13: ◆ocw3brVKmU 2010/11/27(土) 00:25:58.55 ID:VQScLS6o
唯「うーいー!」

憂「なに? お姉ちゃん」

唯「ねぇ、明日さあ……」チラッチラッ

憂「明日? 誕生日のこと?」

唯「えへへ……うん」

憂「あはは、誕生日プレゼントなら、もう用意してるよー」

唯「ほんとっ?! やったあ!」

唯「なにかなー……、なにかなーっ……」

憂「ふふ、明日になってからのお楽しみだよー……」
けいおん!college (まんがタイムKRコミックス)
14: 2010/11/27(土) 00:26:25.29 ID:VQScLS6o
よくじつ!

憂「お姉ちゃん、16歳の誕生日おめでとー!」

唯「ありがとーういーっ!」

憂「よいしょっ……と。これ、誕生日プレゼントだよっ……」


どすんっ!


憂「ふう……」

唯「わ、おっきい箱……」

憂「家の中でこっそり作ってたんだよ」

唯「え? 箱を?」

憂「うん、お姉ちゃんへのプレゼントだから、気合いいれちゃった!」

15: 2010/11/27(土) 00:26:56.89 ID:VQScLS6o
唯「あ、ありがと……中はなにが入ってるのかな?」

憂「なにも入ってないよ」

唯「へ?」

憂「お姉ちゃん、今日から16歳でしょ?」

唯「うん」

憂「16歳の女の子、つまり……」

唯「ごくり……」

16: 2010/11/27(土) 00:27:27.98 ID:VQScLS6o
憂「結婚できるんだよ!」

唯「おお!」

憂「それで、わたしはお姉ちゃんが大好きだから、結婚なんて絶対させたくないの」

唯「う、うん。彼氏とかもいないしね」

憂「いちゃいけないよ」

唯「ええー……」

憂「どこの馬の骨かもわからない人に、お姉ちゃんを渡せないよ!」

唯「じゃあ、どんな人ならいいの?」

憂「そりゃあ、料理が上手くて、お姉ちゃんのお世話をしっかりしてくれて、優しい人だよ」

唯「まさにういだね!」

17: 2010/11/27(土) 00:28:25.36 ID:VQScLS6o
憂「でもわたしたちは結婚できないよ、だって生まれた時から籍いっしょだし」

唯「あれっ、わたしたちもう事実婚状態?」

憂「過言ではないよ」

唯「ういはわたしの妹であり、お嫁さんだったんだね……!」

憂「でね、お姉ちゃんが将来誰かと結婚しちゃったら、籍移さなきゃいけないじゃない」

唯「苗字変わるしね」

憂「そのときがわたしとお姉ちゃんの離婚するときなんだよ」

唯「なんとっ!」

18: 2010/11/27(土) 00:28:54.17 ID:VQScLS6o
憂「だからお姉ちゃん、お姉ちゃんを箱入りお姉ちゃんにしたいの!」

唯「なるほど、任せてっ! ういっ!」


もぞもぞ……


唯「おぉ……なかなか快適空間ですなぁ……」

憂「お姉ちゃんが入る箱だからね、がんばったんだー」

唯「ういおいでー」

憂「えへへ……」

唯「いいこいいこ」ナデナデ

憂「頑張ったかいがあるよー……えへー」

19: 2010/11/27(土) 00:29:28.84 ID:VQScLS6o
唯「ねーういー。それで、箱に入ってどうすればいいの?」

憂「うん。閉じ込めるから、ちょっと奥にはいってて」

唯「へ?」

憂「よいしょっと……」ジャキッ

唯「そ、それなに……」

憂「インパクトドライバー」

唯「い、いん……へっ」


バルルルルルルルルッ!!


唯『いやああああこわいいいいっ!!』

憂「ふた閉めるだけだから、大丈夫だよ」

20: 2010/11/27(土) 00:29:55.39 ID:VQScLS6o
バルルルルルルルルルッ!!!


唯『そ、それもっと優しく出来ないのお!?』

憂「我慢してね……」


バルバルバルバルバルッ!!


唯『ちょ、ちょっと……ほんとに出れないじゃん!』

憂「閉じ込めてるからね」


バルッ!バルバルバルルルルッ!!


