1: 2014/12/19(金) 20:00:53.70 ID:Qbr0jfDvo
日独中米露5カ国の対喰種機関首脳によって構成される組織〝五老星〟――通称〝V〟

彼らの使命は人間と喰種との均衡を維持することである。


『それで? 例の新興勢力の動きはどうなのかね、ワシュー』

『それは私も気になっていた。〝隻眼の王〟とやらは相当強力な喰種なのだろう?』

総議長「現状大きな問題はない。連中の動きも小規模だ」

『ならば良いが。その組織には赤舌連の残党も混ざっていると聞く』

『奴らの壊滅にはそちらの手を借りたのだから、今度はこちらが捜査官を派遣するぞ?』

総議長「ありがたいが、そちらは慢性的な人手不足であろう。なに、駒は揃っている。ピースは崩れんよ」

『ふむ』

『……そろそろ失礼しよう。この後、大統領と会談せねばならないのでね』

『〝V〟の力で喰種対策において独立性を持っているとはいえ、お互い政府との折衝も楽ではないな』


ブツンッ……
3: 2014/12/19(金) 20:05:05.06 ID:Qbr0jfDvo
芥子「……アロギリの件、本当に功善に問い詰めなくてよろしいので?」ニチャァ

総議長「彼とやり合うのなら相当な犠牲を覚悟せねばならん。あれを利用するのは最後で良かろう」

総議長「CCGの調査で11区を拠点にしていることまで既に掴んでいる。じき掃討作戦が組まれるだろう」

芥子「なるほど。我々の出番はなさそうですな」

総議長「表の狩りはCCGの仕事だ。お前達はあくまで裏の存在であり、そして切り札だ」

総議長「……長年に渡り〝V〟が守護してきた人間と喰種の均衡、チンピラ風情に破られるものか」

5: 2014/12/19(金) 20:06:55.00 ID:Qbr0jfDvo
――喰種対策局本部
――特等会議

赤犬「有馬はまだ来んのか。毎度毎度何をしとるんじゃァ」

宇井「いつも班長がすみません……」

田中丸「ンン、有馬ボーイ。名誉ある特等会議だというのに」

安浦「次長。局長もまだのようですが?」

赤犬「局長は別件で欠席じゃァ。今日の会議はわしに任されちょる」

丸手(げっ。サカさんの仕切りかよ……)

藤虎「……」


赤犬「……有馬め。もう待っちょられんわ」

赤犬「それでは、これより定例特等会議を始める」

6: 2014/12/19(金) 20:10:05.59 ID:Qbr0jfDvo
――――――
――――
――

篠原「……と、いうわけで、うちからの報告は以上かな」

赤犬「あァ。これで一通りの報告は終わったか」

安浦「今回は全体的にそれほどの変動はありませんね」

黒磐「強いて言えば、G-20支部の〝大食らい〟か」

宇井「確かに。ここ最近急に大人しくなったというのは気になりますね」

丸手「はっ、元々あそこは比較的静かだったからなぁ」

丸手「あんまり派手にやり過ぎて、他の喰種に潰されちまったんじゃねぇのか」


赤犬「その件についてだが、どうにも支部だけでは対処しきれんようでな」

赤犬「本局からG-20支部に捜査官を派遣することにした」

篠原「へえ、G-20支部にとは珍しいですね。派遣する捜査官はもう決めてあるんですか?」

赤犬「あァ、真戸のコンビと、それから藤虎。お前に行ってもらう」

丸手「!?」

藤虎「あっしですかい?」

7: 2014/12/19(金) 20:11:47.36 ID:Qbr0jfDvo
丸出「次長、そりゃちょっと勿体ないんじゃないですかねぇ?」

丸手「〝大食らい〟と〝美食家〟が暴れちゃいるが、特等を派遣するほど荒れちゃいないでしょうよ」

田中丸「ンン……確かに」

黒磐「それも〝大食らい〟の被害がピタリと止まった後ですしな」

赤犬「だからこそ、じゃァ」

赤犬「G-20支部の喰種共は確かに大人しい。じゃが、だとすれば『なぜ大人しいのか』が問題じゃろうがい」

安浦「……強力な喰種が率いる勢力が治めている、とも考えられますね」

篠原「なるほど。要はその大物を狙ってるってわけだ」

赤犬「あァ。丸手も言っちょったように、〝大食らい〟はその喰種共に粛正されたんかもしれん」

赤犬「イッショウ。お前にはマドと共に〝大食らい〟の行方と、G-20支部を統べる連中の捜査をしてもらう」

藤虎「……承知いたしやした」

8: 2014/12/19(金) 20:16:28.33 ID:Qbr0jfDvo
――――――
――――
――

真戸「お久しぶりですねぇ、イッショウさん」

真戸「CCGに復帰なさってから顔を合わせるのは初めてですなぁ」

藤虎「ええ、マドさんもお変わりなさそうで」

藤虎「それで、こちらの兄さんが?」

亜門「亜門鋼太朗一等捜査官であります! 特等殿と任務をご一緒出来、光栄です!」ビッ

藤虎「こちらこそ、頼りにさせて頂きやす」


亜門(……イッショウ特等。かつてサカズキ次長と共に、和修常吉総議長現役時代の部下を務めていた伝説の捜査官、か)

