1: 2011/12/22(木) 03:53:48.90 ID:oMtOwFcUo


律「ひぃー、今日は一段と寒かったなぁ」ブルブル

律「ただいまー」ガチャッ


がらーん


律「あれ、梓?」

律「旦那様のお帰りだぞー」キョロキョロ

律「あずさー」

律「どこ行ったんだあの猫娘」

律「……ん?」


2: 2011/12/22(木) 03:54:29.62 ID:oMtOwFcUo

梓「……」

ガラガラ

梓「」ビクッ

律「なんだ、ベランダにいたのか」

梓「び、びっくりするじゃないですか」

律「何してんの。外寒いだろ」

梓「見てください」チョイチョイ

律「上?」

梓「空ですよ、星空」

律「あー、澄んだ星空だな。冬らしい」

梓「むー、そうじゃなくて」

律「なんだよ一体」

梓「ほら、お月様ですよ」

律「……」ポンッ

律「そっか、そういや今日って」

梓「はい、月食です!」

律「それで、ずっとここにいたってか」

梓「はい!」ニコニコ

3: 2011/12/22(木) 03:54:56.02 ID:oMtOwFcUo

律「風邪ひくだろ」

梓「暖かくしてるから大丈夫ですよだ」

律「ほう、どれどれ」ピトッ

梓「ひゃっ!?」

律「ほんとだ、あったかい」

梓「つ、冷たいですっ」

律「梓のほっぺはやわらかいなー」フニフニ

梓「ひゃめてくださいっ」


4: 2011/12/22(木) 03:55:22.75 ID:oMtOwFcUo

律「ほれ、詰めた詰めた」

梓「ちょっ……」

律「よっこいしょと」ドサッ

梓「うー、身動きがとれないです」

律「ベランダ狭いんだからしょうがないだろ」

律「それにさ、こうやってくっついてる方があったかいし」

梓「そうですけど」

律「……」

梓「……」

律「へー、もうあんなに欠けちゃってる」

梓「もうすぐ真っ暗になりそうですね」


5: 2011/12/22(木) 03:55:52.76 ID:oMtOwFcUo

律「は~~……」

梓「幸せが逃げますよ」

律「バイトで疲れたんだ」

梓「お疲れさま」

律「あったかい風呂に入って、ぐっすり眠りたい」

梓「シャワーで我慢してください」

律「え~~」

梓「水道代も光熱費も馬鹿にならないんだから」

律「何だよ、風呂ぐらいいいじゃん」

梓「我が家の家計は火の車なんですよ」

律「ちぇー。じゃさっさと入ろうぜ」

梓「あ、待ってください。まだ月食見るんだから」

律「月が欠けるぐらいで騒ぐなよ」

梓「私はもう一時間以上こうしてるんです」

律「はいはい、早く風呂入るぞ」

梓「月食見たいんですってば」

律「風呂!」

梓「月食!」

律「……」

梓「……」

6: 2011/12/22(木) 03:56:19.40 ID:oMtOwFcUo

律「……分かったよ、待てばいいんだろ待てば」

梓「……はい!」

律「どんぐらい」

梓「あと一時間」

律「え~~、そんなに待つのかよ」

梓「ダメですか……?」

律「……」

律「へーへー、付き合ってやるよ」

梓「!」パアァ

律「たくっ、疲れてんのに」

梓「律先輩が優しくてよかった」ギュッ

律「調子いいこと言ってんじゃねえ」


7: 2011/12/22(木) 03:56:45.62 ID:oMtOwFcUo


ギュウ

梓「♪」

律「……」ハァ

律(今何時だろ)スッ

律「……もう十一時近いし」

梓「明日は日曜だからいいじゃないですか」

律「早く寝たい」

梓「律先輩は私とこうしてるのが嫌なんですか……?」ウルウル

律「……」

梓「私は好きなのに」シクシク

律「お前の嘘泣きはお見通しだ」

梓「ちぇー、昔はよく引っ掛かってくれたのに」

律「ばーか」

8: 2011/12/22(木) 03:57:17.99 ID:oMtOwFcUo

梓「でも……」

律「ん?」

梓「律先輩とこんな風に、ぼーっとしてる時が好きだっていうのは本当ですよ」

律「ふぅん」

梓「律先輩は?」

律「……」

梓「」ジー

律「……別に嫌いじゃないけど」

梓「えへへ。嬉しい」ギュッ

律「……」


9: 2011/12/22(木) 03:57:51.97 ID:oMtOwFcUo



梓「あっ」

律「んー?」

梓「いつの間にか、お月様隠れちゃってます」

律「ほんとだ」

梓「きれいな赤銅色」

律「真っ暗になる訳じゃないんだな」

梓「天の川も一緒に見えて、すごくロマンチックですね」ウットリ

律「月が消えただけで、いつもと変わらない星空だけどな」

梓「……律先輩はデリカシーがありません」

律「うるせ」

梓「ロマンチストは自称ですか」

律「自称した記憶もねーよ」

10: 2011/12/22(木) 03:58:26.18 ID:oMtOwFcUo

律「……」

梓「……」

律「なあ、梓」

梓「なんですか?」

律「月がきれいだな」

梓「へっ? 隠れちゃってますよ」

律「……」

梓「?」

律「うん、そうだな」

梓「変な律先輩」

律(ばーか)


