369: 2018/05/01(火) 21:36:35.03 ID:28LF6GEfo

【モバマス】一ノ瀬志希 「つまらない人生を面白くする謎解き」の続き

 なんじゃ、次はうちか? 何、時計回り?
 まあええか、こういうのはスパッと終わらせるに限る。
 あぁ!? じょ、情熱を込めてじゃと!?
 こっ、こら、化け猫! つっつくなワレ!



「――村上巴。広島出身の十三歳じゃ」


 うちがあん人に最初に出会ったんは、オーディションの時じゃった。
 部屋ぁに入ったら、うちの若い衆にも劣らん男が居る思ったな。
 何が劣らんか、じゃと?
 そりゃまぁ……見た目、じゃな。


「……」


 何じゃ、コイツ。
 右手を首筋にやって、何にも喋りゃせん。
 親父に聞いとったが、このプロダクションは、かなりの大手ゆう話じゃったはず。
 なのに、うちが喋っただけで黙りこくるとは、どういう了見じゃ?


「……一つ、お聞きしても宜しいですか?」


 ドスの効いた、低ぅい声。
 それに、ちぃとばかし目を細め、真っ直ぐに目ぇを見る。
 ……ふん、ただ地声が低いだけ、か。
 見た目に惑わされるとは、うちもまだまだじゃのう。


「何じゃ? 聞きたいことがあるんだったら、遠慮はいらん」


 じゃが、ここで弱みを見せるゆうんはあり得ん。
 親父がどうしても受けてこいゆうけぇ、顔を立ててやるためにうちは来た。
 だのに、先にうちが動くゆうんは、親父の顔に泥を塗るも同じじゃ。
 どっしり構えて、女じゃからと、なめられんようせにゃならん。



「……後ろの方達は、一体?」



 そう言いながら、後ろに控える若い衆らに目ぇを向ける。
 何じゃ、見た目の割に、ちぃさい事を気にする奴じゃな。
 じゃが、まぁ、そうゆう男でも無い限り、
アイドルなんてチャラチャラしたもんのプロデュースをしよう思いはせんか。


「あぁ、気にせんでえぇ。家の若い衆じゃ」


 うちは要らんゆうたのに、親父が心配性で東京までついてこさせたモン達。
 コイツらも、親父の影響か知らんが、妙に心配性での。
 お嬢お嬢と、要らん世話まで焼きたがる……面倒で、有り難い奴らじゃ。
 フリフリやヒラヒラを着せたがるのだけは、心の底から面倒じゃがの!


「……」


 うちの言葉を聞いて、また、右手を首筋にやって黙りこくる。
 部屋には、何とも言えん空気が流れとったわ。
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370: 2018/05/01(火) 22:05:34.72 ID:28LF6GEfo

「……」


 右手を降ろした思うたら、そんまま立ち上がり、ドアの方へ。
 じゃが、うちは何もする気ぃは無かったし、
正直な話、家の若い衆に怖気づいて逃げ出すようなモンに、
プロデュースを任せる気ぃは微塵も無かったからの。


 ――じゃが、あん人は、


「今は、村上……巴さんの面接をする時間です」


 ドアを開けて、真っ直ぐに、


「外で、待っていていただけますか?」


 ゆうたんじゃ。


「っ……!」


 うちや、何を言われるかと身構えとった若い衆は、まぁ驚かされた!
 見た目ぇだけかと思いきや、見上げた胆力の持ち主じゃ、とな!
 色めきだつ若い衆の視線を一身に浴びても、微動だにせん佇まい。
 無表情に見えるゆうのに、うちは、怒った親父の顔を思い出した。


「……外で待っとれ」


 最初は、見た目で虎と思った。
 次に、張り子の虎で、中身は虎に食われる鯉だと思った。
 じゃが、あれは龍じゃ。
 迂闊に逆鱗に触れようものなら、どうなるにせよ、たたじゃ済まん。


「……」


 若い衆が不安気にうちを見るのがわかったが、構っとる暇は無い。
 目ぇ離したら、何をするかわからんのじゃ。
 プロデューサー……そして、アイドル。
 舐めてかかったら、知らん間に首を食いちぎられそうじゃのぉ。


「……」


 バタリとドアが閉められ、部屋にはうちと奴だけじゃ。
 後ろに控えとった若い衆には、うちが思っとった以上に助けられてたゆう事か。
 緊張。
 まさか、一人の男を前にして、こんな気持ちを抱く時が来るとは思わんかった。


「――それでは、面接を再開したいと思います」


 部屋に響く、低い声。
 それが、嫌にでっかく聞こえたもんじゃ。

371: 2018/05/01(火) 22:54:09.50 ID:28LF6GEfo

「……その前に、一つだけ、聞かせてもらえるか?」


 コイツ……いや、こん人は、何を考えとるのか。
 家の若い衆を前にして、ちぃーとも表情を変えんかった。
 うちは……それが、不思議でならんのじゃ。


「はい。遠慮なさらず、仰ってください」


 手元の資料から目ぇを離し、うちを見る。
 その目から、何も伝わってこんのじゃ。
 だから、知りたい。
 アンタは――


「怖いとは、思わんかったんか?」


 芸能界ゆうんは、アンタみたいに肝が座っとるモン達ばっかりなんか?
 そうじゃとしたら、とんだ魔窟じゃ。
 プロデューサーでさえこうなら、アイドルはどこまでの……。


 そんなうちの質問に、あん人は、右手を首筋にやって、


「……申し訳、ありません」


 姿勢を正し、頭を下げて、


「ご家族の方だったのでしょうが……とても怖いと、思ってしまいました」


 謝ってきおったんじゃ!
 あの顔で!
 あんな、若頭とも呼ばれててもおかしくない顔でじゃぞ!
 怖い……とても怖い、て!


