1: 2013/07/20(土) 17:24:36.99 ID:M4DF9N/20
・初SSです
・学園都市のレベル5、トップ3が主役です
その中でもメインは垣根と美琴
・時系列? なにそれ美味しいの?
完全なパラレルワールドだと考えてください
・上条さんはびっくりするくらい空気
登場するけど本筋には一切絡まない
・キャラ崩壊・キャラブレあり
・脳内補完・スルースキルのない方はバック推奨
・独自解釈・捏造設定あり
・ストーリーが無理やり
初めてなので文章の拙さ、設定の矛盾などあると思いますが読んでいただけると嬉しいです。
垣根「俺の前スレに、常識は通用しねえ」
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第一章
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第二章
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第三章 【前編】
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第三章 【中編】
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第三章 【後編】
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第四章 【前編】美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第四章 【後編】
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第五章 【前編】
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第五章 【後編】・学園都市のレベル5、トップ3が主役です
その中でもメインは垣根と美琴
・時系列? なにそれ美味しいの?
完全なパラレルワールドだと考えてください
・上条さんはびっくりするくらい空気
登場するけど本筋には一切絡まない
・キャラ崩壊・キャラブレあり
・脳内補完・スルースキルのない方はバック推奨
・独自解釈・捏造設定あり
・ストーリーが無理やり
初めてなので文章の拙さ、設定の矛盾などあると思いますが読んでいただけると嬉しいです。
垣根「俺の前スレに、常識は通用しねえ」
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第一章
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第二章
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第三章 【前編】
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第三章 【中編】
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第三章 【後編】
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第四章 【前編】
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」第五章 【前編】
10: 2013/07/20(土) 23:13:04.09 ID:M4DF9N/20
科学という名の闇の底。
11: 2013/07/20(土) 23:13:38.24 ID:M4DF9N/20
垣根帝督がいたのは巨大なゴミ処理場だった。
表向きはともかく、裏ではクローン生産といった後ろ暗いこともしているここでは多くのゴミが発生する。
一般的なゴミから『ちょっと変わったゴミ』まで。
そういったものを一手に引き受けて処理するのがここだった。
「くっさ……くはねえな」
学園都市の無駄な力か、鼻を突くような臭いはほとんどしない。
ゴミを溜めておくためだろうタンクがいくつかあるが、見える限りではどれも空だった。
もしかしたら全部纏めて処分した直後なのかもしれない。
垣根の右手にはクレバスのような暗い穴がぽっかりと口を空けている。
その下に放棄されたゴミが溜まっているのだろう。
そんな場所で、垣根はさてどうしたものか、と思案する。
はっきり言えば迷子だった。というかどこに行けばいいのか分からない。
美琴と合流しようにももう互いがどこにいるかすら分からなかった。
かといって先に進もうと思ってもどこに親玉がいるか分からない。
「適当に暴れりゃひょっこり顔出すかね」
そんな冗談なのか本気なのか、非常に判断しづらい物騒なことを呟いた直後だった。
キコキコという金属が軋むような音が聞こえてきた。
嫌な音だった。聞き覚えのある音だった。珍しくもない音だった。
そしてその音を発する主が姿を見せた。
表向きはともかく、裏ではクローン生産といった後ろ暗いこともしているここでは多くのゴミが発生する。
一般的なゴミから『ちょっと変わったゴミ』まで。
そういったものを一手に引き受けて処理するのがここだった。
「くっさ……くはねえな」
学園都市の無駄な力か、鼻を突くような臭いはほとんどしない。
ゴミを溜めておくためだろうタンクがいくつかあるが、見える限りではどれも空だった。
もしかしたら全部纏めて処分した直後なのかもしれない。
垣根の右手にはクレバスのような暗い穴がぽっかりと口を空けている。
その下に放棄されたゴミが溜まっているのだろう。
そんな場所で、垣根はさてどうしたものか、と思案する。
はっきり言えば迷子だった。というかどこに行けばいいのか分からない。
美琴と合流しようにももう互いがどこにいるかすら分からなかった。
かといって先に進もうと思ってもどこに親玉がいるか分からない。
「適当に暴れりゃひょっこり顔出すかね」
そんな冗談なのか本気なのか、非常に判断しづらい物騒なことを呟いた直後だった。
キコキコという金属が軋むような音が聞こえてきた。
嫌な音だった。聞き覚えのある音だった。珍しくもない音だった。
そしてその音を発する主が姿を見せた。
12: 2013/07/20(土) 23:17:24.63 ID:M4DF9N/20
「久しぶりーですねー。覚えてますかね? 忘れられてたら真剣にショックなんですが」
薄い緑のパジャマを着た女性だった。車椅子に乗っているところを見ると、足が悪いのかもしれない。
しかしそんなことなどどうでもよかった。
垣根の表情が、目つきが次々に変化していく。
最初は疑問。驚愕。敵意。そして殺意。
目の前にいる相手を正しく理解して、垣根帝督は獰猛に笑った。
「ああ、覚えてるぜ。その捻り潰したくなる笑顔。
まさか本当にテメェだったとはな、木原ァ……!!」
学園都市暗部の底を蠢く『木原』一族の一人、木原病理。
それがこの女性の名前だった。そして垣根帝督の能力開発を担当した科学者でもある。
だが垣根に木原病理に対する感謝の念など微塵も持ち合わせてはいない。
木原病理はただのマッドサイエンティスト。外道でしかない。
一方通行が木原数多に対して持ち合わせている感情とほぼ同じ、と言えば分かりやすいか。
「第三次製造計画。テメェがこれに加担する旨味は何だ。
マジで世界の軍事バランスをひっくり返そうとか思ってんのか?」
「いえいえ、そんな大層なものじゃなくてですね。
純粋な科学者としての興味ですよ。第三位のクローンはただの劣化品でしかなかった。
でもそれが今では比較にならない完成度になっています。
一体どこまで行けるんだろう。どこに行き着くんだろう。
そういう好奇心をどうしようもなく擽られるのは、科学者として当然なのでは?」
そのために国際法で禁止された人間のクローンを作って。
好き勝手にその体をいじくって、脳にまで手を加えて。
それらをただの興味本位で行う木原病理はやはり。
薄い緑のパジャマを着た女性だった。車椅子に乗っているところを見ると、足が悪いのかもしれない。
しかしそんなことなどどうでもよかった。
垣根の表情が、目つきが次々に変化していく。
最初は疑問。驚愕。敵意。そして殺意。
目の前にいる相手を正しく理解して、垣根帝督は獰猛に笑った。
「ああ、覚えてるぜ。その捻り潰したくなる笑顔。
まさか本当にテメェだったとはな、木原ァ……!!」
学園都市暗部の底を蠢く『木原』一族の一人、木原病理。
それがこの女性の名前だった。そして垣根帝督の能力開発を担当した科学者でもある。
だが垣根に木原病理に対する感謝の念など微塵も持ち合わせてはいない。
木原病理はただのマッドサイエンティスト。外道でしかない。
一方通行が木原数多に対して持ち合わせている感情とほぼ同じ、と言えば分かりやすいか。
「第三次製造計画。テメェがこれに加担する旨味は何だ。
マジで世界の軍事バランスをひっくり返そうとか思ってんのか?」
「いえいえ、そんな大層なものじゃなくてですね。
純粋な科学者としての興味ですよ。第三位のクローンはただの劣化品でしかなかった。
でもそれが今では比較にならない完成度になっています。
一体どこまで行けるんだろう。どこに行き着くんだろう。
そういう好奇心をどうしようもなく擽られるのは、科学者として当然なのでは?」
そのために国際法で禁止された人間のクローンを作って。
好き勝手にその体をいじくって、脳にまで手を加えて。
それらをただの興味本位で行う木原病理はやはり。
13: 2013/07/20(土) 23:20:58.95 ID:M4DF9N/20
「……相変わらずのクソっぷりで安心したぜ木原。
悪ぃがここで潰されてくれねえか。個人的な気持ちとしても頃しときてえんでな」
言葉とは裏腹に全く悪びれていない調子で、垣根は笑う。
美琴に聞かせた幼きころの話。
その中で殺されたと語った人間の何人かは、他でもないこの木原病理の手によるものだ。
故に垣根帝督は感謝の念も敬意も感じることはなく。あるのはただ憎悪と殺意だけだった。
「それがー、そういうわけにも行かないんですよねぇ。
むしろあなたの方こそ『諦め』てほしいというか、氏んでほしいというか。
ぶっちゃけ脳だけ残していってくれません?」
「……上等だ。そんなに氏にてえなら望み通りにしてやるよ」
「垣根帝督という器だからこそかと思ったんですがね。
何か聞いた話では一方通行との戦いでおかしな進化をしたとか。
それに関してだけは全くと言っていいほど情報がないんですよ。
ええ、気になって気になって仕方なくてね。そこまで行けば十分ですから、そろそろ『調べ』させてもらわないと」
折角そうなるように誘導したんですから。
そう笑う木原病理に、垣根帝督の表情が一瞬固まる。
「……待て、どういう意味だ。答えろ」
その垣根の反応を楽しむように、木原病理は昏くくっくっと笑うのだった。
悪ぃがここで潰されてくれねえか。個人的な気持ちとしても頃しときてえんでな」
言葉とは裏腹に全く悪びれていない調子で、垣根は笑う。
美琴に聞かせた幼きころの話。
その中で殺されたと語った人間の何人かは、他でもないこの木原病理の手によるものだ。
故に垣根帝督は感謝の念も敬意も感じることはなく。あるのはただ憎悪と殺意だけだった。
「それがー、そういうわけにも行かないんですよねぇ。
むしろあなたの方こそ『諦め』てほしいというか、氏んでほしいというか。
ぶっちゃけ脳だけ残していってくれません?」
「……上等だ。そんなに氏にてえなら望み通りにしてやるよ」
「垣根帝督という器だからこそかと思ったんですがね。
何か聞いた話では一方通行との戦いでおかしな進化をしたとか。
それに関してだけは全くと言っていいほど情報がないんですよ。
ええ、気になって気になって仕方なくてね。そこまで行けば十分ですから、そろそろ『調べ』させてもらわないと」
折角そうなるように誘導したんですから。
そう笑う木原病理に、垣根帝督の表情が一瞬固まる。
「……待て、どういう意味だ。答えろ」
その垣根の反応を楽しむように、木原病理は昏くくっくっと笑うのだった。
14: 2013/07/20(土) 23:26:29.48 ID:M4DF9N/20
・
・
・
御坂美琴が立っているその空間は、一言で言えば学校の体育館。
明らかに天井が高く、広く場所が取られていて何らかの実験用の部屋であることを窺わせる。
ただ学校の体育館というのは流石に誇張表現で、実際はそこまで大きくはない。
その半分にも満たないだろう。それでも見上げてみればこの空間を一望できる位置に大きめのガラスが張られていた。
おそらくこの部屋より一階上のフロア。そこから覗き窓のようなガラスを通してここを見下ろせる作りになっている。
おそらく、いや間違いなくそこからここで行われる何らかの実験を観察するためのスペース。
巨大なフラスコの中に閉じ込められたような錯覚を覚えて、美琴は嫌悪感を感じずにはいられなかった。
ここまで案内してくれた男はもういない。どこかへ去ってしまった。
結局何だったのかは分からないが、案内されたここには誰もいない。
明らかに実験用の一室であるここを考えると、
(……罠? いや、あんな笑っちゃうような罠があってたまるかい)
その美琴の予想は果たして正しかった。
罠などではない。あの男は正しく道案内をしていた。
それを証明するように、頭上のガラスの向こうに見覚えのある人影が一つ。
15: 2013/07/20(土) 23:31:16.02 ID:M4DF9N/20
「ま、さか……アイツ、……まさか……ッ!!」
長めの茶髪。まるで就職活動中の学生のような紫色のスーツ。
眼鏡をかけている。見覚えのある顔だ。どこかで見た顔だ。二度と見たくなかった顔だ。
『よう、久しぶりだなぁ超電磁砲ッ!!』
その声は。もはや最初から本性を隠そうともしていないその荒い声は。
どう考えても。
「テレスティーナ=木原=ライフライン……ッ!!」
テレスティーナ=木原=ライフライン。
学園都市を這いずる『木原』一族の一人。
木原幻生の孫娘であり、能力体結晶の被験者となっていた過去を持つ。
能力者に対して絶大な効果を発揮するキャパシティダウンを開発したのもテレスティーナである。
また超電磁砲を模した兵器を個人で作り上げ、それを小型化するなど『木原』の名に恥じない才能を持つ。
御坂美琴とテレスティーナの間には、ある因縁があった。
それはとある子供たちを巡る戦いであり、能力体結晶を巡る戦いであり、絶対能力者を巡る戦い。
完成された体晶に絶対能力者への道を見出し、ある子供たちで実験しようとしていたテレスティーナ。
その野望を打ち砕いたのが御坂美琴だった。
たしかにあの時テレスティーナは美琴らの手によって倒された。
だが、頃してはいない。
学園都市最暗部で蠢く『木原』が、真っ当に罰せられるはずもなく。
そうしてテレスティーナ=木原=ライフラインは御坂美琴への復讐だけを誓って舞い戻ってきた。
長めの茶髪。まるで就職活動中の学生のような紫色のスーツ。
眼鏡をかけている。見覚えのある顔だ。どこかで見た顔だ。二度と見たくなかった顔だ。
『よう、久しぶりだなぁ超電磁砲ッ!!』
その声は。もはや最初から本性を隠そうともしていないその荒い声は。
どう考えても。
「テレスティーナ=木原=ライフライン……ッ!!」
テレスティーナ=木原=ライフライン。
学園都市を這いずる『木原』一族の一人。
木原幻生の孫娘であり、能力体結晶の被験者となっていた過去を持つ。
能力者に対して絶大な効果を発揮するキャパシティダウンを開発したのもテレスティーナである。
また超電磁砲を模した兵器を個人で作り上げ、それを小型化するなど『木原』の名に恥じない才能を持つ。
御坂美琴とテレスティーナの間には、ある因縁があった。
それはとある子供たちを巡る戦いであり、能力体結晶を巡る戦いであり、絶対能力者を巡る戦い。
完成された体晶に絶対能力者への道を見出し、ある子供たちで実験しようとしていたテレスティーナ。
その野望を打ち砕いたのが御坂美琴だった。
たしかにあの時テレスティーナは美琴らの手によって倒された。
だが、頃してはいない。
学園都市最暗部で蠢く『木原』が、真っ当に罰せられるはずもなく。
そうしてテレスティーナ=木原=ライフラインは御坂美琴への復讐だけを誓って舞い戻ってきた。
16: 2013/07/20(土) 23:32:39.08 ID:M4DF9N/20
『わざわざ殺されにきてくれて感謝してるぜぇ?
テメェはグッチャグチャにすり潰して刻んで抉って壊して頃してやらねぇと気が済まねぇんだからよぉ!!』
だからテレスティーナが美琴に対して憎悪と殺意を抱くのは当然で。
ついでに最大の苦痛を与えて、出来る限りに屈辱に悶えさせてモルモットにしたいと思うのも当然で。
生きたまま四肢を切断したいと思うのも、生きたまま臓器を抉り出して泣き叫ぶ顔を堪能したいと思うのも。
目玉を抉り取って左右を入れ替えてから再度埋め込み手術をしたいと思うのも。
『木原』としては、極自然な感情だった。
「アンタ……ッ!! 何でアンタが自由になって……!!
いや、それより第三次製造計画の首謀者はアンタね!!」
第三次製造計画を企てているのは『木原』。
そう聞いた時、真っ先に頭に浮かんだのはこのテレスティーナ=木原=ライフラインだった。
この女は人間を人間とも思っていない。スキルアウトをモルモット呼ばわりしたこともあった。
たしかにスキルアウトというのは他人に迷惑をかけるような奴らばかりだが、全員が全員そうではない。
仮にそうだったとしても彼らもスキルアウトである前に学生であり、子供であり、人間だ。
実験動物扱いなどしていい存在ではない。
人として踏みとどまるべきラインを、高笑いながら踏み越えていく。
テレスティーナ=木原=ライフラインとはそういう女だった。
故にそんな人間がクローンである『妹達』を人間として見るはずもなく。
つまりは、そういうことだった。
『あぁ? あんな人形共のことなんてどうでもいいだろうが。
所詮は薬品と蛋白質で合成された出来損ないの乱造品だぜ』
「―――ふざけんなッ!!!!」
その言葉は、禁句だった。
妹達をそう言ったのはこれで二人目。
白い悪魔に次いで、二人目。
テメェはグッチャグチャにすり潰して刻んで抉って壊して頃してやらねぇと気が済まねぇんだからよぉ!!』
だからテレスティーナが美琴に対して憎悪と殺意を抱くのは当然で。
ついでに最大の苦痛を与えて、出来る限りに屈辱に悶えさせてモルモットにしたいと思うのも当然で。
生きたまま四肢を切断したいと思うのも、生きたまま臓器を抉り出して泣き叫ぶ顔を堪能したいと思うのも。
目玉を抉り取って左右を入れ替えてから再度埋め込み手術をしたいと思うのも。
『木原』としては、極自然な感情だった。
「アンタ……ッ!! 何でアンタが自由になって……!!
いや、それより第三次製造計画の首謀者はアンタね!!」
第三次製造計画を企てているのは『木原』。
そう聞いた時、真っ先に頭に浮かんだのはこのテレスティーナ=木原=ライフラインだった。
この女は人間を人間とも思っていない。スキルアウトをモルモット呼ばわりしたこともあった。
たしかにスキルアウトというのは他人に迷惑をかけるような奴らばかりだが、全員が全員そうではない。
仮にそうだったとしても彼らもスキルアウトである前に学生であり、子供であり、人間だ。
実験動物扱いなどしていい存在ではない。
人として踏みとどまるべきラインを、高笑いながら踏み越えていく。
テレスティーナ=木原=ライフラインとはそういう女だった。
故にそんな人間がクローンである『妹達』を人間として見るはずもなく。
つまりは、そういうことだった。
『あぁ? あんな人形共のことなんてどうでもいいだろうが。
所詮は薬品と蛋白質で合成された出来損ないの乱造品だぜ』
「―――ふざけんなッ!!!!」
その言葉は、禁句だった。
妹達をそう言ったのはこれで二人目。
白い悪魔に次いで、二人目。
17: 2013/07/20(土) 23:37:33.04 ID:M4DF9N/20
美琴の怒りを誘う上ではこの上なく有効な言葉。
そして同時に効き過ぎる可能性も秘めた言葉。
「撤回しろッ!! あの子たちは人形なんかじゃない!!」
たしかに、ボタン一つで量産できる存在なのかもしれない。
太古から脈々と続く生命の系譜から外れた異端なのかもしれない。
御坂美琴より能力は格段に劣っているのかもしれない。
だがそれがどうしたと言うのだ。
何万人いようと全く同じ妹達は一人として存在しない。
彼女たちには笑顔があって、感情がある。決して人形などではない。
目玉焼きハンバーグに感動する素直な一〇〇三二号。
天真爛漫な笑顔で無邪気にはしゃぐ打ち止め。
誰よりも感情豊かな一九〇九〇号。
世界が汚く歪んだものにしか見えない連中とは違って、世界の美しさに感動できる素直な感性の持ち主。
真っ白で、純粋で、無垢で、真っ直ぐ。
そんな彼女たちを、大切な妹たちを侮辱することは誰が許しても御坂美琴が決して許さない。
だがテレスティーナ=木原=ライフラインは。
そんな風に怒りに震える美琴を見て。
その滑稽で何よりも笑いを誘う想いとやらを見て。
『ぎゃっは、ははっ、はははははははっ!!!!!!』
その顔を醜く歪め。内に秘める狂気を、『木原』を隠しもせずに露にして。
高らかに、面白そうに笑った。
そして同時に効き過ぎる可能性も秘めた言葉。
「撤回しろッ!! あの子たちは人形なんかじゃない!!」
たしかに、ボタン一つで量産できる存在なのかもしれない。
太古から脈々と続く生命の系譜から外れた異端なのかもしれない。
御坂美琴より能力は格段に劣っているのかもしれない。
だがそれがどうしたと言うのだ。
何万人いようと全く同じ妹達は一人として存在しない。
彼女たちには笑顔があって、感情がある。決して人形などではない。
目玉焼きハンバーグに感動する素直な一〇〇三二号。
天真爛漫な笑顔で無邪気にはしゃぐ打ち止め。
誰よりも感情豊かな一九〇九〇号。
世界が汚く歪んだものにしか見えない連中とは違って、世界の美しさに感動できる素直な感性の持ち主。
真っ白で、純粋で、無垢で、真っ直ぐ。
そんな彼女たちを、大切な妹たちを侮辱することは誰が許しても御坂美琴が決して許さない。
だがテレスティーナ=木原=ライフラインは。
そんな風に怒りに震える美琴を見て。
その滑稽で何よりも笑いを誘う想いとやらを見て。
『ぎゃっは、ははっ、はははははははっ!!!!!!』
その顔を醜く歪め。内に秘める狂気を、『木原』を隠しもせずに露にして。
高らかに、面白そうに笑った。
18: 2013/07/20(土) 23:41:56.11 ID:M4DF9N/20
御坂美琴の下らない正義感を、笑った。
妹達の存在を、笑った。
御坂美琴と妹達の馬鹿らしい姉妹愛とやらを、笑った。
「……何笑ってんのよアンタ」
美琴の声に、僅かに黒いものが混じる。
チリチリと肌を焼くような焦燥感。
七人しかいない超能力者の発する威圧感。
それを受けて、尚テレスティーナは揺らがない。
むしろ分かりやすいほどに分かりやすく反応する美琴がおかしくてたまらないと言った風に笑い続ける。
『こっれが笑わずにいられるかっつうの!! ひゃはははははは!!
ご立派なお姉ちゃんですねぇ~? よく出来ましたって褒めてほしいでちゅかぁ~?』
僅かに。ほんの僅かに、御坂美琴はこの時殺意を覚えた。
自分が馬鹿にされるならば構わない。
だが妹達を引き合いに出し、侮辱してコケにするのだけは許せない。
「―――黙れ。焼くわよ」
だが美琴が怒れば怒るほど。
憎悪を感じれば感じるほど。
テレスティーナは満足し、哄笑を増していく。
『さぁってと。それじゃそんなお優しいお姉ちゃん……くくくっ、やっぱ駄目だ。
どうしても笑っちまう。……お姉ちゃんにぃ、サプライズプレゼントを用意してやったからありがたく受け取れよ!!』
ガァー、とこの自動ドアの開く音。
この部屋への出入り口は美琴が入ってきた一つしかない。
だからこの音は美琴の背後にあるドアが立てた音で間違いない。
誰かが、入ってきた。
妹達の存在を、笑った。
御坂美琴と妹達の馬鹿らしい姉妹愛とやらを、笑った。
「……何笑ってんのよアンタ」
美琴の声に、僅かに黒いものが混じる。
チリチリと肌を焼くような焦燥感。
七人しかいない超能力者の発する威圧感。
それを受けて、尚テレスティーナは揺らがない。
むしろ分かりやすいほどに分かりやすく反応する美琴がおかしくてたまらないと言った風に笑い続ける。
『こっれが笑わずにいられるかっつうの!! ひゃはははははは!!
ご立派なお姉ちゃんですねぇ~? よく出来ましたって褒めてほしいでちゅかぁ~?』
僅かに。ほんの僅かに、御坂美琴はこの時殺意を覚えた。
自分が馬鹿にされるならば構わない。
だが妹達を引き合いに出し、侮辱してコケにするのだけは許せない。
「―――黙れ。焼くわよ」
だが美琴が怒れば怒るほど。
憎悪を感じれば感じるほど。
テレスティーナは満足し、哄笑を増していく。
『さぁってと。それじゃそんなお優しいお姉ちゃん……くくくっ、やっぱ駄目だ。
どうしても笑っちまう。……お姉ちゃんにぃ、サプライズプレゼントを用意してやったからありがたく受け取れよ!!』
ガァー、とこの自動ドアの開く音。
この部屋への出入り口は美琴が入ってきた一つしかない。
だからこの音は美琴の背後にあるドアが立てた音で間違いない。
誰かが、入ってきた。
19: 2013/07/20(土) 23:51:32.95 ID:M4DF9N/20
「誰よ」
その人物はぴっちりとした白い戦闘用の衣服に身を包んでいた。
仮面のような、顔全体を覆う特殊なゴーグルをかけている。
だから、顔は見えない。目や鼻、口の位置も分からない。
あくまで第一印象としては高校生程度の少女のように見える体格だった。
チリチリと。妙な緊張感が走る。
顔は、見えない。そう、顔は見えない。
けれど仮面の横から僅かに漏れる耳の肌の白さや、肩まである茶色い髪の揺らめきに、美琴は覚えがあった。
具体的に言えば。
御坂美琴の―――自分のものに、異常に似通っている気がする。
「アンタは誰」
白い人影は、静かに手を仮面にかけ。
もったいぶることもなく一息に仮面を取り払った。
目が、鼻が、口が。肌が、髪が、空気に触れる。
美琴の視界に、映る。
瞬間、美琴の喉が干上がり。ひゅ、と酸素を求めて喘ぐような、掠れた声が漏れる。
確実に。確実に、一瞬美琴の呼吸が止まった。
見たことのある顔だった。記憶にある顔だった。毎日見る顔だった。
そんな美琴を気にすることもなく、少女は白い戦闘服を脱ぐ。
その下に着ていたものは見慣れた常盤台中学の制服。
何かが、ドス黒い何かが美琴の中で膨れあがり、浸食し、食らい尽くしていく。
その人物はぴっちりとした白い戦闘用の衣服に身を包んでいた。
仮面のような、顔全体を覆う特殊なゴーグルをかけている。
だから、顔は見えない。目や鼻、口の位置も分からない。
あくまで第一印象としては高校生程度の少女のように見える体格だった。
チリチリと。妙な緊張感が走る。
顔は、見えない。そう、顔は見えない。
けれど仮面の横から僅かに漏れる耳の肌の白さや、肩まである茶色い髪の揺らめきに、美琴は覚えがあった。
具体的に言えば。
御坂美琴の―――自分のものに、異常に似通っている気がする。
「アンタは誰」
白い人影は、静かに手を仮面にかけ。
もったいぶることもなく一息に仮面を取り払った。
目が、鼻が、口が。肌が、髪が、空気に触れる。
美琴の視界に、映る。
瞬間、美琴の喉が干上がり。ひゅ、と酸素を求めて喘ぐような、掠れた声が漏れる。
確実に。確実に、一瞬美琴の呼吸が止まった。
見たことのある顔だった。記憶にある顔だった。毎日見る顔だった。
そんな美琴を気にすることもなく、少女は白い戦闘服を脱ぐ。
その下に着ていたものは見慣れた常盤台中学の制服。
何かが、ドス黒い何かが美琴の中で膨れあがり、浸食し、食らい尽くしていく。
20: 2013/07/20(土) 23:53:16.93 ID:M4DF9N/20
「―――あ、あ……あ……」
そして御坂美琴は理解した。この少女が何者であるかを。
何のためにここにやって来たのかを。『木原』を舐めていたことを。
テレスティーナ=木原=ライフラインの抱えるあまりにも莫大な狂気を。
ただ。少女の左足が切断されていて、一目でそうだと分かる義足をつけていること。
常盤台のブレザーの端に見覚えのあるゲコ太の缶バッジがついている意味だけは、理解し切れなかった。
悪意と狂気の結晶たる少女は美琴そっくりの唇を妖艶に吊り上げる。
「第三次製造計画って言えば、ミサカのことは分かるかな?」
御坂美琴の心臓が、破裂してしまうのではというほどに、早鐘のようにバクバクと暴れる。
ここまで。テレスティーナ=木原=ライフラインは、美琴を苦しめるためだけにここまでする。
だが自らをミサカと名乗った女は、更に続けてこう言った。
「やっほう。頃しに来たよ、第三位。ミサカは超能力者と『木原』のこの戦いの行方なんか興味ない。
そういう風なオーダーはインプットされてない。ミサカの目的は第三位の抹殺のみ。
ミサカはそのために、そのためだけに、わざわざ培養気の中から放り出されたんだからね」
美琴の動揺や震えなど一切無視して少女はニヤリと笑う。
「それではただ今より『実験』を開始します」
地獄が、幕を開けた。
そして御坂美琴は理解した。この少女が何者であるかを。
何のためにここにやって来たのかを。『木原』を舐めていたことを。
テレスティーナ=木原=ライフラインの抱えるあまりにも莫大な狂気を。
ただ。少女の左足が切断されていて、一目でそうだと分かる義足をつけていること。
常盤台のブレザーの端に見覚えのあるゲコ太の缶バッジがついている意味だけは、理解し切れなかった。
悪意と狂気の結晶たる少女は美琴そっくりの唇を妖艶に吊り上げる。
「第三次製造計画って言えば、ミサカのことは分かるかな?」
御坂美琴の心臓が、破裂してしまうのではというほどに、早鐘のようにバクバクと暴れる。
ここまで。テレスティーナ=木原=ライフラインは、美琴を苦しめるためだけにここまでする。
だが自らをミサカと名乗った女は、更に続けてこう言った。
「やっほう。頃しに来たよ、第三位。ミサカは超能力者と『木原』のこの戦いの行方なんか興味ない。
そういう風なオーダーはインプットされてない。ミサカの目的は第三位の抹殺のみ。
ミサカはそのために、そのためだけに、わざわざ培養気の中から放り出されたんだからね」
美琴の動揺や震えなど一切無視して少女はニヤリと笑う。
「それではただ今より『実験』を開始します」
地獄が、幕を開けた。
21: 2013/07/20(土) 23:53:47.27 ID:M4DF9N/20
・
・
・
一般のビルではてんで珍しくもない。
だがこんな研究施設にあると逆に異質な感じさえする。
何の変哲もない、どこまでも普通のオフィス。
本棚や事務机、作業用のデスク。特に変わったものはない。
強いて挙げるなら激しく動作して排気ファンがうるさいノートパソコンと。
壁に取り付けられている巨大なスクリーンのようなモニターくらいか。
そんな普通すぎるオフィスで、彼らは対峙していた。
一方通行と木原数多が、向き合っていた。
「オマエが差し向けた恋査とかっつゥ野郎はスクラップにしてやった。
もォオマエの身を守るモノはなンもねェ。そろそろ年貢の納め時だなァ、木原くン?」
木原数多は非常に優秀な科学者だ。
一方通行の、学園都市第一位の能力開発を担当したということからもそれは明らかだ。
だが同時に木原数多がどれだけ優秀だろうとどこまで行っていようと、所詮は科学者でしかない。
『一方通行』、『未元物質』、『超電磁砲』のような強い能力を持っているわけではない。
22: 2013/07/20(土) 23:54:13.46 ID:M4DF9N/20
木原数多はただの人間だ。身一つでは一方通行相手に出来ることなどない。
勿論兵器類は扱えるだろうが、それこそ恋査クラスのものでないと一方通行には意味がない。
つまり。こうして一方通行と木原が対峙しているという状況そのものが、既に木原の敗北を、氏を決定づけていた。
「そういう寝言は寝て言えよ一方通行。つかテメェ恋査相手に何した?
なぁんかよく分かんなかったんだよなぁ、あの現象。まあテメェを頃した後でゆっくり調べるか」
木原が分からなかったのも当然だ。
恋査を致命的に追い詰めたのは、魔術という神聖なる力。
科学を極めた『木原』でさえ、おぼろげにその形こそ見えど未だ踏破せし得ぬ未知の領域なのだから。
「ずいぶン余裕だなァ木原。分かってンのか?
今オマエが呼吸できてンのは俺の気まぐれによるものだぜ」
「第二位との戦いで開花したっつぅヤツか?
いやぁそんな感じはしなかった。つか情報なさすぎて何ともなぁ」
木原は一方通行を無視して、何か思案するようにぶつぶつと呟き始めた。
一方通行がオイ、と声をかけると木原はまだいたのか、といった風に顔をあげる。
「おお、どうした? いや悪ぃな、あまりにアウトオブ眼中過ぎてよ。
分っかるかなぁ? テメェなんて所詮その程度ってことだよ」
頃す。一方通行の口が声には出さずそう形を変化する。
どのみち第三次製造計画を潰すためにもこの男には氏んでもらわなくてはならない。
木原の根拠のない自信は気にはなるが、それでも自分を打倒できるとは思わない。
妹達の命を弄んだこの男を許すわけにはいかないし、個人的感情としても頃したいと感じているので一石二鳥だ。
勿論兵器類は扱えるだろうが、それこそ恋査クラスのものでないと一方通行には意味がない。
つまり。こうして一方通行と木原が対峙しているという状況そのものが、既に木原の敗北を、氏を決定づけていた。
「そういう寝言は寝て言えよ一方通行。つかテメェ恋査相手に何した?
なぁんかよく分かんなかったんだよなぁ、あの現象。まあテメェを頃した後でゆっくり調べるか」
木原が分からなかったのも当然だ。
恋査を致命的に追い詰めたのは、魔術という神聖なる力。
科学を極めた『木原』でさえ、おぼろげにその形こそ見えど未だ踏破せし得ぬ未知の領域なのだから。
「ずいぶン余裕だなァ木原。分かってンのか?
今オマエが呼吸できてンのは俺の気まぐれによるものだぜ」
「第二位との戦いで開花したっつぅヤツか?
いやぁそんな感じはしなかった。つか情報なさすぎて何ともなぁ」
木原は一方通行を無視して、何か思案するようにぶつぶつと呟き始めた。
一方通行がオイ、と声をかけると木原はまだいたのか、といった風に顔をあげる。
「おお、どうした? いや悪ぃな、あまりにアウトオブ眼中過ぎてよ。
分っかるかなぁ? テメェなんて所詮その程度ってことだよ」
頃す。一方通行の口が声には出さずそう形を変化する。
どのみち第三次製造計画を潰すためにもこの男には氏んでもらわなくてはならない。
木原の根拠のない自信は気にはなるが、それでも自分を打倒できるとは思わない。
妹達の命を弄んだこの男を許すわけにはいかないし、個人的感情としても頃したいと感じているので一石二鳥だ。
23: 2013/07/20(土) 23:54:52.09 ID:M4DF9N/20
「まぁまぁ、そう早まるなって」
臨戦態勢を取る一方通行を宥めたのは敵対する木原数多。
その顔には相変わらず腹が立って仕方のない、どこまでも人を馬鹿にした笑顔が張り付いている。
「ンだァ? まさか命令されただけなンで助けてくださいなンて命乞いするつもりじゃねェだろォな」
「馬っ鹿かテメェは。なんで俺が命乞いなんかしなきゃならねぇんだ。
顔面涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして命乞いすんのはテメェの方だろが。
そうじゃなくてよ、テメェのために手厚いもてなしを用意したっつっただろ」
「リボンでも付けてプレゼントしてくれンのか?
オイオイ、やめてくれよ。あまりに嬉しすぎてつい頃しちまいそォだ」
「ま、見てみれば分かるさ。嫌でも、脳の奥までな」
不気味な一言と共に、木原はノートパソコンで何か操作する。
エンターキーを一回押す。木原の取った行動はそれだけだった。
それに反応して、壁に取り付けられた大きなテレビのようなモニターのスイッチがつく。
最初はぼんやりとした映像。何が映っているのかは読み取れない。
だが数秒もすると映像は鮮明に何かを映し出した。監視カメラか何かの映像だろうか。
左上に『LIVE』と表示されているところを見るに、これは録画ではなくリアルタイムの映像らしい。
そこに映っているのは二人の人間。
どちらもひどく見覚えのある人間だった。
片方はまず間違いなく御坂美琴だろう。常盤台の制服が画面越しにもはっきりと読み取れる。
対峙している人間は仮面をつけ白い特殊な衣装を身に纏っていて、誰なのかは分からない。
何故だろうか、それなのに一方通行はその人物に強い既視感を覚えた。
臨戦態勢を取る一方通行を宥めたのは敵対する木原数多。
その顔には相変わらず腹が立って仕方のない、どこまでも人を馬鹿にした笑顔が張り付いている。
「ンだァ? まさか命令されただけなンで助けてくださいなンて命乞いするつもりじゃねェだろォな」
「馬っ鹿かテメェは。なんで俺が命乞いなんかしなきゃならねぇんだ。
顔面涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして命乞いすんのはテメェの方だろが。
そうじゃなくてよ、テメェのために手厚いもてなしを用意したっつっただろ」
「リボンでも付けてプレゼントしてくれンのか?
オイオイ、やめてくれよ。あまりに嬉しすぎてつい頃しちまいそォだ」
「ま、見てみれば分かるさ。嫌でも、脳の奥までな」
不気味な一言と共に、木原はノートパソコンで何か操作する。
エンターキーを一回押す。木原の取った行動はそれだけだった。
それに反応して、壁に取り付けられた大きなテレビのようなモニターのスイッチがつく。
最初はぼんやりとした映像。何が映っているのかは読み取れない。
だが数秒もすると映像は鮮明に何かを映し出した。監視カメラか何かの映像だろうか。
左上に『LIVE』と表示されているところを見るに、これは録画ではなくリアルタイムの映像らしい。
そこに映っているのは二人の人間。
どちらもひどく見覚えのある人間だった。
片方はまず間違いなく御坂美琴だろう。常盤台の制服が画面越しにもはっきりと読み取れる。
対峙している人間は仮面をつけ白い特殊な衣装を身に纏っていて、誰なのかは分からない。
何故だろうか、それなのに一方通行はその人物に強い既視感を覚えた。
24: 2013/07/20(土) 23:55:37.01 ID:M4DF9N/20
『誰よ』
映像とセットで音声も流れた。
聞き間違えるはずもない。御坂美琴の声だ。
その言葉は目の前の白い服装をした人物への問いだろう。
『アンタは誰』
その問いに答えるためか、その人物は変わった形をした仮面を一気に取り払う。
「は……?」
思わずおかしな声が漏れた。しかしそれも無理もないことだ。
だって、その仮面の下から現れた顔は。その少女の顔は。
どうしようもなく見てきたもので、何度も何度も見てきた顔で。
そしてその少女が白い服を脱ぎ捨てると、そこから現れたのは同じく常盤台の制服で。
『―――あ、あ……あ……』
画面の中の美琴もそれが分かったのだろう。
痛々しいほどに震える声を絞り出している。
「オ、マエ……」
一方通行は木原数多を射抜くように睨む。
だが木原は相変わらずの笑顔でそれをやり過ごし、ただただ愉快そうにしている。
一方通行は理解した。木原数多が用意した“もてなし”の正体を。
こいつが自分に何を見せつけたいのかを。『木原』を舐めていたことを。
木原数多の抱えるあまりにも莫大な狂気を。
映像とセットで音声も流れた。
聞き間違えるはずもない。御坂美琴の声だ。
その言葉は目の前の白い服装をした人物への問いだろう。
『アンタは誰』
その問いに答えるためか、その人物は変わった形をした仮面を一気に取り払う。
「は……?」
思わずおかしな声が漏れた。しかしそれも無理もないことだ。
だって、その仮面の下から現れた顔は。その少女の顔は。
どうしようもなく見てきたもので、何度も何度も見てきた顔で。
そしてその少女が白い服を脱ぎ捨てると、そこから現れたのは同じく常盤台の制服で。
『―――あ、あ……あ……』
画面の中の美琴もそれが分かったのだろう。
痛々しいほどに震える声を絞り出している。
「オ、マエ……」
一方通行は木原数多を射抜くように睨む。
だが木原は相変わらずの笑顔でそれをやり過ごし、ただただ愉快そうにしている。
一方通行は理解した。木原数多が用意した“もてなし”の正体を。
こいつが自分に何を見せつけたいのかを。『木原』を舐めていたことを。
木原数多の抱えるあまりにも莫大な狂気を。
25: 2013/07/20(土) 23:56:24.63 ID:M4DF9N/20
『第三次製造計画って言えば、ミサカのことは分かるかな?』
木原数多のイカレっぷりを、知っていた気になっていた。
どれほどの外道かを分かったつもりになっていた。
『やっほう。頃しに来たよ、第三位。ミサカは超能力者と「木原」のこの戦いの行方なんか興味ない。
そういう風なオーダーはインプットされてない。ミサカの目的は第三位の抹殺のみ。
ミサカはそのために、そのためだけに、わざわざ培養気の中から放り出されたんだからね』
だが木原はそんな想像できる領域を振り切って、更に先へと飛んでいた。
一方通行は『第三次製造計画のプロトタイプとやらが自分に差し向けられる可能性があることは理解していた』。
木原数多という腐れ外道ならそれくらいはやるだろうと思っていた。
「オマエ……ッ!!」
ただ。今一方通行の眼前で広がっている光景は、想定外だった。
木原数多の狂気を、理解し切れていなかった。
それが『誰に差し向けられるか』という一点だけを、読み切れなかった。
『それではただ今より「実験」を開始します』
木原数多は楽しそうにニヤニヤと笑う。
画面の中の少女がそんな言葉を吐き。
そして御坂美琴は―――。
「オマエェェェェえええええええええええええええええええええええッ!!!!!!」
木原数多のイカレっぷりを、知っていた気になっていた。
どれほどの外道かを分かったつもりになっていた。
『やっほう。頃しに来たよ、第三位。ミサカは超能力者と「木原」のこの戦いの行方なんか興味ない。
そういう風なオーダーはインプットされてない。ミサカの目的は第三位の抹殺のみ。
ミサカはそのために、そのためだけに、わざわざ培養気の中から放り出されたんだからね』
だが木原はそんな想像できる領域を振り切って、更に先へと飛んでいた。
一方通行は『第三次製造計画のプロトタイプとやらが自分に差し向けられる可能性があることは理解していた』。
木原数多という腐れ外道ならそれくらいはやるだろうと思っていた。
「オマエ……ッ!!」
ただ。今一方通行の眼前で広がっている光景は、想定外だった。
木原数多の狂気を、理解し切れていなかった。
それが『誰に差し向けられるか』という一点だけを、読み切れなかった。
『それではただ今より「実験」を開始します』
木原数多は楽しそうにニヤニヤと笑う。
画面の中の少女がそんな言葉を吐き。
そして御坂美琴は―――。
「オマエェェェェえええええええええええええええええええええええッ!!!!!!」
26: 2013/07/20(土) 23:59:20.65 ID:M4DF9N/20
ちょ、ちょっと待ってくれッ!! 今日のところはこれで投下を……
美琴に番外個体は読まれたくなかったのでミスリードを入れてきましたが、それでも分かっちゃいましたかね?
いつか言った美琴に用意した三つの落としの最後の一つはこれでした
次は軍覇サイドから
美琴に番外個体は読まれたくなかったのでミスリードを入れてきましたが、それでも分かっちゃいましたかね?
いつか言った美琴に用意した三つの落としの最後の一つはこれでした
次は軍覇サイドから
28: 2013/07/20(土) 23:59:56.75 ID:M4DF9N/20
「何でそんなところに留まってるんだ。良いことなんてないだろう」
学園都市第七位の超能力者(レベル5)―――削板軍覇
「甘いね。甘すぎて虫歯になる」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――坂状友莉
「学園都市の『闇』に、『白鰐部隊』に対してそんな言葉が出てくる時点でさ。
アンタ、どうしようもなく甘くて無知だよ第七位」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――和軸子雛
「『闇』から抜けたければ抜けられる? 希望すれば『表』に戻れる?
そんな簡単な場所ですか? まさかとは思いますけど、辞表一つで辞められるとでも思ってんですか?
だとしたらあなたの脳内は本当に笑っちまうくらいお花畑ですよ」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――相園美央
「妹達が殺されるのを止めたければ、ミサカを殺さないと。
でも優しい優しいお姉様はミサカに手を出せないんだっけ?
じゃあどうする? ここで大人しくボコボコにされちゃう?
でもその後に待っているのは現行の全妹達の『処分』だって分かってるよね。
……あれぇ? ミサカを殺さなければ妹達が氏ぬ。
でもこのミサカを頃しても結局『ミサカ』は氏ぬ。困ったね。ぎゃははははははは!!
―――どっちにしろアンタの心はここで氏ぬ。
人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!」
『妹達(シスターズ)』・第三次製造計画(サードシーズン)で作られた美琴のクローン―――番外個体(ミサカワースト)
「あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴
「ムカついた。ああ、ムカついたぜ最ッ高に。
ムカつきすぎて……テメェを殺さなくちゃ気が済まねえよ、オイ!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督
「誰があなたの力を発現させたと思ってるんですか?
たしかに『未元物質』はこの世の物質ではありません。その性質も全く異なります。
ですが……そんな『未元物質』でさえも、ある一つの性質からは逃れられないんですよ。
まぁ、そんなわけだからそろそろ諦めろよ垣根帝督」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理
「おいおい、どうする正義のヒーロー気取りの一方通行くん?
超電磁砲がテメェの代わりに痛めつけられてんぞ? 代わってやれよ冷てえなぁ」
一方通行(アクセラレータ)の能力開発を担当した『木原』一族の一人―――木原数多
「―――ふざけンな。なンで、俺じゃねェンだ。なンで、オリジナルなンだ。
な、ンで……なンでだよ、木原ァァァァァあああああああああああああああああああッ!!!!!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)
学園都市第七位の超能力者(レベル5)―――削板軍覇
「甘いね。甘すぎて虫歯になる」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――坂状友莉
「学園都市の『闇』に、『白鰐部隊』に対してそんな言葉が出てくる時点でさ。
アンタ、どうしようもなく甘くて無知だよ第七位」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――和軸子雛
「『闇』から抜けたければ抜けられる? 希望すれば『表』に戻れる?
そんな簡単な場所ですか? まさかとは思いますけど、辞表一つで辞められるとでも思ってんですか?
だとしたらあなたの脳内は本当に笑っちまうくらいお花畑ですよ」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――相園美央
「妹達が殺されるのを止めたければ、ミサカを殺さないと。
でも優しい優しいお姉様はミサカに手を出せないんだっけ?
じゃあどうする? ここで大人しくボコボコにされちゃう?
でもその後に待っているのは現行の全妹達の『処分』だって分かってるよね。
……あれぇ? ミサカを殺さなければ妹達が氏ぬ。
でもこのミサカを頃しても結局『ミサカ』は氏ぬ。困ったね。ぎゃははははははは!!
―――どっちにしろアンタの心はここで氏ぬ。
人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!」
『妹達(シスターズ)』・第三次製造計画(サードシーズン)で作られた美琴のクローン―――番外個体(ミサカワースト)
「あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴
「ムカついた。ああ、ムカついたぜ最ッ高に。
ムカつきすぎて……テメェを殺さなくちゃ気が済まねえよ、オイ!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督
「誰があなたの力を発現させたと思ってるんですか?
たしかに『未元物質』はこの世の物質ではありません。その性質も全く異なります。
ですが……そんな『未元物質』でさえも、ある一つの性質からは逃れられないんですよ。
まぁ、そんなわけだからそろそろ諦めろよ垣根帝督」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理
「おいおい、どうする正義のヒーロー気取りの一方通行くん?
超電磁砲がテメェの代わりに痛めつけられてんぞ? 代わってやれよ冷てえなぁ」
一方通行(アクセラレータ)の能力開発を担当した『木原』一族の一人―――木原数多
「―――ふざけンな。なンで、俺じゃねェンだ。なンで、オリジナルなンだ。
な、ンで……なンでだよ、木原ァァァァァあああああああああああああああああああッ!!!!!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)
41: 2013/07/23(火) 23:39:14.27 ID:hNGXiUBs0
絶望の始まり。
42: 2013/07/23(火) 23:39:55.60 ID:hNGXiUBs0
「ぬんッ!!」
削板軍覇が両手を高く掲げる。
するとどういうわけか謎の爆発が巻き起こり、激しく迫る五人を弾き飛ばした。
解析不能。説明不能。それがナンバーセブンの力だ。
とはいえこの爆発も念動力で吹き飛ばされたと考えれば、やはり現象としては念動力として処理できるのかもしれない。
だがそれには怯まず、続けて五人は可燃性オイルを組み合わせたミサイルのようなものを発射する。
対する削板はどういう理屈か「超すごいガード!!」と叫んで防御すると、本当に防御できてしまった。
意味不明。この街の研究者たちが匙を投げた理由も分かろうというものだ。
「お前ら、暗部の人間だろう?」
削板が五人に問いかける。
「何でそんなところに留まってるんだ。良いことなんてないだろう」
その問いは馬鹿げたものだった。
所詮は学園都市暗部を正しく理解できていないから出てくる言葉。
『白鰐部隊』からすれば一笑に付すにも値しない戯言。
「甘いね。甘すぎて虫歯になる」
「何だと?」
学園都市の『闇』は底の見えぬ深淵。
一度でも踏み込めばずぶずぶと沈み、柔らかいから止まらずどんどんと堕ちていく。
何かを求めて足掻いたところで決して何かを掴むことはなく。
許されるのはただただ更なる深淵へと堕ちていくことだけ。
削板軍覇が両手を高く掲げる。
するとどういうわけか謎の爆発が巻き起こり、激しく迫る五人を弾き飛ばした。
解析不能。説明不能。それがナンバーセブンの力だ。
とはいえこの爆発も念動力で吹き飛ばされたと考えれば、やはり現象としては念動力として処理できるのかもしれない。
だがそれには怯まず、続けて五人は可燃性オイルを組み合わせたミサイルのようなものを発射する。
対する削板はどういう理屈か「超すごいガード!!」と叫んで防御すると、本当に防御できてしまった。
意味不明。この街の研究者たちが匙を投げた理由も分かろうというものだ。
「お前ら、暗部の人間だろう?」
削板が五人に問いかける。
「何でそんなところに留まってるんだ。良いことなんてないだろう」
その問いは馬鹿げたものだった。
所詮は学園都市暗部を正しく理解できていないから出てくる言葉。
『白鰐部隊』からすれば一笑に付すにも値しない戯言。
「甘いね。甘すぎて虫歯になる」
「何だと?」
学園都市の『闇』は底の見えぬ深淵。
一度でも踏み込めばずぶずぶと沈み、柔らかいから止まらずどんどんと堕ちていく。
何かを求めて足掻いたところで決して何かを掴むことはなく。
許されるのはただただ更なる深淵へと堕ちていくことだけ。
43: 2013/07/23(火) 23:40:45.54 ID:hNGXiUBs0
「学園都市の『闇』に、『白鰐部隊』に対してそんな言葉が出てくる時点でさ。
アンタ、どうしようもなく甘くて無知だよ第七位」
削板軍覇は学園都市の暗部を知っている。
だが一方通行や垣根、麦野らと比べれば格段に浅いのも事実。
本人の性格も相まって、そんな疑問を抱いてしまう。
「『闇』から抜けたければ抜けられる? 希望すれば『表』に戻れる?
そんな簡単な場所ですか? まさかとは思いますけど、辞表一つで辞められるとでも思ってんですか?
だとしたらあなたの脳内は本当に笑っちまうくらいお花畑ですよ」
「抜けたいのに抜けられない連中がどれほどいると思ってんスか?
者とか物とか、枷をつけられてる人間が何人いると?」
「……そうか。オレは無神経な言葉でお前たちを傷つけちまったようだな。根性が足りてねぇ」
「いやいや。私らはそういうヤツじゃないから。
私たちは好きでここにいる。学園都市のヘドロみたいな『闇』の中にさ」
そう笑う友莉に、削板は疑問を覚えた。
彼女たちの口ぶりからして、彼女らも何か首輪を嵌められているのだろうと思ったが。
どうやら違うらしい。だとするなら当然疑問が湧いてくる。
「じゃあお前たちは何でそんなところに行ったんだ?」
「だからさ。アンタ根本から間違ってるよ。
あたしらは“堕ちた”んじゃない。“最初からそこにいた”のさ」
『白鰐部隊』ってのはそういうことなんだよ」
アンタ、どうしようもなく甘くて無知だよ第七位」
削板軍覇は学園都市の暗部を知っている。
だが一方通行や垣根、麦野らと比べれば格段に浅いのも事実。
本人の性格も相まって、そんな疑問を抱いてしまう。
「『闇』から抜けたければ抜けられる? 希望すれば『表』に戻れる?
そんな簡単な場所ですか? まさかとは思いますけど、辞表一つで辞められるとでも思ってんですか?
だとしたらあなたの脳内は本当に笑っちまうくらいお花畑ですよ」
「抜けたいのに抜けられない連中がどれほどいると思ってんスか?
者とか物とか、枷をつけられてる人間が何人いると?」
「……そうか。オレは無神経な言葉でお前たちを傷つけちまったようだな。根性が足りてねぇ」
「いやいや。私らはそういうヤツじゃないから。
私たちは好きでここにいる。学園都市のヘドロみたいな『闇』の中にさ」
そう笑う友莉に、削板は疑問を覚えた。
彼女たちの口ぶりからして、彼女らも何か首輪を嵌められているのだろうと思ったが。
どうやら違うらしい。だとするなら当然疑問が湧いてくる。
「じゃあお前たちは何でそんなところに行ったんだ?」
「だからさ。アンタ根本から間違ってるよ。
あたしらは“堕ちた”んじゃない。“最初からそこにいた”のさ」
『白鰐部隊』ってのはそういうことなんだよ」
44: 2013/07/23(火) 23:41:15.10 ID:hNGXiUBs0
『白鰐部隊』。少女たちの精神を押しつぶし、思うがままに書き換えるシステム。
その『教育』を受けた者は反抗しようと思うことさえなくなるという。
故に『白鰐部隊』である彼女たちに『闇』から出ようなんて意思はなく、発想もなく。
ただ従順に使い潰されるのを待っているだけ。
「私らは『闇』の方が居心地もいいスからねぇ」
そう、思い込むように誘導されているだけ。
人間性を喪失した彼女たちが人間というものを取り戻すのはまず不可能。
「ちょっと待て、それはおかしくないか?」
そこで削板が割って入る。
今の彼女たちの話には明らかな矛盾点が一つあった。
「何で暗部の方が居心地が良いなんて言えるんだ」
彼女たちは『表』を知らない。
堕ちたのではなく最初からそこにいた以上知るはずがない。
片方を知らなければ比較などできるはずがない。
知らないものの感想など言えるはずがない。
「どうして『表』は居心地が悪いと思うんだ」
食べたことのないものの味は分からない。
罹ったことない病気の苦しみは分からない。
彼女たちの言っていることは、食べたことのあるカレーと食べたことのないハヤシライスを比較し。
ハヤシライスの味を知らないにも関わらずカレーの方が美味しい、と言っているようなものだ。
その『教育』を受けた者は反抗しようと思うことさえなくなるという。
故に『白鰐部隊』である彼女たちに『闇』から出ようなんて意思はなく、発想もなく。
ただ従順に使い潰されるのを待っているだけ。
「私らは『闇』の方が居心地もいいスからねぇ」
そう、思い込むように誘導されているだけ。
人間性を喪失した彼女たちが人間というものを取り戻すのはまず不可能。
「ちょっと待て、それはおかしくないか?」
そこで削板が割って入る。
今の彼女たちの話には明らかな矛盾点が一つあった。
「何で暗部の方が居心地が良いなんて言えるんだ」
彼女たちは『表』を知らない。
堕ちたのではなく最初からそこにいた以上知るはずがない。
片方を知らなければ比較などできるはずがない。
知らないものの感想など言えるはずがない。
「どうして『表』は居心地が悪いと思うんだ」
食べたことのないものの味は分からない。
罹ったことない病気の苦しみは分からない。
彼女たちの言っていることは、食べたことのあるカレーと食べたことのないハヤシライスを比較し。
ハヤシライスの味を知らないにも関わらずカレーの方が美味しい、と言っているようなものだ。
45: 2013/07/23(火) 23:41:54.21 ID:hNGXiUBs0
「知らなくても分かるのさ。私たちみたいなクズは底辺を這いずり回ることしかできないんだから」
「食べてみたら美味しいのかも知れないですけど、私たちの口に合わないのは明らかですから。
辛いものが食べれない人は、わざわざ食べてみなくてもハバネロが食べれないことは分かるでしょう?」
「それでも食わず嫌いは良くねぇぞ。根性なしがやることだ。
よし、ならオレがお前たちに食べさせてやるよ。意外と美味いかもしれねぇぞ?」
つまり自分がお前たちを引き摺りあげる。
その上でどうするか判断しろ。削板軍覇はそう言っていた。
どっちが良いかは両方を経験してみなければ分からない。
「余計なお世話だっつの」
「よし、そういうことなら仕方ねぇ。人助けだもんな。
本来なら趣味じゃねぇんだが、お前らのためだ。手ぇ出させてもらうぞ!!」
「性的な意味で?」
「何言ってんだ友莉。一応アンタ女だろ自重しとけ」
「こんな熱血根性馬鹿に尻振っても仕方ないでしょー」
「行くぞぉぉぉおおおおお!!」
「人の話聞かねえなこいつ!!」
「第二位も言ってたでしょ馬鹿なんだよこいつは!!」
そんな緊張感に欠ける会話をしながらも。
個としての大戦力である超能力者。
それを打倒するために作られた安定戦力としての群の大能力者。
ナンバーセブンと『白鰐部隊』がトップスピードで激突した。
「食べてみたら美味しいのかも知れないですけど、私たちの口に合わないのは明らかですから。
辛いものが食べれない人は、わざわざ食べてみなくてもハバネロが食べれないことは分かるでしょう?」
「それでも食わず嫌いは良くねぇぞ。根性なしがやることだ。
よし、ならオレがお前たちに食べさせてやるよ。意外と美味いかもしれねぇぞ?」
つまり自分がお前たちを引き摺りあげる。
その上でどうするか判断しろ。削板軍覇はそう言っていた。
どっちが良いかは両方を経験してみなければ分からない。
「余計なお世話だっつの」
「よし、そういうことなら仕方ねぇ。人助けだもんな。
本来なら趣味じゃねぇんだが、お前らのためだ。手ぇ出させてもらうぞ!!」
「性的な意味で?」
「何言ってんだ友莉。一応アンタ女だろ自重しとけ」
「こんな熱血根性馬鹿に尻振っても仕方ないでしょー」
「行くぞぉぉぉおおおおお!!」
「人の話聞かねえなこいつ!!」
「第二位も言ってたでしょ馬鹿なんだよこいつは!!」
そんな緊張感に欠ける会話をしながらも。
個としての大戦力である超能力者。
それを打倒するために作られた安定戦力としての群の大能力者。
ナンバーセブンと『白鰐部隊』がトップスピードで激突した。
46: 2013/07/23(火) 23:44:00.45 ID:hNGXiUBs0
・
・
・
「……どういう意味だ、テメェ」
垣根帝督は不気味に笑う木原病理に問いかける。
今この女が言った言葉は無視できるものではなかった。
嫌な予感。だがそれを捻じ伏せて垣根は進む。
「『絶対能力進化計画』は知ってますよね?
七人の超能力者の内、一方通行だけが絶対能力者になれるかもしれない。
だから一方通行をそこまで導こうという実験です」
「んなこたぁ今更講釈垂れてもらわなくても分かってんだよ阿婆擦れ。
それが何の関係があるってんだ」
「じゃあ七人いる超能力者の内、どうして一方通行だけが絶対能力者になれる可能性があると分かったんでしょう?」
いまいち話が見えなかった。
そんなことは今更にもほどがある話で、この世界では有名な話だ。
「『樹形図の設計者』の予測演算の結果だろ。……何が言いたい」
「せっかちですねぇ。結論を急ぐのはよくありませんよ?」
一瞬。この瞬間にその首を刎ね飛ばしてやりたいという欲求が生まれる。
こっちの心境を分かっていて、あえていちいち人の神経を逆撫でしてくる。
それでも話を聞くために今頃すわけにはいかない。
何とかその衝動を理性で抑え付け、垣根は黙って先を促した。
47: 2013/07/23(火) 23:44:52.19 ID:hNGXiUBs0
「そう、『樹形図の設計者』です。世界最高のスーパーコンピューター。
地球上の分子一つ一つを計算して事象を弾き出すオーバーテクノロジー。
これを使って七人全てを予測演算したんです。ただそこには一つ面白い結果が出たんですねー」
あくまでマイペース。
募る苛立ちを表すように垣根はタンタンと靴底で床を何度も叩く。
踵はつけたままつま先を上げ、下ろして床を叩く。
一定の早めのテンポで繰り返されるその動きは、垣根の心境を如実に表している。
そしてそんな様子を見ていながらも全く自分のペースを崩さない木原病理に、一層苛立ちが募っていく。
「まず一方通行。これはあなたも知っているように絶対能力者への適性が弾き出されました。
対して他の超能力者は進化の方向性が全く違うか、途中でバランスを崩して崩壊するものばかり。
ただ、一人。第二位のあなただけは違った。あなたは正しく絶対能力者への道を進んでいました」
「絶対能力者になれるのは一方通行だけだろ。おかしくねえか」
絶対能力者へ手が届くのは、垣根帝督ではなく一方通行ただ一人。
その事実に思うことがないわけではない。
だが今重要なのはそんなことではないので、ひとまず捨て置く。
「たとえばの話です。今あなたたち七人は同じ位置―――〇地点にいるとします。
一〇がゴール。そこまで行ければ絶対能力者になれます。
第七位は全く逆方向に進んでしまい、ろくに進化はしません。第六位は三辺りで完全に止まってしまう。
第五位は少しズレた方向へと進み、第四位はすぐに崩壊を起こしてしまいます。第三位は三か四か、少しだけ進んでやはり崩壊するようです。
一方通行はそのまま一〇まで直進。一方あなたは七か八までは進むことができる」
……分かりにくい。垣根は率直にそう思った。
本来たとえ話というのは物事を分かりやすく伝えるために用いるものなのだが、逆に混乱する。
勿論言いたいことは分かるが、それにしても遠回りだ。
なので垣根は木原病理の言葉から意味を理解するのではなく、脳内で自分の言葉に置き換えて理解する。
こいつは教師には向いていない、と垣根は確信した。
地球上の分子一つ一つを計算して事象を弾き出すオーバーテクノロジー。
これを使って七人全てを予測演算したんです。ただそこには一つ面白い結果が出たんですねー」
あくまでマイペース。
募る苛立ちを表すように垣根はタンタンと靴底で床を何度も叩く。
踵はつけたままつま先を上げ、下ろして床を叩く。
一定の早めのテンポで繰り返されるその動きは、垣根の心境を如実に表している。
そしてそんな様子を見ていながらも全く自分のペースを崩さない木原病理に、一層苛立ちが募っていく。
「まず一方通行。これはあなたも知っているように絶対能力者への適性が弾き出されました。
対して他の超能力者は進化の方向性が全く違うか、途中でバランスを崩して崩壊するものばかり。
ただ、一人。第二位のあなただけは違った。あなたは正しく絶対能力者への道を進んでいました」
「絶対能力者になれるのは一方通行だけだろ。おかしくねえか」
絶対能力者へ手が届くのは、垣根帝督ではなく一方通行ただ一人。
その事実に思うことがないわけではない。
だが今重要なのはそんなことではないので、ひとまず捨て置く。
「たとえばの話です。今あなたたち七人は同じ位置―――〇地点にいるとします。
一〇がゴール。そこまで行ければ絶対能力者になれます。
第七位は全く逆方向に進んでしまい、ろくに進化はしません。第六位は三辺りで完全に止まってしまう。
第五位は少しズレた方向へと進み、第四位はすぐに崩壊を起こしてしまいます。第三位は三か四か、少しだけ進んでやはり崩壊するようです。
一方通行はそのまま一〇まで直進。一方あなたは七か八までは進むことができる」
……分かりにくい。垣根は率直にそう思った。
本来たとえ話というのは物事を分かりやすく伝えるために用いるものなのだが、逆に混乱する。
勿論言いたいことは分かるが、それにしても遠回りだ。
なので垣根は木原病理の言葉から意味を理解するのではなく、脳内で自分の言葉に置き換えて理解する。
こいつは教師には向いていない、と垣根は確信した。
48: 2013/07/23(火) 23:46:23.67 ID:hNGXiUBs0
「つまり、俺は途中までは絶対能力者に至る道筋通りに成長するってことか」
そして一歩か二歩か三歩か、届かずに終わる。
そう言われると酷く複雑な気分だった。
「まぁ、そういうことです。当然他の科学者たちは一方通行だけに注目しました。
私も科学者として絶対能力者には興味津々だったのですが、同時にあなたのことも気になったんです。
一体『未元物質』はどこまで進めるのか、とね。もしかしたら想定の範囲を超えてくれるかもしれないなんて期待もありました」
「そりゃどうも」
「ですからー、『樹形図の設計者』に再演算させたんですよ。第二位の進化に関して」
『樹形図の設計者』。毎日ひっきりなしに使用申請が出されるそれを私的に使えたのは、やはり『木原』故か。
統括理事会の潮岸でさえ『木原』には怯えていた。
無理もない。権力が通用する相手ではないし、敵に回せば本当にどうなるか分からない。
一人を頃すために世界を壊しかねない連中だ。誰も止められないだろうし、止める必要もなかったのかもしれない。
「『精神的・肉体的に極限まで追い詰められること』。それが『樹形図の設計者』の結論でした。
肉体の方は最後の仕上げのようなもので、精神的にってのがかなり重要らしいです。どうやら感情の昂ぶりがキーのようでして」
「……待て。テメェまさか、」
くっくっと笑う木原病理に、垣根は一つの可能性に行き着く。
だがそれは耐え難い。もしそうだとしたら―――。
ドロドロに溶かしたコールタールのような、どうしようもなく気持ち悪いものが一滴。
まるで化学反応を起こすようにそこからジワジワと音もなく広がっていく。
「その具体的な方法を演算させてみたらですね―――」
第三位の超電磁砲。彼女が適任だったんです。
だから第三次製造計画の件も兼ねてあなたを動かした。
そして一歩か二歩か三歩か、届かずに終わる。
そう言われると酷く複雑な気分だった。
「まぁ、そういうことです。当然他の科学者たちは一方通行だけに注目しました。
私も科学者として絶対能力者には興味津々だったのですが、同時にあなたのことも気になったんです。
一体『未元物質』はどこまで進めるのか、とね。もしかしたら想定の範囲を超えてくれるかもしれないなんて期待もありました」
「そりゃどうも」
「ですからー、『樹形図の設計者』に再演算させたんですよ。第二位の進化に関して」
『樹形図の設計者』。毎日ひっきりなしに使用申請が出されるそれを私的に使えたのは、やはり『木原』故か。
統括理事会の潮岸でさえ『木原』には怯えていた。
無理もない。権力が通用する相手ではないし、敵に回せば本当にどうなるか分からない。
一人を頃すために世界を壊しかねない連中だ。誰も止められないだろうし、止める必要もなかったのかもしれない。
「『精神的・肉体的に極限まで追い詰められること』。それが『樹形図の設計者』の結論でした。
肉体の方は最後の仕上げのようなもので、精神的にってのがかなり重要らしいです。どうやら感情の昂ぶりがキーのようでして」
「……待て。テメェまさか、」
くっくっと笑う木原病理に、垣根は一つの可能性に行き着く。
だがそれは耐え難い。もしそうだとしたら―――。
ドロドロに溶かしたコールタールのような、どうしようもなく気持ち悪いものが一滴。
まるで化学反応を起こすようにそこからジワジワと音もなく広がっていく。
「その具体的な方法を演算させてみたらですね―――」
第三位の超電磁砲。彼女が適任だったんです。
だから第三次製造計画の件も兼ねてあなたを動かした。
49: 2013/07/23(火) 23:47:13.29 ID:hNGXiUBs0
木原病理は淡々とそう言った。
言葉の意味を咀嚼して脳が理解するまで、幾許かの時間が要った。
そして垣根帝督は予想が当たってしまったことを知る。
嫌な予感だけは、本当によく当たる。この現象は一体何なのだろうか。
「あなたは自分がクズであることを自覚している。
一部の人間は自分がクズであることさえ分かってませんからねぇ」
たとえば馬場芳郎。
そういう種類の下衆は確かに存在する。
「そういったものも含めてあなたの性格に適切だったんでしょうねー。
流石は『樹形図の設計者』、やってみたら結果は大成功。
よく知らない無能力者の人間が更にそれを後押ししたらしいですが……まあそれはいいでしょう。
あなたはガリガリとその温度差に精神を磨耗していった」
垣根帝督と御坂美琴。
同じなのに、違う二人。
同じ超能力者なのに、正反対の二人。
だからこそ垣根帝督は苦悩する。
そう『樹形図の設計者』は予言した。
「そして一方通行とぶつけてやれば、私の予想通りの展開になったようで。
あなたは見事更なるステージへと登った。情報が全くないので、一秒でも早くあなたを調べたいのですが」
「――――――」
つまり、何か。
『スクール』に御坂美琴を監視しろという仕事が下ったのも。
垣根帝督と御坂美琴が出会ったのも。
御坂美琴の持つ性質に当てられて精神が揺らぎ、崩壊しかけたのも。
一方通行と衝突し、敗北したのも。自分の弱さを突きつけられたのも。
言葉の意味を咀嚼して脳が理解するまで、幾許かの時間が要った。
そして垣根帝督は予想が当たってしまったことを知る。
嫌な予感だけは、本当によく当たる。この現象は一体何なのだろうか。
「あなたは自分がクズであることを自覚している。
一部の人間は自分がクズであることさえ分かってませんからねぇ」
たとえば馬場芳郎。
そういう種類の下衆は確かに存在する。
「そういったものも含めてあなたの性格に適切だったんでしょうねー。
流石は『樹形図の設計者』、やってみたら結果は大成功。
よく知らない無能力者の人間が更にそれを後押ししたらしいですが……まあそれはいいでしょう。
あなたはガリガリとその温度差に精神を磨耗していった」
垣根帝督と御坂美琴。
同じなのに、違う二人。
同じ超能力者なのに、正反対の二人。
だからこそ垣根帝督は苦悩する。
そう『樹形図の設計者』は予言した。
「そして一方通行とぶつけてやれば、私の予想通りの展開になったようで。
あなたは見事更なるステージへと登った。情報が全くないので、一秒でも早くあなたを調べたいのですが」
「――――――」
つまり、何か。
『スクール』に御坂美琴を監視しろという仕事が下ったのも。
垣根帝督と御坂美琴が出会ったのも。
御坂美琴の持つ性質に当てられて精神が揺らぎ、崩壊しかけたのも。
一方通行と衝突し、敗北したのも。自分の弱さを突きつけられたのも。
50: 2013/07/23(火) 23:47:47.04 ID:hNGXiUBs0
全てが機械仕掛けの神の頭脳と、目の前にいる木原病理の筋書きだったということか。
(そうだとするなら―――)
これまでの経験は一体何だったというのだ。
一方通行の言葉も。垣根帝督の再起も。御坂美琴の挑戦も。
これまでの全部が、茶番ではないか。
それぞれ自分の意思で行動していたつもりで、ただ木原病理の作り上げた舞台の上で木原病理の脚本通りに物語を演じていたということか。
垣根の葛藤も、美琴の意思も全てはシナリオ通りの展開でしかなかった。
それはただ木原病理の知的好奇心を満たすためだけに。
「ははっ、ははははは。何だぁそりゃあ」
乾いた笑い声をあげる。
ずっと利用されていた。木原病理に、こんな女の思いのままになっていた。
何だ、それは。
「色々と『諦め』てもらえました? では脳だけは無事な形でいただきますね。
電気信号に従って能力さえ吐き出してもらえれば問題ないので」
実は木原病理の筋書きには、一つだけ誤算があった。
脚本通りに動くだけのコマがアドリブで脚本を変えてしまった部分が、一つだけ。
本来ならば垣根帝督は一方通行に殺され、グチャグチャにされるはずだった。
そこから脳だけを回収するのが木原病理の計画だったわけだが、木原病理はそんなことは口にしない。
他人を『諦め』させるのが大好きな彼女はそんな希望を持たせるようなことなど言いはしない。
(そうだとするなら―――)
これまでの経験は一体何だったというのだ。
一方通行の言葉も。垣根帝督の再起も。御坂美琴の挑戦も。
これまでの全部が、茶番ではないか。
それぞれ自分の意思で行動していたつもりで、ただ木原病理の作り上げた舞台の上で木原病理の脚本通りに物語を演じていたということか。
垣根の葛藤も、美琴の意思も全てはシナリオ通りの展開でしかなかった。
それはただ木原病理の知的好奇心を満たすためだけに。
「ははっ、ははははは。何だぁそりゃあ」
乾いた笑い声をあげる。
ずっと利用されていた。木原病理に、こんな女の思いのままになっていた。
何だ、それは。
「色々と『諦め』てもらえました? では脳だけは無事な形でいただきますね。
電気信号に従って能力さえ吐き出してもらえれば問題ないので」
実は木原病理の筋書きには、一つだけ誤算があった。
脚本通りに動くだけのコマがアドリブで脚本を変えてしまった部分が、一つだけ。
本来ならば垣根帝督は一方通行に殺され、グチャグチャにされるはずだった。
そこから脳だけを回収するのが木原病理の計画だったわけだが、木原病理はそんなことは口にしない。
他人を『諦め』させるのが大好きな彼女はそんな希望を持たせるようなことなど言いはしない。
51: 2013/07/23(火) 23:48:42.62 ID:hNGXiUBs0
「ムカついた。ああ、ムカついたぜ最ッ高に。
ムカつきすぎて……テメェを殺さなくちゃ気が済まねえよ、オイ!!」
白い翼を生成、即座に躊躇なくそれを木原病理へと叩きつける。
そこに遠慮などなく、手加減などなく。あるのはただ濃密に凝縮された純粋なる殺意。
一瞬で頃す。それは瞬きほどの刹那の動き。
(テメェの脚本がどんなもんかなんて知ったこっちゃねえが。
少なくとも今ここでテメェが俺に殺されるってのは脚本にねえだろ、なあ木原ァ!!)
