1:2018/10/29(月) 22:00:34.246
― 家 ―

嫁「今日はビーフシチューよ」

格闘家「おっ、うまそうだな! いただきます!」

ガツガツ… ムシャムシャ…

嫁「いい食べっぷりで嬉しいわ」

格闘家「格闘家は体が資本だからな! いっぱい食ってでかくならないと!」

嫁「それじゃ、私も……」グネリッ

嫁「あっ、またスプーン曲げちゃった」

格闘家「……む」

格闘家「俺だってスプーンぐらい曲げられるぜ! ふんっ!」グニャッ

嫁「……む」

嫁「やるじゃない……」

格闘家「よーし、どっちが多くスプーン曲げられるか競争だ!」



2:2018/10/29(月) 22:02:07.072 ID:FdIkqf/+0NIKU.net
ここはヤマブキシティ
3:2018/10/29(月) 22:03:05.043
嫁「えいっ」グネリッ

格闘家「おりゃ!」グニャッ

グネリッ グニャッ グネリッ グニャッ グネリッ グニャッ

……



格闘家「何やってんだ俺ら……」

嫁「ホント……」
4:2018/10/29(月) 22:06:21.175
格闘家「ふんっ……!」グッ…

格闘家「うおおおっ!」グオオッ

嫁「まぁすごい、そんなに重りがついてるバーベルを上げちゃうなんて」

格闘家「俺の強さの秘訣は、この剛腕から繰り出されるパンチだからな」

格闘家「!」ガクンッ

格闘家(やべっ、力抜いちまった!)

格闘家「うおおおおおっ……! つ、潰される……!」グググ…

嫁「大変!」
5:2018/10/29(月) 22:08:39.880
嫁「えいっ」

フワッ… ズシンッ

格闘家「おおっ!」

嫁「大丈夫?」

格闘家「あ、ありがとう……危うく押し潰されるとこだった……」

格闘家(嫁がエスパーで助かったぁ……)
6:2018/10/29(月) 22:12:05.059
― ジム ―

格闘家「ふんっ! ふんっ! ――だあっ!」

ドスッ! ドスッ! ボスッ!

トレーナー「いいパンチだ! サンドバッグが可哀想になっちまうような迫力だ!」

トレーナー「次の試合に勝てば、チャンピオンへの挑戦権を得られる……負けられないぞ!」

格闘家「はいっ!」

格闘家「どおりゃあっ!!!」

ドゴンッ!
7:2018/10/29(月) 22:15:53.957


記者『チャンピオンにとって、戦いとはなんでしょう?』

チャンプ『そうですね……。“恋”のようなものですかね……』

記者『恋……ですか?』

チャンプ『よき対戦相手に巡り合うということは、人に恋するという行為に似ています』

チャンプ『ですが、本当の恋愛はともかく、私は格闘では初恋すらしたことがありませんがね』

記者『それはつまり……』

チャンプ『ええ、私を楽しませてくれそうな対戦相手に巡り合ったことがないということです』

8:2018/10/29(月) 22:18:42.631
格闘家「……ふん、キザなこといいやがって」

嫁「でも、あなたが初恋の相手になればいいだけのことでしょ?」

格闘家「まあ、そうだけど」

格闘家「ところで、君は初恋って覚えてるか?」

嫁「覚えてるわ」

格闘家「! 相手は……もしかして俺?」

嫁「ううん、違う。まだ子供の頃の話だし」

格闘家「!」ガーン
9:2018/10/29(月) 22:21:01.541
格闘家「うう……」

嫁「あら、嫉妬? 嫉妬してくれてるの?」

格闘家「当たり前だろぉ! 今すぐその初恋の相手をぶん殴りたいくらいだ!」

嫁「…………」ポッ

嫁「でも安心して。今一番愛してるのはあなただから」

格闘家「……それを聞いて安心した! よーし、トレーニングだ!」

嫁「ふふっ」
10:2018/10/29(月) 22:24:20.341 ID:+3IxhmpvrNIKU.net
いい夫婦だな
11:2018/10/29(月) 22:25:03.412
そんなある日――