11: 2011/12/22(木) 03:58:56.87 ID:oMtOwFcUo


梓「この前の皆既月食っていつでしたっけ」

律「確か、私が小学生のころ」

梓「そういえば、お母さんと一緒に見た覚えがあります」

律「私は澪と見た」

梓「……」

律「月が全部隠れると、幽霊がいっぱい出るんだぞーって、驚かしてさ」

梓「……」

律「そしたらあいつ、本気で泣いちゃって」

梓「……」シュン

律「何で落ち込むんだよ」

梓「浮気者」

律「いやいや」

梓「そんな小さな頃から澪先輩に手を出していたんですね」

律「お前は何を言ってるんだ」

12: 2011/12/22(木) 03:59:24.24 ID:oMtOwFcUo

梓「」ムスッ

律「拗ねるなよ、めんどくせーの」

梓「ふんだ」

律「よしよし」

梓「……」

律「」ナデナデ

梓「律先輩は、私の頭なでるの好きなんですね」

律「梓の髪やわらかいから、さわり心地がいいんだ」

梓「……」

律「嫌か?」

梓「正直、ちょっと照れくさいかも」

律「……そか」

13: 2011/12/22(木) 03:59:50.18 ID:oMtOwFcUo

梓「でも、律先輩にしてもらうのは好きですよ」

律「……」

梓「大事にしてもらってるんだなって思えて」

梓「とっても、幸せになります」

律「……」

律「なあ、梓」

梓「何ですか」

律「もっと撫でていい?」

梓「はい!」


14: 2011/12/22(木) 04:00:24.19 ID:oMtOwFcUo


律「そっか、あれからもう十年近く経ってるんだな」

梓「次の月食はいつなのかな」

律「さあ、また十年後か二十年後か」

梓「そんなに先の話なんですか?」

律「そういうもんだ」

梓「ざんねん」シュン

律「……」

律(十年後、か。私は一体どうなってるんだろ)

梓「どうしたんですか、急に黙り込んで」

律「別に、何でもないよ」

梓「ふぅん」

15: 2011/12/22(木) 04:00:54.78 ID:oMtOwFcUo

律「……」

梓「ねぇ、律先輩」

律「んー」

梓「何年後になるか分からないけど」

梓「次の月食も、一緒に見ましょう!」

律「……」

梓「ね、こんな感じで二人して」

律「うん。そうだな」

梓「やったぁ」ニコニコ

律「……」


16: 2011/12/22(木) 04:01:28.38 ID:oMtOwFcUo

梓「その時までには、もう少し広い所に引っ越したいですね」

律「私はここで十分だけど」

梓「狭くないですか?」

律「二人で暮らすなら広すぎるくらいだろ」

梓「それはそうですけど」

律「まあ、私はどっちでもいいよ」

梓「ほんとっ?」

律「お前と一緒だったら」

梓「……」

律「あずさ?」

梓「不意打ちは卑怯ですっ」

律「何でだよ」

梓「なんか誤魔化されたみたいで……」

律「んなこと言われても」

17: 2011/12/22(木) 04:01:54.83 ID:oMtOwFcUo

梓「……」

律「……」

梓「わ、私もその」

律「……何?」

梓「律先輩と、一緒にいたいです」

律「そっか」

梓「……」モジモジ

律「ありがと」


18: 2011/12/22(木) 04:02:39.79 ID:oMtOwFcUo


梓「あ、あの」

律「うん?」

梓「キス、していいですか?」

律「聞くなよ、いちいち」

梓「……」

律「いーよ」

梓「」ドキドキ

律(相変わらず、きれいな瞳だな)

律(髪と同じ真っ黒で、じっと見てると吸い込まれそう)

梓「……っ」


チュッ

律「んっ」

梓「……んっ……っふぅ……」

律「っ……」チュウ


19: 2011/12/22(木) 04:03:08.67 ID:oMtOwFcUo

梓「……ぷはっ」

律「もういいの?」

梓「……」

律「私もいいか?」

梓「……聞かないでください、いちいち」

律「いいんだな」

梓「……」コクリ

律「ん、それじゃ」

20: 2011/12/22(木) 04:03:51.12 ID:oMtOwFcUo

梓「……」

律「目、つぶれよ」

梓「そ、そうですね」ギュッ

律「いや、そんな強くつぶらなくても」

梓「は、はい」キュッ

律「……」

梓「あの、律先ぱ」

チュッ

梓「んっ!」

律「ちゅっ……んぅっ……」

梓「ん~~っ……」

律「っん……ちゅうっ……」

梓「んぅっ……んっ……ふぁっ……」


21: 2011/12/22(木) 04:04:28.47 ID:oMtOwFcUo

律「……」

梓「……」

律「ぷはっ」

梓「はぁ、はぁ」

律「大丈夫か、梓」

梓「……」

律「おい、梓」

梓「……」ボー

律「惚けてるし」

梓「……」

律「あーずさ」

梓「……」ポケー

ギュッ

律「……」

律(やっぱ梓、あったかいな)