学園都市第二位、『未元物質』。
その牙を止められる人間などこの学園都市に数えるほどしか存在しない。
唯一垣根より上位に立つ一方通行と、幻想を食らい尽くす一人の少年くらいのものだろう。
木原病理が如何に優秀な科学者であれ、所詮は科学者。
木原数多と同じで自身に特別な戦闘能力は備わっていない。
故に垣根がそう決断した時点で木原病理の辿る末路は決まっており。
ただ先の見えた、予定調和のつまらない展開が再生される。
超能力者の絶対的な殺意と暴虐に愚かしい希望など入り込む余地は存在しない。
そのはずだった。
「な―――ッ!?」
笑っていた。垣根帝督の攻撃をその身に受けて、木原病理は尚もその不気味な笑みを絶やさなかった。
いや、その言い方は正しくない。垣根の攻撃はそもそも届いてすらいない。
何故ならば。第二位の誇る『未元物質』が、不自然に消滅してしまったからだ。
白い翼が、『未元物質』が。虫に食われるようにあっという間に消えていく。
演算は正しく組めている。『自分だけの現実』にも揺らぎはない。
見たことも聞いたこともない現象だった。第二位の頭脳に空白が生まれる。
「―――んだ、これは……ッ!!」
木原病理は笑う。不敵に、大胆に、不気味に、昏く笑う。
ただ笑って、こう言った。
「誰があなたの力を発現させたと思ってるんですか?
たしかに『未元物質』はこの世の物質ではありません。その性質も全く異なります。
ですが……そんな『未元物質』でさえも、ある一つの性質からは逃れられないんですよ。
まぁ、そんなわけだからそろそろ諦めろよ垣根帝督」
ムカつきすぎて……テメェを殺さなくちゃ気が済まねえよ、オイ!!」
白い翼を生成、即座に躊躇なくそれを木原病理へと叩きつける。
そこに遠慮などなく、手加減などなく。あるのはただ濃密に凝縮された純粋なる殺意。
一瞬で頃す。それは瞬きほどの刹那の動き。
(テメェの脚本がどんなもんかなんて知ったこっちゃねえが。
少なくとも今ここでテメェが俺に殺されるってのは脚本にねえだろ、なあ木原ァ!!)
学園都市第二位、『未元物質』。
その牙を止められる人間などこの学園都市に数えるほどしか存在しない。
唯一垣根より上位に立つ一方通行と、幻想を食らい尽くす一人の少年くらいのものだろう。
木原病理が如何に優秀な科学者であれ、所詮は科学者。
木原数多と同じで自身に特別な戦闘能力は備わっていない。
故に垣根がそう決断した時点で木原病理の辿る末路は決まっており。
ただ先の見えた、予定調和のつまらない展開が再生される。
超能力者の絶対的な殺意と暴虐に愚かしい希望など入り込む余地は存在しない。
そのはずだった。
「な―――ッ!?」
笑っていた。垣根帝督の攻撃をその身に受けて、木原病理は尚もその不気味な笑みを絶やさなかった。
いや、その言い方は正しくない。垣根の攻撃はそもそも届いてすらいない。
何故ならば。第二位の誇る『未元物質』が、不自然に消滅してしまったからだ。
白い翼が、『未元物質』が。虫に食われるようにあっという間に消えていく。
演算は正しく組めている。『自分だけの現実』にも揺らぎはない。
見たことも聞いたこともない現象だった。第二位の頭脳に空白が生まれる。
「―――んだ、これは……ッ!!」
木原病理は笑う。不敵に、大胆に、不気味に、昏く笑う。
ただ笑って、こう言った。
「誰があなたの力を発現させたと思ってるんですか?
たしかに『未元物質』はこの世の物質ではありません。その性質も全く異なります。
ですが……そんな『未元物質』でさえも、ある一つの性質からは逃れられないんですよ。
まぁ、そんなわけだからそろそろ諦めろよ垣根帝督」
52: 2013/07/23(火) 23:49:32.11 ID:hNGXiUBs0
・
・
・
部屋を飛び出そうとした。
だが既にロックされていて、開かない。
壊すことはできただろうがそんなことをしている暇はなかった。
逃げていた。
御坂美琴が。学園都市第三位の絶対的な実力者が、ただ逃げ出すために走っていた。
恐ろしい。美琴は素直にそう思う。
テレスティーナ=木原=ライフラインよりも。
木原幻生よりも。
麦野沈利よりも。
一方通行よりも。
すぐ後ろにいるこの敵は、御坂美琴の根本的な価値観を支える柱を一撃で砕くほどに、恐ろしすぎる。
第三次製造計画。二万+αとは別物のシリーズ。
テレスティーナ=木原=ライフラインと、木原数多の狂気によって実行されてしまったプロジェクト。
53: 2013/07/23(火) 23:50:00.97 ID:hNGXiUBs0
「差し詰め番外個体(ミサカワースト)、と言ったところかな」
少女は自らをそう呼んだ。
誰にも望まれていない、存在そのものが禁忌であること。
脈々と続いてきた生命の系譜から外れた異形であることを、おそらくは自覚した上で。
バチッ、と紫電の弾ける音。
他の妹達と比べれば格段に大規模だが、オリジナルたる美琴に比べれば小規模なものでしかない。
二センチほどの鉄釘がコイルガンのように放たれる。
音速を超える程度の速度。美琴からしたらチャチな攻撃。
避けることも、防御することも、対応策なら複数ある。
だが。それでも。迷った。
自分は、この少女に対して反撃をしていいのか。
そんなことが許されるのか。考えずにはいられなかった。
反撃はせずとも、防ぐことはできる。だがそんな無為な思考が時間を奪い。
少女から放たれた鉄釘が美琴の左腕を射抜く。
「が、ァァああああああああッ!!」
思わず叫ぶ。鋭い激痛が全身を駆ける。
そんな中で美琴は少女の攻撃を頭の中でどこか冷静に分析していた。
(使用電力的に私の超電磁砲とは別物か。
もっと単純に、電磁石を使って鉄製の弾を撃ち出してる)
そんなどうでもいいことを考える。
まるで目の前の現実から目を背けるように。
現実逃避するように。
御坂美琴には自身に課したルールがある。
『妹達』をどんなことがあっても傷つけない。
何があっても、何を敵にしてでも必ず守り抜く。
それが美琴が己に立てた誓いだった。
少女は自らをそう呼んだ。
誰にも望まれていない、存在そのものが禁忌であること。
脈々と続いてきた生命の系譜から外れた異形であることを、おそらくは自覚した上で。
バチッ、と紫電の弾ける音。
他の妹達と比べれば格段に大規模だが、オリジナルたる美琴に比べれば小規模なものでしかない。
二センチほどの鉄釘がコイルガンのように放たれる。
音速を超える程度の速度。美琴からしたらチャチな攻撃。
避けることも、防御することも、対応策なら複数ある。
だが。それでも。迷った。
自分は、この少女に対して反撃をしていいのか。
そんなことが許されるのか。考えずにはいられなかった。
反撃はせずとも、防ぐことはできる。だがそんな無為な思考が時間を奪い。
少女から放たれた鉄釘が美琴の左腕を射抜く。
「が、ァァああああああああッ!!」
思わず叫ぶ。鋭い激痛が全身を駆ける。
そんな中で美琴は少女の攻撃を頭の中でどこか冷静に分析していた。
(使用電力的に私の超電磁砲とは別物か。
もっと単純に、電磁石を使って鉄製の弾を撃ち出してる)
そんなどうでもいいことを考える。
まるで目の前の現実から目を背けるように。
現実逃避するように。
御坂美琴には自身に課したルールがある。
『妹達』をどんなことがあっても傷つけない。
何があっても、何を敵にしてでも必ず守り抜く。
それが美琴が己に立てた誓いだった。
54: 2013/07/23(火) 23:50:54.84 ID:hNGXiUBs0
そのために大覇星祭では奮闘したし、一方通行との決着もつけた。
一〇〇三二号や打ち止め、一九〇九〇号とも親交を深めた。
勿論一〇〇点満点だなんて言えるはずもないが、それでも多少なりとも『姉』でいられたと思っていた。
姉らしいことなんでほとんど出来ていないけれど、そんな中でも彼女たちは自分をお姉様と呼んでくれる。
ならばこそ、ほんの少しであってもお姉様らしくいられたのだろうと思っていた。
だが。よりにもよってテレスティーナ=木原=ライフラインは。
そこを、そこだけをピンポイントで砕く策を用意してきた。
世界全てを敵に回してでも守りたいものがあるという想い。
御坂美琴の原動力をへし折るための戦いを。
(狂ってる……)
美琴は素直にそう思った。
イカレてる。これまでもそう思ったことは何度かある。
たとえば『量産型能力者計画』。たとえば『絶対能力者進化計画』。
だが、それにしても、これは。
(第三次製造計画? この状況を作るために、私のトラウマを刺激するためだけに。
私の心を折るためだけに、そんな下らない理由でまた作ったっていうの!?
ちくしょう、学園都市は、『木原』はまともじゃない!!
馬鹿げてる。『こっち』側から改めて見てみてよく分かった。
この街の連中は―――『木原』は根本的なところがブッ飛んでる!!)
まともな思考ができない。
普段の行動パターンが成立しない。
聞こえてくるテレスティーナの馬鹿笑いさえ耳に入らない。
それほどにこの少女は、美琴にとって恐ろしい敵だった。
一〇〇三二号や打ち止め、一九〇九〇号とも親交を深めた。
勿論一〇〇点満点だなんて言えるはずもないが、それでも多少なりとも『姉』でいられたと思っていた。
姉らしいことなんでほとんど出来ていないけれど、そんな中でも彼女たちは自分をお姉様と呼んでくれる。
ならばこそ、ほんの少しであってもお姉様らしくいられたのだろうと思っていた。
だが。よりにもよってテレスティーナ=木原=ライフラインは。
そこを、そこだけをピンポイントで砕く策を用意してきた。
世界全てを敵に回してでも守りたいものがあるという想い。
御坂美琴の原動力をへし折るための戦いを。
(狂ってる……)
美琴は素直にそう思った。
イカレてる。これまでもそう思ったことは何度かある。
たとえば『量産型能力者計画』。たとえば『絶対能力者進化計画』。
だが、それにしても、これは。
(第三次製造計画? この状況を作るために、私のトラウマを刺激するためだけに。
私の心を折るためだけに、そんな下らない理由でまた作ったっていうの!?
ちくしょう、学園都市は、『木原』はまともじゃない!!
馬鹿げてる。『こっち』側から改めて見てみてよく分かった。
この街の連中は―――『木原』は根本的なところがブッ飛んでる!!)
まともな思考ができない。
普段の行動パターンが成立しない。
聞こえてくるテレスティーナの馬鹿笑いさえ耳に入らない。
それほどにこの少女は、美琴にとって恐ろしい敵だった。
55: 2013/07/23(火) 23:51:30.24 ID:hNGXiUBs0
「おやおや。もしかしてミサカたちのことを守ってあげてるとか思ってんの?
誰も頼んでないっつーの。そもそも一万人も頃しておいてそれでチャラになるって思ってるのが既に傲慢なんだよ。
分かるかなぁ、『お姉様』?」
声は全く同じ。妹達の声。打ち止めの声。自分の、声。
だがそこに込められた感情が全く違う。
思わず怯んでしまうほどに黒いものがまっすぐに突き刺さる。
呼び方にしても同様。同じ『お姉様』であっても、白井や妹達の親愛と敬愛の込められたものとはまるで違う。
悪意と皮肉。そういったものをこれでもかと詰め込んだ呼び方だった。
御坂美琴はそこで初めてその少女の顔をはっきりと視界に捉えた。
僅かに自分より成長しているようにも見えるものの、ほとんど顔は同じ。
年齢にして自分より一つ上、一五歳ほどだろうか。
それどころか仕草までもが自分そっくりだった。
「アンタさ、自分が一万頃しの大罪人だってこと理解できてるわけ?」
気だるげに髪をかきあげ、前髪からバチバチと紫電が走る。
見た目。一部の言葉遣い。仕草に至るまでが自分と同じ。
妹達はたしかに美琴そっくりだ。美琴の生体クローンというだけあって、判断できないほどに同じだった。
だがそれはあくまで見た目だけの話。
口を開けば美琴ではないことは明らかだし、性格や仕草も美琴とは違う。
しかし今目の前にいる番外個体は、それらに至るまでが美琴そっくりだった。
強いて言うなら美琴より多少目つきが悪いくらいか。
これは番外個体がよりオリジナルに近づいたためだった。
垣根帝督を通して得られた美琴の演算パターンなどを組み込んだ結果。
オリジナルに近づくことに成功したために能力は格段に上昇した。
そして副次的にその他の部分までが妹達より圧倒的にオリジナルに近いものとなったのだった。
誰も頼んでないっつーの。そもそも一万人も頃しておいてそれでチャラになるって思ってるのが既に傲慢なんだよ。
分かるかなぁ、『お姉様』?」
声は全く同じ。妹達の声。打ち止めの声。自分の、声。
だがそこに込められた感情が全く違う。
思わず怯んでしまうほどに黒いものがまっすぐに突き刺さる。
呼び方にしても同様。同じ『お姉様』であっても、白井や妹達の親愛と敬愛の込められたものとはまるで違う。
悪意と皮肉。そういったものをこれでもかと詰め込んだ呼び方だった。
御坂美琴はそこで初めてその少女の顔をはっきりと視界に捉えた。
僅かに自分より成長しているようにも見えるものの、ほとんど顔は同じ。
年齢にして自分より一つ上、一五歳ほどだろうか。
それどころか仕草までもが自分そっくりだった。
「アンタさ、自分が一万頃しの大罪人だってこと理解できてるわけ?」
気だるげに髪をかきあげ、前髪からバチバチと紫電が走る。
見た目。一部の言葉遣い。仕草に至るまでが自分と同じ。
妹達はたしかに美琴そっくりだ。美琴の生体クローンというだけあって、判断できないほどに同じだった。
だがそれはあくまで見た目だけの話。
口を開けば美琴ではないことは明らかだし、性格や仕草も美琴とは違う。
しかし今目の前にいる番外個体は、それらに至るまでが美琴そっくりだった。
強いて言うなら美琴より多少目つきが悪いくらいか。
これは番外個体がよりオリジナルに近づいたためだった。
垣根帝督を通して得られた美琴の演算パターンなどを組み込んだ結果。
オリジナルに近づくことに成功したために能力は格段に上昇した。
そして副次的にその他の部分までが妹達より圧倒的にオリジナルに近いものとなったのだった。
56: 2013/07/23(火) 23:52:00.97 ID:hNGXiUBs0
かつて妹達と初めて会った時とは違う。
あの時は見た目こそそっくりで驚愕したものの、少し話してみればまるで別人だった。
そこに呆然とさえしたものだが、番外個体は本当に生き写し。
美琴の奥底に僅かに芽生えた恐怖感。それさえテレスティーナの計算通りなのだろうか。
しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
(ど、どうする、どうする……ッ!?)
この少女を倒すか。このまま殺されるか。
ここで自分が氏ねば、障害はなくなりそのまま第三次製造計画は本格稼動を始めるだろう。
そうしてまたもたくさんの妹達が作られる。
戦わせるために。コストパフォーマンスの良い軍隊として。
そんなことは、絶対に許容できない。
「ちなみに第三次製造計画が本格的に動き出したらどうなると思う?」
そんな問いをかけられた。
決まっている。今考えた通りだ。
ただ戦わされるためだけに。利用されるためだけに。
世界に命が産み落とされる。ただの道具として。
―――本当に、それだけ?
「結論から言うと、ただミサカたちが作られるだけなんてことは絶対にない」
ゾワッ!! と。
美琴の中で嫌な予感が一気に膨れ上がった。
思い出す。妹達の能力のレベル。
かつて見た『量産型能力者計画』のレポート。
妹達のスペック。先ほど番外個体の放った鉄釘。
学園都市という土壌。この街に巣くう研究者共。
あの時は見た目こそそっくりで驚愕したものの、少し話してみればまるで別人だった。
そこに呆然とさえしたものだが、番外個体は本当に生き写し。
美琴の奥底に僅かに芽生えた恐怖感。それさえテレスティーナの計算通りなのだろうか。
しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
(ど、どうする、どうする……ッ!?)
この少女を倒すか。このまま殺されるか。
ここで自分が氏ねば、障害はなくなりそのまま第三次製造計画は本格稼動を始めるだろう。
そうしてまたもたくさんの妹達が作られる。
戦わせるために。コストパフォーマンスの良い軍隊として。
そんなことは、絶対に許容できない。
「ちなみに第三次製造計画が本格的に動き出したらどうなると思う?」
そんな問いをかけられた。
決まっている。今考えた通りだ。
ただ戦わされるためだけに。利用されるためだけに。
世界に命が産み落とされる。ただの道具として。
―――本当に、それだけ?
「結論から言うと、ただミサカたちが作られるだけなんてことは絶対にない」
ゾワッ!! と。
美琴の中で嫌な予感が一気に膨れ上がった。
思い出す。妹達の能力のレベル。
かつて見た『量産型能力者計画』のレポート。
妹達のスペック。先ほど番外個体の放った鉄釘。
学園都市という土壌。この街に巣くう研究者共。
57: 2013/07/23(火) 23:52:26.88 ID:hNGXiUBs0
「ま、さか……」
否定してほしかった。何を言っているんだ、と一蹴してほしかった。
だが美琴を壊すための番外個体がそんなことをするわけがなく。
「現行の妹達は全ての面で第三次製造計画のものに遥かに劣る。
なら今の妹達は必要ないと思わない? ぜーんぶまとめて綺麗に『処分』するに決まってるよね。
上位個体だって例外じゃあない。新しく第三次製造計画の上位個体が置かれるんだから」
クソッ!! と美琴は思わず吐き捨てそうになった。
あまりにも想像通り。最低最悪の想像を学園都市は平気で肯定する。
そんなことを許すわけにはいかない。妹達の生活を奪わせることはできない。
天真爛漫な打ち止めを始めとする妹達。たしかに能力は弱いのかもしれない。
美琴の一パーセントにも満たないのかもしれない。だがだからって氏ななければならないなんて認めない。
上層部の勝手な都合で生み出され、勝手な都合で『処分』される。
一体奴らは人の命を何だと思ってるんだ。
そんなに命を弄びたいならまず自分の命を使えと怒鳴ってやりたかった。
だが。問題はそこだけではない。
番外個体が言っているのは、要するに―――
「妹達が殺されるのを止めたければ、ミサカを殺さないと。
でも優しい優しいお姉様はミサカに手を出せないんだっけ?
じゃあどうする? ここで大人しくボコボコにされちゃう?
でもその後に待っているのは現行の全妹達の『処分』だって分かってるよね」
―――こういう、ことだった。
どっちに転んでも、妹達が氏ぬ。
一万回以上繰り返された事象でありながら、美琴の悪夢そのもの。
否定してほしかった。何を言っているんだ、と一蹴してほしかった。
だが美琴を壊すための番外個体がそんなことをするわけがなく。
「現行の妹達は全ての面で第三次製造計画のものに遥かに劣る。
なら今の妹達は必要ないと思わない? ぜーんぶまとめて綺麗に『処分』するに決まってるよね。
上位個体だって例外じゃあない。新しく第三次製造計画の上位個体が置かれるんだから」
クソッ!! と美琴は思わず吐き捨てそうになった。
あまりにも想像通り。最低最悪の想像を学園都市は平気で肯定する。
そんなことを許すわけにはいかない。妹達の生活を奪わせることはできない。
天真爛漫な打ち止めを始めとする妹達。たしかに能力は弱いのかもしれない。
美琴の一パーセントにも満たないのかもしれない。だがだからって氏ななければならないなんて認めない。
上層部の勝手な都合で生み出され、勝手な都合で『処分』される。
一体奴らは人の命を何だと思ってるんだ。
そんなに命を弄びたいならまず自分の命を使えと怒鳴ってやりたかった。
だが。問題はそこだけではない。
番外個体が言っているのは、要するに―――
「妹達が殺されるのを止めたければ、ミサカを殺さないと。
でも優しい優しいお姉様はミサカに手を出せないんだっけ?
じゃあどうする? ここで大人しくボコボコにされちゃう?
でもその後に待っているのは現行の全妹達の『処分』だって分かってるよね」
―――こういう、ことだった。
どっちに転んでも、妹達が氏ぬ。
一万回以上繰り返された事象でありながら、美琴の悪夢そのもの。
58: 2013/07/23(火) 23:53:01.63 ID:hNGXiUBs0
「あれぇ? ミサカを殺さなければ妹達が氏ぬ。
でもこのミサカを頃しても結局『ミサカ』は氏ぬ。困ったね。
ぎゃははははははは!!」
「ぁ、う……」
嘘だ。何か、あるはずだ。どちらも助ける方法が。
こんなの、嘘だ。何か、何か―――……。
「どっちにしろアンタの心はここで氏ぬ。
人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!」
絶望的な言葉と共に、戦闘が始まった。
御坂美琴がようやく作り上げてきた、心の柱を徹底的に砕くための戦いが。
「あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
御坂美琴の泣き叫ぶような悲鳴を肴に、テレスティーナ=木原=ライフラインは顔の形が変形するほど凄絶に笑った。
でもこのミサカを頃しても結局『ミサカ』は氏ぬ。困ったね。
ぎゃははははははは!!」
「ぁ、う……」
嘘だ。何か、あるはずだ。どちらも助ける方法が。
こんなの、嘘だ。何か、何か―――……。
「どっちにしろアンタの心はここで氏ぬ。
人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!」
絶望的な言葉と共に、戦闘が始まった。
御坂美琴がようやく作り上げてきた、心の柱を徹底的に砕くための戦いが。
「あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
御坂美琴の泣き叫ぶような悲鳴を肴に、テレスティーナ=木原=ライフラインは顔の形が変形するほど凄絶に笑った。
59: 2013/07/23(火) 23:53:31.58 ID:hNGXiUBs0
・
・
・
一方通行の取った行動はシンプルだった。
木原数多に確実な氏を贈るためにその手を振るう。
血と肉を炸裂させる悪魔の腕を。
(今すぐに氏体決定だクソ野郎!!)
もとより容赦するつもりなどなかったが、その殺意は更に強固な形を得る。
ただの人間である木原数多には反応できない速度。
防げない攻撃。回避できない氏。
そしてその手が木原に触れるか、と言ったところで。
ガンッ!! という衝撃が突然頭部を襲う。
だがこれはおかしい。一方通行は常時『反射』を展開している。
ならばへし折れるのは木原の手のはずなのに。
殴られた、とすぐに分かった。
この痛み、この衝撃。つい最近味わったばかりのものと同じだった。
第七学区の鉄橋で、御坂美琴に力の限り殴られた時と似た感覚だった。
60: 2013/07/23(火) 23:54:05.30 ID:hNGXiUBs0
「ごっ、ぶ!?」
一方通行の『反射』は完璧ではない。
これまでに破られたことだってあるし、それは一方通行本人もよく分かっている。
だが、だからといって。何の力もない木原数多に突破できるわけがない。
『反射』が絶対ではないとはいえ、破った者がいるとはいえ。
だからといって一方通行の『反射』が弱体化するわけではないのだ。
疑問。木原はどのようにして一方通行に攻撃を適用させたのか。
第一位の頭脳を以ってしても答えは見つからなかった。
以前の一方通行ならば。『反射』を突破された事実に動揺し、致命的な隙を晒していたかもしれない。
だが今は違う。そこを超えられた経験もあるし、殴られたこともある。
だから一方通行は決してパニックにまでは陥らず、倒れることもなかった。
そもそもが、木原数多の拳は軽かった。
単純な威力でいえば木原の方が上だっただろう。
衝撃の強さでいえば木原の方が勝っていただろう。
だが、それでも。
木原数多の拳は、鉄橋でもらった御坂美琴の拳に比すればどうしても見劣りした。
「ぎゃははははは!! いつまで最強気取ってやがんだ、このクソガキィ!!」
続けて木原に猛烈に蹴り飛ばされ、一方通行が倒れこむ。
どうやって『反射』を無効化しているのか。考えられるのは、
「どうしたよ? 鼻血が出てんぜ? みっともねぇ」
「オマエ……まさか自分の体に、能力を開発……」
的外れな回答をする一方通行がおかしかったのか、木原は盛大に笑った。
一方通行の『反射』は完璧ではない。
これまでに破られたことだってあるし、それは一方通行本人もよく分かっている。
だが、だからといって。何の力もない木原数多に突破できるわけがない。
『反射』が絶対ではないとはいえ、破った者がいるとはいえ。
だからといって一方通行の『反射』が弱体化するわけではないのだ。
疑問。木原はどのようにして一方通行に攻撃を適用させたのか。
第一位の頭脳を以ってしても答えは見つからなかった。
以前の一方通行ならば。『反射』を突破された事実に動揺し、致命的な隙を晒していたかもしれない。
だが今は違う。そこを超えられた経験もあるし、殴られたこともある。
だから一方通行は決してパニックにまでは陥らず、倒れることもなかった。
そもそもが、木原数多の拳は軽かった。
単純な威力でいえば木原の方が上だっただろう。
衝撃の強さでいえば木原の方が勝っていただろう。
だが、それでも。
木原数多の拳は、鉄橋でもらった御坂美琴の拳に比すればどうしても見劣りした。
「ぎゃははははは!! いつまで最強気取ってやがんだ、このクソガキィ!!」
続けて木原に猛烈に蹴り飛ばされ、一方通行が倒れこむ。
どうやって『反射』を無効化しているのか。考えられるのは、
「どうしたよ? 鼻血が出てんぜ? みっともねぇ」
「オマエ……まさか自分の体に、能力を開発……」
的外れな回答をする一方通行がおかしかったのか、木原は盛大に笑った。
61: 2013/07/23(火) 23:54:33.33 ID:hNGXiUBs0
「く、ははっはははははは!! 違げぇ違げぇ。そうじゃねえよ。
そういうのはモルモットの仕事だろうが。なんで俺がそんな真似しなきゃいけねぇんだ。
んなことしなくてもテメェ一人潰すのに苦労なんかしねぇんだよ。
誰がそのつまんねー力を発現させてやったと思ってんだぁ!?」
楽しそうに木原は笑う。
床に倒れ込んでいる一方通行を見下ろして、ニヤニヤと笑う。
「いやー、害虫駆除は気分が良い! 害虫は害虫らしくさっさと壁の染みにでもなっててくれ。な?」
どういう理屈か木原数多に『反射』は意味を成さない。
だがそれがどうしたというのだ。『一方通行』という力に変化はないのだ。
たとえその防御壁を突き崩されようと、一方通行の手札はまだまだある。
「ナメ、てンじゃ……」
無風状態の室内に僅かな気流の乱れ。
それは一瞬で莫大な戦乱となり、圧倒的な暴虐の牙を剥く。
明らかな指向性を持った大気の砲弾は、風速一二〇メートル、竜巻としても最高のM7クラス。
何もかもを根こそぎ破壊し尽すそれを一方通行は躊躇いなく木原に放つ。
「……ねェぞ三下がァァァああああああ!!」
局地的な嵐が吹き荒れる。
だがその烈風の槍が完全に力を得る前に、
「駄目なんだよなぁ」
ピーッ、と軽い音が鳴り響く。
そんな程度の雑音で必殺だったはずの暴風があっさりと四散していく。
『反射』を殺されたことはあっても、こんなことは今まで一度もなかった。
一方通行は間抜けなほどに呆然としていた。
「テメェの能力はベクトルの計算式によって成立してる。
ならそいつを乱しちまえばいい。だから風を操んのも無駄なんだわ」
そういうのはモルモットの仕事だろうが。なんで俺がそんな真似しなきゃいけねぇんだ。
んなことしなくてもテメェ一人潰すのに苦労なんかしねぇんだよ。
誰がそのつまんねー力を発現させてやったと思ってんだぁ!?」
楽しそうに木原は笑う。
床に倒れ込んでいる一方通行を見下ろして、ニヤニヤと笑う。
「いやー、害虫駆除は気分が良い! 害虫は害虫らしくさっさと壁の染みにでもなっててくれ。な?」
どういう理屈か木原数多に『反射』は意味を成さない。
だがそれがどうしたというのだ。『一方通行』という力に変化はないのだ。
たとえその防御壁を突き崩されようと、一方通行の手札はまだまだある。
「ナメ、てンじゃ……」
無風状態の室内に僅かな気流の乱れ。
それは一瞬で莫大な戦乱となり、圧倒的な暴虐の牙を剥く。
明らかな指向性を持った大気の砲弾は、風速一二〇メートル、竜巻としても最高のM7クラス。
何もかもを根こそぎ破壊し尽すそれを一方通行は躊躇いなく木原に放つ。
「……ねェぞ三下がァァァああああああ!!」
局地的な嵐が吹き荒れる。
だがその烈風の槍が完全に力を得る前に、
「駄目なんだよなぁ」
ピーッ、と軽い音が鳴り響く。
そんな程度の雑音で必殺だったはずの暴風があっさりと四散していく。
『反射』を殺されたことはあっても、こんなことは今まで一度もなかった。
一方通行は間抜けなほどに呆然としていた。
「テメェの能力はベクトルの計算式によって成立してる。
ならそいつを乱しちまえばいい。だから風を操んのも無駄なんだわ」
62: 2013/07/23(火) 23:55:02.02 ID:hNGXiUBs0
ガンッ!! と金槌で殴られたような衝撃。
顎を蹴り飛ばされた一方通行の体が僅かに床から離れた。
木原が持っているのは笑い袋のような小さなもの。
どうやら押すと音が鳴る仕組みらしく、あんなちっぽけなものに己の力を封じられていると思うと情けなくなった。
「ただの『反射』に比べて『制御』はより複雑な演算を必要とする。
プログラムのコードと同じだな。処理する量が多ければ多いほど、バグは発生しやすくなる。
勿論、人為的な介入もな。だからテメェの演算式の氏角に入り込む波と方向性を持った音波を放ちゃあ全部ジャミングできんだよ」
とはいえ、こんなものを作れるのは木原数多ただ一人だ。
誰よりも一方通行を知り尽くしているからこそ、その特徴や氏角を突くことができる。
「だから氏んどけって、な?」
またも衝撃。木原の攻撃は面白いほどに『反射』を潜り抜けてくる。
風の制御を崩されるのは理解できる。だがこれはどうやっているのか全く想像もできない。
「がっ、は……っ!! オマ、エ、どォやって……!!」
「んー? そんなに自慢の『反射』が通用しないのが不思議か?
別につまんねえタネだ。要はテメェの『反射』の膜に触れる瞬間に拳を引き戻してるだけだ。
言っちまえば寸止めの要領だな。テメェは戻っていく拳を『反射』して自分から当たりにいってるってわけだ。
分かってくれたかなぁマゾ太くん? ガキの頭にゃ難しかったかぁ!?」
何だそれは、と一方通行は思った。
木原が自分の能力の裏を突いているのは分かる。
だがそれがどういうことなのか、現実問題可能なのか、実感として感じられない。
困惑する一方通行の耳に聞きなれた声が飛び込んできた。
『差し詰め番外個体(ミサカワースト)、と言ったところかな』
そんな声が、突然モニターから聞こえてくる。
少女の声。妹達の声。打ち止めの声。御坂美琴の声。
それに反応して一方通行はモニターにその紅い目を向ける。
そこでは番外個体と名乗る少女と美琴が戦っていた。
顎を蹴り飛ばされた一方通行の体が僅かに床から離れた。
木原が持っているのは笑い袋のような小さなもの。
どうやら押すと音が鳴る仕組みらしく、あんなちっぽけなものに己の力を封じられていると思うと情けなくなった。
「ただの『反射』に比べて『制御』はより複雑な演算を必要とする。
プログラムのコードと同じだな。処理する量が多ければ多いほど、バグは発生しやすくなる。
勿論、人為的な介入もな。だからテメェの演算式の氏角に入り込む波と方向性を持った音波を放ちゃあ全部ジャミングできんだよ」
とはいえ、こんなものを作れるのは木原数多ただ一人だ。
誰よりも一方通行を知り尽くしているからこそ、その特徴や氏角を突くことができる。
「だから氏んどけって、な?」
またも衝撃。木原の攻撃は面白いほどに『反射』を潜り抜けてくる。
風の制御を崩されるのは理解できる。だがこれはどうやっているのか全く想像もできない。
「がっ、は……っ!! オマ、エ、どォやって……!!」
「んー? そんなに自慢の『反射』が通用しないのが不思議か?
別につまんねえタネだ。要はテメェの『反射』の膜に触れる瞬間に拳を引き戻してるだけだ。
言っちまえば寸止めの要領だな。テメェは戻っていく拳を『反射』して自分から当たりにいってるってわけだ。
分かってくれたかなぁマゾ太くん? ガキの頭にゃ難しかったかぁ!?」
何だそれは、と一方通行は思った。
木原が自分の能力の裏を突いているのは分かる。
だがそれがどういうことなのか、現実問題可能なのか、実感として感じられない。
困惑する一方通行の耳に聞きなれた声が飛び込んできた。
『差し詰め番外個体(ミサカワースト)、と言ったところかな』
そんな声が、突然モニターから聞こえてくる。
少女の声。妹達の声。打ち止めの声。御坂美琴の声。
それに反応して一方通行はモニターにその紅い目を向ける。
そこでは番外個体と名乗る少女と美琴が戦っていた。
63: 2013/07/23(火) 23:55:27.46 ID:hNGXiUBs0
いや、その表現は正しくない。
美琴は一切番外個体に手を出していない。
ただ、逃げる。無様に逃げ回っているだけ。
当たり前だ、と一方通行は思う。
あの御坂美琴が、お姉様が妹達に手を出せるわけがない。
もし自分があの立場だったとしても全く同じ行動を取るだろう。
だが対する番外個体には躊躇いがない。
『が、ァァああああああああッ!!』
番外個体の何らかの攻撃を受けたのか、画面の中の美琴が悲鳴をあげる。
だがこれは耐え難い。御坂美琴が、痛みに叫んでいる。
何故だ。何であの優しい妹達の『お姉様』があんな目に遭っているんだ。
(……何かが、)
おかしい。
『おやおや。もしかしてミサカたちのことを守ってあげてるとか思ってんの?
誰も頼んでないっつーの。そもそも一万人も頃しておいてそれでチャラになるって思ってるのが既に傲慢なんだよ。
分かるかなぁ、「お姉様」?』
一方通行の内に生まれた僅かな引っかかり。
その違和感は急速に膨張し、弾けた。
まるで電子レンジで温められた純水が衝撃によって突沸するように。
何故、御坂美琴なんだ。
何故、自分ではないんだ。
“それらの言葉は全て自分に向けられるべきなのに”。
御坂美琴にではなく、自分にだ。
全部全部、自分に叩きつけられるべき悪意だ。
なのにどうして美琴がこんな地獄を経験しなければならない。
美琴は一切番外個体に手を出していない。
ただ、逃げる。無様に逃げ回っているだけ。
当たり前だ、と一方通行は思う。
あの御坂美琴が、お姉様が妹達に手を出せるわけがない。
もし自分があの立場だったとしても全く同じ行動を取るだろう。
だが対する番外個体には躊躇いがない。
『が、ァァああああああああッ!!』
番外個体の何らかの攻撃を受けたのか、画面の中の美琴が悲鳴をあげる。
だがこれは耐え難い。御坂美琴が、痛みに叫んでいる。
何故だ。何であの優しい妹達の『お姉様』があんな目に遭っているんだ。
(……何かが、)
おかしい。
『おやおや。もしかしてミサカたちのことを守ってあげてるとか思ってんの?
誰も頼んでないっつーの。そもそも一万人も頃しておいてそれでチャラになるって思ってるのが既に傲慢なんだよ。
分かるかなぁ、「お姉様」?』
一方通行の内に生まれた僅かな引っかかり。
その違和感は急速に膨張し、弾けた。
まるで電子レンジで温められた純水が衝撃によって突沸するように。
何故、御坂美琴なんだ。
何故、自分ではないんだ。
“それらの言葉は全て自分に向けられるべきなのに”。
御坂美琴にではなく、自分にだ。
全部全部、自分に叩きつけられるべき悪意だ。
なのにどうして美琴がこんな地獄を経験しなければならない。
64: 2013/07/23(火) 23:56:00.42 ID:hNGXiUBs0
「おいおい、どうする正義のヒーロー気取りの一方通行くん?
超電磁砲がテメェの代わりに痛めつけられてんぞ? 代わってやれよ冷てえなぁ」
分かっていた。
自分ではなく美琴が標的にされたのは、目の前でニタニタと笑うこの男の策略だと。
番外個体を一方通行に直接差し向けるより、美琴に差し向けてやる方が一方通行は苦しむ。
それが分かっていたから、木原数多はこの方式を採用した。
「―――ふざけンな」
つまり、美琴は。一方通行を少しでも苦しめたいという木原の考えによってあんな目に遭っている。
見なくてもいいはずの地獄を経験させられている。
『アンタさ、自分が一万頃しの大罪人だってこと理解できてるわけ?』
自分が対象となるべき言葉が美琴に向けられる。
美琴に対してそれらの言葉は筋違いのはずで。
けれどそんなことは関係なく、美琴の心はガリガリと削られていく。
『妹達が殺されるのを止めたければ、ミサカを殺さないと。
でも優しい優しいお姉様はミサカに手を出せないんだっけ?
じゃあどうする? ここで大人しくボコボコにされちゃう?
でもその後に待っているのは現行の全妹達の「処分」だって分かってるよね』
おかしい。決定的に、致命的に歪んでいる。
「なンで、俺じゃねェンだ」
どうして、
「なンで、オリジナルなンだ」
超電磁砲がテメェの代わりに痛めつけられてんぞ? 代わってやれよ冷てえなぁ」
分かっていた。
自分ではなく美琴が標的にされたのは、目の前でニタニタと笑うこの男の策略だと。
番外個体を一方通行に直接差し向けるより、美琴に差し向けてやる方が一方通行は苦しむ。
それが分かっていたから、木原数多はこの方式を採用した。
「―――ふざけンな」
つまり、美琴は。一方通行を少しでも苦しめたいという木原の考えによってあんな目に遭っている。
見なくてもいいはずの地獄を経験させられている。
『アンタさ、自分が一万頃しの大罪人だってこと理解できてるわけ?』
自分が対象となるべき言葉が美琴に向けられる。
美琴に対してそれらの言葉は筋違いのはずで。
けれどそんなことは関係なく、美琴の心はガリガリと削られていく。
『妹達が殺されるのを止めたければ、ミサカを殺さないと。
でも優しい優しいお姉様はミサカに手を出せないんだっけ?
じゃあどうする? ここで大人しくボコボコにされちゃう?
でもその後に待っているのは現行の全妹達の「処分」だって分かってるよね』
おかしい。決定的に、致命的に歪んでいる。
「なンで、俺じゃねェンだ」
どうして、
「なンで、オリジナルなンだ」
65: 2013/07/23(火) 23:57:12.66 ID:hNGXiUBs0
ああして非難されて、地面を這いずって、痛めつけられるべきは自分なのに。
妹達を頃したのは一方通行だ。決して美琴ではない。
むしろ美琴は妹達を懸命に守ろうとしていた。
それらの事実と目の前の光景が、噛み合わない。
『どっちにしろアンタの心はここで氏ぬ。
人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!』
「っハ、ァ、あ、」
掠れたような声が漏れた。
声が震える。全身を貫き頃すような何かが走り抜けた。
「な、ンで、」
その言葉に何の意味があるのだろう。
答えなど既に分かっている。分かりきっていることだった。
それでも、
『あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』
それでも、問わずにはいられない。
鼓膜を打ち、全身に浸透し、精神を壊すほどに揺るがす美琴の悲鳴。
美琴だって守るべき人間なのに、自分と違って絵に描いたようなヒーローなのに。
自分のせいで、またも苦しんでいる。聞いているこっちが壊れてしまうような痛々しい叫びをあげている。
「なンでだよ、木原ァ!!」
そんなこと、分かっているのに。
一方通行は御坂美琴を救えない。代わってやることはできない。
故に一方通行は理不尽に美琴が傷つけられ、精神を抉られ、壊れていくのを黙って見ていることしかできない。
妹達を頃したのは一方通行だ。決して美琴ではない。
むしろ美琴は妹達を懸命に守ろうとしていた。
それらの事実と目の前の光景が、噛み合わない。
『どっちにしろアンタの心はここで氏ぬ。
人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!』
「っハ、ァ、あ、」
掠れたような声が漏れた。
声が震える。全身を貫き頃すような何かが走り抜けた。
「な、ンで、」
その言葉に何の意味があるのだろう。
答えなど既に分かっている。分かりきっていることだった。
それでも、
『あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』
それでも、問わずにはいられない。
鼓膜を打ち、全身に浸透し、精神を壊すほどに揺るがす美琴の悲鳴。
美琴だって守るべき人間なのに、自分と違って絵に描いたようなヒーローなのに。
自分のせいで、またも苦しんでいる。聞いているこっちが壊れてしまうような痛々しい叫びをあげている。
「なンでだよ、木原ァ!!」
そんなこと、分かっているのに。
一方通行は御坂美琴を救えない。代わってやることはできない。
故に一方通行は理不尽に美琴が傷つけられ、精神を抉られ、壊れていくのを黙って見ていることしかできない。
66: 2013/07/23(火) 23:57:39.80 ID:hNGXiUBs0
そもそもが。
その悪夢のような光景を一方通行に見せ付けるために、木原は番外個体を美琴に差し向けたのだから。
そこにはテレスティーナ=木原=ライフラインとの考えの一致、『木原』二人分の狂気があって。
「さぁなぁ。知らねえよんなこと。まあ超電磁砲は」
全てを仕組んだ木原は楽しそうに、愉しそうに笑って。
「―――運でも悪かったんじゃねぇの?」
そう答えるのだった。
そしてその瞬間。
一方通行の中で何かが決定的に弾けた。
こいつは、こいつだけは、絶対に、何があっても、何と引き換えにしてでも。
「……ふッざけンじゃねェぞ、木原ァァァァァあああああああああああああああああああッ!!!!!!」
コロス。
その悪夢のような光景を一方通行に見せ付けるために、木原は番外個体を美琴に差し向けたのだから。
そこにはテレスティーナ=木原=ライフラインとの考えの一致、『木原』二人分の狂気があって。
「さぁなぁ。知らねえよんなこと。まあ超電磁砲は」
全てを仕組んだ木原は楽しそうに、愉しそうに笑って。
「―――運でも悪かったんじゃねぇの?」
そう答えるのだった。
そしてその瞬間。
一方通行の中で何かが決定的に弾けた。
こいつは、こいつだけは、絶対に、何があっても、何と引き換えにしてでも。
「……ふッざけンじゃねェぞ、木原ァァァァァあああああああああああああああああああッ!!!!!!」
コロス。
77: 2013/07/25(木) 23:15:43.31 ID:iYGphvCZ0
かつてない苦境。
78: 2013/07/25(木) 23:16:29.10 ID:iYGphvCZ0
何が起きたのか分からなかった。
ただ気がついたら『未元物質』の白い翼は完全に消滅していた。
木原病理が何かをしたことは理解できる。
だが一体どんな方法を使ったのか、どんな科学が根付いているのかが分からない。
「では諦めてもらいましょうか」
一体どうやって収納していたのか、車椅子の背もたれから突然ギミックが飛び出した。
軽機関銃と人間の腕を丸々飲み込むほどの大口径散弾銃。
その銃器の側面にはそれぞれこんな文字列が印字されていた。
『Made_in_KIHARA』
その文字があるかないかだけで、その兵器の恐ろしさは天と地だ。
たとえただのスタンガンであっても、それが『木原』製であるなら本気で警戒すべきなのだ。
ドガドガドガドガッ!! という爆音。銃自体が内から弾けるのではと思えるほどの銃撃。
それらは無慈悲に垣根帝督に食らいつき、鮮血の花を鮮やかに咲かせるはずだった。
だがその瞬間に白いのっぺりとした物質が盾のように出現。
銃弾を全て防ぎ、垣根を鉛球の雨から守り抜く。
しかしそれも一瞬のこと。すぐにその『未元物質』は虫に食われるように消滅していった。
「クッソが……!!」
かつてない出来事に垣根は焦燥を隠せない。
珍しく、本当に珍しく、垣根帝督は本気で焦っていた。
いくら垣根が木原病理を頃したいと思っていても、現実問題としてこのままでは逆に殺される。
氏ぬにしてもこれ以上あの女の筋書き通りになってやるのは御免だった。
ただ気がついたら『未元物質』の白い翼は完全に消滅していた。
木原病理が何かをしたことは理解できる。
だが一体どんな方法を使ったのか、どんな科学が根付いているのかが分からない。
「では諦めてもらいましょうか」
一体どうやって収納していたのか、車椅子の背もたれから突然ギミックが飛び出した。
軽機関銃と人間の腕を丸々飲み込むほどの大口径散弾銃。
その銃器の側面にはそれぞれこんな文字列が印字されていた。
『Made_in_KIHARA』
その文字があるかないかだけで、その兵器の恐ろしさは天と地だ。
たとえただのスタンガンであっても、それが『木原』製であるなら本気で警戒すべきなのだ。
ドガドガドガドガッ!! という爆音。銃自体が内から弾けるのではと思えるほどの銃撃。
それらは無慈悲に垣根帝督に食らいつき、鮮血の花を鮮やかに咲かせるはずだった。
だがその瞬間に白いのっぺりとした物質が盾のように出現。
銃弾を全て防ぎ、垣根を鉛球の雨から守り抜く。
しかしそれも一瞬のこと。すぐにその『未元物質』は虫に食われるように消滅していった。
「クッソが……!!」
かつてない出来事に垣根は焦燥を隠せない。
珍しく、本当に珍しく、垣根帝督は本気で焦っていた。
いくら垣根が木原病理を頃したいと思っていても、現実問題としてこのままでは逆に殺される。
氏ぬにしてもこれ以上あの女の筋書き通りになってやるのは御免だった。
79: 2013/07/25(木) 23:17:48.69 ID:iYGphvCZ0
第三次製造計画をきっかけに始まった第一位、第二位、第三位の学園都市トップスリーの超能力者と『木原』の戦い。
双方共に科学を極め、科学の頂点に立つ者たち。違った形で科学を統べる怪物。
その戦いは第一位も第二位も第三位も、『木原』に圧倒されるという最悪の展開を迎えていた。
(やはり能力は消えるか。イイね、ずいぶんつまらない展開になってきやがった)
咄嗟に垣根は隠し持っていた銃を抜く。
念のためのものだったが、まさか本当に使うことになるとは思ってもいなかった。
木原病理の銃撃をゴミを溜めておくためだろうタンクの陰に滑り込むことで回避。
入れ替わるように引き金を引く。狙い違わず木腹病理へと突き進む銃弾は、しかしギャリギャリギャリィ!! という金属音と共に無効化された。
木原病理の車椅子があり得ない風に回転した。
そこまでは分かった。けれどその先何が起きたのか分からない。
あまりにあの車椅子がぶっ飛びすぎていて、垣根の想像が及ばない。
「あらあらまあまあ。すっかり崖っぷちみたいですねぇ」
「クソ野郎が。言っとくが降参してやる理由なんて微塵もねえぞ」
考える。今自分が劣勢に追い込まれているのは『未元物質』を使えないせいだ。
それさえ取り戻せば木原病理など瞬時に五回はバラバラに出来る。
だからまずはそこだ。木原病理が『未元物質』を封じ込められているのには必ず科学的理由がある。
木原病理は魔法使いなどではない。科学者だ。ならば自分にもそれは解明できるはずだ。
(考えろ)
木原病理の車椅子の足が蜘蛛の足のように複数に分かれる。
もはや何でもありかと言いたくなるその車椅子で木原病理は飛び掛ってきた。
双方共に科学を極め、科学の頂点に立つ者たち。違った形で科学を統べる怪物。
その戦いは第一位も第二位も第三位も、『木原』に圧倒されるという最悪の展開を迎えていた。
(やはり能力は消えるか。イイね、ずいぶんつまらない展開になってきやがった)
咄嗟に垣根は隠し持っていた銃を抜く。
念のためのものだったが、まさか本当に使うことになるとは思ってもいなかった。
木原病理の銃撃をゴミを溜めておくためだろうタンクの陰に滑り込むことで回避。
入れ替わるように引き金を引く。狙い違わず木腹病理へと突き進む銃弾は、しかしギャリギャリギャリィ!! という金属音と共に無効化された。
木原病理の車椅子があり得ない風に回転した。
そこまでは分かった。けれどその先何が起きたのか分からない。
あまりにあの車椅子がぶっ飛びすぎていて、垣根の想像が及ばない。
「あらあらまあまあ。すっかり崖っぷちみたいですねぇ」
「クソ野郎が。言っとくが降参してやる理由なんて微塵もねえぞ」
考える。今自分が劣勢に追い込まれているのは『未元物質』を使えないせいだ。
それさえ取り戻せば木原病理など瞬時に五回はバラバラに出来る。
だからまずはそこだ。木原病理が『未元物質』を封じ込められているのには必ず科学的理由がある。
木原病理は魔法使いなどではない。科学者だ。ならば自分にもそれは解明できるはずだ。
(考えろ)
木原病理の車椅子の足が蜘蛛の足のように複数に分かれる。
もはや何でもありかと言いたくなるその車椅子で木原病理は飛び掛ってきた。
80: 2013/07/25(木) 23:18:33.15 ID:iYGphvCZ0
「どう考えても車椅子に座ってる野郎の動きじゃねえな、っおい!!」
その場から身を投げるようにして離れる。
その直後、一秒前まで垣根がいた位置に車椅子に乗った木原病理が降り立った。
ガン!! という嫌な音がその衝撃を教えている。
「その辺は日本の文化でしょう。そもそもここは学園都市ですよ?」
木原病理の砲撃を『未元物質』で防御、舞い上がった煙に紛れる形で的確に頭を狙って発砲。
しかし鳴り響いた金属音で木原病理の命を奪えなかったことを悟る。
(気になるのは『未元物質』が使えないわけじゃあねえってこと。
使用そのものは出来る。ただどういうわけかすぐに『未元物質』が消滅する)
粉塵が視界を遮っている内に垣根は物陰に身を潜める。
今はとにかく時間を稼ぎたい。
木原病理の策を見抜き打ち破るための時間を。
(能力自体は使えるってことはキャパシティダウンやAIMジャマーとはまるで別物だな。
ああいった類の物なら使用そのものを封じようとするはず。
だがこれは違う。『未元物質』が消えるんだ。まるで何かに吸い取られるみてえに)
木原病理は垣根を探しているのか、車椅子の立てる金属音と木原病理の声だけが垣根の耳を打つ。
やはりあの車椅子にも流石にレーダー機能はついていないらしい。
(何だ。一体どんな仕掛けだ。木原はどんな科学を運用している。
テメェの頭をフル回転させろ。何のための第二位だ)
「かくれんぼですかー? 別に構いませんが普通のかくれんぼだとつまらないですよねぇ。
ですので少々斬新な探し方をさせてもらいますね」
その場から身を投げるようにして離れる。
その直後、一秒前まで垣根がいた位置に車椅子に乗った木原病理が降り立った。
ガン!! という嫌な音がその衝撃を教えている。
「その辺は日本の文化でしょう。そもそもここは学園都市ですよ?」
木原病理の砲撃を『未元物質』で防御、舞い上がった煙に紛れる形で的確に頭を狙って発砲。
しかし鳴り響いた金属音で木原病理の命を奪えなかったことを悟る。
(気になるのは『未元物質』が使えないわけじゃあねえってこと。
使用そのものは出来る。ただどういうわけかすぐに『未元物質』が消滅する)
粉塵が視界を遮っている内に垣根は物陰に身を潜める。
今はとにかく時間を稼ぎたい。
木原病理の策を見抜き打ち破るための時間を。
(能力自体は使えるってことはキャパシティダウンやAIMジャマーとはまるで別物だな。
ああいった類の物なら使用そのものを封じようとするはず。
だがこれは違う。『未元物質』が消えるんだ。まるで何かに吸い取られるみてえに)
木原病理は垣根を探しているのか、車椅子の立てる金属音と木原病理の声だけが垣根の耳を打つ。
やはりあの車椅子にも流石にレーダー機能はついていないらしい。
(何だ。一体どんな仕掛けだ。木原はどんな科学を運用している。
テメェの頭をフル回転させろ。何のための第二位だ)
「かくれんぼですかー? 別に構いませんが普通のかくれんぼだとつまらないですよねぇ。
ですので少々斬新な探し方をさせてもらいますね」
81: 2013/07/25(木) 23:21:41.99 ID:iYGphvCZ0
……待て。そういえば木原は何と言っていた)
――『ですが……そんな「未元物質」でさえも、ある一つの性質からは逃れられないんですよ』――
(ある一つの性質? ……『未元物質』のだと)
第二位を誇る頭脳が猛烈に回転する。
あらゆる情報・記憶を引き出し、分類し、振り分ける。
(ある一つの性質。『未元物質』。この世界に存在しない新物質。
『未元物質』はその特性上あり得ない挙動をするが……この世に出現した時点で世界の一部には変わりない。まさか)
一秒を極限まで引き伸ばしたような時間の中で、垣根の頭脳は動き続ける。
少しづつ紐を手繰り寄せていくように、真実へと近づいていく。
辺りには耳を劈くような爆発音。どうやら木原病理が機関銃やら何やらを所構わず乱射しているらしい。
いつここも吹き飛ばされるか分からない中で、尚垣根は思考を止めず、むしろ加速させていく。
垣根帝督。『未元物質』。性質。新物質。木原病理。科学。共通性。分子。
世界の要素。教科書の法則。異物。一方通行。そして垣根帝督の立てていた学園都市への反抗計画。
(―――なるほど)
一つの解答に辿り着いた垣根は笑う。だとしたら木原病理は相当にとんでもないことをしている。
致命的な欠陥とでもいうべきだろうか、それに木原病理はどう対応しているのか。
とはいえその予想は立っている。立っているが、そうだとしたらとてもではないが正気の沙汰ではない。
自分の命を捨てているようなもの。文字通り自殺でしかない。
如何に木原病理といえど、子供たちをモルモット扱いする『木原』がそんなことをするとは思えないが……。
木原病理は垣根の想像を更に超えてイカれていたということだろう。
「掴んだぜ、木原ァ!!」
垣根は身を起こし、辺りに乱射する木原病理の前に躍り出る。
だが問題は解決していない。タネは分かってもそれを打ち破る方法がないからだ。
しかしそれも垣根の想定通りに行けば打開し得る。
木原病理の手品のタネを見破ると同時に、垣根は対応策を考えていた。
―――『未元物質』といえど、素粒子であることに変わりはない。
――『ですが……そんな「未元物質」でさえも、ある一つの性質からは逃れられないんですよ』――
(ある一つの性質? ……『未元物質』のだと)
第二位を誇る頭脳が猛烈に回転する。
あらゆる情報・記憶を引き出し、分類し、振り分ける。
(ある一つの性質。『未元物質』。この世界に存在しない新物質。
『未元物質』はその特性上あり得ない挙動をするが……この世に出現した時点で世界の一部には変わりない。まさか)
一秒を極限まで引き伸ばしたような時間の中で、垣根の頭脳は動き続ける。
少しづつ紐を手繰り寄せていくように、真実へと近づいていく。
辺りには耳を劈くような爆発音。どうやら木原病理が機関銃やら何やらを所構わず乱射しているらしい。
いつここも吹き飛ばされるか分からない中で、尚垣根は思考を止めず、むしろ加速させていく。
垣根帝督。『未元物質』。性質。新物質。木原病理。科学。共通性。分子。
世界の要素。教科書の法則。異物。一方通行。そして垣根帝督の立てていた学園都市への反抗計画。
(―――なるほど)
一つの解答に辿り着いた垣根は笑う。だとしたら木原病理は相当にとんでもないことをしている。
致命的な欠陥とでもいうべきだろうか、それに木原病理はどう対応しているのか。
とはいえその予想は立っている。立っているが、そうだとしたらとてもではないが正気の沙汰ではない。
自分の命を捨てているようなもの。文字通り自殺でしかない。
如何に木原病理といえど、子供たちをモルモット扱いする『木原』がそんなことをするとは思えないが……。
木原病理は垣根の想像を更に超えてイカれていたということだろう。
「掴んだぜ、木原ァ!!」
垣根は身を起こし、辺りに乱射する木原病理の前に躍り出る。
だが問題は解決していない。タネは分かってもそれを打ち破る方法がないからだ。
しかしそれも垣根の想定通りに行けば打開し得る。
木原病理の手品のタネを見破ると同時に、垣根は対応策を考えていた。
―――『未元物質』といえど、素粒子であることに変わりはない。
82: 2013/07/25(木) 23:22:26.42 ID:iYGphvCZ0
・
・
・
「アハ、ハハハハハハハハ!!」
愉快そうに高笑いしながら番外個体は美琴を攻め立てる。
対する美琴は一切の抵抗をしない。できない。
番外個体に蹴り飛ばされた美琴がごろごろと床を転がった。
だがおかしい。番外個体は明らかに手加減をしているが、それでも蹴りの威力が高すぎた。
妹達は軍用クローンだ。大人の男と比べても身体能力は極めて高い。
しかしそれだけでは説明できないほどに力が強い。
加減されている状態でも一撃食らうだけで胃の中のものが吐き出されそうになる。
何かが頭にひっかかる。
自分はこれを知っている、ような気がした。いつか、どこかで、見たような―――。
――『……!! 酷い怪我……。ちょっと、大丈夫!? っていうか、もしかして……これ、アンタがやったの?』――
頭にいつかの記憶が蘇る。やはり美琴は知っている。
――『ああ、ちょっと鉄拳制裁してやっただけだ。
後はソイツの自滅だぜ? なにせ「発条包帯」なんてモン使ったんだからな』――
83: 2013/07/25(木) 23:23:13.17 ID:iYGphvCZ0
(発条、包帯……!!)
聞き覚えのあるその単語。一体どんなものだっただろうか。
美琴は記憶を再度探る。
――『「発条包帯」って何よ?』――
――『駆動鎧みてえに身体能力を増幅させるモンだ。
だが小型化の代償として、駆動鎧にはある安全装置がねえから体に負荷がかかるんだよ、こいつみてえにな』――
「……待って、アンタまさか、『発条包帯』を……っ!?」
「へえ、知ってるんだ。そうだよ、ミサカは『発条包帯』を装備してる」
それは美琴対策の一つだった。
だが一番の目的は違う。それを使用している最大の理由はもっと別のところにある。
「なんで、そんなの……っ!! だってあれは体に大きな負担がかかるって……!!」
「うん、そうだね。確かにさっきから体がギシギシ言ってるし、痛くて痛くてたまらないよ」
御坂美琴と番外個体では状況は五分ではないし、互いの勝利条件も全く違う。
美琴は番外個体を一切傷つけずにこの状況を切り抜け、テレスティーナを倒し、第三次製造計画を停止させなければならない。
対して番外個体側の勝利条件は至ってシンプル。美琴を破壊すれば、それだけで勝ちだ。
「そんな……ッ!!」
何も美琴本人を痛めつけることだけが方法ではない。
御坂美琴という人間の性質上、“番外個体は自分自身を傷つけることでも美琴にダメージを与えられる”。
それだけ。ほんの僅かでも美琴に与える苦しみを増やすためだけに、テレスティーナは『発条包帯』を装備させていた。
「つーかさ、アンタ一体何がしたいわけ? ミサカたちを守りたいんだっけ?
全くお姉様は冗談が上手いね。え、冗談じゃない? あっそうなの。ぎゃは」
聞き覚えのあるその単語。一体どんなものだっただろうか。
美琴は記憶を再度探る。
――『「発条包帯」って何よ?』――
――『駆動鎧みてえに身体能力を増幅させるモンだ。
だが小型化の代償として、駆動鎧にはある安全装置がねえから体に負荷がかかるんだよ、こいつみてえにな』――
「……待って、アンタまさか、『発条包帯』を……っ!?」
「へえ、知ってるんだ。そうだよ、ミサカは『発条包帯』を装備してる」
それは美琴対策の一つだった。
だが一番の目的は違う。それを使用している最大の理由はもっと別のところにある。
「なんで、そんなの……っ!! だってあれは体に大きな負担がかかるって……!!」
「うん、そうだね。確かにさっきから体がギシギシ言ってるし、痛くて痛くてたまらないよ」
御坂美琴と番外個体では状況は五分ではないし、互いの勝利条件も全く違う。
美琴は番外個体を一切傷つけずにこの状況を切り抜け、テレスティーナを倒し、第三次製造計画を停止させなければならない。
対して番外個体側の勝利条件は至ってシンプル。美琴を破壊すれば、それだけで勝ちだ。
「そんな……ッ!!」
何も美琴本人を痛めつけることだけが方法ではない。
御坂美琴という人間の性質上、“番外個体は自分自身を傷つけることでも美琴にダメージを与えられる”。
それだけ。ほんの僅かでも美琴に与える苦しみを増やすためだけに、テレスティーナは『発条包帯』を装備させていた。
「つーかさ、アンタ一体何がしたいわけ? ミサカたちを守りたいんだっけ?
全くお姉様は冗談が上手いね。え、冗談じゃない? あっそうなの。ぎゃは」
84: 2013/07/25(木) 23:23:55.24 ID:iYGphvCZ0
「―――っ」
倒れている美琴の髪をむんずと掴み、強引に持ち上げる。
髪を引っ張られる強い痛みに美琴は顔を顰めた。
番外個体はそんな美琴の顔に鼻がつきそうなほどに自身の顔を近づけ、呪詛を並べるように吐き捨てる。
「誰も望んでないんだよ、そんなこと。よく考えてみろよ。
一万人もミサカたちを頃しておいて、全ての元凶の癖に何ほざいてんの?
結局アンタはそうやって自分に酔ってるだけだよ。自分が楽になりたいだけ。
本当に分かってんのかな。一万人が氏んだんだよ、アンタのせいで」
「ぁ、あぁぁぁあぁぁ、ぅううう……」
何よりも。これまでに経験した何よりも、それは御坂美琴を焼いた。
赤の他人とは違う、他ならぬ妹達から叩きつけられる拒絶と怨嗟。
ある程度の関係は築けていたと思っていたからこそ、少女の心は悲鳴をあげる。
「自己満足と自己陶酔を押し付けないでくれるかな、お姉様。
オXXーは一人で勝手にやってればいいよ。結局さ、許されるはずなんてないんだよ。
アンタは一万頃しの大罪人なんだから。諸悪の根源なんだから。
ある意味では一方通行よりもお姉様の方がよっぽど悪党だよね」
その言葉に意味は必要ない。
ただ適当に、それこそ何でもいい。
文脈がおかしくても、筋が通っていなくても、多少事実と食い違いがあっても。
番外個体がそういった言葉を連ねるだけで確実に美琴の心と精神は磨耗していく。
御坂美琴が勝手にその言葉に意味を付与し、形を与え、自分を責めるから。
「あぁぁあぁあぁぁぁ、ぅあぁぁぁああ……」
ポロポロと美琴は両目から透明の雫を流す。
もはや美琴にまともな思考能力は残っていなかった。
番外個体から否定の言葉が出てくる度に美琴の根幹部分を支える柱にヒビが入っていく。
今の美琴は超能力者でもなく、超電磁砲でもなく、お姉様でもなく。
ただの歳相応の、未成熟な精神が剥き出しになった中学生でしかなかった。
倒れている美琴の髪をむんずと掴み、強引に持ち上げる。
髪を引っ張られる強い痛みに美琴は顔を顰めた。
番外個体はそんな美琴の顔に鼻がつきそうなほどに自身の顔を近づけ、呪詛を並べるように吐き捨てる。
「誰も望んでないんだよ、そんなこと。よく考えてみろよ。
一万人もミサカたちを頃しておいて、全ての元凶の癖に何ほざいてんの?