9: 2014/12/19(金) 20:17:26.64 ID:Qbr0jfDvo
亜門(総議長と共に倒したSSSレートの喰種から作ったクインケ〝フジトラ〟を与えられ、今ではそれがご当人の異名にすらなっている)

亜門(二十年前にCCGを退官するも、その後もフリーランスとしての活動が特例で許可され、今度は総議長の求めに応じて組織に復帰)

亜門(何もかもが異色の経歴……だがそれに値する実力を持ち、戦闘能力ではあの有馬特等に次ぐとすら聞いている)

亜門(過酷な職務が故に大半の捜査官が40代で現役を退く中で、この年齢にして未だそれ程の力をお持ちだとは……)


真戸「では、そろそろ行きましょうか。G-20支部長の高練准特等もお待ちでしょう」

10: 2014/12/19(金) 20:19:17.71 ID:Qbr0jfDvo
――G-20支部

コーネル「オエッ、よくぞ来て下さいました、イッショウさん! オエッ」ダババババ

コーネル「コーヒーを吐きながらで失礼! 治安の悪化でいつものミルクが届かんのですよ。オエ、苦っ」

藤虎「やはり〝大食らい〟のせいですかい」

真戸「ふむ、ここは普段平和ですから、市民も極度の治安悪化に慣れとらんのでしょうなぁ」

コーネル「そうなんですよ。かといって支部だけでは手詰まりの状態で。皆さんの援軍に感謝しております、苦~ッ」オエー


亜門(……な、何なんだこの人は)

亜門(なぜ苦いコーヒーを吐きながら飲んでいる……?)

亜門(いやそもそも、上官との挨拶の場で、なぜコーヒーを片手に現れたんだ……?)

亜門(どういうことなんだ一体!? 訳が分からんぞ!)

コーネル「支部からも捜査官をつけますので、どうぞお好きに使ってやって下さい」

コーネル「そして一日も早く我々にゆとりある生活を! オエッ」

11: 2014/12/19(金) 20:21:46.85 ID:Qbr0jfDvo
コーネルじゃなくてコーミルだった
あと支局長は特等より上の「役員」クラスじゃないかという気もするけど

13: 2014/12/19(金) 20:24:55.00 ID:Qbr0jfDvo
藤虎「さて、まずはどうしやしょうか」

真戸「特等の捜査を亜門君に見学させたいところですが、何しろ手がかりが限られていますから、二手に分かれた方が良いでしょうな」

真戸「我々はここへ来る前に発見したこのペンチについて当たってみます」

真戸「一匹一匹、クズ共を狩りながら、ねぇ」

藤虎「……」

藤虎「……分かりやした。あっしはあっしで手がかりを探してみますんで」

藤虎「何かありやしたら電伝虫に」

真戸「ええ。では、行こうか亜門君。クズ共の大掃除だ」

亜門「はい」


藤虎「……」

藤虎(奥方が亡くなり、変わったとは聞いていやしたが……)


藤虎「……とにかく、あっしも動きやしょうか。どこかに賭場でもありゃァ良いんですが」コッコッコッコッ

14: 2014/12/19(金) 20:26:08.89 ID:Qbr0jfDvo
コッコッコッコッ


藤虎「……ん?」クン

藤虎(珈琲の匂い……と、こりゃァ)

藤虎「……」コッコッコッ


カランカラン


金木「いらっしゃいませ!」

金木(……あ、盲目の人、かな?)

金木「お席へご案内しますね。僕に掴まってください」

藤虎「あァ。こりゃァご丁寧にどうも」スッ

藤虎(……)クン

藤虎(……?)