― 町 ―

タッタッタ…

格闘家「ハッ、ハッ、ハッ……」

格闘家「ん?」

格闘家(あれは――)


チャンプ「…………」


格闘家(チャンピオン! なんであんなところに!? 俺を待ち伏せてたのか!?)
12:2018/10/29(月) 22:28:48.069
格闘家「なんの用だ?」

チャンプ「……一度、挑戦者になるかもしれない男の顔をちゃんと見ておこうと思ってね」

格闘家「敵情視察ってわけか。嬉しいねえ」

格闘家「もしかして、俺が初恋の相手になったってことか?」

チャンプ「ずいぶんと自意識過剰なようだな」

チャンプ「悪いが……君では私の相手にはなれない。君を見て確信できた」

格闘家「なんだと!?」

チャンプ「なんだったら、ここでほんの少しだけやり合ってみるかい」

格闘家「……やってやろうじゃねえか!」
13:2018/10/29(月) 22:31:33.135
格闘家「…………」ザッザッ

格闘家「でやっ!」ビュオッ

ビュワオッ! ――ピタッ!

格闘家「…………!」

格闘家(俺の拳より先にチャンプの蹴りが、顔面に……! これが当てられてたら……!)

チャンプ「分かったか? ……格の違いが」

格闘家「くううっ……!」
14:2018/10/29(月) 22:34:26.924 ID:+3IxhmpvrNIKU.net
強い…
15:2018/10/29(月) 22:36:54.476
― 家 ―

格闘家「……くそっ!」

嫁「まあまあ、落ち込まないで」

嫁「お肉を食べて元気出して」

フワフワ… フワフワ…

ザザザッ…

格闘家(おおっ、超能力で配膳してくれるなんて!)

格闘家「君の力は……本当にすごいな」
17:2018/10/29(月) 22:41:11.441
格闘家「さすが、超能力を研究してた施設で……」

嫁「…………」

格闘家「あ、いや……悪い!」

嫁「ううん、いいの」



格闘家(俺の嫁は、幼い頃≪超能力開発研究所≫という施設にいた)

格闘家(そこでは大勢の子供が、超能力開発の名目でさまざまな訓練や実験をさせられたという)

格闘家(部屋にずっと閉じ込められたり、常軌を逸した筋力トレーニングをさせられたり)

格闘家(延々とおかしな音楽を聴かされたり、パズル問題をずっと解かされたり……)

格闘家(人によってメニューは違ったらしいが、それはもう地獄だったそうだ)

格闘家(その中で彼女は特に優秀だったらしい)
19:2018/10/29(月) 22:42:37.258 ID:kh6dpsgLrNIKU.net
格闘家と大してやってる事変わんねえじゃねえか!
20:2018/10/29(月) 22:43:06.171
格闘家(だが、ある日――)

嫁『ある男の子が大暴れして、それに乗じてみんな脱走することができたの』

格闘家(――ということだった)



嫁「結局、研究所はそれから閉鎖に追い込まれたし、今はもう気にしてないわ」

嫁「それに、この力のおかげであなたと知り合えたしね」

格闘家「ハハ、そうだったな」
22:2018/10/29(月) 22:45:45.266
格闘家『ふんっ!』グニャリ

格闘家『どうです!? 俺の怪力なら、フライパンもご覧の通り!』

女『壊れちゃったんですか? すぐ直さないと』グニャリ

格闘家『え!?』



格闘家「あん時はビックリしたよ」

嫁「あれがパフォーマンスだなんて知らなかったから……」

格闘家「あれで俺、一目惚れしちゃったんだよなァ……」

嫁「あのフライパンは、今でも大事に取ってあるわ」
23:2018/10/29(月) 22:48:19.056
試合当日――

― 家 ―

嫁「あなた」

格闘家「ん?」

嫁「今日の試合……見に行ってもいい?」

格闘家「……もちろん!」

格闘家(珍しい……いつもは俺が傷つくとこ見たくないからって、観戦しないのに)

