185: 2018/03/21(水) 21:28:06.99 ID:g8DxQDoio

「ククク……今宵もグリモワールに魔力を注ぐとしよう……!」


 お風呂にも入ったし、後はもう寝るだけ。
 いつものように、ベッドに寝転がりながらスケッチブックを開く。
 ちょっと描きにくいけど、我慢。
 この前、机で描いてそのまま寝ちゃったから……。


「次なる衣には、如何なる魔力を込めるか……」


 イメージは、どんどん湧いてくる。
 それをこうやって描いておく事で、プロデューサーに伝えやすくする。
 前までは、好きで描いてただけなんだけど……。
 まさか、こうやって、この中を誰かに見せる日が来るとは思わなかった。


「ふむ……今宵記すのは、我が友の纏う戦衣装が放つ魔力!」


 決めた!
 今日は、プロデューサーみたいな、大きくて、頼もしい感じのにしよう!
 一見怖いけれど、本当は、とっても温かい……。
 そんな、プロデューサーをイメージした衣装!


「――魔を統べる王!」


 プロデューサーをイメージするなら、写真を見ながらが良いよね。
 スマフォは……あった。
 えっと、プロデューサーの写ってる写真は、これと、これと……あっ、これも良い!
 どれにしようかな……うぅ、迷っちゃう。


「……あ、これ」


 初めて、二人で……二人だけで一緒に撮った写真だ。
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(10) (電撃コミックスEX)
186: 2018/03/21(水) 21:43:16.41 ID:g8DxQDoio

「……」


 普通とは違う……変わった言葉を話す私に、
必氏になって、とっても真剣に向き合ってくれたプロデューサー。
 おかしな子だ、って、そう言って離れていっちゃうのが当たり前だったのに。
 プロデューサーとして……大人として、真剣に向き合ってくれた。


「魂の繋がりは……我が望む限り、断ち切られる事は決して無い」


 私が、大切な担当アイドルだから、って……そう、言ってくれた。
 えへへ……今思い出しても、嬉しいな。
 それにしても、あ~! せっかく一緒に撮った写真なのに!
 ニッコリ笑ったつもりなのに、本当に笑顔が下手んこつある!


「ククク……! これも、魂の共鳴によるものか!」


 でも、プロデューサーも笑顔が下手だからお互い様だよね!
 こうやって、画像を大きくしてみたって――


「――コキュートスに、微かな灯火が……!?」


 ま、待って待って待って!?
 えっ、えっ、これ……プロデューサー、ちょっと笑ってる!?
 も、もっと拡大して……もう! なんで画像が汚くなってしまうと!?
 これじゃあ、プロデューサーの笑顔が見れ~ん!


「グリモワールよ! 今こそ、その力を示す時!」


 こうなったら、描くしか無いよね!
 次の衣装のイメージを決めるのは、明日でも出来るし!
 今日は、プロデューサーの……笑顔を描いてみよう、っと!

187: 2018/03/21(水) 22:09:23.05 ID:g8DxQDoio
  ・  ・  ・

「煩わしい太陽ね」


 プロジェクトルームに行くと、プロデューサーが居た。
 なので、言の葉で以て、プロデューサーに――我が友に声をかける。
 我が魔力をその魂で感じ取ったのか、我が友はその邪眼を私に向けた。
 不変の相貌は、魂の揺らぎによって微かな波が立っていた。


「神崎さん。おはよう、ございます」


 永きに渡る交差の果てに、我が友の魂には変質が起きている。
 其れは、私を含む乙女達との饗宴によってもたらされた、絆によるもの。
 私も、我が友も未だ笑みを得意とはしていない。
 だが! 我らの魂は、夜の闇の如く、漆黒が深まっている!


「我が友よ。約束を果たそうぞ」


 自らの魂の一部であるグリモワールを預けるのは我が友のみ。
 儀式により、我が友はグリモワールから魔力を引き出し、我を次なる覚醒へと導く。
 だが、魔力を引き出すのは容易くは無い……。
 しかし、我が友ならば、必ずや緑の悪魔を打倒し、黒き翼を広げるだろう!


「ありがとうございます。少し、お借りしても宜しいですか?」
「構わないわ。我が友よ、魂の安息を忘れなきよう……」
「はい。神崎さんのおっしゃる通り、無理は、決してしないようにします」


 我が友は、その強大な魔力満ちる空間へと消えていった。
 そこで、グリモワールから魔力を引き出し、戦に備えるのであろう。


「……」


 あれ?
 何か……忘れてるような。


「――ぴっ!?」


 あああああああっ!?

