1: ◆mPF4CbPt7k 2018/06/10(日) 18:24:39.34
男「……」
青年「……」
案内係「では、面接番号3番の方、面接室にお入り下さい。4番の方はもう少々お待ち下さい」
男「はい」スッ
青年「頑張って下さい!」
男「ええ、あなたも。面接では自分の全てをさらけ出しましょう」
2: 2018/06/10(日) 18:26:45.94 ID:eouTYlWg0
男「失礼いたします」
面接官「どうぞ、おかけ下さい」
男「……」スッ
面接官「えー……前職は公務員をなさっていたと」
男「はい」
3: 2018/06/10(日) 18:27:19.40 ID:eouTYlWg0
面接官「公務員といえば、なるのも大変ですし、安定しているイメージがありますが」
面接官「失礼ですが、なぜお辞めになったんです?」
男「己の職務を……果たせなかったからです」
面接官「職務を、ねえ」
面接官「ようするに、仕事で失敗したから辞めてしまったということですか?」
男「そういうことになります」
4: 2018/06/10(日) 18:28:21.57 ID:eouTYlWg0
面接官「責任を取ったといえば聞こえはいいですが、結局逃げてしまったということですよね?」
面接官「失敗したまま逃げるというのは社会人失格では? 成功するまで頑張るべきだったのでは?」
男「まったくもっておっしゃる通り」
男「この件については、なんとお詫びしたらいいか、本当に申し訳ありません!」
面接官「いや、私に謝られても困るんですけどね」
男「失礼しました、つい……」
5: 2018/06/10(日) 18:30:10.70 ID:eouTYlWg0
面接官「前職を辞してから空白期間があるようですが、何をなさっていたんですか?」
男「自分探しを……していました」
面接官「は? 自分探し?」
男「はい」
面接官「お遍路でもなさったんですか? それともインド旅行?」
男「いえ、そういうのではないのですが」
面接官「すみません、もう少し具体的にお願いします」
6: 2018/06/10(日) 18:31:29.02 ID:eouTYlWg0
男「私は前職で、ある仕事をやり遂げられませんでした」
男「その結果、自分自身というものをすっかり喪失してしまったのです」
男「だからそれを取り戻すため、私は仕事を辞め、時間を作ることにしたのです」
面接官「あの、具体的にとお願いしたのに、ますます分かりにくくなりました」
面接官「もっときちんと説明をお願いします」
男「……承知しました」
7: 2018/06/10(日) 18:33:27.95 ID:eouTYlWg0
男「実は私は元刑事なのですが……」
面接官「弊社は警察官OBも多数在籍していますからね。珍しいことではありません」
面接官「ただし、それを話したところで面接で有利になることはありませんよ」
男「存じています。えー、話を戻しますが、私はある事件を追っていたのです」
面接官「ほう、どんな?」
男「ある一家の……殺人事件です」
面接官「ほう」
8: 2018/06/10(日) 18:36:01.48 ID:eouTYlWg0
男「父親と母親、そして娘さんが殺害されるという大変いたましい事件でした」
面接官「!」
男「遺族となった、娘さんと同い年の妹さんの悲痛なインタビューは今でも心に残っています」
男「犯人が遺体に線香を捧げるという特異性も話題になりました」
男「おそらく強盗目的の突発的な犯行で、犯人も罪悪感を抱いたのでは、などと分析されました」
面接官「……待て」
男「しかし、この事件は警察の懸命の捜査にもかかわらず」
面接官「よせ……!」
男「迷宮入りとなってしまったのです」
面接官「やめろ!」
9: 2018/06/10(日) 18:39:45.07 ID:eouTYlWg0
男「私はこの事件の担当刑事だったのですが、迷宮入りさせてしまった自分を許せなかった」
男「そのため刑事を辞め、犯人探しに生涯を捧げることにしたのです」
男「そして、ついに……」
面接官「あ、あのっ!」
男「なんでしょう?」
面接官「まさか、見つけたというのですか……犯人を」
男「ええ、刑事の身分があっては出来なかった独自の捜査で見つけました」
面接官「……!」
男「今も、まさにこの近くにいます」
10: 2018/06/10(日) 18:41:41.89 ID:eouTYlWg0
……
……
青年「失礼します!」
面接官「……」
青年「?」
面接官「……」
青年「あ、あの? うつむいたままじゃ、面接できないと思いますけど」
11: 2018/06/10(日) 18:42:55.98 ID:eouTYlWg0
面接官「よくも……」
青年「?」
面接官「よくも、あたしをころしたな……」
青年「な、なにいってんです? これも面接なんですか?」
面接官「よくもあたしをころしたなああああああああああああっ!!!」ガバッ
青年「!!!」
12: 2018/06/10(日) 18:45:16.15 ID:eouTYlWg0
青年「な、なんで……!?」
青年「お前は確かに僕が殺したはず……! 殺してしまったはず……!」
面接官「よくも、よくもぉぉぉぉぉ……!」
青年(いや待て、落ち着け! きっと他人の空似だ! そうに決まってる!)
面接官「あたしの胸を何度も刺した感触はどうだったぁ?」
面接官「最初はためらっちゃったんだよねえ、だから何回も刺すはめになったんだよねぇ!?」
面接官「あんな線香で弔いになるわきゃねえだろおおおおおおお!!!」
青年「あ、あああ……!」
13: 2018/06/10(日) 18:46:25.23 ID:eouTYlWg0
青年「うっひゃあああああああああっ!」
青年「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!」
青年「警察行って全て話します! 自首します!」
青年「だから……だから許して下さい! 成仏してくださぁぁぁぁぁい!!!」
面接官「……」
男(終わった、な……)
14: 2018/06/10(日) 18:50:17.15 ID:eouTYlWg0
男「奴は自首しましたし、あの様子ならば自宅を捜査すれば有力な証拠が見つかるでしょう」
男「ご協力、ありがとうございます」
面接官「いえ……」
男「職を辞して犯人を見つけたはいいが、もはや私には奴を追い詰める手段がなかった」
男「そんな時、奴がこの会社の採用面接に応募し、さらにこの会社の人事部に被害者遺族がいることを知った」
男「被害者となった娘さんの双子の妹である、あなたが……」
面接官「……」
男「そして私は、この会社にいる警察OBのツテを利用して、面接の順番を奴の一つ前にしてもらったのです」
男「あなたに全て伝えて、奴を自首させるため、お姉さんの怨霊を演じてもらうために……」
15: 2018/06/10(日) 18:52:24.38 ID:eouTYlWg0
男「本来なら、事前にちゃんと話して協力を仰ぐべきでしたが……」
面接官「いえ、これでよかったと思います」
面接官「面接中ではなく、事前にお話しされていたら、かえって冷静でいられたかどうか……」
面接官「自分で仇討ちしようとしていたかもしれません」
面接官「あなたもそれを危惧して、こんな形で私にコンタクトしたんでしょう?」
男「……まあ、そういうことです」
16: 2018/06/10(日) 18:54:05.29 ID:eouTYlWg0
面接官「ありがとうございました」
面接官「これで……父と母と姉も、成仏できると思います」
男「あなたにそうおっしゃって頂けると光栄です」
男「私も……これでようやく自分の心の空白を埋めることができました」
END
17: 2018/06/10(日) 19:02:25.01 ID:UgCV72P50
乙
18: 2018/06/10(日) 19:30:38.72 ID:M0HZNAvSO
まさかの。
20: 2018/06/10(日) 20:26:23.70 ID:NqoEmcVpo
綺麗すぎて怖い
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