768: 2018/04/10(火) 21:17:01.14 ID:qPN5OJ/Do

「魚嫌いを克服したい、と」


 事務所のデスクの前で、Pチャンが難しそうな顔をしてるにゃ。
 あのね、みくだって、好きでお魚が嫌いなんじゃないよ。
 好きで嫌い? 好き嫌い! 好き嫌いは、悪いと思ってるの!
 だけど、無理なものは無理にゃ!


「っていうか、もう限界にゃ!」


 なのに、みくに入ってくるお仕事って、お魚関連の仕事がすっごく多いの!
 どういうことにゃ!?
 ……いや、まあ、理由はわかってるんだけどね。
 みくが、ネコキャラを通してるからなんだけど。


「お魚を嫌いなままだと、氏んじゃうもん!」


 みくがアイドルじゃなかったら、お魚が嫌いなままでも良いと思うにゃ。
 だけど、みくはアイドルなんだから、そうも言ってられないでしょ?
 仕方なく……そう、本当に仕方なく、魚嫌いを克服しようと思うの。
 そうじゃなきゃ、今のアイドル生活が辛すぎるにゃ!


「Pチャンは、みくが氏んじゃっても良いの!?」


 ネコチャンは、いつも気まぐれでにゃあにゃあ鳴いてるものにゃ。
 それなのに、うえーお魚まずいー、って頑張ってるなんて、絶対駄目!
 ネコチャンになりきるには、まずはお魚嫌いを克服!
 ふっふーん! これが、プロ意識ってもんにゃ!


「それは……本当に、困りますね」


 まあ……あとは、ちょっぴりだけど、お魚を食べ続けるのが辛いってのもあるにゃ。
 あの生臭さがもう……もう!
 鼻を近づけるだけでも嫌なのに、それを口の中に入れるんだよ!?
 みくにとっては、口の中に爆弾を放り込まれるようなもの、イコール氏!


「だからPチャン、協力して!」


 今まではなんとか耐えてきたけど、来週のスケジュールを見て絶望したにゃ。
 来週は、お料理番組の収録が、二つもあって、どっちもお魚関係なの!
 みくがネコチャンですっごくキュートだからって、これはなくない!?
 いや……頑張るって……頑張るって言ったのは、みくだけどね……!?


「してくれないなら、ストライキにゃー!」


 なんて、本当はストライキするつもりなんてないけど。
 こう言ったら、優しいPチャンは絶対協力してくれるにゃ!
 にゅっふふふ!
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(10) (電撃コミックスEX)
769: 2018/04/10(火) 21:35:36.50 ID:qPN5OJ/Do
  ・  ・  ・

「Pチャン、今までありがとにゃ」


 ここ数日、Pチャンは仕事が終わったら、ずっとみくに付き合ってくれたにゃ。
 晩ごはんに、美味しいって評判のお店に連れてってくれたんだよ。
 お魚嫌いを克服するには、新鮮なものが一番って聞いたにゃ。
 だから、一人じゃ入りにくいようなお店に、一緒に行ってくれたの。


「ま、前川さん! 諦めないでください!」


 でもね、結果は散々だったにゃ。
 みくは悟ったよ。


 新鮮でも、魚は魚。


 ……ってことに。
 新鮮でも生臭いものは生臭いし、むしろ噛んだ時の食感がやばかったにゃ。
 それでね、みくは考えたにゃ。


 あれ? 嫌いなお魚をなんでこんなに食べてるんだろう?


 あれ? 好きな物よりも嫌いな物を食べ続ける人生って?


 あれ? 人生って、生きてるってなんだろう?


「ありがとね、Pチャン。でも、もう時間が無いの」


 お料理番組の収録は、明日に迫ってる。
 後一日でお魚嫌いを克服するなんて、どうやったって無理にゃ。
 っていうか、明日いっぱい食べなきゃいけないんだから、今日は許してください。
 明日、お魚にまみれて氏ぬのはわかってるけど、せめて、一日だけでも長生きしたいの。


「次に生まれ変わったら、草食動物になりたいにゃ」


 それだったら、草だけ食べてれば平気だもんね。
 みくだって、本当はネコチャンに生まれ変わりたい。
 でも、ネコチャンに生まれて、まだお魚嫌いが治ってなかったら?
 ……うえっぷ、想像しただけでやっべーにゃ、これ!


