281: 2018/01/11(木) 23:49:22.12 ID:TYMGDyEUo

【モバマス】武内P「変身っ!」
【モバマス】武内P「変身っ!」島村卯月「!?」

「ねえ、私に隠し事してるでしょ!?」


 喫茶店の奥、私はプロデューサーに詰め寄った。
 思いの外大声が出てしまい、慌てて回りのお客さん達に頭を下げる。


「……」


 目の前に座るプロデューサーは、右手を首筋にやって困り果てている。
 だけど、この困り方は説明に困っている訳ではない。
 どうやって誤魔化せば良いのかと思案する困り方だ。


「……しまむーも、しぶりんも何か知ってるみたいだし」


 私だけ、仲間はずれにされている。
 あの二人の事だし、このプロデューサーだ。
 話せない事情があるのはなんとなくわかるし、それが悪意の無いものだともわかる。
 ……でも、やっぱり寂しいじゃん。


「本田さん……申し訳、ありません」


 プロデューサーの答えは、私の望むものではなかった。
 思わず俯いてしまったが、顔を上げた時、どんな表情をすればいいのだろう。
 わかんない……全然、わかんないよ。



「きゃああああああっ!?」
「なんだこのバケモノは!? やめ、くっ、くるなあああ!!」



 外から聞こえる、大きな悲鳴。
 それにハッとなって顔を上げた時、プロデューサーはいつになく険しい表情をしていた。
THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS LITTLE STARS! Max Beat
282: 2018/01/12(金) 00:01:46.82 ID:kXQoLy7No

 悲鳴は、どんどんこの喫茶店に近づいてくる。
 何かが、ここへ向かってきている?
 私達以外の人もそれに気づいたのか、一目散に喫茶店から逃げ出していった。
 そして、中に居るのは私と、プロデューサーだけ。


「ねえ……何が、起こってるの……!?」


 プロデューサーに聞いても、わからないかもしれない。
 だけど、私には妙な確信があった。
 プロデューサーだったら、私の疑問に答えてくれるんじゃないか、って。
 自分でも変だと思うけどさ、そう、思ったんだよね。


「――本田さん。少し、隠れていてください」


 険しい表情から一転、穏やかな表情。


「プロデューサー……?」


 隠れてろって、プロデューサーはどうするの?
 ねえ、ちょっ、ちょっと待って、どこに行く気!?


「隠し事……というつもりは、ありませんでした」


 プロデューサーは、上着のボタンをプチリプチリと外し、上着を翻した。


「申し訳ありません。貴女に、寂しい思いをさせてしまっていたと、気付かず」


 その腰元では、大きな銀色のベルトが、輝きを放っていた。

283: 2018/01/12(金) 00:08:49.09 ID:kXQoLy7No
「……しかし、可能な限り、知られたくはありませんでした」


 プロデューサーは、右のポケットからスマートフォンを取り出した。
 そして、ホームボタンを素早く三回押し、画面を起動。
 流れるように、暗証番号を画面を見ずに打ち込んでいく。


 ――3――4――6!



『LIVE――』



 スマートフォンから、どこかで聞いたことのある女性の声が聞こえた。
 あの二人分の声、なんだか、どこかで聞いたことある気が……。
 プロデューサーは、スマートフォンを銀色のベルトにかざし、



「変身ッ!」



 言った。



『――START!』



 プロデューサーの体を光が包み込んでいく。
 光の粒子はやがて形を成していき、プロデューサーに鎧を纏わせた。


 鎧は黒を基調としたもので、所々白い箇所もあり、まるでスーツのよう。
 すっぽりと全身を覆うその鎧の胸元では、
ピンクと、ブルーと、イ工口ーの宝石のような物が輝きを放っている。
 プロデューサーが今、どんな顔をしているのかは、
目付きの悪いぴにゃこら太のようなフルフェイスに覆われ、見ることは出来ない。


「……」


 だけど、私には、フルフェイスの向こうでプロデューサーが悲しげに微笑んでいる気がした。

284: 2018/01/12(金) 00:25:07.59 ID:kXQoLy7No
  ・  ・  ・

「助けて……痛い……痛いよぉ……!」
「母さん……母さん……!」


 喫茶店の外は、惨憺たる光景が広がっていた。
 背中や腕から血を流す人たちが地面に倒れ伏し、苦痛に喘いでいる。
 倒れ伏す母親に泣き縋る、小さな子供も居る。


「――これは、アナタがやった事ですね」


 プロデューサーが、その光景を作り出した張本人と思わしき人影に言い放った。
 確信を持って言えるのは、その人影の頭部と手から、赤い血が滴っていたから。


「GRRRRRRRRR!!」


 その人影の頭部は肉食獣――ヒョウのような怪人で、獰猛な唸り声を上げている。
 それに対するプロデューサーに一切の動揺は無く、あるのはただ、


「……」


 黒い鎧越しにもビリビリと伝わってくる、怒りのみ。
 直接顔を見ている訳ではないのに、
初めて触れるプロデューサーの怒りに、私は、ほんの少し恐怖した。


「私は、誰かを憎いと思った事はありません」


 プロデューサーの声が、低く、低くなった。


「――ですが、アナタと共に歩む事は、不可能なようです」


 それは、問答無用の、敵対宣言。
 プロデューサーが、ヒョウの怪人に向けて、駆け出した。

285: 2018/01/12(金) 00:38:26.00 ID:kXQoLy7No

「ふっ――!」


 鎧を纏っているとは思えない程の、高速の踏み込み。
 けれど、ヒョウの怪人はそれに反応し、大きく後ろに跳躍した。


「GURRRRRRRR……!」


 ヒョウの怪人は警戒してか、プロデューサーの周囲を回るように足を動かしている。
 それはまるで、本物の猛獣が獲物に飛びかかる前の動作。
 いまのやりとりを見た限りでは、ヒョウの怪人の方が動きが速い。


 ――プロデューサー、逃げて!