15: 2014/12/19(金) 20:28:19.87 ID:Qbr0jfDvo
古間「……ん?」

古間「ゲッ!!?」

金木「!?」


藤虎「」ピクッ

16: 2014/12/19(金) 20:29:58.45 ID:Qbr0jfDvo
薫香「ど、どうしたんですか古間さん? いきなり大声出して」

古間「嘘だろ……」


藤虎「……今の声」

金木「え?」

藤虎「いえ、ちょいと懐かしい声を聞いたような気がしたもんで」


古間「」ゾゾゾッ

古間(と、薫香ちゃん! ちょっと裏に来て!)ボソッ

薫香「? はい」

17: 2014/12/19(金) 20:37:05.27 ID:Qbr0jfDvo
董香「え!? 白鳩!? あのオッサンが!?」

古間「ああ、それも相当ヤバイ奴だ」

董香「で、でも杖以外は手ぶらでしたよ? プライベート?」

古間「いいや、あの杖こそが奴のクインケなんだよ」

董香「……!? そんなクインケがあるんですか!?」

古間「SSSレートの赫包から製造した特別製らしい」

古間「しかもCCGに戻ってから更に強化されたと聞いてる」

董香「そんな……」

18: 2014/12/19(金) 20:38:59.42 ID:Qbr0jfDvo
古間「あいつの耳は喰種並みで、さっきの反応からすると俺の声も覚えていたみたいだ。まだ気づかれてはないと思うけど」

古間「僕は店長達に報告してくるから、とにかく董香ちゃんと金木君で適当に接客しておいてくれる?」

古間「いくらあの化け物でもさすがに臭いで喰種が分かるってことはないだろう」

董香「わ、わかりました」

古間「クソッ! よりによってあいつが……入見にも言っておかないと」


――――――
――――
――

19: 2014/12/19(金) 20:41:23.31 ID:Qbr0jfDvo
藤虎(……)ズズッ


金木「あの人が捜査官なんて……全然そうは見えないけど」

董香(シッ! 声が大きい)

金木(ご、ごめん……)

董香(他の客には帰ってもらったから、とにかく、私らのことがバレないように追い返すよ)

董香(オドオドしてボロ出すんじゃねえぞ!?)

金木「う、うん」


藤虎「お兄さん、ちょいと良いですかい?」

金木「え!? は、はい!! いま行きます!」


董香(……不安)

20: 2014/12/19(金) 20:43:43.61 ID:Qbr0jfDvo
金木「あ、あの、なにか……?」

藤虎「……」

金木「……」バクッバクッ

藤虎「……」


金木「あ、あの……」

藤虎「……あァ、すいやせん。ぼうっとしちまいやして」

金木「い、いえ!」

藤虎「お勘定をお願いできやすか?」

金木「は、はい! あ、で、では、僕に掴まってください!」スッ

藤虎「へへっ、何度もお手間を取らせやす」グイッ


藤虎(……柔い。喰種の感触とは……だが、人間にしては……)


金木「あの……? 大丈夫ですか?」

藤虎「……ええ。案内をお願いしやす」

金木「はい、こちらに……」

21: 2014/12/19(金) 20:48:04.93 ID:Qbr0jfDvo
――――――
――――
――


――G-20支部

真戸「……というわけで、ジェイソンは取り逃がしましたが、頃したクズの妻子の手がかりを得ました」

亜門「写真も残っているので、聞き込みを続ければいずれ捕らえられるかと」

中島「す、すごい」

草場「この短時間でもうそれだけの成果を……」

真戸「なぁに、雑魚共を何匹か始末しただけですよ」

真戸「肝心の〝大食らい〟の手掛かりはまだ掴めていませんからなぁ」

草場「いやいや、ご謙遜を。我々支局の者では喰種一匹探し出すのも困難ですからね」

22: 2014/12/19(金) 20:52:07.37 ID:Qbr0jfDvo
亜門「我々からの報告はこんなところです」

真戸「さて、ではイッショウ特等。ご報告をお願いできますかな」

藤虎「……そうですね。残念ながら今のところ手がかりは得られておりやせん」

真戸「ほぅ」

中島「まあ、仕方ありませんよね。G-20も広いですし」

真戸「我々にしたところで、ジェイソンに関係した喰種に辿り着いたのは運が良かったからですからなぁ」

23: 2014/12/19(金) 20:54:29.80 ID:Qbr0jfDvo
真戸「……ところで。特等は今回何匹の喰種を葬ったのですかな?」

藤虎「……」

藤虎「いえ、未だ一人も」

真戸「なんと! それは妙な話ですなぁ。あの特等〝藤虎〟が一匹も殺せていない?」

真戸「はてさて、一体どんな事情がおありで?」

藤虎「……へへ、あっしは盲目。喰種一匹見つけ出すのも難儀しとりやす」

真戸「……ほほぉ。なるほど、なるほど」

亜門「……」

24: 2014/12/19(金) 20:56:17.32 ID:Qbr0jfDvo
草場「ま、まあまあ。この街も広いですからね。いかに特等と言えどもそう簡単にはいかないんでしょう」

