1: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:13:46

昼下がり、往年のヒットジャズが流れる店内

カランカラーン

男「いらっしゃいませ」

幼女「マスター。ミルク、ロックで」

男「かしこまりました」ニコ

幼女「・・・・・・あ」ゴソゴソ

男「どうされました?」

幼女「丁度切らしちゃったみたい。幼稚園終わりは一服決めたいのに」

男「店にあるもので良ければ、いかがですか?」スッ

幼女「気が利くのね。ありがとう」

男「・・・・・・お口に合うと良いのですが」

幼女「・・・・・・うん、良いチュッパチャプスね」ニコ

男「それは何よりです」ニコ



2: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:14:59 ID:opP1B3cA
幼女「・・・・・・はあ」

男「お疲れのようですね。どうぞ、ミルクのロックです」コト

幼女「聞いてくれる? 今日は家族の絵を描かされたの」ゴクゴク

男「それはそれは」

幼女「いや、自由に描けと言われてもね? 色々難しいのよ」

男「そうなんですか?」

幼女「あれは入園したての頃かな。家族の絵と聞いて私が真っ先に思いついたのは、キティちゃんだった」

男「ええ、それで?」フキフキ

幼女「描いたわ、力いっぱいね。それこそクレヨンを全色使って・・・・・・で、それをママに見せたの」

男「どうでしたか?」

幼女「はは、怯えてたわ。こんなもの家の何処に居るのってね」

男「なるほど」

幼女「・・・・・・つまり、自由だなんだと言っても、その実大人の理想図を描かせたいのよ」

男「私は美術に心得はありませんが、何となく分かります」

3: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:15:38 ID:opP1B3cA
幼女「画用紙にママとパパと私を描いて、端っこに無難な犬でも並べておく。
・・・・・・こんな形式的なもの、美術とは言えないわ。それじゃあ只の、作業じゃない」

男「仰る通りですね」フキフキ

幼女「・・・・・・はあ。ねえマスター。私、いくつにみえる?」

男「・・・・・・4歳、でしょうか?」

幼女「もう、お上手なんだから。5、さ、い、よ」

男「お若く見えますよ」ニコ

幼女「あらそう? でも、私も年を取ったわ。弟なんてもう立って歩いているのよ?」

男「時が過ぎるのは、早いものです」

幼女「・・・・・・そうねえ。ええ、その通りだわ。今日はもう行かなくちゃ」

男「なにかご予定が?」

4: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:16:23 ID:opP1B3cA
幼女「ええ、バラ組の鼻垂れボウヤに誘われているの」

男「良いですね、デートですか」

幼女「良くないわ、あの人私を何処に誘っていると思う? 公園の砂場よ?」

男「なかなか楽しそうではありませんか」

幼女「マスター、もう少し女心を分かった方が良いわ。なんてったって今の流行は滑り台よ」ニコ

男「失礼しました。精進致します」ニコ

幼女「まあ今日は砂場で許すことにするわ。男のはしゃぐ姿を見るのって、嫌いじゃないもの」

男「お優しいのですね」

幼女「いけない、また話し込んじゃった。マスター、おいくら?」

男「30円です」ニコ

幼女「はい、丁度ね。それじゃあまた来るわ」ニコ

男「ええ、お待ちしております」

カランカラーン

5: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:17:01 ID:opP1B3cA
昼下がり、何処かで耳にしたボサノヴァが流れる店内

カランカラーン

男「いらっしゃいませ」

赤ん坊「だあ、だあ」よじよじ

男「・・・・・・失礼致します」だき

赤ん坊「だあ、きゃあ」ニコ

男「いえいえ。お客様を椅子にお運びするのも、私の仕事です」ニコ

赤ん坊「・・・・・・ばぶ」

男「乳児リンゴですね、ストレートでよろしいでしょうか」

赤ん坊「だう!」

男「かしこまりました」ニコ

6: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:17:37 ID:opP1B3cA
赤ん坊「ばぶ、ばあぶ」

男「ええ、今日はそんなことが」

赤ん坊「だうあうあ、あーう」

男「男らしいのですね。憧れます」ニコ

赤ん坊「あうあー」

男「またまた、ご謙遜を。どうぞ、乳児リンゴのストレートです」

赤ん坊「・・・・・・」ごくごく

男「・・・・・・よろしければ、口元を拭かせて頂きますが」

赤ん坊「だあ」ニコ

男「では、失礼して」フキフキ

7: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:18:22 ID:opP1B3cA
赤ん坊「だうあう、ばぶ」

