1:2018/12/10(月) 22:49:02.581 ID:mWBBTMOFD.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    風間明日香(53) カラオケ喫茶ママ

    【不良少女、再び】

    ホーッホッホッホ……。」
2:2018/12/10(月) 22:51:24.005 ID:mWBBTMOFD.net
夜。カラオケ喫茶『明日香』。この店の女性経営者は、ショートヘアをした中年女性だ。

店内に集まる中高年の客たち。客の中には、喪黒福造もいる。店にいる客たちの多くは、演歌や懐メロのファンだ。

機械の前でマイクを取る喪黒。店の経営者・風間明日香もマイクを持ち、喪黒とともにデュエット曲を歌う。

テロップ「風間明日香(53) カラオケ喫茶『明日香』経営者」

デュエット曲を歌い終わる喪黒と明日香。2人に拍手をする客の一同。


午後22時を過ぎ、営業を終えたカラオケ喫茶『明日香』。カウンター席に座る喪黒が、明日香と話をしている。

自身のアルバムを手にする明日香。

明日香「これ、あたしのアルバムなんですけど……。見てみますか?」

喪黒「はい……」

明日香からアルバムを貰う喪黒。彼がアルバムを開くと……。

喪黒「ほう……」
3:2018/12/10(月) 22:53:15.263 ID:mWBBTMOFD.net
アルバムには、昔の明日香の写真がいくつも載っている。

制服を改造し、くるぶし丈までのロングスカートをはいた高校時代の明日香。

当時の彼女も、53歳の現在と同じくショートヘアをしている。

明日香「懐かしいですね……。昔のあたしは、スケバンだったんですよ」

喪黒「喧嘩とかはしてたんですか?」

明日香「はい……。いつも他校の不良と喧嘩しては、相手をボコボコにしていましたね」
     「喧嘩相手が男であっても、情け容赦はしませんでしたよ」


20代前半のころの明日香。スーツ姿の彼女が、ビル屋上にいる。彼女のバックは、東京の夜景だ。

明日香「あのころはあたしは、ディスコを経営していました。当時は羽振りが良かったですね」

喪黒「おそらく、あの時期はバブル期とも重なっているでしょう」

明日香「ええ。バブルの崩壊でディスコの経営は次第に悪化し、あたしは店を潰しました」
4:2018/12/10(月) 22:55:17.435 ID:mWBBTMOFD.net
30代前半のころの明日香。ドレスを着た彼女が、スーツ姿の客と記念撮影をしている。

写真が撮影された場所は、とあるクラブの店内のようだ。

明日香「借金まみれになったあたしは、クラブでホステスとして働いていました」
     「給料は借金の返済と衣装代に消えて、あまり残りませんでしたね……」

喪黒「いやぁ……。それは大変だったでしょう……」

明日香「はい……」


30代後半のころの明日香。彼女とある男の結婚写真が載っている。和風の花嫁衣装を着た明日香。

明日香「当時の夫とは、もう離婚しましたよ。ちなみに、彼は暴力団の組長でした」

喪黒「おそらく、あなたは結婚生活がうまくいかなかったのでしょう」

明日香「ええ……。彼のことは、思い出したくないですね……」

喪黒「なるほど……。あなたも辛い過去を背負っているようですねぇ」
5:2018/12/10(月) 22:57:18.185 ID:mWBBTMOFD.net
40代の明日香。今より若い彼女が、カラオケ喫茶『明日香』の店内にいる。

明日香「この店の経営を始めたのは、あたしが44歳のころでしたね」
     「以来、あたしは、何事もなく店の経営を続けているわけですが……」

喪黒「風間さんにとっては、ようやく安住の地を手に入れたというわけですか……」

明日香「はい。でも、大人になってからは、ろくにいいことがありませんでしたね……」

喪黒「確かに、大人になってからのあなたは、波乱が多い人生を送っていますからねぇ」

明日香「今思えば、大人になる前は日々が楽しかったですよ。特に、10代の時期とか……」

喪黒「10代の時期とは……。あなたがスケバンだったころですか?」

明日香「はい。あのころは毎日のように、他の不良と喧嘩に明け暮れていましたけどね……」
     「でも、今となってはそれが懐かしく感じられるんです」

喪黒「あなたも10代のころは、それなりに青春を謳歌しましたからねぇ」

明日香「失われた青春を取り戻すというか……。もう1度、10代のころに戻って人生をやり直すというか……」
     「もしもそれがやれたらいいんでしょうけど……」
7:2018/12/10(月) 22:59:16.467 ID:mWBBTMOFD.net
喪黒「そうですか……。どうやら、風間さんの心にもスキマがおありのようですねぇ」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

