1:2018/09/22(土) 01:20:51.373
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
家入住也(27) フリーター
【追い出し屋】
ホーッホッホッホ……。」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
家入住也(27) フリーター
【追い出し屋】
ホーッホッホッホ……。」
3:2018/09/22(土) 01:23:29.890
深夜、東京のある都市。市街地。夜中ということもあり、道路を走る車の台数は昼より少ない。
住宅街。団地。真夜中であるためか、歩道には人があまり見当たらない。
とあるマンション。ある部屋。布団に横たわる若者。目を閉じてはいるものの、どうやら眠れないようだ。
テロップ「家入住也(27) フリーター」
憂鬱そうな表情で、再び目を開く家入。隣の部屋からは、ヒップホップの音楽が大音量で響いている。
隣の住人が、ヒップホップの音楽とともに踊って足を踏み鳴らし、何かの奇声を上げている。
家入(またか……。今年になってから、俺はいつもいつも騒音に悩まされて眠れないでいる……)
住宅街、ある家。家の塀の前には、宅急便会社「佐山急便」のトラックが停まっている。
大きな荷物を運ぶ、「佐山急便」のバイトたち。制服を着た家入がそこに加わっている。
目の下にクマが浮かび、眠そうな表情の家入。軍手をはめた家入の両手から、一瞬力が抜ける。
地面に落ちる荷物。眠気が吹っ飛び、蒼白な顔になる家入。彼の仕事のパートナーが、不快そうな表情になる。
住宅街。団地。真夜中であるためか、歩道には人があまり見当たらない。
とあるマンション。ある部屋。布団に横たわる若者。目を閉じてはいるものの、どうやら眠れないようだ。
テロップ「家入住也(27) フリーター」
憂鬱そうな表情で、再び目を開く家入。隣の部屋からは、ヒップホップの音楽が大音量で響いている。
隣の住人が、ヒップホップの音楽とともに踊って足を踏み鳴らし、何かの奇声を上げている。
家入(またか……。今年になってから、俺はいつもいつも騒音に悩まされて眠れないでいる……)
住宅街、ある家。家の塀の前には、宅急便会社「佐山急便」のトラックが停まっている。
大きな荷物を運ぶ、「佐山急便」のバイトたち。制服を着た家入がそこに加わっている。
目の下にクマが浮かび、眠そうな表情の家入。軍手をはめた家入の両手から、一瞬力が抜ける。
地面に落ちる荷物。眠気が吹っ飛び、蒼白な顔になる家入。彼の仕事のパートナーが、不快そうな表情になる。
5:2018/09/22(土) 01:26:09.087
パートナー「家入!何やってるんだ!」
家入「す、すみません……」
道路を走る「佐山急便」のトラック。後部座席で居眠りをする家入。トラックの運転手が、家入を一瞬睨みつける。
「佐山急便」営業所。上司の前で、神妙そうな表情をする家入。
上司「家入さん。あなた、仕事でミスが目立ち過ぎていますよ」
家入「申し訳ありません……。これからは気をつけます」
上司「その言葉、前にも聞きました。仕事中に何度も荷物を落とすようでは……」
「あなたはもう、ここへ来なくていいですから」
家入「……ということは」
上司「単刀直入に言うなら、『クビ』ということですよ」
街を歩く家入。落ち込んだ表情と、眠気の混じった表情が入り混じった顔をしている。
家入(俺は「佐山急便」をクビになってしまった……。また、一からバイト先を探さなければいけないのか……)
(くそっ……!!あの隣の住人の騒音に悩まされず、睡眠不足になっていなければ……)
(俺はバイトでミスをせずに済んだし……、勤め先もクビにならずに済んだんだ……)
家入「す、すみません……」
道路を走る「佐山急便」のトラック。後部座席で居眠りをする家入。トラックの運転手が、家入を一瞬睨みつける。
「佐山急便」営業所。上司の前で、神妙そうな表情をする家入。
上司「家入さん。あなた、仕事でミスが目立ち過ぎていますよ」
家入「申し訳ありません……。これからは気をつけます」
上司「その言葉、前にも聞きました。仕事中に何度も荷物を落とすようでは……」
「あなたはもう、ここへ来なくていいですから」
家入「……ということは」
上司「単刀直入に言うなら、『クビ』ということですよ」
街を歩く家入。落ち込んだ表情と、眠気の混じった表情が入り混じった顔をしている。