ナデナデ

梓「……」

ギュウ


22: 2011/12/22(木) 04:05:00.40 ID:oMtOwFcUo

梓「……」

律「……」

梓「りつ、せんぱい?」

律「気がついた?」

梓「はい」

律「ごめ、強引すぎた」

梓「いえ、そんなこと」

律「……」ナデナデ

梓「……」


23: 2011/12/22(木) 04:05:38.74 ID:oMtOwFcUo


梓「あの、律先輩」

律「なーに」

梓「月が、きれいですね」

律「うん、きれいだな」

梓「……」

律「それがどした」

梓「……さっきのお返しですよ」

律「!」

24: 2011/12/22(木) 04:06:13.08 ID:oMtOwFcUo

律「なんだ、知ってんじゃん」

梓「乙女の常識です。むしろ律先輩が知ってたのがびっくり」

律「どういう意味だそれ」

梓「くすっ」

25: 2011/12/22(木) 04:06:52.86 ID:oMtOwFcUo

梓「律せんぱい」

律「んー?」

梓「大好き」

律「……」

梓「律先輩は?」

律「はっきり言ったら、月に想いを託した意味ねーじゃん」

梓「キザ」

律「んだと」

梓「普段あまり言ってくれないのに」

律「だからさっき言っただろ」

梓「はっきり言ってくださいよ」

律「やだよ、恥ずかしい」

梓「シンプルな言葉でも、ちゃんと言ってもらえる方が嬉しいものですよ」

律「……」


26: 2011/12/22(木) 04:07:24.15 ID:oMtOwFcUo

梓「律先輩は嬉しくありませんか?」

律「へっ」

梓「大好き」ニコニコ

律「……」

梓「言ってくれないんですか?」

律「いつか、気が向いたらな」

梓「……いつかっていつ」ムー

律「こうやって、また一緒に月食を見る時とか」

梓「それって大分先の話だって言ったじゃないですか」

律「そうだな。十年後か二十年後か」

梓「けちんぼ」

律「何とでも言え」

梓「胸無し」

律「お前が言うなぁっ」ギリギリ

梓「きゃー♪」


27: 2011/12/22(木) 04:08:04.61 ID:oMtOwFcUo



梓「……」

律「……」

梓「もうすっかり月食終わっちゃいましたね」

律「きれいな満月に元通りってか」

梓「でも、今日は星もすごくきれい」

律「雲一つない、よく澄んだ夜空だな」

梓「……」

律「……」

28: 2011/12/22(木) 04:09:00.81 ID:oMtOwFcUo

梓「私、また一つ増えました」

律「何が?」

梓「思い出」

律「……」

梓「いつかまた律先輩と月食見たときに、今夜のこと話したいです」

律「……」

梓「その時は、ちゃんと言ってもらいますからね」

律「うん、多分な」

梓「多分じゃダメです、約束してください!」

律「へーへー、約束」

梓「指切り」

律「ん」

梓「」律 キュッ

梓「えへへ。今から楽しみ」

律「……」


29: 2011/12/22(木) 04:09:35.64 ID:oMtOwFcUo


律「……」

律(十年後、自分が何してるかなんて知らないけど)

律(とりあえず、こいつと一緒にいたいことは確かだ)

律(十年後、二十年後なんて言わず、その先もずっと……)

梓「りーつせーんぱい」ゴロン

律「もたれるな、重いだろ」

梓「いいじゃないですか」

律「この甘えんぼ」

梓「えへへー」

律(幸せそうな顔しちゃって)


律(……大好きだよ)



End


30: 2011/12/22(木) 04:15:31.21 ID:oMtOwFcUo
短いですがここで終わりとします

余談ですが、次の皆既月食は三年後になるそうです
ただ、今回のような素晴らしい月食が見られるのはもっと先になるんじゃないかと思います

月食ネタで書き始めて早十日・・・
相変わらずの遅筆ですが、できれば年末までにもう一本書きたいです

次回作、また読んでいただけると嬉しいです

ここまでありがとうございました

31: 2011/12/22(木) 04:19:54.54 ID:8657c29Io
とてもよかった

33: 2011/12/22(木) 06:52:40.97 ID:Nky1P/eUo

引用元: 律「きっと思い出の月」