1:◆OhwMOMnhjF9/   2020/10/30(金) 02:27:43.55 ID:f3OMVmU00
ラブライブ!ss六作目です。
今回は少しシリアスかつ長めです。

前回の作品はこちら
希 「絢瀬絵里はハラショー!!」 ニコッ

2: 2020/10/30(金) 02:29:42.21 ID:f3OMVmU00
―Side:海未

―With:穂乃果

海未 「穂乃果!」

穂乃果 「……」 ボッー

海未 「えっ、穂乃果?」

穂乃果 「……どうしたの、海未ちゃん」

海未 「まぁこの際一度無視したのは許しましょう……。実はですね、園田海未、はじめての油絵にチャレンジしてみたのです!!」 キリッ

穂乃果 「油絵?」

海未 「はい! まずはこれを見てください、穂乃果の絵です!!」

穂乃果 「これ、穂乃果?」

海未 「そうです。しかも羽をつけて天使っぽくしてみました!」

穂乃果 「……」 ジー

海未 「えっと、あの、穂乃果?」

3: 2020/10/30(金) 02:30:34.84 ID:f3OMVmU00
穂乃果 「……」

海未 「ど、どうしたのです、急に黙って! もしかしてまた私を無視するつもりですか!?」 ドキッ

穂乃果 「……海未ちゃん」

海未 「えっ」

穂乃果 『ごめんね、バイバイ』

海未 『ほ、穂乃果!?』

穂乃果 『達者でね』

海未 『どこに行くんですか穂乃果! お、お願いです、私を置いて行かないでください、どうか行かないでください!!』






4: 2020/10/30(金) 02:31:50.35 ID:f3OMVmU00
―Side:海未

―With:希

希 「これは最悪なカードやね」

海未 「さ、最悪……ですか?」 ビクッ

希 「きっと海未ちゃんは強いんだろうけど、それは確固とした心の支えがあるから。いつも大切なものがそばにいる人は、強くなれる。逆に大切なものがない人は、簡単に心が折れてしまう」

海未 「……心の支え、ですか」

希 「その心の支えが揺らいだとき、強かった人も弱くなってしまうもの。どう? 海未ちゃんはそんな大切なものが離れたらどうなると思う?」

海未 「大切なものというのは……μ'sのことでしょうか?」

希 「まぁそうやね。でも、大切なものは決して一つじゃない。きっと海未ちゃんの心の根幹はμ'sというよりも……」

海未 「?」

5: 2020/10/30(金) 02:33:06.55 ID:f3OMVmU00
希 『あと、もう一枚のカードの示しによると、二度とウチに頼ってはいけないとも書いてある。だから、もう海未ちゃんは私の元に来れない』

海未 『ええっ!? そ、それは困ります!! 第一μ'sは九人いてこそで……!』

希 『まぁ必然だから仕方ないやん』

海未 『そ、そんな!? じゃあせめて! 希にはこれをあげます!!』 サッ

希 「……これは?」 ユビサシ

海未 「油絵です!! 希の絵を描いてみました! 希はまるで私にとってのマリア、そんなイメージが降ってきたのでささっと描いてきたのです!」

6: 2020/10/30(金) 02:33:59.11 ID:f3OMVmU00
希 「マリアか。なるほどね」

海未 「喜んでいただけたでしょうか?」 ニコッ

希 「……」 シーン

海未 「えっ、あ、あの、希?」

希 「海未ちゃん。強く生きるためには支えが必要だけど、時に支えがなくても強く生きなくちゃいけないこともあるんよ。少しの間だけど、それを忘れないで。強く耐えるんや」

海未 「それはいったいどういう……」

希 『ほな、いつか会うときまで。バイバイ』

海未 『えっ、希!? ま、待って!! 希までいなくなってしまったら私は!!』






7: 2020/10/30(金) 02:34:54.31 ID:f3OMVmU00
―Side:海未

―With:凛

凛 「にゃー。って語尾今更だけど、どうかなー?」

海未 「私は好きですよ。ていうかないと時に不安になってしまうくらいですね!」

凛 「でも凛も、もっと大人になったらさすがにやめるよ?」

海未 「それは困ります……私はそんな凛が大好きなんですから」

凛 「凛の知ってる海未ちゃんはそんな押し付けがましいワガママは言わないにゃ」

海未 「そ、それはそうかもしれませんが」 アセアセ

凛 「決めた! 今決めた! 凛はこの語尾をもうやめるにゃ!!」

海未 「ええっ!?……って早速使ってるじゃないですか」

凛 「あっ」

海未 「ふふ、凛は面白いですね」 クスッ

凛 「バカにしてるでしょ!?」

8: 2020/10/30(金) 02:35:44.92 ID:f3OMVmU00
海未 「いえいえ。あっ、そうだ。せっかくだから凛をモデルにして一枚油絵を描きましょう!」

凛 「油絵?」

海未 「そうです。今ちょうど油絵にハマってまして……」

凛 「そういえば穂乃果ちゃんと希ちゃんに見せてもらってたにゃ。やってみてよ!」

海未 「了解です!!」 カキカキ

凛 「……」 ドキドキ

海未 「……」 カキカキ

凛 「……まだかにゃ?」

海未 「もう、そろそろですよ」 カキカキ

9: 2020/10/30(金) 02:37:10.19 ID:f3OMVmU00
凛 「そういえば海未ちゃんはサインとか決めてるの?」

海未 「園田がひらがな三文字であることと、海未が自然に由来することから、『しぜん』というネーミングにしてみました!」

凛 「まんますぎるにゃ。ていうかそれじゃ、ことりちゃんも三文字かつ自然に由来するから成り立つし、むしろ名字を使わず名前だけでどっちの要素も含んでることりちゃんの方がそれっぽいにゃ」

