1: 2007/07/15(日) 11:26:02.40 ID:6CVSyLRn0
暑い。蒸し暑い。

去年もこんな感じだったが、終わらない夏休みやら何やら、ハルヒのゴタゴタ騒動のおかげで多少は暑さから目がそれていたような気がする。

・・・・まぁそんなことを考えながら、俺はいつものように部室の扉を開くのだ

3: 2007/07/15(日) 11:33:21.69 ID:6CVSyLRn0
俺が部室に入ると、既に他の団員は集まっていた。
朝比奈さんと長門はともかく、残り二人がすでにいるってのはちと珍しいな。
ハルヒはネットに夢中のようだ。

・・・って、古泉、なにお前は朝比奈さんとオセロに興じてるんだ!俺と変われ!

6: 2007/07/15(日) 11:41:21.13 ID:6CVSyLRn0
「あなたが来るのが遅かったもので、待ちきれず彼女ともう始めてしまいました」

・・・ハルヒもこういうときこそメイド家業を放棄しているメイドになんとか言ってやって欲しいね
お前のの動作からして意味のないカウンタ回しをしているのは明らかだぜ

「あの・・・変わりましょうか?」
「あ・・・いいですよいいですよ!お気になさらず」

ふう・・・
いつも座っている席を今日ばかりはメイドさんに奪われていた俺は、横にあったパイプイスを一つ組んで、
テーブルの中央、ハルヒの向かいに腰掛けた。

そう、ここで俺はいつもの部室にはない重大な相違点に感づいてしまったのである。

10: 2007/07/15(日) 11:45:41.76 ID:6CVSyLRn0
長門・・・・
そう、長門が眼鏡をかけているのだ。

あのとき以来、「あの騒動」を除いては拝めなくなっていたその顔である。
もっとも、ハルヒと朝比奈さんは余り気にもかけていないようだが・・・俺にとってはちと気にかかる。古泉は知らん

11: 2007/07/15(日) 11:49:52.81 ID:6CVSyLRn0
・・・

まさかなんで眼鏡かけてるんだ?なんてことをここで面と向かっていうのもためらわれるので、
俺は視線をはずしてオセロの盤に目を向けた。

あぁ・・・古泉も朝比奈さんも弱いな・・そこはそうするんじゃなくて・・いや・・・

すると不意打ちのように
「・・・有希、今日眼鏡かけてるわよね。コンタクト無くしちゃったの?」

13: 2007/07/15(日) 11:54:10.90 ID:6CVSyLRn0
「・・・・・」

長門が視線をハルヒに向けた。しかし、その表情には・・俺しか分からなそうだが、少しクエスチョンマーク的要素が見え隠れしているような・・

「まぁ前から私はそっちのほうがぜんぜんかわいいと思ってたからいいんだけどね!有希は眼鏡似合うから!」
その意見には正直同意しかねる・・・と思ったのもつかの間、長門の顔には長門にはありえない表情の変化がでていた。

15: 2007/07/15(日) 11:57:50.80 ID:6CVSyLRn0
長門の顔にちょっと朱が差し込んでいるような・・・照れてる・・・のか?

対有機生命体なんとかかんとかインターフェイスの長門が「照れ」?
俺は一瞬目を疑った。

そうそれは、「あのとき」に、別の長門が俺に見せた表情と酷似していた。っていうか同じじゃないか。
やはり今日の長門はおかしいぞ。ま・・・・またなんかのエラーなのか?

18: 2007/07/15(日) 12:04:12.00 ID:6CVSyLRn0
その表情を観察していたのは俺だけでは無かったようだ。
俺は古泉の一瞬の動作を見逃さなかった。

突然、
「あぁ・・・僕今日はバイトの時間でした!勝負も途中になって本当に申し訳ありませんが、この続きはまた今度。」

続き?んなもんは俺が断固阻止。・・・・なんてことも頭によぎらず、部室を早々に出て行った美少年部員の後を追って俺も部室を出ようとした。
あいつは、絶対に何か知ってる。

「ちょっと!キョン!どこ行く気よ!」
「トイレだ!トイレ!」

21: 2007/07/15(日) 12:09:33.65 ID:6CVSyLRn0
ハルヒのかん高い声を振り切って部室を出た俺は、すぐに廊下を闊歩していた古泉に追いつき、
肩口を叩いてこちらに目を向かせ、問いただした。

「お前・・・今日はなんのバイトなんだよ。」
「あぁ、閉鎖空か」
俺は即遮った
「そんなわけないだろ。ハルヒはいつものように傲慢だが、特別不機嫌な感じでは無かったぞ!」
「・・・・」
「お前が長門にちらりと目を向けたのを俺は見た。お前、今日の長門のこと、なんか知ってるんじゃないか?」

26: 2007/07/15(日) 12:19:55.55 ID:6CVSyLRn0
「なんのことでし・・・」
とまで言いかけると、俺のかなりマジな形相に気づいたのか、古泉は口を閉じ、

「そうです。僕が部室から出たのはそのため。長門さんの突然の変化を機関のお偉いさん方へ報告しなければならないので」
「・・・・」
「SOS団の団員に何か重大な変化があるようなら、僕はそれを逐一報告しなければならないことになって」
「ちょっと待て、お前は長門の「変化」のことをどこまで知っているんだ?」
「・・・・今日の長門さんの変化のわけや影響は僕にも存じかねます。多分あなたと同じ程度の認識とおもいますよ」
「それは、眼鏡・・と、いつもの長門には見られない感情的な・・」
「そうです。それ以上のことは分かりません。むしろ僕が驚いているぐらいです。」

33: 2007/07/15(日) 12:31:09.75 ID:6CVSyLRn0
「・・・・・何より・・・」
「何より?」
「今の長門さんには今までのような超人的な・・・いやそもそも「ヒト」ではありませんが、そういう能力が無くなっているように感じるのです。」
「・・・」

どういうことだ?
「まるで普通の、女子高生のような・・・というより・・・体の組成が根本的に変化して、普通の人間に・・・」

なんてこった。それじゃあ、さっきの長門はまるっきり「あのとき」の長門と同じじゃないか。
あの長門が、今度は現実の世界の長門と入れ替わっているのか?でも、どういうことだ?
今日の長門はSOS団のいつもの風景を別段変に思っているフシは無かった。
「今日の長門」の記憶はどうなっているんだ?

「「あのとき」?あのときのなが・・」
やばい。口が滑ったか。
「い・・・いや、何でもないんだ。」

「・・・そうですか。じゃぁ僕はさっきもうしましたことを実行しなければならないので・・・
命令に逆らって機関のお偉い方の怒りを買うわけにはいきませんし」
「・・・」
「では。」
そう言うと古泉は珍しい早足で階段を下りていった。


35: 2007/07/15(日) 12:41:24.87 ID:6CVSyLRn0
部室に戻ると俺はすぐにカミナリ様の天誅を食らった
「ずーーーーーいぶん長いトイレね!!」
「あぁ、」
「全くもう! アンタがいなくて女の子三人じゃ会話にアクセントが無くなるの!」

なんだそりゃ。さっきまでお前は会話も何もマウスをいじり倒してただけじゃねぇか。
「つべこべ言わず!」


ポン。
と、長門が本を閉じる音。いつものSOS団終了の合図だが・・・。
「あ、もうこんな時間?じゃ、私は帰るから!戸締まりはあんたが懲罰でよろしくね!」
そう言うとハルヒは真っ先に部室を出て行った。朝比奈さんも。

・・・まぁ逆に都合がいい。俺は今日はいろいろ「あいつ」とはなしたいことが

って!長門も彗星のように部室から消えていた。
帰るの速すぎだろ・・・話は明日に持ち越しか・・・

36: 2007/07/15(日) 12:42:50.67 ID:6CVSyLRn0
ちょっとメシ食いながら投下するのでさらに速度が遅くなるかもしれません
すみません~

40: 2007/07/15(日) 12:59:10.07 ID:6CVSyLRn0
普通に登校。普通に授業。普通に放課後。
俺は今日も部室に向かおうとしていた。

部室のドアを開けると朝比奈さん以外は既に全員来ていた。
ちょいと鼻につくイケメンの男子部員、眼鏡っ子で読書好きな女子部員。そして小うるさい我らが団長。

「朝比奈さんは今日はお友達と用事があるのでいらっしゃらないそうです」
本当か?可憐な花がいないとなると俺の部室に来る意味は99.99999%ぐらいは失われてしまうのに!
「まったくみくるちゃんも~。遊ぶんなら土日に存分に遊べばいいのに!!何物にもかえがたい一日で一番有意義なこの時間を削るなんて!」
土日もすべからくお前が拘束してる気もするが。

ふと左へ目を向ければ、いつものようにおとなしい元文芸女子部員が読書にふけっている。
時々思うがこいつは眼鏡をとったらどんな顔になるんだろうな。顔自体は整ってるから意外にかわいい気もするが。





・・・・・・・・うん?

