356: 2018/04/30(月) 11:45:26.77 ID:W/7AtdQyo

357: 2018/04/30(月) 12:14:29.27 ID:W/7AtdQyo

「~♪」


 フラ~リフラリ、街をブラブラと歩く。
 たまにすれ違う人が、あたしをチラリと見てくるけれど、気にしなーい。
 観察するのは、あくまでもあたし。
 見られたからって、そこに何の変化も有りはしないのです。


「んー」


 日本に戻って、初めて歩いてみる街。
 何か新鮮な発見や驚きがあれば良いなと思ったけど、やっぱり何も見つからない。
 でもまぁ、何もしなければ、何も起こらないからね。
 見つからないっていうのがわかっただけで、良い実験になったかな。


「ふんふ~ん♪」


 つまんない。


 ヒトの平均寿命を考えると、あたしはこの先何十年も生きる。
 あ、不規則な生活をしてるから、それよりはもうちょっと短いかな。
 だけど、それでも長い長~い期間に変わりはない。
 それをこんなにも、退屈で、つまんない時間で埋め尽くされて過ごすなんて、
考えただけでも辟易するから、考えるのはやめまーす!


「~♪」


 つまんない。
 つまんない、つまんない、つまんない、つまんなーい!


 何時でも良い。
 何処でも良い。
 誰でも良い。
 何でも良い。


 あたしのこの退屈な人生に、ほんの少しでも、化学変化をもたらす何か!
 一滴垂らすだけで、あたしの色がまるきり変わってしまう程の、そんな刺激!
 ……そんな、あるかどうかもわからないモノを探して、歩く。


「……ふぅ」


 だけど、それももう飽きてきちゃったなー。
 そもそもさ、あたしって体力がある方じゃないしー、
可能性に賭けるのは研究者としての性ではあるけど、もうそろそろ良いかな。


 あたしの、つまんない人生を壊すような何かは、存在しない。


 それが、あたしの出した結論、ってことでよろしくー。


「……んー?」


 実験結果が出たと思ったけど、ふんふん、何やら面白そうな匂いを感じる。
 向こうからは見えないけれど、あたしからは全てが見えてる。


「……」


 背の高い、怖~い顔をした男の人が、複数人の警官に囲まれ、職務質問されてる姿が。

358: 2018/04/30(月) 12:48:33.26 ID:W/7AtdQyo

「……」


 あの人は、一体何をしたんだろう。
 見た目通りの、凶悪な犯罪者だったりするのかな?
 でも、人って見た目だけで判断出来る程、そんなにシンプルじゃないんだよね。
 怖~い顔したおじさんが、ホットドッグをオマケしてくれた事もあるしねん♪


「……」


 あの人は、一体どんな人なんだろう。
 上下の黒いスーツだけど、こんな昼間に手ぶらで街を歩く?


 とっても怪しい匂いがする。


 その匂いを嗅ぎつけられて、やってきました!
 バウバウ、犬のおまわりさーん!
 っとと、いけないいけない、日本の警官だから、ワンワン、だよねぇ。


「……」


 あの人は、一体どうして焦ってるんだろう。
 やっぱり、凶悪な犯罪者だから、すぐにあそこを離れたいのかな?
 頭の中で渦巻いてるのは、焦り?
 うーん、表情がわかりにくいから、イマイチハッキリしないなー。


「よ~し!」


 わからないから、直接聞いてみよーう!


 ゆっくりと、忍び寄る……んー! ジャパニーズ、ニンジャ!
 見つかったら、あっちへ行きなさい、出会え出会えされちゃうかもしれないしねん♪
 だからあたしは、息を頃して、気配を消して近づく。
 この場面から提供される、より、強い刺激を求めて。



「あーっ! Pチャン、こんな所にいたにゃ!?」



 そんなあたしの実験は、またもや予想外の中断を余儀なくされる。


 乱入者は、一人の女の子。
 華やかな衣装を身に纏い、周囲の視線を集めながらも、それを堂々と受け止める。
 あまりにも自由で、奔放で、あたしすらも観察を忘れて一瞬見入ってしまった、一匹の猫。



 つまんない人生の、暇つぶしの一つ。


 この時のあたしは、そうとだけしか考えてなかった。
 ジーニアスだからって、何でもわかるとは限らないんだよねー。
 そんな当たり前だって?
 ピンポンピンポーン、正解、その通ーり!


