1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:43:41.89 ID:ovCOKvqX0
俺「最近暖かくなってきたし、バイトでもするか」
カタカタカタ
俺「自動車教習所の、エキストラのバイト?なんだこりゃ」
俺「話のネタになることだし、受けるだけ受けてみるかな」カチッ

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:44:54.76 ID:ovCOKvqX0
俺「そして受かってしまった。免許持ってないのにいいのかな」

教官「エキストラの方ですね、説明しますのでこちらへどうぞ」

俺(結構人数いるんだな‥‥‥三十人くらいいるんじゃないか。年齢層もバラバラだな)

女「こんにちは」

俺「あ、こんにちは」

女「どきどきしちゃいますね、私ちゃんと飛び出せるか心配です」

俺「は?」
女「え、エキストラのバイトですよね?」
教官「はい、説明を始めますよ」

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:45:53.48 ID:ovCOKvqX0
教官「これから十人ずつに分かれ、指定の経路で待機してもらいます」
教官「本日の卒業検定の受験者は十名です。経路上に教習車が侵入し、我々教官からの無線の指示を受けた後‥‥‥」
教官「教習車の前方に飛び出してください」

俺「は?」

教官「安心してください。教習車には助手席にもブレーキがついていますので、万が一にも轢かれる心配はありません」

俺(いや、そういう問題じゃないだろう)

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:47:03.50 ID:ovCOKvqX0
教官「では、一人ずつ経路図を取りに来てください」
――ざわざわ

俺「経路A、大型スーパー前の交差点‥‥‥」
俺(一番危なそうな気がする)

女「俺さんは経路Aなんですか、難しいところですね」ニコ

俺「えっと、女さんの場所は」

女「路地からの飛び出し、みたいです」

俺「気をつけてくださいね」

女「ありがとうございます」

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:48:11.35 ID:ovCOKvqX0
教官「それでは、二人ずつ待機場所まで送っていきますので車に乗ってください」
教官「待機場所は各二人です」

俺「俺の相方は、誰だろう」キョロキョロ

眼鏡「‥‥‥Aの大型スーパー前交差点の人ですか」

俺「うん、そうだけど」

俺(なんだか神経質そうな奴だな)

眼鏡「私はこのバイトは十回目だけど、自分なりに飛び出しのポリシーがあるんだ」
眼鏡「せいぜい足を引っ張らないように頑張ってよ」

俺「わ、わかったよ」
俺(イヤイヤ、ポリシーとかあるのかよこのバイトに)

教官「では出発しますよー」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:50:48.55 ID:ovCOKvqX0
大型スーパー前

俺「すごい賑わってるんだな‥‥‥」

眼鏡「教習所エキストラなら誰でも一度は立ってみたい舞台だ。そんなことも自覚せずにここにいるのか」

俺「お前はすごく嬉しそうだな」

眼鏡「当たり前だろう。十回目にしてやっと憧れの舞台に立てたんだからな」
眼鏡「お前は本当にズブの素人みたいだから、私が基本を教えてあげよう」

俺「それはご丁寧にどうも」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:51:44.87 ID:ovCOKvqX0
眼鏡「教習所のトラの仕事は、卒業検定中の教習車の前に飛び出すことだ」

俺「トラ?」

眼鏡「エキストラの略だ」

眼鏡「自動車の運転には常に不測の事態を見越した運転操作が求められる」
眼鏡「いうなれば卒検で飛び出すことによって、受験者が不測の事態をも見越した運転ができているかを試しているんだ」

俺「は、はあ」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:52:50.55 ID:ovCOKvqX0

眼鏡「気の抜けた返事だな」

俺「だって、危ないだろう」

眼鏡「本当に事故になってからじゃ遅いんだぞ」
眼鏡「私たちがエキストラとして飛び出すことで、不幸な事故に遭う人を減らせるんだ」
眼鏡「精一杯飛び出そう」

俺「わかったよ」

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:53:22.83 ID:ovCOKvqX0
眼鏡「ただ、間際に飛び出してはいけないんだ」

