2: 2014/05/24(土)23:05:41
「は?」
律子が不意の俺の言葉に呆れた様子で聞いてくる。

「いや、だってさ、失礼かもしれないけど俺より年上であの可愛さだぞ?
普通狙うだろ?」

はぁー。と律子が溜息をつく。

「双方が良ければ、私は何も言いませんよ。アイドルの皆に恋するよりマシですから」

「でさ。今日食事に誘ってみようと思うんだけど…」

「私に聞かないで下さいよ。音無さんならもうすぐ買い出しから帰ってきますから、ご自分で言って下さい」

そうだな。その為に今日、小鳥さんが好きそうな店を探したんだから。

「あんまり、仕事に影響でないようにして下さいね」

「はは。分かってるよ」

だけど、今から考えたら、やめておけば良かったんだ。

あんな事になるなんて、この時は夢にも思わなかった。

4: 2014/05/24(土)23:15:38
「音無さん!あの、もし良かったらなんですけど…」

「お食事、ですか?」

音無さんは、?とした感じで俺を見ていた。

まあ無理もないかなと思っていると、音無さんの顔がみるみる赤くなっていった。

「えっ…それって、その…」

なんか、初々しいなあ。

もしかして、慣れてなかったりするのかな?

それに、押しには弱そうだ。

「はい!俺、音無さんと行きたくて…」

「…わ、私で、良ければ…」

うっわぁ。可愛い。

6: 2014/05/24(土)23:27:34
仕事帰り、行きつけと偽って調べに調べたイタリアンの店に入る。

すると、音無さんはキョロキョロと見渡す。

あれ?まさか、間違えたかな?

「い、いえ!だ、大丈夫です!私、スパゲティとか大好きですから!」

…スパゲティ…か。

流行りとかはあまり知らなそうだなあ。

でも、こういう人の方が分かりやすくていいな。

8: 2014/05/24(土)23:31:42
「じゃ、飲み物とか何にします?」

「そうですねぇ…じゃ、生ち…白ワインで!」

9: 2014/05/24(土)23:36:22
それから音無さんはどうやらこういうお洒落な店より、町の居酒屋の方が好きなのだな、という事が分かった。

いやあ、間違えたかなあ。

「あの、すいませんでした!折角良いお店に連れていってもらったのに!」

音無さんが頭を下げてくる。

悪いのは音無さんの好みを把握していなかった俺なのに。

「いえ、俺の方こそすいませんでした!」

…これから、たるき亭とかの方にしようかな。

12: 2014/05/24(土)23:53:19
それから俺は仕事帰りに音無さんとたるき亭で飲みに行く事が多くなった。

お互い約束はせず、どちらかが行きたいと言ったら行くのだ。

俺はそんな生活に徐々に仕事が楽しくなっていった。

一人暮らしで、帰っても特に何かある訳ではない。

しかし、こうして晩御飯をともにする事で、その寂しさを安らぎに変えられるのだ。

それに、こんな可愛い人と一緒に。

ある日、俺は、音無さんをデートに誘ってみる事にした。

13: 2014/05/25(日)00:02:28
「デート、デェェェトォォォォ!!?」

いきなり大声を出したのでビックリした。

慣れてないんだなあ、ほんとに。

まあ俺もあんまり経験値無いんだけど…

「あの、良ければなんですけど…」

「…でも、やっぱり年下とか、同年代の人たちの方が、良いと思いますよ?」

何だか乗り気ではなさそうだな。

けど、ここで引いたら駄目だ。

「俺、音無さんが良いんです!…ダメですか!?」

ビクッと音無さんの肩が震える。

どうかな…?