憂「……もう終わりだよ、お姉ちゃん」

21: 2010/11/27(土) 00:30:59.93 ID:VQScLS6o
唯『く、暗いよお……』

憂「今電気つけるね」パチッ

唯『す、すごい……ついた』

憂「LEDだからあんまり熱くならないと思うけど……、暑苦しくなったらいってね」

唯『うん、わかったよ……』

憂「あ、ちゃんとモーターとキャタピラで動けるようになってるから、階段も降りれるし、好きなところにいけるよ?」

唯『えっ、ほんと?』

憂「うん。コントローラーもあるでしょ?」

22: 2010/11/27(土) 00:31:48.96 ID:VQScLS6o
唯『あ、これかな? ……ゲームのコントローラーみたいだけど、コレで動くの?』

憂「左側のアナログスティックを前に倒してみて」

唯『うん、えいっ』カチャッ


ぐうんっ


唯『わっ』よろっ

憂「いきなりスピード出すと慣性でよろけちゃうから、気をつけてね」

24: 2010/11/27(土) 00:32:25.36 ID:VQScLS6o
唯『すごい!すごいよ!外の様子も画面に映ってるし!』

憂「カメラでね、ボタン押したら録画も出来るんだよー」

唯『えっ、ほんと?! どれどれ……』●REC

唯『すごい!カメラの角度まで変えられるよ!』ウィンウィン

憂「やっ……お姉ちゃんたらどこ撮ってるのっ……///」ばっ

唯『でへへー、いいでわないかー、いいでわないかー』ウィーン

憂「もう///」

25: 2010/11/27(土) 00:33:24.84 ID:VQScLS6o
こうして平沢唯の箱入り生活が始まった。
妹からプレゼントされた箱は素晴らしい出来で、日常生活に全く支障をきたさなかった。
用を足すときも入浴時も、箱から出ずに苦労なく済ませることが出来るのだ。

平沢唯が箱入り生活を始めて一ヶ月が過ぎた頃。
周りからも「平沢唯は箱入り娘である」という認識が定着しており、驚かれること、奇異の眼を向けられることも少なくなった。

彼女のギターであるギー太は箱の中にあり、部活動もいつも通り続けていた。
そんなある日の部室。


律「よう、唯、遅かったな」

澪「今日もその箱、いい感じだな」

唯『えへへー、憂が作ってくれた世界で一つだけの箱だからねー』

紬「……唯ちゃん、あのね」

唯『なあに? ムギちゃん』

紬「えっと……お父様から教えてもらったことなんだけど……」

26: 2010/11/27(土) 00:34:30.25 ID:VQScLS6o
「箱入り娘」、広義では、家の中など、極力他人と接触を持たせずに育てられた娘のことである、しかし。
比喩でなく、実際にそれを実施している女子高生がいる。
この驚くべき事実に、メディアが食らいつかないわけがない。

紬は唯にマスコミの魔の手が忍び寄っていることを伝えた。
また、その唯の乗っている箱、通称「唯箱」――平沢唯が搭乗していること、世界に唯一の箱であることから名付けられたらしい――を、商業及び軍事利用できないか、と大企業まで動き出しているらしいのだ。

もちろんその大企業とは……。


紬「あのね、唯ちゃん。残念だけどこれからしばらく、マスコミから避けなくちゃいけないとても辛い日々が待ってると思うの」

唯『えぇ……いやだなぁ……』

紬「だからね、しばらくわたしの家で匿ってあげる!」

唯『ほ、ほんと!?』

27: 2010/11/27(土) 00:35:05.30 ID:VQScLS6o
こうして唯はしばらくの間、琴吹家にお世話になることになった。
唯箱の開発者、憂も共に琴吹家に滞在することを条件に、それを許した。


唯『ういぃ……不安だねえ……』

憂「大丈夫だよ、紬さんもわたしたちのこと守ってくれるみたいだしね」

紬「……そうよ唯ちゃん、安心して!」

憂「それに、お姉ちゃんの箱に、ちゃんと敵を撃退するためのアタッチメントつけたから……」

紬「っ?!」

唯『うん……怪しい人が近づいたら、目標をセンターに入れてスイッチ……だよね……』

28: 2010/11/27(土) 00:35:37.35 ID:VQScLS6o
紬「ちょ、ちょっと」

憂「どうしたんですか?紬さん」

紬「その撃退用のアタッチメントって……?」

憂「ちょっとした電気ショックですよ。お姉ちゃん、そこの木に向けてやってみて」


憂は紬のことを警戒していた。
保護すると言って、わたしたちのことを父の企業に売るのではないかと、そう父から命令されているのではないかと疑っていた。
ならば、と牽制することにしたのだ、自分の開発した外敵撃退用装置、神の雷(ラブリーシスター・サンダー)の威力を示すことで。