家入(俺は「佐山急便」をクビになってしまった……。また、一からバイト先を探さなければいけないのか……)
(くそっ……!!あの隣の住人の騒音に悩まされず、睡眠不足になっていなければ……)
(俺はバイトでミスをせずに済んだし……、勤め先もクビにならずに済んだんだ……)
6:2018/09/22(土) 01:28:24.886
眠気に耐えながら、覚束ない足取りでフラフラと歩く家入。家入の目のアップ。目の下に浮かぶクマ。
家入(それにしても、今の俺は猛烈に眠い……。どこかで横になって休もう……)
あるインターネットカフェ。漫画の詰まった本棚と、パソコンが並ぶ店内。
とあるスペース。座席に乗っかって熟睡する家入。
インタネットカフェの中に入る喪黒。彼は、パソコンが置かれたスペースの中を歩く。
とあるスペースのドアを開け、中で眠る男性――家入をちらりと眺める喪黒。
喪黒「…………」
夕方。インターネットカフェを出て、道を歩く家入。家入の側には、いつの間にか喪黒がいる。
喪黒「もしもし……」
家入「は……い……。一体……、何の用ですか……」
喪黒「おやおや……、何やら元気がなさそうですなぁ」
「あなたはまだ若いんですから……。もう少しシャキッとしてくださいよ」
家入(それにしても、今の俺は猛烈に眠い……。どこかで横になって休もう……)
あるインターネットカフェ。漫画の詰まった本棚と、パソコンが並ぶ店内。
とあるスペース。座席に乗っかって熟睡する家入。
インタネットカフェの中に入る喪黒。彼は、パソコンが置かれたスペースの中を歩く。
とあるスペースのドアを開け、中で眠る男性――家入をちらりと眺める喪黒。
喪黒「…………」
夕方。インターネットカフェを出て、道を歩く家入。家入の側には、いつの間にか喪黒がいる。
喪黒「もしもし……」
家入「は……い……。一体……、何の用ですか……」
喪黒「おやおや……、何やら元気がなさそうですなぁ」
「あなたはまだ若いんですから……。もう少しシャキッとしてくださいよ」
8:2018/09/22(土) 01:30:25.880
家入「今の俺は、とてもじゃないですが……。そういう気持ちになれないですよ……」
喪黒「もしかすると、どこか身体の不調でも感じているのですか?例えば、睡眠不足とか……」
家入「えっ!?ど、どうしてそれを……」
喪黒「さっき、インターネットカフェの中であなたの姿を見たのですよ」
「パソコンの置かれているスペースの中で、椅子へ横になって眠り続けるあなたを……」
家入「俺のこと、覗き見していたんですか……。あなた悪趣味ですね……」
喪黒「こんな時間にインターネットカフェにいたというのは、おそらく何かの事情のせいでしょう」
「例えば……、今まで働いていた勤め先を突然クビになったとか……」
家入「ええ……。全くその通りですよ!あ、あなた一体何者なんですか!?」
喪黒「いやぁ……。仕事柄、長年、人間の観察を行ってきたおかげでしてねぇ……」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
家入「ココロのスキマ、お埋めします!?」
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
喪黒「もしかすると、どこか身体の不調でも感じているのですか?例えば、睡眠不足とか……」
家入「えっ!?ど、どうしてそれを……」
喪黒「さっき、インターネットカフェの中であなたの姿を見たのですよ」
「パソコンの置かれているスペースの中で、椅子へ横になって眠り続けるあなたを……」
家入「俺のこと、覗き見していたんですか……。あなた悪趣味ですね……」
喪黒「こんな時間にインターネットカフェにいたというのは、おそらく何かの事情のせいでしょう」
「例えば……、今まで働いていた勤め先を突然クビになったとか……」
家入「ええ……。全くその通りですよ!あ、あなた一体何者なんですか!?」
喪黒「いやぁ……。仕事柄、長年、人間の観察を行ってきたおかげでしてねぇ……」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
家入「ココロのスキマ、お埋めします!?」
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
10:2018/09/22(土) 01:32:30.730
家入「心のスキマを埋める……?人生相談の方なんですか?」
