1: 2011/01/17(月) 21:12:07.70 ID:35Z8IjgAO
空。

芳佳「わー」

 わたし、飛んでる。

眼下に広がる濃紺の海も、淡く青い空も、遠く広がる雲も、その全てが懐かしく感じた。

 でも、一人で飛ぶ空って寂しいなぁ。

芳佳「……?」

見上げると遥か高い上空の暗闇に飛行機雲が伸びている。
その数、十条。

芳佳「……、行かなきゃ」

何故そう思うかはわからないが、とにかくそう思った。

2: 2011/01/17(月) 21:14:46.75 ID:35Z8IjgAO
しかし、どれほど上がろうとしてもまったく上昇する気配がしない。

次第に顔を叩き続ける風は強くなり、息をするのも、目を開けていられるのもやっとのくらいになってきた。

 空ってこんな辛いところだったっけ?

芳佳「……って、ええっ! わたしストライカーユニット履いてないの!?」

その時気付いた。

 わたし飛んでるんじゃない、墜ちてるんだ。
 怖い! 誰か……!

だが、身体は下に引っ張られ続け、
やがて叩きつけられた。



布団に。

3: 2011/01/17(月) 21:17:17.49 ID:35Z8IjgAO
空は既に白んでいた。

芳佳「起きちゃった。

   ……やだな、なんか嫌な夢だった気がする」

明け方の夢を思い出すのは難しい。
ただ胸にはどうしようもない焦燥感だけが残っていた。

寝ぼけた頭を醒ますために、ガタガタと障子を開けて小さな隙間から外気を入れる。

朝の空気は冷えた。
まだ探せば軒下に雪が残っているところもあるだろう。

芳佳「……やっぱり寒いや」

すぐに障子を閉めて、布団に潜った。

1946年、扶桑、春。

4: 2011/01/17(月) 21:22:24.32 ID:35Z8IjgAO
みっちゃん「芳佳ちゃーん!」

早朝から宮藤診療所の戸が叩かれた。

芳佳「う~ん、おはよ。どうしたの? みっちゃん」

みっちゃん「朝早くにごめんね。
   でもおばさんのところの牛さんが産気づいちゃって」

芳佳「えっ? もう!?
   来週のはずじゃなかったっけ……」

みっちゃん「うん! だから心配になって芳佳ちゃんを呼びに来たの!」

芳佳「ちょ、ちょっと待っててね……!」

自分の薬箱を抱え、靴をつっかける。

みっちゃん「こっちだよ!」
芳佳「うん!」


朝もやの中をみっちゃんに続いて走り出した。
瓶が飛び出さないよう、蓋を押さえながら。

薬箱が芳佳の腕の中でカタカタ鳴った。

5: 2011/01/17(月) 21:26:08.54 ID:35Z8IjgAO
数時間というお産を見届け、お礼の朝食まで馳走になると、おじいちゃんがトラクターで送ると言う。
その話をやんわり断ると、
それなら私が、と今度はみっちゃんが言い出し、結局送ってもらうことになった。

太陽は随分高くなっていた。
空気は冷たいが日の当たるところは暖かい。

芳佳「あー疲れたー。でも無事に産まれてよかったね、みっちゃん」

みっちゃん「うん! 芳佳ちゃんのおかげだよ」

その家路の途中である。

みっちゃん「見て見て芳佳ちゃん!」

6: 2011/01/17(月) 21:38:22.57 ID:35Z8IjgAO
横須賀港が一望出来る坂道でみっちゃんが指差したのは、
大きな戦艦。
見覚えのあるマスト。

 まさか。

芳佳「やま……と?」

みっちゃん「違うよ芳佳ちゃん。
   あれは大和の同型艦の武蔵だよ。
   昨日の夜入港したんだって。
   でもここで対ネウロイ用に改装されて、すぐどこかに派遣されるらしいよ」

芳佳「そうなんだ……」

そう、大和のはずがなかった。

半年ほど前、ヴェネツィアを支配していたあのネウロイとの決戦のあとロマーニャの岸に座礁した姿、
それが芳佳の覚えている大和の最後の姿だった。

7: 2011/01/17(月) 21:42:01.53 ID:35Z8IjgAO
みっちゃん「あとね、信濃って新しい航空母艦も艤装がもうすぐ終わるんだって。
   きっと扶桑のウィッチ隊の母艦になるんじゃないかなぁ」

芳佳「ふぅん……」

それからもみっちゃんはいろいろと扶桑海軍のことや、陸軍のウィッチ隊の話を続けたが、
懐かしい艦を見て、あの戦い、あの日々に思いを馳せ始めていた芳佳にはあまり耳には入らなかった。

久しぶりに思い出すのは、
あの空と、
共に翼を並べたあの仲間たち。

8: 2011/01/17(月) 21:45:04.09 ID:35Z8IjgAO
家に戻った芳佳を待っていたのは、
置き手紙も残さず出ていったことへの母清佳からの小さな咎めと、
今朝自ら訪れた坂本少佐に預かったという置き手紙だった。

芳佳「坂本さんから……」

最近は会っていない。
再び海軍養成学校の教官に復職したのは知っているが、それっきりだった。
たまに少佐から手紙が送られることはあっても、忙しいのを理由に返信は滞っていた。

それが何故今?

9: 2011/01/17(月) 21:48:40.19 ID:35Z8IjgAO
手紙の内容は至って簡潔。
明日横須賀基地に来て欲しい、とのことだった。

そういえば横須賀基地への差し入れの回数も少しずつ減っていき、
やがて門をくぐることもなくなっていたのを思い出す。

街には薬の買い出しに行くので機会が無いわけでは無い。

 なのに、なんでだろ。

芳佳「明日か……」

明日は応診が無ければ時間を作ることは可能なはずなのに、ふと行けない理由を探す自分に気づく。

芳佳「やだな。なに考えてるんだろ、わたし……」

10: 2011/01/17(月) 21:53:58.75 ID:35Z8IjgAO
午後の応診の予定はなかった。

母と祖母に診療所を任せ、芳佳は街に下りる。
薬屋で頼んであった薬を受け取り、新しい薬箋を渡すとその足で医学書を探した。
帰る途中で湿布を買い足すのを思い出して慌てて引き返すことになったので、帰宅は遅れた。

 山に薬草を採りにいくのは明日の朝にしよう。

夜は眠くなるまで洋医学書と辞書を並べて開くのが、芳佳のここ最近の日課なのだが、
今日はいっこうに眠くならない。

芳佳「今朝は早起きしたのになぁ」

ぼんやりとつぶやいた。

11: 2011/01/17(月) 21:56:22.38 ID:35Z8IjgAO
眠れない。
とりあえず本を閉じて明かりを落すと、布団にもぐって、天井を見上げた。

結局今日は何をやっても手につかなかった。

あの大和に似た艦と、坂本少佐からの手紙を見てから集中力がなくなっていたことは自覚している。

どうしても思い出してしまうのだ。

あの日々を。あの空を。

当たり前に出来たことが、出来なくなったあの日を。


忘れたいのに。

12: 2011/01/17(月) 21:58:31.69 ID:35Z8IjgAO
手のひらを見る。
月明かりでぼんやりとだが暗闇に浮かんだ。

もう烈風丸の跡は残っていない。

 坂本さんも……、

と、思う。

 こんな辛い夜を過ごしたのだろうか。

 明日訊いてみよう。

 ……会う理由ができちゃったな。



朝、また墜ちる夢で起きた。

13: 2011/01/17(月) 22:03:00.95 ID:35Z8IjgAO
扶桑皇国横須賀海軍基地。

正門前で明るい掛け声を上げて走るウィッチ練習生たちとすれ違った。
思わず目を伏せてしまう。

見知った門衛に坂本少佐からの手紙を見せると、それが許可証の代わりになった。

少し待たされたあと、久しぶりに会う土方兵曹に案内してもらう。
土方兵曹は姿勢を正してきぱきと歩いた。
芳佳がそのあとをついていこうとすると、どうしても変な歩き方になってしまう。

芳佳のくせの強いそとはねの髪がひょこひょこと揺れた。

14: 2011/01/17(月) 22:07:57.32 ID:35Z8IjgAO
ここでお待ち下さい、と言われたのは格納庫の前だった。

芳佳「ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げると、少しはにかんだ顔で敬礼された。
芳佳も慌てて返礼。

土方兵曹は少佐を呼びに行き、
一人になった芳佳は重い扉を開ける。
格納庫内は無人だった。

整備の人も誰もいない。
ただストライカーユニットの発進ユニットが十機並んでいるのみ。
しん、とした中を歩き、そのうちの一つに近づく。

零式艦上戦闘脚二二型甲。

かつて芳佳も履いたストライカーユニットだ。
大きく十番、と書かれている。

15: 2011/01/17(月) 22:11:02.89 ID:35Z8IjgAO
おそるおそる触れてみる。
極限まで薄く延ばされた板金の質感が懐かしい。磨かれた塗装がところどころ剥げていて地金が見えていた。
度重なる訓練で傷ついたのだろうか?

そっと撫でようとした時に、自分の指が震えているのを芳佳は知った。

坂本「待たせたな。宮藤」

広い格納庫に坂本少佐の声が響いた。

芳佳「坂本さん……!」
思わず触れていた手を隠してしまう。

坂本「急に呼びつけたのに良く来てくれた。すまなかったな」

芳佳「い、いえ……」

16: 2011/01/17(月) 22:15:13.46 ID:35Z8IjgAO
凛とした佇まい。
初めて会った日と同じ、海軍の白い制服に身を包んだ姿が芳佳には眩しい。

坂本「やはり気になるか?
   これはここの新人達のストライカーだ」

芳佳「そうなんですか……」
目を合わせられない。

坂本「未だ戦いを知らぬひよっこ達だが、やがて扶桑の空を守ってくれると……」

芳佳「……」
帯刀していないのに気付いた。

坂本「宮藤」

芳佳「はい……」

坂本「私はお前に謝らねばならぬと思っていた」

芳佳「……」

17: 2011/01/17(月) 22:17:22.19 ID:35Z8IjgAO
少佐は芳佳の沈黙を待って言葉を継いだ。

坂本「烈風丸は私が術式を練り込み、魔法力を込めて打った刀だ、というのは話したな。
   だが、今思えばその時私の中に沈んでいた怨念も、どうやら一緒に打ち込んでしまっていたようだ」

芳佳は無言を以て先を促した。

坂本「力を失いつつあることへの焦り、
   ウィッチであり続けたいという想い、
   武士として闘い続けたいという私の心、
   そして敵であるネウロイへの憎しみ。

   ……私はそれらの怨念を烈風丸に打ち込んでしまった」

18: 2011/01/17(月) 22:20:17.88 ID:35Z8IjgAO
坂本「ウィッチの根幹である魔法力を力に変え、眼前の敵を斬る救国の刀……。
   それが魔法力をいたずらに喰らう妖刀と気付いたのは、初めて烈風斬を撃った後のことだ。

   ……だが私はそれでも良いと思っていた。
   それで私の願いが叶うのならと。
   それで仲間たちの力になれるのならと。

   ……宮藤、お前が烈風丸を手にするまではな」

何も言えなかった。

 坂本さんは知っていたんだ。

烈風丸を手にすることがどれほどの危険を伴うか、ということを。

19: 2011/01/17(月) 22:24:07.71 ID:35Z8IjgAO
芳佳はあの朝の出来事を思い出す。

 無断で烈風丸を抜いて力を奪われたとき、駆け寄ってきた坂本さんはなんと言ったのか。

 よかった。

 そう言ってくれてたんだ。
 なんで忘れていたんだろう。
 あの時坂本さんが心配してくれたのは烈風丸じゃなくて、わたしだったのに。

 烈風斬を教えて欲しい、と言って断られたのも、
 あの後叱責された本当の理由も、
 わたしは……わたし、は。

芳佳「……………ずっと」

結んでいた唇をほどく。
身体の震えが止まらない。

20: 2011/01/17(月) 22:27:00.48 ID:35Z8IjgAO
芳佳「わたしは……、

   わたしはずっと自分に言い聞かせてきました。

   ……後悔していない、って。

   みんなを守れるのなら、わたしの願いが叶えられるのなら、

   烈風丸に魔法力を全部あげるって誓ったことを」

唇が震える。
言葉を紡げないほどに。

21: 2011/01/17(月) 22:31:46.78 ID:35Z8IjgAO
芳佳「魔法力が無くなったのを感じたときも、別に驚きませんでした。

   だってわたし、自分でそう願ったんですから。

   そしてわたしは魔法が使えなくても大事なものを守れるって証明したくて……、

   一生懸命医学の勉強して、みんなに心配しなくていいよって……。

   わたし、ちゃんとやっています。お母さんやおばあちゃんみたいにはできないけど……。

   ちゃんと……、ちゃんと……」

言葉が止まらない。

22: 2011/01/17(月) 22:34:08.16 ID:35Z8IjgAO
芳佳「だけど……!

   ……夢を見たんです。空を飛ぶ夢を。誰もいない空を。

   でもみんなはいるんです。

   ……もっと高い空に。

   なのにわたし行けなくって……。

   その、ストライカー履いてないから。

   だってわたし、ストライカーもう履けないから。

   だからいつも墜ちて……」

いつの間にか床に座り込んでいた。
もう自分でも何を言いたいのか、何を言ってるのか、わからない。

 そんな夢、わたし見てなんかいないのに。

23: 2011/01/17(月) 22:37:49.28 ID:35Z8IjgAO
芳佳「坂本さん教えてください……」

 ごめんなさい。

芳佳「なんであんな夢を見るかわからないんです」

 ごめんなさい、坂本さん。

芳佳「つらくて眠れないんです……」

 こんなこと訊いちゃいけないのに。

芳佳「どうすればいいんですか? 
   坂本さんもこんな夜を過ごしたんですか?」

 そんなことで悩むんじゃないって、

芳佳「また……、みんなのいる空に戻りたい……!」

 そう叱ってください。

24: 2011/01/17(月) 22:41:35.82 ID:35Z8IjgAO
少佐は震える小さな肩に上着を掛け、そしてひざをついて芳佳を優しく抱きしめた。

坂本「……宮藤、もういいんだ。
   お前はいつだって自分よりも他人を第一に考える」

 ごめんなさい。

坂本「だから今まで自分の胸の奥にしまった傷を自覚出来ていなかったのだな」

 ごめんなさい、坂本さん。

坂本「私の創った烈風丸がお前のその大きな魔法力で困っている人々を救うという夢を奪ってしまった。
   赦してくれとは言わん。



   ……恨んでくれていい」


芳佳の嗚咽が慟哭になった。

25: 2011/01/17(月) 22:46:01.08 ID:35Z8IjgAO
芳佳「ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」

 傷つけてしまった。
 坂本さんを。

 自分の魔法力すらうまく使えなかったわたしに、
 魔法力の使い方と、お父さんの遺してくれたストライカーユニットと、
 空と、飛び方と、いっしょに飛んでくれる仲間と、
 戦いを嫌ってたわたしに、大事なものを守る戦いを教えてくれた人を。
 わたしの願いを叶えさせてくれた人を。

 傷つけてしまった。
 全部、全部坂本さんがくれたのに。

 ごめんなさい、ごめんなさい坂本さん……。

26: 2011/01/17(月) 22:49:38.88 ID:35Z8IjgAO
坂本「……実はな、お前に会いに行ったことがある。
   だが魔法力を失ってなお、必氏に医術を学んでいたお前の姿を見てな。
   邪魔をしてはならぬと思って引き返した」

芳佳は頭を預けたまま少佐の胸の鼓動を聴いていた。

坂本「その時はお前の顔に笑みが無かったことに気付いてやれなかった」

耳より早く、ぼーっとした頭に直接響く少佐の声。

坂本「教鞭を持つには私もまだまだ力不足だな」

 このまま……、
 寝ちゃおっかな……。

少佐の胸に埋もれながら芳佳は目を閉じた。

27: 2011/01/17(月) 22:51:32.26 ID:35Z8IjgAO
坂本「今日は本当によく来てくれたな、宮藤。
   こうやって話せて本当に良かった」

しかし、

坂本「……? なんだ寝てしまったのか、宮藤?
   まったくお前という奴は……」

どくん。

少佐の大きな鼓動で芳佳は目を覚ました。

芳佳「……?」

坂本さん、と言いかけた芳佳の全身を震わせたのは、
今まで聴いたことのない大音量のサイレン。



災厄の報せだった。

28: 2011/01/17(月) 22:55:24.07 ID:35Z8IjgAO
格納庫すら揺すりそうなサイレンと、鳴り止まぬ鐘の音。明らかに演習のそれではない。

芳佳「空襲……警報?」

 でもなんで……。

坂本「違う!」

だが、この雰囲気は覚えがある。
身体が知っている。

坂本「こいつは……!」

 まさか、そんなことあるわけがない。

坂本「間違い無い……!」
目が険しくなり、少佐が唸りを上げる。

 うそだ。

坂本「ネウロイだ!!」

 うそだ!

32: 2011/01/18(火) 00:04:11.33 ID:+EvilyZAO
土方「少佐!」
格納庫の扉が開き、駆け込んで来たのは土方兵曹だ。

坂本「報告しろ! 土方!」

少佐は一瞬で上着の袖に手を通し、早足で向かう。
素早くボタンをはめる慣れた手つきが芳佳の涙の跡を隠していく。

土方「勝浦の電波探信儀がネウロイを捕捉!
   小笠原方面から予測速度20ノットで本土に向けて接近中です!」

坂本「距離は?」

土方「南方約46海里」

坂本「随分近いな」

土方「突然現れたそうです」

 ネウロイ。
 ネウロイがこの扶桑に?

33: 2011/01/18(火) 00:09:13.59 ID:+EvilyZAO
芳佳の座る格納庫の床を大勢の靴音が鳴らした。

ただならぬ雰囲気に芳佳の体がこわばる。

まず駆け足で入って来たのは整備士たちだ。
入ってくるや否や、それぞれの担当であろう発進ユニットの準備に取りかかってゆく。

続いて訓練生の証である扶桑海軍の赤い兵装を着た一団が息を切らせて走って来た。

坂本「遅いッ!!」
その喧騒を消し飛ばすほどの少佐の怒号。

しかし、少女たちはその声に怯まず、坂本少佐の前に横一線に並んだ。

十人。

誰一人身じろぎせず坂本少佐の言葉を待つ。

34: 2011/01/18(火) 00:12:51.25 ID:+EvilyZAO
坂本「たった今、我が扶桑皇国にネウロイが接近中との一報が入った」

息せきひとつたてずに誰もが少佐の言葉に耳を傾ける。

坂本「ネウロイは横須賀沖約46海里を毎時20ノットで進行して来ているとのこと。
   恐らく二時間以内には扶桑本土を射程圏内に捉えるだろう。
   現在電探からの情報のみでどのようなネウロイかは不明であるが、
   我々の任務は変わらん。

   ネウロイから扶桑を守ることだ!」

 扶桑が焼かれる?
 ガリアやヴェネツィアみたいに?

35: 2011/01/18(火) 00:16:23.59 ID:+EvilyZAO
慌ただしい格納庫の中、作戦卓を設営する傍らで、
緊張した面持ちを見せる練習生たちを前に坂本少佐の作戦説明が始まった。

坂本「貴様らは直ちに発進後、基地上空で待機。
   隊列の確認をしつつ、横須賀港より出港する海軍を待て。
   艦隊が湾外に出た後、外洋演習中の機動艦隊と合流し、ネウロイを洋上で迎撃する。
   予想会敵時間は一時間後。

   ……以上だ」

全員が踵を合わせる。

坂本「発進準備!!」

練習生「「はい!」」

36: 2011/01/18(火) 00:19:03.40 ID:+EvilyZAO
全員が一目散に自分のストライカーの発進ユニットへ走っていく。

坂本少佐がその背中に向けて声を飛ばす。

坂本「お前達も知っての通り、扶桑にはネウロイとの交戦経験を持つ者は少ない!
   故に誰もが現在も欧州やアフリカなどの前線に派遣されている!
   だが貴様らは扶桑に居ながらネウロイと交戦する機会を得た!
   幸運と思え!」

練習生「「はい!」」

発進ユニットにたどり着いた彼女たちは次々とストライカーを履いていく。

37: 2011/01/18(火) 00:26:22.13 ID:+EvilyZAO
ストライカーを身につけた若い魔女たちそれぞれに使い魔の印があらわれていく。

坂本「いいか! 空は広いが貴様らは決して一人では無い!」

発進ユニットの脇から格納されていた九九式二号二型改13mm機関銃が勢いよく飛び出した。

坂本「常に仲間を己の視界に入れろ!
   常に己を仲間の視界に置け!」

スリングを肩に掛け、銃把を握る。

坂本「気合いを入れろ!」

練習生「「はい!」」

十人の魔導エンジンが始動、回転が上がるにつれ、その音も段々と高くなっていく。

坂本「発進!!」

練習生「「了解!!」」

38: 2011/01/18(火) 00:31:23.90 ID:+EvilyZAO
足元に魔法陣を開き、一番機から順に発進していく。
おぼつかない挙動の者もいるが、その動きに不安は感じられなかった。

芳佳が触ったあの十番機が最後に発進する。

格納庫を抜け、滑走路を進む途中で風に煽られ少し横に流された。

芳佳「あっ……!」
その様子を目で追っていた芳佳の口から声が漏れる。

しかし、十番機はややふくらんだ軌道を保ったまま離陸すると、あっという間に上空に消えて行った。

 そっか。
 あの十番の子はわかってたんだ。

横にたなびく吹き流しに気付いた芳佳はくやしくなった。

 わたしだって……!

