6: 2013/01/30(水) 02:15:17.60 ID:8fo/OsgS0
響「うん、昨日は一緒にご飯食べに行ったんだけど」

P「苦手な食べ物だったとか?」

響「前に行ったのと同じ焼肉屋さんさー。その時は店長さんが謝りに来るくらい食べてたぞ」

P「そりゃまた……で、昨日は?」

響「ご飯とかお肉とかお箸で摘みはするんだけど、その度に溜息ついてそっと元の場所に戻すんだ」

P「あの貴音が、ねぇ」

響「自分心配になって何度も聞いたんだけど、なんでもありません、って」

P「モノマネへったくそだな」

響「うがー! 今そういう話してないでしょー!?」

P「ごめんごめん。でも原因が分からないかぁ、俺の方でも一応聞いてみるけど答えてくれない気がするなぁ」

響「プロデューサーがそんな弱気でどうするの! とにかく、なんとか貴音を元気付けてあげてよね!」

P「一番仲の良い響で駄目ならどうしようも……」

響「つべこべ言うなー!」

P「あいた! け、蹴るなよぉ!」
THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 3 06四条貴音
9: 2013/01/30(水) 02:24:25.95 ID:8fo/OsgS0
貴音「話、とは」

P「ああ、えーと、言っていいんだよな多分。響が心配してる、貴音の食欲が全然ないっつって」

貴音「そのようなことは」

P「直接聞いてもはぐらかされるよぅ信用されてないんだうわーんって泣きついて来たぞ」

貴音「なんと、あの響が泣くほど……随分と心配をかけてしまっていたようですね」

P「あの、今のはギャグだから笑ってくれないと」

貴音「……」

P「ごめんなさい……」

貴音「食欲、でしたか」

P「響が心配してるのは本当だし、何か困ってるなら俺も力になりたいんだ」

貴音「困っている、というわけでは、いえ、困っているのかも知れません」

P「あ、やっぱり思い当たるのがあるんだな? どんな問題でも俺と響の二人で支える、だから話してくれ」

貴音「……話せません」

P「うんうん、それは辛かろうなっておい。話してよ」

貴音「出来ません」

11: 2013/01/30(水) 02:29:31.73 ID:8fo/OsgS0
P「は、話せませんか」

貴音「はい、話せません」

P「とっぷしぃくれっとですか」

貴音「そのような大仰なものではありません」

P「……話せない理由は話せますか」

貴音「恥ずかしさ故です」

P「恥ずかしい?」

貴音「萩原雪歩の言葉を借りるなら、穴掘って埋まりたいといったところです」

P「そんなに恥ずかしい、のか。それはどういう種類の?」

貴音「種類?」

P「ほら、恥ずかしいにも色々あるだろ。失敗してーとか、勇気が出なくてーとか、あ、ももももしかしてエOチな感じの」

貴音「今日はもう帰らせていただきます」

P「ちょ待っ」

12: 2013/01/30(水) 02:37:54.42 ID:8fo/OsgS0
響「どうだった!? 貴音、なんて言ってた!?」

P「怒らせちゃった」

響「……なんで?」

P「冗談混じりの下ネタが逆鱗に触れて」

響「この変態プロデューサー! バカバカバカ、変態バカ! どうするんだよー!」

P「面目ない……あ、でも食欲がない理由を話せないのは恥ずかしいから、ってのは聞き出したぞ」

響「そこまで引き出してなんで下ネタで台無しに!?」

P「ζ*P)ζ < 空気が重いと貴音さんも話しにくいかなーって」

響「やよいに謝って! 今すぐやよいに謝って!」

P「下手なモノマネしてすみませんでした」

響「うぅー、貴音は何がそんなに恥ずかしいんだよ……自分たち仲間じゃないか、隠し事なんてずるいぞ……」

P「頭抱えても仕方ないよ」

響「時間が解決してくれるっていうのか? そんなの待てないぞ……」

P「ううん、響はバカだから考えても無駄っていう意味で」

響「うーがー!!」

13: 2013/01/30(水) 02:45:10.23 ID:8fo/OsgS0
響「貴音!」

貴音「響、そんな泣きそうな顔をしてどうしたのですか?」

響「なんで、なんで自分たちに話してくれないんだよ! 自分も、プロデューサーも、そんなに信用出来ないのか!?」

貴音「信用は、しています。ただこれはわたくし個人の問題で」

響「貴音の問題は自分の問題だ! 少しで良いから、力にならせてよぉ……!」

貴音「……響、その言葉はまことにありがたいのですが」

響「ダメ、なの?」

貴音「わたくしが、わたくしの力のみで解決しなければならないのです」

響「そ、か……」

貴音「申し訳ありません」

響「……うん、分かった。じゃあ、貴音が頑張れるように応援してる。自分、ずっと応援してるからっ」

貴音「響……ふふ、心強い言葉です」

15: 2013/01/30(水) 02:50:51.02 ID:8fo/OsgS0
雪歩「四条さん、あの、響ちゃんから食欲がないって、だからその、お茶ならどうでしょう……?」