喪黒「どちらかと言うと、ボランティアみたいなものですよ。何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」
BAR「魔の巣」。喪黒と家入が席に腰掛けている。
家入「大学卒業後……。俺は東京に住んで、アルバイト暮らしをしながら生活をしてきました」
喪黒「もしかして、就職活動に失敗したのですか?」
家入「そうですよ……。俺は『佐山急便』のバイトをしながら、何とか飯を食ってきましたけど……」
「今日、そのバイト先をクビになったんです……」
喪黒「大変ですねぇ……」
家入「でも……。俺にとって大変なのは、隣の部屋にいる住人の騒音ですよ」
「おかげで、俺は夜もろくに眠れないし……。睡眠不足のせいで、バイトでミスが重なり……」
「その結果、肝心のバイトもクビになって……」
喪黒「お気の毒ですなぁ……」
家入「隣にいる住人が、毎日毎日、朝も昼も夜も……。大音量で音楽を流すんですよ……」
喪黒「どんな音楽ですか!?」
喪黒「どちらかと言うと、ボランティアみたいなものですよ。何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」
BAR「魔の巣」。喪黒と家入が席に腰掛けている。
家入「大学卒業後……。俺は東京に住んで、アルバイト暮らしをしながら生活をしてきました」
喪黒「もしかして、就職活動に失敗したのですか?」
家入「そうですよ……。俺は『佐山急便』のバイトをしながら、何とか飯を食ってきましたけど……」
「今日、そのバイト先をクビになったんです……」
喪黒「大変ですねぇ……」
家入「でも……。俺にとって大変なのは、隣の部屋にいる住人の騒音ですよ」
「おかげで、俺は夜もろくに眠れないし……。睡眠不足のせいで、バイトでミスが重なり……」
「その結果、肝心のバイトもクビになって……」
喪黒「お気の毒ですなぁ……」
家入「隣にいる住人が、毎日毎日、朝も昼も夜も……。大音量で音楽を流すんですよ……」
喪黒「どんな音楽ですか!?」
11:2018/09/22(土) 01:34:44.171
家入「ヒップホップとか、レゲエとか、ラップとか、EDMとか、クラブミュージックとか……」
喪黒「なるほど。管理人に言ったり、警察を呼んだりしなかったのですか?」
家入「それはやりましたよ。でも……。管理人が注意したくらいでは、あの住人は騒音行為をやめませんし……」
「警察も、あの住人にほんの少し注意しただけで……。何もしませんでした……」
喪黒「そうですか。で、あなたが住んでいるマンションの名前と、管理している不動産会社の名前は?」
家入「僕が住んでいるマンションの名前は『スカイハイ奥多摩』、管理会社の名前は『モリ総合管理』です」
「僕は東京に来てから、ずっとこのマンションに住んでいますが……。隣人の騒音が始まったのは今年になってからです」
喪黒「そういうことですか……。家入さんが騒音に悩んでいる裏事情、よーく分かりましたよ」
家入「えっ!?」
喪黒「実はですねぇ……。『スカイハイ奥多摩』を管理する『モリ総合管理』の正体は……」
「暴力団・稲盛会のフロント企業なんです。家入さんは、悪徳不動産会社に嵌められたんですよ」
家入「何ですって!?」
喪黒「あなたの隣で騒音行為をやっている住人は、おそらく暴力団組員か半グレの人間でしょう」
喪黒「なるほど。管理人に言ったり、警察を呼んだりしなかったのですか?」
家入「それはやりましたよ。でも……。管理人が注意したくらいでは、あの住人は騒音行為をやめませんし……」
「警察も、あの住人にほんの少し注意しただけで……。何もしませんでした……」
喪黒「そうですか。で、あなたが住んでいるマンションの名前と、管理している不動産会社の名前は?」
家入「僕が住んでいるマンションの名前は『スカイハイ奥多摩』、管理会社の名前は『モリ総合管理』です」
「僕は東京に来てから、ずっとこのマンションに住んでいますが……。隣人の騒音が始まったのは今年になってからです」
喪黒「そういうことですか……。家入さんが騒音に悩んでいる裏事情、よーく分かりましたよ」
家入「えっ!?」
喪黒「実はですねぇ……。『スカイハイ奥多摩』を管理する『モリ総合管理』の正体は……」
「暴力団・稲盛会のフロント企業なんです。家入さんは、悪徳不動産会社に嵌められたんですよ」
家入「何ですって!?」
