミ 「驚いた。暁美さんが私にお願いとはね。それで?私の持っているグリーフシードでも分けて貰いたいの?」

ほむら 「いいえ」

マミ 「では、見滝原のテリトリーを譲ってくれって事かしら?」

ほむら 「そんなこと、思ったこともない」

マミ 「・・・じゃあ、いったい何なの?」

ほむら 「巴さん。私、今ね。事情があって小さい子供を預かっているの」

マミ 「・・・はい?」


歩を止めたマミが、こちらへクルリと振り向いた。


マミ 「あなたが、子供、を・・・?」


私の話の意図がつかめないと言った顔で、じっとこちら見る巴マミ。

まぁ、無理もないけれど。


ほむら 「ええ。昨日からなんだけれどね」

330: 2015/01/02(金) 23:21:15.88
マミ 「そ、そう、大変ね・・・それで、ええと、それと私とどんな関わりが・・・?」

ほむら 「料理、教えて下さい」


言いながら、ぺこりと頭を下げる。


マミ 「・・・」

ほむら 「・・・」

マミ 「は・・・い??」

ほむら 「私、料理ができません。その子に食べさせてあげるものを作れないんです」

マミ 「???」

ほむら 「だからって、子供にでき合いばかり食べさせるわけにもいかないじゃないですか。そう思いません、巴さん?」

マミ 「それは、そうね・・・成長に良くないものね・・・」

ほむら 「だからと言って、悠長に料理を練習している暇は無いんです。分かりますか、巴さん?」

マミ 「まぁ、今まさに料理が必要なんだしね・・・」

331: 2015/01/02(金) 23:24:34.33
ほむら 「そうなんです。だから、誰かに直に教えてもらえたら、手っ取り早いなと。だとしたら、巴さん。それには、あなた以上の適役はいないわ」

マミ 「え・・・あ、ありがとう・・・んん??」

ほむら 「私の言っている事に賛同してもらえますか、巴さん?」

マミ 「え、ええ?えっと、まぁ・・・うん・・・あれ??」

ほむら 「ありがとうございます。では、今日の放課後にでもさっそく。私、授業が終ったら校門前で待ってますので」

マミ 「えっ!?ちょ、ちょっと、暁美さん!?」

ほむら 「必要な材料から教えて下さい。買い物をして、それから巴さんの部屋へ行きましょう。じゃ、そういうことで」

マミ 「暁美さん!?私、教えるなんて一言も・・・ちょっと、暁美さんったら!」


私はマミの制止を振り切って、足早にその場を立ち去る。

呼び止めて、断る。そんな隙を彼女には、絶対に与えたりなんかしない。

一方的にでもなんでも、約束事を取り交わせば、律儀な彼女はそれを反故にすることなんて、決してしたりはしないだろう。

つまり、この場でマミをまいてしまえば、私の思う壺。勝ち、なのだ。

332: 2015/01/02(金) 23:26:54.56
マミ 「暁美さんたら、ちょっと~~~!」


追いかけようにも、そんな事をしていたらまどかとの約束の時間が過ぎてしまう。

この場で巴マミは、しつこく私を追うことはしないだろう。

そんな、私の読みは当たった。

すでに私たちの間の距離は、かなり開いてしまっている。

姿すら見えなくなった巴マミの、私を呼ぶ声だけがか細く遠くから聞こえてくるのみ。


ほむら 「ふっ、勝った」ふぁさっ


相手の性格や状況から、二手三手先を読み、自分の都合の良いように事を進める。

これこそが、戦術というものだ。

333: 2015/01/02(金) 23:29:39.95
竜馬 「お前、えげつないな」


隠れて様子を見ていた竜馬が出てきて、呆れ顔で呟いたけれど気にしない。

そんなことより、重要な事を私は竜馬に確かめる。


ほむら 「武蔵さんに話は通しておいてくれた?」

竜馬 「ああ、巴マミのお料理教室の場に、あいつも居合わせるように。ちゃんと言い含めておいたぜ」

ほむら 「ありがとう」

竜馬 「・・・本当に大丈夫なんだろうな。もし失敗でもしたら、武蔵の恨みまで買ってしまいかねないんだぞ」

ほむら 「もちろん確約はできない。だけど、きっと大丈夫。この時間軸はいつもと違う。なにより、巴さんには心の支えとなってくれる人が側にいてくれる・・・」


そう、巴マミの最大の敵。

それは魔女でも敵対する魔法少女でもない。

孤独に抗う事のできない、繊細な心だ。

心のより所とするものが無かったからこそ、かつての時間軸でのマミは悲惨な真実に抵抗できず、その心を内側から瓦解させてしまったのだ。

だけれど、今回は・・・


ほむら 「いずれにせよ、魔法少女がたどる運命は一つ。知るのが先か後かの差があるだけ。それに、あなたも以前に言っていたはずよ」

竜馬 「そうだな。真実を知らねば、身の振り方を決める事も出来ない。それは、本人のためにもならない・・・」

ほむら 「とにかく、この件は任せてもらうわ。あなたは今日は、私が帰るまでゆまの相手でもしていて」

341: 2015/01/04(日) 00:07:54.73
・・・
・・・


放課後。

律儀なマミは約束を守って、一人校門前でたたずんでいる私の前に現れた。

計算通り・・・!

ため息をつきつき、気乗りのしない表情を隠しもしないところは、この際大目に見ることにしよう。


マミ 「それで買い物からだっけ。いったい、何を作ってあげたいの?」

ほむら 「美味しい食事を」

マミ 「だから、その種類の事を・・・」

ほむら 「え・・・」

マミ 「・・・」

ほむら 「???」

マミ 「・・・その子、どんな食べ物が好きなのかしら?」

ほむら 「さぁ・・・」

マミ 「さぁって、何も聞いてないの?」

ほむら 「はい」

342: 2015/01/04(日) 00:08:51.91
マミ 「・・・あっきれた。普通、人に何かをお願いするなら、そういう下調べはしておくものでしょう!?」

ほむら 「・・・すみません」


美味しい料理。それだけしか頭に無くって、具体的な事なんか思いつきもしなかった。

これではマミが気を悪くするのも当然だ。だから私は、素直に頭を下げた。


マミ 「・・・良いわ。じゃ、オーソドックスに考えましょう。大抵の子供が好きで、あなたにも簡単に作れる美味しいもの・・・」

ほむら 「・・・」


そう言われても私にはカップ麺しか思い浮かばなかったので、黙っている事にする。


マミ 「カレーとか、どうかしらね」

ほむら 「あ、良いですね」


カレーなら、確かに嫌いな人はまずいないだろう。

それに野菜やお肉も入っているので、栄養的にも良さそうだ。

343: 2015/01/04(日) 00:15:07.01
マミ 「それなら材料は家にあるものだけで作れるから、買い物は不要ね。このまま帰りましょ」

ほむら 「あ、でしたら材料費を・・・」


慌ててお金を渡そうとする私をマミは制した。


マミ 「必要ないわ。たくさん作れば、家の夕食にもなるんだから。さぁ、行きましょ」

ほむら 「あ、でも・・・」


やはり材料費すら出さないのは気が引ける。

そう思って再びお金を渡そうとする私に構わず、マミはスタスタと前に立って歩き出してしまう。

こうなっては、やむをえない。

今は私も、マミに従うように後ろに続く以外になす術は無かった。


ほむら 「・・・」


私の目の前にはマミの背中。

その背中を追うように、後ろを歩く私。

・・・何だか、昔を思い出すようだ。

344: 2015/01/04(日) 00:16:03.92
マミ 「えっと、なに?」


私の視線に気がついたマミが振り向いて、怪訝な表情を見せる。


マミ 「じっと私の背中なんか見て、もしかして、何かついてる?」

ほむら 「ううん、別に何も」

マミ 「・・・そう?」


ちょっと首をかしげた後、彼女は前を向き直り、再び歩き始めた。


ほむら (背中・・・)