39: 2011/01/18(火) 00:37:57.09 ID:+EvilyZAO
力の入らない自分の体をなんとか立たせる。
座ってなんかいられない。

芳佳「あの! 坂本さん!」

未だ作戦卓で士官たちと打ち合わせ中の少佐に呼びかけたが、一瞥もされず片手で制された。
別に運ばれて来たストライカーユニットが芳佳の目に入る。

芳佳「坂本さん、……飛ぶんですか?」

坂本「ん? ああ。
   徐々に魔法力は衰えてきているはいるが、飛ぶことくらいはまだ出来る」
紙に何か書きながら少佐が答える。

坂本「なぁに、私ももうシールドも使えぬ身だ、無理はせん。
   だがなるべくなら、あいつらの近くで指示を出してやりたいと思ってな」

土方に指示書を渡すと芳佳の不安そうな目を見た。

40: 2011/01/18(火) 00:42:33.61 ID:+EvilyZAO
坂本「そう心配するな。
   後方で怒鳴るだけの、……簡単な仕事だ」

芳佳「で、でも……」

坂本「……。着けてみるか?」

芳佳「えっ?」

坂本「先程から気になって仕方が無いという顔だぞ」

芳佳「いいんですか?」

坂本「お前が決めるんだ、宮藤」

スレが壊れたところ、直します。。@荒巻 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/operate/1161701941/

41: 2011/01/18(火) 01:19:50.37 ID:+EvilyZAO
芳佳「…………、やります!」

決意に満ちた芳佳の瞳に反し、少佐の表情は冷ややかだった。
その表情に気付いた土方が少佐に耳打ちする。

土方「よろしいのですか?」

坂本「……構わん。やらせてやれ」

土方「ハッ!」

土方の指示で発進ユニットから整備士がさがり、芳佳が上にのぼった。

坂本「宮藤。今までのように飛び込まずにゆっくりと装着するんだ。
   いいな?」

芳佳「はい!」

42: 2011/01/18(火) 01:42:00.19 ID:+EvilyZAO
靴を脱いで慎重に腰掛ける。
目の前には一対のよく見知ったストライカーユニット。

 もしわたしに少しでも魔法力が残っていれば、ストライカーが履ける。
 ストライカーユニットなら魔法力だって増幅してくれるはず。

 空が飛べれば、
 治癒魔法が使えれば、
 みんなを守れるんだ。
 みんなの力になって、お父さんとの約束を守るんだ!

 わたしがみんなを守るんだ!

芳佳は強い決意を胸にストライカーに爪先から入れていく。

43: 2011/01/18(火) 01:58:40.56 ID:+EvilyZAO
しかし、

こつん。

ストライカーユニットから返ってきた感触は今まで知らなかったものだった。

坂本「……」

足裏で感じるのは冷たい感触。

芳佳「……」

そう、覚悟はあった。

 やっぱり、わたしに魔法力は残っていないんだ。
 お父さんの遺してくれたストライカーでさえ、わたしを受け入れてはくれなかった。
 やっぱり、わたしはもうウィッチじゃないんだ。

芳佳「……坂本さん」
助けを求める目で少佐を見る。

坂本「もういいんだ宮藤。今のお前には別のやり方で人を救える術があるだろう?」

芳佳「でも、わたしは……」
唇を噛んだ。

 くやしい。

44: 2011/01/18(火) 02:04:58.68 ID:+EvilyZAO
坂本「お前も防空壕へ行け。
   家族も心配しているだろう。
   それに……」

再び、耳をつんざく警報が少佐の続く言葉をかき消した。

通信士「坂本少佐! 先行していた哨戒機より入電!
   大型ネウロイから多数の子機が分離! 予測進路は扶桑本土!」

土方「なんだと! 数は?」

通信士「数が多すぎて計測出来ないそうです!」

土方「小型のネウロイなら150ノットを越えます……!」

坂本「……、皇国陸軍及び陸軍航空機隊に支援要請。
   水際で……食い止める!」

ドン!と拳を机に打ち付けた。

45: 2011/01/18(火) 02:10:59.05 ID:+EvilyZAO
坂本「それにしても強行偵察ではなく、いきなり本土の直接制圧とはな。

   ……小型ネウロイの侵入を許しただけで瘴気による深刻な被害が出るかもしれん」

土方「配備はどうしますか? 防衛線を下げて沿岸部での要撃を……」

坂本「陸軍にはウィッチと対空火砲による迎撃翌要請。
   我々海軍は広がりきる前の小型ネウロイ群を攻撃。
   突破後、我々ウィッチ隊と武蔵を中核とする打撃部隊で敵大型ネウロイを叩く。
   機動艦隊には合流次第双方の援護行動に出てもらうしかあるまい」
次々と報告、伝令が交錯する中、少佐と土方兵曹は発進ユニットに向かう。

土方「かねてより坂本少佐の推し薦めていた陸・海・空の連携がうまくいくといいですね」

坂本「ああ。
   土方、……近くに連合国艦隊がいるはずだ。なんとしても連絡を取れ。

   武蔵の出港状況はどうか!」

通信士「湾内の混乱からなかなか抜け出せないようです」

坂本「急がせろ。今のウィッチ隊だけではネウロイを倒しきれん。

   土方、私は上空から指揮を執る。あとは任せたぞ」

土方「ハッ!」

46: 2011/01/18(火) 02:16:59.09 ID:+EvilyZAO
少佐が発進ユニットに登るとまだ芳佳が座っていた。

坂本「まだいたのか宮藤」

芳佳「坂本さん、わたしにも命令してください。
   ……軍艦にだって乗ります。
   ……銃を撃てと言えば撃ちます」

少佐は芳佳のその血の気の引いた表情を見た。

坂本「今のお前に何が出来る。
   今、ここで、お前に出来る事など何も無い」

芳佳「坂本さん! お願いします! 命令してください! でないとわたし……!」

坂本「命令が欲しいか?

   なら命令してやる!

   お前は! ここで! 待機だ!!」

芳佳「……!!」

47: 2011/01/18(火) 02:26:45.24 ID:+EvilyZAO
力なく発進ユニットから降りる芳佳と入れ替わって、
土方が上がった。

土方「少佐、この扶桑刀を」

坂本「しかし、私はもう……」

土方「士気に障ります。それとも竹刀を背負って行きますか?」

坂本「フッ、そうだな。
   烈風丸を失って憑きが落ちたのか、随分肩が軽くなったと感じていたのだが、
   矢張りこれが無いと背中が寒くてかなわんな」

扶桑刀を背負い、ストライカーユニットに足を通す。
目の端で沈んだ表情の芳佳を見た。

坂本「土方。宮藤のことは、……頼む」

土方「お任せ下さい。
   では御武運を!」

魔導エンジンが回り、魔翌力光が身体を包む。
可視化したエーテル光とその下の魔法陣が輝き、少佐をゆっくりと押し出していく。

格納庫にいる全員が敬礼した。

坂本「坂本美緒、発進する!!」

48: 2011/01/18(火) 02:31:16.65 ID:+EvilyZAO
その声を聞いて芳佳は追った。
魔法力を失いつつも、教え子のために、扶桑のために、
あの苛烈な戦場の空に戻る坂本少佐の背中を。

芳佳「待って、待ってください坂本さん!
   わたしも連れてってください!」

格納庫を出て滑走路の堅い地面を踏むころには、
すでに少佐の姿は遥かに遠い空の上にあった。


 確かに魔法力を使わなくても患者を診る医術は身につけました。
 でも、わたしはみんなが傷つく前に助けたいんです……。

芳佳「坂本さぁぁぁぁん!!」

空に向かって絶叫した。

49: 2011/01/18(火) 02:48:18.06 ID:+EvilyZAO
熱い地面に両手をつく。

その甲に涙が落ちる。

ネウロイが来たら扶桑は灼かれる。
ガリアで見たような、人の住めない土地になってしまう。

 それなのにわたしは何もできない。

赤城でブリタニアへ向かう途中で、初めてネウロイと遭遇したあの時の、
何をしたらいいか分からず、艦内をうろうろするだけの何も出来なかった自分を思い出す。

 結局、わたしはまた一人残された……。
 お母さん、おばあちゃん、みっちゃん、ごめんね。
 お父さん、わたし約束守れないよ。


くやしい思いで、涙でぼやけた空を見上げる。

少佐の光が消え、別の光が二つ降りてきた。



???「あー、よしか泣いてるー」

 えっ?

???「なんだなんだ少佐の奴、宮藤泣かしたまま行っちまったのか?」

 ええっー!?

54: 2011/01/18(火) 20:54:24.63 ID:+EvilyZAO
ルッキーニ「ちゃお~、よーしか~♪」

 ルッキーニちゃん……?

シャーリー「よっ、久しぶりだなーっ! 宮藤!」

 シャーリー……さん?

シャーリー「いや~、ホントはもっと早く着く予定だったんだけど、ネウロイと鉢合わせしちゃってさ」
ルッキーニ「すっごくおおきいの!」

 なんでここに?

シャーリー「こりゃ扶桑に着くの遅くなっちまうぞって言ってたらさー、
   ミーナ隊長とバルクホルンが宮藤を迎えに行くかどうかで揉め始めてさー」
ルッキーニ「もめたもめた~」

 えっ? えっ?

55: 2011/01/18(火) 20:56:39.34 ID:+EvilyZAO
シャーリー「そしたらルッキーニが宮藤に早く会いたいって言うじゃないか。
   それで二人の目を盗んでこっそり抜け出して来たって訳さ」

ルッキーニ「だ~って、はやくよしかに会いたかったんだもん」

シャーリー「わかった、わかった」

驚きすぎて言葉が出ない。

シャーリー「ま、説明はあとあと。
   ほい、インカム」

 わ。

ルッキーニ「ほい、ゴーグル」

 わわ。

シャーリー「上空は寒いぞー」

 空!?

56: 2011/01/18(火) 21:05:19.49 ID:+EvilyZAO
シャーリー「じゃあルッキーニ、宮藤を頼むぞ」

ルッキーニ「はいはーい!」

ルッキーニが芳佳の後ろから腕をまわして抱きしめる。
芳佳は背中全体でルッキーニから流れてくる温かな何かを感じた。

 これ、ルッキーニちゃんの魔法力……?

芳佳の首元をルッキーニの息がくすぐる。

ルッキーニ「よしか、心配しないでね。
   わたしが守るから」


ぽっかりと芳佳の胸に空いていた穴が、二人の笑顔と優しい言葉で埋まってゆく。

目尻に残っていた涙を袖で拭う。
鼻がたれたが、ずずっとすすり上げた。

 もう、泣くもんか!

57: 2011/01/19(水) 00:34:53.18 ID:feZoTG/AO
シャーリー「よーし! 大和まで一直線だ!」
ルッキーニ「あいさー!」

 やまと?

ふわり、と地面の感覚がなくなる。
シャーリーが先頭、ルッキーニが芳佳を後ろから抱えてゆっくりと滑走する。

芳佳「ちょ、ちょっと待って。ここ、心の準備が……!」
足下を流れていく地面を見てお腹がきゅーんとなる。

シャーリー「行くぜ、ルッキーニ!」
ルッキーニ「れっつごー! シャーリー!」

芳佳「待って! 待って! シャーリーさん!
   ルッキーニちゃああぁぁぁぁぁぁ………!」

芳佳の悲鳴は空に消えていった。

58: 2011/01/19(水) 01:01:05.19 ID:feZoTG/AO
夢で見たあの空。
魔法力を失ってただ墜ちるだけのあの空は風が強く、冷たい場所だった。
まるで自分の居場所では無いと否定されたような気さえした。

だけど今は違う。
以前、自分の力で飛んだ空とは少し違うけど、
温かい、優しい空だ。

生身ならこうはいかないはずだと芳佳は思う。
風圧で目も開けられず、耳だって気圧で痛いはず。
息すら満足に出来ず、肌を刺すような寒さのはずなのに。

 そうか。

 これがウィッチの力なんだ。
 ルッキーニちゃんの魔法力のおかげで、わたしこんな上空にいられるんだ。

 ウィッチってこんなにすごかったんだ。

59: 2011/01/19(水) 01:11:09.30 ID:feZoTG/AO
ぐんぐんと高度が上がっていく。

ルッキーニ「よしか、まだこわい?」

芳佳「う、うん。ちょっとだけだけど」

ルッキーニ「じゃあいいこと教えてあげるね!
   両手を広げてみて。
   だいじょーぶ、わたしがちゃんと支えてるから」

芳佳「……こう?」

両手を広げる。

ルッキーニ「そんでね、手のひらを風に当てるの」

芳佳「うん……」

ルッキーニの言う通りにしてみる。

芳佳「おお……」

ルッキーニ「シャーリーのおっOいみたいでしょ!」

 確かに。

シャーリー「お、お前ら何やってんだよ!」

60: 2011/01/19(水) 01:14:55.22 ID:feZoTG/AO
芳佳「ところでルッキーニちゃん、大和って……」

ルッキーニ「ああ、やまと?
   マリアがね、ロマーニャを救ってくれた扶桑のお船をあのままにしておいちゃだめだって言ってさ。
   直して持って来たの!」

芳佳「マリア王女が……。けど、ロマーニャだってまだ大変なんじゃ」

ルッキーニ「それとね……、
   あ、そうそう! リーネとペリーヌも誘ったらいっしょに来てくれたんだよ!」

 リーネちゃんとペリーヌさんも!?

61: 2011/01/19(水) 01:22:14.98 ID:feZoTG/AO
シャーリー「わたしはサンフランシスコから合流したんだ。
   だってルッキーニの手紙って“大和で芳佳に会いに行くから、シャーリーも来て”だぞ?
   もう訳分かんなくってさ」

ルッキーニ「そーだ! よしか、あとで扶桑のご飯食べさせてよ。
   魚と缶詰ばっかりでさ~」

シャーリー「合流してみたら、ヴェネチア海軍にブリタニア海軍だろ?
   んでハワイでリベリオン海軍も合流しちゃってよー」

ルッキーニ「でもラムネはおいしかったんだよ?」


芳佳は目をぱちくりさせた。
なんか大変なことになってる。

62: 2011/01/19(水) 01:26:28.76 ID:feZoTG/AO
芳佳「ね、ねぇルッキーニちゃん。
   うれしいんだけど、なんでわたしを大和に?」

ルッキーニ「なんでって、よしかと扶桑とみんなを守るためじゃん」

 でも今のわたしじゃなにも。

シャーリー「よーし、そろそろ行くか!」

雲を見下ろす高度でようやく上昇を止めた。
まだネウロイは見えない。

芳佳「あのシャーリーさん。なんでこんな高くまで?
   まっすぐに行ったほうが早いんじゃ……」

シャーリー「なんでって、こっからのほうが速いだろ?」

 んん?

63: 2011/01/19(水) 01:30:30.38 ID:feZoTG/AO
ルッキーニ「シャーリー! よしかいるんだから、ぜっったいに速度上げすぎちゃダメだかんね!」

シャーリー「わーかってるって。
   ルッキーニこそわたしの尻尾に手が届く距離から離れるんじゃないぞ?」

ルッキーニ「まっっかせなさーい!」

芳佳「ル、ルッキーニちゃん。シャーリーさんについていけるの?」

ルッキーニ「んー、シャーリーがいうにはね。
   ぴったりくっついていったほうが風の抵抗もなくって楽だし、それにスピードも出るんだって」

芳佳「へー」

64: 2011/01/19(水) 01:35:57.02 ID:feZoTG/AO
シャーリー「宮藤、そんなに怖くならないから」
ルッキーニ「わたしたちを信じてね、よしか」

芳佳「うん」

 信じる!

目を閉じてルッキーニの細い腕を強く掴んだ。

シャーリー「せーのっ! パワァァァァ……!」
ルッキーニ「ダァァァァイブぅ!」

芳佳「……!!」
とんでもない加重と、頭から潰されるような衝撃。
轟音が芳佳の体を一気に突き抜けていった。

 そうだ、わたしゴーグルしてるんだった。

こわごわと目を開けてみる。

なにも見えなかった。

闇。

しかし、夢の中ではないと頭のどこかが警告していた。

65: 2011/01/19(水) 01:38:56.00 ID:feZoTG/AO
指先、足先が痺れる。耳鳴りも続くし、息もできない。
未だ闇の中で、自分の身体に何が起こっているかわからないが、
シャーリーとルッキーニの言葉を信じて目をつぶる。

ルッキーニ「よしか、もうちょっと待っててね。
   すぐに治るから」

 ルッキーニちゃんはわかってて言ってくれてるんだ!

シャーリー「ルッキーニ真下を見てみろ!」
ルッキーニ「ネウロイの第一波だ!」

風が優しくなった。スピードが落ちた、と身体が感じる。

シャーリー「意外と横に広がってるな」

ルッキーニ「げー」

66: 2011/01/19(水) 01:43:16.29 ID:feZoTG/AO
徐々に身体に温かみが戻ってきた。

こわごわと目を開けてみる。
真っ暗だった視界が明るくなっていき、ゆっくりと焦点が合っていく。
まず視界に入ったのはシャーリーの尻尾。
後ろに引っ張られすぎて、ぴーんとなっていた。

次に目に入ったのは、
芳佳「……ネウロイ」
乾いた唇が硬く結ばれた。

海面よりやや上を大きな黒い波がうねっていた。
その上方を三人は通りすぎる。

芳佳「あれが……ぜんぶ?」

シャーリー「まずいな。あれだけの数、扶桑の艦隊だけで抑えられるのか?」

67: 2011/01/19(水) 01:46:36.57 ID:feZoTG/AO
芳佳「シャーリーさん! ネウロイが!」

ルッキーニ「横須賀から出た艦隊とネウロイも追い越しちゃったね」

ルッキーニが振り向いてそんなことを言った。
魔法力の無い芳佳の目では、はるか後方に位置するという艦隊はまだ見えない。

シャーリー「う~ん。あの大和そっくりの……、武蔵だっけか?」

芳佳「はい、そうです!」

シャーリー「先行してるその武蔵と随伴艦の三隻なんだが、今のネウロイ群を射程に入れてるはずなのにまだ迎撃しない。

   小物は後続に任せて、本丸狙いの一本槍とは坂本少佐らしいな」

68: 2011/01/19(水) 01:51:42.83 ID:feZoTG/AO
ルッキーニ「シャーリー、どうしよ。やっぱり心配だよ、援護に戻る?」

シャーリー「せっかくここまで来たのに、宮藤連れたまま行く訳にはいかんだろ」

ルッキーニ「け~ど~さ~」

シャーリー「大丈夫大丈夫。
   どうやらこわ~いお姉さんに見つかっちまったようだからな」

 見つかった?



???「ほらほら見て見て! ホントにミヤフジがいるよー!」

???「くぉぉぉぉらぁぁぁぁー! シャーリィィィィー!!!!」

69: 2011/01/19(水) 10:09:40.89 ID:feZoTG/AO
シャーリー「よっ! 出迎えご苦労!」

バルクホルン「シャーリー! 貴様という奴は!」


ルッキーニ「じゃあよしか、またあとでねー♪」

エーリカ「久しぶりミヤフジ~、会いたかった~!」

芳佳「ハルトマンさんくるしいぃぃ~」


バルクホルン「命令も無しにこっそり抜け出すとは、一体どういう了見だ!
   シャーロット・イェーガー大尉!」

シャーリー「なんだよもう。うるっさいなぁ~」

エーリカ「ミヤフジ今度はわたしが連れてってあげるからね!」

芳佳「は、はい。よろしくお願いします」

空が少しずつ騒がしくなっていく。

70: 2011/01/19(水) 10:19:41.71 ID:feZoTG/AO
バルクホルン「そもそもネウロイを前にして部隊が一つになって立ち向かわねばならぬという、
   この重大な局面に於いてお前たちは……」


ルッキーニ「はやく行こうよ、シャーリー。
   ネウロイが扶桑の艦隊とぶつかっちゃうよ」

シャーリー「じゃあ、宮藤をよろしく頼むな、ハルトマン。
   私たちは武蔵の進路を拓いてから向かうよ」

エーリカ「うん! がんばってね」


バルクホルン「大体、宮藤を迎えに行くにしても、だ。
   わた……皆が会いたいのを我慢しているのに勝手に……」


シャーリー「宮藤、すぐに追いつくからな」

芳佳「はい。ルッキーニちゃん、シャーリーさんありがとうございました」

ルッキーニ「うん! またねよしか。
   シャーリー、はやくぅ!」

シャーリー「いよっしゃ!」

バルクホルン「なっ……。ま、待てお前たち!」

71: 2011/01/19(水) 10:24:51.18 ID:feZoTG/AO
垂直上昇から直角に水平飛行へ。
二人は衝撃波を残してあっという間に消えていった。

エーリカ「まったね~」

バルクホルン「全く。……ところでハルトマン」

エーリカ「なぁに? トゥルーデ」

バルクホルン「なんで宮藤はお前に抱かれているんだ?」

芳佳「す、すみません」

バルクホルン「いや別に宮藤が悪いわけじゃないんだ」

エーリカ「だ~ってトゥルーデ両手に銃持ってんじゃんか。
   それなのにどうやってミヤフジ連れてくんだよぅ」

バルクホルン「別に背中に回せば問題ないだろう!」

エーリカ「じゃあわたしは何すりゃいいんだよ」

バルクホルン「私たちの援護があるだろう!」

エーリカ「えーっヤダヤダ。そんなのつまんない~」

72: 2011/01/19(水) 10:31:11.52 ID:feZoTG/AO
バルクホルン「とにかく! 宮藤の無事が最・優・先・事・項・だ!」

エーリカ「ムダ話はあとあと! もうこれでいいじゃん。
   はやく行こうよトゥルーデ」

バルクホルン「何を言ってるんだ! 宮藤を届けるのが私たちの任務だぞ。
   それなのにお前が両手で宮藤を抱いていたら銃が使えないじゃないか。
   じきにネウロイの第二波がやってくるというのに、その中を丸腰で飛ぶ気か?」

 ネウロイの第二波?