結局アンタはそうやって自分に酔ってるだけだよ。自分が楽になりたいだけ。
本当に分かってんのかな。一万人が氏んだんだよ、アンタのせいで」
「ぁ、あぁぁぁあぁぁ、ぅううう……」
何よりも。これまでに経験した何よりも、それは御坂美琴を焼いた。
赤の他人とは違う、他ならぬ妹達から叩きつけられる拒絶と怨嗟。
ある程度の関係は築けていたと思っていたからこそ、少女の心は悲鳴をあげる。
「自己満足と自己陶酔を押し付けないでくれるかな、お姉様。
オXXーは一人で勝手にやってればいいよ。結局さ、許されるはずなんてないんだよ。
アンタは一万頃しの大罪人なんだから。諸悪の根源なんだから。
ある意味では一方通行よりもお姉様の方がよっぽど悪党だよね」
その言葉に意味は必要ない。
ただ適当に、それこそ何でもいい。
文脈がおかしくても、筋が通っていなくても、多少事実と食い違いがあっても。
番外個体がそういった言葉を連ねるだけで確実に美琴の心と精神は磨耗していく。
御坂美琴が勝手にその言葉に意味を付与し、形を与え、自分を責めるから。
「あぁぁあぁあぁぁぁ、ぅあぁぁぁああ……」
ポロポロと美琴は両目から透明の雫を流す。
もはや美琴にまともな思考能力は残っていなかった。
番外個体から否定の言葉が出てくる度に美琴の根幹部分を支える柱にヒビが入っていく。
今の美琴は超能力者でもなく、超電磁砲でもなく、お姉様でもなく。
ただの歳相応の、未成熟な精神が剥き出しになった中学生でしかなかった。
85: 2013/07/25(木) 23:27:39.79 ID:iYGphvCZ0
「みっともなく泣いてないでよ。アンタのせいで氏んだ一万のミサカはそうやって泣くこともできなかったんだから」
「―――ッ」
そうだ。九九八二号も、一〇〇三一号も、泣くことなんてできなかった。
そんなことは許されなかった。ただ抗うことすら許されず大口を開けた氏に呑まれていくだけだった。
だから。彼女たちの氏の原因を作った自分に。
一万人を頃した自分に。一万人を救えなかった自分に。
何もかも全ての元凶である自分に。……涙を流す権利なんて、ありはしない。
「だからさ、逃げ回ってよ。無様に命乞いしてよ」
番外個体の言葉を受け止めて律儀に涙を止めた美琴を見て、番外個体はその顔を残虐に歪める。
御坂美琴を破壊するためだけに生み出された少女は、美琴を砕くことに躊躇いを覚えない。
そのためだけに作られた以上、迷う必要などありはしない。
「アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上頃してきたんでしょう?」
ずぶりと。胸を深々と剣で刺し貫かれるようだった。
赤の他人から無責任に投げかけられる言葉とは意味も重みも全く違う。
何も言い返せない。的確に真実を突いていた。
(そう、私はあの子たちを万も頃した―――)
「普通の人間が普通に氏んでいくんじゃなくてさ。
最低でも一万倍は人権を踏み躙らないと帳尻が合わない。
言っておくけどこれは最低ラインだよ。利子も含めば三倍返しじゃ済まないからね」
(だからそんな私が普通に生きていることが、おかしい)
「ねえ。そもそもおかしいと思わなかったの?
何でミサカたちはお姉様のせいで一万人も、一万回も氏んだのに、誰もアンタを責めないんだと思う?
答えは簡単。ミサカたちは聖人君子じゃない。清く正しいお姫様でもない。
……自分の意思で恨まなかったんじゃない。ただそれを理解し表現するだけの感情が、その処理方法が芽生えていなかっただけ」
「―――ッ」
そうだ。九九八二号も、一〇〇三一号も、泣くことなんてできなかった。
そんなことは許されなかった。ただ抗うことすら許されず大口を開けた氏に呑まれていくだけだった。
だから。彼女たちの氏の原因を作った自分に。
一万人を頃した自分に。一万人を救えなかった自分に。
何もかも全ての元凶である自分に。……涙を流す権利なんて、ありはしない。
「だからさ、逃げ回ってよ。無様に命乞いしてよ」
番外個体の言葉を受け止めて律儀に涙を止めた美琴を見て、番外個体はその顔を残虐に歪める。
御坂美琴を破壊するためだけに生み出された少女は、美琴を砕くことに躊躇いを覚えない。
そのためだけに作られた以上、迷う必要などありはしない。
「アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上頃してきたんでしょう?」
ずぶりと。胸を深々と剣で刺し貫かれるようだった。
赤の他人から無責任に投げかけられる言葉とは意味も重みも全く違う。
何も言い返せない。的確に真実を突いていた。
(そう、私はあの子たちを万も頃した―――)
「普通の人間が普通に氏んでいくんじゃなくてさ。
最低でも一万倍は人権を踏み躙らないと帳尻が合わない。
言っておくけどこれは最低ラインだよ。利子も含めば三倍返しじゃ済まないからね」
(だからそんな私が普通に生きていることが、おかしい)
「ねえ。そもそもおかしいと思わなかったの?
何でミサカたちはお姉様のせいで一万人も、一万回も氏んだのに、誰もアンタを責めないんだと思う?
答えは簡単。ミサカたちは聖人君子じゃない。清く正しいお姫様でもない。
……自分の意思で恨まなかったんじゃない。ただそれを理解し表現するだけの感情が、その処理方法が芽生えていなかっただけ」
86: 2013/07/25(木) 23:28:28.27 ID:iYGphvCZ0
しかし。これはテレスティーナ=木原=ライフラインが用意した罠だ。
こうして美琴を追い詰めて、壊すことが目的なのだ。
先ほどからテレスティーナ本人ではなく番外個体が美琴をいたぶっているのは、自分がやるよりその方が美琴を苦しめられるとテレスティーナが分かっているからだ。
本当は自分の手で嬲りたいだろうに、それを抑えてまで美琴を苦しめたい。
そんな腐った思考。テレスティーナの狂ったような笑いだけはずっと聞こえている。
これらは全て演出。用意された言葉。だからいちいち真に受ける必要はない。
だが。どうしたって、何をしたって、美琴は番外個体の悪意を無視することができない。
番外個体の言葉は全て正しい。美琴のせいで『実験』が始まり、美琴のせいで妹達が作られ、美琴のせいで妹達が氏んだ。
そんな彼女たち。多少違えど妹達の一人である番外個体の言葉を無視することは、できない。
それは彼女の持つ当然の権利だから。
美琴が一方通行を糾弾したように、妹達には御坂美琴を糾弾する権利と理由がある。
だから美琴は耳を塞いではいけない。どんな悪意をぶつけられても、全てを受け止める義務がある。
自分のせいで命を弄ばれた妹達から『逃げる』ことは許されない。
絶対に自分の楽な方向へ流れてはいけないのだ。
だから美琴は軋む心を、悲鳴をあげる心を押さえつけて番外個体の言葉に耳を向ける。
たとえその行動が自身を壊すものだとしても。
「ぎゃははははは!! ミサカたちは少しずつ『人間らしく』なってきている!!
自称『姉』らしいお姉様も知ってるんじゃない? 以前と比べれば格段に感情を手に入れていることに」
当然だ、と美琴は思う。
もともと妹達は『人間』だ。誰がなんと言おうと美琴はそう考える。
御坂妹も感情豊かになってきているし、一九〇九〇号は更に感情豊かだった。
打ち止めに至っては天真爛漫そのもので人間以外の何物でもない。
こうして美琴を追い詰めて、壊すことが目的なのだ。
先ほどからテレスティーナ本人ではなく番外個体が美琴をいたぶっているのは、自分がやるよりその方が美琴を苦しめられるとテレスティーナが分かっているからだ。
本当は自分の手で嬲りたいだろうに、それを抑えてまで美琴を苦しめたい。
そんな腐った思考。テレスティーナの狂ったような笑いだけはずっと聞こえている。
これらは全て演出。用意された言葉。だからいちいち真に受ける必要はない。
だが。どうしたって、何をしたって、美琴は番外個体の悪意を無視することができない。
番外個体の言葉は全て正しい。美琴のせいで『実験』が始まり、美琴のせいで妹達が作られ、美琴のせいで妹達が氏んだ。
そんな彼女たち。多少違えど妹達の一人である番外個体の言葉を無視することは、できない。
それは彼女の持つ当然の権利だから。
美琴が一方通行を糾弾したように、妹達には御坂美琴を糾弾する権利と理由がある。
だから美琴は耳を塞いではいけない。どんな悪意をぶつけられても、全てを受け止める義務がある。
自分のせいで命を弄ばれた妹達から『逃げる』ことは許されない。
絶対に自分の楽な方向へ流れてはいけないのだ。
だから美琴は軋む心を、悲鳴をあげる心を押さえつけて番外個体の言葉に耳を向ける。
たとえその行動が自身を壊すものだとしても。
「ぎゃははははは!! ミサカたちは少しずつ『人間らしく』なってきている!!
自称『姉』らしいお姉様も知ってるんじゃない? 以前と比べれば格段に感情を手に入れていることに」
当然だ、と美琴は思う。
もともと妹達は『人間』だ。誰がなんと言おうと美琴はそう考える。
御坂妹も感情豊かになってきているし、一九〇九〇号は更に感情豊かだった。
打ち止めに至っては天真爛漫そのもので人間以外の何物でもない。
87: 2013/07/25(木) 23:31:51.02 ID:iYGphvCZ0
だから美琴はそれを喜ばしく感じていた。
妹達が自分を手に入れていることに、人間らしく成長していることに。
それはとても素晴らしいことで、
「でも『人間らしく』ってのは何もプラスにだけ働くものじゃない。
感情を獲得するにつれ、直に多くのミサカが正当な復讐の権利について考えるようになる!!
憎悪に気付くようになる!! 誰のせいで自分たちがこんな目に遭ったのか、誰のせいでクローンなんて歪な形で生まれてしまったのか。
所詮アンタがやってることは矮小な自己満足。それにミサカたちの憎悪を減らす効果は、全くない」
「…………」
美琴はもう涙を流すことはなかった。
そんな機能はまともに働いていなかった。自分で抑えてしまっていた。
妹達に恨まれる。それはとても哀しいことだ。だけど、
(……当然よね。あの子たちは私が頃したんだから)
やがて妹達は御坂美琴への抑えきれぬ憎悪に気付き、復讐を始めるのだろう。
その行為はどこまでも正当なもので、当然の帰結だと思う。
「この先アンタは全てのミサカから『人間らしく』恨みを抱かれ、命を狙われる。
それが成功してアンタが氏ぬか、それともアンタが全部返り討ちにして皆頃しにするか。
今この場でアンタがこのミサカに殺され、全ての妹達が処分されるか。
それともアンタがこのミサカを頃すか。でもそうしてもそこで終わらない。このミサカが氏んでも次が来るよ。
いつかそれに耐えかねて殺されるか、やっぱり返り討ちにして皆頃しにしちゃうのか」
選択肢自体は多数ある。
「頃すにしても簡単には行かないと思うよ?
お姉様ほどじゃないけどミサカだって四億ボルトくらいまでなら何とかなるんだし。
大体大能力者の最上位クラスになるのかな、お姉様の半分以下でも」
だがどれを選んでも行き着く場所はたった一つしかない。
妹達が自分を手に入れていることに、人間らしく成長していることに。
それはとても素晴らしいことで、
「でも『人間らしく』ってのは何もプラスにだけ働くものじゃない。
感情を獲得するにつれ、直に多くのミサカが正当な復讐の権利について考えるようになる!!
憎悪に気付くようになる!! 誰のせいで自分たちがこんな目に遭ったのか、誰のせいでクローンなんて歪な形で生まれてしまったのか。
所詮アンタがやってることは矮小な自己満足。それにミサカたちの憎悪を減らす効果は、全くない」
「…………」
美琴はもう涙を流すことはなかった。
そんな機能はまともに働いていなかった。自分で抑えてしまっていた。
妹達に恨まれる。それはとても哀しいことだ。だけど、
(……当然よね。あの子たちは私が頃したんだから)
やがて妹達は御坂美琴への抑えきれぬ憎悪に気付き、復讐を始めるのだろう。
その行為はどこまでも正当なもので、当然の帰結だと思う。
「この先アンタは全てのミサカから『人間らしく』恨みを抱かれ、命を狙われる。
それが成功してアンタが氏ぬか、それともアンタが全部返り討ちにして皆頃しにするか。
今この場でアンタがこのミサカに殺され、全ての妹達が処分されるか。
それともアンタがこのミサカを頃すか。でもそうしてもそこで終わらない。このミサカが氏んでも次が来るよ。
いつかそれに耐えかねて殺されるか、やっぱり返り討ちにして皆頃しにしちゃうのか」
選択肢自体は多数ある。
「頃すにしても簡単には行かないと思うよ?
お姉様ほどじゃないけどミサカだって四億ボルトくらいまでなら何とかなるんだし。
大体大能力者の最上位クラスになるのかな、お姉様の半分以下でも」
だがどれを選んでも行き着く場所はたった一つしかない。
88: 2013/07/25(木) 23:33:23.05 ID:iYGphvCZ0
「いずれにしろお姉様の望む甘い未来はやって来ない。
誰もが笑って誰もが望むハッピーエンドなんて存在しない。
仮にそんなものがあったとしても、そこにアンタの居場所なんてない」
言葉と共に靴のつま先が飛んでくる。
腹を中心に何度も何度も蹴り飛ばされながら、美琴は無抵抗だった。
避けようと思えば避けれる。反撃しようと思えば反撃できる。
いくら性能がアップしていようと、所詮は欠陥電気。オリジナルの劣化でしかない。
けれどそういう問題ではない。
そういった行動をしようという思いが欠片も湧いてこない。
決定的に何かが折れかけていた。取り返しのつかないほどに、壊れ始めていた。
どれだけ御坂美琴の精神力が強靭であろうと、彼女が一四歳の中学生であることに変わりはないのだから。
「残念だけど、ミサカの言葉は既に証明されてしまっているよ。
だってこのミサカがそうなんだから。ミサカは他のミサカと違って負の感情を表に出すようになっている。
そういう風に脳内物質の分泌パターンを調整されている。
ネットワークに遍く『お姉様への負の感情』だけを抽出するようになっている。
……もしもミサカたちがお姉様を恨んでいないなら、悪意が表面化するこのミサカもアンタを頃したいと思ったりはしない。
けど実際は違う。このミサカの悪意が妹達がアンタを恨んでいることを証明している。ただそれを表現できないだけ」
負の感情というものはどういうものを指すのだろうか。
誰かを憎む心、誰かを頃したいと思う心。たしかにそれらは明確で分かりやすい負だろう。
だが負の感情とはそれだけではない。もっと小さな負だって存在する。
たとえば嫉妬。たとえば卑屈。
妹達はお姉様のようにはなれない。
お姉様のように強い意思を持って、自由に羽ばたくことなんてできない。
そんな活発で強くて凛々しくて優しいお姉様。
完璧な御坂美琴への、ありとあらゆる全てにおいて自分たちの遥か先を歩くお姉様への嫉妬。
誰もが笑って誰もが望むハッピーエンドなんて存在しない。
仮にそんなものがあったとしても、そこにアンタの居場所なんてない」
言葉と共に靴のつま先が飛んでくる。
腹を中心に何度も何度も蹴り飛ばされながら、美琴は無抵抗だった。
避けようと思えば避けれる。反撃しようと思えば反撃できる。
いくら性能がアップしていようと、所詮は欠陥電気。オリジナルの劣化でしかない。
けれどそういう問題ではない。
そういった行動をしようという思いが欠片も湧いてこない。
決定的に何かが折れかけていた。取り返しのつかないほどに、壊れ始めていた。
どれだけ御坂美琴の精神力が強靭であろうと、彼女が一四歳の中学生であることに変わりはないのだから。
「残念だけど、ミサカの言葉は既に証明されてしまっているよ。
だってこのミサカがそうなんだから。ミサカは他のミサカと違って負の感情を表に出すようになっている。
そういう風に脳内物質の分泌パターンを調整されている。
ネットワークに遍く『お姉様への負の感情』だけを抽出するようになっている。
……もしもミサカたちがお姉様を恨んでいないなら、悪意が表面化するこのミサカもアンタを頃したいと思ったりはしない。
けど実際は違う。このミサカの悪意が妹達がアンタを恨んでいることを証明している。ただそれを表現できないだけ」
負の感情というものはどういうものを指すのだろうか。
誰かを憎む心、誰かを頃したいと思う心。たしかにそれらは明確で分かりやすい負だろう。
だが負の感情とはそれだけではない。もっと小さな負だって存在する。
たとえば嫉妬。たとえば卑屈。
妹達はお姉様のようにはなれない。
お姉様のように強い意思を持って、自由に羽ばたくことなんてできない。
そんな活発で強くて凛々しくて優しいお姉様。
完璧な御坂美琴への、ありとあらゆる全てにおいて自分たちの遥か先を歩くお姉様への嫉妬。
89: 2013/07/25(木) 23:34:21.52 ID:iYGphvCZ0
妹達はクローンだからオリジナルである御坂美琴は超えられない。
たとえクローンが認められ、人間の感情を手に入れても永遠にお姉様の影でしかない。
どれだけ成長してもクローンである事実は変わらないし、御坂旅掛と御坂美鈴の娘ではないことも変わらない。
美琴が時間をかけて築いた人間関係も美琴だけのもので、周囲の人間は妹達を認識すらしていない。
いつまで経っても御坂美琴には勝てない。自分たちは所詮そういう存在。
そんな感情と、自分たちに優しく接してくれる美琴に対してそんな醜い感情を持っているという自己嫌悪。
それは潜在レベルのもので、妹達のほとんどが自分がそんな気持ちを持っていると気付いてはいないだろう。
だが番外個体はそういった負も抽出する。それが美琴に対する負の感情の正体だった。
たとえそれぞれが一の悪意しか持っていなくとも。一万人から抽出すればそれは一万もの悪意になる。
〇、一だとしても全員から集まれば千の悪意になる。
以前打ち止めが感じていたミサカネットワークに対する違和感はこれだった。
番外個体はこの仕組みを適用するために第三次製造計画のネットワークではなく、現行のネットワークに繋がれた。
しかし美琴はそんなことなど知る由もない。
だから妹達が自分に対して負の感情を持っていると聞かされれば自分を憎んでいると思い込む。
番外個体の言葉によってそういう風に誘導される。
(……そう。やっぱりそうなんだ。あの子たちは、私を頃したいほど憎んでるんだ)
それは当然だと思うし、正当な権利だとも思う。
けれど胸にぽっかりと大きな穴が空いたようなこの空虚さは何だろう。
一日後か一ヵ月後か一年後か。いずれは妹達が美琴を表立って憎むようになる。
御坂妹が、一九〇九〇号が、打ち止めが自分を付け狙うようになる。
その顔を憎悪に歪め、ただ美琴を頃すために。
どうしてだろう。当然だと思っているのに、彼女たちとの思い出が走馬灯のように頭を駆け抜ける。
恨まれて、憎まれて、命を狙われて当然だと分かっているのに、枯れたはずの涙が流れそうになる。
対する番外個体は蹴りをやめ、ニヤニヤと悪意の透けて見える笑みを浮かべた。
わざわざその場にしゃがみ込んで美琴に視線を合わせる。
たとえクローンが認められ、人間の感情を手に入れても永遠にお姉様の影でしかない。
どれだけ成長してもクローンである事実は変わらないし、御坂旅掛と御坂美鈴の娘ではないことも変わらない。
美琴が時間をかけて築いた人間関係も美琴だけのもので、周囲の人間は妹達を認識すらしていない。
いつまで経っても御坂美琴には勝てない。自分たちは所詮そういう存在。
そんな感情と、自分たちに優しく接してくれる美琴に対してそんな醜い感情を持っているという自己嫌悪。
それは潜在レベルのもので、妹達のほとんどが自分がそんな気持ちを持っていると気付いてはいないだろう。
だが番外個体はそういった負も抽出する。それが美琴に対する負の感情の正体だった。
たとえそれぞれが一の悪意しか持っていなくとも。一万人から抽出すればそれは一万もの悪意になる。
〇、一だとしても全員から集まれば千の悪意になる。
以前打ち止めが感じていたミサカネットワークに対する違和感はこれだった。
番外個体はこの仕組みを適用するために第三次製造計画のネットワークではなく、現行のネットワークに繋がれた。
しかし美琴はそんなことなど知る由もない。
だから妹達が自分に対して負の感情を持っていると聞かされれば自分を憎んでいると思い込む。
番外個体の言葉によってそういう風に誘導される。
(……そう。やっぱりそうなんだ。あの子たちは、私を頃したいほど憎んでるんだ)
それは当然だと思うし、正当な権利だとも思う。
けれど胸にぽっかりと大きな穴が空いたようなこの空虚さは何だろう。
一日後か一ヵ月後か一年後か。いずれは妹達が美琴を表立って憎むようになる。
御坂妹が、一九〇九〇号が、打ち止めが自分を付け狙うようになる。
その顔を憎悪に歪め、ただ美琴を頃すために。
どうしてだろう。当然だと思っているのに、彼女たちとの思い出が走馬灯のように頭を駆け抜ける。
恨まれて、憎まれて、命を狙われて当然だと分かっているのに、枯れたはずの涙が流れそうになる。
対する番外個体は蹴りをやめ、ニヤニヤと悪意の透けて見える笑みを浮かべた。
わざわざその場にしゃがみ込んで美琴に視線を合わせる。
90: 2013/07/25(木) 23:37:54.65 ID:iYGphvCZ0
「それは今いるミサカたちだけじゃないよ。
お姉様のせいで氏んだ一万のミサカも同じ。―――九九八二号も、ね」
鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。
美琴にとって九九八二号は特別な個体であり、墓参りも行っている。
そう。妹達が美琴を憎んでいるのなら、当然九九八二号も同様で。
胸を締め付けられる感覚。息が苦しくなる。
「だって当然でしょう? アンタは九九八二号を―――このミサカを助けてくれなかったんだから」
「―――……え?」
思わずそんな声が漏れる。
番外個体は一体何を言っているのだろう。どういう意味なのだろう。
まさか。まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。
美琴の中を悲劇的な何かが埋め尽くす。たとえようのない絶望感と悲壮感が溢れ出す。
そんなはずはない。そんなことはあり得ない。いくら何だって馬鹿げてる。
けれど。……番外個体の左足は一目で分かる義足で、服の裾にはゲコ太の缶バッジがついていて。
叫ばなかったのが奇跡だと思った。
それほどのものが御坂美琴を襲った。
そして番外個体はそんな美琴を見て満足げに口元を三日月のように歪ませる。
テレスティーナ=木原=ライフラインと番外個体の策に、美琴は壊れ始めていた。
お姉様のせいで氏んだ一万のミサカも同じ。―――九九八二号も、ね」
鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。
美琴にとって九九八二号は特別な個体であり、墓参りも行っている。
そう。妹達が美琴を憎んでいるのなら、当然九九八二号も同様で。
胸を締め付けられる感覚。息が苦しくなる。
「だって当然でしょう? アンタは九九八二号を―――このミサカを助けてくれなかったんだから」
「―――……え?」
思わずそんな声が漏れる。
番外個体は一体何を言っているのだろう。どういう意味なのだろう。
まさか。まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。
美琴の中を悲劇的な何かが埋め尽くす。たとえようのない絶望感と悲壮感が溢れ出す。
そんなはずはない。そんなことはあり得ない。いくら何だって馬鹿げてる。
けれど。……番外個体の左足は一目で分かる義足で、服の裾にはゲコ太の缶バッジがついていて。
叫ばなかったのが奇跡だと思った。
それほどのものが御坂美琴を襲った。
そして番外個体はそんな美琴を見て満足げに口元を三日月のように歪ませる。
テレスティーナ=木原=ライフラインと番外個体の策に、美琴は壊れ始めていた。
91: 2013/07/25(木) 23:38:23.00 ID:iYGphvCZ0
・
・
・
削板軍覇が床を蹴る。
たったそれだけの動作。しかし莫大な推進力を得た削板の体は音の速度を超えて放たれる。
世界最大の『原石』、学園都市第七位。絶対的な超能力者という力の権化。
しかし五人の少女たちは動じない。
元より音速以上の速度で進む第七位や、超高速の飛び道具を自在に扱う第四位や第三位とも戦うことを想定している彼女たちには、単純な速度はそれほど脅威を与えない。
削板の前方地点の床から突然黒い槍のようなものが何本も飛び出した。
このまま進めば自ら剣山に突っ込むようなもの。
だがナンバーセブンが拳を突き出すと、圧倒的な烈風が吹き乱れた。
それは黒い槍をあっさりと破壊し、進路上にある障害を消し去った。
しかし、その先に少女たちはいない。それに気付いた削板が慌てて急ブレーキをかける。
それは失策だった。削板はそこで止まるべきではなかった。
「今のあなたがどこまでやれるんかね?」
五人の少女が先ほどのように動きを止めた削板へと飛び掛る。
それぞれがタイミングや速度をずらし、氏角を潰す。
壁や空中通路を使い跳弾するように円を描き、不可避の状況を人為的に作り出す。
92: 2013/07/25(木) 23:38:57.90 ID:iYGphvCZ0
垣根帝督が去ったために能力の制御権は戻っている。
『油性兵装』のドレスの強固さは更に増し、先の程度の爆発ならば問題なく切り抜けられる力を得た。
細魚がオイルを集約・固定させた拳で殴りかかる。
コンクリートだろうが簡単に破壊するほどの力を秘めたそれは、しかし削板に左の掌で受け止められる。
「いい拳だ。だがまだ根性がちっとばかし足りてねぇ」
真紀が可燃性オイルを利用したミサイルのようなものを、削板が細魚の攻撃を受け止めた瞬間に放つ。
左腕を封じられた状態でそれに対応する必要に迫られた削板は右手を使ってそれに対処した。
だが五人は間髪入れずに怒涛の勢いで攻め立てる。
子雛が人体程度なら容易く切断する黒い剣の形をしたものを生成、的確に削板の首を目掛けて斬りかかる。
「お命頂戴ってね!!」
削板は細魚を投げ飛ばすことで左手を自由にし、即座にその場に足を折って体を沈める。
屈伸するように、しゃがみ込むようにして子雛の一撃を回避した削板だったが、すぐさま友莉による追撃が襲う。
またも床から飛び出す黒い刃。それはしゃがみ込んだことで頭から床までの距離が短くなっていた削板を猛烈に射頃す。
「うおっ!?」
慌てて上体を大きく後方へ仰け反らせ、脳天を貫かれる事態を回避する。
その隙を相園は見逃さない。子雛と同じ黒い刃を生成、それを削板の心臓へと突き立てる。
普段のナンバーセブンならば回避できていたかもしれない。
だが怪我のせいでその実力にある程度の制約がかかっている今の削板は完全には避け切れない。
大きく全身を横方向に逸らし直撃を回避するも、僅かに漆黒の剣がわき腹を掠めた。
如何に銃弾に耐えるナンバーセブンといえども、車やコンクリート、人体までを豆腐のように切断するあの刃をまともに受けては無事では済まないらしい。
掠った傷口から僅かな出血。だがそんなことに構っている暇はない。
体勢を立て直した細魚と子雛が能力によって圧倒的破壊力を得た蹴りを叩き込んでくる。
普段の削板ならば反応できたかもしれない。
しかし今の削板は人数を生かした怒涛の連続攻撃に対処し切れず、その蹴りを受けて吹き飛ばされる。
『油性兵装』のドレスの強固さは更に増し、先の程度の爆発ならば問題なく切り抜けられる力を得た。
細魚がオイルを集約・固定させた拳で殴りかかる。
コンクリートだろうが簡単に破壊するほどの力を秘めたそれは、しかし削板に左の掌で受け止められる。
「いい拳だ。だがまだ根性がちっとばかし足りてねぇ」
真紀が可燃性オイルを利用したミサイルのようなものを、削板が細魚の攻撃を受け止めた瞬間に放つ。
左腕を封じられた状態でそれに対応する必要に迫られた削板は右手を使ってそれに対処した。
だが五人は間髪入れずに怒涛の勢いで攻め立てる。
子雛が人体程度なら容易く切断する黒い剣の形をしたものを生成、的確に削板の首を目掛けて斬りかかる。
「お命頂戴ってね!!」
削板は細魚を投げ飛ばすことで左手を自由にし、即座にその場に足を折って体を沈める。
屈伸するように、しゃがみ込むようにして子雛の一撃を回避した削板だったが、すぐさま友莉による追撃が襲う。
またも床から飛び出す黒い刃。それはしゃがみ込んだことで頭から床までの距離が短くなっていた削板を猛烈に射頃す。
「うおっ!?」
慌てて上体を大きく後方へ仰け反らせ、脳天を貫かれる事態を回避する。
その隙を相園は見逃さない。子雛と同じ黒い刃を生成、それを削板の心臓へと突き立てる。
普段のナンバーセブンならば回避できていたかもしれない。
だが怪我のせいでその実力にある程度の制約がかかっている今の削板は完全には避け切れない。
大きく全身を横方向に逸らし直撃を回避するも、僅かに漆黒の剣がわき腹を掠めた。
如何に銃弾に耐えるナンバーセブンといえども、車やコンクリート、人体までを豆腐のように切断するあの刃をまともに受けては無事では済まないらしい。
掠った傷口から僅かな出血。だがそんなことに構っている暇はない。
体勢を立て直した細魚と子雛が能力によって圧倒的破壊力を得た蹴りを叩き込んでくる。
普段の削板ならば反応できたかもしれない。
しかし今の削板は人数を生かした怒涛の連続攻撃に対処し切れず、その蹴りを受けて吹き飛ばされる。
93: 2013/07/25(木) 23:39:45.46 ID:iYGphvCZ0
圧倒的に人数差だった。超能力者とはいえ手負いが一人、対して超能力者用に作られた大能力者五人。
一人一人が大能力者の中でも上位の実力を有するのに、それが五人も連携を取って攻めて来る。
加えて『白鰐部隊』という特性上、、超能力者との戦い方を熟知している。
非常に厄介な相手だった。対して削板はダメージのせいで実力を出し切れない。けれど、
「第二位に頼まれちまったからな。もともとあいつを助けようと思ってたことだし。
だからここはちょっと根性出す。頼まれたことくらい果たせねぇと超能力者は名乗ってられん!!」
カツッ、という音がした時にはもう遅かった。
たった一歩で距離を〇にまで詰めたナンバーセブンの体は和軸子雛の懐に潜り込んでいた。
「……は、」
子雛がそれに対して何らかのリアクションを起こす前に。
和軸子雛の体がぐるぐると回転するように吹き飛ばされた。
「がぁぁあああああああっ!!」
念動砲弾。実際に起きる現象としては念動力に極めて近いその力が子雛の全身を襲った。
腹を基点に全身にダメージが浸透していく。
『油性兵装』のドレス装甲によってダメージは軽減されたものの、衝撃までは防げない。
宙を舞い、やがて床をごろごろと転がって動きが止まる。
「ガハッ、何だ、今の感覚……?」
『油性兵装』の装甲によってダメージは軽減された。
だがおかしい。計算に合わなかった。
一〇の力を五にまで抑えられるのに、七までしか削れなかった。
たとえるならそんな感覚だった。
『説明のできない力』。やはり中々にわけのわからないものらしい。
一人一人が大能力者の中でも上位の実力を有するのに、それが五人も連携を取って攻めて来る。
加えて『白鰐部隊』という特性上、、超能力者との戦い方を熟知している。
非常に厄介な相手だった。対して削板はダメージのせいで実力を出し切れない。けれど、
「第二位に頼まれちまったからな。もともとあいつを助けようと思ってたことだし。
だからここはちょっと根性出す。頼まれたことくらい果たせねぇと超能力者は名乗ってられん!!」
カツッ、という音がした時にはもう遅かった。
たった一歩で距離を〇にまで詰めたナンバーセブンの体は和軸子雛の懐に潜り込んでいた。
「……は、」
子雛がそれに対して何らかのリアクションを起こす前に。
和軸子雛の体がぐるぐると回転するように吹き飛ばされた。
「がぁぁあああああああっ!!」
念動砲弾。実際に起きる現象としては念動力に極めて近いその力が子雛の全身を襲った。
腹を基点に全身にダメージが浸透していく。
『油性兵装』のドレス装甲によってダメージは軽減されたものの、衝撃までは防げない。
宙を舞い、やがて床をごろごろと転がって動きが止まる。
「ガハッ、何だ、今の感覚……?」
『油性兵装』の装甲によってダメージは軽減された。
だがおかしい。計算に合わなかった。
一〇の力を五にまで抑えられるのに、七までしか削れなかった。
たとえるならそんな感覚だった。
『説明のできない力』。やはり中々にわけのわからないものらしい。
94: 2013/07/25(木) 23:40:32.76 ID:iYGphvCZ0
「女の子をあまり殴んのは根性がねぇから、一撃で終わらそうと思ったんだが。
流石っつぅのか? 思ったより効いてないな。良い根性だ」
「学園都市の暗部相手に男も女もねえっつの。
あたしらはもともとあなたみたいな超能力者を始末するための部隊。
フェミニスト気取りで独りよがりの自己満に浸って悦に入るのもいいけどさ、氏んでも知らんぜ?」
「つか能力者に男も女も関係ないですけどねぇ。
……子雛、大丈夫ですかにゃ? いい様ですぜ?」
けたけた笑う相園のからかいの言葉を尻目に、子雛は腹を手で押さえながらゆっくり立ちあがった。
失敗すれば消し飛ぶとはいえ、ちゃんと“受け止め”れば超電磁砲にも耐える彼女たちがこの程度の一撃で倒れるはずがない。
それでも派手に吹き飛ばされたのは威力の問題ではなく、ナンバーセブンの念動砲弾のわけの分からない特性によるものだろう。
流石にこの念動砲弾の一発の威力が超電磁砲以上というのはあり得ない。
「うるせー。相手は超能力者だぜ?
アンタだって食らってたら私と同じように吹っ飛んでたって。
つか第七位の馬鹿しかオトコいねぇってのにブリブリしてどうすんのよ」
「美央は第七位みたいなのがタイプなんスかね?」
「引くわー……。男見る目ないってレベルじゃないでしょ」
「冗談じゃないっての!! 気持ち悪くなってきますよ!!
あんな昭和の熱血馬鹿みたいなヤツには流石に興味ないですって!!」
戦闘中にギャーギャー騒ぐ『白鰐部隊』の少女たち。
これが垣根だったら容赦なく攻撃を仕掛けるだろうが、削板は違った。
何気にボロクソ言われているのが気になったのか、むしろ会話に混じり出した。
「おい、お前ら!! よく分からんがオレのことを馬鹿にしてないか!?」
「うるせえよ黙ってろ馬鹿!!」
「酷いなお前ら!?」
「……つか、もういいでしょ。そろそろ終わらせよう。ナパーム準備しな」
場違いな会話をしながらも、削板軍覇を排除するために『白鰐部隊』が新たな戦術を模索する。
流石っつぅのか? 思ったより効いてないな。良い根性だ」
「学園都市の暗部相手に男も女もねえっつの。
あたしらはもともとあなたみたいな超能力者を始末するための部隊。
フェミニスト気取りで独りよがりの自己満に浸って悦に入るのもいいけどさ、氏んでも知らんぜ?」
「つか能力者に男も女も関係ないですけどねぇ。
……子雛、大丈夫ですかにゃ? いい様ですぜ?」
けたけた笑う相園のからかいの言葉を尻目に、子雛は腹を手で押さえながらゆっくり立ちあがった。
失敗すれば消し飛ぶとはいえ、ちゃんと“受け止め”れば超電磁砲にも耐える彼女たちがこの程度の一撃で倒れるはずがない。
それでも派手に吹き飛ばされたのは威力の問題ではなく、ナンバーセブンの念動砲弾のわけの分からない特性によるものだろう。
流石にこの念動砲弾の一発の威力が超電磁砲以上というのはあり得ない。
「うるせー。相手は超能力者だぜ?
アンタだって食らってたら私と同じように吹っ飛んでたって。
つか第七位の馬鹿しかオトコいねぇってのにブリブリしてどうすんのよ」
「美央は第七位みたいなのがタイプなんスかね?」
「引くわー……。男見る目ないってレベルじゃないでしょ」
「冗談じゃないっての!! 気持ち悪くなってきますよ!!
あんな昭和の熱血馬鹿みたいなヤツには流石に興味ないですって!!」
戦闘中にギャーギャー騒ぐ『白鰐部隊』の少女たち。
これが垣根だったら容赦なく攻撃を仕掛けるだろうが、削板は違った。
何気にボロクソ言われているのが気になったのか、むしろ会話に混じり出した。
「おい、お前ら!! よく分からんがオレのことを馬鹿にしてないか!?」
「うるせえよ黙ってろ馬鹿!!」
「酷いなお前ら!?」
「……つか、もういいでしょ。そろそろ終わらせよう。ナパーム準備しな」
場違いな会話をしながらも、削板軍覇を排除するために『白鰐部隊』が新たな戦術を模索する。
95: 2013/07/25(木) 23:43:26.83 ID:iYGphvCZ0
・
・
・
一方通行は鬼神の如き形相で木原から“離れた”。
理解の範疇を超えた方法で『反射』を破ってくるような奴相手に律儀に接近戦をやってやる義理はない。
ダン、と床を蹴り一息に大きく距離をとった一方通行は近くにあった本棚を掴みあげる。
綺麗に背の順に並べられていた書籍がバラバラと落ちて床に散らばるも、二人ともそんなことは気にも留めない。
「オラ派手にぶっ飛べや!!」
一方通行は自身の背丈ほどもあるその本棚を軽々と振り回し、大きく腕を振って木原数多へと投げつけた。
キャッチボールでもしているかのような軽い動作。
だが異能の力による後押しを受けたそれは超スピードと相応の破壊力を持って木原へと迫る。
如何に木原が一方通行の風の制御を乱す術を持っていようと、『反射』を頃す技術を獲得していようと。
木原数多自身は科学者に過ぎないことに変わりはない。
よって木原はそれを防ぐ術はなく、避けることもできずに吹き飛ばされる。
そのはずだった。そうでなければおかしかった。
しかし、
「甘甘だぜぇ一方通行!! そんなんじゃ糖尿病になっちまうぞ!?」
木原の体が突如消えた。そしてダン、という壁を蹴るような音が続けて響く。
そしてそれは事実だった。一歩、二歩、三歩。
短い時間だったが確実に木原は壁を走っていた。
そしてそのまま壁を大きく蹴り、その反動で一方通行に飛び掛る。並の身体能力では到底為せる業ではなかった。
96: 2013/07/25(木) 23:44:21.43 ID:iYGphvCZ0
「何ッ!?」
「しっかり口閉じてねえと舌噛んじまうぞぉ!?」
その速度自体は相当に早くはあったが、一方通行からすれば対処は可能な速度域だ。
だがまさか木原にそんなことができるとは思わず、不意を突かれた形となり反応が僅かに遅れる。
その僅かの間に木原は自身の射程内にまで入り込み、一方通行の顎をアッパーするように下から殴りつける。
「ガッ、ハァ!?」
倒れた一方通行の腹を靴底で思い切り踏み潰す。
そのまま踵でグリグリと踏み躙ると一方通行の口から潰されたカエルのような細い声が呼吸と共に漏れた。
「ま、さか、オマエ……『発条包帯』を……」
「おお、そうだよ。とはいえこいつは改良型だ。
従来のものよりちっとばかし性能は下がるが、代わりに肉体への負荷はほとんどない」
『発条包帯』。それは駆動鎧の運動性能を体一つで得られるものだ。
だが駆動鎧にはある安全装置がないためにその莫大は負担は全て自身の体へと跳ね返ってくる。
そんな諸刃の剣である『発条包帯』を改良したものを木原は装備していた。
木原のただの科学者にはあり得ない先ほどの動きは、これによって為されていたのだ。
ぐりぐりと腹を踏みつけながら、木原は壁に取り付けられたモニターを指して言った。
「おいおい、話になんねぇなあスクラップ野郎が。もうちっと強いのかと思ったんだがな。
あれでも見てちったぁヤル気出してくれよ」
『自己満足と自己陶酔を押し付けないでくれるかな、お姉様。
オXXーは一人で勝手にやってればいいよ。結局さ、許されるはずなんてないんだよ。
アンタは一万頃しの大罪人なんだから。諸悪の根源なんだから。
ある意味では一方通行よりもお姉様の方がよっぽど悪党だよね』
「しっかり口閉じてねえと舌噛んじまうぞぉ!?」
その速度自体は相当に早くはあったが、一方通行からすれば対処は可能な速度域だ。
だがまさか木原にそんなことができるとは思わず、不意を突かれた形となり反応が僅かに遅れる。
その僅かの間に木原は自身の射程内にまで入り込み、一方通行の顎をアッパーするように下から殴りつける。
「ガッ、ハァ!?」
倒れた一方通行の腹を靴底で思い切り踏み潰す。
そのまま踵でグリグリと踏み躙ると一方通行の口から潰されたカエルのような細い声が呼吸と共に漏れた。
「ま、さか、オマエ……『発条包帯』を……」
「おお、そうだよ。とはいえこいつは改良型だ。
従来のものよりちっとばかし性能は下がるが、代わりに肉体への負荷はほとんどない」
『発条包帯』。それは駆動鎧の運動性能を体一つで得られるものだ。
だが駆動鎧にはある安全装置がないためにその莫大は負担は全て自身の体へと跳ね返ってくる。
そんな諸刃の剣である『発条包帯』を改良したものを木原は装備していた。
木原のただの科学者にはあり得ない先ほどの動きは、これによって為されていたのだ。
ぐりぐりと腹を踏みつけながら、木原は壁に取り付けられたモニターを指して言った。
「おいおい、話になんねぇなあスクラップ野郎が。もうちっと強いのかと思ったんだがな。
あれでも見てちったぁヤル気出してくれよ」
『自己満足と自己陶酔を押し付けないでくれるかな、お姉様。
オXXーは一人で勝手にやってればいいよ。結局さ、許されるはずなんてないんだよ。
アンタは一万頃しの大罪人なんだから。諸悪の根源なんだから。
ある意味では一方通行よりもお姉様の方がよっぽど悪党だよね』
97: 2013/07/25(木) 23:45:11.59 ID:iYGphvCZ0
そのモニターから聞こえてくるのはそんな言葉だった。
番外個体と名乗った少女が倒れている御坂美琴を蹴飛ばしている。
やはり美琴は無抵抗で、されるがままになっていた。
(違ェだろォが)
思う。自己満足に浸っているのは自分だと。
一万頃しの大罪人は紛れもなく一方通行であって、命を投げ出してでも妹達を救おうとしていた美琴に向けられていい言葉ではない。
諸悪の根源も一方通行に決まっている。自分の意思で『実験』を受け、自らの意思で妹達を頃し続けたのだから。
そんな進んで妹達を頃し続けた自分以外に誰が元凶だというのか。
『アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上頃してきたんでしょう?』
(それは、俺のことだろォが)
「見ろよ一方通行。超電磁砲の奴無抵抗だぜ?
くー、美しいねぇ愛情ってのは。やっぱ人形にも愛着ってのは湧くもんなのかね」
「クッソがァァァあああああああああ!!」
本当に人の神経を逆撫でし苛立たせるのが上手い。
ベクトルを操作・変換し、直立に体を起き上がらせる。
即座に能力を生かしてその場からの離脱を試みた。
『一方通行』という能力によって行われたそれはまさに一瞬の出来事で、『発条包帯』を使っていようと反応し切れるものではない。
なのに、一方通行の鼻っ柱をゴン!! と木原の拳が容赦なく襲った。
「ぐ、が……っ!?」
動きが止まった一方通行の全身を木原の連撃が襲う。
顔、肩、足、腹、胸、肩、顔、顔、顔。
木原数多は『反射』の膜に触れるぎりぎりのところで拳を引き戻すことで攻撃を有効化させている。
ならば『反射』のパターンを組み替えればそれだけで済む話なのだが、
番外個体と名乗った少女が倒れている御坂美琴を蹴飛ばしている。
やはり美琴は無抵抗で、されるがままになっていた。
(違ェだろォが)
思う。自己満足に浸っているのは自分だと。
一万頃しの大罪人は紛れもなく一方通行であって、命を投げ出してでも妹達を救おうとしていた美琴に向けられていい言葉ではない。
諸悪の根源も一方通行に決まっている。自分の意思で『実験』を受け、自らの意思で妹達を頃し続けたのだから。
そんな進んで妹達を頃し続けた自分以外に誰が元凶だというのか。
『アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上頃してきたんでしょう?』
(それは、俺のことだろォが)
「見ろよ一方通行。超電磁砲の奴無抵抗だぜ?
くー、美しいねぇ愛情ってのは。やっぱ人形にも愛着ってのは湧くもんなのかね」
「クッソがァァァあああああああああ!!」
本当に人の神経を逆撫でし苛立たせるのが上手い。
ベクトルを操作・変換し、直立に体を起き上がらせる。
即座に能力を生かしてその場からの離脱を試みた。
『一方通行』という能力によって行われたそれはまさに一瞬の出来事で、『発条包帯』を使っていようと反応し切れるものではない。
なのに、一方通行の鼻っ柱をゴン!! と木原の拳が容赦なく襲った。
「ぐ、が……っ!?」
動きが止まった一方通行の全身を木原の連撃が襲う。
顔、肩、足、腹、胸、肩、顔、顔、顔。
木原数多は『反射』の膜に触れるぎりぎりのところで拳を引き戻すことで攻撃を有効化させている。
ならば『反射』のパターンを組み替えればそれだけで済む話なのだが、
98: 2013/07/25(木) 23:49:34.21 ID:iYGphvCZ0
(さっきからやってンだよンなこたァとっくに!!
なのにそれが分かってるみてェにこいつの動きも微細に、顕微鏡クラスで調整されやがる!!)
再度倒れこんだ一方通行の顔面を容赦なく踏みつけにする。
普通なら『反射』されて足が折れるだけだが、木原のそれはそのまま一方通行の顔を変形させ痛覚を強烈に刺激する。
「無駄だよ。こちとらテメェの特徴、計算式、『自分だけの現実』、全て把握済みだ。
伊達にテメェのその力ぁ開発してねーぞ」
ただ拳を引き戻す手法をマスターしただけではない。
文字通り一方通行の全てを識る人間だからこそ実行可能な戦法。
思考を読み、動きを先読みし、対処する。木原数多にしかできない戦い方だった。
先ほど反応できるはずのない一方通行の動きに反応したのもそういうことだろう。
あれは反応したのではない。その動きを先読みしていたのだ。
『ぎゃははははは!! ミサカたちは少しずつ「人間らしく」なってきている!!
自称「姉」らしいお姉様も知ってるんじゃない? 以前と比べれば格段に感情を手に入れていることに』
「テメェさあ、もしかして自分で自分のこと凄げぇかっこいいとか思ってんのか?」
『でも「人間らしく」ってのは何もプラスにだけ働くものじゃない。
感情を獲得するにつれ、直に多くのミサカが正当な復讐の権利について考えるようになる!!
憎悪に気付くようになる!! 誰のせいで自分たちがこんな目に遭ったのか、誰のせいでクローンなんて形で生まれてしまったのか。
所詮アンタがやってることは矮小な自己満足。それにミサカたちの憎悪を減らす効果は、全くない』
「たった一人で学園都市の暗部に立ち向かって、哀れな人形共を助けるために奔走してよぉ」
一方通行の中にどうしようもない屈辱感と憤りが爆発的に広がった。
番外個体の言葉は全てそのまま自分に向けられるべきものだし、木原を頃すこともできていない。
妹達が誰のせいであんな目に遭ったのか? 誰に対して憎悪を抱き復讐したいと思うのか? 矮小な自己満足をしているのは誰か?
それは間違っても御坂美琴などではなく。
なのにそれが分かってるみてェにこいつの動きも微細に、顕微鏡クラスで調整されやがる!!)
再度倒れこんだ一方通行の顔面を容赦なく踏みつけにする。
普通なら『反射』されて足が折れるだけだが、木原のそれはそのまま一方通行の顔を変形させ痛覚を強烈に刺激する。
「無駄だよ。こちとらテメェの特徴、計算式、『自分だけの現実』、全て把握済みだ。
伊達にテメェのその力ぁ開発してねーぞ」
ただ拳を引き戻す手法をマスターしただけではない。
文字通り一方通行の全てを識る人間だからこそ実行可能な戦法。
思考を読み、動きを先読みし、対処する。木原数多にしかできない戦い方だった。
先ほど反応できるはずのない一方通行の動きに反応したのもそういうことだろう。
あれは反応したのではない。その動きを先読みしていたのだ。
『ぎゃははははは!! ミサカたちは少しずつ「人間らしく」なってきている!!
自称「姉」らしいお姉様も知ってるんじゃない? 以前と比べれば格段に感情を手に入れていることに』
「テメェさあ、もしかして自分で自分のこと凄げぇかっこいいとか思ってんのか?」
『でも「人間らしく」ってのは何もプラスにだけ働くものじゃない。
感情を獲得するにつれ、直に多くのミサカが正当な復讐の権利について考えるようになる!!
憎悪に気付くようになる!! 誰のせいで自分たちがこんな目に遭ったのか、誰のせいでクローンなんて形で生まれてしまったのか。
所詮アンタがやってることは矮小な自己満足。それにミサカたちの憎悪を減らす効果は、全くない』
「たった一人で学園都市の暗部に立ち向かって、哀れな人形共を助けるために奔走してよぉ」
一方通行の中にどうしようもない屈辱感と憤りが爆発的に広がった。
番外個体の言葉は全てそのまま自分に向けられるべきものだし、木原を頃すこともできていない。
妹達が誰のせいであんな目に遭ったのか? 誰に対して憎悪を抱き復讐したいと思うのか? 矮小な自己満足をしているのは誰か?
それは間違っても御坂美琴などではなく。
99: 2013/07/25(木) 23:52:44.44 ID:iYGphvCZ0
「ンなもン……全部俺に決まってンだろォがァァああああああ!!」
一方通行の必氏の反撃も木原には軽くいなされる。
動きは全て先読みされ、思考や演算パターンは全て読まれ、『反射』も破られて。
どんな速度でどんな動きをしようとも、初めからそれが知られていれば容易く対策されてしまう。
「そうやってヒーロー気取りかぁ!? そんなもんでテメェの人生全部チャラにできるとでも思ってんのか!?
ぎゃははははははは!! ふざけんじゃねえよ!! テメェは一生泥ん中だ!!
何度這い上がろうとしても結局何かを掴むことなんざ出来やしねえんだよ!! だったらそのまま沈んでろ!!」
そんなことは、思っていない。
永遠に抱えた負債はチャラにできないし、間違っても物語の中のヒーローになんてなれはしない。
(分かってンだよ、一生泥の中だってことぐれェ……)
「けどよォ、それでも足掻き続けるって誓ったンだよ……」
ゆっくりと、けれど確固とした意思を込めて一方通行は立ち上がる。
どれだけみっともなくても、無様でもいい。それでも足掻くと一方通行は決めた。
「あぁ?」
『いずれにしろお姉様の望む甘い未来はやって来ない。
誰もが笑って誰もが望むハッピーエンドなんて存在しない。
仮にそんなものがあったとしても、そこにアンタの居場所なんてない』
御坂美琴が苦しめられている。あまりにも理不尽に、一方通行を少しでも苦しめたいという木原数多の考えのせいで。
もっとも残酷な方法で、もっとも下衆なやり方で、御坂美琴が傷つけらている。
「地獄に落ちるンだとしてもそこへ行くのは俺たちみたいな奴だけでいい」
とにかく殺せ。木原数多を殺せ。それでとりあえずは安心できる。
一方通行に対して有効なのは対一方通行専用の戦法を極めた木原数多のみ。
ならば木原を排除すれば後は楽だ。
「そこにオリジナルを巻き込むンじゃねェよッ!!」
一方通行の獣のような咆哮を受けて、木原数多は怯まない。
ただ嗤って、無様な一方通行を嘲って、迎え撃つ。
一方通行の必氏の反撃も木原には軽くいなされる。
動きは全て先読みされ、思考や演算パターンは全て読まれ、『反射』も破られて。
どんな速度でどんな動きをしようとも、初めからそれが知られていれば容易く対策されてしまう。
「そうやってヒーロー気取りかぁ!? そんなもんでテメェの人生全部チャラにできるとでも思ってんのか!?
ぎゃははははははは!! ふざけんじゃねえよ!! テメェは一生泥ん中だ!!
何度這い上がろうとしても結局何かを掴むことなんざ出来やしねえんだよ!! だったらそのまま沈んでろ!!」
そんなことは、思っていない。
永遠に抱えた負債はチャラにできないし、間違っても物語の中のヒーローになんてなれはしない。
(分かってンだよ、一生泥の中だってことぐれェ……)
「けどよォ、それでも足掻き続けるって誓ったンだよ……」
ゆっくりと、けれど確固とした意思を込めて一方通行は立ち上がる。
どれだけみっともなくても、無様でもいい。それでも足掻くと一方通行は決めた。
「あぁ?」
『いずれにしろお姉様の望む甘い未来はやって来ない。
誰もが笑って誰もが望むハッピーエンドなんて存在しない。
仮にそんなものがあったとしても、そこにアンタの居場所なんてない』
御坂美琴が苦しめられている。あまりにも理不尽に、一方通行を少しでも苦しめたいという木原数多の考えのせいで。
もっとも残酷な方法で、もっとも下衆なやり方で、御坂美琴が傷つけらている。
「地獄に落ちるンだとしてもそこへ行くのは俺たちみたいな奴だけでいい」
とにかく殺せ。木原数多を殺せ。それでとりあえずは安心できる。
一方通行に対して有効なのは対一方通行専用の戦法を極めた木原数多のみ。
ならば木原を排除すれば後は楽だ。
「そこにオリジナルを巻き込むンじゃねェよッ!!」
一方通行の獣のような咆哮を受けて、木原数多は怯まない。
ただ嗤って、無様な一方通行を嘲って、迎え撃つ。
116: 2013/07/27(土) 23:05:57.99 ID:gRlj8sfM0
もう、いいよね。
117: 2013/07/27(土) 23:06:39.30 ID:gRlj8sfM0
「テメェは俺の『未元物質』の粒子を一つ一つ毟り取ってやがったんだな」
木原病理の前に姿を現した垣根が、言いながら木原病理の手を確認する。
そこにはやたら小型化されているがやはり予想通りの物があった。
「あらら。分かっちゃいましたか」
そう言う木原病理の声は軽かった。
まるでちょっとした悪戯がばれた、とでも言うように。
「そりゃあテメェがつけてるソレはもともと俺が使おうと考えてたもんだしな」
垣根が指差したのは木原病理の左手に嵌められているグローブのようなものだ。
その人差し指と中指から伸びるガラスの棒のサイズは本来のものより格段に小さくなっていて、指サックのように見えるが間違いない。
「超微粒物体干渉用吸着式マニピュレータ、通称『ピンセット』。たしかに『未元物質』は素粒子だからな」
原子よりも小さな物体を『吸い取る』方式で掴むためのアイテム、それが『ピンセット』だ。
もともとは素粒子工学研究所という場所で使われていたものだが、木原病理はそれを小型化や性能アップなど改良したらしい。
垣根は本来この『ピンセット』を使って『滞空回線(アンダーライン)』を解析するつもりだったのだが……。
使い方によってはこれでこの場に漂う『未元物質』を全て除去することも可能だろう。
垣根がどれだけ『未元物質』を使おうと、それは発動した瞬間から改良型『ピンセット』により取り除かれる。
その速度や精度は『木原』が手を加えたためだろう。
そのため白い翼もすぐに消えてしまったのだ。当然あの翼は『未元物質』の塊であるため、逃れることはできない。
「それで、それが分かったあなたはどうしようと?」
木原病理が歌うように問う。
そう、仕組みは分かっても具体的な対処法は思い浮かばないのだ。
早い話が『ピンセット』を破壊してしまえば済む話なのだが、それは非常に難しい。
能力を封じられた今、木原病理に無闇に接近すれば間違いなく殺される。
木原病理の前に姿を現した垣根が、言いながら木原病理の手を確認する。
そこにはやたら小型化されているがやはり予想通りの物があった。
「あらら。分かっちゃいましたか」
そう言う木原病理の声は軽かった。
まるでちょっとした悪戯がばれた、とでも言うように。
「そりゃあテメェがつけてるソレはもともと俺が使おうと考えてたもんだしな」
垣根が指差したのは木原病理の左手に嵌められているグローブのようなものだ。
その人差し指と中指から伸びるガラスの棒のサイズは本来のものより格段に小さくなっていて、指サックのように見えるが間違いない。
「超微粒物体干渉用吸着式マニピュレータ、通称『ピンセット』。たしかに『未元物質』は素粒子だからな」
原子よりも小さな物体を『吸い取る』方式で掴むためのアイテム、それが『ピンセット』だ。
もともとは素粒子工学研究所という場所で使われていたものだが、木原病理はそれを小型化や性能アップなど改良したらしい。
垣根は本来この『ピンセット』を使って『滞空回線(アンダーライン)』を解析するつもりだったのだが……。
使い方によってはこれでこの場に漂う『未元物質』を全て除去することも可能だろう。
垣根がどれだけ『未元物質』を使おうと、それは発動した瞬間から改良型『ピンセット』により取り除かれる。
その速度や精度は『木原』が手を加えたためだろう。
そのため白い翼もすぐに消えてしまったのだ。当然あの翼は『未元物質』の塊であるため、逃れることはできない。
「それで、それが分かったあなたはどうしようと?」
木原病理が歌うように問う。
そう、仕組みは分かっても具体的な対処法は思い浮かばないのだ。
早い話が『ピンセット』を破壊してしまえば済む話なのだが、それは非常に難しい。
能力を封じられた今、木原病理に無闇に接近すれば間違いなく殺される。
118: 2013/07/27(土) 23:08:27.42 ID:gRlj8sfM0
「さてな。観念して念仏でも唱えてみるかね」
だが垣根帝督の顔には不敵な笑みがあった。
木原病理の対抗策を打ち破り、木原病理を確実に氏に至らしめるための方程式が第二位の頭の中で組み上げられていた。
能力を封じられ、僅かな武器も木原病理には届かない。
そんな状況でも真に垣根帝督を特別にしているものは健在だった。
即ち頭脳。
『未元物質』という強大な能力もそこから発生している。
垣根帝督を他と隔絶した圧倒的存在たらしめているのはその頭の出来なのだ。
『未元物質』の所有者だからこそ分かることもある。木原病理を頃すための策が。
そんな余裕すら見せる垣根に木原病理は不機嫌そうに顔を歪めた。
もともと他人の希望を砕き、へし折り、挫折させ、絶望させることが大好きという歪みに歪んだ人間だ。
この状況においても希望を持った顔をしている垣根が気に食わないのだろう。
「では氏に物狂いの抵抗を。その希望を全力で折りますので諦めてください」
「ハッ、やってみろやコラ」
絶対的に不利な状況で、やはり垣根の余裕は崩れない。
まるで確実な勝利の未来をその手で掴み取っているように。
木原病理の顔が更に歪む。だがやがて不気味な笑みを湛え、
「仕方ないですね。同じやり方をするのは面白みに欠けて好きではないのですが、この際仕方ないでしょう」
木原病理がどこからともなく取り出したのは大きなタブレットだ。
怪訝そうにこちらの様子を覗う垣根を尻目に、木原病理は昏く笑ってタブレットを操作する。
画面はすぐに表示された。監視カメラか何かの映像なのか、隅に小さく『LIVE』と表示されている。
そしてそこに映っていたのは、
『みっともなく泣いてないでよ。アンタのせいで氏んだ一万のミサカはそうやって泣くこともできなかったんだから』
だが垣根帝督の顔には不敵な笑みがあった。
木原病理の対抗策を打ち破り、木原病理を確実に氏に至らしめるための方程式が第二位の頭の中で組み上げられていた。
能力を封じられ、僅かな武器も木原病理には届かない。
そんな状況でも真に垣根帝督を特別にしているものは健在だった。
即ち頭脳。
『未元物質』という強大な能力もそこから発生している。
垣根帝督を他と隔絶した圧倒的存在たらしめているのはその頭の出来なのだ。
『未元物質』の所有者だからこそ分かることもある。木原病理を頃すための策が。
そんな余裕すら見せる垣根に木原病理は不機嫌そうに顔を歪めた。
もともと他人の希望を砕き、へし折り、挫折させ、絶望させることが大好きという歪みに歪んだ人間だ。
この状況においても希望を持った顔をしている垣根が気に食わないのだろう。
「では氏に物狂いの抵抗を。その希望を全力で折りますので諦めてください」
「ハッ、やってみろやコラ」
絶対的に不利な状況で、やはり垣根の余裕は崩れない。
まるで確実な勝利の未来をその手で掴み取っているように。
木原病理の顔が更に歪む。だがやがて不気味な笑みを湛え、
「仕方ないですね。同じやり方をするのは面白みに欠けて好きではないのですが、この際仕方ないでしょう」
木原病理がどこからともなく取り出したのは大きなタブレットだ。
怪訝そうにこちらの様子を覗う垣根を尻目に、木原病理は昏く笑ってタブレットを操作する。
画面はすぐに表示された。監視カメラか何かの映像なのか、隅に小さく『LIVE』と表示されている。
そしてそこに映っていたのは、
『みっともなく泣いてないでよ。アンタのせいで氏んだ一万のミサカはそうやって泣くこともできなかったんだから』
119: 2013/07/27(土) 23:11:54.58 ID:gRlj8sfM0
「――――――は?」
少女。二人。同じ顔? 御坂美琴。妹達? 無抵抗だ。
蹴り飛ばしている。何故? クローン? 第三次製造計画?
『だからさ、逃げ回ってよ。無様に命乞いしてよ』
フリーズした思考が再起動する。
状況は、理解できた。要するに『木原』を侮っていたわけだ。
まさかここまでするとは予想外だった。というより、『誰に』やるかが想定外だった。
美琴が何もできないことを、手を出せないことを分かった上で、こいつは、こいつらは。
よりにもよって美琴の信念に、優しさに、彼女たちの信頼や絆につけ込んで。
「どんな気分ですか? あなたの希望が手も足も出せずに、身も心もぐちゃぐちゃに蹂躙されている光景は」
『アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上頃してきたんでしょう?』
「―――――――――!!!!!!」
もはや言葉もなかった。
何かが胸の奥からせり上がって、膨張して、弾けて、頭は真っ白に染まって。
心は軋むほどに悲鳴をあげて、精神はぐらぐらと激しく揺れて。
木原、と絶叫したかった。けれど声すら出てこない。
その正体が怒りだとか、憎悪だとか、殺意と呼ばれるものだと気付いた時には既に垣根帝督の体は動いていた。
走る。『未元物質』を存分に使えない垣根のその速度は一般人の域を出ない。
精々足の速い人間程度。その目は暗く沈んでおり、けれど轟々と手がつけられぬほどに激しく燃え盛る炎があった。
深海のような、泥沼のような、濃く、濃く、濃く、どこまでも濃厚に凝縮された純粋なる殺意。
少女。二人。同じ顔? 御坂美琴。妹達? 無抵抗だ。
蹴り飛ばしている。何故? クローン? 第三次製造計画?
『だからさ、逃げ回ってよ。無様に命乞いしてよ』
フリーズした思考が再起動する。
状況は、理解できた。要するに『木原』を侮っていたわけだ。
まさかここまでするとは予想外だった。というより、『誰に』やるかが想定外だった。
美琴が何もできないことを、手を出せないことを分かった上で、こいつは、こいつらは。
よりにもよって美琴の信念に、優しさに、彼女たちの信頼や絆につけ込んで。
「どんな気分ですか? あなたの希望が手も足も出せずに、身も心もぐちゃぐちゃに蹂躙されている光景は」
『アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上頃してきたんでしょう?』
「―――――――――!!!!!!」
もはや言葉もなかった。
何かが胸の奥からせり上がって、膨張して、弾けて、頭は真っ白に染まって。
心は軋むほどに悲鳴をあげて、精神はぐらぐらと激しく揺れて。
木原、と絶叫したかった。けれど声すら出てこない。
その正体が怒りだとか、憎悪だとか、殺意と呼ばれるものだと気付いた時には既に垣根帝督の体は動いていた。
走る。『未元物質』を存分に使えない垣根のその速度は一般人の域を出ない。
精々足の速い人間程度。その目は暗く沈んでおり、けれど轟々と手がつけられぬほどに激しく燃え盛る炎があった。
深海のような、泥沼のような、濃く、濃く、濃く、どこまでも濃厚に凝縮された純粋なる殺意。
120: 2013/07/27(土) 23:13:06.49 ID:gRlj8sfM0
かつて美琴を侮辱した馬場芳郎を怒りのあまり頃したことがあったが、遥かにそれ以上。
人生で初めて経験する感覚だった。心の拠り所を、希望を、祈りを、願いを。
最低最悪の下衆なやり方で御坂美琴を踏み躙られた垣根帝督は、神すらも食い頃す狼だった。
けれど精神論だけで実力差はひっくり返らない。
バチン!! という音と共に木原病理の下半身のパジャマが弾ける。
そこから顔を覗かせたのは生足ではなく、足全体を覆う合成樹脂の機械だった。
膝裏のモーターの駆動音と共に車椅子に座っていた木原病理が立ち上がる。
そのことに垣根は驚かない。そんなことはどうでもよかった。
木原病理の氏は決定した。それは誰にも覆せぬ確定事項だった。
たとえこの場で垣根が氏んだとしても、如何なる方法を使ってでも垣根は木原病理に氏を届ける。
垣根帝督が頃すと言った以上、木原病理の氏は絶対だ。
『未元物質』がまともに使えずとも。
垣根帝督には手がある。ならば撃ち頃してやればいい。
腕があるなら喉を押し潰せ。足があるなら蹴り殺せ。
叩き潰せ。切り刻め。切り裂け。噛み千切れ。食い殺せ。
己の中にあるあらゆる能力を全て注ぎ込め。考えうる全ての殺戮方法を実行しろ。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ!!
「形状変化、イエティ参照」
熱した鉄板に冷水を滝のように浴びせたような、そんな感覚。
木原病理の冷たく短い一言は、確実に垣根の敗北を後押しするものだった。
太く毛むくじゃらな巨大なシルエットが木原病理から飛び出した。
あまりにも木原病理の体の大きさには不釣合い。
垣根がその異様な光景にようやく少しばかりの冷静さを取り戻した時には、遅い。
木原病理は真上から巨大な拳を垣根帝督に叩き込む。
ベゴォ!! という轟音。木原病理の一撃は垣根諸共全てを押し潰した。
人生で初めて経験する感覚だった。心の拠り所を、希望を、祈りを、願いを。
最低最悪の下衆なやり方で御坂美琴を踏み躙られた垣根帝督は、神すらも食い頃す狼だった。
けれど精神論だけで実力差はひっくり返らない。
バチン!! という音と共に木原病理の下半身のパジャマが弾ける。
そこから顔を覗かせたのは生足ではなく、足全体を覆う合成樹脂の機械だった。
膝裏のモーターの駆動音と共に車椅子に座っていた木原病理が立ち上がる。
そのことに垣根は驚かない。そんなことはどうでもよかった。
木原病理の氏は決定した。それは誰にも覆せぬ確定事項だった。
たとえこの場で垣根が氏んだとしても、如何なる方法を使ってでも垣根は木原病理に氏を届ける。
垣根帝督が頃すと言った以上、木原病理の氏は絶対だ。
『未元物質』がまともに使えずとも。
垣根帝督には手がある。ならば撃ち頃してやればいい。
腕があるなら喉を押し潰せ。足があるなら蹴り殺せ。
叩き潰せ。切り刻め。切り裂け。噛み千切れ。食い殺せ。
己の中にあるあらゆる能力を全て注ぎ込め。考えうる全ての殺戮方法を実行しろ。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ!!