再び、私の目の前に現れるマミの背中。

345: 2015/01/04(日) 00:19:04.53
あの頃・・・

魔法少女になりたての、右も左も分からなかった私。

そんな私の目の前には、常にマミの背中があった。

いつか、あの背中に並べるだろうか。

努力を重ねれば、超える事ができるのだろうか。

当時の私は、華麗なマミの戦い方を見せ付けられるたび、そう夢想せずにはいられなかった。

そう。彼女のように強くあらねば、まどかを守る事なんて夢のまた夢だと。

そんなふうに、思っていたから。


ほむら (巴マミは・・・私の進むべき道を照らす月明かりであり・・・目標だった)


だけれど。

幾度も繰り返された時間遡行は、私とマミの距離を大きく隔ててしまう。

346: 2015/01/04(日) 00:20:23.57
いつしか、マミの背中は憧れの対象から、私の行く手をはばむ大きな壁へと変わってしまった。


ほむら (戦う目的そのものが根本から違うのだもの。無理もないことだわ)


敵に回せば、これほどやりにくい相手はいない。

何度も厄介な目にも遭わされてきた。

でも・・・

憎めない。嫌いなんてなれない。


マミ 「ついたわよ」

ほむら 「え・・・」


はっとして顔を上げると、そこは見慣れたマンションの入り口だった。

考え事をしながら足を運んでいるうちに、目的の場所についてしまったらしい。


マミ 「ここが私のマンション・・・と言っても、暁美さんは前に一度来たことがあるから知っているわよね」

ほむら 「ええ」


本当は一度どころか、もう何度も来たことがあるのだけれど。

私はマミに促されるまま、マンションの入り口を潜った。


杏子 「・・・」

347: 2015/01/04(日) 00:24:01.34
・・・
・・・


マミの部屋。

そこでは竜馬のお膳立て通り、武蔵が私たちが来るのを待っていた。

今日の私の計画をつつがなく成功させるためには、何としても彼の協力が不可欠だ。

この役目、他の人に代わりはできない。


武蔵 「よう、ほむらちゃん。いらっしゃい」


声をかけてきた武蔵の顔が、若干緊張で引きつっている。

竜馬から今日の私の計画を聞いているはず。だから、無理もない。

武蔵は、巴マミのことを実の妹として大切に思っているのだから。


マミ 「ただいま、お兄さん。これからこの子にお料理をレクチャーするから」

ほむら (ふだん通り”お兄ちゃん”って呼べば良いのに)ぽそっ

マミ 「なにか?」

ほむら 「いいえ、今日はよろしくお願いします」

348: 2015/01/04(日) 00:25:22.84
マミ 「はい。じゃ、さっそくキッチンへ行きましょ」

ほむら 「ええ」


マミの後を追ってキッチンへ向かおうとする私の袖を、武蔵が掴んだ。


武蔵 「・・・ほむらちゃん」

ほむら 「・・・大丈夫。ここには、あなたがいるんだから」

武蔵 「君のことは信用している。だが、やはり俺は心配だよ」

ほむら 「・・・」

武蔵 「俺はもう、大切な人を失いたくない」

ほむら 「向き合わなくてはいけないのよ。誰もが自分の運命と・・・」

武蔵 「そうだよな。それは分かってるんだけど・・・」

ほむら 「武蔵さん、頼りにしているから」

武蔵 「・・・」


マミ 「暁美さん?早くこっちへいらっしゃい」


ほむら 「あ、はい」


キッチンから呼びかけるマミに返事をして、わたしもそちらへと向かう。

目配せすると、武蔵は頷いてリビングへと戻っていった。

・・・よし、気持ちを切り替えよう。まずは料理だ。

マミが教えてくれるのだから、私も気合を入れてしっかりと学ばなければならない。

そして、それが終ったら・・・

今度は私がマミに”教える”番だ。

349: 2015/01/04(日) 00:26:20.81
・・・
・・・


案の定、と言うべきか。

私の指は切り傷だらけとなっていた。


ほむら 「野菜の皮むきが、あんなに難しかったとは・・・」


愕然とした。

爆弾なんかも自作していたし、私はもう少し自分のことを器用な人間だと思っていたのだけれど・・・


マミ 「まぁ・・・初めてなら仕方がないじゃない。これから徐々に慣れていけば良いのよ」

ほむら 「はい・・・」


マミは慰めてくれたけれど、これは重大な課題だ。

カレーを作るのに必要な工程は頭で覚える事ができても、実際の作業は身体で習得するしかないのだから。

350: 2015/01/04(日) 00:26:56.25
野菜か・・・思わぬ伏兵だったわね。

なにせ、ジャガイモの皮をむこうとすると、包丁がイモの上でツルツル滑って、切れていたのは皮ではなく私の肉だったって言う始末。

じわじわと私を傷つけ、身体ばかりか精神にまでダメージを与えてくるとは、この野菜という存在・・・


ほむら 「・・・もしかしたら魔女並みに厄介な敵なのかも知れないわ」

マミ 「なに言ってるの。さぁ、せっかく完成したんだから、さっそく試食してみましょ」


付き合っていられないと言った口調のマミ。

たった今出来上がったばかりのカレーを、彼女がお皿に盛り付けてくれている。


マミ 「さ、リビングに運ぶの手伝って。兄にも食べてもらって、感想聞いてみましょうね」

351: 2015/01/04(日) 00:28:33.29
・・・
・・・


完成したカレーの味は上々だった。

見た目不恰好な、私が切った野菜たちも、口の中に入れてしまえば味は同じ。

マミの手ほどき通りに作ったルーと口の中で混ざり合い、まさに絶妙な味のコントラストを舌の上に彩ってくれる。


ほむら 「・・・美味しい」

武蔵 「うんっ、こりゃ飯が進む。お代り、何杯でもいけちゃいそうだな!」

マミ 「暁美さん、頑張ったものね」

ほむら 「私は巴さんの指示通りに、手を動かしただけです」

マミ 「でも、次からは一人でも作れるでしょ。一応レシピはメモにして、後で渡すから参考にしてね」

ほむら 「何から何まで、ありがとうございます」

マミ 「一度引き受けた以上は、中途半端はしたくないもの」


頭を下げた私に、いかにもマミらしい返事がかえって来た。

352: 2015/01/04(日) 00:30:32.02
武蔵 「しっかし、本当に美味いな、このカレー。なにか、特別な材料でも使ったのかい?」

マミ 「ううん、普通の市販のルーよ。ただね、ほんの少し工夫を加えるだけで、味って見違えちゃうものなの」

武蔵 「へぇ~、なんにしてもたいしたものだ」

杏子 「美味いけど、あたしはもう少し辛い方が好みかな」

ほむら 「それは・・・小さな子に食べさせるのが前提だから、敢えて甘めに教えてもらったのよ」

杏子 「そっか。ま、これはこれでイケるけどさ。あ、お代りもらえる?」

武蔵 「杏子ちゃんさ、もう少しきちんと噛んで食べた方が良いぞ。カレーは逃げたりしないんだから、慌てて食べなくて良いんだぜ」

杏子 「慌ててるつもりは無いんだけど・・・つうか、説教は良いから、早くお代り」

マミ 「はいはい・・・ちょっと待ってね」

ほむら 「・・・」

武蔵 「・・・」

マミ 「・・・佐倉さん?」

杏子 「はえ?」

マミ 「あなた、ものすごく自然にカレーを食べてるけど、どうしてここにいるの?」

353: 2015/01/04(日) 00:32:50.35
杏子 「や、普通にチャイム鳴らして、玄関から入ってきたけど」

武蔵 「俺が上げたんだけど、いけなかったかな?」

マミ 「・・・いけないとか、そうじゃなくって・・・ていうかお兄ちゃん、彼女の事を名前で呼んでたわよね?」

武蔵 「まぁ・・・すでに顔見知りだしなぁ」

マミ 「え・・・」

ほむら 「・・・私からも聞きたいわ、佐倉杏子。あなたがなぜここにいるの?」

マミ 「暁美さんとも、知り合いだったの・・・?」

ほむら 「ええ」

杏子 「ほむらとマミが連れ立って歩いてるの見かけてさ。珍しい取り合わせで面白そうだったから、ついて来てみたんだよ」

ほむら 「・・・」

杏子 「それに、ほむらと打ち合わせておきたいこともあってさ。ま、ついでだよ、ついで」

ほむら 「打ち合わせ・・・?」

杏子 「ああ。互いの連絡手段をどうするか、まだ決めてなかっただろ。魔女を見つけた時どう動くか、とかさ、色々」

マミ 「え・・・それ・・・どういうこと・・・?」

354: 2015/01/04(日) 00:34:12.72
杏子 「共闘する事になったんだよ。あたしとほむらと、魔女の見える流や武蔵たちとさ」

マミ 「・・・」


マミの目が、驚きに丸く見開かれる。

そのまま固まってしまうマミ。いくぶん顔も青ざめて見える。


ほむら (・・・まずい)


