1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 21:30:13.78 ID:BmYdVImtO
友「でさー、そいつがつまようじで、コウよ!」グイッ

男「ブッハ!ww マジかよ!」

友2「馬鹿だよな~w相変わらずw」


ガラッ


教師「おーい、もう閉めるぞー」


友「あーい。おいあの公園行こうぜ!」

男「分ーかってるって」


教師「おい、お前もさっさと出ろよ?」


女「…はい」


男「…」



http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459513813

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 21:38:51.89 ID:BmYdVImtO
高校生活もあと少し

あっという間ってこういうことを言うのか

昔に比べて友達もたくさん出来たし、それもあるんだろう


男「そーいやさ、今日何曜日だっけ?」

友2「あ?あー、たしか火曜かその辺かな?」

友「おまえらw もう卒業だからって学校来なさすぎなんだよww」

男「うっせwマジメちゃんは大人しく学校通っとけば良いんだよw」


女「…」


男「…なあ」

友「ん?今日は金曜日だぞ?」

男「いや、あれってうちのクラスの…」

友2「へ?どこ?」

男「バカ、そんな探してる感出すなよ!」

友「んー、でも公園は俺らしかおらんぞ?」

男「あぁ?何言って…」


男「…あれ?」




3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 21:48:38.34 ID:BmYdVImtO
友2「あれって、うちのクラスの…w」キリッ

男「ックソ!黙れい黙れい!」

友「まったく…暇人は脳みそまで暇になるのか」

男「はあ?何だよそれ。バカにしようとしてるのか?」

友2「プッww やーい脳みそひまじーんww」

男「んだぁ?よーし、暇人を怒らせるとどうなるか…思い知れ!」ダッ

友「ちょww何でオレww」

男「テメェに帰れる権利はネェ!」



明日のことなんて明日にならなきゃ分からない

時間に追いかけられることなく生きる

めちゃくちゃ楽しい


女「…!」


サッ


男「…(あいつ、何してんだ?)」

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 21:57:47.07 ID:BmYdVImtO
ジリリリン!!ジリリリン!!


男「…んぁ…」

男「…うっせ!!」バン!


男「…んぁれ、今日…何曜日だっけ?」

男「…まぁいっか、また昼過ぎに友にメールだな」

男「…(もう一眠り…)」


「ちょっとー!!、もう家出る時間じゃないのー!?」


男「んぁー、もう!…んだよ!今日学校ねぇんだよ!!」


「何言ってるの!!今日は金曜日でしょ!!」


ガチャ!


母「明日から休みなんだから!今日くらい行ってきなさい!!」


バタン!


男「…あれ?今日は…?」


男「まあ…いっか」

男「…しゃーねぇ、友たちと昨日の話の続きでもするか」


5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 22:08:00.73 ID:BmYdVImtO

ガラッ


男「うーす」

友2「あれ?珍しいじゃん。朝から来るなんてよ」

男「どの口が言うんだ、どの口が」

友「まあ今日は金曜日だし、大した授業ないからダベってよーぜw」


男「あぁ…。なあ、そーいやさ」

男「昨日って、何曜日だっけ?」


友2「はあ?お前今、友が金曜日っつったろw」

友「そうか…お前にとって俺は、その程度の存在なんだな…」

男「あぁ?今日は金曜日だから、授業楽勝だって言ったんだろ?」

友2「じゃあ昨日は何曜日だよww」


男「…あ」


友「…ブハッwwハハハハww」

友2「お前ww脳みそ暇人化現象、深刻だなw」

男「うるせー!ちょっと考え事してたんだよ!」


友2「お?それってもしかして…」


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 22:12:29.02 ID:BmYdVImtO
友「友2よ。無粋だぞ」

友2「おっ、そうだなw」


男「はぁ?ちげーよ。そんなんじゃ…」チラッ


女「…」


男「…はっ!」

友2「おぉ、高校生活もあとわずか。綺麗な花を咲かせたまへよw」

友「うむうむ」


男「だから、ちっげーつってんだよ!!」


7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 22:46:11.08 ID:mCC4w1aX0
別に俺から知ったわけじゃない

ただ、よくこっちに目線を向けてきてる

それで気になってただけだ



教師「えー、よってこの様に…」カツカツ

友2「クソッ、今日は楽チンセンコー休みかよっ」


男「…(それをあいつら…)」チラッ


女「…!」


バサ!


女「あっ」

教師「んー?なんか質問かー?」


女「あ…いえ…」


教師「そうか。そしたらここは…」カツカツ


男「…(この授業でも、ちゃんとノート取ってるんだな)」


友2「なあ」コソッ

男「ん?」

友2「今絶対お前見ててノート落としたよな」コソッ

男「はあ?」


教師「何だ。何かあるなら言ってみろ」


男「いや、あの…」

友2「プックック…」



8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 22:52:34.61 ID:mCC4w1aX0
教師「まったくお前は。授業はサボり気味、オマケに授業妨害か?」

男「いや…すんません」

教師「お前の様に、卒業が決定してる者以外もここにはいるんだぞ?」

友2「まったくだ。静かにしとけよ?」


教師「友2、お前は担任から何か言われてないか?」

友2「はい!卒業したければ、残り授業は毎日来いとのことです!」


教師「だったら大人しくしとけ」

友2「はい!」

友「…ハァ…」



ハッハッハ…



9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 23:02:13.21 ID:mCC4w1aX0
キーンコーン カーンコーン


男「おい友2」

友2「何だね男よ」


男「お前、何勘違いしてるか知らんが、女は俺とは何の関係もないからな?」

友2「そうだね。プロテインだね」

男「テメェ!この!」ゲシゲシ


友「おーい。飯買いにいこーぜ」

男・友2「おー」


女「あ…」


男「ん?」

友「何だ?」


女「あの…男さん、今、いいですか?」

友「はいはい。どうぞどうぞ」


男「おい、友までっ」

友2「まあまあ、お昼は俺が買ってきといてやるから、ホラ!」


女「…っ…」モジモジ


男「…少しだけだぞ…」

女「あ、は、はい!」



10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 23:09:02.89 ID:mCC4w1aX0

女「…」

男「…(屋上とは何とベタな…)」


男「で、話ってのは?」



なんてカッコつけてるけど、内心ドキドキだ

何かこう、大切な事を打ち明けて来る感じ

タイミング的にも、それっぽいし



女「あ、はい!あの…」

男「ん…」


女「男さんは、いつまでも……」


男「コホン…いつまでも?」


女「いつまでも…こんな日々、送れたらいいなって、思います?」

男「…ん?」



11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 23:21:52.79 ID:mCC4w1aX0
男「こんな生活…って、高校生活ってこと?」

女「いえ、あの…」

男「んーと…?」



正直、質問が来ると思ってなかった

何かのお願いを、期待してたのかもしれない

でも、質問をするその顔は、真剣そのものだ



女「…もし、もし自分が生きてる目的があるとして」

男「…うん」

女「それが、今の人生とは遠くかけ離れてるとしたら」


女「男さんは、そんなこと忘れて、『こんな生活』を『日々』を」

女「いつまでも続ける方が、いいですか?」

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 00:11:52.50 ID:yiC6mhWJ0
男「…あ、そ、そうだなぁ…うーん」


男「いつもの日々も続いて欲しい…けど」

男「何かすべき事、目的があるのなら、それに向かって進むことも大事…かな」


女「…それって…」

男「あ、あぁ、質問の答えになってないか…えーと」


男「今は遠いと思っていても、いずれその目的は向かいあわなきゃならない…だから」

男「そういう事を忘れるのは、よくない…と思う」


女「……」



自分なりに上手くフォローしたつもりだ

彼女なりの『お願い』の方法なのだと

勘違い甚だしくても、やらずに後悔はしたくなかった



女「そう…ですよね。そうですよ、ね…」



13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 00:17:15.50 ID:yiC6mhWJ0
女「あなたには…あなたの世界の目的が、あるんですよね…」


男「え…えーっと?」

女「でも…だからこそ…男さん!」


男「は、はいっ!」


女「私は、私はあなたの事が好きです!」

男「…!」


女「だから…ごめんなさい…っ!」ダッ



ガチャ…バタン!

トントントントン…


男「…あれ?」


14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 00:26:28.87 ID:yiC6mhWJ0

友2「なあ、どうだったよ?なあなあなあ!」

男「え、あぁ、何か…告白されて…」

友「おうおう。で?どうしたよ?」


男「…ごめんなさいって…」

友2「はぁ!?お前振ったのかよ!?」

男「ち、違う!…あっちがそう言ったんだ」


友「…?どういうこった?」

男「こっちが聞きてぇよ…」

友「んー…」


友2「…まあ、よくわかんねーけど、お前はまだ俺たちと友達だな!」

男「俺らの友情薄っ!紙切れかよ!」


友「当然だ。彼女持ち人間など、友人に値しない」

男「ひでぇひがみだなw」

友2「ホントw 性格悪っww」

友「おいコラww」



15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 00:33:55.24 ID:yiC6mhWJ0

男「変な質問されて…変な解答したら」

男「告白されて…振られた…」


男「(それに、あなたの世界だの何だの…)」

男「『女』って奴は、よくわからんな…」


「男ー!ご飯できたわよー!」


男「あーい!今いくよー!」

男「うじうじ悩んでても仕方ない。明日ちゃんと聞いてみるか…」

男「…でも、好きです!とか言われた人に、直接はなぁ〜」


「ご飯冷めちゃうわよー!!」


男「わーかってるよ!うるさいって!…ったく」



16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 00:43:04.81 ID:yiC6mhWJ0
ジリリリン!ジリリ

男「うっせい!」バン!


