1: 2008/06/30(月) 00:31:23.55 ID:wmQnBNAX0
長門からこんな言葉を聞くなんて、想像すらしたことが無かった。
あの長門が…俺がもっとも信頼していた長門像は、かくも容易く崩れ去った。
ただ一つ解ることは、俺は確実に殺されるということだけだ。
ああ…こんな事なら、後悔しない人生を送ればよかった。
こんなに早く終わるなんて、知らなかったんだ…。

そんな事を思いながら、おれは昨日の出来事を思い出していた。
信頼していた長門の、突然の豹変ぶりを。

3: 2008/06/30(月) 00:38:25.15 ID:wmQnBNAX0
「非常事態。大至急非難を要する」
は?とまぬけな声を出してしまうのも仕方の無いことだといえよう。
あの長門が非常事態だというのだから、それはもう疑いようの無い非常事態なのだろうが、
なにせ今はいつも通りの平和な放課後である。
俺だけではない、朝比奈さんやハルヒ、あの古泉ですらあっけに取られている。
どういうことだ…?
などと聞く暇もなく、盛大な音を立てながら椅子をひっくり返し、長門は立ち上がる。
「逃げて。急速にシステム汚染が進行している」
なんのシステムだ、と聞く前に古泉が朝比奈さんを肩に担いで部室を飛び出した。
その古泉の行動力で俺も我に返り、ハルヒの手を引いて部室を出た。

8: 2008/06/30(月) 00:47:06.70 ID:wmQnBNAX0
「どういうことだ古泉、説明しろ!」
「すいません、僕にも状況がまったくつかめません。しかし、長門さんがああ言っているのです。こうするのが賢明でしょう」
それにはまったく異論はない。だが、じゃあ何故長門も一緒に避難しないんだ。
もしかして、また一人でなんとかしようとしてるんじゃないのか?だったら…
「いいえ、それよりも長門さん自身に異変があった、と考えるほうがいいでしょう。汚染という言葉も気になります」
「あ、あ、あ、あ、あの…!!どういうことですかぁ…?」
古泉の肩で声と身体をポンポン跳ねさせている朝比奈さんが聞く。しかし、俺に考えられるのは…
「もしかしたら、長門が」
言い終える間もなく、北高全体に…いや、市内全体に響き渡るほどの爆音が起こった。
何なんだ一体?!
「きゃあああ!ちょ、キョン?!状況を説明しなさい!」
解れば苦労はしない!だからこうやって逃げてるんだろう!

9: 2008/06/30(月) 00:56:54.45 ID:wmQnBNAX0
おいおい…信じられるか。さっきの爆音と爆風で校庭と周辺の民家が綺麗さっぱりなくなっている。
こんな事が出来る奴は、古泉の機関かもしくは…
「長門…?」
そう、こいつしか居ない。
荒野と化したグラウンドで立ち尽くす長門。
どうしちまったんだ一体?!
「長門!どういうことか説明してくれ!!」
「必要ない」
右手を天にかざし、例の高速詠唱をはじめる長門。
見る見る長門の右手が光り輝き、俺でもわかるほどの膨大なエネルギーが貯蓄されていく。
おい、長門!!
叫ぶ俺の声もとどかず、長門は右手を振り下ろす。
「くっ…!!止むを得ません!」
などという声と共に、朝比奈さんの体が横に吹っ飛ぶ。
そのすぐ後ろで、盛大に廻し蹴りをはなった古泉が見える。
「おい、なんてこと…」
ついさっきまで朝比奈さんがいた場所に、光の筋が走る。
長門、お前本気で…

11: 2008/06/30(月) 01:02:51.53 ID:wmQnBNAX0
キキキー!!
「古泉!!早く乗りなさい!!」
まさに救世主、こんなときは本当に頼りになるのが機関だ。
運転席の新川さんもすでに発進の準備にかかっている。
とやかく考えている暇はない!乗るぞハルヒ!
「え?!ちょっとキョン!引っ張んないでよ!」
「ひゃああああ?!!」
ブゥン!
バックミラーに映る長門は、立ちつくしてこちらを眺めている。助かった…のか。
その長門の後ろにかすかに見えた人影がひとつ。あれは確か、天蓋領域、周防九曜…!!

14: 2008/06/30(月) 01:10:35.16 ID:wmQnBNAX0


「長門さんが汚染された…わかりやすく言うと、洗脳されてしまった、と言いましょうか」
なるほどな。解りやすい。だが、長門に限ってそんな…。
「お忘れですか?長門さんは一度天蓋領域に起動不能にまで追い込まれているのです。可能性は十分にあります」
そうだったか…
こうなってしまっては隠しようもない。ハルヒにすべてを打ち明けるしかないんじゃないか?
「確かにそうですね。今目の前で起こった事態は彼女に好奇心ではなく恐怖を与えてしまっています。
 そうしない世界崩壊の危険性はむしろ高まってしまいます」
だろうな…古泉、朝日奈さん。その役は俺に任せてもらえないか?
ハルヒに信じさせるには、俺が話すのが一番言いと思うんだ。
「たしかに…普段ならば笑って済まされるでしょうが、今は状況が状況です。貴方の言葉が一番信頼できるでしょう」
「お願いします、キョン君」
よし…ハルヒのところに行って来る。
しかし気になるのは…もし古泉が言ったようにハルヒに恐怖を与えたなら、この状況を無かったことにしてしまうのがハルヒなんじゃないか?
まぁ考えるより行動するが早いか。
とにかくハルヒに話してみよう。

15: 2008/06/30(月) 01:15:17.35 ID:wmQnBNAX0
>>13
んじゃあちょこっとだけ解説。
天蓋領域・・・情報統合思念体と同じような存在。今作では敵対関係
佐々木・・・・ハルヒの対の存在。願望実現能力があるとされる少女。キョンの中学時代の親友。ボクッ娘。俺の嫁。
橘涼子・・・・古泉と対応する存在。超能力者。こちらにも機関は存在する。
周防九曜・・・天蓋領域のインターフェイス。長門と対応。
藤原・・・・・みくると対応。未来人。


