1: 2015/08/28(金) 19:52:52.54
原作版ゲッターロボとまどかマギカのクロスです。


「まどマギでやる必要があるの?」の最たる内容ですが、自分がまどかとゲッターが好きと言う理由のみでクロスさせて見ました。

ノンビリいきますが、よろしければお付き合いください。

なお、地の文が多めになってしまいましたが、その手のが苦手な方はご注意ください。


<第一話>

ほむら「ゲッターロボ!」

<第二話>

ほむら「ゲッターロボ!」 第二話

<第三~九話>
ほむら「ゲッターロボ!」 第三話
ほむら「ゲッターロボ!」 第四話
ほむら「ゲッターロボ!」 第五話
ほむら「ゲッターロボ!」 第六話
ほむら「ゲッターロボ!」 第七話
ほむら「ゲッターロボ!」 第八話
ほむら「ゲッターロボ!」 第九話


2: 2015/08/28(金) 19:57:36.51
ほむら「ゲッターロボ!」第十話


※まずは冒頭部分のみの投下になります。

 続きは完成次第、順次あげていきますのでよろしくお願いします。

3: 2015/08/28(金) 19:59:17.81
夕暮れ時。

まどかは、家の近くの小さな公園で一人。

ブランコに腰かけながら、物思いにふけっていた。

思い浮かぶのは、先ほど見た、ほむらの顔。


まどか 「ほむらちゃん・・・」


あの時・・・

まどかが、どうして自分の事をそこまで気にかけてくれるのか、と。

ほむらに訪ねた時に見せた、彼女の表情。


まどか 「あんな、ほむらちゃんの顔・・・ううん。あんな顔をした人、初めて見た、かも・・・」
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4: 2015/08/28(金) 20:00:26.37
結局ほむらは、何も答えてはくれなかった。

ただ、最初は悲しそうにうつむいて。

次に顔を上げた時には、寂しそうに笑って。

そして・・・あの表情を見せたのだ。


まどか 「なんて言ったらいいのか分からない・・・あんな顔・・・だけど・・・」


その後は、沈黙が続いた。

ほむらは何も語らないし、まどかにもほむらにかけるべき言葉を、探し出す事ができなかった。

やがて。

そんな重い沈黙に耐えかねたまどかは、引き留めようとするほむらの手を振り切って、部屋を飛び出してしまったのだ。

5: 2015/08/28(金) 20:01:31.60
まどか 「ほむらちゃんに悪い事をしちゃったよね・・・」


キュウべぇ 「やぁ・・・」


まどか 「えっ・・・?」


突然かけられた声に、不意に回想の世界から現実へと引き戻される。

気がつくと、いつからそこにいたのだろう。

まどかの足元にちょこんと、キュウべぇが座っていたのだ。


まどか 「きゅ・・・キュウべぇ・・・」

キュウべぇ 「そろそろ、魔法少女になってくれると、決心がついた頃かなって思ってね」

まどか 「・・・ほむらちゃんから、聞いたよ」

キュウべぇ 「そのようだね。おかげで僕も、いろいろ説明する手間が省けて、助かるよ」

まどか 「魔法少女が魔女になるって!ほむらちゃんもマミさんたちも、みんな!」

キュウべぇ 「・・・」

まどか 「仁美ちゃんも、そうして氏んじゃったって!私たちを騙してたの!?」

6: 2015/08/28(金) 20:02:28.96
キュウべぇ 「僕は嘘なんて、何ひとつ言っていないよ。騙すだなんて、人聞きが悪い事、言ってほしくないな」

まどか 「だって、教えてくれなかった!魔女が何なのかも、魔法少女がどうなるかも!」

キュウべぇ 「聞かれなかったからね」

まどか 「っ!」


今まで、友達だと思っていた。

そんなキュウべぇが、さらりと悪びれもせずに。

都合のいい情報だけを開示していたことを認めたのだ。


まどか 「本当の事を教えてくれなかったのに、聞けるわけないよ!」

キュウべぇ 「でも、今の君は真実を知った。暁美ほむらから、色々とね」

まどか 「え・・・?」

キュウべぇ 「そして君なら、志筑仁美を救う事ができる。それは紛れもない事実だ」

まどか 「・・・っ」

7: 2015/08/28(金) 20:04:12.96
キュウべぇ 「まどか。僕と契約して、魔法少女になってよ。君には魔女との戦いの日々と、遠からずの氏という運命の二つがもたらされる」

まどか 「そ、そんなの嫌だよ・・・」

キュウべぇ 「だけれど、その見返りとして、君は一人の友達を救う事ができるんだ。それはとても、素晴らしい事だと思わないかい」

まどか 「ひ、仁美ちゃん・・・を・・・」

キュウべぇ 「そうさ。君の命が友を救うんだ。この事に逡巡するほど、君は独りよがりな人間ではないと、僕は思っているんだけれどね」

まどか 「・・・」


まどかは懊悩する。

自分がキュウべぇと契約すれば、それは近い将来、必ず家族を苦しませることとなる。

だけれど、たった今、この瞬間。

仁美の家族は、その苦しみの中にいるのだ。

自分と自分の家族を秤にかけ、仁美やその家族の苦しみから目を背ける。

それは、身勝手というものではないだろうか。

8: 2015/08/28(金) 20:05:13.12
まどか 「わ、私っ・・・」

キュウべぇ 「さぁ、願いを言うんだ、鹿目まどか。君はどんな願いで、その魂を輝かせるのかい?」

まどか 「!!」


思わず目を閉じる。

すると、瞼に浮かんできたものは三人の顔。

まどかが愛し、まどかを愛してくれる、大切な家族の顔だ。


まどか (パパ・・・ママ・・・たっ君・・・どうして)


その家族の顔が、三人ともに・・・


まどか (どうして、そんな顔をしているの・・・?)


形容しがたい、見たこともない顔をしていた。


まどか (でも・・・)


・・・見たこともない?本当に?

9: 2015/08/28(金) 20:06:10.09
まどか (ううん、この顔・・・一度だけ。それもさっき、見てきたばかりだ)


それは、紛れもない。

ほむらが、先ほどまどかに見せた表情と、そっくりだったのだ。


まどか (あ・・・)


そして、まどかは悟った。

あの表情が、無言のうちに語りかけて来る事の意味を。

それとともに、こみあげてくる温かい物がまどかの胸を満たしてゆく。


まどか 「キュウべぇ・・・」

キュウべぇ 「なんだい?」

まどか 「だめだよ。私、契約できない。魔法少女には、なれないよ」

キュウべぇ 「友達を見捨てるのかい・・・?」

まどか 「勝手だって分かってる。自分の事だけって言われたら、何も言い返せないけれど、だけれど・・・」

キュウべぇ 「・・・」

まどか 「私を愛してくれてる人に、あんな顔、絶対にしてもらいたくないから」

10: 2015/08/28(金) 20:07:44.97
まぶたの裏の家族が。

そして、先ほどのほむらが見せた、あの表情。

あれこそが。


まどか 「愛する人を失って、悲しみに歪んだ顔なんて、絶対にさせたくはないから」


その事に、まどかは気がついたのだ。

だから。


まどか 「私が原因で、あんな顔。大切な人たちにさせちゃダメだって、分かったんだ」


そう言い切れる。

そんな境地に、辿り着けたのだ。


キュウべぇ 「・・・どうやら、その決意は固いようだね、まどか」

まどか 「うん」

キュウべぇ 「残念だ。だけれど、気が変わったら、いつでも呼んでくれて良いよ。僕はずっと待っているからね」

まどか 「その必要はないよ。私はマミさんたち魔法少女への憧れは憧れとして、憧れのまま・・・私のままで生きていくから」

キュウべぇ 「・・・」

まどか 「・・・キュウべぇ、もう私の前に姿を現さないで」

11: 2015/08/28(金) 20:08:35.75
キュウべぇ 「残念だ、本当に・・・」


その一言を最後に、キュウべぇはまどかの前から立ち去って行った。

何度も何度も、未練が後を引くように後ろを振り返りながら。

だけれど、まどかがその後ろ姿に再び声をかける事は、無かったのだ。

12: 2015/08/28(金) 20:09:39.11
・・・
・・・


私はその様子を、遊具の陰から覗いていた。

まどかが私の部屋を飛び出していった時。

彼女の質問に答えられずにいた私は、とっさにまどかを引き留める事ができなかった。

すぐに我に返って、まどかの後を追ったのだけれど。

とある公園で私が見たのは、まどかに魔法少女への契約を迫るキュウべぇの、見たくもない姿だった。


ほむら (すぐに飛び出しても良かった)


そして、私のこの手で、契約を迫るキュウべぇを頃してしまっても良かったのだ。

だけれど、そうしなかったのは・・・


ほむら (今この場でだけ契約を阻止できても、けっきょくは意味がないから)

13: 2015/08/28(金) 20:10:44.96
私だって、四六時中まどかの側にいられるわけじゃない。

この後、私の目の届かないところで、まどかが契約してしまう可能性だってあるのだから。


ほむら (まどかがまどか自身の考えで、契約を拒否してくれなければ、意味がない・・・)


だから、私は事の成り行きを見守ることにしたのだ。

まどかが私の話をきちんと、その頭の中で咀嚼してくれていたなら。

彼女の事を愛する人が、自分がいなくなった時にどのような事になるのか。

その事に想いをいたしてくれれば、きっとまどかは契約を拒否してくれるだろう。

そう、希望を持っていたから。


ほむら (もっとも、本当に契約を結びそうになったのなら、その時は私が力ずくで阻止するつもりだったけれど・・・)

14: 2015/08/28(金) 20:11:46.70
結果。

まどかは、自分の言葉で、自分の考えとして。

友情をダシにした卑怯な勧誘を、退けて見せてくれたのだ。


ほむら 「あ・・・」


膝から力が抜ける。

遊具のかげで、私はぺたんと地面に膝をついてしまった。


ほむら (届いた・・・)