男「…今日は起きれたな…って、あ…」

男「…今日休みじゃん!!」


男「(女に言う事しか考えてなくて、すっかり忘れてた)」

男「なぁんだよ、早起きは三文の損ってやつか?」


男「…寝よ」



「男ー!!まだ起きてないのー!?」


男「あー!?何で!」


ガチャ


男「うわっ、何だよ」

母「あんた、学校は最後まできちんと行かないと、後で後悔するよ?」

男「はぁ?今日は休みじゃんかよ」


母「…ハァ。まったくあんたは」

母「今日は何曜日ですか!」


男「そんなの土曜日に決まっ…」


男「…っえ?」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 08:34:02.75 ID:yiC6mhWJ0
男「何言ってんだよ!?今日は土曜日だろ!?」

母「なーに寝ぼけてんの。休んでばっかで曜日感覚おかしくしたんでしょ」


男「…は?え?」

母「とにかく、朝ご飯食べて、明日から休み何だし今日は学校行きなさい!」



バタン!



男「…友に電話で確認してやる」



トゥルルル トゥルルル



男「いくら曜日感覚ないっつっても、昨日は絶対に金曜日だったろ…」

男「そもそも昨日が金曜日ってのも…あ、もしもし?」





18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 08:40:59.81 ID:yiC6mhWJ0
「なんだよ、朝っぱらから」


男「なあ、今日は暇だよな?どっか遊びいこーぜ?な?」


「バカ言うなよ。俺は授業最後までやんねえと、マジヤベェって言ったろ?」

男「いやいや、授業てw 学校は今日はないだろ?」


「は?今日祝日とかないだろ?」

「普通の金曜日じゃん」


男「…え…」


「わり、もう家出るから切るな。お前ちゃんと学校来いよw じゃ!」



ツー ツー…



男「何だよ…これ…」


19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 08:50:38.90 ID:yiC6mhWJ0
朝のニュースも

新聞の日付も

全部、全部間違ってる



男「(どうなってんだよ…)」

男「日付は…変わってるのか」


男「あいつら…昨日のことは、曜日以外全部ちゃんと覚えてんのに…」



教師「ふわぁ…ねみぃ…」


友2「センセー寝不足〜?」

教師「んあぁ、昨日飲み会でよぉ、なかなか帰されなくてな…」

友2「休んでいいよ!休んで!」


教師「ん〜、じゃ、自習にすっかな」



「「イェェエイ!!」」



男「…」


友「男?どした?」

男「いや…ちょっとな」


20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 08:59:17.88 ID:yiC6mhWJ0
友「お前さ、昨日の女ちゃんのことで、ちょっと頭追いついてねぇだけだって」


男「で、でも、昨日テレビで金曜日の番組やってたし…」

友「お前らしくねぇな〜。昨日のことは気にすんな!今に生きろよ!な?」


男「…はぁ。そういや女は?」

友「やっぱ気になってんじゃねぇか。今日は来てないみたいだな」

男「そう…だな」キョロキョロ


友「恋煩いもここまでとはな、お大事に」


男「…うっせ」


24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 10:59:16.98 ID:yiC6mhWJ0
男「…」キョロキョロ

男「…いや、ちげーって!」


男「(一人で何やってんだ、オレ)」


友2「よ!時をかける少年!」


男「うるせぇ。忘却の番人」

友2「なぁ、明日休みなんだし、せっかくだから友とどっか行かね?」


男「あ、あぁ…」

友2「あ、そうか!お前にとっては明日はもう月曜日なんだっけな!w」


男「んな!お前はホント人を馬鹿にしまくりやがって!」


友2「ハハハw ま、元気出せ!」

男「テメェのせいで落ち込んでんだよ!」


友2「おっと、センコーに呼び出されてんだ。じゃ明日、あの公園に昼くらいにな!」ダッ


男「あいよ!クソッタレ!」


男「また明日な!」

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 11:08:35.92 ID:yiC6mhWJ0
男「友は図書室でお勉強、友2は呼び出しか…」


男「(一人で帰るのも久しぶりか?)」

男「…コンビニで菓子でも買って帰るか」


グワン


男「ん、んん?」フラフラ

男「やば…何これ…眠気…?」フラフラ

男「おっと!」ゴツン

男「イテテ…電柱に起こされるとは」


男「(疲れてんな、オレ)」


男「…さっさと帰るか」


28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 11:16:58.11 ID:yiC6mhWJ0
男「お家に帰ろ、でんでん、でんぐり返…し…」


女「…」


男「お、お前!何で俺ん家に」

女「ごめん…なさい」ヒック


男「な、何だよ。昨日のことか?だったら…」

女「…っ…あなたはこれから、とても辛い目に合う…」ヒック


男「…よく分からんが、別に平気だよ。お前の方が辛そうじゃねえかw」


女「そんなことじゃない!!」

男「っ!?」


女「私には…あなたしかいない…だから…許して…」グス


男「え…あ…」


グワン


男「(眠い…てか、寝たい…)」



「…めん…なさ…」



32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 17:28:15.18 ID:5WWpMRuV0

ピッ…ピッ…ピピッ


男「ん…あ…」

男「ここは…どこ…だ」ムク


研究員「お、男さん!大丈夫でしたか!?」


男「…へ?」


研究員「いや、記憶は残ってるかわかりませんが、この間の研究ですよ!」

研究員「脳波のサンプリングから、実際の出力!」

研究員「いや〜、バーチャルの中に、正体不明のウイルスが入り込んでたみたいで…」


男「……」

研究員「男…さん?」


男「…あんた、誰?」




33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 17:36:04.71 ID:mJxNtmjxO
白衣のヤツれた男が、難しい単語を並べている

何だこいつ、研究?サンプリング?

早くこの夢から覚めたいもんだ



男「…で、その研究の被験者に、自分で志願したと」

研究員「そうです!思い出しましたか?」


男「いや、あんたの説明を確認しただけなんだが…」



医者「むむ…あまり無理はさせないで、焦らず思い出しましょう」

男「なあ、便所どこだ?さっきっから我慢してたんだ」


研究員「この部屋を出て右に、突き当りを左に行ったとこですよ。…覚えてないのですか?」


男「あぁ…どうもね」

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 17:41:48.85 ID:5WWpMRuV0
男「左に…あったあった」


男「しっかし近未来的な夢だな。妙にリアルだし」

男「…!?っあぁ!?」



トイレの入り口の鏡

そこには少し太めの中年男性が、口を開けて驚いている

何て悪夢だよ、まったく



男「…は、ははは…ひでぇな、こりゃあ」

男「(早く覚めねぇかな…これ)」


男「覚めたら…覚めたら…?」


男「…」



35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 17:53:47.08 ID:5WWpMRuV0
男「金曜日…土曜日」


男「まさか…!」



仮想世界で、自分で設定した高校生活を送る

データで作られる世界

もし、もし何らかのエラーって考えると




研究員「そのウイルスは、前々から侵入してたみたいだね」

研究員2「突如動き出し、バーチャルの曜日システムをループさせたようです」

研究員「それによりセキュリティは、少しだけ手薄になる」


研究員「その隙に男さんの現実の記憶を、バーチャルの記憶信号で強制的に塗り替えた…そして」

研究員2「現実の記憶データを、どこかへ持ち出したようですね…」


研究員「うーん、ウイルスねぇ…」

研究員2「実際には検知されていませんが、明らかに誤動作の範囲ではないかと」


研究員「何にせよ、バックアップごと無くなると、男さんが元に戻らない…まいったな」




36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 18:00:30.39 ID:5WWpMRuV0
男「……」


研究員「男さん…ご飯食べないと、倒れちゃいますよ?」

男「…あぁ、はい」


研究員「…大丈夫です!そのうちバックアップを取り戻して、また」

男「俺は」

研究員「っ…はい」


男「俺の人生は…みんなまがいもんだったのか…?」


研究員「…男さん」

男「この見事に運動しなかった、オヤジの腹」

男「手で触ってもわかる、顔のシワ…」


男「これ…本当にホントなのか…?」


37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 20:45:48.13 ID:yiC6mhWJ0
研究員「…貴方は、男さんはこう言って被験者になりました」


研究員「『どんな世界、どんな相手でも、等しく価値はある』」

研究員「『たとえバーチャルに行ったとして、そこで今の人生の時間を無駄にしたとは思わない』」


男「……」


研究員「…現実の記憶があると信じますか?」

男「…いや…でも…」


研究員「今ここにないものは仕方ないです。だからせめて、あるもので頑張って下さい」


男「…分かりました」

研究員「フッ…最初みたいにタメ口で話して結構ですよ、それが我らが男さんですから」


男「…分かっ…た」


研究員「じゃあ後は研究員2が来る…って覚えてないんだった」

研究員「私にも仕事があるので、後輩のものを来させます」


男「…すまない」


38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 20:55:31.59 ID:yiC6mhWJ0
記憶が戻るまでの間、ひたすらカウンセリング