順を追ってマミに状況を説明して、仲間にも加わってもらうつもりだったのに。

想定外の杏子の乱入で、段取りが狂ってしまった。

お陰でマミは、心中じぶんがのけ者にされているのではと訝っているに違いない。

それも、私たちだけじゃない。最も頼りとする兄も含めて、だ。

今、彼女の心の中では、最も厄介な敵がグルグルと渦巻くようにマミの心臓を締め付けているはず。

そう、孤独というマミにとって最強最悪の敵が。


杏子 「てことで、あたしも見滝原でしばらく活動する事になったから。一応、ここはマミのテリトリーだからな」

マミ 「・・・」

杏子 「一言いっておかないと、筋が通らないだろ。で、いい機会だから、お邪魔させてもらったって訳さ」

ほむら 「佐倉さん、ちょっと黙って」

杏子 「あん?」

355: 2015/01/04(日) 00:37:01.36
ほむら 「・・・言いたい事が済んだのなら、とっとと退散してくれないかしら」

杏子 「なんだよ、ずいぶんと棘のある言い方をするよな、あんた」


当然だ。

お陰で予定が狂ってしまった。マミにだって、いらない心痛をかける結果となって、頭に来ないはずがない。


ほむら 「どういうつもりなの。あなた、流君から何も聞いていないの?」

杏子 「聞いたぜ。あんたにはあんたの考えがあるってな」

ほむら 「だったら、どうして・・・」

武蔵 「そうだぜ、杏子ちゃん。どういうつもりか知らないが、場をかき回すんだったら、今はここから外してくれよ」

杏子 「あんたは、平気なのか、優しい優しいお兄ちゃんよ」

武蔵 「・・・なにがだよ?」

杏子 「ほむらや流は、あんたの大切な妹の事を、脆い奴だって言ってるんだぜ?」

マミ 「え・・・?」

武蔵 「おいっ!」

ほむら 「佐倉さん!」

356: 2015/01/04(日) 00:37:51.98
杏子 「・・・あたしは、見届けに来ただけさ」

ほむら 「え・・・?」

杏子 「あんた、今日は”例の話”をマミにするために、ここに来たんだろ。だったら、あたしも見届けるって、そう言ってんだよ」

ほむら 「あ・・・」

マミ 「・・・暁美さん、どういうこと?」

ほむら 「えっと・・・」

マミ 「あなた、今日は私に料理を教わりたくて、ここに来たんじゃないの?預かっている子に食べさせたいって」

杏子 「千歳ゆまだろ。そいつも魔法少女だから」

マミ 「・・・っ!?」

杏子 「一応、”お仲間”って事になってるよ、そのガキもさ」

マミ 「暁美さん、私に嘘を言って、この部屋に上がりこんだというの?」

ほむら 「ち、違うっ・・・ゆまにきちんとした料理を食べさせたいというのは、本当の事よ」

357: 2015/01/04(日) 00:39:14.98
・・・

もうすでに、話の順逆を選んでいる段階では無いだろう。

なぜって、マミは私に疑念に満ちた目を向けているのだから。

もともとこの時間軸でも、私とマミの関係は良好ではなかった。そこに新たないざこざの材料が投下されては、もう悠長な話し合いなど無理だし無意味。

・・・できれば、この料理を通した時間をもって、彼女との関係の修復に当てられれば、後の話し合いも穏当に進められると期待していたのだけど。


ほむら 「・・・分かったわ、巴さん」


杏子に良いように、事の運びを仕向けられたような気がする。

なぜ彼女がそんなことを企んだのか、理由は分からないけれど・・・

もう、ごまかしは効かない。


ほむら 「全て話すから、まずは私の話を聞いてくれるかしら」

362: 2015/01/07(水) 09:20:53.44
・・・
・・・


見滝原某所

一人の少女が今、苦難と試練の道へと踏む込もうとしていた。


キュウべぇ 「悩みや、望んでいる事があるなら、この僕が力になれるよ」

少女 「本当?!じゃあ、私の夢!アイドルになりたいって言う夢が叶うのかな!」

キュウべぇ 「そんなこと、造作も無いことだよ」

少女 「だけれど・・・そのためには魔女っていうのと、戦わなくっちゃいけないんでしょ。私、そんなの不安だよ。怖いよ」

キュウべぇ 「何かを得ようとすれば、リスクを負うのは当然のことじゃないかな」

少女 「それはそうかもだけど・・・やっぱり、怖い。氏んじゃったら、夢も希望もなくなっちゃうもん」

キュウべぇ 「もちろん、僕としても無理強いはできない。君の気が進まないなら、この話はここまでだけれど・・・」

少女 「う~~~」


? 「決心がつかないようね」


少女 「・・・だれ?」

363: 2015/01/07(水) 09:26:33.08
キュウべぇ 「来たのかい、織莉子」


キュウべぇが目を向けた先に、一人の魔法少女がいた。