「……ぷっ」


 あん時は、笑った……いやぁ、笑ったなぁ。
 あそこまで笑わされたんは、初めてだったかも知れん。
 ワイシャツの背中が汗で……じゃぞ?
 耐えろゆうんは、うちには無理な話じゃったわ!


「あ、あはっはっは! そ、そうか! 怖……あっははは!」


 土手っ腹に鉛玉を貰った時は、こんな感じじゃろうなと思うた。
 抑えよう思ってないのに、手ぇが勝手に抑えとるんじゃ。
 中々どうして、とんだ鉄砲玉じゃ。
 ものの見事に、うちのタマを取っていったんじゃからな。


「……良い、笑顔です」


 言われた時、うちはあん人に惚れた。
 惚れ込んでしまったんじゃ……わかるじゃろ?


 ばっ……!? そ、そっちの意味じゃのうて!
 ん? 『LIVE』の『I』に、穴が開いて……『O』になる?
 『L』、『O』、『V』……しばくぞ化け猫ー!

373: 2018/05/01(火) 23:31:56.50 ID:28LF6GEfo
  ・  ・  ・

「――ま、ハッキリ言えば、親父に言われたから、じゃな」


 こん人の前で、下手な強がりは意味が無い。
 強い、弱いの関係無しに、うちを見てくる。
 きばった所で、こっちが疲れるだけじゃ。


「……なるほど」


 うちの笑い声を聞いて、若い衆が殴り込もうとしてきた時は、焦った。
 いくらなんでも、うちが涙流してたら何するかわからんからのぅ。
 ……笑いすぎて涙を流したのは、不覚じゃったわ。


「貴女自身は、そこまでやる気があるわけではない、と?」


 そうじゃな……ついさっきまでは、ああ、そうじゃった。
 手ぇを抜く気は毛頭無かったが、うちの全部を賭けるつもりも無かった。


 ――でも、気ぃが変わった。



「そう、見えるか?」



 両腕を組んで、目の前の――プロデューサーを真っ直ぐに見る。
 女だからと、この村上巴をナメて貰っちゃあ困る。
 アンタも、わかっとるんじゃろ。
 うちの魂が、熱く、溶岩の様に煮えたぎってるのが!


「いえ、私には、そうは見えません」


 そうじゃろそうじゃろ、なぁ! つまらん事を聞いてくれるな!
 じゃが、チャラチャラしたアイドルには、うちはならんぞ!
 うちはうちのまま、大和魂を感じさせるアイドルに、なる!
 ……アンタとならそれが目指せる気がするんじゃ。


「それでは、村上さん」


 村上さん……のう。


「――待った」


 これから同じ花道を歩くゆうのに、他人行儀が過ぎる。


「うちの事は巴と。アンタは、うちの右腕になるんじゃからな」


 親父がよく言っとったな。
 人は見た目じゃない、と。
 見た目に反して、おとなしい奴のようじゃが……うちは認める。
 アンタなら――


「……待った無しで、お願いします」


 ――安心して……って――


「あぁ?」

374: 2018/05/02(水) 00:11:55.61 ID:xNYqHu2Eo

 今、何て?


「アンタ……断るゆうんか?」


 うちの右腕になるのが、嫌じゃと?
 おう、おどれ! 何を今さら言うとんのじゃ!
 それが、うちをアイドルの道に引っ張り込もうとする奴の言葉か!?
 仁義を通さんかい、ワレコラァ!


「その……アイドルの方を名前で呼ぶのは、はい」


 そうゆうて、また、右手を首筋にやりおった。
 ……な、何じゃ、うちの右腕になるのが、嫌ゆう意味じゃなかったか。
 ええい! これからうちの面倒見ようゆうモンが、そんな情けない事でどうする!


「うちは気にせん! じゃけぇ、巴と呼べ!」


 待ったは、聞き入れさせる!
 将棋じゃったら「待った」は無いが、今は違うけぇの!


「ほら! 巴と呼べ!」


 プロデューサーの机の前まで詰めより……いや、殴り込みじゃ!
 なんとしてでも、うちの「待った」は通させる!


「ま、待ってください! 村上さん!」


 何を言っとるんじゃ!
 待ったをかけてるのはうちじゃぞ!
 逃げ場なんか与えるつもりは無い、詰みじゃ! 詰み!


「あ……た――」


 げに、往生際の悪い奴じゃのぉ。


「助けてください! ご家族の方、助けてくださーい!」



 これが、きっかけじゃ。


 あれからずうっと名前で呼ばせよう思っとるんじゃが。
 ふん、アイドルの天下を獲るまでには、呼ばせてみせる。
 ……天下を獲る方が、むしろ楽かも知れんがのぅ。


 うちは、アイドル道を歩み続ける。


 皆となら、もっと、その先の景色も見られる気がするんじゃ。
 大人しく手を引かれるだけじゃ、女が廃るってもんじゃろ?


 あぁ? 引かれるだけじゃなく、右腕だから隣に居る……?


 はっはっは!


 ……そこになおれ、化け猫! もう許さんけぇの!



おわり

375: 2018/05/02(水) 00:13:48.86 ID:xNYqHu2Eo
なんちゃって広島弁+東方不敗になっちゃってますね、これ
寝ます
おやすみなさい



引用元: 武内P「あだ名を考えてきました」