中島「そ、そうですね! いやあ、むしろホッとしましたよ。本局の方にそんなに活躍されちゃあ、僕たちの立場がありませんしね」

草場「こら、中島!」

藤虎「恐れ入りやす」


真戸「……そうですな。私と亜門クンにはジェイソンの遺留品もありましたからなぁ」

真戸「では、次からは、件の喰種の妻子の捜索を、合同で行うということでよろしいですかな? イッショウさん」

藤虎「ええ、是非とも同行させて頂きやしょう」

34: 2014/12/20(土) 18:58:30.11 ID:vKphE0HRo
――数日後
――G-20支局

真戸「イッショウさん」

藤虎「あァ、真戸さん、新しいクインケはもう届いたんですかい?」

真戸「ええ、大急ぎで作ってくれましてねぇ。中々強力なものが出来たようで、今から楽しみですよ」

真戸「その間に亜門君と支局の方の聞き込みで、奴らの行動範囲をだいぶ絞り込めました」

真戸「ひょっとすると今日、奴らを狩ることが出来るかもしれません」

藤虎「そいつァ結構」

35: 2014/12/20(土) 18:59:57.24 ID:vKphE0HRo
藤虎「……するってぇと、おっ父さんの臭いに釣られ、お嬢さんがここへ来るってェことですかい?」

亜門「はい。笛口の日誌によると、娘はかなり感覚の鋭いグールのようです」

亜門「そして、奴はジェイソンを恐れ、しばらく妻子を遠ざけていたとあります」

亜門「奴らはまだ笛口の氏を知らない。街中で臭いを感知すれば誘き寄せられる可能性は高いと思われます」

真戸「残っていた写真は妻のものだけですが、まぁ高い確率で一緒に行動しているでしょうからなぁ」

真戸「罠にかかれば二匹まとめて駆除できるでしょう」

藤虎「へェ、なるほど」


藤虎「何とも痛ましい話でございやす」


亜門「……」ピクッ

真戸「……痛ましい? それはまさか、これから頃すグールの母子のことを指しているのですかな?」

藤虎「……おっ父さんを亡くしたことも知らねェ少女を、痛ましく思うことがそんなに不思議なことですかい?」

真戸「これはこれは、特等殿は大変寛容な方ですなぁ。あのサカズキ次長とコンビを組んでいたとは信じられんことです」

真戸「グールに同情など無用。奴らは単なる人食いの化け物です。違いますかな? イッショウ特等捜査官」

藤虎「それはアンタのお考え……あっしには関わりのねぇことでござんす」

真戸「……」


亜門(……何を考えているんだ、この人は。およそグール捜査官らしくない)

亜門(グールに同情、だと……?)

36: 2014/12/20(土) 19:01:06.87 ID:vKphE0HRo
電伝虫「プルルルル、プルルルル」

真戸「おっと」

電伝虫「がちゃ」

草場『草場です! 連中を発見しました!』

真戸「ほほう! 今どこに?」

草場『そちらに向かっているようです! 真戸さんの仰った通り娘を母親が追う形で!』

真戸「よろしい。では銃を抜いておいてください」

草場『了解!』


ピッ


亜門「かかりましたか?」

真戸「ああ、まんまとね。数日かかることも覚悟していたが、やはり我々は運が良い」


真戸「ああ、そうだ。ところでイッショウさん」

藤虎「何でしょう?」

真戸「ここは私と亜門君にやらせては頂けませんか? 新しいクインケを試してみたいのでねぇ」

藤虎「へぇ、あっしは別に構いやせんが」

真戸「ククッ、感謝します」

37: 2014/12/20(土) 19:02:15.86 ID:vKphE0HRo
『ヒナミ! 待って! ヒナミ!』


亜門「……来たようですね」

真戸「ああ」ニヤッ


ヒナミ「お父さん!」パッ

ヒナミ「……え?」

リョーコ「ヒナミ……!! ……っ」

真戸「嫌な雨ですなぁ。雨は事件の痕跡を洗い流してしまう」

真戸「何よりも、醜い豚共の断末魔がかき消されるのが、私には我慢がならんのです」


リョーコ「……逃げなさい、ヒナミ」

ヒナミ「いや……嫌! お母さん!」

リョーコ「行きなさい! 逃げるのよ! ヒナミ!」グァッ

草場「うわっ!?」

中島「ひぃ!?」ドサッ

ヒナミ「……っ!」パッ


真戸「おやおや、娘を庇う母というわけか」

真戸「グールが家族ごっことはねぇ……反吐が出る」

藤虎「……」

38: 2014/12/20(土) 19:03:51.70 ID:vKphE0HRo
――――――
――――
――

リョーコ「ハァ……ハァ」ヨロッ

真戸「戦い慣れておらんな。これでは亜門君の訓練にもならないねぇ」

亜門「ええ。そろそろ決めますか?」

真戸「ああ。だが、最後は私がやろう。この新しいクインケでね」

亜門「了解です」


リョーコ(時間は、稼げた……)