「…はい」

14: 2014/05/25(日)00:05:54
やった。

マジでデート出来るんだなあ。

それに音無さんのあの顔。

真っ赤で目をチラチラ。

まるで思春期の女子中学生みたいじゃないか。

…ああ。良かったなあ。

21: 2014/05/25(日)04:05:19
翌週、音無さんとのデートの待ち合わせ。

楽しみで眠気も吹き飛んだ俺は、まさかの1時間前には待ち合わせ場所に来てしまった。

何処かで時間を潰そうか、そう考えて近くの喫茶店に寄ろうか、と思っていると。

いた。

俺よりも早く、とても綺麗な格好で。

音無さんは時計を気にしながらずっと立っていた。

まさか俺よりもずっと前からいたなんてなあ。

まあ、いいか。

予定より一時間多くデート出来るだけの事だし。

そう思い、音無さんの所へ走っていった。

「音無さーん!」
「ふぇっ!は、ははい!!?」

22: 2014/05/25(日)04:07:11
音無さんに聞いてみると、緊張してしまい、時間を間違えたのだと言う。

そんな子供でもやらなそうな事…とも思ったが、彼女なら無理もないか、と考え、朝御飯を何処で済ますかなど話す事にした。

23: 2014/05/25(日)04:15:28
「あ!ここの喫茶店、雑誌で見ました!」

音無さんが不意に一つの喫茶店を指差し、じゃあそこにしますか。となった。

そういえば、いつもより化粧が良い感じだな。

それに、良い匂いがする。

音無さんは、何故この年齢で彼氏がいないのだろうか、とも思ったが、聞かないでおく事にした。

24: 2014/05/25(日)04:21:31
その後、何処か行きたい場所はあるか、と聞くと俺に任せると言う。

「じゃ、映画でも見ましょうか!」

顔を赤くし、コクリと頷く仕草がたまらない。

こんな人に巡り会えるなんてなあ。

見た映画は、巷で話題の恋愛もの。

少し濃厚なシーンもあって、今音無さんはどんな顔をして見てるのかな、と思ったら。

見ていなかった。

俺を見ていたのだ。

俺と目が合うと、サッと視線を映画に戻してしまった。

ああ、惜しい事したな。

今なら、いけるかなと思い、彼女の手に自分の手を乗せると、ビクッとはしたものの、特に何の抵抗も無かった。

今俺はどんな顔をしてるのか。

さぞ幸せそうな顔をしているのだろうな。

25: 2014/05/25(日)04:28:05
映画を見た後、ありきたりだが俺たちは、昼御飯を食べながら映画の感想を述べあっていた。

「いやあ、あの女優さんの演技、素晴らしかったですね!今度アイドルの皆の参考にしますよ!」

音無さんがふふっと笑った。

「?」

「いえ、だってプロデューサーさんたら、デートなのに、アイドルの子達のことを考えてるのかぁって思って」

「あ、いやつい…すいません!」

今度は少しだけテンション高めに笑っていた。

「冗談ですよ。だってプロデューサーさんは仕事熱心ですもんね?それはとても良いことなんですよ?」

「あ、ありがとうございます」

「そう、あくまで仕事なんだから…」ボソッ

「…え?」
「なんでもないですよ♪」

今、何か言ったかな?
まあいいか。それに、好感度も上がったみたいだし。

26: 2014/05/25(日)04:34:53
その後は、服を見たり、事務所に置く小物を見に行ったりで、歩き回っていた。

でも、一つだけ腑に落ちない事があった。

「そういえば音無さん。俺の事名前で呼んでくれませんね?」

そう。プロデューサーさん、と呼ばれる事が嫌だったのだ。

「そ、そうですね。じ、じゃあ、私の事も、こ、小鳥って呼んで下さいよ?」

ああ。そうか。
俺が名前で呼ばなかったからか。

しかし、確かに恥ずかしいな。

これじゃ俺も人の事初々しいなんて言えないか。

「こ、小鳥さん?」
「…うーん。さん付けですか。いいですよ!許してあげます!」

「えっと…Pさん?」
「は、はい。じゃあ、今日からお互いこれで行きましょうか!」

「は、はいぃ!!」



(プロデューサーは一応Pって事で)

27: 2014/05/25(日)04:43:25
そして、そのまま晩御飯を食べてお酒が入っている時に、やはり酔ってきたのか、冗談で小鳥さんに聞いてしまった。

「もし小鳥さんが良かったら、今から俺の家に来ませんか?」

沈黙。

あ、やっちまったな。って思った。

しかし、音無さんは怒ることなく、顔を手で隠し、何度も何度も顔を縦にブンブンと振っていた。

耳まで真っ赤だ。

やっぱり、そういうことって分かってるんだよな。

やっば。興奮した。

その後、物凄い震えながら俺についてきて、でも腕は密着していた。

何だか小さい子を誘拐してるみたいだ。

ここで俺はどうにも気になってしまった。

「あの、もしかしたら、初めて、だったり?」

我ながら下劣だ、と思う。

しかし小鳥さんは、静かに一度、確かに頷いた。

おいおい。初デートで体を許していいのか?なんて。

思わないな。据え膳食わぬは男の恥だ。

そして、俺は、自分の家に彼女を招き入れ、まあ、そういう雰囲気にもなるよな。




確かに、小鳥さんは初めてだった。

28: 2014/05/25(日)04:49:02
朝、目覚めると小鳥さんが朝御飯を作っていた。

可愛らしいエプロン姿で。

しかし、俺の家にエプロンなんてあったかな?

ま、いいか。

「Pさん!おはようございます!」

とても元気で、優しい声だ。

まさか朝からこんな可愛い人と一緒にいれるなんて。

天国にでもいるんじゃないか?

それに、ご飯も美味い。

小鳥さん効果で二倍増しだ。

「そういえば、ここにあった春香の写真、知りません?」

「え?知りませんよ?」

あれ?おかしいな…失くしちゃったな。仕方ない、後で謝っておこう。

「いいんじゃないですか?もしかしたら、元から無かったかもしれませんし」

うーん。それはないと思うけど。

まあ、いいか。

29: 2014/05/25(日)04:53:08
さて、今日も仕事だし、そろそろ行くとしようかな。

「小鳥さん、別々に行きましょうか。あまりばれたくないし」

「?どうしてですか?」

小鳥さんは首を傾げる。
いや、流石にばれたら、主に美希とかがやばいかもしれないし。

「大丈夫ですよ。一緒に行きましょ!」

明るい顔で言う。
うーん。まあ途中で会ったと言えばいいか。

あまり細かいことは考えずに、二人一緒に外に出る事にした。

30: 2014/05/25(日)05:37:01
「おはようございまーす」

「プロデューサー、おはようござ…あの、何やってんですか?」

律子は開口一番、俺と小鳥さんを見て、関係を疑ってきた。

まあ、そうなるよな。

「いやあ、途中で会ってさぁ…」
「私達、付き合ってるんですよ!」
「え?」

…え?
……え?

あれ、何だろ、何か違うなあ。

小鳥さん?打ち合わせと、違うんじゃ…?

「何で、嘘をつく必要があるんですか?」

そう言った小鳥さんの目には、光が無かった。

まるで、氏んだ魚のような。

昨日までのあの透き通ったような瞳ではなく、濁った眼だ。

律子は律子で、口をぽかんと開けて、汗が吹き出している。

「いや、その、嘘ではないというか…」

「…私達、付き合ってますよね?」

有無を言わさぬ迫力。

俺は、本能的に首を縦に振る他無かった。

違うと言えば、ここで氏ぬのではないかと思ったからだ。

この人の眼に、俺は恐怖してしまった。

初めてだ。
氏の危険を感じるなんて。

31: 2014/05/25(日)05:44:00
「ま、まあ、節度を保ってくれるなら…」

律子も、小鳥さんの迫力に圧されてそれ以上は何も言わなかった。

そして、小鳥さんはというと。

「じゃあ、今日もお仕事頑張りましょうね!Pさん!」

またいつもの可愛らしい笑顔に戻っていた。

さっきのあれは、幻だったのか…?

そうであってほしいと、願う事にした。

32: 2014/05/25(日)05:52:13
しかし、それは結局幻では無かった。

あれから小鳥さんは、俺に近づく女性、アイドルの子達、果ては律子にまで、言い知れぬ迫力で遠ざけていた。

小鳥さん、一体どうしてしまったんだ?