どれほどの時をループしたのだろう。

何度も何度も訴えかけ、叶わなかった願い。私はその度に最も大切な人の氏を見せられ続けてきた。

今が何度目かなんて、とうに数えるのなんて止めてしまっていた。

バカらしくて・・・そして、みじめで・・・

だけれど、今。この時間軸で。

私がこいねがい、決して手にする事ができなかった願いが、今。


ほむら 「届いた・・・まどかに・・・届いたんだ・・・」

15: 2015/08/28(金) 20:12:53.80
そして私の胸にこみ上げてきたものは。

願いが叶った喜びでも、達成感でもなく。

ただただ、深い悲しみの波。

全ての時間軸で散っていった、全てのまどかの氏に際が私の胸のうちに蘇ってくる。


ほむら 「まどか・・・やっと、やっと・・・あなたたちの氏が、やっとこの時間軸のまどかの・・・」


救いとなって、結実したのだ。

涙が滂沱として、私の頬を濡らす。単純に喜べるはずなんてない。


ほむら 「すべてのまどかの氏を・・・これで・・・無駄にしないで済んだ・・・やった、やったよ、まどか・・・」


かつての時間軸で。

バカだった自分を救ってほしい。そう言って、切なげに笑って。

氏んでいったまどかがいた。

私は彼女に誓った。命に代えても、その願いを叶えると。

16: 2015/08/28(金) 20:14:30.29
ほむら 「やったんだよ・・・っ!」

まどか 「ほむらちゃん、また、その顔・・・」

ほむら 「えっ!?」


迂闊だった。

突然かけられた声に我に返ると、そこには。

私を心配そうに見下ろす、まどかの姿が・・・


ほむら 「あ、えっと・・・い、いつからそこに・・・」

まどか 「・・・私の氏を無駄にしないで済んだって、そのあたりから、かな?」

ほむら 「・・・っ!」


聞かれてた。

念願を果たした私は、あまりにも深く、自分の世界に入り込みすぎていたようだ。まどかの接近に、気がつきもしないだなんて。

迂闊どころの話じゃない。

いつか言っていた、リョウの私に対しての評が、頭の中に蘇る。


(リョウ 「詰めの甘さは天下一品だな」)


今さらながら、返す言葉もない・・・

17: 2015/08/28(金) 20:15:51.45
・・・
・・・


夜の公園で、私たち二人。

まどかと私で、ブランコに隣り合わせで腰かけて。

ぶらぶらと、心地よい揺れに身を任せながら。

少し、話をした。


まどか 「私・・・魔法少女になるの、断っちゃった」


最初に話し始めたのは、まどかの方。


ほむら 「うん、聞いてた・・・」

まどか 「断った後でも、思っちゃう。これで良かったのかなって。仁美ちゃん、見捨てちゃったことに、なるんじゃないかって」

ほむら 「それは・・・違うわ。手段はどうあれ、志筑さんは自分の望みを叶えるために、必氏に生きた。その結果がどんな形でも、それを受け止めるのは志筑さん自身の役目よ」

ほむら 「そうなのかな。本当に?」

ほむら 「人は、成すべき事のために生きているわ。何かを成そうと思ったら、そのけじめは自分でつけるべきなのよ」


今のは、竜馬の言葉の受け売り。

だけれど、今では間違いなく、私の考えにもなっていた。

18: 2015/08/28(金) 20:18:30.23
まどか 「うん・・・ねぇ、ほむらちゃん」

ほむら 「なに?」

まどか 「仁美ちゃんは、キュウべぇに何を願って、魔法少女になっちゃったのかな」

ほむら 「それは・・・ごめん、そこまでは知らないの」

まどか 「・・・そう」


言えない。

言ったら、きっとまどかは、これからのさやかとの付き合い方に悩むことになるだろう。

さやかには、寸毫の落ち度がない事は頭では分かっていても・・・

だから、その代わりに。

私は言う。

きっと全ての魔法少女が願っているであろうことを。

仁美の想いに仮託して。


ほむら 「だからせめて。志筑さんの事を忘れないでいてあげて。いなくなってしまっても、いつまでもあなたの友達として、心の中で、ずっと・・・」

まどか 「うん」

19: 2015/08/28(金) 20:19:16.63
氏しても氏体すら残らないことが多い魔法少女。

私たちの本当の氏は、大切な人たちすべてから、忘れ去られた時にこそ訪れるのだ。


まどか 「忘れない」

ほむら 「ありがとう。志筑さん、喜んでると思う」

まどか 「ほむらちゃんの事だって、忘れない」

ほむら 「・・・え」

まどか 「私、分かったよ。ほむらちゃん、私の事、好きなんだね」

ほむら 「・・・え、ええっ?!」


いきなりの予想外な言葉に、思わずすっとんきょうな声を上げてしまう私。

なぜ、いきなりそんな事を言うの、まどか!

いや、そうだけれど、その通りなんだけれど!

20: 2015/08/28(金) 20:22:05.21
ほむら 「い、い・い・い・いきなり何を言ってるの、鹿目さんっ!」

まどか 「ほむらちゃんの部屋での別れ際・・・ほむらちゃんが見せてくれた表情、ね・・・」

ほむら 「え、表情・・・?」

まどか 「その意味、いろいろ考えちゃって・・・そしたらね、重なったの」

ほむら 「・・・なにと?」

まどか 「私を失ったら、パパやママがどんな顔をするだろうって考えたら・・・あの時のほむらちゃんとおんなじ顔をしてた」

ほむら 「鹿目さん・・・」


正直、別れ際にした表情なんて、覚えてやしない。

だけれどあの時、私はとても悲しかった。

今までの時間軸で散っていったまどかと、目の前のまどかが重なっちゃって。

迂闊にも、そんな心情が、表に出てしまっていたらしい。

21: 2015/08/28(金) 20:22:52.62
まどか 「とても辛そうで、消え行っちゃうような・・・そんな顔。私、パパやママにあんな顔、してほしくないなって」

ほむら 「・・・」

まどか 「そうしたら、キュウべぇと契約なんて、絶対しちゃダメなんだって、そう思えたから・・・」

ほむら 「鹿目さん・・・ううん、まどか、そうね。私、まどかの事が大好き。世界で一番、あなたが大切なの」

まどか 「・・・でも、どうして?」

ほむら 「訳わからないよね、気持ち悪いよね。あなたにとって、私は知り合って二週間にも満たない転校生でしかないのだから」

まどか 「気持ち悪いなんて、そんなことないよ。でも、どうしてなの?どうしてそこまで、私の事・・・」

ほむら 「それは・・・」

まどか 「もう一度、聞いても良い?どうしてそこまで、私の事を気にかけてくれるの?」

ほむら 「・・・」

22: 2015/08/28(金) 20:23:26.42
言おう。

私は、意を決した。

重い内容だ。引かれてしまうかも知れない。

だけど、この時間軸の、このまどかになら。

私のすべてをさらけ出してしまっても、受け止めてもらえるのではないか。

そんな確信めいたものが、私の中には芽生えていたのだ。


ほむら 「聞いて・・・私とまどかとの出会いと、そして・・・」

まどか 「・・・」

ほむら 「何度もの別れを繰り返した、私のこれまでの事を」

30: 2015/09/08(火) 16:56:46.46
・・・
・・・


私が語っている間。

ある時は、驚きに目を見開いて。

またある時は、悲しみに両目を潤ませて。

コロコロと表情を変えながら、だけれどまどかは、最後まで。

私が語り終えるまで、口を挟まずに、黙って耳を傾けてくれていた。


語る内容は、本当にいろいろ。

最初の時間軸での、私たちの出会いの事。

まどかやマミに命を救われた事。

そして別れと、私が魔法少女になった経緯。

幾度も時間をループし、まどかを救おうとした事。

そして、それは一度もなし得ていない事・・・

時間を繰り返す度に、私と皆の距離が遠くなっていった事。

31: 2015/09/08(火) 17:00:04.05
だけれど、この時間軸で・・・

リョウと出会い、皆との出会いをやり直し、もう一度・・・皆との距離の取り方を考えて見ようと、そう思えた事。

そして、間もなく訪れるワルプルギスの夜を切り抜ける事ができれば、その時こそが・・・

私が待ち望んでいた未来が訪れる時なのだ、と。


まどか 「・・・」

ほむら 「これが・・・私がまどかを気にかける理由のすべてよ。あなたは私にとって、かけがえのない人だったの」

まどか 「・・・ほむらちゃん」

ほむら 「もちろん、それは今も」

まどか 「・・・あ・・・ぅ」

ほむら 「いきなり、こんなこと言われても困るよね。でも、納得できなくても、せめて・・・」


分かって欲しい。

そう、言おうとした時だった。


まどか 「ほむらちゃんっ!」

ほむら 「・・・わわっ!」


まどかが突然たちあがって、私に抱きついてきたのは。

32: 2015/09/08(火) 17:02:27.32
どか 「・・・ほむらちゃん、ありがとう」

ほむら 「ま、まどか・・・」

まどか 「あんな辛くて悲しい顔をするほど、私の事を大切に思ってくれていたんだね。そんな事、ぜんぜん知らないで私・・・」

ほむら 「信じてくれるの?こんな、嘘みたいな話を・・・」

まどか 「嘘なはずない。ほむらちゃんが、そんな嘘、つくはずないよ」

ほむら 「あ・・・」


届いた・・・


まどか 「だから、信じるよ。ほむらちゃんがいう事を私は・・・!」


私、報われたんだ。

そう思ったら・・・


ほむら 「ああ・・・う・・・ぐすっ」

33: 2015/09/08(火) 17:04:12.41
まどか 「約束するから。私、ほむらちゃんが悲しむような事、絶対にしないから。だから、ほむらちゃんも、お願い・・・」