リョーコ(あんてぃくにさえ辿り着ければ、あとはきっと芳村さんが……)


真戸「あなたにはがっかりしましたよ、奥さん。旦那の方は手負いでももう少し抵抗したんだがねぇ」ガチャッ

リョーコ「……え」


リョーコ「あ、ああ……そんな……嫌よ……」

藤虎「……?」

真戸「いいぞ! そうだ! それで良い!!」

真戸「悲嘆、絶望、憎悪! その表情だ! もっとだ! もっと見せろ!!」


藤虎(……!! まさか)


リョーコ「あ……」


グシャッ


亜門「!?」

真戸「……おや?」

リョーコ「」ミシミシッ

リョーコ「」ドサッ


藤虎「……」キンッ

草場「な、なんだ……?」

中島「ひっ……と、突然、首が、折れた……!?」

39: 2014/12/20(土) 19:06:36.40 ID:vKphE0HRo
真戸「……どういうことですかな、イッショウさん」

真戸「我々にお任せ頂けるというお話だったはずですがねぇ」

亜門(今のは、特等のクインケだったのか)

亜門(何も起きていないように見えたが……これが噂に聞く……)


藤虎「どういうことかはあっしが聞きてェ」

藤虎「マドさん、あんた……十三条二項を知らんはずがねェでしょう」

真戸「これは心外ですなぁ。私はこの女に余計な痛みなど与えてはいませんが」

真戸「ああ、まさか精神的な痛みを与えたとでも仰りたいのですかな?」

真戸「十三条二項はあくまで肉体的な痛みについての禁止事項。そりゃぁ拡大解釈というもんでしょう、イッショウさん」

藤虎「旦那亡くした奥方嬲るのは、そんなに楽しいことですかい?」

真戸「楽しいですなぁ!! 実に楽しい!!」

藤虎「……」


藤虎「そうですかい。ならば今後は禁止いたしやす」

真戸「……なんですと?」

藤虎「アンタがあたしの下についている限り、グールを前にして『余計なこと』は一切禁止」

藤虎「これは上官命令。あっしの決定には従っていただきやす」

真戸「……」

亜門「ま、真戸さん……」


真戸「……良いでしょう。もちろん従いますとも」

藤虎「それで結構」


藤虎(……お二人はここから離れた、か)

藤虎(悲鳴は嬢さんのもんでしたが、もうお一方の匂いは……)

40: 2014/12/20(土) 19:07:23.05 ID:vKphE0HRo
――数日後

草場「笛口ヒナミの行方は未だ知れず、か」

中島「やっぱり、誰かが匿っているんでしょうか?」

真戸「十中八九そうでしょうなぁ」

亜門「G-20を治めるグール組織かもしれませんね」

藤虎「……」

中島「うーん。それだけ長い間潜んできた連中なら、見つけるのも難しそうですねえ」

真戸「なぁに、クズ共を狩り続ければいずれは辿り着くことです」

真戸「さてと、今日はお開きとしましょうか。良いですかな? イッショウさん」

藤虎「ええ、そうですね」

真戸「では、お先に失礼。皆さんも気をつけてくださいよ。グールが報復に来るかもしれませんからなぁ」

中島「ははは、まさか」

41: 2014/12/20(土) 19:08:34.66 ID:vKphE0HRo
――G-20支局前

藤虎「……」ピクッ

藤虎(この匂い、グール……しかも、これは茶屋の)


亜門「イッショウさん? どうかされましたか?」

藤虎「いえ、ではあっしはここで失礼させて頂きやす」

亜門「ええ、お気をつけて」

中島「亜門さん、飯でも食っていきませんか!?」


――――――
――――
――

藤虎(……やはり、亜門さんらを狙って……あっしの尾行には気づいていないようですが)

真戸「……」ジーッ

藤虎(そして、そのあっしの後ろをマドさんが尾行していやすが……なんですかね、この状況は)


真戸(ふむ、特等も同じことを考えていたか)

真戸(ここは彼がどう出るか、見物させて頂くとしようかねぇ)

42: 2014/12/20(土) 19:10:13.61 ID:vKphE0HRo
――――――
――――
――

中島「俺! 亜門さんに感化されたっス! やっぱ俺もデスクじゃなくて現場でいくっス!」

トーカ(氏ねッ!)


ズンッ


トーカ「……!?」ガクンッ

トーカ(なに!? ヤバッ、バランスが……!!)


ドサッ


トーカ「ぐッ……」

草場「なっ!?」

中島「うわ!? 草場さん! 空から女の子(?)が!」


トーカ「クソッ!」パッ

トーカ(なに、今の……? 急に身体が重くなって……?)

中島「う、ウサギ? えっと、大丈夫、きみ?」


藤虎「離れてください、ナカジマさん」

中島「え!?」パッ

草場「い、イッショウさん!? どうしてここに……」


トーカ(こ、こいつ……!? 店に来てた……!!)