あの初々しい、ウブな小鳥さんは何処に行ったんだ?

そんな生活も続いていくと、段々窮屈になっていた。

何にせよ、仕事が捗らない。

それに、このままでは俺の胃袋が荒れて入院コースになりそうだ。

いずれ小鳥さんとちゃんと話し合わなければならないかな、と思い家のドアに鍵を差し込むと。

いた。

あのエプロン姿で。

まるで、新婚夫婦のように。

当然の如く、料理を作っていた。

何をしてるんだ?

俺の家は知ってるはずだけど、鍵は渡していない。

それに、何の連絡も無かった。

口がうまく開かず、ただ小鳥さんを凝視するだけ。

しかし、向こうはというと。

「おかえりなさい!ご飯出来てますよ?」

何なんだ、この人は。

俺はそんな事頼んでいない。

後ずさる俺にゆっくり迫ってくる小鳥さんは、まるで幽霊のようだった。

33: 2014/05/25(日)06:01:58
しかし、包丁を持って迫ってくる小鳥さんに何も言えず、俺はされるがまま食卓に並べられた夕飯を食べた。
いや、食べさせられた。

ちくしょう、美味い。

けれど、何なんだ。

俺はこんなプレッシャーを感じる生活、望んでない。

ただ、少しずつ結婚に近づけばいいかななんて考えてただけ。

そして、今分かったのは、あのエプロンは元々小鳥さんの物。

どう考えても、あれは俺のじゃないから。

彼女はあの日、俺の家に行く前提でデートしていたのだ。

背筋が震える。

それにずっと見てる。

俺の事を。

食べづらいったらありゃしない。

「あの、小鳥さんは食べないんですか?」

「食べますよ?Pさんが食べた後に、ね?」

ね?と言った時、彼女の瞳はまたあの氏んだ魚のような瞳だった。

もうやばい。

この人とは別れなきゃ。

俺の本能がそう告げている。

「あ、あの小鳥さ…」

34: 2014/05/25(日)06:03:42

…しかし、駄目だった。

言葉は出ない。

机の下に隠してはいるものの、まだ彼女は握りしめている。

さっきの包丁を。

ここで別れようなんて言ったら、どうなる?

間違いなく、彼女は俺を突き刺すだろう。

やりかねない。今のこの人なら。

無言でふふ、と笑う小鳥さんは、俺の中ではもう人間として見れなくなっていた。

ひたすら、飯を口に運ぶ。

「ふふ。そんな美味しいですか?嬉しいなあ」

何とかしなきゃ。何とかしなきゃ。

このままじゃ、俺はいつか殺される。

そんな考えが俺の頭の中を巡っていた。

35: 2014/05/25(日)06:49:04
その後、飯は三食取ってはいるものの、どんどん痩せていく。

食べても食べても吐いてしまうのだ。

「プロデューサーさん、大丈夫ですか?」

春香が心配そうに覗いてくる。

ああ、お菓子作ってきてくれたのか。

だけど、今の俺には焼け石に水というものだ。

「ごめんよ春香。ちょっと食欲無くて…」

「そうですか…じゃ、じゃあ、せめてお家に持っていって…」
「何をしてるの?春香ちゃん?」

そこには小鳥さんが立っていた。

眼はそのままで、口だけが笑っていた。

やばい。
春香が危ない。

何でもない、と言おうとしたが、春香に止められた。

小鳥さんの前に立ち、一切目を逸らさずに小鳥さんを見据える。

「…プロデューサーさんとお付き合いしてるのは知ってます。けど、プロデューサーさんに何かあったら、私達、許しませんからね!!」

春香はそう言って、小鳥さんをドン、と押して出ていった。

何も無かったかのように小鳥さんはしゃがんでいる俺の前に座り、静かに俺の背中をさする。

「大丈夫ですか?何か、されたんですか?」

何もされてない。
いや、まさに今、俺はダメージをくらっている。

やめてくれよ。もう、やめてくれ…

37: 2014/05/25(日)06:56:27
小鳥さんの押しかけ女房は止まること無く、毎日俺の家にいた。

勿論、不法侵入だ。

何処からか、合鍵を仕入れたらしく、平気な顔して入ってくる。

だから、今日だけは、今日だけは是が非でも家には入れない事にした。

チェーンを掛けて、窓も閉めて、カーテンも閉めて、ケータイも切った。

これで、大丈夫だ。

鍵を開けても、入れなければ流石に帰るだろうし。

そして案の定、彼女は家にやってきた。

すかさずベッドに潜り込む。

鍵を開ける音。

そして、ドアが少しだけ動く。

しかし、そこからは動かない。

帰ってくれ、頼むから。

しばしの沈黙の後、やっと帰ったと思い、布団から顔を覗かせたら。

いた。

ドアの隙間から、じっと俺を見つめている。

「ああ~。なぁんだ。起きてるじゃないですか」

38: 2014/05/25(日)07:04:36
「ひっ…」

思わず声が出る。

すると小鳥さんはチェーンに手を伸ばし

何度も

何度も

何度も、引きちぎろうとしていた。

「ねえ、開けて下さいよ。これじゃあ、入れないですよぉ」

何度もガチャガチャとする音を聞きたくなくて、耳栓をして耐えることにした。

布団に潜り、じっと耐える。

恐くて、恐くて仕方なかった。

そして、10分程だろうか。

もう静まっただろうと、おそるおそる耳栓を外し、布団から少し顔を出した。

あれ?

視界がぼやけてるのかな?

ドアが見えない。

俺の目に映ったのは


小鳥さんの顔だった。





「おはようございます、Pさん」

41: 2014/05/25(日)12:45:41
え?

何で?

何で、小鳥さんが目の前に?

…ああ。

そうなのか。

小鳥さんの左手には、チェーンカッターが握られていた。

これでぶった切ったのだろう。

まるで、自分の家に帰ってきたかのように、小鳥さんの笑顔は純粋だった。

そして、その左手がすうっと動く。





そして、腹部に違和感。

熱っ。

痛っ。

あれ?