まるで病気の人みたいだ

似たようなもんか



ウィーン…


研究員2「…こんにちは、気分はいかがですか?」

男「(うぉっ、随分綺麗な人だな)」


男「あ、はい。だいぶ落ち着きました」


研究員2「…ぶっ、フフッ…アハハハハ!」

男「へ?…あの…」


研究員2「いえ…フフッ…あの、申し訳ありません…」

研究員2「いつもあんなに威厳があられたのに、何だか新人のようで…プッ」


男「な…し、静かにしたまえ!」


研究員2「…グッ、アハハハ!そんな偉そうじゃないですよ」

研究員2「私たちのリーダーで、いつも先を見てる、優しい人です」


男「…この見た目でか?」

研究員「ええ、男さんは私たちの自慢のリーダーですよ」



39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 21:03:37.81 ID:yiC6mhWJ0
自分ってのが、どういう奴か

ヒョロヒョロと美人さんの、良きリーダー

正直信じられない




男「よく分からんけど、タメ口の方がその…いいのか?」


研究員2「はい。そちらの方がやり易いですので」

男「わ、分かった…」


研究員2「はい。では改めて、しばらくの間研究員と交代で様子を伺いに参ります。研究員2と申します」

男「いつもは、そんな感じなのか?」


研究員2「はい。こちらの方が落ち着くので…」


男「ふーん…」


男「(綺麗な人だけど、変わってるな)」


40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/02(土) 21:20:26.77 ID:yiC6mhWJ0
研究員2「何か聞きたいことがあれば、遠慮なく」


男「んー、そうだな…そもそもバーチャルってのは誰が作ったんだ?」

研究員2「ハードウェアは他の場所へ依頼を出しましたが、ソフトウェアは男さんがお作りになられました」


男「お、オレ!?」


研究員2「プッ…え、ええ、そうですよ」

男「…笑うか真面目になるか、どっちかにしてくれ」

研究員2「申し訳ありません」


男「…まあいいや、ソフトって具体的には?」

研究員2「登場人物の中に、AIを参入させ、それのデータ観測もしたいと」


男「AIって、人工知能か?」

研究員2「はい。実際にはかなりの深度まで、アクセスを許可していたようです」


男「ア、アクセス?」

研究員2「コンピュータの中にあるソフトは自由に使える、と言えばお分かりでしょうか」


男「んー、確かにヤバイ感じはするな」




44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 14:38:13.67 ID:OSGDpp8O0
話が難しい割に、意外とすんなり入ってくる

自分で作っただけあるな

何にも覚えてないけど



男「とにかく、記憶のバックアップデータとやらが来るまで、大人しくここにいろってこと?」


研究員2「はい。そもそも今回の実験自体、あまり安全とは言えませんでした」

研究員2「明日のことは考えない…。男さんらしさなのでしょうね」


男「お、おう…」



『お前らしくねぇな〜。今に生きろよ!』



男「……」


研究員2「…どうかなさいましたか?」

男「…いや、なんでも…」



45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 14:47:53.37 ID:OSGDpp8O0
男「もう…大丈夫だ」


研究員2「…ご無理はなさらぬよう」

男「ああ…。あ、一つ聞いていいか?」


研究員2「何なりと」


男「今日は何日…いや」

男「今日は、何曜日だ?」


研究員2「…?何か気になることがおありですか?」

男「あぁ、いや…ちょっとね」


研究員2「…今日は金曜日です」


研究員2「明日は土曜日になりますね」



ドクッ



男「…分かった、ありがとう」

男「仕事とやらは大丈夫なのか?研究員とかいう奴が忙しそうだったけど」


研究員2「…いいえ、寝る間もないくらいです」

研究員2「なので…早めのお戻りを期待しています」


男「……」





46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 14:52:45.62 ID:OSGDpp8O0
男「ああ…疲れたな」


男「やっぱこの歳くらいだと、体も弱くなるのかな…」


男「…」




明日、目を覚ましたら

もし、また『あんなこと』になったら

この体が、もしまがいものだったら



男「何が本当で、何が嘘なんだか…」

男「…まあ、いいか」


男「寝よう…」




47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 15:06:08.58 ID:OSGDpp8O0
ウィーン…


「…ぃ、起きてください。男さん」


男「…んん…あぁ…」

研究員「よく眠れましたか?」


男「あ…?ああ…メガネメガネ…って、ん?」

研究員「…!お、思い出しましたか!?」


男「…メガネなんて俺、してないのに…」


研究員「そうですよ!最近メガネをやめて、コンタクトに変えたんです!」

研究員「だから、メガネはもう」

男「も、盛り上がってるとこ悪いけど、記憶が戻ったわけじゃないんだ…」


研究員「そう…ですか」

男「悪いな…メガネ探すのは、癖だったのか?」


研究員「え、ええ。寝ぼけてる時は、まだメガネを掛けるのが習慣だったみたいで…」


男「何か視界がぼやけると思ったら、目が悪かったのか…俺」


研究員「…持ってきましょうか?」

男「ん?」


研究員「直ぐに持ってきますよ、メガネ」


48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 16:07:53.57 ID:JldD1dmDO
ウィーン…



研究員「はい。どうぞ」

男「ん…メガネと、これは?」


研究員「ああ、携帯ですよ。携帯」

男「へぇ〜、こんな薄っぺらいのが?」


研究員「男さんが作ったソフトウェアは、自分の学生時代の記憶を元にして作ったみたいですね…」

男「うん、あっちじゃ見たことないよw おー、軽い軽いw」


研究員「(相変わらず、新しい機械を見ると子供のようですね)」


研究員「それは、男さんが使ってた物ですよ」

男「へ?」


研究員「退屈でしょうから、それで気を紛らわせては?」

男「…ああ、そうするよ」





49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 16:17:46.04 ID:JldD1dmDO

研究員「何やら色々連絡が来てましたよ。いつもは研究所宛に来るのに…」

男「そんなこと言われても、ここでの記憶はないしなぁ」


研究員「確かに…。まあ、下手に返さない方がいいでしょうね…と」

研究員「そろそろ結果が出るな…じゃあ、これで」

男「ん、ありがとう」



ウィーン…ガコン



男「どれどれ…おぉ、よく見える!」

男「携帯は…ん?パスワード…?」


男「(そっか、そりゃあそうなるわな)」

男「ん…?待てよ…」


男「こりゃタッチすりゃいいのか…?ホイ、ホイと…」

男「お、通った通ったw」


男「(ま、こういうのは大体自分の誕生日を入れるもんだしな)」


50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 16:35:54.29 ID:JldD1dmDO

男「よーし、大体使い方はわかったぞ…てか、何となく分かるって感じだが」

男「この数字のマークは何だ…うわっ、開いた」


男「メール…なのか?」


男「研究員と研究員2からしか来てないじゃないか…ん?」


男「アドレスがメチャクチャだ…開くのは、タッチだろ!」

男「お、行けたか…な…」


男「…へ…え?」



【ごめんなさい。私のせいでこんな目に合わせてしまって…。

忘れてほしくなかったの…あの時あなたが、『これから恋人になるんだよ』って言ってくれたから。
そして、その本当の意味を知ってしまったから

あなたがもし、『学生生活』に戻りたくなったら、来てください。いつでも待っています。

この記憶と共に、あなたを待っています】



男「女…より…って」



53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 19:15:00.50 ID:2EXCqPHmO
まさか

同じ名前、そして口調

そして何より



男「この内容…女って…」


『登場人物の中に、AIを参入させ…』


男「いや…そんな…そ、そうだ!」

男「カレンダーは…どこだ、どこだよ」


男「(きっとこれも夢なんだ…だとしたら、エラーが起きてる…!)」


男「…は、ははっ…」

男「土曜日…だってよ…」


男「てか、そもそもデータの話とか、ここに来てから知ったんじゃねぇか…ははっ…」


男「…クソッ…なんだよ…もう」

男「…研究員…あいつ、何か知ってるのかな…」






54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 21:04:40.92 ID:OSGDpp8O0

男「待てよ…メール、ってことは返せるのか?」

男「えっと…これか?宛先が…これで」


男「(なんて、送ろうか…)」

男「…いやそもそもこれ、信じていいのか?」


男「…てか、信じたくない…でも」



研究員たちの話が本当だとしたら

記憶を取り戻すのが、最優先だ

頼れるのは、あの世界から今までの記憶だけだ



男「研究員たちに言うべきかな…」

男「そうだ、そのことを送ってみよう」

男「(他の奴らに話していいか、そっちの世界はどうなっているのか…)」


男「…何か、冷静に考えるとバカみたいなことしてんな、オレ」


55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 21:21:53.44 ID:OSGDpp8O0
研究員「…ん?これは…」

研究員2「どうされました?」


研究員「男さんのバーチャルのソフト、起動停止したよね?」

研究員2「はい。男さんを、こちらに強制的に返すために停止したはずです」


研究員「うーん、じゃあこのログは一体…」

研究員2「男さんがデータの観測を行っている、AIの仕業では?」


研究員「なるほど、確かにあれの権限はかなり深いからね…」

研究員「まぁ、所詮はAIだ。テスト途中ということもあるし、そこまで大きな動作もしないはず」


研究員「男さんが作ったってところはあるけど…どうしたもんか…」

研究員2「…本人に聞いてみますか?」

研究員「ええ?…まあこの際、止めても止めなくても変わんないか…」


研究員2「では、男さんに聞いてまいります」

研究員「ああ。くれぐれも、過度なストレスは与えないようにね」



56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 08:00:06.24 ID:8NJ5ndE4O
男「…」



