1:2019/03/07(木) 00:26:08.430
女「えー、実家暮らししてんの!?」

男「そうだけど、なにか?」

女「今時、実在する家で暮らしてるなんて信じらんない!」

男「くっ……!」

女「やっぱり、今の流行は“虚家暮らし”でしょー!」

男「虚家?」

女「実の反対は≪虚≫でしょ? だから虚家」

女「そうだ、よかったら今日うちくる?」

男「うん……」

くじら、空をとぶ
2:2019/03/07(木) 00:30:04.309
女「ここが私の家よ」

男「……!?」

男「なにもない……ただの更地じゃん!」

女「あわてないあわてない、今から家を生み出すんだってば」

女「実在しない……虚の家をね」

男「虚の家……?」

女「むむむ……」
3:2019/03/07(木) 00:33:11.861
モワモワモワ…

男「え!?」

モワモワモワモワモワ…

男「みるみるうちにメルヘンチックな家が……!」

ボワンッ

女「よし、できた!」

男「!!??」

女「さ、入って!」

男「お邪魔します……」
5:2019/03/07(木) 00:36:01.282
男「うわっ、広い!」

男「玄関だけで東京ドームぐらいの広さがありそう!」

男「外観はそこまで広くなかったのに、どうしてこんなに……!?」

女「なんたって虚だからね~、何でもありなの」

男「へえ~……虚ってすごいなぁ」
6:2019/03/07(木) 00:38:18.494
女「テレビでも見る?」

男「うん」

女「こっちの部屋よ」

男「うわっ、まるで映画館のスクリーンじゃないか!」

女「そ、こんな大画面でテレビを楽しめるの」

女「実家だったらこうはいかないでしょ?」

男「うん、俺んちにあるのは小さな液晶テレビだけだもん」
7:2019/03/07(木) 00:40:17.603
女「冷蔵庫もこの通り!」

男「まるで業務用冷蔵庫だ!」

女「中にはお茶にジュース、ビール……なんでもいくらでもあるわよ」

女「なにしろ虚だから!」

男「すげー……」
8:2019/03/07(木) 00:43:53.194
女「プールもあるし……」バシャバシャ

女「ジムもあるし」グッグッ

女「可愛いペットだって生み出せるんだから!」

虚犬「ワン、ワン!」

女「どう、虚家ってすごいでしょ?」

男「うん、これじゃ実家暮らしがバカにされるのも無理ないや」

女「実在の家じゃ面積もやれることも限られてるからねー」

男「さっそく俺も虚家を建ててみるよ!」
9:2019/03/07(木) 00:46:05.420 ID:Uq4V9Syar.net
虚犬て
10:2019/03/07(木) 00:46:19.722
男「俺の家には小さな庭があるから……ここに建ててみよう」

男「むむむ……」

モワモワモワ…

モワモワモワモワモワ…

ボワンッ

男「できたぞ、俺の虚家!」
11:2019/03/07(木) 00:48:20.255 ID:qMDD+YFQa.net
ドラえもんみたいな流れ
12:2019/03/07(木) 00:48:43.732
男「ここからどんどんカスタマイズしていこう」

男(部屋は100部屋くらい……)

男(屋上にはビアガーデン……)

男(ベッドはキングサイズ……)

男(廊下にはギリシャ彫刻を大量に……)

男(ムフフなお姉さんも……)

モワモワモワモワモワ…

男「すごい、どんどん出来上がっていくぞ! 俺の理想の家が!」
13:2019/03/07(木) 00:51:18.315
男「フカフカのソファに寝そべりながら、絵画を愛でつつ、大音量でクラシックを聴く!」

男「最高だぁ~!」

男「ご飯だって念じればすぐ出てくる!」

男「しかも虚だから、どんな高級料理だって思うがままだ!」

男「一度でいいから、こんだけイクラを乗せたイクラ丼を食ってみたかったんだ!」

男「いただきまーす!」

ガツガツ ムシャムシャ
14:2019/03/07(木) 00:52:17.707 ID:Uq4V9Syar.net
虚とは一体…
15:2019/03/07(木) 00:55:08.667
女「おはよう!」