こいつらもSOS団的なものを作っている。

17: 2008/06/30(月) 01:22:23.14 ID:wmQnBNAX0

「そんな話…信じられるわけないじゃない!」
そういうのも無理は無い。だがな、今までを振り返ってみろ。
古泉は超能力者、朝比奈さんは未来人、長門は宇宙人。
みんなお前が望んだからここに居るんだ。しんじてくれ。
「仮にそうだったとしても、今私が望んだことが実現されてないじゃない?私は有希が元通りになって欲しいわ」
それなんだ…。前に佐々木に会っただろう?
アイツがもしかしたらお前と対の存在になっているらしくてな…
まだはっきりとは解らんが、もしかしたら能力があちらに移ってしまったのかもしれない。
「そんな…」
あくまで仮定の話だ。そんなに気にするな。
「アンタの話は信じるわ…でも実際私の能力が発揮されないじゃない!?だったら能力が奪われたってことでしょう?!」
そうなるな…。
俺もその考えを確信せざるを得ないな、なんて考えていたとき、古泉がハルヒと俺が居る部屋に飛び込んできた。

19: 2008/06/30(月) 01:32:50.34 ID:wmQnBNAX0
「今、機関の通信部に橘京子からの通信がありまして…とにかく来てもらえますか?」
俺の考えはどうやらビンゴだったらしい。
かつて朝比奈さんを誘拐しようとした憎んでも憎みきれん野郎だ。

『観念してください。あなた方にもう抵抗する余地は無いのです』
このやろう…!会うたびに俺を怒らせるのが上手くなってやがるんじゃないのか。
古泉も珍しく殺気をみなぎらせた表情をしている。…古泉が本気で怒っているのを見るのははじめてかもしれんな。
『涼宮ハルヒの能力は佐々木さんに移りました。そしてそちらの最大の脅威、思念対のインターフェイスもこちらの手に渡ったのです。
 もはや勝負は決まったも同然。ふふ。やはり佐々木さんこそ神にふさわしいのです!インターフェイス、貴女もそう思うでしょう?』
橘に引きつられてモニターに現れたのは、紛れも無い長門。
あの姿、あの雰囲気、間違いなく俺達が慣れ親しんだ長門有希だ。
しかし…俺には表情が読み取れない。まさか本当に…
『降伏することを推奨する。貴方達の勝算は皆無。抵抗するだけ無駄。
 無論、降伏したところで命を助けるつもりはない』

20: 2008/06/30(月) 01:41:32.14 ID:wmQnBNAX0
ブツン。
そこで通信は途絶えた。
静寂が部屋を支配する…SOS団以外に数人の機関関係者がいたが、例外なく口を閉ざしていた。
長門が、向こう側の勢力に…SOS団最大の切り札である長門が引き込まれた。
そんな状況の中、最初に口を開いたのは古泉だった。
「…はっきり言いましょう。我々の置かれた状況は絶望的です」
解りきっていることをぬけぬけと…。
長門が居ない今、そしてハルヒの能力が無くなった今、この状況をなんとかできるのはお前らか朝比奈さんしかいないんだぞ。
それなのに…
「あくまで客観的に状況を判断したまでです。実際、打開策は何一つ思いつきません…」
確かにな…。朝比奈さんに至っては戦意喪失しちまってるし、
ハルヒは論外だ。いくら人並みはずれた体力があっても、能力がなければ所詮ただの人…。
俺は説明するまでもなく戦力外だ…。
ん?待てよ。
今、能力が佐々木にあるんなら…
「俺が佐々木に直接コンタクトを取ればいいんじゃないか?」

27: 2008/06/30(月) 03:32:06.40 ID:slFeWakpO
頑張って残してくれ

39: 2008/06/30(月) 10:12:10.38 ID:wmQnBNAX0
「!なるほど…あちら側と直接の接点があるのは貴方だけ。貴方は向こうでも鍵の存在になっている可能性がある」
「そ、そうですね…キョン君が佐々木さんを説得できれば…」
よし、そうと決まれば即行動だ。長門が向こう側に居る以上、時間は取れない。
携帯電話で佐々木の項目を呼び出し、通話ボタンを押す。
trrrrrrrr
trrrrrrrr
trrrrrrrr
『キミか』
つい最近聞いた親友の声。
こんな形でお前と話さなければならないのは遺憾だが、事態は急を要する。
確認したいことがいくつかあるんだが。
『くつくつ。そうだろうね。僕もキミに聞きたいことがあった』
そうかい、話が早くて助かる。
単刀直入に聞こう。
佐々木、ハルヒの能力を奪ったのか。
『酷い言われようだな。僕自身は神なんかに興味が無いことはキミも良く知っているだろう。
 すべてはこちらの橘さんの行動の結果さ。無論、今となってはそれを迷惑とは感じていないがね。くつくつ』

40: 2008/06/30(月) 10:33:25.41 ID:wmQnBNAX0



なるほどな…。ということは、今佐々木を敵に回すというのはまずい。
佐々木の性格上、積極的に破壊や攻撃をしてくることはないだろうが…
問題はアイツの周りだ。長門が洗脳されてしまったのも、おそらくそいつ等の仕業だろう。
『そう、そちら側の長門さん?だったかな。彼女も今僕たちと行動を共にしているんだ。
 僕としてはキミたちに危害を加えるつもりはないし、キョン、キミにおいてはこちら側に来て欲しいとさえ思っているんだ』
…断る。佐々木、お前どうしたんだ。あんなに能力など要らないって言ってたじゃないか。
『くつくつ。それについては弁明の余地もないね。僕が未熟だっただけの話さ。
 しかしどうだろう。いざ手に入れてしまうと、考えを改めざるを得ないね。』
佐々木、お前らしくないじゃないか。そんな簡単にお前の理性を捻じ曲げられていいのかよ。
『それは違うな。今の僕こそが理性に忠実なんだ。
 願望実現能力とはかくもすばらしい。自覚のあるなしに関わらず、ね。
 この状況の原因は、こうなる前に涼宮さんに知らせなかったそちらの機関のミスだろう』
古泉がギリ、と歯を鳴らせる。
やっぱりコイツを本気で怒らせると、怖そうだ。
『さぁ、もういちど言おう。
 キョン。こちらに来るんだ』
「行かせるわけ無いじゃない!!!」
今まで静かだったハルヒが叫ぶ。
「アンタみたいな人にキョンがホイホイ着いていく訳ないでしょう?キョンはSOS団の大事な雑用係なのよ」
残念ながら全面的に同意だな。佐々木よ、俺がそっちに行くことはない。
お前のその曲がっちまった性根を叩きなおしてやる。

