1:2018/07/24(火) 00:26:03.878
20XX年――

日本は荒れ果て、それと共に日本が誇る“道”もまた、荒廃の一途を辿っていた。


柔道家「女を押し倒して寝技かけるの楽しいィ~!」


剣道家「竹刀なんざ持つより、ピストル持った方が手っ取り早いぜェ!」


華道家「この花の花粉を吸うと、気持ちよくなれるゾ!」


書道家「字なんかボールペンで書けばいいよ」





そして――……

甘々と稲妻(1) (アフタヌーンコミックス)
8:2018/07/24(火) 00:30:22.904
ヒュゥゥゥゥゥ…

青年(日本中を旅してきたが……どこを歩いてもひどいものだった)

青年(今やどの都道府県も、スラム街のようになってしまった……)

青年(こんな時代に、俺ができることといえば――)

青年「こんにちは」

少女「こんにちは!」

青年「このあたりは、茶道が盛んなそうだね?」

少女「うん、そうだよ!」

青年「もしよければ、お茶を一杯いただけないかな?」

少女「いいよー!」
9:2018/07/24(火) 00:32:25.512
少女「……」シャカシャカシャカシャカ

少女「どうぞ!」

青年「ありがとう」クルクル

青年「……」ゴクッ

少女「お服加減は?」

青年「結構でございます」

少女「よかったー!」

青年「本当においしかったよ。どうもありがとう」
14:2018/07/24(火) 00:36:06.644
青年「ところで君、ご両親は?」

少女「お父さんとお母さんは……この辺りを統治する“家元”に逆らって、投獄されちゃったの」

青年「投獄!? ……いったいなぜ?」

少女「家元のお茶のやり方に文句をいったら、二人とも捕まっちゃったの」

青年「なんということだ……」

青年(皆の模範であるべき茶道の家元が、まるで暴君じゃないか!)

青年(やはり、荒廃は茶道にも及んでいたのか……)
18:2018/07/24(火) 00:38:16.951
青年「家元はどこにいるんだい?」

少女「あそこ」サッ

少女「あのLEDで光り輝く茶室で、いっつも弟子とお茶飲んでるよ」

青年(なんだあのド派手な茶室は……“わびさび”の欠片も感じられない)
20:2018/07/24(火) 00:41:12.285
青年「分かった……どうもありがとう」

少女「ちょっと、どうするつもり? まさか、家元のところに行くんじゃ……」

青年「もちろんそのつもりだ」

少女「そんなのダメよ! 捕まって、ヘタしたら殺されちゃう!」

青年「大丈夫……俺が必ず君の両親を連れ戻してみせるよ」

少女(このお兄さんの目……とても“わびさび”を感じる! 何かをやってくれそう!)

少女「気をつけてね……お兄さん!」
27:2018/07/24(火) 00:44:12.105
<茶室>

アハハハハ… ギャハハハハ…

家元「オラ、もっと飲めよ。グイッといけや」

弟子A「いただきまーす!」グビグビッ

弟子A「いやぁ~、家元が立ててくれたお茶は最高っすわ!」

弟子B「まったくですぜ!」

家元「ガハハ、そうだろう、そうだろう!」
29:2018/07/24(火) 00:46:11.690
弟子A「あ、茶菓子いただけますか?」

家元「ほれ、スニッカーズだ!」ポイッ

弟子A「あざーっす!」ニチャニチャ

弟子A「うめぇ~! やっぱ抹茶にはスニッカーズっすわ~!」

家元「なにしろ、ナッツぎっしりだからな!」

ギャハハハハハ…
30:2018/07/24(火) 00:47:27.265
ガラッ



家元「!」

弟子A「!」

弟子B「!」

家元「――誰だッ!?」
32:2018/07/24(火) 00:50:32.127
青年「貴女が家元だな?」

家元「そうだが? てめえ……なんの用だ」

青年「実は、お茶を一杯いただきたくて……」

家元「お茶ァ~!?」

家元「ガハハハ、ここはガキが来るとこじゃねえぞ!」

家元「ガキは帰ってミルクでも飲んでな!」

弟子A「そうだそうだ!」

弟子B「死にたくなきゃ、とっとと出ていきやがれ!」

ギャハハハハハ… アハハハハ…
33:2018/07/24(火) 00:54:09.613
青年「なるほど、見ず知らずの客に茶を振る舞う自信はない、と」

家元「あ!?」ビキッ

家元「……いいだろう、ご馳走してやる。茶室に入りな」

青年「……」スッ



弟子A(ククク、この茶室の畳の縁には、地雷が仕掛けてある!)