エーリカ「わたしが後衛につくからトゥルーデが前衛でいいだろ」

バルクホルン「銃も持たずにあの大群の中を飛ぶのは危険だと言ってるんだ!」

エーリカ「じゃあ、これでいい?」

芳佳「ぅわ」

バルクホルン「ハルトマン! 貴様宮藤を片手でぶら下げて行く気か!」

73: 2011/01/19(水) 10:34:20.55 ID:feZoTG/AO
エーリカ「でもこれで問題ないでしょ?」

バルクホルン「くっ!
   ……いいなハルトマン。くれぐれも無理な機動で飛ぶんじゃないぞ。
   宮藤を連れてることを片時も忘れずに……」


芳佳「すみませんバルクホルンさん、よろしくお願いしま……」
エーリカ「せーのっ、どーん!」
芳佳「ぅぉっ…」
エーリカ「にゃはははははは~」

        ぁぁ            ぁ…」
       ぁ  ぁ         ぁぁ
      ぁ    ぁ       ぁ
      ぁ    ぁ       ぁ
       ぁ  ぁ      ぁぁ
        ぁぁ     ぁぁ
芳佳「ぎにゃぁぁ  ぁぁぁぁぁ

バルクホルン「うおぉぉぉぉ~い!!」

75: 2011/01/19(水) 16:21:42.47 ID:feZoTG/AO
ネウロイの第一波を追って海面すれすれを飛ぶ二人。
波間に跳ねる飛び魚を見つけても、ルッキーニの表情は沈んだままだった。

ルッキーニ「ねぇ、シャーリー……」

シャーリー「どうした? ルッキーニ」

ルッキーニ「よしかさ、少佐の言う通りだったね。
   もしかしたらさ……、わたしのやったことって」

シャーリー「……、大丈夫。
   宮藤だってきっと」

ルッキーニ「うん……」

第一波、その黒い波の中程が光った。

シャーリー「接触したようだ。
   ネウロイの壁を抜いて、武蔵の道をつくる!」

ルッキーニ「うん!」

76: 2011/01/19(水) 17:29:24.78 ID:feZoTG/AO
エーリカ「ミヤフジ、まだこわい?」

芳佳「ううん。もう大丈夫、です」

 ……そうだった。

芳佳「あ、あのハルトマンさん」

エーリカ「ん、なにー?」

芳佳「ええと……。本、ありがとうございました」

エーリカ「あぁアレ?
   ロマーニャから引き払うときにさ、あんまりにも荷物多かったからさ、ミヤフジのトコに送っちゃった。
   迷惑だった?」

芳佳「い、いえ! ただあんなに高価な本たくさんもらっちゃって、本当によかったのかなぁって」

エーリカ「いーのいーの。
   わたしはもう読んじゃってるし、役に立つのはまだあとになると思うからねー」

ある日、突然届いた大きな木箱。
その重さと中身に芳佳は目を丸くした。
扶桑では決して手に入らないカールスラント語の医学書がぎっしり。

その時にエーリカが自分と同じ夢を持っていたのを思い出したのだ。

77: 2011/01/19(水) 17:35:01.03 ID:feZoTG/AO
芳佳「……! ハルトマンさん、あれ!」

芳佳の指差す前方に黒い渦が巻いている。

エーリカ「あれがネウロイの第二波だよ。
   きっと第一波は広く展開することで防衛線が整う前に抜けようとしてたんだろうけど、
   扶桑の対応が早かったんだろうね」

芳佳「あの大群、まっすぐ進んでるんですか?」

エーリカ「きっと群れを集中して防衛艦隊の一点突破を狙ってるんだ。
   親ネウロイを倒しちゃう前に扶桑本土に着くかも」

近づくにつれて螺旋を描きながら進んでいるのが、芳佳の目にも確認できた。


バルクホルン「ひょっとしたら武蔵を狙ってるのかもしれないな」

芳佳「バルクホルンさん」

バルクホルン「武蔵は大和の同型艦だ。ネウロイからして見れば警戒してもおかしくはないだろう」

78: 2011/01/19(水) 17:43:18.57 ID:feZoTG/AO
エーリカ「わたしたちの任務はミヤフジを大和に連れてくことだけど、
   あのネウロイを見逃してくと後続が危ない。
   どうすんの? トゥルーデ」

バルクホルン「無論……、強行突破だ!」

芳佳「ええっ!?」

エーリカ「正面からぶつかって戦力を散らすんだね」

 そうか。

バルクホルン「所詮は子機だ。薄く広がれば艦船の火器で十分対応出来る」

 ハルトマンさんはバルクホルンさんの性格と火力と、大和と合流しようとしてる扶桑の海軍のことも考えた上で、
 さっきはわざとああ言ったんだ。

エーリカ「蹴散らしちゃえ、トゥルーデ!」

バルクホルン「おう! 宮藤を離すなよハルトマン!」

エーリカ「あいよっ」

 この二人ってこうなんだ!

79: 2011/01/19(水) 17:47:57.73 ID:feZoTG/AO
    ―扶桑本土―

  扶桑海軍横須賀艦隊↓

      武蔵↓

       ↑
   ~ネウロイ第一波~
       ↑
  シャーリー&ルッキーニ


    わたし&ミヤフジ↓
     トゥルーデ↓

       ↑
   ~ネウロイ第二波~


       ↑
   親ネウロイvs大和


エーリカ「ちなみに今はこんな感じだよ」

芳佳「わざわざありがとうございます」

80: 2011/01/19(水) 17:53:13.97 ID:feZoTG/AO
バルクホルンが増速。
エーリカが芳佳の手を引いてその後に続いた。

接敵。
バルクホルンの二丁のMG42が吠え、先陣の小型ネウロイ群を粉砕、
と同時に黒い渦が二手に分かれた。

エーリカ「うわ! なにこいつら、ヘビみたいになってる!」

ゆっくりと横切るネウロイが芳佳の目にも写る。
小型といっても、その一つ一つは芳佳と同じくらいの大きさだ。
しかもそれらは連なり、まるで巨大な蛇のようになっていた。
そしてそれぞれが回転している。

芳佳「なんで回って……?」

しかし銃弾が回転する翼端で弾かれるのを見てその理由を理解した。

エーリカ「トゥルーデ! 横からの射撃が弾かれてる! 正面から狙ってかないと!」

バルクホルン「確認した。先頭から倒していくしかないな!」

二本の黒い蛇が互いに距離を取るバルクホルンとエーリカを追う。

81: 2011/01/19(水) 18:05:46.97 ID:feZoTG/AO
バルクホルンは常にネウロイと正対しながら旋回半径を小さくとり、
迫るネウロイを後ろ向きに飛びながら正面から削っていった。

対してエーリカは芳佳とMG42をぶら下げて大きく弧を描く。
そして後ろに向けた銃の引き金を引き続けた。

芳佳「ハルトマンさん! ハルトマンさん! 後ろ見てないのに狙えてるんですかぁぁぁぁ!?」

エーリカ「じゃあミヤフジが代わりに見てみて」

ぷらーんとしている自分の足元を見てみる。
足を伸ばせば届きそうなくらいにネウロイが迫っていた。
エーリカは背後にシールドを張り、細かいビームを防ぎながらも、バレルロール。しかし照星はネウロイを捕らえ続ける。

芳佳「すごい」
エーリカ「ただ真後ろから追ってくるんだから簡単だって」

芳佳の視界にバルクホルンの姿が入った。
芳佳「あれ……?」

82: 2011/01/19(水) 18:14:04.50 ID:feZoTG/AO
芳佳「ぉわ」

ちょっとした芳佳の疑問を吹き飛ばすようなエーリカの戦闘機動。
急上昇したあとは急下降。
右旋回しながら半回転して左旋回。
水平線が何度も上下に入れ替わったかと思えば、今度は縦に回り出した。

芳佳「ぐぐっ……。ううううぅ……。わっ! わっ! わわわーっ!!」

目が回る。一体自分がどの向きなのか、今どこにいるのかもわからない。

やっと水平飛行になると、バルクホルンの姿が正面に見えた。その顔がこちらを向く。

バルクホルン「ハルトマン! 宮藤を連れていることを忘れるなよ!」

 やっぱり……!
 ハルトマンさんとバルクホルンさんはこんな複雑な動きの中でも、互いの位置を常に意識してるんだ。

83: 2011/01/19(水) 18:21:01.73 ID:feZoTG/AO
エーリカ「ミヤフジ、まだこわい?」

芳佳「えっと、目が回ってよくわかんない、です」

エーリカ「うーん、ならもうちょっとこっちにおいで」

一瞬手を離し、芳佳を小脇に抱えた。
すかさずお姉ちゃんの声が飛ぶ。
バルクホルン「見てたぞハルトマン! 手を離すなと言っただろうが!」

エーリカ「だーいじょうぶだってば、もう!
   これならこわくないよね? ミヤフジ」

芳佳「はい! ハルトマンさんの周りって風が優しくって、なんか柔らかいんですね」

エーリカ「うんっ、これがわたしの魔法だよ!」

そう言いながらも常に動きを止めず、銃火をネウロイに向け続ける。

エーリカ「ねぇねぇミヤフジ」

芳佳「はい?」

エーリカ「わたしはね、ミヤフジには感謝してるんだ」

 ハルトマンさんがわたしに?

84: 2011/01/19(水) 18:26:03.76 ID:feZoTG/AO
トゥルーデにはナイショだよ?と前置きして、
エーリカ「トゥルーデはさ、ミヤフジと会う前まではもっとも~っと堅かったんだ」

芳佳「バルクホルンさんが?」

エーリカ「うん。ま、それはわたしと会う前からそうだったんだだろうけどさ。
   ……でもあの日からはもっと堅くなったんだ」

芳佳「くわしくは知らないんですけど、カールスラントが陥落したことと妹さんのことですか?」

エーリカ「そうだよ。
   別に戦い方や、任務優先のトコなんかは昔からなんだけど、ほんのちょっとだけ前に出過ぎてたの」

芳佳にはその差はよくわからない。

エーリカ「でもね! ミヤフジが来てからすっごく変わった!
   だからわたしはそれがすっごくうれしいの!
   ありがとね! ミヤフジ!」

芳佳「い、いえ」

 なんと言えばわからない。
 でも、これだけはわかる。

 ハルトマンさんはバルクホルンさんのことが大好きなんだ。

85: 2011/01/19(水) 18:33:41.75 ID:feZoTG/AO
バルクホルン「ハルトマン!
   このままじゃ埒が明かん! こいつらを引き連れてでも大和へ向かうぞ!」

エーリカ「これでいーんだって」

 えっ?

バルクホルン「何を言っている! 我々はこの空域から全く進んでいないんだぞ!?」

エーリカ「トゥルーデ~。わたしたちだけじゃあの大きなネウロイを倒せないから、
   扶桑の本隊の戦力を当てにして合流しに来たんだろ?
   それなのにわたしたちだけ大和に行ってどうするんだよぅ」

 あ、そうか。

バルクホルン「だからといってだな」

エーリカ「この辺りならちょうど距離と速度からいってもさ、
   大和と武蔵でネウロイを挟み撃ちに出来るんじゃない?」

 ハルトマンさんすごい。

バルクホルン「しかしこの調子ではこいつらを倒すのに時間がかかりすぎる! 火力が足りてないんだ!」

エーリカ「それも大丈夫!」

86: 2011/01/19(水) 18:45:15.03 ID:feZoTG/AO
バルクホルン「なにか考えがあるんだな」

エーリカ「うんっ! ミヤフジ、しっかりつかまっててね!

   トゥルーデ、アイネ・シュランフェ・ビルデン!」

バルクホルン「式典用の飛行でどうするんだ!」

しかし、そう言いながら二人は十分に離れてゆっくりと旋回。ネウロイも追って続く。
遠くでも見えるような大きな、大きな黒い円が青空に二つ描かれた。

エーリカ「トゥルーデ準備はいーい?」

バルクホルンの口角が上がる。
どうしても笑みが浮かんでしまう。

 あいつの思いつくことだ、どうせ面白いことに違いない。

バルクホルン「あぁ、任せろ!
   ついて来いよ、ネウロイ!」

エーリカとバルクホルンが互いに向き合い、同時に加速。
ぐんぐんと距離が縮む。
二つの黒い丸が崩れ、一本になろうと動き出した。

芳佳「当たっちゃうぅ!」

エーリカに抱えられた芳佳は、全く速度を緩めようとしないバルクホルンを正面に見て悲鳴をあげた。

87: 2011/01/19(水) 18:49:22.75 ID:feZoTG/AO
だが、エーリカはすれ違いざまに小さくバレルロール。バルクホルンと航跡を絡め合う。

二人を追うネウロイも全く同じ軌道を描いたため、二匹の黒い蛇はその長い巨体を絡め、擦りあった。
じゃらららら、とネウロイを構成する鋼鉄の擦過音が鎖のような音を立てる。

そんな様子も省みずバルクホルンはすぐさま上昇して、宙返り。
そしてエーリカはその周りを旋回する。
ネウロイもまだその軌道をなぞる。


芳佳の目の前をバルクホルンと黒い鎖が何度もすれ違った。
怖くなって目を閉じた途端にじゃらん、と鎖の音も止んだ。

芳佳「あれ……?」

目を開けたらとんでもないものが出来上がっていた。

空に結ばれた信じられない大きさの、
芳佳「ちょうちょ結びだ……」

88: 2011/01/19(水) 19:00:13.94 ID:feZoTG/AO
エーリカ「ほらほら見てよ! キレイに出来たじゃーん!」

芳佳「うわー! すごーい! なにあれ、どうやったらあぁなるんですかぁ?」

バルクホルン「……だがなハルトマン、こんなの作ってどうする気なんだ?」

エーリカ「うーん、目印と標的?
   ほら、離れて離れて」

バルクホルン「何?」
芳佳「どういう意味ですか?」


ひゅるる、と風切り音。

蝶結びのネウロイにロケット弾が二発突き刺さると、身動き出来ないまま爆圧で粉々になり、爆風に吹き飛ばされていった。



???「みんなー、無事ー?」

???「もー、あんまり遅いから迎えに来ちまったゾー」

89: 2011/01/19(水) 19:08:24.93 ID:feZoTG/AO
サーニャ「芳佳ちゃん、大丈夫だった?」

芳佳「うん! ありがとうサーニャちゃん」


エイラ「大尉たちがもたもたしてっから、でっかいネウロイだって随分扶桑に近づいちゃったじゃナイカ」

バルクホルン「問題無い。戦略的な理由があってのことだ。
   な? ハルトマ……」


エーリカ「さーにゃん。ヤフジのことよろしくね」

芳佳はエーリカからサーニャへ。

芳佳「よろしくねっ、サーニャちゃん」

サーニャ「うん。一緒に行きましょう、芳佳ちゃん。
   エイラ、わたしたちは先に行ってるわね」


エイラ「エ゛?
   ちょ、ちょっとマッタ。ななっ、なんでサーニャが宮藤をだだだ抱いて……!」

バルクホルン「ま、待ってくれ!
   私だってまだ一度も……!」


芳佳「ハルトマンさん、バルクホルンさんありがとうございましたー」

エーリカ「いってらっしゃーい。わたしたちはこっち片付けてから行くからねーっ」


二人「ええええーっ!!」

92: 2011/01/19(水) 22:40:11.07 ID:feZoTG/AO
レスあるとうれしいです
ありがとう

>>74
マロニーさんの出番はないの、ごめんね

ではエイラーニャ編いきまーす

93: 2011/01/19(水) 22:48:11.27 ID:feZoTG/AO
サーニャ「芳佳ちゃん、怖くはなかった?」

芳佳「うん、なんかもう慣れちゃったみたい」

サーニャ「よかった」

芳佳「ねぇサーニャちゃん。
   ハルトマンさんたちもなんだけど、みんなロマーニャから大和に乗って来たの?
   ずいぶん長い船旅だったんじゃない?」

サーニャ「ううん、違うの。
   わたしとエイラ、そしてハルトマンさんにバルクホルンさんとミーナ中佐はハワイで合流したの」

芳佳「ハワイって……、太平洋の真ん中の?」

サーニャ「そうよ。
   わたしたちはロマーニャを解放したあと、ガランド少将の提案で北欧ネウロイの勢力頒布図の調査に出たの。
   ディープヨーロッパを時計回りでカールスラント、そしてスオムス経由でオラーシャへとこう、ぐるーっと」
指で円を描く。

芳佳「そんなに……」

94: 2011/01/19(水) 22:52:05.82 ID:feZoTG/AO
芳佳「……! それじゃあウラルの向こうにも? 家族のみんなにも会えたの?」

期待に芳佳の声が上ずる。
だが、円の途中でサーニャの白い指が止まった。

サーニャ「ううん。途中で寄ったオラーシャの基地でね、ルッキーニちゃんと坂本少佐からの手紙を受け取ったの」

芳佳「えっ……」

 坂本さんからも?

サーニャ「ノイエ・カールスラント宛になってたから、きっとわたしたちの行程に間に合わなかったんだと思う。
   その……、けっこう日が経ってたから。
   そこで手紙を読んだわたしたちは少将に了解を得た上で、オラーシャの東、ウラジオストク行きの飛行機を……」

芳佳「ちょっと待って! ちょっと待ってよサーニャちゃん!」

 そんなのいやだよ!

95: 2011/01/19(水) 22:57:28.25 ID:feZoTG/AO
芳佳「そんな……。
   だって、だってサーニャちゃん家族にあんなに会いたがってたのに……!
   それなのに……」

サーニャ「いいの」
芳佳「よくないよ!」

サーニャ「ううん。いいのよ芳佳ちゃん。
   ……わたしが自分で決めたの。

   それに芳佳ちゃんが教えてくれたのよ?

   “あきらめないでいれば、きっといつかは会えるよ”って」

芳佳「だけど……」

サーニャ「だからいいの。
   きっといつか会えるって、わたしもそう信じてるから」

芳佳「サーニャちゃん……」

サーニャ「だからそんな顔しないでね、芳佳ちゃんっ」

芳佳「うん……!」

 ありがとう、サーニャちゃん。

96: 2011/01/19(水) 23:02:26.81 ID:feZoTG/AO
エイラ「ナンダヨモー。二人で先に行くなよナー」

サーニャ「エイラ、ごめんね」
芳佳「エイラさん」

エイラ「サーニャ、ミヤフジ重いダロ?
   ほらボサボサするんじゃないぞミヤフジ! こっちに来い来い」

サーニャ「エイラ、そんなこと言っちゃ失礼でしょ」

芳佳「い、いいよサーニャちゃん。フリーガーハマーって重そうだし」

エイラ「まったく! いつまでもくっついてんじゃないゾ!」

サーニャ「エイラ、あんまり無茶な飛び方して芳佳ちゃん困らせないでね」

エイラ「わかってるって。
   サーニャもわたしのあとをしっかりついて来いよ。そうすれば絶対に、大丈夫だからナ」

サーニャ「うんっ」

エイラ「ミヤフジ、見えるか? 大和はすぐそこまで来てる。ネウロイと一緒にナ」

目を凝らす。
海に黒い煙突の煙が数本。
そして黒いシミのようなものが空に浮かんでいる。

芳佳「あれが……?」

97: 2011/01/19(水) 23:07:49.14 ID:feZoTG/AO
エイラ「最初にわたしたちが見たときは、もっと大きかったンダ。
   けどさ、こうわらわらーっとさー」

芳佳「あの子機のこと?」

サーニャ「そうよ。まるでウロコが落ちるみたいにどんどんはがれていったの」

エイラ「そっから大騒ぎ。ミヤフジを迎えに行くか、ネウロイやっつけるかどうするかって」

サーニャ「一度は艦隊総出で総攻撃を仕掛けてみたんだけど、半分吹き飛ばしてもコアが出てこなかったの」

エイラ「で、ミヤフジと、ついでに少佐も連れてこようって話にまとまったら」
サーニャ「ルッキーニちゃんとシャーリーさんの姿が無かったの……」

芳佳「なんか……、大変そう」

エイラ「他人事じゃないダロ……」

芳佳「え? あっ、うん」

だが、そもそもそんな状況に今の自分が行ったところで、事態が好転するとは思えないのだ。

98: 2011/01/19(水) 23:12:27.25 ID:feZoTG/AO
芳佳「ねぇ、どうしてわたし……」

エイラ「あ、そうだ! リーネが前に戦ったネウロイとよく似てるって言ってたゾ!
   ミヤフジ、お前は何か知らないノカ?」

芳佳「えっ、リーネちゃんが?
   うう~ん。
   ……大和を襲ったネウロイかなぁ~。あのネウロイ大きかったから」

エイラ「そいつはどうやって倒したんダヨ~?」

芳佳「必氏だったからよく覚えてないや、ごめん」

サーニャ「気にしないで芳佳ちゃん」

芳佳「うん、ありがとう」

エイラ「……キタゾ」
エイラの声が険しくなった。
サーニャの表情も固くなる。

艦隊とネウロイを取り囲むおびただしい敵の数。
あちこちで赤いビームが飛び交っている。

サーニャ「あれがネウロイの直掩部隊よ」
エイラ「艦隊の足止めをしているナ」

芳佳「あ、あの中を飛んでいくんですかぁぁ!?」

99: 2011/01/19(水) 23:17:03.98 ID:feZoTG/AO
エイラ「当たり前ダロ。何言ってんダ? オマエ~」

サーニャ「エイラを信じてあげて、芳佳ちゃん。
   きっと大丈夫だから」

芳佳「う、うん」


エイラ「じゃあ、サーニャ、露払いヨロシク!」

サーニャ「わかったわ、エイラ」

サーニャはフリーガーハマーを軸にくるりと回転。
重い武器を振り回すことなく、発射体勢に。

芳佳「きれい……」
エイラ「ダロ?」

サーニャ「……こ、この子の扱いには慣れてるから」

総弾数九発、そのうち二発は既に使っている。残り七発からまず二発を放つ。
大きな発射音に芳佳は耳を押さえた。

続いて第二射。
連続するあまりの轟音に芳佳は顔をしかめたが、サーニャの横顔は涼やかなものだった。


横に並んで飛ぶ四つのロケット弾。
その尾部から発生する噴射煙が風でやや左に流れた。

エイラ「よし、行くゾ!」

100: 2011/01/19(水) 23:23:08.20 ID:feZoTG/AO
低空で艦隊を狙っていた小型ネウロイ群は上空から接近する敵を感知。迎撃に上がる。
サーニャのロケット弾はその先陣を切った群れの鼻っつらに炸裂した。

芳佳「うわーっ!」
膨れ上がる四つの火球に芳佳が歓声をあげる。

芳佳「うわわーっ!?」
しかし、その火球を飛び越えて来た大量のネウロイ群の攻撃に今度は悲鳴をあげた。

数十のビームが視界を埋めつくす。
しかしエイラはその空間ごと大きく避けた。

エイラ「心配スンナ。わたしは未来予知の魔法が使えるって知ってるダロ?」
芳佳「で、でもでも!」

すぐに別方向からの攻撃。
これも避ける。

芳佳「エイラさん、下! 下! ……って後ろも!?」

エイラは旋回上昇で背後からの攻撃をかわし、
続けて逆落としで横からの攻撃をかわし、
最後に実にゆっくりとした挙動で真下から迫る赤いビームをかわした。

エイラ「気が散る」

芳佳「ご、ごめんなさい」

101: 2011/01/19(水) 23:27:46.73 ID:feZoTG/AO
芳佳「エイラさんって……、本当にすごいんですね」

エイラ「へっへ~ん♪ ソウダロソウダロ~?」

気を良くしたエイラは身を小さく翻してビームを避ける。
四方八方、目に見えない角度の攻撃すら避ける。
避ける。
避ける。
避ける。避ける。避ける。避ける。避ける。避ける!