「形状変化、イエティ参照」
熱した鉄板に冷水を滝のように浴びせたような、そんな感覚。
木原病理の冷たく短い一言は、確実に垣根の敗北を後押しするものだった。
太く毛むくじゃらな巨大なシルエットが木原病理から飛び出した。
あまりにも木原病理の体の大きさには不釣合い。
垣根がその異様な光景にようやく少しばかりの冷静さを取り戻した時には、遅い。
木原病理は真上から巨大な拳を垣根帝督に叩き込む。
ベゴォ!! という轟音。木原病理の一撃は垣根諸共全てを押し潰した。
121: 2013/07/27(土) 23:14:23.20 ID:gRlj8sfM0
・
・
・
「久しぶりだね、お姉様」
「……九、九八二、号……?」
番外個体は一変して穏やかな笑みを湛える。
それは消えたはずの命。もう会えないはずの存在。
御坂美琴の目前で氏んでしまったはずの個体。
「……何で、アンタが……?」
「どうしてお前が生きてるんだって? 酷いね」
「―――ッ、そうじゃなくて……っ!!」
氏んだ者は生き返らない。
それは絶対だ。ならば今目の前にいる番外個体と名乗る少女はどういうことなのだろう。
そう、氏んだら終わり。それは確かに間違いない。
如何にゲテモノの揃った学園都市でも、魔法と区別のつかないほどの科学に溢れたこの街でもそれは変わらない。
だが。逆に言えば氏んでいない限りは問題ないのだ。
たとえ全身をミンチにされようとも、脳さえ残っていれば復元できてしまう。
要するにそういうことだった。
122: 2013/07/27(土) 23:18:43.46 ID:gRlj8sfM0
「そうだね。ミサカはやられた。デカイ車両に押し潰されて。
でもさ、あの時の一方通行って今みたいに細かくないよね?
いちいち相手がちゃんと氏んだかなんて確認はしない。
ならぎりぎりのところで命を繋いだミサカがいてもおかしくはないと思わない?」
あり得るのかもしれない、と美琴は幻のように曖昧に揺れる思考の中で思った。
そこには多分に願望が含まれている。生きていてほしい、という。
けれどたしかに一方通行の戦い方は荒くて。そういう『取りこぼし』があっても不思議ではないと思ってしまう。
だから九九八二号は生きていた。生きているんだと。
「そうやってミサカは復元されて、“生き返った”。
お姉様のために、お姉様のためだけにね」
その言葉には黒い感情が込められていて、気付けば穏やかな笑顔は剥がれ落ちていた。
それだけで美琴は思い知らされる。九九八二号が復元されたのは、自分を更に苦しめるためだということに。
もはや簡単な計算すらも解けないほどに美琴の思考力は低下し、精神はボロボロで、心は砕けかけていた。
だからこそ。
御坂美琴は番外個体の言葉が全て嘘であることに気付けない。
美琴は気付かない。
番外個体は番外個体という新たな妹達であって、決して九九八二号などではないことに。
美琴は気付かない。
そもそも妹達を二万体、二万通りの戦闘シナリオで『殺害』することで成就するあの『実験』においてそんな『取りこぼし』など起きるはずがないことに。
美琴は気付かない。
そんなことがあれば『実験』のシナリオは崩れてしまうことに。だからこそ確実に一方通行と戦った妹達は氏んでいることに。
美琴は気付かない。
たとえそうして生き残っていたとしても、その体が今に至るまで丁寧に保管などされているはずがないことに。
全ては美琴を破壊するためのテレスティーナ=木原=ライフラインの策略だった。
自分の手で美琴を痛めつけたいという欲望を我慢してでも、味あわせたい地獄だった。
でもさ、あの時の一方通行って今みたいに細かくないよね?
いちいち相手がちゃんと氏んだかなんて確認はしない。
ならぎりぎりのところで命を繋いだミサカがいてもおかしくはないと思わない?」
あり得るのかもしれない、と美琴は幻のように曖昧に揺れる思考の中で思った。
そこには多分に願望が含まれている。生きていてほしい、という。
けれどたしかに一方通行の戦い方は荒くて。そういう『取りこぼし』があっても不思議ではないと思ってしまう。
だから九九八二号は生きていた。生きているんだと。
「そうやってミサカは復元されて、“生き返った”。
お姉様のために、お姉様のためだけにね」
その言葉には黒い感情が込められていて、気付けば穏やかな笑顔は剥がれ落ちていた。
それだけで美琴は思い知らされる。九九八二号が復元されたのは、自分を更に苦しめるためだということに。
もはや簡単な計算すらも解けないほどに美琴の思考力は低下し、精神はボロボロで、心は砕けかけていた。
だからこそ。
御坂美琴は番外個体の言葉が全て嘘であることに気付けない。
美琴は気付かない。
番外個体は番外個体という新たな妹達であって、決して九九八二号などではないことに。
美琴は気付かない。
そもそも妹達を二万体、二万通りの戦闘シナリオで『殺害』することで成就するあの『実験』においてそんな『取りこぼし』など起きるはずがないことに。
美琴は気付かない。
そんなことがあれば『実験』のシナリオは崩れてしまうことに。だからこそ確実に一方通行と戦った妹達は氏んでいることに。
美琴は気付かない。
たとえそうして生き残っていたとしても、その体が今に至るまで丁寧に保管などされているはずがないことに。
全ては美琴を破壊するためのテレスティーナ=木原=ライフラインの策略だった。
自分の手で美琴を痛めつけたいという欲望を我慢してでも、味あわせたい地獄だった。
123: 2013/07/27(土) 23:21:58.42 ID:gRlj8sfM0
「ミサカたちはアンタのせいで生み出された。別に生まれたくもなかったのに、無理矢理に生み出されてしまった。
挙句氏んでも氏なせてもらえずに強引に蘇生された。アンタを頃すためだけに生き返らせられた。
最終信号からの信号を遮断するために、皮膚を切り開いて『シート』や『セレクター』を埋め込まれた。
この左足だって一緒に再生されたのに、お姉様のためだけにまた切断された」
生まれたくもなかったのに、生み出されてしまった。
それはお前のせいだ。お前のせいでこんな目に遭っているんだ。
番外個体……美琴からすれば九九八二号から吐きかけられたそんな言葉は、既に限界だと思っていた心を更に深く抉る。
一緒に過ごして、一緒に食べて、一緒に笑って。
そんな妹達からかけられる拒絶と怨嗟。
「―――……ぅ、あ、ああぁぁあぁ、あああぁぁぁあぁあぁぁぁ……」
お願いだから。お願いだから、やめてくれ。
これ以上は、駄目だ。もう耐えられない。
「アンタさえいなければこんなことにはならなかった。
アンタがそんな選択をしなければこんなことにはならなかった。
アンタがDNAマップを渡さなければ。アンタがそんな大きな力を持っていなければ。
……アンタが生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。
生まれてくるにしてもこんな未来のない生まれ方じゃなかった」
番外個体の口から出てくる言葉は、一つ一つが鋭利な針のように美琴を突き刺す。
そのドロドロとしたものに塗れた言葉が耳を打ち、その悪意が衝撃となって美琴の全身を打ちのめす。
これが学園都市の『闇』。これが『木原』。美琴は、何も分かっていなかった。
どこかで決め付けがあったのかもしれない。
いくらこの街の連中とはいえ、そこまではしないだろうと。
過去幾度か垣間見た学園都市の『闇』。
それでも氏者まで利用したりはしないと思っていたのかもしれない。
だが『木原』はそんな美琴の考えを平気で踏み越えていく。
挙句氏んでも氏なせてもらえずに強引に蘇生された。アンタを頃すためだけに生き返らせられた。
最終信号からの信号を遮断するために、皮膚を切り開いて『シート』や『セレクター』を埋め込まれた。
この左足だって一緒に再生されたのに、お姉様のためだけにまた切断された」
生まれたくもなかったのに、生み出されてしまった。
それはお前のせいだ。お前のせいでこんな目に遭っているんだ。
番外個体……美琴からすれば九九八二号から吐きかけられたそんな言葉は、既に限界だと思っていた心を更に深く抉る。
一緒に過ごして、一緒に食べて、一緒に笑って。
そんな妹達からかけられる拒絶と怨嗟。
「―――……ぅ、あ、ああぁぁあぁ、あああぁぁぁあぁあぁぁぁ……」
お願いだから。お願いだから、やめてくれ。
これ以上は、駄目だ。もう耐えられない。
「アンタさえいなければこんなことにはならなかった。
アンタがそんな選択をしなければこんなことにはならなかった。
アンタがDNAマップを渡さなければ。アンタがそんな大きな力を持っていなければ。
……アンタが生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。
生まれてくるにしてもこんな未来のない生まれ方じゃなかった」
番外個体の口から出てくる言葉は、一つ一つが鋭利な針のように美琴を突き刺す。
そのドロドロとしたものに塗れた言葉が耳を打ち、その悪意が衝撃となって美琴の全身を打ちのめす。
これが学園都市の『闇』。これが『木原』。美琴は、何も分かっていなかった。
どこかで決め付けがあったのかもしれない。
いくらこの街の連中とはいえ、そこまではしないだろうと。
過去幾度か垣間見た学園都市の『闇』。
それでも氏者まで利用したりはしないと思っていたのかもしれない。
だが『木原』はそんな美琴の考えを平気で踏み越えていく。
124: 2013/07/27(土) 23:28:41.71 ID:gRlj8sfM0
「なんで妹達は氏んだのに、アンタは生きてんの?」
九九八二号の仮面をつけた番外個体は悪意の弾丸を次々と撃ち出していく。
「ミサカたちじゃなくてアンタが氏ねばよかったのに」
御坂美琴を完全に、文字通り完璧に破壊し尽すために。
「お姉様に分かる? 生まれた日には既に氏ぬ日が決められていた気持ちが」
そこで、ついに美琴の精神力が根負けした。
もともと人間には防衛機能としてこういう時には心を閉じる能力がある。
それ以上の傷を受けないために、心を保つために。
美琴はそれを強靭な精神力によって無理矢理に抑え付けていた。
そこにあるのは莫大な自責の念と燃え上がるような自己嫌悪。
全て、何もかも全部が自分のせい。だから番外個体の言葉から耳を背けてはいけない。
第一位が妹達から親しげにされることが苦痛ならば、美琴は妹達に拒絶されることこそが苦痛。
一方通行に言ったように、つらい道から逃げてはいけない。
その一心で何とか抑えていた。
「だからミサカには糾弾する権利がある。このミサカを助けてくれなかったお姉様を頃すべき理由がある」
だがついに。ついに美琴の精神力が打ち負けて。
人体に備えられた防衛機能が働いた。
これ以上のダメージを防ぐための一番簡単かつ効果的な方法は何か?
そんなこと、決まっている。
番外個体を排除する。
「…………ッ!!」
いや、頃す必要はない。ただ気絶させるだけでいい。
美琴の体が本人の意思とはほとんど無関係に動く。
ばっ、と勢いよく右腕を振り上げる。
番外個体の言っていることは全て正しい。
美琴は九九八二号を助けられなかった。だから殺されても仕方ない。
九九八二号の仮面をつけた番外個体は悪意の弾丸を次々と撃ち出していく。
「ミサカたちじゃなくてアンタが氏ねばよかったのに」
御坂美琴を完全に、文字通り完璧に破壊し尽すために。
「お姉様に分かる? 生まれた日には既に氏ぬ日が決められていた気持ちが」
そこで、ついに美琴の精神力が根負けした。
もともと人間には防衛機能としてこういう時には心を閉じる能力がある。
それ以上の傷を受けないために、心を保つために。
美琴はそれを強靭な精神力によって無理矢理に抑え付けていた。
そこにあるのは莫大な自責の念と燃え上がるような自己嫌悪。
全て、何もかも全部が自分のせい。だから番外個体の言葉から耳を背けてはいけない。
第一位が妹達から親しげにされることが苦痛ならば、美琴は妹達に拒絶されることこそが苦痛。
一方通行に言ったように、つらい道から逃げてはいけない。
その一心で何とか抑えていた。
「だからミサカには糾弾する権利がある。このミサカを助けてくれなかったお姉様を頃すべき理由がある」
だがついに。ついに美琴の精神力が打ち負けて。
人体に備えられた防衛機能が働いた。
これ以上のダメージを防ぐための一番簡単かつ効果的な方法は何か?
そんなこと、決まっている。
番外個体を排除する。
「…………ッ!!」
いや、頃す必要はない。ただ気絶させるだけでいい。
美琴の体が本人の意思とはほとんど無関係に動く。
ばっ、と勢いよく右腕を振り上げる。
番外個体の言っていることは全て正しい。
美琴は九九八二号を助けられなかった。だから殺されても仕方ない。
125: 2013/07/27(土) 23:38:15.38 ID:gRlj8sfM0
それでも、もう擦り切れてズタズタに引き裂かれて瓦解した美琴の心と精神は、まともな判断能力を発揮できない。
自分は殺されれば、今生きている妹達が殺される。一万人全員が殺される。
つまり、一方通行と再会した時と同じだ。
誰も氏なせずに場を収めることなど不可能。
突きつけられた選択肢は以下の二つ。
今いる妹達を守るために、番外個体を頃すか。
番外個体を殺さずに、一万人の妹達が殺されることを許容するか。
一方通行と再会した時と、同じだ。
もう、諦めるしかないのだ。
それ以外の道を探そうなどという気力はもうなかった。
御坂美琴は一四歳の女の子で、思春期を迎えた中学生でしかないのだから。
ここまで徹底的に追い詰められて、嬲られて、まともでいられるわけはない。
だからこそ。御坂美琴は半ば無意識に、振り上げた腕を番外個体へと振り下ろす。
気絶させるために。攻撃するために。妹達を傷つけるために。
四億ボルトの電撃だろうが、妹達の一人だろうが、所詮はオリジナルの劣化でしかない。
たかが雑魚の一匹二匹でどうにかできるわけがないのだ。学園都市第三位が本気になればその程度は容易い。
けれど。
「怖いよ。助けて。痛いのはもう嫌だ」
「―――……っ!!」
それだけ。たったそれだけの言葉で、精神が擦り切れたはずの御坂美琴の腕がピタッ、と止まった。
その茶色い二つの瞳からは流さないはずの透明な液体が零れている。
右腕を振り上げたまま固まってしまった美琴に、番外個体は容赦なく追い討ちをかける。
自分は殺されれば、今生きている妹達が殺される。一万人全員が殺される。
つまり、一方通行と再会した時と同じだ。
誰も氏なせずに場を収めることなど不可能。
突きつけられた選択肢は以下の二つ。
今いる妹達を守るために、番外個体を頃すか。
番外個体を殺さずに、一万人の妹達が殺されることを許容するか。
一方通行と再会した時と、同じだ。
もう、諦めるしかないのだ。
それ以外の道を探そうなどという気力はもうなかった。
御坂美琴は一四歳の女の子で、思春期を迎えた中学生でしかないのだから。
ここまで徹底的に追い詰められて、嬲られて、まともでいられるわけはない。
だからこそ。御坂美琴は半ば無意識に、振り上げた腕を番外個体へと振り下ろす。
気絶させるために。攻撃するために。妹達を傷つけるために。
四億ボルトの電撃だろうが、妹達の一人だろうが、所詮はオリジナルの劣化でしかない。
たかが雑魚の一匹二匹でどうにかできるわけがないのだ。学園都市第三位が本気になればその程度は容易い。
けれど。
「怖いよ。助けて。痛いのはもう嫌だ」
「―――……っ!!」
それだけ。たったそれだけの言葉で、精神が擦り切れたはずの御坂美琴の腕がピタッ、と止まった。
その茶色い二つの瞳からは流さないはずの透明な液体が零れている。
右腕を振り上げたまま固まってしまった美琴に、番外個体は容赦なく追い討ちをかける。
126: 2013/07/27(土) 23:41:16.26 ID:gRlj8sfM0
「何、その手? その手でミサカを攻撃するの?」
怯えた子供のようにポロポロと泣きながら震える美琴に、とどめを刺す。
とてもではないが一四歳の女の子に耐えられるような衝撃ではなかった。
いや、そもそもまともな人間の精神力で凌げるものではない。
御坂美琴という人間の性質を理解した上で、ダイレクトにその衝撃を叩きつけたのだから。
「いいよ、やればいい。そして殺せばいいよ。一万三一回ミサカを頃したみたいにね。
もう一万頃してるんだ、今さら一人くらい増えたってどうってことないでしょ?」
その言葉は、完全に美琴を叩きのめした。
もう美琴には番外個体に攻撃するなんて出来なくて。
ただ絶望した。何でもいい、何でもいいから何かに縋りつきたかった。
「―――う、ああ、あぁぁぁぁああぁぁぁああああ……!!」
目の前に蜘蛛の糸一本でも垂らされれば、躊躇なく掴むだろう。
徹底的に打ちのめされて、壊されて、傷つけられて、美琴の心は氏んでいった。
もはや美琴の強靭な精神力は見る影もない。
歳相応、いや、それ以下。あまりにも狂気的な暴力は御坂美琴の心を破壊し尽くしてしまった。
どれだけ強い精神力を持っていようと、どれだけ強靭な心を持っていようと、どれだけ真っ直ぐな信念を持っていようと。
人間である限り、必ず限界はある。
そんな美琴に番外個体は態度を一変させ、優しく美琴の頬を手で撫でる。
そしていっそ不気味なほどに穏やかな声色で言った。
「ねえ。お姉様は一億もの負債に対して一円ずつ返していっている。
けどそれじゃ一生かかっても払い切れやしない。
一億を返す方法があるのならすぐにでも飛びつきたい。違う?」
美琴は泣きながら、嗚咽を漏らしながらただこくこくと頷いた。
それはあまりにも痛々しい光景で。完全に心を砕かれた少女の姿がそこにあった。
怯えた子供のようにポロポロと泣きながら震える美琴に、とどめを刺す。
とてもではないが一四歳の女の子に耐えられるような衝撃ではなかった。
いや、そもそもまともな人間の精神力で凌げるものではない。
御坂美琴という人間の性質を理解した上で、ダイレクトにその衝撃を叩きつけたのだから。
「いいよ、やればいい。そして殺せばいいよ。一万三一回ミサカを頃したみたいにね。
もう一万頃してるんだ、今さら一人くらい増えたってどうってことないでしょ?」
その言葉は、完全に美琴を叩きのめした。
もう美琴には番外個体に攻撃するなんて出来なくて。
ただ絶望した。何でもいい、何でもいいから何かに縋りつきたかった。
「―――う、ああ、あぁぁぁぁああぁぁぁああああ……!!」
目の前に蜘蛛の糸一本でも垂らされれば、躊躇なく掴むだろう。
徹底的に打ちのめされて、壊されて、傷つけられて、美琴の心は氏んでいった。
もはや美琴の強靭な精神力は見る影もない。
歳相応、いや、それ以下。あまりにも狂気的な暴力は御坂美琴の心を破壊し尽くしてしまった。
どれだけ強い精神力を持っていようと、どれだけ強靭な心を持っていようと、どれだけ真っ直ぐな信念を持っていようと。
人間である限り、必ず限界はある。
そんな美琴に番外個体は態度を一変させ、優しく美琴の頬を手で撫でる。
そしていっそ不気味なほどに穏やかな声色で言った。
「ねえ。お姉様は一億もの負債に対して一円ずつ返していっている。
けどそれじゃ一生かかっても払い切れやしない。
一億を返す方法があるのならすぐにでも飛びつきたい。違う?」
美琴は泣きながら、嗚咽を漏らしながらただこくこくと頷いた。
それはあまりにも痛々しい光景で。完全に心を砕かれた少女の姿がそこにあった。
127: 2013/07/27(土) 23:44:06.02 ID:gRlj8sfM0
「あるよ。一億の負債を一括で返済する方法が」
それは、今の美琴にはあまりに魅力的な誘惑だった。
「―――な、っに、それ、教え、て」
言葉すらももうまともに紡げない。
番外個体は美琴の耳元で、甘い声で誘う。
「決まってるじゃない。お姉様はミサカたちを頃したんだから、今度はミサカがアンタを頃すんだよ。
それでいいよ。妹達でありお姉様のせいで氏んだ九九八二号だったこのミサカが言うんだから。
―――ミサカのために氏んで、お姉様」
それはある二人の男女を唆した蛇のような狡猾さ。
あまりにも甘く、魅力的で、思わず手を伸ばさずにはいられない甘美な誘惑。
極限の飢餓状態の人間の目の前にパンを置かれれば、理由もなく手を伸ばしてしまうのと同じ。
いつもの美琴ならば断ち切れるだろう。だが今の美琴は憔悴しきっている。
善も悪も一も二もプラスもマイナスも何も判断できないほどに、追い詰められている。
そんな中で美琴は精一杯考えた。残されたちっぽけな思考力をかき集めた。
(そもそも何であんな『実験』が行われたんだっけ)
お前のせいだ。
(あの子たちが作られたのは……)
お前の不注意のせいだ。
(この子が無理矢理に再生させられたのは)
お前がいたからだ。
(あの子たちが一万人も氏んでしまったのは)
お前が原因だ。
それは、今の美琴にはあまりに魅力的な誘惑だった。
「―――な、っに、それ、教え、て」
言葉すらももうまともに紡げない。
番外個体は美琴の耳元で、甘い声で誘う。
「決まってるじゃない。お姉様はミサカたちを頃したんだから、今度はミサカがアンタを頃すんだよ。
それでいいよ。妹達でありお姉様のせいで氏んだ九九八二号だったこのミサカが言うんだから。
―――ミサカのために氏んで、お姉様」
それはある二人の男女を唆した蛇のような狡猾さ。
あまりにも甘く、魅力的で、思わず手を伸ばさずにはいられない甘美な誘惑。
極限の飢餓状態の人間の目の前にパンを置かれれば、理由もなく手を伸ばしてしまうのと同じ。
いつもの美琴ならば断ち切れるだろう。だが今の美琴は憔悴しきっている。
善も悪も一も二もプラスもマイナスも何も判断できないほどに、追い詰められている。
そんな中で美琴は精一杯考えた。残されたちっぽけな思考力をかき集めた。
(そもそも何であんな『実験』が行われたんだっけ)
お前のせいだ。
(あの子たちが作られたのは……)
お前の不注意のせいだ。
(この子が無理矢理に再生させられたのは)
お前がいたからだ。
(あの子たちが一万人も氏んでしまったのは)
お前が原因だ。
128: 2013/07/27(土) 23:44:57.15 ID:gRlj8sfM0
(……あれ。全部、私なんだ)
結局これまで起きた全ての悲劇は。これから起きるあらゆる悲劇は。
全部御坂美琴がきっかけで、御坂美琴のせいで起きる。
生きていても周りに災厄しかもたらさない。
氏んだ方が平和になる。少なくとも妹達はそれを望んでいる。
これまで妹達のお願いを聞いてやることはほとんどできていない。
一万人を助けることも、できなかった。
それでも。これは叶えてやれるんじゃないか。
自分が氏ねば妹達の望みは叶えられる。
(―――なんだ、簡単じゃない)
氏ねばいいんだ。
美琴が超能力者じゃなければ、美琴がこんな強い力を持たなければ。
美琴がDNAマップを渡さなければ。美琴が学園都市に来なければ。
美琴が選択を誤らなければ。……御坂美琴がこの世に生まれてこなければ。
(そうなら全部、上手くいってたんだ。この子がこんなに苦しめられることもなかったんだ)
だから、御坂美琴は今ここで氏ぬべきだ。
自分は生きていてはいけない存在なのだ。
生まれるべきではなかった命なのだ。
世界からその氏を望まれる人間なのだ。
……まるで、氏神。
結局これまで起きた全ての悲劇は。これから起きるあらゆる悲劇は。
全部御坂美琴がきっかけで、御坂美琴のせいで起きる。
生きていても周りに災厄しかもたらさない。
氏んだ方が平和になる。少なくとも妹達はそれを望んでいる。
これまで妹達のお願いを聞いてやることはほとんどできていない。
一万人を助けることも、できなかった。
それでも。これは叶えてやれるんじゃないか。
自分が氏ねば妹達の望みは叶えられる。
(―――なんだ、簡単じゃない)
氏ねばいいんだ。
美琴が超能力者じゃなければ、美琴がこんな強い力を持たなければ。
美琴がDNAマップを渡さなければ。美琴が学園都市に来なければ。
美琴が選択を誤らなければ。……御坂美琴がこの世に生まれてこなければ。
(そうなら全部、上手くいってたんだ。この子がこんなに苦しめられることもなかったんだ)
だから、御坂美琴は今ここで氏ぬべきだ。
自分は生きていてはいけない存在なのだ。
生まれるべきではなかった命なのだ。
世界からその氏を望まれる人間なのだ。
……まるで、氏神。
129: 2013/07/27(土) 23:47:12.61 ID:gRlj8sfM0
(私が氏ねば、いいのか)
勝手に作られ、下らない『実験』に使い潰された妹達はどれほど生きた。
三ヶ月、四ヶ月? とにかくたった数ヶ月で氏を迎えた。
それに比べて美琴はどうだろう。
自分は今、何歳だっけ?
(……ああ、そういえば一四だっけ)
道端に落ちているゴミと同じような感覚。
もはや今の美琴にとって自分の年齢などそれと同じくらいどうでもよかった。
とにかく一四歳だ。御坂美琴がこの世に生まれて『しまって』一四年が経った。
(あれ。何で私、こんなに長生きしてるんだろう)
たった数ヶ月で氏んだ妹達と比べて、それはあまりに長い月日。
春が過ぎ夏を迎え、秋が去って冬が来る。そんな春夏秋冬を一四度も過ごした。
誕生日は一四回も迎えたし、幼稚園は卒園して小学校も卒業し、中学校に入学もした。
(もう、十分だよね)
もう十分生きた。
一四年も人生を過ごした。
もう、いい。これ以上生きていたいとは思わない。
誕生日も、正月も、クリスマスも、夏休みも、節分も、七夕も。
全部全部経験した。一四回も経験した。
もういい。一五度目の誕生日なんていらない。七夕も正月も一四回で十分だ。
(長生きした)
一四年も生きた。
だからこそ。
崩れて壊れて擦り切れた少女は。
学園都市の悪意と『木原』の狂気が、御坂美琴に最悪の決断を下させた。
勝手に作られ、下らない『実験』に使い潰された妹達はどれほど生きた。
三ヶ月、四ヶ月? とにかくたった数ヶ月で氏を迎えた。
それに比べて美琴はどうだろう。
自分は今、何歳だっけ?
(……ああ、そういえば一四だっけ)
道端に落ちているゴミと同じような感覚。
もはや今の美琴にとって自分の年齢などそれと同じくらいどうでもよかった。
とにかく一四歳だ。御坂美琴がこの世に生まれて『しまって』一四年が経った。
(あれ。何で私、こんなに長生きしてるんだろう)
たった数ヶ月で氏んだ妹達と比べて、それはあまりに長い月日。
春が過ぎ夏を迎え、秋が去って冬が来る。そんな春夏秋冬を一四度も過ごした。
誕生日は一四回も迎えたし、幼稚園は卒園して小学校も卒業し、中学校に入学もした。
(もう、十分だよね)
もう十分生きた。
一四年も人生を過ごした。
もう、いい。これ以上生きていたいとは思わない。
誕生日も、正月も、クリスマスも、夏休みも、節分も、七夕も。
全部全部経験した。一四回も経験した。
もういい。一五度目の誕生日なんていらない。七夕も正月も一四回で十分だ。
(長生きした)
一四年も生きた。
だからこそ。
崩れて壊れて擦り切れた少女は。
学園都市の悪意と『木原』の狂気が、御坂美琴に最悪の決断を下させた。
130: 2013/07/27(土) 23:48:01.10 ID:gRlj8sfM0
「――――――分かった。アンタに殺されるなら、むしろ本望よ」
131: 2013/07/27(土) 23:48:59.35 ID:gRlj8sfM0
結局、御坂美琴は学園都市の悪意に打ちのめされて。
『木原』には、勝てなかった。
「よく言ったね。それでこそミサカのお姉様だよ」
醜く顔を歪め、番外個体は美琴の顔を殴りつける。
美琴は抵抗しない。それどころか完全に全身から力を抜いており、だらりと四肢は投げ出されている。
番外個体はそんな美琴の顔を、肩を、胸を、腹を、足を。
容赦なく殴りつけて、蹴り飛ばして、踏みつけていく。
御坂美琴の心は完全に氏んでいた。
132: 2013/07/27(土) 23:50:22.96 ID:gRlj8sfM0
・
・
・
「くくっ、何が足掻くだよ廃人野郎が。テメェがんなことしても無駄に終わるに決まってんだろ。
ちょっとばかし盛り上げてやるからよ、もっとイイ面見せてくれや」
木原数多が取り出したのは小型の拳銃だった。
何の変哲もないただの銃。指先一つで人を殺せる凶悪な武器。だからこそ、
(……何考えてンだコイツ)
疑問を感じざるを得ない。
当たり前に人を殺せる武器だからこそ、撃たれればそれはそのまま木原本人へと跳ね返るだろう。
『反射』。それは鉛弾一つでどうにかなるものではない。
あれを撃てば傷つくのは一方通行ではなく木原で、けれど何か拭いきれない嫌な予感。
改めて銃身を観察した一方通行は気付いた。
黒光りするそこに『Made_in_KIHARA』という文字が刻印されていることに。
そもそもの話。
一方通行を能力開発した張本人である木原数多が。誰よりも第一位を知り尽くす木原が。
拳を引き戻すという特殊な術を編み出したり、演算を的確に乱す音波を用意していた木原が。
一方通行に向けて銃口を向ける意味を、理解していないなんてことがあり得るか?
133: 2013/07/27(土) 23:50:53.11 ID:gRlj8sfM0
(―――まさか)
そう思った時には既に引き金は引かれていた。
パァン!! という発砲音。対する一方通行は能力を全開にし、これをぎりぎりのところで回避する。
そう、“回避”だ。木原がこの後に及んで銃を取り出した意味に感づいた以上食らうわけにはいかない。
大きく身を捻る。銃弾は外されてその後ろにある壁にめり込んだが、同時に一方通行の体勢も不安定な形に崩れる。
そしてそれを木原は見逃さない。
ほとんど一瞬で距離をゼロにまで詰め、その無防備に晒された顎をつま先でアッパーのように蹴り上げる。
あまりにも動きが滑らかすぎる。やはり一方通行の行動を先読みできるという事実が、圧倒的に木原を優位な立場へと押し上げていた。
「どうしたよ一方通行、ずいぶん無様じゃねぇか。これじゃ全然面白くねぇよ、もっと本気でやってくれや」
もはや何度目か分からない。床に倒れ込んだ一方通行に木原はその冷たい銃口を向けて引き金を引く。
一方通行はそのままごろごろと床を転がる形でそれを回避し、ベクトルを操作することで不自然な挙動で一瞬で立ち上がった。
だがその瞬間に左肩に鈍い衝撃。今までの一撃とは違う、鈍器で殴られたような感覚だった。
「がァァァあああああ!!」
「あっれぇー、それとも本気でやってこの様だったかなぁ!?
ごっめんねぇ、だったら悪いこと言ったなぁ。許してくれや。ぎゃははははは!!」
木原の手には拳銃。それで殴られたのだ、と一方通行は瞬時に理解する。
どうやら木原数多の『反射』をすり抜ける術は拳だけではなく、武器でも可能らしい。
だが一方通行は今度は倒れない。力ずくで痛みを押し留め、反撃する。
咄嗟に放った右手が木原の持つ銃身に触れた。その瞬間、拳銃がいくつものパーツに分かれてバラバラに砕け散った。
これで危険な武器は潰した。木原はそれに驚いたのか動きが止まっている。
(これで終わりだクソったれ!!)
その隙をついて一方通行は左の毒手を突き立てる。
それで終わりだ。一方通行の能力はありとあらゆる『向き』―――ベクトルを操ること。
毛細血管から血流を、体表面から生体電気の流れを逆流させれば木原数多は文字通り弾け飛ぶ。
そう思った時には既に引き金は引かれていた。
パァン!! という発砲音。対する一方通行は能力を全開にし、これをぎりぎりのところで回避する。
そう、“回避”だ。木原がこの後に及んで銃を取り出した意味に感づいた以上食らうわけにはいかない。
大きく身を捻る。銃弾は外されてその後ろにある壁にめり込んだが、同時に一方通行の体勢も不安定な形に崩れる。
そしてそれを木原は見逃さない。
ほとんど一瞬で距離をゼロにまで詰め、その無防備に晒された顎をつま先でアッパーのように蹴り上げる。
あまりにも動きが滑らかすぎる。やはり一方通行の行動を先読みできるという事実が、圧倒的に木原を優位な立場へと押し上げていた。
「どうしたよ一方通行、ずいぶん無様じゃねぇか。これじゃ全然面白くねぇよ、もっと本気でやってくれや」
もはや何度目か分からない。床に倒れ込んだ一方通行に木原はその冷たい銃口を向けて引き金を引く。
一方通行はそのままごろごろと床を転がる形でそれを回避し、ベクトルを操作することで不自然な挙動で一瞬で立ち上がった。
だがその瞬間に左肩に鈍い衝撃。今までの一撃とは違う、鈍器で殴られたような感覚だった。
「がァァァあああああ!!」
「あっれぇー、それとも本気でやってこの様だったかなぁ!?
ごっめんねぇ、だったら悪いこと言ったなぁ。許してくれや。ぎゃははははは!!」
木原の手には拳銃。それで殴られたのだ、と一方通行は瞬時に理解する。
どうやら木原数多の『反射』をすり抜ける術は拳だけではなく、武器でも可能らしい。
だが一方通行は今度は倒れない。力ずくで痛みを押し留め、反撃する。
咄嗟に放った右手が木原の持つ銃身に触れた。その瞬間、拳銃がいくつものパーツに分かれてバラバラに砕け散った。
これで危険な武器は潰した。木原はそれに驚いたのか動きが止まっている。
(これで終わりだクソったれ!!)
その隙をついて一方通行は左の毒手を突き立てる。
それで終わりだ。一方通行の能力はありとあらゆる『向き』―――ベクトルを操ること。
毛細血管から血流を、体表面から生体電気の流れを逆流させれば木原数多は文字通り弾け飛ぶ。
134: 2013/07/27(土) 23:51:31.54 ID:gRlj8sfM0
「あのよ、まだ分かってねぇみたいだからはっきり言ってやろうか?
無駄なんだよ、俺に勝とうなんて。テメェなんかがどう頑張ったって」
だがそもそも木原の顔には焦りがない。
一瞬見せたはずの動揺はいつの間にか消えていて、それが演技であったことを理解させた。
腹に重い膝蹴り。思わずその膝を基点にして体をくの字に折り曲げると、その背中を思い切り殴打される。
「あの銃はブラフだバーカ。『反射』対策も何もねぇ、ただの銃だ」
「な……ッ」
つまりもし一方通行があの銃弾を受けていれば。
いつものように『反射』していれば。
そのまま木原に風穴を空けられていたということか。
だが一方通行はすぐにその可能性を否定する。
圧倒的優位に立つ木原がそんな分の悪い賭けをするはずがない。
木原数多は分かっていたのだ。『反射』を破られ、風を封じられ、動きを先読みされ。
その状況でいかにもと言った風に木原印の銃を取り出せば必ず一方通行は警戒して避ける、と。
一方通行を知り尽くしているからこその絶対の自信。一〇〇パーセントの確信を持っていたのだろう。
「ひゃは、はははははははははは!! ホンットに情けねぇな一方通行!!
何だよそのザマァ!! 超電磁砲も災難だねぇ。テメェの罪を押し付けられてよぉ」
「どの口が、ほざきやがる……。だったらあいつを俺に差し向けりゃよかっただろォが。
そォするべきだったンだ。それをオリジナルに押し付けたのはオマエだろォが!!」
木原は答えない。モニターに映っている美琴の惨状を見て、ニヤニヤと笑っていた。
御坂美琴はボロボロにされていた。肉体的な意味だけではなく、何よりも精神的に責められている。
一方通行や垣根が危惧していたことが起こってしまった。
しかもそれがどう考えても一方通行に向けられるべきものだということが一層苛立ちを掻き立てる。
『そうだね。ミサカはやられた。デカイ車両に押し潰されて。
でもさ、あの時の一方通行って今みたいに細かくないよね?
いちいち相手がちゃんと氏んだかなんて確認はしない。
ならぎりぎりのところで命を繋いだミサカがいてもおかしくはないと思わない?』
モニターの中の番外個体が自らの正体を語る。
自分は九九八二号で、学園都市によって復活させられた個体なのだと。
無駄なんだよ、俺に勝とうなんて。テメェなんかがどう頑張ったって」
だがそもそも木原の顔には焦りがない。
一瞬見せたはずの動揺はいつの間にか消えていて、それが演技であったことを理解させた。
腹に重い膝蹴り。思わずその膝を基点にして体をくの字に折り曲げると、その背中を思い切り殴打される。
「あの銃はブラフだバーカ。『反射』対策も何もねぇ、ただの銃だ」
「な……ッ」
つまりもし一方通行があの銃弾を受けていれば。
いつものように『反射』していれば。
そのまま木原に風穴を空けられていたということか。
だが一方通行はすぐにその可能性を否定する。
圧倒的優位に立つ木原がそんな分の悪い賭けをするはずがない。
木原数多は分かっていたのだ。『反射』を破られ、風を封じられ、動きを先読みされ。
その状況でいかにもと言った風に木原印の銃を取り出せば必ず一方通行は警戒して避ける、と。
一方通行を知り尽くしているからこその絶対の自信。一〇〇パーセントの確信を持っていたのだろう。
「ひゃは、はははははははははは!! ホンットに情けねぇな一方通行!!
何だよそのザマァ!! 超電磁砲も災難だねぇ。テメェの罪を押し付けられてよぉ」
「どの口が、ほざきやがる……。だったらあいつを俺に差し向けりゃよかっただろォが。
そォするべきだったンだ。それをオリジナルに押し付けたのはオマエだろォが!!」
木原は答えない。モニターに映っている美琴の惨状を見て、ニヤニヤと笑っていた。
御坂美琴はボロボロにされていた。肉体的な意味だけではなく、何よりも精神的に責められている。
一方通行や垣根が危惧していたことが起こってしまった。
しかもそれがどう考えても一方通行に向けられるべきものだということが一層苛立ちを掻き立てる。
『そうだね。ミサカはやられた。デカイ車両に押し潰されて。
でもさ、あの時の一方通行って今みたいに細かくないよね?
いちいち相手がちゃんと氏んだかなんて確認はしない。
ならぎりぎりのところで命を繋いだミサカがいてもおかしくはないと思わない?』
モニターの中の番外個体が自らの正体を語る。
自分は九九八二号で、学園都市によって復活させられた個体なのだと。
135: 2013/07/27(土) 23:52:22.60 ID:gRlj8sfM0
「……馬鹿げてやがる。ンなことあり得るわけねェだろォが」
『絶対能力進化計画』は一方通行が二万通りの戦闘シナリオで、二万体の妹達を『殺害』することで成就するもの。
かつての第一次実験―――初めての『実験』の時も妹達が氏ぬまで戦えと指示されたのをはっきりと覚えている。
取り逃がしなどあってはならない。だからこそ、一方通行は確実に頃してきた。
たしかに番外個体の言う通り当時の一方通行の戦い方は荒かったが、そこはきっちりとこなしていた。
『そうやってミサカは復元されて、“生き返った”。
お姉様のために、お姉様のためだけにね』
だから、あり得るわけがない。
九九八二号といえば途中で御坂美琴が介入した時だ。
その出来事が記憶に強く残っていたため覚えている。
一方通行は九九八二号を車体で押し潰した。確実に氏ぬように計算した。
なのに番外個体がこう言っているということは、
「木原、オマエ……ッ!!」
「おお、怖ぇ怖ぇ。んな目で睨むなよ、俺じゃねぇっつうの。
テレスティーナ=木原=ライフラインっつう超電磁砲に復讐したがってる別の『木原』のやり方だよ」
ま、面白いからいいけど。
そう楽しそうに呟いた木原に一方通行の頭が沸騰しそうになる。
この男に殺意を感じるのはこれで何度目だっただろうか。
『アンタさえいなければこんなことにはならなかった。
アンタがそんな選択をしなければこんなことにはならなかった。
アンタがDNAマップを渡さなければ。アンタがそんな大きな力を持っていなければ。
……アンタが生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。
生まれてくるにしてもこんな未来のない生まれ方じゃなかった』
(だから……っ、それは全部俺に向けるべき言葉だっつってンだよ!!)
『だからミサカには糾弾する権利がある。このミサカを助けてくれなかったお姉様を頃すべき理由がある』
(違げェンだ!! オマエたち妹達が糾弾するべきは俺なンだよ!!
必氏に足掻いて妹達のために命も捨てようとしたオリジナルと、自分の意思で一万の妹達を頃した俺。
どっちが悪いかなンて、どっちが責められるべきかなンてガキでも分かンだろォがッ!!)
『絶対能力進化計画』は一方通行が二万通りの戦闘シナリオで、二万体の妹達を『殺害』することで成就するもの。
かつての第一次実験―――初めての『実験』の時も妹達が氏ぬまで戦えと指示されたのをはっきりと覚えている。
取り逃がしなどあってはならない。だからこそ、一方通行は確実に頃してきた。
たしかに番外個体の言う通り当時の一方通行の戦い方は荒かったが、そこはきっちりとこなしていた。
『そうやってミサカは復元されて、“生き返った”。
お姉様のために、お姉様のためだけにね』
だから、あり得るわけがない。
九九八二号といえば途中で御坂美琴が介入した時だ。
その出来事が記憶に強く残っていたため覚えている。
一方通行は九九八二号を車体で押し潰した。確実に氏ぬように計算した。
なのに番外個体がこう言っているということは、
「木原、オマエ……ッ!!」
「おお、怖ぇ怖ぇ。んな目で睨むなよ、俺じゃねぇっつうの。
テレスティーナ=木原=ライフラインっつう超電磁砲に復讐したがってる別の『木原』のやり方だよ」
ま、面白いからいいけど。
そう楽しそうに呟いた木原に一方通行の頭が沸騰しそうになる。
この男に殺意を感じるのはこれで何度目だっただろうか。
『アンタさえいなければこんなことにはならなかった。
アンタがそんな選択をしなければこんなことにはならなかった。
アンタがDNAマップを渡さなければ。アンタがそんな大きな力を持っていなければ。
……アンタが生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。
生まれてくるにしてもこんな未来のない生まれ方じゃなかった』
(だから……っ、それは全部俺に向けるべき言葉だっつってンだよ!!)
『だからミサカには糾弾する権利がある。このミサカを助けてくれなかったお姉様を頃すべき理由がある』
(違げェンだ!! オマエたち妹達が糾弾するべきは俺なンだよ!!
必氏に足掻いて妹達のために命も捨てようとしたオリジナルと、自分の意思で一万の妹達を頃した俺。
どっちが悪いかなンて、どっちが責められるべきかなンてガキでも分かンだろォがッ!!)
136: 2013/07/27(土) 23:53:04.32 ID:gRlj8sfM0
しかもそのために九九八二号だなんて嘘まで吐いて。
そうまでしてあの少女を苦しめたいのか。
「いい顔するじゃねぇか一方通行。超電磁砲だって大喜びだ」
身を焼くような怒りに任せて一方通行は攻撃を仕掛ける。
が、木原は踊るような軽快な動きであっさりと回避し、カウンターを顔面に入れられる。
「ちょっと大人しくしてろ。今いいとこだろ?」
悪意の透けて見える顔で木原は笑う。
自分も相当トンでいる自覚があったが、それにしてもこいつら『木原』はレベルが違う。
人格破綻者という言葉はこの一族にこそ使うべきだと一方通行は本気で思った。
『ねえ。お姉様は一億もの負債に対して一円ずつ返していっている。
けどそれじゃ一生かかっても払い切れやしない。
一億を返す方法があるのならすぐにでも飛びつきたい。違う?』
「おお?」
『あるよ。一億の負債を一括で返済する方法が』
「おいおいおいおい。まさか山場かぁ!?」
「―――ッ」
何となく、予測できてしまった。
番外個体が何と言うつもりなのか。そして美琴がどう答えるのかまで。
『―――な、っに、それ、教え、て』
間違いであってほしいと心から思った。そう思わずにはいられなかった。
『決まってるじゃない。お姉様はミサカたちを頃したんだから、今度はミサカがアンタを頃すんだよ。
それでいいよ。妹達でありお姉様のせいで氏んだ九九八二号だったこのミサカが言うんだから。
―――ミサカのために氏んで、お姉様』
そうまでしてあの少女を苦しめたいのか。
「いい顔するじゃねぇか一方通行。超電磁砲だって大喜びだ」
身を焼くような怒りに任せて一方通行は攻撃を仕掛ける。
が、木原は踊るような軽快な動きであっさりと回避し、カウンターを顔面に入れられる。
「ちょっと大人しくしてろ。今いいとこだろ?」
悪意の透けて見える顔で木原は笑う。
自分も相当トンでいる自覚があったが、それにしてもこいつら『木原』はレベルが違う。
人格破綻者という言葉はこの一族にこそ使うべきだと一方通行は本気で思った。
『ねえ。お姉様は一億もの負債に対して一円ずつ返していっている。
けどそれじゃ一生かかっても払い切れやしない。
一億を返す方法があるのならすぐにでも飛びつきたい。違う?』
「おお?」
『あるよ。一億の負債を一括で返済する方法が』
「おいおいおいおい。まさか山場かぁ!?」
「―――ッ」
何となく、予測できてしまった。
番外個体が何と言うつもりなのか。そして美琴がどう答えるのかまで。
『―――な、っに、それ、教え、て』
間違いであってほしいと心から思った。そう思わずにはいられなかった。
『決まってるじゃない。お姉様はミサカたちを頃したんだから、今度はミサカがアンタを頃すんだよ。
それでいいよ。妹達でありお姉様のせいで氏んだ九九八二号だったこのミサカが言うんだから。
―――ミサカのために氏んで、お姉様』
137: 2013/07/27(土) 23:54:13.89 ID:gRlj8sfM0
だが現実は非情だった。予想は的中した。的中してしまった。
御坂美琴は答えない。何か逡巡しているようにも見える。
だがその顔を見ればどんなことを考えているかなど、一目で分かってしまった。
「―――おい、待て、ふざけンなよ」
頼むから、今度こそ予想が外れてほしい。
それでもあまりにもボロボロにされた美琴を見ていると、どうしても最悪の可能性が頭をよぎる。
御坂美琴という人間だからこそその選択をしてしまう危険性が高かった。
しばしの静謐。
一方通行も木原数多も、どちらも言葉を発さない。
双方共に食い入るようにモニターの中の御坂美琴を見つめていた。
もっとも二人の浮かべている表情は完全に真逆のものであるが。
どれほど静寂が続いただろうか、その沈黙は美琴が言葉を紡ぐことによって破られる。
美琴の唇が動く。番外個体の言葉に対する返事が紡がれる。
一方通行は己の心臓が破裂しそうなほどに早鐘を打っていることを自覚した。
唇は乾いていて、その聴覚は極限まで研ぎ澄まされている。今なら一キロ先の物音でさえ聞き取れそうだった。
『――――――分かった。アンタに殺されるなら、むしろ本望よ』
獣のように。世界の果てまで届くほどに咆哮しそうになった。
それを押し留められたのが奇跡だとさえ思った。
あまりにも美琴の答えが予想通りすぎて、砕けるほどに歯軋りする。
そこにあるのは憤怒に屈辱、絶望に悲哀。
結局、御坂美琴はここまで壊されてしまった。
だが。そいつは、違った。
その男は、木原数多は。笑っていた。
御坂美琴が、一人の少女が徹底的に蹂躙され精神を犯しつくされ壊れたのを見て。
限界を超えた重圧に押し潰された末のその言葉に、楽しそうに、愉しそうに、タノシソウに、笑って、嗤っていた。
御坂美琴は答えない。何か逡巡しているようにも見える。
だがその顔を見ればどんなことを考えているかなど、一目で分かってしまった。
「―――おい、待て、ふざけンなよ」
頼むから、今度こそ予想が外れてほしい。
それでもあまりにもボロボロにされた美琴を見ていると、どうしても最悪の可能性が頭をよぎる。
御坂美琴という人間だからこそその選択をしてしまう危険性が高かった。
しばしの静謐。
一方通行も木原数多も、どちらも言葉を発さない。
双方共に食い入るようにモニターの中の御坂美琴を見つめていた。
もっとも二人の浮かべている表情は完全に真逆のものであるが。
どれほど静寂が続いただろうか、その沈黙は美琴が言葉を紡ぐことによって破られる。
美琴の唇が動く。番外個体の言葉に対する返事が紡がれる。
一方通行は己の心臓が破裂しそうなほどに早鐘を打っていることを自覚した。
唇は乾いていて、その聴覚は極限まで研ぎ澄まされている。今なら一キロ先の物音でさえ聞き取れそうだった。
『――――――分かった。アンタに殺されるなら、むしろ本望よ』
獣のように。世界の果てまで届くほどに咆哮しそうになった。
それを押し留められたのが奇跡だとさえ思った。
あまりにも美琴の答えが予想通りすぎて、砕けるほどに歯軋りする。
そこにあるのは憤怒に屈辱、絶望に悲哀。
結局、御坂美琴はここまで壊されてしまった。
だが。そいつは、違った。
その男は、木原数多は。笑っていた。
御坂美琴が、一人の少女が徹底的に蹂躙され精神を犯しつくされ壊れたのを見て。
限界を超えた重圧に押し潰された末のその言葉に、楽しそうに、愉しそうに、タノシソウに、笑って、嗤っていた。
138: 2013/07/27(土) 23:57:13.54 ID:gRlj8sfM0
「……ぎゃっはははははははははははははははははははははっ!!!!!!
おいおいマジかよおい!! 聞いたかよ一方通行ぁ!! あひゃはははははは!!
やっべぇ、俺氏ぬんじゃねぇか!? 笑いすぎて氏ぬっつぅの!!
本望だってよ、息ができねぇよマジ!! ははははははははははは!!」
こいつは自分とは違う世界の住人なのではないかと、一方通行は思った。
木原数多は顔の形が変形しそうなほどに笑う。
一人の少女の終わりを祝福して笑う。
「くくく、超能力者ってのはギャグのセンスもレベル5だったのかぁ!?
芸能人でも目指してんのか超電磁砲は!? センスありすぎだろおい!!
間違いねぇよ、超電磁砲は芸能界で成功するって!! 俺が約束してやる!!
笑い氏にさせるつもりかっての!! やべぇ、俺どうやっても超電磁砲に勝てないんじゃねぇか!?」
狂ったように、壊れたように、弾けたように木原数多は笑う。
御坂美琴の全てがこの男の薄汚い言葉で汚されていく。
あまりの衝撃のせいかそれは一拍遅れてやってきて、そして爆発した。
「アアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!!!!
こっ、頃すッ!! オマエは頃す、頃してやるッ!! 絶対に頃す!!
逃がさねェ、生まれたことを後悔させてやる!! 氏んでも頃す、オマエの痕跡髪一本すら残さねェッ!!」
何か決定的なものが弾けた気がした。
唇は勝手に動き、ろくに言葉としてまとまってもいない音が吐き出される。
他者に伝達するために意味内容が形に変換される前。
生の感情が爆発していた。こうして少しでも吐き出さなければ、いや吐き出していてもどうにかなりそうだった。
一方通行は血の涙を流し、宣言するように、もう何度も口にしたその言葉を叫ぶ。
「オマエだけは絶対に頃すッ!!」
おいおいマジかよおい!! 聞いたかよ一方通行ぁ!! あひゃはははははは!!
やっべぇ、俺氏ぬんじゃねぇか!? 笑いすぎて氏ぬっつぅの!!
本望だってよ、息ができねぇよマジ!! ははははははははははは!!」
こいつは自分とは違う世界の住人なのではないかと、一方通行は思った。
木原数多は顔の形が変形しそうなほどに笑う。
一人の少女の終わりを祝福して笑う。
「くくく、超能力者ってのはギャグのセンスもレベル5だったのかぁ!?
芸能人でも目指してんのか超電磁砲は!? センスありすぎだろおい!!
間違いねぇよ、超電磁砲は芸能界で成功するって!! 俺が約束してやる!!
笑い氏にさせるつもりかっての!! やべぇ、俺どうやっても超電磁砲に勝てないんじゃねぇか!?」
狂ったように、壊れたように、弾けたように木原数多は笑う。
御坂美琴の全てがこの男の薄汚い言葉で汚されていく。
あまりの衝撃のせいかそれは一拍遅れてやってきて、そして爆発した。
「アアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!!!!
こっ、頃すッ!! オマエは頃す、頃してやるッ!! 絶対に頃す!!
逃がさねェ、生まれたことを後悔させてやる!! 氏んでも頃す、オマエの痕跡髪一本すら残さねェッ!!」
何か決定的なものが弾けた気がした。
唇は勝手に動き、ろくに言葉としてまとまってもいない音が吐き出される。
他者に伝達するために意味内容が形に変換される前。
生の感情が爆発していた。こうして少しでも吐き出さなければ、いや吐き出していてもどうにかなりそうだった。
一方通行は血の涙を流し、宣言するように、もう何度も口にしたその言葉を叫ぶ。
「オマエだけは絶対に頃すッ!!」
139: 2013/07/27(土) 23:59:06.56 ID:gRlj8sfM0
投下の終了に、人の脳を使う必要なんてあるのかしらね?
戦いもいよいよ佳境といったところでしょうか
次は軍覇サイドから
戦いもいよいよ佳境といったところでしょうか
次は軍覇サイドから
140: 2013/07/27(土) 23:59:36.27 ID:gRlj8sfM0
次回予告
「ほーら見ろ。やっぱり根性論なんかでどうにかできるわけないじゃん」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――兵頭真紀
「『表』に行くのはいいが、その温かさに馴染めずまた堕ちるのが怖いんだろ。
一度持った希望を失ってより強い絶望を味わうのが怖いんだろう」
学園都市第七位の超能力者(レベル5)―――削板軍覇
「まあここら辺で氏んでもらいましょうか。可愛いジョシコーセイに殺されるなら本望じゃないですかにゃ?」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――相園美央
「分かっちゃいたけど、ほーんとにずいぶん劣化してんだね。
ムカついて仕方ないけど、本物の第二位は比較にならないほど強かった」
新生『アイテム』構成員・学園都市第四位の超能力者(レベル5)―――麦野沈利
「結局さ、慣れてないんだよね。第二位の『未元物質』製って言うだけあって確かにそれは強力だよ。
でもそれを扱う肝心のアンタらが全く使いこなせてない。それじゃ宝の持ち腐れってヤツよ」
新生『アイテム』構成員―――フレンダ=セイヴェルン
「大丈夫だよ、ふれんだ。私はそんな風に調子に乗って失敗するふれんだを応援してる」
新生『アイテム』構成員・『能力追跡(AIMストーカー)』の大能力者(レベル4)―――滝壺理后
「超こんなはずじゃありませんでしたか?」
新生『アイテム』構成員・『窒素装甲(オフェンスアーマー)』の大能力者(レベル4)―――絹旗最愛
「おやおや。第三位が氏んだらあなたはどうなるんでしょうね?
中途半端に得た希望が摘み取られた時、あなたがどこまで堕ちるのか。これは見物ですね」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理
「……や、めろ……っ!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督
「ほーら見ろ。やっぱり根性論なんかでどうにかできるわけないじゃん」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――兵頭真紀
「『表』に行くのはいいが、その温かさに馴染めずまた堕ちるのが怖いんだろ。
一度持った希望を失ってより強い絶望を味わうのが怖いんだろう」
学園都市第七位の超能力者(レベル5)―――削板軍覇
「まあここら辺で氏んでもらいましょうか。可愛いジョシコーセイに殺されるなら本望じゃないですかにゃ?」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――相園美央
「分かっちゃいたけど、ほーんとにずいぶん劣化してんだね。
ムカついて仕方ないけど、本物の第二位は比較にならないほど強かった」
新生『アイテム』構成員・学園都市第四位の超能力者(レベル5)―――麦野沈利
「結局さ、慣れてないんだよね。第二位の『未元物質』製って言うだけあって確かにそれは強力だよ。
でもそれを扱う肝心のアンタらが全く使いこなせてない。それじゃ宝の持ち腐れってヤツよ」
新生『アイテム』構成員―――フレンダ=セイヴェルン
「大丈夫だよ、ふれんだ。私はそんな風に調子に乗って失敗するふれんだを応援してる」
新生『アイテム』構成員・『能力追跡(AIMストーカー)』の大能力者(レベル4)―――滝壺理后
「超こんなはずじゃありませんでしたか?」
新生『アイテム』構成員・『窒素装甲(オフェンスアーマー)』の大能力者(レベル4)―――絹旗最愛
「おやおや。第三位が氏んだらあなたはどうなるんでしょうね?
中途半端に得た希望が摘み取られた時、あなたがどこまで堕ちるのか。これは見物ですね」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理
「……や、めろ……っ!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督
163: 2013/08/04(日) 22:55:40.25 ID:GzD84SJ+0
ここからが反撃の時。
164: 2013/08/04(日) 22:56:16.55 ID:GzD84SJ+0
あたりに独特の臭いが立ち込める。
ナパーム。元々は、ナフテン酸とパルミチン酸を混合したアルミニウム塩を指す。
『白鰐部隊』では戦いの際によく使用されるもので、極めて広範囲を焼き払い、破壊することが可能だ。
そして異変に削板軍覇が気付いた時にはもう遅い。
「グッバイ、根性馬鹿。次はもうちょっと優秀な頭の持ち主に生まれ変われるといいね」
夜明細魚の、和軸子雛の、相園美央の、坂状友莉の、兵頭真紀の『油性兵装』が容赦なく起爆する。
熱風とガスが吹き乱れた。『白鰐部隊』によるナパームがあっという間に酸素を食らい尽くし、この空間を炎で彩った。
そしてそれとほぼ同時にゾン!! と壁に閃光が走り、バラバラと壁が破壊されていく。
ナパームによるものではない。一酸化炭素を始めとする有毒物質の充満するこの空間に、新鮮な酸素を引き入れるためだ。
当たり前だが彼女たちは自分の攻撃で自身を頃すような間抜けなことはしない。
急激に、大量に入り込んだ空気が有毒気体を希釈させていく。
同時にそれにより炎が更に勢いを得て燃え盛るが、ズァ!!と吹き荒ぶ烈風がそれをあっさりと吹き消してしまう。
それは『白鰐部隊』によるものではない。この場において考えられるのは一つだけ。
炎の向こうに陽炎の如く揺らめく人影が一つ。そしてその炎さえもあっさりと吹き消されてしまった。
「なんでー。生きてやがんの。折角決め台詞まで考えてたのにさ」
「さっきのが決め台詞だったんじゃないの?」
「あれとは別にもう一個、一度言ってみたいのがあったんだよ~」
「ほら、馬鹿はしぶといのがお決まりスから。多分体育以外何もできないでしょうし」
彼女たちの高火力ナパーム攻撃に耐えられる人間などまず存在しない。
だが逆説、少数ではあるがそれを凌げる人間も学園都市には存在する。
たとえば学園都市の頂点に立つ七人など。“この程度”ならば力技でどうとでもしてしまうのが超能力者たる由縁。
学園都市第七位の超能力者、削板軍覇はナパームによって荒れ果てた空間にしっかりと立っていた。
ナパーム。元々は、ナフテン酸とパルミチン酸を混合したアルミニウム塩を指す。
『白鰐部隊』では戦いの際によく使用されるもので、極めて広範囲を焼き払い、破壊することが可能だ。
そして異変に削板軍覇が気付いた時にはもう遅い。
「グッバイ、根性馬鹿。次はもうちょっと優秀な頭の持ち主に生まれ変われるといいね」
夜明細魚の、和軸子雛の、相園美央の、坂状友莉の、兵頭真紀の『油性兵装』が容赦なく起爆する。
熱風とガスが吹き乱れた。『白鰐部隊』によるナパームがあっという間に酸素を食らい尽くし、この空間を炎で彩った。
そしてそれとほぼ同時にゾン!! と壁に閃光が走り、バラバラと壁が破壊されていく。
ナパームによるものではない。一酸化炭素を始めとする有毒物質の充満するこの空間に、新鮮な酸素を引き入れるためだ。
当たり前だが彼女たちは自分の攻撃で自身を頃すような間抜けなことはしない。
急激に、大量に入り込んだ空気が有毒気体を希釈させていく。
同時にそれにより炎が更に勢いを得て燃え盛るが、ズァ!!と吹き荒ぶ烈風がそれをあっさりと吹き消してしまう。
それは『白鰐部隊』によるものではない。この場において考えられるのは一つだけ。
炎の向こうに陽炎の如く揺らめく人影が一つ。そしてその炎さえもあっさりと吹き消されてしまった。
「なんでー。生きてやがんの。折角決め台詞まで考えてたのにさ」
「さっきのが決め台詞だったんじゃないの?」
「あれとは別にもう一個、一度言ってみたいのがあったんだよ~」
「ほら、馬鹿はしぶといのがお決まりスから。多分体育以外何もできないでしょうし」
彼女たちの高火力ナパーム攻撃に耐えられる人間などまず存在しない。
だが逆説、少数ではあるがそれを凌げる人間も学園都市には存在する。
たとえば学園都市の頂点に立つ七人など。“この程度”ならば力技でどうとでもしてしまうのが超能力者たる由縁。
学園都市第七位の超能力者、削板軍覇はナパームによって荒れ果てた空間にしっかりと立っていた。
165: 2013/08/04(日) 22:56:47.63 ID:GzD84SJ+0
両腕を顔の前でクロスさせ、分かりやすい防御体勢を取っている。
それでも流石に無傷ではいられなかったのか体のあちこちに火傷を始めとする傷がついている。
しかしそれだけだった。ナンバーセブンは決して折れず曲がらず、強い意思の込められた瞳で五人を射抜く。
「……つかさ、あなたどうやって私たちの攻撃を防ぎました?
見てたんですが全然分からなかったんですが」
「ただ熱き根性を乗せてガードしただけだぞ?」
当然のことながら、腕で顔を庇ったくらいであれを凌げるはずがない。
腕もろとも全身吹き飛ばされるのがオチだ。
だが実際問題削板はそれに耐え切っているのだから、そこには第七位の誇る能力が働いているのは間違いないのだが……。
「……もういいや。聞いた私が馬鹿だったようです」
本人の言うところの「超すごいガード」。
相園はさっさと理解を放棄した。彼女たちはこいつは想像を遥かに超える馬鹿かもしれないと本気で思っていた。
「もう攻撃は終わりか? なら今度はこっちから行くぞ!!」
ナンバーセブンが拳を前に突き出す。
それだけの仕草で目に見えぬ衝撃波が繰り出される。
念動砲弾。削板風に言ってしまえば「すごいパンチ」である。
「それなりにマジな戦いのはずなのにこいつが相手だとどこかギャグテイストが入っちまうぜ。第二位との戦いが懐かしい」
「ともあれアンタのそれは言ったように現象としては念動力と変わらない。だから対処も可能」
ひらりと軽快にステップを踏むようにして回避する少女たち。
削板はそれを見越していたのか、かわした直後の隙を突くように一人に突撃する。
そしてその狙い通り回避の直後に生まれた僅かな隙を突かれたことで、削板の攻撃はヒットするように見えた。
だが逆にその隙を突くようにして残りの四人が一斉にあらゆる方角から襲い掛かる。
それでも流石に無傷ではいられなかったのか体のあちこちに火傷を始めとする傷がついている。
しかしそれだけだった。ナンバーセブンは決して折れず曲がらず、強い意思の込められた瞳で五人を射抜く。
「……つかさ、あなたどうやって私たちの攻撃を防ぎました?