魔法少女・・・美国織莉子は、キュウべぇの事など見えていないかのように無視し、怪訝な顔の少女の前で立ち止まる。


織莉子 「・・・はじめまして。私は美国織莉子。キュウべぇと契約した、魔法少女よ」

少女 「え・・・あなたも・・・」

キュウべぇ 「そう、君が僕と契約をしてくれれば、織莉子は君の先輩になるわけだね」

少女 「センパイ・・・」

織莉子 「ええ」


織莉子は少女の手を、そっと包み込むように握った。

キュウべぇの提案と、突如として訪れた非日常への誘いに緊張気味だった少女だったが、織莉子の暖かい体温に包まれる事で、不思議と体のこわばりも解かれてゆく。


少女 「わわっ」

織莉子 「あのね」


織莉子は言う。

少女の手を包んだと同じような、温もりに満ちた優しい表情で。


織莉子 「あなたが不安なのだったら、私がずっと一緒にいてあげるわ」

364: 2015/01/07(水) 09:29:03.19
少女 「え・・・?」

織莉子 「魔女との戦いも、私がサポートしてあげる。あなたは一人じゃない。だから、何も怖がる必要は無いの」

少女 「でも、だって、どうして・・・??」

織莉子 「なにか、納得いかない?」

少女 「見ず知らずの私に、どうしてそんな風に、優しくしてくれるんですか?」

織莉子 「ああ、そんなこと」


織莉子が柔らかく、くすりと笑う。


織莉子 「魔女は強大な敵よ。私だって、一人で戦うのは怖いものよ」

少女 「・・・」

織莉子 「仲間がね、一緒に戦うお友達が欲しかったの」

少女 「お友達、ですか」

織莉子 「そうよ。あなたも私のお友達になってくれないかしら。そうすれば、私だけじゃない。他のお友達にも紹介してあげられるわ」

少女 「えっ、魔法少女って、そんなにたくさんいるんですか!」

織莉子 「ええ、そうよ。そして、みんなで力を合わせて、魔女と戦っていくの。ね、そうすれば、何も危ない事なんて無いでしょう?」

少女 「たっ・・・確かにっ・・・」

織莉子 「私、あなたとお友達になりたいわ」

少女 「えっと・・・う~~~///」


キュウべぇ 「・・・」

365: 2015/01/07(水) 09:31:20.19
・・・
・・・


少女 「それじゃ織莉子さん、これからよろしくお願いしまーす!」

織莉子 「ええ。魔女が現れたら、すぐに連絡するわね」

少女 「はーい!」


先ほどまでの迷いやためらいはどこへやら。

織莉子の優しさにすっかりほだされた少女は、キュウべぇとの契約を済ませると、足取りも軽く家へと帰っていった。

夢が叶うことへの喜び。

人知を超えた力を手に入れた高ぶり。

それらが、彼女が夢と引き換えに大切な物を手放してしまったという事実を覆い隠してしまっていた。

今の少女には何も見えていない。

だが、心の高ぶりが晴れて目の前の霧が払われた時。

すべての事は手遅れなのだと、少女は思い知らされる、そんな日は確実にやってくるのだ。


織莉子 「・・・」

366: 2015/01/07(水) 09:33:01.62
キュウべぇ 「表情が暗いね。どうかしたのかい」

織莉子 「・・・いいえ、別に」


自分の胸を締め付ける、この痛み。

これは間違いなく罪悪感というものなのだろう。

その事が、織莉子には理解できる。

人ひとりの人生を終らせてしまった。その罪が、軽いはずが無いのだ。

だけれど・・・


織莉子 「どうもしない。私は、手段は選ばないと、そう決めたのだから」

キュウべぇ 「・・・」


いずれ自分は裁きを受ける事になるだろう。

だけれど、その前に成すべき事は成し遂げなければならない。

でなければ・・・


? 「終ったのかい」

367: 2015/01/07(水) 09:34:11.48
織莉子 「・・・キリカ。今までどこにいたの?」

キリカ 「ん、そこら辺を散歩?っていうか、四歩五歩と。適当にうろついていたよ」

織莉子 「一緒にいればよかったのに。新しい仲間、あなたにも紹介ができたのに」

キリカ 「必要ないよ。会う理由が無い」

織莉子 「キリカ」

キリカ 「織莉子が言うことには従うよ。だけれど、私には友達なんて必要ない。私には、織莉子がいればそれだけで良いんだ」

織莉子 「・・・キリカったら、仕方がないんだから」

キリカ 「それにだよ」

織莉子 「?」

キリカ 「私にはこの世に、決してこの瞳に映したくない物があるんだ」

キュウべぇ 「それはなんだい?僕も興味があるな」

キリカ 「・・・織莉子の、今していたような表情さ」

織莉子 「・・・」

368: 2015/01/07(水) 09:36:09.24
キリカ 「しろまるが言っていた計画は、本当に織莉子を悲しませてまで実行する価値があるものなんだろうね?」

