1: 2009/01/05(月) 08:10:35.26 ID:rF22UDeS0
「さあみくるちゃん、今からファッションショーよ!」
いつもと変わらない部室内、突然ハルヒは叫んだ。
そいつの手には、どうやらコスプレ衣装らしい布がぶら下がっている。
…それが、俺にはどうやってもスクール水着にしか見えなかった。
「どう?これ。いいでしょ、昨日見つけたの!ほら、着替えるからあんたたちは出て行ってよね」
ぴら、と水着を広げて部員に見えるように腕を動かすハルヒ。
その自信満々と言った表情には呆れた。
「ひええ!そ、そんなの着れないですよ涼宮さぁん…」
「いいの、私が着なさいって言ってるんだからみくるちゃんは言うとおりにしてたらいいのよ!」
いつものことながら、コイツの傍若無人さには呆れるな。
俺だって朝比奈さんのスク水姿となれば男として一度は拝めたいとは思う。
しかしだ。
今は、冬であり御世辞にも暖かいとはいえない。
そんな中でただストーブがついているだけの部室でスク水なんて「風邪を引け」と言ってるようなものじゃないか。
もちろん、問題はそこだけじゃないんだが。
今が夏だったらと惜しく想いながらも、俺はハルヒに言う。
「やめろよ、朝比奈さんが嫌がってるじゃないか。大体こんな時期にそんな格好してたら風邪引くだろ」
毎度の流れだと、ハルヒは唇を突き出して「仕方ないわね」といっただろう。
だが、今日は違った。

3: 2009/01/05(月) 08:13:05.15 ID:rF22UDeS0

「なによ、文句でもあんの?ただの団員が団長に逆らうなんて許されるわけないでしょ」
鼻を鳴らして顔を背けるハルヒ。
この時点で今まで寛容に耐えてきたつもりの俺も少し腹が立った。
…もちろん、常日頃から腹は立っていたけどな。
それでもハルヒに付き合ってきたのは、大変なのは俺だけじゃないことや、…不本意ながら少なからず俺がハルヒに好意を抱いていることに気付いていたからだ。
怒りを隠して呆れた表情を作り、返事をする。
「はいはい、団長様の言うとおりだよ。だがな、朝比奈さんはお前のおもちゃじゃないんだ」
しまった、少し言い方が悪かったな。
しかし気付いた時には時既に遅しというのか、ハルヒは俺のほうを睨んでいる。
「なにそれ、まるであたしがみくるちゃんのこと大切にしてないみたいじゃない」
「そんなこと言ってないだろ」
どう聞いたらそういう風に読み取るんだ、馬鹿かお前は。
いかん、段々苛々が収まらなくなってきたぞ。

5: 2009/01/05(月) 08:15:52.68 ID:rF22UDeS0
「じゃあなんだっていうのよ!」
「少しは人の迷惑も考えろってことだよ」
落ち着いて返事をしようとしたのが悪かったのか、つっけんどんな言い方になってしまう。
もちろん、そんな態度にあいつが黙っている筈も無かった。
「私のしてることが迷惑だってこと!?」
「…自覚はなかったんだな。まあ自覚があったらあんなこと出来るわけ無いもんな…あ」
うっかり口に出しちまった。
ああ、古泉の視線が痛い。
「…少々バイトが入りましたので失礼しますね」
背後に突き刺さる視線は徐々に遠ざかり、扉の開閉する音と共に消えた。
長門が、じっとこちらを見詰めている。
その瞳は責めている訳でもなんでもないように見える。
しかし、朝比奈さんは規定事項から外れたのか知らないが今にも気絶しそうな表情だった。
よくよく考えてみれば、長門は朝比奈さんや古泉の世界を守るとは違う理由でここに居るんだから責める理由も無いのかもしれない。

6: 2009/01/05(月) 08:18:49.48 ID:rF22UDeS0
冷静にモノローグなんざしちゃいるが、実際はハルヒがとてつもなくうるさい。
「…っ…なによっ、そんなことないわよ!ねえ!?」
一瞬言葉に詰まったハルヒは、朝比奈さんと長門に視線を向けて同意を求めている。
もちろん、長門は無反応で、朝比奈さんは「もも、もちろんですう」と気を使った返答をしている。
「朝比奈さん、気を使わなくてもいいですよ。…ハルヒ、悪いが俺は大迷惑だ。いつもいつも…」
ちらりと朝比奈さんに視線を向けた後、ハルヒを見据える。
楽しいと思うことは何度もあった。
ただ、その何倍もの苦痛を感じていた。
家の用事ですら部活を優先させられて、休日は無しに等しい。
テスト前の本来勉強に費やす時間ですらハルヒの見つかるはずのないくだらない不思議探索に付き合わされて。
それで、どうして迷惑ではないといえるのか。
「じゃあなんでここに居るのよ!ほんとは楽しいんでしょ!?」
「そんなの簡単だ、お前が止めることを許さないからだよ」
分かりきったことだろ?