ほむら 「う、えっぐ・・・ま、まどかぁ・・・」

まどか 「魔女になんかならないで。ほむらちゃんも、私を悲しませたりしないで!」

ほむら 「う・・・うぁ・・・うあああああああんっ」


自分でも驚いてしまった。

涙がとめどなくとめどなく、両の目から溢れてくる。

嗚咽が止められない。

子供のように、大口を開けて泣きだしてしまった、そんな私を制止することができない。


まどか 「ほ、ほむらちゃん!?」

ほむら 「ああああっ、うあああああああんっ!」

まどか 「・・・」

34: 2015/09/08(火) 17:05:34.69
柔らかなまどかの胸に顔をうずめて、声を限りに私は泣いた。

安堵と、やっと報われたという充足感と。

なにより、まどかが私の想いを受け止めてくれたことが、とても嬉しくって。


まどか 「ほむらちゃん・・・なんだか、私まで・・・えっぐ・・・」


そんな私を、まどかが鼻声交じりに慰めながら、優しく頭を撫でてくれた。

その手のひらが、本当に本当に暖かくって。


まどか 「ほむらちゃん、また泣いちゃったね」

ほむら 「うん、泣いちゃった・・・」


だけれど、断言できる。

今の私の顔は、先ほどまでの泣き顔とはまったく別物だという事を。

35: 2015/09/08(火) 17:06:38.22
・・・
・・・


まどかと別れ、私は自分の部屋の前へと戻ってきた。

すると、ドアにもたれかかる様にしながら、こちらに手を振る人影が一人。

・・・竜馬だった。


ほむら 「リョウ」

竜馬 「夜遊びは感心しねぇな」

ほむら 「そんなんじゃ・・・」

竜馬 「で、鹿目との話し合いはどうだった。て、聞くまでもないか」

ほむら 「え・・・」

竜馬 「お前の顔を見れば、大体わかる。上手くいったようだな」

ほむら 「うん、まぁ・・・ていうか、私ってそんなに顔に出てる?簡単に分かっちゃうわけ?」

竜馬 「なんだろなぁ。お前、自分で思ってるほどクールじゃないぜ。不器用だからな、けっこう顔に出る」

ほむら 「まどかにも表情の事を言われたし・・・これは少し、気をつけなくっちゃいけないわね」

竜馬 「良いんじゃねぇか。今のままがお前らしいぜ。無理に飾ろうとするな。ぼろが出るだけさ」

36: 2015/09/08(火) 17:11:01.26
ほむら 「そうかも。ところで、どうしたのリョウ。どうして中で待ってなかったの?」

竜馬 「入れなかったんだよ。留守だったからな」

ほむら 「留守って・・・ゆまは?もう、とっくに帰って来てる時間じゃ・・・」

竜馬 「なにか、連絡とかなかったのか?」


言われてみて、ハッとした。

慌てて携帯をチェックしてみると、未読のメールが一通・・・ゆまからだ。

読んでみると、今夜は杏子と一緒に過ごすとの、意外な内容。

正直メールチェックどころじゃなかったから、まったく気がついていなかった。

37: 2015/09/08(火) 17:16:48.89
ほむら 「・・・珍しい事もあるものね。あの二人にも、何かあったのかしら」

竜馬 「あったんだろうさ。きっと二人にとって、喜んでやれるような良い変化が、な」

ほむら 「だと良いわね。ううん、きっとそう」


今ごろ杏子とゆまは、二人きりでどのように過ごしているのだろうか。

他愛のない話に花を咲かせているのだろうか。それとも、楽しみながら口ゲンカなんかに高じているのかもしれない。

想像していると、つい笑みがこぼれてしまう。


ほむら 「ふふっ。さぁ、待たせてごめんね。リョウ、どうぞ中へ」

竜馬 「ああ、邪魔するぜ」


私は携帯をポケットにしまうと、鍵を開けて竜馬を部屋へと招き入れた。

38: 2015/09/08(火) 17:17:53.14
・・・
・・・


ほむら 「あれ・・・?」


紅茶を煎れて居間に戻ると、竜馬の隣にちょこんと、キュウべぇが座っている。


ほむら 「お前・・・いつの間に入り込んだの?」

キュウべぇ 「僕はずっと、竜馬の側にいたよ。離れたが最期、僕は同胞に殺されてしまうのだからね」


・・・いけしゃあしゃあと。


ほむら 「立場は変わっても、神出鬼没ぶりには変わりがないという訳ね」

キュウべぇ 「そう言わないで、歓迎してほしいな。何せ、今夜の主役は僕のはずなのだからね」

竜馬 「ま、違いないわな」

ほむら 「・・・」


・・・そう。

今夜はこのキュウべぇから、色々な事を聞き出すつもりでいた。

39: 2015/09/08(火) 17:22:08.08
なぜゲッターと竜馬たちは、こちらの世界へと飛ばされてきたのか。

魔法少女の魔力がゲッターエネルギーの代替になるのは、どうしてか。

また、なぜ男性の竜馬たちに、魔法少女と同じ”資質”が与えられているのか。

そして・・・


ほむら (どうすれば、リョウが元の世界へと、戻る事ができるのか・・・)


最後の疑問に関してだけ、私は嫌だな、知りたくないな、と。

そんな気持ちを捨て去る事ができないでいた。

分からずに、このまま竜馬とずっと、この世界で生きて行く事ができたら、どんなに素晴らしいだろう。

どうしても、そう思わずにはいられない自分がいるのだ。

だけれど・・・


ほむら (そんな想い、捨て去らなきゃだめだ。だってそれは、つまらない勝手なエゴでしかないのだから)

40: 2015/09/08(火) 17:23:25.62
竜馬は右も左もわからないこの世界で、私の願いのために命がけで協力してくれている。

そして、そんな彼は、成すべき事のために、元の世界へと帰らなければならないのだ。

使命ある人の本位と反対の事を願う。それは、その人に対する裏切りに他ならない。


ほむら (私は・・・リョウに対して、彼が私にしてくれたように、最大の理解者でいたい)


だから私は、竜馬が望む世界へ帰ることを、ともに願わなくてはいけない。

そのためにできる事は、協力を惜しんではいけないのだ。


ほむら 「・・・」

竜馬 「暁美・・・?どうした、難しい顔をして」

ほむら 「ううん、何でもないわ。それで、武蔵さんも来るのよね」

竜馬 「ああ、そろそろ来る頃合いだと思うぜ。奴が着いたら、キュウべぇへの尋問を始めるとしよう」

キュウべぇ 「尋問とか、穏やかじゃないな。今の僕は、あくまで君たちの味方であるつもりでいるのだけれど」

ほむら 「よく言うわ」

41: 2015/09/08(火) 17:29:24.58
確かに、こいつは先ほどまどかを貶めようとしたキュウべぇとは、別の個体。

感情を手に入れ、キュウべぇの群れからつまはじきにされた、あの”キュウべぇ”だ。

だけれど私たちの味方についたのは、立場上そうするより外になかったからに他ならない。

なにせ、命がかかっている。


ほむら 「まぁ、良いわ」


だから私も、今はこいつの立場を利用するだけだ。

その後の事は、その時に考えればいい。


キュウべぇ 「おっと、お客さんが着いたようだよ」


玄関のチャイムが鳴ったのは、キュウべぇが呟いたのと同時だった。

42: 2015/09/08(火) 17:35:17.34
・・・
・・・


竜馬 「まず第一に聞きたいのは、俺とゲッターがどうすれば、元の世界に戻れるのか、だ」


”尋問”が始まって、開口一番に竜馬が言ったのが、この質問だった。

それはそうだろう。この問題は竜馬にとって、何事にも優先しなければならない重大事なのだ。


キュウべぇ 「最初に断わっておくけれど、竜馬。君をこの世界に呼んだ事象と僕とは、まったくの無関係だ」

竜馬 「知っているよ。だが、それとこれとは、話が別だ。お前たちは長い歴史の中で、多くの知識を身に着けてきた。そうだろう?」

キュウべぇ 「否定はしないよ。だから、君のようなケースはどうするべきか。その対処法を知っているはずだと?」

竜馬 「で、どうなんだ?」

キュウべぇ 「期待に添えなくて、悪いと思っている。前にも言ったよね。君や武蔵は、僕にとってもイレギュラーな存在なんだ。類似のケースにも、遭遇したことは無い」

竜馬 「そうか・・・」

武蔵 「じゃあ、お前には全く、心当たりがないというんだな?」

キュウべぇ 「それなんだけれど・・・暁美ほむら」


不意に話の矛先が、私に向けられる。

43: 2015/09/08(火) 17:41:46.48
ほむら 「・・・なに?」

キュウべぇ 「ちょっとした疑問なんだけれど。君が前の時間軸で手に入れた武器。あれは現在どうなっているんだい?」

ほむら 「え・・・?」


急に何なんだというの?

質問の意図が、まったく見えてこない。


ほむら 「バックラーに収納している分は、この時間軸へ持ち越してきたけれど・・・それがなに?」

キュウべぇ 「・・・」


キュウべぇが、何事やら考え込んでいるように、しばし目をつむる。

ややあって・・・奴は話を継ぐように、別の質問を私に投げかけてきた。


キュウべぇ 「ほむら。君はなぜ、自分で武器を生み出せないのだろうね?」

ほむら 「・・・?」

44: 2015/09/08(火) 17:44:18.10
キュウべぇ 「巴マミであれ佐倉杏子であれ、他の多くの魔法少女も。彼女たちは戦うため、自前の武器を生み出す能力を与えられている」

ほむら 「それが?」

キュウべぇ 「それは当然だよね。だって君たち魔法少女は、魔女と戦う事が使命なのだから。戦う手段を与えられるのは、当たり前の成り行きだ」

ほむら 「・・・何が言いたいのよ?」


話が見えてこない。

回りくどい、持って回ったようなキュウべぇの物言いに、私の口調にも自然と苛立ちの色がにじみ出てくる。

それに対する答えの代わりは、キュウべぇの更なる質問だった。


キュウべぇ 「ほむら。君は戦うための武器を、どうやって手に入れているんだい?」


これまた、ゲッターとは関わりがないとしか思えない質問・・・

いったい私から、何を探ろうとしているのだろう。

キュウべぇの目論見は、まったくわからないけれど・・・


ほむら 「それは、爆弾を自作したり・・・あとは、時間を止めて盗んだわ」

武蔵 「盗んだ?」

ほむら 「ええ、警察や自衛隊や・・・武器のある所から」

45: 2015/09/08(火) 17:46:16.79
私は正直に答えた。

・・・今さら取り繕っても仕方がないもの。

だって、仕方がなかったのだ。

武器を生み出す能力のない私は、そうしなければ使い魔とすら戦えなかったのだから。


竜馬 「そうだったのか」

ほむら 「・・・軽蔑する?」

竜馬 「他に術がなかったんだろう?でもまぁ、良かったじゃねぇか。この時間軸では、盗みなんざしなくてもすむんだからな」

ほむら 「あ・・・う、うん」


さらりと言い流すような竜馬の一言に、私は少し救われたような気がした。

おかげで私は、心にしこりを残すことなく、話を先へと進める事ができる。


ほむら 「それで・・・この事が、リョウたちが元の世界へ帰る事と、なにか関わりがあるというの?」

46: 2015/09/08(火) 17:47:14.55
キュウべぇ 「・・・僕の経験則上、戦う手段を与えられていない魔法少女なんて存在しなかった。その事と、君の話を合わせて考えると・・・」

ほむら 「なに、なんなの?」

キュウべぇ 「この事は、僕の推測であると、あらかじめ断わっておくよ」

ほむら 「もったいぶらないで、良いから言って」

キュウべぇ 「では・・・君は自分では気がついていないだけで、戦うための手段が与えられていたと思うんだよ。他の魔法少女たちとは違った形でだけどね」

ほむら 「え、それってどういう事・・・?」

キュウべぇ 「それは・・・武器を生み出すのではなく、引き寄せる能力」

ほむら 「・・・?」

キュウべぇ 「考えてみて欲しい。君は武器を自作したり、盗んだりして手に入れたと言った。だけれど・・・」


思わせぶりにいったん言葉をくぎると、キュウべぇは私の目を凝視するように見つめながら、続きの言葉を綴った。


キュウべぇ 「何の知識もない女の子が、少し調べただけで爆弾を自作したりできるだろうか」

ほむら 「え・・・」

47: 2015/09/08(火) 17:50:11.14
キュウべぇ 「加えて、君は武器を盗んだと言っていたけれど、いくら時間を止める能力があるからと言って、それだけで簡単に事が運ぶものなのかな」

ほむら 「なによ、どういう事よ」

キュウべぇ 「暴力団程度ならいざ知らず、武器の保管に万全を期している自衛隊のような組織から、そうやすやすと武器が盗めるものなのか、という事だよ」


こいつ・・・何を言っているの?