「こ、小鳥…さ、ん…」

「Pさんが悪いんですよ?勝手に閉め出したりするから」

43: 2014/05/25(日)13:06:24
・・・・。

「!」

気づくと、俺の目に見知らぬ天井が映った。

「ここは…!!いってぇ…」

起きようとすると、腹部の傷が痛む。

やはり、俺は刺されたのか。

おまけに動けない。

両手両足を縛られている。

やばい。

痛みも気にせず、暴れる。

こんな状態で冷静にいられるか。

「あんまり暴れると、傷口が開きますよ?」

頭側の方から小鳥さんの声がする。

目だけを横に向けると、小鳥さんの影が来るのが見えた。

「ほら、安静にして下さいね?」

もう、小鳥さんの瞳は濁ったままだった。

そして、お粥だろうか。

スプーンで掬い、息を吹きかけて冷まし、俺の口に持ってくる。

多分、食べなかったら今度はもっと酷い目に遭うだろうな。

プライドよりも生きることを優先した俺は、素直に応じることにした。

まあ、お粥は美味かったが。

44: 2014/05/25(日)13:17:07
それから、小鳥さんは俺の体をタオルで拭いたり、飯を食べさせたり、一番嫌だったが排泄の処理までやられた。

恐らく、俺を依存させるつもりなんだろう。

だが、それだけは意地でもしなかった。

俺からは何一つ言わない。

食事も、トイレも何一つ。

氏にたくはないが、このままでは氏んだも同然だ。

せめて、人間のまま氏にたいんだよ。

そんな事を考えていると、流石に小鳥さんにも分かってしまったようで、一週間ほど経った時、ついにその時は訪れた。

「Pさん、喋らないなら、この口、いりませんよね?」

小鳥さんは、糸と針を持って、俺に迫ってきたのだ。

45: 2014/05/25(日)13:28:50
多分、縫うつもりだろうな。

最後の力を振り絞り、抵抗する。

だが、手も足も動かない。

文字通り、動かない。

俺は、何処からこんな声が出るんだってくらいの声量で叫んだ。

それも、小鳥さんの手で隠されたけどな。

そして、針を俺の鼻下に突き刺そうとした。

その時だった。

ドアからとてつもない音が聴こえたのだ。

何度も、何度も聴こえる。

そして、ついにその扉は破られた。

そこから、三人の少女が飛び出してきた。

一人の少女が小鳥さんにタックルし、取り押さえる。

そして、もう二人は、俺の縛られている手足を解く。

真と、貴音と、響。

やっと、助かった。

そしてその後、俺は三人によって救出された。

47: 2014/05/25(日)13:40:01
やっと、外に出る事ができた。

三人が次々に俺に声をかける。

響や真なんて号泣していた。

俺は掠れた声でひたすらありがとうと呟く。

聞こえているかどうかは分かるが。

すると、貴音が焦った様子で向かってきた。

何だろう。

「小鳥嬢が、小鳥嬢が…!!」

その後の言葉は、今俺が最も聞きたくなかったものだ。

ああ。

まさか、警察が呼ばれる羽目になるなんて。











小鳥さんは、あのチェーンカッターを自分の喉元に突き刺し、生き絶えていた。

50: 2014/05/25(日)21:32:21
氏体確認の為に、一度俺が見る事になった。

腹部の裂傷については、社長から事務所と小鳥さんの尊厳の為と口止めされており、黙っておく他なかった。

大丈夫なんだ。

もう終わった事なんだし、これからは自由なんだから。

少しだけ、後少しだけ我慢しよう。

今氏んだ小鳥さんと目が合っているのは偶然。もしくは幻だ。

睨みつけているように見えるのは俺が疲れているからだ。

もういい、帰ろう…これでやっと終わりなんだし、病院にも行ける。









「あれ?さっき目を閉じてた筈なのに…」

52: 2014/05/25(日)21:51:00
その翌日の朝、重い空気が流れる中、社長が緊急集会を開いた。

小鳥さんは自殺で処理されたの事。

原因等を聞かれても、一切知らないふりをすること。

俺も彼女については忘れろとの事。

勿論、莫大な口止め兼医者代をくれた。

それと、しばらく自宅休養した方がいいということ。

やはり社長の優しさなのだろう。

思わず泣いてしまった。

「泣かなくてもいい。君は何も、悪くないんだから」

すると、律子が少々慌てた様子で俺を呼ぶ。

どうやら二人だけにしておいてほしいらしい。

何だと言うのか。

律子は青ざめた顔で一枚のしわくちゃの紙を俺に震える手で渡してきた。

そこには、小鳥さんからのメッセージがこめられていた。

「私以外の女性を取ったらその人を呪います」

53: 2014/05/25(日)22:04:14
俺はその日から布団に包まって過ごす毎日だった。

こうでもしないと、見られている気がしてならないのだ。

彼女に。

時たま鳴るインターホンにウサギのように驚いてはまた震え出す。

もう、嫌だ。こんな人生。

そうだ。首吊りなら…なんて考えていると、またインターホンが鳴った。

やばい、隠れなきゃと思い布団に隠れようとすると、聞き覚えのある声がした。

「プロデューサー!大丈夫ですか?いたら返事して下さい!」

この声は…真だ。

真。

「…真、なのか?」
「はい!ボクですよ!開けて下さい!」

おそるおそる、扉を開けてみる。

勿論、ドアチェーンはしたままだ。

すると、向こうには真がとても心配そうな顔で立っていた。

目は少し腫れていた。

恐らく何度も何度も泣いたのだろう。

俺は安心して、チェーンのロックを外した。

すると、とんでもない早さでタックルしてきた。

本人は抱きついたつもりなんだろうけど。

54: 2014/05/25(日)22:06:47
「プロデューサー!良かったぁ!生きてた!本物だぁ!」

あんまり頭をグリグリ押し付けないでくれよ。

