1:2019/02/09(土) 01:36:53.803
レストラン

男(俺はひょんなことから異世界に来てしまった。来てしまったのはいいのだが――)

傭兵「どうよォ、この剣!」

剣士「お、スミスさんの最新モデルだな!」

女騎士「流行りものにすぐ手を出すのだな、貴様は」

男(未だに馴染めない……剣なんか興味ないし)

男(こうして異世界の連中とメシ食ってても、共通の話題がないから実質ぼっち飯と同じだ……)




2:2019/02/09(土) 01:39:05.030
男「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」ガタッ

剣士「お、行ってらっしゃい!」

女騎士「いつも寡黙だな、あの男は」

傭兵「つか、どうして便所にパンまで持っていくんだ?」
3:2019/02/09(土) 01:39:28.839 ID:QpuEcv6ar.net
スレタイ草
4:2019/02/09(土) 01:41:05.075
トイレ

男(この世界、都合のいいことにトイレは水洗まで進んでるから、あまり臭くなくて助かる)

男(つまり、元いた世界とあまり変わらない感覚で便所飯することができる)

男「いただきます」

モグモグ パクパク

男「……ごちそうさま」
5:2019/02/09(土) 01:43:40.383
男「戻ったよ」

剣士「お帰り」

女騎士「ずいぶん長かったな。お腹でも壊しているのか?」

男「いや、そういうわけじゃないんだけど」

傭兵「そういや、便所にパン持ってってたけどなんでだ?」

男(やべ、バレてたのか)

男「ええっと、トイレでパン食ってたんだ」

三人「へ?」
6:2019/02/09(土) 01:46:05.147
剣士「トイレで? なんで? ここで食えばいいのに」

傭兵「そうだぜ、意味が分からん」

男「……一人で静かに食べたかったから」

三人「……」

男(やば、引かれたか?)

剣士&傭兵「すげえええええええええ!!!」

男「へ?」
7:2019/02/09(土) 01:49:11.530
剣士「いや、実は俺も一人で食いたい時はどうしようって考える時があったんだ」

剣士「だけどみんながワイワイやってる中、一人でメシ食うの恥ずかしいしさ」

傭兵「そうか、便所で食えばいいのか! なるほどなー」

男「いや、感心されても困るんだけど」

女騎士「その通り、トイレで食事するなど邪道だ」

剣士「さっそく俺たちもやってみよう!」

傭兵「おう!」
8:2019/02/09(土) 01:51:18.746
剣士「……」

傭兵「……」

男「どうだった?」

剣士「いい! 密室での孤独感! トイレで食事するという背徳感! 誰かが来るかもというスリル!」

剣士「全てがヤミツキになる!」

傭兵「こんな最高の食事方法があるとは思わなかったぜ!」

男「ええっ!?」

女騎士「なにを言っている、お前達! どうかしているのではないか?」

男(ホントだよ)
9:2019/02/09(土) 01:52:24.941 ID:Roe+m4IOr.net
女騎士だけまとも
10:2019/02/09(土) 01:54:06.204
傭兵「この食事法、名前あるのか?」

男「えぇっと……“便所飯”かな」

剣士「シンプルでいいネーミングだな!」

傭兵「さっそくこいつのアイディアとして、町じゅうに広めようぜ!」

男「どんな罰ゲームだよそれ!?」

女騎士「下らん……」
11:2019/02/09(土) 01:57:01.941
瞬く間に便所飯は大流行となった。

ワイワイ… ワイワイ…

「家のトイレでやってみたよ! とてもよかった!」

「やっぱり食事ってのは一人で孤独に食べるべきだよな」

「今日もこれから便所飯しようっと!」

「ノックされた時の緊迫感がたまらない……」

「自分の出した物のニオイが、いいスパイスになるんだこれが!」
14:2019/02/09(土) 02:00:13.573
ある日

兵士「貴様が最近、異世界から来たというよそ者か?」

男「は、はい」

男(なんでいきなり兵士が……?)

兵士「国王陛下が貴様に会いたいという。城まで同行してもらいたい」

男「陛下が!? わ、分かりました!」

男(なんで!? 俺なんかやっちゃったっけ!?)
15:2019/02/09(土) 02:03:20.667


国王「近頃流行っている便所飯とやら、おぬしが流行らせたそうだのう?」

男「一応、そうなりますかね」

国王「すまぬが、便所飯とはなんなのか、説明してもらえるか?」

男「一言でいいますと、便所飯とはトイレの個室で食事をすることです」

国王「ふむ、とても不衛生な気もするが、どんなメリットがあるのだ?」

男「一人で食事をしたいが、周囲ではみんな賑やかに食事をしていて」

男「その中で孤独に食事をするのはどうしてもいたたれない時ってありますよね?」

男「そういう時、トイレの個室にこもれば、完全に外界から遮断され、誰にも見られず食事することができます」

国王「ほう」
16:2019/02/09(土) 02:04:28.846 ID:dk2njNpUM.net
王にはねーだろそんな時
17:2019/02/09(土) 02:06:35.551
男「さらに、本来排便に使うはずのトイレを食事に使ってしまうという後ろめたさ」

男「いつ誰がノックしてくるか分からないスリル」

男「こうした非日常的なドキドキ感を味わうこともできます」

男「便所飯はただみんなで喋って食べるだけの食事時間を、よりスリリングで豊かなものにしてくれる」

男「いわば、食事のニュースタイルなのです!」ビシッ

国王「……なるほど!」

男(いやー、我ながらよくもこうデタラメがベラベラと……)