29: 2010/11/27(土) 00:36:07.84 ID:VQScLS6o
唯『ほいほい、目標をセンターに入れて、スイッチ!』


唯が操縦桿のトリガーを引いた瞬間、電撃の鞭が耳を裂くようなけたたましい音を立てながら白樺の木に叩きつけられ、炎上した。


紬「えっ……?」

唯『す、すごい……』

憂「あれ……?」


めらめら。
めらめらめらめら。

30: 2010/11/27(土) 00:36:39.70 ID:VQScLS6o
勢い良く燃える琴吹家の白樺の木。勢い良く火が燃え移っていく琴吹家の私有林。
惨劇、だった。

唯は戸惑った。己が引き金を引いた装置がこんな事態を引き起こすなんて。
憂は驚嘆した。己の開発した装置が、これほどの威力を秘めていたなんて。
紬は焦燥した。己の友人たちが父の土地を焼き払っただなんて、どう説明すればいいのだろう。

紬「とっ、とにかく! 消防車呼ばなきゃ!」

憂「っ!」

唯『だ、ダメだよムギちゃん!わたしがつかまっちゃうよぉ!』

紬「で、でも、全部燃えちゃうっ、このままじゃどんどん燃え広がって――」

紬がそういいながら携帯電話を取り出し、電話帳に登録されているのだろう緊急時用のダイヤルに電話をかけようとした、そのとき――、

紬「きゃあっ!」

――再び、この惨劇を引き起こした雷光が迸った。

31: 2010/11/27(土) 00:37:31.82 ID:VQScLS6o
紬の持つ携帯電話を掠めるような軌道で放たれた神の雷は、紬の右腕に感電時独特の生々しい電流斑を残し、目標である携帯電話を完膚なきまでに破壊した。

紬「うぅ……いたぃい……」

唯『ふぇ……、どう、どうして……、わたしじゃない……ムギちゃぁん……うえぇん……』

憂「ハァ……ハァ……!! お姉ちゃん……安心して……!!」

そう、神の雷の引き金を再度引いたのは、平沢憂。遠隔操作で彼女にも神の雷を発動させることが出来るのだ。
人に向けて装置……いや、兵器の引き金を引いたことで、明らかに興奮している。

燃え盛る木々を背景に、燃え上がる狂気を押さえつけられずに、彼女はもう一度、引き金を引いた。
目標は琴吹紬、再度彼女に向けて神の雷が襲い掛かる。標的を絶望させるに十分すぎるほどのスピードで、金属製の腕が走る。

そして、地面に垂直に突き刺さった。

32: 2010/11/27(土) 00:38:17.40 ID:VQScLS6o

電光石火で現れた琴吹家執事長、斉藤が神の雷を叩き落したのである。

斉藤「お待たせしました……。紬お嬢様」

紬「さ、斉藤!」

斉藤「ご安心ください、もう大丈夫でございます」

憂「くっ……」

突然の出来事に焦燥した憂は何度も神の雷を再起動し、斉藤を襲わせた。
しかし彼は絶縁性の分厚い手袋をはめており、雷撃は全て叩き落され、遂にはその怪力で根本から引き千切られてしまった。

33: 2010/11/27(土) 00:38:59.33 ID:VQScLS6o
唯『あわ、あわわわ……たすけてぇ……』

唯は唯箱の中でひたすら怯えていた。何が起きているのかもわからずに、ただただ操縦桿に触れないように、手を隠していた。
わたしじゃない、わたしじゃない。どうして、どうしてこんなことに。
箱の外の映像を見るためのモニターの電源を落とし、箱の中の照明も切り、目まで瞑った。
光のない暗闇の中で、箱の外から聞こえる破壊音と木々が倒れる振動と周囲を焼き尽くす熱に震え続けた。

唯『し、氏んじゃうっ! 氏んじゃうよおぉおっ……助けてえ! ういぃいっ……!!』

唯はあまりの恐怖に小便を漏らしていた。無意識か偶然か、普段用を足すタンクに黄金水は溜められていく。
流水の音が聞こえる。音姫――女子トイレの音消し――だ。憂の姉に対する配慮が伺える。