「あ、あの真、まだ傷口が…」

すると真はごめんなさいと言ってパッと離れた。

55: 2014/05/25(日)22:12:27
真の話によれば、どうやらクジ引きで俺の家に見回りに来る当番になったらしい。

最近は小鳥さんのこともあってか、しばらく仕事は休止しているそうだ。

その間は、こうして見回りに来るのだという。

真はその後食べやすい物をと、雑炊を作ってくれた。

荒れていた家の掃除も文句一つ言わずにこなし、終わると笑顔で帰っていった。

ああ。
何で俺はこの子のことを男みたいだなんて思ったんだろう。

こんな世話役を優しくしてくれるなんて、まるで女の子みたいなものじゃないか。

その日は、久しぶりによく寝れた。

58: 2014/05/26(月)04:54:56
それからは真はほぼ毎日俺の家にやって来てくれるようになった。

こんな俺の為に、だ。

いつもニコニコしていて、全く嫌な顔をしない。

だけど、あまりにも気になって、ある日真に聞いてみることにした。

「なあ、真はどうして俺なんかの為に毎日来てくれるんだ?」

すると真は、少し考えるような顔をした後、俺に背を向けてこう答えた。

「…プロデューサーが大好きだからですよ」

59: 2014/05/26(月)05:23:11
沈黙が流れる。

俺も真も、それ以上は何も言わなかった。

おれは真を後ろから抱きしめた。

自然と、そうしなければならないと思ったからだ。

真は何も言わず、ただ俺に抱きしめられていた。

しかし、こんな小さい体で俺を助けてくれたのか。

それに、温かい。

何だか良い匂いもする。

吊り橋効果なのだろうか。

俺は、真を好きになってしまっていた。

60: 2014/05/26(月)05:33:43
真もまた、一度俺から離れてすぐに抱きついてきた。

言葉は無いが、何となく態度で察することができた。

けれど、俺にはこれ以上は進めなかった。

何故なら、あの小鳥さんの手紙が頭から離れないからだ。

「真、俺は…」
「分かってますよ。小鳥さん…でしょ?」

分かっていたんだな。

「だったら、もう」
「嫌です。このまま帰るなんて」

真の抱きしめる力が強くなる。

もう俺も、考える事をやめた。

所詮手紙なんだ。

大丈夫さ。


この時は、そう思っていた。

61: 2014/05/26(月)05:55:19
朝、ベッドの上で裸で抱き合っている俺たちは、これまでに無いほど気持ちの良い目覚めだった。

真はぐっすりと可愛らしい顔で眠っている。

昨日の痛みに歪んだ顔は可哀想だったが。

今日くらいは、男の俺が朝飯を作ろう。

そう思い、台所に立ち、包丁を手にとった。

その時、後ろから真に抱きつかれた。

「プロデューサー!」

危なかった。
びっくりして、包丁を振り回しそうになった。

「真、危ないぞ?」

「へへーん!大丈夫ですよっと…うわわっ!」

真が転んでしまう。
そして、転んだその先には椅子があって、またバランスを崩したのか、後ろのタンスにぶつかる。

そしてタンスの上から、皿が何枚も落ちてきた。

「真!!」

62: 2014/05/26(月)06:02:36
危なかった。
間一髪で真を助けられた。

もし、俺が真の手を引かなかったら、どうなっていたのか。

恐らく、そういうことだろう。

「大丈夫か!?真!!」
「プロデューサぁ…」

そしてその時、俺の脳裏に浮かんだのは、あの手紙。

私以外の女性を取ったら、その女性を呪う。

もしかしたら偶然かもしれない。

けど、もし、必然だとしたなら。

真は、まさか。

呪われてしまったというのか。

64: 2014/05/26(月)06:10:39
俺はすぐに都内の有力な情報を掻き集めて、有名な霊媒師の元へ真を連れていった。

すると、その人は、真を見る前に俺を見て顔を歪めた。

「あんた、とんでもないものに憑かれたみたいだね」

真も俺を見る。

この人が言うには、俺の背中に凄まじい怨念を纏った女性が見えるのだという。

間違いなく、小鳥さんだ。

「何とか、ならないんですか!?」

難しい顔をしていたが、やれるだけの事はやる、と言ってくれた。

こういう霊は、望みを叶えない限り消えてくれないのだと言う。

その望みとは、何だ。

いや、分かるさ。

俺の命だ。

「俺が氏ねば、真は助かる…」

隣を見ると、真が泣きながら首を横に振った。

「プロデューサーが氏ぬなんて嫌です!」

あの強い真が、こんなに弱く見える。

仕方ないさ。
今の小鳥さんは、最早人間じゃないんだから。

そして、霊媒師の準備が整った。

65: 2014/05/26(月)06:20:03
「では、始めます」

普通こういうのは何日もかけてから始めるのだと言うのだが、そうしないということは、それ程俺がマズいということなのだろう。

霊媒師が俺に向かってお経を唱え続ける。

正しくは、俺の後ろの小鳥さんに向けて、だ。

そして次第に霊媒師の顔に焦りが見えてくる。

どんどんお経が早口になっていく。

ご自分では気づいていないみたいだが、霊媒師の足がどんどん後ろに下がっていた。

そして、その時はすぐに訪れた。

ここにも弟子の人達がいる。

その人達の目の前で。

霊媒師は吹き飛んだ。

壁に向かって、一直線に。

叩きつけられた霊媒師は、もがき苦しみながらも俺に近づく。

「…………!!!」

何かを言っているが、聞こえない。

「ぎ……の……なに……をつけ……」

そして、霊媒師はそれっきり何も言わない屍と化した。

俺達の目の前で、彼は生き絶えたのだった。

66: 2014/05/26(月)06:29:46
まさか、あんな事になるとは。

俺達はただ、呆然とするしかなかった。

もう打つ手段は無いのか。

愕然としていたが、真は違った。

「まだ、打つ手はあるはずですから!頑張りましょうよ!」