188: 2018/03/21(水) 22:23:47.12 ID:g8DxQDoio

「待って……ちょっと待って!」


 見ちゃ駄目です、プロデューサー!
 そのスケッチブックには!


「あ、開かない! 開かない!」


 ドアノブを回しても、全然ドアが開かない!
 ガチャガチャと音を立てるばかりで――そうよ、押さなきゃ開かんわー!
 ――開いた!


「プロデューサー!」


 部屋に入って、すぐにプロデューサーに声をかける。
 まだ中は見てないよね……見てない――


「か、神崎さん……?」


 ――あああああ見てるううううう!


「ちょっ、ちょっと、ちょっ、ちょっ!」


 急いでプロデューサーに駆け寄り、その手に持っていたスケッチブックを奪い取る。
 その時に視界に入ったのは……プロデューサーを描いたページ。
 見られた……・見られた!?
 私が描いた、プロデューサーの絵を!?


「あの……神崎さん」


 プロデューサーが、こちらを見ている。
 あの、見なかった事に――



「さきほどの……怪物の絵は、私ですか……?」



 ――ならない、ですよね……。

189: 2018/03/21(水) 22:39:35.67 ID:g8DxQDoio

「こ、これは……!」


 誤魔化しようがない。
 だって、我が友、って書いちゃったし……!
 その隣に、私の絵も描いちゃったし……!


「……」


 プロデューサーは、右手を首筋にやって困っている。
 そうですよね……自分が、あんな風に描かれたらそうなっちゃいますよね。


「これは……その……」


 プロデューサーが見たのは、ゴーレムの様に描かれた絵。
 私は格好いいと思うんだけど……やっぱり、怪物に見えちゃいますよね、普通は。
 正直、ちょっと強そうに描きすぎたとは思ったんだけど……。
 うぅ……どうしよう、落ち込んじゃってるみたい。


「……」


 そう、だよね……担当するアイドルが、自分を怪物の様に‘だけ’描いてたら……。
 だけど、こっちの絵を見せるのは……は、はは、恥ずかしいよう~|!
 考えただけで、顔から火が出そうになっちゃうよ~!
 でも……だ、だけどっ!



「こ、これは……――我が友の、仮初めの姿!」



 誤解されたままじゃ、イヤだから!
 

 このまま、嫌われてると思われるのなんて……絶対、絶対駄目だもん!


「魂の共鳴は……我だけでなく、我が友をも覚醒させる!」


 私は、スケッチブックを開いて、プロデューサーに向けた。
 プロデューサーが見ていた、次のページを見せるために。

190: 2018/03/21(水) 23:06:12.34 ID:g8DxQDoio

「……あの、神崎さん……その絵も――」


 あああ駄目! やっぱり恥ずかしい! 無理!


「封印!」


 バシィッ、と音が立つ勢いで、スケッチブックを閉じる。
 見せると決めたけど、まじまじと見続けられるのは、無理、氏んじゃう。


「くっ……! 灼熱の業火がこの身を灼いている……!」


 今すぐにこの場を離れないと、恥ずかしさでどうにかなっちゃいそう!
 早く……早く、ここから逃げないと!
 ゆっくり、ゆっくり……気づかれないように、ドアまで近づいて……!


「――闇に飲まれよ!」


 と、ドアを開けて逃げた。
 追いかけては……うん、来てない!


「……はぁ、良かった」


 多分、誤解はとけたと思うんだけど……うぅ、どうしよう。
 だって、こんな……こんな――


 ――二人で手を繋いで、飛んでる絵を見られて!


「あうう……!」


 ……数分後、私はもっと苦悩することになる。
 だって、結局はプロデューサーにスケッチブックを見せなきゃならないんだもん。
 そうしないと、次の衣装の打ち合わせが出来ないから。


「あるまじき、ふれあい……!」


 傷ついた悪姫に差し伸べられる、漆黒の魔王の手。
 手を取り合った二人は、魂の共鳴により覚醒し、光を纏い生まれ変わる。
 光は翼となり、その身を包む鎧と化し、祝福の歌声響く。
 嗚呼、其れこそが我が秘めたる望みとは、知られたくは無かった……!



おわり

引用元: 武内P「クローネの皆さんに挨拶を」