8: 2009/01/05(月) 08:21:40.25 ID:rF22UDeS0
自分でも理解はしてる、いくらなんでも言いすぎだろうと。
でもな、1年と少しのうちに積もりに積もったストレスは、ヒビ割れたダムから水が漏れ出すのを止められないようにもう抑え切れないんだ。
「なっ…!」
驚いたように目を見開くハルヒ。
「あのな、今までお前が俺…いや、俺たちにしてきたことを思い出してみろよ」
「いや、俺が思い出させてやるよ。」
何かに操られているかのように、口は動く。
もちろん操られているわけじゃないがな。

9: 2009/01/05(月) 08:25:41.88 ID:rF22UDeS0
「思いつきで、無理矢理お前に集められた俺達は、放課後はもちろん、貴重な休日もお前に縛られて、加えて俺は毎度毎度遅刻でもないのに奢り。」
「俺はお前らの財布でもなんでもないんだ。なあ、誰かさんの所為でアルバイトもしてないただの高校生の俺はどうやって奢り用の金を作ってると思う?」
「親が俺が生まれたときから毎月、そして俺自身も毎年、年玉の半分を貯金してきた大事な大事な将来の為の貯金からと、親に前借してだよ。」
「お陰で、何年もの積み重ねの結果だった何十万もの貯金は一年ちょっとで底をつきかけてる。」
「実家に帰らなきゃいけない長期の休みの時だってお前のお陰で親に謝り倒して部活部活部活だ」
「なあ、お前のお陰で親から文句ばっかり言われる俺の気持ちがわかるか?」
「まともに勉強する暇も無くなって、元々低かった成績だって下がっていく一方だ。…頭の良いお前にはわからんかもしれんがな」
「佐々木のことだってそうだ。中学の頃の親友に久し振りに会って、当然のように接しただけでお前は俺に八つ当たり。」
「なにが気に食わないのか知らんが、あれは佐々木にも後から謝り倒したんだぜ」
「仲良い国木田や谷口とだって最近遊んでないから、冗談交じりにとは言え文句も言われる」
「お前がどれぐらい偉いのかなんて知らんし、関係もないが、俺を巻き込まないでくれよ。迷惑極まりないんだ」
「もう、辞めても良いよな。耐え切れないんだ。いっそ転校したっていい」

12: 2009/01/05(月) 08:28:54.94 ID:rF22UDeS0


はあはあと息が乱れるほどに一気に言った。
流石のハルヒも唇を噛締めて俯いている。
それどころか、床に座り込んで泣き出してしまった。
「言いすぎですキョンくんっ…!ひどいです!」
朝比奈さんが慌ててハルヒを支えに行き、俺を睨む。
「もういいんです。嫌になったんですよ、全部」
俺が今我慢したとしよう。
その場合、俺のこのストレスはどうすればいいのか?
もう考えたくない。
どうせ後で古泉に半頃しにされるか、世界が崩壊するんだろ。
もうどうでもいいんだよ。
それでも、やっぱり少しは悲しいと感じる。
「…大規模な閉鎖空間が観測されている」
ぽつりと長門が言った。
恐らく、ハルヒには聞こえていないだろう。
「…そうか、これで俺は解放されるんだな」
なんとなく、このまま消えてしまいたいと思っていた。
そうすれば、二度とこんなくだらない遊びに付き合う必要も無くなる。
そうだ、あんなのくだらない…くだらない。

15: 2009/01/05(月) 08:33:59.27 ID:rF22UDeS0

「っ…くっ…キョンの…ばかあ…」
ぐすぐすとしゃくりあげながらハルヒが言う。
「そうだ、俺は馬鹿だよ」
反論する気も失せた。
言い事を言ってすっきりしたからだろうか。
部室を出て、最後に屋上から景色でも眺めて置こうと思ったときだった。
不意に立ち上った朝比奈さんがこちらに来る。
パン、と乾いた音が部室に響いた。
「っつ…朝比奈、さん?」
頬にじんじんと熱い痛みを感じる。
朝比奈さんに打たれた頬を押さえて、呆然と俺は朝比奈さんを見詰めた。
「キョン君、いくらなんでも酷いです。確かに、涼宮さんもやりすぎかなって思うところはあったけど、それだって…それだって、涼宮さんなりにキョン君と楽しいことがしたいって思ってたからなんですよ!?」
珍しく、朝比奈さんは怒った表情を浮かべていた。
「…それにしても、やりかたってもんがあると思うんですよ。済みません、俺は普通のやつなんで、付き合いきれません」
「だからって…!」
「それじゃ、俺もう行きますね。最後ぐらい屋上でゆっくりしたいんで、…さようなら」
ばたんと扉を閉めて、俺は屋上に向かった。

18: 2009/01/05(月) 08:41:52.61 ID:rF22UDeS0
錆び付いて鈍い音がする、重い扉を押し開ける。
灰色の世界はすぐそこまで広がっていた。
「あたりまえか」
しかし、不思議なことに灰色の閉鎖空間は、学校を中心として、そこから恐らく半径3キロほどのところまでで止まっていた。
その異様な光景に目を奪われてずっと眺めていた。
すると、後ろから再度扉の開く音がした。
そこには、赤い目をした朝比奈さんが居た。
…泣いているようだ。
「キョン君、さっきは叩いたりしてごめんなさい…それに、そんな風に抱え込んでたことに気付いてあげられなくて」
「ふふ…さようなら、ですね。規定事項を外れちゃって、未来が消えちゃったみたいなの」
そう言っている間に、朝比奈さんの体は消えていく。
「っ…そう、ですか……今までありがとうございました」
別れは悲しいものだと思う。
けれど、消え行く朝比奈さんに俺は一言そういっただけだった。