見てたんですが全然分からなかったんですが」
「ただ熱き根性を乗せてガードしただけだぞ?」
当然のことながら、腕で顔を庇ったくらいであれを凌げるはずがない。
腕もろとも全身吹き飛ばされるのがオチだ。
だが実際問題削板はそれに耐え切っているのだから、そこには第七位の誇る能力が働いているのは間違いないのだが……。
「……もういいや。聞いた私が馬鹿だったようです」
本人の言うところの「超すごいガード」。
相園はさっさと理解を放棄した。彼女たちはこいつは想像を遥かに超える馬鹿かもしれないと本気で思っていた。
「もう攻撃は終わりか? なら今度はこっちから行くぞ!!」
ナンバーセブンが拳を前に突き出す。
それだけの仕草で目に見えぬ衝撃波が繰り出される。
念動砲弾。削板風に言ってしまえば「すごいパンチ」である。
「それなりにマジな戦いのはずなのにこいつが相手だとどこかギャグテイストが入っちまうぜ。第二位との戦いが懐かしい」
「ともあれアンタのそれは言ったように現象としては念動力と変わらない。だから対処も可能」
ひらりと軽快にステップを踏むようにして回避する少女たち。
削板はそれを見越していたのか、かわした直後の隙を突くように一人に突撃する。
そしてその狙い通り回避の直後に生まれた僅かな隙を突かれたことで、削板の攻撃はヒットするように見えた。
だが逆にその隙を突くようにして残りの四人が一斉にあらゆる方角から襲い掛かる。
166: 2013/08/04(日) 22:57:17.09 ID:GzD84SJ+0
「ぬぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」
「戦いってのはターン制じゃあないんだぜ。TCGじゃねえんだっつの!!」
黒い刃を生成し、削板を射殺さんとその黒光する鋭利な切っ先を突き出す。
人体だろうが車だろうが関係なく切断し穴を穿つそれ。
まともに食らえばダメージは免れない。
しかし削板は見た目に似合わず器用に体を動かし、二本の黒刃を両腕と両脇に挟むようにして受け止める。
更に残り二つの切っ先をナンバーセブンは両手で“受け止めた”。
「マジかよこいつ!?」
当然彼女たちの刃は人体を切り裂くことから分かるように、驚異的な切れ味を持っている。
その刃を手で掴めば逆にその五指が落ちるのが道理。
にも関わらず削板の指は血が滲んでいるものの、しっかりと押さえ込んでいた。
「やってることがっていうよりこいつの勢いがとんでもねぇな!!」
「だぁらぁぁぁっしゃあああああああ!!!!!! そうりゃあああああああ!!!!!!」
ナンバーセブンは脇に挟んで受け止めた二人を蹴り飛ばすと、手で掴んだ二人をそのままぶんぶんと振り回して放り投げる。
しかし投げ飛ばされた友莉と子雛も空中で器用に体勢を整え、そのまま壁に綺麗に着地する。
「こ、この馬鹿め。何だこいつの暑苦しさは。そういう能力なんじゃないのか」
「これ以上こんな馬鹿に付き合ってられるか。さっさとケリ着けるよ!!」
「らじゃーでーす」
五人の少女の意思に応じて周辺のオイルが一斉に蠢く。
何本もの黒い帯が生み出され、その端が空中通路や壁や天井に次々と固定されていく。
中央の部分がU字に折られおり、見ようによっては数十メートルサイズの得体の知れない花や巨大なパチンコにも見えた。
だが垣根帝督にも見せたそれは実態は全く違う。
「戦いってのはターン制じゃあないんだぜ。TCGじゃねえんだっつの!!」
黒い刃を生成し、削板を射殺さんとその黒光する鋭利な切っ先を突き出す。
人体だろうが車だろうが関係なく切断し穴を穿つそれ。
まともに食らえばダメージは免れない。
しかし削板は見た目に似合わず器用に体を動かし、二本の黒刃を両腕と両脇に挟むようにして受け止める。
更に残り二つの切っ先をナンバーセブンは両手で“受け止めた”。
「マジかよこいつ!?」
当然彼女たちの刃は人体を切り裂くことから分かるように、驚異的な切れ味を持っている。
その刃を手で掴めば逆にその五指が落ちるのが道理。
にも関わらず削板の指は血が滲んでいるものの、しっかりと押さえ込んでいた。
「やってることがっていうよりこいつの勢いがとんでもねぇな!!」
「だぁらぁぁぁっしゃあああああああ!!!!!! そうりゃあああああああ!!!!!!」
ナンバーセブンは脇に挟んで受け止めた二人を蹴り飛ばすと、手で掴んだ二人をそのままぶんぶんと振り回して放り投げる。
しかし投げ飛ばされた友莉と子雛も空中で器用に体勢を整え、そのまま壁に綺麗に着地する。
「こ、この馬鹿め。何だこいつの暑苦しさは。そういう能力なんじゃないのか」
「これ以上こんな馬鹿に付き合ってられるか。さっさとケリ着けるよ!!」
「らじゃーでーす」
五人の少女の意思に応じて周辺のオイルが一斉に蠢く。
何本もの黒い帯が生み出され、その端が空中通路や壁や天井に次々と固定されていく。
中央の部分がU字に折られおり、見ようによっては数十メートルサイズの得体の知れない花や巨大なパチンコにも見えた。
だが垣根帝督にも見せたそれは実態は全く違う。
167: 2013/08/04(日) 22:57:53.69 ID:GzD84SJ+0
「おおっ!! なんだ、すげぇな!!」
体は動くのだから妨害もできたはずだが、削板は魅入られるようにそれを黙って見ていた。
おそらくはこれが少女たちの切り札の一つであると理解した上で。
「『複合手順加算式直射弾道砲(マルチフェイズストレートハンマー)』。
ゴムの反発力、可燃性オイルの爆発力、超高速のプロペラなんかを組み合わせた高速砲弾よ」
「…………?」
「もともとは八人ワンセットで作るもんだから多少の威力減退は避けられないだろうけど、この際仕方ない。
複数の方角から超音速の大質量砲弾を放って確実に仕留める、第三位・第四位用の対抗手段。
当然七人の超能力者と戦うことを想定する『白鰐部隊』だから第七位用の戦術もあるけど、それは条件的に残念だけど今は使えない。
……けど、そんなことは関係ない。『複合手順加算式直射弾道砲』ならどこへ逃げたって確実に撃ち抜ける」
ミヂミヂミヂミヂ!! と分厚いゴムの軋む音が響く。
薄く笑いながら、冷たい声で真紀は告げる。
「既に結構ガタが来てるようだけど、お得意の根性論でどうにかしてみせろ。
それができなきゃ大人しくここで氏ね」
削板が何か言葉を返すのを待つこともせず。
ただ冷徹に、機械的に、五人の『白鰐部隊』はその砲弾の戒めを解く。
ギチギチと十分に力を蓄えた弾丸は音さえ置き去りにして猛烈にナンバーセブンへと迫る。
ズボァァアアア!! と。耳を劈くような轟音を伴って、圧倒的な衝撃がもたらされた。
『複合手順加算式直射弾道砲』。
個としての超能力者を群としての大能力者が上回るために開発された攻撃方法。
その実態は意図的に空気抵抗を強め、途中で砲弾を分解させることで面としての爆発的な衝撃を叩きつける。
その圧倒的な範囲が回避という選択肢を潰し、しかしその派手さとは裏腹に一撃で敵を仕留めるためのものではない。
『複合手順加算式直射弾道砲』に超能力者を一撃で絶命させるほどの性能はない。
ただ部分的にでも当てて標的の体力を削り取り、まずは素早い動きを封じる。
その後は連射。ひたすらに連射。分かりやすいほどのワンパターン、その単純動作の繰り返し。
地味で、安定して、そして確実に標的を始末する戦法。
徐々に、少しずつ標的の体力は削られて追い詰められていく。いずれは崖の端にまで追いやられ、それ以上下がれなくなる。
そうなれば後はその息の根を止めるだけ。
体は動くのだから妨害もできたはずだが、削板は魅入られるようにそれを黙って見ていた。
おそらくはこれが少女たちの切り札の一つであると理解した上で。
「『複合手順加算式直射弾道砲(マルチフェイズストレートハンマー)』。
ゴムの反発力、可燃性オイルの爆発力、超高速のプロペラなんかを組み合わせた高速砲弾よ」
「…………?」
「もともとは八人ワンセットで作るもんだから多少の威力減退は避けられないだろうけど、この際仕方ない。
複数の方角から超音速の大質量砲弾を放って確実に仕留める、第三位・第四位用の対抗手段。
当然七人の超能力者と戦うことを想定する『白鰐部隊』だから第七位用の戦術もあるけど、それは条件的に残念だけど今は使えない。
……けど、そんなことは関係ない。『複合手順加算式直射弾道砲』ならどこへ逃げたって確実に撃ち抜ける」
ミヂミヂミヂミヂ!! と分厚いゴムの軋む音が響く。
薄く笑いながら、冷たい声で真紀は告げる。
「既に結構ガタが来てるようだけど、お得意の根性論でどうにかしてみせろ。
それができなきゃ大人しくここで氏ね」
削板が何か言葉を返すのを待つこともせず。
ただ冷徹に、機械的に、五人の『白鰐部隊』はその砲弾の戒めを解く。
ギチギチと十分に力を蓄えた弾丸は音さえ置き去りにして猛烈にナンバーセブンへと迫る。
ズボァァアアア!! と。耳を劈くような轟音を伴って、圧倒的な衝撃がもたらされた。
『複合手順加算式直射弾道砲』。
個としての超能力者を群としての大能力者が上回るために開発された攻撃方法。
その実態は意図的に空気抵抗を強め、途中で砲弾を分解させることで面としての爆発的な衝撃を叩きつける。
その圧倒的な範囲が回避という選択肢を潰し、しかしその派手さとは裏腹に一撃で敵を仕留めるためのものではない。
『複合手順加算式直射弾道砲』に超能力者を一撃で絶命させるほどの性能はない。
ただ部分的にでも当てて標的の体力を削り取り、まずは素早い動きを封じる。
その後は連射。ひたすらに連射。分かりやすいほどのワンパターン、その単純動作の繰り返し。
地味で、安定して、そして確実に標的を始末する戦法。
徐々に、少しずつ標的の体力は削られて追い詰められていく。いずれは崖の端にまで追いやられ、それ以上下がれなくなる。
そうなれば後はその息の根を止めるだけ。
168: 2013/08/04(日) 22:58:58.84 ID:GzD84SJ+0
そしてその作戦通りに削板軍覇は追い詰められ始めていた。
爆発的な衝撃から現れたのは相変わらず理解のできない方法で攻撃を凌ぎきったナンバーセブンの姿。
しかしもともと垣根に叩きのめされた時の傷が効いているのもあり、その頑丈すぎる体に隠しきれないダメージがあった。
あまりにも想定通り。並の能力者程度なら四肢をもぎ背景ごとすり潰せる攻撃ではあるが、超能力者相手ではこれでいいのだ。
「ゲホッ、ふぅ……。何だ今の? すげぇ根性だったな」
「ほーら見ろ。やっぱり根性論なんかでどうにかできるわけないじゃん」
「やっぱそうやって平気そうにしてられるあたり、第七位も大概化け物だよね。
けどもう駄目だよ。後はひたすらに連射するだけで全ては終わる」
ギチギチと砲弾が力を蓄え、そして射出。
その砲弾は途中で自己分解し、面としての巨大な衝撃波となってナンバーセブンの全身を容赦なく打つ。
削板はただそれに耐えることしかできなかった。
その圧倒的な攻撃範囲が回避という選択肢を許容しない。
おそらく削板軍覇は選択を誤ったのだ。
回避するのなら初撃。それを確実に回避するべきだった。
初撃を食らった時点で削板の機動力は削られ、二撃目の回避の難易度を吊り上げる。
そして二撃目のダメージが三撃目を確実に食らわせる手伝いをする。
それが『白鰐部隊』の理詰めで確実で安定したワンパターンの繰り返し。
何度も、何度も、一切の加減なく『複合手順加算式直射弾道砲』が放たれる。
まずナンバーセブンの体は垣根との戦いで負ったダメージが尾を引いている。
そしてナパームによる攻撃など、その体力は確実に削られていた。
対して『白鰐部隊』側にもダメージはあるものの、削板のものよりは確実に少ない。
超電磁砲すら受け止められる彼女たちに生半可な攻撃は通用しない。
爆発的な衝撃から現れたのは相変わらず理解のできない方法で攻撃を凌ぎきったナンバーセブンの姿。
しかしもともと垣根に叩きのめされた時の傷が効いているのもあり、その頑丈すぎる体に隠しきれないダメージがあった。
あまりにも想定通り。並の能力者程度なら四肢をもぎ背景ごとすり潰せる攻撃ではあるが、超能力者相手ではこれでいいのだ。
「ゲホッ、ふぅ……。何だ今の? すげぇ根性だったな」
「ほーら見ろ。やっぱり根性論なんかでどうにかできるわけないじゃん」
「やっぱそうやって平気そうにしてられるあたり、第七位も大概化け物だよね。
けどもう駄目だよ。後はひたすらに連射するだけで全ては終わる」
ギチギチと砲弾が力を蓄え、そして射出。
その砲弾は途中で自己分解し、面としての巨大な衝撃波となってナンバーセブンの全身を容赦なく打つ。
削板はただそれに耐えることしかできなかった。
その圧倒的な攻撃範囲が回避という選択肢を許容しない。
おそらく削板軍覇は選択を誤ったのだ。
回避するのなら初撃。それを確実に回避するべきだった。
初撃を食らった時点で削板の機動力は削られ、二撃目の回避の難易度を吊り上げる。
そして二撃目のダメージが三撃目を確実に食らわせる手伝いをする。
それが『白鰐部隊』の理詰めで確実で安定したワンパターンの繰り返し。
何度も、何度も、一切の加減なく『複合手順加算式直射弾道砲』が放たれる。
まずナンバーセブンの体は垣根との戦いで負ったダメージが尾を引いている。
そしてナパームによる攻撃など、その体力は確実に削られていた。
対して『白鰐部隊』側にもダメージはあるものの、削板のものよりは確実に少ない。
超電磁砲すら受け止められる彼女たちに生半可な攻撃は通用しない。
169: 2013/08/04(日) 23:01:01.95 ID:GzD84SJ+0
そしておそらくこの場で一番削板を縛っているものはその能力の質だ。
たとえばこれが御坂美琴や垣根帝督ならば、その多様な応用力を生かして突破口を探ることができた。
だが削板の能力には第三位以上に見られる応用力はない。
勿論だからといって削板の能力が劣悪というわけではないが、少なくともこの状況においてはそれが致命的とも言えた。
「ホントーにしぶといスね。いい加減氏んどいてほしいところッスけど。脳筋は伊達じゃないみたいスねぇ」
「つーかさ、あなたは何のためにそこまでしてるの? そもそも何しにこんなとこまで来たわけ?」
何発目だか分からない『複合手順加算式直射弾道砲』を撃ったところで、細魚と真紀がそんなことを言った。
油断すると折れそうになる膝をまさに根性で支えながら、削板軍覇は答えた。
「第二位や雲川に頼まれちまったからな。
それによ、お前たちをそのままにしとくわけにもいかねーだろ」
「はぁ? 何言ってんだこいつ。馬鹿を更にこじらせた?」
「たしかに俺は頭が良くない。他の超能力者はみんなすげぇ頭が良いらしいが、俺は体育以外は成績もあまり振るわねぇ!!
だがな、それでも分かることはある。先生が言ってたんだよ、自分に注意してくれる人がいる内が花だって」
「要するに?」
「お前らを引き上げようと思う人間がいる内に、その手を掴め。
たしかにお前たちの世界はドロドロとしていて深い『闇』なんだろうさ。
でも誰かが手を伸ばしてくれりゃ、たった一本の糸が垂らされればそれを掴んで引き上げてもらうことはできるはずだ。
言っただろ、お前たちは『こっち』の味を一度知るべきだ。だからオレがその糸を垂らしてやる。
引き上げる役目は俺じゃない他の誰かだろうがな」
返事は『複合手順加算式直射弾道砲』という暴力となってすぐに返ってきた。
圧倒的な衝撃波に襲われながらも、尚ナンバーセブンは倒れない。
「下らない綺麗事を言うね。私たち『白鰐部隊』に向かって」
「大体さ、何も知らないくせに何偉そうに語ってんの?
一度旨味を知るとこれまでのもんはもう食べられなくなるしね」
たとえばこれが御坂美琴や垣根帝督ならば、その多様な応用力を生かして突破口を探ることができた。
だが削板の能力には第三位以上に見られる応用力はない。
勿論だからといって削板の能力が劣悪というわけではないが、少なくともこの状況においてはそれが致命的とも言えた。
「ホントーにしぶといスね。いい加減氏んどいてほしいところッスけど。脳筋は伊達じゃないみたいスねぇ」
「つーかさ、あなたは何のためにそこまでしてるの? そもそも何しにこんなとこまで来たわけ?」
何発目だか分からない『複合手順加算式直射弾道砲』を撃ったところで、細魚と真紀がそんなことを言った。
油断すると折れそうになる膝をまさに根性で支えながら、削板軍覇は答えた。
「第二位や雲川に頼まれちまったからな。
それによ、お前たちをそのままにしとくわけにもいかねーだろ」
「はぁ? 何言ってんだこいつ。馬鹿を更にこじらせた?」
「たしかに俺は頭が良くない。他の超能力者はみんなすげぇ頭が良いらしいが、俺は体育以外は成績もあまり振るわねぇ!!
だがな、それでも分かることはある。先生が言ってたんだよ、自分に注意してくれる人がいる内が花だって」
「要するに?」
「お前らを引き上げようと思う人間がいる内に、その手を掴め。
たしかにお前たちの世界はドロドロとしていて深い『闇』なんだろうさ。
でも誰かが手を伸ばしてくれりゃ、たった一本の糸が垂らされればそれを掴んで引き上げてもらうことはできるはずだ。
言っただろ、お前たちは『こっち』の味を一度知るべきだ。だからオレがその糸を垂らしてやる。
引き上げる役目は俺じゃない他の誰かだろうがな」
返事は『複合手順加算式直射弾道砲』という暴力となってすぐに返ってきた。
圧倒的な衝撃波に襲われながらも、尚ナンバーセブンは倒れない。
「下らない綺麗事を言うね。私たち『白鰐部隊』に向かって」
「大体さ、何も知らないくせに何偉そうに語ってんの?
一度旨味を知るとこれまでのもんはもう食べられなくなるしね」
170: 2013/08/04(日) 23:02:08.38 ID:GzD84SJ+0
「……要するに、お前たちは怖いのか」
「はい?」
「『表』に行くのはいいが、その温かさに馴染めずまた堕ちるのが怖いんだろ。
一度持った希望を失ってより強い絶望を味わうのが怖いんだろう」
「…………」
返事はまたも分かりやすい『複合手順加算式直射弾道砲』という名の暴力となって返される。
何発も何発も食らって、流石のナンバーセブンも限界が近づいていた。
『白鰐部隊』の地味で安定した確実な戦術が功を奏し始めているのだ。
だがその小さく震える膝とは対照的に、その双眸に光るのは熱く燃えるような強い意思。
絶対に曲がることのない、不屈の闘志だった。
「やってみろよ。文句も何もやってみてから言え。
足掻いて、努力して、根性出して。それでも駄目だったなら、また堕ちそうになったなら。
何度だってオレがまた手を伸ばしてやる。だからお前たちは安心して目の前の光を掴んでいい」
「不愉快だね。くたばれ脳筋」
「偉そうに上から目線でぺちゃくちゃ垂れ流しやがって。私たちはそこまで『人間』ってもんを持ってない」
「そうか。ならそれでいい、オレが一人で勝手にお前ら全員連れ戻す!!」
「細魚、美央、子雛、友莉」
ギラついた瞳で真っ直ぐに射抜く削板軍覇に、真紀が仲間たちの名前を呼ぶ。
一見威圧的に見えて、会話を遮断するのはいつだって不利な側のすることだ。
それ以上相手の言葉を聞きたくない。何も言い返せない。
だから無理矢理に暴力で黙らせる。
「着実に削り取って血の海に沈める。曖昧な希望が入り込む余地はないよ」
「まあここら辺で氏んでもらいましょうか。可愛いジョシコーセイに殺されるなら本望じゃないですかにゃ?」
「はい?」
「『表』に行くのはいいが、その温かさに馴染めずまた堕ちるのが怖いんだろ。
一度持った希望を失ってより強い絶望を味わうのが怖いんだろう」
「…………」
返事はまたも分かりやすい『複合手順加算式直射弾道砲』という名の暴力となって返される。
何発も何発も食らって、流石のナンバーセブンも限界が近づいていた。
『白鰐部隊』の地味で安定した確実な戦術が功を奏し始めているのだ。
だがその小さく震える膝とは対照的に、その双眸に光るのは熱く燃えるような強い意思。
絶対に曲がることのない、不屈の闘志だった。
「やってみろよ。文句も何もやってみてから言え。
足掻いて、努力して、根性出して。それでも駄目だったなら、また堕ちそうになったなら。
何度だってオレがまた手を伸ばしてやる。だからお前たちは安心して目の前の光を掴んでいい」
「不愉快だね。くたばれ脳筋」
「偉そうに上から目線でぺちゃくちゃ垂れ流しやがって。私たちはそこまで『人間』ってもんを持ってない」
「そうか。ならそれでいい、オレが一人で勝手にお前ら全員連れ戻す!!」
「細魚、美央、子雛、友莉」
ギラついた瞳で真っ直ぐに射抜く削板軍覇に、真紀が仲間たちの名前を呼ぶ。
一見威圧的に見えて、会話を遮断するのはいつだって不利な側のすることだ。
それ以上相手の言葉を聞きたくない。何も言い返せない。
だから無理矢理に暴力で黙らせる。
「着実に削り取って血の海に沈める。曖昧な希望が入り込む余地はないよ」
「まあここら辺で氏んでもらいましょうか。可愛いジョシコーセイに殺されるなら本望じゃないですかにゃ?」
171: 2013/08/04(日) 23:03:06.23 ID:GzD84SJ+0
既に何度も放たれた『複合手順加算式直射弾道砲』が真紀と相園を中心としてまたもギチギチと力を蓄える。
安定したワンパターン。その繰り返しが確実に標的を押し流す。
「……根性で何とかしてみせろ、って言ったよなお前。いいぜ、見せてやるよ、本物の根性ってヤツを!!」
「…………」
彼女たちはまともに取り合わなかった。
ズボァァアアア!! と施設の一部を丸ごと揺るがすほどの轟音が炸裂した。
淀んでいた空気が攪拌される。だがそれは巨大な面としての衝撃波が全てを薙ぎ払ったことによるものではない。
ナンバーセブンが念動砲弾で砲台に利用されている分厚いゴム板を固定している、空中通路や床、天井などを破壊したのだ。
強大な力を蓄えたゴム板が支えを一つ失えば、そのゴム板は金属の重たい破片を携えたままもう片方の支点へ向かって飛んでいくのは自明の理。
つまり。砲弾を構えていた兵頭真紀と相園美央に向かって複数の錘が殺到する。
「「……は?」」
二人がそんな声をあげる。
その直後に自身の『複合手順加算式直射弾道砲』が圧倒的速度で突き刺さる。
「「がァァァあああああああああああ!?」」
『油性兵装』による強固な装甲がなければ呆気なく絶命していただろう。
真紀と相園は派手に吹き飛び、強かに壁に叩きつけられそのまま力なくずるずると崩れ落ちる。
「、っの野郎……ッ!!」
何らかの力で全身を包んだ削板はそのまま進む。
一歩、二歩で絶対的な距離をあっという間にゼロにまで詰めていく。
対する友莉、細魚、子雛は予想外の事態に戸惑い反応が遅れた。
そのディレイは致命的だった。二発目の念動砲弾を食らった子雛は再度錐揉み回転しながら吹き飛ばされる。
今度こそ、子雛のダメージは甚大だった。的確に急所を突かれた子雛は叫ぶこともできずに意識を落とす。
「たしかにオレは馬鹿だけどな。あれだけ考える時間があれば、一つくらい対策も思いつくさ」
削板はただ一方的に削られていたわけではない。
それを利用して必氏に打開策を探っていたのだ。
突然の戦況の変化。唐突に傾きを始めた天秤に二人は動揺を隠せない。
安定したワンパターン。その繰り返しが確実に標的を押し流す。
「……根性で何とかしてみせろ、って言ったよなお前。いいぜ、見せてやるよ、本物の根性ってヤツを!!」
「…………」
彼女たちはまともに取り合わなかった。
ズボァァアアア!! と施設の一部を丸ごと揺るがすほどの轟音が炸裂した。
淀んでいた空気が攪拌される。だがそれは巨大な面としての衝撃波が全てを薙ぎ払ったことによるものではない。
ナンバーセブンが念動砲弾で砲台に利用されている分厚いゴム板を固定している、空中通路や床、天井などを破壊したのだ。
強大な力を蓄えたゴム板が支えを一つ失えば、そのゴム板は金属の重たい破片を携えたままもう片方の支点へ向かって飛んでいくのは自明の理。
つまり。砲弾を構えていた兵頭真紀と相園美央に向かって複数の錘が殺到する。
「「……は?」」
二人がそんな声をあげる。
その直後に自身の『複合手順加算式直射弾道砲』が圧倒的速度で突き刺さる。
「「がァァァあああああああああああ!?」」
『油性兵装』による強固な装甲がなければ呆気なく絶命していただろう。
真紀と相園は派手に吹き飛び、強かに壁に叩きつけられそのまま力なくずるずると崩れ落ちる。
「、っの野郎……ッ!!」
何らかの力で全身を包んだ削板はそのまま進む。
一歩、二歩で絶対的な距離をあっという間にゼロにまで詰めていく。
対する友莉、細魚、子雛は予想外の事態に戸惑い反応が遅れた。
そのディレイは致命的だった。二発目の念動砲弾を食らった子雛は再度錐揉み回転しながら吹き飛ばされる。
今度こそ、子雛のダメージは甚大だった。的確に急所を突かれた子雛は叫ぶこともできずに意識を落とす。
「たしかにオレは馬鹿だけどな。あれだけ考える時間があれば、一つくらい対策も思いつくさ」
削板はただ一方的に削られていたわけではない。
それを利用して必氏に打開策を探っていたのだ。
突然の戦況の変化。唐突に傾きを始めた天秤に二人は動揺を隠せない。
172: 2013/08/04(日) 23:04:55.88 ID:GzD84SJ+0
「クッソ!! 行くよ細魚!!」
「チッ!!」
半ばヤケクソ気味に突っ込んでくる友莉と細魚。
だがそんな彼女たちは隙だらけで、削板にとっては格好の獲物でしかなかった。
あっさりとその攻撃を受け流し、右手と左手でそれぞれを捕らえるとそのまま振り回し、二人を互いに激突させる。
「ごっ、ふ!?」
「ぐぁっ!?」
続けて彼女たちを思い切り投げ飛ばし、追い討ちに念動砲弾を放つ。
ここまですれば流石に彼女たちも動けなくなる。
意識はあるようだがもはや立ち上がることすらできなかった。
これで全滅かと思われたが、『複合手順加算式直射弾道砲』により薙ぎ払われた真紀と相園が立ち上がる。
だがもはや勝敗は明らかだった。立ち上がることも出来ぬ三人に、相園と真紀も膝がガクガクと震えている。
「これが根性だ。お前らも『表』に来ればきっと分かるさ。人間誰しも『絶対負けちゃいけねぇ時』ってのがあるもんだ」
「これだけ言っても分からねえのかよ!? 私たち『白鰐部隊』にそんな人間性はねぇんですよ!!」
「大体私たちがどうなろうとあなたには関係ないでしょ!! 何をそんなに拘ってんだよ!!」
その叫び声は削板には心の悲鳴に聞こえた。表面の悪意だけを読み取るのではない。
本当は助けてほしいのに助けの求め方すら分からない。思い込みもあるかもしれないが、少なくとも削板はそんな印象を受けた。
そして削板軍覇は笑う。まだ戦いは終わっていないのに、爽やかに笑った。
「もしお前たちが本当にどうしようもない外道だったら、もしかしたらここで頃してたかもしれないな。
だがお前たちには助かろうという気持ちがあるように見えるぞ。ただやり方が分からないだけだ。
……だから、ここら辺で倒れとけ。その方がお前らのためだ」
相園美央と兵頭真紀は答えない。
ただ最後の力を振り絞って足元のオイルを操作・点火し、爆発的な推進力を得て高速で削板へと突撃する。
その手には長大になりすぎて刃というよりはもはや槍と形容すべき黒い武器。
「チッ!!」
半ばヤケクソ気味に突っ込んでくる友莉と細魚。
だがそんな彼女たちは隙だらけで、削板にとっては格好の獲物でしかなかった。
あっさりとその攻撃を受け流し、右手と左手でそれぞれを捕らえるとそのまま振り回し、二人を互いに激突させる。
「ごっ、ふ!?」
「ぐぁっ!?」
続けて彼女たちを思い切り投げ飛ばし、追い討ちに念動砲弾を放つ。
ここまですれば流石に彼女たちも動けなくなる。
意識はあるようだがもはや立ち上がることすらできなかった。
これで全滅かと思われたが、『複合手順加算式直射弾道砲』により薙ぎ払われた真紀と相園が立ち上がる。
だがもはや勝敗は明らかだった。立ち上がることも出来ぬ三人に、相園と真紀も膝がガクガクと震えている。
「これが根性だ。お前らも『表』に来ればきっと分かるさ。人間誰しも『絶対負けちゃいけねぇ時』ってのがあるもんだ」
「これだけ言っても分からねえのかよ!? 私たち『白鰐部隊』にそんな人間性はねぇんですよ!!」
「大体私たちがどうなろうとあなたには関係ないでしょ!! 何をそんなに拘ってんだよ!!」
その叫び声は削板には心の悲鳴に聞こえた。表面の悪意だけを読み取るのではない。
本当は助けてほしいのに助けの求め方すら分からない。思い込みもあるかもしれないが、少なくとも削板はそんな印象を受けた。
そして削板軍覇は笑う。まだ戦いは終わっていないのに、爽やかに笑った。
「もしお前たちが本当にどうしようもない外道だったら、もしかしたらここで頃してたかもしれないな。
だがお前たちには助かろうという気持ちがあるように見えるぞ。ただやり方が分からないだけだ。
……だから、ここら辺で倒れとけ。その方がお前らのためだ」
相園美央と兵頭真紀は答えない。
ただ最後の力を振り絞って足元のオイルを操作・点火し、爆発的な推進力を得て高速で削板へと突撃する。
その手には長大になりすぎて刃というよりはもはや槍と形容すべき黒い武器。
173: 2013/08/04(日) 23:05:55.82 ID:GzD84SJ+0
「曲がらず腐らず正面を行く男は、たとえ赤の他人でも困ってる女の子のために戦うことができるんだ!!」
人影は三つ。一瞬の踊るような交錯。
倒れた人影は二つ。もう一つは倒れない。決して、倒れない。
「ふぅー……」
深く息を吐くと、勝者はどかっとその場に座り込む。
「流石に、疲れたぞーっ!!」
何だかんだで削板のダメージは甚大だ。
しかしそれを忘れさせるような大声をあげると、削板は満足げに笑う。
まだ第二位は何かと戦っているのだろうか。
だとしてもそれは垣根の領域であり、きっと自分が踏み込んではいけないところだ。
削板はそのままごろりと寝転がると、小さく呟く。
「頼まれたことは果たしたぞ、第二位。負けるなよ」
174: 2013/08/04(日) 23:06:36.38 ID:GzD84SJ+0
・
・
・
「何だ何だぁ!? そーんなもんなのかよおい!!」
『粒機波形高速砲』が襲撃者に食らいつく。
仮にも『未元物質』製である以上、もしかしたら麦野が不調ならば防ぐことくらいできていたのかもしれない。
だが今の麦野は万全、とは言えないが一方通行や垣根と比べたら遥かに傷は浅い。
「ふっ!!」
襲撃者の白い翼が焦げ付き始め、僅かな硬直状態が生まれる。
その隙を突いて絹旗最愛が懐に潜り込み、襲撃者の鳩尾に容赦なく拳を突き入れる。
所詮女子中学生の拳だ。だが同時に絹旗は『窒素装甲』という大能力者でもある。
窒素の鎧を身に纏うその能力は銃弾を弾き、壁に容易く穴を空ける性能を発揮する。
当然そんな力での攻撃を受けた襲撃者は耐えられるわけがなく、あっさりと吹き飛ばされる。
その絹旗の攻撃直後の隙を突こうとした別の襲撃者は突然巻き起こった爆発によってあっさりと地に伏した。
「甘い甘い。結局、なんで私が遅れて来たと思ってるわけ?」
フレンダ=セイヴェルンの爆弾。
美琴との戦いでも披露したように、今回も例に漏れずフレンダはあちこちにトラップを設置していた。
そこに麦野沈利の『原子崩し』が炸裂し、圧倒的な力でまとめて薙ぎ払う。
白い翼で防御した者も複数いるが、滝壺理后が麦野の能力に干渉し助力する。
その結果、虫眼鏡で太陽光を集めて紙を焼くように白い翼は『原子崩し』によって貫かれる。
175: 2013/08/04(日) 23:07:15.01 ID:GzD84SJ+0
『アイテム』とEqu.DarkMatterたちの戦い。
楽勝と思われていた戦いだったが、実際には『アイテム』勢に想定外の劣勢を強いられていた。
そこにあるのは隠し切れぬオリジナルとのスペック差。
実際、襲撃者たちの白い翼による防御は異常な固さを誇っており、絹旗が全力で拳を振り抜いたとしても傷一つつけられなかった。
それを破るには原子崩しを持ち出す他ない。
だが致命的だったのは所詮それは『翼の硬度』によるものだったことだ。
垣根帝督と違い、翼に守られていない腹部などに鉛弾一発撃ち込めばそれだけで倒せてしまう。
だからこそ本来手も足も出ないはずの絹旗やフレンダでも戦えてしまうのだ。
「クソッ、まさかこれほどの性能とは……!!」
「分かっちゃいたけど、ほーんとにずいぶん劣化してんだね。
ムカついて仕方ないけど、本物の第二位は比較にならないほど強かった」
適当に『原子崩し』を射出しながら、麦野は冷たく笑う。
数こそ多いものの一体一体は大したことはない。
そこにあるのは単なるスペック差だけではなかった。
何よりも、圧倒的に襲撃者たちには経験が足りなかった。
一方の『アイテム』はこれまで多くの氏線を潜り抜けてきた実力者。隙を突くのはそう難しいことでもなかった。
「まあ私も第二位にやられちゃったし。だから今はその分も暴れるってわけよ!!」
「大丈夫だよ、ふれんだ。私はそんな風に調子に乗って失敗するふれんだを応援してる」
「勝手に失敗するって決め付けないで!?」
「……様式美……」
「まぁ超フレンダですしね」
そんな会話をしながらも、襲撃者たちは確実に削られていく。
性能的には麦野はともかく絹旗やフレンダ程度簡単に殺せるはずなのに、どうしてかバタバタとこちらばかりがやられていく。
楽勝と思われていた戦いだったが、実際には『アイテム』勢に想定外の劣勢を強いられていた。
そこにあるのは隠し切れぬオリジナルとのスペック差。
実際、襲撃者たちの白い翼による防御は異常な固さを誇っており、絹旗が全力で拳を振り抜いたとしても傷一つつけられなかった。
それを破るには原子崩しを持ち出す他ない。
だが致命的だったのは所詮それは『翼の硬度』によるものだったことだ。
垣根帝督と違い、翼に守られていない腹部などに鉛弾一発撃ち込めばそれだけで倒せてしまう。
だからこそ本来手も足も出ないはずの絹旗やフレンダでも戦えてしまうのだ。
「クソッ、まさかこれほどの性能とは……!!」
「分かっちゃいたけど、ほーんとにずいぶん劣化してんだね。
ムカついて仕方ないけど、本物の第二位は比較にならないほど強かった」
適当に『原子崩し』を射出しながら、麦野は冷たく笑う。
数こそ多いものの一体一体は大したことはない。
そこにあるのは単なるスペック差だけではなかった。
何よりも、圧倒的に襲撃者たちには経験が足りなかった。
一方の『アイテム』はこれまで多くの氏線を潜り抜けてきた実力者。隙を突くのはそう難しいことでもなかった。
「まあ私も第二位にやられちゃったし。だから今はその分も暴れるってわけよ!!」
「大丈夫だよ、ふれんだ。私はそんな風に調子に乗って失敗するふれんだを応援してる」
「勝手に失敗するって決め付けないで!?」
「……様式美……」
「まぁ超フレンダですしね」
そんな会話をしながらも、襲撃者たちは確実に削られていく。
性能的には麦野はともかく絹旗やフレンダ程度簡単に殺せるはずなのに、どうしてかバタバタとこちらばかりがやられていく。
176: 2013/08/04(日) 23:08:05.63 ID:GzD84SJ+0
「結局さ、慣れてないんだよね。第二位の『未元物質』製って言うだけあって確かにそれは強力だよ。
でもそれを扱う肝心のアンタらが全く使いこなせてない。それじゃ宝の持ち腐れってヤツよ」
あらゆる道具を使いこなして戦うフレンダだからこそそれがよく分かった。
それでも適当に振り回すだけでも戦えるほど『未元物質』の装備は強力だった。
だがその使い手の未熟さ加減はこういう時に如実に表れてしまう。
「クソッ……!! こ、こんな……!!」
襲撃者の白翼による斬撃を、倒れている他の襲撃者の白い翼を使って防御する。
たしかにこの白い翼ならば絹旗の誇る『窒素装甲』を破ることはできる。
だが絹旗の使ったものは当然襲撃者のものと同じだ。
故に『未元物質』製の斬撃も、『未元物質』製の盾を使えば凌ぎきることができる。
「超こんなはずじゃありませんでしたか?」
全力で攻撃を行った襲撃者の体は、想定外の衝撃に弾かれてバランスを崩す。
そこに狙い澄ましたような絹旗の回し蹴りが炸裂し、襲撃者は倒れこむ。
見てみればフレンダも同じ戦い方をしていた。爆弾で翼の隙間を狙い、敵の攻撃は倒れた奴の翼を使って防ぐ。
麦野は攻撃も防御も『原子崩し』で済ませ、滝壺はその麦野の背後で『原子崩し』の補助を行っていた。
「まぁそんなに落ち込むなよ、私だって驚いてんのよ。
いくら劣化品とはいえここまで第二位の力をコケにできるなんて」
麦野沈利は実に楽しそうに口元を歪める。
みるみる内に襲撃者の数は削られていき、ついに最後の一人がフレンダと絹旗のコンビネーションによってドサリと倒れ込む。
その絹旗とフレンダが多少の手傷を負っているものの、終わってみれば彼女たちの快勝だった。
でもそれを扱う肝心のアンタらが全く使いこなせてない。それじゃ宝の持ち腐れってヤツよ」
あらゆる道具を使いこなして戦うフレンダだからこそそれがよく分かった。
それでも適当に振り回すだけでも戦えるほど『未元物質』の装備は強力だった。
だがその使い手の未熟さ加減はこういう時に如実に表れてしまう。
「クソッ……!! こ、こんな……!!」
襲撃者の白翼による斬撃を、倒れている他の襲撃者の白い翼を使って防御する。
たしかにこの白い翼ならば絹旗の誇る『窒素装甲』を破ることはできる。
だが絹旗の使ったものは当然襲撃者のものと同じだ。
故に『未元物質』製の斬撃も、『未元物質』製の盾を使えば凌ぎきることができる。
「超こんなはずじゃありませんでしたか?」
全力で攻撃を行った襲撃者の体は、想定外の衝撃に弾かれてバランスを崩す。
そこに狙い澄ましたような絹旗の回し蹴りが炸裂し、襲撃者は倒れこむ。
見てみればフレンダも同じ戦い方をしていた。爆弾で翼の隙間を狙い、敵の攻撃は倒れた奴の翼を使って防ぐ。
麦野は攻撃も防御も『原子崩し』で済ませ、滝壺はその麦野の背後で『原子崩し』の補助を行っていた。
「まぁそんなに落ち込むなよ、私だって驚いてんのよ。
いくら劣化品とはいえここまで第二位の力をコケにできるなんて」
麦野沈利は実に楽しそうに口元を歪める。
みるみる内に襲撃者の数は削られていき、ついに最後の一人がフレンダと絹旗のコンビネーションによってドサリと倒れ込む。
その絹旗とフレンダが多少の手傷を負っているものの、終わってみれば彼女たちの快勝だった。
177: 2013/08/04(日) 23:08:33.11 ID:GzD84SJ+0
「や~っと終わったぁ!! 数多すぎでしょ結局!!」
額を袖で拭って文句を垂れるフレンダに、絹旗は心の中で同意しながらふぅ、と息をつく。
滝壺も緊張が解けたのか、どこか弛緩した表情で麦野への補助を打ち切る。
「むぎの、これからどうするの?」
「んー、こいつら以外にも敵はいっぱいいるでしょ。
あいつらの邪魔をさせないように綺麗にゴミ掃除していきましょ」
「りょーかい」
「……しかし、学園都市全域に第一級警報(コードレッド)が超発令されているのはどういうことなんですかね?」
絹旗が腕を組んで考え込む。
この学園都市には四つの警備強度(セキュリティコード)がある。
正常を表すコードグリーン。
その一つ上の第三級警報(コードイ工口ー)。
テ口リストなどの侵入の疑いのある第二級警報(コードオレンジ)。
そしてテ口リストの侵入が完全に確定した第一級警報。
これに従うのならテ口リストがこの街に侵入したということだろうが、どうもそうは思えなかった。
暗部にそんな情報は回ってきていないし、また風紀委員や警備員も動いている様子がなかったからだ。
「……学園都市規模で何かが起きてるってことかな」
「まー何にせよ私らが頭悩ますことじゃないでしょ。ほら行くわよ」
「あ、ちょっと待ってほしいわけよ~!」
額を袖で拭って文句を垂れるフレンダに、絹旗は心の中で同意しながらふぅ、と息をつく。
滝壺も緊張が解けたのか、どこか弛緩した表情で麦野への補助を打ち切る。
「むぎの、これからどうするの?」
「んー、こいつら以外にも敵はいっぱいいるでしょ。
あいつらの邪魔をさせないように綺麗にゴミ掃除していきましょ」
「りょーかい」
「……しかし、学園都市全域に第一級警報(コードレッド)が超発令されているのはどういうことなんですかね?」
絹旗が腕を組んで考え込む。
この学園都市には四つの警備強度(セキュリティコード)がある。
正常を表すコードグリーン。
その一つ上の第三級警報(コードイ工口ー)。
テ口リストなどの侵入の疑いのある第二級警報(コードオレンジ)。
そしてテ口リストの侵入が完全に確定した第一級警報。
これに従うのならテ口リストがこの街に侵入したということだろうが、どうもそうは思えなかった。
暗部にそんな情報は回ってきていないし、また風紀委員や警備員も動いている様子がなかったからだ。
「……学園都市規模で何かが起きてるってことかな」
「まー何にせよ私らが頭悩ますことじゃないでしょ。ほら行くわよ」
「あ、ちょっと待ってほしいわけよ~!」
178: 2013/08/04(日) 23:09:37.05 ID:GzD84SJ+0
・
・
・
「ガハッ、っは……っ!!」
ぎりぎりのところだった。あと一瞬でも反応が遅れていれば氏んでいただろう。
木原病理の一撃を防ぐための『未元物質』の生成。
だが当然それはすぐに消える。しかし逆に言えば一瞬は壁として機能するということ。
そのおかげでダメージを緩和できた。
「んだ、あの変化……っ!! どこのC級映画だっつうの!!」
口から血を吐きながら悪態をつく。
あんなものを見せられれば嫌でも冷静にならざるを得ない。
そもそもの話、『未元物質』が使えない以上まともにやり合っても勝ち目はないのだ。
それでもそこに活路を見出さんとするならせめてその頭を十分に回転させるべきだろう。
(つってもまあ、木原のアレに心当たりがねえわけじゃねえんだが。
にしても本気でそこまでやるとはな……っつか『未元物質』ってのはそこまでのモンなのかよ?)
木原病理は『未元物質』を使うことによって自身の足を修復している。
だからこそ本来なら立てないはずの木原病理が虎も蹴り殺せるレベルの脚力を得ているのだ。
しかし、木原病理が『未元物質』の恩恵を得ているのはそれだけではない。
そもそもが。木原病理は心臓を潰されようが肝臓を破られようが、ボタン一つで修復できるのだから。
179: 2013/08/04(日) 23:11:17.72 ID:GzD84SJ+0
そこに根付いているのは木原病理独自の『未元物質』の制御技術だ。
もともと垣根帝督の能力開発を担当していた木原病理は、その過程で『未元物質』を得ている。
あろうことかそれを木原病理は暴走のリスクを知った上で体内に取り込んだのだ。
踏み込んでこそ『木原』、前人未到の闇を切り開いてこその『木原』なのだから。
「中々に諦めが悪いですね。とはいえそういう人間を『諦め』させるのは大好きですが」
木原病理はくすくすと柔和に笑う。
そこにあるのは垣根帝督は絶対に自分に勝てないという自信だった。
そして垣根はそれを下らないと一蹴できない。
こんな状況に追い込まれること自体、本来あり得ないことなのだから。
「うるせえよババァ。そんなに諦めさせたきゃまずテメェがそれを諦めろ」
「いえいえ、他人を諦めさせるというのは色々諦めてきた私が唯一諦めたくないスタイルですので」
あんな化け物に銃など通じない。
この研究所にあるものを用いた科学的攻撃というのも考えたが、すぐに却下する。
相手が科学に精通していない人間ならともかく、今対峙しているのは『木原』だ。
科学の代名詞。科学を極めその領域の外にまで突き抜ける者。
試すまでもなく通用しないというのは分かる。
「形態変化、スカイフィッシュ参照」
木原病理の腕からプラスチックに亀裂が入るような、嫌な音が響く。
『未元物質』を取り込んだ木原病理は修復の域を超えた改造にまで手が届く。
右腕の側面にひだのようなものが生まれた。
高速で飛び回るスカイフィッシュという未確認生物の推測構造を取り込んだ木原病理は、軽く鉄釘を放るだけで一〇〇メートル先のものを正確に射抜くこともできる。
もともと垣根帝督の能力開発を担当していた木原病理は、その過程で『未元物質』を得ている。
あろうことかそれを木原病理は暴走のリスクを知った上で体内に取り込んだのだ。
踏み込んでこそ『木原』、前人未到の闇を切り開いてこその『木原』なのだから。
「中々に諦めが悪いですね。とはいえそういう人間を『諦め』させるのは大好きですが」
木原病理はくすくすと柔和に笑う。
そこにあるのは垣根帝督は絶対に自分に勝てないという自信だった。
そして垣根はそれを下らないと一蹴できない。
こんな状況に追い込まれること自体、本来あり得ないことなのだから。
「うるせえよババァ。そんなに諦めさせたきゃまずテメェがそれを諦めろ」
「いえいえ、他人を諦めさせるというのは色々諦めてきた私が唯一諦めたくないスタイルですので」
あんな化け物に銃など通じない。
この研究所にあるものを用いた科学的攻撃というのも考えたが、すぐに却下する。
相手が科学に精通していない人間ならともかく、今対峙しているのは『木原』だ。
科学の代名詞。科学を極めその領域の外にまで突き抜ける者。
試すまでもなく通用しないというのは分かる。
「形態変化、スカイフィッシュ参照」
木原病理の腕からプラスチックに亀裂が入るような、嫌な音が響く。
『未元物質』を取り込んだ木原病理は修復の域を超えた改造にまで手が届く。
右腕の側面にひだのようなものが生まれた。
高速で飛び回るスカイフィッシュという未確認生物の推測構造を取り込んだ木原病理は、軽く鉄釘を放るだけで一〇〇メートル先のものを正確に射抜くこともできる。
180: 2013/08/04(日) 23:12:24.87 ID:GzD84SJ+0
そしてそれを木原病理は実現する。
その右腕で鉄釘を放る。まるでダーツのような仕草だった。
だがそれだけで恐ろしい速度を得た鉄釘は、正しく垣根帝督の眉間を狙った。
「チッ!!」
立ち上がっている時間はない。
垣根は倒れたままごろごろと横に転がってそれを避ける。
だがそこで終わらない。木原病理の鉄釘は次から次へと飛来する。
『未元物質』の防壁によってそれを防ぎ、その隙に垣根は立ち上がる。
だがその先に続くものがない。
たとえ木原病理の攻撃を垣根が凌ごうと、木原病理が氏なない限り垣根に勝利はない。
これはただ負けないように粘っているに過ぎない。
このままでは木原病理にじりじりと削られてやがて倒されるのは容易に想像できた。
しかしこの時、垣根帝督の脳内では木原病理に対する勝利の方程式が組みあがっていた。
立ち上がった垣根は走り出し、その場から離れる。木原病理から逃げた。
恥も何もない、敵に背中を見せての逃走。けれどそれは『逃走』ではあっても『敗走』ではない。
木原病理もそれが分かっているのだろう、漫画のこれからの展開を心待ちにする子供のような笑みを浮かべた。
木原病理がしばらく逡巡した後、その後を追おうとした時だった。
突然辺りを激しい白煙のようなものが覆った。
垣根が何かを使ったのだろうが、こんなものは目くらましにしかならない。
あまりに激しく立ち込める煙のようなものは視界を完全に奪うが、やはりそれだけだ。
「何のつもりです? 今更こんな目くらましなど」
その右腕で鉄釘を放る。まるでダーツのような仕草だった。
だがそれだけで恐ろしい速度を得た鉄釘は、正しく垣根帝督の眉間を狙った。
「チッ!!」
立ち上がっている時間はない。
垣根は倒れたままごろごろと横に転がってそれを避ける。
だがそこで終わらない。木原病理の鉄釘は次から次へと飛来する。
『未元物質』の防壁によってそれを防ぎ、その隙に垣根は立ち上がる。
だがその先に続くものがない。
たとえ木原病理の攻撃を垣根が凌ごうと、木原病理が氏なない限り垣根に勝利はない。
これはただ負けないように粘っているに過ぎない。
このままでは木原病理にじりじりと削られてやがて倒されるのは容易に想像できた。
しかしこの時、垣根帝督の脳内では木原病理に対する勝利の方程式が組みあがっていた。
立ち上がった垣根は走り出し、その場から離れる。木原病理から逃げた。
恥も何もない、敵に背中を見せての逃走。けれどそれは『逃走』ではあっても『敗走』ではない。
木原病理もそれが分かっているのだろう、漫画のこれからの展開を心待ちにする子供のような笑みを浮かべた。
木原病理がしばらく逡巡した後、その後を追おうとした時だった。
突然辺りを激しい白煙のようなものが覆った。
垣根が何かを使ったのだろうが、こんなものは目くらましにしかならない。
あまりに激しく立ち込める煙のようなものは視界を完全に奪うが、やはりそれだけだ。
「何のつもりです? 今更こんな目くらましなど」
181: 2013/08/04(日) 23:12:55.81 ID:GzD84SJ+0
一方の垣根は木原病理の背後に突然降り立った。
ここは吹き抜けになっており、上階へと上った垣根が目くらましを行った後に飛び降りたのだ。
完全に木原病理の背後をとった垣根はニヤリと笑う。その手には白い何かが握られていた。
「これで終わりだ木原!!」
白い何かを一切の加減をせずに木原病理の頭部目掛けて突き出す。
その木原病理は垣根の持っているものが白い―――『未元物質』製であることにすぐに気付いた。
だからこそ木原病理は余裕を崩さない。
「『未元物質』は無効だということをもう忘れたんですか?」
その言葉通りに、あっという間に垣根の『未元物質』は消失していく。
消えて、剥がれて―――“その下から出てきたのは先端が潰れて刃物のようになっている鉄パイプだった”。
そう、垣根は『未元物質』で鉄パイプをコーティングしただけであって、『未元物質』そのものを使ったのではなかった。
「しまっ……!!」
当然木原病理の策は『未元物質』に対してのみ有効なのであって、鉄パイプには何ら効果はない。
そして油断していた木原病理にもはやそれを避ける時間も防御する暇もない。
だからこそ、
「氏ね」
ズブッ、と。垣根帝督の突き出した鉄パイプは木原病理の頭を貫いた。
完全に貫通した。頭蓋骨も脳髄も、その全てに孔を空ける。
当然ながら、脳を破壊されて生きていられる人間など存在しない。
一方通行が脳に障害を負って能力に制限がかかったように、どんな強力な存在でも脳が破壊されれば活動を停止せざるを得ないのだ。
そして木原病理も当然例外ではなく、
ここは吹き抜けになっており、上階へと上った垣根が目くらましを行った後に飛び降りたのだ。
完全に木原病理の背後をとった垣根はニヤリと笑う。その手には白い何かが握られていた。
「これで終わりだ木原!!」
白い何かを一切の加減をせずに木原病理の頭部目掛けて突き出す。
その木原病理は垣根の持っているものが白い―――『未元物質』製であることにすぐに気付いた。
だからこそ木原病理は余裕を崩さない。
「『未元物質』は無効だということをもう忘れたんですか?」
その言葉通りに、あっという間に垣根の『未元物質』は消失していく。
消えて、剥がれて―――“その下から出てきたのは先端が潰れて刃物のようになっている鉄パイプだった”。
そう、垣根は『未元物質』で鉄パイプをコーティングしただけであって、『未元物質』そのものを使ったのではなかった。
「しまっ……!!」
当然木原病理の策は『未元物質』に対してのみ有効なのであって、鉄パイプには何ら効果はない。
そして油断していた木原病理にもはやそれを避ける時間も防御する暇もない。
だからこそ、
「氏ね」
ズブッ、と。垣根帝督の突き出した鉄パイプは木原病理の頭を貫いた。
完全に貫通した。頭蓋骨も脳髄も、その全てに孔を空ける。
当然ながら、脳を破壊されて生きていられる人間など存在しない。
一方通行が脳に障害を負って能力に制限がかかったように、どんな強力な存在でも脳が破壊されれば活動を停止せざるを得ないのだ。
そして木原病理も当然例外ではなく、
182: 2013/08/04(日) 23:13:41.96 ID:GzD84SJ+0
「形状変化、リトルグレイ参照」
脳を穿たれて尚、木原病理は滑らかな言葉を紡いだ。
その事実に垣根の笑みが凍りつく。
当たり前だ。頭を貫かれて生存できる人間などいるわけがないのに。
どういうわけか、木原病理はあるはずのない例外だった。
木原病理の左手の五本指の先端がボゴン!! と膨れ上がる。
幼児の頭蓋骨程度の大きさに。それは紛うことなく人の脳だった。
脳を穿たれても氏なないどころではなく、今度は脳の製造までやってのける。
そのあまりの異常さに、流石の垣根も完全に動きと思考が停止した。
そして脳を製造できるという事実。そこから派生して“ある可能性”に垣根は行き着けなかった。
ズボァ!! と。直後に不可思議な『能力』が発動し、垣根帝督は凄まじい爆発に巻き込まれた。
「ごっ、がァァァああああああああああああああああッ!!!!!!」
『未元物質』による一時的な防御は間に合わなかった。
木原病理のあまりの異常さに思考が停止していた隙を突かれ、為す術もなく垣根は猛烈な勢いで吹き飛ばされた。
強かに背中から鋼鉄の壁に叩きつけられ、肺の中が空になる。
僅かな間だが確実に呼吸が止まった。
「ごっ、ぱぁ……!?」
せり上がる血の塊を何とか吐き出して気道を確保。
肉が削ぎ落とされるような感覚が全身を襲っている。
立ち上がろうとするも全身がボロボロでろくに力も入らなかった。
対して木原病理は垣根のその様を見て満足そうに笑う。
「もともとは脳だけで能力を使えるかという実験の産物なんですが、脳は肉体の一部品に過ぎないようで。
まあ失敗したわけですが、それでもこうした使い方はできるんです。異能力者と強能力者の間くらいの力なんですがね。
そんな程度の『念動力』でも効率よく五人分を束ねれば人体の処分くらいはできるんです。それは身を以って知ったと思いますが」
悔しいがその通りだった。
垣根の体は悲鳴をあげていて、まともに動けない。
脳を穿たれて尚、木原病理は滑らかな言葉を紡いだ。
その事実に垣根の笑みが凍りつく。
当たり前だ。頭を貫かれて生存できる人間などいるわけがないのに。
どういうわけか、木原病理はあるはずのない例外だった。
木原病理の左手の五本指の先端がボゴン!! と膨れ上がる。
幼児の頭蓋骨程度の大きさに。それは紛うことなく人の脳だった。
脳を穿たれても氏なないどころではなく、今度は脳の製造までやってのける。
そのあまりの異常さに、流石の垣根も完全に動きと思考が停止した。
そして脳を製造できるという事実。そこから派生して“ある可能性”に垣根は行き着けなかった。
ズボァ!! と。直後に不可思議な『能力』が発動し、垣根帝督は凄まじい爆発に巻き込まれた。
「ごっ、がァァァああああああああああああああああッ!!!!!!」
『未元物質』による一時的な防御は間に合わなかった。
木原病理のあまりの異常さに思考が停止していた隙を突かれ、為す術もなく垣根は猛烈な勢いで吹き飛ばされた。
強かに背中から鋼鉄の壁に叩きつけられ、肺の中が空になる。
僅かな間だが確実に呼吸が止まった。
「ごっ、ぱぁ……!?」
せり上がる血の塊を何とか吐き出して気道を確保。
肉が削ぎ落とされるような感覚が全身を襲っている。
立ち上がろうとするも全身がボロボロでろくに力も入らなかった。
対して木原病理は垣根のその様を見て満足そうに笑う。
「もともとは脳だけで能力を使えるかという実験の産物なんですが、脳は肉体の一部品に過ぎないようで。
まあ失敗したわけですが、それでもこうした使い方はできるんです。異能力者と強能力者の間くらいの力なんですがね。
そんな程度の『念動力』でも効率よく五人分を束ねれば人体の処分くらいはできるんです。それは身を以って知ったと思いますが」
悔しいがその通りだった。
垣根の体は悲鳴をあげていて、まともに動けない。
183: 2013/08/04(日) 23:14:40.45 ID:GzD84SJ+0
「テ、メェ……俺の『未元物質』で、そこまで……ッ!?」
一方通行との戦いで負った傷が一気に開いたのだろうか。
垣根の全身は限界を迎えていた。
だが垣根はまだ諦めてはいない。木原病理を頃す策は今も水面下で進行している。
途切れ途切れに話すのは言葉を発することもままならないからであるが、他にも少しでも時間を稼ぐ意味も含まれていた。
「まあ『未元物質』の細かい制御法は私の独占技術ですけどね」
『未元物質』は究極の創造性を持つ。
それを木原病理は最大に生かしていた。
「あなたはもう終わりですが……どうせなら最後まで徹底的に諦めてもらいましょうか」
そして取り出したのはタブレット。
それがどういう意味か垣根はもう分かっている。
木原病理はまたアレを見せつける気なのだ。あの地獄絵図を。
「……や、めろ……っ!!」
声に張りがなかった。搾り出すような、掠れた声。
木原病理はむしろそれを聞いて楽しそうに笑う。
笑って、躊躇なくそれを垣根へと突きつけた。
『ミサカたちはアンタのせいで生み出された。別に生まれたくもなかったのに、無理矢理に生み出されてしまった。
挙句氏んでも氏なせてもらえずに強引に蘇生された。アンタを頃すためだけに生き返らせられた。
最終信号からの信号を遮断するために、皮膚を切り開いて「シート」や「セレクター」を埋め込まれた。
この左足だって一緒に再生されたのに、お姉様のためだけにまた切断された』
画面の中では番外個体と御坂美琴が戦っている。
いや、その言い方は正しくない。あまりにも戦況は一方的だった。
番外個体が美琴を圧倒している。美琴は抵抗する素振りすら見せなかった。
嗚咽を漏らしながらただ暴力に耐えているだけ。
一方通行との戦いで負った傷が一気に開いたのだろうか。
垣根の全身は限界を迎えていた。
だが垣根はまだ諦めてはいない。木原病理を頃す策は今も水面下で進行している。
途切れ途切れに話すのは言葉を発することもままならないからであるが、他にも少しでも時間を稼ぐ意味も含まれていた。
「まあ『未元物質』の細かい制御法は私の独占技術ですけどね」
『未元物質』は究極の創造性を持つ。
それを木原病理は最大に生かしていた。
「あなたはもう終わりですが……どうせなら最後まで徹底的に諦めてもらいましょうか」
そして取り出したのはタブレット。
それがどういう意味か垣根はもう分かっている。
木原病理はまたアレを見せつける気なのだ。あの地獄絵図を。
「……や、めろ……っ!!」
声に張りがなかった。搾り出すような、掠れた声。
木原病理はむしろそれを聞いて楽しそうに笑う。
笑って、躊躇なくそれを垣根へと突きつけた。
『ミサカたちはアンタのせいで生み出された。別に生まれたくもなかったのに、無理矢理に生み出されてしまった。
挙句氏んでも氏なせてもらえずに強引に蘇生された。アンタを頃すためだけに生き返らせられた。
最終信号からの信号を遮断するために、皮膚を切り開いて「シート」や「セレクター」を埋め込まれた。
この左足だって一緒に再生されたのに、お姉様のためだけにまた切断された』
画面の中では番外個体と御坂美琴が戦っている。
いや、その言い方は正しくない。あまりにも戦況は一方的だった。
番外個体が美琴を圧倒している。美琴は抵抗する素振りすら見せなかった。
嗚咽を漏らしながらただ暴力に耐えているだけ。
184: 2013/08/04(日) 23:15:16.22 ID:GzD84SJ+0
「―――クッソ野郎が……ッ!!」
その痛々しい姿に垣根は歯軋りする。
見たくもない光景。味あわせたくなかった経験。
美琴の心につけ込んだあまりに最悪なやり方に、垣根帝督は憤る。
『アンタさえいなければこんなことにはならなかった。
アンタがそんな選択をしなければこんなことにはならなかった。
アンタがDNAマップを渡さなければ。アンタがそんな大きな力を持っていなければ。
……アンタが生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。
生まれてくるにしてもこんな未来のない生まれ方じゃなかった』
番外個体が淡々と美琴に恨み言を連ねている。
だが垣根には納得できなかった。番外個体の言っている言葉もそうだが、何より。
「こんなもん……全部一方通行が受け止めるべき言葉だろうが!!
なんで御坂なんだよ!! アイツは一方通行に差し向けるべきだったんじゃねえのか!? あァッ!?」
そうだ。番外個体の言葉はどれもこれも嬉々として『実験』を行い、高嗤いしながら妹達を虐頃した第一位に向けられて然るべきだ。
なのにどうして一方通行ではなく御坂美琴なのだ。
……本当は分かっているのだ。あえて美琴にしたことに大層な理由など存在しない。
ただ、少しでも苦しめたかったから。たったそれだけのことだろう。
だからこそ垣根は納得できない。
思わず正論を突きつけてしまうほどに。
『ねえ。お姉様は一億もの負債に対して一円ずつ返していっている。
けどそれじゃ一生かかっても払い切れやしない。
一億を返す方法があるのならすぐにでも飛びつきたい。違う?』
「ええ、まあ普通ならそうでしょうね。でもあの人たちの性格の良さは私以上ですし」
『あるよ。一億の負債を一括で返済する方法が』
番外個体が美琴の耳元で甘い声で囁いている。
それは今の傷ついた美琴にとってどれほど甘美な誘いに聞こえているだろうか。
その痛々しい姿に垣根は歯軋りする。
見たくもない光景。味あわせたくなかった経験。
美琴の心につけ込んだあまりに最悪なやり方に、垣根帝督は憤る。
『アンタさえいなければこんなことにはならなかった。
アンタがそんな選択をしなければこんなことにはならなかった。
アンタがDNAマップを渡さなければ。アンタがそんな大きな力を持っていなければ。
……アンタが生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。
生まれてくるにしてもこんな未来のない生まれ方じゃなかった』
番外個体が淡々と美琴に恨み言を連ねている。
だが垣根には納得できなかった。番外個体の言っている言葉もそうだが、何より。
「こんなもん……全部一方通行が受け止めるべき言葉だろうが!!
なんで御坂なんだよ!! アイツは一方通行に差し向けるべきだったんじゃねえのか!? あァッ!?」
そうだ。番外個体の言葉はどれもこれも嬉々として『実験』を行い、高嗤いしながら妹達を虐頃した第一位に向けられて然るべきだ。
なのにどうして一方通行ではなく御坂美琴なのだ。
……本当は分かっているのだ。あえて美琴にしたことに大層な理由など存在しない。
ただ、少しでも苦しめたかったから。たったそれだけのことだろう。
だからこそ垣根は納得できない。
思わず正論を突きつけてしまうほどに。
『ねえ。お姉様は一億もの負債に対して一円ずつ返していっている。
けどそれじゃ一生かかっても払い切れやしない。
一億を返す方法があるのならすぐにでも飛びつきたい。違う?』
「ええ、まあ普通ならそうでしょうね。でもあの人たちの性格の良さは私以上ですし」
『あるよ。一億の負債を一括で返済する方法が』
番外個体が美琴の耳元で甘い声で囁いている。
それは今の傷ついた美琴にとってどれほど甘美な誘いに聞こえているだろうか。
185: 2013/08/04(日) 23:15:53.43 ID:GzD84SJ+0
『決まってるじゃない。お姉様はミサカたちを頃したんだから、今度はミサカがアンタを頃すんだよ。
それでいいよ。妹達でありお姉様のせいで氏んだ九九八二号だったこのミサカが言うんだから。
―――ミサカのために氏んで、お姉様』
何か考えるような間。
垣根帝督には美琴が何を考えているかなど手に取るように分かった。
外れてほしいと願う反面、その予想が当たっている確信もあった。
『――――――分かった。アンタに殺されるなら、むしろ本望よ』
「―――、」
画面の中の美琴は、そう言った。
自らの氏を受け入れると。
それで全てが解決すると。自分が氏んでどうなるかなんてどうでもいいと。
「……ッざけてんじゃねえぞッ!!!!!!」
思わず、落雷のように咆哮していた。
分かっている。美琴はこんな答えを出さなければならないほどに壊されてしまったのだということは。
だがそれでも個人的な感情として、一発ぶん殴ってやりたかった。
そして。何より『木原』のクソ野郎共を一人残らず皆頃しにしてやりたい。
全身の血管が破裂しそうだった。握り締めた拳は砕けそうで、これ以上口を開けば言葉にもなっていないおぞましい咆哮が飛び出しそうだった。
「あらあらあらまあまあ。聞きましたか?」
対して木原病理は冷静なまま。
いや、違った。笑っている。おかしくてたまらないという風に、くすくすと笑っている。
垣根にはそれが失笑にさえ見えた。冷静を装って腹の中では爆笑しているのだろう、隠し切れぬそれがニヤニヤと顔に出ている。
「おやおや。第三位が氏んだらあなたはどうなるんでしょうね?
中途半端に得た希望が摘み取られた時、あなたがどこまで堕ちるのか。これは見物ですね」
「……頃す。俺が、この手で、頃す」
その比較的短い言葉の中に、「頃す」という至極シンプルな悪意の表現に、一体どれだけのものが凝縮されているのだろうか。
何も知らない人間が触れれば心の臓までたちまちに毒されるほどの濃密な負。
聞く者を骨の髄まで凍て付かせる絶対零度。
垣根帝督は立ち上がる。限界を迎えているのに、気力を振り絞って立ち上がる。
眼前の敵をただ食い頃すことに全てを捧げ、あらゆる力を限界以上に振り絞れ。
「テメェは絶対確実に俺が頃す。逃げ切れると思うなよ、地獄の果てまででもな。
テメェが氏んでも逃がさねえ。あの世に行っても俺はテメェを頃し続けてやる……ッ!!」
それでいいよ。妹達でありお姉様のせいで氏んだ九九八二号だったこのミサカが言うんだから。
―――ミサカのために氏んで、お姉様』
何か考えるような間。
垣根帝督には美琴が何を考えているかなど手に取るように分かった。
外れてほしいと願う反面、その予想が当たっている確信もあった。
『――――――分かった。アンタに殺されるなら、むしろ本望よ』
「―――、」
画面の中の美琴は、そう言った。
自らの氏を受け入れると。
それで全てが解決すると。自分が氏んでどうなるかなんてどうでもいいと。
「……ッざけてんじゃねえぞッ!!!!!!」
思わず、落雷のように咆哮していた。
分かっている。美琴はこんな答えを出さなければならないほどに壊されてしまったのだということは。
だがそれでも個人的な感情として、一発ぶん殴ってやりたかった。
そして。何より『木原』のクソ野郎共を一人残らず皆頃しにしてやりたい。
全身の血管が破裂しそうだった。握り締めた拳は砕けそうで、これ以上口を開けば言葉にもなっていないおぞましい咆哮が飛び出しそうだった。
「あらあらあらまあまあ。聞きましたか?」
対して木原病理は冷静なまま。
いや、違った。笑っている。おかしくてたまらないという風に、くすくすと笑っている。
垣根にはそれが失笑にさえ見えた。冷静を装って腹の中では爆笑しているのだろう、隠し切れぬそれがニヤニヤと顔に出ている。
「おやおや。第三位が氏んだらあなたはどうなるんでしょうね?
中途半端に得た希望が摘み取られた時、あなたがどこまで堕ちるのか。これは見物ですね」
「……頃す。俺が、この手で、頃す」
その比較的短い言葉の中に、「頃す」という至極シンプルな悪意の表現に、一体どれだけのものが凝縮されているのだろうか。
何も知らない人間が触れれば心の臓までたちまちに毒されるほどの濃密な負。
聞く者を骨の髄まで凍て付かせる絶対零度。
垣根帝督は立ち上がる。限界を迎えているのに、気力を振り絞って立ち上がる。
眼前の敵をただ食い頃すことに全てを捧げ、あらゆる力を限界以上に振り絞れ。
「テメェは絶対確実に俺が頃す。逃げ切れると思うなよ、地獄の果てまででもな。
テメェが氏んでも逃がさねえ。あの世に行っても俺はテメェを頃し続けてやる……ッ!!」
186: 2013/08/04(日) 23:16:28.09 ID:GzD84SJ+0
・
・
・
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! 馬鹿じゃねえの!? 馬ッ鹿じゃねえのぉ!?
すげぇ、マジで抵抗しないよこいつ!! ちょーすげぇ!! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
番外個体は一切動かなくなった美琴を何度も何度も足蹴りにしていた。
顔を、腹を、肩を、腕を、足を、容赦なくつま先が抉る。
相当の痛みが美琴を襲っているはずなのに、恐ろしいくらいに美琴は動かない。
まるで眠っているようにすら見える。
「いいの!? ねぇお姉様ぁ、アンタ最高だよ!! ほら、ほらぁ!!
