195: 2018/03/21(水) 23:57:27.06 ID:g8DxQDoio

「……」


 バラエティ番組というのは、過酷だ。
 程度の差はあるが、出演すると、彼女達が普段していない動きを要求される。
 当然、それに対するレッスンなどはしていないし、
また、年若い彼女達にそこまで求めるというのは、酷だろう。
 それに、テレビを見る視聴者の方も、
テレビに慣れていない、彼女達の新鮮さも求めている。


「……」


 私の目線の先には、そんなアイドルの少女が一人。
 ベッドの上で、仰向けで大の字になって寝転がっている。
 布団は蹴り飛ばしたのか、ベッドのすぐ脇に落ちていた。


「……」


 私は、彼女が所属するグループのロケに同行していた。
 グループの他の一人は、私が担当しているアイドルだ。
 眼の前の彼女と、もう一人の方は担当している訳ではないが、
仲の良い彼女達三人組は、しばしばプロジェクトルームに集まっていた。
 その流れで私とも話すようになり、彼女達から、是非同行して欲しいと頼まれたのだ。


「……」


 ……ああ、何故、私はそれを承諾してしまったのだろう。
 こんな事になるならば、断っておけば良かったと、そう、思います。


「……」


 バラエティ番組というのは、過酷だ。
 番組内で、罰ゲームが発生する場合もある。
 彼女は、番組内でのゲームに敗れ、その罰ゲームを受けた。
 その罰ゲームとは――


「……おしりヒリヒリする」


 ――激辛スープを飲み干す事。


「……そう、ですか」


 激辛スープが、生きて腸に届いた……届いてしまった。
 その結果が、そう、寝グソです。
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(10) (電撃コミックスEX)
196: 2018/03/22(木) 00:12:38.67 ID:gc7gwcFro

「……」


 辛い物を食べた翌日のトイレは、辛い……からい、つらい。
 唐辛子の成分が、去り際に出口を痛めつけて行く。
 彼女は、今、まさにそれに苦しんでいるのだろう。


「ヒリヒリする」


 ――無。


 感情表現が豊かで、コロコロと表情の変わる彼女は、とても魅力的なアイドルだ。


「おしり、ヒリヒリする」


 ――だが、無。


 感情、表情……そして、未来すら、何一つ感じられない。
 全てを飲み込む闇とはまた違う、只々、虚ろなだけのモノ。
 カプサイシンがもたらした結果を報告するだけの、ただそれだけのモノ。
 アイドルとは、いや、今の彼女を人と呼んでもいいのかすら怪しい。


「ヒリヒリする」


 動かない、動こうとしない。
 彼女は、これからどうしたいのか。
 それがわからなくて、はい、イライラします。


「聞いて」


 頭を抱えようと思った次の瞬間、彼女は今まで口にしていなかった言葉を紡ぎ出した。


「ここだけの話」


 当然、ここだけの話にするつもりです。
 アイドルの方が寝グソをしたなど……到底、他の人間に知られてはなりませんから。
 貴女は、何を私に伝えようというのですか?


「夢のような続きを~♪」


 歌っている場合ではないです!
 そう、叫びたかったが、しなかった。
 この異臭のする空間で、大口を開けたくはなかったからだ。

198: 2018/03/22(木) 00:30:28.19 ID:gc7gwcFro

「っ……」


 幸い、このホテルは346グループの系列のホテルだ。
 彼女が寝グソをしてしまったという情報が漏れる可能性は、低い。
 いや、漏れてはしまっているが。
 なので、今解決すべき問題は、今の彼女の状態だ。


「ヒリヒリする」


 感情の無い瞳で見上げる天井には、何が見えているのか。
 私が彼女に見て欲しいのは、現実。
 ただ、その一点だけ。
 ……嗚呼、それだけなのに、何故彼女は――


「おしり、ヒリヒリする」


 その目をこちらに向けてきたのか。
 泣くでも、喚くでもなく、淡々と吐き出されていく、おしりがヒリヒリするという事実。
 ……これは、もう、私一人の手には負えないのではないか?
 ホテルの入り口の待合所で待っている、二人を呼んだ方が良いのではないか?