44: 2008/06/30(月) 11:06:36.09 ID:wmQnBNAX0
『くつくつくつ。非常に残念だ。
 忘れてもらっては困る。キョン、僕には願望実現能力があるのだよ。無論、まだ完全な形ではないがね。
 キミがこの提案を断るのなら、不本意だが暴力にものを言わせてしまうことになる。
 涼宮さんたちの無事のためにも降伏を勧めるよ』

ここで通話が切れた。…すまん、皆。でかい戦争になりそうだ。
「致し方ないでしょうね…。機関の総力を挙げて、出来る限りのことはしましょう」
「わ、わたしも…!精一杯お手伝いします…!」
よし、…決まりだな。ハルヒたちを守るため、長門をもとに戻すためにも。
「キョン…」
ハルヒ、いきなりこんなことになってすまなかったな。
必ずお前を守ってやるからな。

45: 2008/06/30(月) 11:12:13.56 ID:wmQnBNAX0
「あたしも戦うわ!!」
そういうだろうと思ったが…ハルヒ、お前を戦わせるわけにはいかん。
酷な言い方かもしれんが、今のお前はただの人だ。
俺と違って、佐々木の鍵となるわけでもない。
わざわざ危ない目にあう必要はないさ。
「あのぉ…ひとつ気になることがあるんですけど…」
どうしました朝比奈さん?
「佐々木さんは、能力が完全ではないって言ってましたよね…ということは、涼宮さんにもまだ少し能力が残ってるんじゃあ…」
「確かに一理あります。涼宮さん、試しになにか強く願ってくれませんか?」
なるほど。それがあればハルヒも少しは…
「んん~…!!」
ボンッ!
「すごっ!!!ホントに実現しちゃうんだ!キョン、これで私も戦えるわ!もう文句ないでしょう!?」
ない。ないが、何故俺を吹っ飛ばしたんだ…

50: 2008/06/30(月) 11:55:26.27 ID:wmQnBNAX0
ピリリリリ
ん?メール…か。
佐々木からだな。
そのメールには『明日19時。繰り返すが、降伏を推奨するよ』とだけ書かれていた。
場所の指定はない…ということは、向こうから出向いてくれるということか。
「正直な話、機関の総力を挙げたとして…長門さん一人に対抗できるほどの戦力にはなりません」
そんな…それに加えて向こうには天蓋領域が居るんだぞ?
なにか…なにか手はないのか。
能力が不完全なままの佐々木ならのハルヒで相手は出来るだろう。
藤原と橘の戦力は未知数だが、少なくとも天蓋領域以上ということもないはずだ。朝比奈さんと俺で何とかできるかも知れん。
長門と周防は…すまん、古泉、頼りっぱなしになっちまうかもしれんが…
「ふむ…かなり厳しい状況であるといわざるを得ないようですね。しかし、情報統合思念体が向こう側である以上、
 長門さんに対抗できる存在は…」

今日はとんでもなく頭の回転が速い。
古泉よ、洗脳されたのは思念体なのか?それとも長門単体なのか。
「!…天蓋領域とはいえ、思念体をそのまま取り込んでしまうのは不可能でしょう。長門さん単体である可能性が高いですね」
ということは、だ。頼れる人がもう一人いるじゃないか。
「なるほど…喜緑江美里ですか」

52: 2008/06/30(月) 12:05:15.68 ID:wmQnBNAX0
「状況は把握しています。ですが、私は戦闘に特化したインターフェイスではないのでお役に立てるかどうか…」
いえ、十分ですよ。
とにかく今は、一人でも多くの戦力が欲しい。
絶望的な状況に変わりはないが、それでもあきらめるわけには行かないんだ。
長門、お前を必ず元通りに…。必ず救ってやるからな。




緊張しながらの時間とはかくも早く過ぎるものなのか。
ほとんど休息といえる休息も取らないままに、俺たちは臨戦態勢に入っていた。
現在18:50。誰もが皆、これから始まるであろう激戦に向けて緊張をあらわにしていた。
この状況を喜んで迎えるはずの、あのハルヒでさえも。
…それだけ、今から始まる戦いが激しいものになるのだろう。



そして、ついに始まる。
俺たちの居る空間が、セピアに染まった。

53: 2008/06/30(月) 12:06:24.12 ID:wmQnBNAX0
>>51
すまん、気をつける。
それから、ちょっと事情で携帯に移行

56: 2008/06/30(月) 12:24:26.73 ID:8j2yirMl0

いつの間にか俺たちは佐々木の閉鎖空間に移動していた。
おあつらえ向きなことに、舞台は北高グラウンド。

「待たせたねキョン。考えはまとまっただろうか」

満月を背景に、校舎の上から佐々木の一味が俺たちを見下ろす。そしてもちろん…そこには長門。
ああ、考えるまでもないぜ。
長門を連れ戻し、お前の目を覚まさせてやる!!