芳佳のすぐそこをビームがかすめた。

エイラ「……、と言ってもあくまで直前の未来予知なんだけどナ」

 これじゃ近未来予知じゃなくて、至近未来予知だよ、エイラさん。

エイラ「ミヤフジ、アレが親玉ネウロイだ。見えるカ?」

ネウロイ。

雲の向こう、やや霞んでいてもその大きさと形は芳佳にも判った。
地中海洋上の大和を襲ったネウロイに確かに似ている。

やや筒状。

 前のはもっと丸かったかな?

102: 2011/01/19(水) 23:31:39.82 ID:feZoTG/AO
雲間からゆっくりとネウロイの巨体が姿を現す。

そのほとんどはツヤの無い黒い部分で覆われ、光を反射することは、まず無い。
それとは対照的に散りばめられた紅い模様が毒々しさを放つ。
そのネウロイの紅い部分が煌めくと、無数のビームを吐き出した。
ビームの雨が降り注ぎ、艦隊を襲う。


 確かに今までのネウロイより大きく、強そうだ。

芳佳「あんなのが扶桑に来たら……」

エイラ「そんなことはさせない」

芳佳「エイラさん……」

エイラ「ゼッタイにさせないゾ!」

芳佳「うん……!」

ネウロイが赤く光る。
再び放たれた数十のビームは途中で折れ曲がり、前方で収束。
太い束となったビームは真紅の火柱となり、海上を走った。

芳佳「ああっ!」

ついに一隻の艦がそれに捕まり、水柱と黒煙を上げた。

103: 2011/01/19(水) 23:36:38.30 ID:feZoTG/AO
芳佳「エイラさん!」

エイラ「わかってる! サーニャ!
   わたしたちがあのネウロイの攻撃を引き付ける! 上空から艦隊を誘導してやってクレ!」

サーニャ「うんっ!」

エイラ「ミヤフジ!」

芳佳「いいよ! 今はわたしのことよりみんなを守って!」

エイラ「ヨシ! サーニャ、自分のためにタマは残しとけヨ!」

サーニャ「エイラ、芳佳ちゃん、行って!」

エイラ「アイヨ!」
銃を肩に掛け、急発進。
被弾し、浮足の止まった艦とは反対方向へ、親ネウロイへ進路をとる。

その前に小型ネウロイとその弾幕が立ち塞がった。

エイラ「ン……!」
エイラはその全てをくぐり抜け、さらに速度を上げる。

しかし、また別の群れが目の前に現れた。

芳佳「なんでこんなにいるの!?」

エイラ「親玉に近付けたくないからに決まってんダロ!」

104: 2011/01/19(水) 23:39:24.55 ID:feZoTG/AO
凄まじい火線をエイラは避け続ける。
そのエイラと片手で繋がり、ただ引っ張られるだけの芳佳がふと横を見た。

ロケット弾がフラフラと揺れながら飛んでいた。

芳佳「???」

そのロケット弾がゆっくりとエイラと芳佳を抜いていく。

それを横目で確認したエイラは垂直に急降下。
その直後、頭上、いや足元から爆発音が響いてきた。
その音と同時に全速上昇。
さらに背後からのビームをパス。

エイラ「よし、あと少し!」
芳佳「がんばってエイラさん!」

まだ距離はあるものの、ようやくネウロイ親玉の正面へ到着した。

エイラ「さてと、ノックくらいしてヤルカ」

言葉とは裏腹に、ノックとは程遠い量の弾丸が発射された。

数瞬後、ネウロイの外殻に小さな白い花が幾つも咲いた。

105: 2011/01/19(水) 23:42:39.26 ID:feZoTG/AO
芳佳「そんな……、全然効いてないなんて」

エイラ「……なぁミヤフジ」

芳佳「えっ、なんですか?」

ネウロイの正面から動かないエイラに、あらゆる方向からビームが襲う。
そのビームを軽々と避けながらエイラは続ける。

エイラ「私はさ、ずっと不思議に思ってたンダ。

   扶桑のウィッチは……、
   なんで避けないんだろうって。

   お前もそうだったんケド、坂本少佐もシールドをよくはってたんだヨナ~。
   だって明らかに避けられる正面からの攻撃も防御するんだゾ? 不思議に思うのも当然じゃなイカ」

眼前の巨大なネウロイが再びビームを収束させる。

それなのにエイラは動こうとしない。

芳佳「エイラさん?」

106: 2011/01/19(水) 23:46:42.63 ID:feZoTG/AO
エイラ「でもあの高高度戦でさ、サーニャを守るためにシールドを初めて実戦で使ったときに判ったンダ。
   確かに私一人を狙った攻撃なら避ければいい」

集められた赤い光が臨界を迎え、放射された。
太い。とても避けられない。

エイラ「けどさ!」
芳佳「……!!」

芳佳の視界を覆ったのは、百合の紋章の入った白い魔方陣。

エイラ「それじゃ後ろの仲間は守れないんダヨナ~」

エイラのシールドに防がれた太いビームはいくつもの細い光となって拡散していく。

エイラ「束になったぶっといビームは確かに強いけど、こうやって散らしちゃえばいい。
   細いビームなら距離と大気でカンタンに弱くなるからナ。

   私たちと一緒サ」

芳佳「……?」

エイラ「一人で戦ってるワケじゃないってことダヨ!」

107: 2011/01/19(水) 23:50:27.53 ID:feZoTG/AO
 じゃあ、今守ったのは……!

振り向いた先には航空機戦隊がいた。
きっと坂本少佐の言っていた合流予定の扶桑の機動艦隊の搭載機だ。

その零式艦上戦闘機たちが白い機体をきらめかせ、戦場に入るなり編隊を解き遊撃体勢にうつっていく。
そのパイロットたちは翼を振ってエイラに感謝の意を表した。

エイラも大きく手を振ってそれに応える。

エイラ「ま、こういうのも悪くないよナ」

芳佳「はい!」

うれしさで胸がいっぱいになる。

エイラ「そ、それと! 今のシールドはサーニャには内緒ダカンナ!」

芳佳「えっ? なんで……」

エイラ「絶対ダゾ!」

 大丈夫ですよ、エイラさん。
 サーニャちゃんならきっと喜んでくれるますよ。

108: 2011/01/19(水) 23:54:30.83 ID:feZoTG/AO
芳佳「ねぇ、エイラさん」

エイラ「ナンダ? ミヤフジ」

芳佳「今日のわたしを占ってもらえませんか?」

エイラ「フフン♪ そうかそうか、やっぱり気になるカ~」

ひょい、とエイラが腰のポケットからタロットカードを一枚取り出した。

エイラ「ほい」

芳佳「え~っと……」

渡されたカードを見てみる。
一本足で踊っている人の絵。楽しそうでなによりだ。

芳佳「ん~? エイラさん、これってどういう……」

エイラ「チガウチガウ、逆さまダゾ」

上下逆にすると、吊るされて苦悶の表情を浮かべた人の絵に。

芳佳「……」

 ……なるほど、今日のわたしにぴったりだ。

109: 2011/01/20(木) 00:11:34.12 ID:WGpT35SAO
赤いビームが飛び交う戦場の空に、援軍の白い飛行機雲が増えていく。

エイラ「もういいだろミヤフジ。先を急ぐゾ!」

芳佳「はい!」

そうだ、ネウロイと戦ってるのはウィッチだけじゃない。
みんなが、……戦ってるんだ。

時が経つにつれ、増援の飛行機が描く白い幾何学模様の中に、黒い煙が混じり始めた。

エイラ「……」
芳佳「飛行機が……!」

隊列を組み、果敢に巨大ネウロイに接近する機隊もいたが、一瞬で蒸発した。
ネウロイの攻撃で切り裂かれ胴体を真っ二つにされる機。
片翼を失ったために駒のように回り、制御不能になる機もいれば、
動力機関をやられ、きりもみ状態で墜ちていく機もあった。

そしてそのほとんどは海上に到達する前に機体が応力に耐えられず四散していった。

110: 2011/01/20(木) 00:14:23.60 ID:WGpT35SAO
エイラ「ミヤフジ」

芳佳「……わかってます、エイラさん」

しかし、言葉だけの誤魔化しだ。

ネウロイ。
決して相容れない存在。

なんでこんなことをするんだろう。
ネウロイの居る土地は人が立ち入ることすら許されない。
人類とネウロイとの間にはただ戦いがあるのみ。本当に互いに滅ぼし合うしかないのか。
聞けば502と接触しようとしたウィッチの姿をしたネウロイは、別のネウロイに消滅させられたという。

 やっぱり、共存の道は無いんだ。

結局、あの時ネウロイを信じようとした自分の行動が、坂本少佐に重傷を負わせ、501部隊解散の遠因となった。

そして自分の故国が危機に面した今になって、芳佳ははっきりと認める。

ネウロイは敵、だと。

111: 2011/01/20(木) 00:18:08.96 ID:WGpT35SAO
祖国や、家族や、大事な人を失った人がいる。
全てを奪われ、全てを傷つけられた人もいる。

 ネウロイがいるから、みんなが苦しんでいるんだ。
 ネウロイがいたから、お父さんだって……!


エイラ「……ミヤフジ、力入れすぎ。ちょっと痛いゾ」

芳佳「ご、ごめんなさい!」

怒りのあまり、エイラの手を強く握りすぎたようだ。
あわてて放した。

エイラ「……!?
   バ、バカ! なんで手を離すんダヨ!」

エイラの姿が小さくなっていくのを見ながら、芳佳はぼんやりと思った。


 そうだ、わたし……、

 飛べないんだった。

117: 2011/01/20(木) 15:28:19.88 ID:WGpT35SAO
ネウロイと互いに牽制しながら扶桑に向かう艦隊。

計らずにも世界各国あちこちの海軍の、戦艦に巡洋艦、駆逐艦に輸送船と航空母艦とさまざまな艦種で構成されたこの奇妙な艦隊は、
今はしかし、まるで一つの頭を持った生物のように行動していた。

この船団を動かしているのは豊富な経験と、それに応えられる技術を持った数百人もの水兵なのは間違い無い。
しかし、ことこの戦場においてこの集団の頭脳と呼べるのは一人の女性だった。

彼女は使う言葉すら違うそれぞれの艦に陣形の変更をこと細やかに伝え、さらに戦況が変化する度にその指示を更新していた。
あり得ない程の密集陣形にしたのも彼女の発案である。
今指揮下にいるのはまだ若いウィッチが二人のみ。
その二人の部下のシールドを当てにしての縦列陣形。

彼女、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは嘆息をついた。

118: 2011/01/20(木) 15:34:05.32 ID:WGpT35SAO
大和の護衛任務と甘く考えていたのが間違いだった。

いざハワイで合流してみれば、その大和の護衛として扶桑から派遣された巡洋艦二隻と駆逐艦三隻。
そしてロマーニャの輸送船が二隻。
ヴェネチア海軍から戦艦一、巡洋艦二。
ブリタニア海軍からも同種、同数と、さらに護衛空母。
そしてリベリオンがどういう訳かハワイで自国の一個艦隊を合流させた。

幸い、先にロマーニャに派遣されていた杉田艦長が艦隊指揮を執ることが決定していたので、
どれほど艦隊規模が大きくなろうと指揮系統で揉める事態には陥らなかった。

それにしても地中海から扶桑へ戦艦一隻を届けるのに、どうしてこんな大艦隊が混成されたのか。

そのほほえましい理由を知った時は苦笑ですんだのだが、
洋上でネウロイを発見したと同時にその乾いた笑いは消し飛んだ。

119: 2011/01/20(木) 15:40:38.77 ID:WGpT35SAO
扶桑哨戒機の通信を傍受するなり全艦隊が一斉に転進。
雲の切れ目にネウロイの黒い影を確認すると、彼女の制止も聞かずに我先にと全艦が砲撃を開始した。

……信じられないことに、彼女の指揮下にあったはずのウィッチも数人、この命令無視の先制攻撃に参加したらしい。

ネウロイの射程外から戦艦を中核とした大艦隊の先制打撃攻撃は、確かに一定の効果はあった。

彼らによる一斉砲撃で雲は霧散、姿を現したネウロイの巨体の前半分が吹き飛んだ様子を見て全員が大歓声を上げた。

しかし、コアの所在が解らぬまま開始された一斉砲撃はネウロイの進行を止めることは出来なかった。
稀にみる高速再生。
散った破片を再びまとい、元通りの姿に戻ったネウロイを見て、全員が青ざめた。

しかし、その後彼らは一人のウィッチによってさらなる恐怖を味わうこととなった。

120: 2011/01/20(木) 15:44:16.69 ID:WGpT35SAO
『何をやっているのですか、あなたたちは!』

彼女の艶やかでとても美しく、しかし、非常に危険な感情をはらんだ一声に全艦隊員が首をすくめた。

『あまりに無警戒で無計画なこの行動は、
長く、何事もない退屈な船旅への鬱憤晴らしによって誘発されたのは容易に想像できます。
しかし、厳格であるべき我々軍人に許されることでは無いでしょう?』

この言葉の前に、彼女よりも階級も高く、彼女の倍以上の年を重ねた者ですら、
まるで母親に見咎められた子どものように小さくなった。

一方で彼女は進言を続けた。
あくまでゆっくりと、そして努めてやさしい口調であろうと心掛けた上で。


これがいけなかった。

121: 2011/01/20(木) 15:48:08.33 ID:WGpT35SAO
それまでの柔和な姿勢を見せていた彼女のあまりの豹変ぶりに、
各国の艦長をはじめ、全員が直立不動。

とりわけ、彼女をよく知るウィッチたちは縮みあがった。

その様子に気付かずに続ける。
世界各地で志を同じくする者たちが今現在もネウロイと戦っていること。
その戦費捻出のために苦労を強いられた生活をしている国民たちのこと。
……等々。

ひとしきり説いたあと、さすがにやりすぎたと思ったのか、
『だからもうこんなことをしてはだめですよ~?』と子どもを諭すようにしめた。

『 イ エ ス ・ マ ァ ム ! 』
全員が涙混じりの声で応じた。

決して望んだ結果では無かったが、とにかく彼女は歴史に残るような大艦隊の指揮を手にすることになった。

そして現在、無駄撃ちはせず、対空火砲のみで応戦しながら大反攻へ向けて雌伏の時を過ごす連合国艦隊がいた。

彼らの進路は扶桑。

122: 2011/01/20(木) 15:51:15.33 ID:WGpT35SAO
この戦場において必氏に戦っているのは、どの立場の者も同じではあったが、
それでも彼女が最も多忙なのは間違いなかった。

その固有魔法の空間把握能力をいかし、敵編隊の進入方向、規模、攻撃頻度などを逐一報告。
被害を受けた艦は後方に下がらせ、船体の大きい艦艇を割り込みませて壁を作る。
奇しくも分厚い装甲と対空攻撃能力に長けた戦艦が多く編成されたこの戦隊は、ネウロイと並走するこの持久戦にとっては幸運と言えた。

そして彼女自身は艦隊旗艦である大和の直上で進路を示しながら、近づく敵機を粉砕。
そして折りを見ては艦に降り、サドルマガジンを、必要なら銃身の交換をもした。
二人の部下にも戦況に応じて同じ指示を出す。

 まったく、休む暇も無いわね。

ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは再び嘆息をついた。

123: 2011/01/20(木) 15:54:22.23 ID:WGpT35SAO
ミーナは数刻前から、彼女の空間認識可能範囲内に扶桑の艦上攻撃機の編隊が加わったのを感じていた。
おそらく運良く沖に出ていた艦隊から発進したのだろう。
しかし、みるみる数を減らしていく様子に心を痛めた。
小型機相手ならともかく、あの大型ネウロイにはどんな手練れであろうと荷が重すぎる。

この空域は既に数え切れない程の敵と味方であふれかえっていた。

しかしながら、遂にミーナはそんな混乱の中からかつての仲間の存在を見つけた。

しかし、一人だ。


一体何故、と思うよりもどうして扶桑の魔女は……、と思ってしまう。


彼女は部下の二人に艦隊直掩の任を解く指示を出し、


そして全く新しい任務を与えた。

125: 2011/01/21(金) 00:18:12.08 ID:Ub2AvFQAO
芳佳は両手両足を四方に広げ、体全体で風を受けて落下していた。

そして空に漂う爆発の火薬、銃の硝煙、そして船のディーゼルの匂いを嗅いで、ある種の郷愁を感じていた。

 なつかしい。

魔法力の恩恵なく空を墜ちる感触に慣れたわけでは無いはずなのだが、
なぜだろう、まったく怖くない。

芳佳の手を誰かが握った。

???「芳佳ちゃん大丈夫?」

 あぁ、そうか。

???「エイラさん! まったくあなたという人は!」

もう片方の手も誰かに握られた。

エイラ「わりぃわりぃ」

 この空には、

リーネ「久しぶりだね、芳佳ちゃんっ!」

ペリーヌ「無事なようで何よりですわ、宮藤さん」

 仲間がいるんだ!

芳佳「ただいま! リーネちゃん! ペリーヌさん!」

126: 2011/01/21(金) 00:21:25.72 ID:Ub2AvFQAO
リーネ「芳佳ちゃん、会いたかった~!」

ペリーヌ「さぁ、大和まであと少しですわよ!」

芳佳「うんっ!」


リーネ「芳佳ちゃん、なんだかずいぶん元気だね?」

ペリーヌ「まったく、心配して損しましたわ。坂本少佐から聞いていた様子とは大違いですもの」

芳佳「坂本さんから?」

ペリーヌ「ええ! そうですわ!
   坂本少佐に頂いたお手紙ではあなたが……」

リーネ「まあまあペリーヌさん。

   芳佳ちゃん、ペリーヌさん本当に芳佳ちゃんのこと心配してたんだよ?」

芳佳「わ! あ、ありがとうございますペリーヌさん」

ペリーヌ「べっ、別にあなたのためではありませんわ!
   ただあなたが落ち込んでいては坂本少佐に迷惑がかかると思って、その……」

芳佳「ご、ごめんなさい」

ペリーヌ「ああもう! そんな調子ではわたくしが悪いみたいじゃないっ」

リーネ「素直じゃないなぁ……」

127: 2011/01/21(金) 00:23:26.43 ID:Ub2AvFQAO
芳佳は二人に支えられて、ついに艦隊に着いた。
艦隊の中でも一際大きい姿を見て思わず声を上げる。

芳佳「本当に、本当に大和なんだ!」

リーネ「芳佳ちゃんったら」
ペリーヌ「あなただって大西洋で同じことを言ってたじゃない」
リーネ「ペ、ペリーヌさんだって」

三人はお互いに手を繋いだままゆっくりと大和後部甲板に降りていった。
芳佳「なんか足に力入んないや」
久しぶりに立つ感触に足元がおぼつかない。

ミーナ「よく来てくれたわ、宮藤さん」

芳佳「ミーナ中佐!」

ミーナ「あなたたちもおつかれさま」

ペリーヌ「い、いえ。わたくしたちは別に……」
リーネ「いっぱいお話したいけど、あとはミーナ中佐から聞いてね。
   じゃあ、またあとでね、芳佳ちゃん」

芳佳「えっ、もういっちゃうの?」

128: 2011/01/21(金) 00:27:50.26 ID:Ub2AvFQAO
爆発音がする度に空を見上げる。戦況が気になって仕方ない。

芳佳「あのミーナ中佐……」

ミーナ「そうね。あんまり悠長に話してられないから手短にしないといけないわね」

芳佳「は、はい。よろしくお願いします」

ミーナ「私たちがどうして扶桑に来たか、
   どうして大和に乗っているかってことはもうみんなから聞いたかしら?」

芳佳「はい。マリアさんたちのおかげで大和を修理してくれて、
   それでルッキーニちゃんが送った手紙で、みんなが集まったってところまでは……」

ミーナ「ええ。もちろんルッキーニさんが報せてくれたからこうやって大和に集まったのだけれど、
   でもそれだけじゃないのよ? 私たちがこうしてあなたに会いに来たのは」

 わたしに……、会いに?