43: 2007/07/15(日) 13:06:20.36 ID:6CVSyLRn0

違和感。



何かの違和感が俺を突き抜けた。
なんだろうこれは。

でも俺がいる部室はいつもの部室。朝比奈さんがいない以外は何もいつもと変わらないSOS団のはずだ。

家具(と呼ぶのがふさわしいのかどうか)や備品はいつものままだし、人物も・・・
小うるさい団長(実はやっかいな神様だが)と背の高い美少年(こいつも実は超能力者・・・)と今はいないが未来から来た美少女
と、団長様に部室を横取りされた薄幸の元文芸部員(俺と同じ一般人はこいつだけだ)

そう、人物も何も変わっちゃいない。

・・・この違和感はなんかの幻覚なのか?杞憂だろうか。

48: 2007/07/15(日) 13:19:21.66 ID:6CVSyLRn0
まぁいい・・・今日も古泉と盤ゲーに興じるとするか

今日はチェスの気分だが・・・
「すみません。今日僕が持ってきたのは将棋だけです。」
まぁしょうがないか。どうせ勝敗は戦う前から分かってるしな。ゲームの種類どうのこうのの問題ではなく。
「んじゃ・・・先攻は・・・」

と言いかけたとき、
「今日は私がやるわ!」



「いっつも古泉君負けてばっかりでしょ!私がアンタをぎったんぎったんに叩きのめして打ち負かしてやるんだから!」
まぁ・・・それはいいが、お前将棋できるのか?
「・・・別にいいが、弱くて拍子抜けさせるなよ。」
「あんたがね!」

ハルヒは俺のイスを奪ったので、俺はいつも古泉が腰掛けている長門側に座ってゲームを始めた。こっちが玉王側か

49: 2007/07/15(日) 13:23:28.19 ID:6CVSyLRn0
ゲームは俺優勢。というかほとんど詰みの段階だな

「フフフ・・・・小学生の将棋大会32人トーナメントで一位を取った俺を舐めるなよ!」
「何それ!ここからなのよここから!はいそこに角成り!」

ハルヒの抵抗むなしく。順当に俺勝利。なんともあっけない敵だったな。

「三回勝負よ!」

来ると思ったぜ。でもいくらやっても無駄だな。

53: 2007/07/15(日) 13:32:42.40 ID:6CVSyLRn0
・・・結局五回勝負になったが、それも三本ストレートで俺の圧勝。

「ぎったんぎったんになったのはお前の方だったな」
「・・・何よ!もう!将棋だったのがいけなかったのよオセロなら・・」
そうか。んじゃやるか?オセロは部室に常備だし

「・・・・もう!」

「あぶな」

ハルヒはいつぞや文化祭後に俺に草を投げつけた時のような動作で・・・
今度は、そう、握った駒を
「うわ!」
桂馬と飛車が宙を舞う。すかさずよける俺。パソコン側へ非難。我ながらけっこうフットワークいいな

「えい!!」
2発目が来た。今度は歩と王か?スピード速いな、本気で投げやがって。でもこんなに俺は動体視力良かったか?



      「あ」


ハルヒの投げた駒は全発命中。いや、俺にじゃない。

「長門!」



56: 2007/07/15(日) 13:40:53.05 ID:6CVSyLRn0
「ご、ごめん有希!」

俺とハルヒはすぐさま長門に駆け寄る。古泉は必氏に駒を集めているようだ。

ちょうど・・・顔だな。顔に7発か。
眼鏡のおかげか目は大丈夫だが、頬がちょっと切れてるようだ。軽傷で良かったよ。

「ごめん。本当にごめんね有希。キョンが避けるから・・・」
なんだその絶対王政時のフランス国王もビックリな理屈は。

「とにかく軽傷で良かったじゃないですか。」
古泉は散乱していた駒を集め終わったようだ。

「長門。ちょっと見せてみろ」
近づいてまじまじともう一度容態を確認してみる。

すると

61: 2007/07/15(日) 13:51:16.07 ID:6CVSyLRn0
・・・・涙?

「お前涙でてr」
ハッとした仕草を見せた後、長門はすぐさま眼鏡をとって顔をぬぐった。

駒が当たって痛かったから出た涙なのか、団員の優しさに涙腺がほだされた結果なのかは分からんが、
正直レアな代物だった。

この調子だと俺はもう一度レアなものを拝めるな。そう、長門の眼鏡をとった顔だ。
けっこう前から期待はしていたが、俺の予想は当たってくれるのだろうか。
こいつは絶対に眼鏡をとったほうが映えると思うが・・・。


ぬぐい終わった長門がさっと顔を上げた





そう、同時に俺には閃光のようなものが一瞬駆けめぐる。
ど忘れしていたものを思い出すような・・・。テスト中に起こってくれれば正直ありがたいような現象。


・・・俺は今日何を見ていたんだ?何を思っていた?「この長門」は「本当の長門」じゃない。
いつもの対有機生命体なんとかかんとかから何故か変化してしまった、昨日の長門じゃないか!

65: 2007/07/15(日) 13:59:01.00 ID:6CVSyLRn0


・・・そう

何故だかは知らんが、俺は昨日の出来事を全部忘れていた。
いや、正確に言えば、昨日「変化してしまった長門」を本当のものだと思ってしまっていた。

そうだ!今日は昨日のことを長門に何か問わなければいけなかったんじゃなかったか。
昨日ベットに入るまでは覚えていた。・・・どこから忘れている?ともかく・・

「古泉。ちょっとトイレ休憩だ」
「は?何言ってるのよアンタ!有希がいまね・・」
「僕はかまいませんが・・・いわゆる「連れション」というやつでしょうか?」
そうだ!そういうことにしておくからちょっと来い!

・・・なんで少し遠い目をしてるんだお前は!そんな色目はいいからさっさと来い!



俺は古泉を連れて部室を出た。もちろん・・・

68: 2007/07/15(日) 14:08:29.74 ID:6CVSyLRn0
もちろん、昨日のことを問いただすためである。

「おい。昨日のことを覚えているか」
「昨日のこと?何のことでしょう?」
・・・・
本気なのかどうなのかこいつはよく分からんな・・・

「昨日、長門が変わってしまったことだよ!」
「長門さんがですか?」
「そうだ。お前が俺に感じたことを説明してくれたんじゃないか」
「・・・」
「分からないのか?」
「まったく・・・覚えておりません・・。そもそも長門さんの何が変わっても正直僕はそれほど関心が無いので・・」

え?

「朝比奈みくる、涼宮ハルヒの動向なら、逐一機関に報告しなければならないことになっていますが、あなたと同じ一般人の長門さんは・・・」



やっぱりだ。朝からさっきまでの俺と同じ認識。
長門は本当の普通の人間で、まるで昨日の長門が現実のような認識。

今までの長門を「忘れて」しまったような

71: 2007/07/15(日) 14:21:13.65 ID:6CVSyLRn0
「分かった。もう聞くことはおしまいだ」
「え?連れション・・・はどうするのでしょう?」
トイレならお前一人で行けばいいだろ
「そうですか・・・」
なんでお前は残念そうなんだ。
「では、あなたのトイレの時間まで待ちましょうか?」
・・・・・
俺はお前を忘れたいぐらいだ。




「遅かったわね。」
長門のほっぺたにはバンソーコーで手当がしてある。たまに見る丸形のやつだ。

「あと7分程度で下校時間ですが」
もうそんな時間か
「今日の戸締まりは・・・私、やっとくわ。みんなはもう帰っていいわよ」
さすがのハルヒも多少、引け目を感じてはいるみたいだな。

「では僕はお先に、今度はトイ」
「それは未来永劫、無い。」





・・・俺は下駄箱で長門を待っていた。もちろん、今回のことの手がかりを聞きつけるためである。

75: 2007/07/15(日) 14:33:44.15 ID:6CVSyLRn0
「長門」

長門はこちらを見つけると小さな驚きの表情になったが、すぐに顔を下に伏す。
「ちょっと話したいことあるんだけど、帰り道、いいかな?」
驚きの表情は強くなった

「・・・・・いい」




ハルヒに見つかるとなんとなくやばそうな気がしたので、長門を急かしてすぐに校門を抜けて敷地外へ出た。

聞きたいことは山ほどだが、それをはたしてこの長門に聞いてしまって良い物かどうか、二人で歩きながら俺は思案していた。
当然、言葉もとりとめのないものになる。日常の学校生活のことばかり。