「ウサギさんはナナちゃんが居るから、何が良いかな……」


 事務所の窓から外を見ると、綺麗なお星様がピカピカ光ってたにゃ。
 星に願いを。
 願わくば、この世から全てのお魚が消えてなくなりますように。


「……」


 Pチャンが、右手を首筋にやって困ってる。
 でもねPチャン、みくは頭を抱えて困ったりしないよ。
 つけたネコミミが、ずれちゃうかもしれないからね。

771: 2018/04/10(火) 22:03:39.98 ID:qPN5OJ/Do
  ・  ・  ・

「……」


 前を歩くPチャンの背中を追いかけながら、夜の街を歩く。
 繁華街から離れていってるけど、どこに向かってるの?
 な、なんか……ピンク色の看板が目立ってるような気がするにゃ!
 あ、ただのスイーツショップとか、ファンシーな雑貨店の看板だった。


「ね、ねえPチャン? どこに向かってるの?」


 だけど、目的地を教えてくれないのは、どうなの!
 ちょっとだけ付き合って欲しいって言ってたけど……。
 もしかして、正攻法じゃ駄目だから、催眠術とか?
 それとも、他に何か、方法が……?


「私が、稀に利用する所です」


 Pチャンが、稀に利用する所?
 いやいや、そんなの言われたって、みくにはわからないにゃ。
 それに、そこにみくを連れて行くって、どういうこと?
 お魚嫌いを克服出来そうな所に、Pチャンがたまに行ってるってこと?


「私は、前川さんの笑顔を失いたくないと、そう、思っています」


 Pチャンが振り向いて、言った。
 その顔があまりにも真剣で、ちょ、ちょっとドキッとしたにゃ。
 だ、だってしょうがないでしょー!?
 みくだって、アイドルだけど、普通の女の子なんだもん!


「う……うん」


 急に、こんなに真剣な顔で、こんな言葉を言われたら、ドキッと位するよ!
 そりゃ、Pチャンに、そういう意図が無いなんてわかってるよ?
 だけど、それでもこんな状況、誰だってドキッとするにゃ!
 ネコにマタタビ、女の子に歳上の男の人、って感じで!


「今、向かっている場所は……そのために、役に立つかと」


 そう、思いました……って、言ったPチャンは、また、歩き出した。
 距離が離れないように、華麗にネコチャンステップで、すぐ後ろに追いつく。
 とっても大きな背中で、みくなんか、すっぽり収まっちゃいそう。
 ネコチャンみたいに、簡単に抱っこされちゃいそう……って、アイドルだからそれは駄目!


「もうすぐ、着きます」


 そう言われて、慌ててPチャンから目線を外し、前を見た。
 目に飛び込んできたのは、紫色の看板。


「んなぁっ……!?」


 どっ、どどど、どういうことにゃPチャン!?
 あの紫色の看板って、ちょっ、ちょっとPチャン、何をする気にゃ!?
 みくを失いたくないって……てっ、手に入れるってこと!?
 にゃ、にゃああ……!?


 みくは……みくは、一体どうなっちゃうのおおおおお!?

772: 2018/04/10(火) 22:31:13.38 ID:qPN5OJ/Do
  ・  ・  ・

「……」


 どうもならなかったにゃ。


「今日、この時間に、やっていて良かったです」


 小さな丸い椅子に、窮屈そうに腰掛けながら、Pチャンが言った。
 本当はお酒を飲みたいんだろうけど、みくと一緒だからお茶を飲んでる。
 お茶を飲みながら、目の前のお皿に載せられたオデンをパクついてるにゃ。
 トロットロに煮込まれた牛串に、カラシをつけて口に運ぶPチャンは、とっても幸せそう。


「っ……」


 カラシをつけすぎたのか、Pチャンの動きがちょっと止まった。
 しっかりそうに見えて、あわてん坊さんだね!
 その点みくは、辛くないようにちょびっとだけカラシをつけるの!
 ……んー! コンニャクも、染みてて絶品にゃ!


「ほふっ、ほふっ!」


 あっつあつのコンニャクだから、口の中に入れてもすっごく熱い!
 十分にフーフーしたと思ったんだけど、あっちちち!
 でもでも、こうやって猫舌なのって、ネコチャンアイドルとしてプラスにゃ!
 ……大好物のハンバーグの時は、残念だけど。


「……ふぅ」


 お茶を一口飲んで、やっと落ち着いた。
 うん、関東風のお出汁のオデンも、中々やるにゃ!


 Pチャンに連れられて来たのは、とっても小さな屋台。
 赤い提灯がついてる、漫画やアニメでしか見たことのないようなお店。
 みくとPチャンは、その屋台の椅子につき、オデンをつついてる。
 なんでも、この屋台が来てるかは誰にもわからないらしく、
運良くやってる時にだけ、Pチャンはここでゴハンを食べてるらしい。


「……」


 全く! それならそうと、早く言ってくれれば良いのに!
 思わせぶりな言葉を言って、勘違いするでしょー!?


 あ、紫色の看板は、ネイルサロンでしたにゃ。


 ……で、でもでも、みくは悪くないもん!
 それもこれも、Pチャンが全部悪いにゃ!
 仕返しの、目からネコチャンビーム!


「やはり、ここのオデンは絶品ですね」


 くううううっ!? 微塵も効いてないにゃ!

773: 2018/04/10(火) 22:53:37.39 ID:qPN5OJ/Do

「……オデンが美味しいのはわかったけど」


 お魚嫌いを克服するためなのに、どうしてここに来たの?
 これじゃあ、ただのデー……にゃああ、無し! 今の無しにゃ!
 最近お魚ばっかり食べてたから、調子が狂いっぱなし!
 みくは、これでも真面目なアイドルなんだからねっ!


「はい。もう少しだけ、待ってください」


 もう少しって……あっ、なんだか、香ばしい匂いがする。
 七輪で、何かを炙ってるのかな。
 クンクン……この匂い、お魚?
 だけど、それにしては、妙に甘い匂いで……。


「――来ましたね」


 みくの目の前に、何かの切れっ端が置かれたにゃ。
 黒く焦げてる所もあるけど、これをさっきまで炙ってたの?
 乳白色で、何だろうこれ……えっ、何?
 多分お魚なんだろうけど、みく、こんなの見たこと無いにゃ。


「Pチャン……これ、何?」


 多分、これが、Pチャンがお魚克服のために用意してくれた最終兵器だよね。
 だけど、ちょっと得体が知れ無さ過ぎて、い、いきなりは口に入れられないよ。
 なんか、まだジュウジュウ言ってるし……。
 ちょっと冷めるまで、説明を求む! にゃ!


「エイヒレです」


 エイヒレ? 何それ? お肉の、ヒレ肉の親戚?
 牛さんや豚ちゃんに、こんな真っ白いお肉があったの?


「私の魚嫌いの友人の好物が、何故かエイヒレでして」
「ええっ!? Pチャン、友達いたの!? 嘘でしょ!?」
「……前川さんの、克服のきっかけになるかもしれない、と」


 いやいやいや、その話はちょっと置いておいて!
 Pチャンに友達が居たっていう方が、みくには衝撃だよ!
 てっきり、Pチャンは仕事人間で全然友達居ないと思ってたにゃ!
 でも……そっか、Pチャンにも、友達居たんだね!


「Pチャン……みく、嬉しいよ!」
「…………良い、笑顔です」


 あれ? なんか、Pチャン複雑そうな顔してない?

774: 2018/04/10(火) 23:12:05.31 ID:qPN5OJ/Do

「どうぞ、冷めない内に」
「どうぞ……って言われても」


 これ、どうやって食べれば良いにゃ?
 お箸で……あ、これは固くてお箸じゃどうにも出来ない。
 お皿の横に、七味唐辛子? がかかった、マヨネーズがあるけど……。
 これに付けて食べる、んだよね?


「こう、手で直接割いて、小さくすると食べやすいです」


 あっ、直接手で触っても良いやつなんだ。
 それならそうと早く言って――


「――あつっ!?」


 熱い!


「っ、だ、大丈夫ですか、前川さん」
「う、うん……あー、ビックリした」


 考えてみれば、さっきまで火炙りにされてたんだから、熱いに決まってたにゃ。
 だけど、せっかくPチャンが、みくのために考えてくれたお肉だし……。
 冷めない内にってことは、熱い内が美味しいんでしょ?
 でも、みくにはそれは難しいと思うの。
 だから、


「Pチャ~ン♪」


 甘えん坊なネコチャンだよ!
 ほ~ら、やってあげたくなっちゃうでしょー!


「……はぁ、私で良ければ」


 にゃっは♪ おねだり成功にゃ!
 だけど、Pチャン凄いにゃ!
 みく、熱くて触るのも大変だったのに、平気な顔でちっちゃく割いてくんだもん!
 あっ、食べやすそうな大きさになったね!


「あ~ん♪」


 さあ、Pチャン! エイヒレ肉、実食にゃ!
 お肉だからあんまり意味無いと思うんだけど……Pチャンが言うんだから、
何かきっと、お肉以上のものが待ってるに違いない!
 勝負にゃ!……って、


「……まだー?」


 口を開けっ放しにしてるのって、疲れるんだけど!
 冷めちゃうでしょ、早くしてにゃ!


「あ~んっ!」

775: 2018/04/10(火) 23:33:14.37 ID:qPN5OJ/Do
  ・  ・  ・

「……みくちゃん、大丈夫?」


 収録が終わって、控室。
 李衣菜ちゃんが、心配そうに声をかけてくれてるにゃ。
 でも、ごめん、李衣菜ちゃん。


「みくはもう駄目にゃ……みくの分まで、ネコミミに生きてね」


 結局、みくのお魚嫌いは直らなかったにゃ。
 そもそも、お肉を食べて、お魚が好きになるはずないもん!
 エイヒレ肉は美味しかったけど、マジでそれだけだったにゃ!
 っかー! Pチャンに、文句言わなきゃ気がすまない!


「……みくちゃんの分までネコミミって、一体耳がいくつになるのさ」


 李衣菜ちゃんがため息混じりに言った。
 ネコミミは可愛いんだから、いくつあっても困らないにゃ。
 ……とりあえず、今日もお魚じゃなくて、お肉!
 なんだかんだで、一昨日までお魚尽くしだったんだから!


「晩ごはんは今日もお肉! 美味しいハンバーグ! 決定にゃ!」


 外食続きだったから、食生活も正さないと!


「あっ、それなら――……な、なんでもない」


 ん? 李衣菜ちゃん、今、何を言いかけたにゃ?
 もしかして、美味しいハンバーグのお店でも知ってるの?


「そ、それよりさ! 今日も、って事は、昨日もお肉だったの?」


 んんー? なんか、誤魔化したでしょー?
 みくには、そんなのお見通しだよ!
 その質問に答えたら、じっくり追求させてもらうにゃ!


「うん、昨日はオデンと、エイヒレ肉だったにゃ」


 あれなら、ハンバーグと一緒でも良いかな。
 お肉&お肉! お肉フェスティバルの、開幕にゃ!
 でも……エイヒレ肉って、スーパーに売ってるのかな。


「……エイヒレ肉って、エイヒレのこと?」
「そうだよ。白くて……ヒレ肉が、エイッって頑張ってるようなの!」


 李衣菜ちゃんも知らなかったんだね。
 これで、また一つ、美味しいお肉が知れたんだから、みくに感謝しても良いよ!


「エイヒレって……思いっきりお魚だよ?」


 ……。


「えっ?」



おわり

776: 2018/04/10(火) 23:45:16.37 ID:c3/V39mSO
ネコは肉食なのにな。魚好きなら野良ネコは川でバシャバシャやってるよね

777: 2018/04/10(火) 23:47:38.24 ID:qPN5OJ/Do
猫ってササミとかめっちゃ好きですよね

メモ:杏、奈緒、加蓮の綺麗なの

寝ます
おやすみなさい

779: 2018/04/11(水) 00:35:16.07 ID:ljzvQJsDO
おでんの練り物も魚なんだよな

引用元: 武内P「クローネの皆さんに挨拶を」