1:2018/12/05(水) 20:06:08.679
― 訓練所 ―

斧戦士「いくぜっ! どぉりゃぁぁぁぁぁっ!」ブオオンッ

女剣士「おっと」サッ

斧戦士「あっ」

女剣士「たっ!」シュバッ

ピタッ…

女剣士「あたしの勝ちだな」

斧戦士「オーノー!」

女剣士「あんたは大振りしすぎ。あんなの避けて下さいっていってるようなもんだ」

女剣士「パワーはあるんだからそこを直せば、きっと飛躍的に――」

斧戦士「ふん、斧は大振りしてナンボよ! 直すつもりなんてないぜ!」ザッザッ

女剣士「ったく……」


2:2018/12/05(水) 20:09:18.268
― 城下町 ―

斧戦士「あ~……くそっ! このところ全然勝てなくなってきた……」

ビュウッ…

斧戦士「……っと、風か」



幼女「あっ!」

幼女「あたしの帽子が! 木に引っかかっちゃった!」

幼女「取れない~!」ピョンピョン

闇魔術師「クックック、どれ俺に任せてみろ」

幼女「ひっ!?」
3:2018/12/05(水) 20:11:21.017
闇魔術師「闇の手よ……伸びろ」ズオオオ…

グジュグジュグジュグジュグジュ…

手の形をした闇のオーラが帽子をつかんだ。

闇魔術師「はい、どうぞ」ニタァ…

幼女「ひいい……!」ガタガタ…

闇魔術師「え」

幼女「うわぁぁぁぁぁん! 怖いよ~!」タタタタタッ

闇魔術師「……あ」



斧戦士「…………」
4:2018/12/05(水) 20:13:16.565
闇魔術師(なぜだ……俺が何をしたというんだ……)

斧戦士「おい、あんた」

闇魔術師「…………!」

斧戦士「今の……見てたよ」

闇魔術師「えっ!」ドキッ

斧戦士「災難だったな……」

闇魔術師「問題ない……いつものことだ」

斧戦士「こうして出会ったのもなんかの縁、酒場で一杯どうだ?」

闇魔術師「よかろう」
5:2018/12/05(水) 20:17:08.850
― 酒場 ―

ワイワイ… ガヤガヤ…

斧戦士「あんた、闇魔法の使い手か?」

闇魔術師「うむ」

斧戦士「昔、闇魔法で大暴れした≪暗黒教≫なんてやべぇ団体もあったし」

斧戦士「闇魔法の使い手なんてみんな悪党だと思ってたが、子供助けるようなこともするんだな」

闇魔術師「なにをいうか!」ギロッ

斧戦士「うおっ!」ビクッ

闇魔術師「闇魔法は魔法属性の一つに過ぎず、断じて悪などではない!」

闇魔術師「使い方を誤らねば、闇魔法だって人々の役に立つことができるのだ!」

斧戦士「わ、悪かった悪かったよ」
6:2018/12/05(水) 20:19:21.600
斧戦士「だけどさ、悪でないって主張するなら、もう少し明るい格好した方がいいんじゃねえか?」

斧戦士「あんたのそのローブ、いかにも闇ですって感じだし」

闇魔術師「……む」

闇魔術師「まあ、これは……魔法というのはどうしても気持ちが大切だからな」

闇魔術師「闇魔法を扱うなら、こういう身なりをしていた方が精度が高まるのだよ」

斧戦士「そういうもんなんだ」

闇魔術師「そういうものなのだ」

斧戦士「他の魔法に取り組むつもりはないのか?」

闇魔術師「このままじゃろくに仕事にもありつけぬし、それも考えたのだが……」

闇魔術師「我が家は代々闇魔法の家系でな。そう簡単に他の魔法に浮気するわけには……」

斧戦士「分かる! 分かるぜぇ、その気持ち!」
7:2018/12/05(水) 20:21:37.699
闇魔術師「分かるということは……お前も?」

斧戦士「ああ、俺は斧の豪快さに憧れて、斧使いになったんだが」

斧戦士「このところは剣技の進歩がすごくて、すっかり勝てなくなっちまったんだ」

斧戦士「今や斧なんて時代遅れの武器、なんていう野郎もいるしよ……」

斧戦士「だけど俺も、他の武器に乗りかえるなんてことはしたくねえんだ!」

斧戦士「斧の凄さを見せつけて、みんなを見返してやりてえんだ!」ズンッ

闇魔術師「ククク……我らジャンルは違えど、同じ志を持つ者同士のようだ……」

闇魔術師「……やってやろうではないか」

斧戦士「おう、やってやろうぜ!」
8:2018/12/05(水) 20:24:17.965
闇魔術師「しかし、がむしゃらに動いても効果がないのは目に見えている」

斧戦士「ああ、でかい手柄を立てたり、偉い人とコネ作ったりしなきゃな」


ワイワイ… ガヤガヤ…

傭兵A「聞いたかよ、東の山にドラゴンが出没するって」

傭兵B「え、マジかよ? ドラゴンっていや、最上位の魔物じゃねえか!」

傭兵C「俺らで退治すりゃ、一気に名を上げられるぜ!」

ガヤガヤ… ワイワイ…


斧戦士「オーノー! 渡りに船とはこのことだな!」

闇魔術師「うむ……竜を退治したとなれば、斧と闇魔法の評判を上げるには十分すぎる」
9:2018/12/05(水) 20:25:06.440 ID:TOtcolvCr.net
オーノー!
10:2018/12/05(水) 20:26:31.160
斧戦士「おい、お前ら!」

傭兵A「なんだ?」

斧戦士「今のドラゴン退治の話、俺らも一枚噛ませてくれねえか?」

傭兵A「えぇ~? あんまり人数が増えるとなぁ……」

闇魔術師「よろしく頼む」ヌゥッ

傭兵A「ひっ!? ビ、ビックリした!」

傭兵B「まあ、いいんじゃねえか? なにしろ相手が相手だし、人数は多い方がいいだろ」

傭兵A「それもそうだな……。分かった、あんたらも仲間に入れてやるよ」

斧戦士「ありがとよ!」
11:2018/12/05(水) 20:29:15.281
次の日――

― 東の山 ―

斧戦士「ここか……」

闇魔術師「竜がいてもおかしくはなさそうな山だな」

斧戦士「だが、妙だな……俺も竜については多少聞きかじっちゃいるが」

斧戦士「こんな人里に近い山で暮らすなんてありえねえんだが……」

傭兵A「おい、なにくっちゃべってやがる! ついて来ねえと置いてくぜ!」

斧戦士「おう、悪い悪い!」

ザッザッザッ…
13:2018/12/05(水) 20:31:22.676
ザッザッザッ…

傭兵A「お、いやがったぞ!」

傭兵B「あれが竜か! はじめて見た!」

傭兵C「で、でけえ……」


竜「…………」ズゥゥゥン


闇魔術師「おお……なんという迫力! これが竜というものか……!」

斧戦士「…………?」
14:2018/12/05(水) 20:34:17.809
傭兵A「みんな、気をつけろよ!」チャキッ

傭兵B「おう!」チャキッ

傭兵C「慎重にいかねえと、あっという間に全滅だぜ!」チャキッ

剣を構える傭兵たち。

竜「…………」オロオロ…

傭兵A「お前らも援護頼むぜ!」

闇魔術師「分かっている……」ズズズズズ…

斧戦士「…………」

闇魔術師「ん? どうした?」

斧戦士「俺は一回だけ竜を見たことあるんだが、あんなもんじゃなかった」

斧戦士「もっととんでもないデカさだったぜ」

闇魔術師「ということは、あれはまさか――」

斧戦士「ああ……竜の子供だ」

闇魔術師「……なんだと?」
15:2018/12/05(水) 20:36:21.671
傭兵A(そーっと近づいて……)

傭兵A「どりゃ!」ザシュッ

竜「グッ!」

傭兵B「もいっちょ!」ズバッ

竜「グアアアッ……!」

竜「すぅ~……」

斧戦士「気をつけろ! 火を吐いてくるぞ!」

傭兵A「マジかよ、やべえ! みんな、下がれぇ!」

竜「フーッ!!!」


シーン…


傭兵A「……へ?」
16:2018/12/05(水) 20:38:32.668
竜「あ、やっぱりダメだぁ……。吐けない……火を吐けないよぉ……」

傭兵A「…………」

傭兵A「こいつ……ひょっとして弱いんじゃね?」

傭兵B「ああ、さっきから全然攻撃してこないしな」

傭兵C「だとしたらチャンスじゃねえか? こんなんでも竜には違いないしな」

傭兵A「そうだな……死体にしちまえば“竜殺し”ってことにはかわりねえか!」

傭兵A「よーし、やっちまえーッ!!!」

竜「ひっ……!」



ザシュッ! ズバッ! ザクッ! ドシュッ! ザンッ!
17:2018/12/05(水) 20:40:28.762
傭兵A「ひゃははは、体丸めてやがる!」ザシュッ

傭兵B「うはっ! 完全に怖気づいてるぜ!」ザクザクッ

傭兵C「オラオラ、少しは反撃してみろよ! このヘタレ竜!」ザンッ

竜「ひいいいいいっ……!」

傭兵A「お前らもやれよ! こいつは斬りがいがあるぜ!」ズバッ



斧戦士「…………」

闇魔術師「…………」
22:2018/12/05(水) 20:43:50.822
斧戦士「おい……」

傭兵A「?」

斧戦士「その辺にしとけよ」

傭兵A「はぁ? なにいってやがる」

傭兵B「こいつの首を町に持ってかえりゃ、一躍ヒーローだぜ!」

斧戦士「それ以上やるってんなら……まずは俺が相手だ!」ズンッ

斧を構える斧戦士。

傭兵A「はぁ? ギャハハッ、んな斧で俺らと戦う気かよ!?」

傭兵B「おもしれえ、まずてめえから血祭りに上げてやるよ!」

斧戦士「…………」
24:2018/12/05(水) 20:46:19.273
斧戦士「ふんぬっ……ぬおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」ブオンッ

ドカァンッ!!!

ミシミシ…

傭兵A「ちょっ……あんなでかい木を……」

傭兵B「ケッ、ビビるな! あんな大振り、見せかけだけ――」

闇魔術師「俺も相手になろう……」

闇魔術師「闇の魔力で動きを縛れば、あの斧をもろに喰らうことになるな……」ズズズズズ…

傭兵A「な……! てめえまで……!」

傭兵ABC「…………」ゴクッ…

傭兵A「ちっ、行こうぜ!」

傭兵B「なんだこいつら……」

傭兵C「魔物に肩入れするなんてイカれてやがる……」

タタタッ…

傭兵たちは逃げ去っていった。
25:2018/12/05(水) 20:47:32.819 ID:TOtcolvCr.net
やだかっこいい
26:2018/12/05(水) 20:48:39.783
斧戦士「ふぅ……逃げてってくれたか。ありがとよ、闇魔術師」

闇魔術師「いや……あの竜と、いつも疎まれている俺の姿がダブってしまったのでな」

斧戦士「おい竜、大丈夫か?」

竜「う、うん……ありがとう。いたた……」

斧戦士「傷だらけじゃねえか……。薬草はあるけどこんなデカイ体に効くかな……」

闇魔術師「問題ない。俺が闇魔法で治癒してやろう」ニタァ…

竜「え、ホント? ありがとう!」

斧戦士「闇魔法って回復もできるのか!」

闇魔術師「この闇オーラで傷口を覆えば、すぐさま治る」グジュグジュグジュ…

斧戦士(うげ……なにあれ)

竜「やだ! やっぱり治さなくていい!」

闇魔術師「なぁに、すぐ終わる……」グジュグジュグジュグジュグジュ…

竜「やだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
27:2018/12/05(水) 20:50:49.688
……

斧戦士「なるほど、火を吐けなくて、親から見捨てられちまったと」

竜「うん……竜にとって火を吐けないってのは恥さらし、竜として認められないから」

竜「お父さんとお母さんにここに置き去りにされちゃったんだ……」

斧戦士「ライオンは子供を谷底に突き落とすなんていうが、竜の世界も厳しいんだな」

闇魔術師「こんな竜を退治するのは気がひける。別の仕事を探そうではないか」

斧戦士「そうだな」

斧戦士「なあボウズ、この辺で悪さしてる魔物だとか山賊だとか知らねえか?」

竜「ごめん、分からない」

竜「あ、でも、触手のおじさんならなにか知ってるかも!」

斧戦士「触手のおじさん?」
28:2018/12/05(水) 20:51:59.510 ID:YAm013Dz0.net
触手のおじさん?
29:2018/12/05(水) 20:52:34.278
竜「この山で暮らしてる触手の魔物だよ!」

竜「物知りで、ボクもいつもお世話になってるんだ!」

闇魔術師「ほう……」

斧戦士「俺らは人間だけど、会ってくれんのか?」

竜「大丈夫だと思う。特にそっちの魔術師さんは、人間っぽくないし」

闇魔術師「ほっとけ」

斧戦士「分かった! ボウズ、その触手のとこに案内してくれ!」

竜「うん、分かった! ついてきて!」ズシンズシン…
30:2018/12/05(水) 20:55:26.029
触手の生息地――

竜「おじさん!」

触手「……む? おおっ、竜の子供か」ウネウネ

斧戦士(マジで触手じゃんか……!)