キュウべぇ 「それは織莉子が自分で決める事さ」

キリカ 「では、もし織莉子を無駄に悲しませる結果となった時は、しろまる・・・」

キュウべぇ 「・・・」

キリカ 「お前を切って千切ってこねって潰すぞ」

キュウべぇ 「おぼえておくよ」

織莉子 「キリカ、ありがとう。でも、心配は無用だわ。だって、私は」


この街を、父が愛した見滝原を。

守るためなら、茨の道をも厭わないと、そう決めたのだから。


織莉子 「さ、行きましょう。残された時間は少ない。もっともっと、私たちは”仲間”を得なければいけないのだから」

キリカ 「・・・了解」

キュウべぇ 「そう、野に放たれた魔法少女たちは、まだまだいる。糾合するんだ、君が守りたい物を守るために」

369: 2015/01/07(水) 09:38:59.83
・・・
・・・


マミ 「・・・」


彼女の顔面は、蒼白だった。

私は私の知る真実を全て、包み隠さずにマミに告げた。

まずは、あなたの兄である巴武蔵には、こちらの事情は全て話してあるという事。

それから、魔法少女の行く末。

キュウべぇの目論見。

私が時間軸をループしているという事。

その理由が、まどかを魔女とさせないためだということ。

そして、流竜馬と巴武蔵が別の世界からやってきた、異邦人であるという事も。


マミ 「お兄ちゃん・・・」


私が真実を一つ言うたびに、マミは兄の表情を伺うように、武蔵に視線を向けた。

その視線に、武蔵は無言で頷いて答える。肯定して見せたのだ。


マミ 「・・・」

370: 2015/01/07(水) 09:40:09.45
ほむら 「信じてもらえるかしら。信じられたならあなたには、私とともに戦う仲間となって欲しい」

マミ 「まって、そんないきなり、突拍子が無さ過ぎて・・・」

ほむら 「でも事実よ。私はあなたに嘘は言わない」

マミ 「だって、そんな・・・キュウべぇが私を騙していたなんて。それに・・・私が魔女に・・・さ、佐倉さん」

杏子 「ん?」

マミ 「佐倉さんは、この話、信じたの?受け入れられたの?」

杏子 「まぁ・・・魔女になるって下りはまだピンと来てはいないんだけど、ロボットに関しちゃ実物を見ちゃってるしな」

マミ 「・・・」

杏子 「それに、こいつらがあたしに嘘を言う理由が無いんだよね。あたしにとっちゃ、表情も読み取れないキュウべぇなんかより、よほど真実を言ってるように聞こえてさ」

ほむら 「佐倉さん・・・」

杏子 「だ、だからって、完全に信頼してるわけじゃない。勘違いするなよっ」

371: 2015/01/07(水) 09:41:28.25
マミ 「・・・お兄ちゃんは」

武蔵 「うん・・・俺が別の世界から来たってのも、ゲッターロボに乗って戦っているというのも事実だ。それに、ほむらちゃんが言うことも信用している」


武蔵は言った。

俺は確かに、ほむらちゃんが言う”魔法少女が魔女になる”瞬間を見たわけじゃない。

だけど、ほむらちゃんはまどかちゃんを救うという一念だけで、身も心も削ってまで何度も時間軸をループしてきた。

そこまでするには、それに見合った理由が無いとありえない・・・と。


武蔵 「ほむらちゃんの事は仲間だから掛け値なしに信用しているけれど、理詰めで考えても彼女の言うことは真実としか思えないんだよ」

マミ 「でも、だって!暁美さんの言うことが本当なら、お兄ちゃんは私の本当のお兄ちゃんじゃないって事になるじゃない!」

ほむら 「それは違うわ。この時間軸の人間であるあなたにとって、巴武蔵はあなたの本当の兄である事に違いはないのよ」

マミ 「違う!私にとってなんて、そんなのどうでも良い!お兄ちゃんにとっての私が、本当の妹かどうかが問題なのよ!」

武蔵 「マミちゃん・・・」


マミは席を立つと、武蔵のそばへと駆け寄った。

すがる様に懇願するように、武蔵の手を取ってにじり寄る。


マミ 「お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんよね・・・?」

372: 2015/01/07(水) 09:43:40.00
武蔵 「・・・ほむらちゃんの言うことは、全て事実だ」

マミ 「・・・っ」


だが、マミに告げられたのは、厳然とした真実だった。

武蔵からすれば、大切に思っているマミに嘘などつけない。そんな真心からの言葉だったはず。

だけど・・・受け取った当のマミは・・・


マミ 「嘘・・・嘘だ・・・」

武蔵 「だけど、それでも今は、本当の妹のように思っt
マミ 「嘘だあああああああああっ」

ほむら・杏子 「・・・!?」

373: 2015/01/07(水) 09:46:12.51
突然立ち上がり、まるで人が変わってしまったかのように絶叫するマミ。

次々と突きつけられる真実を押し流そうとでも言うように、声の限りに咆哮している。

そんな風に、私には感じられた。


マミ 「嘘だ、嘘よ嘘・・・嘘だ嘘だ嘘だ」

杏子 「ちょっ、マミ、落ち着けって!」

マミ 「触るなぁっ!」


落ち着かせようと差し出された杏子の手を、マミが乱暴に払い除ける。


マミ 「だってお兄ちゃん、七五三の時、一緒にお祝いしたじゃない。小学校に入った時も、笑って、これでマミも小学生だねって」

武蔵 「マミちゃん、どうしたんだ!?しっかりしろ!」

マミ 「パパやママが氏んじゃった時だって、一晩中私に寄り添ってくれて、俺がいるから寂しくないって言ってくれて・・・」

武蔵 「マミちゃんっ!」

ほむら 「巴・・・マミ・・・」


・・・私、また、失敗した?

374: 2015/01/07(水) 09:49:26.70
マミ 「嘘嘘嘘嘘嘘嘘だぁ・・・っ」

武蔵 「マミちゃん!」

杏子 「おい、マミ!」


武蔵がいるから、平気だと思っていた。

心のより所のあるマミだったら、きっと辛い真実とも向き合ってくれるだろうと。

だけど今、目の前に突きつけられた現実は・・・


杏子 「・・・!?おい、マミ!ちょっとソウルジェムよこせ!・・・くっ、濁ってやがる」

マミ 「いやだ、いやだぁっ・・・」

杏子 「とりあえず、浄化させないと・・・うっ!?なんてこったよ、浄化した先から濁ってきやがる・・・」

武蔵 「・・・マミ・・・ちゃん」

ほむら 「・・・」


・・・また、間違ってしまった。

誰よりも信頼していた武蔵が、過酷な現実を肯定する事によって・・・

より重く、より痛く。

マミの心を押し潰す結果になってしまうとは・・・


マミ 「ああああああああ・・・っ」

杏子 「マミ、お前・・・嘘だろ。お前、こんな、こんな弱かったのかよ。こんなに脆かったってのかよ・・・」


うずくまり号泣を始めたマミと、何とかそれを落ち着かせようと必氏な武蔵。

そんな二人を愕然とした表情で眺めながら呟いた杏子の一言が、私の耳にかすかに届く。

テーブルの上の、もはや誰も手を付ける者がいなくなったカレーからは、未だに暖かそうな湯気が、むなしくも立ち上り続けていた。

375: 2015/01/07(水) 09:51:31.14
・・・
・・・


泣き疲れたマミをやっとベットに寝かしつけ、私は杏子をともなって彼女の部屋を後にした。

武蔵にはマミから目を離さないように頼み、再びソウルジェムが濁った時の対処用に幾分かのグリーフシードも託してきた。


ほむら 「・・・」


私の考えは完全に裏目に出た。

マミの脆さは身に染みてわかっていたと思っていたけれど、それは私の予想を遥かに上回っていた。


ほむら 「・・・違う」


そうじゃない。ごまかしたって、仕方がない。

上回っていたんじゃなく・・・

マミの脆い部分を、私は履き違えていたのだ。

彼女の心の支えと頼んだ武蔵こそが、最大の弱点だったなんて。

思いもしなかった・・・

376: 2015/01/07(水) 09:53:34.19
ほむら 「私、巴マミのことを何も分かっていなかった」


心の内だけで悔やんでいる事に堪えられなくなって、私は隣を歩く杏子に言うともなしに話しかけた。


杏子 「あたしもさ。悪かったな、ほむら」


返って来たのは、意外な言葉。


ほむら 「・・・佐倉さん?」

杏子 「気に食わなかったんだ。お前や流がマミのことをまるで弱っちいみたく言うのがさ」

ほむら 「それは・・・」

杏子 「お前が他の時間軸とやらで何を見てきたのかは関係ない。あたしの知ってるマミはそんな柔な奴じゃない。もっと強い奴なんだって、そう思ってたから・・・」

ほむら 「・・・」

杏子 「袂を別ったとは言え、マミはあたしに戦いのイロハを叩き込んでくれたベテランだ。あいつの強さに対する信頼ってのは、今だって変わっちゃいない・・・」

ほむら 「佐倉さん、もしかして今日、巴さんの部屋に来たのって・・・」

杏子 「ああ、下手な誤魔化しなんかさせない。お前にあたしの知っているマミを見せてやる。そう思って、お前らの話に割り込ませてもらったんだ」

ほむら 「そう、だったのね・・・」


そうか、そうだったんだ。

杏子の行動には、マミを想う彼女なりの心情が働いていたと。

そういう事だったんだ。

377: 2015/01/07(水) 09:55:21.83
杏子 「結局、お前らのほうが正しかったって証明しちまっただけだったけどな。ごめん、あたしが掻き乱したばっかりに・・・」