だって、現に私は。


ほむら 「実際私は、そうやって今まで戦ってきたの。何なの、いったい。お前はなんの話をしているの?」

竜馬 「つまり・・・」


答えようとしたキュウべぇより先に、竜馬が口を開く。


竜馬 「暁美が自分で手に入れていたと思い込んでいた武器は、実は魔法の力で引き寄せられていたのだと、そういう話か」

ほむら 「え・・・?」

キュウべぇ 「そう。暁美ほむら・・・君は非常に”常識的”な思考の持ち主だよね。そんな君にとって、目の前に存在しない武器を”引き寄せる”なんて、思いもよらない事だったんだろう」

竜馬 「だから無意識下に、自分自身を武器が手に入れやすい状況へと”引き寄せ”ていた。そういう事か」

武蔵 「辻褄はあっているな」

48: 2015/09/08(火) 17:52:40.11
ほむら 「え・・・ちょ、ちょっと待ってよ」


キュウべぇの言う事が・・・

この仮説が正しいのだとしたら。

だとしたら・・・それって・・・


ほむら 「私が、ゲッターロボをこちらの世界へ”引き寄せた”という事・・・?」

キュウべぇ 「僕には、そうとしか考えられない」


そういえばゲッターの中で話した神隼人も言っていたっけ。

私こそが元凶だったと・・・


キュウべぇ 「暁美ほむら。ゲッターが初めて君の目の前に現れた時、どんな状況だったのか話してくれるかい?」

ほむら 「それは・・・あの時はワルプルギスの夜と戦っていて・・・私はとても敵わなくて・・・」


そう。

そんな私に代わり、まどかが魔法少女となって、ワルプルギスの夜を倒してくれたんだ。

だけれど、その結果・・・魔力を使い果たしたまどかは魔女となってしまった。

49: 2015/09/08(火) 17:53:32.75
ほむら 「私は自分の無力さを呪ったわ。どうして・・・どうして私には、魔力に裏打ちした力が与えられなかったのかと」


そうだ、そして願ったのだ。


ほむら 「まどかを守る力が欲しいと。私も他の魔法少女と同じ、力は欲しいと、そう願ったの」


その直後だ。

まばゆい光とともに、ゲッターロボが私の前に現れたのは。


キュウべぇ 「つまり、どうにもならない絶望の中で、藁にもすがる思いの君は、その時はじめて”常識的”な自分のタガを外したんだ」

武蔵 「その結果、俺たちは異世界へと飛ばされたと・・・そういう訳なのか」

ほむら 「あ・・・じゃあ、私」


私の無力さとわがままが原因で、竜馬たちを関係のない戦いに巻き込んだと、そういう事なの?

だとしたら私は・・・


ほむら 「りょ、リョウ・・・」

竜馬 「・・・暁美」

50: 2015/09/08(火) 17:56:05.64
キュウべぇ 「ただ一つ疑問なのは、ほむら一人が強く願ったところで、それだけで異世界の存在を引き寄せることが可能なのだろうか。そこなんだよね」

ほむら 「え・・・?」

キュウべぇ 「そこで竜馬、武蔵。君たちにも聞きたい。こちらの世界へと飛ばされる寸前、君たちは何を思っていた?」

武蔵 「あの時は、恐竜帝国の本拠地へ殴り込みをかけに行く途中だったな。俺は、奴らを皆頃しにして隼人の仇を取ってやろうと、そればかりを考えていたけれど」

キュウべぇ 「そうなんだね。では、竜馬は?」

竜馬 「俺は・・・俺も願っていたんだ。あの時・・・隼人を失って二人しか乗っていないゲッターの中で」

武蔵 「願う・・・お前が?いったい何を?」

竜馬 「笑ってくれ。あの時の俺は、不安でいっぱいだったのさ。これから敵と雌雄を決せねばならない時に、仲間が一人欠けていたんだからな」

武蔵 「リョウ・・・」

竜馬 「ゲッターは三人のパイロットがそろって、初めて全力を発揮できる。そして、恐竜帝国に抵抗できるのは、ゲッターを於いて他にはない」

ほむら 「・・・」

竜馬 「絶対に負けられない戦いだ。俺たちの敗北は即、人類の絶滅につながるのだからな。なのに俺たちには、全力で戦う術が失なわれていた・・・」


そして、竜馬はぽつりと付け加えた。


竜馬 「怖かったんだ」

51: 2015/09/08(火) 17:58:42.14
いつもは強気の竜馬が、珍しく吐く弱音。

そういえば出会って間もなかった頃の彼も、ゲッターロボの所在が分からない苛立ちから、焦ったり弱気な面を見せたりしていたっけ。


竜馬 「だから、願ったんだ。神でも悪魔でもいい。俺に強敵と渡り合える力を、新たな仲間を与えて欲しいと・・・」

ほむら 「まさか、それって・・・」

キュウべぇ 「僕の予想は正しかったようだね。ほむら、竜馬。君たちの出会いは、互いの願いが共鳴しあった結果、起こされた事だったのさ」

ほむら 「私が力を望んで・・・」

竜馬 「俺が仲間を欲したから・・・?」

キュウべぇ 「そう・・・」

武蔵 「ばかな、そんな偶然があるものか。たまたま二人が同時に願って、それでたまたま出会えたっていうのか?世界の壁を越えてまで?信じられるかよ!」

キュウべぇ 「もちろん、僕も偶然だなんて思ってやしないよ」

ほむら 「え・・・、まさかそれって・・・りょ、リョウ・・・」

竜馬 「ああ、ゲッターか・・・」

キュウべぇ 「そう、意志を持ったエネルギー体。あの得体の知れない存在だったら、これくらいの事は容易に仕組めるだろうね」


ゲッターが私たちを出会わせるために、この出会いを仕組んだ?

52: 2015/09/08(火) 18:01:38.21
ほむら 「いったい、何のために・・・」

キュウべぇ 「そこまでは、僕にはうかがい知れないよ。機会があったら、ゲッターに直接聞いてみると良い。なんにせよ、これではっきりした」

竜馬 「なにがだよ」

キュウべぇ 「竜馬や武蔵が、元の世界へ戻る術なんて、ありはしないという事がさ」

竜馬 「・・・暁美のバックラーの中の、他の武器と同じという事か」

キュウべぇ 「そう。一度ほむらの支配下に置かれた武器は、バックラーの中にとどめ置かれるか、時間軸を超える際に元の時間軸に置き去られるか・・・」


キュウべぇ 「いずれにせよ、元の”場所”へと戻る方法などはない。そう結論付けられるね」


そう断言して、キュウべぇは語るのをやめた。

しばしの重い沈黙が、この部屋を支配する。


竜馬 「ゲッターが仕組んだ、か。なるほど、言われてみれば納得だ」


最初に沈黙を破ったのは、竜馬だった。


竜馬 「ゲッターの無茶な力を使えば、世界の壁くらいは容易に超えられる気がするぜ」

ほむら 「りょ、リョウ・・・私・・・」

竜馬 「そんな顔をするな、暁美。責任を感じているというなら、そいつはお門違いだ。俺をこっちの世界に飛ばしたのは、俺自身でもあるんだからな」

53: 2015/09/08(火) 18:08:48.88
ほむら 「だけど、そうだとしても!私の戦いに、あなたたちを巻き込んでしまった事は事実だわ・・・!」

竜馬 「確かにここは、俺のいるべき世界じゃない。だけれど、そんな見知らぬ場所でお前と、仲間と出会う事ができたんだ」

ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「仲間の戦いは、俺の戦いだ。それに俺たちの出会いは、偶然なんかじゃなかった」

ほむら 「・・・」

竜馬 「互いに望んで出会えたんだ。それが分かっただけで、俺は喜んでるんだぜ。だから・・・」


竜馬がそっと。

普段の彼とは不釣り合いに優しい顔で、私の顔を優しくなでる。


竜馬 「そんな、辛そうな顔をするな」


大きく温かい手が、私の顔を優しく包む。

・・・また、泣きそうになってしまう。

54: 2015/09/08(火) 18:29:44.83
ほむら 「だけど、帰る手段がないって・・・」

竜馬 「それなんだがな・・・キュウべぇ」


竜馬がキュウべぇへと向き直ったため、手が私の顔から離された。

ただ、彼の手の温かみだけが、消えずに私の頬に残り続けている。

いや・・・それともこれは・・・私の顔が火照っているのだろうか。


竜馬 「ゲッターが仕組んだことだというなら、帰る方法だってゲッターが知っているはずだ。そうだろ?」

キュウべぇ 「それについては、断言しかねるけれどね」

竜馬 「けっ・・・まぁ、いずれにせよ。帰る方法はワルプルギスを倒した後で、ゆっくり考えればいいさ」

ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「全てが霧に閉ざされていたような以前と、状況が違うんだ。手がかりはいくらでもある。それだけで、今は気が楽だぜ」


・・・そんなはずないのに。

竜馬は、私が必要以上に罪悪感を得ないよう、わざと楽天的にふるまってくれているのだろう。

彼の世界は、存亡の危機に瀕しているはず。悠長にしていられるはずなんて、無いのだから。

だけれど・・・

55: 2015/09/08(火) 18:33:36.45
ほむら (私・・・また、勝手なことを考えてる・・・)


それは、先ほども否定したばかりの考え。

竜馬が帰れなければ。帰る手段が見つからなければ・・・

その時は、ずっとこちらの世界で生きていく他はない。

私と一緒に。私と同じ場所で。


ほむら (そんなこと考えちゃダメだって、それはエゴだって。分かってるのに、何度も自分に言い聞かせたのに)


竜馬をこの世界へと呼び寄せた罪悪感とともに、湧き上がってくる、この感情。

こんなことに、喜びを感じてしまうなんて、私はなんて身勝手で最低なんだろう。

それに・・・


ほむら (私、どうしてそこまで・・・竜馬に帰って欲しくないんだろう。仲間だから・・・?それとも他に、何か理由でもあるというの・・・?)