格闘家「ただし、超能力で対戦相手をふっ飛ばしたりしないでくれよ」

嫁「大丈夫、分かってるわよ」
24:2018/10/29(月) 22:49:09.931 ID:Z40D4S9Z0NIKU.net
お前の嫁さんフーディン使いそうだな
25:2018/10/29(月) 22:51:07.288
― 試合会場 ―

ワァァァ……! ワァァァ……!

実況『いよいよ本日のメインイベント!』

実況『チャンピオンへの挑戦権をかけた一戦! 果たしてどちらが勝利するのか!?』

実況『無敵のチャンピオンに挑めるのはどっちだ!?』


ファイター「てめえを倒して、チャンピオンも倒してやるぜ!」

格闘家「それはこっちのセリフだ!」

格闘家(こいつも侮れない強敵だ……! だが、絶対勝つ!)



嫁(頑張って……)
26:2018/10/29(月) 22:54:08.502
カーンッ!


格闘家「でやぁっ!」シュッ

バキィッ! ドカァッ!

ファイター「ぐはっ……!」

ファイター(なんて速く、重いパンチだ……!)

ファイター(こないだまで、こんなんじゃなかったろう……!?)

格闘家(チャンピオンと手合わせしてから、俺はさらなる猛特訓をしたんだ!)

ドズゥッ!

ファイター「ぐえっ……!」

ファイター(強い……! だが……!)
27:2018/10/29(月) 22:57:08.978
ファイター「いただきぃっ!」ダッ

実況『ここでタックルゥ!』

格闘家「ぐっ!」

トレーナー「ま、まずいっ!」

ファイター「寝かせちまえばこっちのもんよォ!」



嫁「ああっ!」

嫁(ダメよ、ダメダメ。邪魔したらダメなんだから絶対)
28:2018/10/29(月) 23:00:34.138
格闘家「ぬああっ!」ブンッ

ドゴォッ!

ファイター「うげっ……!?」

ファイター(倒された状態から、こんなパンチを……!?)

格闘家(あぶねっ!)ササッ

ファイター「くそっ!」

トレーナー「いいぞ!」

実況『格闘家、すかさず立ち上がったーっ!』
29:2018/10/29(月) 23:03:33.472
格闘家「だああああっ!!!」

ドゴォンッ!

ファイター「ぐぼぁっ……!」ドザァッ

実況『必殺の右ストレートが炸裂ーっ! レフェリーが止めたーっ!』

実況『チャンピオンへの挑戦者は格闘家に決まったぁーっ!』



カンカンカンカンカーンッ!
30:2018/10/29(月) 23:06:03.614
嫁「やったわ……!」


ドヨドヨ…

観客A「くそっ、ふざけんな!」

観客B「せっかくタックル決めたのに何やってんだ!」

観客C「こんな試合認めねえぞ!」


嫁(あっ、対戦相手のファンたちがリングに乗り込もうとしてるわ……)
31:2018/10/29(月) 23:08:26.325
嫁「えいっ」


観客A「うわっ!」

観客B「な、なんだなんだ!?」

観客C「俺の体が……!」

フワフワフワ…



実況『なんだーっ!? 観客席の人たちが宙に浮いてる!?』


格闘家「えええええ!?」

格闘家(まずい! おろして! おろして!)サッサッ
32:2018/10/29(月) 23:09:33.625 ID:l8cOerjJrNIKU.net
嫁さんw
33:2018/10/29(月) 23:12:56.574
嫁「いっけない」

ストン…



実況『あれ……? なんだったのでしょう、今のは……!?』


格闘家(あーもう……俺より目立っちゃって……)