でもそれによって、それでだいたい「この長門」の境遇が分かってきた。
内気な少女。読書好き。やっぱり家はあのマンション。少食。

ようするに、「以前の騒動」のときの長門とほぼ同じだった。違うところは、SOS団員として過ごした記憶をきちんと持っているってことか。
でも、長門の超人的な活躍で解決した事件はすべからくちょっと違っている。ギターは弾けないらしい。

81: 2007/07/15(日) 14:42:05.91 ID:6CVSyLRn0
「私の家・・・来る?」

いつしか長門にそう言わせる方向まで話が進めていたか。なんというデジャヴーだろう。

しかし、もうマンションが地理的に近づいているのは分かっている。とりあえず二人きりになれたわけだし、
この機会を逃すとまたかなり面倒だ。

「どこにあるんだ?そのマンション?」
「もう・・・近い・・」


マンションの真ん前にきた俺たちは、無言が少し気まずいエレベーターを抜け、長門の部屋の玄関前についた

88: 2007/07/15(日) 14:55:05.68 ID:6CVSyLRn0
長門の後を追い、靴を整えて入った俺は俺は、やはりあの部屋に通された。

さて、どうすればいいのだろう。・・・・と考える前に、お茶を出そうとする長門に向かって俺は言っていた。
「お前、宇宙人って信じてるか?」

セールスマンはあくどい・・・というか単なる詐欺師だが、少しばかり見習いたいところもあるね。
ああ、俺にはしゃべりの才能が皆無だな。こんな切り口から何を聞き出そうというのか。どう話を繋げればいいんだよ。

・・・
言葉よ!もう一回口の中に戻ってきてくれ!・・・もっといいものにしてはき出してやるから・・・








「・・・?」

まさにクエスチョンマークが似合いすぎる表情をして、長門がこちらを見る。
ちょっぴり首をかしげる動作のおまけ付きで。

「いや、あの・・・、その宇宙人は本が大好きでさ!な、なんでもできるんだよ。そして俺をいつも助けてくれる。で・・・」


と言いかけたとき、俺はとっさに手を伸ばしたが間に合わなかった。
長門の手から茶碗がこぼれ落ちた。

96: 2007/07/15(日) 15:10:13.26 ID:6CVSyLRn0
「うわ!!」

昨日の放課後に氏ぬほど蒸し暑さを感じているときにこの冷えたお茶をかぶるのはいいが、さすがに夕暗くなった今ではなぁ・・・


「ご・・・・・・ごめんなさ!・・あぁ!」
謝罪の言葉と共に、後ろのポットの横にある布巾を取ろうとした長門は転当。
正直、朝比奈さんでもめったにみられないドジっ娘っぷりだな・・・


・・・・・なんて考えてる場合ではなく
「おい大丈夫かよ!」

そう叫んで長門に駆け寄る・俺・・なのだが


不覚

こたつは敷いてないが、その分露出していたテーブルの四脚に足をとられて俺も転倒
長門に・・・そうだな・・・この体勢はなんと言えばいいんだろうか。

まぁ平たく言えば古泉とは絶対になりたくないような・・・

でも・・・いや古泉なら大丈夫だろうが、成人の平均身長並みの体重は持ってる俺が長門に覆い被されば、
うん。それは長門はキツイだろう

102: 2007/07/15(日) 15:19:38.92 ID:6CVSyLRn0
「ごめん!」「ごめんなさい!」

真っ先に離れたのは長門の方だった。
少し、惜しいような・・・







いやいやいや。早くこの散乱したポットやら茶碗やらを片づけなければ!。
長門の持っていた茶碗が割れなかったのが救いか。



・・・長門と俺で布巾雑巾を使いながら必氏に掃除に精をだしているとき、
突然、長門は驚くべきことを切り出した。



かかった冷水の影響か、俺の体は少し寒い

114: 2007/07/15(日) 15:42:15.99 ID:6CVSyLRn0
「私・・・・そういう小説を読んでた。」
「・・・え?」
「宇宙人の小説。さっき、ついさっき」

どういうことだ?
「あなたが将棋をしていたとき、ちょうど・・・読み終わって、でもラストは無くて」
この長門も、言葉を出すときに単語を並べるようにして口をつぐむ傾向があるが・・・
正直に言って、断片的すぎて意味が分からん
「どういう・・・こと?」


長門は小説の説明をしてくれた。(やはり断片的だったのだが)
SFもの。主人公は地球人・・・なのかは分からんが人間。その主人公と仲間達の日常に、
小柄な宇宙人の少女(読書好き)が現れ、事件を解決していく。

でも少女は同じ言葉を話せない。だから他の仲間達には気味悪がられる。
そんな中、理解者になってくれたのがその主人公。

主人公やその仲間達に近づきたい宇宙人は、悪魔の秘法で同じ言葉を話そうとする。
でもその魔法を使うと、本来は何百年も生きられる宇宙人も、あと三日の命になってしまう。

主人公には仲間のいいなずけがいたが、それでも宇宙人はその魔法を使う。



・・・って、そんなのはなっからバッドエンドが確約されてるような「人魚姫」じゃねえか。
作者出てこい。そんな小説が売れるなら俺も小説家目指すぞ。


しかし、今「バッドエンド」と俺は言ったが、そしてその小説で一番特筆すべきなのは・・・

116: 2007/07/15(日) 15:43:58.55 ID:6CVSyLRn0
すんませんw
>そしてその小説で一番特筆すべきなのは・

ここ「そして」の誤字抜きでw

123: 2007/07/15(日) 16:01:17.35 ID:6CVSyLRn0
そう、さっき長門が言っていたような気もするが、その小説、エンディングが無いらしい

いや、いくら怠慢で盗作バリバリ印税ウハウハな性悪作家でも、一巻もので落ちをつけないなんて暴挙は犯さない。
長門によれば、ちょうど、ページが破れて抜け落ちていたそうなのだが・・・
そういうまがいものは、普通図書館から借りるときに気づくんじゃないだろうか・・・

「図書館から借りた時は、全部のページが・・・あった。」

・・・
「何時破れたのか、分からない・・・」

そんなこと、あるのかねぇ・・エンディングの無い本、か。

「そっちの雑巾、とって」

「ん?あぁすまんすまん」



・・・・
そんなこんなで長門と俺の大掃除作業が大詰めに近づいた頃、
これまでの静寂を一気にぶち破りやがるような台風X号が到来してきた!

125: 2007/07/15(日) 16:07:29.69 ID:6CVSyLRn0
「こーーーーーーーーーんにちわーーーーーーー!!!!!!いやこんばんわかなっ?長門っちいる~?」


こ、この声は・・・・

「こんばんわぁ~。長門さんいませんかぁ」



・・・あぁ。
まぁ予想してた最悪規模の台風Xでは無かったようだが、それでも二大巨頭台風Yと台風Zと言えよう。
どうするべきかっ!

128: 2007/07/15(日) 16:17:04.10 ID:6CVSyLRn0
「だ・・・誰だろうなぁ・・ハハ」
ちょっと白々しいか?俺

「たぶん・・・」
そう。

どう考えても朝比奈さんと鶴屋さんです本当にありがとうございました
遊びに行くと言ってたが、不覚だったな・・・



・・・
とかなんとか考えるまでもなく、鶴屋さんは居間に上がってきた。
あぁどうしよう俺・・・朝比奈さんはともかくも、明日鶴屋さんからハルヒにばれたら・・・

「鶴屋さん、かってにあがっちゃ・・」
「あ!長門っちいるねぇ!・・・・って!!!!!!!」


ハイ・・・スミマセン・・・今は夜・・・九時ですか

129: 2007/07/15(日) 16:25:00.20 ID:6CVSyLRn0


・・・・・・・・・




「ど・う・し・てキョン君ここにいるのっさ~」

なんと形容すればいいんだろう。この目。
カツ丼を出してくれるような男気のある取り調べはしてくれそうにない。
鶴屋さんならもう少し話が分かって見逃してくれると思ったが・・・

・・・長門は居づらいのか台所へ行ってるな・・。
朝比奈さんは・・・なんでそんなにうつむいてるんですか?目ぐらい合わせて・・・

「い、いやですねぇ、これにはちょっとだけ、いや深い、そう!深いわけが」

「・・・・」
鶴屋さん、あなたはなんでそんな目で・・・



すると、俺にとってはこれ以上ない助け船。長門が軽食を作って持ってきた。
「ま、まぁ長門がせっかく作ったんだしこれでも食べましょう!」

上級生二人は・・・うん。目は笑ってるんだが眉毛が笑ってないな


135: 2007/07/15(日) 16:39:37.62 ID:6CVSyLRn0
結局四人で気まずい食卓を囲んだ。(いつぞやの朝倉、長門と食ったときのようだ・・)