竜馬じゃないけれど、それこそ答えは五里霧中。

いまだ火照り続ける頬の意味も何もかも・・・私には分からない。

68: 2015/09/13(日) 13:08:53.49
・・・
・・・


キュウべぇ 「さて・・・他にも僕に聞きたい事があるのかい?」


沈みがちとなった場を仕切りなおすように、キュウべぇが言った。


ほむら 「そうね。じゃあ、最後にひとつ」


気持ちを切り替えるためにも、私はキュウべぇの誘いに乗る事にした。

聞きたかったのは、竜馬と初めて出会ってから抱いていた、もっとも根本的な疑問。


ほむら 「なぜ、男性であるリョウや武蔵さんに、お前や魔女の姿が見えるのか。それって、二人が魔法少女になる資質があるって事だと、以前お前も言っていたわよね」

キュウべぇ 「ああ、その事か」


キュウべぇが、つまらないことを聞くなとでも言いたげな表情で、私を見る。


キュウべぇ 「言いそびれていたけれど、資質のある男性は、おそらく二人だけではないよ」

ほむら 「え?」

69: 2015/09/13(日) 13:10:20.93

意外な言葉を返されて、私は思わず間抜けなポカン顔をしてしまった。

それはきっと、一緒に聞いていた竜馬や武蔵も同じだったはず。


竜馬 「俺たちだけじゃないって・・・じゃあ、他の適合者はどこにいるっていうんだ?」

キュウべぇ 「それはもちろん、君たちがいた世界さ」

武蔵 「意味が分からない・・・もっと分かりやすく言ってくれよ」

キュウべぇ 「つまり、竜馬たちの世界の人間はね。程度の差こそあれ、誰しもが魔法少女になる資質が与えられているんじゃないかな」

ほむら 「・・・は?」

キュウべぇ 「・・・て、思えるんだよね」


私の頭の中いっぱいに、キュウべぇに口癖が駆け巡る。

・・・ワケガワカラナイヨ。

70: 2015/09/13(日) 13:11:17.81
こちらの世界でも、魔法少女となれる資質を与えられた少女は、それほど多くはない。

なのに、竜馬の世界では、性別を問わず、誰もが魔法少女に慣れるとでもいうの?


キュウべぇ 「竜馬・・・君たちの世界にあって、この世界には無いもの。それは何だったかい」


私の混乱など意に介さず、キュウべぇは話を続ける。


竜馬 「そりゃぁ、前にも話したはずだ。ゲッターを動かすためのエネルギー・・・ゲッター線だってな」

キュウべぇ 「そう。そして、君たちの世界の人間は、ゲッター線によって猿から人に進化したという。つまり・・・」


キュウべぇ 「人間誰しもが、ゲッター線を体内に持っている。そういう事だよね」


武蔵 「・・・そりゃそうだろう。でも、だからどうしたってんだ?」

キュウべぇ 「考えてみて欲しい。ゲッター線とは、そして魔法少女の魔力とは何なのかという事を」

竜馬 「・・・?」

71: 2015/09/13(日) 13:13:22.50
キュウべぇ 「君たちも知っての通り、魔法少女たちの魔力は、ゲッターエネルギーとして転用できる。つまりそれは、両者は同質か、非常に近い存在だという証明となる」

ほむら 「あ・・・つ、つまり、同質のエネルギーを体内に持つリョウたちだからこそ・・・」

キュウべぇ 「魔女も見えるし、魔法少女となる資質をも与えられているという事さ」

竜馬 「だからか・・・お前の言った理屈で行くと、俺の世界の人間はみんな・・・」

キュウべぇ 「そう、もれなく魔法少女の候補者たり得るという、結論に行きつく訳だね」

ほむら 「・・・世界すべての人間が、魔法少女に・・・?」

キュウべぇ 「もちろん、魔力・・・いやゲッター線の含有量は個人で異なるだろうから、向き不向きはあると思うよ」

竜馬 「俺や武蔵だけが、特別なわけじゃなかったってことか・・・」

キュウべぇ 「いや、それでも君たちは特別さ。なにせ、ゲッターロボと誰よりも深くかかわってきたのだからね」

武蔵 「一層、魔法少女向きってわけかよ」

キュウべぇ 「君たちの世界を知らない僕だけれど、この予測はおそらく間違っていないはずだよ」


自信ありとでも言いたいのか、鼻息荒くキュウべぇは断言して見せた。

72: 2015/09/13(日) 13:14:16.29
武蔵 「だけど、どうしてこんな現象が・・・偶然にしてはできすぎてないか」

キュウべぇ 「もちろん、偶然なはずがない。それは、君たち・・・異なる二つの世界の人間を見比べれば、おのずと答えが見えて来るはず」

竜馬 「・・・?」

キュウべぇ 「考えても見て欲しい

 ほむらや竜馬たちの先祖は、異なる世界で異なる過程を得て、今の姿へと進化してきた。それなのに・・・

 両者には特に目立った相違点が見られないのは、どうしてだと思うかい?

 ゲッター線によってもたらされた進化と、僕が介入し魔法少女が培ってきた進化。

 プロセスが全く異なれば、互いに違った形に進化していてもおかしくはなかったはずだ。

 なのに、行きついた先には差異は見られない」

ほむら 「・・・あ」

キュウべぇ 「これはもはや、偶然で片つけてられる範疇を超えているよ」

73: 2015/09/13(日) 13:15:04.71
言われていれば、確かにそうかも知れない。

同じ世界の人間だって、生まれた国や時代が違えば、言葉や文化、肌や目の色さえ違ってしまうのだ。

それなのに、別の世界から来た竜馬たちは、私と同じ姿をして、同じ言葉を話している。

同じ日本人として、この世界へと現れたのだ。


ほむら 「きゅ、キュウべぇ・・・それって、つまり・・・」

キュウべぇ 「あのね、ほむら。僕は感じたんだ。初めてゲッターロボを見たあの時・・・不思議と懐かしい、妙な感覚をね」

ほむら 「懐かしい・・・?」


そう言えば・・・

ゲッターと最初に遭遇した時間軸のキュウべぇも言っていたっけ。

”あれは、僕と同じ・・・”と。

その言葉の意味をただす前に、私はこちらの時間へと飛ばされてしまったけれど。

目の前のキュウべぇは、あの時のキュウべぇと同じことを今、口にしようとしているのかもしれない。


ほむら 「感じたって、なにを・・・?」

74: 2015/09/13(日) 13:17:14.32
キュウべぇ 「僕とゲッターは、同じ存在、役割を担わされているものだと」

竜馬 「バカな!」


竜馬が即座に否定する。

だけど、キュウべぇは意に介さない。


キュウべぇ 「現在ははともかくとして。かつては同質の存在であった頃があったんじゃないかってね、そう思えてならないんだ」

竜馬 「お前のような奴らがゲッターと同じだと!到底信じられない!」

ほむら 「・・・」


それは、私だって一緒だ。

だけれど、キュウべぇの説が正しいのなら、二つの世界の人類がたどり着いた進化の果てが、同じである事の何よりの証明となる。

・・・けれど。


ほむら 「・・・同質というけれど。まかりなりにも生物であるお前と、エネルギー体であるゲッター線。何から何までが異るけれど・・・そこはどう説明するの?」

75: 2015/09/13(日) 13:18:57.11
キュウべぇ 「そこはね、僕にもわからない。けど、はるか遠い昔、こちらの宇宙が生まれて間もないころ。始原の宇宙にはゲッターが存在していたんじゃないのかな」

ほむら 「・・・」

キュウべぇ 「そこで、僕たちの先祖と何らかの関わりがあって、役割を引き継いだ者が、僕たちインキュベーダーとなった」

竜馬 「・・・」

キュウべぇ 「そうは、考えられないかい?」


進化をもたらすエネルギー体であるゲッター線。

そして、エネルギーを集める過程で進化をもたらして来たキュウべぇ。

関わりがある。そう言われれば頷ける共通点が、確かに両者にはあるようにも思える。

・・・けれど。


ほむら 「それもまた、お前の推測なわけでしょ?」

キュウべぇ 「残念ながらね。そこまで古い記憶は、僕たちのデータベースにも保存されていないんだ」

武蔵 「ほ、ほらみろ!結局お前の想像じゃないか!」

キュウべぇ 「では、他にこの現象を、どのように解釈すればいいのか。説があるなら、僕はぜひ聞いてみたい」

武蔵 「うぐっ、そ、それは・・・」

76: 2015/09/13(日) 13:21:37.23
ほむら 「・・・お前たちにとって私たちの進化は、エネルギーを得る手段の、単なる副産物ではなかったの?」

キュウべぇ 「長い積み重ねの中で、主と従が逆転してしまう現象は、君たち人類の歴史の中でもまれに見られる出来事だろう?」

ほむら 「・・・」


ああ言えば、こう言う。

そう吐き捨ててやりたいけれど。

だけど一概に、キュウべぇの誇大妄想と笑い飛ばせない何かが・・・

そう、まるで心の隙間に、ぴったり収まるピースが見つかったかのような。

そんなしっくりした感覚を抱いているのもまた、悔しいけれど事実なのだ。


竜馬 「分かった・・・いずれにしても、推論以上の答えは出てこない。そういうわけだな」

キュウべぇ 「残念ながらね」

77: 2015/09/13(日) 13:23:22.96
竜馬 「最後の説だけは、納得できないが・・・」


言葉を区切った竜馬が、私へと向き直る。


竜馬 「いま聞きたい事は、とりあえずは聞き終えたという訳だ。だからな、暁美」

ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「今後はワルプルギスを倒す事だけに注力する。その後の事は、その時だ」

ほむら 「ええ」

竜馬 「武蔵も、今はそれで良いな?」


武蔵 「・・・ああ」


ほむら (・・・あれ?)


竜馬に問われて頷いた武蔵の返事に、私は何か言葉にしきれない想いを感じた。

なにか、決意を秘めたような。

いや、それよりもむしろ・・・決意を新たにした?

そんな断固とした意志をにじませた返事。

根拠はないけれど、そう思えたのだ。

78: 2015/09/13(日) 13:25:10.89
ほむら 「・・・」

武蔵 「ん?どうかしたか、ほむらちゃん。俺の顔をじっと見ちゃって」

ほむら 「う、ううん・・・なんでもないわ」


だけれど、私の視線に気がついてかけられたのは、優しみのこもった普段とおりの武蔵の声。


武蔵 「そうかい?」

竜馬 「暁美。こんなのは、見とれるような顔でもないだろう」

ほむら 「・・・別にそんな事は」

武蔵 「おいおいリョウ、ひどい言いようだな。こんな美顔、そうそうお目にかかれるものではないぜ。見とれるのも分かるってものですよ」

竜馬 「一生言ってろよ」

ほむら 「・・・」


気のせいだったのかしら。

79: 2015/09/13(日) 13:25:58.52
だけれどあの時、私は確かに。

武蔵の内から湧きだすような、熱い意志を感じたのだ。

竜馬ほど表には出さないけれど、武蔵だってゲッターで戦い抜いてきた歴戦の勇士。

心の内にたぎるような決意を秘めていたとしても、おかしくはない。


ほむら (でも、それが何なのか・・・それとも、そもそも私の勘違い?)