アンタなんて足だけで十分だよ!! 抵抗しないと氏んじゃうよ?」
何もかもを投げ出して、投げ出さざるを得ないほどに壊された美琴は動かない。
ただ蹴られる度にその衝撃で体が揺れるだけ。
しかし番外個体はそんなことは関係ないとばかりに攻撃を休めない。
『ぎゃっは、ははっ、はははははははっ!!!!!! 笑えるなぁ、えぇ? 超電磁砲。全部無駄だったんだよ!!』
もう十分だと判断したのか、今まで傍観に徹していたテレスティーナ=木原=ライフラインが口を出す。
テレスティーナは今幸せの絶頂にいた。あまりにも目の前の光景が愉快で愉快でたまらない。
それを全て自分が仕組んだこと、病的なまでに徹底して御坂美琴を破壊し尽くしてやったことが面白くて湧き上がる悦びを抑え切れなかった。
だがまだだ。まだ足りない。テレスティーナはまだ満足はしていない。
187: 2013/08/04(日) 23:16:54.63 ID:GzD84SJ+0
何故ならばまだ美琴は生きている。へし折って押し潰して、それでも最後にはやはりきっちり氏んでもらわなければ。
超能力者は七人しかいないこととその有用性から、『木原』一族とて超能力者を解体したことは一度もない。
御坂美琴にはその記念すべき第一号となってもらおう。
(くくくっ。さあどうしてやろうか、意識は最後までしっかり保たせてやらねぇとな。
自分の体が『削られて』いくとこをまざまざと見せ付けてやる)
勝った。終わった。
テレスティーナ=木原=ライフラインは御坂美琴を完膚なきまでに叩きのめしたのだ。
復讐は間もなく成就する。これほど愉快なことはない。
『おい番外個体。完全には頃すなよ。瀕氏になったらこっちに連れて来い』
「あいあいっと」
番外個体は軽い調子で返事をしながらも、美琴をいたぶるのを止めはしなかった。
能力を使わないのはその生の感触を楽しむためなのか。
いずれにせよそのおかげで御坂美琴はまだ生きていた。
……そのせいでまだ氏ぬことができないでいる、と言った方がいいのかもしれないが。
―――……暗い。深い。
御坂美琴の意識は一切光の差さない深海にあった。
時が経つごとに、一秒が経過する度に、ゴボゴボと音をたてて美琴の意識は更に沈んでいく。
海の底へ。闇の奥へ。学園都市の『闇』へ。
もはや何も聞こえない。番外個体の声も、テレスティーナの声も、何も聞こえない。
今も美琴の体を襲っているだろう痛みも何も感じない。
ただどうしようもなく体が重くて。抗えぬ睡魔に瞼が閉じようとしていく感覚に似ていた。
超能力者は七人しかいないこととその有用性から、『木原』一族とて超能力者を解体したことは一度もない。
御坂美琴にはその記念すべき第一号となってもらおう。
(くくくっ。さあどうしてやろうか、意識は最後までしっかり保たせてやらねぇとな。
自分の体が『削られて』いくとこをまざまざと見せ付けてやる)
勝った。終わった。
テレスティーナ=木原=ライフラインは御坂美琴を完膚なきまでに叩きのめしたのだ。
復讐は間もなく成就する。これほど愉快なことはない。
『おい番外個体。完全には頃すなよ。瀕氏になったらこっちに連れて来い』
「あいあいっと」
番外個体は軽い調子で返事をしながらも、美琴をいたぶるのを止めはしなかった。
能力を使わないのはその生の感触を楽しむためなのか。
いずれにせよそのおかげで御坂美琴はまだ生きていた。
……そのせいでまだ氏ぬことができないでいる、と言った方がいいのかもしれないが。
―――……暗い。深い。
御坂美琴の意識は一切光の差さない深海にあった。
時が経つごとに、一秒が経過する度に、ゴボゴボと音をたてて美琴の意識は更に沈んでいく。
海の底へ。闇の奥へ。学園都市の『闇』へ。
もはや何も聞こえない。番外個体の声も、テレスティーナの声も、何も聞こえない。
今も美琴の体を襲っているだろう痛みも何も感じない。
ただどうしようもなく体が重くて。抗えぬ睡魔に瞼が閉じようとしていく感覚に似ていた。
188: 2013/08/04(日) 23:17:46.27 ID:GzD84SJ+0
(……これが、『氏』)
妹達はこの重みを、この冷たさを、一万回以上味わったのか。
自分がこれを一万回以上経験させたのか。
(……ああ、そりゃ憎みもするわね)
どこまでも深く、海の底へと沈んでいく美琴の心。
ほら、もう海底が見えてきた。あそこが極点だ。
あそこまで行けばゴール。この冷たさも暗さも全てが消える。
完全な氏を迎えるという形で御坂美琴は解放され、永遠の安息を手に入れる。
もう少しばかり沈めば氏んでしまった一万人の妹達と会える。
そう思って、美琴は即座に否定した。
(天国だの地獄だのが本当にあるのなら、私は絶対に地獄だから……会えないか)
もうどうやっても会えない。
向こうが帰ってくることはできないし、こっちが行っても会うことはできない。
ごぼっ、と空気の泡が口から漏れる。その気泡は水中を漂い、細かく弾けながら消えていく。
それが最後だった。御坂美琴の最後の未練。それを吐き出したのだから、当然―――。
海底。沈んで、落ちて、堕ちて、そこまで辿り着いた。
そしてまさに美琴の体が底へと接触する瞬間。
ぐい、と。何かに引っ張られる感覚がした。
まるで体に括り付けられた紐を引っ張られるような、そんな感覚。
(ああ、もう何なのよ)
やっと終わりそうだったのに。
気持ちよく寝ていたところを無理に起こされたような苛立ちを覚える。
耳元では何か雑音まで鳴り始めた。
何だか知らないが、邪魔をしないでほしかった。
もう、終わらせてくれ。
妹達はこの重みを、この冷たさを、一万回以上味わったのか。
自分がこれを一万回以上経験させたのか。
(……ああ、そりゃ憎みもするわね)
どこまでも深く、海の底へと沈んでいく美琴の心。
ほら、もう海底が見えてきた。あそこが極点だ。
あそこまで行けばゴール。この冷たさも暗さも全てが消える。
完全な氏を迎えるという形で御坂美琴は解放され、永遠の安息を手に入れる。
もう少しばかり沈めば氏んでしまった一万人の妹達と会える。
そう思って、美琴は即座に否定した。
(天国だの地獄だのが本当にあるのなら、私は絶対に地獄だから……会えないか)
もうどうやっても会えない。
向こうが帰ってくることはできないし、こっちが行っても会うことはできない。
ごぼっ、と空気の泡が口から漏れる。その気泡は水中を漂い、細かく弾けながら消えていく。
それが最後だった。御坂美琴の最後の未練。それを吐き出したのだから、当然―――。
海底。沈んで、落ちて、堕ちて、そこまで辿り着いた。
そしてまさに美琴の体が底へと接触する瞬間。
ぐい、と。何かに引っ張られる感覚がした。
まるで体に括り付けられた紐を引っ張られるような、そんな感覚。
(ああ、もう何なのよ)
やっと終わりそうだったのに。
気持ちよく寝ていたところを無理に起こされたような苛立ちを覚える。
耳元では何か雑音まで鳴り始めた。
何だか知らないが、邪魔をしないでほしかった。
もう、終わらせてくれ。
189: 2013/08/04(日) 23:18:22.17 ID:GzD84SJ+0
『―――、』
聞き取れない。けれどそれでいい。眠らせてくれ。
『―――!』
眠っている時に布団を剥がされたような感覚。
何だ。もういいじゃないか。もう、休んだって、
『御坂ッ!!』
そんな気持ちとは裏腹に、ノイズははっきりとした音になっていた。
呼んでいる。誰かが眠ろうとしている自分を起こそうとしている。
(……うるさいな)
『御坂ぁッ!!』
(ミサカ、みさか…御坂? 御坂、美琴? ……ああ、そんな名前だった)
『何してんだ、起きろよ!! お前は何しにここに来た、お前の妹たちを助けるためじゃねえのか!!
ここで諦めんのかよ!? 木原のクソ野郎に全部思い通りにさせたままで終われんのかよ!?』
誰だろう。この声の主は誰なのだろう。
分からないし、どうでもいい。どうせもう全て関係なくなるのだから。
もはや心地良さすら覚えてきたこの暗さと冷たさに身を委ね、ただその時を待つだけだ。
『悔しくねえのかよ!! まだまだホントのガキだったお前を騙してDNAマップを奪い取って!!
勝手にクローンなんてもん作られて、勝手な『実験』で殺されて!!
そして第三次製造計画だぞ!? そこにいやがる木原はお前の妹の命を弄んでんだぞ!!』
だというのに、この声が邪魔をする。
あと少し。あと少しなのに、その少しを絶対に許してはくれない。
聞き取れない。けれどそれでいい。眠らせてくれ。
『―――!』
眠っている時に布団を剥がされたような感覚。
何だ。もういいじゃないか。もう、休んだって、
『御坂ッ!!』
そんな気持ちとは裏腹に、ノイズははっきりとした音になっていた。
呼んでいる。誰かが眠ろうとしている自分を起こそうとしている。
(……うるさいな)
『御坂ぁッ!!』
(ミサカ、みさか…御坂? 御坂、美琴? ……ああ、そんな名前だった)
『何してんだ、起きろよ!! お前は何しにここに来た、お前の妹たちを助けるためじゃねえのか!!
ここで諦めんのかよ!? 木原のクソ野郎に全部思い通りにさせたままで終われんのかよ!?』
誰だろう。この声の主は誰なのだろう。
分からないし、どうでもいい。どうせもう全て関係なくなるのだから。
もはや心地良さすら覚えてきたこの暗さと冷たさに身を委ね、ただその時を待つだけだ。
『悔しくねえのかよ!! まだまだホントのガキだったお前を騙してDNAマップを奪い取って!!
勝手にクローンなんてもん作られて、勝手な『実験』で殺されて!!
そして第三次製造計画だぞ!? そこにいやがる木原はお前の妹の命を弄んでんだぞ!!』
だというのに、この声が邪魔をする。
あと少し。あと少しなのに、その少しを絶対に許してはくれない。
190: 2013/08/04(日) 23:19:09.83 ID:GzD84SJ+0
『そんなんでいいわけねえだろうがッ!! なあ、そうだろ御坂美琴!!
お前は妹達の、あいつらの「お姉様」なんじゃねえのかよ!!』
(―――うるさい)
姉なんて、なれるはずがなかったのだ。
妹達は自分を憎んでいた。頃したいほどに憎んでいた。
垣根帝督はそれをまるで分かっていない。
……垣根?
ああ、と御坂美琴は思った。この声は垣根の声だ。
垣根帝督。自分の友人。でも本当にそうだったか?
(もう、何も分からないや)
『待てよ、ふざけんな!! お前は俺に言ったんだぞ!!
これからも俺の足掻きを手伝ってやるって、そう言ったじゃねえか!!
なのにお前一人だけ何全部諦めて氏のうとしてんだよ!! ふざけんじゃねえッ!!』
(もう、何も―――……)
『んだよ、救うだけ救っといて自分は退場なんて認めねえぞ!!
お前にはまだまだ生きてもらわねえと困るんだよ!! 分かってんのか!!』
(私はもう、空っぽだから―――……)
『オリジナル!! ふざけンなよ、何考えてンだオマエは!!』
また別の声。垣根ではない、誰かの声。
そう、たしか一方通行。そんな名前だったはずだ。
この男も邪魔をするのか。どうして静かに眠らせてくれないんだ。
『オマエが氏ンでどォなンだ!! 誰かが救われるのか!?
違げェだろォが!! オマエが氏ンだら一体何人が涙を流すと思ってンだ!!』
『白井と約束したんだろうが、無事に帰るって!! お前が氏んだらあいつがどれだけ悲しむと思ってんだ!!
佐天涙子も初春飾利も、何も思わねえとでも思ってんのか!? 俺なんかよりお前の方がよほどあいつらのこと知ってんじゃねえのかよ!!』
お前は妹達の、あいつらの「お姉様」なんじゃねえのかよ!!』
(―――うるさい)
姉なんて、なれるはずがなかったのだ。
妹達は自分を憎んでいた。頃したいほどに憎んでいた。
垣根帝督はそれをまるで分かっていない。
……垣根?
ああ、と御坂美琴は思った。この声は垣根の声だ。
垣根帝督。自分の友人。でも本当にそうだったか?
(もう、何も分からないや)
『待てよ、ふざけんな!! お前は俺に言ったんだぞ!!
これからも俺の足掻きを手伝ってやるって、そう言ったじゃねえか!!
なのにお前一人だけ何全部諦めて氏のうとしてんだよ!! ふざけんじゃねえッ!!』
(もう、何も―――……)
『んだよ、救うだけ救っといて自分は退場なんて認めねえぞ!!
お前にはまだまだ生きてもらわねえと困るんだよ!! 分かってんのか!!』
(私はもう、空っぽだから―――……)
『オリジナル!! ふざけンなよ、何考えてンだオマエは!!』
また別の声。垣根ではない、誰かの声。
そう、たしか一方通行。そんな名前だったはずだ。
この男も邪魔をするのか。どうして静かに眠らせてくれないんだ。
『オマエが氏ンでどォなンだ!! 誰かが救われるのか!?
違げェだろォが!! オマエが氏ンだら一体何人が涙を流すと思ってンだ!!』
『白井と約束したんだろうが、無事に帰るって!! お前が氏んだらあいつがどれだけ悲しむと思ってんだ!!
佐天涙子も初春飾利も、何も思わねえとでも思ってんのか!? 俺なんかよりお前の方がよほどあいつらのこと知ってんじゃねえのかよ!!』
191: 2013/08/04(日) 23:19:45.07 ID:GzD84SJ+0
なんで、この二人はこんなに必氏なんだろう。
薄れゆく意識の中で美琴はふとそんなことを思った。
美琴は世界から氏を望まれている存在なのに。
生まれてきたことそのものが間違いだったのに。
自分が氏んで嘆く人などいないのに。
『打ち止めを泣かせたら許さねェって、オマエは言ったな。
なのになンだよ、オマエが打ち止めを泣かせる気かよ!!
あの一〇〇三二号も、他の妹達も悲しみのドン底に叩き落すつもりか!!
オマエはそれが嫌で、妹達がそンな目に遭うのが嫌だからあの時俺に挑ンで来たンじゃねェのかッ!!』
『一九〇九〇号との約束はどうするつもりだ!! 他の妹達とも遊ぶって、そう約束したんだろ!!
全部すっぽかすつもりか!? あいつらを泣かせることをお前は良しとするのかよ!?』
ほんの僅かな光が暗く淀んだ意識の中に生まれた。
もしかしたらいるというのか。自分が氏んで悲しむ人間が。
『俺を見張らなくていいのかよオリジナル!! もしかしたら俺は全部捨てて逃げ出すかもしれねェぞ!?
打ち止めを泣かせて、放り出すかもしれねェンだぞ!!』
『上条だってッ!! お前が氏んだら絶対に泣く!!
上条を、白井を、佐天を、初春を、妹達を、―――俺を!! 何だと思ってんだ!!
大体お前は俺に氏ぬなっつっただろ!! なのに約束を破る気かよ!?』
白井黒子。頼りになる後輩だった。
変わった部分はあるものの誰よりも自分の信念に真っ直ぐで、頑張り屋で、優しい子。
御坂美琴の唯一無二のパートナー。
佐天涙子。明るく元気な友人だった。
その実繊細な面も持っていて、けれど人の心に敏感でさりげなく気を使ってくれる子。
誰よりも友達想いで本当に良き友人。
初春飾利。正義感の強い友人だった。
甘いものが大好きで、けれど何気に毒舌な面もあって、その信念の強さは人一倍。
彼女の情報処理能力に助けられたことは一度や二度ではなく、頼れる友人だった。
薄れゆく意識の中で美琴はふとそんなことを思った。
美琴は世界から氏を望まれている存在なのに。
生まれてきたことそのものが間違いだったのに。
自分が氏んで嘆く人などいないのに。
『打ち止めを泣かせたら許さねェって、オマエは言ったな。
なのになンだよ、オマエが打ち止めを泣かせる気かよ!!
あの一〇〇三二号も、他の妹達も悲しみのドン底に叩き落すつもりか!!
オマエはそれが嫌で、妹達がそンな目に遭うのが嫌だからあの時俺に挑ンで来たンじゃねェのかッ!!』
『一九〇九〇号との約束はどうするつもりだ!! 他の妹達とも遊ぶって、そう約束したんだろ!!
全部すっぽかすつもりか!? あいつらを泣かせることをお前は良しとするのかよ!?』
ほんの僅かな光が暗く淀んだ意識の中に生まれた。
もしかしたらいるというのか。自分が氏んで悲しむ人間が。
『俺を見張らなくていいのかよオリジナル!! もしかしたら俺は全部捨てて逃げ出すかもしれねェぞ!?
打ち止めを泣かせて、放り出すかもしれねェンだぞ!!』
『上条だってッ!! お前が氏んだら絶対に泣く!!
上条を、白井を、佐天を、初春を、妹達を、―――俺を!! 何だと思ってんだ!!
大体お前は俺に氏ぬなっつっただろ!! なのに約束を破る気かよ!?』
白井黒子。頼りになる後輩だった。
変わった部分はあるものの誰よりも自分の信念に真っ直ぐで、頑張り屋で、優しい子。
御坂美琴の唯一無二のパートナー。
佐天涙子。明るく元気な友人だった。
その実繊細な面も持っていて、けれど人の心に敏感でさりげなく気を使ってくれる子。
誰よりも友達想いで本当に良き友人。
初春飾利。正義感の強い友人だった。
甘いものが大好きで、けれど何気に毒舌な面もあって、その信念の強さは人一倍。
彼女の情報処理能力に助けられたことは一度や二度ではなく、頼れる友人だった。
192: 2013/08/04(日) 23:20:21.75 ID:GzD84SJ+0
みんなみんな良い人で、優しい人たち。
もし自分が氏んだと知ったら彼女たちは何を思うのだろう。
何も思わない? 悲しまない? それはあり得ない。
そんな考えは彼女たちを馬鹿にしている。
(泣くわね。絶対泣く。特に黒子なんかは「お姉様ぁ……」なんて言ってもうビービー泣くわね)
灯された小さな光が輝きを増していく。
御坂美琴の擦り切れた精神が少しずつ回復していく。
(それにしても……垣根が泣くですって。一方通行も出来もしないこと言っちゃって)
もう美琴のいるそこは暗く冷たい海の底ではなかった。
体の感覚は戻っているし、あまりのダメージにかなりの痛みは走るものの動かすこともできる。
気付いたのだ。自分はここで氏ぬわけにはいかない。
帰ると約束した人間がいる。待っててくれている人間がいる。
生まれてくるべきではなかったなんて両親に聞かれたら何て言われることか。
殴られるかもしれない。もしかしたらそれさえなくただ泣かれるかもしれない。
『その番外個体っつゥ妹達を人頃しにする気か!?
オマエは!! オマエはそォいう奴じゃねェだろォが!!
俺はオマエに!! 妹達の「お姉様」であるオマエに……生きててほしいンだよッ!! だから!!』
『……頼む、御坂。氏なないでくれ。やっと掴んだんだ。
ようやく掴んだ俺の居場所には、お前がいないと駄目なんだよッ!! だから!!』
もし自分が氏んだと知ったら彼女たちは何を思うのだろう。
何も思わない? 悲しまない? それはあり得ない。
そんな考えは彼女たちを馬鹿にしている。
(泣くわね。絶対泣く。特に黒子なんかは「お姉様ぁ……」なんて言ってもうビービー泣くわね)
灯された小さな光が輝きを増していく。
御坂美琴の擦り切れた精神が少しずつ回復していく。
(それにしても……垣根が泣くですって。一方通行も出来もしないこと言っちゃって)
もう美琴のいるそこは暗く冷たい海の底ではなかった。
体の感覚は戻っているし、あまりのダメージにかなりの痛みは走るものの動かすこともできる。
気付いたのだ。自分はここで氏ぬわけにはいかない。
帰ると約束した人間がいる。待っててくれている人間がいる。
生まれてくるべきではなかったなんて両親に聞かれたら何て言われることか。
殴られるかもしれない。もしかしたらそれさえなくただ泣かれるかもしれない。
『その番外個体っつゥ妹達を人頃しにする気か!?
オマエは!! オマエはそォいう奴じゃねェだろォが!!
俺はオマエに!! 妹達の「お姉様」であるオマエに……生きててほしいンだよッ!! だから!!』
『……頼む、御坂。氏なないでくれ。やっと掴んだんだ。
ようやく掴んだ俺の居場所には、お前がいないと駄目なんだよッ!! だから!!』
193: 2013/08/04(日) 23:21:04.09 ID:GzD84SJ+0
御坂美琴には氏ねない理由がある。
戦わなければならない理由がある。
帰らなければならない理由がある。
一度折れたといえど、何度でも立ち上がる意思がある。
(だから)
「―――立て」
そう呟いた。
自身を奮い立たせるように。自分に命令するように。
『『立てェェェェえええええええええええええええええええええええッ!!!!!!』』
叫ぶ。一方通行と垣根帝督。二人の超能力者が、学園都市の頂点に立つ双翼が。
御坂美琴へ向けて叫ぶ。対する美琴の顔には、笑み。
それは普段見せるような勝気で不敵な笑みで、まさしく誰が見ても御坂美琴だった。
「言われなくても、分かってるわよッ!!」
散々番外個体の攻撃を受け続けたせいで体はもうガタガタだ。
目の辺りもやられたのか視界も酷く曖昧で、ぼやけている。
腕は上がらないほどに痛みが走るし、それどころか体のどこか一箇所でも動かせばそこから全身に刺すような痛みが伝播する。
それでも。御坂美琴は二本の足で立ち上がり、毅然と立った。
その凛とした瞳は真っ直ぐに番外個体を映す。
負けられない。必ず勝つ。絶対に生き延びる。そして番外個体も助け出す。
それが御坂美琴の選択だった。
戦わなければならない理由がある。
帰らなければならない理由がある。
一度折れたといえど、何度でも立ち上がる意思がある。
(だから)
「―――立て」
そう呟いた。
自身を奮い立たせるように。自分に命令するように。
『『立てェェェェえええええええええええええええええええええええッ!!!!!!』』
叫ぶ。一方通行と垣根帝督。二人の超能力者が、学園都市の頂点に立つ双翼が。
御坂美琴へ向けて叫ぶ。対する美琴の顔には、笑み。
それは普段見せるような勝気で不敵な笑みで、まさしく誰が見ても御坂美琴だった。
「言われなくても、分かってるわよッ!!」
散々番外個体の攻撃を受け続けたせいで体はもうガタガタだ。
目の辺りもやられたのか視界も酷く曖昧で、ぼやけている。
腕は上がらないほどに痛みが走るし、それどころか体のどこか一箇所でも動かせばそこから全身に刺すような痛みが伝播する。
それでも。御坂美琴は二本の足で立ち上がり、毅然と立った。
その凛とした瞳は真っ直ぐに番外個体を映す。
負けられない。必ず勝つ。絶対に生き延びる。そして番外個体も助け出す。
それが御坂美琴の選択だった。
194: 2013/08/04(日) 23:28:09.97 ID:GzD84SJ+0
『第一候補』に隠れたアレイスター君のお気に入り。
その眠れる投下を終了させる起爆剤に使うというのはどうだろう
以前あと一ヶ月ほどで完結すると言ったな、あれは幻想だ
ミーシャが一掃発動並の事がリアルで起きてるんで、もっとかかりそうかも
でもあと二回くらいの投下でvs木原は終わります
>>158
上条さんは……やっぱり本筋には出ないですねw
影も形もないはまづらぁは次回作で結構活躍するんでそれまでお預けですね
その眠れる投下を終了させる起爆剤に使うというのはどうだろう
以前あと一ヶ月ほどで完結すると言ったな、あれは幻想だ
ミーシャが一掃発動並の事がリアルで起きてるんで、もっとかかりそうかも
でもあと二回くらいの投下でvs木原は終わります
>>158
上条さんは……やっぱり本筋には出ないですねw
影も形もないはまづらぁは次回作で結構活躍するんでそれまでお預けですね
214: 2013/08/08(木) 22:41:40.03 ID:b5V/IbJC0
さよなら。
215: 2013/08/08(木) 22:45:40.63 ID:b5V/IbJC0
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
垣根帝督は荒い息を吐く。
胸は張り裂けそうで、軋む体は悲鳴をあげている。キハラビョウリ
それでも辿り着いた。楽しそうに追いかけてくる追跡者から逃げて、逃げて、逃げて。
ここがどこなのかは分からない。だが施設中に音声を流せる、いわゆる放送室のような場所であることは確認済みだ。
それでいい。まさにその機能を求めて垣根はここに行き着いたのだから。
カタカタと血の痕を残しながら機器を操作し、目的の機能を起動させる。
これで施設全体に垣根の声を届かせることが可能となる。
更に血に汚れた指でキーを幾度か叩くとモニターに美琴と番外個体の映像が映し出された。
それを確認すると、マイクのようなものを荒々しく掴んで垣根は叫ぶ。
もうそんな声を出す気力もないはずなのに、それでも必氏に声を張り上げる。
「御坂ッ!! 御坂ぁッ!!」
その声は確実に美琴のいる部屋にも流れているはずだ。
だが、美琴には届いていない。氏んだように無抵抗な美琴は身動き一つしない。
それを見て、垣根は導火線に着いた火がじりじりと迫ってくるような焦りに身を焦がす。
「何してんだ、起きろよ!! お前は何しにここに来た、お前の妹たちを助けるためじゃねえのか!!
ここで諦めんのかよ!? 木原のクソ野郎に全部思い通りにさせたままで終われんのかよ!?」
垣根帝督は荒い息を吐く。
胸は張り裂けそうで、軋む体は悲鳴をあげている。キハラビョウリ
それでも辿り着いた。楽しそうに追いかけてくる追跡者から逃げて、逃げて、逃げて。
ここがどこなのかは分からない。だが施設中に音声を流せる、いわゆる放送室のような場所であることは確認済みだ。
それでいい。まさにその機能を求めて垣根はここに行き着いたのだから。
カタカタと血の痕を残しながら機器を操作し、目的の機能を起動させる。
これで施設全体に垣根の声を届かせることが可能となる。
更に血に汚れた指でキーを幾度か叩くとモニターに美琴と番外個体の映像が映し出された。
それを確認すると、マイクのようなものを荒々しく掴んで垣根は叫ぶ。
もうそんな声を出す気力もないはずなのに、それでも必氏に声を張り上げる。
「御坂ッ!! 御坂ぁッ!!」
その声は確実に美琴のいる部屋にも流れているはずだ。
だが、美琴には届いていない。氏んだように無抵抗な美琴は身動き一つしない。
それを見て、垣根は導火線に着いた火がじりじりと迫ってくるような焦りに身を焦がす。
「何してんだ、起きろよ!! お前は何しにここに来た、お前の妹たちを助けるためじゃねえのか!!
ここで諦めんのかよ!? 木原のクソ野郎に全部思い通りにさせたままで終われんのかよ!?」
216: 2013/08/08(木) 22:46:52.54 ID:b5V/IbJC0
自分の言葉が美琴に届くのだろうか。
届いたとして、それは美琴がまだ生きていようと思えるほどのものだろうか。
疑問はあってもそれに悩んでいる暇などありはしない。
このままでは美琴は番外個体と『木原』に殺される。
ならば一パーセントでも可能性があるならやってみるしかない。
「そんなんでいいわけねえだろうがッ!! なあ、そうだろ御坂美琴!!
お前は妹達の、あいつらの『お姉様』なんじゃねえのかよ!!」
御坂美琴は動かない。
おそらく、美琴や上条のような人間には「命を大切にしろ」というようなことを言っても無意味だろう。
だからこそ垣根は手を変える。
「待てよ、ふざけんな!! お前は俺に言ったんだぞ!!
これからも俺の足掻きを手伝ってやるって、そう言ったじゃねえか!!
なのにお前一人だけ何全部諦めて氏のうとしてんだよ!! ふざけんじゃねえッ!!」
他人を絡める。たとえ美琴が自分で自分の生に意味を見出せずとも。
美琴が氏ぬことで悲しむ人間がいると分かれば、踏みとどまるのではないか。
『オリジナル!! ふざけンなよ、何考えてンだオマエは!!』
一方通行の声。それが唐突に響いたことを理解した途端、背後から超速で鉄釘が迫る。
即座に反応した垣根は『未元物質』を生成してそれをやり過ごし、しつこく追いかけてくる木原病理を睨む。
「……しつけえババァだな。ストーカーかよ」
「そんなことをしても無意味ですよ。散々『諦め』させてきたから分かります。
本当の意味で打ちのめされた人間は絶対に立ち上がれません。もう第三位は終わったんですよ。
それともまさか第三位なら絶対折れないとでも?」
「いいや」
たしかに御坂美琴は強いと垣根は思う。
けれどやはり彼女は女の子で、中学生で、人間だ。
当然限界はある。かつてRSPK症候群を起こした時のように。
だから垣根は美琴なら屈することがないなどとは思っていない。ただ、
届いたとして、それは美琴がまだ生きていようと思えるほどのものだろうか。
疑問はあってもそれに悩んでいる暇などありはしない。
このままでは美琴は番外個体と『木原』に殺される。
ならば一パーセントでも可能性があるならやってみるしかない。
「そんなんでいいわけねえだろうがッ!! なあ、そうだろ御坂美琴!!
お前は妹達の、あいつらの『お姉様』なんじゃねえのかよ!!」
御坂美琴は動かない。
おそらく、美琴や上条のような人間には「命を大切にしろ」というようなことを言っても無意味だろう。
だからこそ垣根は手を変える。
「待てよ、ふざけんな!! お前は俺に言ったんだぞ!!
これからも俺の足掻きを手伝ってやるって、そう言ったじゃねえか!!
なのにお前一人だけ何全部諦めて氏のうとしてんだよ!! ふざけんじゃねえッ!!」
他人を絡める。たとえ美琴が自分で自分の生に意味を見出せずとも。
美琴が氏ぬことで悲しむ人間がいると分かれば、踏みとどまるのではないか。
『オリジナル!! ふざけンなよ、何考えてンだオマエは!!』
一方通行の声。それが唐突に響いたことを理解した途端、背後から超速で鉄釘が迫る。
即座に反応した垣根は『未元物質』を生成してそれをやり過ごし、しつこく追いかけてくる木原病理を睨む。
「……しつけえババァだな。ストーカーかよ」
「そんなことをしても無意味ですよ。散々『諦め』させてきたから分かります。
本当の意味で打ちのめされた人間は絶対に立ち上がれません。もう第三位は終わったんですよ。
それともまさか第三位なら絶対折れないとでも?」
「いいや」
たしかに御坂美琴は強いと垣根は思う。
けれどやはり彼女は女の子で、中学生で、人間だ。
当然限界はある。かつてRSPK症候群を起こした時のように。
だから垣根は美琴なら屈することがないなどとは思っていない。ただ、
217: 2013/08/08(木) 22:53:01.04 ID:b5V/IbJC0
「あいつ一人じゃ無理だろうな。だが他の奴が手を貸してやりゃ何度でも立ち上がれんだよ、ああいう種類の人間は。
どれだけ落ちたって、力を貸せば御坂は必ず戻ってくるよ。テメェにゃ分からねえだろうよ。もっとも今までの俺もそうだった」
垣根帝督は今や知っている。ああいうヒーロー性を持った人間を。
あの種の人間は絶対折れないのではなく、何度でも立ち上がる人間だ。
折れない強さよりも折れても立ち上がる強さの方が尊いこともある。
「這い上がる距離が長ければそれだけ、落ちた分だけ強くなって戻ってくる」
垣根はそう言うと、木原病理に背を向けて美琴に呼びかけ続ける。
『オマエが氏ンでどォなンだ!! 誰かが救われるのか!?
違げェだろォが!! オマエが氏ンだら一体何人が涙を流すと思ってンだ!!』
木原病理の攻撃を『未元物質』でいなしながら垣根は叫ぶ。
ただ御坂美琴にもう一度立ち上がってほしい。それだけを込めて。
「……頼む、御坂。氏なないでくれ。やっと掴んだんだ。
ようやく掴んだ俺の居場所には、お前がいないと駄目なんだよッ!! だから!!」
美琴の体が動いた。唇も動いた。
立ち上がろうとしている。散々に打ちのめされて、尚這い上がろうとしている。
それを見た垣根は僅かに笑みを浮かべ、最後の一押しを力の限り叫ぶ。
「立てェェェェえええええええええええええええええええええええッ!!!!!!」
美琴が、立った。
震える足で、膝を折りそうになりながら、それでも立った。
言われずとも分かってる、と言いながら“らしい”目つきと共に。
「……そうだ。それでいい」
それを確認した垣根は不敵に笑い、木原病理に向き直る。
散々美琴の再起を否定していた木原病理の鼻を明かしてやったようで、僅かばかりの優越感と共に。
だが垣根の表情は優れなかった。理由は簡単だった。
単に、木原病理が相変わらずくすくすと楽しそうに笑っていただけのこと。
「……何笑ってんだテメェ」
どれだけ落ちたって、力を貸せば御坂は必ず戻ってくるよ。テメェにゃ分からねえだろうよ。もっとも今までの俺もそうだった」
垣根帝督は今や知っている。ああいうヒーロー性を持った人間を。
あの種の人間は絶対折れないのではなく、何度でも立ち上がる人間だ。
折れない強さよりも折れても立ち上がる強さの方が尊いこともある。
「這い上がる距離が長ければそれだけ、落ちた分だけ強くなって戻ってくる」
垣根はそう言うと、木原病理に背を向けて美琴に呼びかけ続ける。
『オマエが氏ンでどォなンだ!! 誰かが救われるのか!?
違げェだろォが!! オマエが氏ンだら一体何人が涙を流すと思ってンだ!!』
木原病理の攻撃を『未元物質』でいなしながら垣根は叫ぶ。
ただ御坂美琴にもう一度立ち上がってほしい。それだけを込めて。
「……頼む、御坂。氏なないでくれ。やっと掴んだんだ。
ようやく掴んだ俺の居場所には、お前がいないと駄目なんだよッ!! だから!!」
美琴の体が動いた。唇も動いた。
立ち上がろうとしている。散々に打ちのめされて、尚這い上がろうとしている。
それを見た垣根は僅かに笑みを浮かべ、最後の一押しを力の限り叫ぶ。
「立てェェェェえええええええええええええええええええええええッ!!!!!!」
美琴が、立った。
震える足で、膝を折りそうになりながら、それでも立った。
言われずとも分かってる、と言いながら“らしい”目つきと共に。
「……そうだ。それでいい」
それを確認した垣根は不敵に笑い、木原病理に向き直る。
散々美琴の再起を否定していた木原病理の鼻を明かしてやったようで、僅かばかりの優越感と共に。
だが垣根の表情は優れなかった。理由は簡単だった。
単に、木原病理が相変わらずくすくすと楽しそうに笑っていただけのこと。
「……何笑ってんだテメェ」
218: 2013/08/08(木) 22:57:32.53 ID:b5V/IbJC0
・
・
・
「ねえ。一つだけ、アンタは勘違いしてる」
しっかりと立ち上がった美琴は、もはや怯まない。
自らの罪をありありと体現する少女に向かって真っ直ぐに立ち向かう。
「……何?」
対する番外個体はどこまでもつまらなそうな顔でぞんざいに答えた。
彼女としては美琴がまた立ち上がるなんてつまらない展開は願い下げなのだ。
あのまま無様に潰れてくれなければ面白くない。
そんな不満がその表情に分かりやすく表れていた。
「アンタはこう言ったわね。『一万人も頃しておいて許されると思っているなんて傲慢だ』」
「それが?」
「私は許されるなんて思ってない。アンタの言う通りただの自己満足よ。許しを乞うためじゃない」
「…………」
「だから私は自分勝手にやる。ただの自己満足でアンタも守る」
219: 2013/08/08(木) 23:03:45.40 ID:b5V/IbJC0
もはや美琴は氏のうなどどとは考えない。
限界を超えて精神を陵辱され、擦り切れていた先ほどとは違う。
氏んだら悲しむ人間がいるし、身勝手な償いもできなくなってしまうのだから。
御坂美琴は敗けられない。敗けてはいけない。
「……へえ。そういうこと、言っちゃうんだ。なら仕方ないよね」
番外個体が取り出したのは、分かりやすく言えばシャープペンシルの芯の入っているケース。
そんなケースの中に入っているのは白い粉末。
白い粉末というとどうしてもドラッグを連想させ、美琴はそれに良いイメージを抱かなかった。
だが番外個体はそんな美琴の気持ちなど意に介さず、ケースを開け左の手の甲に中身を一振り二振りする。
「……何よ、それ」
美琴が止める間もなくまるで砂糖か塩でも舐めるように、番外個体は甲の粉末を舐めた。
効果は即座に表れた。番外個体の全身がドクンと震える。
ギチギチと動かないものを無理に動かすような不自然な動作で顔をあげる。
美琴はその目を見てゾッとした。その開ききったような瞳は、以前どこかで見た覚えがあった。
「ぎ、ひ、ひひひひひ……」
不穏な気配。敏感にそれを感じ取った美琴は番外個体に駆け寄り、その肩を掴んで―――。
炸裂。
番外個体を中心に光が爆ぜた。
美琴はそれの直撃を受けて吹き飛ばされ、壁に強かに叩きつけられる。
限界を超えて精神を陵辱され、擦り切れていた先ほどとは違う。
氏んだら悲しむ人間がいるし、身勝手な償いもできなくなってしまうのだから。
御坂美琴は敗けられない。敗けてはいけない。
「……へえ。そういうこと、言っちゃうんだ。なら仕方ないよね」
番外個体が取り出したのは、分かりやすく言えばシャープペンシルの芯の入っているケース。
そんなケースの中に入っているのは白い粉末。
白い粉末というとどうしてもドラッグを連想させ、美琴はそれに良いイメージを抱かなかった。
だが番外個体はそんな美琴の気持ちなど意に介さず、ケースを開け左の手の甲に中身を一振り二振りする。
「……何よ、それ」
美琴が止める間もなくまるで砂糖か塩でも舐めるように、番外個体は甲の粉末を舐めた。
効果は即座に表れた。番外個体の全身がドクンと震える。
ギチギチと動かないものを無理に動かすような不自然な動作で顔をあげる。
美琴はその目を見てゾッとした。その開ききったような瞳は、以前どこかで見た覚えがあった。
「ぎ、ひ、ひひひひひ……」
不穏な気配。敏感にそれを感じ取った美琴は番外個体に駆け寄り、その肩を掴んで―――。
炸裂。
番外個体を中心に光が爆ぜた。
美琴はそれの直撃を受けて吹き飛ばされ、壁に強かに叩きつけられる。
220: 2013/08/08(木) 23:11:48.04 ID:b5V/IbJC0
(っつぅ……! 一体何が……)
背中の痛みを無理矢理に抑え付け、顔をあげた美琴は絶句した。
番外個体が『炸裂』している。そう表現するしかなかった。
四方八方、ありとあらゆる全方向に莫大な電撃が迸っている。
一時のものではなく、永続的に。
「何で……っ、どうしてよ……!!」
近寄ることもできぬ圧倒的な破壊の嵐だった。
もともと人間を消し炭にするくらいわけもない出力だった番外個体の力。
それが更に引き上げられ、文字通り僅かの隙間もなく番外個体を中心に荒れ狂っているのだ。
それがどういう現象か。『これと似たような経験』のある美琴はすぐに答えを弾き出す。
「何で……能力が暴走してるのよ、アンタ!?」
「きひ、ひひひひひひ……」
そう。目の前の番外個体の状態は、RSPK症候群を起こした時の美琴の様子に酷似していた。
どう見たって能力の制御権が番外個体の手を離れている。
だが能力の暴走というのはそう簡単に起こるものではない。
少なくとも番外個体にそれが起きるような理由は何もなかったはず。
そこまで考えて美琴はハッとする。
理由なんて一つしかあり得なかった。
先ほど番外個体が舐めた、白い粉。あれが能力の暴走を誘発させたとしか思えない。
(ただ、あれ……どこかで見たような……)
白い粉を舐めて力を暴走させた番外個体。
白い粉を舐めて力を発揮した少女。
背中の痛みを無理矢理に抑え付け、顔をあげた美琴は絶句した。
番外個体が『炸裂』している。そう表現するしかなかった。
四方八方、ありとあらゆる全方向に莫大な電撃が迸っている。
一時のものではなく、永続的に。
「何で……っ、どうしてよ……!!」
近寄ることもできぬ圧倒的な破壊の嵐だった。
もともと人間を消し炭にするくらいわけもない出力だった番外個体の力。
それが更に引き上げられ、文字通り僅かの隙間もなく番外個体を中心に荒れ狂っているのだ。
それがどういう現象か。『これと似たような経験』のある美琴はすぐに答えを弾き出す。
「何で……能力が暴走してるのよ、アンタ!?」
「きひ、ひひひひひひ……」
そう。目の前の番外個体の状態は、RSPK症候群を起こした時の美琴の様子に酷似していた。
どう見たって能力の制御権が番外個体の手を離れている。
だが能力の暴走というのはそう簡単に起こるものではない。
少なくとも番外個体にそれが起きるような理由は何もなかったはず。
そこまで考えて美琴はハッとする。
理由なんて一つしかあり得なかった。
先ほど番外個体が舐めた、白い粉。あれが能力の暴走を誘発させたとしか思えない。
(ただ、あれ……どこかで見たような……)
白い粉を舐めて力を暴走させた番外個体。
白い粉を舐めて力を発揮した少女。
221: 2013/08/08(木) 23:15:00.82 ID:b5V/IbJC0
――『滝壺、あんたはもういいわ。「体晶」の使いすぎよ。二人と一緒に下がってなさい』――
――『むぎの……。うん、分かった』――
――(『体晶』……?)――
記憶に蘇ったのは『アイテム』所属の少女。
名前を滝壺理后という。
『アイテム』とは二度交戦したが、どちらにおいても的確に美琴の居場所を掴んで見せた少女だった。
記憶では滝壺は何かの粉末を舐めて力を発動させていたと記憶している。
やや結果は違うが、番外個体の現状もそれによるものと考えられた。
「待って、待って……アンタまさか、『体晶』を……ッ!?」
「ぎひひ……知ってるんだ。そう、それだよ」
「何でよ……ッ!! やめてよ、そんなことしたらアンタ……ッ!!」
「……ミサカは、ここまで捨てたよ。アンタを頃すために」
「ねぇ、お願いだからやめて!! アンタの体が……持たないッ!!」
美琴は『体晶』というものについて何も知らない。
だが今の番外個体を見れば相当な劇薬であることは一目で分かる。
また麦野が滝壺に言った「『体晶』の使いすぎ」という言葉、滝壺の疲労。
それらからも『体晶』の悪い面は浮き彫りにされていた。
何故番外個体がそんなものを持っているのか。
彼女はあくまでクローンであり、誕生から今に至るまで全てを管理されていたはずだ。
そんな番外個体が『体晶』を手に入れる機会などあるはずもない。
それにそもそも『体晶』だってそう簡単に入手できるものではないだろう。
自然と答えは絞られた。可能性は一つしかなかった。
222: 2013/08/08(木) 23:17:10.84 ID:b5V/IbJC0
「テレスティーナ=木原=ライフラインッ!!
何でこの子に『体晶』なんてモン渡したのよ!! どういうものかくらい分かってたんでしょ!!」
番外個体が近づいてくる。それから逃げながら、その電流を自分の能力で無効化しながら美琴は憤る。
だが分かっていたことだ。御坂美琴の勝利条件と番外個体の勝利条件は同じではないのだと。
そう、番外個体は『自分を傷つけることでも美琴にダメージを与えられる』。
テレスティーナがそこを利用しないはずがない。
『おいおい、何キレてんだよ。「体晶」もテメェを頃すためのもんだぜ?
テメェがいなかったらこうはならなかったと思わねぇか?』
「ふざけんなッ!! 答えなさい、どうしたら止められるのよ!?」
『そうかそうか、そんなに止めてぇか』
「当たり前でしょッ!!」
美琴は怒鳴りながらもジリジリと番外個体に追い詰められ始めていた。
もとより美琴は彼女に手を出すことができない。
これはあまりに大き過ぎるハンデだった。
今の番外個体を止めようと思ったら生半可な力では果たせない。
よほど思い切らない限りは。
いや、もしかしたら本気でその気になっても出来ない可能性すらある。
だからこそ、美琴は他に番外個体を止める手段を求めた。
たとえばこの状態がいつまでも続くとは思えないので、時間切れを狙って逃げ回るなど。
しかし。
『だったら止めてやるよ』
御坂美琴は、そもそものところから勘違いをしていた。
何故自分を追い詰めるテレスティーナの策がもうないと思ったのか。
番外個体による精神攻撃だけだと思ったのか。
何でこの子に『体晶』なんてモン渡したのよ!! どういうものかくらい分かってたんでしょ!!」
番外個体が近づいてくる。それから逃げながら、その電流を自分の能力で無効化しながら美琴は憤る。
だが分かっていたことだ。御坂美琴の勝利条件と番外個体の勝利条件は同じではないのだと。
そう、番外個体は『自分を傷つけることでも美琴にダメージを与えられる』。
テレスティーナがそこを利用しないはずがない。
『おいおい、何キレてんだよ。「体晶」もテメェを頃すためのもんだぜ?
テメェがいなかったらこうはならなかったと思わねぇか?』
「ふざけんなッ!! 答えなさい、どうしたら止められるのよ!?」
『そうかそうか、そんなに止めてぇか』
「当たり前でしょッ!!」
美琴は怒鳴りながらもジリジリと番外個体に追い詰められ始めていた。
もとより美琴は彼女に手を出すことができない。
これはあまりに大き過ぎるハンデだった。
今の番外個体を止めようと思ったら生半可な力では果たせない。
よほど思い切らない限りは。
いや、もしかしたら本気でその気になっても出来ない可能性すらある。
だからこそ、美琴は他に番外個体を止める手段を求めた。
たとえばこの状態がいつまでも続くとは思えないので、時間切れを狙って逃げ回るなど。
しかし。
『だったら止めてやるよ』
御坂美琴は、そもそものところから勘違いをしていた。
何故自分を追い詰めるテレスティーナの策がもうないと思ったのか。
番外個体による精神攻撃だけだと思ったのか。
223: 2013/08/08(木) 23:22:40.30 ID:b5V/IbJC0
そう、まだあった。
こんな事態になっても確実に美琴を破壊するために。
学園都市は、『木原』は想像を超えた狂気を見せたが、それより更にどうかしていた。
番外個体が御坂美琴のトラウマを突き、それを利用して頃したとしても。
美琴が番外個体に手をあげて打ち倒したとしても。
それどころか引き分けようが和解しようが、第三位としての力を振るって殺さずに事を収められるような事態になったとしても。
確実に御坂美琴を貫き頃す槍があった。
こんな事態になっても確実に美琴を破壊するために。
学園都市は、『木原』は想像を超えた狂気を見せたが、それより更にどうかしていた。
番外個体が御坂美琴のトラウマを突き、それを利用して頃したとしても。
美琴が番外個体に手をあげて打ち倒したとしても。
それどころか引き分けようが和解しようが、第三位としての力を振るって殺さずに事を収められるような事態になったとしても。
確実に御坂美琴を貫き頃す槍があった。
224: 2013/08/08(木) 23:25:36.95 ID:b5V/IbJC0
ぶちゅり。
225: 2013/08/08(木) 23:26:27.49 ID:b5V/IbJC0
そんな小さな音だった。
番外個体の体の中に埋め込まれた『セレクター』が、破裂する音だった。
同時、激しく荒れ狂っていた電撃が嘘のように収まっていく。
まるで雷雨が突然降り止んだように。そして、そのまま番外個体は鮮血を散らせながらばたりと床に倒れた。
番外個体の体の中に埋め込まれた『セレクター』が、破裂する音だった。
同時、激しく荒れ狂っていた電撃が嘘のように収まっていく。
まるで雷雨が突然降り止んだように。そして、そのまま番外個体は鮮血を散らせながらばたりと床に倒れた。
226: 2013/08/08(木) 23:27:19.23 ID:b5V/IbJC0
「――――――……は?」
227: 2013/08/08(木) 23:28:42.12 ID:b5V/IbJC0
もしかしたら、今後はもっと何かがあるかもしれないとは思っていた。
番外個体自身が言っていた。ここで自分が倒れたとしても、次が来ると。
だが今後はどうであれ、美琴はとりあえず現在番外個体という悪夢を乗り越えた。
だから、これで終わりだ。少なくとも今はこれ以上の心のダメージはない。
そう思っていたからこそ、御坂美琴の思考は完全に停止し、あらゆる感情は平坦になった。
目の前の事態がテレスティーナ=木原=ライフラインによって引き起こされたのは明らかだった。
事実番外個体を破裂させたテレスティーナは腹が捩れるほどに爆笑している。
だが美琴にはその癇に障る声がどこか夢のような、現実味を欠いているように思えた。
声だけではない。何もかもが停止した御坂美琴の見ている世界には、そもそも色がなかった。
何もかもが白黒。何もかもがテレビの向こうのように非現実的。
あまりにリアルさに欠けていて、テレスティーナの笑い声などほとんど耳に入っていなかった。
だが全てが白と黒の中に、場違いな色が一つだけ。
赤。紅。番外個体の首から後頭部にかけての辺りが裂けていた。
そこからドクドクと決して少なくないおかしな赤い液体が流れている。
番外個体自身が言っていた。ここで自分が倒れたとしても、次が来ると。
だが今後はどうであれ、美琴はとりあえず現在番外個体という悪夢を乗り越えた。
だから、これで終わりだ。少なくとも今はこれ以上の心のダメージはない。
そう思っていたからこそ、御坂美琴の思考は完全に停止し、あらゆる感情は平坦になった。
目の前の事態がテレスティーナ=木原=ライフラインによって引き起こされたのは明らかだった。
事実番外個体を破裂させたテレスティーナは腹が捩れるほどに爆笑している。
だが美琴にはその癇に障る声がどこか夢のような、現実味を欠いているように思えた。
声だけではない。何もかもが停止した御坂美琴の見ている世界には、そもそも色がなかった。
何もかもが白黒。何もかもがテレビの向こうのように非現実的。
あまりにリアルさに欠けていて、テレスティーナの笑い声などほとんど耳に入っていなかった。
だが全てが白と黒の中に、場違いな色が一つだけ。
赤。紅。番外個体の首から後頭部にかけての辺りが裂けていた。
そこからドクドクと決して少なくないおかしな赤い液体が流れている。
228: 2013/08/08(木) 23:29:27.57 ID:b5V/IbJC0
あレは、ナんダロウ?
いったイ、ナにがオキた?
こレハ、どうイうこトナンだ?
229: 2013/08/08(木) 23:33:25.63 ID:b5V/IbJC0
しかし、そこで事は終わらなかった。
まだ終わらない。テレスティーナの狂気は止まらない。
ブチブチ、と肉を引き裂くような音がした。
あまりにも生々しい人体が裂ける音。
番外個体の左足が、根元から千切れていた。
左足は義足だったはずだが、あれは見せかけだけで実際にはちゃんとした足が再生されていたのか。
それとも義足であってもここまで本物と遜色ない中身になっていたのか。
そんなことはどうでもいい。
そこから見えるのは赤黒い肉と白い骨。
そして濁流のように止め処なく流れ出る赤い血液。
千切れたのは左足だった。よりによって『左足』だった。
右足でも、右手でも左手でもなく。『左足』。
美琴の頭に嫌でも蘇るのは、九九八二号の最期の姿。
血塗れで、『左足』を失った痛々しい光景。
千切られて、肉体から独立してしまった番外個体の左足。
何をどうしたってその二つの光景が重なってしまう。
九九八二号。
彼女が左足をもがれるのはこれで二度目だった。
9982ゴウ
番外個体は血塗れで笑っていた。
まるで負の感情によって顔が塗り固められたような、そんな邪悪で歪な笑顔だった。
口だけが動いていた。ぱくぱくと、魚が呼吸するように口だけが動いていた。
掠れるような声で、彼女はこう呟いていた。
まだ終わらない。テレスティーナの狂気は止まらない。
ブチブチ、と肉を引き裂くような音がした。
あまりにも生々しい人体が裂ける音。
番外個体の左足が、根元から千切れていた。
左足は義足だったはずだが、あれは見せかけだけで実際にはちゃんとした足が再生されていたのか。
それとも義足であってもここまで本物と遜色ない中身になっていたのか。
そんなことはどうでもいい。
そこから見えるのは赤黒い肉と白い骨。
そして濁流のように止め処なく流れ出る赤い血液。
千切れたのは左足だった。よりによって『左足』だった。
右足でも、右手でも左手でもなく。『左足』。
美琴の頭に嫌でも蘇るのは、九九八二号の最期の姿。
血塗れで、『左足』を失った痛々しい光景。
千切られて、肉体から独立してしまった番外個体の左足。
何をどうしたってその二つの光景が重なってしまう。
九九八二号。
彼女が左足をもがれるのはこれで二度目だった。
9982ゴウ
番外個体は血塗れで笑っていた。
まるで負の感情によって顔が塗り固められたような、そんな邪悪で歪な笑顔だった。
口だけが動いていた。ぱくぱくと、魚が呼吸するように口だけが動いていた。
掠れるような声で、彼女はこう呟いていた。
230: 2013/08/08(木) 23:35:49.59 ID:b5V/IbJC0
「……ア、ン、タ、の、せ、い、だ」
231: 2013/08/08(木) 23:37:12.11 ID:b5V/IbJC0
世界が急速にリアルな色彩を取り戻す。
その言葉はかつて夢の中で九九八二号に言われた言葉と同一で。
『超電磁砲。テメェ九九八二号を頃すのはこれで二度目だな』
そんな、テレスティーナの声がとどめとなって。
吐寫物を、撒き散らすかと思った。
232: 2013/08/08(木) 23:40:00.60 ID:b5V/IbJC0
「―――あ、」
「……あ、あ……ああ……」
233: 2013/08/08(木) 23:41:52.36 ID:b5V/IbJC0
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!」
234: 2013/08/08(木) 23:44:14.54 ID:b5V/IbJC0
腹の底の底から、魂の一欠片まで。
御坂美琴という人間のありとあらゆる全てを、余すことなく凝縮した負の咆哮。
その叫びだけで天が割れ大地が揺るぎそうだった。
世界の果てまで、世界七〇億全ての人類に届く絶望だった。
聞く者の精神すら破壊しかねないほどに。
見る者の心さえすり潰しそうなほどに。
世界に溢れる負を全て一点に凝縮したような、絶叫。
とてもではないがこれが一四歳の少女……いや、一人の人間から発せられているとは到底信じられなかった。
絶望。憤怒。諦め。嘆き。拒絶。否定。悲しみ。恐怖。孤独。憎悪。
この世の黒いものが一つ残さず詰め込まれていた。
命を懸けても守りたかった。
世界というもの全てを敵に回してでも味方でいたかった。
そのために氏のうともした。
御坂美琴という未成熟な少女の、守るべきものの筆頭に名が連ねられていた。
その一人。そんな守るべき妹達の一人が、血溜まりに沈んでいる。虫の息になっている。
一度。一度心を砕かれて、けれど美琴は再度立ち上がった。
だからこそ、今度の今度こそ美琴の心はほぼ完全に砕け散る。
最初からの絶望よりも、一度希望を掴んだ上での絶望の方が遥かに重い。
もう駄目だ。『木原』は本当にどうかしている。あんなのには付き合えない。
それどころかそれによる恩恵を受けている学園都市、更にはそれで繁栄しているこの世界にさえもう付き合えない。
どうせこれで終わりではない。
もしこれで美琴の心が完全に砕けなければ、テレスティーナ=木原=ライフラインは何度でも次の手を打つ。
今度は上条当麻や白井黒子辺りが利用されるのか、打ち止めの姿をした妹達でも仕向けてくるのか。
御坂美琴という人間のありとあらゆる全てを、余すことなく凝縮した負の咆哮。
その叫びだけで天が割れ大地が揺るぎそうだった。
世界の果てまで、世界七〇億全ての人類に届く絶望だった。
聞く者の精神すら破壊しかねないほどに。
見る者の心さえすり潰しそうなほどに。
世界に溢れる負を全て一点に凝縮したような、絶叫。
とてもではないがこれが一四歳の少女……いや、一人の人間から発せられているとは到底信じられなかった。
絶望。憤怒。諦め。嘆き。拒絶。否定。悲しみ。恐怖。孤独。憎悪。
この世の黒いものが一つ残さず詰め込まれていた。
命を懸けても守りたかった。
世界というもの全てを敵に回してでも味方でいたかった。
そのために氏のうともした。
御坂美琴という未成熟な少女の、守るべきものの筆頭に名が連ねられていた。
その一人。そんな守るべき妹達の一人が、血溜まりに沈んでいる。虫の息になっている。
一度。一度心を砕かれて、けれど美琴は再度立ち上がった。
だからこそ、今度の今度こそ美琴の心はほぼ完全に砕け散る。
最初からの絶望よりも、一度希望を掴んだ上での絶望の方が遥かに重い。
もう駄目だ。『木原』は本当にどうかしている。あんなのには付き合えない。
それどころかそれによる恩恵を受けている学園都市、更にはそれで繁栄しているこの世界にさえもう付き合えない。
どうせこれで終わりではない。
もしこれで美琴の心が完全に砕けなければ、テレスティーナ=木原=ライフラインは何度でも次の手を打つ。
今度は上条当麻や白井黒子辺りが利用されるのか、打ち止めの姿をした妹達でも仕向けてくるのか。
235: 2013/08/08(木) 23:46:36.15 ID:b5V/IbJC0
いずれにしても、ここが限界だ。
これから絶対に『木原』はこれ以上の痛みを与えてくる。
それは駄目だ。そんなものには間違っても耐えられない。挑戦したいとも思わない。
御坂美琴は叫び続ける。
壊れるように叫ぶ。叫ぶように壊れる。
喉よ裂けろ。
声よ枯れろ。
体よ弾けろ。
もう何もかもが許せない。
白も黒も一も二もプラスもマイナスも大人も子供も男も女も超能力者も無能力者も悪党も善人も知人も他人も好きも嫌いも利も害も、全部全部全部何もかもがどうでもよかった。
全てが等しく憎悪の対象で、全てが等しく破壊衝動の対象だった。
何もかもを薙ぎ払いたい。片っ端から破壊したい。
世界は、絶望に満ちている。
現実は優しくない。どこまでも残酷で、狂気的だった。
こんな世界など必要ない。
こんな狂った世界などなくなってしまえばいい。
どうせこの世に生きている連中は何も知らずにこんな奴らの恩恵を受けている奴らだ。
消えてしまえ。何もかも一つ残らず跡形さえなく。
何もかも、消えてしまえ。
だが。そんな美琴の視界に何かが映る。
番外個体だった。血の海に沈んだ番外個体が蛆虫のように僅かに身動ぎした。
しかし、その動作は確実に番外個体がまだ生存していることを表している。
これから絶対に『木原』はこれ以上の痛みを与えてくる。
それは駄目だ。そんなものには間違っても耐えられない。挑戦したいとも思わない。
御坂美琴は叫び続ける。
壊れるように叫ぶ。叫ぶように壊れる。
喉よ裂けろ。
声よ枯れろ。
体よ弾けろ。
もう何もかもが許せない。
白も黒も一も二もプラスもマイナスも大人も子供も男も女も超能力者も無能力者も悪党も善人も知人も他人も好きも嫌いも利も害も、全部全部全部何もかもがどうでもよかった。
全てが等しく憎悪の対象で、全てが等しく破壊衝動の対象だった。
何もかもを薙ぎ払いたい。片っ端から破壊したい。
世界は、絶望に満ちている。
現実は優しくない。どこまでも残酷で、狂気的だった。
こんな世界など必要ない。
こんな狂った世界などなくなってしまえばいい。
どうせこの世に生きている連中は何も知らずにこんな奴らの恩恵を受けている奴らだ。
消えてしまえ。何もかも一つ残らず跡形さえなく。
何もかも、消えてしまえ。
だが。そんな美琴の視界に何かが映る。
番外個体だった。血の海に沈んだ番外個体が蛆虫のように僅かに身動ぎした。
しかし、その動作は確実に番外個体がまだ生存していることを表している。
236: 2013/08/08(木) 23:47:34.55 ID:b5V/IbJC0
御坂美琴の目が血走る。
ほんの、本当にちっぽけな目標が生まれる。
僅かばかりの彼女を突き動かす何かが芽生えた。
「……舐めんなぁぁぁあああああああああああああああッ!!!!!!」
番外個体の元へ向かい、その体に触れる。
御坂美琴の能力はあらゆる電気を操ることを可能にする。
それは一〇億ボルトもの高圧電流や雷撃の槍といった攻撃の形ばかりにしか使えないわけではない。
そう、垣根帝督にやったように生体電気に干渉することで健康状態もある程度読み取れるし、治療の真似事だって出来る。
「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなッ!!
いつまでもいつまでもいつまでもッ!! ただ操られるだけのコマだと思ってんじゃないッ!!
頭のイカレたクソッタレ共、今からそのふざけた余裕のツラを粉々にしてやる!!」
番外個体を使って確実に御坂美琴を破壊する。
そのためにどう足掻いても番外個体は氏亡する。
それが『木原』の筋書きだった。
ならば、自分が番外個体を助けてしまえばどうか?
それはこのクソッタレのクソッタレのクソッタレ共の筋書きを覆すことにはならないか?
「今からアンタらに見せてやる……私の力は誰かを救えるものだってことをッ!!」
御坂美琴の双眸に明確なる意思が宿る。
一人の少女の、ちっぽけな反抗が始まった。
ほんの、本当にちっぽけな目標が生まれる。
僅かばかりの彼女を突き動かす何かが芽生えた。
「……舐めんなぁぁぁあああああああああああああああッ!!!!!!」
番外個体の元へ向かい、その体に触れる。
御坂美琴の能力はあらゆる電気を操ることを可能にする。
それは一〇億ボルトもの高圧電流や雷撃の槍といった攻撃の形ばかりにしか使えないわけではない。
そう、垣根帝督にやったように生体電気に干渉することで健康状態もある程度読み取れるし、治療の真似事だって出来る。
「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなッ!!
いつまでもいつまでもいつまでもッ!! ただ操られるだけのコマだと思ってんじゃないッ!!
頭のイカレたクソッタレ共、今からそのふざけた余裕のツラを粉々にしてやる!!」
番外個体を使って確実に御坂美琴を破壊する。
そのためにどう足掻いても番外個体は氏亡する。
それが『木原』の筋書きだった。
ならば、自分が番外個体を助けてしまえばどうか?
それはこのクソッタレのクソッタレのクソッタレ共の筋書きを覆すことにはならないか?
「今からアンタらに見せてやる……私の力は誰かを救えるものだってことをッ!!」
御坂美琴の双眸に明確なる意思が宿る。
一人の少女の、ちっぽけな反抗が始まった。
237: 2013/08/08(木) 23:48:21.37 ID:b5V/IbJC0
・
・
・
「アハッ」
壊れたような哄笑が弾けた。
御坂美琴の、ものだった。
その近くには倒れ伏して動かない番外個体の姿。
結論から言って、無理だった。
御坂美琴では番外個体は助けられなかった。
「あは、はは。ひゃははははは」
美琴の能力で可能なのは電気の操作。
だから彼女は生体電気や筋組織などに限界まで働きかけ、再起を促した。
けれど、それだけ。そこまでが限界。
所詮は自然治癒の大幅な促進程度が限界で、ここまでの傷に自然治癒など当てになるはずもない。
ドクドクと溢れる夥しい出血を止めることさえ、美琴には出来なかった。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
狂ったような声で笑う。
御坂美琴という少女にはあり得ない笑い方で、笑う。
泣いたような、世界の終わりのような、絶望と諦めに塗り固められた表情で笑う。
その表情と声があまりに不釣合いだった。
238: 2013/08/08(木) 23:50:34.67 ID:b5V/IbJC0
もしかしたら。第一位の超能力者ならば、助けられたかもしれない。
あらゆるベクトルを操作する一方通行にとって、血の流れを操作して出血を食い止めることくらい造作もないはずだ。
あるいは第二位の超能力者ならば、助けられたかもしれない。
創造性を有する垣根帝督にとって、『未元物質』で傷口を塞ぐくらいできるはずだ。
あのわけの分からない能力ならばそれ以上のことだって出来るのかもしれない。
だが、一番どころか二番にもなれない少女では、力不足だった。
散々に利用され、万の命を作られ、万の命を散らされ、壊され、抗って。
最後の最後に立ち塞がったのは、単純な『力不足』という三文字。
何の比喩でもない。心の強さなどでもない。
シンプルな、そのままの意味で美琴には強さが足りなかった。
ここまで来て。実力不足というこの上なく分かりやすい現実が美琴の反抗を砕く。
「アハ、あひゃひゃひゃひゃ。駄目、もう駄目。あははははははは」
声の高低が安定しない。掴んだと思った希望を二度潰された美琴の声はもう氏んでいた。
普段の美琴からは想像も出来ないような笑い声で、何かが崩壊していく。
何が姉だ。何が超能力者だ。何が第三位だ。何が超電磁砲だ。
そんなもの、何の価値もありはしない。
そして。こんな狂った世界さえも、価値などない。
もう駄目なのだ。もうやってられない。
こんなものに付き合ってなどいられない。
あらゆるベクトルを操作する一方通行にとって、血の流れを操作して出血を食い止めることくらい造作もないはずだ。
あるいは第二位の超能力者ならば、助けられたかもしれない。
創造性を有する垣根帝督にとって、『未元物質』で傷口を塞ぐくらいできるはずだ。
あのわけの分からない能力ならばそれ以上のことだって出来るのかもしれない。
だが、一番どころか二番にもなれない少女では、力不足だった。
散々に利用され、万の命を作られ、万の命を散らされ、壊され、抗って。
最後の最後に立ち塞がったのは、単純な『力不足』という三文字。
何の比喩でもない。心の強さなどでもない。
シンプルな、そのままの意味で美琴には強さが足りなかった。
ここまで来て。実力不足というこの上なく分かりやすい現実が美琴の反抗を砕く。
「アハ、あひゃひゃひゃひゃ。駄目、もう駄目。あははははははは」
声の高低が安定しない。掴んだと思った希望を二度潰された美琴の声はもう氏んでいた。
普段の美琴からは想像も出来ないような笑い声で、何かが崩壊していく。
何が姉だ。何が超能力者だ。何が第三位だ。何が超電磁砲だ。
そんなもの、何の価値もありはしない。
そして。こんな狂った世界さえも、価値などない。
もう駄目なのだ。もうやってられない。
こんなものに付き合ってなどいられない。
239: 2013/08/08(木) 23:53:21.89 ID:b5V/IbJC0
美琴の中にある何かが弾ける。
それは行き場をなくして暴走し、やがて明確な形も取らずに無茶苦茶に吐き出された。
「あは、ははっ、はははははははッ!! もう抑えられない!!
がはっ、は、はははは!! 全部全部壊れろ。消えろッ!!
こんな世界に何の価値がある。あははははは……あァァァあああああああああああああああッ!!
ちくしょう、呪われろッ!! 一人残らず!! こんな最低最悪な世界ごと滅びろ!!」
その雄叫びは。本当に世界全てを呪ってしまいそうなほどに絶望に満ちていた。
それをきっかけにこの星が氏の星になるほどの大魔術を発動させてしまうのではないか。
本気でそんなことを考えずにはいられないほどに、空気をびりびりと震わせる。
『イイね、最高にいいぜぇ超電磁砲!! それだよ私が見たかったのは!! オラもっと絶望しろや!!』
テレスティーナのそんな嘲笑は、耳に入らなかった。
もはやテレスティーナだろうがただの通行人だろうが、美琴にとってはどうでもいい。
ただ壊したい。何もかもを投げ出して、崩壊してしまいたい。
そんな気持ちしか残されていなかった。
それは行き場をなくして暴走し、やがて明確な形も取らずに無茶苦茶に吐き出された。
「あは、ははっ、はははははははッ!! もう抑えられない!!
がはっ、は、はははは!! 全部全部壊れろ。消えろッ!!
こんな世界に何の価値がある。あははははは……あァァァあああああああああああああああッ!!