貴音「雪歩……ありがとうございます、いただきましょう」

雪歩「は、はいっ、えへへ!」

貴音「……」

雪歩「……」

貴音「……」

雪歩「……」

貴音「美味、ですね」

雪歩「ありがとうございますぅ、頑張って入れた甲斐がありました」

貴音「まことに……」

雪歩「……」

貴音「……ほぅ」

雪歩「……ふぅ」

貴音「……」

雪歩「……」

17: 2013/01/30(水) 03:00:26.93 ID:8fo/OsgS0
貴音「ぱぁそなるすぺぇす、という言葉を知りました」

雪歩「パーソナルスペース……知らない人には入って欲しくない範囲、でしたっけ」

貴音「ええ、人それぞれが持っているのだと」

雪歩「うう、私は特別大きそうです……」

貴音「人それぞれなのだから、大きくてもよいのです。無論小さくとも、ええ、よいはずなのです」

雪歩「四条さん?」

貴音「響のそれは小さいのか、それとも人に心を開きやすいのか。彼女はあっという間に他人と、いいえ動物とすらも仲良くなります」

雪歩「……憧れちゃいますよね」

貴音「わたくしもどちらかと言えば人付き合いの下手な方、育った環境のこともあって友人と呼べる人間はいませんでした」

雪歩「響ちゃんとは同じ頃に事務所に入ったんですよね」

貴音「初めてのともだちでした」

雪歩「最初の頃から二人はいつも一緒で
仲良くしてましたよねぇ」

貴音「ええ、わたくしは幸せで仕方がありませんでした」

雪歩「お茶のお代わり、どうですか」

貴音「ありがとうございます」

18: 2013/01/30(水) 03:12:49.23 ID:8fo/OsgS0
貴音「プロデューサーには大変よくしていただきました」

雪歩「働き詰めで身体を壊さないか、時々心配になります……」

貴音「ええ、わたくしたちに付きっきりで……れっすんもらいぶも、あの方がいたからこそ」

雪歩「プロデューサー、すごいですよね。頑張れる言葉をくれるっていうか」

貴音「心の芯に響く言葉を投げかけてくださる。あのような方をわたくしはこれまでに見たことがありませんでした」

雪歩「あんな感じの男の人は、私も初めてでした」

貴音「だから、なのでしょうか。どうにも、気になってしまうのです。つい考えてしまう、と言えばよいのでしょうか」

雪歩「それって!」

貴音「恋の類、ではないと思います。わたくしはあの方とお付き合いしたいとは思いませんし、胸が高鳴るということもありません」

雪歩「でも」

貴音「雪歩。雪歩にはこれが、恋に見えますか? わたくしは恋をしているのですか?」

雪歩「……正直に言うと、分かりません。私も恋をしたことがありませんから」

貴音「そう、ですか」

19: 2013/01/30(水) 03:21:01.38 ID:8fo/OsgS0
雪歩「四条さんのパーソナルスペース、私は入っていい人間ですか?」

貴音「ええ、悪いはずなどありません」

雪歩「えへへ、私も四条さんなら歓迎です。あ、でも音もなく後ろに立つのはびっくりするからやめて欲しいですけど……」

貴音「ふふ、気をつけましょう……雪歩?」

雪歩「はい?」

貴音「雪歩は真と美希のことをどう思いますか?」

雪歩「えっ、ど、どうしたんですか急に? どうって言われても……二人とも、大事なお友達です」

貴音「意地悪なことを聞いても良いですか? その二人が雪歩抜きで遊びに出掛けると思いますか?」

雪歩「あの……思います。予定が合わないこともあるでしょうし、その、私なんかと一緒にいたくないって思うのも、きっと仕方ない、ですし」

貴音「……」

雪歩「……」

貴音「雪歩は、強いですね」

雪歩「え、ええ?」