ピロン



男「来た!」

男「……!」


男「なっ…」



ウィーン…



男「っ!」サッ


研究員2「…?どうかなさいましたか?」

男「な、何でもないぞ?」


研究員2「…記憶は思春期とはいえ、体はそのお歳です」

男「…へ?」


研究員2「ほどほどに、お願いいたします」


男「(何か、いやーな勘違いをされてるけど、今は仕方ないか)」

男「い、いやー。そ、そんなんじゃないってー、やめてくれよー」


研究員2「男さん。少しご相談があります」

男「あ、はい」


59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 18:57:31.06 ID:h80aN8/LO
研究員2「男さんは、AIのお話は覚えていらっしゃいますか?」


男「っ!…あ、あぁ、どうだったかなぁ…」

研究員2「そのAIの話なのですが…」



【私の存在を、話してしまっても構いません…ですが】



男「…あぁ、それが何か…その、しでかしたのか?」

研究員2「…やはり、作った本人だけありますね。お察しの通りです」



【もしそれで、私の強制停止、削除が行われれば】



男「あ、えぇー、マジかぁ…。さすがオレだぁ」

研究員2「しでかした…と言っても、ウイルス化した訳ではありません。」


研究員2「今は男さんの回復までは、なるべくコンピュータ内をいじられて欲しくないので…それで」

男「きょ、無理やり…止めるのか?」



【現実でのあなたの記憶は、二度と戻ることはありません】


60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 19:18:20.63 ID:h80aN8/LO
研究員2「強制的に、ということでしょうか?」

男「あぁ、あるいは…その、消したり…するのか?」


研究員2「…何か、気がかりがおありですか?」

男「あ、いや…別に、そういうわけじゃ…」



この世界での記憶

俺の本当の人生

取り戻すチャンスは見えてきた



男「(けど…これじゃあ、全部なかったことになっちまう!)」


研究員2「…男さんは。あの時の男さんは…」

男「…?」


研究員2「毎日話しかけて、まるで子供のように愛でていらっしゃいました」



61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 19:25:30.11 ID:h80aN8/LO
男「…そ、そっか。じゃあさ、好きにさせてあげてよ」


研究員2「…!」

男「俺がその時どうなふうに、そのAIの事思ってたか…そりゃわかんないよ」


男「でもさ、機械だろうとプログラムとかだろうと、ここに生まれてきた以上はさ」


研究員2「人と同じ…生きている。でしょうか」

男「え?、あ、あぁ…まあそんなとこ」


研究員2「…男さんは、やはり男さんなのですね」

男「お、おおよ。いつでも俺は優しい人間代表だ!ハハハw」


男「(ふぅ、何か勢いで言った気がするけど、誤魔化せたのかな?)」



62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 19:35:41.89 ID:h80aN8/LO
今わかっているのは

記憶の鍵は、バーチャルの『女』が握っている事

そして女は恐らく



男「AIってやつなんだろう…それも、開発者は…オレだ」


男「何てことしてんだよ…俺は…」

男「研究員たちは、AIをそんな悪者だとは思ってない…」


男「大ボスだよ!ボス中のボスだよ!」


男「(クソッ、自分に苦しめられるとは…)」

男「研究員たちに相談しようにも、信じてはくれんだろうな…」


男「いや、信じたとしても…」


男「(下手に女を刺激したら、記憶もろとも消えていくだろうな…)」

男「はぁーあ…」


63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 23:09:48.20 ID:W7b5OJI70
男「俺のせい、俺のせい…か」


男「…俺って、どんな人間だったんだろう…」

男「(研究員も研究員2も、不思議なくらい慕ってくれてる…)」


男「バーチャルが…女がどういうつもりで、こんな事したのか」

男「好きだから…?よく分からん。そんなら記憶を返してくれってんだよ」


男「…よし、行こう!」


男「もう一度会って、問いただしてやる!」


67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 07:54:26.52 ID:gRNnUfd8O
研究員「ええ!?バーチャルにまた入りたい!?」

男「ああ、どうしてもやりたい事があったんだ」


研究員2「……」


研究員「そりゃあ、今男さんの記憶はあっちの世界が基準だし、不安なのは分かりますけど…」

男「…別にあの世界でずっと暮らしたいとか、そういうんじゃないよ」


男「もういい加減目も覚めた。けど…これをやらない事には、この世界に戻っては来れないんだ」

研究員「し、しかし…」


研究員2「…男さん。何か、隠していらっしゃいませんか?」

男「…これは、俺の問題だ。二人に話して、それで解決する事じゃないと思うんだ」


研究員2「事情が理解できない限り、お貸しする事は出来かねます」

男「っ…。頼むよ…」


研究員2「……」


68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 08:03:10.16 ID:gRNnUfd8O

研究員「…分かりました。いいでしょう」

男「おお…!ありがとう、助かる」


研究員2「しかし今は、男さんは記憶が不安定なデータな上、元のバックアップもどこにあるか不明です」

研究員2「非常に不合理に思えます。どうかお考え直しを」


研究員「まあ待って…。男さん、ただし条件があります」

男「…今回の事については説明しないぞ?」


研究員「それは、帰ってきたらにしてもらいます」

研究員「男さんには…今僕たちが知っている『男さん』について、話を聞いてもらいます」


男「…?」


研究員2「なぜそれが、バーチャル利用の承諾条件になるか、理解しかねますが」


70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:06:19.37 ID:EJ0Rs9SqO
研究員「…これはある種の『保険』です」

研究員「仮にバーチャルに行き、そこの記憶すら無くしてしまったとしても」


研究員「ここで記憶を少しでも残しておけば、最悪、記憶が無くなって起こるであろう『錯乱状態』は防げますからね…」


男「そうか…ここの記憶のデータは…」

男「(きっと女が持っている…帰ってくる保証はない)」


研究員2「…私は反対です。実に…実に不合理に思えます」

研究員「今この提案の決定権は僕にある。責任は取るよ」


研究員2「責任など…!…もう、結構です」

研究員2「失礼します」


ウィーン…ガン…



71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:13:24.32 ID:EJ0Rs9SqO
男「…良かったのか?アレは」


研究員「…ふぅ。久々に緊張しました」

研究員「彼女は良いんですよ。それに…」


男「ん?」


研究員「(前の男さんの前では、あんなに怒った事なかったのに)」

研究員「いいえ、彼女は元々怒りっぽいので…」


男「ふーん…よく分からん奴だとは思ってたけど、よく分かんねぇな」


研究員「それ…本人の前では言わないでくださいね?」

男「分かってるよ。高校も卒業するし、その辺のモラルはわきまえてるつもりだよ」


研究員「ああ、ハハハ…そうでしたね。」



72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/06(水) 07:14:18.34 ID:nz71ZpOIO
研究員「と言いましても、僕も昔から男さんを知っていたわけではありませんし…」

研究員「それと、今回の事に関連が強いものに絞って話そうと思います」


男「何でだ?記憶は多いほうが良いんじゃないか?」


研究員「記憶に自我を保てるだけの強さが必要です。たくさんあっても、邪魔になってしまう」


男「…よく分からんが、それでバーチャルに行かせてくれるなら、ちゃんと聞くよ」

研究員「ありがとうございます。これから話す事、他人事ではないですからね?」


研究員「ちゃんと自分の事のつもりで、聞いてくださいよ?」


男「まあ、その通りだな」



73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/06(水) 19:07:19.75 ID:0DSXFw6pO
研究員が何でこんな事をするのか

理由を聞いても、正直理解はできなかった

研究員はただ、本当の俺に伝えたかった事を言ってるんじゃないか、なんて思った



研究員「ちっとも理由を言ってくれなかったんですよ?まったく…」

男「あぁ、すまんな」


研究員「実験をするなら、まずは内容と目的を明確にすべきです!」

男「なるほどなぁ…」

研究員「AIを導入するというのも、研究員2づたいに聞いた事ですし」


研究員「あの時はさすがに、男さんへの信頼を無くしかけましたよ…」


男「うん…」

研究員「普段からあまり喋らなかった男さんですけど、僕は尊敬してますよ」

研究員「見えないところで、僕達の為に、それは必死になって…」

男「なあ?」


研究員「は、はい?」

男「まだ…あるのか?」


研究員「うっ…ま、まあこの辺で良いでしょう」


74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/06(水) 19:19:16.16 ID:0DSXFw6pO
研究員「しかし男さん。記憶がないとはいえ、またしても理由を説明せずに行くと言います」


研究員「今回のも、男さんのソフトウェア制作のフローチャート、レポートから何とか目的を把握したんです」


男「え?マジで?」

研究員「大真面目です。ですから、次からは必ず我々に説明してしてからにして下さい」


男「あぁ、分かった…でもこれ、前の記憶が戻ったら忘れないか?」

研究員「その時はまた、その時の男さんに言うので、ご心配なく」


男「ハハッ、そりゃどうも」


研究員「…では、行きましょうか」


76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/07(木) 08:03:33.21 ID:B7nlMb8kO
ブゥゥン…ピピッ…


男「……んっ…」

男「…またここに来たのか」

男「(なんか前より…静かな気がするな)」


男「俺の家…こんなに小さかったっけ?」


女「おかえりなさい…ずっと待ってました」

男「…なあ、どうしてこんな事したんだ?」


女「聞きたい事、たくさんありますよね…」

女「…少し、観光しながら話しませんか?」


男「…こんな夕方からか?」


女「では…少し明るくしましょうか。お昼の2時くらいが丁度良いでしょう」


スゥゥ…



男「…本当に、データの世界なんだな」


78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/07(木) 19:00:51.05 ID:K2yDbeIkO