闇魔術師(さながら陸上のイソギンチャクといったところか)

触手「この人間たちは?」ウネッ

竜「この人たちはいい人だよ。ボクが退治されそうになってるところを助けてくれたんだ!」

触手「今時珍しいタイプの人間だな」

竜「で、この人たち、おじさんの知恵を借りたいんだって!」

触手「私の?」

斧戦士「実は……」
31:2018/12/05(水) 20:58:27.508
触手「ふぅむ、大手柄を立てるチャンスや大物とのコネクションを欲しているのか」ウネウネ

竜「なにか心当たりない?」

斧戦士(あるわけねーよな)

闇魔術師(触手に頼ってそんなものに巡り合えたら苦労はせん)

触手「……一つだけある」ウネッ

斧戦士「え、あるの!?」

触手「私の知り合いにこの王国の姫がいる」

触手「ちょうどお前たちのようなフリーな戦力を探していると聞いていた」

斧戦士「マジかよ!」

闇魔術師「この国の姫なら、コネクションとして申し分ないな」

斧戦士「で、どうやったら会えるんだ!?」

触手「どうやったらもなにも、彼女はもうすぐここに来るはずだ」

斧戦士「ここに!?」

闇魔術師「やってくるだと!?」
32:2018/12/05(水) 21:00:30.224
闇魔術師「労せずして、この国の姫と会えるなどツイてるな!」

斧戦士「おう! 逆玉狙っちゃったりして……」ウヒヒ…

触手「…………」ウネ…

竜「おじさん、なんだか浮かないうねり方してるね。どうして?」

触手「いや……」


「こんにちはー!」タタタッ


触手「お、噂をすれば来たぞ」

斧戦士(いったいどんな人だろう……)ドキドキ…

闇魔術師(俺としたことがドキドキしてきたぞ……)ドキドキ…

竜(お姫様かぁ……)ドキドキ…
33:2018/12/05(水) 21:03:22.023
姫「あれ? 今日は人がいっぱいね。わっ、竜までいる!」

触手「うむ、来客があってな」ウネウネ

斧戦士(おおっ、可愛い! 結婚したい!)

姫「そうだったんですか! 師匠も人気者になりましたね!」

斧戦士&闇魔術師(師匠……?)

姫「私、この王国の姫です! どうぞよろしくお願いします!」グネリッ

斧戦士&闇魔術師&竜「!?」ギョッ

斧戦士(なんだ!? 体がすごい曲がり方したぞ!?)

闇魔術師「あ、あの……さっきの“師匠”というのは……? まさか……?」

姫「ええ、私どうしても触手になりたくて、師匠に弟子入りしたの!」

姫「修行の成果があって、今ではこの通り!」ウネウネウネ

斧戦士「オーノー!」

闇魔術師「えええ……」

竜「ぐにゃぐにゃしてるぅ……」
35:2018/12/05(水) 21:06:27.472
竜「おじさんにこんなお弟子さんがいるなんて知らなかったよ」

触手「いや、弟子にした覚えはないんだが……」ウネェ…

姫「いーえ! たしかに弟子にするっておっしゃってました!」グネリッ

闇魔術師(今、首が180度くらい回ったぞ……)

斧戦士「えーと、どうやったらそんなになったんだ?」

姫「毎日のストレッチと……あとお酢を飲むことかしら」

斧戦士(そんなんで、絶対そんなにならないだろ……)

触手「それより、この者たちがお前に相談があるようなのだ。聞いてやってはくれんか」

姫「はいっ! 師匠命令とあらば!」ビシッ
36:2018/12/05(水) 21:08:34.230
……

姫「それなら、ちょうどいい仕事があるわよ!」

姫「私、あなたたちのような名前が売れてないフリーな戦力を探してたの!」

姫「もちろん、うまくいったら、斧や闇魔法を存分に支援してあげるわ!」

斧戦士「よっしゃあ!」

闇魔術師「……で、どのような仕事なのだ?」

姫「やって欲しいのは、ある男女の護衛よ」

斧戦士「護衛か……」

闇魔術師「男女とは? 誰のことだ?」

姫「うーん、それを説明するのはここよりお城の方がいいわね」

斧戦士「結構込み入った話みてえだな」

闇魔術師「分かった、場所を変えよう」
37:2018/12/05(水) 21:10:32.854
竜「あ、あの……」

斧戦士「ん?」

竜「ボクもついていっちゃ、ダメかな?」

斧戦士「別にいいけど……どうして?」

竜「ボクも、なにかお兄さんたちに恩返しをしたいんだ!」

斧戦士「へっ、気にすることないのによ」

闇魔術師「ついてきたければついてくるがいい」

姫「うーん、だけど竜がやってきたら、お城が大騒ぎになっちゃうわ」

竜「それなら大丈夫! ボク、人間に化けれるから! それっ!」ボワンッ

姫「えっ!?」
40:2018/12/05(水) 21:12:32.501
竜は一瞬で少年になった。

少年「……ね?」

斧戦士「おお、すげえ! ちゃんと服までできてやがる!」

闇魔術師「子供の竜が人間に化けると、やはり子供になるのだな」

姫「可愛い……捕獲しちゃいたいぐらいよ……」グネリッ

少年「ひっ!」

闇魔術師「どうして今までそれをやらなかったのだ?」

闇魔術師「そうすれば、さっきのように狙われることもなかったろうに」

少年「竜の世界では、人の姿に化けるのは誇りを捨てることだって教えられてるから……」

斧戦士「なるほどなぁ。で、捨てちまっていいのか?」

少年「ボクあまりそういうの気にしないから」

姫「柔軟なのはいいことよ! 師匠や私のようにね!」ウネウネウネ

斧戦士(あんたは柔らかすぎなんだよ!)
41:2018/12/05(水) 21:14:41.417
姫「それじゃあ師匠、行ってきます!」

触手「うむ」ウネウネ…

ザッザッザッ…

触手「…………」ウネ…

触手(パワーだけはある斧戦士、嫌われたくない闇魔術師、火を吐けない竜、触手になりたい姫、か)

触手(なんともわけの分からん組み合わせだが……)

触手(何か……やれるかもしれんな)

…………

……
43:2018/12/05(水) 21:17:51.331
斧戦士「ところで姫様よぉ、なんで触手になりたいなんて思ったんだ?」

姫「私、幼い頃、この山で迷子になって師匠に助けられたことがあるの」

姫「それで師匠みたいになるのが夢になって……」

闇魔術師「しかし、人間と触手は種族が違う。よく“なりたい”と思ったものだ」

姫「だってうちの騎士団長、まるで熊みたいだし、私も“なれる”って思っちゃったのよね」

斧戦士「ハハハ、なんだそれ」

闇魔術師「人を熊呼ばわりなど、ひどい話だ」

少年「いくら熊に似てても、人間は人間だよねえ」

姫「えーっ、ホントにそっくりなんだから!」

ハハハハ… ワイワイ…
45:2018/12/05(水) 21:20:18.087
― 城 ―

姫「門番に話つけてきたから、あなたたちも中に入れるわよ」

斧戦士「まさか城に来ることになるとはな……」

闇魔術師「さすがに緊張するな」

少年「うわー、おっきい……」

姫「さ、ついてきて!」



「おや? 姫様、お帰りなさいませ」ヌゥッ
46:2018/12/05(水) 21:22:29.797
騎士団長「今日はお客をお連れですか」

斧戦士「く、熊ァ!?」

闇魔術師「なんでこんなところに熊が!?」

少年「熊、怖いよぉ……!」

姫「ちょっと、あなたがビビってどうすんのよ」

騎士団長「おや、皆さん私のあだ名をご存じで? 光栄ですな」

斧戦士(そりゃ分かるって……)

姫「ね、熊みたいでしょ」

斧戦士&闇魔術師&少年「うん」

騎士団長「ハハハ、光栄ですな」
47:2018/12/05(水) 21:24:51.194
姫「ただいま!」

執事「お帰りなさいませ、姫様」

執事「お客様もようこそいらっしゃいました。さ、こちらへどうぞ」

スタスタ…

斧戦士(すげぇ~、城なんてはじめて入った!)キョロキョロ

闇魔術師(いいのかな……俺みたいなのがこんなところに来て)キョロキョロ

少年(絨毯フカフカだぁ~)キョロキョロ

姫「三人とも、キョロキョロしすぎ」

姫「お姉ちゃん、入るわよ」コンコン…

「どうぞ」

斧戦士(お姉ちゃん!? ――ってことは、第一王女サマか!)

ギィィィ…
48:2018/12/05(水) 21:27:45.157
姉姫「あら、いらっしゃい」ニッコリ…

姫「お姉ちゃん、協力してくれそうな人たちを連れてきたわ!」

姉姫「まぁっ、ホント?」

斧戦士(おお、キレイだ……!)

闇魔術師(だが、安心はできん……前例がいるからな)

斧戦士「あの、お姉さん、たとえば夢が“スライムになること”なんてオチはないっすよね?」

姉姫「そんなことありませんけど」

斧戦士&闇魔術師(よかった……)ホッ…

少年「?」

姫「なにホッとしてるのよ!」
51:2018/12/05(水) 21:30:38.785
執事「皆さまに紅茶です。どうぞ」コトッ

斧戦士「これうんめえ!」グビグビ

少年「ホント! もっと欲しい!」グビグビ

闇魔術師「……コホン。ところで、護衛任務についてうかがいたいのだが」

姫「お姉ちゃん」チラッ

姉姫「実は私、一ヶ月後、我が国で隣国の王子様と三日間≪婚前デート≫をするのです」

斧戦士「デート?」

姉姫「デートといっても大勢の兵を引き連れた、大都市訪問といったところですが……」

闇魔術師「そうか、この王国は隣国と同盟関係を結ぼうとしている」

闇魔術師「そのために、あなたが嫁がれるというわけか」

姉姫「そうなんです」

姫「うちと隣国が同盟を結べば、かの帝国もそう簡単に手を出せない勢力になるわ!」

斧戦士「戦略結婚ってやつか……」

闇魔術師「政略な」
53:2018/12/05(水) 21:32:36.255
少年「つまり、同盟のために、好きでもない人と結婚しなきゃいけないってこと?」

姉姫「いいえ、そんなことはありません。私もあの方のことを愛しています」

姉姫「ですが、結婚前の最後のデートぐらい、二人で自由なデートをしてみたいのです……」

姫「そこで、お姉ちゃんは公式行事のデートはそっくりな替え玉にお願いして」

姫「隣国の王子様と独自にデートすることにしたの!」

姫「その二人をあなたたちに護衛してもらいたいのよ!」

斧戦士「俺たちが……」

闇魔術師「頼みたい仕事というのは、お忍びデートの護衛というわけか……」

姫「そう、こんな仕事まさか兵士には頼めないし、傭兵の知り合いなんかいないし」

姫「どうしようって悩んでたところに、あなたたちと出会えたってわけ!」

少年「わぁっ、いいじゃない! やろうよ!」

斧戦士&闇魔術師「…………」
54:2018/12/05(水) 21:34:38.269
斧戦士「いや、さすがにそれは……まずいんじゃ」

闇魔術師「うむ、バレたらただでは済まん……」

姫「どうしてよ! あなたたち、大きな手柄を立てたいんでしょ!?」

斧戦士「だけどよぉ……」

闇魔術師「国際問題にも発展しかねんし……」

姫「なによ! さっきまであんなに……!」

姉姫「おやめなさい」

姉姫「いいのです。無理強いするわけにはいきませんから……」

姫「……分かったわ」

執事「姫様……」
55:2018/12/05(水) 21:37:27.259
姫「…………」

少年「どうして姫お姉さんは、自分のお姉さんにデートさせてあげたいの?」

姫「私が触手になりたいだとか、今までのびのび生きてこれたのはお姉ちゃんのおかげだった」

姫「お姉ちゃんが王女としての責務をしっかり果たしてくれたから、私は好き勝手やれたの」

姫「だから……だから……」

姫「だから、お姉ちゃんのたった一度のワガママくらいなんとしても叶えてあげたいのよ……」

少年「姫お姉さん……」

斧戦士「…………」

闇魔術師「…………」
57:2018/12/05(水) 21:40:41.571
斧戦士「よし、決めた!」

斧戦士「俺……やっぱり力になってやるよ!」

闇魔術師「俺もだ……」ニタァ…

少年「ボクもついてく! いいでしょ!」

姫「え、いいの!?」

斧戦士「だって、今の話聞いちまってさぁ……やらないのは男じゃねえだろ!」

闇魔術師「うむ、俺の闇魔法の見せどころと見た」

姉姫「ありがとうございます……!」

執事「よかったですね、姉姫様」

姉姫「はい……!」

執事「お三方、どうかお二人をよろしくお願いします……」

斧戦士「おう、任せとけ!」
59:2018/12/05(水) 21:43:28.390
帰路につく斧戦士たち。

斧戦士「いやぁ~、まさかこんな大仕事が舞い込んでくるとはな」

闇魔術師「しかし、やることはデートだ。危険はさほどでもなかろう」

斧戦士「そうだな。せいぜい観光旅行を楽しもうぜ!」

少年「ボク、楽しみ!」

斧戦士「ボウズ、デート中はくれぐれも竜になるんじゃねえぞ」

少年「分かってるよ。ボクの正体は四人だけの秘密ね!」

斧戦士「それじゃ俺、こっちだから」

闇魔術師「うむ」

少年「じゃーねー! 斧お兄さん!」

スタスタ…

斧戦士(この護衛を成功させて、あの姫とコネができれば……)

斧戦士(近衛兵になんかしてもらったりして……)グフフ…
60:2018/12/05(水) 21:45:38.830
すると――

斧戦士「――ん?」

黒剣士「…………」ザッ

斧戦士(なんだこいつ……いきなり現れやがった!)