海未 「ことりも成り立つ……ですか?」

凛 「うん」

海未 「まぁそれはともかく、どうぞ、油絵です」 スッ

凛 「えっ」

10: 2020/10/30(金) 02:38:03.53 ID:f3OMVmU00
海未 「えっ!? もしかして下手でしたか!?」 アセアセ

凛 「い、いや、下手というか、思った絵と違うというか。穂乃果ちゃんや希ちゃんに渡した絵と違すぎない!?」

海未 「えっ、そうでしょうか。うーん、その場で描いたのと事前に描いてきた絵はまた違うのかもしれません」

凛 「そういう問題かなぁ……絵のタッチがそもそも違う気がするけど」

海未 「ちなみに凛は猫のようなイメージで描きました。溢れ出る明るさが特徴です!」

凛 「絵のタッチはまぁいいや、ありがとう! 海未ちゃん!!」 ニコッ

海未 「いえいえ」

11: 2020/10/30(金) 02:40:47.45 ID:f3OMVmU00
凛 『じゃあ、もうバイバイだね。一人でも頑張ってね、海未ちゃん』

海未 『えっ!? ま、まさか凛まで私を置いて行こうと!!』

凛 『ごめんね、海未ちゃん』

海未 「待ってください!! 凛!!」 ガシッ

凛 「えっ!?」

海未 「申し訳ありませんが、しばらくはこの手を離すつもりはありません。もう少しだけ、もう少しだけ一緒にいてくれませんか……お願いします」 グググ

凛 「……分かったよ。帰る時間をもう少し伸ばしてもらうからちょっと待っててね」






12: 2020/10/30(金) 02:41:56.76 ID:f3OMVmU00
―Side:海未

―With:にこ

海未 「今日もいい天気ですね、にこは元気ですか?」

にこ 「そういうあんたは少し痩せたんじゃない? 大丈夫? 無理してない? ちゃんと食べてる?」

海未 「……なぜかなかなか食欲が湧かなくて、最近はあまり食べてませんね。スクールアイドルとしてもやはり体力は大事なので、頑張ってでも食べなければ」

にこ 「スクールアイドル、ね……。自覚してるならちゃんと食べなさい。怒られちゃうわよ?」

海未 「はて、怒られるって誰にです?」 キョトン

にこ 「えっ、い、いや、それはもちろん、μ'sのみんなとか食材の神様とか?」 アセアセ

海未 「それはその通りですね。食べ物を残してしまうのは礼儀が良くないですし……何より命を頂いてるのです。もっとありがたく、ちゃんと食べなければ」 キリッ

にこ 「まぁそこまで難しく考える必要はないけれど、ちゃんと食べるに越したことはないわね」

13: 2020/10/30(金) 02:43:11.20 ID:f3OMVmU00
海未 「以後努力します。そういえば、他のメンバーとは最近会ってないような気がしますが、皆さんどうしているのでしょうか……届けたい油絵があるのですが……」

にこ 「みんな忙しいのよ、スクールアイドルも大変ってことね。それに穂乃果なんて最近読書ばっかりしてるのよ? 急に勉強に目覚めたのかしら、あんな分厚い本なんか持って。でもまぁ……きっと、近いうちにみんな、会えるわ、安心しなさい」

海未 「にこがそう言うなら安心ですね……」 ホッ

にこ 『でも私はもうさよならね。海未、みんな未来を生きてるのよ』

海未 『えっ?』

にこ 『じゃあね、海未』

海未 「ま、待ってください! にこ!!」 ガシッ

にこ 「えっ」

14: 2020/10/30(金) 02:44:46.82 ID:f3OMVmU00
海未 「私を、もうこれ以上私を、置いて行かないでください!! 誰も、誰も、私の前からいなくなって欲しくないのです!!」 グググ

にこ 「……安心しなさい、にこはいなくなんかならないわよ」

海未 「う、嘘です!! だって今私とさよならだって言ったじゃないですか!! そう言って、穂乃果も、希も、凛も、みんな、みんな、私の前からいなくなったんです!!」

にこ 「ちょ、そ、そんなわけないでしょ!!」

海未 「きっと……会ってない他のメンバーも、花陽も真姫も絵里だって! いざ会ってしまえば私のことを見捨ててしまうに違いありません。この油絵だって、誰も喜んでくれません!!」

にこ 「……」 シーン

15: 2020/10/30(金) 02:45:57.32 ID:f3OMVmU00
海未 「……にこ? そ、そうですか、また無視ですか、なんなんですか!! 私をここに置いていって、油絵もいつもみんなしかめっ面で見て! 私が何をしたというのですか!?」

にこ 「違うわよ、海未」

海未 「……違う?」

にこ 「思い出して。本当にみんなはそんなことを言ったの? あんたが無理矢理記憶を変えてるだけじゃないの? μ'sのみんながあんたの前からいなくなると思う?」

海未 「えっ」

―――――

―――


16: 2020/10/30(金) 02:47:08.31 ID:f3OMVmU00
穂乃果 「……海未ちゃん」

海未 「えっ」

穂乃果 『ごめんね、バイバイ』

海未 『ほ、穂乃果!?』

穂乃果 『達者でね』

海未 『どこに行くんですか穂乃果! お、お願いです、私を置いて行かないでください、どうか行かないでください!!』

確かに……。

確かに、ここで穂乃果はそう言って、私の目の前から去ったはずです……いやしかし、それは本当なのでしょうか?

そうだ、本当は、本当は……。

17: 2020/10/30(金) 02:47:57.97 ID:f3OMVmU00
穂乃果 「……海未ちゃん」

海未 「えっ」

穂乃果 「なんでこの絵、天使なのに輪っかがついてないの?」

海未 「それは……えっと、確か……確か、輪っかがあるのは幽霊みたいで嫌だからです! 天使の格好なら羽だけで充分ですし、私たちは生きてるのですから、縁起的に輪っかは描きたくなかったのです……」

穂乃果 「なるほどね……この絵、素敵だと思う。あと嬉しそうに語る海未ちゃんも素敵。そんな海未ちゃんを、二人を、守るのが私の役目だよね?」

海未 「それはいったいどういうことですか……?」 キョトン

穂乃果 「ごめん海未ちゃん。穂乃果、今から行くところがある。でもまた来週ここに来るから、待っててね」 スッ

海未 「来週ですか……穂乃果に会えないと寂しいですね。でも! 大丈夫です! 穂乃果が来てくれるなら園田海未は堂々と待っています!!」 ニコッ

穂乃果 「それでこそ、私の幼馴染み、海未ちゃんだ!!」 ニコッ






18: 2020/10/30(金) 02:49:14.74 ID:f3OMVmU00
で、でも、希のときは!

