63: 2012/07/09(月) 19:19:39.98 ID:VmI5IH4TP
◯ムギ「えう"ぁんげりおん!」

三年前に失踪したお父さんから一通のメールがきたのは昨日のこと。
友達を連れて第三新東京に来いって。
澪ちゃんに話したところ、一緒に来てくれることになった。

澪「待ち合わせ、ここでいいのか?」

唯「うん。その筈なんだけど……」

ムギちゃんとりっちゃんが失踪して久しい。
さわ子先生も一身上の理由で学校を辞めてしまい、けいおん部は事実上消滅した。

澪「……あれはなんだ?」

見上げると、大きな怪獣がいた。
怪獣?
怪獣だよね?
なんで怪獣がいるの?
けいおん!Shuffle 2巻 (まんがタイムKRコミックス)

64: 2012/07/09(月) 19:20:05.96 ID:VmI5IH4TP
澪「唯、逃げるぞ」

私はじっと怪獣を見ていた。
二本足で歩く怪獣。
その足音は大地を揺らし。
その体は太陽を隠す。
大きな怪獣。

澪「おいっ! 唯ってば!! おい!!!」

唯「……えっ?」

気づくと怪獣はすぐ傍に近づいていた。

澪「行くぞっ!」

澪ちゃんが私の手を掴んで走りだした。
私は澪ちゃんにひっぱられるまま怪獣から逃げた。
なんだこれ! なんでこんなことに。


さわ子「乗って!」

唯「さわちゃん!?」

65: 2012/07/09(月) 19:21:13.37 ID:VmI5IH4TP
私と澪ちゃんは、さわちゃんの車に乗った。

唯「ねぇ、澪ちゃん。これ現実じゃないよね?」

澪「えっ……」

唯「だって怪獣なんているわけないし」

澪「でも、あれ…」

澪ちゃんの見つめた先にはあの怪獣がいた。

さわ子「残念ながら現実よ」

さわ子「あれは使徒」

さわ子「人類の敵」

さわ子「私達の敵」

さわ子「そして、あなたたちの戦うべき敵」

66: 2012/07/09(月) 19:21:41.45 ID:VmI5IH4TP
唯「どういうこと? わけわかんないよ」

さわ子「説明している暇はないわ。早く降りて」

唯「えっ、ここ何もないじゃん」

さわ子「早く」

私達は急かされるままに車を降りた。
さわちゃんは地面をいじりはじめた。
しばらくすると、アスファルトのから四角い建造物が生えてきた。

さわ子「さぁ、これに乗って」

澪「エレベーター…?」

さわ子「そう。早く」

67: 2012/07/09(月) 19:23:02.84 ID:VmI5IH4TP
エレベーターはプールのある部屋に繋がっていた。
プールといっても中に入ってるのは赤い液体。
赤い液体の中には、赤い巨人がいた。

和「きたわね」

唯「和ちゃん!」

モニターに和ちゃんが映しだされた。
和ちゃん――中学まで一緒だった大切な幼馴染み。
高校に入ってから音信不通だったけど、こんなところで何を?

和「さっそくだけど唯、澪、これに乗って戦ってちょうだい」

澪「誰だよ!?」

和「真鍋和よ。以後よろしく」

澪「乗って戦えって? そんなの無理。絶対無理!!」

唯「和ちゃん……私も無理だよ」

68: 2012/07/09(月) 19:23:35.51 ID:VmI5IH4TP
和「そう。あなた達には失望したわ」

和ちゃんは、私の知らない顔をした。

和「さわ子先生、二人は使えますか?」

さわ子「……正直きついでしょうが、それしかないのね」

さわちゃんは走ってどこかへ行ってしまった。


唯「和ちゃん、あれはなんなの?」

私はモニターに映った怪獣を指さした。

和「あれは使徒よ。人類の敵」

唯「そうじゃなくて……なんであんな怪獣がいるの?」

和「その問いかけは無意味よ、唯」

和「どんな理屈であれ、使徒は既に生まれてしまった」

和「そして使徒を倒さなければ、滅びるのは私達よ」

69: 2012/07/09(月) 19:24:10.28 ID:VmI5IH4TP
澪「じゃあ、これはなんなんだ」

澪ちゃんが目の前の赤い巨人を指さした。

和「人形決戦兵器えう"ぁんげりおんよ」

唯「えう"ぁんげりおん?」

和「そう。使徒と戦うための切り札」

和「二人乗りの、人造人間」

澪「なんで私達が乗らなきゃいけないんだ? 軍人さんとか」

和「あなたたち以外乗れないから」

澪「なんでだ!」

和「理由を言っても仕方ないわ」

澪「話にならない」

70: 2012/07/09(月) 19:25:02.23 ID:VmI5IH4TP
そうこう言っているうちに、さわちゃんが戻ってきた。
片手で車椅子を押しながら、もう片方の手で包帯だらけの子を引っ張ってきた。
えっ……あれって。