斧戦士「えーと、誰だ?」

黒剣士「……勝負を申し込む」

斧戦士「は? なにいって――」

シュバッ! ――ギィンッ!

鋭い斬り込みを、かろうじて防御する。

斧戦士「ぐっ!?(なんて速さだ……!)」

黒剣士「さあ、今度はそちらの番だ……」
61:2018/12/05(水) 21:47:24.030
斧戦士「こなくそぉっ!」ブオンッ

黒剣士「ずいぶんと大振りだな」シュバッ

ザシィッ!

肩を斬られる。

斧戦士「ぐあああっ……!」ブシュッ…

斧戦士「くそっ、このっ!」ブンブン

斧戦士(ちくしょおおおお! 当たんねええええええ!!!)ブンブンブン

黒剣士「そんな力任せでは、薪割りがせいぜいだな」

黒剣士「トドメだ……」ジャキッ

斧戦士(やべえ……やられる……!)
62:2018/12/05(水) 21:49:32.369
闇魔術師「おい、どうした!?」タタタッ

少年「どうしたの!?」タタタッ



黒剣士「……む。まあいい、実力は把握できた」

タタタッ…

闇魔術師「なんだあいつは? お前の友達か?」

斧戦士「はぁ、はぁ、はぁ……んなわけねえだろ……」

少年「大丈夫!?」

斧戦士「ああ……だけど、お前らが来なきゃヤバかった……」

闇魔術師「大した傷ではない、すぐ治癒してやろう」ニタァ…

斧戦士「え、治癒ってまさか――」

闇魔術師「もちろん、これだ」グジュグジュグジュ…

斧戦士「オーノー!」
64:2018/12/05(水) 21:52:36.046
……

斧戦士「やっと終わった……」

闇魔術師「回復してやったのだ。少しは感謝しろ」

斧戦士「分かってるよ! ありがとよ!」

闇魔術師「ところで今の剣士……いったい何者だったのだ?」

斧戦士「分かんねぇ……。黒ずくめで顔も隠してたし……」

斧戦士「だが、今度の護衛……もしかしたら、一筋縄じゃいかないかもしんねえ……」

闇魔術師「うむ……」

少年「うん……!」

斧戦士(マジで殺されそうになって、やっと分かった……!)

斧戦士(このままじゃダメだ、このままじゃ……)
65:2018/12/05(水) 21:55:24.691
― 訓練所 ―

斧戦士「……お前に折り入って頼みがある」

女剣士「?」

斧戦士「俺を鍛えてくれ!」ガバッ

女剣士「いきなりどうした?」

斧戦士「今度、重要な仕事をすることになってな……。今のままじゃダメだって分かったんだ!」

女剣士「どんな仕事だ?」

斧戦士(正直に話すわけには……いかねえよなぁ……)

斧戦士「んーと、ある女性を守る、的な?」

女剣士「!? 誰だ、その女性というのは!」

斧戦士「それは……内緒だ!」

女剣士「なんだそれ!」
66:2018/12/05(水) 21:56:43.390
女剣士「教えてくれなきゃ、稽古なんかつけない!」

斧戦士「……頼む!」

斧戦士「どうしても、やり遂げなきゃならないんだ!」

女剣士「……いいだろう。だが、手加減はしないぞ!」

斧戦士「もちろんだ!」
67:2018/12/05(水) 21:58:15.664
斧戦士「どぅりゃあっ!」ブオンッ

女剣士「だから、あんたは大振りすぎる!」

斧戦士「やっぱりこのスタイルを変えなきゃダメかぁ……」

斧戦士(闇魔術師は闇魔法で人助けしようとし、竜のボウズはプライドを捨てて人に化けた!)

斧戦士(あの姫様だって触手になりたい一心で、あんな人間離れした柔軟さを手に入れた!)

斧戦士(俺ももう“斧らしさ”とか“男らしさ”とかいってらんねえ!)

斧戦士(強くならねえと……!)

斧戦士「もういっちょう!」ヒュオッ

女剣士「おおっ! 今のはよかったぞ!」
68:2018/12/05(水) 22:00:24.657
他のメンバーもそれぞれ――

闇魔術師「…………」ズズズ…

闇魔術師「……瞑想終了」

闇魔術師「もっと魔力を上げておかんとな……。いざという時、枯渇したらまずい……」



竜「フーッ! フーッ!」

竜「ダメだぁ……どうしても火が出ない……!」



姫「よっと」グネリッ

姫「ど~う? こんなに曲がるようになったのよ」グネリッグネリッ

執事「姫様、お見事です」パチパチ



…………

……
69:2018/12/05(水) 22:05:04.010
一ヶ月後――

― 城 ―

国王「ただいまより、我が国の第一王女と隣国の王子殿による婚前デートを開始する!」

国王「皆の者、盛大に出発を祝ってくれたまえ!」


ワァァァァ……! ワァァァァ……!

ドンドコドン… ドンドコドン…



「姉姫様バンザーイ!」 「隣国王子バンザーイ!」 「行ってらっしゃいませー!」

ワアァァァァァ……!


城の周辺は、大勢の民衆と兵士が集まり盛り上がっていた。
70:2018/12/05(水) 22:07:33.458
その裏では――

姉姫「よろしくお願いします……」

王子「バレないように頼むよ」

影姉姫「はいっ!」

影王子「お二人もごゆっくり!」

姫「さあ、あっちに護衛の三人が待ってるわ!」

執事「姫様たち、早く! このパレードを抜け出せるのは今しかありません!」

姫「行ってくるわ、執事!」

執事「城でデートの成功をお祈りしております」ペコッ
71:2018/12/05(水) 22:09:31.305
王子「フッ……君たちが護衛役かい? まあ、三日間よろしく頼むよ」

斧戦士(こいつが……隣国の王子! どことなくいけ好かない奴だぜ……)

王子「さっそく自己紹介してもらおうか?」

斧戦士「斧戦士だ! 攻撃がなかなか当たらねえ!」

闇魔術師「闇魔術師だ……皆に嫌われている」

少年「ボクはりゅ……じゃなかった、ただの人間の子供です!」

姫「あなたの義理の妹になる姫よ! 夢は触手になること!」グネグネ

王子「…………」

王子「フッ、期待してるよ」

斧戦士(あっ、意外といい人かも)
72:2018/12/05(水) 22:12:31.193
姫「それじゃお姉ちゃん、デートコースをみんなに教えてあげてくれる?」

姉姫「ええ」


一日目 湖畔の村に宿泊(名物のクリームシチューを食べる)

二日目 西の山で登山&キャンプ

三日目 古城を訪問


姉姫「このように考えてます」

斧戦士「へぇ~、なかなかいいデートプランだな。大都市訪問なんかよりよっぽど面白そうだ」

姫「そりゃそうよ、私とお姉ちゃんと執事で考えたんだから!」

姫「さ、お姉ちゃんと王子さんは馬車に乗ってもらって……しゅっぱーつ!」
73:2018/12/05(水) 22:14:35.806
道中――

ガラガラガラガラガラ…

ザッザッザッ…

姉姫「こうして、王子様とゆっくりデートができるなんてホント嬉しいです」

王子「ボクもだよ」


斧戦士(ゆっくりとデートといきゃいいがな……)

斧戦士「ところでさっきから、後ろをつけてきてる奴がいるな」ヒソヒソ…

闇魔術師「ああ、全身を白いローブで覆っている」ヒソヒソ…

闇魔術師「どうする……? 俺の闇魔法で威嚇してみるか?」

斧戦士「いや、やめとこう。ただの旅人かもしれねえし」



白ローブ「…………」ザッ…
74:2018/12/05(水) 22:16:51.015
デート開始から一時間ほど経過――

バババッ

武装兵A「その馬車、止まれ!」

武装兵B「ここから先へは通さんぞ!」

ザザッ…

武器を持った集団が一行の行く手を塞いだ。



斧戦士「なんだ!?」

少年「うわぁ!?」
75:2018/12/05(水) 22:18:51.581
武装兵A「隣国の王子を引き渡してもらおう。我々の手で成敗してくれる!」

斧戦士「なにいってやがる! この馬車に王子なんか乗ってねえよ!」

武装兵A「ふん、調べはついているのだ!」

斧戦士「なにい……!?」

少年「あわわわ……」

斧戦士「なんなんだこいつら!?」

闇魔術師「おそらく、隣国を嫌ってる一派……それも≪過激派≫の連中だろう」

闇魔術師「隣国との同盟を阻止するため、やってきたにちがいない」

武装兵A「その通り! 我らは隣国との同盟など断じて認めん!」

武装兵B「王子を引き渡せばよし。さもなくば、全員痛い目を見るぞ!」
76:2018/12/05(水) 22:21:28.381
斧戦士「ここは俺に任せときな」ズイッ

武装兵A「や、やる気か!?」

斧戦士「お前ら全員、武器を構えろよ」

武装兵A「みんな、構えろぉ!」

バババッ

斧戦士(よーし、全員の武器がうまく並んだ!)

斧戦士(この一ヶ月……俺は筋トレだってこなしてきたんだぜえっ!)

斧戦士「ぬううんっ!!!」ブオオンッ

バキキキィィンッ!!!

武装兵A「な……!?」

「ひいいっ!」 「俺の剣が……!」 「槍が折れた!」

斧戦士「お前ら……出直してきなぁ!」ビシッ

ワァァ…… ヒィィ……

武装集団はあっさり逃げていった。
77:2018/12/05(水) 22:23:17.782
斧戦士「どうよ?」

闇魔術師「おお……やるではないか」

少年「すごーい!」

姫「あなたこんなに強かったのね!」

斧戦士「あいつら見たとこ武器もろくに持ったことない素人集団だろ?」

斧戦士「さすがにそんなのに負けらんねえよ。武器もナマクラだったしよ」

ワイワイ…

斧戦士(後ろにいる白ローブも動き無し、か……)



白ローブ「…………」
78:2018/12/05(水) 22:25:39.723
― 湖畔の村 ―

村長「これはこれは旅の方々、湖畔の村へようこそ」

姉姫「この村の名物であるクリームシチューを食べさせて頂きたいのですが」

王子「お金はたっぷりある。全員に振る舞ってくれたまえよ」ジャラッ

村長「おお、これはこれは……ずいぶんと裕福な旅人様ですな」

村長「シチューはあちらにある民家でご用意します」

村長「夜になるまでは、しばらく村を散策していて下され」

姫「は~い!」グネリッ

村長「おわっ!?」

少年「ボク、シチュー楽しみ!」
79:2018/12/05(水) 22:28:10.084
村を自由に歩き回る一行。

姉姫「のどかで、キレイなところですね……」

王子「うん、公式のデートだったら絶対来られなかっただろう」



姫「あんなにのびのびしたお姉ちゃん見るのはじめて……」グネーッ

少年「姫お姉さんはいつものびのびしてるもんね」

斧戦士「だが、気になるな……」

闇魔術師「なにがだ?」

斧戦士「決まってんだろ。なんでこのデートがあの≪過激派≫どもにバレてたかってことだよ」

闇魔術師「ううむ……たしかに。極秘デートのはずなのに……」

斧戦士「ま、いいか! クリームシチューが楽しみだぜ!」

闇魔術師「あまりよくない気もするが……俺も楽しみだ」ニタァ…
81:2018/12/05(水) 22:30:14.156
夜になり――

村娘「うちの村自慢のクリームシチューです! 熱いうちに召し上がって下さい!」

モグモグ…

斧戦士「うんめえ!」

闇魔術師「うむ、これはたまらん。色が黒ければもっとよかった」

少年「おいしーっ!」

姫「トロ~リしてて、ますます体が柔らかくなりそう!」グネグネェ…

姉姫「濃厚で、それでいてまろやかで、とてもおいしいです……!」

王子「フッ、君を料理人として、スカウトしたいぐらいだよ」

村娘「皆さん、ありがとうございます!」
82:2018/12/05(水) 22:32:41.628
斧戦士「おかわりください!」バッ

少年「斧お兄さんだけ、いっぱい食べてずるい!」

斧戦士「覚えとけボウズ、体が大きい奴はたっぷり食べる権利があんだよ」

少年「体の大きさだったらボクだって……!」

闇魔術師「おいっ! 戻ってはならんぞ、こんな家の中で!」

少年「あ、いっけない」

姫「んもう……ハラハラさせないでよ」

姉姫「?」

王子「?」

アハハハハ… ハハハハハ…
83:2018/12/05(水) 22:34:44.174
姉姫「この辺りは治安はいかがですか?」

村娘「今はとても良好です。騎士団の人達がよく対応して下さったおかげで……」

姉姫「それはよかった」

村娘「ただ……先ほど気になる知らせが入ってきたんですよね」

姉姫「というと?」

村娘「昔逮捕されて、牢獄にいた≪暗黒教≫の教祖が、何者かの手引きによって脱獄したとか……」

村娘「看守の人達は、鋭い爪のようなもので倒されてたそうです」

姉姫「まぁっ……」

姫「物騒な話ね……」

闇魔術師(暗黒教だと……!)