血の池地獄やら針地獄やら、いろいろと地獄にはバリエーションがあるだろうが、
俺から閻魔大王にかけあって、それらに追加したいいただきたいぐらいの地獄だ。いや本当に辛い。
明日のことも考えると鬱になる。


・・・って、朝比奈さん、あなたはなんで俺が醤油をとるだけでびくついてるんですか。
俺はビXチ(?でも不潔でもなんでもないんですよ。


静寂(実際には鶴屋さんが一人でしゃべっていたが、ほとんど環境音のようなものだ)を切り裂き、
長門が一声を発した。
「あの・・・わたし、ちょっとお茶こぼしたり、倒れただけで・・・お二人が考えているような・・」
間髪入れず
「「倒された」ぁ!?」

倒れたです。


「い、いや彼は、悪くなくて」

「い~やいやいや、もういいんだよ長門っち。両手に花をきどる悪の女ったらしは私が成敗してやるっさ!」

・・・・あぁ・・・なんか話が・・・




143: 2007/07/15(日) 16:54:34.97 ID:6CVSyLRn0
「キョン君・・・」
あなたまでそんな目で・・・

「い~いかい?キョンくんっ。明日ハルにゃんにかけ合ってSOS団で審議してもらうよ!この議題はねっ!」
「い、いや、それだけは、っていうか本当に俺はただの「深いわけ」でここにいるだけなんですよ。」
「なんだい!それ。・・・・あ~ぁ、明日報告したらハルにゃんと古泉君はめがっさ深い悲しみに包まれると思うよ~」
なんで古泉なんだ。
「キョン君・・・・真実はちゃんとお話しした方が・・」
なんであなたまで・・


そのときだった。

カタン
と音を立て、長門が無言で席を立つ。・・・顔にキラリと何かが見えたのは気のせいだろうか

「・・・・・」
取り残された三人。

5秒ぐらいの静寂を破ったのは朝比奈さんだった
「私、帰りますね・・・ちょっと用事が・・」

この状況なら俺も帰るしかあるまい・・・
「じゃぁ俺」
と言いかけたところで鶴屋さんの視線に気がつく。なんだ?この人はデタラメ犯罪追求以外に話すことがあるのか?



しかし、鶴屋さんの眼光は、さっきまで俺を尋問していたときとは、明らかに性質を異にしていた。
なんだ?何が言いたいんだ?

148: 2007/07/15(日) 17:05:57.03 ID:6CVSyLRn0
「あのさ・・・」
「な、なんですか・・・」
三秒の間
「今日の長門っちちょっと変じゃないかい?」



いつそう思ったんだ?今の長門の癇癪(と言っていいのだろうか)からだろうか?
「・・・・今日ここに来てから、なにか違和感があったような・・・・」

もしかして、この人は長門の変化を感づいているのか?
古泉は完全に以前の・・・つい一昨日までの長門のことを分からなくなっていた。
朝比奈さんがそれと同じなんらかの記憶操作を誰かにされていても不思議じゃない。さっきの朝比奈さんの挙動からは読めないが・・・
まぁハルヒは前々からおとなしい少女像を長門に見ていただろうから、「いつもの長門」のままだろうけれど・・・


151: 2007/07/15(日) 17:13:11.38 ID:6CVSyLRn0
「うん。確かに変だよ。」

「具体的にはど、どんなところが?」
「いつもの長門っちみたいなミステリアスな感じがなくなってると思わないかい?なんというか・・・本当に普通の女の子みたいな・・」

普通の女の子。

普通の女の子。

その通りだ。普通の単なる少女。美の形容がつくかはわからないが、俺はついてもいい気がする。

「・・・・キョン君何か知らないのかい?今日ここにキョン君がいるのも、なにか関係が・・・」
相変わらず恐ろしいほどに洞察のいい人だ。

さて、俺はどう答えればいい?

154: 2007/07/15(日) 17:23:08.59 ID:6CVSyLRn0
一切合切を話すのならば、神のことや少年エスパーのことや未来人のことも話さないと説明がつかない。それは無理だ。

だいたいなんでこの人が長門の変化を読み取れるんだ?というかなんでこの人の記憶は操作されていない?

「教えないと・・・ほんとに明日言いふらすよ!」
「・・・・・・・・いや、」


「いや、俺もそれを感づいて、何か変わったことがあるのだろうか、と思って長門の家に来たんですけど・・・」
「・・・」
半信半疑・・・か?
「けっきょく手がかりは何もなくて、何か内面で人には言えないような変化じゃないのかなぁ・・・と」
でまかせでもあり、一部真実でもある。
「・・・・ホントに?」
「・・・ええ」

そのとき。台所の裏に行っていた長門が帰ってきた。

163: 2007/07/15(日) 17:33:21.24 ID:6CVSyLRn0
「長門」

「・・・・・・」

なにか言いたいのだろうか。よく分からないが、伏せた目は悲しみの表情を作っている気がする。

「じゃ、私も、もうそろそろ帰ろっかな~」

鶴屋さんが一転してやや場違いなトーンの声を出す。まぁ、ここで何か言葉を発して場を和らげるなら、こうしたものしかないとは思うが。
「じゃぁ俺も」

俺もこの場は帰るしか無いような気がした。

・・・

鶴屋さんが先にドアをひらき、出て行った。
俺もカバンや乾いた制服をとり、玄関へ向かった。



長門は廊下の途中まで見送りに来たが、俺が靴を履く段階になると居間へ戻っていたようだった。



・・・・
あのときと同じように、長門に制服をつままれて請われるようなことは無かった。

168: 2007/07/15(日) 17:42:43.57 ID:6CVSyLRn0
自宅に帰ってくると家族は寝静まっていた。
連絡のレの字もなかったし、明日どれだけ怒られるかは想像に難くないな・・・

明日・・・・?

そう、昨日俺が長門を「忘れて」いたのは朝起きたときである。
明日も同じようなことにならないとは限らないな・・・・

俺はカバンから筆記用具とメモ帳を取り出し、明日絶対に今日の出来事を忘れないように紙に逐一書き記そうと思った。
貼り付ける場所は・・・そうだな。いつも着替えるときに開ける洋服棚にしよう。

それが終わって寝静まったころには、夜の12時をとうにすぎていた

172: 2007/07/15(日) 17:53:58.25 ID:6CVSyLRn0
「あああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

いてぇ!なんだか分からんがいてぇ!

「キョンくん!おきてぇ~」
いつもの時報なのだが・・・か、髪を引っ張ったらダメだろ!も、もう起きてるぞ!俺は!



・・・
朝から災難だったが、まぁ今日寝起きが悪いのは俺の夜更かしも原因の一つだし、しょうがないか。
昨日長門の家にずっとおじゃましていたからな。鶴屋さん、朝比奈さんも来て・・・



・・・洋服棚は見た。
でも正確に言うとそれで思い出したのではなく、俺のカバンに本が入っていて、それを見て思い出したのだ。
そう、昨日長門にしょうかいされた本が。

・・・長門が入れたのだろうか?いや、昨日一度も俺のカバンに触れてなどいないはずだが・・


朝からやや気だるい気分で授業を受けていた俺だったが、その理由は睡眠不足だけじゃないような気がする。

185: 2007/07/15(日) 18:07:30.10 ID:6CVSyLRn0
授業中、俺は教科書を上にして長門の本を読んでいた。
もちろん、何か手がかりがあるのではないかと思ったからだ。

正直中身はB級だな・・・・俺でも書けそうとまではいかなかったが。
ストーリーは長門から説明されたものと相違なく、展開もだいたい分かっているのでつまらなすぎるところは飛ばし読んだ。

ちょうど中盤・・・後ろのほうが抜け落ちているから正確には分からんが、そこらへんについたとき、俺は発見してしまった。


・・・
ベタすぎるわけでは無いが。
それはいつも長門が扱ってきた感慨深い手法だった。
ご丁寧にセロハンで貼り付けてある。なんでわざわざこんなことをするんだろうな。
そのザラ紙のような薄さも相まって、役割を全く果たせていない。

190: 2007/07/15(日) 18:20:54.44 ID:6CVSyLRn0
本の文章に重ならないように下部に貼り付けてある「それ」には

ただ「三日目」と、だけ書かれている。


正直ビビッとした・・・いや、昨日のアレとはちょっと違うが、
直感でこの言葉が何を意味しているか、さすがの俺にも分かった。

いやそれも推測に過ぎないのかもしれないが、その三日目が「その三日目」なら猶予はあんまり残されていない。

谷口の珍回答がクラスの爆笑を誘っても、俺の思考は上の空だった。


・・・

ハルヒに順が回ってきたってことは次は俺だな。

196: 2007/07/15(日) 18:33:55.60 ID:6CVSyLRn0
放課後俺は真っ先に部室へ直行。
俺はこんなに速かったか。今からでも陸上部で活躍できるんじゃないか?