ほむら 「それは違うわ」

杏子 「なんだよ、こんな時に変なフォロー入れたりすんじゃねーよ。よけいに惨めなだけだろ」

ほむら 「そうじゃない、そうじゃないのよ」


この時間軸においての、マミの精神の均衡を保っているのは、”巴武蔵”という男の存在だった。

私がキーパーソンと捉えていた男の存在は、その程度では済まされない、まさに”巴マミの心”そのものだったのだ。

その事を私が見抜けていなかった以上、どのように話を進めていたとしても、行き着く結果は同じだったろう。

杏子の行動がもたらした結果なんて、はっきり言って誤差の範囲だ。

それよりも・・・


ほむら 「あなたが巴さんのことを、そこまで大切に想っていたなんて・・・」

杏子 「んなっ!?」

378: 2015/01/07(水) 09:57:34.29
ほむら 「知らなかったし、気がつかなかった・・・」

杏子 「ち、違う!そういう意味で言ったんじゃねー!あ、あたしはただ・・・」

ほむら 「言い訳しないで。”よけいに惨めなだけ”よ」

杏子 「む、むぐぅ」


そう、杏子のこの気持ちにも、気がついてあげることができていなかった。

私は・・・

何度も時間軸をループして、マミや杏子たちと出会いと別れを繰り返し・・・

普通の人より何倍も彼女達と接する時間を持っていたのにも関わらず・・・


ほむら 「私は・・・私はいったい、何を見ていたんだろう・・・」


今度の呟きに、答えてくれる人はいなかった。

404: 2015/01/11(日) 13:00:01.61
・・・
・・・


その後。

私の部屋で竜馬やゆまと合流し、今日あったこと、そしてこれからの事を簡単に話し合った。

まずはいくつかの取り決め。

来るべきワルプルギス戦でゲッターロボの力を遺憾なく使えるよう、グリーフシードを節約する事。

そのためにも魔法少女は、極力魔法力を抑えた戦いをするよう心がける事。

具体的には、雑魚の使い魔は竜馬が片付け、対魔女戦にのみ魔法少女は力を振るう。

そして、少しでも多くのグリーフシードを確保するため、魔女の結界を見つけたら連絡を取り合い、即時殲滅する事。

などなど・・・

そして、もう一つ。


ほむら 「武蔵さんには、巴マミが落ち着くまで、戦いからは遠ざかっていてもらおうと思う。今、巴さんから目を離すことはできないから」

竜馬 「そうだな」

ほむら 「戦力を削られるのは痛いし、流君には負担をかけてしまうと思うけれど・・・」

竜馬 「どの道、そんな事があった後じゃ、妹の事が気になって武蔵は使い物にならないだろう。あいつは、情が深すぎるところがあるからな」

405: 2015/01/11(日) 13:02:05.45
ほむら 「ごめんね・・・」

竜馬 「らしくねぇな。佐倉、お前もいま話し合ったことで、異論は無いな?」

杏子 「ああ。それじゃ、あたしはもう帰るぜ。邪魔したな」

ゆま 「きょーこ、もう帰っちゃうの?」

杏子 「お前も、良い子にしていろよ」

ゆま 「・・・うん」


力なくゆまの頭をポンポンと叩くと、杏子は静かに私の部屋から出て行った。


竜馬 「・・・かなり堪えてるようだな。お前も佐倉も」

ほむら 「・・・」

ゆま 「お腹が空いてるの?ご飯食べる?」

ほむら 「私は巴さんの家で食べてきたから・・・ごめんね、あなたのご飯、いま用意するからね」

ゆま 「あ、ううん」


私が立ち上がろうとするのを抑えて、ふるふると頭を振るゆま。

406: 2015/01/11(日) 13:03:31.51
ふ、と気がつく。

ほのかに部屋の中に漂う、この香りは・・・


ほむら 「料理、したの?」

ゆま 「お兄ちゃんが作ってくれたよ」

ほむら 「流君が?」

竜馬 「ああ、簡単なもんで悪かったけれどな。まぁ、食えれば良いってだけの男の料理ってやつさ」

ゆま 「そんなことないよ。美味しかったもん」

竜馬 「そう思ってもらえるなら、何よりだ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「まだ、少し残ってるからな。お前も後で腹が減ったら、食うと良いぜ」

ほむら 「あなたは・・・」

竜馬 「ん?」

ほむら 「私にできないことを、何でもこなしてしまえるのね」

竜馬 「・・・」

407: 2015/01/11(日) 13:15:19.96
ほむら 「それに引き換え、私は・・・ずっと一緒にいた人たちの事を何も理解していない。簡単な料理一つ、作る事ができない・・・」

ゆま 「お姉ちゃん・・・?」

ほむら 「何もできない・・・なのにあなたは・・・私に無いもの、全部を持っている・・・惨めだわ、私は・・・」

竜馬 「暁美・・・」

ほむら 「私には、何も無い・・・」


弱音が・・・

どうしてだろう。

今まで溜め込んでいた弱い心が、まるで濁流のように。


ほむら 「私には、何も無い・・・」


私の心の堰を切って、次から次へと言葉となってあふれ出すのを止められない。

408: 2015/01/11(日) 13:19:48.22
ゆま 「そんなことないよ!」


不意にゆまが大きな声で私の弱音をさえぎった。


ゆな 「そんなことない!そんな風に言っちゃダメだよ!」

ほむら 「ゆま・・・?」


かぶりを振りながら急に大きな声を出すゆまに、私は面食らってしまう。

この子には、大声で何かを主張するというイメージが、今の今までなかったから。


竜馬 「なにが、そんなことないんだ?」

ゆま 「だって、ほむらお姉ちゃん、ゆまと一緒に住もうって言ってくれたよ!」

ほむら 「だって、それは・・・」


あくまで、ゆまの治癒魔法に期待したからで、役に立ってくれるはずと、放置するのがもったいないと思っただけのことで・・・


ゆま 「それに、ゆまと一緒にご飯食べてくれたよ。ゆまの食べたいもの、選ばせてくれた!」

ほむら 「・・・そんなの、一緒の部屋にいたなら当然の」


言いかけて、気がついた。

この子は、そんな些細な事でも特別なんだと思える人生を歩んできただろう事に。


ほむら 「ゆま・・・」

409: 2015/01/11(日) 13:21:32.09
ゆま 「何も無いなんて無いよ!ほむらお姉ちゃんには、”優しい”があるよ!」

ほむら 「や、やめてよ・・・」

竜馬 「子供ってのには、ごまかしが利かないって言うぜ。物を見る目は下手な大人より、ずっとシビアだ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「そんな子供が感じ取れる物がお前にはある。何も無いなんて言うなよ、ゆまに失礼だろうが」