斧戦士「…………」ピクッ
84:2018/12/05(水) 22:37:22.310
斧戦士「お前ら……どうやらちょっと忙しくなりそうだぜ」

闇魔術師「どうした?」

斧戦士「外が騒がしい……おそらく山賊かなんかだ……!」

闇魔術師「なんだと!?」

斧戦士「俺と闇魔術師だけ外に出る。みんなはこのまま中にいてくれ」

姉姫「どうかお気をつけて!」

姫「頼んだわよ!」

王子「君たちの働きに期待しているよ……フッ」

少年「脂汗、ハンカチで拭く?」

王子「ありがとう……フッ」フキフキ
85:2018/12/05(水) 22:40:27.082
村の入り口で、村長たちが山賊と対峙していた。

村人「村長、どうしましょう!?」

村長「大丈夫じゃ。今の山賊どもは賢い……金さえ払えば帰っていくケースが多いという」

村長「あ、あの……どうかこれでご勘弁を」ジャラ…

首領「へっ、ずいぶんと用意がいいな」

首領「一応もらっとくが、オレたちはこんなもんどうでもいいんだよ」

首領「もっといえば、この村自体どうでもいい」

村長「おっしゃる意味が……」

首領「一つだけ質問に答えろ。この村に旅人集団が来てるはずだ。どこにいる?」

村長「あちらの民家ですが……」

首領「よし、そいつらだ! 間違いねえ! そいつら“だけ”を狙え!」

山賊A「へい!」

山賊B「分かりやした!」

ウオォォォォォ……!
88:2018/12/05(水) 22:43:07.261
斧戦士(他の家や村人はスルーして、まっすぐこっちに来やがった!)

山賊A「こいつが護衛か!」ダッ

山賊B「やっちまえ!」ダッ

斧戦士「ふんぬうっ!」ブオオンッ

ドカッ! ザシュッ!

山賊AB「ぐあああっ……!」

豪快な斧さばきで、二人を仕留める。

斧戦士「オラァ! バッサリやられたい奴だけかかってきなァ!」

山賊C「てめえ、よくもやりやがったなァ!」
89:2018/12/05(水) 22:45:23.292
闇魔術師「一人だけいい格好はさせんぞ」ヌゥッ

斧戦士「オーノー! 夜だと昼間の十倍は怖いぞ、お前!」

闇魔術師「闇よ、渦となりて敵を飲み込め……」

ズオオオオッ…

山賊C「なんだこれ!? 黒いのがまとわりついてきて――」

山賊C「う、うぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」メキメキゴキゴキ…

斧戦士「おお、やるじゃねえか!」

闇魔術師「褒めてる場合ではない。まだまだ山賊はいるのだからな」

斧戦士「ちいっ! 全員こっちに向かってきやがる!」

姫「私にも手伝わせて!」グネリッ

斧戦士&闇魔術師「えっ!?」
90:2018/12/05(水) 22:47:36.368
斧戦士「あんたは姫なんだぞ! 戦っちゃダメだろ!」

姫「大丈夫、私だって師匠の弟子よ。山賊なんかに負けないんだから!」

山賊D「オラァッ!」ブンッ

姫「あらよっと」ウネリッ

山賊D「な!?」

姫「触手心得其の一……≪常に柔軟であれ≫!」

姫「そして――」ガシッ

山賊にチョークスリーパーを決める。

山賊D「ぐ、ぐるじっ……!」

姫「触手心得其の二……≪獲物を捕える時は一瞬で≫!」グググ…

山賊D「あふぅ……」ガクッ

闇魔術師「失神させた……!」

斧戦士「や、やるじゃねえか、姫!」

姫「でしょ~!」グネグネグネグネグネ
91:2018/12/05(水) 22:48:46.908 ID:mxGY/9ZRr.net
姫強いなw
92:2018/12/05(水) 22:50:38.247
首領「なに手こずってやがる! ええい、オレが出る!」

首領「うおおおおおおおっ!!!」ブオッ

斧戦士「ぐっ!」ギンッ

斧戦士「だりゃあっ!」ブンッ

首領「こんな大振りが当たるかよぉっ!」サッ

首領「今だっ! 家の中にいる、姉姫と王子をとっ捕まえるんだ!」

山賊E「へいっ!」

斧戦士(こいつらもデートのこと知ってやがる! なんでだよぉっ!)

斧戦士「やべえっ! こいつらを家に入れるな!」

闇魔術師「くっ!」ズオオオオッ

姫「ダメ、入られちゃう!」
93:2018/12/05(水) 22:53:09.095
ところが――

ザシュッ……!

山賊E「ぐはっ……!?」ドサッ

斧戦士「!?」

斧戦士「お前は……!」

白ローブ「…………」ザッ

斧戦士「誰だ!? なにもんだ!? なんで助太刀した!?」

白ローブ「あたしだ、あたし」

斧戦士「この声! ま、まさか……」

バサァッ!

女剣士「そうだ、あたしだ」

斧戦士「オーノー!」
94:2018/12/05(水) 22:55:55.598
女剣士「今はあたしのことより、さっさとそいつを倒してしまえ!」

斧戦士「おう!」

斧と棍棒が押し合う。

首領「オレの腕力に張り合うとは……ぬがぁぁぁぁぁっ!」グッ…

斧戦士「パワー勝負なら負けねえぜぇ!」グッ…

グググググ…

斧戦士「ぬぅあぁぁぁぁぁっ!」ムキィッ

首領「ゲェッ! 押され――」

ガシュッ!

首領「ぐ、はぁ……っ!」ドサッ…



「わわっ……首領がやられた!」 「逃げるぞ!」 「ひええ~っ!」

タタタタタッ… タタタタタッ…
97:2018/12/05(水) 22:58:17.441
女剣士「ふぅ……あたしに感謝しろよ」

斧戦士「助かったぜ……だけど、なんでお前がここにいるんだよ!?」

女剣士「あんたがどんな仕事をするか気になったからだ」

斧戦士「だからなんで?」

女剣士「ほら、女の人を守る……とかいってたから!」

斧戦士「ハァ? 意味分かんねーよ」

姫「あなたは誰? もしかして……斧戦士さんの恋人?」

斧戦士「恋人じゃねえよ!」

女剣士「恋人じゃない!」



闇魔術師「イチャイチャしおって……闇魔法をぶつけてやりたい」ズズズ…
98:2018/12/05(水) 23:00:24.852
……

女剣士「話は分かりました。是非あたしも参加させて下さい!」

姉姫「ええ、喜んで」

王子「フッ、ようやくまともな人が入ってくれて嬉しいよ」

斧戦士「傷つくこというのやめてくれる?」

闇魔術師「しかし、気になる……。なぜ山賊がこのデートのことを知っていたのか……」

姫「だったら私に任せて! ちょうど一人、捕まえてあるからさ」グイッ

山賊D「ひ、ひいいいっ……! ボク、悪い山賊じゃないよ! 見逃してぇぇぇ……!」

姫「触手心得其の三、≪拷問は容赦なく≫!」ウネウネウネウネウネ…

コチョコチョコチョコチョコチョ…

山賊D「あひゃひゃひゃひゃひゃっ! ひゃーひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

山賊D「げーっひゃっひゃっひゃっひゃっ! あひゃっ……! あひゃひゃっ……!」

少年「うわぁ……」ゾッ…

斧戦士「子供が見るもんじゃねえ」サッ
99:2018/12/05(水) 23:03:14.502
姫「なんで私たちを襲ったの?」コチョコチョコチョ…

山賊D「た、頼まれっ……頼まれたんでしゅっ!」

姫「誰によ?」コチョコチョコチョ…

山賊D「く、黒っ! 黒ずくめの……剣士っ! 大金、くれたからっ……!」

斧戦士「…………!」

斧戦士「やっぱりあいつか……」

闇魔術師「奴はいったい何者なのだ?」

斧戦士「おそらく、さっきの≪過激派≫に違いねえ! きっとあいつがリーダーなんだ!」

闇魔術師「となると、次はいよいよあの剣士自ら来る可能性が高いな」

斧戦士「おもしれえじゃねえか……。返り討ちにして、斧の強さを見せつけてやるぜ!」

少年「…………」

少年(ボクも、役に立ちたい……)

こうしてデート一日目は終わった――
100:2018/12/05(水) 23:06:21.211
次の日――

― 西の山 ―

斧戦士「今日はこの山を登って、山頂でキャンプか」

斧戦士「標高は低い山だが、ナメてかからないようにな」

ワイワイ…

少年「闇お兄さん、大丈夫?」

闇魔術師「この格好で登山はキツイ……」ハァハァ…

女剣士「姫様、体柔らかいですね……」

姫「私、触手目指してるから」グネグネッ

王子「足もとに気をつけて。さ、ボクにつかまって」サッ

姉姫「ええ、ありがとうございます」
101:2018/12/05(水) 23:08:19.199
登山を始めてしばらくして――

ガサガサ…

斧戦士(ん、茂みから気配が……!)サッ


ガバァッ!


王子「わーっ!? 熊!? フッ……死んだふり」バタリ

女剣士「鎧をつけた熊……魔物かっ!」チャキッ


姉姫「いいえ……!」

姫「違うわ、これは……!」
102:2018/12/05(水) 23:11:28.629
騎士団長「ハッハッハ、熊と間違われるとは、光栄ですな」

姫「騎士団長!」

姉姫「どうしてここに!?」

騎士団長「私は騎士団長として、当然婚前デートに参加していたのですが」

騎士団長「姉姫様と王子殿の様子がどことなくおかしいことに気づきました」

騎士団長「そこで、二人を問いただしてみたのです」

騎士団長「すると、観念したのか、二人は全てを吐きましたよ」

騎士団長「二人が替え玉であることも、本物の二人が今どうしているのかも……」

姫「さすが騎士団長……鋭いわね!」

姉姫「では、私たちを連れ戻すつもりでここへ……?」

騎士団長「…………」
103:2018/12/05(水) 23:14:10.646
騎士団長「いいえ、違います」

姉姫「!」

騎士団長「私は騎士団長として、“本物の姫と王子”の無事を見届けに来ただけです」

騎士団長「お二人のデートを邪魔するつもりはありません」

姉姫「騎士団長……」

王子「ありがとう……」

騎士団長「その代わり、私も護衛メンバーの末席にお加え下さい」

姉姫「もちろんです」



少年「やったぁ! あの熊さん、いい人だね!」

闇魔術師「うむ、話が分かる人でよかった……」

斧戦士「敵が思ったより手強いって状況で、騎士団長の加入は心強いぜ……」
104:2018/12/05(水) 23:16:38.004
夜――

― 西の山・山頂 ―

たき火を燃やし、キャンプを楽しむ一行。

姉姫「さ、みんなで炊いたご飯をいただきましょう」

王子「フッ、実においしいよ」

ワイワイ…

斧戦士「この肉、うっめえ!」ガツガツ

女剣士「あまりがっつくな! みっともない!」

少年「みんなと一緒にご飯作って食べるの楽しいね!」

闇魔術師「うむ……こういうことを楽しむなど、生まれて初めてだ……」ホロリ

姫「ちょっ、泣くほどのこと?」
105:2018/12/05(水) 23:18:45.808
騎士団長「ではこれより、私がこのキャンプを盛り上げましょう!」

斧戦士「よっ、騎士団長!」

姫「ヒューヒュー!」

騎士団長「あ、そぉれ! あ、そぉれ!」ヨイヨイ

他全員「…………」

女剣士「まるで酔っ払った熊だな……」

斧戦士「シッ、聞こえるぞ!」





ガサ…
106:2018/12/05(水) 23:20:14.905 ID:mxGY/9ZRr.net
どんだけ熊なんだよ騎士団長
107:2018/12/05(水) 23:20:46.381
ガサ… ゴソ…


斧戦士「なんか来たぞ! みんな構えろ!」ズンッ

女剣士「また山賊か!?」チャキッ

少年「また熊ってオチじゃないの?」

騎士団長「いや、私は人間なんですが……」



茂みから出てきたのは――
109:2018/12/05(水) 23:23:20.697
スライム「キシャァァァッ!」ネバ…


斧戦士「スライム!?」

姉姫「きゃっ!」

王子「魔物までボクらを狙ってるのかい!?」

斧戦士「いや、山なら魔物ぐらい出るし、こんな奴の一匹や二匹、怖くも――」


ゾロゾロ…


斧戦士「へっ、こんな奴の三匹や四匹……」


ゾロゾロ… ウジャウジャ…


斧戦士「十匹や十一匹……!」

姫「どんどん増えてるじゃない!」

斧戦士「オーノー!」
110:2018/12/05(水) 23:26:05.976
一行は魔物集団に囲まれてしまった。

「ぐへへへへ……」 「人間がいっぱいだぁ~」 「フシュルルルル……」


ゾロッ…


斧戦士「スライム、ゴブリン、ワーム……オークまでいやがる!」

女剣士「く、来るぞ!」

闇魔術師「50体はいる……! 魔物がこんな徒党を組むなんて……!」

騎士団長「みんな、円陣を組め! 姫様たちや少年君を守るんだっ!」


オーク「ぶへへへ……こいつらぶっ殺せば、たっぷり餌にありつけるそうだぜ」

オーク「やっちまえっ!!!」


グオオオオオオッ! キシャアァァァァァッ!
111:2018/12/05(水) 23:28:14.822
ガキンッ! グオオッ! ザシュッ! ズバッ! キィンッ!

ワーム「ギャァス!」ガブッ

斧戦士「うげっ! 噛まれた!」

女剣士「このぉっ!」

ザシュッ!

ゴブリン「グオオッ……!」ドサッ

スライム「キシャァァァァァッ!」ネバァァァ

ベチャッ…

騎士団長「これは……毒液!」ジュアァァァ…

闇魔術師「闇の手よ、敵をなぎ倒せぇっ!」ブオオオオンッ

斧戦士(くそっ、いくら倒してもキリがねえ! どんどん湧いてきやがる!)
112:2018/12/05(水) 23:30:27.721
円陣の中――

王子「くっ、ボクに戦う力があれば……!」

姉姫「ごめんなさい……私がこんなデートしたいっていったせいで……」

姫「謝ってる場合じゃないでしょ、お姉ちゃん!」

少年「…………!」

姫「ほら、あなたもこっち来て! いざとなったら私が守ってあげるから!」ウネリッ

少年(怖い……!)

少年(ボク……臆病だけど、火を吐けないけど……ボクだって……戦わなきゃ!)

少年「ボクも戦うっ!!!」
113:2018/12/05(水) 23:33:30.614
斧戦士「オーノー! ったく、何匹いやがるんだぁっ!」ザシュッ

少年「斧お兄さん!」

斧戦士「ん!? お前は下がってろ! あぶねえぞ!」

少年「ううん……ボクも戦う!」

斧戦士「は!?」

少年「ボクだって役に立ちたいんだ!」ズオオオオ…


竜「ギャオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!」


姉姫「え!?」

女剣士「な!?」

騎士団長「なんと、この子は……竜だったのか!」

王子「フッ、なんとなく予感はしていたよ……。うん、予感してた……ううん……」ドサッ

姉姫「ああっ、しっかりなさって下さい!」
114:2018/12/05(水) 23:35:48.001
騎士団長「しかし、これなら一気に形勢逆転できますぞ!」

女剣士「ああ、あたしたちの勝ちだ!」


竜「さ、さあいくぞ! ガオーッ!」オドオド…


女剣士「……あれ?」

斧戦士(やっぱりダメだ!)

斧戦士(戦えないボウズが竜になったところで、悪いが役に立たねえ!)

斧戦士(それどころか、魔物どもにとっちゃ食いでがあるいい餌だ!)

斧戦士(あっという間にたかられて、食い殺されちまう!)

斧戦士「ボウズ、竜になるのはやめ――」
115:2018/12/05(水) 23:38:42.031
オーク「ブヒィ!? なんで竜がいるんだよ!?」

「ゲ、竜だと!?」 「き、聞いてねえぞ!」 「逃げろォ!」

ゾロゾロ… ゾロゾロ…



斧戦士「あれ? あっさり引いてく……」

竜「……へ?」

闇魔術師「そうか、竜は最上位の魔物……」

闇魔術師「魔物の世界では、竜に出会ったら問答無用で引くのがルールなのだろう」

姫「なぁるほど! すごいじゃない、竜くん!」

竜(……そんなことはじめて知った!)
116:2018/12/05(水) 23:40:33.509
竜「ねえねえ! 逃げてった奴ら、追いかけていっていい?」ズシンズシン

姫「やめてよ! せっかくいなくなったのに!」

竜「だってぇ、こんな気分いいのはじめてなんだもん!」



斧戦士「あいつ、意外と調子に乗るタイプだな……」

闇魔術師「後でたっぷり矯正しておこう」グジュグジュグジュ…

斧戦士「頼むわ」
117:2018/12/05(水) 23:43:35.529
女剣士「――――!」ハッ

女剣士「あそこに誰かいるぞ!」

斧戦士「あいつは……!」





二人組が立っていた――

赤目「ヒヒ……魔物軍団は役に立たなかったなァ」

黒剣士「あの子が竜だったとは……私のリサーチ不足だった」

黒剣士「どうやら、お前が用意した“奴”の手を借りるしかなさそうだ」

赤目「おや? 奴ら、こっちに気づいたようだぞ」
119:2018/12/05(水) 23:45:32.193
斧戦士「てめえ、こんなとこにいやがったか!」ダダダッ

黒剣士「…………」

斧戦士「この二日間、山賊や魔物をけしかけてきたのはてめえだな!」

黒剣士「そうだ」

斧戦士「なんでこんなことしやがる! ≪過激派≫ってのはここまでやるのか!」

黒剣士「答える必要はない」

斧戦士「だったらよぉ……ここで決着つけてやる!」
121:2018/12/05(水) 23:47:51.007
斧戦士「だりゃあっ!!!」ブオッ

黒剣士「相変わらずの大振りか。進歩がない……」

斧戦士(と見せかけて!)ビュオッ

ギィンッ!

つばぜり合いになる。

黒剣士「む……」ググッ…

斧戦士(ここで押し込むッ!)ググッ…

黒剣士「させるか」

――ギィンッ!

斧戦士(あっさりいなされたか! さすがだぜ……!)
122:2018/12/05(水) 23:50:27.634
斧戦士「なら次の攻撃で――」

黒剣士「そう焦るな」

斧戦士「!」ピタッ

黒剣士「お前たちは明日、≪古城≫に来るのだろう? 決着はそこでつけよう」

黒剣士「行くぞ」スッ…

赤目「ヒヒヒ……」スッ…


シーン…


斧戦士(くそっ……いなくなっちまった!)
124:2018/12/05(水) 23:53:38.737
女剣士「今のは誰なんだ? 雰囲気からして只者じゃなかったが……」

斧戦士「ヤツはこの国の≪過激派≫のリーダーだよ」

斧戦士「隣国との同盟が嫌だから、姉姫さんと王子を狙ってるって連中だ」

騎士団長「いえ……おそらく違います」

斧戦士「え、違うの?」

騎士団長「今の戦い、私も拝見していましたが――」

騎士団長「あの黒い剣士の剣技……巧妙に隠してましたが、あれは≪帝国≫のものです!」

斧戦士「帝国ゥ!?」

姫「なんでいきなり帝国が出てくるのよ!」

騎士団長「それはむろん、我が国と隣国の同盟を潰すためでしょう」
125:2018/12/05(水) 23:56:59.529
騎士団長「我が国と隣国の同盟が成立すれば、帝国にとっても脅威となる」

騎士団長「その同盟の条件である姉姫様と王子の結婚は、なんとしても阻止したいはず」

騎士団長「しかしいくら帝国といえど、あからさまにお二人を暗頃するわけにはいかない」

騎士団長「そんな時、このお忍びデートの情報を入手したのでしょう」

騎士団長「お二人を密かに、しかも同時に抹殺できる絶好のチャンスですからね」

騎士団長「我が国でお二人が揃って変死したとあらば、仮に同盟が成り立ったとしても」

騎士団長「その関係はひどくぎこちないものとなるでしょうから……」

姉姫「そ、そんな……」

王子「帝国が出てくるなんて……」

斧戦士「つまり、あの二人は帝国軍の人間か!」

騎士団長「いえ、そうではないと思います」

斧戦士「ことごとく人の推理を否定してくるんですけど、この熊ぁ!」

姫「まあまあ」
126:2018/12/05(水) 23:59:30.892
騎士団長「彼らはおそらく、帝国の工作員です」

斧戦士「工作員?」

騎士団長「各国に数名ずつ潜んでいるといわれる、帝国のスパイです」

騎士団長「幼少の頃より、戦闘や諜報はもちろん、あらゆる訓練を受けて育つと聞きます」

騎士団長「魔物使いのような技能も当然こなせるとか……」

騎士団長「帝国の利益のためなら、どんな手でも使うと聞きますし」

騎士団長「ある意味、帝国軍より手強い存在といえるでしょう」

姫「今までの、過激派も、山賊も、魔物も、全部あいつらの差し金だったってわけね!」
127:2018/12/06(木) 00:03:19.671 ID:SnHp1OYl0.net
王子「帝国が相手となると、デートは中止した方がいいのでは……」

騎士団長「いえ、彼らはこちらのデートコースを把握しています」

騎士団長「その上で古城で決着をつけよう、と我々に挑戦してきたのです」

騎士団長「もし、このまま逃げようとすると敵もなりふりかまわなくなり」

騎士団長「今まで以上にどんな手に出てくるか分かりません」

騎士団長「たとえば、湖畔の村の住民を巻き添えにするような作戦を仕掛けてくるかも……」

姉姫「そんなことは断じてさせません!」

姫「さすがお姉ちゃん!」

斧戦士「こうなった以上、奴らと真っ向勝負した方がむしろ得策ってわけか!」

女剣士「面白いじゃないか!」

王子「フッ……一生の思い出になるデートになりそうだ」
128:2018/12/06(木) 00:05:40.809 ID:SnHp1OYl0.net
竜「明日の敵は誰になるのかなぁ?」

斧戦士「帝国の一部隊くらい引き連れてくるんじゃねえか?」

騎士団長「いえ、軍が他国に入れば大問題になりますし、そんな派手なことはしないでしょう」

騎士団長「今この国にいる帝国の人間は“あの二人だけ”と断定していいと思います」

斧戦士「ほら、また否定されたぁ!」

女剣士「あんたはもう黙っときな」

騎士団長「おそらくまた、山賊か魔物をどこかから調達してくるのではないでしょうか」

斧戦士「魔物はボウズがいるから怖くねえし、山賊なんかに負けるほど俺らもやわじゃねえ!」

斧戦士「こうなったらデートの護衛、最後まで完遂しようぜ!」

オーッ!!!

闇魔術師「……と、その前に」

斧戦士「ん?」
129:2018/12/06(木) 00:07:46.104 ID:SnHp1OYl0.net
闇魔術師「先程の戦いで、何人か負傷しているだろう」

闇魔術師「この俺が治癒してやろう……」ニタァ…

闇魔術師「闇よ……」グジュルグジュル…

斧戦士「オーノー!」

女剣士「あたしは治療しなくていい! へっちゃらだ!」

騎士団長「わ、私も! 大した傷ではありませんし!」

闇魔術師「遠慮するな」ニタァ…


ぎゃあぁぁぁぁぁ……!