21: 2009/01/05(月) 08:51:04.69 ID:rF22UDeS0

もう世界の崩壊は近い。
そう思うと、脳内を駆け巡るのはSOS団として活動していたときの楽しい思い出だった。
…そう、何故か楽しいと感じたことだけを思い出した。
七夕、夏の合宿、文化祭、…色々あった中でも、苦痛と感じたことだけは避けるように。
そして、同時に他のメンバーのことも。
裏では、ハルヒの為に俺達はたくさんの危機を乗り越えてきた。
古泉が、気持ちを抑えて演じていることを知った。
長門が、膨大なストレスを抱えて暴走し、それはただの女子高生に憧れた、感情を作られなかったインターフェースとやらの小さな反抗だったことを知った。
朝比奈さんが、影で泣いていることも知った。
俺自身が、思った以上に楽しんでいたことにも気付いた。

24: 2009/01/05(月) 08:58:51.31 ID:rF22UDeS0
そんな時。
視界が一気に灰色になった。
…とうとうここも飲まれたのか。
あとは崩壊を待つのみだと覚悟を決めた。
けれど、実際には違った。
耳に、鮮明な声が聞こえてくる。
ハルヒの声だった。

25: 2009/01/05(月) 09:00:33.57 ID:rF22UDeS0
「どうして?どうしてなのキョン。どうして裏切るの?」
「ごめんね、私が悪いんだよね。分かってるの。いつだって分かってた」
「でも怖い」
「どうして、あたし以外の四人で内緒で集まってるの?」
「もう解散したじゃない。知ってたわ、何度も四人だけで集まってたこと」
「あたしにだけなにか隠してることも知ってた」
「でもみんなが好きだから怖くて聞けなかった」
「本当はあたしは嫌われてるんじゃないかとか、馬鹿にしながら付き合ってるんじゃないかとか」
「だからああすることで、みんなが来てくれるのを確認して安心してただけなのに!」
「もうやだ…なにも考えたくない」
「どうしみんな分かってくれないの?」
「キョン…気付いてよ、キョン。ねえ、好きなの。キョンが好き、ほかの誰よりも好き」
「でももう嫌われちゃった…ううん、きっと最初からだよね」
「…ジョンなら分かってくれるのかな」
「ジョンだけは、私が書いたあのメッセージだって読み取ってくれたもん」
「どんなに探しても見つからなかったジョン、あれって夢だったの?」
「ジョンじゃなくてもいいの、誰か教えてよ、どうしたらキョンが気付いてくれるの?」
「どうしたらみんなが好きになってくれるの?」

30: 2009/01/05(月) 09:04:58.19 ID:rF22UDeS0

…これはハルヒの思考なんだろうか。
どうして俺に聞こえるんだ?いや、こんなことどうだっていい。
最初こそ、こんなもの聞かされて苛付いていた俺だって、好きなんざ教えられたらそうもいかない。
落ち着けない。
何故かそわそわする。
なんていうか、今ようやく気付いた気がする。
ハルヒが、俺たちに見せない裏では孤独を感じていたことに。
まさか、四人で会ってることに気付いてるとは思わなかった。
でも不思議じゃない。
なにせあいつは、とんでもない力を持った神とやらなんだから。
だからこそ、俺たちは知らない間に遠巻きにしてたのかもしれない。
それを感じ取ったハルヒもあんな風に悩んでいたのか?
俺がくだらないと言ったあの日常は、ハルヒが苦しさから逃れる為に考え出したものだったのか?
俺が迷惑だと言ったことの全ては、どうしたらいいか分からなかったからなのか?
なあ、俺のほうこそ教えてくれハルヒ。
俺は間違っていたのか?

34: 2009/01/05(月) 09:11:36.39 ID:rF22UDeS0
どのくらい時間がたったんだろうか。
いまだ、世界は崩壊していない。
俺の中で増え続ける疑問の数々。
誰も答えてくれないが、俺はそれを口に出していた。
何かに守られているように、学校にだけは色がある。
さっき、「楽しいことだけを思い出す」とかいったがあれは訂正しよう。
今、俺は全てを思い返してる。
入学してから、SOS団が発足して、振り回されるようになった日々の全てを。
色々なことがあったな…。
入学直後の自己紹介、あれには驚いたな。
振り向いた先に居るえらい美人が、真面目な顔してあんなこと言うもんだから。
ついうっかり確かめちまったのが始まりだったっけ。
他愛も無い会話から、五月に入って部活を作って言い出したあいつ。
あの時俺がなにも言わなければ、何度そう思ったことか。

37: 2009/01/05(月) 09:21:43.13 ID:rF22UDeS0
それから、長門と出会って、朝比奈さんと出会って、古泉と出会って。
そして、あいつらの正体を聞かされて、朝倉に殺されかけて、閉鎖空間に閉じ込められて。
確か、あそこでハルヒにキスしたんだっけ。
不思議と嫌ではなかったな。
その後も、色々なことがあった。
文化祭の映画撮影や、野球大会、合宿。
それ以外にもたくさんの活動があった。
そのどれもが、普通じゃしないようなことだった。
とんでもない能力をもったハルヒと、それを取り巻くあいつらと、そしてただ一人の一般人である俺。

