1:2017/05/30(火) 00:22:03.336
喪黒「私の名は喪黒福造、人呼んで笑ゥせぇるすまん」

喪黒「ただのセールスマンじゃございません」

喪黒「私の取り扱う品物は心……人間のココロでございます」


喪黒「この世は老いも若きも男も女も、心の寂しい人ばかり」

喪黒「そんな皆さんの心のスキマをお埋めいたします」

喪黒「いいえ、お金は一銭も頂きません」

喪黒「お客様が満足されたら、それがなによりの報酬でございます」

喪黒「さて、今日のお客様は……」



≪五之見 エリ(21) アイドル≫



オーッホッホッホッホッホ……


4:2017/05/30(火) 00:25:36.493
―握手会会場―

ワイワイ…… ガヤガヤ……

係員「これより五之見エリさんの握手会を始めます!」

係員「整理券をお持ちの方は、こちらの列に並んで下さい!」

係員「握手できる時間は決まっていますので、しっかり守って下さい!」

ザワザワ…… ガヤガヤ……



エリ(とうとう今日も握手会が始まっちゃった……あ~やだやだ)
7:2017/05/30(火) 00:27:15.235 ID:I2IbtLQN0.net
不幸の押し売りボランティア
8:2017/05/30(火) 00:28:04.928
青年「こんにちは、エリさん!」

エリ(あら、結構いい男じゃん)

エリ「こんにちは!」ウフッ

青年「いつも応援してます!」

エリ「ありがとうございまぁ~す」ニコニコ

ニギッ…
11:2017/05/30(火) 00:30:36.154
キモオタ「ぶひひひ……エ、エリちゃん……」

エリ(うぇ!?)

キモオタ「こ、これからも頑張って下さい……」コフーコフー

エリ(なんでこんな気持ち悪いブタ野郎が、あたしの握手会に参加すんのよ!)

エリ(身の程ってもんを分かってないんじゃないの!?)

キモオタ「あ、握手……して下さい!」サッ

エリ「は……はい」ヒクヒクッ

ニギッ…

エリ(うげぇ~気持ち悪っ! こんな奴の手を握るくらいならドブに手を突っ込んだ方がマシだわ!)
15:2017/05/30(火) 00:33:29.027
喪黒「こんにちは」ヌウッ

エリ「うわわっ! ……っと、ごめんなさい」

喪黒「この前発売された新曲『スキマ風に吹かれて』、大変素晴らしかったです」

喪黒「私のココロにもジ~ンと染み渡りました」

エリ「あ、ありがとうございます」

喪黒「では、握手をさせて下さい」

ニギッ…

エリ(こういう得体の知れない人も来るし……握手会ってホント嫌!)
16:2017/05/30(火) 00:34:48.944 ID:huxTHdrvM.net
そこらのキモオタよりキモいだろモグちゃん
18:2017/05/30(火) 00:36:25.009
握手会が終わり――

エリ「あ~……やっと終わったわ」

マネージャー「エリちゃん、ご苦労さま」

エリ「ねえ、マネージャー、握手会ってどうしてもやらなきゃダメなの?」

マネージャー「どうして?」

エリ「握手会に来る人って、手もさわりたくないような、気持ち悪い人が多くって……」

マネージャー「気持ちは分かるけど、握手会を開くとグッズの売り上げなんかが全然違うんだよ」

マネージャー「ファンへのアピールになるのはいうまでもないしさ」

マネージャー「ただでさえこの業界は競争が激しいんだ、それぐらい我慢しなきゃ」

エリ「はい……」
20:2017/05/30(火) 00:38:34.533
エリ「ハァ……」

エリ(あ~……最悪だったわ)

エリ(歌って踊るのは大好きだから、握手会なんてもんがなければ、アイドルは最高なのに……)

エリ(なんとか握手会せずに済む方法はないかなぁ……)





キモオタ「エリちゃぁん!」ブフッ
22:2017/05/30(火) 00:40:57.098 ID:IHQM+vhJ0.net
ドーンがどういう現象なのか説明してくれ誰か
24:2017/05/30(火) 00:44:05.458 ID:R4wV5ZRr0.net
>>22
喪黒って人間じゃない悪魔かなにかだから現象とかで説明できない
描写によって催眠っぽかったり物理的になにかの作用が起こったりもする
23:2017/05/30(火) 00:41:23.141
エリ(ゲ、さっきのブタ野郎! なんでこんなとこにいんのよ!)