希 「まぁそうやね。でも、大切なものは決して一つじゃない。きっと海未ちゃんの心の根幹はμ'sというよりも……」

海未 「?」

希 『あと、もう一枚のカードの示しによると、二度とウチに頼ってはいけないとも書いてある。だから、もう海未ちゃんは私の元に来れない』

海未 『ええっ!? そ、それは困ります!! 第一μ'sは九人いてこそで……!』

希 『まぁ必然だから仕方ないやん』

海未 『そ、そんな!? じゃあせめて! 希にはこれをあげます!!』 サッ

希 「……これは?」 ユビサシ

19: 2020/10/30(金) 02:50:11.41 ID:f3OMVmU00
そうです!

いなくなろうとする希を引き止めるために、私はあのマリアの絵を希の目の前に出したのです……あれ、えっ、でも?

ユビサシ

希は絵を指差して私に聞いていた……?

私が希に絵を手渡したのに?

違う、これは違う。そうだ、本当は……。

20: 2020/10/30(金) 02:51:49.53 ID:f3OMVmU00
希 「まぁそうやね。でも、大切なものは決して一つじゃない。きっと海未ちゃんの心の根幹はμ'sというよりも……」

海未 「?」

希 「あと、もう一枚のカードの示しによると、海未ちゃんは決して一人じゃないよ。そして、この暗雲がこもっている現状からもようやく抜け出せそうでいる。今の運勢は最悪でも、未来はきっと輝く。海未ちゃんの心の根幹を、取り戻せるチャンスが来てる……!!」

海未 「希、それはつまりどういうことなのです?」 キョトン

希 「まぁ今は話すべきじゃないかな。これは海未ちゃんが自分で気付くべきこと、だから今は気にしないでええんよ」

海未 「……何とも要領を得ませんが、仕方ないですね。追求することはやめておきます」

21: 2020/10/30(金) 02:52:31.97 ID:f3OMVmU00
希 「ん?」 チラッ

海未 「どうかしました?」

希 「……これは?」 ユビサシ

海未 「油絵です!! 希の絵を描いてみました! 希はまるで私にとってのマリア、そんなイメージが降ってきたのでささっと描いてきました!」

希 「マリアか。なるほどね」

希はいなくなったりなんか、してなかったのです。

私が引き止めようとして絵の話をしたんじゃなくて、置いてあった絵に気付いて、希から私に話を振ってくれたんですね……!

なのになぜ私は、みんなが目の前からいなくなる記憶錯誤なんて……?






22: 2020/10/30(金) 02:53:25.45 ID:f3OMVmU00
凛の時だってそうです。

凛 「絵のタッチはまぁいいや、ありがとう! 海未ちゃん!!」 ニコッ

海未 「いえいえ」

凛 『じゃあ、もうバイバイだね。一人でも頑張ってね、海未ちゃん』

海未 『えっ!? ま、まさか凛まで私を置いて行こうと!!』

凛 『ごめんね、海未ちゃん』

海未 「待ってください!! 凛!!」 ガシッ

あのとき私は、いなくなろうとした凛の袖を掴んだんじゃない。

そうだ、本当は。あの時の会話は……。

23: 2020/10/30(金) 02:54:11.12 ID:f3OMVmU00
凛 「絵のタッチはまぁいいや、ありがとう! 海未ちゃん!!」 ニコッ

海未 「いえいえ」

凛 「じゃあ、もう時間だから帰るね。病院の人に怒られちゃう。またね、海未ちゃん」

海未 「病院の人……? まぁ、また来てくれるならいいです。ありがとうございます、凛!」

凛 「うん! 学校があるからまた来週、来るね!」

海未 (学校……。あれ、ならばなぜ私はここにいるのです、私も学校に行かないといけないのに……? それにさっき、凛は、えっと、病院と言っていた……?)

そのとき心の中に様々な風景が浮かびました。

泣いてるμ'sのみんな、動かず眠る誰か、フラフラと意識を離してく私……。

しかし、慌ててその記憶の瓶に蓋を閉じた私は、強い不安に襲われて急いで凛の腕を掴みました。

海未 「待ってください!! 凛!!」 ガシッ



―――

―――――

24: 2020/10/30(金) 02:55:02.32 ID:f3OMVmU00
にこ 「……海未? 大丈夫?」

海未 「……」 ボッー

にこ 「海未! 聞こえる!?」

海未 「はっ! こ、ここは……!?」 ビクッ

にこ 「良かった。戻ってきたわね。急に黙るからびびったじゃない!!」

海未 「あぁ……にこ。迷惑をかけてしまいましたね、ごめんなさい」 ペコッ

にこ 「まぁとりあえず、海未が大丈夫そうなら良かったわ。どう? 本当にみんな海未を置いてどっか行っちゃうと思う?」

海未 「……それはないと思います。だって、μ'sのみんなは優しいですから」 ニコッ

にこ 「それが分かってれば良し!」

海未 「にこ……」

にこ 「あんたはきっと疲れてるのよ。μ'sはいつでも海未の味方だから! もちろんにこだってそう! だからつらいなら頼りなさい? 良いわね??」 ジッー

海未 「ありがとうございます。もちろん頼らせてもらいますよ」 ニコッ






25: 2020/10/30(金) 02:56:11.33 ID:f3OMVmU00
でも。

にこが帰ってから私はずっと考えてました。

あのとき頭に浮かんだ映像はなんだったのか……?

みんなが離れていく、そんなはずはないのに、そう記憶錯誤をしてしまうのはなぜなのか……?

それと。凛や穂乃果の違和感のある挙動に、希の何かを示唆してるようにも思える言葉たち……。

私はなにか重要なことを忘れているのではないでしょうか?

それも、希の言葉を借りるなら、私の心の根幹であり私を支えるような……なにかをです。

しかし。

思い出そうとしても、思い出せません。なぜでしょう、手の震えが止まらないのです。この謎はまだ出会ってない三人と話せれば、解けるのでしょうか……。

あと三人……μ'sは九人。

26: 2020/10/30(金) 02:57:02.25 ID:f3OMVmU00
あれ? 待ってください?

まずは穂乃果と話しましたよね? そのあと希、凛と話して、今日にこに励まされたのでした。そして、にこと怒鳴り合いになったときに私はなんて言いましたか……?