38: 2009/01/05(月) 09:28:07.87 ID:rF22UDeS0
さかのぼって考えていくと、俺は思う。
もしかして、この世に俺が生まれたのはハルヒが望んだからじゃないのか?
全てにおいて平凡な日常を歩み、怠けていたのは、ハルヒの飛びぬけた発想をさらに飛ばす為じゃないのか?
北校を選んだのも、ハルヒが望んだからじゃないのか?
だってそうだろう、古泉や朝比奈さんの言うことが本当だとすると、この世界は4年前に作られたものかもしれないんだからな。
それはつまり、ハルヒから与えられた記憶…俺の生きてきた記憶は、ハルヒが望んだものだってことだ。
ハルヒの為に生まれて来たってことなのか?
もちろん、そんなことは誰も説明できない。
ハルヒ本人でさえも分からないだろう。
そんなことを言い始めたらきっと学者が何人も必要になるな。
屋上に寝そべっていた体を起こすと、一度大きく息を吸い込む。
ハルヒに思いを全てぶつけた時にすっきりしたと思ったが、今は違う。
考えすぎた所為もあるだろうが、もやもやとした霞がかかっていた。

40: 2009/01/05(月) 09:38:19.19 ID:rF22UDeS0

なにかがまだ足りないと思う。
しかし、それがなんなのかは分からない。
具体的には分からないものの、なにか…そう、ハルヒにまだ言い足りないんだ。
しかしだな、あれ以上言うことなんて無いはずなんだ。
あれだけ酷いことを言っておいて、さらに追い討ちをかけてしまうかもしれないのに。
人間の欲求って奴がなくならないのは本当だな、なにが言いたいのかなんて分かってもいない癖に言いたくて仕方がない。
どうすれば解消されるんだろうな。

43: 2009/01/05(月) 09:48:54.58 ID:rF22UDeS0
それに、今更だが…本当に今更だが、別れるのが怖くなってきた。
古泉や、朝比奈さんや、長門と。
そして他でもないハルヒと。
なんて自分勝手なんだろう。
とは言っても、朝比奈さんは既に帰ったというか、消えてしまっている。
俺が、消したんだよな。
古泉だってきっと今頃必氏で戦ってるんだろう。
…考えたくは無いがもう、居ないかもしれんな。
長門は、長門はどうだろうか?
情報統合思念体とやらの元に帰ったのか?
ハルヒは?
言わずもがな、か。
きっとまだ部室に居るな。

46: 2009/01/05(月) 09:54:01.81 ID:rF22UDeS0

だってあいつはこの世界の神で、この世界が完全に崩壊した後新しい世界を作るんだろうから。
そこには、俺たちは居るんだろうか。
SOS団があるんだろうか。
あるのなら、このまま消えてもいいかもしれないな。
新しい俺が、うまやってくれりゃそれでいい。
その世界では、みんなそれぞれ性格が違ったりするのか?
どんなに考えても、今、ここにいる俺がその新しい世界の情報を知ることなんて永遠にないんだろうな。
たとえ、長門や朝比奈さん、古泉が、そのまま記憶だけを少し改変されて新しい世界にハルヒと共に行くとしよう。
きっとそこ、この俺は居ない。
当然だ、あんなことを言っちまったんだから。
ハルヒならきっとそうする。

47: 2009/01/05(月) 10:02:41.06 ID:rF22UDeS0
いや、もしかしたら俺も記憶を改変されて、そう…例えばハルヒのことを大好きな男として連れて行かれるのかもしれない。
分かってる、そんなことはありえないってことぐらい。
だってあのハルヒだぜ?
いくらなんでも、人の気持ちまでもを自分の好きなようにはしないはずだ。
そんなこと俺が一番知ってる。
でも、なにか考えてないと走り出してしまいそうだった。
世界が崩壊してもいいなんて、きっと嘘だったんだ。
本当は、怖い。
誰かに助けてほしい。むしろ、崩壊を止めたい

51: 2009/01/05(月) 10:11:03.94 ID:rF22UDeS0
ただ、開放されたかっただけなんだ。
部活に縛られているのが嫌になって、平和な時間がほしかったんだ。
せめて休日だけでも、疲れを癒させてほしかった。そうして、活動的な日常を幸せと感じたかっただけだった。
なあ長門よ、またいつもみたいに助けてくれよ。
朝比奈さん、あなたの…未来の力で俺を過去に戻してください。きっとヘマはしないですから。
古泉、閉鎖空間で毛がなんかするんじゃないぞ。
こうして分かる、自分の無力さ。
頼ってばかりだ。
いつも思っていた、どうして俺だけなにもできないのか、と。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、古泉がいつだったか言った。
「それは、あなたが涼宮さんに選ばれたからですよ」と。
「あなたは、あなたが一般人であることが彼女にとっての不思議なんです。
彼女だって、以前言ったとおり一般的常識は持ちえていますから、自分を現実に引き戻してくれるあなたの存在が必要だったのでしょう。
そして、なにより自分を初めて理解してくれたジョン・スミスという架空の人物と類似したあなた…まあ同一人物なんですが、そのあなたにもっと自分を理解してほしかったのではないですか?
今まで、誰も自分を理解してくれなかったのに、初めて会ったばかりのあなたは違いました。
僕は話しを聞いただけなので良くは分かりませんが、七夕の時の出来事ですよ。もっともあなたにとっては初対面ではなかったんですが。
恋愛は精神病の一種だと彼女が言うのは、自分の気持ちを認めると、今まで通りのSOS団で居られなくなると思っているからかと」