129: 2011/01/21(金) 00:32:35.04 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ「ええっと、そうね。
   もっと順を追って話してあげたいんだけど、今日私たちと一緒に来たのは大和だけじゃないの」

 えっ?

ミーナ「実は大和の修理が始まったきっかけは、ロマーニャの漁村の子たちが見つけたあなたのストライカーよ」

 わたしの、ストライカーユニット。

ミーナ「ストライカーユニットに描かれた扶桑のマークを見て言ったそうよ。
   『ネウロイをやっつけてくれたウィッチと同じ絵だから、どうかロマーニャを救ってくれた人に返してあげて』
   ……ってね」

 そんな……。

ミーナ「その嘆願を受け入れたロマーニャ公国はすぐに動いたわ。
   扶桑皇国に造船技術師及び、大和をよく知る乗船経験者たちの派遣を要請。そしてヴェネツィア海軍と近隣諸国に扶桑への護衛任務を。
   もちろん断る国は無かったそうよ」

130: 2011/01/21(金) 00:38:31.72 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ「大和はあの高度から落下したにも関わらず、目立った損傷は艦首部分くらいの極めて軽微だったそうね。
   ネウロイ化のおかげだったのかしら?

   そして、あなたのストライカーユニットはシャーリーさんを始めに皆が診てくれたわ」

ゴンゴンとエレベーター作動音が響き、一基の発進ユニットがデッキに現れる。
そこに鎮座していたのは、

芳佳「…………震電!」
芳佳の目が丸くなる。

信じられない。
あの戦いのさなか海中に没したと思っていたが、磨き上げられた躯体にはそんな様子は一切見られない。
駆け寄って確かめる。

特徴的な大きい翼、そして扶桑の紋章。
間違いなく、わたしのストライカー、だ。

更にその芳佳の背中にミーナが言った。

ミーナ「……それと、もう一つ」

 もう一つ?

131: 2011/01/21(金) 00:42:28.16 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ中佐の言葉に振り返ると、その手に持った桐箱が目に入った。

長い。

 一体なんだろう?

ミーナ「あらあら。その様子だと、あなたを驚かすためにみんな黙っていたようね」

蓋が開かれると、絹に包まれた物が見えた。

ミーナ「本当はあなたの前に美緒に見せるつもりだったんだけど……」
丁寧に布を解き、取り出す。

 まさか。

背筋が凍り、全身に鳥肌が立つ。
体の中の熱が全て奪われたような感覚が芳佳を襲った。

その柄も、鍔も、そして鞘も。
その全てに見覚えがある。

間違い無い。

芳佳「烈風丸……!!」

132: 2011/01/21(金) 01:07:00.03 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ「ええ、そう。烈風丸よ」

芳佳「ま、待ってください! 烈風丸は坂本さんの……!」

それに、なるべくなら触りたくない。

ミーナ「わかってるわ。
   それでも私たちはあなたに受け取って欲しいの。宮藤さん」

芳佳「……」

ミーナ「不安に感じるのも無理ないわ。
   私たちも確信があって言ってることではないから」

 わからない。ミーナ中佐は一体何を言っているのだろう。

ミーナ「受け取ってくれるかしら、宮藤さん?」

 みんなはこの烈風丸をわたしに渡すためにここまで連れて来たの?

芳佳「……」

言われたままに受け取る。
ずしり、と重い。
こんなに重かっただろうか?

ミーナ「確かに渡したわ。
   じゃあ私は艦隊も心配だし、空に上がるわね」

 え?

133: 2011/01/21(金) 01:09:59.90 ID:Ub2AvFQAO
芳佳「ど、どういうことですか? ミーナ中佐」

ミーナ「うーん、やっぱり説明したほうがいいかしら。
   とりあえず抜いてみて宮藤さん」

芳佳「烈風丸……」

逡巡。

しかし、

 このためにみんなが扶桑まで来てくれたのなら……。

柄と鞘を握る。

 その想いを確かめたい!

ゆっくりと引き出す。

刀身が鈍く輝いていた。
鋼の輝きだけじゃない。

134: 2011/01/21(金) 01:17:40.08 ID:Ub2AvFQAO
芳佳「……! こ、これって!」

烈風丸を握る手から伝わってくるのは、
来る途中も芳佳の身を常に包んでくれて、あの冷たい空から守ってくれていた、
みんなと同じ、魔法力のやさしいあたたかさ。

 どうして……、どうして烈風丸から……。

烈風丸が震える。
いや、震えてるのは自分の腕だ。
鞘を離し、両手で烈風丸を握る。

 間違いなくウィッチの魔法力だ。しかもわたしはこの魔法力を知ってる……!

芳佳「ルッキーニちゃんの……?
   ……ううん。シャーリーさんにハルトマンさん、サーニャちゃんにエイラさんも!」

ミーナ「それだけじゃないはずよ?」
ミーナが優しい表情で言う。

芳佳「はい! リーネちゃんとペリーヌさん。バルクホルンさんとミーナ中佐も!
   すごい……! どうして!?」

135: 2011/01/21(金) 01:24:28.98 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ「ふふ。
   もっとよ~く、全てを預けるように探ってみなさい。宮藤さん」

もっと、深く……。

目を閉じて集中する。


温もり、色、さまざまな感触。
一人一人の顔かたちが違うように、その魔法力もそれぞれ特異なな特徴を持っていた。

だけどもっと奥へ。
もっと……、底へ。

烈風丸を形造る、芯になっているものを見つけた。

厳しくって、優しい、よく知っている魔法力。

芳佳「……。

   坂本さんの……」

ミーナ「よくわかったわね、えらいわ。宮藤さん」

136: 2011/01/21(金) 01:27:01.37 ID:Ub2AvFQAO
だけど、まだ……、なにかある。

それはとても小さいくて。

消えそうなくらいゆらゆらしてて。

瞬くもの。

なくしたもの。

わたし、の。

芳佳「わたしの……」

頬に熱いものが伝わる。

137: 2011/01/21(金) 01:30:08.94 ID:Ub2AvFQAO
ゆっくりと目を開けた。

芳佳「ミーナ中佐……。
   これ、わたしの……」

ミーナ「ええ。私も同じように感じたわ」


坂本「宮藤!? よくもここまで……!」

ミーナ「美緒!」
芳佳「坂本……さん?」

その声に芳佳とミーナの二人は空を仰いだ。

シャーリー「へへっ、ついでに連れて来ちまった」
ルッキーニ「武蔵もすぐそこまで来てるよ!」

エーリカ「おおーい、ミヤフジ~!」
バルクホルン「よし! ついに抜いたか!」

サーニャ「良かった、無事で……」
エイラ「ホ、ホラナ! 言った通りダロ?」

リーネ「芳佳ちゃーん!」
ペリーヌ「これでやっと、全員揃いましたわね。

   ……って、さ、さ、坂本少佐!?」

138: 2011/01/21(金) 01:33:31.71 ID:Ub2AvFQAO
坂本「しかし驚いた。まさか再び烈風丸をこの目で見ようとはな……」

ミーナ「美緒……じゃなくて、坂本少佐。
   あなたの紫電改も用意してあるのよ?」

坂本「紫電改! だが、どうやって?」

ミーナ「大和の中に置きっぱなしだったの忘れてない?
   ペリーヌさん、手伝ってあげて」

ペリーヌ「ささ、坂本少佐こちらへ。お手伝いいたしますわ」

坂本「ん? ああ、頼む。すまないなペリーヌ」

ミーナ「あなたの教え子たちは?」

坂本「武蔵の護衛に残してきた。
   大和との合流のことも言い含めてある。問題無い」

芳佳「えっ? えっ?
   さ、坂本さんって。大和のことも、みんなが今日来ることも知ってたんですかぁぁ?」

139: 2011/01/21(金) 01:35:37.99 ID:Ub2AvFQAO
ペリーヌに装着を任せて少佐が答える。

坂本「ああ。黙っていてすまなかった。
   烈風丸はともかく、今日の事はミーナにうるさく口止めされててな」

ミーナ「だってあなた嘘はつけないでしょう?」
ミーナが口をとがらせる。

坂本「これでも頑張ったほうなんだぞ? 
   ……もっともネウロイのことは予想外だったが」

ミーナ「ええ、そうね……。
   では、行きましょう!」

坂本少佐の紫電改の装着を確認してミーナが空に上がる。

芳佳「ま、待ってください!
   わたしどうすればいいんですか! ミーナ中佐! 坂本さん!」

ミーナ「烈風丸と震電。あなたに預けるわ」

芳佳「そ、そんなこと言われても……! 飛べるかどうかだって……」

140: 2011/01/21(金) 01:40:09.86 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ「宮藤さん。
   あなたがみんなの力になりたいと思うように、
   私たちもみんな、あなたの力になりたいと、そう思っているのよ」

坂本「宮藤。お前もあの時、ウィッチに不可能は無い、と言っただろ?」

空に上がった坂本少佐が未だ烈風丸の跡が残る手の平を芳佳に差し出した。

      坂本「来い、宮藤!」

   エーリカ「ミヤフジ!」

         ミーナ「宮藤さん!」

  バルクホルン「宮藤!」

         シャーリー「宮藤!」

   エイラ「ミヤフジ!」

        サーニャ「芳佳ちゃん!」

      ルッキーニ「よしか!」

   ペリーヌ「宮藤さん!」

          リーネ「芳佳ちゃん!」

涙が止めどなく流れ、芳佳の目に映る十人の仲間と空がにじむ。

なぜなら芳佳に差し出された十人全員の手に、烈風丸の跡が残っていたから。

156: 2011/01/21(金) 17:32:13.97 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ「さて、飛んでくれるかしら宮藤さん……」
芳佳を一人甲板に残し、空に上がってからミーナがつぶやいた。

坂本「飛べるさ」

ミーナ「美緒……」

坂本「ん? だってそうだろう?
   この空も、海も、そして陸も。今日は特別あいつの守りたいものでいっぱいなのだからな。
   だから飛ぶさ、あいつは」

バルクホルン「そう、それが宮藤だ」
エーリカ「そうだね~♪ トゥルーデ~♪」

ミーナ「ほらほら、あなたたち!
   宮藤さんが気になるのはわかるけど、私たちにはやらなきゃいけないことがあるでしょう?」

エイラ「ちぇ~」
サーニャ「がんばりましょう、エイラ」

リーネ「芳佳ちゃん、がんばってね」
ペリーヌ「リーネさん心配しすぎでしてよ。あの子なら大丈夫」

ルッキーニ「よしか……」
シャーリー「信じてやろうぜ、宮藤を」
ルッキーニ「……うん!」

141: 2011/01/21(金) 01:42:32.54 ID:Ub2AvFQAO
芳佳「……みんな、笑ってた」

一人残された芳佳は自分の手のひらを見る。
涙に濡れた目に映るみんなと同じ、烈風丸を握った跡。

それをぐっと握って、涙を拭いた。

 ……、やってみる!

烈風丸を鞘に戻し、坂本少佐のようにたすき掛けに。

 みんながわたしのために魔法力をこめてくれた坂本さんの烈風丸と、

発進ユニットに上がり、ストライカーユニットに足を通す。

 お父さんの遺してくれた震電。

発進ユニットが大和の後部射出機に接続された。

 これで飛べないわけがない!

銃把を握る手に力が入った。

 約束を守るために、みんなで守るために。

 わたしは飛ぶんだ!

142: 2011/01/21(金) 01:48:02.69 ID:Ub2AvFQAO
坂本少佐はその様子を上から見守りながら口を開いた。

坂本「ミーナ。
   ところで烈風丸。震電と一緒に流れ着いていたと言ったが?」

ミーナ「ええ。烈風丸だけじゃ、私たちの元には返って来ることはなかったでしょうね」

坂本「震電に描かれた扶桑の国旗のおかげというわけか。

   ……震電というストライカーユニットはな」
ミーナ「ん?」

坂本「その優れた上昇速度を以て、誰よりも早く、誰よりも先に高空のネウロイを叩くために開発されたものだ。
   誰かを守るために真っ先に駆けつける。
   あいつにふさわしい機体だと思わないか?」

ミーナ「ええ。宮藤博士は氏してなお、娘さんのことを思ってらしたのね」

大和の後部甲板で小さな、小さな魔法陣が輝いた。

シャーリー「魔法陣の光だ!」

エイラ「けど、小さいゾ」

ペリーヌ「あれくらいでも宮藤さんなら飛べますわ。
   ね? リーネさんっ」

リーネ「はいっ! 大丈夫です芳佳ちゃんなら!」

143: 2011/01/21(金) 01:50:53.09 ID:Ub2AvFQAO
副長「艦長、宮藤さんの発艦準備が完了したそうです」

杉田「そうか、長い航海をした甲斐があった。
   ……艦首を風下に向けろ!」

杉田艦長の計らいで大和が芳佳の発進のために、風下に向けて回頭。

その途中だった。
艦尾付近に至近弾。

芳佳の目の前に大量の水が巻き上げられる。

かかった虹を見て決心した。

大きく息を吸って、止める。

芳佳「宮藤芳佳、発進します!!」

艦尾ではためく扶桑海軍旗で風向きを悟った芳佳の号令によって、火薬式の射出機が芳佳を射ち出した。

その衝撃と加重に耐えながら、芳佳は白い水柱を突き抜け、七色の虹を越え、青い空、仲間の元へ!


坂本「飛べぇぇぇぇ! 宮藤ぃぃぃぃーっ!!」

坂本少佐の声が空に響いた。

144: 2011/01/21(金) 01:59:21.79 ID:Ub2AvFQAO
全員が息を呑んだ。
発進した芳佳が水柱に飲み込まれたように見えたからだ。

しかし、

バルクホルン「おおっ!」   エーリカ「ミヤフジ!」

サーニャ「芳佳ちゃん!」   ルッキーニ「よしかー!」

ゆらゆらと飛ぶ姿。

ミーナ「宮藤さん!」     坂本「わっはっはっは! 見事だ宮藤!」

弱々しくも回る魔導エンジンの振動。
全身で感じる風の感触。
フラフラして安定しない挙動。
お世辞にもきれいな飛行とは言えなかった。

でも、

芳佳「飛べた!? 飛べたああああぁぁぁぁ!!!!」

145: 2011/01/21(金) 02:02:08.82 ID:Ub2AvFQAO
芳佳「やった……。

   ぃぃやっったああああああああぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」

戦場の空に似つかわしくない、少女の明るい笑い声が響く。

芳佳「坂本さーん! みんなー! ありがとうー!
   わたし、わたし、また飛べるようになりましたああああ! やったー!」


エイラ「やったナ、ミヤフジ」

ペリーヌ「ホント、どうなることかと思いましたわ」

喜ぶ芳佳の周りに皆が集う。

リーネ「芳佳ちゃーん!」

ミーナ「おめでとう、宮藤さん」

サーニャ「良かった、本当に……」

しかしそんな中、突然ルッキーニが火の点いたように泣き出した。

シャーリー「良かったな、ルッキーニ」

146: 2011/01/21(金) 02:05:15.33 ID:Ub2AvFQAO
ル   芳佳「ル、ルッキーニちゃん?」

キ   シャーリー「ルッキーニはさ、
│      ずっと宮藤のことを気に掛けてたんだ。
ニ      ロマーニャを救ってくれた代わりに魔法力を失ったお前のことを」

う   芳佳「だけどわたしは……」

え   シャーリー「わかってるさ。けど、そういうことじゃないんだ。
え      ……少なくともルッキーニにとっては。
え      だからこいつは、
え      大和も、烈風丸も、震電も、みんなのことも、
え      一人で頑張ったんだ。
え      ……お前のとびっきりの笑顔のために」

え    芳佳「わたしの……笑顔?」

ええええええええええええええええええん!」

147: 2011/01/21(金) 02:09:56.94 ID:Ub2AvFQAO
ルッキーニ「だっで……、ひっく。
   だっで、よ゛し゛か゛、少佐の手紙のとおり、
   会った時も……、ホントに……、ぜんぜん……、笑ってくれなかったんだもおおおおん!
   びええええええええ!!」

芳佳「さ、坂本さんからの手紙って!?」

坂本「え? あぁ、うん。ちょっと……、な」
ばつの悪そうな顔。

エーリカ「白状しちゃいなよ、少佐」
エーリカがそんな少佐を肘でつんつんとつついた。

坂本「実はお前に元気が無い様子に関してだな、
   その……、皆の意見を参考にしてみようと思って、……ちょっと一筆な」

ペリーヌ「もっとも、わたくしたちが受け取ったのは洋上でしたけどね」

リーネ「だからルッキーニちゃんはこの航海のあいだずっと、
   芳佳ちゃんのことを心配して、会うのを楽しみにしてたの。
   だからこうやって芳佳ちゃんが笑ってるのがとってもうれしいのよね?」

ルッキーニ「ええええん! えんえん!」

148: 2011/01/21(金) 02:28:01.01 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ「宮藤さん。あなたは今まで自分のことよりもみんなのことを心配してくれてたけど、
   今日、みんなに守ってもらった感想はどうかしら?」

芳佳「えっ、ええ?」

ここに来るまでのことを思い出してみる。

『よしか、まだこわい?』   『宮藤、そんなに怖くならないから』

『宮藤を連れていることを忘れるなよ!』   『ミヤフジ、まだこわい?』

 みんなに心配されて。

『芳佳ちゃん、怖くはなかった?』   『今のシールドはサーニャには内緒ダカンナ!』

『芳佳ちゃん大丈夫?』   『無事なようで何よりですわ、宮藤さん』

 みんなに守ってもらった。

 それは、とても温かくって、

 少し恥ずかしくって、

 ちょっと、くやしくって、

 でも、すごく……、

芳佳「すごく、……うれしかったです。
   ありがとうございました、みなさん。

   ありがとう、ルッキーニちゃん」

ルッキーニ「よかった。よしかああああぁぁ!」

149: 2011/01/21(金) 02:29:44.13 ID:Ub2AvFQAO
芳佳「本当にありがとう。ルッキーニちゃん」

ルッキーニ「うえ~ん、よしかー! よかったよおぉー!」

抱き合う二人を見て誰もが微笑む。

バルクホルン「あわわ、あわわ」
エーリカ「落ち着きなって」

ミーナ「さてと。
   一段落着いたことだし。私たちの任務を片付けないと!」

坂本「そうだな」

エイラ「ミヤフジの復活祝いダ!」

シャーリー「ちょうどデカいくす玉もあるしな」

ペリーヌ「少し大きすぎですけどね」

サーニャ「みんな、がんばりましょう」

リーネ「はいっ!」

150: 2011/01/21(金) 02:34:10.59 ID:Ub2AvFQAO
芳佳が坂本少佐に近づく。

芳佳「あ、あの坂本さん。烈風丸……」

坂本「それはお前が使え」

芳佳「でも」

坂本「守りたいんだろ?」

芳佳「……、はい!」

坂本「わっはっは!

   ではミーナ“隊長”、頼む」

ミーナ「ええ!

   ではここに暫定的に第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズを再結成し、

   敵ネウロイを撃破して、扶桑及び、連合国艦隊を守ります!」

ストライクウィッチーズ「 了 解 !!」

157: 2011/01/21(金) 21:02:31.26 ID:Ub2AvFQAO
わかりやすく読んでもらうため、
この先『』内の台詞はインカムを通したものになります

158: 2011/01/21(金) 21:13:54.29 ID:Ub2AvFQAO
再び戦いの空に集まった11人にミーナが次々と任務を与えていく。

ミーナ「リーネさんは合流した大和と武蔵へ。艦隊を護衛しつつ指示を待ちなさい。
   宮藤さんにはリーネさんの援護を。くれぐれも無茶しないように。
   ペリーヌさん、二人をよろしく頼むわね」

リーネ&芳佳&ペリーヌ「はい!」


ミーナ「シャーリーさんとルッキーニさんはこの空域の航空機隊を誘導、協力して子機の殲滅を。
   空を広くして」

シャーリー&ルッキーニ「りょーかい!」


ミーナ「バルクホルン、ハルトマンの両名は足の止まった艦船へ。
   心配だわ。ネウロイの攻撃から守って」

バルクホルン&ハルトマン「了解!」


ミーナ「エイラさんとサーニャさんはあの親ネウロイの攻撃を引き付けて、
   足止めして頂戴」
エイラ&サーニャ「了解!」


ミーナ「坂本少佐は私のサポートを」

坂本「わかった」

ミーナ「では各機散開!」

159: 2011/01/21(金) 21:17:00.12 ID:Ub2AvFQAO
それぞれの空域へ向かう仲間たちを見送る二人。

坂本「……速攻だな」

ミーナ「ええ。でも私たちの魔法力ももう限界。
   ここで抑えないと扶桑本土に危険が及ぶわ」

坂本「そうだな」

二人が手を繋ぐ。
坂本少佐は眼帯をめくりその右目の魔眼をあらわに、一方ミーナは両目を閉じて集中。
二人の魔法が交じる。

坂本「ミーナ! お前……!」

ミーナ「今はいいの。それよりあのネウロイのコアを解析するわよ!」

坂本「ああ……、わかった!」

艦隊に赤いビームを吐き続ける巨大なネウロイのコアの位置を探る。

坂本「大きいな」

ミーナ「ええ……」

坂本「ン……! 見つけた!」

常に攻撃を受ける対角線に位置し続けるコアの存在を確認した。

ミーナ「やはり、コア移動タイプ!」

坂本「あの巨体だ。露出させるには骨が折れるな」

160: 2011/01/21(金) 21:20:49.72 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ「ええ。でも大変な相手ではあるけれど、
   今日ここにいる人たちの協力があれば必ず倒せるわ!」

坂本「ミーナ、無理はするな」

ミーナ「……あなたの眼はごまかせないわね。
   だけど、部隊の長である私が皆の前で心配されるような顔を見せるわけにはいかないの。
   あの子たちを怖い顔で送って、笑顔で迎えてあげないとね。
   
   だからお願い美緒、それまでは私のそばにいて」

坂本「副官である私の任務は隊長の補佐だろう?
   心配するな。ずっとお前を支えてやる」

ミーナ「ありがとう、美緒!」

161: 2011/01/21(金) 21:26:39.87 ID:Ub2AvFQAO
ルッキーニ「シャーリー、扶桑の飛行機の隊長さんがこっちに従ってくれるって言ってるよ!」

シャーリー「よし。
   それならあの大型ネウロイには手を出さずに、艦隊上空の小型機を一緒に片付けようって伝えてくれ」

ルッキーニ「わかった!
   ……げー」

シャーリー「どした?」

ルッキーニ「扶桑に飛んでったあのうじゃうじゃ~ってしてたのがこっちに向かってるって」

シャーリー「よし!」

ルッキーニ「え? なんで? はさみうちにされちゃうよ?」

シャーリー「ミーナはデカいほうが囮かもって心配してたんだ。
   だけどそれが外れたってことさ!」

ルッキーニ「ああ! なるほど!」

162: 2011/01/21(金) 21:32:26.48 ID:Ub2AvFQAO
エイラ「サーニャ、疲れてナイカ?」

サーニャ「ううん、わたしは大丈夫よ。エイラは?」

エイラ「わたしは平気!