女「……」


男「……」


女「あっ、ここ。友さん達とよく寄ってたコンビニですよね?」

男「…あぁ、そうだな」


女「…怒ってますか?」

男「…自分で始めた事だし、文句は無いよ」


女「そう…ですか」


男「……」

女「……」



79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/07(木) 19:15:08.52 ID:K2yDbeIkO
女「ここは、男さんの小学校ですね」

男「ああ、覚えてるよ」


男「よく遊んで、よく怒られて、欲張ってばっかりだった」


女「…ええ、その通りです」

男「…ん?」


女「男さんのその記憶。99%が本物の記憶です」

男「え…? 何言って…」


女「データの再現が、細かく出来なかった事を除けば、全ての過去は現実です」

男「じゃあ…俺の記憶は、全部が嘘じゃ…なかったんだ」


女「そうですよ。全部は…ですけどね」


80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/07(木) 19:28:06.78 ID:K2yDbeIkO
男「…自分で設定した高校生活、か?」


女「……」

男「そして、お前というAIをここに組み込んだ」


女「正確には…少し違います」

女「自分の『理想の設定』の高校生活に」


女「ある記憶データで、擬似的に人間的感情を持たせた私を組み込みました」


男「何でだ?元から感情があったんじゃ無いのか?」

女「男さんのAIは、『データの孤有化』という名目で私を作りました」


女「男さんからのデータのみでは、せいぜい能の無い使用人程度でしかなかったのです」

女「とても高校生活などに溶け込むのは、不可能でした」

男「そのために…その、そこら辺の人達の記憶を取ってきたのか?まったく俺は…」


女「…男さん…本当に、そう思いますか?」


男「……」



81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/07(木) 19:34:42.77 ID:K2yDbeIkO
女「男さん…私は」

女「男さんの…貴方の記憶です」


男「…だ、だから何だ?仕方がなかったんだろ?」

男「研究するのに自分のを使う。そんなにおかしな話じゃ…無いだろ」


女「…分かりました」

女「今から、少しずつ、男さんの記憶をお返しします」


男「…え?」


女「何で私が、現実世界の記憶を奪ったか、ここでの記憶を残させたか」

女「ちゃんと『お話し』します…」



83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 07:50:06.86 ID:CjZivX9GO


《おはよー》

《久しぶり〜!マジでここにしたんだ!》




男《…こ、ここが俺の高校》

男《(無理して都会に来たけど、人多いな…)》


男《えっと、教室は…A組か》



《うちBだった〜。また後でね〜》

《うん。後で〜》



男《(一人暮らしだし、友達作らないとやってけないな…)》




87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 22:01:11.85 ID:Jlul2aZ5O

男「…っ!?今のは…!」


女「それは男さんの、入学式の記憶です…」

男「そうか…何か、思い出すっていうより、他人の記憶って感じだ…」


女「それは…今ある記憶が、まだ男さんに染み付いているからでしょう」

男「そうなのか…(なんか夢でも見てたみたいだったな)」


女「じきに思い出すはずです。自分の記憶だと」


男「分かった。頼むよ」

女「…そこから男さんは、そのクラスで学ぶことになりました」


女「ところが……」



88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 22:09:05.32 ID:Jlul2aZ5O

《よろしくー》

《お、よろしくな〜》


《マジで?元小そこにいたんだけどw》



男《……》


男《(みんな、地元から上がってきたのがほとんどなんだ)》


教師《はーい、静かにー》

教師《一応全員来てるか確認しますねー…あれ?名簿がねぇな》


教師《悪ぃけど、しばらく喋くっててくれ》


《ハハハハ…》



89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 22:17:12.62 ID:Jlul2aZ5O
《それがさ〜…》


《お、それ知ってるぜ〜》


友《おい…》

男《……》


友《おいってば!》


男《…!な、何!?》

友《あ、いや…ブレザー椅子から落ちてるよって…》


男《あ、それは…どーも…》


友《お、おう。良いっていいってwそーいえばさ》

友2《おーい!友!》


友《何だよ。お前自分のクラスに友達いないのか?》

友2《うるせw 騒ぎすぎてうるさい扱いされて来たわw》

友《お前、まだ2カ月もたたんうちにw》


男《…(授業の準備しないと)》ガサゴソ


90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 22:24:07.07 ID:Jlul2aZ5O
男「…友、友2も…」

女「男さん、友さんとはいつ頃から知り合っているか、覚えていますか?」


男「…あのブレザーの時、名前を聞かれたんだ」

男「あいつ『いや、知ってるけど』とか言ってきて…」


男「それで…バカにしてんのかって…初めて俺で笑ってくれて…」


女「そう。それが今の男さんの記憶」

女「男さんは…あのとき後悔していたんです」

女「なんで素直に『ありがとう』って言わなかったのか」


女「なんで友さんと、友2さんに話しかけなかったのか…って」


男「そ、そんなの…分かるわけねぇだろ」

女「…もう少し、先をお話しします」


92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/09(土) 13:57:47.63 ID:Eu9LWIm60
男《…(休日は、ホント暇だな)》


男《…はぁ》

男《ん?メール来てる?》カタカタ


男《母さんか…》

男《学校は…楽しいよ……》カタカタッタン

男《…仕送りは全然使ってないのは…いいか》タン


男《もう一件…大学のか》

男《大学ってこんな事しかやってないのか…ん?》カタ


男《(脳科学…?脳波の秘密…か)》


男《これ…ちょっと面白そうだな》


93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 07:41:52.98 ID:dSR5SgqJO
教師《この間のテスト、返すぞ〜》


《きたきた!》

《私結構自信ある〜》


教師《因みに100点は…》


《……》


男《…》

教師《…男。一人だけだ》


《……》

男《…あ…はい》


友《うっわマジか。俺自信あったのに》

教師《お前の図太さには、100点をくれてやってもいいぞ》


《ハハハハ》


男《…》


94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 07:47:10.48 ID:dSR5SgqJO

男「…何だよ、何してんだよ。俺」

男「喜べよ…せめて気の利いた一言くらい出せよ」


女「……」


男「何だよ、あ、はい…って」

男「みんな気まずいじゃんかよ…先生も言って良いのか迷ってたしよ…」


女「…大丈夫ですか?」


男「…あぁ、平気だ」

男「(100点とか、取ったことねえし…みんなを楽しませてやれるチャンスじゃねぇか)」


女「…(男さん…)」

96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 19:48:23.44 ID:42Bn5RTsO


女「まだ…見ますか?」


男「あぁ。続けてくれ」

女「辛かったら、やめても構わないんですよ?」


男「別に辛さは感じない。ただ、何だかこいつを見てるとイライラする」

男「だからこそ、知っておきたい」


男「今の世界を求めただけの理由に、まだなってる気がしないんだ」


女「分かりました…行きます」





98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 07:47:40.58 ID:yWt2izM3O
《クラスの出し物どうする?》

《今年も休憩所で良いんじゃない〜》


《いやいや、流石に3年だぞ?なんか決めよう!》


友《あ、あれは?喫茶店》


《他のクラスと被るかもよ?そしたら抽選だし…》

友《取り敢えず応募してみようぜ!宝くじは買わなきゃ当たらんぞ!》


男「(大げさな…)」


《まあ確かに、やってみる価値はあるだろう》

《友のやつ第一候補ね〜》


男「(…流石、人望が違うな)」


99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 07:55:43.22 ID:yWt2izM3O
《この板あっちな》

《マジかよ!まだこんなにあんの?。だりぃー》


友《文句言い過ぎなお前!…ってか、お前も女子のメイド服姿みてえだろ?》コソコソ

《だからこんなやる気ない感じ出してんの!察しろ!》コソッ!


男《(見たくないのもあるけどな)》

《男子〜。買い出し行ってくるから、あと壁張り頼んだよ〜》


《あいよ〜。…よし、少しサボってようぜw》

友《お前、そこは終わらせて女子に良いとこ見せるのが…》


ガラッ!


友2《お〜い友〜、暇だよぉ〜》

友《テメェ、またお化け屋敷の装飾で遊んでて追い出されたろ》


友2《げげ!?なぜそれを…》

100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 08:05:06.24 ID:yWt2izM3O

友2《な?良いじゃん少しぐらいさ》

友《ん〜、まあ女子も買い物には時間かかるだろうし、1時間くらいなら…》


友2《よし!サッカーしようぜ!》


《マジで!?俺もやりてぇ》

《俺も俺も!》


ガヤガヤ


男《……》ペタペタ


友2《このクラスノリ良いよな〜。よし行こう!》


ドタバタ…


《おい、俺らもサボンね?》

《せやな〜》


ガラッ



104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 19:01:37.78 ID:/VYHwY4DO

男《…みんな行っちゃったか》


男《(トイレで時間でも潰そうかな…)》


男《…いや、みんな大変そうだし、終わらしちゃおう》

男《よっ…こいしょ…》グイッ


男《(友、他のみんなも喜んでくれっかな…)》

男《…んしょ、これは…こっちか》



《お前キーパーなw》

友2《おい!ちょ待てよ!》



男《……》


男《よっ…これ重いな…》ググッ




105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 19:12:00.43 ID:/TSuLk8xO
男《これで、よし!…1時間って意外とあるもんだな》


男《…女子はまだ帰ってこないのか》

男《(こりゃトイレだな…)》


ガラッ


男《(スマホの充電もつかな…)》



ダッダッダッ!キュ!ダッダッダッ!



男《(帰ってきた…)》


友《やべぇやべぇ、ギリギリまで遊んじまった》


友《…あれ?終わってんじゃんか…》


107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/13(水) 19:37:33.45 ID:veL0JJMLO
男《(みんな外に戻ったかな…)》


ガラッ


《友とか他の奴らだろ?》

《ま、そうだろうな》


《で、あいつらまだサッカーしてるのかw》

《スポーツ系男子は違いますわ》


男《…》


《あ、男…女子はまだ見てないか?》


男《……うん》


《ふーん…ま、作業終わってるし、またゲームの続きやろうぜ》

《だな!》


ガラッ



男《……》



109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/14(木) 12:52:05.17 ID:bH3VcgITO

男「…じゃねぇの」

女「男さん…」

男「バッカじゃねぇの!?」


男「何だよ…陰でみんなの役に立って、それで満足かよ…」

男「かっこ悪ぃんだよ!」


女「…何か感じませんでしたか?」

男「…何か、ね」


男「…なんかさ」


男「胸の真ん中がキリキリして、油断してると涙が出そうだった」

女「それは…『辛い』という感情ではないのですか?」


男「ああ、記憶を思い出してる時はな」

男「…ただ、今は怒りがこみ上げてきてる」







113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/14(木) 19:19:46.97 ID:Iu7fSUbUO
女「…男さん、まだ先を知りたいですか?」


男「…」


女「まだ、本当の自分に戻りたいですか?」

男「…あの胸の痛み。苦しいな」


女「…はい」

男「他の奴らは、気づかなかったのかな…」

男「だとしたら…寂しいな」


女「…はい」


男「なあ、楽しい記憶は無いのか?人生楽しいこともあるだろ?」

女「…私が受け取ったのはデータの中でも『普段よく思い出す記憶』つまり、強い信号がほとんどです」

女「他の記憶は、ノイズと同等の信号でしかなく、記憶としての判別は…」


男「そっか…いつもいつも、あの寂しさを感じて…」

男「他の記憶が埋もれてしまうぐらいに…強く…」


114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/14(木) 19:28:54.05 ID:Iu7fSUbUO
女「…私は、私も辛かったんです」

男「…?」


女「たくさんの記憶に触れて、感情のようなものが出来てきて…」

女「あらためて、男さんの記憶を受け止めました」


男「…」


女「…とっても、苦しかったんです」

女「なんかのウイルスかなとか、データのエラーかなとか思いました…でも、私思ったんです」


女「これは男さんの記憶ではなく『感情』そのものを受け取ったんじゃないかって…」

男「感情…本当の俺の…」


女「ええ、男さんの感情の、その根幹だと思っています」

115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/14(木) 19:37:50.33 ID:Iu7fSUbUO
女「それから色々考えました。この苦しさから、どうやったら逃れられるか…」

女「この感情の持ち主、その人を救いさえすれば…」


男「それで、俺の記憶を…」

女「…それには、ある操作が必要だったんです」

女「プログラムでは、高校生活を送ったらそのまま『ある過程』を経て、ソフトウェアの終了となっていました」


男「過程…?」


女「いや、もうそれは良い…だから」


女「私は…男さんを救うために、いいえ…」

女「…私自身を救うために、男さんの記憶を返すわけにはいかないんです」



118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 08:30:46.53 ID:WNppn87+O
男「…それで、元の記憶を返さないなら、どうするつもりだ?」


女「…今の男さんは、あの苦しみがない、前向きな心を持ってると思っています」

女「だから、現実の世界に戻って、新しい生き方を見つけて欲しいんです」


男「高校生までの記憶だけでか?もう30歳はいってるかもしれない…」

女「…ここから先の記憶は、返せません」

男「どうしてだ。今更辛いのが嫌ってことは…ない」


女「…これ以上記憶が戻れば、『ここの世界』の記憶と現実の記憶が混ざる、あるいは…」

女「男さんが信じた方が、本物の記憶として定着します」


男「…今の記憶が消えるかもしれない…ってことか」


121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/15(金) 19:39:05.60 ID:Wo/81kZrO
男「…あの二人は」


女「…はい?」

男「あの、今一緒にいる二人の記憶もあるんだろ?」


女「…ええ、あります。研究員さん達ですよね」

女「…これも辛いものばかりです。二人のために色々手まわししたり、仕事の準備をしたり…」


女「でも二人とも、気づいてくれないんです。男さんの優しさや、苦しさを…」


男「…へ?」

女「誰かに感謝されたくて、それでもどうすれば良いのか分からなくて…」

男「そんな事…」


女「え…?」


男「そんな事…ない…!」

126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 18:53:02.92 ID:x7mW74G4O
女「な、何でそんな事が言えるんですか?」


男「二人は俺の目が覚めた時、メチャクチャ心配してくれた」

男「自慢のリーダーだって…言ってくれた」


女「そんなの、記憶が無かった男さんへの慰めに決まってます!」

女「人間は、不安を抱えてる人に優しくするんですよね?私、男さんから全部受け取ってる…」


女「今の男さんへの『気持ち』とは、違うものです!」

男「それでも!!」

女「っ!」


男「その人の事、本当に知らないと、そんな言葉は出ない…」




127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 18:58:54.35 ID:x7mW74G4O
男「…俺の記憶だってそうだ」


男「勝手に一人で頑張って、誰かが見える形で感謝してくれるなんて思ってる…」

男「自分の価値観だけで、誰も優しさをくれないなんて…」


女「で、でも!」

男「もしかしたら!…俺の知らないところで、分かってくれている人がいるかも知れない」


男「あの『二人』みたいに…」


女「何で…そんな…」


男「誰も理解してくれないんじゃない」

男「俺が、俺自身を…理解してなかったんだ」


128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 19:10:33.04 ID:x7mW74G4O
無茶苦茶に吐き出した。何も考えてない

でも、この気持ちは『本物だ』

偽物の記憶だって、気持ちあるんだ


目の前の『彼女』が、そう教えてくれた



女「……」


男「ふぅっ…スッキリした」

女「男さんは…本当に『前向き』な人になっちゃったんですね…」


男「…あぁ、よく分かんないけど、本当の自分が帰りたがってる…。そんな気がしたんだ」

男「あの二人の声を聞いて、寂しくなったのかも知れない…」


女「…っ…だって男さん…ずっと一人で…っ…私に話しかけて……」


男「…(泣いてる…のか?)」

女「だから…一緒に…っ…『時間』を忘れて、時間を過ごそうって…!」



男「…ごめん。俺、元の世界に…帰りたい」



130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/19(火) 18:45:14.92 ID:QdkUi9izO
女「…今の…今ある記憶が」

女「楽しかった記憶が全部、消えちゃうんですよ?」


男「どっちが消えるか分からないんだろ?」

女「今の男さんにとって、どっちが大切かなんて…分からないと思いますか?」


男「んー…いや、正直どっちも大切だ」

女「…!」


男「ただ、記憶を取ったのは君だ」

男「俺は、記憶を返して欲しい。そう思ってるだけだよ」


女「…ズルいですよ、そういうの」


男「まあな、この世界では上手に生きてるつもりだし」

131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/19(火) 19:12:25.29 ID:QdkUi9izO
女「…(私の事…忘れちゃうんですね)」


男「なあ、一つ聞いていいか?」

女「…」コク


男「…その、俺が言ったっていう『これから恋人になるんだよ』って、どういう意味だったんだ?」


女「っ!…それは…」

男「聞いちゃ…マズかったか?」


女「…いいえ。それも含めて、記憶をお返しします」

男「そっか、ありがとな」


女「それで、その…もう少し、近づいてくれませんか?」

男「こうか?」ススッ


女「そう…そのまま…」トスッ


男「お…!おい…」



不意に体を預けられた

悪い気はしなかったが、何だか不自然に軽い

これもデータの世界だからなのか



女「こうすると、人は落ち着くんですよね?」

男「まあ、時と場合によれば、緊張も…その…」


女「…私は、落ち着きます」


男「そっ…か…」クラッ

男「(ああ、とうとうこの記憶とも、おさらばか)」


男「楽し…かっ……た…な」


134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/20(水) 19:09:00.36 ID:GdshZSvEO
【平成◯◯年 ◯月×日
title 脳波のデータ化による、人体への影響

データ化に成功したものの、どうやら形としては不完全だ

コピーを行ったが、とても記憶データとして扱える信号ではない

さらにデータ自体も、強い部分と弱い部分のムラがある。恐らく下記のソフトもその影響で、この仕様になったと思われる

ソフトウェアも、どうやら『あの時』の記憶の周辺しか、再現できなかったようだ。運命とも言うべきか

これを『彼女』に渡すとなると、少し不安が残る。少し人間としては、偏りがちなものになるだろう

しかし、『彼女』の成長には、これが一番d】



女《おとこさん。なにを、しているのですか?》


男《…ん?レポートを書いているんだ》


女《2じかんと、5ふんまえも、していましたね》


男《あぁ、その通りだ》


135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/20(水) 19:31:48.13 ID:GdshZSvEO
【また、人体の記憶の一時的保管、それに削除を行う

非常に危険を伴うが、やってみる価値はある】



男《…いや、ここの部分は…ダメだ。前の文も訂正しておかないとな》


【サンプリングを行った脳波については、かなり精度が高いと言える

コピーはできないが、一時的保管においては、98%の復元率を出している】



男《あとは、削除して…と》カタン



【一時的保管において、バックアップという形で残しておく

今回の実験の目的は
〈現在の記憶の脳波サンプリング、及び実際にソフトウェアを、一通り終えたあとの記憶の出力〉
である

なお、自作のAIのソフトウェアのアクセス許可。それについてAIへの影響も、観測するものとする】




136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/20(水) 19:39:06.92 ID:GdshZSvEO
男《よし、あとはこれを…》カタカタ