明日香「ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」

明日香「人生相談か、何かですか?」

喪黒「私のやっていることは、ボランティアみたいなものです」
   「心に何かしらのスキマを抱え、人生が行き詰まった人たちを救うための仕事ですよ」

明日香「そ、そうなんですか……」

喪黒「風間さん。あなたが再び、10代のころに戻ることは可能ですよ」

明日香「さすがに、それは不可能ですよ……」

喪黒「私なら可能です。そのために、いい道具があるんですよ」

喪黒は鞄から何かを取り出す。机の上に置かれたのは、ピンク色をした化粧用のコンパクトだ。
8:2018/12/10(月) 23:01:15.037 ID:mWBBTMOFD.net
明日香「何ですか、これ……?」

喪黒「変身コンパクトです。このコンパクトを使えば、あなたは17歳の自分に変身することができますよ」

明日香「冗談はよしてくださいよ」

喪黒「冗談ではありません。私は本気で言ってるのです」

明日香「フフッ、何か面白そうですね……」

喪黒「コンパクトを開いて、『ミラクルガール』と叫んでみてください!」

明日香「わ、分かりました。やってみますよ……」

変身コンパクトを手にする明日香。彼女はコンパクトを開き、例の呪文を唱える。

明日香「ミラクルガーール!!」

変身コンパクトの鏡が光り輝き、明日香の全身がみるみる光に包まれる。中年の明日香の顔が、次第に若返っていく。

コンパクトの鏡を見る明日香。彼女が鏡を覗き込むと、そこに映っているのは……。

明日香「!!!」
9:2018/12/10(月) 23:03:13.552 ID:mWBBTMOFD.net
喪黒「どうです?風間さんは、17歳のころの身体に変身できたでしょう?」

明日香「こ、こんなことが本当に起きるなんて……」

喪黒「おそらく、あなたの身体にも変化は起きているはずです」

明日香「そ、そういえば……。身体の中から、力が湧いてくるような感じがします……」

喪黒「10代のころの人間は、誰もが体力に恵まれていますからねぇ……」

明日香「でも、これじゃあ、今のあたしと見分けがつきませんよ……」
     「それに、あたしはカラオケ喫茶の経営もありますし……。どうやって、元に戻るんですか?」

喪黒「変身コンパクトを開いて、『カレントエイジ』と叫んでみてください。そうすれば、あなたは元の年齢に戻れます」

明日香「そうですか……、やってみます。カレントエイジ!!」

変身コンパクトの鏡が輝き、光に包まれる明日香。彼女の身体の年齢は、元の53歳のものに戻る。

コンパクトの鏡を見る明日香。鏡には、カラオケ喫茶経営者としての明日香の顔が映っている。

明日香「あっ、元に戻った……」
10:2018/12/10(月) 23:05:18.828 ID:mWBBTMOFD.net
喪黒「風間さん。あなたはこの変身コンパクトを使って、再び青春を謳歌してください」
   「そうすることで、あなたはこれまでの人生のフラストレーションを解消できるでしょう」

明日香「なるほど……。やってみる価値はありますね……」

喪黒「ただし……。これを使用する際は、約束を必ず守ってください」

明日香「約束!?」

喪黒「そうです。変身コンパクトを使用するのは、1週間のうち1日だけが限度です。いいですね、約束ですよ!?」

明日香「わ、分かりました。喪黒さん」


ある日。スーツケースを引いて街を歩く明日香。彼女はビルの陰に隠れ、変身コンパクトを取り出す。

明日香「ミラクルガーール!!」

変身コンパクトの鏡が輝き、光に包まれる明日香。彼女の顔は、17歳のころのものとなる。

明日香「よし」
11:2018/12/10(月) 23:07:26.129 ID:mWBBTMOFD.net
とある駅。女子トイレの中に入る明日香。しばらくした後、彼女はトイレから出てくる。

明日香が身につけているのは、女子高生風の制服だ。半そでの白いブラウス、短い丈のスカート……。


とある河原。不良の男子高校生と殴り合いをする17歳の明日香。2人の喧嘩を見守る不良たち。

不良たち「ふぇ~、あの女強ぇ~なぁ~」「どこの誰か知らんけど、あの女やるじゃん」

顔があざだらけの明日香と喧嘩相手。明日香による回し蹴りが、男子高校生の顎に命中する。


とある神社。境内の中で、他の不良少年と喧嘩をする17歳の明日香。彼女と不良の喧嘩を、2人の別の不良が見守る。

彼女によるパンチを腹に受け、地面に倒れる不良少年。


また、ある日。とある高校。運動場の中に、17歳の明日香と不良の男子生徒がいる。周りから2人を見物する不良少年たち。

不良「例のお前か?お前、結構強いんだってな」

明日香「まあね」
13:2018/12/10(月) 23:09:20.434 ID:mWBBTMOFD.net
ある日の夜。カラオケ喫茶『明日香』。いつも通り、店内で客たちを見守る53歳の明日香。