弟子B(縁を踏んだ瞬間、ジ・エンドよォ!)
34:2018/07/24(火) 00:57:16.325
青年「……」スッスッ



家元「……ほう」

弟子A「こいつ……! ちゃんと畳の縁を避けて……!」

弟子B「しかも、入室の時は右足で縁をまたぐという基本も抑えて……こいつ、心得てやがる!」

家元(なるほど。このガキ、茶を飲む資格はありそうだ……)
35:2018/07/24(火) 00:59:06.102
家元「待ってろ、今すぐ立ててやる」シャカシャカシャカシャカ

家元「究極の茶ってもんを飲ませてやるよ」シャカシャカシャカシャカ

弟子A「で、出た……! 家元のお茶立て!」

弟子B「相変わらず、すげえスピードだ……!」

青年「……」

家元(どうやらこのスピードに驚き、声も出ないようだな!)シャカシャカシャカシャカ

シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ…
36:2018/07/24(火) 01:01:10.776 ID:RDLm0u+Oa.net
シャカシャカってバーテンダーかよ
37:2018/07/24(火) 01:01:15.567
家元「飲みな」

青年「……」クルクル

青年「……」ゴクッ

家元「お服加減はどうだァ!?」

青年「結構でございます」

家元「ガハハハッ、だろォ!?」

青年「……といいたいところだが」
38:2018/07/24(火) 01:01:26.807 ID:knp2kvXg0.net
普通に茶入れててワロタ
39:2018/07/24(火) 01:01:49.894 ID:68YfIkN+r.net
なんだこのお茶バトルは…
40:2018/07/24(火) 01:03:22.512
青年「不味い」

家元「あ!?」

青年「これでは茶はおろか、茶碗も茶筅も泣いているだろう」

青年「この一杯は、あの女の子が立ててくれたお茶にも遠く及ばない」

家元「……な、なんだと」

弟子A「てめぇぇぇぇぇ!!!」

弟子B「家元に向かってなんて口をぉぉぉぉぉ!!!」
42:2018/07/24(火) 01:06:14.066
弟子A「今すぐブッ殺してやる!」

弟子B「バラバラにして茶菓子にしてやらぁ!」

カチッ

弟子AB「あっ」

ドゴォォォォォォンッ!!!



青年「……」

家元「バカどもが……! 畳の縁を踏みやがって……!」
43:2018/07/24(火) 01:10:08.053
青年「次は俺に茶を立てさせてもらえないか?」

家元「ふざけんな、なんでてめえ如きに……」

青年「俺があなたに本当のお茶というものを飲ませてみせる」

家元「面白え……やってみろ!」

青年「ありがとうございます」

家元(仮にどんな茶を立てたところで、こいつは処刑確定だ!)ギロッ

家元(処刑して、人間魚拓にして、掛け軸にして飾ってやる……!)ニヤ…
44:2018/07/24(火) 01:12:36.052
青年「では……」

青年「……」スッスッ

家元「うっ!?」

家元(茶碗に茶を入れ、湯を入れる……たったこれだけの行為なのに)

家元(なんて繊細で優雅なんだ……!)

家元(ぐっ、私としたことが、こんな小僧に魅せられてどうする!)
45:2018/07/24(火) 01:16:35.674
青年「……」シャカシャカシャカシャカ

家元「……!」

家元(速いッ! 私以上のスピード!?)

家元(しかも、このスピードでありながら、決して粗雑さは感じさせない!)

家元(まるで、スローモーションを見てるような錯覚すら抱く!)