キモオタ「さっき……ボクと握手する時、顔ひきつってたろう。手にも力入ってなかったしさ」

エリ「そ、そんなことありませんよ。あたしはちゃんと……」

キモオタ「ウソだぁ! せっかく高い金出して握手会に参加したのに、あんな握手はないよ!」

キモオタ「もう一度……ボクとちゃんと握手してくれぇ!」ブヒッ

エリ「ヒッ! だ、誰かぁっ!」
25:2017/05/30(火) 00:44:27.663
喪黒「お待ちなさい」ヌウッ

エリ「あなた……さっきの!」

キモオタ「なんだよ、お前!?」

喪黒「ドーン!!!」

キモオタ「ギニャー!!!」ゴロゴロ… ドテッ



喪黒「あとは警備員に任せましょう。さ、こちらへ」

エリ「は、はい!」
28:2017/05/30(火) 00:46:01.583 ID:huxTHdrvM.net
そんなドーンの使い方せんだろww
33:2017/05/30(火) 00:50:04.940
―休憩室―

エリ「本当にありがとうございました」

喪黒「いえいえ、それにしてもとんだ災難でしたなぁ」

エリ「ったく……これだから握手会はイヤなんですよ」

喪黒「ほう、握手会がおイヤなのですか」

エリ「そーなんです!」

エリ「――って、あの、そんなことは決して! 今のウソ!」

喪黒「ホッホッホ、ご安心下さい。ここでのお話はもちろんオフレコです。どうぞ本音でお話し下さい」

エリ「……」ホッ

喪黒「あなたはいわゆる、潔癖症なのですか?」

エリ「いえいえ、全然!」

エリ「たとえば、握手会に参加する人がみんな、俳優の池野面太さんぐらいのイケメンなら」

エリ「握手会もぜーんぜん大歓迎なんですけどねえ」

エリ「だけど、実際に来るのは身の程をわきまえてない容姿の人がほとんどで……」

エリ「そういう人と握手するたび、全身にムシズが走るんです」
35:2017/05/30(火) 00:54:08.002
喪黒「アイドルというのも一見華やかに見えて、なかなか大変な職業ですなぁ」

喪黒「アイドルは日本語で“偶像”ともいわれますが」

喪黒「それゆえ不特定多数の人に自分を晒さねばなりませんので、予期せぬトラブルも多い」

喪黒「過激なファンの方から嫌がらせや、時には暴力を振るわれることもあると聞きます」

喪黒「またいつ、先ほどのようなことが起きてもおかしくありませんなぁ」

エリ「そうなんです……」

エリ「だけど、今時アイドルやるなら、握手会は避けて通れませんから……」

喪黒「……よろしい」

喪黒「でしたら、あなたが握手会をしないでもいいようにしてみせましょう」

エリ「え?」
37:2017/05/30(火) 00:57:30.817
喪黒「実は私、こういう者です」スッ

エリ「喪黒福造……さん」

喪黒「私はあなたのような悩める方に手を差し伸べるボランティアをしてましてな」

喪黒「もし、今度時間が空きましたら、名刺の裏にある≪魔の巣≫というバーに来て下さい」

喪黒「その時、あなたが握手会をしないで済む方法をお教えしましょう」

エリ「分かりました……行きます! 必ず行きます!」
38:2017/05/30(火) 01:00:41.066
―BAR魔の巣―

ギィィ…

エリ「こんばんは、喪黒さん」

喪黒「ようこそ、今夜あたりきっといらっしゃると思ってましたよ」

喪黒「ところで、お酒の方は?」

エリ「飲めます、大丈夫です」エヘッ



マスター「……」キュッキュッ
39:2017/05/30(火) 01:02:23.460 ID:EOPTLuW7r.net
いい雰囲気
40:2017/05/30(火) 01:03:40.864
エリ「……」グイイッ

喪黒「いい飲みっぷりですなぁ」

エリ「なんたって、こちとら高校生の頃から飲んでるもんね~」ヒック

喪黒「ホッホッホ、今時のアイドルはこのぐらい豪気でなければいけませんな」

エリ「その通りよ~。繊細じゃアイドルなんてやってけないんだから!」

エリ「ところでモグちゃん、そろそろ握手会をしないで済む方法を教えてよ」

喪黒「ホ~ッホッホ、いいでしょう」

喪黒「その方法とは……こちらです」トンッ

エリ「なに、この人形?」

喪黒「あなたの身代わりになってくれる人形≪Iドールちゃん≫です」

エリ「アイドール……あたしにうってつけな名前ね」
42:2017/05/30(火) 01:06:32.448
喪黒「このドールの唇を押すと、人形はあなたそっくりに変身します」

エリ「へえ~、どこかのヒーロー物のアニメなんかで出てきそうなアイテムね」

エリ「ちょっと押してもいい?」

喪黒「どうぞどうぞ」

エリ「えいっ!」ポチッ

ムクムク…

ドール「はじめまして」

エリ「わっ、本当にあたしそっくり!」

喪黒「あとは≪Iドールちゃん≫に握手会を任せればいいわけです」

エリ「なるほど~! こりゃすごいわ!」
44:2017/05/30(火) 01:09:25.976
エリ「モグちゃん、こんないい人形をくれるなんて、どうもありがとう!」