「くつくつ。キミらしいよ。それでこそ僕のキョンだ。奪い甲斐がある。
 それでははじめようじゃないか。無駄な殺生は僕の望むところではないのだが…致し方あるまい。
 キミ以外を無事に済ますつもりはないよ」

言うが早いが、ハルヒが悲鳴を上げた。
腕を抑えてのた打ち回る。出血はないようだ。大丈夫、致命傷にはならないはずだ。
この攻撃は佐々木か、九曜か。
全員が見上げたその先で、腕を天にかざしていたのは…
いつも以上の無表情をはりつけた、長門だった。

58: 2008/06/30(月) 12:50:51.76 ID:8j2yirMl0

長門の攻撃が戦いののろしを上げた。
古泉が特大の火の玉を手のひらで作る。
朝比奈さんが耳に手をあて、なにやらブツブツ言い始めている。
ハルヒも腕を抑えながら、なんとか立ち上がる。
喜緑さんが例の高速詠唱を唱え始める。

俺は…俺にできることは、とにかく佐々木を説得することだけだ。
アイツも、俺の大事な友人の一人だ。
絶対に誰も氏なせない。

「やさしいねキョン。そして甘い。そこがキミのいいところなのかも知れないが」

佐々木は容赦なくハルヒに襲い掛かる。
あのハルヒが、なすすべもなく悲鳴をあげる。
佐々木…!
どうやら甘いことは言っていられないようだ。
お前らがそういうつもりなら、こっちにも覚悟が必要だな。
今俺が守るべきものは、SOS団だ。

105: 2008/06/30(月) 21:47:08.80 ID:slFeWakpO
「この期に及んでまだ涼宮さんを庇うのかい?キミはもう少し賢いと思っていたのだが」
は、笑わせるな。それはこっちの台詞だぜ。
お前もまた、俺の大事な友人だった。だけど、そうも言ってられないみたいだな。
その原因を作ったのは、佐々木、お前だ。
覚悟しろよ。


「イヤァアアア!」
一瞬、誰の叫び声かわからなかった。
橘京子。
古泉の火の球に左腕を焼かれ、断末魔の叫びをあげている。
…ゴクリ。
本当に、命のやり取りが始まっているんだな。

106: 2008/06/30(月) 21:56:40.25 ID:slFeWakpO
「パーソナルネーム・橘京子の情報を操作。破損部分を修復する」
聞き慣れた台詞。
今ここで味方として聞けたなら、どれほど心強かっただろう。
長門……やるしか、ないのか。


誰かの骨が砕ける音がする。
銃砲が鳴り響く。
叫び声が聞こえる。
…誰かの悲鳴が止んでいく。


「キョン君、しっかりして下さい!我々は不利なんです!貴方を守る余裕はありまs」
ドキュ
古泉の身体を尾をひいた衝撃が貫いた。

112: 2008/06/30(月) 22:11:47.34 ID:slFeWakpO


「おい、古泉」
ゆっくりと、ゆっくりと崩れ落ちていく。
俺の目を見ながら。
その中で見せた表情は、まるでお菓子を取り上げられた子供のように悲しい顔で…
もしかしたら、これがコイツの本当の顔なのかも知れないな、なんて事を思った。
それくらい、ゆっくりと古泉は倒れた。
「誰か!古泉を助けてやってくれぇ!喜緑さん!ハルヒ!森さん!!誰か!」
誰もこちらを気にしていない。
否、気にする余裕がない。
自分の身を守るので精一杯のようだ。
それなのに、古泉の胸からはトクトクと音をたてて流れていく。
流れていく。
止める事は、出来なかった。

117: 2008/06/30(月) 22:20:06.94 ID:slFeWakpO



また一人、また一人氏んでいく。
味方が、敵が、味方が、敵が。
橘京子が俺目掛けて光の球を投げ付けてくる。
ああ、俺も氏ぬ…。
光が大きくなる。さらに大きく。もう目の前だ。

「キョンくん…!」

光に、人影が映し出された。
誰だ?
俺の身代わりになって焼かれているのは。
光に直撃し、皮膚を爛れさせながら悲鳴をあげているのは。
もう何がなんだか…!!
光は徐々に輝きを失い、その場に倒れた人間だったものだけが残された。
とんでもない異臭と悲しみが襲い掛かってくる。
そして同時に、怒りが。

121: 2008/06/30(月) 22:28:03.60 ID:slFeWakpO
「佐々木!これがお前の望んだ事か!お前はこんな事を望んでいたのか!!」

悠長に高見の見物を決め込んでいた佐々木に叫んだ。
たのむ。もう辞めろ!!

「くつくつ。僕が望もうが望むまいが、こうなることは決まっていた。対存在とは、どちらかが消滅するものなのさ」

く…もう、この事態を収拾するには佐々木を頃すしかないのか。
…どうしようもないのか!

「だったら佐々木!俺がお前を頃してやる!」

「面白い事を言うなキミは。くつくつ、まったく興味深い。やってみるかい?」

128: 2008/06/30(月) 22:42:18.81 ID:slFeWakpO
「忘れたかい?僕には能力がある。例えばだ」

喉を鳴らして佐々木が笑う。
気付くと、倒れていた橘が起き上がった。

「わかるかい。キミは僕に逆らう事さえ出来ないんだよ。あきらめたまえ」

橘が襲い掛かってくる。
もう俺を庇ってくれる奴はいない。
とにかく逃げるしかない。逃げろ!
情けない…仲間が、人が次々に氏んでいく中、俺だけが敵に背を向けて逃げ回る。

「くつくつくつ。諦めて僕の元に来るんだ。約束しよう、キミの命は奪わない」

130: 2008/06/30(月) 22:48:12.82 ID:slFeWakpO
もう体力も限界だ。
こんな所で…諦めてたまるかよ。
古泉が、朝比奈さんが、一体どんな気持ちで氏んでいったか。
例え最後の一人になったって、絶対に諦めるな!