   なぁ、サーニャ……」

サーニャ「うん?」

エイラ「ウラルを目の前にしてたのにさ、
   サーニャがミヤフジに会いに行くって言い出したときは本当にビックリしたんだ。

   だけど……、やっぱり会いに来て良かったナ!」

サーニャ「うんっ!
   でもわたしのわがままに付き合わせてごめんね、エイラ」

エイラ「わたしのことはいーんダヨ!

   ……サーニャトイッショナラドコヘダッテイケルッテイッタンダカラ」

サーニャ「ん?」

エイラ「ナンデモナイ!」

163: 2011/01/21(金) 21:40:46.46 ID:Ub2AvFQAO
リーネ「すごーい! 本当に大和にそっくりなんだー!」

大和と武蔵の並んだ姿を見てリーネが声を上げる。

ペリーヌ「姉妹艦なんですもの、当たり前でしょ?」

芳佳「でもやっぱりすごいや」

世界最大級の戦艦が二隻。
更にその周りには各国入り雑じった護衛艦群。
息を呑む光景だ。

ペリーヌ「さ、急ぎますわよ」

リーネ「は、はい!」

しかしその三人の前方、海上をネウロイの太いビームが横薙ぎに走った。

芳佳「しまった!」   ペリーヌ「間に合わない!」

しかし、横にいくつもの魔法陣が連なり、壁となってそのビームから艦隊を防ぐ。

リーネ「扶桑のシールド!」

芳佳「きっと坂本さんの生徒さんたちのだ!」

ペリーヌ「さ、坂本少佐の!?」

164: 2011/01/21(金) 21:46:35.52 ID:Ub2AvFQAO
大和の艦橋がシールドの魔法光で青白く照らされる。

副長「坂本少佐の教え子たちですな」

杉田「ああ。見事なものだ坂本少佐」

副長「見事なのはこの艦隊もですね。国境を越えた大艦隊!
   恥ずかしながら胸が踊ります」

杉田「なあに、それは私も変わらん。

   ……それにようやく大和と武蔵、馬を並べて海を行く日が迎えられるとは、
   海の男として誉れ高いことよ」

副長「全くですな。信濃も並ぶとなお嬉しいのですが。
   ……航空母艦になったそうですね」

杉田「この広い洋上だ。ウィッチたちの羽根を休ませるところは必要だ。
   そうだろう?」

副長「はい。

   ……! 501のウィッチです!」

杉田「来てくれたか、宮藤さん!」

165: 2011/01/21(金) 21:56:00.40 ID:Ub2AvFQAO
ペリーヌ「わたくしが! 坂本少佐の一番弟子! ペリィィィヌ・クロステルマンッ中尉です!!」

リーネ「リ、リネット・ビショップ……、曹長です」

芳佳「宮藤芳佳です。よ、よろしく……」

腰に手を当てて息巻くペリーヌに対し、
リーネはもじもじっと赤い顔で小さくなり、
芳佳に至ってはそのリーネの後ろでさらに小さくなって、顔だけ出してぺこりと挨拶。

赤一番「きゃー! かっこいい!」   赤二番「かわいい」

赤三番「すげー……」         赤四番「本物のウィッチだ!」

赤五番「ストライカーも違うんだ」   赤六番「銃もおっきい……」

赤七番「おっOいも……」       赤八番「あれ? あの子……」

赤九番「意外とちっちゃいな」     赤十番「見えない!見えない!見えない!」

と、黄色い声を浴びるが、泣いてるところを見られたかもしれない芳佳は小さくなるしかない。

ペリーヌ「はいはい!
   まだ新人のあなたたちは、先輩であるわたくしたちの言う事を聞くこと。よろしくって?」

練習生「はい!」

166: 2011/01/21(金) 22:04:32.51 ID:Ub2AvFQAO
ペリーヌ「……というのが今回の作戦の概要ですわ。
   なので艦隊とネウロイの線上にわたくしたちが。あなたたちは艦隊の周りの防空を。

   ……よろしい?」
練習生「はい!」

ペリーヌ「常に仲間の存在を忘れないこと。坂本少佐の教えもね。
   いいかしら?」

練習生「は、はい!」

ペリーヌ「では行きなさい!」

二人一組になって、それぞれ持ち場に飛んでいく新人たちを見送る三人。

ペリーヌ「ふぅ、坂本少佐の気苦労が知れますわ。

   ……さて」

芳佳「ペリーヌさんって、すごーい」   リーネ「ホントだねー」

ペリーヌ「って、あなたたちは!」

芳佳「ひぃ」   リーネ「ご、ごめんなさいぃぃ~」

ペリーヌ「新人たちを目の前にして尻込みするなんて!
   坂本少佐もお嘆きになりますわ!」

芳佳「ペリーヌさんって、こわい……」   リーネ「ホントだね……」

167: 2011/01/21(金) 22:21:05.69 ID:Ub2AvFQAO
バルクホルンとエーリカは足の止まった艦に群がるネウロイを蹴散らしたあとは、
散発的に飛来する子機を墜としつつ周辺を警戒していた。
……が、少々退屈だった。

火災は止まったものの、舵をやられ、ボイラー室に浸水を許し、推進機関を止められた駆逐艦。
その艦にリベリオンの重巡が接舷し、カッターで避難した乗員を回収していた。

バルクホルン「……まだ終わらないのか」

エーリカ「もう少し待ちなって」

状況は分かっているものの、先程ネウロイに抜かれ、
自分たちが徐々に戦場から離れていくことにバルクホルンは苛立ちを隠せなかった。

重巡から発光信号。

エーリカ「終わったって」

バルクホルン「よし、戦域から離れるまでは護衛する」

エーリカ「ちょっと待った! ……駆逐艦の艦長さんから伝言」

バルクホルン「艦と共に、だなんて言わないでくれよ……」

エーリカ「違うみたい。……トゥルーデにお願いがあるって」

バルクホルン「私に?」

168: 2011/01/21(金) 22:25:37.18 ID:Ub2AvFQAO
坂本「バルクホルンとハルトマン、遅れてるようだな」

ミーナ「仕方ないわ……。
   でも作戦は遅らせられない。二人抜きでも始めるわよ」

坂本「大和、武蔵を中心とする砲艦群の一斉砲撃。そして我々501の総攻撃。
   ……戦力としてはこんなものか。
   残念だが航空機隊と新人たちは参加させられんしな」

ミーナ「それに大和は元々戦闘を想定してなかったから要員が足りないの。
   砲兵の数もぎりぎりだから、あまりチャンスは無いわ。
   ……砲弾の数も少ないし」
思い出すだけで眉間にシワが入る。

坂本「ふむ。それで作戦の段取りは?」

ミーナ「考えてあるわ。

   ……各員それぞれ位置に着いたみたいね。
   それじゃ、始めるわよ!」

169: 2011/01/21(金) 22:28:10.06 ID:Ub2AvFQAO
バルクホルン「待て待て待て! そんなことが許されるものか!」

リベリオン艦艇に無事移乗した乗員たちからの提案は、バルクホルンには到底納得できるようなものではなかった。

エーリカ「ここは戦場で、陸からもまだ離れてる。
   曳航できる余裕がないのはトゥルーデだって判ってるだろ?」

バルクホルン「だが国から預かった艦をだな……!」

エーリカ「このままにしたっていずれ沈んじゃうし、
   ネウロイに取り込まれるかもしれないじゃないか。それに……」

駆逐艦艦長『割り込み失礼する。迅速な救助活動に全艦員を代表して礼を言う。
   我らも心苦しいが、どうしても奴に一矢報いたいのだ。そのためにどうか、力を貸して欲しい』

バルクホルン「……あの艦には誰も乗員は残っていないんだな?」

エーリカ「うん」

重巡の艦橋、甲板に溢れかえった全乗員が敬礼した。
こうなったらバルクホルンも返礼するしかない。

バルクホルン「貴艦の願い、確かに拝命した!」

170: 2011/01/21(金) 22:31:44.34 ID:Ub2AvFQAO
ミーナ「シャーリーさん、エイラさん。準備はいいかしら?」

シャーリー『こっちはOKだ。この空域の子機はほとんど片付いたしな』

エイラ『わたしたちも今シャーリーたちと合流した。今はネウロイの真正面にいる』

ミーナ「わかったわ。そのまま合図を待って。
   ペリーヌさん?」

ペリーヌ『はい、こちらも配置完了。坂本少佐?』

坂本「どうした、ペリーヌ?」

ペリーヌ『新人たちが手伝いたいと言っていますが、いかが致します?』

坂本「構わん。うまく使ってやってくれ」

ペリーヌ『……だ、そうですわよ』

赤一番『教官、ありがとうございます!』   赤二番『やったー!』

ペリーヌ『いちいち騒がないの!』

赤三番『はーい……』   赤四番『べー』

坂本「やれやれ」

ミーナ「全隊へ! リーネさんの初弾弾着を以て作戦開始の合図とする!」

171: 2011/01/21(金) 23:22:18.67 ID:Ub2AvFQAO
芳佳「リーネちゃん、がんばって!」

リーネ「うんっ」

リーネが芳佳たちから離れ、ボーイズMk.1対装甲ライフルを構えた。
スコープを覗き、照星の向こう、ネウロイを捉える。

リーネ「……はーっ」
息を吐き、
引金を引いた。

バネ仕掛けから解放された撃鉄が撃針を叩き、その衝撃で薬莢底部の雷管が発火。
その火花により着火した装薬は一瞬で燃焼ガスとなり薬室内で膨張、出口を求めて55口径の弾頭を押し出す。
91㎝という長い銃身内部に刻まれたライフリングによって自転運動が加えられた弾丸は、大量の炎とともに銃口から飛び出した。

ウィッチの、特にリーネの魔法力の込められた弾は、
風、温度、湿度、重力の一切の影響を受けずに大気を切り裂き、直進する。

弾着。

ネウロイの外殻を安々と突き破ったその弾芯はリーネの意思が届く距離まで進み続けた。

ネウロイの巨体が揺れる。


リーネ「……」

続いて第二弾装填、発射。

172: 2011/01/21(金) 23:28:16.18 ID:Ub2AvFQAO
副長「リーネさんが発射しました。
   ……弾着確認!」

杉田「よし! 武蔵に伝達! 本艦に続いて初弾観測射撃!」

46㎝主砲の衝撃に艦橋が大きく振動する。
そして大和に引き続いて武蔵も砲撃。
度重なる大口径砲撃に海が揺れた。

観測手「弾着……、今!
   近・近・遠!」
最も揺れているだろう観測室から絶叫のような報告。

副長「……三番砲塔は余り期待出来ませんな」

杉田「まぁ、慣れぬ者ばかりだ。仕方あるまい。
   続けて行くぞ!」

副長「はい! 次弾、対ネウロイ用焼夷榴弾準備ー!」

杉田「全艦隊一斉射撃翌用意!

   テ ー ッ !!」

173: 2011/01/21(金) 23:32:16.24 ID:Ub2AvFQAO
シャーリー「おほっ、来た来た!」

リーネの射撃で動きを止めたネウロイに一発、二発と砲弾が命中する。

エイラ「ナンダ、ずいぶんとヘタッピじゃなイカ」

サーニャ「エイラ、あれは弾道確認のための観測射撃よ?」

シャーリー「ああ。だから次は面の攻撃に切り替えて来るはずだ。もう少し上がろう。
   ルッキーニ、そっちはどうだ?」

ルッキーニ『よーく見えてるよー。艦隊がチカチカしてるからそろそろ第二波いくかもー』

シャーリー「わかった。そろそろわたしらの出番だ。準備しとけよー」

ルッキーニ『はいはーい!』

サーニャ「大尉、来ました」

サーニャの指差すネウロイの前面で砲弾が次々と破裂。
砲弾内部から散布された小型爆弾が炸裂し、大型ネウロイを丸ごと飲み込んだ。

174: 2011/01/21(金) 23:34:43.14 ID:Ub2AvFQAO
エイラ「あの中に突っ込んで行くノカ?」

シャーリー「まさか。打撃艦隊の弾種切り換えの間に、わたしたちが攻撃するのさ」

サーニャ「もうすぐ止みます」

爆煙の晴れる隙間、ネウロイの再生する様子が見えた。

エイラ「サーニャ、あんまり前に出るナヨ?」

サーニャ「うん。二人も気をつけて」

シャーリー「サーニャ、よろしくな」

サーニャ「はいっ」

ミーナ『シャーリーさんいいかしら? ルッキーニさんが降下を開始したわ』

シャーリー「わかった。隊長にルッキーニの誘導とタイミングを任せて、と。
   エイラ! サーニャ! 突撃するぞー!」

ミーナ『ではフォーメーション・フリッツX、スタート!!』

175: 2011/01/21(金) 23:55:57.57 ID:Ub2AvFQAO
サーニャを後方にしたV字フォーメーション。

まずシャーリーとエイラがまだ晴れていない爆煙にまぎれ、
ネウロイの攻撃を左右に引き付ける。

その隙にサーニャが引金を引いた。
フリーガーハマーからロケット弾が次々と発射される。

正面から迫る四つの飛翔体を感知したネウロイはハリネズミのようにビームを展開。そのことごとくを撃ち落とした。

しかし、その間隙をぬってシャーリーとエイラはネウロイに肉薄することに成功した。

狂ったようにビームを撃ち続けるネウロイ。
だがその攻撃はシャーリーの速度には追い付けず、
エイラにはすり抜けられた。

しかも対空攻撃の薄い角度からサーニャに狙われ、ロケット弾を受けるたびにその身を揺らした。

176: 2011/01/21(金) 23:58:56.12 ID:Ub2AvFQAO
その様子は離れた大和からも見えた。

赤六番「すご……」

赤七番「たった三人でネウロイを手玉に取ってる……」

赤八番「ねぇ見てよ、あれ!」

指差す方、ネウロイの直上。
遥か上空から落ちてくる一筋の光。

赤九番「流れ星……?」


ミーナ『ルッキーニさん、ちょっと流されてる感じね。やや左へ』

ルッキーニ「ううう~、風つよ~ぃ」
愚痴りながらも両手は前に。
多重シールドを展開し、その頂点に魔法力を一点集中。

坂本『怖いなら目を閉じてろ。
   こっちの誘導に従ってさえいれば問題なくネウロイにぶつけてやれる。
   ミーナ、やっぱり右に寄せたほうが良くないか?』

ルッキーニ「ちょっとちょっとぉ! どっちに合わせりゃいいのさ!」

177: 2011/01/22(土) 00:04:29.31 ID:IRKAK64AO
ミーナ『それよりもうすぐ限界高度よ。もう落下進路は変えられないわ。
   がんばって!』

ルッキーニ「ん!」

ルッキーニの攻撃魔法は威力こそ折り紙付きだが、
その条件は直接接触で、範囲は極小。

しかも魔法力をドカ食いするので発動中は速度も出せず、飛行もままならない。
それゆえの高高度からの降下攻撃である。


サーニャ「エイラ、大尉、来ます!」

シャーリー「二人とも……、頼む!」

エイラ「任せとけっテ!」


キラキラ光る海面に小さな黒い点。

ルッキーニ「あれか。
   ……あ、あれ? 右だっけ? 左だったっけ?」

まばたきした瞬間、点だった物が眼前にあった。

衝突。

ネウロイが真っ二つに折れた。

178: 2011/01/22(土) 00:12:10.59 ID:IRKAK64AO
降下してくるルッキーニの光を視認したサーニャは最後のロケット弾を発射した。
ネウロイの真下。海面に。

水中の爆発で周囲の海水が泡立ち、噴き上がった。
ネウロイを真上からぶち抜いたルッキーニがその泡で出来た水柱に突っ込む。

エイラ「よい」
シャーリー「しょっと!」
同じく水柱に飛び込んだ二人がルッキーニを泡立った海中から引きずり出した。

シャーリー「ルッキーニ!」
エイラ「大丈夫カ?」
サーニャ「ルッキーニちゃん!」

ルッキーニ「あーん、コア外した~」

シャーリー「そこまで期待しちゃいないさ。
   さ、本命の砲撃が来るぞ。離れよう」

179: 2011/01/22(土) 00:20:05.66 ID:IRKAK64AO
副長「ウィッチたちの攻撃が成功しました!
   コアの露出が視認出来ます!」

杉田「よし! 再生する前になんとしてもコアを破壊するぞ!
   主砲撃ち方始め!!」

副長「徹甲弾、撃てー!」

大和の砲撃を皮切りに、
全艦隊が前半分が吹き飛ばされ露出したネウロイの一際大きな紅いコアへ砲撃を開始した。


ミーナ「おかしいわ!」
坂本「ああ! コアの位置を変えられるネウロイがわざわざ露出したままにするわけがない!
   奴は何かやる気だ!」

砲弾を受けながらネウロイは親本体を修復せずに、へし折られた部分を使ってコア正面に子機を再形成。

その子機たちが連なり、コアの前方でリング状に高速回転しだした。
それが二重、三重と増えていく。

坂本「なんだあれは!」

ミーナ「……」

180: 2011/01/22(土) 00:30:55.92 ID:IRKAK64AO
ネウロイの変化を見てミーナが冷静に分析しようとする。

ミーナ「あのリングがもしネウロイのビームの集束、加速、放射のコントロールをするものだとしたら……」

坂本「今までに見たこともないような大威力、長距離攻撃になるということか?」

ミーナ「でも一体何を狙うというの?
   艦隊? それとも大和? 武蔵?

   まさか扶桑本土を直接……?」

坂本「……!!

   いかんッ!

   ペリーヌッ!

   リーネッ!

   宮 藤 を 止 め ろ ッ !!」

ペリーヌ『えっ、あっ!?』

リーネ『芳佳ちゃん!?』

184: 2011/01/22(土) 18:10:08.90 ID:IRKAK64AO
海面スレスレの高度しか保てないネウロイが最後の輝きを見せる。

副長「取舵! ネウロイに艦首を向け、被弾面積を最小限に!」

杉田「ならん! 艦形このまま! 大和を楯にして後続の艦隊を守る!」

副長「艦長! それならせめて艦隊を離れ、大和を囮に……」

杉田「どちらにしろ、もう間に合わん……!」

もはやネウロイにすら制御できなくなる程に膨れ上がった光は、目を覆わんばかりの爆光を放った。
そして三つのリングを通り、加圧、凝集、放射され光の奔流となった。

ビームの輻射熱が海水を沸騰の過程を飛ばして爆発させる。


海が割れた。

185: 2011/01/22(土) 18:39:24.90 ID:IRKAK64AO
杉田艦長は歯を食いしばり、大和へ向かって来る光を睨み付けた。

その険しい眼差しを照らす光の中に、小さな影が浮かび上がった。

杉田「宮藤さん!?」

小さな青白い光が赤い光の奔流を割った。

芳佳「ぐっ……!」

きつい。

やれるかどうかはわからなかったが、とりあえずシールドははれた。
だが、小さい。
数少ない自分の取り柄だったシールドなのに、今は見る影もない。

 だけど、やっぱり……、あきらめたくない!

芳佳の想いを受けて震電も魔導エンジンも全開。
芳佳を後押しする。

186: 2011/01/22(土) 19:15:33.08 ID:IRKAK64AO
しかしこのネウロイのビームは今までのものと違い、重く、熱かった。

息もできない。
一瞬でも気を抜けばあっという間に飲み込まれそうだ。

氏。
という言葉が一緒脳裏に浮かび、
首を振って否定する。

 うそだ! そんなのはいやだ!

シールドが押され、たわんだ。

 お父さん……!

