1:2015/04/12(日) 19:46:43.180
夜のリビング。ゴールデンタイムの人気番組をゲラゲラと笑いながら見ていた。
それは俺が母ちゃんと父ちゃんの三人でいつものように晩御飯を食べているときに聞こえてきた。

「ドタッ!ドタッ!ドタッ!ドタッ!」

激しい足音が上から聞こえてきた。
リビングの上にある部屋といえばあの部屋しかない。
それは二階の和室からだった。


ふらいんぐうぃっち(12) (週刊少年マガジンコミックス)
2:2015/04/12(日) 19:47:24.593 ID:iGHVjIMK0.net
感動した
4:2015/04/12(日) 19:48:19.323 ID:JEttPQ/o0.net
怖い話?
5:2015/04/12(日) 19:48:53.338
「ハァ……またか……」

父ちゃんはため息混じりに呟いた。
母ちゃんも同じくため息をつくと俺にこう促してきた。

「……ちょっと和室の様子見てきてくれる?」

嫌々ながらも箸を休めると席を立ち、仕方なく言う通りに和室へと向かった。
この足音が最初に聞こえ始めてきたのは二年前、あの日を境にだった。

……二年前、それは突然の訃報だった。
そのとき学校で授業を受けていた俺は、担任に職員室へと呼ばれた。
ものすごく深刻そうな面持ちで俺の名前を呼ぶので、最初はてっきり拳で殴られるものかと思っていた。
だが実際は違った、職員室の中へ入ると受話器を取るように言われた。
その理由を聞くも担任は無言のまま顔を下へと俯かせてしまった。
その行為に疑問を持ちながらも受話器を手に取った。
6:2015/04/12(日) 19:50:53.492
「……もしもし?」
「あっ……もしもし?母さんだけどさ、もしかして今授業中だった?」
「あぁそうだけど、こんな時間になんで学校に電話してきたの?なんかあったの?」

すると母ちゃんはすすり泣きをしながら涙ぐんだ声でこう言った。

「実は婆ちゃんがね……グズッ……婆ちゃんが……亡くなったの」
「……は?」

耳を疑った、昨日まであんなに元気だった婆ちゃんが亡くなったと言うのだ。
俺は最初聞き間違いかと思い、改めて母ちゃんへ聞き返した。
7:2015/04/12(日) 19:52:17.144 ID:eVZ42VLlK.net
うちのクソ姉貴かよ
ドゴーンズバーンバターンドゴッドゴッドゴッドゴッ!!っていう音をたてなきゃ歩けないガサツ馬鹿
8:2015/04/12(日) 19:52:40.740
「ごめん、よく聞き取れなかったわ。婆ちゃんが……なんだって?」
「婆ちゃんが……亡くなったのよ」

その言葉を再び耳にすると俺は受話器を手から落としてしまった。ショックだった。
常に笑顔を絶やさず優しく接してくれた婆ちゃんが、
どんなお願いごとにも二つ返事で応じてくれた婆ちゃんが、
亡くなるなんてとても信じられなかった。
床へと落ちた受話器を再び手に持つと、母ちゃんへこう尋ねた。

「そんな……嘘だろ?」
「……本当よ、病院にいるから今すぐこっちへ来て。先生にはちゃんと了解をもらったから」

それを聞いた俺は担任の方へ顔を振り向かせた。
担任は俺のことを見据えながら静かに頷いた。
9:2015/04/12(日) 19:54:04.886
「……わかった、とりあえず今からそっちに向かう。なんて病院?」

母ちゃんから病院名と場所を聞くと、
それを職員室にあったメモ帳に殴り書きし、
ブレザーの胸ポケットへとしまった。

「それじゃあまた後で」

そう言い終わると俺は受話器を置いた。
すぐさま教室へと戻ろうとすると担任が声をかけてきた。

「色々と辛いことではあると思うが、決して挫けぬようにな」
「……わかってますよ」

冷たくあしらうと大急ぎで教室へと向かった。
そしてカバンに荷物を入れると、そのまま病院へと駆け出した。
11:2015/04/12(日) 19:56:41.745
この目で確かめるまでは絶対に信じるもんか。
あの婆ちゃんが亡くなるなんて絶対にありえない。
偶然にもその日は四月一日、エイプリルフールだった。
それにしてはあまりにも度が過ぎている。
ブラックにもほどがある、冗談にも言っていいことと悪いことがある。
だが嘘であってはほしかった、そう願っていた。

病院へ着くと、受付で婆ちゃんの病室を尋ねた。
そして病室へ辿り着くとその中へと入った。
そこには父ちゃん、母ちゃん、爺ちゃん、
そして……ベッドに横たわった婆ちゃんの姿があった。