唯「ムギちゃん!? りっちゃん!?」

澪「りつ!!!!」


紬「唯ちゃん……来てしまったのね」

ムギちゃんは片方の目をそらした。
もう片方の目は包帯に隠れて見えない。
りっちゃんは澪ちゃんをじっと見つめていた。

さわ子「いけるかしら」

律「はい!」

紬「大丈夫です!」

唯「えっ、ムギちゃんとりっちゃんが戦うの?」

澪「そんな体で、無茶だ!」

71: 2012/07/09(月) 19:26:01.54 ID:VmI5IH4TP
紬「……大丈夫だから」

律「そうだぞ、澪。心配しなくても私達がなんとかするから、な」

澪「そんな……律…なんで」

律「悪いな、澪。誰かがやらなきゃならないんだ」


唯「ムギちゃん……これって現実なんだよね」

ムギちゃんはゆっくりと頷いた。





唯「…………私、やります」





72: 2012/07/09(月) 19:26:47.27 ID:VmI5IH4TP

みんなが私を見た。

唯「私、えう"ぁに乗ります。やらせてください!」

澪「私もやる!」

澪ちゃんも続いた。

紬「そんな…。唯ちゃん達が戦う必要なんてないのに」

律「澪、やめてくれ」

唯「大丈夫。あんな怪獣さっさと倒しちゃうから。ムギちゃんはここで見てて」

澪「ああ、私達に任せとけ」

さわ子「決まったようね。じゃあついてきて」


さわちゃんが駈け出した。
私達もそれを追って走り出した。
なんとかなるよね?

73: 2012/07/09(月) 19:27:19.67 ID:VmI5IH4TP
直「嫌な役割を押し付けてしまい、すいませんでした」

和「気にしなくていいのよ。必要なことだから」

直「ですが…」

和「それより唯達のサポートを頼むわ、直」

直「はい。全力で――」


74: 2012/07/09(月) 19:28:20.97 ID:VmI5IH4TP
私たちは液体の中にいた。L.C.L.というらしい。
中にいても息ができる不思議な液体だ。

澪「準備はいいか?」

唯「うん。でもこれどうやって操縦すれば」

さわ子「ふたりとも、今はえう"ぁに乗ってくれたことに感謝するわ」

さわ子「えう"ぁはあなた達がイメージしたとおりに動くから」

さわ子「えう"ぁんげりおん弐号機、射出!」

なにもわからないまま私達の乗った赤いロボットは発射された。
地上に出ると目の前には怪獣。
この巨人と同じ大きさの怪獣。

澪「立たないと」


75: 2012/07/09(月) 19:29:14.77 ID:VmI5IH4TP
さわ子「なにしてるのあの子達」

直「立てないのかと…。訓練してませんから」

さわ子「早く立って、立ちあがるイメージよ」

唯「そう言われても」

澪「立て、立て、立て、立て」

唯「立った!」

立ったと同時に、怪獣の手から何か生えてきた。
えっ?

私の右手がなくなった。
えっ?


唯「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」

澪「…………」

76: 2012/07/09(月) 19:29:56.81 ID:VmI5IH4TP
さわ子「落ち着いて、ふたりとも、えう"ぁの手がやられただけだから」

直「やっぱり二人にはまだ…」

和「これしか方法はないのよ。今はできることを…」

唯「はーっ、はーっ、はーっ」

和「落ち着いて唯。あなたの左手は大丈夫だから」

左手を見る。確かにある。
澪ちゃんは……気絶してしまったようだ。

和「プログレッシブナイフを使うのよ、唯」

唯「これ?」

和「ええ」



律「……ムギ」

紬「……ええ」

77: 2012/07/09(月) 19:30:57.12 ID:VmI5IH4TP

唯「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

プログレッシブナイフを構え、全速力で怪獣に向かって走った。
目指すは中心の赤い玉。
きっとあれが弱点だ。
しかし、怪獣にぶつかる直前でナイフが止まった。

唯「なんで!?」

和「ATフィールド……」

和「直、なんとかならない?」

直「無理です」


怪獣が手を突き出した。
あっ、私氏ぬのかな?