 だからこそ、人生は――

359: 2018/04/30(月) 13:33:35.16 ID:W/7AtdQyo

「もーっ! 早くしないと、LIVEが始まっちゃうよ!」


 乱入してきたその猫は、呆気にとられる大人達の視線を集めながら、
何やらブツクサと文句を言いながら携帯を取り出した。
 それを聞かされてるスーツの人は、右手を首筋に当てて謝ってる。
 ワンちゃん達も、ネコちゃんと彼のやり取りを見て、苦笑している。


 空気が――匂いが、変化した。


 怪しげで、扱いを間違えれば爆発間違い無しの、危険な薬品。
 それが、一瞬の内に、一匹の猫がもたらした化学反応によって、
誰でも……それこそ子供でも扱えるような、無害なものに。


「……」


 あの子は、一体何だろう。
 警官の人達の視線から察するに、あの子、あの人達に知られてる?
 容姿や言動に特徴があるからだけじゃなく、もっと、違う何か。
 その何かが、彼らの向ける視線に劇的な変化を及ぼして、あの匂いを発生させている。


 おもしろそう。


 アンバランスな、一人と一匹。
 その奇妙な組み合わせは、ペコリと一つお辞儀をすると、小走りで駆け出した。


 何時もの事のような、慣れた対応。
 何処かへ向かっている、あの走り。
 誰なんだろう、彼らは何者なんだろう。
 何をしようとしてるんだろう。


「……」


 知りたい。
 知りたい、知りたい、知りたい、知りたーい!


 あたしって、なんてラッキーなんだろう!
 あんなにもおもしろそうで、解き明かしたい謎の存在に出会えるなんて!
 LIVEって言ってたから、あの子はシンガーなのかな?
 だけど、あの格好、それに――


「笑ってた」


 急いでるはずなのに、とっても楽しそうに
 強がりでも、仕方なしでもない、只々純粋に、混じりっけ無く!
 あの笑顔の謎を解き明かさないで、他に何をする?


 知らずには、いられない!
 解き明かさずには、いられない!


「よ~っし!」


 走り出す。
 走るのなんて、本当に久しぶりだけど、それもまたおもしろい。
 あたしをそうさせるだけの何かがあると、そんな匂いがしたのは初めてだから。


 ……でも、走るのってやっぱりつーかーれーるー!

360: 2018/04/30(月) 14:15:48.55 ID:W/7AtdQyo
  ・  ・  ・

「……ひぃ……はふぅ……!」


 二人を追って走ってみたものの、すぐに引き離された。
 あたしって、やっぱり運動不足だよねー。
 ま、わかってるから気にしないのが、あたしなのですよ、ふっふっふ!
 前向き前向き、見つけた楽しみを探す楽しみが増えたと思いましょーう!


「……うーん、そんなにうまい話はないかー」


 すぐに、見つけちゃった。
 会話から、あの人が関係者だって言うのはわかってたしね。
 それに、特徴的な顔に、日本人にしては頭一つ分高い、あの身長。
 探す楽しみ、しゅーりょー、ぶーぶー!


「……」


 乱れた呼吸を整え、心臓の鼓動を落ち着かせていく。
 ドキドキ、ワクワクも悪くないけど、これは実験だから。
 余計な感情が混じって、結果が違うものになったら大変だよー。
 こんなチャンス、二度と無いかも知れないんだから、慎重にいかないと。



「――ねえ、そこのキミ!」



 慎重に――大胆に。
 大胆な発想が出来ないようじゃ、新しい発見は無い。


 あたしは知りたい、見つけたい。


 つまんない人生に、劇的な化学反応をもたらす、何かを。


「……はい? 私……ですか?」


 突然声をかけられたからか、ちょっと戸惑ってるみたいだね。
 だけど、そこに隙がある、入り込む余地が生まれる。
 そうだよ、キミだよキミ! 周りを見ても、誰も居ないでしょ?
 大丈夫、安心して良いよ~♪


 危険な事は、するつもりは無いから。


「私に、何か御用ですか?」


 チラリと時計を確認して、話しやすいようにあたしに近づいてきた。
 額には、走ったせいで上がった体温を調整するため、汗が見られる。
 一歩踏み出せば、手が届く距離。
 と・り・あ・え・ず! んー、どれどれ?


「スー……ハー……スー……ハー……」


 思った通り、良い汗かいてるかいてるぅー!