あんな壮絶な現場を見ても、真は諦めていなかった。

弱気な顔ではあったが。

だけど、女の子がこんなに頑張ろうとしているんだ。

男の俺がこんなんでどうする。

「まだ何かあるはずだ。一緒に探そう!」

「はい!」

そういった真の顔は、とても可愛らしかった。











後ろから来た車さえ無ければ。

67: 2014/05/26(月)06:36:33
「まこ…と…?」

車はそのまま壁に激突した。

真を押したまま。

そして俺が次に見たものは。

真だったものだった。

物言わぬ、その何か。

血まみれの、肉塊。

真は、原型を留めていなかった。

そして、その運転手も。

「真ぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!」

次の瞬間、引火したガソリンによって燃え盛る車。

まさに、俺の目の前で真は氏んでしまったのだ。

彼女の呪いによって。

69: 2014/05/26(月)06:41:09
律子達の話では、俺の世話役のクジ引きなんてやっていなかったそうだ。

つまり、真は自分の意思で俺のところに来てくれていたんだ。

彼女の意思で、必氏に俺を助けようとしてくれていたんだ。

涙が止まらない俺を、静かに律子はなだめてくれていた。

お通夜には、事務所の皆で行った。

雪歩は、真の棺から離れず、ひたすら泣きじゃくっていた。

真の名前を叫びながら。

俺は、それをただ見ているしかなかった。

70: 2014/05/26(月)06:49:45
そして、俺は一つだけ分かった事がある。

俺が、誰とも付き合わなければ良いだけなんだ。

そうすれば、もう誰も氏なずに済む。

だから俺は、事務所を辞め、一人実家に帰る事にした。

72: 2014/05/26(月)07:02:58
実家に帰り、数日。

珍しく客が来た。

「はい、今出ます」

こんな田舎に何の用だろうか。

「ハニー!!」

扉を開けた途端、美希が抱きついてきた。

73: 2014/05/26(月)07:09:19
この家の事は社長にしか言っていないはずなのだが、どうやら美希は何かから調べたらしい。

それに、迷いに迷った挙句のこれだそうだ。

泥だらけで、足も擦りむいている。

よっぽど走り回ったのだろう。

そんな姿を見ては、さすがに帰れとは言えなかった。

「とりあえず、風呂に入れ。
一日くらいなら泊めてやるから」
「やなの!ここでハニーと暮らすの!」

忘れていた。
この子はこういう子だったよ。

いつも一途に俺を好きでいてくれる。

だからこそ、氏なせる訳にはいかないんだ。

「お前まで氏なせたくない!分かるだろ!?俺は小鳥さんに呪われてるんだよ!!」
「そんなの知らないの!美希はハニーが好きなの!」

俺は、もう手段を選ばなかった。

美希の頬を、思いっ切り引っ叩いたのだ。

74: 2014/05/26(月)07:15:21
「は、ハニー?」

何が起きたか分からない顔をしている。

しかし、俺は二発、三発と引っ叩いた。

「分かったか…俺は、こんな、女の子に手を、あげる、やつなんだよ…」

こうする他ない。
いっその事、嫌われてしまえば良いのだから。

だが、美希はそれでもハニーと呼び続けた。

そのうち、俺の手が痛くなってきた。

「もう、やめてくれ…俺なんかの為に、氏なないでくれよ…」

だらりと腕が下がる。

美希はそんな俺を見て、ぎゅっと抱き寄せた。

「ハニーがそんな人じゃないって美希は分かってるよ?だから、もう泣かないで?」

俺は、どうすればいいんだ。

どこまで俺を苦しめれば気が済むんだ。

どこまで、俺を…!!!

「どこまでやりゃあ気が済むんだああああああああ!!!!!」

天井に見えたシミが、俺を嘲笑っているように見えた。

77: 2014/05/26(月)09:22:55
あれから美希は本当に帰らず、俺の実家に泊まっていた。

恐らく、近いうちに何かの災厄が訪れるのだろう。

だが、この子は、この子は守らなくてはいけない。

真のようにしてはいけない。

是が非でもこの子は守ってみせる。

だから、俺は、一人で家を出た。

美希が寝ている隙を狙って。

とにかく遠くまで。

78: 2014/05/26(月)09:30:19
「…はぁ」

どこかは知らないが、物静かな町の片隅。

そこで俺は少し休む事にした。

小鳥さんだって、俺が美希と関係を持たなければ、あの子を頃すことなんてないだろう。

だから、これでいいんだ。

あの子達には輝かしい未来が待っているんだ。

俺みたいな何の取り柄もない男に固執するべきではない。

これで、いいんだ。

しかし、やはり腹は痛む。

まだ、治っていないみたいだな。

病院で手当ては受けたはずなんだが。

ふと気になって、自分の腹を覗いてみると。

腐っていた。

膿が出ていて、赤黒く変色している。

これも、彼女の怨念なのだろう。

だけど、今となってはどうでもいい。

子供達を守れる。

それでいいんだ。

ふと、肩に手が置かれた。

隣を見ると、そこには見覚えのある顔があった。



「真…」

81: 2014/05/26(月)10:28:04
真が、優しい笑顔で俺の隣に座っていた。

見守ってくれているんだな。

でも、お前は守れなかった。

だが真は首を静かに横に振る。

すると、いきなり涙を流した。

どうしたというのか。

何かを言っている。

だが、その声は聞こえなかった。

けれど、口の動きで何となく分かった。

『ご・め・ん・な・さ・い』

82: 2014/05/26(月)10:34:10
すると、すぅ、と真は消えてしまった。

何を謝っているのか。

俺には何も分からない。

けれど、何かの胸騒ぎがする。

まさか、美希が?