トレーナー「ちょっとヒヤヒヤしたが、よくやったぞ! 次はチャンピオンだ!」

格闘家「はいっ!」
34:2018/10/29(月) 23:15:13.923
スタスタ…

格闘家(あのまま寝技に持ち込まれてたら、ヤバかったな……)

チャンプ「見ていたよ、今の試合」

格闘家「!」

チャンプ「最後の一撃、なかなかの右ストレートだった」

格闘家「そりゃどうも……」

チャンプ「だが私ならテイクダウンを奪われることなく、彼を倒していたがね」

格闘家「ぐっ……」

チャンプ「次の試合……楽しみにしているよ」

格闘家「…………!」

格闘家(ようやく、あんたのお眼鏡にかなったってところか!)
35:2018/10/29(月) 23:17:21.098
……

リーダー「見ましたか?」

部下「はい、見ました」

部下「間違いありません、あれは昔我々の施設から逃げた……」

リーダー「ふふふ、格闘技など腕力しか取り柄のない愚か者の競技だと思っていましたが」

リーダー「たまには見てみるものですね」

リーダー「なんとしても彼女を捜し出すのです」

リーダー「あの力さえ手中に収めれば、我らの野望が叶うのです!」

部下「はっ!」
38:2018/10/29(月) 23:23:01.289
数日後――

― ジム ―

格闘家「でぇやぁっ!」

バスッ! ドスッ! ボスッ!

トレーナー「おい」

格闘家「!」

トレーナー「チャンピオンとの試合は月末に決まった」

格闘家「……いよいよですね」

トレーナー「俺たちの手でチャンピオンを王者の座から引きずり下ろすぞ!」

格闘家「はいっ!」

格闘家(首を洗って待ってろよ、チャンピオン!)
39:2018/10/29(月) 23:25:41.405
― 家 ―

嫁「今日は奮発してステーキよ」

格闘家「おお~、うまそう!」

嫁「あっ」グネリッ

嫁「ナイフとフォーク曲げちゃった」

格闘家「よーし、俺だって!」グニャッ

グネリッ グニャッ グネリッ グニャッ グネリッ グニャッ

……



格闘家「まーたやっちゃったな俺ら……」

嫁「ホント……」
40:2018/10/29(月) 23:28:13.886
チャンプ「…………」ウズッ

チャンプ(まさか、この私が試合を楽しみにする日が来るとはな……)

チャンプ(いや、それより……)

チャンプ(あの時、格闘家が勝利した直後に会場で起きた現象……)

チャンプ(まさかな……)
41:2018/10/29(月) 23:31:20.291
試合を間近に控えたある日――

― 家 ―

ピンポーン…

嫁「誰かしら?」

嫁「はい」ガチャッ

部下「ようやく見つけたぞ」

リーダー「お久しぶりです」

嫁(この人たち……≪超能力開発研究所≫の……!)
42:2018/10/29(月) 23:33:48.512
嫁「このっ!」キッ

部下「うわぁっ!」ブワッ

リーダー「おっと」バチバチッ

嫁「あうっ……!」ガクッ

嫁(スタンガン……!)

リーダー「危ない危ない……危うく私まで吹き飛ばされるところでした」

嫁「ぐう……」

リーダー「さあ、彼女を丁重に運びなさい」

部下「は……はいっ!」
43:2018/10/29(月) 23:36:06.345
― ジム ―

ドスッ! ボスッ! ボフッ!

トレーナー「お、おい……」

格闘家「なんです?」

トレーナー「ジムの外、チャンピオンが見に来てるぞ……」

格闘家(いったいなんの用だ……?)
44:2018/10/29(月) 23:38:15.548
格闘家「なんの用だ、チャンピオン?」

チャンプ「たまたま通りがかっただけだ」

チャンプ「いっておくが、君などまだまだ眼中にない」

格闘家(じゃあ何しに来たんだよ……)

格闘家「だったら練習を続けさせてもらうぜ。今さら隠すこともないしな」

チャンプ「…………」ジーッ

格闘家(すっげえ見てくるんだけど……やりにくい……)
45:2018/10/29(月) 23:39:32.558 ID:Go20JrQArNIKU.net
見られると集中できないよね
46:2018/10/29(月) 23:41:27.853
格闘家「どおりゃぁっ!」

ドゴォッ!