「キミ! イイ匂いするねー!」


 おっとと、大胆になりすぎちゃったかな?

361: 2018/04/30(月) 14:47:20.21 ID:W/7AtdQyo

「……すみません。御用が、無いようでしたら」


 匂いに言及されたからか、一歩引いて言われた。
 だけど、キミはこう思ってるはずだよ。


「キミ、ナニモノ?」


 あたしの言葉を聞いて、困った様子で右手を首筋に。
 んふふ! こういうのって、先に聞いたもの勝ちだよん♪
 ほらほら、早く教えてよー!


「ツン、ツン♪」


 人差し指で、スーツの上から左の胸――心臓の位置をつっつく。
 そんな事をされると思ってなかったのか、体をビクリと震わせた。
 そして、逃げるように、また一歩下がられた。
 離れた分の距離を埋めるために、あたしも、同じだけの距離を踏み込む。


「……プロデューサーです」


 此処に着くまでの途中で、あの女の子が何者かはわかった。
 同じところを目指して歩く人混みの中で、あたしの中に入ってきた情報の数々。
 それらを照らし合わせれば、聞かなくても答えは出る。


 アイドル。


 男子の視覚に一過性の刺激を与えて、充足させるヤツ。
 あの子がアイドルってヤツなんだ、とは思ったけど、わからなかったのは――


「ふーん、プロデューサーってのやってるの?」


 ――キミ。
 キミが、何者かわからなかったんだよねー。


 アイドルの子が、一生懸命走りながらも、笑ってるのはわかるよ?
 お仕事を楽しんでるんだろうなー、ってね!
 だけど、キミまで一緒になって走ってるのは、プロデューサーだからかー。


「おもしろそーだね!」


 どれだけ必氏にやっても、決して舞台に上がることは無い。
 それなのに、良い汗をかいて、あのアイドルの子と同じ様に……楽しんでる。


 そこに、何の意味があるのか、わからない。


 だってさ、主役はキミじゃないのに。


 キョーミ深い観察対象を見ながら、あたしの耳は歓声を捉えた。
 きっと、アイドルの子がステージに上がったんだろう。
 だけど、目の前に、こんなにも面白そうな観察対象が居るのに――



「ニャ――――――ッ!!」



 ――って思ってたのに、また、あたしの実験は中断させられた。

362: 2018/04/30(月) 15:25:40.31 ID:W/7AtdQyo
  ・  ・  ・

「ねえ、あたしにも、アイドルって出来ると思う?」


 脳細胞が、まだパチパチと音を立てて電気を帯びているのがわかる。
 そのせいか、わかりきってるはずの答えが、出てこない。


 出来ない。


 アレが、アイドルだとするならば、あたしには不可能だ。
 やってみたら、多分、似たようなモノにはなれると思う。
 だけど、それはあくまでもフェイクでしかなくて、別物だから。
 それなのに……。


 ああ、それなのに……あたしは、あたしが出した答えに満足出来ない!


 出来ない! 出来ない!


 なんで? どうして?


 知りたい……知りたい、知りたい、知りたい!


「……!」


 楽しい気持ちが、我慢できない!
 言葉に出来ない衝動が、あたしの中を駆け巡ってる!
 爆発しそう! 壊れそう!
 こんな化学反応、あたしは知らない!



「――わかりません」



 わからない?
 キミ、プロデューサーなんだよね?
 アイドルを見るのがお仕事のキミが、わからない?


 ……――最高の答えだよ、ソレ。


「ですが……良い、笑顔です」


 そう言いながら、目の前の――プロデューサーは、名刺を差し出してきた。



 それが、きっかけ。


 あたしは、謎を解き明かしたい。
 にゃはは、たまーに失踪したりもするけどね♪
 だけど、そのまま逃げ出すつもりも無いし、逃がすつもりは無いからだいじょーぶ!


 あたしは、あたしと言う実験対象を逃がす気は、無い。


 だってさ、つまんないでしょ?
 わからないことをそのままにしておく人生なんて。
 ふっふっふ、だから、あたしは神様に感謝してるのでーす!


 つまらない人生を面白くする謎解き――そんな、ギフテッドに。



おわり

363: 2018/04/30(月) 16:20:17.07 ID:0Y0kPolFo
またギャグ担当が一人増えた

引用元: 武内P「あだ名を考えてきました」