21: 2013/01/30(水) 03:32:10.27 ID:8fo/OsgS0
貴音「わたくしは、そんな事があって欲しくないと思います。いいえ、あってはならないとすら。自分が可愛くて、一番で、だから弱いのです」

雪歩「四条さん?」

貴音「わたくしの初めてのともだち、響。わたくしの面倒を見てくれるプロデューサー。二人とも大事な仲間です」

雪歩「……」

貴音「けれど、どうしてでしょう。響はあの方とあれ程親密である一方、わたくしは。いいえ、どうしてなどと問うも愚かしい話ですね」

雪歩「四条さん……」

貴音「自分があの二人と同じ場所にいないなど認めたくないのです! なのに、二人は最近益々仲睦まじく、わたくしは、わたくしはぁ!」

雪歩「四条さん、寂しかったんですね。遠くに置いていかれたように感じてたんですね」

貴音「う、ぐす、ううぅ……!」

雪歩「大丈夫、大丈夫ですよ。だって仲間ですから」

貴音「わた、わたくし、はぁ、ひっく、うぅ、ぐず……」

雪歩「うんうん、大丈夫、大丈夫……」

23: 2013/01/30(水) 04:02:50.92 ID:8fo/OsgS0
貴音「自分を曝け出さない癖に、自らの全てを晒し合える二人に嫉妬して、そんな自分が情けなくて、恥ずかしくて……」

雪歩「本当の自分を見せたら嫌われちゃうんじゃないか、なんて案外皆思ってることですよ」

貴音「けれど、わたくしの本当は人より遥かに汚れていて、見ればきっと嫌われるに決まっています!」

雪歩「私はさっき本当の四条さんを少しだけ見たけれど、嫌いにはなりませんよ。泣き虫で弱虫な四条さんは意外だったけれど、可愛かったです」

貴音「わたくしは歩み寄る努力もせず、誰かが心を開いてくれるのを待つだけの醜い怠け者です……」

雪歩「友達の作り方を知らないだけです。ううん、頭で分かってないだけで心は知ってます。私とも、事務所の皆とも友達になれたじゃないですか」

貴音「大事な友達が助けようと伸ばしてくれた手を、強がって、怖がって、払い除けました。本当は、その手を掴みたかったのに」

雪歩「強がりや恐怖なんかじゃなく、一人でなんとかしようとしたんです。四条さんの勇気と強さの証です」

貴音「わたくしは、わたくしが嫌いです」

雪歩「私は四条さんが好きですよ」

貴音「こうまで慰めてもらわないと立ち上がることもままならない、弱い自分が大嫌いなのです……!」

雪歩「いつだって強い人、なんていません。泣きたい時は泣いてもいいんです、私も皆にそう教えてもらいました。だから、四条さん」

26: 2013/01/30(水) 04:11:09.31 ID:8fo/OsgS0
響「えへへ、貴音の調子も戻ったみたいでよかったさー」

P「あいつ自ら焼肉に誘ってきたんだもんな、こりゃもうほぼ問題ないとみた」

響「……ね」

P「うん?」

響「本当に、大丈夫かな? 貴音ってああ見えて泣き虫で弱虫で、その割に結構強がり言うタイプだから……」

P「んなこと分かってるよ。だから今日ご飯食べながらじっくり見極める、伊達に敏腕なんて呼ばれてないよ」

響「ふーん、どうだかね」

P「もう少し信用しなさい。それよりさっきの、貴音本人には絶対言うなよ」

響「分かってるよ、貴音がそういうの隠したがってるのはなんとなく感じるし」

P「ファンとかは騙せても、同じ事務所の仲間は騙せないっての。なー?」

響「だぞ!」

29: 2013/01/30(水) 04:22:23.42 ID:8fo/OsgS0
貴音「今日三人に集まってもらったのは食事のこともありますが……食欲のなかった理由と、その周辺のことを話そうと思ったからです」