トレーナー「いいぞ! いいパンチだ!」

チャンプ(ほぉ……)


アナタ…


格闘家「――――!?」
47:2018/10/29(月) 23:44:17.188
『アナタ……ワタシヨ……』

格闘家(これは……テレパシー!?)

格闘家(心に入り込むのは悪いからって、めったなことじゃ使わないのに!)

『タスケテ……』

格闘家「!」

格闘家「今どこにいるんだ!?」

『場所ハ……』

トレーナー「どうした?」
48:2018/10/29(月) 23:47:49.857
格闘家「くそっ、なんてこった! なんで今さらそいつらが出てくるんだ!」

トレーナー「お、おい突然どうしたんだ?」

格闘家「≪超能力開発研究所≫だな!?」

トレーナー「は……? 超能力……?」

格闘家「待ってろ!」タタタタタッ

トレーナー「ちょっ! おいっ! まだメニューは終わってないぞ!」

トレーナー「なんなんだいったい……」
49:2018/10/29(月) 23:49:35.982
チャンプ「…………?」

チャンプ「彼はどこへ?」

トレーナー「いや、こっちにもよく分からんのだが……」

トレーナー「≪超能力開発研究所≫とかなんとかいって……飛び出しちまったよ」

チャンプ「なにっ!?」

チャンプ(やはり……そういうことだったか! あの時の超能力は……!)
50:2018/10/29(月) 23:51:24.283
格闘家「…………!」

格闘家(テレパシーが途切れた……)

格闘家(ということは完全に気絶させられてしまったのか……)

格闘家(だが、さいわい場所は分かった……タクシーを……)

格闘家(いや、こうなったら走った方が早いッ!)

格闘家「待ってろよォォォォォッ!!!」

ダダダッ
52:2018/10/29(月) 23:56:02.599
― 研究所 ―

格闘家(ここか……! 閉鎖したって聞いてたが、密かに復活してたんだな……!)

警備員「なにかご用ですか?」ズイッ

格闘家「俺の妻がここの連中にさらわれた。中に入れてもらおう」

警備員「何をいっているのです? 言いがかりはやめていただきましょうか」

格闘家「入れてくれないのか」

警備員「当然でしょう」

格闘家「だったら……」

格闘家「無理矢理通るッ!」

ドゴォッ!

警備員「ぶげっ!」
53:2018/10/29(月) 23:59:02.591
タタタッ… タタタッ…

「侵入者だ!」 「ここは通すな!」 「捕まえろ!」

格闘家「ぐ……!」

格闘家(こんなに警備がいるのかよ……!)

格闘家「うおおおおおおおおおっ!」

バキッ! ドカッ! ドゴォッ!

格闘家(ちくしょう、キリがない!)
54:2018/10/30(火) 00:02:43.536 ID:3i25Q7il0.net
「もらった!」

格闘家(ちっ、後ろに!)

ドゴォンッ!

格闘家(え!? 勝手に吹っ飛んだ!? なんで!?)





覆面「……手伝おう」ジャン!
55:2018/10/30(火) 00:06:41.870 ID:3i25Q7il0.net
格闘家「誰だお前!?」

覆面「私か? 私は……ええと……ヒーローだ!」

格闘家(ヒーロー!? そんなものが実在したなんて……!)

覆面「なんとなく事情は把握している……」

覆面「君の大切な人は超能力者で、ここの連中にさらわれたんだろう?」

格闘家「あ、ああ……だけどなぜここが?」

覆面「私もここの出身者でね……。もっとも超能力の才能はゼロだったが」

覆面「場所がほとんど変わってなかったので、たどり着くことができたよ」

覆面「とうっ!」ブオンッ

ズガァッ!