こうしてデートの二日目が終了、決着は三日目に持ち越された。
131:2018/12/06(木) 00:11:34.905 ID:SnHp1OYl0.net
翌日――

― 古城 ―

姉姫「ここが古城です。今は誰も住んでいませんが……」

王子「へえ……この国の歴史を感じさせる美しい城だね」

闇魔術師「だが、美しさと裏腹に、ここでは壮絶な戦があったとも聞く」

騎士団長「ええ、今でも地中には大勢の兵士が眠っていることでしょう」

竜「や、やめてよぉ……」

斧戦士「……おっと、おしゃべりはそこまでだぜ」

斧戦士「来たぞ……帝国の奴らだ!」
132:2018/12/06(木) 00:14:17.976 ID:SnHp1OYl0.net
黒剣士「よく逃げずにやってきた」

赤目「ヒヒヒ……古城で最終決戦ってわけだな。ロマンチックぅ~」

教祖「…………」



斧戦士「一人見ないツラがいやがる……誰だ?」

姫「不気味な奴ね……」

闇魔術師「あれは……≪暗黒教≫の教祖だ!」

斧戦士「あいつが!? たしか脱獄したっていう……」

闇魔術師「うむ……かつて闇魔法を悪用し、大勢の人間を虐殺した、おぞましい男だ!」

闇魔術師「同じ闇魔法使いとして、恥ずべき存在だ!」
133:2018/12/06(木) 00:17:56.778 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士「んな危険人物を脱獄させて、戦力にしたのかよ! とんでもねえ奴らだ!」

女剣士「だが、相手はたった三人だ。こちらの方が数では有利!」

騎士団長「ええ、さすがに昨日の今日で新しい戦力を用意する時間はなかったのでしょう」

斧戦士「よーし、黒剣士は俺と女剣士でブッ倒す!」

斧戦士「赤目野郎は騎士団長と姫、教祖は闇魔術師とボウズでやっつけてくれ!」

オーッ!!!



赤目「ヒヒヒ……勝手に対戦カード組まれてんぞォ?」

黒剣士「暗黒教の教祖よ、頼む」

教祖「うむ……だが約束は守ってもらうぞ。お前達に協力すれば……」

黒剣士「分かっている。もし、奴らを仕留められたなら、帝国に国賓として招く」

教祖「ならばよろしい」ズズズズズ…
134:2018/12/06(木) 00:20:40.988 ID:SnHp1OYl0.net
教祖「亡者どもよ……我がしもべとなり、敵を喰らい尽くせ」ズオォォォォォ…


斧戦士「なんか唱えやがったぞ!」

闇魔術師「あの魔法は……まさか!」


ボコッ… ボココッ… ボコォッ… ボコボコッ…


竜「なに!? なんなのさ!?」

姉姫「地面から亡くなった方々が……!」

闇魔術師「あれは死体を使役する闇魔法の禁術……! どんどん生まれてくるぞ!」

騎士団長「彼らがたった三人で、私たちに挑んできた理由はこれだったのか!」

斧戦士「あの教祖一人いれば、戦力には不自由しないってわけかよ!」
135:2018/12/06(木) 00:22:42.936 ID:SnHp1OYl0.net
「ウオォォォォ……」 「殺シテヤルゥ……」 「グオォォォォン……」

ウジャウジャウジャウジャ…



ゾンビ「ウォォォォォン……」

斧戦士「このおっ!」ガシュッ

斧戦士「やべえ! 100や200じゃきかねえぞ! なんて数だ!」

闇魔術師「おのれ……死者を冒涜する魔法を……!」

女剣士「くっ!」ズバッ

騎士団長「はあっ!」ザシュッ

騎士団長「こんな数とまともに戦ったら勝ち目はない! 古城の中に避難しましょう!」
136:2018/12/06(木) 00:25:29.827 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・城門 ―

斧戦士「ダメだ、扉が閉まってやがる! 中からじゃなきゃ開かねえぞこれ!」

斧戦士「斧で壁は砕けるが……こんなんじゃゾンビに食われる方が早いぜ!」ガッガッ

竜「ボクの力でも開かない……!」ググッ…

姫「――――!」ハッ

姫「私に任せて!」

女剣士「どうする気ですか?」

姫「あの小さな窓から、城に入って鍵を開けるわ!」

女剣士「あんなの猫でなきゃ入れないんじゃ……」

姫「大丈夫! 私なら入れる!」グネグネグネ…

女剣士「す、すごい……!」

女剣士(まるでイモムシ……)
138:2018/12/06(木) 00:28:23.675 ID:SnHp1OYl0.net
まもなく扉が開いた。

ギィィ……

姫「開けたわ! みんな入って!」

斧戦士「ナイス姫!」

騎士団長「素晴らしい柔軟性ですな!」

タタタタタッ…

姫「みんな入ったわね! さ、閉じちゃうわよ!」


――バタンッ!


「グオオォォォォォ……」 「ウオォォォォォン……」 「ガァァァァァ……」

ウジャウジャウジャウジャウジャウジャ…

鉄の扉に群がる無数の亡者たち。
139:2018/12/06(木) 00:30:52.659 ID:SnHp1OYl0.net
赤目「あ~あ、籠城されちまったなァ」

黒剣士「どうするのだ? ゾンビどもでは、あの扉は突破できまい」

教祖「ワシの魔力を甘く見るなよ……」

教祖「亡者どもよ……集まれ!」グッ


グチャグチャ… グチュグチュ… グチョグチョ… メキメキ… グニャグニャ…


赤目「おお? おお? おお~?」

黒剣士「ゾンビが集まって、巨人になっていく……!」


ゴーレム「グオオオオオ……!」ズシン…


教祖「これぞ闇魔法の最高峰――≪死体ゴーレム≫の完成だ……!」
140:2018/12/06(木) 00:32:49.067 ID:SnHp1OYl0.net
教祖「扉を破壊しろ、ゴーレム!」


ゴーレム「グオオオオオオッ!!!」

ドゴォン! ドゴォン! ドゴォォォォンッ!

ミシミシ… ミシミシ…


教祖「どうだ、この破壊力! これこそ悪と破壊を司る闇魔法の真骨頂ォ!」

赤目「おォ~、すげえすげえ!」

黒剣士(さすがはかつて狂信者集団≪暗黒教≫を率いてきただけのことはある……)
141:2018/12/06(木) 00:35:30.931 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・城内 ―

ドゴォン… ドゴォン… メキメキ…

斧戦士「扉がミシミシいってんぞ! あれじゃ破られるのは時間の問題だ!」

騎士団長「ここもまもなく戦場になるでしょう」

騎士団長「姫様たちは、奥にある≪玉座の間≫へ!」


姫「分かったわ! お姉ちゃんたち、こっちへ!」

姉姫「皆さん、どうかご無事で!」

王子「役に立てずすまない……!」

タタタッ…


女剣士「いい人たちだな。絶対死なせてなるものか!」

斧戦士「おうよ! ぜってぇここで食い止める!」
142:2018/12/06(木) 00:37:41.763 ID:SnHp1OYl0.net
ドガァンッ!

ゴーレム「グオオオオオオオ……!!!」ズシン…

ついに、ゴーレムによって扉が破られた。



斧戦士「オーノー! な、なんだありゃあ……! さっきはあんなのいなかったろ!」

女剣士「しかも、あの巨人の後ろから、大量のゾンビも入ってきたぞ!」

騎士団長「まずいですな……!」

闇魔術師「ゾンビどもは……俺に任せろ!」ズズズズズ…

斧戦士「闇魔術師!?」
143:2018/12/06(木) 00:39:38.034 ID:SnHp1OYl0.net
闇魔術師「この城に避難できたおかげで、魔法陣を描く時間を稼げた……」

闇魔術師「亡者たちよ……冥府へ還れ!」ズオオオオオオ…

闇魔術師「ぐっ……!」ミシッ…

闇魔術師(なんという魔力! やはり魔法使いとしては、俺よりはるか格上……!)

闇魔術師(だが……ッ!)


ドササッ… ドサッ… ドサササッ… ドザザッ… ドザッ…


騎士団長「おおっ、ゾンビたちが倒れていきますぞ!」

斧戦士「すげえ、すげえぜ闇魔術師!」

闇魔術師「しかし、全員というわけにはいかんし、あのゴーレムは止められん……!」

闇魔術師「後は頼む、ぞ……!」

斧戦士「任せとけっ!」
144:2018/12/06(木) 00:41:19.021 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・外 ―

赤目「ゾンビがばたばた倒れてんぞォ? どういうこった?」

教祖「ほう、まさか闇魔法使いがおったとはな……」

教祖「しかも、なかなかの使い手と見える」

教祖「だが……ワシに歯向かうのは十年早かったようだがな!」ギンッ

教祖もさらに魔力を高める。

黒剣士「…………」
145:2018/12/06(木) 00:41:57.924 ID:wI/McG6Tr.net
皆が特技活かしてる感がよい
146:2018/12/06(木) 00:43:35.020 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・城内 ―

斧戦士「なんとかあのゴーレムを攻略しねえと……!」ダッ

斧戦士「だりゃっ!」ズガッ

女剣士「たあっ!」ズバッ

騎士団長「むん!」ザシュッ

ゴーレム「ガアッ!!!」

ブオンッ!!!

斧戦士「うわあっ!」

女剣士「うぁぁっ!」

騎士団長「ぐっ!」

斧戦士「ち……くしょう、なんてパワーだ!」
147:2018/12/06(木) 00:45:39.771 ID:SnHp1OYl0.net
竜「でやああああああああっ!!!」ダッ

ガシィッ!

ゴーレム「ゴッ!?」

竜「斧お兄さんたち! こいつはボクに任せて!」グググ…

斧戦士「任せてって……全員でかからねえと……」

竜「大丈夫! 絶対……倒すから!」グググ…

斧戦士「……分かった!」

斧戦士「よし、俺らは残ってるゾンビを突破して、黒剣士と赤目野郎を倒すんだ!」

女剣士「分かった!」

騎士団長「闇魔術師殿がゾンビ増殖を止めてくれてる間に、急がねば!」
148:2018/12/06(木) 00:48:42.184 ID:SnHp1OYl0.net
ゴーレム「ガアアアアアアッ!!!」

バキィッ!

竜「ぶげっ!」

竜「い、痛くないぞっ」ブンッ

ドゴォッ!

ゴーレム「グウウウウ……」

激しくぶつかり合う竜とゴーレム。



斧戦士「でりゃああっ!」ドゴッ

女剣士「たあああっ!」ザンッ

騎士団長「ぬんっ!」ズバッ

斧戦士たちは大量のゾンビと格闘する。
149:2018/12/06(木) 00:51:12.470 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・外 ―

教祖「……いかがかな?」

黒剣士「うむ、よくやってくれた。全て思惑通りだ」

黒剣士「みごと、護衛たちの目をゾンビやゴーレムに向けてくれた」

黒剣士「あとは……全て“赤目”がやってくれるだろう」

黒剣士「密かに潜入し、標的を暗頃するのは、ヤツの十八番だからな……」
150:2018/12/06(木) 00:54:26.094 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・玉座の間 ―

姉姫「皆さんは大丈夫でしょうか?」

姫「うん……斧戦士さんたちが粘ってくれてるみたい」

王子「歯がゆいね。ここで無事を祈ることしかできないなんて」

姫「変な気起こさないでよ。敵の狙いはあなたたちなんだから」

姫「戦いが終わるまで、私たちはここにいれば――」


触手『触手たるもの、いかなる時でも周囲への警戒を怠るな……』

触手『四肢に神経を行き渡らせ、空気の流れを感じるのだ』

触手『これが触手心得其の四だ』ウネッ


姫(なんで? なんでこんな時に師匠の教えを思い出してるの私?)

姫「…………!」ゾクッ
151:2018/12/06(木) 00:57:21.183 ID:SnHp1OYl0.net
姫(天井に何かいるッ!)

姫「危ないっ!!!」ドンッ

姉姫&王子「え!?」

赤目「シャッ!」シュバッ


ザシュッ!


爪による一撃が、姫の背中を切り裂いた。

姫「ぐっ……!」ブシュッ…

赤目「オォ~、すげェな。よく天井に張り付いてた俺の気配を感じ取れたな」

赤目「今ので確実に、姉姫と王子、二人とも仕留められると思ったのによォ……」ジャキッ

姫(鉄の爪……!)

姉姫「押されてなかったら今頃……」ゾッ…

王子「外の彼らに気づかれず、なんの音も気配もなく、ここまでやってきたのか……!」
153:2018/12/06(木) 01:00:23.374 ID:SnHp1OYl0.net
姫「お姉ちゃんたち、下がってて! こいつの相手は私がするわ!」

赤目「ヒヒヒ……妹のお姫さんが俺の相手? ――何秒もつか試してみなァ!」ギュンッ

赤目「シャッ!」シュバッ

姫「あらよっと」ウネリッ

赤目「!?」

姫「触手キィック!」

ドカッ!

赤目「ぐはぁっ……!」



王子「おおっ! すごい!」

姉姫(神様、どうか妹を守って……!)
154:2018/12/06(木) 01:03:31.072 ID:SnHp1OYl0.net
赤目「シィィッ!」シュバババッ

姫「ほっ、よっ」グネグネッ

赤目(常人離れした柔軟性! ことごとく俺の爪が空を切りやがる!)

姫(師匠、戦えてる! 私、帝国の精鋭相手に戦えてます!)