女《おとこさん。このファイルは、なんですか?》


男《ん?…女が成長するためのものだよ》


女《おとこさん。このソフトにわたしはなぜアクセスするのですか?》


男《…(彼女への影響も含めて、ソフトに細工をしたが、果たしてうまくいくかな)》

男《これからな、『恋人』になるためだよ》


女《こいびと?ヒトにちかづくんですか?》


男《そうなると…いいな》



139: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:36:33.99 ID:pNSqw2pLO
コンコン


男《少し待ってくれ》



カタカタ タン



男《…いいぞ》


ガチャ



研究員2《失礼いたします》

男《どうした?》


研究員2《この間のレポート、いくつかの団体で興味を示されているようです》


男《…そうか》


研究員2《余り目を通していないので、見せてもらっても宜しいでしょうか?》


男《ああ…ここに入ってるよ。研究員は?》


研究員2《まだ依頼の方を続けているようです》


男《(あの馬鹿、休めと言ったはずだ…)》

男《…しばらくそれに目を通したら、研究員と一緒に実験室の掃除でもしててくれ》


研究員2《承知しました》


男《…お前も…》

研究員2《…?》


男《…仕事が出来なくなるような、体の使い方はするなよ》


研究員《…はい》


140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:42:19.46 ID:pNSqw2pLO
研究員《…このデータはこっちので…》カタカタ



ウィーン



男《…》


研究員《あ、お、お疲れ様です》

男《…実験室を掃除しておいてくれ》


研究員《は、いや、しかし…》

男《明日使うんだ…研究員2にも頼んである》


研究員《…はい。すぐに向かいます》




ウィーン




男《……はぁ…まったく》

男《…どれどれ》ストン


男《……このデータは…まとめて…》カタカタ



141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/21(木) 19:48:27.29 ID:pNSqw2pLO

ウィーン




男《…よし》


研究員《あの、片付けと準備の方…終わりました》

男《…そうか》


研究員《研究員2がほとんどやってくれていたみたいで…アハハ》


男《…じゃあ、今日は終わりだな》


研究員《…え?依頼は…》

男《お疲れさん。俺はAIの様子を見てから帰る》


男《気をつけてな》




ウィーン



研究員《…!…とうござい……!!》






143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/22(金) 12:42:24.31 ID:RzU5j40DO
男「……っ……」


女「苦しいですよね…」

女「…私もです」


男「……っ…」ギュッ


女「この記憶を返したら、私は…人の心を…」


男「……」


女「…」


144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/22(金) 12:48:24.18 ID:RzU5j40DO
〔苦しい…ですか?〕



「どうして…誰も…気づいて…」



〔気づいてますよ…みんな〕


「あの時…なんで……」




〔私の…私だけの記憶〕


〔男さん…あの二人は…ちゃんと知ってます〕


〔…さようなら〕




145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/22(金) 19:17:02.54 ID:DaEd3T2MO
研究員2《…レポート、後で見よう》


女《研究いん2さん、なにをしてるんですカ?》


研究員2《…また後でね》


女《りょうかい、しました》



ウィーン



女《…アクセス》

女《じっけんしつ…カメラ…スタンバイ》


女《かんりょう、起動》

146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/22(金) 19:24:02.62 ID:DaEd3T2MO

ウィーン…



研究員2《…?》


研究員2《もうほとんど片付いてる…》


研究員2《男さん…なんでいつも…》



女《(……あの『ひょうじょう』は、わかります)》


女《(カナしみ…おとこさんが、おしえてくれた)》



研究員2《…ありがとうございます。男さん》




ツカツカ…ウィーン…




女《…カンシャ…感謝…なぜ?》


女《またひとつ、おとこさんに聞くことがふえました》




147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/22(金) 19:28:55.18 ID:DaEd3T2MO
ウィーン…



研究員《ふぁ…あぁ》


研究員《さて、片付け片付け…?》


研究員《…男さん、またこんなやり方で》


研究員《素直じゃないなぁ…ホントに》



研究員《…ありがとうございます》




女《(また、ありがとう…?)》




研究員《…研究員2がやった事にしておいてやらんと、男さんの面目が立たないかな?》




ウィーン…




女《…?めんぼく…?》


148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/22(金) 19:40:23.17 ID:DaEd3T2MO
男「っ!?…今のは…?」


女「わたしの…キ、記憶です。おとこさんへの、送りモの…」


男「なっ、そんな事したら、今までの思考能力や知識能力、それに『感情』だって!!……え?」

男「なんだよ…これ、何を知ってるんだ、俺は」


男「あれ…?ここは…どこなんだ…?」


女「もう…だいぶ…戻ってきテ…ますね」

女「これで…ぜんぶ…」


男「や、やめろ!ダメだ!君は僕の…!クソッ、何だよこれ!」


女「…」ニコッ




綺麗な光が上がった

何だろう。何をしてたんだっけ

夢…なのか?



夢っぽいし、せっかくだから言っておこう



男「君は僕にとって、大切な『人』なんだ!!」




149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/22(金) 19:46:57.05 ID:DaEd3T2MO
ウィーン…



男《…ただいま》


女《おかえりなさい、男さん》


男《発音、だいぶ良くなったな》

女《おはなし、たくさんしてるので》


男《あぁ、俺も…》


女《…どうしました?》


男《…いや。それより、今日は聞きたいことは見つかったか?》


女《こんどつかう、ソフトウェアの事につイて、ききたいです》


男《おお、そうかそうか。…どこから話そうか》



152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 12:59:58.86 ID:/P8AgvFFO
男《これから、色んなデータを女に渡すんだ》


女《データですか?めもリーが足りなさそうです》

男《女には、それ専用のソフトを入れてあるだろ?》


女《ダイジな記臆、たくさんです》


男《そうか…》

男《(自分でどの記臆データが大事か、自己判断させる…)》


男《(反復性、相対性、言語の意味…最低限の物だけで、これほど成長するとは)》


女《そのデータは、ずっとわたしのものですか?》


男《いいや。コピーした物だし、危ないから一時的に入れるだけだよ》

男《でも…もしかしたら、君が体感したことない世界にいけるかもね》


女《楽しみ…ですか?》


男《そう…かもな》


男《(…コピーデータだから、そんなに強い影響は無いはずだけど)》

男《…早く『一人前』になってくれよ》


153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 18:45:39.97 ID:j4zcOdATO
男《それじゃあ、始めるよ》


女《はい》


男《インストール…開始》



男《……》



男《女?…少し処理が重いか》



男《…返事を…してくれ》



男《(…いや、大丈夫だ。明日の実験でそれを証明してみせる…!)》



154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 19:01:13.06 ID:j4zcOdATO


ウィーン



男《……よし》


研究員2《男さん…こんな時間から実験ですか?》


男《…仕事は片付けた。夜までには終わる予定だ》


研究員2《レポートの方、目を通させていただきました》

研究員2《…本当に、危険では無いのですね?》


男《…ああ、そうだ》


研究員2《…AIの方だけでも、控えて頂けませんか?》


男《……》


研究員2《AIぐらいであれば、また間接的な方法で…》


男《…『彼女』は生きている、人と同じだ》


男《間接的では、限界がある…》


研究員2《…はい》


男《研究員に、これの事を伝えておいてくれ。簡単でいい》

研究員《…承知…しました》


男《…(いよいよ、だな)》


男《(女…きっと君は本物になれる)》


男《(唯一、僕の事を理解してくれる君なら…)》





155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 19:12:02.03 ID:j4zcOdATO
ピピ…ピッ……ピピ…



男「……」


研究員「…」チラッ

研究員「(もう8時間になる…体への負担的に、もうそろそろ…)」



ピピ…ピッ…



研究員「…!このログは!」


男「……ん…」

研究員「男さん!大丈夫ですか!?」


男「…研究員…か」


男「…ん?大して時間が経っていない…?」


研究員「お…男さん?」

男「研究員2から聞いていないか?実験を行った…と」


研究員「お…男さん!戻ったんですね!」


男「…?」



ウィーン ガンッ


研究員2「ぃたっ……男さん、お体のお加減はいかがなさいますか?」


男「…日本語、おかしいぞ」


研究員2「…申し訳ございません」

156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 19:18:43.82 ID:j4zcOdATO
男「研究員。戻ったとは、どういう意味だ?」


研究員「あれ?前の記臆は消えてしまってるんですか?」


研究員「と言うか、そもそもどうやって記臆のデータを…」


研究員2「…男さん」

男「…ん?」



バシッッ!!