確か。

海未 「きっと……会ってない他のメンバーも、花陽も真姫も絵里だって! いざ会ってしまえば私のことを見捨ててしまうに違いありません。この油絵だって、誰も喜んでくれません!!」

4+3=7

私も含めたら八人。

えっと、あと一人……あと一人は?






27: 2020/10/30(金) 02:58:12.84 ID:f3OMVmU00
―Side:穂乃果

―With:希

希 「穂乃果ちゃん……」

穂乃果 「お願い。そこをどいてよ、希ちゃん」

希 「悪いけど通す気は今んところない。大切な友達との約束やから」

穂乃果 「……やっぱり知ってたんだね、希ちゃん」

希 「偶然やけどな」

穂乃果 「海未ちゃんに色々とカードを使ってアドバイスしてたみたいだから、もしかしてと思ったけど……!」

希 「逆に穂乃果ちゃんはいつ気付いたん? ウチもあの子も、徹底してたつもりだったんやけどなぁ……」

28: 2020/10/30(金) 02:59:12.75 ID:f3OMVmU00
穂乃果 「そんなことはどうでもいいよ。いや、どうでもよくはないけど、話すなら希ちゃんにじゃない。まず話さなくちゃいけない相手がいるんだ。お願い、そこをどいてよ希ちゃん!!」

希 「……でも、ウチも約束が!」

穂乃果 「私がっ!! ……ちゃんと私が、解決してみせるから!! お願いだよ希ちゃん!!」 ググ

希 「……」

穂乃果 「希ちゃんのことも、そしてその約束の意味も、海未ちゃんのことも、全部全部ちゃんと理解する! そして絶対にμ'sを、あの日々を、取り戻す!! 希ちゃん、私は後悔させない!! これ以上悲しい思いはさせない!!」

希 「……!」 ピクッ

穂乃果 「秘密にしてた希ちゃんを憎んだりしない。ただ、今なら取り戻せるのに、それを邪魔することだけは許さないよっ……!」

希 「穂乃果ちゃん……」

穂乃果 「……」 ジッ

希 「……まぁ、そうやな。やっぱりここは穂乃果ちゃんに任せようかな」

穂乃果 「希ちゃん……!」

希 「ウチらしくなかったね。あの子とそう約束したけど、あの子がそう望んでるかはまた違うことやし。ウチはウチらしく、穂乃果ちゃんを、μ'sを、信じてみるよ」 ニコッ






29: 2020/10/30(金) 03:00:09.96 ID:f3OMVmU00
―Side:海未

―Research:???

一つ、一つ、必氏に思い出せる限りの言葉を思い出す。だって、今回私の記憶を欺いているのは誰でもない私なんですから、今までにない強敵です。

とはいえ、さてどうすればいいんでしょう。

何かを思い出したり、思い付くためには、何かを描きながらぼっーと考えるのが良かったんでしたっけ?

ならばちょうどいいじゃないですか。
今の私には油絵がある。

海未 「油絵を描いてみましょう」






30: 2020/10/30(金) 03:00:55.02 ID:f3OMVmU00
―Side:穂乃果

―With:???

穂乃果 「ねぇ……」

??? 「……」 シーン

穂乃果 「やっぱり返事はないね、でもまだ穂乃果は諦めてないから」

??? 「……」

穂乃果 「あれから随分経った気がする……。まだ二年だと言われたらその通りだけど、絵里ちゃんたちが卒業して、次に私が卒業して、大学生になって……やっぱりこの二年は長いよ。人生で一回きりの高校生にとって、その時間を失うことは重すぎる」

??? 「……」

穂乃果 「あれはちょうど三人での帰り道のことだったっけ……」






31: 2020/10/30(金) 03:01:50.49 ID:f3OMVmU00
―Side:海未

―Draw:???

海未 「そういえばいつから私は油絵にハマったんでしたっけ……そもそも稽古とアイドル活動の二足の草鞋を履いてる私が、油絵を描く余裕など一体いつ……?」

そう口走りながら、筆を走らせながら、私は凛との会話を思い出していた。

―――――

―――


32: 2020/10/30(金) 03:02:55.37 ID:f3OMVmU00
凛 「そういえば海未ちゃんはサインとか決めてるの?」

海未 「園田がひらがな三文字であることと、海未が自然に由来することから、『しぜん』というネーミングにしてみました!」

凛 「まんますぎるにゃ。ていうかそれじゃ、×××ちゃんも三文字かつ自然に由来するから成り立つし、むしろ名字を使わず名前だけでどっちの要素も含んでる×××ちゃんの方がそれっぽいにゃ」

海未 「×××も成り立つ……ですか?」

あれ?

ここに入る言葉、名前、なんでしたっけ?

それとさっきの疑問ですが、私は一体いつ油絵にハマったのでしょうか。

33: 2020/10/30(金) 03:03:59.21 ID:f3OMVmU00
??? 「油絵を始めたんだ」

海未 「おおっ! とても素敵な絵です! さすが×××です!」

えっ。

??? 「どうかな? これ、背景を海にしてみたんだけど……」

海未 「なんて綺麗な色なんでしょうか……!」 パァァ

なんです。この会話は。この記憶は。
覚えてない、知らない、こんな記憶は!

??? 「これはスクールアイドルで輝く穂乃果ちゃんを天使に例えて描いてみたんだ! 」

海未 「なるほど! ……あれ? 一つ疑問があるのですがよろしいですか?」

??? 「もちろん!」

海未 「なぜ……この天使の絵には……」

この質問、あぁ、思い出せます。

そしてなぜか実にデジャブを感じるのです。そうか、あの油絵は、私が油絵を書き始めたのは……。



―――

―――――

34: 2020/10/30(金) 03:05:04.35 ID:f3OMVmU00
海未 「そういうことだったんですね」 ポロポロ

今、目の前に描かれた絵はとても悲しい絵でした。

ふと白い部屋を見渡すと、たくさんの油絵が置いてあります。にこに渡しそびれた絵、他のメンバーに今度渡そうとしている絵、それと海を背景に笑う一人の女性の絵……。

おかしいですよね……?

この女性は私。自画像なんか描く性格でしょうか、恥ずかしがり屋の私が?