痛む腹を押さえながら立ち上がる。

すると、何かが降ってきた。

俺の目の前に。

ぐしゃ、と。

落ちてきたそれは、まだ意識があった。

折れた手足を無理矢理動かして、俺に何かを訴えている。

金髪の女の子。

次の瞬間、俺は美希の名前を叫んでいた。

83: 2014/05/26(月)10:39:13
「は…に…」

俺の声を聞いて集まってきた人達がその凄惨な現場を見て、すぐに駆けつけてきてくれた。

救急車を呼んでくれている人もいた。

そして、美希はぐしゃぐしゃの手を俺の頬にそっと近づける。

「美希!しっかりしてくれ!!」

何か、言おうとしている。

「こ…は…にも…ないの」

だが、そんな事はどうでもいい。

頼むから、早く救急車、来てくれよ。

俺の命なんていくらでもくれてやる。

だから、この子は助けてやってくれ。

「…ね…げ…ない」

それっきり、美希は動かなくなった。

84: 2014/05/26(月)10:45:31
俺に近づけば、その女には災厄が降り注ぐ。

小鳥さんは一生独身でいろとか、もしくは氏ねと言いたいんだろう。

俺はこれからどうすればいい。

もう、何もしたくない。

いっそのこと、本当に氏んでしまおうか。

そのほうが楽でいい。

美希はあれから目を覚ましていない。

何とか生きてはいたが、植物状態。

仮に起きたとしても、最早普通の生活は出来ないらしい。

俺のせいで、また一人犠牲になった。

もう、嫌だ。

美希のいる病院から出た俺は、ただ彷徨い歩いた。

すると、一人の女性が声をかけてきた。

「プロデューサー…」

律子、か。

85: 2014/05/26(月)10:48:33
律子は心配そうな顔で俺を見る。

それもそうか。

髭は生えっぱなし、目にクマを浮かばせ痩せ細ったホームレス。

それが今の俺だからな。

最早喋る気力すら無い俺の腕を、律子はそっと取って765プロまで連れていった。

86: 2014/05/26(月)11:00:48
ソファに座ると、律子がお茶を出してくる。

それを飲む事もせず、ただ下を俯いている俺を、優しく抱きしめた。

悔しかった。

何で、こんな俺に近づくんだ。

こんなみすぼらしくなって、惨めで、おまけに腹の傷は腐っていく。

そして何より、俺に近づけば、真や美希みたいになるというのに。

何で、そんな親切にしてくれるんだ。

「みんな、貴方が大好きだからですよ」

私も、ね。と呼びかけてる。

「やめてくれ…俺が大事なら、もう関わらないでくれ…お前達が傷つくのを見るのは、もう嫌なんだ…」

だが、律子は俺から離れない。

この子は、氏ぬのが怖くないのか。

「怖いですよ。だけど、貴方が氏んでしまうのが、一番怖いんです」

「お前達が氏んでしまえば、いずれ俺も氏ぬ」

「あのままほっておけば、貴方、自頃したでしょう?」

「…」

律子は、俺の事をよく理解してくれていたみたいだ。

87: 2014/05/26(月)11:09:33
「だから、ここまで連れてきたんですよ」

悲しくて、悔しくて、ただ涙が溢れた。

一人の女に、翻弄される人生。

そして、犠牲になっていく女の子達。

「お前まで、氏なれたら嫌なんだ」

「貴方に、氏んでほしくない」

平行線を辿る俺達の会話。

いたたまれなくなり、俺は律子を押しのけて事務所を出た。

だが、律子は着いてきた。

どこまでも、どこまでも。

気がついたら、俺達は小鳥さんの墓に来ていた。

88: 2014/05/26(月)11:21:54
「小鳥さん…もう、やめてくれ。もう、充分俺を苦しめただろう?」

小鳥さんの墓は、何も答えない。

「聞いてるなら、答えてくれ。これ以上、何を求めているんだ」

だが、いまだ無言が続く。

「答えてくれよ!おい!!」
「プロデューサー!!ダメですって!!」

律子が墓を倒そうとする俺を後ろから抑える。

騒ぎを聞いて駆けつけた住職が俺達に話を聞いてきた。

事の顛末を聞いた住職は、眉を潜めてポツポツと語り出した。

「あんた、大きな勘違いしてるよ」

「…?」

次の瞬間、住職はとんでもない事を言い出した。

「あんたらが言ってる女ってのは、今あんたの後ろにはいないよ」

…え?

「その代わり、別の奴がいるみたいだね。誰かまでは判別つかないけど」

小鳥さんは、俺の後ろにはついていない。
彼女とは違う別の者がいるというのだ。

だったら、誰なんだ。

いや、だけど、あの手紙は…

だが、よく考えたらおかしな事がたくさんあった。

90: 2014/05/26(月)11:30:10
まず、小鳥さんはいつあの手紙を書いたというのか。

それに、小鳥さんにしてはあまりにも歪な字。

誰の字かなんて判別はついていない。

状況的に、小鳥さんだと決定づけられただけだ。

現に今でもそう思っている。

とにかく、冷静になることにした。

92: 2014/05/26(月)11:50:17
その時、律子の携帯に着信があった。

着信は、社長から。

美希が、目を覚ましたというのだ。

まだ声は出ないらしいが、何とか筆談は出来るらしい。

勿論手は骨折しているので、字はほとんど読み辛いが。

しかし、律子が社長からの話を聞いていると、どんどん顔が青ざめていった。

俺を見ると、震えだした。

いや、やはり俺の後ろだ。

「り、律子、どうしたんだ?」

律子が口を静かに開く。

「あ、貴方の、後ろにいるのは、小鳥さんではありません…」

「え?」

「美希が、言っていました。ほ、本当の犯人は…」

律子はそれっきり口を開かなくなった。

何故なら、住職がいきなり手に取った岩で律子を殴りつけたからだ。

一瞬何が起きたのか整理出来なかったが、すぐに住職にタックルして、律子を助け出した。

何とか意識はあるようだ。

律子をおんぶして逃げると、住職は凄まじい形相で追いかけてきた。

だが、それは住職ではなく、まるでゾンビのようだった。

だから、信号なんて気にしなかったのか、すぐに車に撥ねられた。

93: 2014/05/26(月)11:53:22
「プロデューサー…私はいいから、もう、逃げて…」

「馬鹿言うな!お前を病院に連れていってからだ!」

だが、そんな事、言っている場合ではなかった。

今、広い大通りに出たは良かったが。

周囲の人間全てが、先程の住職のようになっていたのだ。

何なんだ。

何だっていうんだよ!!