喪黒「あなたの隣で騒音行為をやっている住人は、おそらく暴力団組員か半グレの人間でしょう」
12:2018/09/22(土) 01:37:21.522
家入「ちょ、ちょっと待ってください!暴排条例によると、ヤクザはマンションを借りられないはずですよ!」
喪黒「フロント企業が管理しているマンションに、末端ヤクザをこっそり送り込んだから……」
「今までバレなかったのですよ。いわゆる、法の抜け穴って奴です」
家入「じゃあ、隣の住人の正体は……」
喪黒「そうです!あなたを追い出すために暴力団が送り込んだ鉄砲玉……。つまり、『追い出し屋』ですよ!」
家入「そ、そんな……」
喪黒「『追い出し屋』の人間が、朝も昼も夜も、ろくに寝ないで大音量で音楽を流せるのは……」
「彼が関わる暴力団から支給された……、クスリによる効果のおかげでしょう」
家入「な、何てことだ……!」
喪黒「カタギの人間である家入さんを追い出し、ヤクザの息のかかった人間を新たに住人として入れる……」
「それが彼らの狙いです。ヤクザマンションの中に、カタギの人間のあなたがいるというのは……」
「彼らにとっては邪魔ですから……」
家入「い……、いくら何でも、あんまりだ!!」
喪黒「じゃあ、いっそのこと……。今住んでいるマンションから引っ越したらどうです?」
「こんなところに住んでいても、家入さんにとっては何の得にもなりませんよ」
喪黒「フロント企業が管理しているマンションに、末端ヤクザをこっそり送り込んだから……」
「今までバレなかったのですよ。いわゆる、法の抜け穴って奴です」
家入「じゃあ、隣の住人の正体は……」
喪黒「そうです!あなたを追い出すために暴力団が送り込んだ鉄砲玉……。つまり、『追い出し屋』ですよ!」
家入「そ、そんな……」
喪黒「『追い出し屋』の人間が、朝も昼も夜も、ろくに寝ないで大音量で音楽を流せるのは……」
「彼が関わる暴力団から支給された……、クスリによる効果のおかげでしょう」
家入「な、何てことだ……!」
喪黒「カタギの人間である家入さんを追い出し、ヤクザの息のかかった人間を新たに住人として入れる……」
「それが彼らの狙いです。ヤクザマンションの中に、カタギの人間のあなたがいるというのは……」
「彼らにとっては邪魔ですから……」
家入「い……、いくら何でも、あんまりだ!!」
喪黒「じゃあ、いっそのこと……。今住んでいるマンションから引っ越したらどうです?」
「こんなところに住んでいても、家入さんにとっては何の得にもなりませんよ」
13:2018/09/22(土) 01:39:34.207
家入「でも、俺は今までバイト暮しだったから……。引越しのための金がないんですよ……」
喪黒「分かりました。家入さんの引越しのための資金、私が出しますよ」
家入「えっ、いいんですか!?」
喪黒「あなたのような人を救うのが、私の仕事なんです」
家入「とはいえ……。こんな形で引っ越すなんて、『追い出し屋』に負けたみたいで悔しいですよ」
喪黒「分かりました。私が何とかしましょう」
深夜、アパート『スカイハイ奥多摩』。
家入の部屋。室内には、喪黒と家入が2人いる。隣の部屋からは、いつも通り大音量でヒップホップが流れる。
隣の住人が踊って足を踏み鳴らす音と、何かの奇声も聞こえる。憂鬱そうな表情の家入。落ち着いた表情の喪黒。
玄関のドアを開け、外に出る喪黒。喪黒は、隣の部屋のドアの前に立つ。喪黒の後ろにいる家入。
ピッキングを使い、ドアを開ける喪黒。
家入「え、ピッキング!?喪黒さん、そんなもの持ってたんですか!?」
喪黒「分かりました。家入さんの引越しのための資金、私が出しますよ」
家入「えっ、いいんですか!?」
喪黒「あなたのような人を救うのが、私の仕事なんです」
家入「とはいえ……。こんな形で引っ越すなんて、『追い出し屋』に負けたみたいで悔しいですよ」
喪黒「分かりました。私が何とかしましょう」
深夜、アパート『スカイハイ奥多摩』。
家入の部屋。室内には、喪黒と家入が2人いる。隣の部屋からは、いつも通り大音量でヒップホップが流れる。
隣の住人が踊って足を踏み鳴らす音と、何かの奇声も聞こえる。憂鬱そうな表情の家入。落ち着いた表情の喪黒。
玄関のドアを開け、外に出る喪黒。喪黒は、隣の部屋のドアの前に立つ。喪黒の後ろにいる家入。
ピッキングを使い、ドアを開ける喪黒。
家入「え、ピッキング!?喪黒さん、そんなもの持ってたんですか!?」
15:2018/09/22(土) 01:41:59.980