芳佳は目をつぶった。

芳佳「……?」

隣に誰かの気配を感じた。

目を開ける。

赤十番「手伝いますよ、先輩!」   赤二番「あたしたちも!」

187: 2011/01/22(土) 19:35:40.56 ID:IRKAK64AO
上空のミーナから見れば、その様子はまるで楔を打ち込んだようだった。
しかも、その楔に次々と小さな青白い光が集まっていく。

ミーナ「あの子たちったら!」

坂本「まったく、無茶しおって」

ミーナ「どうして扶桑の魔女って、
   いつもいつも! みんなみんな! 無茶ばっかりするのよっ!」

坂本「わ、私に言っても仕方ないだろう?」

ミーナ「んもうっ!」


サーニャ「ネウロイのビームが止まらないわ」

エイラ「ミヤフジ!」

シャーリー「ルッキーニ無理だ!
   お前の魔法力だってほとんど残って無いんだろ!」

ルッキーニ「それでもやるの!
   あのままじゃ、よしかが……、みんながしんじゃう!」

誰よりも長くこの艦隊と航海を共にし、誰もと仲良くしてきたルッキーニにとって、その想いはひとしおだった。

ルッキーニ「おねがいシャーリー! 手伝って!」

シャーリー「……くそっ」

サーニャ「待ってみんな! あれを見て!」

エイラ「ナ、ナンダありゃ?」

シャーリー「……ホントに何だ?」


サーニャが指差したのは、
ビームを放ち続けるネウロイの背後、

海水を巻き上げる巨大な竜巻だった。

188: 2011/01/22(土) 19:46:46.28 ID:IRKAK64AO
芳佳のもとへ行こうとした二人の足を止める、その異様な光景。

リーネ「あれ、ハルトマンさんのシュトゥルムなのかな?」

ペリーヌ「それにしても、どうしてあんなところで……」

皆が見守る中、竜巻が弱まり上から徐々に消えていく。

その中から現れたものは、

エイラ「オイオイオイオイ!」
シャーリー「マジかよ……」
サーニャ「ルッキーニちゃん見て見て!」

サーニャの声に涙を拭きながらルッキーニも目を向ける。
ルッキーニ「……おふね?」


艦首を下に駆逐艦が屹立していた。
全長 134.2m、全幅 11.6m。
扶桑皇国海軍秋月型駆逐艦“天雲”。

エーリカ「ぷはぁっ。……おおっ!?
   浮いてる浮いてる!
   トゥルーデ! 上手くいったみたいだよ~!」

バルクホルン「ハルトマン! どうだ竜骨はもちそうに見えるか!?」

エーリカ「ん~? 大丈夫っぽい」

バルクホルン「ぽいとはなんだ! ぽいとは!」

189: 2011/01/22(土) 19:50:09.31 ID:IRKAK64AO
坂本「はははははは!」

ミーナ「な、な、何をやっているのよ! あの子たちは!」

坂本「ミーナぁ! カールスラントの魔女も随分な無茶をするもんじゃないか!
   わーっはっはっは!」

ミーナ「んなっ……!」

坂本「~♪」

顔を真っ赤にするミーナと対称に、少佐は涼しい顔。
こんな時なのに愉快でしようがない。


エーリカ「うわっ! それよりミヤフジが大ピンチだ!
   トゥルーデ! はやくぶつけちゃえ!」

バルクホルン「待て待て! 前が全く見えんぞ! ネウロイはどっちだ!」

バルクホルンは間違いなく天雲を持ち上げているのだが、
傍目から見るとしがみついているようにしか見えない。

190: 2011/01/22(土) 19:59:46.89 ID:IRKAK64AO
天雲の乗員の提案を受け入れたバルクホルンは船体を壊さぬよう、海面から浮かすのに苦労していた。
その様子をやきもきしながら見ていたエーリカは気を利かせ、シュトゥルムを使い、
バルクホルンの悲鳴と一緒に無理矢理周囲の海水ごと巻き上げて、ようやく今の姿勢になった。

バルクホルン「ハルトマン! バランスを保つので精一杯だ! 早く方角を教えろぉぉ~!」
舳先を掴む指に力を集中させる。

エーリカ「ん~、もうちょい左。
   ……あー違う違う。そっちじゃないって。
   いやいや、だから向きじゃなくて、方向を変えるの。
   あぁ、それと左っていうのはわたしから見た方向ね」

ミーナ『トゥルーデ、私よ。ネウロイはもう少し前方。
   まだよ……、右だってば! 右!』

バルクホルン「おいおい!」



坂本「……スイカ割りみたいだな」

191: 2011/01/22(土) 20:07:26.71 ID:IRKAK64AO
ごめんね、お姉ちゃん
ちょっと待ってて


ご飯食べてきます

続きは9時半くらいからです

192: 2011/01/22(土) 21:43:36.43 ID:IRKAK64AO
自分の周りに練習生が集まり、いっしょになってシールドで防いでくれているのはとても頼もしかった。
しかし一方で、芳佳は終わりが見えない攻撃を防ぎ続けるのに、限界を感じていた。
精神力も魔法力もジリジリと削られていく。

芳佳「みんなお願い! もういいから! 無理しないで!」
その声はもはや悲鳴に近かった。

赤五番「……ヤダ!」

赤八番「みんなで力を合わせろって、教官も!」
叫ぶ横顔に汗が光る。

赤十番「それに、あなた宮藤さんなんでしょ!」

芳佳「……!?」
不意に自分の名を呼ばれ言葉を失った。
驚きに丸くなった芳佳の瞳に、一人の練習生が写る。

赤十番「“宮藤みたいな絶対にあきらめないウィッチになれ”って!

   坂本教官に……!

   そう言われたんだから!!」


芳佳の顔が真っ赤になった。

193: 2011/01/22(土) 21:53:36.37 ID:IRKAK64AO
芳佳が耳まで赤くしていたその頃。

ネウロイの直上。
海上200m。

坂本『今だ! バルクホルン!』
少佐が叫び、

ミーナ『そう、そこよ!』
ミーナが声を上げ、

エーリカ『トゥルーデ!

   ぶ・ち・か・ま・せ・えーっ!!』
エーリカが声を張り上げた。

バルクホルン「うおおっ!

   く だ け ろ ネ ウ ロ イ ッ !! 」

バルクホルンと天雲の渾身の一撃が、今、振り下ろされた。

天雲の船体がネウロイに直撃。
その重量と勢いはネウロイの巨体を海に叩きつけた。
衝撃波が円く広がり、海面が爆発したかと見間違えるほどの水飛沫が上がる。
ネウロイ全体がかしぎ、芳佳たちに放たれていたビームは虚空へ向かい、やがて消えた。

バルクホルン「はぁっ、はぁ……、どうだ!!」

肩で息をしながら、バルクホルンが鼻を鳴らした。

194: 2011/01/22(土) 22:02:52.62 ID:IRKAK64AO
赤一番「あ~、ちかれた~」
ずっと突っ張っていた手を振りながら、よろよろと高度を落としていく練習生たち。

芳佳「お、終わった……の?」
芳佳も安堵に力が抜ける。


だが、

坂本『いや、まだだ! コアはまだ生きている!』

ミーナ『そんな! あの攻撃を耐えきるだなんて!』

バルクホルン『くそっ! 浅かったのか!』

エーリカ『トゥルーデ! 動いちゃだめだって!』


サーニャ『わたし、弾の補給に行って来ます!』

シャーリー『わたしたちも残弾が足りてない。一緒にいくよ。
   ルッキーニ! エイラ! 急ぐぞ!』


ペリーヌ「やれやれ。まったく、しぶといネウロイですわね。
   仕方ありませんわ。リーネさん、わたしたちも……」

リーネ「……」

ペリーヌ「リーネさん?」

195: 2011/01/22(土) 22:10:54.09 ID:IRKAK64AO
リーネは大和を見下ろし、
それから肩で大きく息をしながらも、大和の前から一歩も動こうとしない芳佳を見た。

まだあの攻撃の前に立ち塞がる気があるようだ。

艦隊、芳佳、ネウロイと目を移し、
最後にペリーヌを見た。

リーネ「……ペリーヌさん」
押し頃した声。

ペリーヌはリーネの決意に満ちた大きな瞳を見た。

リーネ「あれを使いましょう!」

ペリーヌ「ええ! よろしくってよ!!」

196: 2011/01/22(土) 22:13:34.06 ID:IRKAK64AO
芳佳の目の前でネウロイが鳴動。
再び活動を開始する。

芳佳「そんな……、まだ……」
銃を持つが、その腕が震える。力が入らない。

もう飛ぶのもやっとの芳佳の視界を大和の艦橋が通り過ぎる。

芳佳「あっ、待って!」

杉田『各艦、一斉射! ヤツに砲撃の隙を与えるな!!』

副長『ウィッチたちを射界に入れるなよ!』

全艦が回頭、前進し、砲撃を開始した。

芳佳「みんなが……」

???「……ちゃん!」

 誰……?

見上げると太陽を背に逆光の中から手を伸ばすリーネの姿があった。

リーネ「芳佳ちゃん! 力を貸して!」

197: 2011/01/22(土) 22:18:27.50 ID:IRKAK64AO
ペリーヌ「リーネさん!
   宮藤さんはもう限界ですわ!
   ここはなんとかわたくしたちで……!」

リーネ「それでも!
   わたしは芳佳ちゃんに手伝って欲しいの!
   芳佳ちゃん、来て!」

芳佳「リーネちゃん……?」

 わたしを必要としてくれてるのなら。

芳佳「待ってて! 今行くから!」

息を上げながらゆらゆらとリーネとペリーヌのもとへ飛ぶ芳佳。

一方、海面から浮き上がったネウロイは再び姿勢を正し、またビームの発射体形に移る。

坂本「もうそんな力があるようには見えないが、
   まだ撃つつもりか、ネウロイ」

ミーナ「ネウロイ、どうして……」

198: 2011/01/22(土) 22:22:10.17 ID:IRKAK64AO
芳佳「ふぅっ、お待たせ。
   リーネちゃん、それでわたしは何をするの?」

リーネ「わたしたちを下から支えて欲しいの」

芳佳「うんっ。あの時と一緒だね!
   ……よいしょっと」
芳佳がリーネを肩車。

芳佳「ん? わたしたち?」

リーネ「ペリーヌさん!」

ペリーヌ「さ、さすがに人前でこんな格好するのは恥ずかしいですわ……」
そう言うペリーヌをリーネが肩車した。

芳佳「ぐっ。お、重い……」

ペリーヌ「し、失礼ねっ!」


その芳佳たちの様子は、艦隊に接近してつつあったエイラたちからも確認できた。

エイラ「あ、あいつらなにやってンダ?」

シャーリー「……トーテムポールみたいだな」

199: 2011/01/22(土) 22:28:08.41 ID:IRKAK64AO
ペリーヌが腰に差していたレイピアを抜き、正面に向けて構えた。
ペリーヌ「リーネさん! よろしくてよ!」

リーネは胸のポケットから一発の銃弾を取り出し、対装甲ライフルに装填した。

芳佳「銀色の……?」

ボルトを引いて弾を薬室に送り込む。
リーネ「こっちも準備完了です!」

芳佳「あの、リーネちゃん、ペリーヌさん。
   ……何するの?」

ペリーヌ「わたくしの魔法をリーネさんが撃ち出しますの」

芳佳「ええっ? そ、そんなことできるの?」

リーネ「まだ練習中なんでうまくいくかわからないけど、
   今日ならきっと、大丈夫!」

ペリーヌ「それに故郷を喪うなんて思い、あなたにも、あの子たちにもさせたくはありませんもの。

   そのためならなんだってやるわ!」

二人の強い決意を感じて芳佳は息を呑んだ。

200: 2011/01/22(土) 22:33:49.21 ID:IRKAK64AO
芳佳「それならちょっと待ってて。わたしも手伝う!」

リーネ「芳佳ちゃん?」

芳佳「わたしたちの後ろにはお母さんやお婆ちゃんやみっちゃんやみんながいるもの!
   それに産まれたばかりの牛さんもいるし!」

ペリーヌ「う、牛? ちょっと宮藤さん!」

芳佳がリーネから一端離れ、背中の烈風丸の柄を握った。
芳佳「よっ、……あれ?」
途中までしか抜けない。
芳佳「んーっ!」

 坂本さんってどうやって抜いてたんだっけ?

坂本『宮藤! 身体全体を使って、腰を回すように抜くんだ!』

ミーナ『ちょっと美緒!』

坂本『自分の体を延長したものと考えろ!
   そうすれば烈風丸に振り回されることは無い!』

芳佳「坂本さん……」

言われた通りにしてみる。

芳佳「わ」

ペリーヌ「抜けた!」

リーネ「芳佳ちゃん急いで!」

201: 2011/01/22(土) 22:37:55.64 ID:IRKAK64AO
芳佳は息つく間もなく戻って再びリーネを担いだ。

芳佳「ごめん、お待たせ。
   ……ネウロイ、こっちを向いてるの?」

ペリーヌ「ええ、わたくしたちを狙ってますわね。
   これからやることに気付いたのかしら?」

リーネ「……」

ペリーヌ「急ぎましょう!
   リーネさん、任せますわよ!」
三人の一番上でレイピアをネウロイに向けてペリーヌが言った。
その剣先が電撃を帯びる。

リーネ「……はい!
   芳佳ちゃん、わたしに魔法力を預けて!」
真ん中のリーネは構えた対装甲ライフルに魔法力を込める。

芳佳「うん!
   リーネちゃん、がんばって!」
芳佳は一番下で烈風丸を両手で握りしめ、その切っ先にネウロイを捉える。



坂本「また変わった事を思いついたもんだ」

ミーナ「ブレーメンの音楽隊みたいね……」

202: 2011/01/22(土) 22:44:40.56 ID:IRKAK64AO
その三人に呼応したのか、ネウロイの輝きが一層増した。
そして更に子機を展開。それぞれが紅く光り、放ったビームがコアの前方で結ばれる。
その正面に形成されていたリングも回転を増し、紅い光の輪になった。

自身にかかるあまりの負荷にネウロイのコアにヒビが入る。

バルクホルン「あの様子、尋常じゃないぞ……」

エーリカ「おかしいって、あのネウロイ!」

ミーナ「コアが自壊を始めてる。こんなネウロイ聞いたこと無いわ!」

坂本「急げよ三人とも……!」

ペリーヌと芳佳の目にもその危険な様子が見てとれた。

だが、ただ待つだけだ。二人が魔法力を預けたリーネを。

リーネは心の中でその二人の想いを感じ、三人の魔法力が一つになるその瞬間を待っていた。
いつの間にか閉じていた目がゆっくりと開かれる。
まるで長い眠りから醒めたように。

二人の声が聴こえる。

ペリーヌ「リーネさん!」
芳佳「リーネちゃん!」


リーネ「……。

   撃ちます!」

203: 2011/01/22(土) 22:49:45.29 ID:IRKAK64AO
リーネが引金を絞ったと同時に、ネウロイのビームが照射された。

青い空に赤い光が走る。
大気を灼き、真っ直ぐリーネたちを狙ったビームだったが、彼女たちのわずか手前で押し留められた。

シャーリー「扶桑のシールドだ!」

ルッキーニ「よしかがやってるの?」

エイラ「だがミヤフジがシールドを張ってるようには見えないゾ」

サーニャ「……芳佳ちゃんじゃないわ」


たった一発の銀の銃弾。

三人の魔法力が込められたそれは自らシールドを張り、ビームを押し返しながらゆっくりと進んだ。
それは遠くからはまるでビームを切り裂いているように見えた。

ミーナ「確かに純銀は魔法力を乗せやすいとは聞いてたけど、こんな使い方が出来るなんて」

坂本「宮藤の魔法特性を弾丸に付与したのか? リーネ……」

204: 2011/01/22(土) 22:56:38.67 ID:IRKAK64AO
バルクホルン「確かに我々ウィッチの撃つ弾は魔法力を帯びている。
   だがネウロイのビームに打ち勝つほど強力なものなんて聞いたことが無い。
   三人の性質の異なる魔法力をまとめ上げ、それを一発の弾に込めるだなんて……。

   リーネのやつ、大したもんだ」
小さな銃弾がビームを押し進むさまにバルクホルンがため息をついた。

エーリカ「気の合うあの三人だから撃てたのかもね~。
   ……それにしてもあの様子、まるで少佐の烈風丸みたい」

バルクホルン「……! そうか!!」


ペリーヌ「宮藤さん! あまり無茶しないで!」
自分たちの銃弾が想像以上の効果を発揮しているのを見てペリーヌが芳佳を心配した。

芳佳「ううん、大丈夫! 烈風丸が力を貸してくれてる! 今のわたしにはわかるの!」
芳佳の声は元気そのもの。烈風丸に魔法力を吸われてるとは思えない。
むしろこの状況に心踊らせているように見えた。

206: 2011/01/22(土) 23:02:08.85 ID:IRKAK64AO
押し返されるビームの余波で加速リングが次々と破壊されていく。
そして遂に弾丸がネウロイのコアに接触し……。

ミーナ「届いてない!
   コアの周りにシールド?
   ……いえ、違う! なにかスクリーンのようなものが張られてるわ!」

坂本「そうか、ミーナは見てなかったか。
   あのウォーロックも似たもので攻撃を防いでいた。
   奴のコアが妙に硬かったのはこれが理由かか。
   ネウロイの元々の力なのか、それとも……」

ミーナ「ここまで来て、あと一押しが足りないなんて!」

坂本「心配するなミーナ。

   ……お前が銀の銃弾を使った本当の理由はこのためだったんだな、リーネ」

207: 2011/01/22(土) 23:06:21.85 ID:IRKAK64AO
ミーナ「わからないわ、美緒。どういうこと?」

坂本「銀の銃弾は魔法力を乗せやすいと言ったのはミーナ、お前だろう?

   あの弾はリーネが撃ったものだ。
   私の魔眼でしか視えんが、あの弾は今もリーネと繋がっている。

   ……魔法力でな」

ミーナ「ただの魔翌力付与じゃなかったのね?」

坂本「ああ、私の見当違いだった。
   魔法力での弾道操作は知っているが、あいつらのやっていることは違う。

   弾丸を媒体にした魔法の遠隔発動」

ミーナ「弾自体がシールドを張ったように見えたけど、本当は宮藤さんの魔法だったのね。
   すごいアイデアだわ!
   以前はあんなに臆病だったのに。
   ……ずいぶん成長したわね。リーネさん」

坂本「それは今でも変わらないさ」

ミーナ「えっ?」

209: 2011/01/22(土) 23:12:25.38 ID:IRKAK64AO
坂本「確かにリーネは臆病な性格で、本能的に危険を避ける癖がある。
   ……もちろん戦場では、特に仲間の危機においては別だがな。
   だがそれ故に、あいつが決断するのは絶対に勝つ自信がある時のみだ。
   だからこそこんなやり方を思いつく。
   だからこそ仲間に信頼されるのさ。

   ……そうだろう? ペリーヌ」

見守る少佐とミーナのインカムに三人の声が届く。

芳佳『ペリーヌさん!』
リーネ『今です!』

ペリーヌ『トネェェェェェェール!!』

ペリーヌから放たれた稲妻が、
何かを伝うように、
導かれるように、
弾丸へ、
ネウロイへと伸びて行く。

ミーナ「リーネさんの結んだ魔法力を伝っているね。
   ……って、そうだったわ!」

坂本「な、なんだ、ミーナ?」

ミーナ「ペリーヌさんはね。
   自分の魔法をあなたの烈風斬みたいに使えないかって、ずいぶん悩んでいたそうよ」

坂本「ペリーヌ……」

210: 2011/01/22(土) 23:20:29.24 ID:IRKAK64AO
ミーナ「あのレイピアを常に肌身離さず。
   私は話を聞いたきりだったし、それからのことも知らないから、
   てっきり諦めたんだと思ってたんだけれど。
   そう……、リーネさんの力を借りたのね」

ペリーヌの電撃がコアの寸前で止まっていた弾丸に追い付き、雷光で輝かせる。

坂本「なんでも独りで気負ってたあいつが……、   そうか……」

トネールを帯びたリーネの弾はネウロイのスクリーンを易々と撃ち抜き、
コアと一瞬だけ拮抗した。

一瞬だけ。

コアを撃ち抜かれたネウロイが悲鳴のような音を出す中、コアがゆっくりと崩壊していく。

やがて海に沈みながらネウロイ全体は巨大な光球となって、音の無い爆発を見せた。
海面を滑るように白い光の輪が円く拡がった。

その拡がっていく光の波を受け、
残っていた子機も次々と消し飛び、
無数の光の細片となって散っていく。

そして白く輝く塵と温かい雨が艦隊に降り、煤で汚れた船体を洗った。

211: 2011/01/22(土) 23:30:59.44 ID:IRKAK64AO
新人たちが手を手に取って十人で輪をつくり、
歓声を上げる。

杉田艦長はその様子を見ながら制帽を脱ぎ、
ようやく腰を艦長席に下ろした。

芳佳とペリーヌはリーネに抱きつき、
喜び、笑いあった。

互いに支えあい、
その様子を目を細くして見るバルクホルンとエーリカ。

シャーリーとルッキーニ、
エイラとサーニャの四人は満面の笑顔でハイタッチ。

そして、坂本少佐とミーナ中佐が連名で作戦終了の宣言をし、
この戦いは終わった。


1946年 第一次太平洋沖扶桑本土防衛作戦、終了!