 そう、心の中で思う。
 だけど、肝心の言葉が口から出てこない。
 私は怖い。
 ヒョウの怪人だけじゃなく、それに立ち向かっている、プロデューサーも。


「GURRRRRRR……!」


 ヒョウの怪人の唸り声が、どんどん大きくなる。
 その声でもって、相手を威嚇し、萎縮させようとしているのだろう。
 現に、その声を向けられたわけではないのに、私の足は震えが止まらない。
 だけど、プロデューサーは違った。


「歌は、得意のようですが――」


 ポツリと、ヒョウ怪人に向けて、


「――ダンスの方は、苦手なのでしょうか?」


 かかって来ないのかと、そう言わんばかりの挑発をした。


「GRUUUUUUUOOOOOOOO!!」


 それを聞いたヒョウ怪人は、大きく咆哮した。

286: 2018/01/12(金) 00:53:25.19 ID:kXQoLy7No

「GRRRRRROOOO!!」


 ヒョウの怪人が、高速でプロデューサーの周囲を円を描くように高速で移動する。
 そして、プロデューサーの視線が外れた一瞬を狙い、


「GRRRRRRR!!」


 飛び出し、その両手の大きな爪でプロデューサーに斬りかかる。


「ぐおっ!?」


 爪で切りつけられた場所からは火花が飛び散り、苦痛の声があがる。
 幾度となく繰り返されるその攻撃に、段々とプロデューサーの鎧にヒビが入っていく。


 このままじゃ、プロデューサーが殺されちゃう!
 なんで逃げないの!?
 そんなの投げ出して、早くそこから逃げてよ、プロデューサー!


「GUUUURRRRRROOOOOOO!!」


 ヒョウの怪人が、トドメと言わんばかりに、
大きく腕を振り上げプロデューサーに斬りかかった。
 あんなのを受けたら、ひとたまりもない。


「プロデューサー!!」


 私は、思わず声を上げた。



「――本田さん」



 ……しかし、ヒョウ怪人のツメはプロデューサーの体を捉える事は無く、
ガシリと、イ工口ーに輝くプロデューサーの左腕によって拘束されていた。


「笑顔です」


 いつもの、プロデューサーの台詞。
 それを聞いて、私は頬を伝う涙に初めて気づいた。

287: 2018/01/12(金) 01:04:13.11 ID:kXQoLy7No

「――おおおっ!」


 プロデューサーが、ヒョウ怪人を左腕で捕らえたまま叫び声を上げた。
 いかに素早く動けるとは言え、こうなってしまっては、為す術がない。


「――企画!」
「GYAAAAAA!?」


『Cute!!』


 ピンクの光を纏ったプロデューサーの右拳が、ヒョウ怪人の腹部に突き刺さった。
 くの字に折れ曲がるヒョウ怪人の体が、


「――検討中です!」
「GYAAAAAAAAA――!?」


『CooL!!』


 ブルーの光を纏った右足によって、天高く蹴り上げられた。


「AAAAAAAAOOOOOOOO!!?」


 暴れるものの、ヒョウ怪人の手足は空を切るだけ。
 その上昇が頂点に達しようとした時、


「……」


『Passioooooooon!!』


 イ工口ーの光を纏った、プロデューサーの左手。
 その手は親指と人差し指を立て、銃を模したような形をしていた。


「せめて!」


 プロデューサーの左手から、流星の様にイ工口ーの光が放たれた。
 それに撃ち抜かれたヒョウ怪人の体は光の粒子となり、地上に降り注いだ。


「……名刺だけでも」


『LIVE SUCCESS!!』

288: 2018/01/12(金) 01:20:19.82 ID:kXQoLy7No
  ・  ・  ・

「ちょっと未央」
「未央ちゃん、説明してください」


 しぶりんとしまむーが、二人して詰め寄ってくる。
 いやー、この前は逆の立場だったのに、不思議なもんだねー!


「説明って、何の?」
「とぼけないで」
「プロデューサーさんに、お弁当作ってきたんですよね!?」
「うんうん。我ながら、だし巻き卵が絶品だったと思うんだよね!」


 あの後、プロデューサーからこれまでの事を全部聞いた。
 そしたらさ、何ていうか、頑張ってるプロデューサーに何かしてあげたいな、って。
 最初は断られたんだけど、そこは未央ちゃんって事ですよ!


「「……!」」


 私の答えを聞いて、二人は言葉を失ったようだ。
 はっはっは、キミ達! 行動に移したもん勝ちだよー?


「明日は、私が作ってくるから」
「凛ちゃん、ずるいです! じゃ、じゃあ私は明後日!」
「それじゃあ、私はまた卯月の次の日ね」
「ちょいちょーい!? そこは私じゃないの!?」


 私は、今でもプロデューサーがちょっと怖い。
 あんな怪物に立ち向かうのなんて、誰にでも出来る事じゃない。
 理由を聞いてみたんだけど、プロデューサーだから、とした答えてくれなかったんだよね。


「もー! 二人共、順番決めるよ!」


 だから、これからプロデューサーの事をもっと知っていこうと思う。
 それが、私の出した結論だ。
 そして、もし怖くなくなった時、その時は……あれ?
 そしたら、そうなったら……


「未央ちゃん、なんだか顔が赤いですよ?」


 何でもない! と、思わず大きな声が出た。



おわり

289: 2018/01/12(金) 01:23:38.67 ID:kXQoLy7No
趣味全開、最高ですね!
おやすみなさい

引用元: 武内P「起きたらひどい事になっていました」