そんな俺の決意も、数秒後には脆く崩れ去る。
数十の氏体の山の上で、冷たく俺を見下ろしていたのは、長門。
ああ、終わった。
長門に勝てる奴なんて…


「パーソナルネーム・キョンを敵性と判断」


無機質に呟く長門の姿は、まるで出会ってすぐ…完全に無表情だった頃のようだった。
覚悟は決まった。


「長門…俺がわからないか」

「当該対象の照準設定完了。攻撃を開始する」

136: 2008/06/30(月) 23:01:05.25 ID:slFeWakpO
右手を振りかざす。
光り輝くその腕を、あと数秒後には躊躇なく俺に振り下ろすだろう。
長門…
本当に、天蓋領域なんかに洗脳されちまったのか。

「…」

無言で氏体の山から飛び降りてくる長門。
音もなく着地し、不気味なほど静かに歩いて近付いてくる。
だが、逃げられない。
逃げても無駄な事はよくわかっているし…
何より、ひょっとしたら長門が元通りになってくれるんじゃないか。などという甘い考えに縋りたかった。
もちろんそんな希望が実現するはずもなく、右手は俺の頭蓋目掛けて振り下ろされた。

138: 2008/06/30(月) 23:10:10.02 ID:slFeWakpO
「…!」

氏を受け入れた俺は、予想外の方向から衝撃を受ける。
横っ面を殴られ、盛大にぶっ飛ばされたのだ。
なんだか朝倉の件を思い出すな。
…あの時助けてくれた長門は、今は俺の命を奪おうとしているが。

「キョン!あんた何ボサッとしてんの!?相手を有希と思っちゃダメ!今は敵よ!」

ハルヒ。生きていたのか…よかった。
それに喜緑さんも…!

「キョン君。長門さんは破壊する以外にありません。完全にシステムが犯されています。非情になって」

…わかりました。
…長門…お前には本当に感謝している。
だけどどうやらお前に恩は返せそうにないよ。
せめて俺達の手で…


長門?
どうしたんだ…長門は、右手を振りかざし今にもたたき付けんとした状態で、硬直していた。

142: 2008/06/30(月) 23:20:53.83 ID:slFeWakpO
「…長門?」

まさに、硬直といった感じだ。
一体何故?誰が?
こんな事ができるのは喜緑さん?それとも九曜?

「完全に洗脳したという事だったが…どうやら九曜さんのミスのようだね」

佐々木の錆びた笑顔の裏に見え隠れする怒り。
一体なんだって言うんだ。

「キョン、僕はキミを殺そうとは思っていない。何度も言うようにね。
 だが今のインターフェイスの行動はなんだ?キミは今のを喰らって生きていられるかい?
 そちらが無能なのか、天蓋領域が無能なのか…いずれにしろ、彼女はもう必要ない」

174: 2008/07/01(火) 00:33:48.41 ID:PObITVna0
プツン、という音が聞こえたような気がした。
糸を切られた人形は、もはや自ら動くこと叶わず、崩れ落ちる。
今の長門は、まさにそれだった。

「長門!」

動かない…本当に氏んでしまったようだ。
たのむ長門、目を覚ましてくれ!!

「くつくつ。無駄だよ。今の長門さんの制御は僕にしか出来ない。
 九曜さんの汚染プログラムの更に上から上書きしたからね」

どこまで落ちるんだ佐々木…!!
お前はもう、俺の知ってる佐々木じゃない!!

「そう吊れないことを言わないでくれ。キョン、すべてはキミのためだ」

黙れ!黙れよ佐々木!

「ダメよキョン!今熱くなってはダメ!冷静になりなさい!
 有希は氏んだわけではないわ!むしろ動けないだけ好都合よ!」

「そうです。天蓋領域だけならば私たちだけでもなんとかなります!」

175: 2008/07/01(火) 00:41:33.06 ID:PObITVna0

冷静に…
そう、冷静に佐々木をなんとかする方法だけを考えろ。
九曜は喜緑さんに任せるしかない…か。
佐々木に対抗できるのはハルヒだけ。
だが今のハルヒじゃ佐々木の能力に抗えないのは明らかだ。
じゃあ、どうする…!!


「ハルヒ!俺と一緒に屋上まで飛べるか?!」

「ちょっと待ってなさい!んんん…よし、出来た!」


俺とハルヒは、屋上に向かった。
佐々木が待つ屋上へ。
一体何がお前をそこまで変えちまったんだろうな…
出来ることならば、ハルヒも、佐々木も、古泉も、朝比奈さんも、喜緑さんも…
機関の人も、あの橘や藤原、天蓋領域さえ…
誰一人、氏なせたくなかった。

なぁ佐々木…
こんな状況を作ってしまって、本当に俺が喜ぶとでも思っていたのか。
何があったんだ佐々木…
いかん、情を捨てろ。冷酷になれ。
これ以上仲間を氏なせないためには、佐々木を頃すしかないんだ。

179: 2008/07/01(火) 00:57:22.77 ID:PObITVna0
「やぁキョン。やっと観念してくれたみたいだね」

「バッカじゃない?!あんたなんかにキョンを渡すわけがないでしょう?あんたを倒しに来たのよ!」

「くつくつ。そうか、涼宮さん…まったく、いつまでキョンを困らせるつもりなの?
 キョンにそんな事が出来るはずがないでしょう。私たちは親友なの。
 涼宮なんかとは比べ物にはならない程固い絆で結ばれているのよ」

佐々木…一体何がお前をそうさせるんだ。
俺達が培った友情は、こんな事で崩れるようなもんだったのかよ?
…甘いな、俺も。
何度自分に誓えば気が済む。
佐々木を、頃すんだ。

「俺はそのつもりで上がってきたぜ」

「キョン?」

「俺の大切な仲間を頃し、味方が傷つこうが気にも留めない。
 お前はそんな奴じゃなかっただろう。
 古泉や朝比奈さん、長門だって、俺の大切な、大切な仲間だったんだ。
 俺はお前を許すことは出来ない」

180: 2008/07/01(火) 01:05:04.36 ID:PObITVna0
「くつくつくつくつくつ」

「そうかキョン。君まで涼宮さんに毒されてしまったんだね、可愛そうに。
 君は僕を見ていればいいのに。
 僕の言葉が届かないなんて…そこの女が悪いんだね?
 可愛そうに、本当に…ごめんね、僕がそばに居なかったから…。
 何にも解らなくなっちゃったんだね。
 大丈夫、すぐに元凶を消してあげよう」

…来るぞハルヒ。

「ふん!キョンはあんたみたいな冷徹イカレ女に興味なんかないわ!
 来るなら来なさい!」

佐々木が笑った。
珍しく、声を上げながら。
次の瞬間、俺には理解の出来ない戦いが始まっていた。
朝倉と長門の件なんか比べ物にならない、ゲームや漫画でも見たことがないような戦いだった。