・・・分からない。

答えなど見いだせないまま、今日の集まりは散会となったのだった。

87: 2015/09/26(土) 20:26:34.45
・・・
・・・


そして、時間は流れてゆく。

私も学校生活に限っては、以前と変わらない日常を過ごしていた。

すでに志筑仁美が行方不明となってから、数日が経つ。

日が経つにつれて、クラスメイトからは、彼女の話題が遠ざかって行きつつあった。

残酷だとか、薄情だとか言ってはいけない。


ほむら (みんな、日常を懸命に生きなくてはいけないのだから・・・)


それに、口に出したところで、非力な中学生の身でできる事など、心配すること以外には何もないのだ。

そんなの辛すぎるから、あえて誰も触れなくなる。

それで良いと思う。


ほむら (ただ、本当に彼女の事を大切に思っていた人たちの心の中で、忘れられずに生き続ける事さえできれば・・・)

88: 2015/09/26(土) 20:27:21.71
ふと、教室の窓から外を眺める。


ほむら 「・・・」


今日は曇り空。

暗雲垂れ込める雲の向こうから、ひしひしと伝わってくる怨念にまみれた波動。

ここからでも分かる。すぐそこまで来ているのだ。 


ほむら (ワルプルギスの夜・・・)


ワルプルギスの夜は、どの時間軸においても、毎回たがわずに同じ日にちに見滝原を襲撃してきた。

今回も、その法則は覆らないだろう。

だって、こんなに近くに奴を感じる。


ほむら (明日、か・・・)


いよいよだった。

89: 2015/09/26(土) 20:30:37.54
この時間軸を守り通せるのか、否か。

竜馬と出会い、マミたち魔法少女と心を通わせ・・・

はじめて、まどかだけではなく、時間軸に絡むすべてを守りたいと思える事ができた、この場所。

ここに来たことが、ここで得られた出会いのすべてが正しかったのか。

それとも、いつもと同じ結末に終わるのか・・・

その結果のすべては、あした判明する。

そして、幾度も繰り返してきた”明日”という日は・・・


ほむら (たぶん、もう無い・・・)


何となく、私にはわかるのだ。

91: 2015/09/26(土) 20:33:24.34
きっと、この時間軸を守り通せなかったなら、その時こそ私はどん底の絶望に陥ることになるだろう。

・・・ソウルジェムを、これ以上ないほどに真っ黒に染め上げるほどに。

だから・・・


ほむら (次の時間軸なんて、もう無いんだ)


そう思えるほどに私にとって、この時間軸は大切な場所となっていた。


ほむら (絶対に守り抜いて・・・勝ってみせる)


まどかのため。仲間たちのため。人として生きていくさやかのため。

大切な人を想うあまり、散らせてしまった仁美の命のため。

そして・・・そして、私自身のためにも。

92: 2015/09/26(土) 20:37:13.04
竜馬 「あまり、気負いすぎるな」

ほむら 「っ!」


ポンっと肩をたたかれ、私は現実の世界へと引き戻された。

気がつけば、時間はすでに放課後。周りの生徒たちも、三々五々と帰り支度を始めていた。

ずいぶんと長い時間を、私は思索の中で過ごしていたようだ。


ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「お前の予想が正しければ、いよいよ明日だな」

ほむら 「ええ」

竜馬 「で、今日はこれからどうする?」

ほむら 「今日はゆっくり休みましょう。明日は厳しい一日になる。英気を蓄えておかないと」

竜馬 「賛成だな。準備は万端。グリーフシードも充分な数が集まったわけだし」

ほむら 「ええ、あれだけ集めてだめなら、あとはもう何個集めたって、きっとだめって程にね」

93: 2015/09/26(土) 20:39:42.90
竜馬 「じゃ、一緒に帰るか?」

ほむら 「ううん・・・」


ふっと、まどかの席に目を移す。

彼女はまだ自分の席に座っていた。

というより、何をか言いたげな瞳で、じっと私の方を見ている。


ほむら 「私、まどかと一緒に帰るわ。話しておきたい事もあるし・・・」

竜馬 「そっか、分かったぜ。じゃ、明日な」


あっさり踵を返そうとした竜馬の袖を、慌てて掴む私。


ほむら 「あ、待って・・・」

94: 2015/09/26(土) 20:41:02.18
竜馬 「ん、どうした?」

ほむら 「今夜は・・・今夜も来てくれるんでしょう・・・?」

竜馬 「お前の部屋にか?まだ何か、話しておきたい事でもあるのか?」

ほむら 「そうじゃない、けれど・・・」

竜馬 「・・・?」

ほむら 「不安なのよ。私だって。お願い、今夜は一緒に・・・一緒にいて欲しいの」

竜馬 「・・・」

ほむら 「・・・」


なかなか返事をくれない。

いぶかしんで彼の顔を見上げてみると、どことなく複雑そうな表情をした竜馬と目が合った。


ほむら 「あ、もしかして、何か都合でも・・・?」

竜馬 「そうじゃないが、お前の言い方がな・・・」

ほむら 「???」

95: 2015/09/26(土) 20:43:05.20
竜馬 「いや・・・まぁ、分かったぜ。俺だって、不安がないと言ったらウソになる。誰かと一緒にいたい時だってあるってもんだ。行くぜ」

ほむら 「うん・・・!」


竜馬の返事を聞いて、途端に胸のつかえが氷解したような気持になる私。

どうしてだろう。分からないけれど・・・

なんだか今は、無性に竜馬に甘えてみたい気持ちなのだ。


そうして。

竜馬が教室を出るのを見送ってから、私は席を立つ。

向かうのは、まどかが待つ彼女の席。


ほむら 「まどか」

まどか 「ほむらちゃん・・・」

ほむら 「話があるわ。一緒に帰りましょう」

まどか 「うん」

96: 2015/09/26(土) 20:45:19.66
・・・
・・・


私の部屋とまどかの家の中間点。

互いが心を通わせる事ができた、あの公園で。

あの時と同じブランコに腰かけた、私とまどか。

ふと見上げてみれば、空は相変わらず、どんよりと曇ったまま。

今にも雨が噴出してきそうな分厚い雲に覆われている。


ほむら (だけれど私は知っている。あの雲に潜んでいるモノが、雨なのではなく魔女だという事を・・・)

97: 2015/09/26(土) 20:49:04.80

まどか 「ほむらちゃん、話って・・・なに?」

ほむら 「あ、うん・・・まどか、明日なのだけれど」

まどか 「ワルプルギスの夜・・・来るんでしょ」

ほむら 「分かるの?」

まどか 「うん。何となくだけど、とても大きくて悪い気配・・・みたいなものを感じるの。あっちの空のむこうから」

ほむら 「・・・まどか」

まどか 「それって、この前ほむらちゃんが話してくれた、最強最悪の魔女の事なんじゃないかなって、そうとしか思えなくて」


さすが、まどか。

魔法少女の契約などしなくても、彼女の類まれな資質は、ワルプルギスの邪悪な気配を鋭敏に感じ取っているのだ。

それでさっき、私の方をもの言いたげな目で見ていたのね。

98: 2015/09/26(土) 20:51:28.67
ほむら 「その通りよ、まどか。明日、この街は壊滅的な被害に見舞われるわ」

まどか 「・・・やっぱり」

ほむら 「ねぇ、まどか。話っていうのは他でもないわ。明日は間違いなく、避難所にご家族と一緒に避難していてね」

まどか 「ほむらちゃん・・・?」

ほむら 「約束して」

まどか 「う、うん・・・」

ほむら 「あなたには、とても不安な時間を強いる事になると思うけれど・・・」


そう。

なにせ、ワルプルギスは結界に隠れず、じかに街を攻撃してくるのだ。

魔女が見えるまどかにとって、成すすべなく避難所で過ごさなければならない時間は、想像以上の恐怖だろう。

99: 2015/09/26(土) 20:55:20.75
だけれど。


ほむら 「街の被害のすべては防げないけれど、避難所の皆の命は何があっても私たちが守るから」


耐えてもらうしかない。

そうして初めて、私は後顧の憂いなく戦いに赴くことができるのだから。


まどか 「うん」


そんな私の気持ちを汲んでくれたように、即座に頷いてくれるまどか。


まどか 「約束するよ。ほむらちゃんが大切に思ってくれている私自身を、絶対に粗末になんかしたりしないって」

ほむら 「それ聞いて、安心したわ」

まどか 「だから、ほむらちゃんも約束して。絶対、絶対・・・元気で私の元に帰って来るって」

ほむら 「当然じゃない。これから私は、まどかやみんなとやりたい事がたくさんあるのだもの」


そう思えるようになった。そんな時間軸と、出会う事ができた。

100: 2015/09/26(土) 20:58:16.74
だから。


ほむら 「帰って来るよ」

まどか 「・・・うん」


頷いたまどかが、すっと右手を差し出した。

軽く握った拳から、かわいらしい小指だけがチョコンと立っている。


まどか 「指切り」

ほむら 「・・・ええ」


頷き返して、彼女の小指に私の小指を絡めた。


まどか 「ゆーびきーりげんまん、うそついたら針せんぼん・・・」

ほむら 「・・・」

まどか 「飲ませないけど、もう口きいてあげない」

101: 2015/09/26(土) 21:00:40.15
ほむら 「それはきついわね。何があっても約束、守り通さないと」

まどか 「うん・・・指きった。うぇひひっ」


勢いよく指を離したまどかが、照れくさそうに微笑んだ。

その頬が赤く上気して見えるのは、申しわけ程度に差し込んでくる夕日に染められたからなのか。

それとも・・・


ほむら (この笑顔・・・これから先もずっと、近くで見ていたいな)


そう、切に思う。

そのためにも、明日は是が非でも勝ちを得なければ。

そんな決意を新たにして、私はまどかと別れて家路へと就いたのだった。

102: 2015/09/26(土) 21:05:19.59
・・・
・・・


その夜。

私の部屋のキッチンにて。

明日は決戦。そのためには精を付け、心と体にエネルギーを蓄えておかなければ。

そう思った私は、腕によりをかけての晩ごはんを用意していた。


ゆま 「えへへ、料理ってなんだか楽しい」

ほむら 「そうね」


私の隣では、せわしげにちょこまかと手伝いをしてくれている、ゆまがいた。

この子と過ごすのも、あと数日だろう。

何日か前に私はゆまから、ワルプルギス戦が終わったら杏子と暮らすという報告を受けていた。

それも良いと思う。口の悪さと裏腹に面倒見の良い杏子だったら、ゆまの事もかわいがってくれるに違いない。

103: 2015/09/26(土) 21:06:37.23
ほむら (私は少し、寂しくなってしまうけれど・・・)