部屋の中に入る喪黒と家入。異様な光景を目にし、家入は思わず目を丸くする。
あちこちが散らかり、ゴミだらけになった室内の中で……。スウェット上下の中年男が踊りを踊っている。
金髪のロングヘア、瞳孔が開いた目、得体の知れない笑み、不自然に高いテンション……。
男の足元のスマホが、ヒップホップを大音量で流している。
テロップ「五味川大輔(42) 指定暴力団稲盛会・蛇塚組系城田組組員」
喪黒は五味川に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
五味川「ギャアアアアアアアアア!!!」
喪黒のドーンを受け、五味川は座り込む。白髪頭になり、よだれを垂らしながら、うめき声を上げる五味川。
五味川「ア……、ア、ア、ア……」
焦点の定まらない目で、表情から知性を失った五味川。廃人化した五味川を、家入は不安そうな表情で眺める。
五味川の側へ行き、彼のスウェットの上半身を脱がす喪黒。驚く家入。
家入「こ、これは……」
あちこちが散らかり、ゴミだらけになった室内の中で……。スウェット上下の中年男が踊りを踊っている。
金髪のロングヘア、瞳孔が開いた目、得体の知れない笑み、不自然に高いテンション……。
男の足元のスマホが、ヒップホップを大音量で流している。
テロップ「五味川大輔(42) 指定暴力団稲盛会・蛇塚組系城田組組員」
喪黒は五味川に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
五味川「ギャアアアアアアアアア!!!」
喪黒のドーンを受け、五味川は座り込む。白髪頭になり、よだれを垂らしながら、うめき声を上げる五味川。
五味川「ア……、ア、ア、ア……」
焦点の定まらない目で、表情から知性を失った五味川。廃人化した五味川を、家入は不安そうな表情で眺める。
五味川の側へ行き、彼のスウェットの上半身を脱がす喪黒。驚く家入。
家入「こ、これは……」
16:2018/09/22(土) 01:44:21.594
五味川の上半身の大半には、和彫りの刺青が入っている。しかも、彼の両腕には注射の跡が無数ある。
喪黒「ほら……。『追い出し屋』の正体は、私の言った通りの人間だったでしょう?」
五味川「オー……、オー……、オー……」
喪黒と家入は、五味川の部屋から立ち去る。
家入の部屋。静かになった室内にいる、喪黒と家入。
家入「あの、さっきはどうも……」
喪黒「追い出し屋にひと泡吹かせたのだから……。家入さんも、もう思い残すことはないでしょう?」
家入「ええ、まあ……。後は新しいバイト先を見つけるだけですから……」
喪黒「その必要はありませんよ」
家入「えっ!?」
喪黒「実は私、あるマンションを保有しているのですが……。それを家入さんに、ただでプレゼントしようと思うのですよ」
「それだけでなく……。私の支援で、あなたは不動産会社も立ち上げるわけです……。そうすることによって……」
家入「じゃ、じゃあ俺は……」
喪黒「ほら……。『追い出し屋』の正体は、私の言った通りの人間だったでしょう?」
五味川「オー……、オー……、オー……」
喪黒と家入は、五味川の部屋から立ち去る。
家入の部屋。静かになった室内にいる、喪黒と家入。
家入「あの、さっきはどうも……」
喪黒「追い出し屋にひと泡吹かせたのだから……。家入さんも、もう思い残すことはないでしょう?」
家入「ええ、まあ……。後は新しいバイト先を見つけるだけですから……」
喪黒「その必要はありませんよ」
家入「えっ!?」
喪黒「実は私、あるマンションを保有しているのですが……。それを家入さんに、ただでプレゼントしようと思うのですよ」
「それだけでなく……。私の支援で、あなたは不動産会社も立ち上げるわけです……。そうすることによって……」
家入「じゃ、じゃあ俺は……」
17:2018/09/22(土) 01:46:33.505
喪黒「そうです。不動産会社を経営し、マンションオーナーとして暮らすのはどうですか?」
家入「俺のために、わざわざそこまで……。地獄で仏とは、まさにこのこと……」
喪黒「ですがねぇ、家入さん……。あなたには、約束していただきたいことがあります」
家入「約束!?」
喪黒「はい。あなたが管理するマンションに、『追い出し屋』を送り込むような行為は絶対にしてはいけません」
「そもそもあなたなら……。『追い出し屋』の被害を受ける辛さを、誰よりも理解しているはずですから」