ほむら 「やめてったら!」


利己的に動いてきた自分を肯定されることは、余計に惨めだった。

私は声を荒げて、竜馬の言葉をさえぎる。何も聞きたくなかった。


ゆま 「・・・お、お姉ちゃん」


私の剣幕に驚いたのだろう、ゆまも眼を丸くして、これ以上は何も言おうとしなくなった。

竜馬は・・・竜馬はいま、私をどういう目で見ているのだろうか。

惨めで、怖くて・・・

私は彼の顔を正視することができなかった。

410: 2015/01/11(日) 13:27:17.65
・・・
・・・


佐倉杏子は、夜の見滝原をあてど無くさまよっていた。

むしゃくしゃとする胸のうちをぶつけるように、乱暴にアスファルトを踏み叩きながら闊歩する。


杏子 「くそっ、マミの野郎」


知らず知らず、感情が言葉となってこぼれ落ちる。

だが、その怒りの矛先は言葉とは裏腹に、自分へと向けられている事に杏子は気がついていた。

マミのことなら、なんだって分かっていると思っていた。

ほむらの言うような、事実に心を押し潰されてしまうような、弱いマミなはずがない。

そんな確信めいた想いが、まったくの幻想であった事を思い知らされてしまったのだ。

自分の認識の甘さに、腹が立つのを抑えられずとも無理はなかった。

411: 2015/01/11(日) 13:28:36.48
杏子 (しばらく離れていた間に、あいつの事を良いように思い込んでいたのかもな・・・)


・・・これが思い出補正って奴か、と。

自己分析をしてみて、そんな甘い結論に導かれてしまう事にも腹が立つ。


杏子 (腹が立つ腹が立つ・・・)


いくら腹を立てても、自分を殴るわけにもいかない。


杏子 「このままじゃ、いつまでたったって眠れそうにもねぇ。そうだな・・・魔女でも狩るか」


魔女がいなければ、今日ばかりは使い魔でも良い。

とにかく、今は怒りのぶつけ先が欲しかった。つい先ほど、グリーフシードを節約すると取り決めた事さえ、今の杏子にはどうでも良い事だった。


ソウルジェムを取り出し、周囲の気配を探る。

反応は、あっけないほどすぐ現れた。


杏子 「ついてるな。結界は・・・こっちか。期待して待ってろ、化け物。今日はいつもの十割り増しで、槍の味を堪能させてやるぜ」

412: 2015/01/11(日) 13:30:22.37
・・・
・・・


襲い来る使い魔を、無双の勢いで血祭りにあげ続ける杏子。

結界内には、使い魔どもの断末魔が間断なく響き続けていた。

やがて・・・

無限とも思える使い魔の襲撃も、徐々に勢いが失われてゆき・・・


杏子 「けっ、敵さん、弾切れかよ!」


最後の一匹を槍で貫いた杏子が、吐き捨てるように言った。

先ほどまでの喧騒が嘘のように、静まり返った結界内。

彼女の足元には、数え切れないほどの使い魔の氏骸が山となしている。


杏子 「物足りねぇが、仕方がない。そんじゃ、親玉に挨拶に行きますか」


槍をふるって穂先についた血のりを飛ばすと、杏子は結界の奥へと向かって歩を進めようとした。

413: 2015/01/11(日) 13:30:53.86
が、ピタリと足を止める。

背後から、自分を見つめる気配が一つ・・・


杏子 「・・・だれだ?」


言いながら振り返ると、いつからいたのか・・・

一人の魔法少女の姿が、そこにはあった。

純白のドレスとも見紛う、優美な衣装に身を包みし魔法少女。

杏子には見知らぬ顔だった。


杏子 「・・・ふうん、やっぱり見滝原でも行われてるらしいな」

414: 2015/01/11(日) 13:33:35.21
? 「なにがかしら・・・?」


独り言のように呟いた杏子の一言に、落ち着き払って返答する魔法少女。


杏子 「魔法少女のバーゲンセールさ。だけれど、あんたはあたしが今まで見てきた連中とは、少し違うようだな」

? 「そうね。そしてあなたも、私が求めていたバーゲン品とは違うようだわ・・・」

杏子 「ふーん・・・で・・・」


槍の穂先を白い魔法少女の胸元に突きつける。


杏子 「あんたは、あたしの敵か?」

? 「どうかしら・・・」

杏子 「見たとこ、昨日今日魔法少女をはじめたルーキーって訳じゃないんだろ?だったら、あたしらのルールはわかってるはずだ」

? 「・・・」

415: 2015/01/11(日) 13:36:11.05
杏子 「互いのテリトリーは侵すべからず。それが破られる時は、殺りあう時だってさ」

? 「・・・小さい」


白い魔法少女が呟く。

何の感情もこもっていない声と表情で、ただ吐き捨てるように。


杏子 「ああ?!」

? 「矮小だといったのよ。あなたの事じゃないわ。しがらみに縛られている、全ての魔法少女に対しての、率直な感想を言ったまでのこと」

杏子 「・・・何様だ、おまえ」

? 「私に、そんなルールは関係ない。私は、もっと大きな事のために戦っているの」

杏子 「・・・」

? 「何様だって聞いたわね。私は美国織莉子。キュウべぇと契約し、だけれどキュウべぇに縛られる事を拒んだ魔法少女・・・」

杏子 「キュウべぇを拒むって、あんたまさか・・・魔法少女がたどる運命の事を知っているのか・・・?」

織莉子 「・・・あなたも知ってるのね。私たちがいずれ、魔女となる運命を負わされている事に」

杏子 「・・・」

416: 2015/01/11(日) 13:38:36.62
織莉子 「だったら、ルールだなんだという前に、終局の淵に落ち込む前にやるべき事をやるべきなんじゃないのかしら。私も、あなたも」

杏子 「・・・」

織莉子 「あなた、お名前は?」

杏子 「佐倉杏子・・・」

織莉子 「佐倉さん、ゲッターロボって知っているかしら?」

杏子 「!?」

織莉子 「その顔、ご存知のようね」

杏子 「お前の口からなんで、ゲッターロボの名前が出て来るんだよ!?」

織莉子 「ふふ・・・」


初めて織莉子が表情を崩した。

その笑いは杏子の狼狽がおかしかったのか、それとも別の所に理由があったのか・・・

杏子には判別する術がなかった。


杏子 「何がおかしいんだ」

織莉子 「ここの魔女、あなたにあげるわ」

杏子 「なにっ!?」

織莉子 「私、これでも色々忙しいの。私自身が魔女になる前に、そして、ワルプルギスの夜が来襲する前に、やらなければならない事が山盛りなのよ」

杏子 「ワルプルギスが来る事まで・・・あんた、いったい何者だよ」

417: 2015/01/11(日) 13:40:41.71
織莉子 「私が会いたかった人ではなかったけれど、佐倉さん。今日はあなたと会えて、とても嬉しかったわ」

