2: 2011/11/28(月) 00:40:07.76 ID:7aar4mj6o
「あぁ、そう言えばそうだった!」

放課後の教室に、
中野梓ことあずにゃん。
いやっ、梓の声が響いた。

「いや、梓……アンタ」

「ふふっ、まぁ。特別なことは必要ないと思うよ」

友人二人に軽く笑われつつ、
梓は深く溜息をついた。

(特別なことは必要ない、かぁ)

部活の先輩の妹である平沢憂がそうは言うものの、
何もしないなんてことは駄目だろう。


実は、明日は憂の姉の平沢唯の誕生日。
すっかり忘れていた梓は、
憂に言われ、ようやく思い出した。

「特別じゃないけど、
何か贈り物とか……でも。なぁ」

梓は一人、自室で溜息をつき、
お世話になってないからいいや。
なんて邪念を払い除けつつ、
財布の中身を取り出してみる。
けいおん!college (まんがタイムKRコミックス)
3: 2011/11/28(月) 00:41:41.91 ID:7aar4mj6o
「……」

小銭が数枚床を転がる。
それ以外に音はない。
もちろん、
紙幣があるわけじゃない。

「うわぁぁぁぁん!」

「梓ー何時だと思ってるの!?」

「お金ないよぉ!」

「遊びすぎの自業自得よ! 良いから寝なさい!」


母親に怒鳴られ、
渋々布団に潜るも、寝れるわけがない。
確かに、
なにか為になることをしてもらってるのか?
そう聞かれれば梓は間違いなく首を横に振り、
文句を並べ立てるだろう。

しかし、
一緒にいてくれることが、
梓にとってはとても有難い事だった。
何か為になるわけじゃない。
むしろ、抱きついてくるのは暑苦しいの分類のはず。

けど、
唯からのスキンシップであるハグは、
梓にとっては大事な1コマだ。
それがなければ、
梓は学校というものがつまらなく感じてしまうかもしれない。
もちろん、
それだけが大事というわけではない。

4: 2011/11/28(月) 00:42:49.13 ID:7aar4mj6o
「どうしよぉ~」

部屋でいくら嘆こうと、ない金は湧かないし、
時間がもうすでに11月27日の00時になってしまって、
時間が無いことも、変えられない。

「あ」

時計を確認して、
携帯を開き、もう一度時計を見る。
00時10分。

「メ、メール!」

急いでおめでとうのメールを打ち込む。
メールを送信して、
とりあえず安心――は出来ないようで。

「も、戻ってきたぁぁぁぁ」

「梓ぁぁぁ!!」

「お母さん携帯代払ってないじゃん!!」

「忘れちゃったわ。てへぺろ
明日で良いじゃない」

「駄目だよ!」

5: 2011/11/28(月) 00:43:35.10 ID:7aar4mj6o
「今日中に払いたいなら自分のお金でよろしく。
この時間、お母さん達の銀行はATMから下ろせないから」

終った。
母親が部屋のドアを閉めて自室へと消える。
梓は打つ手なし。

「しかたない……休みだし、なにか手作りでいこう!」

梓はそう決心し、
適当に家にある裁縫道具をかき集めた。

「……なに作ろう」


何を作るか、
今度はそれで梓の手が止まる。
それほど裁縫が得意じゃない梓に、
人形を作ったりは無理難題。
それも、1日もない時間で。

「マフラーとかは無理だし。うぅ~ん。
憂とかに……あぁ携帯」

溜息しか出ない。
梓は裁縫を諦め、料理雑誌を手に取った。

これなら、
長くても半日程度で、
お祝いの料理が出来上がる。
材料があれば。の話だが。

目に留まるものは多々あれど、
どうやら材料は皆無であり、梓は結局寝ることにした。

6: 2011/11/28(月) 00:44:34.48 ID:7aar4mj6o
「あ゙」

失念。
普段夜更かししない梓は、
つい目覚ましのセットを忘れてしまった。
こうなればもう、
不幸としか言いようがない。

夜更かしに慣れておらず、
体がだるくなってしまうし、
通常通り8時間近い睡眠時間をとってしまう。
寝たのは午前3時。
梓が時計を確認すると、
ちょうど天辺で針が重なった。


「ど、どどどどどうしよう!」

「知るか!」

友人の鈴木純を半ば強引にファストフード店に誘い、
相談するも見事に切り捨てられた。

「大体、唯先輩好きなのに、
誕生日忘れるってどういう神経してんの?」

「……だって、卒業近いから」

「あー……ごめん」

7: 2011/11/28(月) 00:45:22.00 ID:7aar4mj6o
唯達は卒業が近い。
それで、上の空になってることが多い梓は、
すっかり気づかなかった。
それが今回の敗因らしい。