212: 2011/01/22(土) 23:38:26.25 ID:IRKAK64AO
ここで本編は終了です。

このあと坂本少佐とミーナ中佐の総括、
そして、ちょっとしたエピローグを追加して終わりたいと思います。

投下は明日の夕方くらいから。

もう少しお付き合いいただければうれしいです。

217: 2011/01/23(日) 16:39:41.36 ID:ibFNDCuAO
遭難者の捜索や救助、損傷した艦船の修理等、
艦隊が帰路につく頃には日が傾き始めていた。

ブリタニア海軍護衛空母“プレトリア・キャッスル”

坂本「商業船を改造した航空母艦か」

ミーナ「どこの国も大変なのよ」

二人はデッキで凪いだ潮風を浴びながら休んでいた。
手すりに身を預けてミーナが言う。

ミーナ「杉田艦長たちが気を使ってくれたおかげで、扶桑に着くまで私のやることは無くなっちゃった」

坂本「それはそうだ。一番大変だったのはお前だったのだろう?」

ミーナ「そんなこと無いわ。今日は誰もが疲れているはずよ。
   特に扶桑の人たちで初陣になった人は多いんじゃないかしら?」

坂本「それだけの話じゃない。

   ミーナ、烈風丸に魔法力を吸わせたせいか?」

ミーナ「……違うわ」

218: 2011/01/23(日) 16:41:25.83 ID:ibFNDCuAO
ミーナ「私もあなたと同じように、ウィッチの運命からは逃げられない。
   ってそういう話よ……」

坂本「……」

ミーナ「そんな顔しないで、美緒。
   幸い私は魔法力の喪失者を多く見送って来たもの。
   ……心の準備は出来てたわ」

坂本「そうか」

ミーナ「大人しく受け入れるつもりよ。
   あなたみたいに運命に抗う気力、私には無いわ」

坂本「そのわりには宮藤には随分と尽力したみたいだが?」

ミーナがくすくすと笑った。

ミーナ「意地悪な顔で言うのね。

   でも理由は簡単。

   あなたと同じように、私たちみんなも、あの子が大好きだからよ」

219: 2011/01/23(日) 16:43:47.00 ID:ibFNDCuAO
坂本「ふふ、そうだな。

   なぁミーナ。
   烈風丸に魔法力を注ぎ込むなんてこと、誰が思いついたんだ?」

ミーナ「さぁ、誰なのかしらね。
   私たちが着いた頃には皆済ませてたし、あまり気にしてなかったわ。
   楽しいことだけじゃなく辛いことも、
   みんなで分かち合いましょうって気持ちから始まったことよ」

坂本「そうか……。そうだな」

ミーナ「私も烈風丸を握った時に確かに皆の魔法力を感じたわ。
   宮藤さんとあなたのものもね」

坂本「ふむ。烈風丸は自ら吸い上げたウィッチの魔法力を全て利用していたと思っていたが……」

ミーナ「うーん。これはあくまでも私の推論なんだけど……」

ミーナは慎重な面持ちで話し始めた。

220: 2011/01/23(日) 16:45:59.05 ID:ibFNDCuAO
ミーナ「例えば、ストライカーを履きたての新人は魔法力を使い切って墜落をすることがあるわよね?」

坂本「ああ。だから扶桑では、慣れないうちは海上で浮き輪をつけて飛ばせるのが慣習となっている」

ミーナ「でも魔法力を使い切ったから、二度と回復しなくなったなんて話は聞いたことが無いでしょ?
   まぁそれはストライカーのリミッターが働いていたからかもしれないけど」

フム、と頷いてミーナの続きを待った。

ミーナ「でも私たちは事故で魔法力を完全に使い切った事例を知っている」

坂本「……シャーリーとバルクホルンのことか」

ミーナ「ええ、そうよ。
   そして二人とも気絶はしたものの、数日で元の魔法力を回復させた。

   で、思ったんだけど、私たちウィッチの中には魔法力を生み出す、
   そうね、コアのような物があるんじゃないかってね」

221: 2011/01/23(日) 16:48:57.44 ID:ibFNDCuAO
ミーナ「あの日、宮藤さんが真烈風斬を撃つ直前に、
   『わたしの魔法力を全部あげる』って言った声を私は確かに聞いたわ。

   そして烈風丸はその願いを約束として正しく履行した」

坂本「……」
おぼろ気にミーナの言おうとしていることが分かってきた。

ミーナ「きっと宮藤さんは無意識に自分の魔法力をコアごと烈風丸に差し出したんじゃないのかしら?」

坂本「……なるほど、理屈は合うな。
   魔法力がそのコアを源に回復するものだとしても、そのコアそのものが無ければ回復しようが無い、ということか。
   ならば宮藤のコアは烈風丸の中に宿っているということになる」

ミーナ「これは結果から推測した結論で、辻褄を合わせて納得したいっていう私のわがまま。
   でも少しは気が楽になったわ」

222: 2011/01/23(日) 16:50:41.11 ID:ibFNDCuAO
坂本「いや、私も安心出来た。ありがとうミーナ」

ミーナ「いつか魔法がもっと学術的に体系としてまとめられたら、
   もっときちんと、はっきりする日が来るかもしれないわね」

坂本「私は宮藤が元気であればそれでいい。
   この戦いに巻き込んだのは私なのだからな」

ミーナ「ほら、またそうやって一人で気負って。

   ……でも、あなたが皆に送ってくれた手紙のおかげで今の宮藤さんの笑顔があるのよ?

   それは忘れないで」

坂本「ああ。すまなかった。

   ……ミーナ」

ミーナ「何?」

夕日を背にした少佐の顔は陰って見えた。

223: 2011/01/23(日) 16:53:36.27 ID:ibFNDCuAO
坂本「今日のネウロイが形態を変化させ、己の身を省みずにまで放ったあの最後の攻撃……。
   あれは二射とも宮藤を狙っていた」

ミーナ「もしくは烈風丸。それとも両方か」

坂本「そうか、お前も気付いていたか」

ミーナ「私がそう思ったのは後からだけど、

   ……リーネさんは誰よりも早く気付いていたようだったわ」

坂本「あいつはいつも宮藤を見ているからな……。

   だがそのうち誰もが気付く。やがて宮藤の耳にも入るだろう」

ミーナ「誰とでも仲良く。
   ブリタニア防衛戦ではネウロイすら信じようとしたあの子がこのことを知ったらどう思うでしょうね」

坂本「存在を否定するような敵意を向けられたことなど無いだろう。
   できれば知らずにいて欲しいものだが……」

224: 2011/01/23(日) 16:56:41.97 ID:ibFNDCuAO
ミーナ「それにしてもネウロイは何故宮藤さんと烈風丸を狙ったのかしら?」

坂本「ヴェネチアのネウロイの巣を宮藤が烈風斬で潰したからだろう?

   簡単な理由だ。

   打った私からも、ネウロイからも恨まれるとは、なんとも因果な刀だな」

ミーナ「本当にそうかしら。
   それに私は嫌ってないわよ? 烈風丸のこと」

坂本「……? 何故だ?」

ミーナ「さっきも言ったとおり、烈風丸はあなたと宮藤さんの願いに応えたわ。
   それは大きな代償を伴った結果を残したけど、それ自体だってあなたたち二人が望んだものよ。
   私にはとても素直な子だと思えるんだけど?」

坂本「やれやれ。お前相手では烈風丸でさえ子ども扱いか」

225: 2011/01/23(日) 16:58:59.37 ID:ibFNDCuAO
坂本「ありがとう、ミーナ」

ミーナ「ん? どうして?」

坂本「お前には救われてばかりだ」

ミーナ「いいのよ、美緒。
   ところで宮藤さんのことなんだけど……」

坂本「まだ眠ったままか。
   まぁ、無理もない。

   今日まで誰にも、自分自身にすら打ち明けられない思いを抱えたまま長い夜を過ごしてきたんだ。
   ようやくその気持ちを解き放つことが出来た今は、
   さぞ心地よく寝られるだろう」

ミーナ「今頃どんな夢を見ているのかしらね」

坂本「さぁな。

   だがきっと……、


   いい夢だ」

226: 2011/01/23(日) 17:13:22.33 ID:ibFNDCuAO
芳佳が目を覚ましたのは日が沈む直前だった。
寝ぼけまなこで見た医務室の船窓から差し込む赤い日の光に、朝なのか夕暮れなのか判らず、飛び起きた。

プレトリア・キャッスルは損傷艦でごった返した湾には入らず、沖に錨を下ろしていた。

エイラ「ちぇ~。久しぶりに揺れないベッドで寝れると思ったのに」

サーニャ「仕方ないわよ、エイラ」

艦の中で最も広い作戦室がウィッチたちにあてがわれ、彼女たちはそれぞれ思い思いにくつろいでいた。

エーリカ「ミヤフジが起きたよー」

バルクホルン「ホントか!」

ルッキーニ「よしかー!」

芳佳「えへへ、おはようございます……」

ペリーヌ「いえ、もう夜でしてよ?」

芳佳「ええ!?」

227: 2011/01/23(日) 17:20:39.65 ID:ibFNDCuAO
リーネ「芳佳ちゃん体は大丈夫?」

芳佳「うん。ちょっと疲れただけだから。心配かけてごめんね」


エーリカ「簡単に診てみただけだけど、どこにも異常はなさそう」

バルクホルン「魔法力は?」

エーリカ「そっちはわたしには分からないけど、当分は烈風丸を身に付けてたほうがいいと思うな。
   ミヤフジもそのつもりらしいし」


ルッキーニ「よしか、烈風丸似合ってるうっ!」

リーネ「かっこいい! 芳佳ちゃん!」

芳佳「えへへ、本当?」

ペリーヌ「坂本少佐ほどではありませんけどね」

シャーリー「ちょっと大きすぎないか?」

バルクホルン「な、何を言う! ぴったりじゃないか!」

228: 2011/01/23(日) 17:22:16.21 ID:ibFNDCuAO
ミーナ「あら、みんなそろっているようね」

坂本「待たせたな」

賑やかになった作戦室に二人が入って来て、壁に貼られた世界地図の前に立った。

ミーナ「今食堂で料理の準備をしてくれてるわ。
   扶桑からの差し入れもあるそうよ」

ルッキーニ「いやったぁ!」

エイラ「もうお腹ペコペコ」

坂本「そこで準備が出来るまでの時間を使って、今後の行動を説明する。
   ミーナ、頼む」

ミーナ「ええ。
   みんなには上陸して扶桑で休暇、としてあげたかったんだけど……。
   先程、人類連合軍統合作戦本部から新たな作戦への参加要請が来たわ」

シャーリー「新たな作戦?」

229: 2011/01/23(日) 17:24:11.83 ID:ibFNDCuAO
ミーナがうなずき、世界地図の一点に指を置いた。

ミーナ「……ヨーロッパを支配するネウロイの巣のあるカールスラント領への大反攻作戦」

エーリカ「来たね……!」
バルクホルン「ああ! 遂に来たな!」

ミーナ「人類の勢力の約半分を継ぎ込む大作戦よ。実行予定は三ヶ月後」

リーネ「三ヶ月後……」

ペリーヌ「隊長、わたくしたちはどのような形でその作戦に?」

ミーナ「私たちは現在構成されている連合国艦隊を再編成した上で、ともに北上。
   ベーリング海峡を抜けて北極海に進行する。
   そしてシベリア海を越えて、北海へ。
   スオムスを経由し、カールスラント沿岸から艦砲射撃の支援。
   そののちネウロイ勢力下に侵攻する」


サーニャ「オラーシャの海……」

230: 2011/01/23(日) 17:26:50.68 ID:ibFNDCuAO
作戦室の一番後ろの席からサーニャはその地図を目で追った。
その様子をちらりと見たエイラが手を挙げる。

エイラ「ハイハイハイ!
   ちょ、ちょっと待ッタ。オラーシャを素通りするノカ?」

坂本「いや、北ネウロイからの挟撃は避けたいし、オラーシャの協力はこの反攻作戦には必要不可欠だ」

ミーナ「そこでオラーシャで補給を受けた折りに私たちは艦隊を離れ、
   東側ネウロイ勢力圏に対して陸路より攻撃を仕掛けます」

サーニャ「……!」
サーニャの目が丸くなる。

坂本「……作戦はウラル山脈に沿って行なわれる予定だ」

全員が振り返り、サーニャを本当にうれしそうな顔で見た。

エイラ「やったなサーニャ……!」

両手で口元を押さえたサーニャは涙を浮かべて、何度もうなずいた。

231: 2011/01/23(日) 17:30:12.14 ID:ibFNDCuAO
ルッキーニ「あのさ隊長、ところでこの船で行くの?」

エーリカ「ちょっと狭いよね」

坂本「我々501の母艦には信濃を使う」

ペリーヌ「信濃?」

芳佳「坂本さん。信濃はまだ完成してないって聞きましたけど……」

サーニャ「それに再び扶桑にネウロイが現れる可能性だって……」

リーネ「たしかにそうかも」

ミーナ「それに関しては報告があるの。
   統合作戦本部からの指令と同じ頃に、こちらに合流しようと北上していた南太平洋のリベリオン艦隊から一報があったわ」

シャーリー「リベリオンから?」

坂本「扶桑の沖に位置する島で要塞化したネウロイを発見したそうだ」

エイラ「今回のネウロイはそっから来たんダナ?」

ミーナ「ええ、おそらく。

   そこで私たちは信濃の完成するまでのその時間を利用して、その要塞を撃破します」

バルクホルン「うむ。立つ鳥跡を濁さず。いい作戦だ」

サーニャ「良かったね、芳佳ちゃん」

芳佳「うんっ!」

シャーリー「少佐、その島の名前は?」

坂本「硫黄島だ」

芳佳「硫黄島……」

232: 2011/01/23(日) 17:32:01.16 ID:ibFNDCuAO
坂本「では一度整理しておこう。

   まずは“硫黄島奪還作戦”。
   艦隊を再編成した上で、太平洋に展開中のリベリオン海軍と協力して、これを叩く」

ペリーヌ「故郷を守る戦い。負けられないですわね」
リーネ「芳佳ちゃん、がんばろうね!」
芳佳「うん!」


ミーナ「作戦終了後、完成予定の信濃を編入した連合国艦隊で北へ向かいます」

ルッキーニ「大艦隊だ!」
シャーリー「リベリオン海軍が一緒か。楽しくなりそうだ」


坂本「続いて“オラーシャ解放作戦”。
   こちらについてはオラーシャへの支援行動が主となる予定だ。
   陸路の移動には鉄道を使う」

エイラ「絶対に成功させるゾ! サーニャ!」
サーニャ「うん!」


ミーナ「そして“カールスラント大反攻作戦”。
   近隣諸国の総力を挙げた多方面からの侵攻作戦。
   なんとしてもネウロイの巣を打ち倒して、欧州に平和を取り戻しましょう!」

バルクホルン「遺恨を晴らす時が来たな」
エーリカ「帰る日が楽しみだね!」

233: 2011/01/23(日) 17:33:56.80 ID:ibFNDCuAO
ミーナ「あら、そろそろ準備が終わったころかしら?
   さぁ、みんな。移動しましょう。
   実は私もお腹が空いてたの」

全員「はーい!」


食堂に用意された料理は実に豪勢なものだった。
皆が料理を楽しみ、今日の戦いを振り返り、今後の作戦に想いを馳せた。

リーネは甲斐甲斐しく給仕の真似ごとをしながら、皆に魚を切り分けていった。
ペリーヌは次々とご飯を盛って、坂本少佐を困らせた。
ルッキーニは待ちにまった扶桑料理に目を輝かせ、
シャーリーは食い散らかすルッキーニの口元を拭きながら、寿司を頬張った。
バルクホルンは天ぷらが気に入ったらしい。
手当たり次第に手を伸ばすエーリカに強く薦めたが無視された。
エイラは一生懸命サーニャのために蟹を解体していたが、
肝心のサーニャは茶碗蒸しを次々と空けていた。
ミーナは漬物を全て並べて少佐にこれは何か?とひとつひとつ食べるたびに訊いた。


芳佳は……。

234: 2011/01/23(日) 17:35:33.61 ID:ibFNDCuAO
芳佳は一人、甲板で外の空気に当たっていた。

坂本「宮藤。ここにいたのか」

芳佳「坂本さん……」

坂本「食事はいいのか?
   皆で集まるのも半年ぶりだ。つもる話もあるだろうに」

芳佳「もうお腹いっぱいです。

   会いたかったみんながいて、
   すごく楽しくって、
   すごくうれしくって。
   こんなに楽しく食事するのは本当に久しぶりです。

   もう信じられないくらいに。

   ……ひょっとしたら、全部夢なんじゃないのかなって、そう思ったらちょっと怖くなって」

坂本「もし夢だとしたら、

   ずいぶんといい夢だな」

芳佳「……! そうですね!」

二人そろって頬をゆるませた。

235: 2011/01/23(日) 17:37:24.44 ID:ibFNDCuAO
坂本「烈風丸は重くはないか?」

芳佳「はい。
   ……まだ慣れなくって。あちこち引っ掛けながらです」

少しずれていた肩ひもを正して背負い直す。

芳佳「坂本さん、本当にわたしが預かっていいんですか?」

坂本「ああ。それはお前が背負え。
   私は代わりにこれを背負う」

芳佳「竹刀?」

坂本「これは自分への戒めだ。

   空で私に出来ることはもう少ない。
   ……皆も心配するしな。

   だから飽きるまでは前に出ず、後ろからお前たちにこれで渇を入れてやる」

芳佳「はいっ! よろしくお願いします!」

236: 2011/01/23(日) 17:39:33.77 ID:ibFNDCuAO
坂本「あぁ、それとな。

   今後はあまり無茶しないでくれ」

芳佳「はい、わかってます。

   わたしは今まで自分がみんなを守らなきゃいけないって、そう思ってました。
   でもそのために無理したこともあったし、誰かに無茶を強いてしまっていたこともあったんですね。
   みんなに心配かけて、みんなに守ってもらった今日の戦いでそれを知りました。
   わたし一人で出来ることは限られるけど、みんなとならどんなことだって出来る。

   一人で飛んでるわけじゃない。

   それを今日みんなに、
   ううん、坂本さんの教え子さんたちにも教えてもらいました」

坂本「いや、そういうことじゃないんだ」

芳佳「え゛?」

237: 2011/01/23(日) 17:41:35.55 ID:ibFNDCuAO
坂本「実は困ったことにあいつらは今日のお前たちの戦いぶりにすっかり心酔してしまってな。

   十人で大和を持ち上げてネウロイに投げつけるだの、
   ビームをそれぞれのシールドで次々と反射させてネウロイに撃ち返すだの、

   作戦が終わってからもそんな話ばかりで私の話など聞こうともせんのだ」

芳佳「うわぁ……」

坂本「だが今日、件の先輩たちの姿を見て、あいつらなりに思うところがあったらしい。

   これからはお前が先輩だ。

   あいつらの手本となるように常に気合いを入れ、
   いつか隊の先頭を率いる、誰もが憧れるような立派なウィッチにならねばな」

芳佳「そ、そんなぁ~」

238: 2011/01/23(日) 17:44:24.29 ID:ibFNDCuAO
芳佳「でも坂本さん。
   わたしもいつか坂本さんみたいな立派なウィッチになれるようにこれから頑張って……」

坂本「……宮藤。
   お前は私の技も、志も、そして烈風丸も。
   その全てを受け継げていく必要はない」

芳佳「えっ、どうしてですか?」

坂本「ペリーヌもリーネも……、お前たちはもうひよっこじゃない。
   お前はお前のまま、宮藤芳佳として生きて行け。
   自分の望むように、
   自分のなりたいように」

芳佳「そ、それでも! 坂本さんはわたしの目標です!」

坂本「そ、そう言うな……。



   ……照れる」

珍しく少佐が頬を赤くした。

239: 2011/01/23(日) 17:46:32.40 ID:ibFNDCuAO
ルッキーニ「あーっ! こんなところにいたー!」

シャーリー「主役の二人がいなくてどうするんだよ!」

リーネ「芳佳ちゃん、あんまり風に当たっちゃ駄目なんだから」

ペリーヌ「少佐も! 風邪を召しますわよ!」

エイラ「さむっ。早く中に戻ろ、サーニャ」

サーニャ「でも星がきれいよ、エイラ」

バルクホルン「軍人たるもの、これくらいで弱音を吐くんじゃない」

エーリカ「あーもう、ヤダヤダ」

ミーナ「二人ともー、はやくいらっしゃーい」



坂本「さぁ、帰ろう。宮藤」

芳佳「はいっ!」


             おしまい。

240: 2011/01/23(日) 17:47:35.40 ID:nc5exqm7o

241: 2011/01/23(日) 18:00:10.10 ID:ibFNDCuAO
これでこのSSは終わりです。
一週間もの長い間、お付き合いありがとうございました。

続きも書いてみたいけど、ワールドウィッチの描写が不可欠なのでムリムリ。

最後にもうちょっと、
参考にした作品の紹介と、キャラクターの解説っぽいのを少し。

242: 2011/01/23(日) 18:13:57.34 ID:ibFNDCuAO
『トップガン』、『戦闘妖精・雪風』
ともに小説。両方とも空や空戦挙動の描写の参考にさせてもらいました。

『トップをねらえ!』
迷ったけど、台詞を拝借。

『スカイガンナー』
PS2のゲーム。
バルクホルンとエーリカがちょうちょ結びにしたネウロイはこちらから。
そのまんまの敵が出て来ます。

『第二次スパロボα』
大好きなアイビスルートのシナリオから。
ミーナ隊長から芳佳への言葉に少し改変して引用。

『STRIKE WITCHES 2 ~笑顔の魔法~』、『Over Sky』
恥ずかしいくらいに歌詞からいっぱい引っ張ってきました。

『ストライクウィッチーズまとめwiki』
アニメの一期二期しか知らないので頼りになったサイト。

小説やCDドラマまでは手を出していないので、
設定等いろいろ気になるところがあった人にはごめんなさい。

243: 2011/01/23(日) 18:44:37.28 ID:YonF8YJKo
久々にSSで感動した

244: 2011/01/23(日) 19:11:20.06 ID:5mvCfNgAO
よかった!乙でした。

引用元: 芳佳「笑顔の魔法!」