54: 2009/01/05(月) 10:21:31.93 ID:rF22UDeS0
あまりにも長ったらしいその台詞に、当時の俺は「知らん」と答えただけだった。
今なら分かる気がするぞ。
ハルヒの本心を覗いた今なら、分かる。
他の人間より、少し考え方が違ったが為に孤立していったハルヒ。
そんなハルヒの無意識のうちに集められたただの人間じゃないあいつらと、俺。
協力して、ハルヒの知らないところであいつを満足させらるようにしていた。
それはつまり、ハルヒの孤独感を紛らわすという行為でもあったんだろう。
そして、直接ハルヒの目には映らないが次々に起こる不思議といえる出来事。
いつの間にか、ハルヒの周りには友人といえる存在が居て、クラスでは仏頂面だったあいつも今じゃクラスメイトと会話もしている。
まあ、挨拶をする程度だったり必要な会話をするだけなんだが。
きっと、ハルヒにとって新しい世界が開けたと思ったんだろうな。

56: 2009/01/05(月) 10:29:18.00 ID:rF22UDeS0
ただそれも、俺たちが四人だけで会っていたっつーことで揺らいだらしい。
そりゃそうか、解散直後に自分以外の部員が集まってるんだもんな。
しかも、どいつも表情は浮かない。
…当然のように、とんでもないことが起こってたからだ。
そんなことを知らないハルヒからしたら、俺たちが不満を抱えていてそれを内密に吐き出しているようにも見えただろう。
俺達が気付かない間にあいつを傷つけていたんだろうか。
考え出したら底なし沼のようにはまっていく。
さっきよりも、誰かに助けてほしくなる。
助けを求めて、空を見上げた俺は、なにかが落ちてくる事に気がついた。
薄いそれは細長い紙のようだ。
どうしてこんなところに…いや、もしかしたら長門か誰かの助け舟かもしれない。
手を伸ばしてそれをつかむ。

57: 2009/01/05(月) 10:33:47.27 ID:rF22UDeS0
―やっぱりだ。
細く少し長めのリボンのついたその紙は、栞。
裏には長門の字が書かれていた。
「青い鳥」
たったそれだけ。
拍子抜けした。
自分でこんなことにしておいてなんだが、もっと具体策が書かれていると思っていたからだ。
それでも、長門がまだ居るということが確認できた。
まだ、可能性はあるってことか。
手の上の栞の文字を見詰める。
青い鳥って、童話のアレしか思いつかんな。
二人の兄弟が幸せを運ぶ青い鳥を求めて旅に出るが実は飼ってた鳥が青かったってやつ。
それとなんの関係が…?
あれは確か、幸せはすぐ傍にあるものだってことを現してる物語のだったよな。

58: 2009/01/05(月) 10:34:13.57 ID:rF22UDeS0
しかしだ。
高校生活の中で俺は楽しいと思えど幸せだとは思わなかったぞ?
なにせ、氏ぬかと思うようなことだって何度もあったんだからな。
もしかして、これはヒントでもなんでもないんじゃ…。
元々俺は童話に詳しくはないから、青い鳥の物語だって伝聞でそれっぽいことを聞いただけ。
伝えたい意図が違ってもおかしくはない。
ああ、ますます泥沼にはまってく。
必氏で幸せというワードで脳内検索をかけた。
出てくるのは、朝比奈さんの素晴らしいコスプレの数々だ。
…これは人間としてじゃなくて男としての幸せだろ。
今思い出すべき記憶ではないことは分かっているので必氏に仕舞いこむ。
幸せ、幸せ…?
そういえばいつだったか―…ああやっぱり。そんなこともあったな。
そうか、そうなんだな、長門。
お前はこういいたいんだろう?多分。
まさか、長門に教えられるとはな…。

59: 2009/01/05(月) 10:35:25.75 ID:rF22UDeS0
感情的になって自分であんなことをしておいて今更助けてほしくなって、勝手な奴だと思われても仕方が無い。
ただ、新しい世界に自分が存在しないかもしれないこと、今までの時間が無くなってしまうことが怖くなってきた。
なのにまた助けようとしてくれる長門に、聞こえているかは定かでないが「ありがとう」と呟いた。

足を、扉のほうへ向けて動かす。
扉を開けて、薄暗い階段を降りて、静かな部室の前に立って。
耳を澄ますと中からすすり泣くような声が聞こえる。
ハルヒだ。
コンコンとノックをしても、返事は無い。聞こえてないのか?
中に入ってみれば、不思議なことに机や椅子が一切なくなったただの箱といえよう部室の中で、ハルヒは真ん中に座り込んでいた。
長門は居ない。