P「ん、ゆっくりでいいからな。落ち着いて話してくれ」

貴音「はい、ありがとうございます。その、食欲がなかったのは悲しかったからです」

響「うん、うん」

貴音「同じ時期に入った響とわたくし、なのに響はプロデューサーと大変仲が良いように思えて、自分の外交術の下手さが悲しかったのです」

P「外交術てお前」

貴音「胸が詰まるような、身体を締め付けられるような、とにかく何も喉を通らなかったのです」

響「辛かったな、ごめんな」

貴音「そして、あの、その程度のことで悲しみを感じる自分もまた悲しく、食欲のなさに拍車をかけて」

P「うん、うん」

貴音「そんな弱い自分を見せるのが怖かったのですが、見せないことには仲は深まらないと思い、今日こうして話してみました」

響「ありがとう、貴音。自分も普段、完璧完璧言ってるからその本当のことを言う勇気、中々出せないってよく分かるぞ」

貴音「ありがとう、響。響と出会えなければ、わたくしは自分が弱いことにも気づけませんでした。そして、プロデューサー」

31: 2013/01/30(水) 04:33:03.54 ID:8fo/OsgS0
P「ん」

貴音「いつもとっぷしぃくれっと、と戯れはぐらかしていたこと、そうする訳も聞かずただ受け入れてくれた優しさにも感謝します」

P「言いたくないこと、聞かれたくないことは誰しも持ってるし、うん。礼を言うようなことじゃないよ」

貴音「時にふざけるのも貴方の優しさ故にだと気付いた時、霧が晴れるかのような思いでした」

P「恥ずいよ、勘弁してくれ……」

貴音「最後に、雪歩」

雪歩「はい、四条さん」

貴音「……心からの、感謝を」

雪歩「はいっ」

P「え? それだけ? っていうか何その二人通じあってるみたいな感じ!」

響「ぬぬぬ……今度は自分が食欲なくなりそうだぞ」

33: 2013/01/30(水) 04:41:54.48 ID:8fo/OsgS0
雪歩「いいじゃないですか、そんなこと。それより、折角の焼肉ですからそろそろ楽しみましょう!」

貴音「そうですね、入店しておきながら注文もしない客ではお店に迷惑でしょう。もし、もし!」

P「店員さん呼ぶ時はこのボタン押すんだってば」

貴音「もし、もし!」

響「そんなに連打しちゃ駄目だぞ貴音ー!」

P「あと声出さなくていいし」

貴音「これも今まで秘密だったのですが、実はわたくしとてもお腹が空いているのです」

P「知ってた」

貴音「なんと。ではわたくしが本気でお腹いっぱいになるまで食べたことはないことも?」

P「!?」

響「ま、まさか貴音……」

貴音「今までは強がっていました。が、食欲に負ける弱い自分も、今なら見せられる気がするのです。もし、もうし!」

響「なんならお金貸すぞ」

雪歩「わ、私も」

P「すみません多分お願いすることになります」

35: 2013/01/30(水) 04:50:05.61 ID:8fo/OsgS0
貴音「まこと、美味でした」

雪歩「はい、とっても美味しかったですぅ」

響「ブラックホール怖い……」

P「焼肉奉行怖い……」

貴音「ああ、なんだかまたしばらく食欲がなさそうです」

雪歩「あ、私も同じ気持ちかもです」

P「そりゃあれだけ食べればね。って言うか何? 今度は何が悲しいの? そして何を食べまくるの?」

響「今度もプロデューサーの奢りね」

P「!?」

貴音「ふふ、ふふふっ」

雪歩「えへへ」



貴音「今度は、幸せで胸もお腹もいっぱいですから」

終わり

36: 2013/01/30(水) 04:55:46.89 ID:8RQBszW2O
おつん

引用元: P「貴音が最近食べない?」