ちくしょう、呪われろッ!! 一人残らず!! こんな最低最悪な世界ごと滅びろ!!」
その雄叫びは。本当に世界全てを呪ってしまいそうなほどに絶望に満ちていた。
それをきっかけにこの星が氏の星になるほどの大魔術を発動させてしまうのではないか。
本気でそんなことを考えずにはいられないほどに、空気をびりびりと震わせる。
『イイね、最高にいいぜぇ超電磁砲!! それだよ私が見たかったのは!! オラもっと絶望しろや!!』
テレスティーナのそんな嘲笑は、耳に入らなかった。
もはやテレスティーナだろうがただの通行人だろうが、美琴にとってはどうでもいい。
ただ壊したい。何もかもを投げ出して、崩壊してしまいたい。
そんな気持ちしか残されていなかった。
266: 2013/08/24(土) 22:29:40.63 ID:9zvZep500
決着。―――だがその遺産は。
267: 2013/08/24(土) 22:32:51.09 ID:9zvZep500
御坂美琴という少女は、終わった。
だがその瞬間、ヒュンという聞き覚えのある音と共に突然誰かが姿を現した。
普通にやって来たのではない。文字通り誰も、何もない空間に『出現』したのだ。
美琴はその現象に見覚えがあった。
『空間移動』。
そしてその人物は。赤い髪を二つに結って、サラシを巻いた露出度の高い女性は。
『グループ』のメンバーである大能力者、『座標移動』の能力を持つ結標淡希はこう言った。
「まだ、絶望するには早いわ」
「結標、淡希……」
結標の出現に何か希望でも感じたのか、奇跡的に美琴の口から明確な意図を持った『言葉』が紡がれる。
そういえば結標は一方通行と同じく『グループ』とやらの一員だと言っていたな、と美琴は思い出す。
そんなことを考えられるほどに思考力が戻っていた。
結標淡希の登場。想像もしていなかったイレギュラー。
このイレギュラーが、この狂った世界に光を指してくれるのではと期待せずにはいられなかった。
「その子はまだ氏んでいない。私の能力があればすぐに病院に運び込めるわ」
結標淡希の能力を使えば、遥かに早く番外個体を連れ出せる。
番外個体はまだ氏んでいない。だがこのまま放置すれば間違いなく氏ぬ。
しかし同時に、結標を信用していいのかも分からなかった。
何しろかつて『残骸』を用いて悪魔の頭脳を再建しようとしていた人間なのだ。
「貴女の決断次第でその子は助かるのよ。こんな世界でも、希望はある」
その言葉に美琴は反応する。
あそこまで行って、もしかしたら尚美琴は完全には壊れきってはいなかったのかもしれない。
人としての大事な何かが、欠片ほどでも残っていたのかもしれない。
だがその瞬間、ヒュンという聞き覚えのある音と共に突然誰かが姿を現した。
普通にやって来たのではない。文字通り誰も、何もない空間に『出現』したのだ。
美琴はその現象に見覚えがあった。
『空間移動』。
そしてその人物は。赤い髪を二つに結って、サラシを巻いた露出度の高い女性は。
『グループ』のメンバーである大能力者、『座標移動』の能力を持つ結標淡希はこう言った。
「まだ、絶望するには早いわ」
「結標、淡希……」
結標の出現に何か希望でも感じたのか、奇跡的に美琴の口から明確な意図を持った『言葉』が紡がれる。
そういえば結標は一方通行と同じく『グループ』とやらの一員だと言っていたな、と美琴は思い出す。
そんなことを考えられるほどに思考力が戻っていた。
結標淡希の登場。想像もしていなかったイレギュラー。
このイレギュラーが、この狂った世界に光を指してくれるのではと期待せずにはいられなかった。
「その子はまだ氏んでいない。私の能力があればすぐに病院に運び込めるわ」
結標淡希の能力を使えば、遥かに早く番外個体を連れ出せる。
番外個体はまだ氏んでいない。だがこのまま放置すれば間違いなく氏ぬ。
しかし同時に、結標を信用していいのかも分からなかった。
何しろかつて『残骸』を用いて悪魔の頭脳を再建しようとしていた人間なのだ。
「貴女の決断次第でその子は助かるのよ。こんな世界でも、希望はある」
その言葉に美琴は反応する。
あそこまで行って、もしかしたら尚美琴は完全には壊れきってはいなかったのかもしれない。
人としての大事な何かが、欠片ほどでも残っていたのかもしれない。
268: 2013/08/24(土) 22:36:50.02 ID:9zvZep500
もしこれが一方通行だったならば。垣根帝督だったならば。
きっとこうは行かなかっただろう。たとえ番外個体が助かるとしても、もはやそこで止まれなかっただろう。
彼らのような人間と美琴のような人間。その差。
それこそがこの結果を生んだのかもしれない。
『おいおいおい、ナンだテメェはよォ!? 感動の場面に水差してんじゃねえよクソが!!』
良いところを邪魔されたテレスティーナは一気に不機嫌になる。
テレスティーナが何かをしているのか、金属質な物音を聞いた結標はその顔を分かりやすい焦りに染めた。
「早く!! 奴が来る!!」
「…………」
美琴は答えない。あまりに突然降って湧いた希望。
絶望しかない世界に突如現れた光。
崩れていく美琴の心を繋ぎとめるもの。
どこまでも非現実的だった。あそこまで行った美琴にとってそう簡単に信じられるものではなかった。
その希望に反応するし、掴みたいとも思う。だがあと一歩踏み出せない。
結標はそんな美琴の様子に業を煮やしたのか、ずんずんと歩み寄ってパン!! と美琴の頬を掌で叩いた。
頬に伝わるじんじんとした痛み。僅かに皮膚が赤くなる。
だがそれでも美琴は動かない。結標は美琴の襟を荒々しく掴む。
「いい加減にしなさい。いい、その子は助かる。
貴女はあの子たちの姉なんじゃなかったの? 諦めるの?
なんで私がお説教なんてしなくちゃならないのよ。こんなの、まるっきり立場が逆でしょうが。
『残骸』の時は散々私に綺麗な理想を語っていたくせに」
結標は手を離して、至極シンプルな二択を美琴に問う。
「貴女、その子を氏なせたいの? それとも助けたいの?」
きっとこうは行かなかっただろう。たとえ番外個体が助かるとしても、もはやそこで止まれなかっただろう。
彼らのような人間と美琴のような人間。その差。
それこそがこの結果を生んだのかもしれない。
『おいおいおい、ナンだテメェはよォ!? 感動の場面に水差してんじゃねえよクソが!!』
良いところを邪魔されたテレスティーナは一気に不機嫌になる。
テレスティーナが何かをしているのか、金属質な物音を聞いた結標はその顔を分かりやすい焦りに染めた。
「早く!! 奴が来る!!」
「…………」
美琴は答えない。あまりに突然降って湧いた希望。
絶望しかない世界に突如現れた光。
崩れていく美琴の心を繋ぎとめるもの。
どこまでも非現実的だった。あそこまで行った美琴にとってそう簡単に信じられるものではなかった。
その希望に反応するし、掴みたいとも思う。だがあと一歩踏み出せない。
結標はそんな美琴の様子に業を煮やしたのか、ずんずんと歩み寄ってパン!! と美琴の頬を掌で叩いた。
頬に伝わるじんじんとした痛み。僅かに皮膚が赤くなる。
だがそれでも美琴は動かない。結標は美琴の襟を荒々しく掴む。
「いい加減にしなさい。いい、その子は助かる。
貴女はあの子たちの姉なんじゃなかったの? 諦めるの?
なんで私がお説教なんてしなくちゃならないのよ。こんなの、まるっきり立場が逆でしょうが。
『残骸』の時は散々私に綺麗な理想を語っていたくせに」
結標は手を離して、至極シンプルな二択を美琴に問う。
「貴女、その子を氏なせたいの? それとも助けたいの?」
269: 2013/08/24(土) 22:39:05.18 ID:9zvZep500
美琴の心は、動いた。
そんなもの決まっている。ずっと前から決まっている。
ぎりぎりと軋む心を強引に動かして、美琴は言葉を紡ぐ。
「……助けたい。私は、あの子たちを助けて、守りたい!!
もう、一人だって傷ついて、氏んでほしくない……!!」
頭を抱えて美琴はこの上なく単純な答えを吐き出した。
そう、何を悩んでいるのだ。守りたいのだ。氏んでほしくないのだ。
ならばどうするべきかなんて明白で。迷っている暇などありはしない。
一秒無駄にするごとに番外個体の命が削られていくのだ。
結標はその答えに満足したのか大きく頷いて、
「私を信用できないのは当然でしょうけど、これも仕事なのよ。
だからそこは大丈夫よ。大体その子に何かしたら第三位と第一位、下手したら第二位まで敵に回すことになるのよ。
そんな命知らずなことはしないわよ、私も」
なるほど、と美琴は思った。
たしかにそれなら下手に綺麗事を並べられるよりよほど信用できる。
それにどうせこのままでは番外個体は氏ぬのだ。
ならば一パーセントでも可能性のある方に賭けるべきだろう。
「……分かった。この子をお願い」
結標は頷くと、軍用ライトを一振りする。
それに呼応して番外個体の体が消え、結標の腕の中に現れる。
わざわざ能力を使ったのは手間の省略もあるだろうが、おそらく一番には番外個体の体をあまり不用意に動かさないようにだろう。
傍目には以前と同じように見えるピンクの駆動鎧を着込んだテレスティーナが現れた時には、結標と番外個体はその姿を一一次元へと消していた。
残っているのは目に光を取り戻した御坂美琴のみ。
そんなもの決まっている。ずっと前から決まっている。
ぎりぎりと軋む心を強引に動かして、美琴は言葉を紡ぐ。
「……助けたい。私は、あの子たちを助けて、守りたい!!
もう、一人だって傷ついて、氏んでほしくない……!!」
頭を抱えて美琴はこの上なく単純な答えを吐き出した。
そう、何を悩んでいるのだ。守りたいのだ。氏んでほしくないのだ。
ならばどうするべきかなんて明白で。迷っている暇などありはしない。
一秒無駄にするごとに番外個体の命が削られていくのだ。
結標はその答えに満足したのか大きく頷いて、
「私を信用できないのは当然でしょうけど、これも仕事なのよ。
だからそこは大丈夫よ。大体その子に何かしたら第三位と第一位、下手したら第二位まで敵に回すことになるのよ。
そんな命知らずなことはしないわよ、私も」
なるほど、と美琴は思った。
たしかにそれなら下手に綺麗事を並べられるよりよほど信用できる。
それにどうせこのままでは番外個体は氏ぬのだ。
ならば一パーセントでも可能性のある方に賭けるべきだろう。
「……分かった。この子をお願い」
結標は頷くと、軍用ライトを一振りする。
それに呼応して番外個体の体が消え、結標の腕の中に現れる。
わざわざ能力を使ったのは手間の省略もあるだろうが、おそらく一番には番外個体の体をあまり不用意に動かさないようにだろう。
傍目には以前と同じように見えるピンクの駆動鎧を着込んだテレスティーナが現れた時には、結標と番外個体はその姿を一一次元へと消していた。
残っているのは目に光を取り戻した御坂美琴のみ。
270: 2013/08/24(土) 22:43:15.12 ID:9zvZep500
「……おいおい。ねーェェェだろ。んだぁこの世にもつまらねぇ展開は!?」
結標淡希の登場。それはそのまま番外個体の生存の可能性へと繋がり、それが美琴の希望となった。
こんな狂った絶望しかないと思っていた世界にも、ちゃんと希望はあったのだ。
だがそんなものはテレスティーナにとってはあり得てはならないことだ。
散々に美琴を壊し尽くし、あとは解体していくだけだったのだ。
その計画をいよいよ大詰めというところで台無しにされたテレスティーナは憤る。
「……はは。残念だったわね。結標淡希は空間移動系能力者。
もうとっくに離れたところに行っちゃってるでしょうよ」
「そんなこたぁどうでもいいんだよ!! 何なんだよこりゃあ!!
テメェの心と精神はグッチャグチャにしてやった!! テメェにできるのは全てを呪って無様に果てることだけだってのに……。
なんだってテメェはんな涼しい顔して私に楯突いてやがるんだよォォォォ!?」
醜く顔を歪めて獣のように吠えるテレスティーナに、美琴は同じく顔を歪める。
そこにあるのは圧倒的な憤怒と憎悪。
他の人間を重圧で押し潰すほどのプレッシャーを放ちながら美琴は目の前の存在を呪う。
「『涼しい顔して』? ふざけんな、ここまでされて誰が平然としてられるか!!
どれだけ今私の腹ん中煮えくり返ってると思ってんの!? ここまでキたのは一方通行の時以来よ。
散ッ々に私の妹の命弄んでくれやがって。アンタ自分が何したか分かってんの?
あの子たちの命を好き勝手に利用した落とし前はきっちりつけさせてもらうわよクソ野郎」
抑え切れぬ怒りが迸る電撃となって美琴を包み込む。
湧き上がる激情を抑えるのに必氏だった。
勝手に妹達を作って、爆弾まで仕込んで、使い捨ての道具にして、それを見て高笑いして。
いい加減にブチ切れそうだった。人の形をした悪魔ではと本気で思いたくなるほどに、やることが同じ人間とは思えない。
「途端にイキがりやがってモルモット風情が。
あの人形共だけじゃねぇ!! テメェらはみーんなただの実験動物なんだよ!!」
「……あの子たちは―――人形なんかじゃないッ!!」
「超能力者だって例外じゃねぇ。絶対能力者になれねぇ出来損ないなんだからよォ!!
知ってんだぜぇ? テメェが幻生のジジイに実験台にされて、絶対能力者になり損ねたってことは。
『エクステリア』だのネットワークだのを使っても所詮はそこが限界。
人の身にて神の領域にまで辿り着けねぇテメェらはみーんなただの使い捨ての実験動物だ!!」
結標淡希の登場。それはそのまま番外個体の生存の可能性へと繋がり、それが美琴の希望となった。
こんな狂った絶望しかないと思っていた世界にも、ちゃんと希望はあったのだ。
だがそんなものはテレスティーナにとってはあり得てはならないことだ。
散々に美琴を壊し尽くし、あとは解体していくだけだったのだ。
その計画をいよいよ大詰めというところで台無しにされたテレスティーナは憤る。
「……はは。残念だったわね。結標淡希は空間移動系能力者。
もうとっくに離れたところに行っちゃってるでしょうよ」
「そんなこたぁどうでもいいんだよ!! 何なんだよこりゃあ!!
テメェの心と精神はグッチャグチャにしてやった!! テメェにできるのは全てを呪って無様に果てることだけだってのに……。
なんだってテメェはんな涼しい顔して私に楯突いてやがるんだよォォォォ!?」
醜く顔を歪めて獣のように吠えるテレスティーナに、美琴は同じく顔を歪める。
そこにあるのは圧倒的な憤怒と憎悪。
他の人間を重圧で押し潰すほどのプレッシャーを放ちながら美琴は目の前の存在を呪う。
「『涼しい顔して』? ふざけんな、ここまでされて誰が平然としてられるか!!
どれだけ今私の腹ん中煮えくり返ってると思ってんの!? ここまでキたのは一方通行の時以来よ。
散ッ々に私の妹の命弄んでくれやがって。アンタ自分が何したか分かってんの?
あの子たちの命を好き勝手に利用した落とし前はきっちりつけさせてもらうわよクソ野郎」
抑え切れぬ怒りが迸る電撃となって美琴を包み込む。
湧き上がる激情を抑えるのに必氏だった。
勝手に妹達を作って、爆弾まで仕込んで、使い捨ての道具にして、それを見て高笑いして。
いい加減にブチ切れそうだった。人の形をした悪魔ではと本気で思いたくなるほどに、やることが同じ人間とは思えない。
「途端にイキがりやがってモルモット風情が。
あの人形共だけじゃねぇ!! テメェらはみーんなただの実験動物なんだよ!!」
「……あの子たちは―――人形なんかじゃないッ!!」
「超能力者だって例外じゃねぇ。絶対能力者になれねぇ出来損ないなんだからよォ!!
知ってんだぜぇ? テメェが幻生のジジイに実験台にされて、絶対能力者になり損ねたってことは。
『エクステリア』だのネットワークだのを使っても所詮はそこが限界。
人の身にて神の領域にまで辿り着けねぇテメェらはみーんなただの使い捨ての実験動物だ!!」
271: 2013/08/24(土) 22:45:45.93 ID:9zvZep500
『絶対能力者』。神の答えを知る者。学園都市の最終目標。『SYSTEM』への足がかり。
御坂美琴はその領域に手をかけたことがあった。
木原幻生の手によって。『絶対能力者進化計画』の提唱者にして、どこまでも絶対能力者に固執する『木原』。
あの時のことは思い出すだけでゾッとする。あの姿、あの感覚。二度と思い出したくはない。
美琴は怒りのままにスカートのポケットから何かを取り出す。
それは武器。音速の三倍に加速させて撃ち出す、超電磁砲の使用の合図。
目の前の巨悪を穿つための最終兵器だった。
「ハッ、もういいわ。分かったよ。だが甘えよ。そんなんじゃ私のこれにゃ勝てねえ」
テレスティーナは持っている巨大な大剣のようなものを美琴に突きつける。
それは花が開くように展開され、何かを撃ち出す発射機構が姿を見せる。
それは色や形こそ違うものの、以前MARで戦った時にも使用した擬似超電磁砲に非常に似通っていた。
「こいつはテメェの能力を解析して作った以前のものより、遥かにパワーアップさせたもんだ。
ファイブオーバーのガトリングレールガンは既にテメェのものより威力は上だが、それを更に強化したのさ。
万に一つもテメェに勝ち目はねぇ。たとえテメェが想定以上の出力を出したとしても、こいつはそれを叩き潰すに余りある」
御坂美琴の超電磁砲を遥かに上回るもの。
そこまでして、以前擬似超電磁砲を破られたにも関わらずそれに固執するのはテレスティーナの歪んだ嗜虐心によるものだった。
「まあテメェも、テメェの力で氏ねるなら本望だろ? テメェの命は今日尽きる!! これは“確定事項”だ!!」
「――――――、」
自分の力で殺される、その屈辱感。
それを御坂美琴に叩き込みたい。
学習していないのではなく、あえてテレスティーナはそれを選んでいた。
以前と違う、十分なパワー。たとえ美琴が想定以上の力を撃ったとしても、それを捻じ伏せられるオーバースペック。
御坂美琴はその領域に手をかけたことがあった。
木原幻生の手によって。『絶対能力者進化計画』の提唱者にして、どこまでも絶対能力者に固執する『木原』。
あの時のことは思い出すだけでゾッとする。あの姿、あの感覚。二度と思い出したくはない。
美琴は怒りのままにスカートのポケットから何かを取り出す。
それは武器。音速の三倍に加速させて撃ち出す、超電磁砲の使用の合図。
目の前の巨悪を穿つための最終兵器だった。
「ハッ、もういいわ。分かったよ。だが甘えよ。そんなんじゃ私のこれにゃ勝てねえ」
テレスティーナは持っている巨大な大剣のようなものを美琴に突きつける。
それは花が開くように展開され、何かを撃ち出す発射機構が姿を見せる。
それは色や形こそ違うものの、以前MARで戦った時にも使用した擬似超電磁砲に非常に似通っていた。
「こいつはテメェの能力を解析して作った以前のものより、遥かにパワーアップさせたもんだ。
ファイブオーバーのガトリングレールガンは既にテメェのものより威力は上だが、それを更に強化したのさ。
万に一つもテメェに勝ち目はねぇ。たとえテメェが想定以上の出力を出したとしても、こいつはそれを叩き潰すに余りある」
御坂美琴の超電磁砲を遥かに上回るもの。
そこまでして、以前擬似超電磁砲を破られたにも関わらずそれに固執するのはテレスティーナの歪んだ嗜虐心によるものだった。
「まあテメェも、テメェの力で氏ねるなら本望だろ? テメェの命は今日尽きる!! これは“確定事項”だ!!」
「――――――、」
自分の力で殺される、その屈辱感。
それを御坂美琴に叩き込みたい。
学習していないのではなく、あえてテレスティーナはそれを選んでいた。
以前と違う、十分なパワー。たとえ美琴が想定以上の力を撃ったとしても、それを捻じ伏せられるオーバースペック。
272: 2013/08/24(土) 22:48:12.12 ID:9zvZep500
「バラバラに吹っ飛ばしてやるよォ、レェェェルガァァァァァァァァァン!!」
紫電が走り、莫大なエネルギーが集約される。
あれが一度放たれればたちまちに美琴もろともこの施設の一区画を消滅させてしまうだろう。
分かる。あれはヤバい。前とはまるで違う。
前回と同じように超電磁砲で迎え撃ったところで、勝負にすらならないことが直感で分かる。
だからこそ、
「―――甘いわね」
チャリン、と。
美琴は親指に乗せたそれを弾いた。
「そんなんじゃ私のこれには勝てないわよ」
それは独特の軌道を描いて宙を舞う。
やがてその高度は頂点に達し、重力に引かれて落下を始めた。
「ここまで憎んだのはアンタと一方通行くらい。本ッ当に、ふざけた真似してくれた」
それはそのまま差し出された美琴の左の親指に吸い込まれるように落ちていき、
「だから、相応の礼はさせてもらう!!」
美琴の指が、それを弾く。
網膜を焼き尽くさんばかりに迸るオレンジ色の閃光。
圧倒的な輝きはこの空間からあらゆる色を奪い、ただその力の片鱗で全てを燈色に染める。
明確な指向性を持って放たれた弾丸は、絶対の破壊の槍となって標的を貫き頃す。
「くッたばりやがれェェェェェェェェ!!!!!!」
「私をここまでさせたのはアンタ。もう後悔しても遅すぎるわよッ!!」
美琴のものと全く同時、テレスティーナの擬似超電磁砲が爆発的な衝撃波を伴って発射される。
ただでさえ美琴の超電磁砲を上回るガトリングレールガンを更に超えたもの。
まともに撃ち合えば間違いなく美琴は負ける。
紫電が走り、莫大なエネルギーが集約される。
あれが一度放たれればたちまちに美琴もろともこの施設の一区画を消滅させてしまうだろう。
分かる。あれはヤバい。前とはまるで違う。
前回と同じように超電磁砲で迎え撃ったところで、勝負にすらならないことが直感で分かる。
だからこそ、
「―――甘いわね」
チャリン、と。
美琴は親指に乗せたそれを弾いた。
「そんなんじゃ私のこれには勝てないわよ」
それは独特の軌道を描いて宙を舞う。
やがてその高度は頂点に達し、重力に引かれて落下を始めた。
「ここまで憎んだのはアンタと一方通行くらい。本ッ当に、ふざけた真似してくれた」
それはそのまま差し出された美琴の左の親指に吸い込まれるように落ちていき、
「だから、相応の礼はさせてもらう!!」
美琴の指が、それを弾く。
網膜を焼き尽くさんばかりに迸るオレンジ色の閃光。
圧倒的な輝きはこの空間からあらゆる色を奪い、ただその力の片鱗で全てを燈色に染める。
明確な指向性を持って放たれた弾丸は、絶対の破壊の槍となって標的を貫き頃す。
「くッたばりやがれェェェェェェェェ!!!!!!」
「私をここまでさせたのはアンタ。もう後悔しても遅すぎるわよッ!!」
美琴のものと全く同時、テレスティーナの擬似超電磁砲が爆発的な衝撃波を伴って発射される。
ただでさえ美琴の超電磁砲を上回るガトリングレールガンを更に超えたもの。
まともに撃ち合えば間違いなく美琴は負ける。
273: 2013/08/24(土) 22:50:37.69 ID:9zvZep500
そして、御坂美琴の能力名にも冠される第三位の切り札『超電磁砲』と、テレスティーナ=木原=ライフラインがその科学力を注ぎ込んで作り上げたオリジナルを超えるレールガン。
その二つが二人の中心地点で激突した。
もとより勝敗など分かりきっていた。
たとえ何らかのイレギュラーが起きて美琴の超電磁砲が強まったとしても、それでも及ばないほどテレスティーナのものは強力だ。
それを正面からぶつけ合えばどちらが押し負けるかなど誰でも分かる。
そして現実はその通りに推移し、二束のオレンジ色の輝きは決して拮抗などしなかった。
拮抗できるほどのエネルギーの差ではなかった。
そう、圧倒的に―――御坂美琴の超電磁砲が勝っていた。
「ッな!?」
一瞬だった。二つの高エネルギーが接触した瞬間、美琴の超電磁砲がテレスティーナのものをあっさりと食い破る。
「『 』」
そしてそれは勢いそのままにテレスティーナへと食らい付き、戦果として耳を劈くような轟音と衝撃波を撒き散らす。
壁は完全に破壊され、その奥の一画まで崩落していたが確実に超電磁砲は主に勝利を届けていた。
分かっていたことだ。御坂美琴の超電磁砲、その特性を考えれば。
美琴の超電磁砲は『ローレンツ力で加速して砲弾を撃ち出す』ものだ。
射程距離はおよそ五〇メートル。速度は音速の三倍ほど。
だが。それらは全て『弾体にメダルを選択した場合』の話。
そう、美琴の切り札は弾丸の種類を限定しない。
彼女は好んでゲームセンターのコインを使用しているが、それだけしか使えないわけではない。
以前テレスティーナと戦った時には巨大な駆動鎧のパーツを撃ち出している。
それどころか学芸都市では砂鉄でコーティングすることで導体に変え、『雲海の蛇(ミシュコアトル)』を射出したこともあった。
その二つが二人の中心地点で激突した。
もとより勝敗など分かりきっていた。
たとえ何らかのイレギュラーが起きて美琴の超電磁砲が強まったとしても、それでも及ばないほどテレスティーナのものは強力だ。
それを正面からぶつけ合えばどちらが押し負けるかなど誰でも分かる。
そして現実はその通りに推移し、二束のオレンジ色の輝きは決して拮抗などしなかった。
拮抗できるほどのエネルギーの差ではなかった。
そう、圧倒的に―――御坂美琴の超電磁砲が勝っていた。
「ッな!?」
一瞬だった。二つの高エネルギーが接触した瞬間、美琴の超電磁砲がテレスティーナのものをあっさりと食い破る。
「『 』」
そしてそれは勢いそのままにテレスティーナへと食らい付き、戦果として耳を劈くような轟音と衝撃波を撒き散らす。
壁は完全に破壊され、その奥の一画まで崩落していたが確実に超電磁砲は主に勝利を届けていた。
分かっていたことだ。御坂美琴の超電磁砲、その特性を考えれば。
美琴の超電磁砲は『ローレンツ力で加速して砲弾を撃ち出す』ものだ。
射程距離はおよそ五〇メートル。速度は音速の三倍ほど。
だが。それらは全て『弾体にメダルを選択した場合』の話。
そう、美琴の切り札は弾丸の種類を限定しない。
彼女は好んでゲームセンターのコインを使用しているが、それだけしか使えないわけではない。
以前テレスティーナと戦った時には巨大な駆動鎧のパーツを撃ち出している。
それどころか学芸都市では砂鉄でコーティングすることで導体に変え、『雲海の蛇(ミシュコアトル)』を射出したこともあった。
274: 2013/08/24(土) 22:52:21.84 ID:9zvZep500
必然、超電磁砲の速度や威力はその弾体に依存する。
たとえばコインでは射程距離は五〇メートル程度が限界だが、『雲海の蛇』を弾に使用した時には水平線を超えて見えなくなるほどの距離を飛ばしていた。
テレスティーナはそこを見誤った。テレスティーナの考えた『超電磁砲』とは、メダルを使用した超電磁砲だったのだ。
ファイブオーバーもそれは変わらない。ガトリングレールガンが超えているのはあくまでメダル使用の超電磁砲だ。
とはいえ、たとえそういった別の弾体を撃ちだしたところでテレスティーナの強力な擬似超電磁砲には打ち勝てなかったかもしれない。
それこそ『雲海の蛇』ほどの巨大なものならともかく、その他のものでは出力が足りなかったかもしれない。
美琴の周囲にあったようなものでは勝てなかったかもしれない。
だが、美琴の使った本当の『切り札』ならば話は全く別。
「ふぅ……。さっすがリアルゲコ太ね。仕事がいちいち確実だわ」
それは美琴が冥土帰しに事前に用意してもらったとっておきであり保険。
超電磁砲専用の、弾体。
専用のものを使うのは今回が初めてだが、結果は十分だった。
テレスティーナは血を流して気絶しているが、決して氏んではいない。
美琴がそういう風に調整したからだ。
ここで見逃せばきっとまたテレスティーナは美琴の前に立ち塞がるだろう。
その際に利用されるであろう命を考えれば、ここで頃しておくのが正しい選択なのかもしれない。
だがそれでも。テレスティーナを嫌悪しているからこそ、『人頃し』という彼女と同じものには成り下がりたくなかった。
そういう『らしさ』を彼女は取り戻していた。
それ以上に美琴の頭を占めているのはもっと違うことだ。
美琴の放った超電磁砲がテレスティーナを貫く瞬間、彼女が呟いた六文字の単語。
聞き覚えのないその言葉を、美琴は舌の上で転がして吟味するように声に出して確認する。
「『八段階目の赤』……ね」
たとえばコインでは射程距離は五〇メートル程度が限界だが、『雲海の蛇』を弾に使用した時には水平線を超えて見えなくなるほどの距離を飛ばしていた。
テレスティーナはそこを見誤った。テレスティーナの考えた『超電磁砲』とは、メダルを使用した超電磁砲だったのだ。
ファイブオーバーもそれは変わらない。ガトリングレールガンが超えているのはあくまでメダル使用の超電磁砲だ。
とはいえ、たとえそういった別の弾体を撃ちだしたところでテレスティーナの強力な擬似超電磁砲には打ち勝てなかったかもしれない。
それこそ『雲海の蛇』ほどの巨大なものならともかく、その他のものでは出力が足りなかったかもしれない。
美琴の周囲にあったようなものでは勝てなかったかもしれない。
だが、美琴の使った本当の『切り札』ならば話は全く別。
「ふぅ……。さっすがリアルゲコ太ね。仕事がいちいち確実だわ」
それは美琴が冥土帰しに事前に用意してもらったとっておきであり保険。
超電磁砲専用の、弾体。
専用のものを使うのは今回が初めてだが、結果は十分だった。
テレスティーナは血を流して気絶しているが、決して氏んではいない。
美琴がそういう風に調整したからだ。
ここで見逃せばきっとまたテレスティーナは美琴の前に立ち塞がるだろう。
その際に利用されるであろう命を考えれば、ここで頃しておくのが正しい選択なのかもしれない。
だがそれでも。テレスティーナを嫌悪しているからこそ、『人頃し』という彼女と同じものには成り下がりたくなかった。
そういう『らしさ』を彼女は取り戻していた。
それ以上に美琴の頭を占めているのはもっと違うことだ。
美琴の放った超電磁砲がテレスティーナを貫く瞬間、彼女が呟いた六文字の単語。
聞き覚えのないその言葉を、美琴は舌の上で転がして吟味するように声に出して確認する。
「『八段階目の赤』……ね」
275: 2013/08/24(土) 22:57:58.05 ID:9zvZep500
・
・
・
御坂美琴が氏を受け入れた。
その事実は一方通行にとって到底耐え難いものだ。
しかし。あの少女の心に漬け込んでそこまで追い詰めて、それを見て爆笑している木原数多は生きている。
その現実の方が遥かに耐えられない。
木原数多がこうして息をして、世界に存在していることそのものが受け入れられない。
一方通行は暴れた。もはやまともに思考する余裕は残っておらず、ただ怒りに任せて力を振るった。
だが冷静であっても勝てなかった木原に、そんな興奮状態で勝てるわけもない。
いい様にあしらわれ一方通行は何度も地を舐める。
その時、垣根帝督の声が聞こえた。
一言で言ってしまえば美琴を励ますもの。美琴の再起を促すもの。
それを聞いた一方通行も即座に反応し、同じく美琴への呼びかけを始める。
木原と戦いながら必氏に言葉を並べ、想いを吐き出した。
そのかいあってか美琴は立ち上がり、いつものあの眼を取り戻していた。
「どンな気分だよ木原。もォオリジナルは完全に復活しちまったぜ?
残念だったな、アテが外れて」
木原数多は一方通行を最大限に苦しめるために美琴を追い詰めた。
つまり美琴が立ち直ればそれに連動して一方通行の精神状態も回復するということ。
ならば今この状況は木原にとって酷く都合の悪いもののはずだった。
モニターの中では番外個体が能力を撒き散らしているが、今の美琴ならば対処は可能だろう。
だと言うのに、木原数多は相変わらずニヤニヤと笑っている。
276: 2013/08/24(土) 22:58:27.51 ID:9zvZep500
押し寄せる嫌な予感。
そしてそれを肯定するように木原は言った。
「なあ一方通行。知ってるか?
人間ってのはよ、最初からの絶望より上げて落とされる方が何倍もくるんだよ」
一方通行は木原のその言葉に何も返すことができなかった。
何か言い返す前に、その言葉の意味を知らされてしまったから。
ぶちゅり。そんな何かが潰れるような、弾けるような、生理的嫌悪感を掻き立てる音がモニターから聞こえてきた。
つまり美琴と番外個体のいる部屋からだ。一方通行はその音に覚えがあった。
何度も何度も聞いたことのある、立てたことのある音だった。
『―――……は?』
画面の中の美琴が一方通行の心境を代弁する。
番外個体という少女のうなじの辺りが裂けている。
当然美琴は何もしていないし、するわけもない。
かといって番外個体本人が自爆したようにも見えない。
ならば答えは一つだった。
『……ア、ン、タ、の、せ、い、だ』
血塗れの番外個体が呪うように呟く。
当然その言葉の矛先は美琴だ。
ここまで追い詰めらて、一度立ち上がった美琴が間髪入れずこんなものを見せられればどうなるか。
「うし、当たり前だがちゃんと動作したみてえだな」
「キィハラァァァァァァあああああああああああああああああッ!!!!!!」
番外個体を弾けさせたのは間違いなく『木原』だ。
その口ぶり、「番外個体に手を加えた」という言葉からして大方木原が爆弾か何かを仕込んだのだろう。
勝手に妹達を作って、道具のように利用して、御坂美琴を傷つけて。
それだけで一〇〇回頃しても足りないほどだが、この男はこれで明確に妹達に手を出した。
そしてそれを肯定するように木原は言った。
「なあ一方通行。知ってるか?
人間ってのはよ、最初からの絶望より上げて落とされる方が何倍もくるんだよ」
一方通行は木原のその言葉に何も返すことができなかった。
何か言い返す前に、その言葉の意味を知らされてしまったから。
ぶちゅり。そんな何かが潰れるような、弾けるような、生理的嫌悪感を掻き立てる音がモニターから聞こえてきた。
つまり美琴と番外個体のいる部屋からだ。一方通行はその音に覚えがあった。
何度も何度も聞いたことのある、立てたことのある音だった。
『―――……は?』
画面の中の美琴が一方通行の心境を代弁する。
番外個体という少女のうなじの辺りが裂けている。
当然美琴は何もしていないし、するわけもない。
かといって番外個体本人が自爆したようにも見えない。
ならば答えは一つだった。
『……ア、ン、タ、の、せ、い、だ』
血塗れの番外個体が呪うように呟く。
当然その言葉の矛先は美琴だ。
ここまで追い詰めらて、一度立ち上がった美琴が間髪入れずこんなものを見せられればどうなるか。
「うし、当たり前だがちゃんと動作したみてえだな」
「キィハラァァァァァァあああああああああああああああああッ!!!!!!」
番外個体を弾けさせたのは間違いなく『木原』だ。
その口ぶり、「番外個体に手を加えた」という言葉からして大方木原が爆弾か何かを仕込んだのだろう。
勝手に妹達を作って、道具のように利用して、御坂美琴を傷つけて。
それだけで一〇〇回頃しても足りないほどだが、この男はこれで明確に妹達に手を出した。
277: 2013/08/24(土) 22:59:44.76 ID:9zvZep500
一方通行は自身を構成する柱が砕ける音を聞いた。
中心から末端までがドロドロとした感情に染まった。
ついに、これでもかと叩き込まれた悪意が一方通行の心の許容量を超えた。
モニターの中の御坂美琴が世界全てを呪うような、その声だけで人間の精神を犯し尽くし壊してしまいそうな咆哮をあげる。
それを受けて木原数多は獰猛に笑う。嘲る。
「イイねぇ、最高じゃねぇか!! やっぱあのアマじゃねえがこういう瞬間ってのはどうしても滾っちまうなぁオイ!!」
木原数多の「一方通行を極限まで追い詰める」という策は完全に成功した。
その目的通り第一位の精神は激しく揺さぶられ、圧倒的な苦痛を刷り込まれた。
だが。木原数多にはたった一つだけ、誤算があった。
―――木原数多の策はあまりにも“効き過ぎた”。
あまりの衝撃に、右脳と左脳が割れた気がした。
切り開かれたその隙間から、何か鋭く尖った物が頭蓋骨の内側へ突き出してくる錯覚が確かにあった。
脳に入り込んだ何かはあっという間に一方通行の全てを呑み込んでいく。
ぶじゅっ、という果実を潰すような音が聞こえた。両目から涙のようなものが流れた。
それは涙ではなかった。もっと赤黒くて薄汚くて不快感を催す、鉄臭い液体でしかなかった。
涙腺から零れるものすらも、既に嫌悪感しかなかった。
「ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」
背中が弾け飛んだ。
そしてそこから二対の黒い、黒い、漆黒の翼が激しく噴き荒れる。
翼というよりは墨の噴射という方が正しいか。
一瞬で圧倒的な規模にまで展開された黒い翼は、壁や天井をいとも簡単に突き崩す。
当然それに伴って瓦礫などが雨のように降り注ぐが、それも黒翼を一振りすると悉く薙ぎ払われて消える。
その絶望の双翼は垣根帝督との戦いで開花した力。
学園都市第一位の秘めたる力。
木原数多を氏に至らしめる力。
中心から末端までがドロドロとした感情に染まった。
ついに、これでもかと叩き込まれた悪意が一方通行の心の許容量を超えた。
モニターの中の御坂美琴が世界全てを呪うような、その声だけで人間の精神を犯し尽くし壊してしまいそうな咆哮をあげる。
それを受けて木原数多は獰猛に笑う。嘲る。
「イイねぇ、最高じゃねぇか!! やっぱあのアマじゃねえがこういう瞬間ってのはどうしても滾っちまうなぁオイ!!」
木原数多の「一方通行を極限まで追い詰める」という策は完全に成功した。
その目的通り第一位の精神は激しく揺さぶられ、圧倒的な苦痛を刷り込まれた。
だが。木原数多にはたった一つだけ、誤算があった。
―――木原数多の策はあまりにも“効き過ぎた”。
あまりの衝撃に、右脳と左脳が割れた気がした。
切り開かれたその隙間から、何か鋭く尖った物が頭蓋骨の内側へ突き出してくる錯覚が確かにあった。
脳に入り込んだ何かはあっという間に一方通行の全てを呑み込んでいく。
ぶじゅっ、という果実を潰すような音が聞こえた。両目から涙のようなものが流れた。
それは涙ではなかった。もっと赤黒くて薄汚くて不快感を催す、鉄臭い液体でしかなかった。
涙腺から零れるものすらも、既に嫌悪感しかなかった。
「ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」
背中が弾け飛んだ。
そしてそこから二対の黒い、黒い、漆黒の翼が激しく噴き荒れる。
翼というよりは墨の噴射という方が正しいか。
一瞬で圧倒的な規模にまで展開された黒い翼は、壁や天井をいとも簡単に突き崩す。
当然それに伴って瓦礫などが雨のように降り注ぐが、それも黒翼を一振りすると悉く薙ぎ払われて消える。
その絶望の双翼は垣根帝督との戦いで開花した力。
学園都市第一位の秘めたる力。
木原数多を氏に至らしめる力。
278: 2013/08/24(土) 23:00:28.11 ID:9zvZep500
その悪魔の如きシルエットを見て、常に状況を掌握していた木原が初めて顔色を変えた。
それは一方通行が木原の想像の外に出たことによる驚き。
あまりに異常な光景に、木原は隠しもせずに動揺を露にする。
「……どうなってんだよ、その背中から生えてる真っ黒な翼はァあああ!?」
光さえも吞み込む純粋な漆黒。
木原数多は一方通行の能力を開発したからこそ、その思考も演算も『自分だけの現実』も読み取ることができる。
事実木原はそうやってこれまで第一位を圧倒していた。
にも関わらず、木原には目の前の現象が読めない。一方通行が何をしているかが決定的に分からない。
「そ、れが……第二位との戦いで得たとかいう力かよ!?」
とにかく何かしなければ。
そう思ったのか、木原が体を動かそうとする。
だがその瞬間。ぐしゃり、と。木原数多の体が莫大な力を受けて壁にめり込んだ。
「がッ……バ、ァ!?」
何が起きたのか、木原数多は理解できていないはずだ。
一方通行はその黒い翼を動かしていない。
ただ緩やかにその手を動かしただけで何らかの力が作用し、木原の体を薙ぎ払った。
ブチブチ、という音を立てて木原の左腕が根元から千切れる。
全身の骨もめちゃくちゃに折れていた。
もはや勝敗は決した。
絶対に負けることのないはずの木原数多は倒れ、一方通行だけが立っている。
だが今の木原はそんなことを考えてはいない。
木原の頭にあるのは一方通行に負けた悔しさではない。氏への恐怖などでもない。
あるのはただ目の前の現象を解析して理解したいという、究極に科学的な欲求。
それは一方通行が木原の想像の外に出たことによる驚き。
あまりに異常な光景に、木原は隠しもせずに動揺を露にする。
「……どうなってんだよ、その背中から生えてる真っ黒な翼はァあああ!?」
光さえも吞み込む純粋な漆黒。
木原数多は一方通行の能力を開発したからこそ、その思考も演算も『自分だけの現実』も読み取ることができる。
事実木原はそうやってこれまで第一位を圧倒していた。
にも関わらず、木原には目の前の現象が読めない。一方通行が何をしているかが決定的に分からない。
「そ、れが……第二位との戦いで得たとかいう力かよ!?」
とにかく何かしなければ。
そう思ったのか、木原が体を動かそうとする。
だがその瞬間。ぐしゃり、と。木原数多の体が莫大な力を受けて壁にめり込んだ。
「がッ……バ、ァ!?」
何が起きたのか、木原数多は理解できていないはずだ。
一方通行はその黒い翼を動かしていない。
ただ緩やかにその手を動かしただけで何らかの力が作用し、木原の体を薙ぎ払った。
ブチブチ、という音を立てて木原の左腕が根元から千切れる。
全身の骨もめちゃくちゃに折れていた。
もはや勝敗は決した。
絶対に負けることのないはずの木原数多は倒れ、一方通行だけが立っている。
だが今の木原はそんなことを考えてはいない。
木原の頭にあるのは一方通行に負けた悔しさではない。氏への恐怖などでもない。
あるのはただ目の前の現象を解析して理解したいという、究極に科学的な欲求。
279: 2013/08/24(土) 23:02:22.63 ID:9zvZep500
ク リ ア ラ ン ス
(新たな制御領域の拡大の取得だと。こいつ、『自分だけの現実』に何の数字を入力した……。
一体どことの通信手段を確立しやがったんだ!?)
一方通行の能力はベクトルを操ること。
ならばこの現象もそれによって引き起こされていると見るのが妥当だ。
しかし。この翼も、今の攻撃も、並の力で起こせるものではない。
真っ先に思いついたのは風だった。
大気ならばたしかにこの空間にも満ちている。だがそんなものであの黒い翼は到底説明できない。
そこで、木原数多は思いつく。
この学園都市の最大の特徴は何か。それは紛れもなく能力者の存在だ。
彼らは無能力者であっても例外なく“ある力”を発している。
この学園都市に満ちる力の代表格と言えば。
(AIM……。おい、ってことは……あの黒い翼の正体は!?)
ははは、と木原数多は笑う。
この一方通行という存在はそこまで行ったのか、と。
不可思議な翼の正体を暴いた感覚も、もっとこの現象を調べたかったという思いに掻き消されていく。
ただそれだけが木原数多の心残りだった。
だがしかし。それでも木原という人間は、最後まで一方通行を絶望させることをやめはしない。
「……『八段階目の赤』。残念だったな、スクラップ野郎。テメェらはみんな氏ぬんだよ」
だが一方通行はそんな言葉に耳を貸さない。
まさに悪鬼としか言い様のない表情で一方通行は木原数多を鋭く見据える。
「ihbf殺wq」
(新たな制御領域の拡大の取得だと。こいつ、『自分だけの現実』に何の数字を入力した……。
一体どことの通信手段を確立しやがったんだ!?)
一方通行の能力はベクトルを操ること。
ならばこの現象もそれによって引き起こされていると見るのが妥当だ。
しかし。この翼も、今の攻撃も、並の力で起こせるものではない。
真っ先に思いついたのは風だった。
大気ならばたしかにこの空間にも満ちている。だがそんなものであの黒い翼は到底説明できない。
そこで、木原数多は思いつく。
この学園都市の最大の特徴は何か。それは紛れもなく能力者の存在だ。
彼らは無能力者であっても例外なく“ある力”を発している。
この学園都市に満ちる力の代表格と言えば。
(AIM……。おい、ってことは……あの黒い翼の正体は!?)
ははは、と木原数多は笑う。
この一方通行という存在はそこまで行ったのか、と。
不可思議な翼の正体を暴いた感覚も、もっとこの現象を調べたかったという思いに掻き消されていく。
ただそれだけが木原数多の心残りだった。
だがしかし。それでも木原という人間は、最後まで一方通行を絶望させることをやめはしない。
「……『八段階目の赤』。残念だったな、スクラップ野郎。テメェらはみんな氏ぬんだよ」
だが一方通行はそんな言葉に耳を貸さない。
まさに悪鬼としか言い様のない表情で一方通行は木原数多を鋭く見据える。
「ihbf殺wq」
280: 2013/08/24(土) 23:03:02.04 ID:9zvZep500
圧倒的な虐殺が始まった。
響くのは肉を打つ音。まるでハンバーグをこねるような粘着質な音が耳を叩く。
ぐちゅ、ぐちゅ。ぐっちゃ、ぐっちゃ。
木原の顔は既になかった。プレス機で押し潰したように平らになっていて、ただ赤やピンク色の物体だけがべちゃりと床に張り付いている。
「あああァァァァァあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
狂ったように叫ぶ一方通行によってその体も次々と叩き潰される。
体が裂け、はみ出した臓器も押し潰され、餅つきのようにその粘性を増していく。
それらがついにもはや固体ではなく液体に変わりだしたころ、ようやく一方通行は次の行動に移った。
彼の掌から説明不能の不可視の力が溢れ出し、木原数多の肉片を跡形もなく消し飛ばす。
頃した。
木原数多をついに頃した。
その事実をようやく認識した一方通行は動きを止め、その場に力尽きたように座り込む。
黒翼が消え、ほとんど残っていないチョーカーを切ったところで一方通行はその不穏な言葉を思い出す。
木原数多が氏に際に残したその遺言は。
「『八段階目の赤』、ね……。たしかこれは……チッ、洒落になンねェぞクソが……!!」
木原数多は氏んだ。この手で頃した。
だがそれでも一方通行の心は晴れない。それほどのことをあの男はやった。
あんな程度では全く足りないのだ。しかし記憶が確かなら、そんなことがどうでもよくなるほどにこれはマズい。
一方通行は晴れぬ心境のまま、ろくに休みもせずに再度動き出した。
響くのは肉を打つ音。まるでハンバーグをこねるような粘着質な音が耳を叩く。
ぐちゅ、ぐちゅ。ぐっちゃ、ぐっちゃ。
木原の顔は既になかった。プレス機で押し潰したように平らになっていて、ただ赤やピンク色の物体だけがべちゃりと床に張り付いている。
「あああァァァァァあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
狂ったように叫ぶ一方通行によってその体も次々と叩き潰される。
体が裂け、はみ出した臓器も押し潰され、餅つきのようにその粘性を増していく。
それらがついにもはや固体ではなく液体に変わりだしたころ、ようやく一方通行は次の行動に移った。
彼の掌から説明不能の不可視の力が溢れ出し、木原数多の肉片を跡形もなく消し飛ばす。
頃した。
木原数多をついに頃した。
その事実をようやく認識した一方通行は動きを止め、その場に力尽きたように座り込む。
黒翼が消え、ほとんど残っていないチョーカーを切ったところで一方通行はその不穏な言葉を思い出す。
木原数多が氏に際に残したその遺言は。
「『八段階目の赤』、ね……。たしかこれは……チッ、洒落になンねェぞクソが……!!」
木原数多は氏んだ。この手で頃した。
だがそれでも一方通行の心は晴れない。それほどのことをあの男はやった。
あんな程度では全く足りないのだ。しかし記憶が確かなら、そんなことがどうでもよくなるほどにこれはマズい。
一方通行は晴れぬ心境のまま、ろくに休みもせずに再度動き出した。
281: 2013/08/24(土) 23:03:39.67 ID:9zvZep500
・
・
・
『ぶちゅり』。
そんな肉が弾けるような、聞き慣れた音を垣根は聞いた。
発信源は木原病理も持つタブレット、つまり御坂美琴のいる空間からだ。
何が起きたのかすぐに分かった。
番外個体の首筋が裂けている。そこからドクドクと鮮血が流れ出し、赤い水溜りを作っている。
それが何を意味しているのか。
勿論それは『木原』によるものだろうし、番外個体の生命活動を停止させるものだろう。
だがそんなことはどうでもいい。垣根にとって番外個体の生氏自体ははっきり言ってどうでもいいのだ。
垣根は単に自分の世界を守るためだけに戦っている。
美琴や上条といった存在はその世界にいるために失ってはならない人間だが、番外個体はその居場所にはいない。
「……おい」
しかし番外個体の氏は垣根にとって無視できない事態を引き起こす。
常識的に考えて。ずっと妹達に手を出すことを拒んでいた美琴が。
目の前でこんな光景を見せられて、耐えられるだろうか?
咆哮が轟いた。木原病理の持つタブレットが砕けるのではというほどの叫び。
一瞬誰の声だか分からなかった。それほどに御坂美琴は腹の底から吠えている。
耳を塞ぎたくなった。これ以上その声を聞いたらこっちの精神まで犯されるような気すらした。
とてもではないが美琴、というより人間が出している声とは思えなかった。
282: 2013/08/24(土) 23:04:33.23 ID:9zvZep500
「……あああああああああッ!! あァァあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
まるで美琴の悲鳴を掻き消すように垣根は叫んだ。
もう美琴は大丈夫だと思っていた。
だが違った。『木原』は最初からここまで用意していたのだ。
何があっても確実に心の柱を砕くための策を。
滅茶苦茶に『未元物質』を撒き散らす。能力が無差別に発動する。
それが鬱陶しかったのか、木原病理はイエティの推測構造を取り込んだ腕を水平に払う。
それだけで垣根の体はあっさりと薙ぎ払われ、無理矢理に叫び声も止められる。
ぐしゃりと壁に叩きつけられ崩れ落ちる垣根だったが、がくがくと震える腕で立ち上がろうとしていた。
……おかしい。木原病理はその様子に疑問を感じていた。
そもそもがその前から変だった。
念動力を食らわせた直後辺りから僅かに感じていた疑問が明確な形を取る。
(妙ですね。もう垣根帝督に立ち上がることなどできないはず。
いや、そもそもまだ生きていることがあり得ない)
あの時の念動力も人間が食らえばまず絶命するレベルのものだった。
それを垣根は防御することも出来ずにまともに食らったのだ。
にも関わらず垣根は立ち上がり、ここまで移動し、そして今更なる一撃を食らって尚立とうとしている。
明らかな異常だった。
精神論の問題ではない。人体の構造的にもう立てるはずがない。
科学の頂点に立つ『木原』である木原病理はそれをよく知っている。
間違いなく垣根帝督はもう立てない。仮に生きているにしても既に虫の息のはずなのに。
(だというのに、何故動けるのです? 何か、タネがあるはず―――)
まるで美琴の悲鳴を掻き消すように垣根は叫んだ。
もう美琴は大丈夫だと思っていた。
だが違った。『木原』は最初からここまで用意していたのだ。
何があっても確実に心の柱を砕くための策を。
滅茶苦茶に『未元物質』を撒き散らす。能力が無差別に発動する。
それが鬱陶しかったのか、木原病理はイエティの推測構造を取り込んだ腕を水平に払う。
それだけで垣根の体はあっさりと薙ぎ払われ、無理矢理に叫び声も止められる。
ぐしゃりと壁に叩きつけられ崩れ落ちる垣根だったが、がくがくと震える腕で立ち上がろうとしていた。
……おかしい。木原病理はその様子に疑問を感じていた。
そもそもがその前から変だった。
念動力を食らわせた直後辺りから僅かに感じていた疑問が明確な形を取る。
(妙ですね。もう垣根帝督に立ち上がることなどできないはず。
いや、そもそもまだ生きていることがあり得ない)
あの時の念動力も人間が食らえばまず絶命するレベルのものだった。
それを垣根は防御することも出来ずにまともに食らったのだ。
にも関わらず垣根は立ち上がり、ここまで移動し、そして今更なる一撃を食らって尚立とうとしている。
明らかな異常だった。
精神論の問題ではない。人体の構造的にもう立てるはずがない。
科学の頂点に立つ『木原』である木原病理はそれをよく知っている。
間違いなく垣根帝督はもう立てない。仮に生きているにしても既に虫の息のはずなのに。
(だというのに、何故動けるのです? 何か、タネがあるはず―――)
283: 2013/08/24(土) 23:05:30.41 ID:9zvZep500
「よ、お……」
垣根帝督が、血塗れの垣根がこちらを見る。
そこには不敵な笑みがあった。
今にも倒れそうで、けれど明確な意思さえ感じられた。
木原病理には理解できない。
「んな、に……不思議、かよ? 俺が、生きてるのが……」
ついに垣根は立ち上がった。
ふらふらではあるが、二本の足で立っている。
あり得ない現象だった。目の前の現実が計算とまるで合わない。
「あり得ないっ……。あなたはもう立てないはず!! なのに、どうして……!?」
「ハッ。ヒントを、与えたのは……他でもねえ、テメェだろうが……。
今の一撃の……おかげで、また冷静になれた」
ヒント? 木原病理はその垣根の言葉を脳内で猛烈に分析する。
木原病理が垣根に見せたものは何か。
考えられるものは一つしかない。木原病理はある一つの可能性に行き着いた。
「まさか、あなた……『未元物質』を使って人体細胞の構築を!?」
木原病理はずっと取り込んだ『未元物質』を使って戦っていた。
二本足で立ち上がったのも、異常な再生能力も、その域を超えた改造も、全て『未元物質』を利用したものだ。
だが本来『未元物質』という能力は垣根帝督の所有するもの。
第二位の『自分だけの現実』から生じ、第二位の演算能力によって形を得る能力。
ならばこそ。木原病理にできることが、垣根帝督にできない道理はあるのか。
垣根の言う通り、ヒントはいくらでもあった。
ずっと木原病理は『未元物質』を使って戦っていたし、垣根はずっとそれを観察していた。
その異常とも言える学習速度は流石としか言い様がないが、他に考えられる可能性はなかった。
木原病理によって削ぎ落とされた体。だがその欠陥部位を多少なりとも『未元物質』で補っているとするならば。
垣根帝督が、血塗れの垣根がこちらを見る。
そこには不敵な笑みがあった。
今にも倒れそうで、けれど明確な意思さえ感じられた。
木原病理には理解できない。
「んな、に……不思議、かよ? 俺が、生きてるのが……」
ついに垣根は立ち上がった。
ふらふらではあるが、二本の足で立っている。
あり得ない現象だった。目の前の現実が計算とまるで合わない。
「あり得ないっ……。あなたはもう立てないはず!! なのに、どうして……!?」
「ハッ。ヒントを、与えたのは……他でもねえ、テメェだろうが……。
今の一撃の……おかげで、また冷静になれた」
ヒント? 木原病理はその垣根の言葉を脳内で猛烈に分析する。
木原病理が垣根に見せたものは何か。
考えられるものは一つしかない。木原病理はある一つの可能性に行き着いた。
「まさか、あなた……『未元物質』を使って人体細胞の構築を!?」
木原病理はずっと取り込んだ『未元物質』を使って戦っていた。
二本足で立ち上がったのも、異常な再生能力も、その域を超えた改造も、全て『未元物質』を利用したものだ。
だが本来『未元物質』という能力は垣根帝督の所有するもの。
第二位の『自分だけの現実』から生じ、第二位の演算能力によって形を得る能力。
ならばこそ。木原病理にできることが、垣根帝督にできない道理はあるのか。
垣根の言う通り、ヒントはいくらでもあった。
ずっと木原病理は『未元物質』を使って戦っていたし、垣根はずっとそれを観察していた。
その異常とも言える学習速度は流石としか言い様がないが、他に考えられる可能性はなかった。
木原病理によって削ぎ落とされた体。だがその欠陥部位を多少なりとも『未元物質』で補っているとするならば。
284: 2013/08/24(土) 23:06:43.94 ID:9zvZep500
「その、通りだ、クソッタレ……。本当、テメェなんだぜ、答えを教えたのは」
ここに来て掴んだのは『未元物質』の新たなる進化の可能性。
自分が垣根帝督に進化のきっかけを与えたという事実に木原病理は歯噛みする。
だがかといってそれがどうしたと言うのだ。もはや戦況は覆らない。
「いずれにしろあなたはもうふらふらです。このまま畳み掛ければ間違いなくあなたは氏ぬ」
「……分かってねえな、テメェ」
その言葉に木原病理は何も言葉を返さなかった。いや、返せなかった。
何故か。
突然木原病理の体がボゴン!! と膨張し、全身をおぞましいほどの激痛が駆け抜けたからだ。
「ぁ、は……っ!?」
何が起きたのか理解できなかった。
垣根の『未元物質』は封じたし、それ以外の攻撃も受けていない。勿論第三者によるものでもない。
不可解な現象だった。体のコントロールがほとんど効かない。
そしてそれを見て笑うのは血塗れの垣根帝督。
垣根がこれを引き起こしたと感じた木原病理は垣根に吠える。
「あなた、一体……一体何をしたんですか!?」
「疑問だったんだ」
垣根は告げる。隠していた木原病理の恐れを。
「俺の『未元物質』を使ってそれほどの自由度を得ていながら、何故テメェは木原病理という人間の形でいるのか。
……単純にビビってるわけだ。そりゃそうだよな。テメェは『未元物質』を御しきれてねえ。
何をどうしようと、俺が作り出したものには俺の痕が残る。
万人に啓蒙する科学技術と違って、『未元物質』はあくまで俺だけの能力。
そんなモンを体内に取り込めば待っているのは拒絶反応だ」
ここに来て掴んだのは『未元物質』の新たなる進化の可能性。
自分が垣根帝督に進化のきっかけを与えたという事実に木原病理は歯噛みする。
だがかといってそれがどうしたと言うのだ。もはや戦況は覆らない。
「いずれにしろあなたはもうふらふらです。このまま畳み掛ければ間違いなくあなたは氏ぬ」
「……分かってねえな、テメェ」
その言葉に木原病理は何も言葉を返さなかった。いや、返せなかった。
何故か。
突然木原病理の体がボゴン!! と膨張し、全身をおぞましいほどの激痛が駆け抜けたからだ。
「ぁ、は……っ!?」
何が起きたのか理解できなかった。
垣根の『未元物質』は封じたし、それ以外の攻撃も受けていない。勿論第三者によるものでもない。
不可解な現象だった。体のコントロールがほとんど効かない。
そしてそれを見て笑うのは血塗れの垣根帝督。
垣根がこれを引き起こしたと感じた木原病理は垣根に吠える。
「あなた、一体……一体何をしたんですか!?」
「疑問だったんだ」
垣根は告げる。隠していた木原病理の恐れを。
「俺の『未元物質』を使ってそれほどの自由度を得ていながら、何故テメェは木原病理という人間の形でいるのか。
……単純にビビってるわけだ。そりゃそうだよな。テメェは『未元物質』を御しきれてねえ。
何をどうしようと、俺が作り出したものには俺の痕が残る。
万人に啓蒙する科学技術と違って、『未元物質』はあくまで俺だけの能力。
そんなモンを体内に取り込めば待っているのは拒絶反応だ」
285: 2013/08/24(土) 23:11:48.85 ID:9zvZep500
「……っ」
「こうしている今もテメェは自分の形を見失い始めてるはずだ。
それでもテメェは俺を頃すために、殺されないために『未元物質』に頼らざるを得ない。
たとえそれが危険だと分かっていてもな。
とはいえテメェほどの奴なら後で肉体の修復は可能だろうよ。
だがな、木原。テメェは決定的なミスを犯した」
「……まさか、そういう、ことですか……ッ!!」
「テメェは俺の『未元物質』を封印するために『ピンセット』を使用した。
そいつで素粒子の一つ一つを毟り取るという方式を採用したんだ」
だがこのやり方には一つだけ問題点があった。
たしかに『ピンセット』ならばそうやって『未元物質』を処理することもできるかもしれない。
しかし。これはあくまで『未元物質』をその場から排除するだけであって、『未元物質』を消滅させるわけではない。
では『ピンセット』で掴み取った『未元物質』は一体どこに流れるのか。
「量が少なければ掴み取った『未元物質』を容器か何かに入れておけるかもしれねえ。
だがそうでなければ『未元物質』は行き場所を失う。かといって外に出しちまえば本末転倒だ。
……そこで気付いた。テメェは『ピンセット』で掴んだ『未元物質』をそのまま体内に取り込んでるってな」
木原病理の体はこうしている今も『崩壊』を続けている。
最初から、垣根はこれを狙っていた。
「ずいぶんと苦労したぜ。俺はずっと『未元物質』を発動させていた。
テメェの攻撃を防ぐ時だけじゃねえ、ずっとだ。
そして今、ようやくテメェの体内の『未元物質』が許容量を超えたってわけだ」
「こうしている今もテメェは自分の形を見失い始めてるはずだ。
それでもテメェは俺を頃すために、殺されないために『未元物質』に頼らざるを得ない。
たとえそれが危険だと分かっていてもな。
とはいえテメェほどの奴なら後で肉体の修復は可能だろうよ。
だがな、木原。テメェは決定的なミスを犯した」
「……まさか、そういう、ことですか……ッ!!」
「テメェは俺の『未元物質』を封印するために『ピンセット』を使用した。
そいつで素粒子の一つ一つを毟り取るという方式を採用したんだ」
だがこのやり方には一つだけ問題点があった。
たしかに『ピンセット』ならばそうやって『未元物質』を処理することもできるかもしれない。
しかし。これはあくまで『未元物質』をその場から排除するだけであって、『未元物質』を消滅させるわけではない。
では『ピンセット』で掴み取った『未元物質』は一体どこに流れるのか。
「量が少なければ掴み取った『未元物質』を容器か何かに入れておけるかもしれねえ。
だがそうでなければ『未元物質』は行き場所を失う。かといって外に出しちまえば本末転倒だ。
……そこで気付いた。テメェは『ピンセット』で掴んだ『未元物質』をそのまま体内に取り込んでるってな」
木原病理の体はこうしている今も『崩壊』を続けている。
最初から、垣根はこれを狙っていた。
「ずいぶんと苦労したぜ。俺はずっと『未元物質』を発動させていた。
テメェの攻撃を防ぐ時だけじゃねえ、ずっとだ。
そして今、ようやくテメェの体内の『未元物質』が許容量を超えたってわけだ」
286: 2013/08/24(土) 23:12:36.65 ID:9zvZep500
「あ、がっ……ぎ、は……っ!!」
度を超えて『未元物質』を取り込んだことによる対価。
垣根はみるみると形をなくしていく木原病理からタブレットを取り上げる。
そして少し操作すると木原病理が設定していた美琴のいる部屋の映像が映し出される。
そこに映っていたのはまたも復活を果たした御坂美琴の姿だった。
何があったのか、何がきっかけとなったのかは垣根には分からない。
だがそんなことはどうでもいい。美琴はまたもあの絶望から這い上がったのだ。
これで二度目。やはりああいう種類の人間は違う、と垣根は思った。
垣根はその映像を木原病理に見せ付けると、すぐにタブレットを破壊してしまった。
「何でかは俺も知らねえが、御坂はまた立ち直った。
残念だったな、木原。これでテメェの企みは全部失敗だ。
いつまでもテメェの思い通りに俺たちを動かせると思ってんじゃねえ」
垣根を頃すことも。
美琴を利用して垣根を絶望させることも。
カーテン・フォール
「……閉幕だ」
そして垣根帝督は勝利宣言をする。
「アンコールはないぜ?」
木原病理は正しく自らの敗北を理解する。
もはや氏は避けられない。
だが、かといって木原病理にただで氏んでやるつもりは全くなかった。
垣根はここまで来てまだ木原病理を―――『木原』を侮っていた。
『木原』の狂気はこんなものではない、とでも言うように。
木原病理は絶望を告げる。
度を超えて『未元物質』を取り込んだことによる対価。
垣根はみるみると形をなくしていく木原病理からタブレットを取り上げる。
そして少し操作すると木原病理が設定していた美琴のいる部屋の映像が映し出される。
そこに映っていたのはまたも復活を果たした御坂美琴の姿だった。
何があったのか、何がきっかけとなったのかは垣根には分からない。
だがそんなことはどうでもいい。美琴はまたもあの絶望から這い上がったのだ。
これで二度目。やはりああいう種類の人間は違う、と垣根は思った。
垣根はその映像を木原病理に見せ付けると、すぐにタブレットを破壊してしまった。
「何でかは俺も知らねえが、御坂はまた立ち直った。
残念だったな、木原。これでテメェの企みは全部失敗だ。
いつまでもテメェの思い通りに俺たちを動かせると思ってんじゃねえ」
垣根を頃すことも。
美琴を利用して垣根を絶望させることも。
カーテン・フォール
「……閉幕だ」
そして垣根帝督は勝利宣言をする。
「アンコールはないぜ?」
木原病理は正しく自らの敗北を理解する。
もはや氏は避けられない。
だが、かといって木原病理にただで氏んでやるつもりは全くなかった。
垣根はここまで来てまだ木原病理を―――『木原』を侮っていた。
『木原』の狂気はこんなものではない、とでも言うように。
木原病理は絶望を告げる。
287: 2013/08/24(土) 23:13:41.56 ID:9zvZep500
「……たしかに私の氏はもう避けられません。それは認めましょう。
ですが、あなたの氏もまた同様に確定しています」
「負け惜しみか?」
「『八段階目の赤』」
「――――――ッ!?」
木原病理の口にした単語。垣根帝督は思わず絶句する。
それほどにその言葉の持つ意味は大きかった。
「ウソだろオイ……まさか、マジかよテメェ……!?」
マ グ ネ テ ィ ッ ク デ ブ リ キ ャ ノ ン
「そのまさかです。『地球旋回加速式磁気照準砲』。
あれは既に私たちの頭上を、地球の周囲を旋回しながら力を蓄えています」
正式名称HsMDC-01『地球旋回加速式磁気照準砲』。通称『八段階目の赤』。
学園都市が打ち上げた衛星、『ひこぼしⅡ号』に搭載されている軍事テスト兵器。
その実態は大質量の砲弾を軌道上に放り出し、地球の自転の力を借りて超高速の運動エネルギーを得る。
そして砲弾を使い捨ての小型宇宙船の電磁力で軌道を捻じ曲げて地表へと落とす、というものだ。
砲弾のサイズは一〇段階に分けられており、八段階目以降が地球に着弾した場合。
周囲数十キロをクレーターにし、地下にある核の直撃にも耐えうる軍事級避難所すら丸ごと抉り取り吹き飛ばす都市壊滅レベルの破壊力を生み出すことになる。
だが『八段階目の赤』は地球の自転エネルギーを使って加速するもの。
地球の衛星軌道上をぐるりと周回することでようやく最大威力を発揮できる。
つまり、撃ってすぐに地表に着弾するわけではない。
『地球旋回加速式磁気照準砲』は既に発射されている。
そして間もなくこの学園都市目掛けて落ちてくる。
―――許せば、学園都市諸共全てが跡形なく消滅するだろう。
「しかもあなたの『未元物質』も使って私たち『木原』が手を加えました。
さあ、どうします? 氏に場所くらいは選んでもいいんですよ?」
ですが、あなたの氏もまた同様に確定しています」
「負け惜しみか?」
「『八段階目の赤』」
「――――――ッ!?」
木原病理の口にした単語。垣根帝督は思わず絶句する。
それほどにその言葉の持つ意味は大きかった。
「ウソだろオイ……まさか、マジかよテメェ……!?」
マ グ ネ テ ィ ッ ク デ ブ リ キ ャ ノ ン
「そのまさかです。『地球旋回加速式磁気照準砲』。
あれは既に私たちの頭上を、地球の周囲を旋回しながら力を蓄えています」
正式名称HsMDC-01『地球旋回加速式磁気照準砲』。通称『八段階目の赤』。
学園都市が打ち上げた衛星、『ひこぼしⅡ号』に搭載されている軍事テスト兵器。
その実態は大質量の砲弾を軌道上に放り出し、地球の自転の力を借りて超高速の運動エネルギーを得る。
そして砲弾を使い捨ての小型宇宙船の電磁力で軌道を捻じ曲げて地表へと落とす、というものだ。
砲弾のサイズは一〇段階に分けられており、八段階目以降が地球に着弾した場合。
周囲数十キロをクレーターにし、地下にある核の直撃にも耐えうる軍事級避難所すら丸ごと抉り取り吹き飛ばす都市壊滅レベルの破壊力を生み出すことになる。
だが『八段階目の赤』は地球の自転エネルギーを使って加速するもの。
地球の衛星軌道上をぐるりと周回することでようやく最大威力を発揮できる。
つまり、撃ってすぐに地表に着弾するわけではない。
『地球旋回加速式磁気照準砲』は既に発射されている。
そして間もなくこの学園都市目掛けて落ちてくる。
―――許せば、学園都市諸共全てが跡形なく消滅するだろう。
「しかもあなたの『未元物質』も使って私たち『木原』が手を加えました。
さあ、どうします? 氏に場所くらいは選んでもいいんですよ?」
288: 2013/08/24(土) 23:20:06.99 ID:9zvZep500
第一級警報の発令。
これは『地球旋回加速式磁気照準砲』が発射されたことによるものだったのだ。
砲撃までもう時間がない。
『木原』は初めから確実に一方通行、垣根帝督、御坂美琴を頃すための策を用意していた。
その精神面から叩き潰すだけではない。
たとえ引き分けに終わったとしても、敗北したとしても、それとは無関係に彼らを氏に至らしめるための方法を。
その結果学園都市が丸ごと消し飛んでも。『外』も巻き込んで滅んでも。何百万の無関係の命が消えるとしても。
『木原』はただ自分の頃したい相手を殺せるなら、それで良かったのだ。
「ちくしょう……ッ、このイカレたクソ野郎が!! どこまで弾けりゃ気が済むんだテメェらは!?」
まさか『八段階目の赤』なんてものが使われるなんて完全に垣根の想像の外だった。
止めなければならない。でなければ何もかもが滅ぶ。
だが具体的な方法が全く思いつかなかった。そもそもそんな方法は『木原』共が事前に潰しているに違いない。
「『八段階目の赤』だと。そもそもありゃ厳重なプロテクトがかかってるはずだろうが!!