喪黒「いえいえ」

喪黒「ただし、このドールは非常に気位が高い人形です」

喪黒「なので、一度任せたからには、握手会についてはちゃんと任せて下さい」

喪黒「自分は都合良く利用されてるなどと感じたなら、きっと彼女は怒ります」

喪黒「そうなったら、どんな事態が起こるか分かりませんからな」

エリ「平気よぉ、モグちゃん。あたし、約束は守るタイプだから!」

喪黒「……」
46:2017/05/30(火) 01:12:51.289
……

マネージャー「エリちゃん、そろそろ握手会を始めるから準備して!」

エリ「分かりました!」



エリ(よし……さっそく喪黒さんからもらったこの人形を使ってみよう)

エリ「頼んだわよ~」ポチッ

ムクムク…

エリ「あたしの代わりに握手会をこなして! もう一人のあたし!」

ドール「分かりました」
47:2017/05/30(火) 01:15:39.366
ドール「ありがとうございます」ニギッ…

ドール「これからも応援よろしくお願いします」ニギッ…

ドール「新曲、聞いて下さいね」ニギッ…



キモオタ「ぶひ、あ、あの……こないだはすみませんでした……」

ドール「いえいえ、何も気にしておりませんわ。来ていただいてありがとうございます」ニコッ

ニギッ…

キモオタ「うひゃーっ!」

キモオタ(演技でもいい、心の中で舌出しててもかまわない)

キモオタ(こうやって笑顔を向けてくれるだけで嬉しいんだ……!)
48:2017/05/30(火) 01:17:21.991 ID:Rft3Y7Mir.net
キモオタ…
49:2017/05/30(火) 01:18:29.662
エリ「握手会、お疲れ!」

ドール「はい」

エリ「じゃ、ここからはあたしがやるから、あなたは元に戻って」

ドール「分かりました」ニュニュニュ…

エリ「こりゃあ優れ物だわ……」

エリ「これであたしは大嫌いな握手会をせずに、歌やダンスに専念できる!」
50:2017/05/30(火) 01:21:51.022
マネージャー「エリちゃん! 最近、握手会での対応が評判いいよ!」

マネージャー「おかげでグッズの売上は好評だし、ファン投票でも上位陣に迫る勢いだ!」

マネージャー「このままいけば、君は一時代を築く売れっ子アイドルになれるよ!」

エリ「ありがとうございます!」

エリ(さっすが、あたしのドール……よくやってくれてるわね)

マネージャー(嫌いな握手会をこれだけ一生懸命やってくれてるんだ……)

マネージャー(なんとかご褒美を用意してあげたいな)
51:2017/05/30(火) 01:26:11.979
しばらくして――

―事務所―

マネージャー「今度、また握手会をやるんだけど……」

エリ「はい(どうせ、もう一人のあたしにやらせるけどね)」

マネージャー「今回特別に頼んで、俳優の池野面太が来てくれることになったんだ!」

エリ「ええっ、池野さんが!?」

マネージャー「ハハハ、やっぱり驚いたか」

マネージャー「なんたって君は池野面太に憧れて、芸能界入りしたってくらいだもんね」

マネージャー「憧れの人とたっぷり握手と会話を交わしてくれよ!」

エリ(池野さんが……あたしなんかの握手会に来てくれるなんて……)
54:2017/05/30(火) 01:30:35.192
握手会当日――

エリ(いよいよ握手会の日……いつもならドールにやらせるところだけど)

エリ(なんたって今日は池野さんと握手できる日! こればかりはあたしがやらなきゃ!)

エリ(喪黒さんは、一度任せたらずっと任せろっていってたけど……)

エリ「ドールちゃん、今日の握手会はあたしにやらせて!」

エリ「なんたって、憧れの池野さんと握手できる日なんだから!」

ドール「……」

エリ「じゃ、行ってきま~す!」





ドール「……」ゴゴゴゴゴ…
55:2017/05/30(火) 01:32:38.637 ID:uyNPv7jdr.net
こわい
56:2017/05/30(火) 01:33:39.828
ワイワイ…… ガヤガヤ……

面太「五之見エリちゃん、だね。はじめまして、池野面太です」

エリ「は、はいっ!」

エリ(きゃ~っ、池野さんがこんな近くに!)