それに、だとしたら足りないのです。
μ'sのもう一人……彼女の絵が……。

改めて私が描いた絵を見てみる。部屋に散らばってる絵とは雰囲気が違っていました、まるで描いている人が違うように。

あぁ、胸が痛くてたまらない。

一匹の小鳥が倒れてるのです。
車に轢かれて。そして、それを見て一人の少女がずっと泣いているのです……。今の私と同じように……ずっとないてるのです。






35: 2020/10/30(金) 03:06:18.87 ID:f3OMVmU00
―Side:穂乃果

―With:???

目の前の幼馴染みは本当に綺麗に眠っていて、時の流れなど全く感じさせなかった。でも、それじゃきっとダメなんだ。

時を感じないと! 止まった時を動かさなくちゃいけないんだ……!!

穂乃果 「分かってるよ。もう意識は戻ってるんでしょ?」

??? 「……」 ピクッ

穂乃果 「ねぇ、お願いだよ……穂乃果、その声を聞きたいよ……」 ポロポロ

??? 「……」

希ちゃんの行動を省みれば、きっと簡単には返事をしてくれないだろう。でも!

穂乃果は叫ぶよ!
ずっと! ずっと!!
会いたいから、また話したいから!!

ねぇ!!

穂乃果 「ねぇ、起きてよ、ことりちゃん!!」

??? 「……いつ」

穂乃果 「!?」

ことり 「……いつ気付いたの、穂乃果ちゃん。私がもう目覚めてたことに」

36: 2020/10/30(金) 03:07:27.18 ID:f3OMVmU00
―With:ことり

穂乃果 「最近海未ちゃんが油絵を描き始めたんだって。でも、少し変なんだ」

ことり 「変?」

穂乃果 「海未ちゃんは穂乃果に天使の絵をくれたんだけど、天使の輪っかがついてなかったの。理由を聞いたら、私たちは生きてるのに輪っかをつけたら幽霊みたいだから嫌だって言うんだ」

ことり 「天使……輪っか……」

穂乃果 「そういえば私たち、ホワイドデーのイベントで一度天使の格好をしたよね? そのときも輪っかがついてないで羽だけの衣装だった」

ことり 「……!」

穂乃果 「穂乃果、そのときも聞いたんだ。なんで天使なのに輪っかがないの? って。そしたらデザイナーさんが海未ちゃんと全く同じことを言ってたよ。そして……これは勝手なこだわりだから周りには言わないで、とも」

ことり 「……」

穂乃果 「ちなみにμ'sのデザイナーはいつも一緒だよ? ねぇ、ことりちゃん?」

37: 2020/10/30(金) 03:08:41.08 ID:f3OMVmU00
ことり 「……さすが穂乃果ちゃんだね。私と穂乃果ちゃんしか知らないことを海未ちゃんが知ってた、それだけで私のことに気づいちゃったの? でも私が事故に遭う前に、衣装のこだわりを海未ちゃんにこっそり話してた、なんて可能性もあるよね?」

穂乃果 「そうだね……でも根拠は他にもあるよ?」

ことり 「……」

穂乃果 「凛ちゃんに聞いたんだけど、凛ちゃんはその場で海未ちゃんに油絵を描いてもらったんだって。でも、私や希ちゃんが描いてもらった絵とはタッチが全然違ったみたい……。それって、あの天使の絵は、海未ちゃんがことりちゃんからその話を事前に聞いていて絵を描いたんじゃなくて、ことりちゃんが直接描いたってことじゃないのかな?」

ことり 「昔私が描いてたものをこっそり海未ちゃんが持ってきた可能性は?」

38: 2020/10/30(金) 03:09:37.49 ID:f3OMVmU00
穂乃果 「油絵って、絵の中でも特に描かれた時代が分かるものなんだって。穂乃果は素人だから、分厚い本をたくさん読んで一生懸命調べてみても、そんな明確に年代を推定できるようにはならなかった……だけど、それでも分かったよ。二年前に描かれたのか最近描かれたのかくらいの違いはね……!」

ことり 「……海未ちゃんが描いた絵じゃない、昔に描かれた絵でもない。なら海未ちゃんでもなく、私でもない、それでいて私の天使の輪っかをつけない理由を知ってる、そんな第三者が描いてるってこともありえるんじゃないかな?」

穂乃果 「絵にあるサインは『しぜん』。由来は海未ちゃんにも当てはまるけど、やっぱりことりちゃんの方が自然だよ」

ことり 「……!」

穂乃果 「ねぇ、ことりちゃん、なんでそんなに否定したがるの……? みんなずっとことりちゃんのこと、待ってるのに!! 目を覚ましたことが周りに知られたら、なにか不都合なの!?」

ことり 「……」

穂乃果 「ねぇ、答えてよ、ことりちゃん!!」 ポロポロ






39: 2020/10/30(金) 03:10:40.16 ID:f3OMVmU00
―Side:海未

―Remember:ことり

そうです。

いつも、いつも、違和感を感じてたのです。

きっと今だれも、私の心の声など聞こえてないでしょう。だから打ち明けてしまいますが……。

私は、毎日、毎日、ことりと話していたのです。いつも、いつも、少し歩けばことりのいる場所に辿り着いて、そしてそこで二人、楽しく喋るのです。

油絵だって、ことりが始めたのです。
そしていつの間にか、自分が描いたような錯覚に落ちて……堂々と、穂乃果に、希に、まるで自分が描いたかのように振る舞いながら絵を渡したのです。

それは到底許されることではありません。しかし、話はそこで終わらないのです。

この強い違和感の正体は、きっとこの絵が全てなんです。

私が今、衝動のままに、ほとんど無意識で描いたこの絵。

車に、轢かれて、倒れた小鳥の絵。

つまりきっと、そういうことなんでしょう。

ことり……あなたは……。

私が毎日話していたことりは……。

あぁ……つらいですね。




幻覚なんですよね?