プロジェクトチームの上位研究員の脳波をキーにしてるはずだ!!」
「く、くくく……。知らないのですか? あれは普通にニュースにも取り上げられましたが」
「何を……」
そして垣根帝督は何かひっかかりを感じた。
何か、自分は大事なことを見落としていたような気がする。
『八段階目の赤』。その使用には限られた人間の脳波を使うしかない。
そのプロジェクトに『木原』は関わっていないはずだ。ニュース?
この違和感の正体を明らかにすべく垣根の頭が猛烈に回転する。
記憶の海へと意識をダイブさせ、手探りで探っていく。
如何に超能力者として抜群の記憶力を有していようと、決して完全記憶能力者ではないのだ。
だから思い出せない可能性も高かったが、木原病理の言葉をヒントに垣根は何とか目当ての記憶を見つけることに成功する。
あれはずいぶん前のこと。四人で行ったとある喫茶店で、何気なく目をやったテレビでアナウンサーはこう読み上げていた。
これは『地球旋回加速式磁気照準砲』が発射されたことによるものだったのだ。
砲撃までもう時間がない。
『木原』は初めから確実に一方通行、垣根帝督、御坂美琴を頃すための策を用意していた。
その精神面から叩き潰すだけではない。
たとえ引き分けに終わったとしても、敗北したとしても、それとは無関係に彼らを氏に至らしめるための方法を。
その結果学園都市が丸ごと消し飛んでも。『外』も巻き込んで滅んでも。何百万の無関係の命が消えるとしても。
『木原』はただ自分の頃したい相手を殺せるなら、それで良かったのだ。
「ちくしょう……ッ、このイカレたクソ野郎が!! どこまで弾けりゃ気が済むんだテメェらは!?」
まさか『八段階目の赤』なんてものが使われるなんて完全に垣根の想像の外だった。
止めなければならない。でなければ何もかもが滅ぶ。
だが具体的な方法が全く思いつかなかった。そもそもそんな方法は『木原』共が事前に潰しているに違いない。
「『八段階目の赤』だと。そもそもありゃ厳重なプロテクトがかかってるはずだろうが!!
プロジェクトチームの上位研究員の脳波をキーにしてるはずだ!!」
「く、くくく……。知らないのですか? あれは普通にニュースにも取り上げられましたが」
「何を……」
そして垣根帝督は何かひっかかりを感じた。
何か、自分は大事なことを見落としていたような気がする。
『八段階目の赤』。その使用には限られた人間の脳波を使うしかない。
そのプロジェクトに『木原』は関わっていないはずだ。ニュース?
この違和感の正体を明らかにすべく垣根の頭が猛烈に回転する。
記憶の海へと意識をダイブさせ、手探りで探っていく。
如何に超能力者として抜群の記憶力を有していようと、決して完全記憶能力者ではないのだ。
だから思い出せない可能性も高かったが、木原病理の言葉をヒントに垣根は何とか目当ての記憶を見つけることに成功する。
あれはずいぶん前のこと。四人で行ったとある喫茶店で、何気なく目をやったテレビでアナウンサーはこう読み上げていた。
289: 2013/08/24(土) 23:20:58.19 ID:9zvZep500
――『一〇月九日の学園都市独立記念日に、第三学区の国際展示場で講演を行う予定だった一澤暁子氏が誘拐された事件の続報です―――……』 ――
「ッ!?」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
そうだ。あの時たしかにそういうニュースが報道されていた。
あれは『木原』によるものだったのだ。
(クソ……ッ、なんであの時に気付かなかった!? ボケすぎだちくしょう!!)
一澤暁子。その脳波。『地球旋回加速式磁気照準砲』の封印を解く鍵。
既に『木原』はキーを遥か前に手に入れていたのだ。
何とかしなければならない。もはやお喋りしている時間はなかった。
「こちらからも一つ質問があるのですが」
崩れた体で、木原病理は平時と変わらぬ表情を浮かべていた。
氏に恐怖しているようには見えなかった。
おそらくそれは、垣根帝督が『八段階目の赤』によって氏ぬことを知っているから。
「……何だ」
「あなたの『未元物質』。いくらあなたが常に『未元物質』を散布していたとしても崩壊が早すぎるように思いますが」
「ハッ。んなことも分かんねえのか。知らねえなら冥土の土産に教えてやるよ」
垣根帝督の背中に天使の如き六枚の白い翼が顕現する。
『未元物質』。木原病理の対抗策が無効になった今、何の問題もなくその能力は発動する。
垣根は翼を木原病理に向けて構え、無表情に言った。
290: 2013/08/24(土) 23:22:13.08 ID:9zvZep500
「俺の『未元物質』に、常識は通用しねえ」
291: 2013/08/24(土) 23:22:43.85 ID:9zvZep500
無慈悲に白翼が断頭台の刃のように振り下ろされる。
そしてそれは狙い違わずザン!! と木原病理の首を切り落とした。
ごろごろと転がる木原病理の首。
垣根はそれを靴底でぐしゃりと容赦なく踏み潰した。
脳が潰され、ピンク色の脳の破片が水と共にあたりに飛び散った。
だが垣根はその程度では止まらない。
残された木原病理の体の四肢を切り落とす。
腹を掻っ捌き、ハラワタを抉り出す。
それらを徹底的に潰す。ぶちゅり、ぶちゅりと。
消えてなくなるまで。床と一体化して汚い染みになるまで。
『八段階目の赤』に意識を持っていかれていたが、垣根の中にある木原病理への憎悪と殺意は欠片も衰えていない。
木原病理は絶対にやってはいけないことをした。
だから頃す。木原病理がこの世に存在した証すらも消す。
本来垣根は人を頃すことはあっても、自分の邪魔をしたり仕事だったりという理由によっていた。
単なる快楽殺人者ではなかった。だから、頃すにしても氏体まで傷つけたりはしない。
だが。木原病理だけは違った。この女だけは完全完璧に消し去らなければ気が済まなかった。
御坂美琴の無残な姿が頭から離れない。
垣根帝督は震えるような声を漏らしながら、いつまでも木原病理の残骸を踏み潰し続けていた。
そしてそれは狙い違わずザン!! と木原病理の首を切り落とした。
ごろごろと転がる木原病理の首。
垣根はそれを靴底でぐしゃりと容赦なく踏み潰した。
脳が潰され、ピンク色の脳の破片が水と共にあたりに飛び散った。
だが垣根はその程度では止まらない。
残された木原病理の体の四肢を切り落とす。
腹を掻っ捌き、ハラワタを抉り出す。
それらを徹底的に潰す。ぶちゅり、ぶちゅりと。
消えてなくなるまで。床と一体化して汚い染みになるまで。
『八段階目の赤』に意識を持っていかれていたが、垣根の中にある木原病理への憎悪と殺意は欠片も衰えていない。
木原病理は絶対にやってはいけないことをした。
だから頃す。木原病理がこの世に存在した証すらも消す。
本来垣根は人を頃すことはあっても、自分の邪魔をしたり仕事だったりという理由によっていた。
単なる快楽殺人者ではなかった。だから、頃すにしても氏体まで傷つけたりはしない。
だが。木原病理だけは違った。この女だけは完全完璧に消し去らなければ気が済まなかった。
御坂美琴の無残な姿が頭から離れない。
垣根帝督は震えるような声を漏らしながら、いつまでも木原病理の残骸を踏み潰し続けていた。
292: 2013/08/24(土) 23:23:29.80 ID:9zvZep500
―――『地球旋回加速式磁気照準砲』が地表に着弾するまで、残り四〇分。
303: 2013/08/29(木) 01:31:48.98 ID:IF8TQMHd0
悲劇では終わらせない。
304: 2013/08/29(木) 01:39:08.39 ID:IF8TQMHd0
垣根帝督は、ある人間の目の前に立っていた。
その人間は全身から血を流し、けれど確かに生きている。
テレスティーナ=木原=ライフライン。
御坂美琴に二度目の敗北を喫し、気を失っている。
「……甘い。甘すぎる」
テレスティーナが生きているということは、美琴が氏なないように手を加えたということになる。
あれだけのことをされて。妹達まで弄ばれて。
まだ見逃そうというのか。
あまりにも甘すぎて、垣根は思わず笑ってしまう。
その甘さこそが御坂美琴の魅力なのだと知りつつも。
垣根には美琴と違ってテレスティーナを見逃そうなどという考えは僅かもなく。
きっとそこが自分のような存在とヒーローの違いなのだろう、と垣根は何となく思った。
「じゃあな。ま、善人にやられるよりかは惨めじゃねえだろ」
振り上げた右腕を下ろす。それだけの動作。
しかしそれはテレスティーナにとどめを刺すには十分すぎる動きだった。
テレスティーナは絶対にやってはならないことをした。
木原数多も、木原病理も、テレスティーナ=木原=ライフラインも。
漏れなく全員を殺さなければならない。
ここで殺さなければ、逆にこちらがこれから先頃し尽くされるかもしれない。
そして氏神の鎌がテレスティーナの命を奪わんというところで、
「駄目!!」
視界の外からそんな女性の声が聞こえた。
振り向く前に背中に衝撃を感じた。
その女性が後ろから飛びついてきたのだ。
その人間は全身から血を流し、けれど確かに生きている。
テレスティーナ=木原=ライフライン。
御坂美琴に二度目の敗北を喫し、気を失っている。
「……甘い。甘すぎる」
テレスティーナが生きているということは、美琴が氏なないように手を加えたということになる。
あれだけのことをされて。妹達まで弄ばれて。
まだ見逃そうというのか。
あまりにも甘すぎて、垣根は思わず笑ってしまう。
その甘さこそが御坂美琴の魅力なのだと知りつつも。
垣根には美琴と違ってテレスティーナを見逃そうなどという考えは僅かもなく。
きっとそこが自分のような存在とヒーローの違いなのだろう、と垣根は何となく思った。
「じゃあな。ま、善人にやられるよりかは惨めじゃねえだろ」
振り上げた右腕を下ろす。それだけの動作。
しかしそれはテレスティーナにとどめを刺すには十分すぎる動きだった。
テレスティーナは絶対にやってはならないことをした。
木原数多も、木原病理も、テレスティーナ=木原=ライフラインも。
漏れなく全員を殺さなければならない。
ここで殺さなければ、逆にこちらがこれから先頃し尽くされるかもしれない。
そして氏神の鎌がテレスティーナの命を奪わんというところで、
「駄目!!」
視界の外からそんな女性の声が聞こえた。
振り向く前に背中に衝撃を感じた。
その女性が後ろから飛びついてきたのだ。
305: 2013/08/29(木) 01:40:19.44 ID:IF8TQMHd0
「頃しちゃ駄目よ!!」
御坂美琴。そこにいたのは第三位の超能力者だった。
「……御坂。お前が一番分かってるはずだ」
「ええ。こいつを頃しちゃいけないってことがね」
美琴がそんなことを言った。
誰よりもテレスティーナの狂気と危険性を理解しているはずなのに。
あれだけのことをされて尚、何故そんなことが言えるのか。
垣根には理解はできても納得はできなかった。
「ここで見逃せば、こいつは必ずまたお前の前に現れる。
このクソは今回だけでもあれだけのことをした。次は絶対にこのレベルを超えてくる。
分かるか? 誰が利用されるかも分からねえ。何をされるかも分からねえ。
今回こそ何とかなったが、この次もそう上手くいくとは限らねえ」
「…………」
「今回だってお前はぎりぎりまで追い詰められた。
いや、完全に限界を超えたはずだ。今度こそ氏ぬかもしれねえんだぞ。
こいつらは人間じゃねえ。人の形をした別の何かだ」
テレスティーナは、絶対に諦めたりはしないだろう。
だからここで頃すべきだ。殺さなければならない。
「今のうちに頃すのがベストだ。分かったか馬鹿」
「分からないわね」
だが美琴がそれを否定する。
一番テレスティーナを憎んでいるはずの美琴が。
垣根から決して目を逸らさずに、真っ直ぐな瞳でこちらを射抜いてくる。
「私はこいつが嫌い。大嫌い。はっきり言って憎んでる。
でもだからこそ、こいつを憎む人間としてこいつと同じところまで堕ちたくはない」
「だから俺がやるっつってんだ」
「目の前のそれを見過ごしたら結局同じことよ。
それに、私はアンタにももう人を頃してほしくない。最低でも私の前ではね」
御坂美琴。そこにいたのは第三位の超能力者だった。
「……御坂。お前が一番分かってるはずだ」
「ええ。こいつを頃しちゃいけないってことがね」
美琴がそんなことを言った。
誰よりもテレスティーナの狂気と危険性を理解しているはずなのに。
あれだけのことをされて尚、何故そんなことが言えるのか。
垣根には理解はできても納得はできなかった。
「ここで見逃せば、こいつは必ずまたお前の前に現れる。
このクソは今回だけでもあれだけのことをした。次は絶対にこのレベルを超えてくる。
分かるか? 誰が利用されるかも分からねえ。何をされるかも分からねえ。
今回こそ何とかなったが、この次もそう上手くいくとは限らねえ」
「…………」
「今回だってお前はぎりぎりまで追い詰められた。
いや、完全に限界を超えたはずだ。今度こそ氏ぬかもしれねえんだぞ。
こいつらは人間じゃねえ。人の形をした別の何かだ」
テレスティーナは、絶対に諦めたりはしないだろう。
だからここで頃すべきだ。殺さなければならない。
「今のうちに頃すのがベストだ。分かったか馬鹿」
「分からないわね」
だが美琴がそれを否定する。
一番テレスティーナを憎んでいるはずの美琴が。
垣根から決して目を逸らさずに、真っ直ぐな瞳でこちらを射抜いてくる。
「私はこいつが嫌い。大嫌い。はっきり言って憎んでる。
でもだからこそ、こいつを憎む人間としてこいつと同じところまで堕ちたくはない」
「だから俺がやるっつってんだ」
「目の前のそれを見過ごしたら結局同じことよ。
それに、私はアンタにももう人を頃してほしくない。最低でも私の前ではね」
306: 2013/08/29(木) 01:41:02.02 ID:IF8TQMHd0
「こいつを見逃すということがどれほどの危険を孕んでいるのか、理解した上でか?」
「ええ」
美琴に退く気は一歩もないようだった。
垣根はチッ、と舌打ちする。
だがそれでも垣根はテレスティーナを見逃すべきとは思わない。
完全な考えの相違、立場の相違だった。
「つまりお前はまた妹達が利用されようと、最終信号が使い潰されようと。
白井たちが殺されても上条が実験台にされても一向に構わないと」
「そんなことは絶対にさせないわ」
「分かってんだろ。『木原』はその程度当たり前にやるぞ。
こいつは頃したくない、でも他の連中が利用されるのも嫌じゃ話になんねえ。
お前が言ってることはただの綺麗事だ。正しいかもしれねえがあまりに現実性がない」
「そうね。分かってる。私の言ってることは子供のわがままよ」
理屈で言えば垣根帝督は正しいのだろう。
テレスティーナが次に美琴の前に立ちはだかる時、彼女は一体どれほどの災厄をばら撒くか分からないのだ。
今殺さねば逆にこちらが殺されるかもしれない。
そのために関係者も無関係者も巻き込まれるかもしれない。
もしかしたら美琴の両親すらも利用されるかもしれない。
テレスティーナ=木原=ライフラインという存在はあまりにも危険だ。
情に流されて生かしておけば取り返しのつかない事態を引き起こしかねない。
その時になって後悔しても、もう遅すぎる。
だが倫理的に言えば正しいのは美琴なのだろう。
理屈も何もない、ただ人を頃すのはいけないことだ。
ただそれだけの愚直な、しかし紛れもなく『正しい』理由。
「ええ」
美琴に退く気は一歩もないようだった。
垣根はチッ、と舌打ちする。
だがそれでも垣根はテレスティーナを見逃すべきとは思わない。
完全な考えの相違、立場の相違だった。
「つまりお前はまた妹達が利用されようと、最終信号が使い潰されようと。
白井たちが殺されても上条が実験台にされても一向に構わないと」
「そんなことは絶対にさせないわ」
「分かってんだろ。『木原』はその程度当たり前にやるぞ。
こいつは頃したくない、でも他の連中が利用されるのも嫌じゃ話になんねえ。
お前が言ってることはただの綺麗事だ。正しいかもしれねえがあまりに現実性がない」
「そうね。分かってる。私の言ってることは子供のわがままよ」
理屈で言えば垣根帝督は正しいのだろう。
テレスティーナが次に美琴の前に立ちはだかる時、彼女は一体どれほどの災厄をばら撒くか分からないのだ。
今殺さねば逆にこちらが殺されるかもしれない。
そのために関係者も無関係者も巻き込まれるかもしれない。
もしかしたら美琴の両親すらも利用されるかもしれない。
テレスティーナ=木原=ライフラインという存在はあまりにも危険だ。
情に流されて生かしておけば取り返しのつかない事態を引き起こしかねない。
その時になって後悔しても、もう遅すぎる。
だが倫理的に言えば正しいのは美琴なのだろう。
理屈も何もない、ただ人を頃すのはいけないことだ。
ただそれだけの愚直な、しかし紛れもなく『正しい』理由。
307: 2013/08/29(木) 01:42:10.69 ID:IF8TQMHd0
一体この場でどちらを優先するべきなのか。
垣根帝督はずっと理屈の世界で生きてきたし、御坂美琴はずっと倫理の世界で生きてきた。
だから二人の考えはいつまでも平行線。
「そりゃ私だって理屈の上ではアンタが正しいんだってことは分かってる。
そうやって全部含めて考えた上で合理的な決断を下せるのが大人ってモンなんでしょうよ」
でも、と美琴は区切って、
「そうして理屈で人の命を切り捨てられるのが大人なら、私はずっと子供でいい」
そう言う美琴の眼は揺るがぬ決意に満ちていた。
垣根は嫌というほど思い知る。こんな奴を説得するなんて絶対に無理だ。
どうやら御坂美琴という人間は思っていたよりずっと頑固だったらしい。
一方通行の時も。麦野沈利の時も。そして今も。
結局美琴は最後まで“殺人”という行為を拒み続け、絶対にその選択肢を許容しなかった。
「……ハァ。分かった分かった。だがな、お前のその選択は危険極まりないぜ?」
垣根がそう言うと、美琴は分かりやすく顔を綻ばせて頷いた。
……だが。実は垣根はそれでもテレスティーナを見逃すつもりは欠片もなかった。
なのに美琴の言葉に折れたのは、他に方法を見つけたからだ。
今ここで自分が手を下す以外の方法を。
美琴と垣根は連れ立ってその部屋を去っていく。
だがその際に、垣根はとある一点に目線を向ける。
その視線の先にあるのは白い、白い人影。
垣根の目と紅い目が合った。それだけで意図は伝わった。
この日。テレスティーナ=木原=ライフラインは氏を迎えた。
垣根帝督はずっと理屈の世界で生きてきたし、御坂美琴はずっと倫理の世界で生きてきた。
だから二人の考えはいつまでも平行線。
「そりゃ私だって理屈の上ではアンタが正しいんだってことは分かってる。
そうやって全部含めて考えた上で合理的な決断を下せるのが大人ってモンなんでしょうよ」
でも、と美琴は区切って、
「そうして理屈で人の命を切り捨てられるのが大人なら、私はずっと子供でいい」
そう言う美琴の眼は揺るがぬ決意に満ちていた。
垣根は嫌というほど思い知る。こんな奴を説得するなんて絶対に無理だ。
どうやら御坂美琴という人間は思っていたよりずっと頑固だったらしい。
一方通行の時も。麦野沈利の時も。そして今も。
結局美琴は最後まで“殺人”という行為を拒み続け、絶対にその選択肢を許容しなかった。
「……ハァ。分かった分かった。だがな、お前のその選択は危険極まりないぜ?」
垣根がそう言うと、美琴は分かりやすく顔を綻ばせて頷いた。
……だが。実は垣根はそれでもテレスティーナを見逃すつもりは欠片もなかった。
なのに美琴の言葉に折れたのは、他に方法を見つけたからだ。
今ここで自分が手を下す以外の方法を。
美琴と垣根は連れ立ってその部屋を去っていく。
だがその際に、垣根はとある一点に目線を向ける。
その視線の先にあるのは白い、白い人影。
垣根の目と紅い目が合った。それだけで意図は伝わった。
この日。テレスティーナ=木原=ライフラインは氏を迎えた。
308: 2013/08/29(木) 01:43:01.37 ID:IF8TQMHd0
・
・
・
一方通行、垣根帝督、御坂美琴。
学園都市の頂点に君臨する超能力者、そのトップスリー。
それぞれが『木原』との戦いを乗り越え、妹達に関係するありとあらゆる全てのデータを物理的に完全消滅させた三人が再度集結していた。
『中央制御室』。
その広い部屋に彼らはいた。
どうやら『八段階目の赤』もここから制御されていたようだ。
彼らは壁と溶接されているコンソールを操作しながら美琴に『八段階目の赤』について説明していた。
「……つまり、こいつを何とかできなきゃ全部綺麗さっぱり消し飛んじまうってことだ。
それほどに『地球旋回加速式磁気照準砲』はやばい」
「ウソでしょ、そんなの……。で、でも、もうその『地球旋回加速式磁気照準砲』は発射されてるんでしょ!?
もし私たちが負けてたら『木原』は自分で自分を吹っ飛ばすことになってたわよ?」
「何か策を用意してたンだろォな。たとえばリモコンで操作できる自爆装置とかな。
あれだけのエネルギーを持った砲弾なら、完全に破壊せずとも亀裂が入れば自壊する」
「なら、それを探せば……」
「あいつらがンなモン残してると思うか?」
学園都市を狙う『地球旋回加速式磁気照準砲』。
その事実を知った美琴は改めて『木原』に畏怖していた。
309: 2013/08/29(木) 01:44:03.22 ID:IF8TQMHd0
「でも一方通行には『反射』があるじゃない。それじゃ確実に殺せないんじゃ……」
「どうだかな。『木原』がそれを考えなかったわけはねえし、更に改良したとも言っていた。俺の『未元物質』すら使ってな」
「今や『八段階目の赤』がどォなってるかは誰にも分からねェ。
分かってンのはおそらく数十分後にはこの地表に落ちてくるだろォってことだけだ。
『木原』が俺たちにあまり時間を与えるはずはねェからな」
「……見つけた。あと二〇分ほどで『八段階目の赤』が落ちて来るぞ」
垣根がキーを叩く指を止めると、備え付けられた小さなモニターに何らかの情報が英文で表示された。
それはリアルタイムで『八段階目の赤』を追っているのか、現在の高度や速度、そして着弾までの時間が示されていた。
とはいえそれはあくまでそういった情報を閲覧できるだけで、ここから『八段階目の赤』に何か働きかけることはできないらしい。
つまりここからではどうやっても『地球旋回加速式磁気照準砲』を止めることはできないということだ。
「二、二〇分!?」
「別に驚くことでもねェだろ。すぐに落とすだろォってのは読めてたしな。
それにたとえ三日あったとしても学園都市の住人全員を避難させるなンてできねェンだ。
三日だろォと二〇分だろォと大して変わンねェよ」
「御坂、初春飾利に連絡を取れ。一つだけ『地球旋回加速式磁気照準砲』を止める方法に心当たりがある」
「え、本当!?」
「第二位のことだ、どォせ期待は出来ねェよ」
「可能性は低いがな。それと一方通行は氏ね」
美琴は何故初春飾利なのか疑問に思ったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
そんな時間もない。携帯を取り出して初春に電話をかけると、幸いにも彼女はすぐに出てくれた。
飴玉を転がすような甘ったるい声が返ってくる。
美琴は一言断ってから垣根に携帯を渡した。
「どうだかな。『木原』がそれを考えなかったわけはねえし、更に改良したとも言っていた。俺の『未元物質』すら使ってな」
「今や『八段階目の赤』がどォなってるかは誰にも分からねェ。
分かってンのはおそらく数十分後にはこの地表に落ちてくるだろォってことだけだ。
『木原』が俺たちにあまり時間を与えるはずはねェからな」
「……見つけた。あと二〇分ほどで『八段階目の赤』が落ちて来るぞ」
垣根がキーを叩く指を止めると、備え付けられた小さなモニターに何らかの情報が英文で表示された。
それはリアルタイムで『八段階目の赤』を追っているのか、現在の高度や速度、そして着弾までの時間が示されていた。
とはいえそれはあくまでそういった情報を閲覧できるだけで、ここから『八段階目の赤』に何か働きかけることはできないらしい。
つまりここからではどうやっても『地球旋回加速式磁気照準砲』を止めることはできないということだ。
「二、二〇分!?」
「別に驚くことでもねェだろ。すぐに落とすだろォってのは読めてたしな。
それにたとえ三日あったとしても学園都市の住人全員を避難させるなンてできねェンだ。
三日だろォと二〇分だろォと大して変わンねェよ」
「御坂、初春飾利に連絡を取れ。一つだけ『地球旋回加速式磁気照準砲』を止める方法に心当たりがある」
「え、本当!?」
「第二位のことだ、どォせ期待は出来ねェよ」
「可能性は低いがな。それと一方通行は氏ね」
美琴は何故初春飾利なのか疑問に思ったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
そんな時間もない。携帯を取り出して初春に電話をかけると、幸いにも彼女はすぐに出てくれた。
飴玉を転がすような甘ったるい声が返ってくる。
美琴は一言断ってから垣根に携帯を渡した。
310: 2013/08/29(木) 01:44:59.87 ID:IF8TQMHd0
「聞こえるか? 初春飾利。垣根帝督だ」
『あ、垣根さん。お久しぶりですね。あの風紀委員の時以来ですか。
でも一体何の用事なんですか? 垣根さんが私になんて』
初春が親しげに声をかけてくるが、残念ながらそれにまともに取り合っている時間はない。
垣根は簡潔に用件だけを叩きつける。
「お前、『守護神』なんだってな。なら今すぐクラッキングをかけろ」
『「守護神」? 何ですかそれ』
何を言っているのか分からないという感じの声だった。
とぼけているようにも見えない。垣根は美琴から病院で聞いた話しか知らない。
だからもしかしたら人違いという可能性もあったが、そこは重要ではない。
垣根が必要としているのは『守護神』ではなく、そう称されるほどの腕を持つクラッカーなのだ。
「何でもいい。いいから早くクラッキングしろ。二〇分以内だ」
『……なんだか穏やかじゃなさそうですね。一体何を目的に?』
そして垣根は『地球旋回加速式磁気照準砲』を止められるかもしれない希望の名を言った。
「『デブリストーム』。学園都市の試作型防空宇宙兵器だ。
こいつをどんな方法を使ってでも起動させろ。この街の軍事中枢クラウドを攻撃するんだ。
躊躇ってる暇ぁねえ。学園都市を滅ぼしたいなら話は別だがな」
『学園都市が滅びる!? ……分かりました。事情は何も聞きません。御坂さんもいることですしね』
「話が早くて助かる」
垣根はピッ、と通話を切ると携帯を美琴に投げて渡す。
美琴はそれを受け取りながら垣根の言ったその兵器の名を反復するように繰り返す。
『あ、垣根さん。お久しぶりですね。あの風紀委員の時以来ですか。
でも一体何の用事なんですか? 垣根さんが私になんて』
初春が親しげに声をかけてくるが、残念ながらそれにまともに取り合っている時間はない。
垣根は簡潔に用件だけを叩きつける。
「お前、『守護神』なんだってな。なら今すぐクラッキングをかけろ」
『「守護神」? 何ですかそれ』
何を言っているのか分からないという感じの声だった。
とぼけているようにも見えない。垣根は美琴から病院で聞いた話しか知らない。
だからもしかしたら人違いという可能性もあったが、そこは重要ではない。
垣根が必要としているのは『守護神』ではなく、そう称されるほどの腕を持つクラッカーなのだ。
「何でもいい。いいから早くクラッキングしろ。二〇分以内だ」
『……なんだか穏やかじゃなさそうですね。一体何を目的に?』
そして垣根は『地球旋回加速式磁気照準砲』を止められるかもしれない希望の名を言った。
「『デブリストーム』。学園都市の試作型防空宇宙兵器だ。
こいつをどんな方法を使ってでも起動させろ。この街の軍事中枢クラウドを攻撃するんだ。
躊躇ってる暇ぁねえ。学園都市を滅ぼしたいなら話は別だがな」
『学園都市が滅びる!? ……分かりました。事情は何も聞きません。御坂さんもいることですしね』
「話が早くて助かる」
垣根はピッ、と通話を切ると携帯を美琴に投げて渡す。
美琴はそれを受け取りながら垣根の言ったその兵器の名を反復するように繰り返す。
311: 2013/08/29(木) 01:46:51.42 ID:IF8TQMHd0
「『デブリストーム』……?」
「太陽風を操って地球の周りのスペースデブリをベルトごと動かすモンだ。
誘導に成功すれば秒速数キロで動く数万のデブリが砂嵐みてェな塊になって、不審物を片っ端から叩き落す。
だがありゃァあくまで試作型だったと思ったンだがな」
「たしかにあれはあくまで試作品。大規模な電波障害を起こす可能性もある。
だが確実性には欠けるとはいえ、もし『八段階目の赤』を止められる技術があるとすればこれくらいだろうよ。
起動すりゃUFOだろうが弾道ミサイルだろうが、それこそ世界最大規模の弾道ミサイル防衛網になる。
完成すれば百発百中の最強の防衛システムになるだろうな」
ほえ~、と美琴はしばしこの状況を忘れて間抜けな声を漏らす。
そんな兵器があったのか、と美琴は驚きを隠せない。
この街のとんでも技術は様々なところで見てきたが、これはまたスケールが違う。
『八段階目の赤』だの『デブリストーム』だの、やはり学園都市の科学力はぶっ飛んでいる。
「……でもさ、そんなもの当然一般には秘匿されてるものでしょ?
それを動かすなんて初春さんでも二〇分で出来るとはとても思えないんだけど」
「問題はそこだ。俺も二〇分でやれるとは思ってねえ。
あくまで『デブリストーム』は選択肢の一つ。当然他に本命を用意する必要がある」
「あと二〇分で?」
「出来なけりゃ氏ぬだけだ」
地球の自転の力で超エネルギーを得て地表へ放たれる『地球旋回加速式磁気照準砲』。
着弾すれば最低でも学園都市は丸ごと消し飛んでしまう。
宇宙空間から放たれるそんなものを、残りの僅かな時間の中でどうやって止めろというのか。
そんな時、手がかりを探してキーを叩いていた美琴が何かを発見する。
体は震え、冷や汗を流し、手はじっとりと汗をかいている。
「太陽風を操って地球の周りのスペースデブリをベルトごと動かすモンだ。
誘導に成功すれば秒速数キロで動く数万のデブリが砂嵐みてェな塊になって、不審物を片っ端から叩き落す。
だがありゃァあくまで試作型だったと思ったンだがな」
「たしかにあれはあくまで試作品。大規模な電波障害を起こす可能性もある。
だが確実性には欠けるとはいえ、もし『八段階目の赤』を止められる技術があるとすればこれくらいだろうよ。
起動すりゃUFOだろうが弾道ミサイルだろうが、それこそ世界最大規模の弾道ミサイル防衛網になる。
完成すれば百発百中の最強の防衛システムになるだろうな」
ほえ~、と美琴はしばしこの状況を忘れて間抜けな声を漏らす。
そんな兵器があったのか、と美琴は驚きを隠せない。
この街のとんでも技術は様々なところで見てきたが、これはまたスケールが違う。
『八段階目の赤』だの『デブリストーム』だの、やはり学園都市の科学力はぶっ飛んでいる。
「……でもさ、そんなもの当然一般には秘匿されてるものでしょ?
それを動かすなんて初春さんでも二〇分で出来るとはとても思えないんだけど」
「問題はそこだ。俺も二〇分でやれるとは思ってねえ。
あくまで『デブリストーム』は選択肢の一つ。当然他に本命を用意する必要がある」
「あと二〇分で?」
「出来なけりゃ氏ぬだけだ」
地球の自転の力で超エネルギーを得て地表へ放たれる『地球旋回加速式磁気照準砲』。
着弾すれば最低でも学園都市は丸ごと消し飛んでしまう。
宇宙空間から放たれるそんなものを、残りの僅かな時間の中でどうやって止めろというのか。
そんな時、手がかりを探してキーを叩いていた美琴が何かを発見する。
体は震え、冷や汗を流し、手はじっとりと汗をかいている。
312: 2013/08/29(木) 01:47:31.43 ID:IF8TQMHd0
「ウ……ウソ、でしょ……。何考えてんの……ッ!?」
美琴の目は大きく見開かれていて、まるで幽霊でも見たかのような反応だった。
それほどに信じがたいものがそこには表示されていた。
その様子に気付いた垣根と一方通行が不審そうな顔をしてやってくる。
「どォした?」
「何か見つけたか?」
そして美琴の見ている小さな液晶画面を覗き込んだ二人から、ヒュ、という息を呑む音が聞こえてきた。
そこにあったものは、
「『地球旋回加速式磁気照準砲』が……“二つ”ある……っ!!」
残り時間はあと僅か。学園都市を狙う『地球旋回加速式磁気照準砲』。
だがそれは一つではなかった。もう一つあったのだ、全てを滅する破壊の槍が。
「馬鹿な……ッ、『八段階目の赤』が二つあるなんて聞いたこともねえぞ!? どうなってやがんだ!!」
「……『木原』だ。あいつらはとことンまでやるつもりだったンだ。クソったれが、どこまでイカれてンだ……!!」
おそらく『木原』はこう考えたのだろう。
勝とうが負けようが確実に頃すために『地球旋回加速式磁気照準砲』を用意しよう。
だがそれだけでは確実性に欠ける、と。
だから一〇〇パーセントの確率で殺せるようにもう一つを用意した。
この三人を殺せるのみならず、学園都市ごと吹き飛ばすということは更なる意味も持つ。
打ち止めや上条らを始めとする彼らの大事なものも纏めて奪えるのだ。
『木原』としてはうってつけの方法だったに違いない。
美琴の目は大きく見開かれていて、まるで幽霊でも見たかのような反応だった。
それほどに信じがたいものがそこには表示されていた。
その様子に気付いた垣根と一方通行が不審そうな顔をしてやってくる。
「どォした?」
「何か見つけたか?」
そして美琴の見ている小さな液晶画面を覗き込んだ二人から、ヒュ、という息を呑む音が聞こえてきた。
そこにあったものは、
「『地球旋回加速式磁気照準砲』が……“二つ”ある……っ!!」
残り時間はあと僅か。学園都市を狙う『地球旋回加速式磁気照準砲』。
だがそれは一つではなかった。もう一つあったのだ、全てを滅する破壊の槍が。
「馬鹿な……ッ、『八段階目の赤』が二つあるなんて聞いたこともねえぞ!? どうなってやがんだ!!」
「……『木原』だ。あいつらはとことンまでやるつもりだったンだ。クソったれが、どこまでイカれてンだ……!!」
おそらく『木原』はこう考えたのだろう。
勝とうが負けようが確実に頃すために『地球旋回加速式磁気照準砲』を用意しよう。
だがそれだけでは確実性に欠ける、と。
だから一〇〇パーセントの確率で殺せるようにもう一つを用意した。
この三人を殺せるのみならず、学園都市ごと吹き飛ばすということは更なる意味も持つ。
打ち止めや上条らを始めとする彼らの大事なものも纏めて奪えるのだ。
『木原』としてはうってつけの方法だったに違いない。
313: 2013/08/29(木) 01:48:23.63 ID:IF8TQMHd0
三人は必氏にその頭をフル回転させた。
超能力者としての知恵と知識を総動員させてこの危機を乗り越える方法を模索する。
だが誰も一言も喋ろうとはしない。三人とも何も思いつかないのだ。
一秒が惜しまれるこの状況で、無常にも無為に時間だけが流れていく。
いや、それは正しくない。
実は三人とも一つだけ方法を思いついていた。
だがそれはあまりにも正確さに欠けていて、もはや妄想と言ってもいいほどで出来ることなら避けたいものだ。
そして永遠に続くかとさえ思える沈黙を破ったのは、美琴の携帯から流れる軽快な音楽だった。
着信。相手は『初春飾利』。
告げられた答えは『失敗』だった。
『申し訳ありません、御坂さん。
桜坂さんとも協力して全力は尽くしたのですが、異様に強固なプロテクトがかけられていて……。
あれをどうにかしようと思っても圧倒的に時間が足りません……』
おそらく、いや間違いなくそのプロテクトとやらを仕込んだのは『木原』だろう。
初めから『デブリストーム』を使用不能にしていたのだ。
『木原』三人が仕込んだ防衛網となると、如何な初春飾利と桜坂風雅のタッグといえど一筋縄で行く相手ではない。
時間さえあれば何とかなったかもしれないが、肝心のその時間がない以上どうしようもない。
桜坂風雅。初春をも敗北させた彼女がいることに美琴は驚いたが、それ以上にその桜坂を以ってしても不可能だったという事実にショックを受けていた。
やはり時間だ。圧倒的に時間が足りない。
初春飾利と桜坂風雅以上の逸材を美琴は知らない。仮にそんな人間がいたとして、協力してくれたとして、それでもやはり時間の壁に阻まれるのだろう。
超能力者としての知恵と知識を総動員させてこの危機を乗り越える方法を模索する。
だが誰も一言も喋ろうとはしない。三人とも何も思いつかないのだ。
一秒が惜しまれるこの状況で、無常にも無為に時間だけが流れていく。
いや、それは正しくない。
実は三人とも一つだけ方法を思いついていた。
だがそれはあまりにも正確さに欠けていて、もはや妄想と言ってもいいほどで出来ることなら避けたいものだ。
そして永遠に続くかとさえ思える沈黙を破ったのは、美琴の携帯から流れる軽快な音楽だった。
着信。相手は『初春飾利』。
告げられた答えは『失敗』だった。
『申し訳ありません、御坂さん。
桜坂さんとも協力して全力は尽くしたのですが、異様に強固なプロテクトがかけられていて……。
あれをどうにかしようと思っても圧倒的に時間が足りません……』
おそらく、いや間違いなくそのプロテクトとやらを仕込んだのは『木原』だろう。
初めから『デブリストーム』を使用不能にしていたのだ。
『木原』三人が仕込んだ防衛網となると、如何な初春飾利と桜坂風雅のタッグといえど一筋縄で行く相手ではない。
時間さえあれば何とかなったかもしれないが、肝心のその時間がない以上どうしようもない。
桜坂風雅。初春をも敗北させた彼女がいることに美琴は驚いたが、それ以上にその桜坂を以ってしても不可能だったという事実にショックを受けていた。
やはり時間だ。圧倒的に時間が足りない。
初春飾利と桜坂風雅以上の逸材を美琴は知らない。仮にそんな人間がいたとして、協力してくれたとして、それでもやはり時間の壁に阻まれるのだろう。
314: 2013/08/29(木) 01:50:19.86 ID:IF8TQMHd0
美琴は半ば放心状態のまま通話を一方的に切る。
そんな美琴を見ていた垣根と一方通行も初春の失敗を静かに悟る。
だがだからといって初春を責めるのは筋違いもいいところだ。
初春と桜坂は、きっと文字通り全力で取り掛かってくれた。
もともとが時間がなさすぎたのだ。失敗するのは想定の範囲内。
そのはずだったのに。
『デブリストーム』はあくまで保険。本命は別に用意する。
そのつもりだったのだが、絶望的に方法が思いつかない。
いつの間にか三人の中では保険だったはずの『デブリストーム』が本命に変わってしまっていた。
『デブリストーム』の起動失敗。
それはそのまま本命を叩き折られたことを意味していた。
「……この状況で全てを守るには、どうすればいいんだろうな?」
「……もう、やるしかないわ。私が『地球旋回加速式磁気照準砲』を止める」
美琴が考えた破滅を食い止める方法。
それは自分の力で砲弾を止めることだった。
『デブリストーム』のような科学技術を使用できないならば。
その身に宿る能力でどうにかするしか、ない。
「なンだと? ふざけてンのか?」
一方通行の目つきが変わる。だが美琴は動じない。
「どうするつもりだ? 『八段階目の赤』は並大抵の兵器じゃねえ。何か策でもあるのか?」
そして美琴は机上の空論の切り札の名を告げる。
「―――『荷電粒子砲』よ」
高速の荷電粒子を撃ち出す兵器である荷電粒子砲。
それはあくまでサイエンスフィクション上の兵器であり、現実には実用化されていないものだ。
砲弾として用いられる荷電粒子(電子、陽子、重イオンなど)を、粒子加速器によって亜光速まで加速し発射する。
これが現実に相応の規模で放たれた場合どうなるか、様々な憶測があるが『八段階目の赤』を止められる可能性はあると踏んだのだ。
そんな美琴を見ていた垣根と一方通行も初春の失敗を静かに悟る。
だがだからといって初春を責めるのは筋違いもいいところだ。
初春と桜坂は、きっと文字通り全力で取り掛かってくれた。
もともとが時間がなさすぎたのだ。失敗するのは想定の範囲内。
そのはずだったのに。
『デブリストーム』はあくまで保険。本命は別に用意する。
そのつもりだったのだが、絶望的に方法が思いつかない。
いつの間にか三人の中では保険だったはずの『デブリストーム』が本命に変わってしまっていた。
『デブリストーム』の起動失敗。
それはそのまま本命を叩き折られたことを意味していた。
「……この状況で全てを守るには、どうすればいいんだろうな?」
「……もう、やるしかないわ。私が『地球旋回加速式磁気照準砲』を止める」
美琴が考えた破滅を食い止める方法。
それは自分の力で砲弾を止めることだった。
『デブリストーム』のような科学技術を使用できないならば。
その身に宿る能力でどうにかするしか、ない。
「なンだと? ふざけてンのか?」
一方通行の目つきが変わる。だが美琴は動じない。
「どうするつもりだ? 『八段階目の赤』は並大抵の兵器じゃねえ。何か策でもあるのか?」
そして美琴は机上の空論の切り札の名を告げる。
「―――『荷電粒子砲』よ」
高速の荷電粒子を撃ち出す兵器である荷電粒子砲。
それはあくまでサイエンスフィクション上の兵器であり、現実には実用化されていないものだ。
砲弾として用いられる荷電粒子(電子、陽子、重イオンなど)を、粒子加速器によって亜光速まで加速し発射する。
これが現実に相応の規模で放たれた場合どうなるか、様々な憶測があるが『八段階目の赤』を止められる可能性はあると踏んだのだ。
315: 2013/08/29(木) 01:51:58.99 ID:IF8TQMHd0
荷電粒子砲そのものは現代の技術力で十分に実現可能な兵器である。
ただ粒子加速器の小型化が進まないのと、地球上では必要なその莫大な電力を用意できないのだ。
しかし。御坂美琴ならばどうだろうか。
第三位の超電磁砲ならば、そのSF上の産物を現実のものに出来るのではないだろうか。
だがこれにはあまりにも穴があり過ぎた。
一方通行はそこを容赦なく指摘していく。
「荷電粒子砲だと? 馬鹿も休み休み言え。
たしかにそれなら『地球旋回加速式磁気照準砲』を止められるかもしれねェよ。
だがな、実際問題そんなモンが撃てると思うのか?
いくらオマエでもそこまでの馬鹿げた電力を賄えるのか?
ただ大気中で真っ直ぐ粒子を飛ばすってだけでも一万メガワットの電力が必要だ。
放たれた時に撒き散らされるだろォ電磁波による被害、大気による減衰、莫大な反動。
問題は山ほどある。仮にオマエに荷電粒子砲を撃てるとしてもだ。
そンな立ってるのがやっとなほどボロボロな今のオマエに出来るとは到底思えねェ」
「『八段階目の赤』を破壊できるほどの威力で撃てたとして、それで実際に『八段階目の赤』を止められたとしてだ。
もう一つはどうするんだ? もう一回荷電粒子砲を撃つのか?
無理だな。撃てるとしても二連発なんて絶対に不可能だ。
超電磁砲も無駄だ。そんな都合の良い砲弾はどこにも存在しない。
第一、一方通行の言う通りだ。お前はもうボロボロじゃねえか」
まるで出来の悪い生徒の解答を片っ端から訂正していくように、欠点を連ねる一方通行と垣根。
だがそんなことは美琴も分かっているのだ。
自分のやろうとしていることはいくつもの不確定要素や欠陥を孕んでいる。
『地球旋回加速式磁気照準砲』を止める、どころかそもそも撃つ段階から不可能である可能性の方が高い。
しかし、
「なら……っ、どうしろって言うのよ!! このまま諦めろって言うの!?
私たち自身も、私たちの大切なものも、私たちの居場所も、全部大人しく奪われろって言うの!?」
このままでは一〇〇パーセントの確率で学園都市諸共全てが滅ぶ。
ならばたとえ〇,一パーセントでも可能性があるなら懸けるべきだと思う。
『地球旋回加速式磁気照準砲』が地表に着弾するまで残り僅か五分ほど。
ただ粒子加速器の小型化が進まないのと、地球上では必要なその莫大な電力を用意できないのだ。
しかし。御坂美琴ならばどうだろうか。
第三位の超電磁砲ならば、そのSF上の産物を現実のものに出来るのではないだろうか。
だがこれにはあまりにも穴があり過ぎた。
一方通行はそこを容赦なく指摘していく。
「荷電粒子砲だと? 馬鹿も休み休み言え。
たしかにそれなら『地球旋回加速式磁気照準砲』を止められるかもしれねェよ。
だがな、実際問題そんなモンが撃てると思うのか?
いくらオマエでもそこまでの馬鹿げた電力を賄えるのか?
ただ大気中で真っ直ぐ粒子を飛ばすってだけでも一万メガワットの電力が必要だ。
放たれた時に撒き散らされるだろォ電磁波による被害、大気による減衰、莫大な反動。
問題は山ほどある。仮にオマエに荷電粒子砲を撃てるとしてもだ。
そンな立ってるのがやっとなほどボロボロな今のオマエに出来るとは到底思えねェ」
「『八段階目の赤』を破壊できるほどの威力で撃てたとして、それで実際に『八段階目の赤』を止められたとしてだ。
もう一つはどうするんだ? もう一回荷電粒子砲を撃つのか?
無理だな。撃てるとしても二連発なんて絶対に不可能だ。
超電磁砲も無駄だ。そんな都合の良い砲弾はどこにも存在しない。
第一、一方通行の言う通りだ。お前はもうボロボロじゃねえか」
まるで出来の悪い生徒の解答を片っ端から訂正していくように、欠点を連ねる一方通行と垣根。
だがそんなことは美琴も分かっているのだ。
自分のやろうとしていることはいくつもの不確定要素や欠陥を孕んでいる。
『地球旋回加速式磁気照準砲』を止める、どころかそもそも撃つ段階から不可能である可能性の方が高い。
しかし、
「なら……っ、どうしろって言うのよ!! このまま諦めろって言うの!?
私たち自身も、私たちの大切なものも、私たちの居場所も、全部大人しく奪われろって言うの!?」
このままでは一〇〇パーセントの確率で学園都市諸共全てが滅ぶ。
ならばたとえ〇,一パーセントでも可能性があるなら懸けるべきだと思う。
『地球旋回加速式磁気照準砲』が地表に着弾するまで残り僅か五分ほど。
316: 2013/08/29(木) 01:56:22.60 ID:IF8TQMHd0
もはや考えている時間も、論争してる余裕もない。
だが垣根は笑っていた。不敵な表情で、傲岸不遜に笑っていた。
それは諦めた者の浮かべる笑みではなかった。
決して諦めず、困難に抗おうとする反抗者の顔つきだった。
そしてそれは一方通行も同じ。
「落ち着け。そうじゃねえ、簡単な話だ。
第三位で無理なら―――それより上の奴がやればいいだけのこと」
「俺たちがやる」
美琴は思わず息を呑む。
一方通行と垣根帝督。たしかに彼らは美琴より上に立つたった二枚の双翼だ。
だが、そんな二人であっても『八段階目の赤』を止められる確証などどこにもない。
あれはもともと学園都市を消すほどの威力を持っていたのに、『木原』が更なる改良を加えている。
今や一体どれほどの破壊力を有していることか。
「……何言ってんのよアンタたち。そもそも、アンタらだってもうボロボロじゃない!!
一方通行はともかく、垣根なんて立っているのがやっとどころか、立つことすら無理してるくせに……!!」
あくまで殴る蹴るの暴行で済んでいた一方通行はまだ良かった。
骨も折れているしあちこちが重傷であったが、それでもマシだった。
だが垣根は違う。木原病理による念動力や獣の腕による薙ぎ払いなど、熾烈な攻撃を受けた垣根は本当に限界だった。
加えてそのせいで一方通行と戦った時の傷まで開き、悲惨な有様だった。
「そんな状態で、そんなことしたら……絶対に氏んじゃう!!」
美琴は垣根を止めようとした。
他に方法などないと分かっていても、止めたかった。
「なら、諦めておとなしく全部奪われろと?」
しかし自分の言葉をそのまま返されて、思わず美琴は言葉に詰まる。
それは、駄目だ。この学園都市には大切な人間があまりにも多い。
壊されたくないものが多すぎる。
だが垣根は笑っていた。不敵な表情で、傲岸不遜に笑っていた。
それは諦めた者の浮かべる笑みではなかった。
決して諦めず、困難に抗おうとする反抗者の顔つきだった。
そしてそれは一方通行も同じ。
「落ち着け。そうじゃねえ、簡単な話だ。
第三位で無理なら―――それより上の奴がやればいいだけのこと」
「俺たちがやる」
美琴は思わず息を呑む。
一方通行と垣根帝督。たしかに彼らは美琴より上に立つたった二枚の双翼だ。
だが、そんな二人であっても『八段階目の赤』を止められる確証などどこにもない。
あれはもともと学園都市を消すほどの威力を持っていたのに、『木原』が更なる改良を加えている。
今や一体どれほどの破壊力を有していることか。
「……何言ってんのよアンタたち。そもそも、アンタらだってもうボロボロじゃない!!
一方通行はともかく、垣根なんて立っているのがやっとどころか、立つことすら無理してるくせに……!!」
あくまで殴る蹴るの暴行で済んでいた一方通行はまだ良かった。
骨も折れているしあちこちが重傷であったが、それでもマシだった。
だが垣根は違う。木原病理による念動力や獣の腕による薙ぎ払いなど、熾烈な攻撃を受けた垣根は本当に限界だった。
加えてそのせいで一方通行と戦った時の傷まで開き、悲惨な有様だった。
「そんな状態で、そんなことしたら……絶対に氏んじゃう!!」
美琴は垣根を止めようとした。
他に方法などないと分かっていても、止めたかった。
「なら、諦めておとなしく全部奪われろと?」
しかし自分の言葉をそのまま返されて、思わず美琴は言葉に詰まる。
それは、駄目だ。この学園都市には大切な人間があまりにも多い。
壊されたくないものが多すぎる。
317: 2013/08/29(木) 01:57:31.42 ID:IF8TQMHd0
だが一方で、垣根を失いたくないのも事実だった。
相反する二つの願望、しかもそれを上手く擦り合わせるための時間すらない。
「だからって……ッ!!」
「俺だってこんな不確定なやり方はしたくねえが、他に方法はねえ。
『デブリストーム』が頼りにならない以上、こうしない限り皆仲良くお陀仏だ。
……壊されたくねえんだよ。『木原』のクズ共なんかに、俺の掴んだモンを。
思い知らせてやるさ。俺の世界はそう簡単に壊れやしないってことをな。
ハッ、以前の俺が聞いたら吐き出しそうな台詞だがな」
「一方通行……!! アンタだって、氏ぬわけにはいかないでしょ!?」
縋るように美琴は一方通行を見る。
だが一方通行も垣根と同じく、既に決意を固めた眼をしていた。
「氏ぬつもりなンかねェよ。そこのクソメルヘンと同じだ。
俺の大事なモンを守りてェ。ただそれだけだ。
安心しろよ。オマエも、打ち止めも、妹達も、その居場所も。
まとめて『木原』の下衆から守りきってやる」
そう言った一方通行の背中から、突如漆黒の翼が噴出した。
陽炎のように揺らめく極大の破壊の力。
だが今回に限り、その黒い翼は破壊以外に使われる。
「バッテリー残量能力使用モードで三〇秒。楽勝だな」
それを見て、垣根の背中にも同様に白い翼が展開される。
『未元物質』。その無機質な輝きは守りのために振るわれる。
「『八段階目の赤』は二つあるんだ。テメェがしくじったら終わりだぜクズ」
「オマエの方こそ失敗しねェよォに祈っとくンだなゴミ」
相反する二つの願望、しかもそれを上手く擦り合わせるための時間すらない。
「だからって……ッ!!」
「俺だってこんな不確定なやり方はしたくねえが、他に方法はねえ。
『デブリストーム』が頼りにならない以上、こうしない限り皆仲良くお陀仏だ。
……壊されたくねえんだよ。『木原』のクズ共なんかに、俺の掴んだモンを。
思い知らせてやるさ。俺の世界はそう簡単に壊れやしないってことをな。
ハッ、以前の俺が聞いたら吐き出しそうな台詞だがな」
「一方通行……!! アンタだって、氏ぬわけにはいかないでしょ!?」
縋るように美琴は一方通行を見る。
だが一方通行も垣根と同じく、既に決意を固めた眼をしていた。
「氏ぬつもりなンかねェよ。そこのクソメルヘンと同じだ。
俺の大事なモンを守りてェ。ただそれだけだ。
安心しろよ。オマエも、打ち止めも、妹達も、その居場所も。
まとめて『木原』の下衆から守りきってやる」
そう言った一方通行の背中から、突如漆黒の翼が噴出した。
陽炎のように揺らめく極大の破壊の力。
だが今回に限り、その黒い翼は破壊以外に使われる。
「バッテリー残量能力使用モードで三〇秒。楽勝だな」
それを見て、垣根の背中にも同様に白い翼が展開される。
『未元物質』。その無機質な輝きは守りのために振るわれる。
「『八段階目の赤』は二つあるんだ。テメェがしくじったら終わりだぜクズ」
「オマエの方こそ失敗しねェよォに祈っとくンだなゴミ」
318: 2013/08/29(木) 01:58:44.63 ID:IF8TQMHd0
「……待って、待ってよ。何か他に方法が……」
「あると思うか?」
「―――っ!!」
頭では分かっている。だがかといってすぐに割り切れるほど、美琴は優秀ではない。
結局、自分は何も出来ない。妹達を頃し、番外個体も救えず、今もこうして人の力に頼ることしか出来ていない。
あまりの情けなさに氏にたくなる。
(……なんて、無様)
「それは違げえよ。お前がいなかったら今の俺はなかった」
美琴の内心を読み取っているかのように垣根は言う。
「大丈夫だ。これが終わったら、またカラオケでも行こうぜ」
「……それ、氏亡フラグよ」
美琴が僅かな笑みを浮かべて精一杯の明るい声を絞り出す。
それを聞いた垣根は一瞬驚いたように目を開いて、
「……んだよ、フラグの意味知ってんじゃねえか」
「調べたのよ。気になってね」
垣根は笑って、ふわりと宙に浮き上がる。
美琴はその体を繋ぎ止めるように、垣根の服を掴む。
「あると思うか?」
「―――っ!!」
頭では分かっている。だがかといってすぐに割り切れるほど、美琴は優秀ではない。
結局、自分は何も出来ない。妹達を頃し、番外個体も救えず、今もこうして人の力に頼ることしか出来ていない。
あまりの情けなさに氏にたくなる。
(……なんて、無様)
「それは違げえよ。お前がいなかったら今の俺はなかった」
美琴の内心を読み取っているかのように垣根は言う。
「大丈夫だ。これが終わったら、またカラオケでも行こうぜ」
「……それ、氏亡フラグよ」
美琴が僅かな笑みを浮かべて精一杯の明るい声を絞り出す。
それを聞いた垣根は一瞬驚いたように目を開いて、
「……んだよ、フラグの意味知ってんじゃねえか」
「調べたのよ。気になってね」
垣根は笑って、ふわりと宙に浮き上がる。
美琴はその体を繋ぎ止めるように、垣根の服を掴む。
319: 2013/08/29(木) 02:00:05.03 ID:IF8TQMHd0
「嫌よ……」
「…………御坂、」
美琴は消え入りそうなか細い声で呟く。
「アンタも、あいつも、黒子も、佐天さんも、初春さんも。
みんなみんな大切なのに。私は、誰か一人だって欠けてほしくない……っ!!」
「そうだな。俺も、ずっと一緒にいたいと思ってる」
垣根が信じられないほど穏やかに笑う。
その瞬間、垣根の翼に明確な変異があった。
ゴッ!! と輝いたと思ったら、一際翼が肥大しその輝きが更に増した。
それはかつて垣根帝督が開花させた力。
第一位との戦いで目覚めさせた、『未元物質』の覚醒。
「……あの“約束”、絶対に守ってもらうからね」
「“約束”?」
「もォいいか」
白い髪の超能力者がチョーカーのスイッチを能力使用モードに切り替え、問いかけてくる。
垣根は美琴の指を一本一本丁寧に外していき、一方通行に答えた。
「ああ」
「…………御坂、」
美琴は消え入りそうなか細い声で呟く。
「アンタも、あいつも、黒子も、佐天さんも、初春さんも。
みんなみんな大切なのに。私は、誰か一人だって欠けてほしくない……っ!!」
「そうだな。俺も、ずっと一緒にいたいと思ってる」
垣根が信じられないほど穏やかに笑う。
その瞬間、垣根の翼に明確な変異があった。
ゴッ!! と輝いたと思ったら、一際翼が肥大しその輝きが更に増した。
それはかつて垣根帝督が開花させた力。
第一位との戦いで目覚めさせた、『未元物質』の覚醒。
「……あの“約束”、絶対に守ってもらうからね」
「“約束”?」
「もォいいか」
白い髪の超能力者がチョーカーのスイッチを能力使用モードに切り替え、問いかけてくる。
垣根は美琴の指を一本一本丁寧に外していき、一方通行に答えた。
「ああ」
320: 2013/08/29(木) 02:01:18.46 ID:IF8TQMHd0
・
・
・
その瞬間。ドン!! と第一位と第二位は空へと飛び上がる。
天井を砕き、地面を突きぬけ、勢い良く地上へと舞い戻りそのまま遥か天まで駆け上がっていく。
それはまるで神に弓引く堕天使のようでもあった。
空の果てに妙な光を認めた。
おそらくはあれが『地球旋回加速式磁気照準砲』なのだろう。
「怖ェかよ、第二位」
一方通行がこんな時でも変わらぬ調子で問いかけてくる。
垣根も変わらぬ調子で、口の端を吊り上げて傲慢に答えた。
「誰に向かってモノ言ってやがる」
一方通行がハッ、と嗤う。直後だった。
平行して上昇していた一方通行と垣根が、Yの字のようにある一点で二手に分かれた。
『八段階目の赤』が二発放たれている以上、どちらか片方でも失敗すればもう一方によって学園都市は壊滅する。
だがそれがどうした、と垣根は思う。そんなもの、失敗しなければいいだけの話だ。
失敗すれば御坂美琴も上条当麻も氏ぬ。ならば垣根は必ず成功すると断言できる。
(場違いだろうが何だろうが、そんなことは問題じゃねえ)
321: 2013/08/29(木) 02:04:38.73 ID:IF8TQMHd0
『八段階目の赤』が見えてきた。
間もなく衝突するだろう。
(俺は第二位だ。自分勝手な男だ。だからこそ!! 勝手に俺から何かを奪うのは許さねえ!!
御坂も、上条も、俺自身も、その世界も!! 何一つだって渡してやるか!! 欲しいなら力ずくで奪ってみろッ!!)
ここに来るまで、色々なことがあった。
そもそもの始まりが嘘をついた偽りの関係からのスタートだった。
上手く少年と少女を騙して漬け込んだと思った。
三人で洋服を買いにセブンスミストに遊びに行った。
その後はゲームセンターで熱くなったし、美琴を氏なせないために『アイテム』や第一位の超能力者と対峙した。
四人で行ったカラオケは楽しかったし、強盗を捕まえたり本屋で下らないことをしたりした。
初めての人助けは意外と悪くなかった。二度目のゲームセンターでは上条に勝ちもした。
スキルアウトやそのボスと乱闘しながらもその頼みを聞いたこともあった。
一日風紀委員は新鮮だったし、妹達におかしなあだ名をつけられたり、第七位の超能力者と戦いもした。
最近では暴走した美琴を止めたこともあった。鉄橋ではその美琴と腹を割って気持ちを晒しあった。
第一位とは氏闘を繰り広げたし、美琴に救われてからは統括理事会の一人にも喧嘩を売った。
そして今。短かった、と思う。
たった一ヶ月の間の出来事。まだ足りない。一ヶ月では短すぎる。
垣根帝督は、これからもあの世界で過ごしていたいと思っている。
だから、氏んでやるつもりなど一切ない。
(俺は帰る。“帰る”んだ、あの場所に。こんなモンに壊させるわけにはいかねえ。
こんなとこで、俺は止まってらんねえんだよ!!)
『地球旋回加速式磁気照準砲』はもう目の前だった。
頬をピリピリとした衝撃が叩く。
やはり相当のエネルギーだ。『未元物質』すら組み込んで改良されたこれは、どれほどのものになっているのか。
間もなく衝突するだろう。
(俺は第二位だ。自分勝手な男だ。だからこそ!! 勝手に俺から何かを奪うのは許さねえ!!
御坂も、上条も、俺自身も、その世界も!! 何一つだって渡してやるか!! 欲しいなら力ずくで奪ってみろッ!!)
ここに来るまで、色々なことがあった。
そもそもの始まりが嘘をついた偽りの関係からのスタートだった。
上手く少年と少女を騙して漬け込んだと思った。
三人で洋服を買いにセブンスミストに遊びに行った。
その後はゲームセンターで熱くなったし、美琴を氏なせないために『アイテム』や第一位の超能力者と対峙した。
四人で行ったカラオケは楽しかったし、強盗を捕まえたり本屋で下らないことをしたりした。
初めての人助けは意外と悪くなかった。二度目のゲームセンターでは上条に勝ちもした。
スキルアウトやそのボスと乱闘しながらもその頼みを聞いたこともあった。
一日風紀委員は新鮮だったし、妹達におかしなあだ名をつけられたり、第七位の超能力者と戦いもした。
最近では暴走した美琴を止めたこともあった。鉄橋ではその美琴と腹を割って気持ちを晒しあった。
第一位とは氏闘を繰り広げたし、美琴に救われてからは統括理事会の一人にも喧嘩を売った。
そして今。短かった、と思う。
たった一ヶ月の間の出来事。まだ足りない。一ヶ月では短すぎる。
垣根帝督は、これからもあの世界で過ごしていたいと思っている。
だから、氏んでやるつもりなど一切ない。
(俺は帰る。“帰る”んだ、あの場所に。こんなモンに壊させるわけにはいかねえ。
こんなとこで、俺は止まってらんねえんだよ!!)
『地球旋回加速式磁気照準砲』はもう目の前だった。
頬をピリピリとした衝撃が叩く。
やはり相当のエネルギーだ。『未元物質』すら組み込んで改良されたこれは、どれほどのものになっているのか。
322: 2013/08/29(木) 02:09:22.89 ID:IF8TQMHd0
ちらりと一方通行の方へ目を向ける。
彼は一足早く“激突”したらしい。圧倒的な衝撃波と赤い光があたりに吹き荒れている。
その際、一方通行の翼の色が白く見えたのは気のせいだろうか。
(関係ねえ)
一方通行にできて自分にできないわけがない。
「いいぜ。俺には誰一人、何一つ守れないっつうなら、まずはそのふざけた常識を――――――」
垣根の覚醒した翼が数十メートルにまで肥大化する。
圧倒的な力を携えて、垣根帝督は凄絶に哄笑した。
「俺の『未元物質』に、常識は通用しねえ―――ッ!!」
上空八〇〇〇メートル。
眼下に広がる地を覆うような雲海を見下ろして、垣根は更に加速する。
垣根は初めて自分以外のもののために、何かを守るためにその力を解放する。
もっとも、それも結局は自分のため、に還元されるのだが。
夜空に輝く赤い大きな彗星。全てに絶対の破滅をもたらす赤い輝きに、垣根帝督は牙を立てる。
そして。
二つの巨大な力と力が激突した。
彼は一足早く“激突”したらしい。圧倒的な衝撃波と赤い光があたりに吹き荒れている。
その際、一方通行の翼の色が白く見えたのは気のせいだろうか。
(関係ねえ)
一方通行にできて自分にできないわけがない。
「いいぜ。俺には誰一人、何一つ守れないっつうなら、まずはそのふざけた常識を――――――」
垣根の覚醒した翼が数十メートルにまで肥大化する。
圧倒的な力を携えて、垣根帝督は凄絶に哄笑した。
「俺の『未元物質』に、常識は通用しねえ―――ッ!!」
上空八〇〇〇メートル。
眼下に広がる地を覆うような雲海を見下ろして、垣根は更に加速する。
垣根は初めて自分以外のもののために、何かを守るためにその力を解放する。
もっとも、それも結局は自分のため、に還元されるのだが。
夜空に輝く赤い大きな彗星。全てに絶対の破滅をもたらす赤い輝きに、垣根帝督は牙を立てる。
そして。
二つの巨大な力と力が激突した。
323: 2013/08/29(木) 02:11:06.06 ID:IF8TQMHd0
―――『地球旋回加速式磁気照準砲』、着弾。
324: 2013/08/29(木) 02:18:30.61 ID:IF8TQMHd0
第五章 科学という闇の底で Break_Your_Despair.
The End
325: 2013/08/29(木) 02:26:10.33 ID:IF8TQMHd0
……そうか、私という生き物は月並みに投下を終了しているのかもしれん
これにて第五章終了、つまり本編終了?
散々第三章が長いと言っていましたが、確認してみたら第四章以降が全体の半分以上を占めてましたw
第五章だけでも前スレの700辺りからだから、大体一スレ第五章だけで使ってたんですね
桜坂さんと知り合ってるのにデブリストームを知らなかったのは気付かなかった振りしてください
きっとあれとは全く違う知り合い方をしたんです
さて、あとは消化試合。次からは終章に入ります
予告はなし。予定ではあと三回の投下で完結です。ようやくだぜヒャッハァー!!
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」終章
これにて第五章終了、つまり本編終了?
散々第三章が長いと言っていましたが、確認してみたら第四章以降が全体の半分以上を占めてましたw
第五章だけでも前スレの700辺りからだから、大体一スレ第五章だけで使ってたんですね
桜坂さんと知り合ってるのにデブリストームを知らなかったのは気付かなかった振りしてください
きっとあれとは全く違う知り合い方をしたんです
さて、あとは消化試合。次からは終章に入ります
予告はなし。予定ではあと三回の投下で完結です。ようやくだぜヒャッハァー!!
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」終章
331: 2013/08/29(木) 20:41:48.64 ID:JnxMn+87o
乙でした
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります