782: 2018/04/11(水) 12:20:54.68 ID:Yel9VPXao

「ふわぁ~あ」


 寝て、起きて、寝る。
 その繰り返しだけで毎日が送れれば、最高にハッピー。
 だけどさ、起きてる時に何をするか、って話だよね。
 お菓子を食べたり、ゲームしたり、ネットしたり。
 それに加えて、杏ってば今ではお仕事までしてるんだよ。


「おやすみなさ~い」


 その分、寝る時間が増えるのはしょうがないよね。
 それに、今は仕事が終わって車で帰る途中だし。
 こうやって時間を有効に使うのがポイントかな。


「はい、おやすみなさい」


 助手席に座りながら、そう言ってきたプロデューサーの方を見る。
 その背は高くて、座高も杏より大分高い。
 そんなにでっかく育ったなんて、小さい頃はよっぽど寝て過ごしてたんだねぇ。
 それとも、美味しいものをいっぱい食べてたとか? なんてね。


「……」


 流れてく景色、差し込んでくるライト。
 まばらに照らされたプロデューサーの横顔には、ちょっと疲れが見える。
 全く、休むのが下手だからそうやって疲れが残っちゃうんだよ。
 杏みたいに、ちゃ~んとメリハリをつけなきゃ。


「……」


 プロデューサーには、倒れられたら困るんだよね。
 印税生活のために、効率よく、極力働かずに働く必要があるんだから。
 そういう事を考えて、しっかり杏をプロデュースしてもらわないと。
 今更他のプロデューサーに変わって、馬車馬の様に働かされるなんてゴメンだし。


「……」


 だからまあ、杏に出来るだけのフォローはしてあげるよ。
 本当なら、それに関してもお給料を要求しても良いんだけどね、へへ。
 でもまあ、その分働かせないでくれてると思えば、それでトントンかな。
 あれ? そう考えると、なんか杏って損してない?


「……」


 ほんと、そんな役回りだよ、とほほ。
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(10) (電撃コミックスEX)
783: 2018/04/11(水) 12:43:43.85 ID:Yel9VPXao

「……」


 ま、そんな役回りって言っちゃえば、プロデューサーが一番か。
 個性的なアイドルを集めるのは良いんだけど、それって大変だよね。
 皆が皆、色々違って、バラバラ。
 そんなバラバラな皆を一人一人見るなんて、杏だったらゴメンだよ。


「……」


 お、そう考えると、杏ってばもの凄く優秀じゃないかな。
 だってさ、寝てる間は見てなくて良いんだもん。
 寝顔が見たいって言うなら止めないけど、乙女の寝顔はタダじゃないよ。
 杏の寝顔だったら、いくらぐらいが相場かな?


「……」


 プロデューサーの寝顔だったら、いくらぐらいかなぁ。
 案外、プロジェクトのメンバーとかはそこそこ出したりして。
 おおっ、これは、ビジネスチャンスってやつかな。
 寝てるプロデューサーの顔を写真に撮って……あ、めんどくさいから却下。


「……」


 楽して稼げるかと思ったけど、プロデューサーの寝顔を撮るのが大変だもん。
 うたた寝でもしてるのすら見たことないんだからね。
 あ、それなら、合宿の時に部屋に忍び込むってのはどうだろ。
 ……あー、プロデューサーが寝る頃には、杏は寝てるね、絶対。


「……」


 それに、寝てる男の人の部屋に忍び込むのは、さすがにねー。
 何にも起きないだろうけど、世間体ってものがあるからさ。
 もしもスキャンダルにでもなったりしたら、印税生活は夢のまた夢。
 他の皆にも迷惑がかかっちゃうし、やっぱり無しだね、無し。


「……」


 だけど、そういうスキャンダルが出た時は、どういう記事になるんだろ。
 『プロデューサーとアイドルの禁断の愛!』とか『ただれた夜のプロデュース!』とか?
 やー、でも、『変態口リコンプロデューサー!』って可能性が高いかな。
 杏は十七歳だけど、この見た目だからねー。


「……」


 そういう記事のネタを週刊誌に売ったら、いくらになるかな。
 メリットとデメリット、生涯年収とか諸々考えると……んー、やっぱり駄目だね。
 プロデューサーを巻き込んだら、その後、プロデューサーも養う必要があるからなぁ。
 杏ともう一人が暮らしてけれるだけの金額なんて、到底出そうにないもん。


「……」


 この人、プロデューサー以外出来そうにないからなぁ。

784: 2018/04/11(水) 13:08:26.97 ID:Yel9VPXao

「……」


 やろうと思えば出来るんだろうけどさ、駄目だよね。
 プロデューサー以外の仕事をしてるの、全然想像できないよ。
 もしやったとしても、なーんかしっくりこないかな。
 働く意欲に溢れる杏、ってくらいしっくりこない。


「……」


 はー、大人しく、普通に働くしかないかー。
 そもそも、杏じゃあスキャンダルにならない可能性すらあるしね。
 プロデューサー相手にスキャンダルになりそうなのは、
プロジェクト内だと、んー、やっぱりきらりかなぁ。


「……」


 どっちも背が高くて、並んでてお似合いだもんね。
 きらりが思いっきり迫ったら、プロデューサーも落とせるんじゃない?
 いけません諸星さん、良いではないかだにぃ、ってさ、へっへっへ!
 ……なーんて、何考えてんだろ。


「……」


 でも、そうだなぁ、杏がきらりみたいに背が高くて、スタイルも良かったら。
 そうしたら、プロデューサーを襲っちゃうのも悪い選択肢じゃないかな。
 その前に、責任問題にならないように、アイドルを引退したりして。
 あー、でも、アイドルを引退するのも、色々と準備が必要だなぁ。


「……」


 まず、智絵里ちゃんとかな子ちゃんが、杏離れが出来てないからなー。
 二人にも、もうちょっとしっかりして貰う必要があるね、間違いなく。
 それに、きらりとやってるコーナーもあるし、そこも考える必要があるね。
 うーん、杏がアイドルを引退するのって、思った以上に面倒臭いなぁ。


「……」


 んま、お仕事をするの、楽しくないわけじゃないんだよね。
 ただちょっと、疲れるし面倒臭いだけで、悪くはないんだよ。
 はー、誰か、杏の代わりに外で働いて、お金だけくれないかな。
 その分、お家で寝たりダラダラするのは杏に任せてくれても良いからさー。


「……」


 そういうお仕事も、無くはないんだよね。
 でもなー、そのお仕事って、基本的に休み無しって言う激務なんだよね。
 そんなの、杏からしたら、地獄だよ、じ・ご・く!
 杏からやるー、なんて、とてもじゃないけど言う気にはなれないね。


「……」


 でも、プロデューサーがやれって言うなら、やっても良いかな。

785: 2018/04/11(水) 13:40:24.00 ID:Yel9VPXao

「……」


 なーんて、プロデューサーが言うわけないよね。
 でも、言ったとして、杏がそれにオッケーしたとしたら、どうなるだろ。
 プロデューサーの事だから、業務内容を分担してくれそう。
 割合的には、七対三くらいで……あ、勿論杏が三ね。


「……」


 ま、言うわけないから、勝手に想像出来ちゃうんだけどね。
 想像するのはタダ! ドヤ!
 タダより安いものはないっていうけど、タダだから易いとは限らない。
 タダのただの想像でも、只々想像するだけでも、難しい。


「……」


 ――杏が、きらりみたいだったらなぁ。


「……」


 きらりは、杏の事を可愛いって褒めてくれるよね。
 悪い気はしないよ、っていうか、うん、恥ずかしいけど、嬉しいよ。
 でもさ、それじゃあ、駄目な事もあるんだよね。
 杏じゃあ手の届かない所にも、きらりは手が届くんだよ。


「……」


 例えばさ、今の状況なんか、すっごくわかりやすいよね。
 ほら、ちょっと座席を後ろに倒した位で、杏の手は全然届かない。
 どれだけ手を伸ばしてみても、無理なものは、無理なんだよ。
 横に並べば、なんとか手が届くかも知れないけどさ。


「……」


 それって、すっごく大変だよね。


 ――30センチ。


 杏には、30センチ足りない。
 どれだけ頑張っても届かないなら、頑張る理由ってなくなくなくない?
 だから、杏は手を伸ばさな――


「双葉さん?」


 ――あ。


 気がついたら、車は、目的地に到着していた。
 んー、


「起き上がるの面倒だから、よろしくお願いしま~す」


 こう言えば、差し出した手の理由、誤魔化せるよね。

786: 2018/04/11(水) 14:08:24.75 ID:Yel9VPXao
  ・  ・  ・

「ふわぁ~あ」


 杏にはさ、足りないものがそれこそいっぱいある。
 それこそ、一々挙げてくのが面倒な位に、たくさん。
 そんなのを一つ一つ数えるなんて、時間の無駄で寝ちゃうよね。
 それよりさ、出来ることを無理せずやる方が、効率が良いと思うんだよ。


「あの……すぐなので、起きていてくださいね」


 例えば、今。
 眠いからって言って、事務所に着くまで、杏はおんぶして貰ってる。
 こんなの、他の十七歳には出来ない事だよね。
 勿論、何かトラブルがあったら別だけど、杏はこういうのを日常的に出来る。


「ふわぁ~い」


 その点では、もの凄くお得だよね、これって。
 おんぶして貰って、くっつけて、甘えられて、しかも、歩かなくて済む!
 一石何鳥?
 あーでも、石を投げるのは面倒だから、養鶏とかの方が効率良さそう。


「……」


 すれ違う人がこっちを見てるけど、すぐ、いつもの光景だと気にもとめない。
 他の皆だったら、きっとギョッとすると思うんだよねー。
 だから、こういう、杏にしか出来ない、許されるようなのって、重要じゃない?
 へっへっへ、杏は、杏の事をよーくわかってるのです!


「……んー」


 眠いフリをしながら、プロデューサーの右の首筋に、顔をうずめる。
 一瞬くすぐったそうにしたけど、抗議の声は無い。
 プロデューサーは、今は仕事中だから無理に起こすのは悪い、と思ってるんだろうね。
 ふっふっふ、杏は、プロデューサーの事は大体わかるのです!


「……あ~眠い」


 寝て、起きて、寝る。
 その繰り返しだけで毎日が送れれば、最高にハッピー。
 だけどさ、起きてる時に何をするか、って話だよね。


「……ん」


 起きてる時に、無理のないように、出来る範囲で、効率良く。
 手が届かないならさ、向こうから、届く範囲まで来て貰えば良いだけだよね。


 杏だって、両手は届くし、首筋に口づけだって出来る。


 その後、やる事は決まってる。
 杏的には、ちょっと頑張りすぎちゃったからね~。


「おやすみなさ~い」


 その分、寝る時間が増えるのはしょうがないよね。



おわり

787: 2018/04/11(水) 19:01:04.21 ID:fJDYXU2eO
杏いい……

引用元: 武内P「クローネの皆さんに挨拶を」