34: 2010/11/27(土) 00:39:37.27 ID:VQScLS6o
琴吹家執事長、斉藤(齢四十五、独身、童O)は、女子トイレという空間とは無縁の人生を送ってきた。
小中高と、琴吹家の執事となるべく、男子校でその道の専門知識を身につけてきた。
そう、彼にとって女子トイレという聖地にある装置は全て神聖なものであり、なにものよりも優先されてしかるべきものなのである。
小耳に挟んでいた音姫――果たして本当に存在するのかと疑問にすら思っていた――が今この場で実際に作動している。

彼の身体は考えるよりも先に動いていた。
速く。迅く。疾く。音を置き去りにするようなスピードで唯箱に耳を当てる斉藤。

ジャアー、という流水の音に紛れ、ちょろちょろと雫がはじける音がかすかに聞こえる。

――最高に、気持ちいいな――

斉藤は絶頂に達し、粘土細工を床に叩きつけたかのようなべちゃあっとした笑顔を浮かべたまま――、

ガンッ、べちゃあっ。

――憂のかかと落としを受け、地面に沈んだ。

35: 2010/11/27(土) 00:41:13.53 ID:VQScLS6o
平沢姉妹は逃避行していた。
人目につかないように行動し、追っ手は全て修理した神の雷で蹴散らして。

マスコミと琴吹家から追われるようになった二人は、頼る身寄りもなかったが、強かに暮らしていた。
窃盗や詐欺など、多くの犯罪を繰り返し、人としてのモラルは捨て切ってしまっていたけれど、二人の姉妹愛は、いや、二人はそれを超えた何かを手に入れていた。

二人は互いのことを想いあい、雨の日も、風の日も片時も離れず乗り越えてきた。
箱の中の唯は、箱の外の憂に触れられず、箱の外の憂は、箱の中の唯に触れられなかったけれど、それでも二人は心と心でしっかりと繋がっていた。

36: 2010/11/27(土) 00:41:48.85 ID:VQScLS6o
二月二十一日。この地方では珍しく、雪の降る夜のこと。
唯は翌日に迫った憂の誕生日のためにプレゼントを買いに街へ出かけていた。
見知らぬ土地ではあるが、街に出ればどこかしら"いい感じ"の店はあるもので、唯はそこで、小箱に入ったプレゼントを買った。

盗んだ金ではない、唯は、憂のプレゼントを買うために、こっそりとアルバイトをしていたのだ。
幾度となく窃盗を繰り返した唯だが、妹の誕生日プレゼントだけは、綺麗な、真っ当な金で買ってやりたい。そう思って、この数日間辛いアルバイトにも耐えてきたのだ。

唯は余った僅かな給料を自販機に投入し暖かいコーヒーを買い、一人で身体を冷やしているであろう妹のもとへ急ぎ帰る。

唯箱の中は防寒も万全で、寒い冬でも快適だ、もちろん夏も汗一つかかないように設計されているらしい。
自分のことを常に考え、労わってくれる妹。
そんな愛しい憂に、少しでも恩返しがしたかったのだ。

37: 2010/11/27(土) 00:42:33.03 ID:VQScLS6o
二人での逃避生活は、怖かったけれど、楽しかった。
唯は振り返って、そう思う。
そういえばカメラの録画機能が始まったのは、十一月二十七日の唯の誕生日のことだった。
一テラバイトもあった記録用ハードディスクも、明日辺りには容量が埋まってしまう。それほどたくさんの時間を、思い出を、憂と、この唯箱とともにしてきた。
姉の誕生日に始まり、妹の誕生日に終わる。そんなどこか運命じみた偶然に自然と笑顔がもれた。