客たちの中には喪黒の姿もある。機械の前でマイクを手に取り、演歌を歌う喪黒。拍手をする一同。


営業を終えたカラオケ喫茶『明日香』。カウンター席に座る喪黒が、明日香と話をする。

喪黒「いかがですか、風間さん?再び青春を謳歌することはできましたか?」

明日香「はい。17歳になったあたしは、しょっちゅう各地の不良たちと喧嘩をしてるんです」

喪黒「喧嘩……とは、殴ったり蹴ったりとかの暴力のことですよね?」

明日香「そうですよ。10代のころのあたしは不良だったんだから、喧嘩といえばそれですよ」
     「腕っぷしの強い不良と喧嘩ができて、本当に楽しいですし……。胸がスカッとしますよ」

喪黒「それはよかったですねぇ……と言いたいところですが」
   「17歳に戻ったのなら、もう少し有意義な過ごし方をしてもよかったのではないですか?」

明日香「いいえ。あたしにとっては、これが有意義な過ごし方だと思っていますよ」
14:2018/12/10(月) 23:11:18.928 ID:mWBBTMOFD.net
喪黒「そうですか……。あなたがそう考えるのなら、私から言うことは何もありません」
   「ただし、気をつけてくださいよ。17歳になった風間さんが相手にしているのは、不良の人間たちですから……」

明日香「それは承知していますよ」

喪黒「いくらあなたが強いからと言っても、気を抜くと彼らに何をされるか分かりませんよ。油断は禁物です」

明日香「大丈夫ですよ。あたしはいつも、喧嘩では勝っていますから……」


とある公園。17歳の身体となった明日香が、例の如く不良少年と殴り合いをしている。

喧嘩は、彼女がやや優勢のままで展開していたが……。ふと、異変に気がつく明日香。

明日香と喧嘩相手の周りには、他の不良少年が何人も集まっている。

数人の不良が、体力を消耗した明日香へ一斉に襲い掛かる。喧嘩で劣勢に追い込まれていく明日香。彼女は足元がふらつき、息が上がる。

明日香「ハア……、ハア……、ハア……」

突然、2人の不良に両脇を掴まれる明日香。彼女を見て、にやつく他の不良たち。
15:2018/12/10(月) 23:13:30.627 ID:mWBBTMOFD.net
明日香「な、何するんだよ!!離せ!!」

不良たちによって、公衆便所の中へ連れ込まれる明日香。そのまま、時間が経過していく……。

満足そうな表情を浮かべながら、公衆便所から姿を現す不良たち。そして、不良たちが公園から立ち去った後……。

公衆便所から、ふらふらと出てくる明日香。彼女の白いブラウスはボタンが全て飛び散り、胸の下着があらわになっている。

悔しさで顔を歪め、すすり泣く明日香。


テロップ「次の日――」

日付が変わって間もない夜中。マンション。ベッドで眠る53歳の明日香。彼女は夢を見ている。公園で起きたあの出来事の夢を――。

公衆便所。2人の不良に両脇を掴まれた明日香。他の1人の不良が、明日香のブラウスのボタンを引きちぎる。彼女を眺める別の不良たち。

明日香「い、嫌!!それだけはやめて!!」

ある程度、時間が経ったころ……。ブラウスがはだけた状態で、公衆便所の床に横たわる明日香。彼女は目から涙を流している。


夜中。マンション。ベッドの上で、例の夢から目覚める53歳の明日香。彼女は起き上がり、布団を握りしめたまま泣き出す。

明日香「ウッ……、ウウウ……」
16:2018/12/10(月) 23:15:24.030 ID:mWBBTMOFD.net
涙を流す明日香の顔に、憤怒と憎悪の表情が浮かんでいく。