40: 2020/10/30(金) 03:11:45.29 ID:f3OMVmU00
―Side:ことり

―With:穂乃果

ことり 「……海未ちゃんが、変わっちゃったことは知ってるよね?」

穂乃果 「!」

ことり 「穂乃果ちゃん、二年間眠ってたのは本当だよ? 目を覚ましたのはつい先月のことだから。でも、それから今日までずっと、希ちゃんと海未ちゃん以外には起きてるところを見せなかったのも本当……」

穂乃果 「なんで! みんな心配してるのに、なんで眠ったままのフリなんて……! みんなことりちゃんが帰ってくることを心から待ってるのに、どうして!?」

ことり 「……だってしょうがないよ」

穂乃果 「しょうがない?」

ことり 「私が目を覚ましたとき、そこには海未ちゃんがいたんだ」

―――――

―――


41: 2020/10/30(金) 03:12:57.31 ID:f3OMVmU00
あれ。

うっ。

眩しい……えっと、ここは、うーん、どれくらい寝ちゃったのかなぁ、そろそろ起きないと学校に遅れちゃう。

ことり 「うぅ……」

体が動かなかった。
声も出せなかった。
そして喉がとても乾いてて、ただ、ただ、身体中が苦しかった。

でも誰かの声が聞こえてきて、それがひどく懐かしく感じたから……どうしてもその顔が見たくなった。

目蓋も開かなかったけど、眩しいことは分かって、何十分もゆっくり時間をかけて、目を開いた。


そこには海未ちゃんがいた。

そう、まるで病院の患者さんのような、格好をした海未ちゃんが。

42: 2020/10/30(金) 03:14:04.84 ID:f3OMVmU00
海未 「ことり! 聞いてください! 今日穂乃果が私のところに来てほむまんをくれたんですよ。そのあと知らない人に取られてしまいましたが、それでも嬉しかったのです!」

ことり 「……う……う、海未……ちゃ……」

必氏に返事をしようとして、でも、返せなくて。だけどそんなことは関係なかったみたいで。

海未 「ふふ、ことり。あなたも羨ましいのですね? 今度穂乃果にはことりの分まで頼んでおくので安心してください。えっ、そこまで食い意地を張ってないって? たしかにことりはそうでしたね。ふふ、失礼しました」

海未ちゃんは私に話しかけていた。
けれど、海未ちゃんは私を見ていなかった。

まるで虚空を見つめているような……。

海未ちゃんの格好、様子、そして自分自身の体調の異常……何かおかしいことにはすぐ気付いたよ。

だから、目覚める前に何があったのかを必氏に思い出そうとした。そして、あの日の帰り道のことを思い出した。

43: 2020/10/30(金) 03:15:02.03 ID:f3OMVmU00
キィィィーーーン

アブナイッ!!

……エッ?

ドンッ


暴走した車が歩道に突っ込んできて、穂乃果ちゃんと海未ちゃんは気付いてなかった。だから私は急いで二人を突き飛ばして……。

そして、轢かれた。

そんな結末、そんな過去。

ことり 「……」 ポロポロ

海未 「それで穂乃果にまた怒ってしまったのです。穂乃果が悪いとはいえ、怒鳴ってばかりは良くないと、ちゃんと分かってるつもりなんですが……」

ことり 「……海……未ちゃん……」 ポロポロ

なんとなく分かってしまった。
海未ちゃんが変わってしまったこと。
そしてそれが私のせいだということ。
だから、身体中乾いてるのに、涙が溢れて止まらなかった……。

44: 2020/10/30(金) 03:15:51.99 ID:f3OMVmU00
それから。

しばらくしてμ'sのみんながそれぞれ見舞いに来てくれた。でも、声も出せず、目を開くことさえできなかったから……結局誰にも気付かれることはなかった。

海未 「ことり!」 ニコッ

だけど、海未ちゃんはそんなことはまるで関係ないように、今日も私と喋ってた。正確には、私じゃない私と話してた。

だけどそれでも良かった。
狭い視界の中、大好きな人の笑顔が見れたから。



―――

―――――

45: 2020/10/30(金) 03:17:03.85 ID:f3OMVmU00
穂乃果 「……」

ことり 「ねぇ、穂乃果ちゃん。海未ちゃんは幻覚が見えてるんだよね? それと、あれからもう二年も経っていること、私たちがとっくに高校生じゃないこと、それにも気付いてないんだよね?」

穂乃果 「……うん」

ことり 「あの後、私が少しずつ体調を取り戻していったある日、体を起こせるようになってそこに偶然希ちゃんが来たんだ」

ことり 「希ちゃんは慌てて周りに知らせようとしてくれたけど……私はそれを止めたの。そして希ちゃんにお願いをした」

穂乃果 「……周りにしばらく話さないでほしい。そして、自分のことがバレないように協力してほしいって?」

ことり 「……うん」

穂乃果 「どうして……とはもう聞かないよ。なんとなく分かっちゃったもん、ことりちゃんの気持ち」

ことり 「穂乃果ちゃん……」






46: 2020/10/30(金) 03:18:11.89 ID:f3OMVmU00
―Side:海未

―With:絵里

ガチャ

絵里 「久しぶり、海未。どう? 元気にしてる? 今日はマトリョーシカを持ってきたわよ?」

海未 「……」

絵里 「どうしたの海未……ってその絵は!?」

海未 「……思い出してしまいました。あの日の帰り道のこと。そして、私がもう高校生ではないことも」

絵里 「!」

海未 「みんな忙しいに決まってますよね。花陽たちは三年生、他のみんなは大学生なんですから……見舞いなんかしてる場合じゃありません」

絵里 「その様子だと自分のことにも気付いてるみたいね……」

海未 「ええ。この絵が教えてくれました。ことりはあの事故以来目を覚まさないまま……なら、私がずっと喋っていたと思ってたあのことりは、幻覚だということですよね? そしてここは精神病棟でしょうか? 私は入院してるのですね……」

絵里 「海未……」

47: 2020/10/30(金) 03:19:32.34 ID:f3OMVmU00
海未 「ことりは私を助けるため犠牲になりました。きっとその罪悪感からでしょう。お見舞いに来てくれたμ'sのみんなにさえ、離れていく幻覚を見てしまい、冷たい態度を取ってしまいました……私は最低です」 ギッ

絵里 「そんな……! ことりはあなたを助けたことを後悔していないはずだし、あの事故は海未が悪いわけじゃないわ!! μ'sのみんな、誰も海未を恨んでなんかいない。だから自分を責めるのは間違ってるわ!!」