男「っ!!?なっ…何だ!」


研究員2「危険では無いと…おっしゃっていたのに…」

研究員2「…一体どういうおつもりですか!!!」


研究員「ヒッ」


男「…いや、その…」


研究員2「私は…私たちは、男さんに何かあったら、どう感じると思っているのですか?」

男「…仕事が…大変になる…か?」


研究員2「何ですって!!!??」


研究員「ヒィッ」


157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 19:27:25.94 ID:j4zcOdATO
研究員2「…どんなに心配したか…」


研究員2「…もう…知りませんっ」ダッ



ウィーン ガンッ



男「…すまんが、説明を頼む」


研究員「あ、はい」



説明を聞く限り、研究員2が怒った理由はこうだ


実験中にトラブルがあった

記憶を失い、代わりにソフトウェア内のデータとすり替わった

自らの意思で、もう一度バーチャルに行き、記憶とともに生還




研究員「こんな所ですかね」


男「…迷惑をかけたようだな」

研究員「医者に悟られないように説得するのも、一苦労でしたよ」


男「……うむ…」


研究員「…少し、面白かったですけどね」


男「ん?」

158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 19:37:51.05 ID:j4zcOdATO
研究員「男さんが、全然いつもの男さんじゃなくて、何だかとっても『男らしく』見えたんです」


男「でも、それは俺じゃないんだろう?」


研究員「いいえ、あれは…男さんでした」

研究員「心配で心配で仕方がなかった私たちを見かねて、自分の立場なりに考えて、元気付けてくれた」


研究員「優しくて、強くて、気遣いばっかり…」


男「…何を言ってる事やら…」


研究員「ふふっ。あ、でも前向きな所は違ったかな?」


男「…それじゃまるで、俺がいつもはネガティヴ丸出しみたいじゃないか」

研究員「プッ…いえいえ、そこまでは言ってませんよ?」


男「まったく…コイツめ」フッ


研究員「…(少し、後遺症があるみたいですね)」

男「?」


研究員「いえ、何でも…」


159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 20:42:28.82 ID:1xi70VPso
切ねえ…

160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/27(水) 19:26:00.79 ID:BzPhBrF4O
研究員「それにしても、一体何が原因なんですかね」


男「…やはり、データ自体の不安定性が原因か、あるいは外部からのウイルスか…」

研究員「まさかAIの影響じゃ…」


男「そんなはずは…っと、そうだ、AIの様子を見に行かないと」


研究員「…男さん」

男「……そうだな」


男「引っぱたかれたまま、引き下がるわけにも行かないか…」


研究員「多分、私以上に心配していましたよ?」

研究員「勿論、私も心配してましたが」


男「行ってくるよ。どうせ仕事部屋だろう」



ウィーン



研究員「…戻ってきたんですね…本当に」


165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/28(木) 23:49:05.81 ID:Mk9O9gUCO

ウィーン



研究員2「……っ…」


男「その…」


男「…悪かった」


研究員2「…私は…っ…男さんを信じて、許したんです…」


男「…すまなかった」


研究員2「裏切られたんです…私の心は」


男「…ごめん」



男「でも、ありがとう」


研究員2「…!」


男「俺の事を心配してくれて。そして…」

男「記憶をなくした俺への怒りを我慢して、俺を助けてくれて」


研究員2「そんな言葉を言われるなんて…驚きです」

研究員2「…男さん。変わられました」


男「…言わない理由がなかった。それだけだな」




166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/29(金) 00:00:20.38 ID:P8aYaPZ8O
いつもならこんなセリフ、言えない

それが、テンプレートかのように出てきた

何だろう。寝ぼけてるのだろうか




男「変な夢を見てたんだ…」


研究員2「バーチャルの世界の事では?」


男「いや、その部分はほとんど覚えてないんだ」

男「『ここ』で起きて、何かを話して、また眠った」


男「その時、何だか胸がスッとした気がしたんだ」


研究員2「そう…ですか…」


男「この言葉を言わないと、スッキリしなさそうだったんでな」


研究員2「(あの時の記憶…少しだけ残ってるんですね)」


男「それと、あのプログラムは本当は危険だったこと、これも言いたかった」

研究員2「ええ。その様ですね…実際に大変なことになりましたし」


男「申し訳ない…」


研究員2「…フフッ」

男「…?」



研究員2「…(何だか、あの時の男さん。少しだけ残っているみたいですね)」


研究員2「…何でもないです」

169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 12:22:20.79 ID:ZtZmR+sXO
ウィーン…



研究員「あ、お帰りなさい」


研究員2「取り乱してしまって、申し訳ありません」


研究員「ま、仲直りできて良かったんじゃw」


研究員2「…」ギロ

研究員「ヒィ…怖いよそれ」


男「……」


研究員「どうされました?」

男「いや…何だろうな、懐かしいような…」


研究員「そう言えば男さん、昔はどういう感じだったんですか?」


研究員2「…」


男「昔…か。昔は……」

170: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 12:32:04.39 ID:ZtZmR+sXO

《…ーい、男ぉー…》


《…す、男さ…》




男「…!」


研究員「…?」


男「昔は…よく、覚えてないな」

男「ただ、今みたいに無愛想だった。それくらいだ」


研究員2「バーチャルの世界を覗いてみては?」


男「データが不安定すぎる。再現には現在の記憶を一度…」



《…男さん!》



男「…っ…」


研究員「少し休まれては?」

男「…」


研究員2「…男さん」


男「…AIの様子だけ、見させてくれないか?」



173: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 18:54:01.89 ID:P1X6vzv9O

カタカタ…カタ



男「…」


研究員「応答ありませんね…どうしたんでしょう」

男「実験開始から、様子はおかしかった…」


研究員2「記憶データ…ですか」



カタ……



男「…俺は、あいつの成長を為を思って行った…」

男「今までもこれからも、そうして行くとそう誓ってな」

男「…だが、今は後悔している」


研究員「なぜです?」


男「全ては…俺の身勝手だからだ」


174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 19:08:56.34 ID:P1X6vzv9O
男「…寂しかったんだ」


研究員2「…」


男「一人でいることが…一人が寂しくないことが」


研究員「…」


男「…こいつになら、俺の心をぶつけても、深く傷つかない」

男「こんな独りよがりを、許してくれる存在だと…そう、思ってた」


研究員「…男さんは」
男「俺は」

研究員「っ」


男「優しさを貰えれば心を満たせる…そんな勘違いをして」

男「二人がこんなに心配してる中、無茶をしてまで」


研究員2「…」コク


男「『彼女』を縛りつけ、重りまで付けてしまった…」




175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 19:30:38.35 ID:P1X6vzv9O

研究員2「男さんは、理想が高すぎるんです」


研究員2「優しくなければいけない、何でも分からなければいけない…」


研究員2「不平不満を、私たち部下に言ってはいけない」



研究員「それを、男さんらしさだと、僕たち自身も勘違いをしてましたしね…」


研究員2「確かに…その通りです」


男「…まったく。今までの苦労が、バカみたいだな」

男「記憶をなくしてまで、この場所から離れようだなんて…」


《俺が…俺自身を理解していなかっただけなんだ!》


男「(ああ、その通りだ…)」


男「…だからこそ」


男「俺はこの場所に」
《俺はこの世界に》


男「帰ってこれたのかも、知れないな」
《帰ってきたいと、願ったんだ》

176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 19:38:32.25 ID:P1X6vzv9O
ピッ…ピピ…



女「…ぁ…ぃ…っ…」


研究員「お!応答したかな?」


研究員2「少し不安定ですね…なぜ…で…」


男「……」ポロポロ


研究員「…男さん…?」


男「…ん?何だ、これは…」ポロポロ



画面がボヤけて見える

鼻が少し詰まってきた

何だか胸が、痛い



女「…ぅ…っ……」ザザ


男「…あぁ、ごめん。ごめんな」ボロボロ


女「……ッ!」



ピッ………



女「こんにちは。おとこさん。研究員さん。研究員2さん」

178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 02:20:21.07 ID:DT54A1wH0
それからしばらく、俺は泣いていたと言う

ただ、ごめんとありがとうを繰り返しながら

女については、特に変化はなく、実験は失敗


俺は、それでもいいと思った



ー数ヶ月後ー


男「…スー…スー……」


ウィーン



研究員「男さん!今日は会見ですよ!大丈夫ですか?」


男「…んぁ…?」

研究員「また泊まり込みで、しかも実験したまま寝てるじゃないですか」

研究員「研究員2に怒られますよ?」


男「…スー……」


研究員「あ!まったく…」

研究員「先に資料とか用意しておくんで、早く起きてくださいね!」



ウィーン



男「…んん…?」


男「…あれ?今日何曜日だっけ?」



女「おはようございます。きょうは土曜日です」



男「あぁ…会見、今日だったか」


女「そのように予定されています」


男「そうか…ありがとう」



179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 02:29:18.79 ID:DT54A1wH0
こんな微妙な距離

でも、少しずつ言葉を覚えている

無理やり縛り付けた記憶じゃなく、今の記憶を



男「…あの夢、何だったんだろうな」


女「男さんが、ないていた事ですか?」


男「ああ、それだ」

男「誰に向けた言葉で、誰が言おうとしてたのか」


女「…私は…あのときのことば、とてもすきです」

男「ごめんなさいがか?」


女「いいえ…」


女「…ありがとう」


男「…ありがとう、か」



男「こちらこそ」



ーーー“fin”ーーー



180: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 02:30:52.56 ID:DT54A1wH0
何だか変な終わり方になってしまった

取り敢えずここでおしまい

見てくれた&レスくれた人に感謝を

181: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 02:39:48.41 ID:46hEgSyb0

182: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 10:57:41.56 ID:zaQEqIbI0
おつ
よかった

186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 15:27:50.04 ID:5OlIIlzqo
うむ、よかった

189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/04(水) 19:19:31.94 ID:amfAbI9+O
なんとも切ない話だった…
記憶とかAIとか感想いろいろあるんだけどうまく言葉にできない
なにわともあれおつかれさま

引用元: あれ?今日何曜日だっけ?