明日香「ゆ、許さない……!!あいつら……」


その日の夕方。道を歩く不良少年A。公衆便所で、明日香をなぶりものにした人間の一人だ。彼の目の前に、17歳の明日香が姿を現す。

不良A「お、お前は……」

明日香「実は、あんたと話したいことがあるんだよ……」

とある河原。明日香に叩きのめされ、脅えた表情で横たわる不良少年A。

明日香「ありがとう。あんたたちの仲間の名前は、ちゃんと覚えたよ」

両手で、不良少年Aの首を絞める明日香。不良少年Aは苦しみ続け、遂に息絶える。不良少年Aの遺体を川へ放り込む明日香。

明日香「あいつらは、あたしの手で全員始末してやる……」


テロップ「その次の日――」

とある高校。体育館の中に、17歳の明日香と不良少年たちがいる。右手に金属バットを握った明日香。

彼女が相手にしているのは、あの日、公衆便所で自分を辱めた例の男たちだ。
17:2018/12/10(月) 23:17:15.454 ID:mWBBTMOFD.net
不良B「俺らのダチを頃したのはお前か……」

明日香「そうだよ。あいつを含め、あんたたちのせいで、あたしの人生はメチャクチャだよ……」

涙目で、不良たちを睨みつける明日香。金属バットを振り回し、不良たちに向かっていく明日香。

不良少年Bの頭に、彼女の金属バットが命中する。頭から血を流し、倒れる不良少年B。

さらに、残りの不良たちも、明日香が持った金属バットの餌食となっていく。次々と倒れる不良たち。

明日香は、床に倒れた不良たちをさらに金属バットで殴る。彼らの顔が、金属バットで潰されていく。

明日香「終わった……」

こと切れた不良たちを見つめる明日香。彼女は金属バットを床に置き、体育館を去る。


住宅街。17歳の明日香が、道を歩く。思いつめた表情の明日香。歩き続ける明日香の前に、喪黒が姿を現す。

喪黒「風間明日香さん……。あなた約束を破りましたね」

明日香「も、喪黒さん……!!」
18:2018/12/10(月) 23:19:23.029 ID:mWBBTMOFD.net
喪黒「私は言ったはずですよ。変身コンパクトの使用は、1週間のうち1日だけが限度だ……と」
   「それにも関わらず、あなたは3日連続で変身コンパクトを使用しましたねぇ」

明日香「あ、あたしにだってやむを得ない事情があったんですよ!!」

喪黒「やむを得ない事情……ですか。私は、あなたが犯罪を行うために変身コンパクトを渡したのではありませんよ」

明日香「あなたに、あたしの気持ちが分かってたまりますか!!あたしが、あいつらにされたことを考えると……」

喪黒「ねぇ、風間さん。不良に戻って、再び喧嘩三昧の生き方をするからこうなるんですよ」

明日香「くっ……」

喪黒「約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」

喪黒は明日香に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

明日香「キャアアアアアアアアアアア!!!」
19:2018/12/10(月) 23:22:25.924 ID:mWBBTMOFD.net
喪黒のドーンを受け、疲労困憊した状態で道を歩く明日香。

明日香「ハア……、ハア……。疲れた……。しばらく横になって休もう……」

彼女の目の前に、土手が見える。ふらついた状態で、土手へ向かう明日香。

明日香は歩き続けるが、身体はみるみる縮んでいく。両足から靴が脱げ、制服のスカートがずり落ちる。

土手の草むらに転げ落ちる変身コンパクト。変身コンパクトは、ひび割れた状態となっている。

幼児の姿となり、仰向けで倒れる明日香。半そでの白いブラウスは、明日香のほぼ全身を覆っている。

そのまま眠り込む明日香。ひび割れた変身コンパクトが、粉々に砕け散る。


住宅街の中を歩く喪黒。

喪黒「いつの時代も、何かしらの形で不良は存在してきましたし……。不良文化も時代を経るごとに変遷を重ねていきました」
   「一部の漫画やドラマでは、不良を美化して描いていますが……。これはあくまでもフィクションであり、現実ではありません」
   「なぜならば……。不良が不良と呼ばれるのも、不良が一般人たちから疎まれるのも、それなりの理由があるからなのです」
   「従って、不良は決してかっこいい存在ではありませんし……。ましてや、不良に憧れるなんて愚の骨頂そのものですよ」
   「不良少女だった風間明日香さん。あなたは10代から人生をやり直すのではなく、幼いころから人生をやり直したらどうですか?」
   「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―
20:2018/12/10(月) 23:29:33.358 ID:dMxzXK7Ha.net
21:2018/12/10(月) 23:29:59.388 ID:N/MJW8aca.net
幼児からやり直せるならラッキーだ
喪黒福造「あなたが再び、10代のころに戻ることは可能ですよ」 カラオケ喫茶ママ「さすがに、それは不可能ですよ……」
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1544449742