「唯ちゃん!!」

青い巨人が怪獣に体当たりしたおかげで、私は氏なずに済んだ。
この声は…。

唯「ムギちゃん!?」


78: 2012/07/09(月) 19:31:54.24 ID:VmI5IH4TP
和「零号機!? 誰が乗っているの?」

律「私とムギだ」

和「律なの? 無茶よ。やめなさい」

紬「唯ちゃんと澪ちゃんだけで使徒を倒すほうが無茶よ」

和「だからって…」

その時だった。
和ちゃんが喋っているその途中――。
使徒の攻撃が青い巨人を貫いていた。
ちょうど心臓の部分。

唯「ムギちゃん!? りっちゃん!?」

紬「……」

律「……」

唯「返事してよ!!!」

紬「……」

律「……」

79: 2012/07/09(月) 19:32:40.82 ID:VmI5IH4TP
和「唯っ!!」

唯「あっ……」

ムギちゃんとりっちゃんに気を取られてる間に、怪獣が迫っていた。


怪獣の手が私の頭を掴んだ。


骨のようなものが伸びてくる。


私の頭は貫かれた。













唯「私、氏んだのかな」


80: 2012/07/09(月) 19:33:21.85 ID:VmI5IH4TP

唯「氏ぬのは嫌だな」

唯「まだギターも弾きたいし」

唯「憂とおしゃべりしたいし」

唯「りっちゃんと遊びにいきたいし」

唯「澪ちゃんの照れるところも見たいし」

唯「ムギちゃんの紅茶も飲みたいし」

唯「でも仕方ないよね」

唯「氏んじゃったら諦めるしかないもん」

紬「唯ちゃんはそれでいいの?」

唯「だってしかたないじゃん」

紬「そうかな?」

唯「そうだよ」

81: 2012/07/09(月) 19:34:32.97 ID:VmI5IH4TP
紬「唯ちゃんはもう学校に行けなくていいの?」

紬「友達と遊べなくていいの?」

紬「けいおん部で演奏できなくていいの?」

紬「りっちゃんと悪ふざけできなくなってもいいの?」

紬「澪ちゃんのパンツを見れなくなってもいいの?」

紬「……私と会えなくなってもいいの?」

唯「……」

唯「……」

紬「本当に…いいの?」

唯「……」

唯「……ムギちゃん。私まだ氏にたくない」

唯「氏にたくないよ…」

紬「大丈夫。唯ちゃんは私が守るから」

唯「ムギちゃん?」

紬「唯ちゃん、私とひとつになりましょう」

唯「ひとつに?」

紬「ええ。あの二人もひとつになったわ」

唯「りっちゃんと澪ちゃんのこと?」

紬「うん」

82: 2012/07/09(月) 19:35:33.52 ID:VmI5IH4TP
直「えう"ぁんげりおん零号機、弐号機、ともに完全に沈黙」

直「ゲル化していきます」

和「もう駄目なの…?」

直「待って下さい。この反応は…………パターン白、新たなえう"ぁです」

さわ子「なにが起こっているというの」

直「溶け合わさったゲルが人の形になっていく……これは…」

さわ子「紫色の巨人…」

和「初号機だとでもいうの!?」

83: 2012/07/09(月) 19:36:49.65 ID:VmI5IH4TP
紬「唯ちゃん、わかる?」

律「唯大丈夫か?」

澪「やってしまえ、唯っ!」

唯「うんっ!」

今ならわかる。これは私だ。このえう"ぁは私だ。
私が歩けばえう"ぁは歩く。
私が踊ればえう"ぁも踊る。
そう。簡単なこと。

怪獣が骨のようなものを伸ばして攻撃してくる。
でもこんなもの、ちょっと右に動くだけでかわせる。
お返しに右ストレートを叩きこんでやる。
ATフィールドに阻まれたけど、要領はわかった。

さわ子「普通の人間みたいに動いてる」

直「シンクロ率118%。凄い」

84: 2012/07/09(月) 19:37:23.93 ID:VmI5IH4TP
紬「唯ちゃん、私がATフィールドを侵食するからその間に攻撃して」

唯「そんなことできるの?」

紬「ええ」

紬「さぁ、私とひとつになりましょう」


あっ…なにか入ってきた。
拒絶したいと思う心。
自分以外の全てを消してしまいたいという心。
これは……怪獣の心?
心の壁?



唯「ねぇ、ムギちゃん」

紬「なぁに?」

唯「この戦いが終わったら焼きラーメン食べに行こっ」

紬「焼きラーメン? 行く行く!」

85: 2012/07/09(月) 19:38:26.53 ID:VmI5IH4TP

律「なぁ澪、私達も」

澪「わざわざ便乗して氏亡フラグ立てようとするな、馬鹿律」



りっちゃんと澪ちゃんが楽しそうに話してる。
この戦い、勝てる!
プログレッシブナイフを両手に構える。
もう負ける要因なんてない。
思いっきり走って、怪獣のコアに2本のナイフを突き立てる。

怪獣は断末魔の叫びの後、十字架のなかに消えていった。



86: 2012/07/09(月) 19:40:43.29 ID:VmI5IH4TP
戦いの後色々あったけど、それは割愛する。
次の日、私はムギちゃんとの約束を果たすべく、待ち合わせの場所へ向かった。


唯「あれっ、ムギちゃん、怪我はもういいの?」

紬「うん。私は二人目だから」

唯「えっ」

紬「なんでもないよ。さっ、早く焼きラーメン食べに行こ!」

そう言うと、ムギちゃんはクスッと笑った。

怪獣との戦いは、まだ終わったわけではないらしい。
またパイロットとして私は戦うことになると思う。
お父さんとも会えていないし、問題は山積みだ。

だけどきっと大丈夫。
そんな気がするんだ。


>その頃ドイツでは
梓「待っているです。日本のチルドレン達。この中野梓が格の違いというものを見せてやります」

>その頃月面では
全裸菫「今度こそお姉ちゃんだけは幸せにしてみせるから」


おしまいっ!

87: 2012/07/09(月) 19:50:47.04 ID:pa9d8AzSO
>>1乙。

88: 2012/07/09(月) 20:41:42.13 ID:pWCu/ieoo
乙でした~♪

引用元: 紬「私、リクエスト」