「……」


 いいや、それは駄目だ。
 こんな事が知られてしまっては、彼女のお腹だけでなく、心が壊れてしまう。


「ヒリヒリする」


 既に、彼女の心は半ば壊れてしまっている。
 それに飲み込まれる事無く、速やかに事態の解決を図らなければならない。
 そのためには、上着は邪魔だ。
 シャツも、ネクタイも必要ない。


「……」


 脱いだそれらをクローゼットのハンガーにかける。
 準備は……整った。

199: 2018/03/22(木) 00:43:20.54 ID:gc7gwcFro

「ヒリヒリする」


 浴室の扉を開け、中からバスタオルを持ち出す。
 未使用のそれは、真っ白で、汚れ一つ無い。
 彼には、犠牲になってもらいます。
 床にしかれたカーペットが汚れるよりは、遥かにマシですから。


「下を……脱いで頂けますか」


 汚れたパジャマを着たまま浴室に移動は出来ない。
 そんな事をしては、パジャマから悲しみが滴り落ちてしまう。
 それを避けるために、服を脱いで欲しいと言った。
 アイドルである彼女に対し言う言葉ではないが、そうも言っていられる状況ではない。



「えOち」



 ……えっ?


「あの……今、何と?」


 何かの聞き間違いだろう。
 そんな事を言っていられる状況では――



「えOち」



 ――何ということだ。
 彼女には、まだ現実が見えていないのか。
 まだ逃げ続けようというのか、この状況から。


「……わかりました。それでは、失礼します」


 でしたら、私もここで失礼させていただきます。

200: 2018/03/22(木) 01:00:44.60 ID:gc7gwcFro

「……ヒリヒリする」


 クローゼットへと向かう。
 扉を開け、中から上着とシャツを取り出した。


「ヒリヒリする。おしり、ヒリヒリする」


 シャツを着て、ネクタイを締める。
 その間にも、絶え間なく投げつけられる、声。
 私は、それを一切意に介す事なく、上着を羽織った。


「ヒリヒリ、ヒリヒリ!」


 部屋の出口に居る私に届かせるため、彼女の声が大きくなった。
 だが、彼女のヒリヒリするという報告は耳に入っても、心には届かない。
 また「えOち」と言われたら、正直、怒りを抑える自信がありません。
 ドアノブに、手をかけた。



「……――助けて」



 小さい、小さいつぶやき。
 だが、そのつぶやきは、確かに私に届いた。
 私は、プロデューサーだ。
 担当でないとは言え、助けを求めるアイドルの声を無視出来ない。


「はい、わかりました」


 踵を返し、再びクローゼットへ向かい、上着とシャツをかけた。
 そして、彼女へ歩み寄り、


「少し、強引な手段を取らせていただきます」


 と、声をかけた。

201: 2018/03/22(木) 01:20:42.05 ID:gc7gwcFro

「……」


 彼女は、その言葉を聞き、無言で頷いた。
 そして、両の手で顔を隠した。
 あくまでも自分では脱がないと、そう、受け取りました。


「……」


 私は、そんな彼女に――脇に落ちていた、掛け布団をかけた。


「えっ?」


 その突然の柔らかな感触に、戸惑いの声があがった。
 しかし、そんな声に反応するのは、もうやめにします。


「……」


 そのまま掛け布団で、彼女の体をグルグルと簀巻きにしていく。


「はっ? えっ? う――わっ!?」
「……」


 掛け布団で簀巻きになった彼女を抱え、浴室へと向かう。
 お姫様抱っこ……と、言うよりも、大物だぜ、という感じですね。
 浴室の前に辿り着き、簀巻きを縦に降ろし、彼女を浴室内に立たせる。
 これで、第一段階は終了だ。


「先に、シャワーを浴びて下さい」


 そう言って、浴室のドアを閉めた。
 はじめから、こうしておけば良かった。
 やはり、最終的に頼れるのは、己の力だという事が証明された。


「……あはは、なんか今の言い方、やらしい感じがするな」


 状況が先に進み未来が見えた事で、彼女は少しだが、普段の調子を取り戻したようだ。
 これなら、もう問題は無いだろう。
 ひりつくような痛みに耐える必要は、もう無い。
 ポケットから携帯電話を取り出し、電話をかける――出た。


「もしもし」


 後は、二人に任せよう。
 そして、事が済んだら、ハッキリと言おう。
 辛い仕事は、もうゴメンだ、と。



おわり

202: 2018/03/22(木) 01:23:16.65 ID:gc7gwcFro
気付いたらウンコたまってました
寝ます
おやすみなさい

203: 2018/03/22(木) 01:43:40.81 ID:qo5nEU2ro

宿便はよくないな早くひり出さなければ

引用元: 武内P「クローネの皆さんに挨拶を」