これからも憂と二人なら、どこまででもいけると、何テラバイトでも思い出を重ねていけると、そうなんとなく唯は確信していた。

そんなことを考えていると、もう少しで憂のもとにつく頃だ。
唯は唯箱を操作するアナログスティックをいっぱいに倒し、道を急いだ。

赤信号につかまったが、交差点の向こうには既に愛すべき家族、憂が待っている。

手を振る彼女に笑い返し――尤も、箱の中では笑顔を見せることも出来ないのだが――、信号が青になるのを待つ。

38: 2010/11/27(土) 00:43:23.79 ID:VQScLS6o


その一瞬。


世界が。


スローモーションに。


なった。


巨大な。


鉄の。


塊が。


トラックが。


憂に襲い掛かろうとしていた。


39: 2010/11/27(土) 00:43:52.06 ID:VQScLS6o
唯『うわああああああッ!!!!』

叫ぶより早く、唯箱は憂を助け出すべく動き出していた。
神の雷でトラックのタイヤを叩き割り、緊急時用のブースターを噴射して、トラックの前に立ちはだかる。
憂の身体を安全圏に突き飛ばし、自らも回避すべく最大出力で動いた。

が。

その努力虚しく唯箱はトラックの車体に巻き込まれ粉微塵に吹き飛び、唯自身も投げ出され数メートル宙を舞った。
思い出の詰まったハードディスクも、小さな暖かいコーヒー缶も一緒に吹き飛んで、砕け散って、ばら撒かれた。

憂はすぐに唯のもとに駆け寄り、声をかける。

憂「お、お姉ちゃんっ!!」

唯「う、……うい…………」

憂「お姉ちゃん!喋らないで!今救急車呼ぶから!」

唯「あはは、大丈夫……、ちょっと、すりむいただけ……。さすがういの作った唯箱だね……」

40: 2010/11/27(土) 00:44:28.24 ID:VQScLS6o
奇跡的に唯は無事だった。憂を安心させるように、優しい声で言う。

憂「ほ、ほんと?嘘ついてない?」

唯「……うん、憂、憂ならわかるでしょ……?」

憂「で、でも……心配だよう……!」

唯「だいじょうぶだから憂、もっと顔、良く見せて」

三ヶ月。
三ヶ月ぶりに、二人の手と手が触れ合った瞬間であった。

唯箱は、唯と憂の絆を守るための装置である反面、二人を分かつ装置でもあったのだ。

野次馬たちが二人を囲み始めていたが、お構いなしに二人は抱き合った。
お互いの確かな感触を、全身で感じ取りたかった。

41: 2010/11/27(土) 00:45:38.04 ID:VQScLS6o
唯「やっぱりういは、カメラやモニター越しじゃなくて、自分の目で見たほうが可愛いね」

憂「お姉ちゃんもだよお……!ごめんね、あんな箱に閉じ込めて、ごめんね……!」

唯「いいんだよ、それに、嬉しかった。中に何も入ってないなんてうそじゃん。あの箱には憂の優しさが一杯詰まってたんだよ」

憂「おねえちゃあん……」

唯「……いいこ、いいこ」

いつかのように、憂の頭をなでる唯。慈しむようなその手つきは、唯箱のアームでは出来ない、一人の姉だけのものだった。
そして、懐に大切に入れていた小箱を取り出し、憂にそっと手渡す。

42: 2010/11/27(土) 00:46:12.33 ID:VQScLS6o
唯「誕生日は明日だけど……、これ、誕生日プレゼント」

憂「え……」

唯「15歳の誕生日おめでとう。憂。大好きだよ」

憂「お、おねえちゃん……」

唯「えへへ……、内緒でアルバイトして買ったんだ……、あけてみて」

憂「これ、指輪……?」

43: 2010/11/27(土) 00:47:07.43 ID:VQScLS6o
唯「安物でごめんね、えっと、結婚指輪は、給料三か月分が目安だったっけ」

憂「け、けっこん……へ……」

唯「アルバイト数日分のお給料で買ったけど、そこは、三か月分の思い出がつまっていることで許してね……。憂、」

憂「は、はい! ……」

唯「来年、憂が16歳になったら、本当の意味で、私のお嫁さんになってくれる?」

憂「あは……、うん……! もちろんだよっ! お姉ちゃん、大好き!」


降り積もる雪の中、二人は指輪をはめて、気の早い誓いのキスをする。
野次馬たちは状況を理解できていなかったが、示し合わせたかのように二人を祝福していた。

―― 一年後。指輪、交換しようね――

どちらからともなく交わされた約束は、誰かの鳴らしたクラクションに溶け込んだ。


おわり

44: 2010/11/27(土) 00:47:39.88 ID:VQScLS6o
終わりです
本当にすいませんでした

そしてもう一度。唯ちゃん誕生日おめでとう

引用元: 唯「まるでパンドラボックスだね」