183: 2008/07/01(火) 01:19:04.82 ID:PObITVna0
佐々木が光球を投げつける。ハルヒはそれを間一髪でかわし、思わず尻餅をつく。
そのすぐには動けない体勢のハルヒの顔をめがけ、佐々木は足を蹴りあげ、全力で踏みつけ、踏みにじった。
ハルヒが呻く。
佐々木の足の下で、じたばたと暴れる長い手足が跳ねる。
その体勢に気を良くした佐々木は鞭を無から作り出し、棘のある鞭でハルヒの体を打ちつける。
ハルヒが声にならない声を上げる。衣服が切り裂かれ、皮膚からは鮮血が噴出す。

「ふふ、口ほどにもない、とはこの事だね」

鞭でそのままハルヒの両足を縛りつけ、ナイフを手の平に作り出す。
ハルヒが必氏に体をよじる。
ガチ、という鈍い音と共に、つい先ほどまでハルヒの首があった場所にナイフが突き立てられる。

185: 2008/07/01(火) 01:32:04.79 ID:PObITVna0
「まだ余裕があるとはn」

佐々木は言い終えることができなかった。
薄笑いに気がそれた瞬間、ハルヒはシュッ!と唇から気合を迸りながら、鞭を跳ね上げ、足を飛ばした。
固い靴の先端を、思い切り佐々木の下腹に思い切り蹴り上げたのだ。
身の毛のよだつような叫び声をあげて、佐々木は膝をついた。
ハルヒはすばやく飛び起きる。反転しながら、先ほど鞭で打たれたところをウッカリ付いてしまったのか、
激痛に顔をゆがませる。
よたつきながらも反撃を試み、また新たな光球を作り出している佐々木に、ハルヒは突進した。
先ほどされた事の仕返しのつもりなのか、膝をついている佐々木の顔を思い切り蹴り上げ、
佐々木自身が作り出した鞭で佐々木の足首の腱を引き切った。

「くぅぅぅああああ…!!!」

佐々木は無様に転がり、ハルヒはそれに歩み寄る。
ハルヒの手には、新しいナイフが握られていた。

189: 2008/07/01(火) 01:42:26.36 ID:PObITVna0
「助けて、助けてキョン…!!!」

「お願いキョン、キョン…!!僕を、助けて…」

「僕の…キョン…!!
 君を手に入れるために…僕はこうやって…」

「僕は、こんなに愛している…!
 キミが、涼宮さんなんかに奪われないよう、汚されないように、こうやって…」

「キミにとって邪魔なものを排除してきたのに…
 神になろうと決心したのに…」

「何故…能力は僕が…勝っているのに…?」

「助けてキョン」

捩れた愛。攀じれた愛。
吐き気と悪寒と、同情を覚えた。

「佐々木…」

「キョン、あたしにはできない…」

ハルヒ…

甘くなるな。思い出せ。
古泉が、どんな顔で氏んだかを。
朝比奈さんが、どんな悲鳴を上げて氏んだかを。
思い出せ。

194: 2008/07/01(火) 01:57:20.05 ID:PObITVna0
一歩、佐々木に近づく。

「キョン…!」

更に一歩。

「ああ、やっぱりキョンは…

一歩。

「僕のことを…」



許すな。許すな。
助けたとしても、再び過ちを起こすだけだ…
それに、佐々木を殺さないと…ハルヒに力が戻らない。
古泉や朝日奈さん達を救うための改変すらできなくなる。
あの古泉の子供の泣き顔のような顔を。あの朝比奈さんの断末魔の叫び声を。
許せない。

「佐々木」

ハルヒからナイフを受け取る。
そんなに嬉しそうな顔で俺を見上げないでくれ、佐々木…

「何で、こんなことになっちまったんだ…」

197: 2008/07/01(火) 02:04:23.57 ID:PObITVna0

「キョン、キミを愛しているからだ」

「……こうなる前に聞きたかったよ」

俺は、ナイフを突き刺した。
無造作に。
骨も砕けよとばかりに。

何度も、何度も。


「キョ…」
「ああぁ…」
「好き…なのに…」
「こんな…事なら…」
「キミに……られる…ら…」
「いっそ…」
「きm」
「」
「」
「」
「」
「」



207: 2008/07/01(火) 02:22:05.35 ID:PObITVna0
「終わったな」

ハルヒを連れて、校庭を見下ろす。
もう動いているものは居ない。喜緑さんと九曜は…相打ち、だったんだろうか。
すべては終わった。もうハルヒも能力が戻った頃だろう。

「ハルヒ」

「…わかってるわ。世界改変、でしょう」

「…すまん」

「良いわ。古泉君たちやみくるちゃんたちも助けたいから」

「………佐々木も、頼む」

「あんたに言われるまでもないわ。ただし!!!能力の引継ぎはなしよ」

「ありがとう…」

「あんたにお礼を言われる筋合いもないわよ!」

これで、やっと終わりだ。記憶の有無に関しては、ハルヒに任せよう。
明日になれば、きっといつもどおりの日常が始まる。佐々木に、電話の一本でも入れてやろう。

「記憶は…残すわよ。消してしまえば楽なんだろうけど、それじゃ同じ事を繰り返すかもしれないわ。
 能力に関する記憶だけは私自身からは消させてもらうけど」

ハルヒがそうしたいなら、それで良い。振り返ると、佐々木の氏体が転がっていた。
改変の前に、抱き起こして、一声だけかけてやろう。

208: 2008/07/01(火) 02:23:30.12 ID:PObITVna0
「ごめんな」

俺はこの時…
これで終わりだと信じて疑わなかったんだ。
忘れてはいけないことがあった。
この時はまだ気付けなかったんだ。

213: 2008/07/01(火) 02:29:59.23 ID:PObITVna0

「涼宮ハルヒ・キョン、当該対象の生存を確認。敵性と判断」

背後、しかもかなり近距離からの無機質な声。
長門。
忘れていた、長門。
確かこいつの制御が出来るのは佐々木だけ。
そして佐々木の最後の言葉…

「こんな事なら」
「キミに嫌われるくらいなら」
「いっそ」
「きみを」

218: 2008/07/01(火) 02:36:26.68 ID:PObITVna0
「っ?!!!!」
長門の目から一筋の光が走り、ハルヒの胸を一閃した。

「ハルヒ!!」

ダメだ、即氏だ。
希望は潰えた…。
どうして忘れていた…?!
佐々木を頃したことで気が緩んでいたのか…!
不覚だ…。

「くつくつくつ」

「!?」

222: 2008/07/01(火) 02:44:25.91 ID:PObITVna0
「まったくキミという奴は…とことん甘い。そこがキミのいいところなのかもしれないがね」