杏子 「おい、私の質問に答えr
織莉子 「慌てなくても、また会うことになるでしょう。あなたがゲッターロボと関わっているのなら・・・」


杏子の言葉をさえぎってそれだけ言うと、織莉子はきびすを返して結界の出口の方へと歩き出してしまった。

424: 2015/01/16(金) 00:59:05.97
杏子 「おい、待て!」


奴には聞きたいことがある。ここで逃げられてたまるか。

杏子も慌てて、織莉子を逃さじと後を追おうとする。

だけれど・・・


杏子 「・・・!?」


おかしい。

織莉子は別段いそいでいる風でもないのに、どうしてだろう。

追いつく事ができない。

必氏に走って追いかけるが、歩いている織莉子との距離が一向に縮まる気配が無いのだ。

425: 2015/01/16(金) 01:01:21.12
刹那。

杏子は再び何者かの気配を感じて、慌てて振り返った。

今度は織莉子の時とは違う。明確な敵意をはらんだ気配。

その突然現れた大きすぎる殺意に、杏子の全身は一時に総毛だった。


杏子 「っ!?」

? 「おいつけないよ、私がいる限りね」


そこにいたのは、先ほどの織莉子とは対を成すように漆黒の服に身を包んだ、一人の魔法少女。


杏子 「いつの間に、いつからそこにっ・・・!?」

? 「君は織莉子に追いつけない。よしんば追いつけたとして、どうするつもりなんだい?」

杏子 「・・・」

? 「織莉子に害をなすようだったら、もう絶対に許されない。氏ぬしかないよ、君は」

426: 2015/01/16(金) 01:05:40.38
織莉子 「キリカ」


先を歩いていた織莉子が振り返りつつ、漆黒の魔法少女を呼ぶ。


織莉子 「今はまだ、戦う時じゃないわ。決戦の時の為に魔法力は温存しておくようにと、あれほど言ったじゃない」

キリカ 「でもだって、こいつは」

織莉子 「キリカ」

キリカ 「わ、わかったから、怒らないでよ。織莉子に嫌われたら、私はしぼんで朽ちて消え去るしかないんだから」


杏子に接していた時とは別人のように、怒られた子犬みたくうなだれて、織莉子の後を追おうとするキリカ。

まるで、すぐ傍らの杏子の事など、すでに眼中にも無いとでも言うように。


杏子 「お、おい待て、お前らっ!!」


このまま無視されたままで終ってたまるものか。

杏子は、去り際のキリカの肩に手を伸ばした。

427: 2015/01/16(金) 01:15:16.44
だが、しかし。

確かに目測では確実にキリカを捕まえたはずだった。

なのに・・・


杏子 「え・・・っ!?」


いったい何が起こったのか、その手がむなしく、空を切る。

杏子はまったく、見当外れの所に手を伸ばしていたのだ。


杏子 「ど、どうなってやがる・・・!?」


いまやキリカは、杏子の遥か先を歩いていた。


キリカ 「だからー、捕まえられないって。それじゃね、また逢う日まで」


いったん足を止めたキリカは、それだけ言い捨てると、再び駆け出した。


杏子 「な・・・な・・・」


もはや、どうあがいても追いつけない

やがて二人の魔法少女が視界から消え、辺りが静寂へと戻るまで。

杏子はただ、呆然として見送るほかになす術が無かった。

428: 2015/01/16(金) 01:16:28.48
・・・
・・・


数時間後。

すでに深更。

夜の帳が街を覆い、草木すら眠っているだろうこの時間にあって、私の部屋の明かりは未だ灯されたまま。

そこには、とても眠る気にはなれない私と、そして・・・

何をするでも語りかけてくるでもない。

ただ、だまって私の側にいてくれる、竜馬の姿もあった。

だけれど私は、そんな彼の顔を、今はまともに見ることもできない。


ほむら (取り乱しすぎた・・・)


私の醜態を目の当たりにし、そんな私を彼が今、どんな目で見ているのか。

知ってしまうのが、とても、とても怖かったから。

429: 2015/01/16(金) 01:17:10.48
ゆま 「すー・・・すー・・・」


奥の部屋からは、穏やかなゆまの寝息がかすかに聞こえてくる。

私を心配して、さっきまで無理して側にいてくれたゆま。

おしよせる睡魔に効しえず、とうとう音落ちしてしまったのだ。


ほむら (あんな子供にまで心配かけて、気まで使わせて・・・)


ああ、自己嫌悪。

430: 2015/01/16(金) 01:18:53.23
思えばかつての私も、自己嫌悪の塊だった。

自分になんの価値も見出せず、考える事といったら後悔する事ばかり。

そんな、まどかと出会う前の、何の力も持っていなかった頃の私。


ほむら (それは・・・基本的に今だって変わっていない)


ただ、魔法少女となって、まどかを守ると決めた時から。

過去を振り返っている暇なんか、無くなってしまったというだけ。

不器用な私が不器用なりに目的を果たすためには、後ろなんて振り向いている時間などなかったのだ。

・・・だけれど。

431: 2015/01/16(金) 01:19:44.75
ほむら (じゃあ、今は何で後悔なんて?)


マミとの接し方を間違ってしまった事。

杏子の本心に気づいてあげられなかった事。

それはつまり、今までの時間軸で私は、かつての仲間達とまともに向き合っていなかった事実の証明。

その事に対する後悔。

そして、たった今の竜馬に見せてしまった自分の弱さの事。

以前の私だったら、こんなことでここまで悔悟の念に責められることも、気を落とす事もなかったに違いない。

そう、誰にも頼らないと思いつめていた頃の私だったら。


竜馬 「・・・」


竜馬が席から立ち上がる気配がした。

そのまま、この部屋から出て行ってしまう。


ほむら (帰るのかしら。当然よね。もう時間も遅いし、なによりこんな私と一緒にいても、気が滅入るだけだもの)

432: 2015/01/16(金) 01:21:02.27
だけれど、玄関のドアを開ける音が、いつまでたっても聞こえてこない。

代わりに聞こえてくるのは、キッチンで湯を沸かす音。


ほむら 「・・・?」


しばらくして竜馬が部屋に戻ってきた。

その手に二つのティーカップを持って。


ほむら 「流君・・・?」

竜馬 「勝手に使わせてもらったが、紅茶を入れてきてやったぜ。少し喉を潤せ。落ち着くから」


言いながら彼は、私の前に無造作にカップを置く。


ほむら 「あ、ありがとう・・・」


礼を言いながら顔を上げると、私を覗き込むように見つめる竜馬と目があってしまった。


ほむら 「・・・あ」

竜馬 「おう、目はまだ氏んでいないな」


にっと笑いながら、彼は再び私の向かい側へと腰を下ろす。

竜馬はいつもと変わらない顔で、私を見ていた。

433: 2015/01/16(金) 01:22:21.67
・・・
・・・


次回予告


見滝原と風見野において、乱造される魔法少女たち。

彼女らを糾合し、ほむらたちの前へと姿を現す美国織莉子。

いったい彼女の思惑は?そして、織莉子が見せるゲッターへの執着の真意はどこにあるのか。

ふたつの魔法少女の勢力がぶつかる時、裏で糸を引くキュウべぇの瞳が妖しい赤を湛えて光る!


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第六話にテレビスイッチオン!


434: 2015/01/16(金) 01:24:09.41
以上で第5話終了です。

第6話も引続き、このスレで再開する予定ですので、またお付き合い頂けたら嬉しく思います。

それではお読みいただいた方、ありがとうございました。

436: 2015/01/16(金) 05:01:46.30

竜馬紅茶淹れられるんだ…

437: 2015/01/16(金) 09:42:45.58
ティーパックを入れてお湯を注ぐだけ…じゃないよなコレww

438: 2015/01/16(金) 09:59:09.03
乙です

引用元: ほむら「ゲッターロボ!」 第三話