61: 2009/01/05(月) 10:37:02.19 ID:rF22UDeS0

嗚咽が混じりすぎていて聞こえないが、どうやらどうしてと繰り返しているらしい。
時折、「いらない」とも混ざっている。
ゆっくりと近付いて、床に膝をつく。
「ハルヒ」
名前を読んで、ハルヒの肩に手を置く。
いつもだったらセクハラだなんだと言われてるだろう。
手で覆ったままではあるが、顔を上げた。
「誰…?古泉君?有希?それともみくるちゃん?」
どうしてそこに俺の名前が入っていないのか、なんて愚問だろう。
「俺だ、…キョンだ」
「キョン?ああ、古泉君、騙してるのね。キョンはもう居ないの。だってあたし嫌われたもん」
こいつは何を言ってるんだ?
俺を古泉と間違えてる?
そんな馬鹿な、俺はあいつとは全然似てない。
もしくは、わざとなのか?
そうは見えないな…指の間を伝ってる涙は本物に見える。
それに、嫌われたってどういうことだよ。
ああ、いやあれは確かに嫌われたと思うよな。
そんなつもりは無かったなんていわないさ、俺だって人間だ、人のすべてを好きになんてなれやしない。

62: 2009/01/05(月) 10:39:03.90 ID:rF22UDeS0
「違う、古泉じゃない。キョンだ」
軽く肩を揺らしながら言う。
「あとな、俺はお前のこと嫌いじゃないんだ、ただ少し疲れてたんだ。八つ当たりして悪かった」
それでもハルヒは泣き止まない。
「古泉君…ねえどうしたらいい?どうしたらキョンが好きになってくれると思う?」
それどころか、俺を古泉だと決め付けていた。
「ハルヒ…おまえ」
そこまで、とは続けられなかった。
何故なら、突然手を突き出したハルヒによって、俺は押し倒されて、その上に乗るハルヒが涙でぐちゃぐちゃになった表情で睨むからだ。
「いてぇっ…なにすんだ…よ…」
そのあまりの剣幕に思わず語尾が小さくなっていく。
「古泉君、あたしキョンに好きになって欲しいだけなのに、いつもうまくいかないの」
「いつも、キョンに迷惑かけてたんだわ。古泉君もそう思ってたの?」
ぐず、と時折鼻を啜って俺の頬に両手を当ててくる。
その手はひんやりと、冷たかった。
「違う…違うんだハルヒ、聞いてくれよ」
せっかく分かったのに。

63: 2009/01/05(月) 10:41:02.54 ID:rF22UDeS0

「あたしっていらないのかな…そうだよね、だってほら。有希もみくるちゃんも居ないのよ」
首を傾けて問うハルヒ。
「そんなことないんだ!」
いくら否定しても俺の声は届いていないらしい。
「きっと愛想つかされたのよね。あーあ、キョンと…みんなともっと楽しいこと、したかった、なあ…」
途中からハルヒの言葉は涙で途切れたりしている。
ぼたぼたと顔や胸に涙が落ちてきて、服は所々色が濃い。
話しを聞いてくれよ、頼むから。
もう泣かないでくれよ。
俺が悪かったんだ、どうかしてたんだ。
「ハルヒ!」
俺も泣きそうになって、大声で叫んだ。

65: 2009/01/05(月) 10:43:19.08 ID:rF22UDeS0
途端、びくんとハルヒの肩が兼ねて、何度か目を瞬く。
「キョン…?キョンなの?ごめんね…あたし、あたし迷惑だって思われてるのに気付かなくて…」
どうやら正気に戻ったようだ。
肩の力が抜ける。
「そうだ、俺だ。…ハルヒ、とりあえず降りてくれないか?」
きちんと話しをするためにもこの体勢はちときつい。
「あ…」
今気付いたのか、慌ててハルヒが俺の上から降りた。
しかし、ハルヒも俺と同じ様に気が抜けたのかへなへなと床に座りこむ。
「良く聞いてくれハルヒ。…さっきは、悪かった」
起き上がり、正座する。
頭を下げて反応を窺うとハルヒは目を丸く見開いていた。
「え…あ、ううん、…あたしこそごめん…」
初めてハルヒの口からごめんって聞いたな。
そんなことを考えながら、俺は続ける。
「俺はな、入学してからお前に振り回されてきた」
びくりとハルヒが震えたのが分かる。
「何度も、辞めたいと思ったこともあった。苛立ったこともあった」
そう、ただの人間でしかない俺にはそれが当然だった。
「さっきのことだってそうだった。今までの積み重ねが、爆発して止まらなくなっちまった」
「だからあれは、俺の本音なんだ」
こっちを向いたその目からは涙がこぼれている。
ごめんな、もう少し我慢してくれよ。