「婆ちゃん……!婆ちゃん!」

俺はその姿を目にした途端、ベッドの横に駆け寄り婆ちゃんの手を取った。
しかし反応は全くなくその手は冷たかった。

「婆ちゃん!俺だよ!婆ちゃん!」

体を揺すってみるもまたしても反応はない、そしてその目を開けることもなかった。
そこでようやく俺は婆ちゃんが亡くなったという事実を理解した。
すると目からボロボロと涙が溢れ出た。
12:2015/04/12(日) 19:58:25.241
「婆ちゃん!返事してくれよ!婆ちゃん……婆ちゃああああぁぁぁん!!!」

堪えきれずその場へ泣き崩れてしまった。
人間がこんなにもあっさりと亡くなってしまうなんて、運命というのは儚いものだ。
その後病室に入ってきた医師の説明によると、死因はくも膜下出血。
脳の表面を覆う膜のひとつであるくも膜の下に出血がある状態で、
脳動脈瘤の破裂によるものだった。享年六十七歳。

その後婆ちゃんの葬儀が行われた。棺に入った婆ちゃんの顔は安らかだった。
その安らかな顔を見てまた堪え切れず泣いてしまった。
もう婆ちゃんの言葉が聞けない、もう婆ちゃんに会えないのかと思うと寂しく、
そして悲しくて仕方がなかった。

「婆さんや!婆さんやああああぁぁぁぁ!ぬわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

爺ちゃんが人一倍大きな声で泣いていた。
それもそのはずだ、最愛の妻である婆ちゃんに先立たれてしまったのだ。
誰だって悲しいに決まっている。
14:2015/04/12(日) 20:00:18.182
「婆さんや!婆さんやああああぁぁぁぁ!ぬわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

さすがにやかましいと感じ、内心で「いい加減うるせえよジジイwwwwwパパスの断末魔かよwwwww」と思っていた。
だがそんな言葉を口にするなんてあまりにも不謹慎すぎる。俺は舌を軽く噛み締めながらプルプルと必死に笑いを堪えていた。
その日を境に、爺ちゃんは魂が抜けたかのように自分の部屋……和室へと籠るようになった。

リビングへ降りてきてもその目は虚ろで、どことなく遠くを見据えていた。
それだけ爺ちゃんが失ったものは計り知れないものだった。
そして爺ちゃんは部屋に籠るようになってから気が狂ったかのように、
あの奇行を毎日のように繰り返すようになった。そして話は現在に至る……。


「ドタッ!ドタッ!ドタッ!ドタッ!」

その足音は二階の廊下にまで響いていた。そして奇声も聞こえてきた。
和室から足音と奇声がするのはなにも今日が初めてではない。
もう数えきれないぐらい聞いてきた、聞かされてきた。
15:2015/04/12(日) 20:02:12.269
そしてこうして和室へ向かうのも何度目か覚えていない。
和室の前に着くと戸を二回ノックした。

コンコン

中からの返事はない。もう一度繰り返しノックするもまたしても返事はない。
和室からはただ足音と奇声だけが鳴り響いていた。深いため息をついた後、その戸を開けた。
そこにはじいちゃんが……両手を前後させリズミカルに足踏みをしながらあの言葉を叫んでいた。

「ダンソンwwwwwフィーザキーwwwwwトゥーザティーサーザコンサwwwww」

婆ちゃんの遺影が立て掛けられた仏壇に向かって、
両手を前後させ、足踏みをしながら前へ進んでは後ろへ下がる動作をただひたすら繰り返していた。
赤ふん一丁で頭にパンストを被ったその変わり果てた姿はもはやどこかの先住民族のようだった。

「ダンソンwwwwwフィーザキーwwwwwトゥーザティーサーザコンサwwwww」
「爺ちゃん……」

その姿を見ているととても悲しかった。人間とはここまで変貌してしまうのかと、
もう前のような爺ちゃんはいないのだと、痺れを切らした俺は爺ちゃんに向かって声を張り上げた。

「爺ちゃん!!!」

その声を耳にすると爺ちゃんは一連の動作をピタリとやめた。
16:2015/04/12(日) 20:04:30.290
すると体をこちらへグルッと振り向かせると、
今度は両手を斜め上から斜め下へと動かし、
俺にゆっくりと近付きながらこう呟いた。

「スーザカー……ヒーザコー……スーザカー……ヒーザコー……」

徐々にその間合いを詰めより、俺の目の前に来ると、こう叫んだ。

「ニーブラコンサ!ニーブラ!」

次の瞬間、俺の首筋に両手を回すとそのままガッチリとヘッドロックしてしまった。
まるで獲物でも捕らえたかのようにその顔は満足気だった。
俺は獲物として捕らわれてしまったシカになったかのような気分に陥った。