ゆま 「・・・??どうかしたの?」

ほむら 「ううん、何でもない。さ、できたわ。お皿に盛るから、食器を持ってきてちょうだい」

ゆま 「はーい」


心の内が、顔に出てしまっていたかしら。

食器棚に向かうゆまの後ろ姿を見送りながら、こんな事ではいけないなと反省する。

ゆまが自分で決めた事だ。私は笑って送り出してあげるべき。

もう一生会えない訳でなし、寂しいと思ってるなんて、ゆまに察せられたらダメなんだ。

だけど・・・


ほむら (一緒に過ごすうち、あの子の事も私の中で、大きな存在になっていたのかもしれないな)


そう、まるで妹のような。

104: 2015/09/26(土) 21:08:11.65
ほむら (そんな風に思える相手に巡り合えただけで、私は幸せ者なのでしょうね)


ゆま 「ほむらお姉ちゃん。お、お皿・・・もってきた、よ・・・」よたよた

ほむら 「ありが・・・とうっ!?」


声のした方へ振り向いた私が見た物は、何枚にも重ねられたお皿のタワーだった。

グラグラ揺れるタワーの向こうから、ゆまの震えた声が聞こえてくる。


ゆま 「お姉ちゃん、は、早くっ、お皿とって・・・」

ほむら 「わっ、なにもそんないっぺんに持ってこなくても!ちょ、動かないで、落としちゃうから!」

ゆま 「あ、あわわわ・・・」

ほむら 「あ、あぁーーーーっ・・・!」


ゆまの元へ駆け寄ろうとするが、どう考えても間に合わない。

ああ、このままじゃ、晩ごはんを盛るお皿が全滅してしまう。

そうなったらいったい、どうやってご飯を食べたら良いの!?

105: 2015/09/26(土) 21:11:04.50
ゆま 「もう、ゆまダメ」ふにゃっ

ほむら 「ちょーっ!!」


グラグラとお皿タワーの揺れは、もはや最高潮。

あとは上滑りに一番上の皿から床に落ちるだけ。

一瞬ののちには、床に陶器の花びらがまき散らされることになるだろう。

ああ、なんてこと!


ほむら 「食事前に掃除をしなきゃならないなんて・・・!!」

ゆま 「ああああっ!」


バランスの限界に達したゆまが悲鳴を上げる。

私は思わず目を閉じた。やがて聞こえるであろう破壊音に備え、覚悟を決める。

106: 2015/09/26(土) 21:12:51.63
しかし・・・


ほむら 「・・・??」


いつまでたっても、お皿の割れる音は聞こえてこなかった。

代わりに耳に届いたのは。


? 「なにをやっとるんだ、お前たちは」


呆れた色を隠そうともしない、男性の声。

恐る恐る開いた私の目に映ったものは・・・


ほむら 「りょ、リョウ・・・」

竜馬 「呼んでも返事がなかったから、勝手に上がらせてもらったぜ」


いつの間にやら、ゆまが落としかけた皿を軽々と抱えた竜馬の姿だった。

107: 2015/09/26(土) 21:14:51.34
ほむら 「い、いつの間にお皿を・・・」

竜馬 「後ろから駆け寄って、上からヒョイっとな」

ほむら 「どんな俊敏さなのよ、あなたは・・・まるで忍者ね」

竜馬 「大惨事を未然に防いでやったんだ。礼の一つくらい言ってもばちは当たらんと思うぞ」

ほむら 「あ、う、うん・・・ありがとう。ほら、ゆまも」

ゆま 「ありがとう、竜馬お兄ちゃん」

竜馬 「おう。というより、暁美」

ほむら 「なに?」

竜馬 「お前、時間を止めたら、簡単に何とかできたんじゃないのか?」

ほむら 「・・・」

ゆま 「・・・」

ほむら 「あ」

竜馬 「相変わらずだな。で、この皿。どこに置けばいいんだ?」

113: 2015/09/27(日) 11:10:20.38
・・・
・・・


竜馬 「ごちそうさま」


テーブルに並べられた大量の料理をペ口リと平らげ、満足そうにお腹をさすりながら竜馬が言った。

ぜったい余ると思ったのに、どんな胃袋をしているんだろう。


ほむら 「おそまつさま」

ゆま 「竜馬お兄ちゃん、すごいねぇ。たくさんたくさん、食べるんだねぇ」

ほむら 「呆れるほどにね」

竜馬 「そんな言い方はないだろ。俺だって、いつもいつも武蔵みたいにがっついてるわけじゃないんだぜ」

ほむら 「へぇ、本当?」

竜馬 「本当さ。今日は美味い御馳走が山と出てきたからな」

ほむら 「え・・・」

114: 2015/09/27(日) 11:11:47.99
竜馬 「それで、ついつい食いすぎちまった」

ほむら 「そ、そうなの・・・」

竜馬 「これで、明日の決戦への備えは十分。スタミナ補給は万全だぜ」

ほむら 「・・・うん」

竜馬 「どうした。納得いかないってな顔だな?」

ほむら 「そうじゃなくって・・・そんなお世辞なんて言ってくれなくても・・・」

竜馬 「は??」

ほむら 「そうやって、たくさん食べてくれただけで、私は満足だから、だからね・・・」

竜馬 「お前は馬鹿か」

ほむら 「なによ・・・」

115: 2015/09/27(日) 11:15:44.93
竜馬 「お前、俺が心にもない事を言えないたちだってのが、まだ分かっていなかったのか」

ほむら 「そうじゃないけれど、でも・・・」


巴マミに料理を習い始めて、まだ日も浅い。

そうそう教わりに行く時間もないし、ずぶの素人の私の料理が、そんなに早く人に満足してもらえるだけの味になんて、達するはずなんてないもの。

だから手放しで褒められても、どうしてもピンと来ないのだ。


ほむら 「今日の料理も巴さんにもらったレシピを参考にしたから、食べられる味にはなってるはずだけど・・・私の腕なんてまだまだだから・・・」

竜馬 「・・・お前は」


竜馬が、やれやれといった風に、深いため息をつく。


竜馬 「暁美は鹿目のためだったらとことん前向きなのに、自分の事になると途端に自信がなくなっちまうのな」

ほむら 「それは、もともと私は、そういう人だから」

竜馬 「あのなぁ・・・お前がそんなんじゃ、俺は安心して向こうの世界に帰れないだろうが」

ほむら 「・・・っ」

116: 2015/09/27(日) 11:17:26.67
竜馬 「俺は美味いと思ったから美味いと言ったんだ。思った事を言って信じてもらえないんじゃ、俺はどうしたら良いんだよ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「そりゃ、巴マミの腕前からしたら、まだまだなのかも知れない。でも、そんなのは当たり前だ。年季が違うんだ」

ほむら 「うん・・・」

竜馬 「なのに、ここまでの料理が作れるようになった。じっさい大したものだと思う。ゆまが手伝ってくれた事も、大きいと思うがな」

ゆま 「えへへー」

竜馬 「それに、食う側からすれば、料理なんてものは腕前だけじゃないだろう?」

ほむら 「え、それってどういう意味・・・?」

竜馬 「俺にとっては、お前が。お前が作ってくれた料理だったから・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「・・・あ///」

117: 2015/09/27(日) 11:20:23.94
竜馬のセリフは、私の顔を赤く染めるのに十分な威力を持っていた。

そんな私の様子に気がついた竜馬は、慌てて付け足すように次の言葉をつなぐ。


竜馬 「か、勘違いするなよ。仲間が作ってくれた料理だからって意味だからな。他意はないぞ、断じてだ」

ほむら 「わ、分かってるわよ」


そう、分かってる。

きっとそれが彼の本心で、言葉以上の意味なんてないって事は。

それきり、私たち言うべき言葉も見つからず。

しばらく、気まずい空気が場を支配してしまったけれど。


ゆま 「このグラタン、おいしいねぇ」ぱくぱく


屈託のない笑顔で料理を頬張るゆまの何気ない一言が、竜馬と私の間の微妙な雰囲気を弛緩してくれた。


竜馬 「・・・食後の紅茶が飲みたいな」

ほむら 「うん、分かったわ。煎れて来るね」


席を立ってキッチンに向かう私の背中越しに。


ゆま 「こっちのハンバーグもおいしいねぇ」むしゃむしゃ

竜馬 「たくさん食って、大きくなれよ」

ゆま 「はぁーい」


そんな二人の、まるで親子のような会話が聞こえてきた。

119: 2015/09/27(日) 11:23:15.20
・・・
・・・


それから。

食事の後かたずけを終えた私たちは、竜馬と私。その間に挟まれるように、ゆま、と。

ソファーに並んで三人で腰をかけて。

他愛ない話を交わしながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。

明日は決戦だとは信じられないほど、穏やかで静かな空気が、私たちの間を通り過ぎていく。


ほむら (初めてかも。ワルプルギス戦を、こんなに穏やかな気持ちで迎える事ができたのって)


それはきっと、頼れるべき仲間がいてくれるからなのだろう。

孤独ではないという事は、それだけで強い力となってくれる。

その事を、私は竜馬と出会って学んだのだ。

120: 2015/09/27(日) 11:25:00.80
ほむら (それはきっと、感謝してもし足りないほど、大切なことで・・・)