俺の目の前に居るのは、長門…
もしかして、佐々木が氏ぬ直前に…

「その通りだよキョン。本当にキミは理解力に長けているね。
 それもキミの魅力のひとつだよ。
 とくに僕のように、会話に至高の喜びを感じれる者ならなおさらさ」

終わりだ。
もう俺に出来ることは何もない。
ハルヒさえも氏んだ今、対抗できるものは誰一人としていない。

「さっきは痛かったよ…今まで生きてきてイチバン痛かったんじゃないかな」

283: 2008/07/01(火) 12:05:18.13 ID:CPTxmsHrO
さっきの光景がフラッシュバックする。
何度も力任せに佐々木の身体にナイフを突き立てた。
ズブリ、という嫌な感触が未だに手に残っている。
そして、確かに佐々木は氏んだ。
じゃあ、目の前に居るコイツはなんだ?
口調も記憶も、氏んだはずの佐々木のものだ。
長門の身体には似つかわしくない癖のある薄ら笑いも、紛れも無く佐々木のものだ。

…長門は、どうなったんだ。

「くつくつ、そう怯えないでくれたまえ。何も捕って食べようという訳じゃないんだ」

288: 2008/07/01(火) 12:22:09.59 ID:CPTxmsHrO

佐々木…
長門はどうした。

「ああ、この躯体の持ち主かい。所詮は命令にも従えない欠陥品だ。
 どうなろうとキミの知る所ではないだろう」

…氏んだ、のか。

「その表現が適切であるかは議論が必要だね。
 彼女は生きている。ただ、意識が…中身が僕というだけだよ。
 彼女という意識は、僕に掻き消された」

290: 2008/07/01(火) 12:31:13.50 ID:CPTxmsHrO
佐々木。
俺はさっき…本当にお前を助けたかった。
かつての親友を、ひっぱたいてでも殴り付けてでも目を醒ましてやりたかった。
お前が俺を好きだったというならばなおさらだ。
それでもやはり…お前は殺さなくちゃならなかった。
それほどにお前の罪は重かったんだ。



だがな…今はもう、それさえもない。
旧友の誼みも、哀れみも同情も、もちろん愛情も、お前には感じられない。
今俺の中にあるお前への感情は、憎しみ…それだけだ。
ハルヒを頃した。古泉を頃した。朝比奈さんを頃した。長門を頃した。
俺の大切なものを奪った。
お前は俺を手に入れるために、俺から全てを奪ったんだ。

「なんだ、そんな事か」

佐々木は笑う。

299: 2008/07/01(火) 13:06:31.34 ID:CPTxmsHrO
「なんだ、だと」

「くつくつ。さっきも見せただろう。僕の能力の前では氏すら意味を為さない」

佐々木が校庭を指差す。
その細い指先の軌跡を辿っていくと、一体の氏体があった。
…朝比奈さん。
焼け爛れた皮膚、焦げた髪。
かつてのかわいらしさはもうどこを見ても見当たらない、悍ましい絶叫をあげながら絶命された朝比奈さん。

俺の大切な仲間。

怒りが再び沸点に達する。

303: 2008/07/01(火) 13:23:16.16 ID:CPTxmsHrO
突然、朝比奈さんだったものがビクリと痙攣した。

「?!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!いだい!い゛だい゛よ゛お゛ああ゛あ゛…」



ビクン、ビクンと数回身体を跳ねさせ、また動かなくなる。
佐々木、お前何をした…

「彼女を生き返らせただけさ。肉体のダメージはそのままにね。
 くつくつ、氏ぬ時は苦しかったんだろうね。まさか数秒で再び氏ぬ程のダメージだったなんて。
 わかったかい。僕の前では氏など恐るるに足らない。
 キミが望むならいくらでも生き返らせてあげようじゃないか。彼女らに何度でも氏ぬ苦しみを味わせるためならね!」

くはははは、と佐々木は笑う。
これが、神の笑いか。
俺は、神と戦おうとしているのか。

恐怖よりも悲しみよりも、怒り。
佐々木を許さない。

「佐々木いぃ!!!!!」

309: 2008/07/01(火) 13:33:56.44 ID:CPTxmsHrO
胸倉を掴む。
悲しくなるほどに軽い身体。
片手で持ち上げられる。ああ、人間っていざとなればこんな力が出るんだな。

「いいぞキョン。その本気の思いをもっとぶつけて来るんだ!」

雄叫びを上げながら長門の身体を殴り付ける。
一発目、グシャ、という鈍い音と共に鼻が潰れ、どす黒い血が零れる。
二発目。頬骨に当たり、俺の拳が割れる。
三発目。瞼を押し潰し、眼球が減り込む。
四発目。唇が拳と歯に挟まれ、切り裂かれる。


「くつくつ。良い、良いよキョン。キミに忘れられていた2年間に比べれば、今は至福の時間とも言える。
 今は、僕だけを見てくれている。愛さえ感じるよキョン。
 さあ、もっと怒ってくれ。僕を満足させてくれ」

314: 2008/07/01(火) 13:46:15.96 ID:CPTxmsHrO
醜く腫れ上がった長門の顔を見ても、俺はもう何も感じなくなっていた。
もう怒りさえ忘れていたのかも知れない。
ただひたすらに、長門の身体を…佐々木を、壊した。

噴き出す血、高笑い、怒号、衝撃音。
何度も、何度も、何度も、何度も。
…長門の顔はなくなった。
醜い、血と肉の固まり。
掴んでいた胸倉を話すと、折れてしまいそうな身体は崩れ落ちた。

「……満足か。これでお前は満足なのか」

「…く、く。…い…よ、キョン…やっと僕を…みて…」

ガン!