66: 2009/01/05(月) 10:46:02.31 ID:rF22UDeS0

「でもな、お前のこと嫌いじゃないんだ」
あんなこと言っておいて意味が分からんよな。安心しろ、俺もだ。
「そりゃ、俺だって人間だからな。お前の全てを好きになれるわけじゃない。誰に対してもそうだ。少なからず嫌いなところがあるんだ」
何も言わずにただ俺の話しを聞いてくれているハルヒ。
「よく言うだろ、一つ嫌いなところを見つけちまうとそこからはもう嫌なところしか見えなくなるって。まさにそれだったんだろうな」
「お前の持ってるたくさんのいい所を見つけずに、気がつけば俺にとって苦手なことばかり見つけてきたんだ」
「でもな、それって逆に言うと、それ以上にお前には良いところがあるってことなんだよな」
少しずつ、ゆっくりと間を空けて言葉を紡いでいく。
「なんでもっと早く気付けなかったんだろうな、あんなこと言っちまう前に」
本当にそうだよと思う。
心臓はどくどくと脈打っていて、拳を握った両手は爪が僅かに食い込んで痛い。
緊張しているなあと実感するよ。

68: 2009/01/05(月) 10:50:08.87 ID:rF22UDeS0
「あの日、自己紹介の日にお前と他のみんなとの高校生活を送る切欠を作ったのは俺だったのにな」
「もちろんお前もだ」
心なしか、さっきよりもハルヒの目から流れる涙の量が少なくなっている気がする。
落ち着いてきたのだろうか。
「お前にぶつけた言葉だけが全てじゃないんだ。楽しかったことはそれ以上にある」
「どれもこれも全部お前が登場してるんだぜ。お前が居てやっと成立するんだ」
「なあ、また不思議探索に行こう」
この言葉を言った途端にすっきりした。
俺は、またSOS団の皆で遊びたかったのかもしれん。
いや、きっとそうだ。
「合宿も良いな。今度はそうだな、みんなでキャンプとかどうだ?」
夏ならきっと楽しいだろうな。

69: 2009/01/05(月) 10:51:36.17 ID:rF22UDeS0

「…ねえ、あたしの話ちょっと聞いてくれる?」
不意に、ハルヒが口を開いた。
少しいつものらしさを取り戻している。
「ああ…なんだ?」
「あたしね、ずっと一人だったの。いつだって皆はあたしのところから離れてたわ」
きっと、中学時代の俺達と知り合う前の事だろう。
「ちょっと皆と違うからって、なによって思ってた。でも、あんな奴らどうでもいいとも思ってた」
「けど、高校に入って、SOS団を作って、やっと自分の元から誰かが居なくなるのが怖くなったの」
「また一人になったらどうしようって」
そんなこと考えてたのか…全然知らなかった。
ハルヒ専門の精神鑑定者みたいな古泉でさえもきっと知らなかっただろうな。
「恋愛なんて病気の一種とか言ってたでしょ?あれだって同じ。みんなが、それぞれに好きな人ができたときに居なくなるのが怖かった」
「それに、あたしが誰かを好きになったときに、拒否されるのが怖かったの」
それはきっと誰だって同じだ、俺だってそうなんだからな。
好きな人に嫌われていたらどうしようと思うのはお前だけじゃない。
「なのにね、あたし…あたし…あんたのこと好きになっちゃったのよ!」
知っていたとはいえ、直接言われると驚いてしまう。
情けないが、恋愛ごとには不慣れなんだ。

71: 2009/01/05(月) 10:53:23.96 ID:rF22UDeS0
「あ、あー…その、ありがとな」
こんなことしか言えなくて悪い。
まだ話しは続くのかと思ったがそうでもなかったらしい、ハルヒは黙っている。
もしや、俺の返事を待ってるのか?
イエスか、ノーの選択を待っているとしたら俺は…。
「なあハルヒ、幸せってどんな漢字を書くか知ってるよな?」
当たり前でしょと言われて苦笑する。
「あれってさ、よく見ると辛いって字の上に一本線引いてあるだろ?」
頭の中に漢字を思い浮かべて語る。
「そういえばそうね。それがどうかしたの?」
「あれってさ、辛いことと幸せなことは紙一重ってことなんだと思うんだ。…つうか、感じ方次第でどちらかは変わるっていうか」
小学生の頃、学校で「幸せってなんだと思いますか」と先生がみんなに聞いた。
家に帰ってから父さんに聞いたら、そんな風に答えられた。
「…なるほどね」
ある程度俺の言いたいことは分かってくれたらしい。

73: 2009/01/05(月) 10:55:38.67 ID:rF22UDeS0

「それじゃあハルヒ、幸せの青い鳥って知ってるか?」
「なに言い出すのよ、突然…」
理解できないと言った声。
「知ってるか知らないかどっちだ?」
それによって話しは変わるだろ。
ハルヒの知ってるわよ、という言葉を聞いた俺は頷いて続きを話しだす。
「じゃあ話しは早いな。あの通りだったよ」
「どういう意味?」
少し言葉が足りなかったか、俺の中じゃ話が出来上がってるもんでうっかり主語なんかを飛ばしちまう。
「さっきの辛いと幸せは感じ方次第って話とあわせるとな、俺が望んでた幸せな日常は、振り回されてばっかりの今にあったんだって思ったんだよ」
ぽかんと口を薄く開いたハルヒは俺の表現力の少なさの所為でいまいち理解できていないようだった。
「つまりな、迷惑だなんだと言ったが、結局俺にとってはそれはある種の幸せだったってことさ」
「これが、返事じゃ駄目か?」
馬鹿な俺には、明確に好きとか分からん。