「爺ちゃん……つらいんだよね、わかるよ……その気持ち」

ヘッドロックされてしまった俺は涙を流していた。
まさか爺ちゃんのメンタルがこれほどまでに深刻だったとは、思ってもみなかった。
17:2015/04/12(日) 20:08:01.613
もはや家族だけの問題ではない、きっと爺ちゃんはなにかの病気を発症してしまったんだ、
そうに違いない。俺はその両手を外すと爺ちゃんに一声かけた。

「安心してよ爺ちゃん、きっと治す方法はあるから。だから病院で見てもらおう」

爺ちゃんからの返事はなかった。言い終わったときには、
また仏壇に向かってあの言葉とあの動作を繰り返していた。

「ダンソンwwwwwフィーザキーwwwwwトゥーザティーサーザコンサwwwww」

その姿を見ると無言で和室を後にした。そしてリビングへと戻ると、
父ちゃんと母ちゃんに現状の説明をし、後日爺ちゃんを病院へ連れて行くことにした。

そして病院へ向かう日、朝早くに俺は母ちゃんと一緒に、
爺ちゃんを病院まで連れて行くこととなった。
まだ足音と奇声はしていない。ノックをし和室へ入ると、
爺ちゃんは正座をしながら仏壇をただボーッと眺めていた。
18:2015/04/12(日) 20:10:36.938
「爺ちゃん、病院へ行くよ」

声をかけるも反応はない、早く行かなければ受付が混雑する。
その為俺はある言葉を爺ちゃんに向かって再び声をかけた。

「これから婆ちゃんに会いに行くよ」

その言葉を聞くと、爺ちゃんはこちらへ振り向き、笑みを浮かべながらこう言った。

「バアチャン……?バアチャン!バアチャン!」

爺ちゃんは嬉しそうにバンバンと畳を叩いていた。
それはまるで歩行器を叩きながら喜ぶ赤ちゃんのようだった。
19:2015/04/12(日) 20:13:12.403
「あぁそうだよ、だから早く着替えて」

そう催促すると爺ちゃんは普段着へと着替えた。
そして母ちゃん同行の元、最寄りの病院へ着いた。
受付を済ませ、名前が呼ばれると俺たちは扉を開け、診断室へと入った。
中には中年の医師と看護師がいた。その医師の姿を目にするや否や爺ちゃんはこう叫んだ。

「シャッチョサァーン!」

その新手の奇声に思わず驚いた俺たちは爺ちゃんを見てみると、
その両目は見開いていた。まるで運命の出会いかのように、その目は輝きを取り戻していた。

「シャッチョサァーン!シャッチョサァーン!」

両手をバンザイしながら医師の元へと駆け寄って行った。
そして医師の目の前へ来るとこう叫んだ。

「ニーブラコンサ!ニーブラ!」

そして俺のときと同様、医師の首筋に両手を回すと、
そのままガッチリとヘッドロックしてしまった。
20:2015/04/12(日) 20:15:57.313
その光景を目の当たりにした俺は唖然としてしまった。
もちろん傍らで見ていた母ちゃんも看護師も同じ心境だったと思う。

「……これは深刻ですね、すぐさま手を施さないと」

だが医師は全く動じず、冷静に対処していた。
あらゆる修羅場を経験しているのか、確かに精神を患った人間を、
毎日のように診断していたらある程度の耐性はつくのかもしれない。

「ということは手術ですか?」
「いやそうではなくお薬を早く投与したほうがいいということです。
おそらく祖母さんが亡くなったのが一種のトラウマとなり、幼児退行に陥っているのだと思います」
「とりあえず処方箋を一週間分出しときますんで、まずはこれで様子を見てください」

幼児退行……今までの爺ちゃんの奇行を思い返すとその可能性は十分にあるかもしれない。
医師はヘッドロックされたままの状態で淡々と喋り続けた。
21:2015/04/12(日) 20:18:09.518
「……わかりました」

俺たちは爺ちゃんの両手を医師の首から外すと診断室を後にした。
その際爺ちゃんは名残惜しそうに「シャッチョサァーン!シャッチョサァーン!」と叫んでいた。

それから一週間、医師に言われた通りに処方箋を飲ませるも、効果は全くなかった。
未だに和室からは足音と奇声が聞こえてきた。

「ドタッ!ドタッ!ドタッ!ドタッ!」

なにか良い治療法はないのだろうか、俺たちはリビングで三人、頭を悩ませていた。
22:2015/04/12(日) 20:21:59.566
すると母ちゃんが恐る恐るこんなことを口にした。