「ぐはぁっ!」

格闘家(すごい蹴りだ……いったい何者なんだ!?)

覆面「さぁ、行け!」

格闘家「ありがとう!」タタタッ
56:2018/10/30(火) 00:09:22.150 ID:3i25Q7il0.net
格闘家「どけどけどけぇっ!」

ドカッ! バキッ! ドゴォッ!

部下「わっ! なんだお前は!?」

格闘家「どきやがれぇ!」

ドゴンッ!

部下「ぶげぁっ!」

格闘家(分かる……あの扉の向こうに妻がいる!)

格闘家(ぶっ壊す!!!)



ドガッシャァァァァン!!!
57:2018/10/30(火) 00:13:09.122 ID:3i25Q7il0.net
― 研究所最深部 ―

リーダー「ようこそ」

嫁「あなた……来てくれたのね」

格闘家「…………」

格闘家「お前がこの研究所のリーダーか」

リーダー「ええ、そうです」

格闘家「殴られたくなきゃ、とっとと妻を解放しろ」

リーダー「殴られるのはゴメンですね……とはいえ、この人を解放するわけにもいきません」

リーダー「というわけで、取引しませんか?」

格闘家「取引?」
58:2018/10/30(火) 00:15:23.538 ID:3i25Q7il0.net
リーダー「私どもはこれからあなたの奥様を研究するわけですが、絶対に傷つけないと約束します」

リーダー「なんなら、お金だって払ったっていい」

リーダー「それにあなたはチャンピオンとの戦いを控える身、ケガなどしたくないでしょう?」

リーダー「あなたがここから無傷で出られるよう、手配もしましょう」

リーダー「いかがです? 悪い話ではないと思いますが……」

格闘家「…………」

格闘家「バカか、お前」

格闘家「全然取引になってねえよ! 妻は返してもらうッ!」
59:2018/10/30(火) 00:19:06.093 ID:3i25Q7il0.net
リーダー「ならば、氏んでもらうしかありませんね」キッ

ズシッ……!

格闘家「ぐおっ!?」

格闘家「ぐおあぁぁぁぁぁ……!?」メキメキ…

嫁「あなた!」

リーダー「助けようとしても無駄ですよ。あなたにつけている装置は超能力を封じますからね」

格闘家(こいつも……エスパーなのか……!)

格闘家(ならなぜ……? 超能力はすでに使えるのに、どうして妻を……!?)

リーダー「今、あなたが抱いているであろう疑問についてお答えいたしましょう」

格闘家「!」
60:2018/10/30(火) 00:23:26.832 ID:3i25Q7il0.net
リーダー「私どもも長年の研究で、超能力の開発にやっとのことで成功しました」

リーダー「こうして止まってる物体に圧力をかけるぐらいなら、私でもできるようになった」

リーダー「ところが、物を動かしたり、浮かせたり、というのがどうしてもできないのです」

リーダー「研究所で唯一その領域まで達していたのが、あなたの奥様だったのですが……」

リーダー「ある日、バカな小僧が大暴れして、子供達をみんな逃がしてしまったのです」

リーダー「しかし、あなたの試合をたまたま見ていたら、見つけることができたのですよ」

格闘家(あの時……観客を浮かせたのが放映されてたのか!)

リーダー「超能力の完成には、どうしてもあなたの奥様が必要不可欠なのです」

リーダー「そして、完成したあかつきには、あらゆる分野への転用が可能!」

リーダー「たとえば……軍事利用なんかもね」

格闘家(そうか……もし、エスパー軍団みたいなのを作って、念じるだけで兵器を動かせるようになれば)

格闘家(そいつらは世界の支配者も同然となる!)
61:2018/10/30(火) 00:26:00.996 ID:3i25Q7il0.net
リーダー「もちろん、ここまで話したということは、あなたを生かすつもりはありません」