男「おはよう、俺もさっそく虚家を建ててみたよ」

女「どうだった?」

男「最高だよ! 一度虚家を知ったら、もう実家暮らしはできないね!」

男「一応家は残しておくけど、多分もう使うことはないと思うよ」

女「だよねー!」
16:2019/03/07(木) 00:57:30.207
ワイワイ… ガヤガヤ…

「家に地下室を作って丸ごとワインセラーにしたよ」

「俺なんて野球場作ったぜ!」

「僕の家は自然で一杯なんだ! 絶滅動物も一杯いて……」



男「みんな、虚家暮らしを満喫してるみたいだな」

女「そりゃそうよ。今や実の家――実家に住むメリットなんて全くないもの」
17:2019/03/07(木) 01:00:30.776
……

虚「キョキョキョ……」

虚「≪実≫の世界の奴らどもめ、まんまと罠にかかりやがった」

虚「虚構の家が流行したおかげで、≪虚≫である私が侵攻しやすくなった!」

虚「ついに、≪虚≫が≪実≫を飲み込む時がきたのだ!」

……
19:2019/03/07(木) 01:02:32.587
ズズズズズ…

「なんだなんだ?」

「空がどんどん無色になってくぞ!」

「どうなってんの!?」

「うわっ、俺の体も消え始めた!」

「助けてぇぇぇぇぇ!!!」

ズズズズズズズズ…
20:2019/03/07(木) 01:05:12.198
TV『緊急速報です!』

TV『現在、≪虚≫が我々の世界を急速に飲み込みつつあります!』

TV『対抗するには、私たち自身が“自分は実在する”と強く心を持つしかありません!』

TV『でないと、世界は丸ごと虚になってしまいます!』

TV『うああああ……! 私の体も……!』
23:2019/03/07(木) 01:07:38.067
虚「キョーキョキョキョ、無駄だ!」

虚「虚に浸りきり、脆弱化したお前たちの心では、私を阻止することなどできん!」

虚「この世の全てを≪虚≫にしてくれるわぁっ!」



ズズズズズズズズズズズ………
25:2019/03/07(木) 01:10:40.307
男「みんなを捜したけど、どうやら俺たちが最後の生き残りのようだ……」

女「ってことはみんな、虚に飲まれちゃったの!?」

男「そうらしい……」

女「そんな……!」

ズズズズズ…

男「まずい! 虚がこっちにも来た! 逃げよう!」
26:2019/03/07(木) 01:13:18.382
ズズズズズ…

男「くっ、追いつかれる!」

女「もうダメよ、私たちも飲まれちゃうんだわ!」

男「……あそこにあるのは」

男「俺の実家!?」

男「よし、あそこに逃げ込もう!」

女「分かった!」

タタタタタッ
27:2019/03/07(木) 01:17:50.122
虚「ほう……≪実≫の家に逃げ込んだか」

虚「だが、この程度の家! すぐに飲み込んでやるわ!」

虚「お前たち二人を飲み込めば、世界は虚一色となるのだ!」

虚「キョーキョキョキョキョ!」

ズズズズズズズズ…
28:2019/03/07(木) 01:19:44.870
男「ダメだ、俺の家も飲み込まれていく!」

男「周囲が見えなくなってきた! ここまでか……!」

ギュッ…

男「!?」

男(これは……彼女の手!? こんな状況でも俺の手を握ってくれたんだ!)

男(この手の温かさ……これは断じて≪虚≫なんかじゃない! ≪実≫だ!)
29:2019/03/07(木) 01:22:50.793
男「俺たちは≪実≫なんだァ!!!」

女「そう、私たちは≪実≫なの!!!」

虚「キョッ!?」

虚「バカな……この状況にあってこれほど心を強く保てるだとォ!?」

虚「こいつら……一体!?」

男「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

女「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
30:2019/03/07(木) 01:24:36.331 ID:2rJ5aiVpr.net
熱いな
31:2019/03/07(木) 01:26:45.532
男「俺たちの愛は!」

女「私たちの愛は!」

男女「≪真実≫!!!」

男女「虚なんかに負けない!!!」パァァァァァ

虚「ぐっ、ぐおおおおおっ!」

虚「バカな……これが≪実≫の力だというのか……!」

虚「私などが太刀打ちできるわけがない……!」シュゥゥゥゥゥ…
32:2019/03/07(木) 01:28:58.203
男「や、やった……!」

女「虚が力を失って、なにもかも元に戻ったわ!」

男「よかった……しかし、やはり人間は虚に頼ってはいけなかったんだな」

女「ええ、幻なんかじゃなく地に足をつけてこそ人間なのよ!」

男「よかったら、これからは俺の実家で暮らさないか?」

女「うん!」
33:2019/03/07(木) 01:31:26.316
男「おや、あそこにいるのは……」

虚「うう……」

女「虚じゃない! すっかり縮んじゃって……まるでネズミだわ」

虚「お前達の真実の愛をもろに浴びて、こんなになってしまったのだ……」

女「よくも世界を飲み込もうとしたわね! トドメを刺してやる!」

虚「ひっ!」

男「ちょっと待った」
35:2019/03/07(木) 01:35:09.884
男「こいつが生き物なのか分からないけど、むやみに命を奪うのはよくないよ」

男「俺たちにも、虚に浸りきったって落ち度があるんだからな」

女「うーん、確かに」

男「虚、世界を飲み込もうとしたことをちゃんと反省するんだったら、命は助けてやる」

男「なんだったら、俺の実家に住まわせてもいい」

虚「本当か!? ありがたい……」

女「まったく甘いんだから……だけどそこに惚れたんだけどね」
36:2019/03/07(木) 01:38:17.391
数年後――

子供「ワーイワーイ!」ドタバタ

女「コラァ、こんな狭い家で暴れるんじゃないの! 壊れちゃうでしょ!」

男「おい、狭い家とはなんだ! 俺の昔からの家に向かって!」

女「狭いから狭いっていってるんじゃない! いい加減増築しましょうよ!」

男「俺の収入でそんなことできるわけないだろ!」

女「まったく甲斐性がないんだから! あーあ、虚家が恋しいわ」

男「なんだとォ!? 俺だってお前には言いたいことが……!」

ギャーギャーワーワー


虚「あーあ、まーた喧嘩してやがる。夫婦喧嘩は虚も食えねえや」

虚「≪現実≫ってのは厳しいねえ」





おわり
37:2019/03/07(木) 01:41:51.732 ID:2rJ5aiVpr.net
キョーキョキョキョ乙