面太「君はとてもキュートだね。いずれ君とドラマで共演したいものだよ」

エリ「そうですね。その時はぜひ……恋人同士の役で!」

面太「フフッ、そう願いたいものだね。それじゃ握手しよっか」

エリ「はい……」


ニギッ…


エリ(ああ……幸せ……)
57:2017/05/30(火) 01:36:46.457
エリ「ふんふんふ~ん」

エリ「憧れの池野さんとあんなにいっぱい話しちゃった!」

エリ「それどころか手まで……! もうこの手は一生洗わない! ……なーんてね」ウフッ

喪黒「エリさぁん」ヌゥッ

エリ「キャーッ!!?」

エリ「も、喪黒さん!? どうしてここに!?」

喪黒「今後、握手会は≪Iドールちゃん≫にお任せするはずだったのに、約束を破りましたね」

エリ「だ、だって、憧れの池野さんとお話しするチャンスだったし……」

喪黒「残念ながら、そんなことは言い訳になりません」
59:2017/05/30(火) 01:39:30.717
喪黒「私は申し上げたはずです。あの子を都合のいいように利用してはいけないと」

喪黒「きっと彼女は大変怒っているはずです」

エリ「あ、あああ……ああ……」

喪黒「もうどうなっても知りませんからねぇ~」

喪黒「ドーン!!!」





エリ「きゃあああああああああっ!!!」

ああぁぁぁぁぁ……
60:2017/05/30(火) 01:42:23.280
……

…………



エリ「いっけな~い! 遅刻、遅刻っと~」

エリ「すみませんマネージャー! すぐ支度しますから!」ガチャッ
62:2017/05/30(火) 01:45:40.052
マネージャー「誰だい、君は?」

エリ「へ?」

エリ「なにいってるのよ、マネージャー! あたしは五之見エリ……」

マネージャー「君こそなにいってるんだ。エリちゃんならとっくに来て、準備を始めてるよ」

ドール「あたし、五之見エリです!」ウフッ

マネージャー「さ、今日の番組の打ち合わせが始まる。行くよ、エリちゃん」

ドール「はいっ!」

エリ「な……!?」
64:2017/05/30(火) 01:46:35.453 ID:/x0c7/Yfr.net
!?
66:2017/05/30(火) 01:48:43.376
エリ「ちょっと待ちなさいよ! どういうことよ!」

エリ「あんた人形のくせに、あたしに取って代わろうっての!?」

ドール「ひどい……! あたしが人形だなんて……」ウルッ…

マネージャー「君、どこの誰だか知らないが、なんてこというんだ!」

マネージャー「エリちゃんはこれからアイドルの枠を越えて、スターダムを駆け上がってく逸材なんだ!」

マネージャー「警備員、こいつを追い出してくれ!」

警備員「はい」

警備員「さ、来るんだ」

エリ「そ、そんな……ちょっと待って! あたしが本物なのよぉぉぉぉぉ……!」ズルズル…



ドール「さよなら……どこかの誰かさん」クスッ

バタン…
68:2017/05/30(火) 01:51:48.178
……

―街角―

「誰か……誰かぁ……」

「握手してぇぇぇ……」




通行人A「うわ、なんだあの女!? 気持ち悪ィ!」

通行人B「おい見るなよ! 目ぇつけられたらどうすんだ!」
69:2017/05/30(火) 01:52:08.390 ID:/x0c7/Yfr.net
あらら
70:2017/05/30(火) 01:54:48.720
街頭テレビ『五之見エリでぇ~っす! ファンのみんな、元気かな~?』


通行人A「お、エリちゃんが映ってる! 最近すげえテレビ出てるよなぁ~」

通行人B「ああ、今度池野面太とドラマで共演するらしいぜ」

通行人A「今度出す新曲の『忘れられたらもうオシマイ』も、飛ぶように売れてるしな!」

通行人B「まさに飛ぶ鳥を落とす勢いってやつだなぁ……」






エリ「誰かぁ……」

エリ「あたしが五之見エリよぉ……」

エリ「誰か、あたしと握手してぇぇぇぇぇ……!」ボロッ…
73:2017/05/30(火) 01:58:53.823
喪黒「エリさんが再び誰かと握手できる日は来るのでしょうか」

喪黒「アイドルだって人間です。近づいてくる人間を選り好みをしたくなることだってあるでしょう」

喪黒「しかぁし、あまりに度が過ぎると、誰からも手を差し伸べてもらえなくなってしまうかもしれません」

喪黒「世のアイドルの皆さん、くれぐれもお気をつけ下さいねぇ~」

喪黒「オ~ッホッホッホッホッホ……」







―おわり―
71:2017/05/30(火) 01:55:59.657 ID:R4wV5ZRr0.net
入れ替わりは予想できたけど握手してってのはいいオチ
75:2017/05/30(火) 02:01:18.150 ID:xPVuZrsha.net
面白かったです、乙
76:2017/05/30(火) 02:01:51.010 ID:NxUWeQVQ0.net
あれだけ握手を嫌っていたのに握手を求めるようになるとは…良いねぇ