家入「わ、分かりました……」
BAR「魔の巣」。喪黒と家入が席に腰掛けている。家入は高価なスーツを身にまとっている。
喪黒「家入さん。あなたも不動産社長として、すっかり貫禄がつきましたなぁ」
家入「まぁ、会社の経営はまだ不慣れですから……。周りにいろいろ教えられることが多くて……」
喪黒「それでも……。あなたは社長として、仕事にやりがいを感じているでしょうし……」
「収入や身分も、以前より安定したものになったはずですよ」
家入「確かに……。まあ、『地位は人を作る』とはよく言ったもんですよ……」
家入「俺のために、わざわざそこまで……。地獄で仏とは、まさにこのこと……」
喪黒「ですがねぇ、家入さん……。あなたには、約束していただきたいことがあります」
家入「約束!?」
喪黒「はい。あなたが管理するマンションに、『追い出し屋』を送り込むような行為は絶対にしてはいけません」
「そもそもあなたなら……。『追い出し屋』の被害を受ける辛さを、誰よりも理解しているはずですから」
家入「わ、分かりました……」
BAR「魔の巣」。喪黒と家入が席に腰掛けている。家入は高価なスーツを身にまとっている。
喪黒「家入さん。あなたも不動産社長として、すっかり貫禄がつきましたなぁ」
家入「まぁ、会社の経営はまだ不慣れですから……。周りにいろいろ教えられることが多くて……」
喪黒「それでも……。あなたは社長として、仕事にやりがいを感じているでしょうし……」
「収入や身分も、以前より安定したものになったはずですよ」
家入「確かに……。まあ、『地位は人を作る』とはよく言ったもんですよ……」
19:2018/09/22(土) 01:54:41.051 ID:sJYC68HeD.net
喪黒「だったら、地位にふさわしい仕事をして人々のために役に立つべきですよ」
「何よりも、あなたには私との約束もありますからねぇ」
家入「ええ……。まあ……」
夜。ある繁華街、嬢に囲まれながら、満足している様子の家入。
キャバ嬢たち「えーっ、この若さで不動産会社社長!?」「すごーーい!」「お金持ちなんだーー!」
家入「いやぁ、それほどでも……」
とある街の郊外。家入不動産。執務室で、机に向かう家入。
家入「昨日は、飲みすぎたな……。二日酔いで頭が重い……」
社員A「そんなことより、社長……。会社のお金を使って豪遊するのは、よくないですよ」
家入「分かっているよ……。でも、可愛い女の子に店でチヤホヤされるのは楽しいから……」
「つい、病みつきになって……」
社員B「こんなことを続けたら、会社の経営が行き詰まりますよ……」
「何よりも、あなたには私との約束もありますからねぇ」
家入「ええ……。まあ……」
夜。ある繁華街、嬢に囲まれながら、満足している様子の家入。
キャバ嬢たち「えーっ、この若さで不動産会社社長!?」「すごーーい!」「お金持ちなんだーー!」
家入「いやぁ、それほどでも……」
とある街の郊外。家入不動産。執務室で、机に向かう家入。
家入「昨日は、飲みすぎたな……。二日酔いで頭が重い……」
社員A「そんなことより、社長……。会社のお金を使って豪遊するのは、よくないですよ」
家入「分かっているよ……。でも、可愛い女の子に店でチヤホヤされるのは楽しいから……」
「つい、病みつきになって……」
社員B「こんなことを続けたら、会社の経営が行き詰まりますよ……」
20:2018/09/22(土) 01:56:48.850 ID:sJYC68HeD.net
家入「いやぁ……。すまん、すまん……」
社員C「もっと真面目に会社を経営してください。堅実な経営をしていれば、会社は何とかなりますから……」
家入「でも、堅実な経営では入ってくる収入が限られているからなぁ……」
「ちょっと変わったこともやってみたい……」
夕方。マンション。アジア系の外国人が数人、スーツケースを引いて建物の中に入る。
別のマンション。廊下には、スーツケースやボストンバッグを持ったアジア系の外国人が何人かいる。
家入不動産。執務室にいる家入。
家入「よし!外国人観光客向けの民泊サービスは大成功だな!前よりも収入が大幅に増えた……」
「俺が保有するマンションを使って、もっともっと民泊サービスを増やしていこう……」
他のマンション。建物の中に入る、アジア系の外国人観光客たち。外国人たちが何かの会話をしている。
家入不動産。家入は社員たちと会話をしている。