「とりあえず……精神病棟へ入院させるしか……」

その言葉を聞いた父ちゃんは声を荒げながらこう言った。

「精神病棟だと!?なにを馬鹿なことを言ってるんだ!」
「だけどこのままこの家に缶詰め状態にしていたって埒が開かないじゃない、実際処方箋はなんの意味もなかったんだし」
「そ……それはそうだけど」

原因不明の精神疾患に俺たちはもはや心底参っていた。
そこで三人揃って深いため息をついてしまった。
そんな俺たちの気持ちなんてお構いなしに和室からは足音が聞こえてきた。

「ドタッ!ドタッ!ドタッ!ドタッ!」

それから数日後……。家の掃除をしていると引き出しから一本のカセットテープを見つけた。
23:2015/04/12(日) 20:24:56.034
いったいなんのカセットテープだ?
そう思いながらもラジカセに入れ再生してみた。
それはなんと亡くなった婆ちゃんの肉声だった。
その内容は爺ちゃんへのメッセージで録音されたのは、亡くなる二日前……。

メッセージを聞くと、自分の寿命はもう長くないと自覚しているとのことだった。
婆ちゃんの肉声を久々に聞いた俺は目から涙が流れ出た。
これを爺ちゃんに聞かせてみれば、なにかの治療に繋がるかもしれない。
そう思った俺は爺ちゃんをリビングへと呼んだ。
そしてテーブルに置いたラジカセの再生ボタンを押した。

その肉声を耳にした瞬間、爺ちゃんの目はまた輝きを取り戻していった。
そしてラジカセを両手で抱えながらこう言った。

「バアサン!バアさん!婆さんや!婆さんやあああぁぁぁぁ!!!」

段々とその声に抑揚が戻って行くのがわかった。
まさかこんな身近に爺ちゃんへの特効薬があるとは思わなかった。
その様子を見ていた父ちゃんと母ちゃんは涙ぐんでいた。
24:2015/04/12(日) 20:27:05.218
「爺ちゃん、どうだ?婆ちゃんの声を久々に聞いて」
「……婆さんや、婆さんはこんな声じゃったのぉ」

抱えたラジカセに頬を摺り寄せながら爺ちゃんは泣いていた。
よかった……これでトラウマによる幼児退行も一件落着か。
俺はホッと胸をなでおろした。これからはまた元の生活に戻れると安堵していた。
……だが現実はそう甘くはなかった。

それから数日後。晩御飯を食べているときにそれはまた聞こえてきた。

「ドタッ!ドタッ!ドタッ!ドタッ!」

その足音が聞こえてきた途端、俺たちは「またかよ……」と口を揃えて言った。
なんでまたこのタイミングで……。母ちゃんは無言でこちらに目配せをしてきた。
俺はまた和室へ様子を見に行くこととなった。廊下にまで足音と奇声が鳴り響いている。
和室の戸を乱暴にガラッと開けた。するとそこには以前と異なる光景があった。

「ラッスンゴレライwwwwwラッスンゴレライwwwww」

黒のサングラスをかけ、還暦祝いの赤いちゃんちゃんこを羽織った爺ちゃんが、
足踏みをしながら拍手を繰り返し、その言葉を連呼していた。
25:2015/04/12(日) 20:29:14.489
「爺ちゃん……またかよ……」
「ラッスンゴレライwwwwwラッスンゴレライwwwww」

幾多にも及ぶ爺ちゃんの奇行に、もはや堪忍袋の緒が切れかかっていた。
このボケ老人のクソジジイ……人が黙ってりゃいい気になりやがって。
その翌日……一人暮らしを決意した俺は迷うことなく家を出た。
家を出る際爺ちゃんは俺に向かってこう叫んだ。

「チョットマッテwwwwwチョットマッテwwwwwオニィサァーンwwwww」

その声掛けを無視するように玄関から駆け出して行った。特に宛もなくただひたすら走った。
そして気がついた頃にはインドにいた。今の俺に足りないものは忍耐力、それを養うためにこの地へと赴いたのだ。
異国の地で修行をする俺に待ち受けているモノとは!?鬼が出るか蛇が出るか!?天国か地獄か!?
それは神のみぞ知る運命!俺の人生はまだまだこれからだ!


<終>
26:2015/04/12(日) 20:30:26.065
以上です、ご清聴ありがとうございました。
27:2015/04/12(日) 20:32:48.753 ID:tBRL/2Qo0.net
ちょっとクスッと来たよ
ありがとう
28:2015/04/12(日) 20:34:28.799 ID:T8aRkZf+K.net