赤目「なるほど……牢獄の看守どもよりよっぽど手応えがある」

赤目「まるで触手かなんかと戦ってるようだ……」

姫「ありがと!」

赤目「だが、そうと分かればいくらでも対処法はあるぜェ!」ヒュバッ

姫「くっ」ウネッ

ザシィッ!

姫「きゃっ……!」ブシュッ…

赤目「しょせんは素人……どうかわすかまで先読みして攻撃すりゃあ、どうってことねェ」ペロッ
155:2018/12/06(木) 01:05:47.498 ID:SnHp1OYl0.net
姉姫「やめて! 妹は殺さないで! 私の命をあげるから!」

王子「いやボクだ! ボクを攻撃しろっ! だからもうやめてくれぇっ!」

赤目「ヒヒヒ……安心しろよ。もちろん、お前らの命はちゃーんと貰ってやる」

赤目「ただし……この触手姫を始末してからなァ!」

姉姫「やめてぇぇぇぇぇっ!!!」

姫(お姉ちゃん……師匠……みんな……さよなら!)





――ガキィンッ!
156:2018/12/06(木) 01:08:10.525 ID:SnHp1OYl0.net
赤目「ん」

騎士団長「ハァ、ハァ……」

姫「騎士団長っ!」

騎士団長「間に合ってよかった……姫様、よく戦いましたな」

姫「どうしてここに……!」

騎士団長「やはりお三方に護衛が一人もいないのはまずいと思い、斧戦士殿の許可をもらって」

騎士団長「戻ってきたのです」

騎士団長「後は私にお任せ下さい!」

赤目「ヒヒヒ……俺の相手は騎士団長ってわけかい。おもしれェ!」ジャキッ

騎士団長「命にかえても、貴様を倒す!」チャキッ
157:2018/12/06(木) 01:11:29.090 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・城内 ―

ゴーレム「グゴゴゴゴゴゴ……!」グググッ…

竜「うあああああっ……!」メリメリ…

竜(なんてパワーだ……! ボクも本気で押してるのにィ……!)



斧戦士「ボウズーッ!!!」

女剣士「あの子を気にかけてる場合じゃない! ゾンビはまだまだいるんだ!」ザシュッ

「ギエエッ!」ドサッ…

斧戦士「分かってら!」ドシュッ

「グアアッ……!」ドサッ…

斧戦士「闇魔術師ィ! ……大丈夫か!?」
158:2018/12/06(木) 01:13:28.095 ID:SnHp1OYl0.net
闇魔術師「ああ……問題ない」ニタァ…

斧戦士「!?」

斧戦士「お前……目や鼻から血が……!」

闇魔術師「なんの問題もない……」

闇魔術師「俺は嬉しいよ……」

闇魔術師「闇魔法を悪用する憎き悪党と……こうして戦うことができて……」

闇魔術師「あの時、お前と出会うことができて、本当に感謝してる……」

闇魔術師「絶対に、これ以上……ゾンビを増やさせはせん! 俺のプライドにかけて!」

斧戦士「闇魔術師……!」
160:2018/12/06(木) 01:15:34.672 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・外 ―

黒剣士「新たにゾンビが生まれなくなってきたな」

教祖「……くっ!」

教祖「敵の魔法使いが想像以上にやりおる……!」

教祖「だが、ゾンビはまだまだいるし、なによりゴーレムがいる!」

教祖「あんな子供の竜では、絶対にワシのゴーレムは倒せんっ!」

教祖「それより、赤目はどうした!? 古城に侵入してからずいぶん経つぞ!」

黒剣士「…………」
161:2018/12/06(木) 01:18:48.794 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・玉座の間 ―

――ギィンッ!

ザシュッ!

赤目「ぐはっ……!」

騎士団長「ハァ、ハァ……」

赤目「やるな……。熊みてェな見た目のくせに、キレイな剣術使いやがる……」

騎士団長「光栄ですな」

赤目「正々堂々まともにやり合ったら不利――だが!」ギロッ

姉姫「えっ!」

王子「なっ!」

赤目「俺たち帝国工作員の辞書に、“正々堂々”なんて文字はねェッ!」ギュオオオッ

騎士団長「しまった!」
162:2018/12/06(木) 01:21:06.910 ID:SnHp1OYl0.net
ザグゥッ!

騎士団長「ぐはっ……!」ブシュゥゥゥ…

騎士団長の腹部に、鉄爪が突き刺さった。

赤目「まんまとかかったな」

王子「ボクらを狙うと見せかけて、騎士団長の焦りを誘ったのか!」

赤目「ヒヒヒ……帝国のため、お前らは絶対皆殺しにしなきゃならない……」

赤目「まずはお前からだッ! 騎士団長ッ!」グオオッ

騎士団長(無念……ッ!)
163:2018/12/06(木) 01:23:32.786 ID:SnHp1OYl0.net
――ガシィッ!

赤目「え!?(腕をつかまれ……)」

姫「触手心得……其の五≪獲物にはひっそりと忍び寄れ≫」グネッ

騎士団長(姫様ッ!)

騎士団長「だああああああああああっ!!!」


ザンッ!


渾身の一撃が、赤目の胸を切り裂いた。

赤目「…………!」

赤目「ヒヒ……触手姫のこと、忘れて、たか……。俺とした、ことが……」

赤目「黒剣士、後は頼ん……」グラッ…

ドザァッ…
166:2018/12/06(木) 01:26:27.043 ID:SnHp1OYl0.net
王子「やったの、かい……?」

姫「うん……よくやってくれたわ、騎士団長!」

騎士団長「光栄です……。ですが……姫様がいなければ……倒れていたのは私でした……」

騎士団長「この男……実力と忠誠心は間違いなく本物でした……」

姫「恐ろしい奴だったわ……」

姉姫「二人とも……無事でよかった……」

姫「お姉ちゃんたちこそ!」

姫(さて、斧戦士さんたちは大丈夫かしら……)
167:2018/12/06(木) 01:29:21.298 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・城内 ―

ゴーレム「ガァッ!」

ドゴォンッ!

竜「ぐああっ……!」ズウンッ…

ゴーレム「ガァッ! ガァッ! ガァッ!」

ドカッ! ドゴッ! ドガッ!

竜「げぼぉっ……!」

ゴーレムの蹴りの連打が竜を襲う。



斧戦士「ボウズッ!」ダッ

女剣士「あたしも行く!」ダッ
168:2018/12/06(木) 01:31:21.475 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士「くたばれぇっ!」ガツッ

女剣士「てやぁぁぁっ!」ザシュッ

ゴーレム「ガゴォォォォォッ!!!」ブオオオンッ

斧戦士「うおっと!」

女剣士「危ないっ!」

ザシュッ! ブオオンッ! ザシッ!



竜(まただ……! またボクはみんなに助けてもらってる……!)

竜(役に立ちたいのに……恩返ししたいのに……できない……!)

竜(悔しい……!)

竜(自分が情けない……!)
169:2018/12/06(木) 01:33:29.030 ID:SnHp1OYl0.net
竜(ボクは竜だ! 魔物の中で一番強いんだ……! だから、だからっ……!)

竜(ボクだってぇ……)ボッ…

竜「やらなきゃダメなんだァァァァァッ!!!」


ボワァァァァァッ!!!


斧戦士&女剣士「!?」

斧戦士「ボウズ、お前今……」

竜「ボク、火を吐けた……!」

ゴーレム「グオオオオオオオオオッ!」ドドドドドッ

竜「よーし……斧お兄さんたち、すぐそこを離れてッ!」

竜「すぅぅ~……」
170:2018/12/06(木) 01:35:54.813 ID:SnHp1OYl0.net
竜「ガオオォォォォォォォォォォォォォッ!!!」


ゴォワァァァァァァァァッ!!!


ゴーレム「グ……グオオォォォォォォォッ……!」

「ギャアア……ッ!」 「ヒイイ……ッ!」 「アァァァァ……」

ジュワァァァァァァ…

竜が吐き出した炎が、ゴーレムやゾンビを包み込んだ。



斧戦士「す、すげえ……!」

女剣士「一発でゴーレムたちを焼き払った……!」


闇魔術師(自分の体を勝手に使われた死者たちも、喜んでいることだろう……)
171:2018/12/06(木) 01:39:15.223 ID:SnHp1OYl0.net
玉座の間のメンバーが駆けつけてきた。

タタタッ…

姫「あっ、やったのね! ゾンビたちを全部やっつけたのね!」

斧戦士「おう! ボウズがやってくれたぜ!」

女剣士「ふふ……かっこよかったよ」

竜「へ、へへへ……」

姫「こっちも、騎士団長があの赤い目の男を何とか倒したわ!」

斧戦士「これで残るは……あの黒剣士と教祖だけだ!」

闇魔術師「……おい」ヨロ…

斧戦士「闇魔術師!」

闇魔術師「もうすっからかんだが……最後に少しでも皆の傷を癒やしてやる」グジュグジュグジュ…

斧戦士「ありがてぇ……」

闇魔術師「お? さすがにもう嫌がらんか」

斧戦士「ああ、もう二度と闇魔法使いは悪党だなんていわねえよ……!」
172:2018/12/06(木) 01:42:15.522 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・外 ―

教祖「バカなァァァッ! ワシのゴーレムがあんな奴らに……!」

教祖「ど、どうするのだっ! 赤目もやられてしまったようだぞっ!」

黒剣士「…………」

教祖「おい、何とかしろっ! ワシももう魔力はほとんど残っておらんし――」

黒剣士「お前はもう用済みだ」

ザシュッ!

教祖「が、は……っ! キ、キサマァ……」

教祖「協力すれば……帝国に招く、と、いった、のに……」ドチャッ…

黒剣士「お前のような危険人物を、帝国に招くわけなかろう」
173:2018/12/06(木) 01:44:43.429 ID:SnHp1OYl0.net
― 古城・城門 ―

斧戦士「黒剣士! 残るはお前だけだ!」

騎士団長「いさぎよく諦め、剣を納めるのだ!」

黒剣士「……諦める?」

黒剣士「赤目も教祖も役目は果たしてくれた……」

黒剣士「後は消耗したお前たちを全滅させ、姉姫と王子を抹頃すれば済むことだ」

女剣士「ずいぶんと自信家じゃないか」

女剣士「なら、帝国の剣技とやらを見せてもらおう! たあああっ!」ダッ

黒剣士「…………」スッ

ギィンッ!

キィン! ガキッ! キンッ……!
174:2018/12/06(木) 01:46:59.043 ID:SnHp1OYl0.net
キィンッ! ――ギィンッ!

黒剣士「なかなかの腕だ……しかし、軽い」

ザシィッ!

女剣士「がは……っ! つ、強い……!」ガクッ

斧戦士「女剣士ィッ!!!」

騎士団長「参るッ!」ダッ

ガキィン!

黒剣士「騎士団長……おそらく、護衛メンバーの中で一番実力が高いのはあなただろう」グググ…

騎士団長「光栄ですな!」グググ…

黒剣士「しかし、あなたの剣技は、毎日のように見て研究し尽くしている」

騎士団長(!? どういう意味――)

ズバァッ!

騎士団長「ぐおぉぉ……!」ドザァッ
176:2018/12/06(木) 01:49:36.237 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士(あっという間にあの二人が……!)

竜「斧お兄さん、ボクがいくよ!」ズシンッ

斧戦士「待てボウズ!」

竜「すぅぅぅ……」


ゴゥワァァァァァァッ!!!


竜「あれ!? かわされ――」

黒剣士「竜は恐ろしい魔物だが、子供では私の相手になれん」

ザグッ!

巨体に強烈な一太刀が入る。

竜「あああっ……」ズウンッ…


斧戦士「…………!」

斧戦士(マジかよ……!)

斧戦士(黒剣士……やっぱこいつ化け物だ……!)

斧戦士(いや、こいつは……こいつの“もう一つの姿”は――)
178:2018/12/06(木) 01:53:34.882 ID:SnHp1OYl0.net
黒剣士「姫たちと闇魔術師は、戦力として期待できまい」

黒剣士「先程の言葉を返そう……残るはお前だけだな」チャキッ

斧戦士「……戦う前に、一つだけいいか?」

斧戦士「お前は……俺も会ったことがある。城にいた……姫さんたちの執事だな?」

黒剣士「……そうだ」


姫「えっ!」

姉姫「執事!?」


黒剣士「なぜ分かった?」

斧戦士「よく考えれば、簡単なことだった」

斧戦士「姉姫と王子のデートコースを知ってて、かつボウズが竜なことは知らず魔物をけしかけた」

斧戦士「この条件に当てはまる奴……って考えるとあんたしかいなかったんだよ」
179:2018/12/06(木) 01:56:27.054 ID:SnHp1OYl0.net
姫「ウソでしょ!? 執事が帝国のスパイだったなんて!」

姉姫「そうです! とても信じられません!」

黒剣士「事実です、姉姫様、姫様。私は帝国工作員として、あなた方の執事となりました」

黒剣士「そして今やるべきことは、王子と姉姫様の抹殺です」

黒剣士「この国と隣国の同盟は、帝国のためにも絶対阻止せねばならない」

姉姫「そんな……!」

斧戦士「あいにくだが、んなことは絶対させねえぜ!」

斧戦士「名を上げるためとか、斧のためとかじゃねえ……みんなのためにお前をブッ倒す!」

黒剣士「……来い」

斧戦士「…………」フゥー…

斧戦士「行くぜッ!」ダッ
180:2018/12/06(木) 01:58:37.059 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士(大振りは決してしねえ! 小さく振って、隙を作らねえ!)