そんな事をぼんやり考えていた私の太ももの上に、ぽてんっと。

軽い衝撃を感じて、私は視線を下へと向けた。

すると・・・


ゆま 「すー・・・すー・・・」


ゆまが静かな寝息を立てながら、私の足を膝枕にして眠りに落ちていたのだ。


ほむら 「あらら」

竜馬 「たくさん食って、満足したら落ちてしまったか」

ほむら 「ちょうど良いわ。普段なら、この子はもう寝ている時間だもの。明日も早いのだし、たっぷり休ませないと」

竜馬 「じゃあ、俺がベッドに運んでくるよ」

ほむら 「起こさないように、そっとね」

121: 2015/09/27(日) 11:26:26.18
竜馬 「分かってるさ」


言いながら、竜馬がそっとゆまの体を抱え上げる。

そのまま寝室へと消えて行き、またすぐにリビングへと戻ってきた。


竜馬 「起こさず、無事に運んで来たぜ。ミッションコンプリートだ」

ほむら 「ごくろうさま」

竜馬 「おう」


ふたたびソファーへと腰を下ろす竜馬。

二人きりになってしまった。

私たちの間を隔てていたゆまもいなくなってしまって、妙に竜馬との距離が近く感じてしまう。

122: 2015/09/27(日) 11:27:32.06
竜馬 「かわいいもんだな」


唐突な竜馬のつぶやきに、思わずドキッとしてしまう私。


ほむら 「え、なによいきなり!」

竜馬 「いや・・・ちょっと思い出してしまってな。向こうの世界での事」

ほむら 「・・・?」

竜馬 「向こうにもさ、小さい友達がいたんだよ。そいつは早乙女博士・・・まぁ、俺たちのボスの息子だったんだがな」

ほむら 「え??」

竜馬 「元気って名前でな。名前の通り、元気なガキだったよ。それに比べたらゆまはだいぶん大人しいが、小さい子供を見てると思い出してしまってな」

ほむら 「え・・・かわいいって・・・」

竜馬 「だから、ゆまの事だよ」

ほむら 「・・・あ」

竜馬 「・・・??」

ほむら 「あああー・・・」

123: 2015/09/27(日) 11:29:27.74
竜馬 「な、なんだよ、急に。頭抱え込んだりして、いったいどうし・・・あ、もしかして、お前」

ほむら 「・・・言わないで」

竜馬 「自分が言われたって思ったのか?かわいいって・・・」

ほむら 「言わないでって、言ってるのに・・・」

竜馬 「それは、勘違いさせて悪かったな・・・」

ほむら 「・・・」


別に竜馬は悪くない。

ただ、どうしてだろう。

最近竜馬と一緒にいると、私は不思議と自意識過剰になってしまう。

食事の時だって、そうだった。

いったい私、どうしてしまったんだろう。

124: 2015/09/27(日) 11:30:58.61
竜馬 「まぁ、なんだ。お前だってかわいいぜ。けっこうな、うん」

ほむら 「・・・付け足されるように褒められたって、嬉しくない」


それになんだか、ちょっと今。

私は、面白くない気分だ。


竜馬 「別に、付け足しってわけじゃないんだがな」

ほむら 「それに、ゆまと同じニュアンスでかわいいって言われても、嬉しくないし」

竜馬 「あー、まぁ・・・そりゃそうか」

ほむら (むすっ)

竜馬 「まいったな、こりゃ・・・」


困ったように頭をかいていた竜馬が、あ・・・とつぶやいて、私の顔をまじまじと見つめてきた。


ほむら 「な、なに??」

125: 2015/09/27(日) 11:32:13.67
竜馬 「お前、俺にかわいいって言われたかったのか」

ほむら 「なっ!ななな、なに言ってるの!?そ、そんなこと・・・そんなこと・・・!」


そんなこと・・・


ほむら 「そんなこと・・・ちょっと、あるかも、知れないけど・・・」

竜馬 「暁美・・・」

ほむら 「そういえば、ちょっと気になっていた事があったんだけど・・・いい機会だから、聞きたい事があるの」

竜馬 「なんだよ、唐突だな」

ほむら 「私、あなたの事をリョウって呼び始めてけっこう経つけれど、リョウは私の事、名前で呼んではくれないのね」

竜馬 「う・・・」

ほむら 「仲間なら、他人行儀は無しなんでしょ?どうして私の事は、ほむらと呼んではくれないの?」


そう。竜馬はずっと。

私の事を、かたくなに”暁美”と呼び続けてきた。

それはどうしてなのかなって、このところ疑問に思っていたのだ。

126: 2015/09/27(日) 11:34:49.73
竜馬 「そ、それは・・・だな・・・」


困り顔の竜馬。

今度は私の方が、そんな彼をまじまじと見つめてみる。

竜馬を困らせる事が、なんだか少し楽しい。


ほむら 「ねぇ、どうして?」

竜馬 「それはな、女性の名前って、男以上に大切じゃねぇか」

ほむら 「??」

竜馬 「それを軽々しく呼ぶなんてな、親しき中にも礼儀ありというか、そう思ったんだよ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「前時代的というか、何というか」

竜馬 「ほっとけ」

127: 2015/09/27(日) 11:36:38.63
ほむら 「でも、だからこその、流竜馬というべきしら」

竜馬 「・・・」

ほむら 「じゃあ、だったら・・・私から頼んだら?名前で呼んでくれるのかしら」

竜馬 「そりゃぁ、お前が望むんだったら・・・」

ほむら 「じゃあ、お願い」

竜馬 「・・・・ら」(ぼそっ)


照れているのか、竜馬にしては珍しく小声で、よく聞きとれない。


ほむら 「もう一度」

竜馬 「ほむら」


今度は大きな、いつもの彼の声で。

私の顔を見つめながら、はっきりと呼んでくれた。

途端に、私の胸にこみ上げてくる温かい感情。


ほむら 「・・・はい」

128: 2015/09/27(日) 11:38:23.82
竜馬 「・・・おっ?」

ほむら 「ん・・・どうかしたの?」

竜馬 「いや、お前・・・そういう風に笑う事も出来たんだな」

ほむら 「いま?私、笑ってた?」

竜馬 「ああ、初めて見せる顔だったぜ」

ほむら 「そっか・・・」


意識なんてしていなかったけれど。

自然と心が、私を微笑ませたのだろうか。

そう、私・・・作り笑顔なんかじゃなくて。

ちゃんと笑えるように、なっていたんだ・・・


竜馬 「かわいかったと、思うぜ」

ほむら 「え?」

竜馬 「今の顔」

129: 2015/09/27(日) 11:39:37.52
ほむら 「あ・・・う、うん」


照れくさいけれど。

だけれどここは、素直にお礼の言葉を言っておく。


ほむら 「うん、ありがとう」


だって、そう言ってもらえたことが、とても嬉しかったのだから。


竜馬 「明日の今ごろも、そんな顔をして笑っていようぜ」

ほむら 「そうね、ワルプルギスの夜を倒して・・・」

竜馬 「みんな、そろって、な」

ほむら 「ええ」

130: 2015/09/27(日) 11:42:05.24
わがままを言えて、それを聞いてもらえる事ができて。

しかもその結果が、私の望む通りの答えで。

しかも、望んだ以上の言葉も聞く事ができて。

それが嬉しくて嬉しくて、そして・・・


ほむら 「私・・・」

竜馬 「ん?」

ほむら 「リョウに甘える事に、馴れてしまったのかも知れない。だって今、とっても安心している・・・」


心がとても安らいでいる。


竜馬 「甘えられることは、良い事だと思うぜ。今までのお前は、一人で気負いすぎていたものな」


そうだったかも・・・

131: 2015/09/27(日) 11:43:44.19
ほむら 「安心したら、眠たくなってきちゃった・・・」

竜馬 「俺たちも寝るか。明日が早いのは、俺たちだって一緒だ」

ほむら 「そうね」

竜馬 「俺はこのソファーを借りるぜ。お前はゆまと一緒に、ベッドで寝るんだろ」

ほむら 「私は・・・私もここで、リビングで良いわ」

竜馬 「ここで良いって・・・」

ほむら 「あなたの側で眠るから」

竜馬 「・・・どこまで甘えん坊なんだよ」


言いながら、彼は自分の太ももをポンと叩いて見せた。


ほむら 「??」

竜馬 「貸してやるよ、膝枕」

132: 2015/09/27(日) 11:44:55.44
ほむら 「でも、それじゃ・・・リョウが横になれない」

竜馬 「俺はどこでだって寝られるんだよ。それだけの修練は積んできている」

ほむら 「でも・・・」

竜馬 「ふかふかのソファーに背もたれまでついているんだ。寝るには申し分ない。遠慮するな」

ほむら 「あ、じゃ、じゃあ・・・」


恐る恐る、竜馬の太ももの上に頭を乗せる。


ほむら 「うう・・・ごつごつしてる」

竜馬 「筋肉は男の勲章だ。それくらい我慢しろ」

ほむら 「はい・・・じゃ、お・・・おやすみ・・・」

竜馬 「ああ、お休み」

133: 2015/09/27(日) 11:46:47.57
目をつむる。

そんな私の頭の上に、竜馬の掌が優しく置かれた。

そっと、私を撫でてくれる。

まるで、小さい子供を寝かしつけるように。


ほむら 「・・・」


その感触と、伝わってくる竜馬の体温がとても暖かくて。

武骨な竜馬の掌を今、私はとても優しい物のように感じている。

だってほら。

こんなにも心地いい。


竜馬 「ほむら。明日は絶対に勝とうな。絶対に、絶対にだ」


竜馬のそんな声を聴きながら、いつしか私の意識は夢の向こうへと飛ばされていた。

134: 2015/09/27(日) 11:47:58.50
どんな夢を見たのかは、はっきりとは覚えていない。

だけれど一つ覚えているのは、そこには笑顔のみんながいたという事。

もしかしたら、ワルプルギスの夜を倒した後の事を夢見ていたのかもしれない。


そうして、数時間が過ぎた頃。

私は、とある異音のせいで夢の世界から引き戻された。

それは、そう・・・


『ご町内の皆様。本日午前7時、突発的異常気象に伴う避難指示が発令されました』


住民たちへ避難を呼びかける、広報車のスピーカーの音だった。


ほむら 「・・・ん」


朝が来たのだ。

135: 2015/09/27(日) 11:49:27.91
竜馬 「起きたか?」


先に目を覚ましていたらしい竜馬が、私の顔を覗き込みながら言った。


ほむら 「ええ、寝すぎなほどに」

竜馬 「上等だな。じゃあ、行くか!」

ほむら 「・・・うん!」


『付近にお住いの皆様は、速やかに最寄りの避難場所への移動をお願いいたします。こちらは見滝原市役所広報車です』


私たちの運命を決する、運命の朝が。

ワルプルギスの夜が、ついにやって来たのだ!

136: 2015/09/27(日) 11:51:40.21
・・・
・・・


次回予告


最強にして最悪の魔女 舞台装置の魔女~ワルプルギスの夜~

奴がとうとう、見滝原市上空に現れた。

街と、そこに住まう人々の上に、災いと恐怖と嘆きの種をまき散らそうと襲い来たのだ。

そうはさせじと立ちふさがるのは、ほむらを中心に結集したゲッターチームと魔法少女たち。

大切な人々や、想いの詰まった場所を守るため。

深い闇と絶望に、希望の光が立ち向かう。


チェンジゲッター!スイッチオン!


戦えゲッター!負けるな魔法少女たち!

僕たちの見滝原市を守ってくれ!


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第十一話にテレビスイッチオン!

137: 2015/09/27(日) 11:54:44.58
以上で十話終了です。


今回は説明とイチャコラ回で話の動きが少なく、退屈だったかもしれません。

でも、イチャコラ書いてる方は楽しかったです。


ではまた、十一話でもお付き合いいただけたら、嬉しく思います。

139: 2015/09/27(日) 12:08:19.28
乙でした
読んでる方も楽しかったで

141: 2015/09/27(日) 14:48:29.54
乙です

引用元: ほむら「ゲッターロボ!」第十話