部室の前につく。走ってきた疲れもあるが、それ以上に一息深呼吸が必要な気がした。

ガチャ

やっぱり。誰もいない。俺が一番乗りだ。
・・・・
となると、次に来るのはおそらく

ガチャ

「・・・・」

やはり。
やや気まずい雰囲気を漂わせているということは、こいつも昨日の記憶は消えていないな・・・
夜寝て記憶無くなるのは、ちょうど「以前の長門」のところだけ、ピンポイントのようだ。
現に俺も本を見る前から寝不足の理由が分かっていたしな。

199: 2007/07/15(日) 18:41:46.92 ID:6CVSyLRn0
「お前・・・さ、昨日俺のカバンにこれ、入れてくれたのか?」

「・・・」
驚きの表情。やや疑いも混じっている。
「なんであなたがそれを・・・」

・・・そうだろうな。当然の反応。
「ごめんごめん。ジョークだよ。お前に紹介されたから、読んでみたいと思って、
台所に行ってる間に拝借したんだ。ごめんな?」

こうするしかない。長門にとっては貸した記憶が無いんだから、どの道疑われるだけだ。
「・・・そう」
「ごめんな?」
「別に、いい」

我ながら、ちょっといらつかれる回答かもしれないと思っていたが、
予想外に長門の表情はやわらいでくれたようだった。

201: 2007/07/15(日) 18:50:33.98 ID:6CVSyLRn0
・・・・
もちろん、俺がクラス対抗マラソンでも見せないような速度で部室に来たのはこれだけのためじゃない。

間違いなく、パソコンにも何かある。

俺はパソコンをサッと立ち上げ、すみずみまで変化を確認しようとした。
眼鏡の長門と二人きりのときにパソコンを立ち上げたのはあのとき以来だが、さすがに「こっち」のは速いね。



技術の進歩をじっくり味わうことはできたが、探せど探せど何か手がかりになりそうなものはでてこない。
ここで何も見つけられないとなると、ちょっと・・・いやかなりキツイのだが・・・
タイムリミットは半日を切っているというのに。

204: 2007/07/15(日) 19:00:16.07 ID:6CVSyLRn0
ふと、長門がしきりにこちらに視線を送っているのに気がついた。

なんだ?何か・・・あるのか?

・・・・
「もしかして、使いたいのか?」
長門の目が若干晴れ、小さなうなずきを返す。


そういえば、俺が相当早く部室に来たのに、こいつは直後にドアを開けた。
もともと何かパソコンでやりたいことがあってこんなに早く部活に来たのかもしれない。

他の部員が来るまでの時間は惜しいが、どのみちこのまま調べていても手がかりつかめそうにないしな・・・。
俺は長門に席を明け渡すことにした。

209: 2007/07/15(日) 19:11:52.73 ID:6CVSyLRn0
イスに座る前におもむろに長門が取り出したのは・・・

あぁ・・・

俺は最近あんまり見てなかったな。今は主流じゃないんじゃなかったか?
黒くて上部にシャッターがついたカード型の物体。フロッピーディスクだ。

長門はソフトを立ち上げそれを読み込ませる。

・・・・・・小説を書くのだろうか?俺が見ているが、大丈夫なのか。それともちゃちゃっとしたデータ移送だけなのか。



しかし、俺の思案もつかの間、直後ディスプレイを見た瞬間、長門は絶句した。
「・・・なんで」

219: 2007/07/15(日) 19:27:18.05 ID:6CVSyLRn0
「・・・・・」

長門がうつむいて今にも泣きそうな目をしている。
なんだ?何があったんだ?俺にもパソコンを見せて・・・




ガチャ

いや、そんな静かな効果音では無いな。この場合は「ドーン!」が的確か


「諸君!!!ちょっとこれをみなさーーーーい!!!」
お前か。
「って、キョンと有希しかいないの?何よ。こんな嬉しいお知らせがあるっていうのに」
正直、それどころではない。お前のうれしい知らせは俺にとってはメランコリーな知らせ。
これ以上問題事項を増やすな。

「まぁいいわこれ、人数分もらってきたから古泉君とみくるちゃんにもわたしといてね!」

ビラ・・・だな。遠くからじゃ文章は読めんが、「~大会」と書いてあるのは気のせいか。
「そうよ!また球技の大会の知らせ。今度はサッカーよ!」
あぁ勘弁してくれ。本当に突っ込む気分にも・・
「あれ?有希がパソコン?何やってるの・・・なーにこれ、何にも書いて無いじゃない」

229: 2007/07/15(日) 19:38:47.85 ID:6CVSyLRn0
「こんにちは」

全解放のドアから、今度は古泉が顔をのぞかせた。
「どうしたんですか?このビラ」

「あーぁ・・よくぞ聞いてくれました!今度はSOS団はそれにでるの!古泉くんは・・・そうねぇ・・・GKなんかがお似合いなんじゃないかしら」
古泉はいつもの常態スマイルを返す
「そうですか。それは楽しみですね。」



「・・・消えた」
「え?」
突然の長門の一言に、真っ先に疑問の声をあげたのはハルヒ。
「有希が書いたの全部消えちゃったの?」
ハルヒが画面をスクロールするが、このとき、正直俺はいてもたってもいられなかった。

「ハルヒちょっとパソコンを貸せ。古泉もちょっと来い」
「・・・なんでしょう?」
ハルヒは半ば強引にマウスを奪った俺に罵詈雑言を叫んでいるが、何一つ俺の耳には入らなかった。
「古泉、これをどうみる」
俺は画面をスクロールする。
「どう・・・と申されましても、長門さんのおっしゃるように、・・・残念なことですが、普通の白紙ですよ?」


・・・

236: 2007/07/15(日) 19:44:31.64 ID:6CVSyLRn0
白紙、何にも書いて無い、消えた。

・・・・か。
しかし俺の目は、脳はそう言っていない。



長門・・・・・ありがとうな。
絶対にまた取り戻してみせる。

252: 2007/07/15(日) 19:53:01.06 ID:6CVSyLRn0
「私の処分が検討されている」

いつぞやの長門の言葉だ。
これがその「処分」、だと?




ハルヒも、朝比奈さんも、古泉も、そして俺も、明日になれば長門を忘れてしまうってのか。
今日が三日目、俺の自意識が届く最後の日。
そりゃ明日になっても「長門」はいるさ。でも、以前の長門を忘れたんじゃ、それは、長門が氏んだのと同じだ。


俺は一度エンターキーを押した。
あの・・・・・・・・いや、この長門ではなく、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースとしての長門有希を、
そして変わらぬSOS団を選んだはずだ。

261: 2007/07/15(日) 19:57:09.59 ID:6CVSyLRn0
・・・・



憤りを通り越して、俺はどうにかなりそうになっていたかもしれない。
パソコンに書かれた最後の文章に目を通したとき、俺はカバンも持たずに部室を飛び出していた。

「ちょっと!!!キョンどこ行くのよ!!!」

「長いトイレだ!明日までには終わる!!」

277: 2007/07/15(日) 20:09:41.53 ID:6CVSyLRn0
野球選手の・・・なんと言ったか

フクシマ・・・いや違うな、まぁとにかくめちゃくちゃ盗塁した選手がいる。
でもそんなに足は速くなかったらしいな。いやでも、「速く」なきゃそりゃ絶対に刺される。

俺は足が別段速いほうではないが、今は我ながら足が「速い」と思う。さっき部室に駆け込んだときとは比べものにならないぐらいだぜ。


・・・・

長門のフロッピーから出したあのパソコンの画面には、長門の状況が逐一・・・というわけではないな。
いつもの長門のように、断片的に、説明されていた。


情報統合思念体の中の一派が進めた長門の「処分」。
それは俺を含めたSOS団から記憶を改変し、まるで「あの騒動」の時の長門を長門本人として植え付ける、というもの。
そしてその行動を行うのは長門本人らしい。なぜなら、そうするようにプログラミングされてしまったらしいからな。



俺は歯ぎしりした。



284: 2007/07/15(日) 20:17:08.70 ID:6CVSyLRn0
長門を一般人にするということは、早い話がSOS団の監視役としてはお役ご免。新たな適当な人生を歩んでくださいよ。ってことだ。


そりゃ古泉の「機関」のやつらにとってみれば、悪いことではないだろうさ。新たなお目付役はくるかもしれないが、敵が一人消えるだけだからな。
おそらく、朝比奈さんの未来人の人たちにとっても、それは同じこと。

結局情報統合・・・口にするのも嫌悪感が勝る・・・の行動には、結局その2つの勢力はノータッチ。


こう考えれば鶴屋さんの記憶のみを操作しなかったのにも合点がいく。あくまで気づくことの無い一般人として見ていたのだろう。


・・・・

駅の改札に足止めを食らう。
ちくしょう。なんでこんな時に限って!!