亜門「イッショウさん!」タッタッタッ

藤虎「……亜門さん、アンタも下がっておくんなさい。今はクインケも無いんでしょう?」

亜門「え、ええ」

43: 2014/12/20(土) 19:12:11.05 ID:vKphE0HRo
藤虎「兎さん、アンタ、あっしとやり合う気ですかい?」

トーカ「くっ……」

藤虎「あっしも丸腰の部下三人抱えて戦いたかないですが……」

藤虎「やるってんなら、アンタには、特等の力を存分に味わって頂きやす」ゴゴゴゴゴ

トーカ「……クソッ」バッ


ヒュンッヒュンッ


草場「に、逃げた……」

中島「!? あ、あれ、もしかしてグール……?」


藤虎「……」キンッ

亜門「すみません、イッショウさん……我々が足手まといに……」

藤虎「いえ、皆さんのせいでは」


真戸「その通り!」


亜門「ま、真戸さん!?」

中島「上等まで……」

草場(……今まで何してたんだろう)

藤虎「……」

44: 2014/12/20(土) 19:13:04.40 ID:vKphE0HRo
真戸「謝ることはないよ、亜門君」

真戸「何しろ特等の力があれば、丸腰の部下を抱えていようが、あの程度のグールなら相手にもならなかっただろうからねぇ」

真戸「本来であれば……そうでしょう? イッショウ特等捜査官」

藤虎「……」

亜門「ま、真戸さん、何もそんな……」

真戸「最初にラビットに加えた重力を、そのままかけ続けていれば良いだけの話だ」

真戸「SSSレートの羽赫〝フジトラ〟ならばそれが出来る。違いましたかな?」


藤虎「残念ですが、そう都合の良いもんでもありやせん」

真戸「ほぉ?」

藤虎「あっしは盲目……敵の位置を補足するのも一苦労」

藤虎「咄嗟に軽い一撃を入れるのが精一杯でございやす」

真戸「なるほど、精一杯ねぇ」

亜門「イッショウさん……」


草場(やっぱ最初から見てたのかこの人)

45: 2014/12/20(土) 19:14:41.42 ID:vKphE0HRo
――――――
――――
――

――支局

真戸「亜門君、ちょっとこれを見て貰えるかな」

亜門「はい……? ああ、真戸さんが仰っていた学生からの情報ですか」

真戸「この水路に保存しているあの女の氏体を置いて、連中を誘き寄せようと思う」

亜門「しかし、まだ対象がこの周辺にいるとは限らないのでは?」

真戸「この水路の空間内だと、私のフエグチ壱は使いにくくなる。それがどうにも気になってねぇ」

亜門「……! 奴らの罠、ですか」

真戸「私の勘ではね。なぜフエグチ壱のことを知っているのかまでは解らんが」

亜門「だとすると、やはりあの学生も一味……?」

真戸「どうだろうねぇ。小金で雇われただけで何も知らないのかもしれん」

真戸「とにかく誘いに乗ってみようじゃないか。連中は少なくともフエグチ弐のことは知らん」

真戸「こちらが罠にかかったと思わせれば油断するだろう」

亜門「解りました。では、イッショウさんとも……」


真戸「いや、彼には言わなくていい。この件は二人で進めよう」

亜門「え!? よろしいのですか?」

真戸「正直に言うと、彼は信用ならない。ラビットのことも意図して逃がしたようにしか私にも思えないんだよ」

亜門「……」

亜門(たしかに特等はグールに対して甘い言動をしていたが、しかし、そんなことがあるんだろうか……)

亜門(……だが、俺は真戸さんについていくまでだ)

亜門「了解です、真戸さん」

50: 2014/12/21(日) 15:31:10.62 ID:HUEZUXygo
――――――
――――
――

藤虎(あの茶屋に、兎の姉さん……そして、奇妙な兄さん、か)コッコッコッコ

藤虎(単なる喰種の組織じゃあ無い。さて、どう探ったもんでしょうか)コッコッコッコ


中島「あれ? イッショウさん?」

草場「お疲れ様です」

藤虎「あァ、クサバさんに、ナカジマさんですかい」

中島「イッショウさんは行かなかったんですね」

藤虎「……? 何の話でしょう?」

中島「え? 少女の喰種の捕獲作戦をするんじゃないんですか?」

草場「亜門さんが保存されていた母親の氏体を持ち出したと聞いたので、てっきりそうだと思っていたんですが」

藤虎「……氏体を?」

51: 2014/12/21(日) 15:32:23.87 ID:HUEZUXygo
――――――
――――
――

電伝虫「プルルルルル、プルルルルル」

藤虎「……出ませんか」

藤虎(真戸さんの実力がありゃァ、あっしが居なくとも後れを取ることは無いとは思うが……)