家入「この調子で、民泊サービスを増やすぞ!そうすれば、俺はさらに金を儲けることができるんだ!」
社員C「もっと真面目に会社を経営してください。堅実な経営をしていれば、会社は何とかなりますから……」
家入「でも、堅実な経営では入ってくる収入が限られているからなぁ……」
「ちょっと変わったこともやってみたい……」
夕方。マンション。アジア系の外国人が数人、スーツケースを引いて建物の中に入る。
別のマンション。廊下には、スーツケースやボストンバッグを持ったアジア系の外国人が何人かいる。
家入不動産。執務室にいる家入。
家入「よし!外国人観光客向けの民泊サービスは大成功だな!前よりも収入が大幅に増えた……」
「俺が保有するマンションを使って、もっともっと民泊サービスを増やしていこう……」
他のマンション。建物の中に入る、アジア系の外国人観光客たち。外国人たちが何かの会話をしている。
家入不動産。家入は社員たちと会話をしている。
家入「この調子で、民泊サービスを増やすぞ!そうすれば、俺はさらに金を儲けることができるんだ!」
21:2018/09/22(土) 01:59:22.014 ID:sJYC68HeD.net
社員A「でも社長……。マンションの空き部屋の数には限りがありますよ……」
家入「空き部屋がないんなら、作ればいいんだよ!!」
社員B「え!?それじゃあ……」
家入「決まってるだろ!!俺が管理するマンションに、『追い出し屋』を送り込むんだよ!!」
社員C「さすがに、それは……」
家入「俺は不動産会社の社長であり、今の社会では勝ち組なんだ!世の中は弱肉強食なんだよ!」
「社長の俺が金を積めば、ヤクザの連中も喜んで『追い出し屋』の仕事をやってくれるだろうさ!」
ある夜。とあるマンション。布団に入ったまま、騒音に悩まされる女性の住人。隣の部屋から、大音量でラップミュージックが流れる。
さらに、ある日の夕方。廊下の前で、玄関のドアの前に立つ例の女性。ドアには赤のスプレーで、「死ね」と書かれている。
深夜。店がいくつも立ち並ぶ歓楽街。店から出る家入。
家入「ふうっ、最高だな!」
真夜中で、人があまり見当たらない路地裏。家入が上機嫌で道を歩いていると……、目の前に喪黒が姿を現す。
家入「空き部屋がないんなら、作ればいいんだよ!!」
社員B「え!?それじゃあ……」
家入「決まってるだろ!!俺が管理するマンションに、『追い出し屋』を送り込むんだよ!!」
社員C「さすがに、それは……」
家入「俺は不動産会社の社長であり、今の社会では勝ち組なんだ!世の中は弱肉強食なんだよ!」
「社長の俺が金を積めば、ヤクザの連中も喜んで『追い出し屋』の仕事をやってくれるだろうさ!」
ある夜。とあるマンション。布団に入ったまま、騒音に悩まされる女性の住人。隣の部屋から、大音量でラップミュージックが流れる。
さらに、ある日の夕方。廊下の前で、玄関のドアの前に立つ例の女性。ドアには赤のスプレーで、「死ね」と書かれている。
深夜。店がいくつも立ち並ぶ歓楽街。店から出る家入。
家入「ふうっ、最高だな!」
真夜中で、人があまり見当たらない路地裏。家入が上機嫌で道を歩いていると……、目の前に喪黒が姿を現す。
23:2018/09/22(土) 02:01:39.154 ID:sJYC68HeD.net
喪黒「家入住也さん……。あなた約束を破りましたね」
家入「も、喪黒さん……!!」
喪黒「私は忠告したはずです。あなたが管理するマンションに、『追い出し屋』を送り込んではいけない……と」
家入「ええ……。俺はちゃんと、喪黒さんとの約束を守って……」
喪黒「嘘をついてはいけません。確か、今の家入さんは……。外国人観光客の民泊頼みの経営をしていますよねぇ」
「そこで、マンションに民泊向けの空き部屋をわざわざ作るため……。『追い出し屋』を雇うようになったんでしょ!?」
家入「あ、ああああ……」
喪黒「ほう、図星ですか……。家入さん、あなたは『追い出し屋』の被害を味わった人間でしょ?それなのに……」
家入「ゆ、許してください!喪黒さん!」
喪黒「いいえ、ダメです。約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は家入に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
家入「ギャアアアアアアアアア!!!」
家入「も、喪黒さん……!!」
喪黒「私は忠告したはずです。あなたが管理するマンションに、『追い出し屋』を送り込んではいけない……と」