322: 2007/07/15(日) 20:36:39.72 ID:6CVSyLRn0
・・・

俺は足を止める。
駅員が異常者を見るような目で見てくるがそれもしょうがないだろうな。
いざこざのあった改札を抜けて全速力で走っていた高校生がいきなり急ストップ。そして焦点の合わぬ遠い目をするんだから。

・・・・・

電光が走るように思い出した。こういうの、この三日間で三度目か?まぁ良く覚えていない。


どうする?

俺の行くべき場所は分かっている。でも、もう一度戻るか?
そもそも「それ」が無くて一体何の不備があるんだ?

かまわない。行こう。

そう思って走りだそうとした俺の背に、そうだな。以前はハムスターを掴むと言ったが、今回はなんと言えばいいんだろう。

・・・・


「長門・・・・」

332: 2007/07/15(日) 20:44:58.14 ID:6CVSyLRn0
「これ・・・」


改札で止められたとはいえ、お前の足でなんで俺に追いつけるんだ?

顔が赤いぞ?照れではなく、・・・・そうまるで風邪にかかったみたいな・・・

そもそもなんでお前はここにいるんだ?



ざっと思いついたのはこんなところか。しかし、そんな俺の疑問を砂塵のようにふきとばしたのは、
長門が大事に抱えていたものそのものだった。

「長門・・・その本・・・」
「・・・・持って行って」

なんで知ってるんだ?確かに、俺の行くべき場所へ行くときは、それが必須とはパソコンの文に書いてあった。
だが、あの文字を読めないはずのお前が何故・・・?


337: 2007/07/15(日) 20:54:31.92 ID:6CVSyLRn0
「私の小説・・・・」
「え?」
「この本を元に、あのディスクに書いた・・・私の小説・・・」
どういうことだ。

「あの本にはラストはないけど・・・私の書いたラストでは」

長門の頬の赤らみは、確かに照れでは済まされないレベルになっている。

「主人公は、走って、そう・・・はし・・・っ」

なぜだろう。ここは駅の雑踏のハズだが、俺の耳にはこのか細い声しか聞こえていない。

同時にすすり泣きを始めた長門の声は、まさに天啓のように俺の耳をつんざく。

「だか・・ら・」




「ありがとう!!長門!!」


俺は長門から本を受け取り、出発のサイレンがすでに終了している電車のドアをこじ開けた。



358: 2007/07/15(日) 21:17:02.83 ID:6CVSyLRn0
電車の中で俺はつかの間の休息を得る(と言っても立ちでだが・・)

俺はその間、パソコンの最後の文章を何度も暗唱していた。


・・・・

これは情報統合思念体の一派が仕組んだことだ。
正直、俺が「そこ」へ行っても、結末は変わらないかもしれない・・・

そこへ俺を呼んだのは長門なわけだし、いくら長門でも情報統合思念体に刃向かえるだけの・・・


・・・・
ドアが開いた俺は、多少弱気な考えを持ってしまった自分の頭を呪いつつも、また駆け始めた。

そうだ。俺は何より約束を守るしかない。それ以外のできることはないしあてもないのだ。



・・・・
最後の反芻。パソコンの最後にはこう書かれていた。

「また図書館に」

373: 2007/07/15(日) 21:28:47.80 ID:6CVSyLRn0
駅を出た俺は当然、何もかも考えず走る。


最後の反芻と言ったが、本当に思考も含めて、走り続ける以外の行動をとらなかった。
単に体がきつくなってきたから、ということもあるが・・


突然、俺の意志に反して、俺の体は左側の車道へと倒れ込む。

「あぶねぇぞ!!!!クソガキ!」

・・・なんだ。
くじいたのか?ああ、族さんよ。確かに危ないな。アンタが正しい。

あぁ・・・痛みはないんだがな・・・
歩くことは・・・できる。


でも、このままじゃ夜になっちまうよ。

380: 2007/07/15(日) 21:37:40.61 ID:6CVSyLRn0
・・

・・・
空は星空になってきた。

蒸し暑さとすがすがしさが同居した星空。

俺はハルヒや古泉と違って星の名前は分からない。
あれが「べが」と「あるたいれ」なのか?よく分からんな。綺麗だってことぐらいしか。

・・・

この空が雨や晴れを超えて雪になるまで、どれだけの時間がかかるんだろう。何回寝て起きればいいんだろうなぁ。


あぁ・・・だめだ。俺なんかにゃ全く似合わないことまで言ってる。古泉が言えばハクがつくかもしれんが。

そういえば、長門の意味深な小説にも雪がでていたな。たしかストーリーは・・・


あれ、なんで目の前が・・・

ダメだ。12時を回ったらになったら長門は消えちまう。それまでに図書館へ・・・

393: 2007/07/15(日) 21:44:32.57 ID:6CVSyLRn0
・・・・



俺は気がついた。
しまった!と思うより先に時間を見る。携帯にはハルヒからの着信が溜まっていた。

夜11時・・・

図書館まではもう少しだが、しまっているのは火を見るよりも明らかだ。



・・・行くしかない。時間指定はされていない。
ヨタヨタと醜い歩きで、俺は図書館へスパートをかけた

404: 2007/07/15(日) 21:54:39.64 ID:6CVSyLRn0
来た。

高校に入ってから何度目だろう。結局長門との思い出の核はここにある気がする。
だが、どう見ても入り口に長門の姿は見えなかった。もう遅かったか



いや・・・

いつぞやの閉鎖空間の壁のようにうねっている図書館の扉。
だが、これは通り抜けられる。まるでゼラチンの中に入っていくようだ・・・


・・・
図書館の中は静寂に満ちていた。
電気もついてないし当然か。俺の闊歩する音がかん高く聞こえて不気味ですらある。
俺は奧のソファーがある場所へ足を進めた。



俺はため息をついた。大きいため息。

・・・
やはり眼鏡はないほうがいいな。

でも、正直よく見えない。号泣とはいかず、ちょっと頬をつたう程度なのだが。


「長門」

410: 2007/07/15(日) 22:01:29.09 ID:6CVSyLRn0
「ありがとう」

第一声がそれか。
「頼みたいことって、なんだ?」
黒くて何とも言えぬ深さを持つ目が俺を見つめる。

「本。」

本?これかこれがどうした?

「読んで。」

いや、もう読んだんだよ。俺の趣味にはちょっと合わなかったけどさ・・はは
お前はこういう小説が好きだったのか?

「よく分からない。」

そっか。他に何かはな
「読んで。」

え?

「本・・・読んで。」

・・・・・

418: 2007/07/15(日) 22:07:55.83 ID:6CVSyLRn0
なんと答えればいいんだ?

・・・今から、これを・・・・文字通り、音読しろってことなのか?
それほど厚い本じゃないが、それじゃ明日になっちまうぜ。

「しおり」



「しおりのところからでいい。」

・・・
そういうことか。それなら・・・



ガタ
・・・





とっさだった。
長門は糸が切り崩された操り人形のように崩れ落ち、俺がそれを間一髪で抱えた。

424: 2007/07/15(日) 22:14:14.88 ID:6CVSyLRn0
「大丈夫か!!長門!」
「・・・・私が・・・今の現実世界の私が、対消滅への過剰反応を起こしている。」

え?

「あと30分で「私」は消滅するが、私とあの私は同じ時間軸にリンクしている。」

「私が消滅する際は、あの「私」にも負荷がかかる。その兆候。」

それは、さっき駅であった長門が顔を赤らめていた原因なのか?