家元(こいつ……こいつ、何者なんだァ!?)
46:2018/07/24(火) 01:17:18.500 ID:68YfIkN+r.net
ホントに何者だよwww
47:2018/07/24(火) 01:19:19.450
青年「……」スッ

家元「お手前を……頂戴してやる」

家元「……」グビッ

家元「!!!」

家元「なんだこりゃあ……!」

家元「うまい、うますぎる……!」

家元(いや、それだけじゃない!)
48:2018/07/24(火) 01:23:04.706
カッコーンッ

家元(聞こえる……! ししおどしの音がたしかに聞こえる!)

ホー… ホーホケキョ…

家元(ウグイスの鳴き声まで!)

家元(いや、聞こえるだけじゃない。見える……見えるぞ!)

フワッ…

家元(美しくも質素で、清らかな……日本庭園!!!)

家元「こ、これは一体……!?」

青年「これが――“わびさび”だ」

家元「わびさび……!」

家元(まさかこの荒廃した世の中で味わえるなんて……嗚呼、涙が止まらない!)ブワッ
49:2018/07/24(火) 01:25:34.152
青年「今の風景を感じられたということは、あなたの“道”は完全に途絶えたわけではないようだ」

青年「どうかこれからは心を改め、厳粛で美しい茶道にまい進して欲しい」

家元「は、はい……! 精進いたします……!」

弟子A「うぅぅ……」ムクッ

弟子B「いてて……」ムクッ

青年「貴女がたもどうぞ」スッ

弟子AB「うまいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
50:2018/07/24(火) 01:28:02.253
家元「私の……完敗です!」

青年「なら、これまでに捕えた人々を解放してもらえるな?」

家元「もちろんです……!」

青年「ではこの地域は、引き続き貴女が守ってくれ」

青年「俺はこの戦いで、自分がやるべきことを見出せたからな」

家元「ま、待って下さい!」

家元「ぜひ……ぜひあなたのお名前をお聞かせ願いたい!」

青年「俺の名は……」
52:2018/07/24(火) 01:30:50.487
青年「万利休」

家元「ま、まさか……!?」

青年「千利休の……末裔だ」

家元「あ、あああ……! どうりで……!」

家元(なんてことだ……千利休の血を受け継ぐ者と茶道勝負をしていたとは!)

家元(ふふ……こうなるに決まってるじゃないか……!)

…………

……
53:2018/07/24(火) 01:32:01.896 ID:1Ezo6NcVr.net
すげえ
先祖の10倍
54:2018/07/24(火) 01:33:19.016
父「家元を改心させてくれて、ありがとうございました」

母「あの人も元々は優秀な茶人だったのですが、世の中が荒んだことですっかり病んでしまって……」

青年「やはりそうでしたか」

少女「お兄さん、ありがとー!」

青年「どういたしまして。これでお茶の礼はできたかな」

少女「これからお兄さんは、どうするの?」

青年「千利休の子孫として、荒廃しきった日本に“わびさび”を再び伝えるつもりだ」

青年「そうすれば茶道だけじゃなく、他の“道”もよみがえり――」

青年「日本全体が生まれ変わるはずだ!」
55:2018/07/24(火) 01:36:29.995
少女「お兄さんならきっとできるよ! 応援してる!」

青年「そういってもらえると心強いよ」

少女「あたし待ってるから……お兄さんが帰ってくるのを、お茶を立てて待ってるから!」

青年「ああ、必ず戻ってくる!」


こうして青年は旅立った。

これぞ千利休の血を受け継ぐ青年“万利休”が、“わびさび”で日本を救う伝説の幕開けであった――







― 完 ―
60:2018/07/24(火) 01:41:27.736 ID:Ucx1HHN80.net
おっつ
61:2018/07/24(火) 01:45:20.288 ID:1Ezo6NcVr.net

なんか読み切り漫画でありそうな雰囲気だった
64:2018/07/24(火) 02:04:20.793 ID:s8gZ19dv0.net
豊臣の末裔とライバル関係になりそう