俺「轢かれるからか」

眼鏡「いや、教官が急ブレーキを踏むと一発で失格になってしまうからね」
眼鏡「だから、程よい距離で飛び出すんだ。無駄に受験者にお金を払わせてはいけない」

俺「難しいですね」

眼鏡「奥深いだろう」どや

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:54:19.82 ID:ovCOKvqX0
眼鏡「この交差点は距離は短いが、買い物客が多く利用するから人通りは多い。そのため信号が設置されている」

俺「さっきからひっきりなしに主婦が通ってるね」

眼鏡「教習車は左折で侵入してくる予定だ。こういうポイントは卒検で落ちる人が多い」

俺「そうなんですか」

眼鏡「巻き込み確認、左折後の信号の確認。人がわたっていたら、絶対に曲がってはいけない」

俺「俺免許ないんで、よくわからないです」

眼鏡「私はペーパーだ」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:55:01.80 ID:ovCOKvqX0
眼鏡「今回の受験者は十名、3コースに分かれているから少なくとも三回、多くても四回だ」
眼鏡「一回につき一人が鉄則だ。最初は私がお手本を見せるよ」

俺「お願いします」

眼鏡「忘れずにイヤホンをしてくれよ。無線で指示が出てからだ。無茶はしないこと、いいね」

俺「ラジャーキャプテン」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:55:44.67 ID:ovCOKvqX0
――ザーザー
俺「お」
無線「教習車3番、コースA大型スーパー前交差点付近に接近」

眼鏡「来たか」

無線「左折により当該交差点に侵入、カウントダウン」

3、2、1

俺(教習車が見えた、それに信号が点滅し始めた‥‥‥)

眼鏡「今だ」

俺(さりげなさを装いながら、けれど一切教習車を気にしないように)
俺「思ったより高度な技だな」

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:56:46.07 ID:ovCOKvqX0
――教習車は無事一時停止し通過していく

眼鏡「どうだ、ちゃんと見ていたか」

俺「帰りはきちんと信号守って帰ってくるのな」

眼鏡「信号無視はしてはいけない、常識だ」

俺「わかってるよ」

眼鏡「次はお前の番だ。落ち着いて、丁寧に飛び出してくれ」

俺「うう、できるかな」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:57:32.03 ID:ovCOKvqX0
――二十分後
――ザーザー
眼鏡「ほら、きたぞ」

無線「教習車5番、コースA大型スーパー前交差点付近に接近」

俺「すーはーすーはー」

無線「左折により当該交差点に侵入、カウントダウン」

3、2、1

俺(どうしようどうしよう。公然と飛び出しなんてできるのかよ)

眼鏡「大丈夫、落ち着いて。助手席の教官を信じるんだ。今だ」

俺(うおお、飛び出してやったぞ。ちゃんと止まってくれよ)

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:58:23.64 ID:ovCOKvqX0
眼鏡「まあまあだな。ぎこちなくてロボットかと思ったが」

俺「これ、結構緊張しますね」

眼鏡「仕掛ける側も仕掛けられる側も同じ緊張感を共有する。それが教習所トラのバイトの醍醐味だからな」
眼鏡「あとは、そうだな時間的にあと一回かな。もう一回やるか?」

俺「いやいやお譲りします」

眼鏡「そうか。ありがとう」

俺(感謝されることか?)

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 12:59:28.00 ID:ovCOKvqX0
俺(それにしてもとんでもないバイトだ。それにしてもさっきから小さな子供を連れた主婦が多いな)
俺(小さい子供の動きは予想できないからな。こんなところで実際事故が起きたら大変だ)

眼鏡「なんだ、さっきから幼女ばかり凝視して。そういう趣味なのか」

俺「いいえ、違います」

コロコロコロ

俺(なんだ、スーパーボール?さっきの子供が落としていったのか)
俺「おい、眼鏡。あそこに‥‥‥」

――ザーザー

眼鏡「静かにしてくれ、無線が入った」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:00:22.93 ID:ovCOKvqX0
無線「教習車9番、コースA大型スーパー前交差点付近に接近」