俺はとにかく、律子を抱えて逃げた。

必氏に、人通りが無いところを選んで。


そして、辿り着いたのは、どこか分からない湖だった。

94: 2014/05/26(月)12:03:22
「プロデューサー、本当の犯人は、もうすぐやってきます…」

何とか命からがら逃げて、落ち着いた所で律子を降ろすと、彼女が話だした。

「これは、初めから小鳥さんの仕業ではなかったんです」
「小鳥さんは、正常だったんですよ、途中までは」

途中、というのは、俺と付き合う前日だったとのこと。

最もそれは、律子なりの推理でしかないが。

「小鳥さんは、ただ操られていたんです」
「本当の犯人は、元から私達全員を頃すつもりだったんでしょう」
「それを小鳥さんになすりつけていただけです」

そんな無茶苦茶な話、どう信じろというのか。

いや、すでに体験しているか。

でなければさっきのゾンビもどき達はどう説明するんだ。

それに、俺も何となく分かったんだ。

小鳥さんは自殺なんかじゃなかったんだ。

殺されたんだ。

そして、あの時、小鳥さんを殺害できたのは、血相を変えて小鳥さんが自頃したと言った、あの子だ。

それに、その子なら湖から出てきたよ。

お前が、全ての元凶なんだろ。








「そうなんだろ!?貴音!!!」

96: 2014/05/26(月)12:14:11
「おや、気づいたのですね。あなた様」

貴音は湖から出てきたというのに、全く濡れていなかった。

それどころか、浮いている。

こいつなら、人を操ることなど容易く出来そうだな。

そして、俺の背後霊にでもなれるんだろう。

「初めは、小鳥嬢でした。あの方をまずあのような性格にし、最終的には、私自身の手で殺害しましたよ」

何でだ。何でそんな事を?

「あなた様が、欲しいからですよ。だから、小鳥は許せなかったのです。私の目にかけた殿方を、奪ったのですから」
「そして、その後あなた様の元へ向かおうとした際、真があなた様のお部屋へ入っていくのが見えました」
「朝になっても出てこない。つまりはそういうことなのだ、と分かりました。ですので、排除するほかなかったのですよ」

「たった、それだけの事で…?」

「女性にとっては、重要なのですよ。
…最も美希は、そういう行為自体知らなかったようですから、ね」

だから美希は生かしたというのか。

「初めは確かに全員頃すつもりでした。しかし流石に命の危険を感じたのか、大概のあいどる達は離れてゆきました。
ですが、律子嬢?あなたはちがうようですね」

「…私は、この人には幸せでいてほしいだけよ」

貴音は何も言わず、指をパチンと鳴らした。

何をしたのか。

まさか、律k

98: 2014/05/26(月)12:17:49
「ふふ。なら、絶望なさい。あなたはご自分で、愛しの殿方を殺めたのですから。
…どうやら、聴こえてないようですね」
「さて、あなた様。
参りましょう?二人だけの世界へと…」
「誰にも、邪魔されず、二人で、永遠に、ゆっくりと、愛を育みましょうか」












「これで、もう逃れられない」

101: 2014/05/26(月)12:29:36
あれから、プロデューサーさんは姿を見せていません。

律子さんは精神を病み、実家で療養しているそうです。

そういえば、貴音さんも姿を消してしまいました。

真も氏んでしまい、美希も氏んでしまい、社長もお亡くなりになりました。

私と残りのアイドル達は、黒井社長が引き取ってくれるらしいです。

でも、プロデューサーさんと貴音さんは、一体どこに消えてしまったのか。

それは、誰にも分からずじまいでした。

そういえば、美希が氏んだ理由は、自殺だそうです。

社長といっしょに、病室から飛び降りたのだと。

しかし、つい先程まで看護婦達と普通に会話していたのに、何があったのか、と病院の人達は言っていました。

でも、私はもう、考えるのをやめました。

何でって。

考えれば考えるほど、一つの結論が私の脳裏に浮かぶから。

そして、それを考えると、夢に出るんです。

奈落の底に連れていかれるプロデューサーさんが。

だから、考えたくないんです。

さて、どうしようかな。

今、私の目の前にトラックが迫ってきてる。

…ああ。走馬灯みたいなもんか。

これじゃ口封じってことじゃない。

あはは。よけられないや。

プロデューサーさん、会えるかn

102: 2014/05/26(月)12:31:14


映画の怪談は全然違うしむちゃくちゃ怖いです

103: 2014/05/26(月)12:31:35
おわった…のか?

104: 2014/05/26(月)13:05:09
おわり?

106: 2014/05/26(月)14:12:58
というかこの原作となった怪談って何てタイトル?教えて1

107: 2014/05/26(月)14:51:37
>>104
中田秀夫
「怪談」
江戸時代の話で黒木瞳がヤンデレ幽霊になって主人公を氏ぬまで追い詰める話

108: 2014/05/26(月)17:22:01
最初から見てたぜ!面白怖かった。1乙!
Pが聞き取れなかったとこを知りたい

>>65の「ぎ……の……なに……をつけ……」
>>83の「こ…は…にも…ないの」
    「…ね…げ…ない」

多分>>83の上は「小鳥は何も悪くないの」で
下は「貴音」って言い始めたんだとと思うが・・・

110: 2014/05/26(月)17:44:38
>>108
「銀髪の女に気をつけろ」
「小鳥は何も悪くないの」
「貴音は人間じゃない」

です

111: 2014/05/26(月)18:30:45
>>110
おおおおお!ありがとう!
最後は律子が貴音に操られてPを頃しちゃったのかぁ・・・

引用元: P「音無さんと付き合いたい」