海未 「……絵里、あなたは優しいんですね」 ニコッ

絵里 「ち、ちがう、本当に……っ!」

海未 「ことりのことでとてもつらい思いをしました。でも、それは穂乃果も、μ'sのみんなも、同じだったのです。なのに私だけは逃げてしまった、向き合うべきだったのに、逃げてしまった……! それが本当に許せないのです!!」

絵里 「そんな……」

48: 2020/10/30(金) 03:20:33.52 ID:f3OMVmU00
海未 「教えてください、絵里。ことりはまだ目を覚ましていないんですよね? いつ目を覚ますかは分かるのですか?」

絵里 「……残念ながらことりはまだ目を覚ましてないし、医者にさえいつ目を覚ますかは分かってないの。あとは本人の気力次第としか言えない状態が続いてるわ」

海未 「そうですか……。今、私はことりに会う資格なんかあるのでしょうか。いつも、いつも、少し歩けばことりのいる場所に辿り着いて、そしてそこで二人、楽しく喋ってました……ですがそれは全て幻覚でした。挙句に私は本物のことりとは向き合おうとしなかった。そんな私に、ことりのそばにいる資格があるのでしょうか……?」

絵里 「……」

海未 「ごめんなさい……ことり……私は本当に弱い人間です……ごめんなさい……」 ポロポロ

絵里 「っ!」


バチンッ


海未 「……えっ」 ヒリヒリ

49: 2020/10/30(金) 03:21:30.36 ID:f3OMVmU00
絵里 「ごめんなさい、痛かったでしょう……! でも、ビンタしてでも伝えたいことがあるの。かつてのあなたみたいにね」

海未 「え、絵里?」

絵里 「そうやって自分を責め続けるのも、逃げ続けてるのと一緒なのよ、海未! 本当にことりに申し訳ないと思ってるなら、μ'sのみんなに申し訳ないと思ってるなら、早く元気になって病院を退院して、立派になった姿をことりに見せてやりなさい!!」

海未 「……!」

絵里 「大切なものは何? あなたを支えるものは何? たとえそれが揺らいでしまっても、強くいなくちゃダメなのよ!? そうしないと本当に揺らいでしまうから……そういう時こそ強くいるの。そしたらきっと大切なものを失わずに済むから、取り戻せるから!!」

海未 「大切なものを……取り戻す……」

―――――

―――


50: 2020/10/30(金) 03:22:39.15 ID:f3OMVmU00
希 「海未ちゃん。強く生きるためには支えが必要だけど、時に支えがなくても強く生きなくちゃいけないこともあるんよ。少しの間だけど、それを忘れないで。強く耐えるんや」

希が言ってたことと一緒です……。
ようやく分かりました、あの言葉の意味が。

そして。

海未 「大切なものというのは……μ'sのことでしょうか?」

希 「まぁそうやね。でも、大切なものは決して一つじゃない。きっと海未ちゃんの心の根幹はμ'sというよりも……」

私の心の根幹は。

あの二人。

大切なあの二人と歩く帰り道。


穂乃果……!!


ことり……!!


あなたたちと歩むその道が!
毎日が!!

私にとっての心の根幹で!
私を支えてくれる大切なもので!



私が取り戻したいものです!!





―――

―――――

51: 2020/10/30(金) 03:23:40.24 ID:f3OMVmU00
海未 「ことり……穂乃果……」 ポロポロ

絵里 「海未はずっと無理をしてたの。現実から目を背けるのも大変よね? ことりがこんな大変なことになってるのに、笑顔で話し続けるのはつらかったでしょ? μ'sでは一番しっかり者だったあなた、たまには思いっきり泣きなさい。先輩の肩を貸してあげるから」 ニコッ

海未 「うぅ……絵里……!」 ポロポロ

絵里 「お疲れ様、海未」 ダキッ

海未 「ことりぃ……穂乃果ぁ……私はあなたたち三人とぉ……!!」 ポロポロ

絵里 「……よく頑張ったわね、海未」






52: 2020/10/30(金) 03:24:49.91 ID:f3OMVmU00
―Side:穂乃果

―With:ことり

穂乃果 「海未ちゃんはことりちゃんが事故に遭ったことを受け入れられなかった。そして幻覚を見るようになって、精神病院に入院するまで重症化して……」

ことり 「……」

穂乃果 「そしてことりちゃんはもう治療として、できることはなかった。だからせめて目覚めやすいようにと、空気の綺麗な場所に移動した。そして同時に海未ちゃんの治療のために、同じ病院、海未ちゃんの病室の近くに移動させたんだ」

ことり 「……なんとなく海未ちゃんの様子から分かってた。でも、希ちゃんから経緯の詳細を聞いてますますつらくなった。ことりのせいで、本当に海未ちゃんは変わってしまったんだって……! 二人を救うつもりだったのに、私が二人の人生を最悪なものにしてしまった……!」

穂乃果 「それがつらいから目覚めないフリをするの……?」

53: 2020/10/30(金) 03:25:52.21 ID:f3OMVmU00
ことり 「!」 ピクッ

穂乃果 「ことりちゃんが海未ちゃんの人生を変えてしまった。そしてμ'sのみんなにもつらい思いをさせてしまった。だから、そんな現実から逃げたくて、耐えきれなくて、眠ったままを演じようとしたの? それがしょうがないことなの?」

ことり 「……うん、そうだよ」

穂乃果 「……」 フルフル

ことり 「……どうしたの、穂乃果ちゃん」

穂乃果 「ふ、ふ……」 フルフル

ことり 「……!」

穂乃果 「ふざけないでよっ!!」


バチンッ


ことり 「……っ」 ヒリヒリ

54: 2020/10/30(金) 03:26:46.86 ID:f3OMVmU00
穂乃果 「そんなの間違ってるっ!! ことりちゃんは私たち二人の命を救ってくれた!! なのに、ことりちゃんを恨んだりなんかしない!!」

ことり 「で、でもっ!!」

穂乃果 「ことりちゃんが間違ってることはただ一つ! ことりちゃんが謝るべきなのはただ一つだけだよ!」

ことり 「……」

穂乃果 「みんなに言わなかったこと。ことりちゃんをみんな待ってるんだ、お願い、みんなに目を覚ましたことを話そう? きっと、そしたら海未ちゃんも良くなるよ。だから、もう一人で抱え込むのをやめてよ、ことりちゃん!!」