思い切り、頭を踏み蹴った。
一体どうすれば終わるんだ…
と思ったその時、佐々木の雰囲気が変わった。

「………く?な…に」

317: 2008/07/01(火) 13:55:38.79 ID:CPTxmsHrO
「…早く、今しかチャンスはない」
…なんなんだ一体。
「私…肉体の痛覚レベルが危険値に達したため、佐々木は一時的に気絶している。
 今この肉体を支配しているのは私」

長門!長門なんだな!

「そう。時間がない。今のうちにこの肉体を完全に破壊すれば、佐々木の意識は消滅する」

でも、それじゃお前が…

「構わない。もとより私の油断が招いた事態。これくらいでしか責任を取れない」

そんな…お前は悪くない。
天蓋領域に洗脳されていただけなんだろう!?
それに佐々木が氏ねば、もう能力を持つ者が居なくなる。
ハルヒ達を生き返らせられる可能性がなくなるんだぞ…!

318: 2008/07/01(火) 14:04:25.20 ID:CPTxmsHrO
「私という個体は、あなたに幸せになって欲しいと感じている。
 あなたの命が最優先。…心配しないで。
 今なら私の情報操作で貴方の記憶を消せる。
 だから…私を頃して、あなたは生きて」

そこまで言い切って、長門はガクリと首を落とす。
直後、んん…とくぐもった声を出し始める。
佐々木が目覚めようとしているのだろう。

323: 2008/07/01(火) 14:28:25.83 ID:CPTxmsHrO
長門、お前の気遣いは有り難くいただくよ。
きっと全てが終わったら、俺の記憶はリセットされて…明日からまた平和な日常が始まるんだろう。
佐々木やハルヒ、古泉や朝比奈さん、そして…この長門とも出会わなかった事になり。
俺が望んでいた、退屈で億劫な日々が待っているんだろう。
ありがとう長門。

…だけど、俺はもうそんな日々は望んでいないんだ。
お前の事を忘れて過ごすくらいなら、俺もここで終わろう。

佐々木を抱きかかえる。
首の後ろに右腕を、膝の裏に左腕を。
ああ、改めて思う。…軽い。
佐々木、お前にも悪い事をしたな。
俺がもっと早く気付いていれば、こんな事にもならなかった。


もう、終わりにしよう。
屋上から校庭を見下ろす。
残り火と、血痕と、俺の大切だった人達。
一度だけ、振り返る。ハルヒと佐々木が倒れている。
…涙も拭わずに、俺は校庭へ続く空へと踏み出した。

331: 2008/07/01(火) 15:13:34.76 ID:CPTxmsHrO
いつも通りの朝。
また今日も訳のわからん数式やら英文やらを拝みに行く目的だけで長い通学路を行くとなると、
朝から憂鬱になるのもしかたないというものだろう。
まぁ言うまでもなく、拝むまでもなく睡魔にTKOされるのが日課なのだが。
がしかし、それでも否応なしに通学を強制されるのが義務教育制度の忌まわしい習わしであり、
俺もそれに漏れる事なく日々通学に体力を擦り減らしているのだが…。

と、いくら勿体ぶった所で現状は改善される訳でもなく、
結局の所俺は今日もいつもの道でいつもの友人に出会う事になる。

333: 2008/07/01(火) 15:28:25.44 ID:CPTxmsHrO
「くつくつ。そこまで勿体ぶって中学校に登校するのもキミくらいのものだろうね」

おう佐々木、おはようさん。
朝から俺の考えを読むのは止めていただきたいんだがな。

「キミの為だよ、キョン。もうじき期末考査も始まるしね。
 僕と同じ高校を目指すならば、もう二、三歩の進歩は必須なのだから」

そうは言ってもだなぁ。
やっぱりいきなりお前と同じ進学校目指すのは些か無理なんじゃないか。
まぁ勢いとはいえ約束しちまった限りは頑張るが。

「そんな事はないさキョン。キミは頭は良い。
 それを生かそうとする姿勢に欠けているんだよ。
 今日も学校、塾、キミの家のフルコースだよ。覚悟したまえ」

335: 2008/07/01(火) 15:44:46.99 ID:CPTxmsHrO
まぁよろしく頼むさ。
それより、なんかお前に謝らなくちゃいけない事があった気がするんだが…。

「ほう、興味深いね」

何だっけな?
お前にすごく怒ってたような気もするし、
すごく申し訳なかったような気もする…
最後にお前が目覚めて泣いてたような…
ん?最後ってなんだ?
夢とごっちゃになってるのかも知れん。
すまん、妄言だ。忘れてくれ。

「くつくつ、気にする事はないさ。もう謝る必要もないからね。
 邪魔する者ももう居ない。
 僕は二度とキミを離さない」

?そ、そうか…

「くつくつくつ。キミは何にも心配しなくて良いからね。
 さぁ、行こうか」

そう言って、佐々木は自分の顔を両手で撫でて恍惚とした表情を見せた。
何かついてるんだろうか?
まぁ気にする事もないか。今日も平和だ。
こうして佐々木と一緒になんとなく幸せな時間を過ごせる事を神さんに感謝して、俺は佐々木の背中を追いかけた。

「くつくつくつ」

337: 2008/07/01(火) 15:46:08.27 ID:CPTxmsHrO
とりあえず終わり。保守&支援thx。

338: 2008/07/01(火) 15:46:48.49 ID:oEMMbyDV0


面白い終わりだった

340: 2008/07/01(火) 15:47:06.27 ID:/Kcri/Ts0
結局記憶消されちゃったのか





引用元: 長門「パーソナルネーム・キョンを敵性と判断」