「今からでもお菓子とか作れば?」

「材料ない、お金ない、親いない、お金ない」

「おぉう、絶体絶命」

純の言葉にうなだれつつ、
梓は作戦を練って、
思いついたのかいきり立ち、純を見つめる。

「な、なにさ?」

「お金貸して!」

「ごめん、無い」

なんでファストフード食べたんだろうか。
そんな疑問が梓の頭の中を駆け巡り、
溜息をつく。

8: 2011/11/28(月) 00:46:32.77 ID:7aar4mj6o
「じゃぁ、ね。純」

梓は手を振って、純に別れを

「させるかぁ!」

「は、放してよ鈴木さん!」

「すずっ――金銭の間柄だったの!?」

「……」

「なにか言ってよ!」

「うん」

「えぇ!?」

二人の茶番のせいで、
店長が出てきたことは割愛する。

9: 2011/11/28(月) 00:47:15.99 ID:7aar4mj6o
場所は梓の自宅へと変わった。

「まぁ、真面目にどうしようか」

「いっそ、
プレゼントは私ですってどうよ」

「純をプレゼントしてもなぁ……」

「梓、帰って良い?」

立ち上がった純を止める者は居なかった。

「とめてよ!」

10: 2011/11/28(月) 00:48:23.30 ID:7aar4mj6o
「真面目に答えると、
プレゼントは私です。なんて言っても、
唯先輩は喜んで抱きついてくると思う。
でも、それだといつもと変わらないような気がする」

「そうなんだ、じゃぁ梓から抱きつくのは?」

「なにそれ。愛情こもって無くない?」

「愛情?」

「! え、えっとほら。
気持ちだよ気持ち。尊敬とかそういうさ」

梓はなんとか誤魔化したものの、
純は騙されていなかったりする。
それはさておき、
いつの間にか夕方になっており、
純が帰った後、携帯を開いて見ると、
着信2000件、メール4000件溜まっていた。

11: 2011/11/28(月) 00:49:13.51 ID:7aar4mj6o
「澪先輩達――ってぇ!?
お誕生会とか聞いて無いよ!」

携帯見ていないのだから当然である。
因みに、受信着信は0が3つほど余分につけられるので、
実際は2件と4件である。

「い、行こうかな……でも」

なにもプレゼントできない。
梓は何も持っていない、
いや――ある。
梓はいつもの鞄を手に取った。

「待ってて下さい。唯先輩!」

梓は家を飛び出した。
猫のように。
私は猫であr――。

12: 2011/11/28(月) 00:50:19.70 ID:7aar4mj6o
「あっずにゃぁ~ん」

お誕生会の会場、
平沢邸に辿り着いて早々。
梓は抱きつかれ、すりすり、なでなで、もふもふされていた。
もみもみ、は無理。いや辛うじて――いや、やって無いけど。

「梓、連絡つかないからこないのかと……」

「だから言ったろ、梓が来ないわけ無いって」

「あらあら、唯ちゃん嬉しそう」

先輩の田井中律、秋山澪、琴吹紬の3人に見つめられながら、
梓はいつもの鞄―ギターケース―からムスタングを取り出した。

13: 2011/11/28(月) 00:54:50.52 ID:7aar4mj6o
「ゆ、唯先輩!」

「あずにゃん?」

「な、何かしようと思ったけど、
私、何も作れないし、何もあげられるもの見つからなくて、
でも、何もしないって言うのは嫌だから……」

梓はギターを弾きながら、
ふわふわタイムや、ふでペンボールペンを歌い、
最後に誕生日の歌を歌った。

「唯先輩、お誕生日おめでとうございます!」

梓がそう言って微笑み、
唯を見ると微笑んでいて。そして

「あずにゃんありがとぉぉ~!!」

抱きつかれ、
すりすr以下略。された。
その後は普通に誕生会を終え、
梓だけは平沢邸に泊まったのでした。

14: 2011/11/28(月) 00:57:13.05 ID:7aar4mj6o
ごめん、
めちゃくちゃ短かった。

これで終わりです。

では、HTML依頼してきます。

15: 2011/11/28(月) 07:28:49.39 ID:p6ZZ43cAO
まあ乙

引用元: 憂「明日、お姉ちゃんの誕生日だよ」 梓「あっ!?」