家入「ええ……。俺はちゃんと、喪黒さんとの約束を守って……」
喪黒「嘘をついてはいけません。確か、今の家入さんは……。外国人観光客の民泊頼みの経営をしていますよねぇ」
「そこで、マンションに民泊向けの空き部屋をわざわざ作るため……。『追い出し屋』を雇うようになったんでしょ!?」
家入「あ、ああああ……」
喪黒「ほう、図星ですか……。家入さん、あなたは『追い出し屋』の被害を味わった人間でしょ?それなのに……」
家入「ゆ、許してください!喪黒さん!」
喪黒「いいえ、ダメです。約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は家入に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
家入「ギャアアアアアアアアア!!!」
24:2018/09/22(土) 02:04:12.551 ID:sJYC68HeD.net
テロップ「数年後――」
ある日の夜。雨が降りしきる公園。広い公園内に、ホームレスが住むテントがいくつも並んでいる。
とあるテント。中に住む2人の男性。2人とも、ぼさぼさ頭、無精ひげ、黒ずんだ服の典型的なホームレスだ。
そのホームレスの正体は、そう……。数年前は社長だった家入と、かつては『追い出し屋』だった五味川だ。
家入「皮肉なもんだな。『追い出し屋』をやった人間が、人並みの住環境を追い出される羽目になるとは……」
酒の入ったワンカップを持つ家入と五味川。
家入「でも、こうやって雨風をしのげるだけでも御の字だ……。今夜も乾杯しようぜ!」
五味川「オウ……、オウ……」
公園の前には、傘を差した喪黒がいる。喪黒の後ろには、数々のテントが見える。
喪黒「そもそも……。誰もが何かしらの形で住まいを持っていますし、住む場所がないと人間は生きていけません」
「人間にとって家とは……。単に自然の猛威をしのぐだけでなく、心の安らぎの場としての役割も果たしています」
「従って……。安全な住環境を確保するというのは、人間にとっては最も切実な問題の一つとも言えましょう」
「なぜなら……。帰るべき場所や住むべき場所があるからこそ、人間は安心して生きることができるのですから……」
「ところで……、家入さんと五味川さんも、公園暮らしにすっかり慣れたようですねぇ。まさに、住めば都ですよ」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
ある日の夜。雨が降りしきる公園。広い公園内に、ホームレスが住むテントがいくつも並んでいる。
とあるテント。中に住む2人の男性。2人とも、ぼさぼさ頭、無精ひげ、黒ずんだ服の典型的なホームレスだ。
そのホームレスの正体は、そう……。数年前は社長だった家入と、かつては『追い出し屋』だった五味川だ。
家入「皮肉なもんだな。『追い出し屋』をやった人間が、人並みの住環境を追い出される羽目になるとは……」
酒の入ったワンカップを持つ家入と五味川。
家入「でも、こうやって雨風をしのげるだけでも御の字だ……。今夜も乾杯しようぜ!」
五味川「オウ……、オウ……」
公園の前には、傘を差した喪黒がいる。喪黒の後ろには、数々のテントが見える。
喪黒「そもそも……。誰もが何かしらの形で住まいを持っていますし、住む場所がないと人間は生きていけません」
「人間にとって家とは……。単に自然の猛威をしのぐだけでなく、心の安らぎの場としての役割も果たしています」
「従って……。安全な住環境を確保するというのは、人間にとっては最も切実な問題の一つとも言えましょう」
「なぜなら……。帰るべき場所や住むべき場所があるからこそ、人間は安心して生きることができるのですから……」
「ところで……、家入さんと五味川さんも、公園暮らしにすっかり慣れたようですねぇ。まさに、住めば都ですよ」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
26:2018/09/22(土) 02:11:50.238 ID:HomECD6E0.net
面白かった
27:2018/09/22(土) 02:12:18.898 ID:IjnCG9CSx.net
乙
読んでしまった
読んでしまった
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