藤虎(どうにも悪い予感がしやす)


ヒュンッ


藤虎「!」


ガキンッ



魔猿「チッ、やっぱダメか……」スタッ

黒狗「こいつ相手に不意打ちは効かないわよ」


藤虎「この声は……まさか、魔猿の兄さんに、黒狗の姉さんですかい」

藤虎「……なるほど、お二人が手を組み統べてるとくりゃァ、この街が静かなのも道理」

藤虎「いや、それとも、お二人を従える大物でも裏に潜んでいるんでしょうかね?」

魔猿「さあて、な」

黒狗「あんたには関係ないことよ」

52: 2014/12/21(日) 15:36:32.67 ID:HUEZUXygo
藤虎「……ここを通しちゃくれませんかい?」

藤虎「部下が危険かもしれねェんで」

魔猿「悪いがそれは出来ねえなあ」

黒狗「久しぶりにあったんだから、たっぷり私たちと遊んでいきましょうよ」

藤虎「……そうですかい」

藤虎「なら、あっしも全力を出しやしょう」キンッ


グオッ

魔猿「!?」

黒狗(何かが上空へ飛んでいった……?)


ゴゴゴゴゴゴゴ


魔猿「ん?」

黒狗「……なに? この音?」

魔猿「……上だ」

黒狗「え?」パッ


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ


黒狗「………………冗談でしょ?」

魔猿「隕石……だとぉッ!?」

54: 2014/12/21(日) 15:40:34.35 ID:HUEZUXygo
藤虎「時間もない。手っ取り早く行かせて頂きやす」


黒狗「ちょ、ちょっとアンタ何考えてんの!?」

魔猿「少し離れた場所に住宅地もあるんだぞ!?」

藤虎「……」



藤虎「…………こりゃいけねェ」


魔猿「はあああああああ!?」

黒狗「逃げるわよ!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ドッッゴオオオオオオオオオオンン…

55: 2014/12/21(日) 15:45:04.74 ID:HUEZUXygo
パラ…パラ……


藤虎「……何とか勢いを頃したものの」

藤虎「ガラスが大量に割れる音が……ツネさんとサカさんに大目玉を食らいますねこりゃァ」

藤虎(だが、今は真戸さんを追うのが先だ。すいやせん市民の皆さん)タッ



魔猿「ごほ……生きてるか、入見」

黒狗「なんとか……」ヨロッ

魔猿「クソッ、大して時間も稼げねぇとは」

黒狗「反則過ぎるでしょ、あの羽赫……」

57: 2014/12/21(日) 15:48:30.45 ID:HUEZUXygo
――――――
――――
――

――水路

金木「トーカちゃん! ヒナミちゃん!」

董香「カネキ……ヨモさん……」

ヒナミ「お兄ちゃん!」

四方「無事か?」

董香「はい、何とか……」

四方「よし、早くここから逃げるぞ」

金木「あの、氏体は……」

四方「時間がない。そのまま……!?」バッ

金木「ヨモさん?」


コッコッコッコ

59: 2014/12/21(日) 15:50:27.77 ID:HUEZUXygo
ヒナミ「……あ、あぁ」ブルブル

四方「お前達、下がれ!」


コッコッコッコッコッコ


藤虎「……」コッコッコッコ

金木「……」

董香「くそっ……」


藤虎「……マドさん」

真戸「……」

藤虎「……お兄さん方」

藤虎「あっしの部下を頃したのは、どのお人で?」ズズズッ


ヒナミ「……」ヘタッ

金木「う……」

藤虎「……」ピクッ

董香(畜生、この傷じゃ……)

四方(……3人だけでも逃がせるか?)ググッ

60: 2014/12/21(日) 15:53:05.59 ID:HUEZUXygo
藤虎「……」

藤虎「……茶屋の兄さんもおられるので?」

金木「え?」

藤虎「……そう、アンタです」


藤虎「アンタ、どっちなんですかい……?」

董香「……!?」

董香(うそ、何でカネキのことを?)

