1: ◆PknhD1Oqxw 2020/09/10(木) 00:37:49.52 ID:dDCR230O0

2: 2020/09/10(木) 00:40:31.05 ID:dDCR230O0
プロデューサーさん、す…好きです。その…異性として…」

言った。言ってしまった。

体の全部が心臓になったんじゃないかってくらい鼓動の音がうるさくて、

数日何も飲んでないんじゃないかってくらい口が渇いて、ほんの一瞬が永遠のような長さにすら感じられた。

答えを聞くのが怖くて、ここから逃げ出してしまいたい。


3: 2020/09/10(木) 00:41:23.12 ID:dDCR230O0
劇場の事務室には、私、北沢志保とプロデューサーさんの二人きり。

自己レッスンのために無理を言って残らせてもらったので、時刻はすでに21時を回っており、

私たち以外は誰もいない。静寂の中、時計の針の音だけが部屋に響く。

「志保、からかうのはやめてくれ」

「冗談でも、噓でもないです」

「……そうか」

私の発言を聞いて、プロデューサーさんの顔が真剣なものへと変わった。

4: 2020/09/10(木) 00:42:18.33 ID:dDCR230O0
いきなり告白なんて我ながらずいぶんと思い切ったことをしたものだ。

こんなことになったのも役作りのためにと百合子さんから借りた恋愛漫画や小説が原因だ。

半ば押し付けられたような形だった。

本人曰く
「この作品たちは、私の選りすぐりなの!

これを読めば志保も絶対に恋したくなること間違いなしだよ!

私も初めて読んだときは本当にドキドキして…!

特にこっちの6巻のクライマックスは最高でね!

ヒロインの女の子が…あっでもこれはネタバレになっちゃうかな…えっとえっと

とにかく素晴らしい作品なんだよ!」とのこと。

少し早口で本当に楽しそうに話していた。

恋をしたくなるって…私は別に恋をするつもりなんてない……なかった。

5: 2020/09/10(木) 00:43:30.33 ID:dDCR230O0
それらの作品群は百合子さんが太鼓判を押すだけあってとても面白い作品ばかりだった。

“憧れのカレとドキドキデート“ ”意中のあの人と二人きり“

……恋なんて自分にはどこか縁遠いものだと感じていたけど自分もいつかこんな恋愛をするのだろうか

といつかの未来を思い描いたとき、相手役として思い浮かんだのはプロデューサーさんの顔だった。

あんな頼りない人のことなんて別にどうも思ってない、と否定してみるものの、

一度意識し始めてしまったが最後、「好きかも?」が「好き」に変わるまでそう時間はかからなかった。


6: 2020/09/10(木) 00:44:35.67 ID:dDCR230O0
朝、おはようと声をかけてもらえるだけで幸せな気持ちになったし、

一日中一緒にいられるお仕事の前の晩なんか楽しみで眠れないほどだった。

休みの日には今頃プロデューサーさんは何してるのかなとか考えてみたり、

他の女の子と楽しそうに話してるのを見かけるだけで胸が苦しくなったりした。

少し恥ずかしいけれど、

私は、言い訳のしようがないほどに「恋する少女」だった。

7: 2020/09/10(木) 00:45:39.39 ID:dDCR230O0
普段はちょっと抜けていて頼りないくせに変なところで真面目で誠実なこの人のことだ、

自分の担当アイドルに手を出したりしないだろう。

仮にそうでなかったとしても、憎たらしいことにこの人は多くの女の子から好意を寄せられている。

不愛想で可愛げのない私なんかよりももっといい選択肢がきっとあるはず。

自分が逆の立場だったとしてもわざわざ私なんて選ばない。

それにプロデューサーさんとの年齢の差だって開いている。

私なんて大人から見ればまだまだ子供なのだろうし。

考えれば考えるほどに否定材料ばかり集まって、告白なんてしたところで結果は火を見るよりも明らかだと自分でも思う。

8: 2020/09/10(木) 00:46:23.94 ID:dDCR230O0
でも…それでも…私は。


その声を、その笑顔を、そのやさしさを、

そのすべてを自分のものにできる可能性が万に一つでもあるのなら。

そう思ったらこの気持ちを伝えずにはいられなかった。

恋は盲目とはよく言ったものだ。

9: 2020/09/10(木) 00:46:53.74 ID:dDCR230O0
私はさらに言葉を繋ぐ。

「私は……

私の成功を自分のことのように喜んでくれて

私の失敗を自分のことのように悲しんでくれて

大人のくせしてどこか子供っぽくて、無邪気で、のん気で

でも私が辛いときは何も言わずにそばにいて、支えてくれる

そんな、そんなあなたのことが、大好きです」

10: 2020/09/10(木) 00:47:34.27 ID:dDCR230O0
言った。やっと言えた。

体の全部が心臓になったんじゃないかってくらい鼓動の音がうるさくて、

数日何も飲んでないんじゃないかってくらい口が渇いて、

ほんの一瞬が永遠のような長さにすら感じられた。

答えを聞くのが楽しみで、今すぐにでもその胸に飛び込みたい。

11: 2020/09/10(木) 00:48:14.16 ID:dDCR230O0
「……志保、俺は─」

沈黙は終わりを告げる。

ああ、私は今どんな表情をしているのだろう。

演技力には少しばかり自信があったけれど、

肝心な時に限って役に立ってはくれないようだ。


せめてこんな時ぐらい、年相応の可愛い顔ができていたらいいな。

12: 2020/09/10(木) 00:50:03.91 ID:dDCR230O0
おわりです
北沢志保かわいいね

引用元: 【ミリマス】志保「告白の行方は」