男「私ですか? いえ、今は居ません」

赤ん坊「ばーあーぶ」

男「・・・・・・そうですね、昔は居ました。ええ、とても愛していましたよ。とても」

赤ん坊「あぶ?」

男「昔の話ですから。今は、彼女が誰かと幸せに過ごしていると願うばかりです」

赤ん坊「・・・・・・だあ、あぶあ。ばぶ」

男「・・・・・・私はそこまで大人ではないですよ。今でもたまに、夢にみます」

赤ん坊「ばぶあ」

男「ははは、そうですね。良い出会いを待ちます」ニコ

8: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:19:09 ID:opP1B3cA
赤ん坊「ばぶあぶ」よちよち

男「ああ、人を待たせて居たのですか。私の話ばかりをしてすいませんでした」

赤ん坊「あぶ、きゃあ!」よちよち

男「・・・・・・私なんかの話で良ければ、またいつでも」ニコ

赤ん坊「ばぶばぶ」よちよち

男「ええ、いつも通りツケで。かしこまりました」

赤ん坊「あぶあー!」よちよち

男「またお越し下さいませ」

赤ん坊「・・・・・・」よちよち

男「・・・・・・」

赤ん坊「・・・・・・」よちよち

男「・・・・・・」

赤ん坊「・・・・・・」よちよち

カランカラーン

9: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:20:01 ID:opP1B3cA
昼下がり、胸に響くブルースが流れる店内

カランカラーン

幼児「・・・・・・」

男「いらっしゃいませ」

幼児「・・・・・・いつもの、頼めるかな」

男「オレンジですね。ショットでよろしいですか?」

幼児「ああ」

男「かしこまりました」ニコ

幼児「・・・・・・ふう」チュパチュパ

男「・・・・・・」

幼児「・・・・・・」チュパチュパ

男「・・・・・・」

幼児「・・・・・・」チュパチュパ

男「・・・・・・どうぞ、オレンジジュースです」コト

10: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:20:47 ID:opP1B3cA
幼児「・・・・・・ありがとう」

男「・・・・・・」ニコ

幼児「・・・・・・」ゴクゴク、ビシャ、ゴクゴク

男「・・・・・・」フキフキ

幼児「・・・・・・今日ね」

男「ええ」

幼児「・・・・・・振られたよ」

男「・・・・・・そうですか」

幼児「・・・・・・はあ、どうしてなんだ」

男「・・・・・・」

幼児「・・・・・・幼女ちゃん」

男「・・・・・・」コト

幼児「ん? これは?」

男「店のおごりです」ニコ

幼児「・・・・・・ああ、ありがとう」ニコ

11: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:21:20 ID:opP1B3cA
幼児「・・・・・・砂場の何が悪いっていうんだ。最高のデートスポットじゃないか」

男「ええ、そうでしょうとも」

幼児「・・・・・・はあ」

男「・・・・・・」フキフキ

幼児「なあマスター・・・・・・彼女にどう接すれば良いと思う?」

男「本当にお好きなんですね」ニコ

幼児「もちろんだ。僕がいつから彼女を好きだと思う?」

男「・・・・・・いつからでしょうか」

幼児「入園した日からだ! もう二年半になる」

男「大恋愛ですね」

幼児「僕の全てを賭けた大恋愛だよ。信じられるか? ポケモンシールを全部貢いだんだ!」

男「・・・・・・一つ、よろしいでしょうか」

幼児「なんだい?」

12: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/23(木) 20:22:15 ID:opP1B3cA
男「これはあくまで聞いた話なのですが、最近の流行は、滑り台と聞きます」