77: 2009/01/05(月) 11:00:30.52 ID:rF22UDeS0

でもな、ここでお前の本音を聞いたときに、「俺ってハルヒのことが好きだったのか」って気付いた。
泣いてるお前の顔なんて見たくないと思ったんだ。
口には出してやらん、恥ずかしいからな。
なにも言わないハルヒにまずかっただろうかと後頭部をかきながら返答を待つ。
「…キョンの馬鹿」
ようやく返ってきたのはそれだけだった。
「馬鹿ってなんだよ」
人の精一杯の言葉を…。
「ずっと嫌われてたらどうしようって不安だった。だから、あの時だって迷惑だと思われてたんだってわかって後悔した」
「怖いからって我が儘ばっかり言って、それが余計あたしを一人にしてるのにも気付かなくて、それで」
また、ハルヒの目から涙が溢れて来て、俺は言葉を途切れさせた。
「もういい。分かったから、大丈夫だ。ごめんなハルヒ」
なんか分からんが耐え切れなくなって、ハルヒを抱きしめた。

78: 2009/01/05(月) 11:02:56.42 ID:rF22UDeS0
「キョ…」
俺のあだなは途中で切れて、ハルヒは口を閉じる。
「本当に悪かった、これからお前にそんな思いはさせない。なあ、早く部活に戻ろうぜ」
朝比奈さんや古泉、長門が居て、お前が居て、俺の居るSOS団に。
早くしないと下校時間になっちまうからな。
こくりと一つ頷いたハルヒは、「今度こそ、あたしの傍から居なくなったら許さないんだから」と言った。
「分かってる、なんてったって俺はSOS団の雑用なんだからな」
笑みを浮かべて、ハルヒを抱く腕の力をさらに強めた。

83: 2009/01/05(月) 11:05:19.74 ID:rF22UDeS0
ハルヒの肩越しに窓の外を見るとばらばらと灰色の壁が崩れていく。
そこからは、空の光が差し込んでだんだんと元の明るさを取り戻していった。
俺の視線に気付いたハルヒもそっちを向いて、目を輝かせる。
「ねえキョン、これ夢?あたし、前にもこんなことがあった気がするの」
どう返せばいいものか。
下手に夢だと言ってしまうと、また世界は崩壊するかもしれない。
しかし、現実だと教えるとこいつは不思議の存在を完全に知ってしまう。
「…俺が頼んだんだ。古泉に。あいつの親戚に頼んでもらってな。本当は、喧嘩する予定なんかなかったからただのどっきりのつもりだったんだが…」
我ながら下手な嘘だ。
あとで口裏あわせでもしておかないとな。
気がつくと、周りにはいつもの部室の姿が戻っていた。
椅子が、机が、すべてが元通りだ。
けれど、そこに他の部員の姿は無い。
もしやもう駄目なのか?
いいやそんなはずは…

84: 2009/01/05(月) 11:07:07.31 ID:rF22UDeS0
「これは一体どういうことでしょうか…」
「あ、あれ?どうなってるんですかぁ…!?」
「…おめでとう」
突然開いた部室の扉。
その先には、見慣れた三人の姿。
「良かった…」
ほっとすると同時に、現在の自分の状況に気がついて慌ててハルヒを離す。
「すまんハルヒ!…それと、お前らにも。本当に悪かった」
立ち上がり、頭を下げる。
すべてを理解しているらしい長門は何も言わなかった。
「詳しくは後でお伺いするとして、…いいんです、またもどって来れたんですから」
古泉は、閉鎖空間で戦っていた筈なのに傷はおろか、服装に一つの乱れも無かった。
朝比奈さんはというと、現状が理解できずにおろおろしている。
また後で三人には話すという意味を込めてあいコンタクトを送り、俺は長門に言った。
「青い鳥、ちゃんと見つけられたぜ」

85: 2009/01/05(月) 11:08:47.60 ID:rF22UDeS0

その後、部活を終えた俺はハルヒを自宅まで送り、その後にいつもの公園に向かった。
既に集まっている三人。
「遅れて悪かったな、さてどこから話そうか…とその前に古泉、お前体は大丈夫か?俺の所為で悪かったな」
「いえ、あれから機関とも連絡を取りましたが、神人と戦って負ったはずの傷は全て消えていました。涼宮さんのお陰でしょう」
ほら、と言って袖を捲る古泉。
確かにそこにはかすり傷も無い。
「そうか…」
そして、三人、正確には二人に全ての発端から終わりまでを話した。
時間で言うと、十分ほどだったな。
あんなに長かったのに、話すとこんなもんか?
なんにせよ、古泉からはこれから気をつけてほしいことと、良かったと言われた。
朝比奈さんは安心からか泣き出してしまい、長門が無表情に慰めている。
そろそろ解散しようという古泉の提案に頷き、背を向けかけたところでもう一つ言わなければいけないことを思い出した。
「俺ってハルヒのことが好きみたいだ」


おわり。

86: 2009/01/05(月) 11:09:52.26 ID:Td09ebH00
おつかれ

87: 2009/01/05(月) 11:10:19.06 ID:qJQiYOX80
おつですた

引用元: キョン「俺ってハルヒのことが好きだったのか」