俺「横断歩道の上にさ」

眼鏡「ちょっと後にしてくれないか、カウントが聞こえない」

無線「左折により当該交差点に侵入、カウントダウン」

3、2、1

俺「聞いてくれよ」

眼鏡「後でな」

俺「ちょっと、横断歩道にスーパーボールがって」
俺(聞こえたかな。まああいつに限ってスーパーボールにけっつまずくなんてベタなことは)

眼鏡「ちょ、きゃっ」

俺「うわー転んじゃったよ!!」

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:01:09.22 ID:ovCOKvqX0
俺(助けなきゃって、教習車来ちゃってるし)
俺「だから言ったじゃないか、ほら、立って。渡っちゃおう」

美少女「待って、眼鏡、眼鏡が!!」

バキ

俺「あー」

美少女「あああああああ」

俺「‥‥‥てか、あなたどちら様」

美少女「・・・眼鏡、だ」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:02:35.29 ID:ovCOKvqX0
――ザーザー

無線「お疲れ様でした。最後の飛び出しの協力プレイも良かったですよ」
無線「本日はこれで終了です。そのまま迎えの車が来るまで待機してください」

俺「大丈夫、どこも打ってない?」

美少女「‥‥‥眼鏡」

俺「うん、眼鏡は残念だったね。でも、この際コンタクトにすればいいと思うけど」

美少女「・・・無理」

俺「なんで」

美少女「・・・眼鏡と一緒に成長してきたようなものだから、眼鏡がないと恥ずかしくて顔も上げられない」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:03:14.16 ID:ovCOKvqX0
俺「そっか。でも今日はしょうがない」

美少女「しょうがなくない、お前が教えてくれていればこんなヘマはしなかった」

俺「教えたじゃないか」

美少女「うう、私のトラ人生で初の大失態。なんたる不覚」

俺「凹むポイントはそっちなのか」

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:03:46.34 ID:ovCOKvqX0
美少女「‥‥‥それにしても、お前」

俺「なんだ」

美少女「あの飛び出しはなんだ、指示もなく飛び出しては危険だろう。身の程知らず」

俺「なんだよ、助けるのは当然だろ」

美少女「私はしくじったのだ。捨て置けばいいものを」

俺「そんなにサバイバルなバイトなんですか、これは」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:04:41.61 ID:ovCOKvqX0
美少女「だから、いいな。一週間後の○△教習所のトラのバイト、お前も受けるんだ」

俺「はあ?」

美少女「この借り、必ず返えさせてもらう。それに、お前を立派な教習所トラに育て上げてやるからな」

俺「‥‥‥ええ?」

美少女「立派なトラになって、全国の交通安全に貢献しようじゃないか」がし


こうして俺は、奥深い教習所エキストラの世界へと足を踏み入れた。
俺と美少女が全国の教習所でエキストラとして活躍し、一種都市伝説化していくのは、また別の話。


35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:05:30.67 ID:ovCOKvqX0
終了です
短くてすまん

実は俺は、信号無視で横断歩道に飛び込んできたおばちゃんのせいで卒検落ちた経験がある

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:06:35.34 ID:qjBrKo320
ワロタ
そんなに運悪い奴いるのか

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:08:23.37 ID:wAUTKDHx0
俺は2回ババアが飛び出してきたけど受かったわ


あれもトラだったのか…

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:08:31.63 ID:KjPQFQVJ0
てっきり教習にブレーキ踏ませて儲けるためにバイトがあるのかと

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:10:46.66 ID:vtJxDb5b0
教習中に歩行者信号無視しやがったジジイを巻き込みそうになったことならある

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:14:31.42 ID:ovCOKvqX0
免許持ってる人も、これから取る人も
いつも影からトラが飛び出す機会を狙ってると思って安全運転でよろしくな

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 13:55:31.04 ID:ygEVRlbG0
教習中に教官が寝てたことならあった

引用元: 俺「教習所で、エキストラのバイト‥‥‥?」