国王「城にもトイレはある。さっそく余も挑戦してみるとしよう」
18:2019/02/09(土) 02:07:17.566 ID:dSV0K6ljr.net
王様www
19:2019/02/09(土) 02:09:21.133
国王「……」

男「いかがでしたか?」

国王「すごくいい!」

国王「ただご飯を食べてるだけなのに、ものすごく悪いことしているような気分になって……」

国王「王になってから数十年、これほどのドキドキ感を味わうのは久しぶりだ!」

国王「おぬしは素晴らしい文化を伝えてくれた! 褒めてつかわす!」

男「ははーっ!」
20:2019/02/09(土) 02:10:10.324 ID:YIUS8WnzM.net
この王は民に慕われてそう
22:2019/02/09(土) 02:11:52.260
国王の影響力は絶大で、便所飯文化は瞬く間に国じゅうに広まった。

ワイワイ… ワイワイ…

「王様が便所飯って食事法を正式に認めたらしいぜ!」

「あたしもやってみるわ!」

「昨日やってみたけど、いつもより飯をおいしく感じたよ!」



それどころか、国という枠を越えて――
23:2019/02/09(土) 02:14:21.780
女魔法使い「ねえ、みんな」

勇者「ん?」

女魔法使い「私たちの故郷で便所飯って食事法が流行ってるんですって」

戦士「なんだよ、便所飯って」

女魔法使い「そのまんまよ。トイレの個室で一人で食事をするって食べ方みたい」

女僧侶「ちょうど、あちらに公共のトイレがありますね」

勇者「いつもパーティー四人で顔突き合わせて食事するのにも飽きてたしな……やってみるか」
24:2019/02/09(土) 02:16:47.911
魔王「……ほう、便所飯?」

側近「はっ」

魔王「我ら魔族と人間どもは長らく対立し、未だ決着がつく見通しは立っておらぬが」

魔王「人間どもの文化を学ぶことも、我らの勝利に繋がるというもの……」

魔王「便所飯とやら、是非体験してみたい! トイレを用意せい!」

側近「あちらにトイレをご用意してあります!」
25:2019/02/09(土) 02:19:23.411
やがて、男は“便所飯”文化の功労者として、爵位を賜っていた。

男「見ろよ、この勲章!」キラッ

剣士「おお~、こんなのはじめて見た!」

傭兵「すげえな、よそ者が貴族になるなんてこの国始まって以来のことだぜ!」

女騎士「こんなことで爵位を与えてしまうとは、陛下も酔狂なことをなさる」

男「女騎士さんは頑なに便所飯しないよな」

女騎士「当たり前だ。便所飯など……下らん!」
26:2019/02/09(土) 02:20:48.825 ID:UXEmd1pHM.net
女騎士さんだけが最後の希望
27:2019/02/09(土) 02:21:48.982
ある日

男「……」ギュルルルル…

男(さっきから腹いてえ……)

男(貴族になったからって、ちょっと食いすぎたか? それとも、なんか古い物食っちまったか?)

男(ま、いいや。すぐトイレ入ろ)トントン

<ハイッテマース

男「ゲ!?」
28:2019/02/09(土) 02:24:18.776
男「ヤバイ……! 早く空いてる個室探さなきゃ!」

ドンドン

<ゴハンタベテマース

ドンドンッ

<ツカッテマース

ドンドンッ!

<ベンジョメシチュウデース

男「どの個室も使われてるぅぅぅぅぅ!!!」
30:2019/02/09(土) 02:27:33.077
男「なぜ個室ばかりこんなに埋まってるんだ!? どうしてみんなトイレでメシ食ってんだ!?」

男「……俺のせいかあああああああ!!!」

男「早く……早く見つけないと! も、もう我慢の限界……!」

男「……あ」


子供「ママー、あの人くさーい!」

母「コラ、見ちゃいけません!」


男「アハハ……」ガクッ
31:2019/02/09(土) 02:31:00.941


国王「なんと、便所飯文化はやはりよくないから、“なるべくやらないように”とお触れを出してくれだと?」

男「はい、爵位もお返しします」

国王「なぜだ? あれほど優れた食事法だというのに……」

男「それはですね、陛下」

男「やはり、食事というのはみんなでテーブルを囲んでするべきものだと思いますから……!」
32:2019/02/09(土) 02:33:54.891 ID:1al+EtTz0.net
因果応報でワロタ
33:2019/02/09(土) 02:34:06.917
国王のお触れと、なにより言いだしっぺが“やるべきではない”と言い出した影響は大きく、

流行するよりも早いスピードで便所飯文化は廃れていった。



男(……ふぅ、ようやくブームも落ち着いてきたな)

子供「あ、もらしてた人だ!」

男「コラー、怒るぞー」

子供「アハハ~」

男(この一件で俺、異世界の皆に顔と名前が知れ渡って、すっかり打ち解けちゃったし)

男(もう便所飯する必要なんかないからな……)

男「――ん」

女騎士「……♪」

男(女騎士さん、いつになく上機嫌だな。まるで何か楽しいことを体験した後のようだ)
34:2019/02/09(土) 02:36:20.514
男「女騎士さん」

女騎士「ん、ああ……貴様か」

男「今トイレから出てきましたよね」

女騎士「ああ、まあな……用を足していたのだ」

男「でもなんで、食器を持ってるんです?」

女騎士「くっ、殺せ!」





―END―
35:2019/02/09(土) 02:40:23.876 ID:Kok9eYO/r.net

女騎士さん何してんすか