幼児「・・・・・・でも、それは」

男「ええ、ただの流行です。しかし女性というものは、時に流行に身を任せたいのだそうですよ」

幼児「・・・・・・幼女ちゃんも然り、か」

男「私の口からなんとも言えませんが。・・・・・・その方も一人の女性、というのは確かでしょう」

幼児「・・・・・・もう一度彼女を誘うよ。滑り台にね」

男「ええ、応援しております」

幼児「よし、今日は門限まで飲むぞ! マスター、おかわり」

男「かしこまりました」ニコ

幼児「大体女っていうのは良く分からないよ。口を開けばプリキュアだなんだって、あんな物の何処が良いんだい?」

男「女性にしか分からない世界でしょうね」

幼児「そう! そこだ。女のことは女にしか分からない! なのに肝心なことは何も言っちゃくれないんだ」

男「ごもっとも。どうぞ、追加のオレンジです」ニコ

幼児「全く。本当に女はよく分からない」ゴクゴク

男「・・・・・・」ニコ

16: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/24(金) 00:15:47 ID:eqQ9C632
夜、心地よいシティポップが流れる店内

カランカラーン

男「・・・・・・いらっしゃいませ」ニコ

女「久しぶりね」ニコ

男「こちらへどうぞ」

女「ええ。おすすめは何かしら」

男「マティーニはいかがでしょう」

女「・・・・・・覚えていたのね、私の好きなお酒。・・・・・・じゃあ、それを」

男「かしこまりました」ニコ

女「・・・・・・久しぶりね」

男「ええ、お久しぶりです」

女「突然来て、驚いたかしら」

男「そうですね、少し」ニコ

女「友達からね、あなたがお店をはじめたって聞いたものだから」

男「どうぞ、マティーニです」

17: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/24(金) 00:16:21 ID:eqQ9C632
女「・・・・・・」ゴクリ

男「・・・・・・」フキフキ

女「・・・・・・あれから、何年?」

男「5年です」フキフキ

女「本当に良く覚えているのね」ニコ

男「もちろんですとも」

女「・・・・・・はは」

男「どうされましたか?」

女「似合ってるわ、その敬語」

男「申し訳ございません。仕事中なもので」

女「いいの。5年も経っているのですもの」

男「ええ」フキフキ

女「あ、聞いたわ。あなたお昼も店を開いているのですって?」

男「お子様バー、のことでしょうか」

女「そう、それ。頑張っているのね」ニコ

18: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/24(金) 00:16:53 ID:eqQ9C632
男「道楽のようなものですよ」

女「・・・・・・あ」カラン

男「次はどんなカクテルを?」

女「・・・・・・いいえ、もういいわ」

男「かしこまりました」

女「・・・・・・」

男「・・・・・・」フキフキ

女「・・・・・・私ね」

男「ええ」フキフキ

女「結婚するの」

男「・・・・・・」

女「・・・・・・」

男「・・・・・・おめでとうございます」ニコ

女「ありがとう」ニコ

19: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/24(金) 00:18:03 ID:eqQ9C632
男「・・・・・・」フキフキ

女「ふふ、笑えるわよね。あんなに遊びまわっていた私が、結婚よ?」

男「ドレスが良く似合いそうですよ」ニコ

女「そうね」

男「・・・・・・」フキフキ

女「・・・・・・あはは」

男「・・・・・・」フキフキ

女「はは、は」ポロ、ポロ

男「・・・・・・」フキフキ

女「・・・・・・ねえ、私・・・・・・まだ――」ポロ、ポロ

男「結婚式には、お花を贈りましょう。綺麗なお花を」ニコ

女「・・・・・・はは、そうね。造花をお願い」ゴシゴシ

男「ええ」

女「いつまでも、枯れないから」

男「かしこまりました」ニコ

20: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/24(金) 00:30:33 ID:eqQ9C632
お昼、物静かな店先

男「・・・・・・」ザア、ザア

猫「にゃあ!」

男「ああ、これは失礼致しました。砂埃が目に入りませんでしたか?」

猫「んみゃう」

男「それは何よりです。お詫びといってはなんですが、ミルクはいかがですか?」

猫「にゃう」

男「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」

幼女「ミー子、なにしてるの?」

男「いらっしゃいませ。お連れ様ですか?」

幼女「うちの猫なの」ニコ

男「可愛らしいお連れですね」

幼女「どっちに言っているのかしら?」

男「さあ、どちらでしょう。続きは、何か飲みながら」ニコ

幼女「ええ、そうさせて貰うわ」ニコ

21: ◆rPuHN1dQX2 2017/03/24(金) 00:32:26 ID:eqQ9C632


ありがとうございました。


22: 以下、名無しが深夜にお送りします 2017/03/24(金) 01:33:24 ID:sQY.sEOY

素敵だね

引用元: 幼女「マスター。ミルク、ロックで」