ことり 「穂乃果ちゃん……!」 ポロポロ

穂乃果 「穂乃果、嬉しいんだ。ことりちゃんの声をまた聞けて。きっとみんなも同じように思ってくれる! だから、戻ろう? ことりちゃん……!」

ことり 「……ありがとう、穂乃果ちゃん」 グスッ

穂乃果 「当然だよ。だってことりちゃんと海未ちゃんは私の大切な、大切な! 幼馴染みなんだもん!!」 ニコッ






55: 2020/10/30(金) 03:28:22.95 ID:f3OMVmU00
―Side:海未

―With:絵里

絵里 「泣き止んだ?」

海未 「……はい。ありがとうございました、絵里。気持ちが元気になれた気がします」

絵里 「そ、なら良かったわ」 ニコッ

海未 「今度ことりにちゃんと会ってみます。そして、今まで会わなかったこと、誠心誠意、謝ろうと思います。謝るだけで許されようなんて思ってません、でも、直接謝ることはきっと大切なことですから」

絵里 「その通りよ、やっぱり海未は賢いわね♪」 ニコッ

海未 「……からかわないでください///」 カァァ

絵里 「そういえば、辺りにたくさん油絵があるけど、これは海未が描いたの?」

海未 「それは……ことりが描いたものです」

絵里 「ことりが……? ことりは眠ってたのにどういうこと?」

海未 「それはことりから貰ったんですよ。ですが、それは幻覚の中で、です。なのできっと、ことりが昔描いた絵を私が勝手に持ってきてしまったんでしょう……」

絵里 「えっ、それはないわよ!?」

海未 「どういうことです?」

56: 2020/10/30(金) 03:29:31.16 ID:f3OMVmU00
絵里 「海未は入院してから一度も病院から出てないし、入院した際にそんな絵なんて大きなものを持ち込んだなら、さすがに周りも気付くわよ。だけど少なくとも私はさっき海未が絵を持ってることを知ったわけで……」

海未 「ですが……なら誰が私にこの絵を渡したんですか!? ことりの幻覚が渡したとでも言うんですか!?」

絵里 「そういえば……さっき、少し歩いたところで、いつもことりと二人で喋ってたと言ってたわよね? それはどういうことなの?」

海未 「幻覚ですよ。眠ってることりが喋るわけありませんし、そもそもことりが近くにいるわけがありませんから」

絵里 「いや、近くにいるわよ?」

海未 「えっ?」

絵里 「ことりと海未は同じ病院なのよ。しかもこの部屋から出て角を右に歩けばすぐことりの病室だわ」

海未 「……それっていつも幻覚の中で歩いてた道です!」

絵里 「えっ!? ってことはまさか海未は眠ってることりに対してずっと話しかけてたってこと!?」

海未 「そうなりますね。きっと、眠ってることりが目覚めてるように錯覚しながら、毎日話しかけていたんだと思います」

絵里 「なるほどね……あれ、でも、じゃあその絵は誰から貰ったのよ?」

海未 「絵……」

―――――

―――


57: 2020/10/30(金) 03:30:43.46 ID:f3OMVmU00
??? 「油絵を始めたんだ」

海未 「おおっ! とても素敵な絵です! さすが×××です!」

??? 「どうかな? これ、背景を海にしてみたんだけど……」

海未 「なんて綺麗な色なんでしょうか……!」 パァァ

??? 「これはスクールアイドルで輝く穂乃果ちゃんを天使に例えて描いてみたんだ! 」

海未 「なるほど! ……あれ? 一つ疑問があるのですがよろしいですか?」

??? 「もちろん!」

海未 「なぜ……この天使の絵には……」

??? 「うん」

海未 「天使の輪っかがないんですか?」

??? 「それはね……海未ちゃん」


そして、彼女は微笑みながらこう言った。


ことり 「輪っかがあるのは幽霊みたいで嫌だからかな……天使の格好なら羽だけで充分だし、みんなは生きてるからね!縁起的に輪っかは描きたくなかったの!」

海未 「なるほど! ことりらしい理由です!」 ニコッ



―――

―――――

58: 2020/10/30(金) 03:31:55.17 ID:f3OMVmU00
海未 「ことり……!」

絵里 「えっ?」

海未 「ことりから貰ったんですよ!!」

絵里 「でもことりは目を覚ましてなくて、ことりと喋ってたのは幻覚じゃなかったの?」

海未 「たしかに途中まではそうだったと思います……ですが、ここ一ヶ月は本物のことりと喋ってたんですよ!! そしてこの絵はことりが描いた絵だったんです!!」

絵里 「ええっ!? で、でも希からの報告でも、ことりの様子は変わってないって……!?」

海未 「ことりの病室に行ってきます! ちゃんと会って、しっかり謝りたいと思ってました。近くにいて、目も覚ましているなら、願ったり叶ったりです!!」

スッ

タタタッ

絵里 「ちょ海未!?」

ガチャ






59: 2020/10/30(金) 03:33:09.44 ID:f3OMVmU00
―Side:穂乃果

―With:???

穂乃果 「なんか……すごく懐かしくて、嬉しいなぁ……」

海未 「穂乃果!! そんなところで物思いにふけってないで早くこっちに来てください!! 三人で一緒に喋りましょう!」

ことり 「ふふ……海未ちゃん、せっかく久しぶりに三人で喋れるんだから急ぐ必要ないよ。ゆっくり、たくさん!! 喋ろう?」

穂乃果 「うん!! 私も話したいことがいっーーーーーぱいあるんだ!!」 ニコッ

―With:ことり・海未

おわり!!

60: 2020/10/30(金) 03:42:32.29 ID:f3OMVmU00
少しシリアスで長くなりましたが、書き切りました。
μ'sのみんなは優しさで溢れてるなぁ……という話でしたね!
また機会がありましたら、近いうちにここで書かせてもらいます。
ここまで読んでいただきありがとうございました!!

以下、過去作です。

海未 「園田海未のーーそ!!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1602050909/

真姫 「はぁはぁ……もう意識が。さ、最後に」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1602339885/

にこ 「真姫、薪をちょうだい」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1602838828/

穂乃果 「コツコツ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1603097265/

希 「絢瀬絵里はハラショー!!」 ニコッ
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1603289623/

引用元: 海未 「油絵を描いてみましょう」