「そうかもしれない。一時的な、いわゆる風邪のような症状。そして、この「私」にも」

428: 2007/07/15(日) 22:20:34.37 ID:6CVSyLRn0
なんで、こいつは消える前にも苦しまなきゃいけないんだ。
そして何の罪もない「あの長門」も

「情報統合思念体は私に忘却プログラムを植え付けた。私は私を消す。これはさけられないこと。」

「・・・いいのか?お前はそれで」
長門は首をかしげるような動作。瞳はこれ以上ないぐらい黒く黒く澄んでいる。

「・・・・・・・・・そのような問題ではない。さけられな」
「お前はいいのかって聞いてんだ!!!!!!!!!」


静寂の図書館に、感情にまかせて放っただけの俺の声が反響した。

435: 2007/07/15(日) 22:26:05.67 ID:6CVSyLRn0
「うまく・・・・」


「な、なんだ?」

「上手く言えない。」



はは。

俺の頭に、出会って間もない頃に発せられた「あの言葉」が思い起こされた。
・・・それなんかよりも、百万倍親切な言葉になってるじゃないか。


俺は床に落ちた本をとった

「長門」
「・・・・・・・・」

「読むよ。本。」

447: 2007/07/15(日) 22:30:16.79 ID:6CVSyLRn0
俺はいつかの朝倉との戦いの後のような体勢で、長門にたいしてノベルの音読を始めた。

はたから見ればこれほど滑稽な光景は無いな。

深夜のまっくら図書館。高校生の男女が音読の読み聞かせをしている。ほんとになんだろうなこれは。

・・・・・

時間はそう残されていない。俺の読み方は少し急ぎかもしれないな。

まぁ長門ならどんなに日本語からかけ離れた俺の言葉も理解してしまいそうだけどな。

461: 2007/07/15(日) 22:35:39.59 ID:6CVSyLRn0
物語は佳境に近づいている。

いや正確なページ数は分からんからどこまで続くのかは分からないが、
「そちら」の宇宙人も三日目の夜を謳歌しているのだから、多分クライマックスが近づいてるんだろう。


「そして~は・・・」

そう言えばさっきから長門はずーっと俺の顔を見ているな。俺が字に夢中だからかは分からんが、瞬き一つしていないような・・・

「なに」

俺の方がちょっと見つめすぎてたみたいだ
「あぁ・・・はは・・・なんでもないよ。続きいくぜ?」

469: 2007/07/15(日) 22:39:07.28 ID:6CVSyLRn0
「・・・・そして、~は」


・・・そう。ここで切れているのだ。事実上、ここでおしまい。

「・・」

「・・・・どうだった俺の音読?俺、小学の時から国語はぜんっぜんできねぇからなぁ。つたない読み方かもしれないけ」

「まだ終わっていない。」

え?

「まだ続きがある。」

485: 2007/07/15(日) 22:48:35.20 ID:6CVSyLRn0
それはどういう・・・

「あなたが、続きを作る。」

・・・・

「主人公Kには、最後の選択がある。」

俺はさっきも言ったように、国語力は皆無だ。ましてや小説なんか・・・

「いいなずけと仲間達とこれまで通りの幸せな生活を送るか、

長門の目は、澄んでいる。肌は人形のように無機質だ。

宇宙人に解毒の秘薬を口移し、自分も宇宙人になって二人で銀河へ逃げるか。」

・・・・

497: 2007/07/15(日) 22:54:17.46 ID:6CVSyLRn0
・・・・・・・・

第一、第一に、だ。
それは作中で示唆されている選択だぞ。

それを決めることのできる権利があるのは、このカバーに書かれている
よく分からん横文字の作者だけじゃないのか?

それに、これと同じ本にはオリジナルなその結末は書いてあるんじゃないか?
それを他人が・・俺が決めるのは冒涜的すぎる。



「この本に筆者いない」

へ?



510: 2007/07/15(日) 23:00:47.61 ID:6CVSyLRn0
「正確に言えば、これは私の・・・・・」

二秒の静寂

「私のあなたへの問いが具現化されたもの。」

「あなたは答える権利を持っている。」


・・・・

昨日の本の話からのことがすべて合点がいった・・・と同時に、
俺は重すぎる選択をしょいこんだ。



どうすれば、いい?



519: 2007/07/15(日) 23:04:44.36 ID:6CVSyLRn0
原作中の誰が誰を表しているか、なんてことは、さすがの俺でも分かる。


・・・・長門はもうすぐ消えてしまうだろう。
ならばせめてそちらの選択を選んでやるべきなんじゃないのか?


・・・・俺は

・・・俺は

538: 2007/07/15(日) 23:13:17.86 ID:6CVSyLRn0
・・・・


「Kは・・・・」

「そしてKは、宇宙人となってしまう解毒の秘薬を口に含み、」

「・・・・・・・・・・」



無意識かもしれない。俺は長門を抱きしめていた。

いや、ちょうどさっきまでも抱く体勢だったのだが、それとは根本的に違う、

強い、本当に強い抱擁。どこにもやりたくない、というような・・・そんな・・・

しかし、俺の唇は薄幸の肩口を抜け、空を切っている。

563: 2007/07/15(日) 23:23:13.11 ID:6CVSyLRn0
「そして・・・」


ちょうど、俺は長門の右肩に頭を寄せた体勢。
ここでつぶやけば、・・・なんというか、まさに耳元でささやくような・・・そういう・・・



             「Kは秘薬を飲み込んだ。」



長門の口が、おれのつぶやきと同時にぽっかりと開いたような気がした。


「そしてKは宇宙人Yの唇を奪い、こう言うんだ」


俺は長門への腕を解き、直視する。



「自分を捨てることはできても、あいつらは捨てられない。ごめんな。本当にごめん」

俺は長門と唇を重ねた。

586: 2007/07/15(日) 23:34:43.03 ID:6CVSyLRn0


・・・・・・・図書館は静寂に包まれていたはずだ。




しかし、なんだろう。
再度長門の腕を解いた俺には、教会の鐘が何十にも鳴っているかのような・・・そんな騒音が聞こえてきた。

同時に、たちくらみのようなものが襲ってくる。なんだ。これは。長門はどうしたんだ。
いや、俺の目の前の長門は・・・・いない?どういうことだ。景色がうねっているぞ。


まさか、また「リアルな夢」の出来事なのか?

待て、なら今までの流れた「三日間」の現実は



・・・・




604: 2007/07/15(日) 23:40:54.53 ID:6CVSyLRn0
薄れゆく意識。



ハッと気がつく。
俺は何をやってる?ここはどこだ?歩けるか?長門は?



・・・閉鎖空間のような・・・でも一面は真冬の夜のような澄み切った空だ。
まるでプラネタリウムの中を歩いている、そんな空間。

622: 2007/07/15(日) 23:46:29.43 ID:6CVSyLRn0
ふと、しんと白いものが降ってくる。


「・・・雪か。」


まさにパウダースノー。スキー場や北国に行かない限り、そうそう見られるものじゃないよな。こういう雪って。



・・・
しかし、何故か雪はあたたかかった。ぬくもりがあった。



・・・なんだ?なんなんだこの空間は?どうすれば・・・





・・・
俺は絶句した。
いつの間にか俺の前には数人の高校生が立っていた。そこにいたのは、

631: 2007/07/15(日) 23:49:35.31 ID:6CVSyLRn0
何を隠そう、SOS団の面々である。

小綺麗なニヤケスマイル。花も恥じらう可憐な乙女。そして黄色のリボンが、・・・映える少女。


「お前らどうしてここに!?」

口ではそう言っていたが、目下の関心はそこにはない。

長門が、いない。

643: 2007/07/15(日) 23:54:20.35 ID:6CVSyLRn0
「お、おい!長門はどうしたんだ?」


「ふふ・・そう一度に複数の質問を投げかけないでくださいよ」
そのニヤケを崩さず答えたのは古泉。

「私たちがここにいるのは、必然、ですよ?」
口を開いても、まぁぶっちゃけ何していてもかわいい朝比奈さん。

「有希はね。もう消えちゃったの!」
我らが団長、ハルヒが元気な声を出す。顔はあまり見せない満面の笑み。



「長門は、もう消えた?」

660: 2007/07/15(日) 23:59:43.93 ID:6CVSyLRn0
「そうですよ。長門さんはもういません」
「長門さんは・・・・お空に・・」

「そう!有希はこれよ!」


ハルヒが空を仰ぐ動作をする。

「このすっごく綺麗な雪になっちゃったの!!」



・・・・

俺は混乱している。何がどうなってる?何でこんなことになってる?こいつらが答えた答えから、
また新たにつきない疑問が湧いてくるだけじゃねぇか。

「なんで?」

・・・・

「なんで不思議そうな顔をしてるの?有希をそういうふうにしたのは、キョンじゃない」

え?

684: 2007/07/16(月) 00:11:23.36 ID:961D1fXl0
俺が?


・・・・俺が長門をこの空に変えた?
「どういうことだ?」
「どういうことって・・・有希はあんたの「選択」を聞いて、一番いい方向に自分を持っていったのよ」

選択

「この雪はあったかいでしょ~?有希は一生私たちに影から奉仕してくれる存在になることに決めたのよ!」

選択、か

「あなたがそれを望んでたんでしょ?・・・・・さ、こんな話はおしまいにしてSOS団の今後の活動計画を話し合うわよ!」

長門は・・・

「サッカーってのはもう決まってるわよね!私がFW、みくるちゃんはDF兼チームマスコット、古泉君はGKね!」

俺の選択を受けてこういう世界を「望んだ」のか?