リーダー「さぁ、全身の骨を砕いて、内蔵を吐き出させてあげましょう!」ギロッ

格闘家「ぐげぇあぁぁぁぁ……!」メキメキメキ…

リーダー「フフフ……ああいい気持ちだ……!」

嫁「いやぁぁぁぁぁ! もうやめてぇぇぇぇぇ!」

リーダー「お前はこいつを殺した後、たっぷりとモルモットにしてやるよ!」

格闘家「……ぬおおっ」

リーダー「え?」

格闘家「そんなこと……させるかよ」ググッ…

リーダー「こいつ、まだ動けるのか!? 私の超能力を喰らってるのに……!」
63:2018/10/30(火) 00:29:24.371 ID:3i25Q7il0.net
格闘家「ぐぬぬぬぬ……!」ブシュッ…

リーダー「まさか、お前も超能力者!?」

格闘家「いいや……俺は超能力者なんかじゃないぜ……」

格闘家「だが、体だけは人一倍鍛えてきた……」

格闘家「鍛えた体は……」

リーダー「ひっ!」

格闘家「超能力にだって負けねえんだァァァァァァァァァァァ!!!」グオオオオッ

リーダー「ひいいいいいっ!」
64:2018/10/30(火) 00:31:16.742 ID:zZIq4SQxr.net
筋肉!筋肉!
65:2018/10/30(火) 00:32:48.719 ID:3i25Q7il0.net
格闘家「どぉりゃぁぁぁぁぁっ!!!」

リーダー「やっ、やめっ!」

ドゴォンッ!!!

リーダー「ぐぼあぁぁぁ……っ!」

ドガシャァァァンッ…



格闘家「はぁ、はぁ、はぁ……」

格闘家「俺の嫁に手を出したのが……運の尽きだったな」
66:2018/10/30(火) 00:35:25.968 ID:3i25Q7il0.net
嫁「あなた……ありがとう……」

格闘家「無事でよかった……」

格闘家「…………!」ガクッ

嫁「あなた!」

格闘家「い、いや……なんのこれしき……」ググッ…

嫁「無理しないで。あなたのことは私が運んであげるわ」

格闘家「うわっ!」フワッ…

格闘家(嫁がエスパーで助かったぁ……)
67:2018/10/30(火) 00:39:13.467 ID:3i25Q7il0.net
覆面「終わったようだな」

格闘家「あなたは……ヒーローさん!」

覆面「警察には通報しておいた。じきに駆けつけるだろう」

格闘家「はいっ! 本当にありがとうございました!」

覆面「それと……そちらのご婦人」チラッ

嫁「?」

覆面「…………」

覆面(さよなら、私の初恋の人……)



…………

……
68:2018/10/30(火) 00:42:37.467 ID:3i25Q7il0.net
……


試合当日――

ワァァァ…… ワァァァ……

実況『さぁ、いよいよ運命の日がやって参りました!』

実況『無敵のチャンピオンに、剛腕を誇るチャレンジャーが挑む!』

実況『果たして、今宵が王者交代の日となるのか!?』


格闘家「正々堂々と勝負だ」

チャンプ「うむ、私の蹴りと君の拳……どちらが上か決着をつけよう」

チャンプ「ところで今日、奥さんは?」

格闘家「観客席にいる」

チャンプ「だとしたら……絶対負けられんな」

格闘家(こいつ、まさか狙ってるんじゃないだろうな……)

格闘家(まあ負けられないのは俺も同じだがな!)
69:2018/10/30(火) 00:45:19.750 ID:3i25Q7il0.net
ワァァァ…… ワァァァ……

実況『さぁ、会場の熱気が最高潮に達したところで、いよいよゴングです!』


嫁「あなた……頑張って!」


カーンッ!







― おわり ―
70:2018/10/30(火) 00:52:00.626 ID:4CUA+cwK0.net
71:2018/10/30(火) 00:56:00.684 ID:x3rfZF+f0.net
え?結末は?
72:2018/10/30(火) 00:58:09.703 ID:uY6ewpVla.net
乙!面白かった!