ガキンッ! キンッ! キィンッ!

斧戦士(そしてぇ――)

ガキィンッ!

斧戦士(つばぜり合いみてえに、力が必要な時だけ、パワーを爆発させるッ!)グンッ

黒剣士「ぬ……!」ズズ…



竜「い、いいぞ……斧お兄さんが、押してる……」

闇魔術師「うむ……力なら斧戦士が上だ……!」
181:2018/12/06(木) 02:00:45.001 ID:SnHp1OYl0.net
キンッ! ギィンッ! キンッ!

黒剣士(重い斧を巧みに操り、懐に入らせない……。やりづらい……!)

斧戦士「どりゃ!」ブオッ

黒剣士「だがっ!」シュバッ

ザシッ……!

斧戦士「が、ぐぅ……!」



騎士団長「……ごほっ」

騎士団長(やはり、技量は執事殿――黒剣士の方が上……!)

騎士団長(戦いが長引けば長引くほど、“本来の実力差”が響いてくる……!)
182:2018/12/06(木) 02:02:16.334 ID:SnHp1OYl0.net
黒剣士「この一ヶ月間でずいぶんと鍛え直したようだ。それは敬意に値しよう」

黒剣士「だが、この私には勝てんッ!」

ザンッ……!

斧戦士「ぐああっ……!」

斧戦士(やはり強ええ……!)ガクッ



姫「斧戦士さん!」

姉姫「ああっ……」

王子「強すぎる……!」
184:2018/12/06(木) 02:05:04.519 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士「まだだ……!」ヨロ…

黒剣士「まだ立てるとは……体が大きいだけあってタフネスは流石だな」

斧戦士(立ったはいいが……打つ手がねえ……!)

斧戦士(どうすりゃいい!? どうすりゃこいつに勝てる!?)

斧戦士(もっと斧を短く持って、小さく振るしか――)



女剣士「……らしくないじゃないか」ググッ…

女剣士「今のあんた、見て思ったけど……やっぱりあんたは……」

女剣士「思い切り斧ブン回す方が……似合ってるよ……」
185:2018/12/06(木) 02:08:02.440 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士(その通りだ! こういう時こそ、自分のスタイルでやってやる!)

斧戦士(全身力みまくってぇぇ……)ムキッ

斧戦士「どぉりゃあぁぁぁぁぁっ!!!」

黒剣士(なんという迫力!)


ブオンッ!!!


攻撃は空振りだった。

斧戦士「……くっ!」ヨロ…

黒剣士「こんな大振りが当たるわけなかろう」

黒剣士「追い詰められ、ついにヤケクソになったか……失望させてくれる」

斧戦士(いや……もう一回……! もう一振りだけ……!)ムキッ…
187:2018/12/06(木) 02:11:11.874 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士「どぉうりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

黒剣士「当たるわけが――」

ドカァンッ!!!

黒剣士「!?」

城壁が砕け、破片が黒剣士に飛び散る。

黒剣士(これを狙ってたのかッ!)

斧戦士「もらった!」ブオンッ

黒剣士「させるか!」バッ

ガキンッ!

斧戦士「ぐ……ッ!」



騎士団長(完璧なタイミングだった……! あれを受け止めるとは……ッ!)
189:2018/12/06(木) 02:13:36.562 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士(受け止められた? いいや……俺の斧とパワーはここからだッ!)

斧戦士「うぅおおおおおおおお……!」グググ…

黒剣士「な……!」ピシッ…

斧戦士「ぬがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」グググ…

黒剣士「なんという……」パキィンッ


ガシュッ!!!


斧が、剣もろとも黒剣士の体を斬った。

黒剣士「…………ッ!」

黒剣士「見事、だ……」



ドザッ…
190:2018/12/06(木) 02:17:09.308 ID:SnHp1OYl0.net
黒剣士「一ヶ月前とは……結果が逆に、なったな……」ゴフッ

斧戦士「みんなのおかげさ……」

斧戦士「なぁ……執事さん」

黒剣士「…………?」

斧戦士「なんで、あんたは一ヶ月前、まるで警告するような戦いを俺に仕掛けてきた?」

斧戦士「あれがなきゃ、今の勝負だってどうなってたか分からねえ……」

斧戦士「あんたの帝国に対する忠義は本物だし、手を抜いてたとも思わねえが……」

斧戦士「心のどこかで、俺たちが姉姫さんたちを守り切るのを期待してたんじゃねえか……?」

黒剣士「さあな……。正直なところ、自分がどう思っているのか、自分でも分からん……」

黒剣士「だが、もしそうだとしたら……先に逝った赤目に、申し訳が立たん、な……」

斧戦士「…………」
192:2018/12/06(木) 02:19:33.419 ID:SnHp1OYl0.net
姉姫「……執事」スッ

黒剣士「姉姫、様……」

姉姫「私はこの国の王女として、あなたがやったことを許すわけにはいきません」

姉姫「ですが……」

姉姫「もし、私たちのうち誰か一人でも亡くなっていたら、言えなかった言葉ですが言わせていただきます」

姉姫「執事……今までありがとう」

黒剣士「…………」
193:2018/12/06(木) 02:21:45.457 ID:SnHp1OYl0.net
黒剣士「私も、執事として……最後に……」ゴホッ

黒剣士「姉姫様……ご結婚、おめでとうございます……。どうか、王子殿と幸せ、に……」

黒剣士「そして、姫様……どうかこれからも、触手のようにのびのび、と……」

黒剣士「…………」

姉姫「執事っ!」

姫「執事っ!」

斧戦士(大した奴だぜ……)

斧戦士(帝国工作員としても、執事としても仕事をこなして、逝っちまいやがった……)

…………

……
195:2018/12/06(木) 02:24:57.931 ID:SnHp1OYl0.net
……

姉姫「皆さま、本当にありがとうございます」

王子「君たちがいなければ、ボクたちは氏んでいただろう。心から礼をいわせてくれ」

斧戦士「へへへ……メチャクチャきわどかったけどよ」

闇魔術師「まさか、血が出るほど魔力を振り絞るはめになるとは思わなかった……」

竜「みんな無事でよかったぁ……」

姫「お姉ちゃんたち! みんなこれだけ頑張ったんだから、幸せになってよ!」

女剣士「斧戦士……かっこよかったよ!」

騎士団長「騎士として使命を果たすことができ、光栄ですな」

斧戦士「よーしっ、みんなで帰ろうぜ!」

オーッ!!!



………………

…………

……
196:2018/12/06(木) 02:28:11.285 ID:SnHp1OYl0.net
それから――

― 訓練所 ―

弟子A「でやぁっ!」ブンッ

弟子B「だあっ!」ブンッ

斧戦士「ダメだダメだ! そんなへっぴり腰じゃ、斧は自在に操れねえぞ!」

弟子A「早く先生のように斧を操れるようになりたいです!」

弟子B「先生はその剛腕で、帝国最強の剣士を圧倒したんですもんね!」

斧戦士「お、おう」

斧戦士(姫の宣伝のおかげで、斧人気が上がって、こうして弟子もできたが……)

斧戦士(ちょっと評判に尾ヒレがつきすぎなんだよなぁ……ボロ出なきゃいいけど)
197:2018/12/06(木) 02:30:15.928 ID:SnHp1OYl0.net
女剣士「そろそろ休憩にしたらどうだ?」

斧戦士「おう、そうだな」

斧戦士「よーし、休憩ターイム!」

弟子A「オスッ!」

弟子B「オスッ!」

女剣士「あんたたち、お腹がすいたろう。パンを持ってきたよ」

弟子A「いただきますっ!」

弟子B「ありがとうございますっ!」

斧戦士「俺にはねえのか?」

女剣士「ない」

斧戦士「……またお腹でっかくなったんじゃねえか?」

女剣士「……うん」ナデナデ
199:2018/12/06(木) 02:33:16.406 ID:SnHp1OYl0.net
― 教室 ―

闇魔術師「……というわけで闇魔法の本質は、この世の闇と真正面から向き合うことであり」

闇魔術師「悪事に使うなど断じてあっては……」

生徒A「でさぁ~」ヒソヒソ…

生徒B「マジで?」ヒソヒソ…

闇魔術師(……む)

闇魔術師「コォ~ラァ~……」

生徒AB「!?」ビクッ

闇魔術師「闇魔法は扱いが難しい……授業は真面目に聞かねばならんぞ……」グジュグジュグジュ…

生徒A「ひ、ひいいっ!」

生徒B「すみませんっ!」
200:2018/12/06(木) 02:35:25.478 ID:SnHp1OYl0.net
― 秘境 ―

ゴォォォォォォォッ!

竜「どうだい!」

竜「これで、ボクを一人前の竜って認めてくれるよね?」

父竜「うむ……あえてお前を置き去りにしたかいがあったというものだ」

母竜「この人ったら、あなたのことをずっと心配してたのよ?」

父竜「おいおい……」

竜「……だけどね、お父さんお母さん」

竜「ボクは竜としての誇りを持ってるけど、人間とも仲良くするつもりだよ」

父竜「……好きにするがいい」

母竜「それがあなたの選択なら、私たちは何も言わないわ」
201:2018/12/06(木) 02:37:35.839 ID:SnHp1OYl0.net
― 城 ―

姫「どぉう?」グネリッ

姫「こんなに体柔らかくなったのよ!」ペターッ…

オォ~……!

家臣A「素晴らしい……!」パチパチパチ…

家臣B「まさに人間触手……!」パチパチパチ…

姫「ふふっ、また師匠のところに行こうっと!」



国王「まったく……隣国とめでたく同盟が成り立ち、我が国も順調に発展しているが……」

国王「この娘にだけは手を焼かされるわい……」
202:2018/12/06(木) 02:40:38.802 ID:SnHp1OYl0.net
……

― 酒場 ―

斧戦士「ちいーっす!」

闇魔術師「遅いぞ」

少年「先にジュース飲んでたよ!」

姫「私もよ~」

斧戦士「わりいわりい」

姫「そういえば、女剣士さんと結婚したんだって?」

斧戦士「ああ、もうすぐ俺も親父になるぜ」

斧戦士「今日もみんなに会いたがってたが、大事な時期だから留守番させといた」

少年「おめでとう!」

闇魔術師「ぐぐぐ……羨ましい……」ギロッ
204:2018/12/06(木) 02:43:02.952 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士「隣国に嫁いだ姉姫さんはどうしてる?」

姫「時々、手紙が来るけど……王子さんと楽しくやってるみたい!」

斧戦士「そりゃなによりだ!」

闇魔術師「騎士団長は?」

姫「最近ますます毛深くなって……そろそろ山に帰るんじゃって噂されてるわ」

少年「アハハ、あの熊さんらしいや!」

斧戦士「俺と闇魔術師は姫さんの力を借りて、仕事は順調だし、ボウズも立派な竜になれた!」

斧戦士「あの護衛は本当にキツかったが、今となってはいい思い出だな」

姫「もちろん、出してあげた資金なんかは全部返してもらうからね」

斧戦士「オーノー!」

姫「冗談よ、冗談」
205:2018/12/06(木) 02:46:17.698 ID:SnHp1OYl0.net
斧戦士「だけどよぉ、たまに思うんだ」

斧戦士「また俺らで、なんかデカイことやりてえってさ!」

闇魔術師「うむ、たしかに……」

少年「ボクも! せっかく火を吐けるようになったんだし!」

姫「ふっふっふ、そう思って、今日は面白い話を持ってきたわよ!」

闇魔術師「なにい!?」

少年「また帝国と戦うとかじゃないよね……」オドオド

姫「なにいきなりビビってるのよ! ノリノリだったくせに!」

斧戦士「よぉし、聞かせてくれ姫さん! 思い切り斧を振り回せるような話を頼むぜぇ!」







― おわり ―
206:2018/12/06(木) 02:47:06.363 ID:bdPPillsa.net
207:2018/12/06(木) 02:49:14.778 ID:gQ6ger/G0.net
208:2018/12/06(木) 02:57:39.159 ID:bGMxeESUr.net

とても愉快な四人だった
209:2018/12/06(木) 03:02:33.458 ID:FJoUyrvE0.net

ほんとうにお疲れ