四方(……喰種並みの嗅覚とは)

61: 2014/12/21(日) 15:55:28.68 ID:HUEZUXygo
藤虎「……刀は一度収めやす」キンッ

四方「なに……?」

藤虎「場所を移しましょう。兄さんの話、聞かせて頂きやす」コッコッコッコッコ


ヒナミ「……」ポカーン

金木「……僕の、話を?」

董香「何考えてんの、あいつ……」

四方「……」


四方(ここで戦うよりかはマシか)

四方(あの二人も簡単にやられたとは思えない。時間を稼げば援軍が期待できる)

四方(何より、この男の態度は……)


――――――
――――
――

62: 2014/12/21(日) 15:57:04.62 ID:HUEZUXygo
藤虎「…………なるほど、嘉納医師が」

金木「!? 嘉納先生のこと知っているんですか!?」

藤虎「名前くらいは。かつてはCCGの解剖医でした」

金木「CCG……!?」

董香「何よそれ……」

四方(……)

藤虎「ドイツにも行っていたと聞いていやすが、どうにもキナ臭い話だ」


藤虎「……分かりやした。この件についてCCGの関与がないか、あっしが調べておきやす」

金木「CCGを?」

藤虎「ええ。人間の喰種化……ただの解剖医が独自に一から考えたことかどうか、知る必要がありましょう」


藤虎「……真戸さんが亡くなったことで、新たに捜査官が入るでしょうが、上にはボスだった魔猿と黒狗は氏んだと報告しておきやす」

藤虎「〝大食らい〟の粛正も自白したと言っておきゃァ、今後捜査の手もそれほど大規模にはならんでしょう」


藤虎「では、あっしはこれで。何か解ればまた茶屋にお邪魔いたしやす」コッコッコッコ

金木(この人、本当に……)

董香(あたし達を見逃すっての……?)

四方(……)

ヒナミ「……」グッ


ヒナミ「……どうして」

63: 2014/12/21(日) 15:59:14.96 ID:HUEZUXygo
藤虎「……」ピタッ

ヒナミ「……どうして、お父さんと、お母さんを……頃したんですか」

董香「ヒナミ……」

金木「ヒナミちゃん……」

藤虎「……」


藤虎「……あっしは喰種捜査官でございやす」

董香「……!」カッ

董香「リョーコさんは! リョーコさんは誰も頃してなんかいない!」

董香「人を傷つけることなんか出来なくて! 自頃した人間を食べてただけだ!! それなのに、どうして……どうしてリョーコさんが……!!」

四方「トーカ」


藤虎「……それを正確に見分けるこたァ誰にも出来ない。今後も殺さないと保証することも」

藤虎「人間と喰種が共存することなんざァ出来やしません」

董香「……ッ」

64: 2014/12/21(日) 16:02:24.10 ID:HUEZUXygo
金木「……」


金木「……僕なら」

藤虎「……」

金木「僕だけは、人間と喰種……どちらの側からも、見ることが出来ると思います」

藤虎「……それで? アンタに変えられるってんですかい? この世界の理を」

金木「解りません。でも、だけど……」

金木「だけど、きっと、人間と喰種を繋げることは出来ると思うんです!」

四方「……研」

65: 2014/12/21(日) 16:03:10.00 ID:HUEZUXygo
藤虎「……兄さん、カネキさんでしたかい?」

金木「は、はい」

藤虎「アンタのその賭け……あたしも乗らせていただきやしょう」

金木「え?」

藤虎「アンタの示す大穴に、あっしも一点張り致しやす」

藤虎「CCGのことはあたしにお任せなさい。嘉納のこと、CCGの裏のこと、あっしが調べてみせやしょう」


――――――
――――
――

66: 2014/12/21(日) 16:04:54.42 ID:HUEZUXygo
藤虎(……しかし、このことを誰かに相談したものか)コッコッコッ

藤虎(CCGの暗部が関わるかもしれねェ以上、ツネさんには頼れない)コッコッコッコッ

藤虎(サカさん……はもっと駄目だ。問答無用でカネキの兄さんを頃しちまう)コッコッコッ

藤虎(特等方、その上。どれだけ根が深いのかもわからねェ)コッコッコッコ

藤虎(そもそも喰種を見逃しておくことを良しとするお人がどれだけいるか……)コッコッコッコッ

68: 2014/12/21(日) 16:08:54.61 ID:HUEZUXygo
藤虎「……」


藤虎「……あのお人なら」


藤虎(陰謀や権力争いに関わるようには見えねェし、喰種を憎んでいるようでもねェ)


藤虎「……賭けにゃァなるが、話してみますかい」


――――――
――――
――


69: 2014/12/21(日) 16:10:07.47 ID:HUEZUXygo
電伝虫「ぷるるるるる」

電伝虫「がちゃ」


「嘉納先生、私です。少々厄介なことになりまして」

「G-20の実験成功者の件が、イッショウさんにバレました」

「……いえ、それは大丈夫です。幸運にも最初にそのことを話したのが私だったらしく」

「……はい、既に始末しました」


「氏体の処理をしたいので、クロとシロを寄越していただけますか?」

「……はい、よろしくお願いします」


電伝虫「がちゃ」



おわり

70: 2014/12/21(日) 16:11:29.19 ID:HUEZUXygo
読んでくださりありがとうございました
依頼出してきます

引用元: 藤虎「あっしが喰種捜査官、ですかい?」