「あんたは・・・そうねぇ、まぁ、FWやりたいなら、やらせてあげないこともないわ!!」

「長門はどうした」

「?。有希はもう居ないわよ?私たちを見守ってくれる存在になったの」

いや、

「長門のポジションが決まってねぇぞ」

710: 2007/07/16(月) 00:19:40.93 ID:961D1fXl0
「え?」

「監督でもやらせるのか?長門の運動神経はすげえんだぜ?選手として使わないのはもったいない」

「ですから、長門さんはもう・・」
「キョン君・・・・ちょっと変です・・・」

「そうよ。今日のキョンちょっと変だわ。なんかトンチンカンなこと聞いてきたり・・・」


・・・・・・
違う。「お前らが」変なんだ。
俺からしてみればそうだ。
なんだ?何が「見守ってくれる」だ。あほらしい。
長門は長門だ。古泉にも朝比奈さんにもハルヒにも・・・俺にも干渉できない一つの存在なんだ。

ふざけるな。
俺はこういう世界を望まない。
長門がいない世界なんざ、いらない!!!

717: 2007/07/16(月) 00:24:33.77 ID:961D1fXl0

・・・・・


・・・・・またまた幻覚を見ているのか?

さっきまで俺の目の前にいた三人集はすべて消え、かわりに、

「長門・・・・」



雪は止んだようだ。

「・・・・・」
「・・・・」

長い、長い間。

形容では無く、本当に長い間。一分ぐらいだろうか。その間、俺はずっと長門を直視していた。


「・・・・そう」


その一言が発せられた後、
俺についさっきと同じような、立ちくらみと鐘の音が襲った。

735: 2007/07/16(月) 00:31:05.82 ID:961D1fXl0
・・・さきほどまでの図書館。

まだ夜のようだが・・・・時間は・・・・

2時、2時半?
「な、長門は!」


・・・・

俺は白痴にでもなったのか?
長門は今俺が抱えてるというのに。

「・・・・・」
「長門・・・。大丈夫だったのか?どうしたんだ?何が」

表情の薄い宇宙人が口を開くのを見て、俺は次の言葉を飲み込んだ。

「わたしに数え切れないほどのエラーが発生した。」

760: 2007/07/16(月) 00:40:47.97 ID:961D1fXl0
「エラー?」
長門はコクリと頷く。その動作は、けっこうレアなものでも無くなってきたよな

「・・・本来ならば、今ここに私はいない。私はあなたを含めた特定の人間の記憶を改ざんしたのちに自ら消滅するはずだったから。」

・・・・あぁ。パソコンの説明通りだ。

「しかし、私になんらかのエラーが発生した。エラーの元となったバグ思念は私のプログラムと記憶を改ざんし、正常な本来の動作・・・」

一瞬だが長門は口をつむぐ。
俺は間髪を入れなかった。

「まぁ、どうでもいいことだよな」

疑問の表情
「・・・どうして」

「記憶を改ざん、と言うことは、お前は昨日までのことを覚えているのか?」

「・・・・・・」

774: 2007/07/16(月) 00:47:08.60 ID:961D1fXl0
「・・・・・・・・・覚えていない。三日目からの記憶はすべて、おそらくそのときの私が生み出したバグ思念が消去してしまった」

「なら・・・」

「なら、いいだろ!別にさ、どうだって、」

長門はなおも納得がいっていないような表情だが、
「じゃあさ・・」

「お前は、今のお前自身やSOS団、俺に、何か不満があるか?」



「?」

「無いなら、別にいいじゃないか。そうだろう?」


・・・・


ホントに、

全然レアな代物じゃなくなったよな。


828: 2007/07/16(月) 01:05:54.34 ID:FfzFDtyiO
朝。


珍しく、いつもの時報が襲来する前から俺は覚醒していた。




…というか、昨日は一睡もしてなかったからな
できるわけがない



だが、その後は
いつものように家を出て、
いつものように通学路で谷口と悪態を交わし、
いつものように眠たい授業を受けていたわけで、
何一つ日常に大きな変化は無かった。


ああ、倦怠ライフラブ



そしてもちろん放課後は、はたから見ればなんだかよくわからないハチャメチャ部活動の部室へと足を向けるのだ。

あの暑苦しさは今日も健在で、何の恨みがあるのかは知らんが俺を攻撃し続けている

865: 2007/07/16(月) 01:19:17.70 ID:FfzFDtyiO
そんなこんなを考えながら、俺は部室の扉を開く


……
「長門」



俺は多少安堵した。
こいつはつい半日ぐらい前に俺と一緒にいた、「いつもの長門」だ。

もう雰囲気で分かってしまう自分を賞賛したい。まあ根本的に眼鏡の違いがあるんだが


「よっ!」


「………なに」

いや、なにって言われてもなあ…はは

って、痛っ!!!
「みんなー!!!揃ってる―――!!」

………「ノック」はこいつに教え込むよりも、チンパンジーに教えるほうが楽そうだな…

887: 2007/07/16(月) 01:30:16.96 ID:FfzFDtyiO
「って!今日もあんたと有希しか来てないの!昨日あんなに面白そうなこと提案したのに!!」


昨日?

その言葉に俺は引っかかった。もしかして、こいつや古泉の記憶はそのままなのか?

「き、昨日何があったんだっけ?」

「はぁ!?アンタ何言ってんのよ!もうその年でボケたの!?サッカーの話よサッカーの話!!
みくるちゃんは来ないし、あんたも古泉くんも有希も即帰っちゃったからなんにも話しできなかったけどね!!!」


…長門はともかく古泉も帰ったのか?

「……あのパソコンの話しは…」

「!。そうよパソコンパソコン!!私が昨日使おうと思ったのに、立ち上げる前にみんな帰っちゃうんだもん!」



良かったよ。「昨日」の長門のバグ的情報操作は、存外うまくいったようだな…

898: 2007/07/16(月) 01:39:07.96 ID:FfzFDtyiO
直後、
悔しいが、多少美少年的な色香の混じった聞き覚えのある声が部室に響く

「おや、すみません!お取り込み中でしたか」

…何も取り込んでないからお前もすぐ入れ。



………ってなんでお前は朝比奈さんをエスコートして一緒に来てるんだ!!その手をはなしやがれ!


…………



「よしよし!!これで全員集まったわね!それじゃ、サッカー大会のミーティングを始めるわよ!」

907: 2007/07/16(月) 01:48:44.85 ID:FfzFDtyiO

………

やっぱりサッカー大会にでるはめになるのか…


「とーぜんよ!団長自身がこんなに楽しみなイベントを持ってきたんだから、私が皇族なったぐらいに敬意をはらって感謝してほしいぐらいよ!」


………
ハルヒは次々と独断でポジションを決めていく

もっとも、いつぞやの野球大会のようにアミダで決められてもこまるが……

「あんたは何がやりたいの?どうしてもっていうなら、空いてるFWのところにねじ込んでやってもいいけど!」

いつかのデジャブのような気が、ちょっとだけした

「長門はどうするんだ?まだポジション決まってないだろ」

943: 2007/07/16(月) 02:07:59.42 ID:FfzFDtyiO
「……有希は…そうねぇ…。みくるちゃんと一緒にDFでもやればいいと思うわ!」

長門の視線は本から離れ、ハルヒと俺の方向に向かっていた
「お前、長門の運動神経をまだ見誤ってるな。
意外にも、こいつはサッカーの鬼なんだぜ?お前と2トップを形成すれば、凄いことになる」

……
ハルヒの見慣れたアヒル口。

「…でも、もし、そうだとしても、万一にも有希がけがしたらアンタどうするのよ!責任とれんの?」
んなこと言ったらなあ………、
そう俺が返答しようとするのを遮るかのように、意外な声が響く


「私……やってもいい」

………
場にいたほかのメンバーは目を丸くしていたが、正直俺も意外だったね。


「ま………まぁ、有希がやりたい、っていうなら、私は別にいいけど、」

「…………んじゃアンタはどこにつくのよ」

俺か?俺はDFでもやらせてもらうよ。

「忘れられない」ハットトリックを敵味方の目に焼き付ける、

スーパーエースストライカー長門有希の活躍を見守りながらな。
fin

944: 2007/07/16(月) 02:09:05.54 ID:ctLIRE5H0
おつかれー

945: 2007/07/16(月) 02:09:08.46 ID:zO2d/Yj6O
お疲れさま

949: 2007/07/16(月) 02:09:27.75 ID:EAvf/ei00
お疲れさまでした

964: 2007/07/16(月) 02:12:01.35 ID:FfzFDtyiO
正直頭が氏にそうです本当にありがとうございました

でももう少し書き続けたい気もありました

今度はきちんと考えてから投下しますwサーセンw

977: 2007/07/16(月) 02:14:34.81 ID:FfzFDtyiO
ちょっと次スレでなんか語りたい気もなきにしもあらずなんですがw



………まとめてくれた人はGJの極みですw
明日パソコンでじっくり拝見しますwまだ自分自身通して読んでないので

引用元: 長門有希の忘却