1:2018/09/20(木) 02:35:30.855
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
烏丸麗子(26) 市役所職員
【伝説の怪盗】
ホーッホッホッホ……。」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
烏丸麗子(26) 市役所職員
【伝説の怪盗】
ホーッホッホッホ……。」
4:2018/09/20(木) 02:38:02.150
テロップ「埼玉県、比企市――」
JR比企駅と、周辺の大型店舗。市街地を歩く通行人たち。道路を行く数々の車。
比企市役所。窓口の前に並ぶ列。ソファーに座る市民たち。市民たちは何かの手続きをしている。
窓口に、若い女性の公務員がいる。彼女は、ある老人を相手に何かを話している。
テロップ「烏丸麗子(26) 比企市役所職員・市民課」
麗子のモノローグ「私は、市役所の市民課で働く公務員だ……」
ある中年主婦を相手に、何かの手続きの手助けをする麗子。
麗子のモノローグ「市民課の仕事は多岐に渡っている。死亡届や婚姻届などの戸籍の手続き……」
「転入や転出とかの住民票の手続き……。また、国民皆保険に関する手続きなど……」
「市民の生活に直結した重要な仕事が多い」
新しい保険証を若者に渡す麗子。
麗子のモノローグ「私の仕事は、市民のために役に立っている。しかし、私は今の仕事に満足していない」
窓口にいる麗子。麗子の顔のアップ、彼女はうんざりしたような表情をしている。
麗子のモノローグ「なぜなら、公務員の仕事はつまらないからだ。従って、私は公務員の仕事が嫌いだ……」
JR比企駅と、周辺の大型店舗。市街地を歩く通行人たち。道路を行く数々の車。
比企市役所。窓口の前に並ぶ列。ソファーに座る市民たち。市民たちは何かの手続きをしている。
窓口に、若い女性の公務員がいる。彼女は、ある老人を相手に何かを話している。
テロップ「烏丸麗子(26) 比企市役所職員・市民課」
麗子のモノローグ「私は、市役所の市民課で働く公務員だ……」
ある中年主婦を相手に、何かの手続きの手助けをする麗子。
麗子のモノローグ「市民課の仕事は多岐に渡っている。死亡届や婚姻届などの戸籍の手続き……」
「転入や転出とかの住民票の手続き……。また、国民皆保険に関する手続きなど……」
「市民の生活に直結した重要な仕事が多い」
新しい保険証を若者に渡す麗子。
麗子のモノローグ「私の仕事は、市民のために役に立っている。しかし、私は今の仕事に満足していない」
窓口にいる麗子。麗子の顔のアップ、彼女はうんざりしたような表情をしている。
麗子のモノローグ「なぜなら、公務員の仕事はつまらないからだ。従って、私は公務員の仕事が嫌いだ……」
5:2018/09/20(木) 02:40:17.833
夕方。仕事を終えた麗子が、街の中を歩いている。
麗子のモノローグ「仕事は定時で終わり、給料も身分も保証されている」
「世間の人たちは、公務員の私を勝ち組として扱ってくれるだろう」
ファミリーレストラン。店の中で、スパゲッティを食べる麗子。
麗子のモノローグ「しかし、私は今の自分に納得がいかない……」
住宅地を歩く麗子。彼女は自宅アパートの中に入る。
夜。アパート、麗子の部屋。液晶テレビの下のDVDプレーヤーに、DVDを入れる麗子。
液晶テレビの画面が、アニメの画像に切り替わる。画面に「グッドラック!ドリピュア」のタイトルが表示される。
テレビの画面。街の中に現れる黒っぽい怪物。何かのアイテムを使い、変身をする主人公の少女たち。
麗子(来た……!!来たっ……!!)
画面の映像。奇抜な色の髪形と、ドレスを身にまとった少女たちが、怪物と肉弾戦をする。
両手を握りしめ、食い入るようにテレビの画面を見つめる麗子。
麗子のモノローグ「仕事は定時で終わり、給料も身分も保証されている」
「世間の人たちは、公務員の私を勝ち組として扱ってくれるだろう」
ファミリーレストラン。店の中で、スパゲッティを食べる麗子。
麗子のモノローグ「しかし、私は今の自分に納得がいかない……」
住宅地を歩く麗子。彼女は自宅アパートの中に入る。
夜。アパート、麗子の部屋。液晶テレビの下のDVDプレーヤーに、DVDを入れる麗子。
液晶テレビの画面が、アニメの画像に切り替わる。画面に「グッドラック!ドリピュア」のタイトルが表示される。
テレビの画面。街の中に現れる黒っぽい怪物。何かのアイテムを使い、変身をする主人公の少女たち。
麗子(来た……!!来たっ……!!)
画面の映像。奇抜な色の髪形と、ドレスを身にまとった少女たちが、怪物と肉弾戦をする。
両手を握りしめ、食い入るようにテレビの画面を見つめる麗子。
7:2018/09/20(木) 02:42:22.619
液晶テレビの画面。少女たちが放つビームによって、粉々に砕け散る怪物。
麗子「よ、よしっ……!!やったっ……!!」
立ち上がり、思わず声を上げる麗子。
アニメは終わり、エンディングテーマが流れる。テレビの画面を見つめる麗子。
麗子(私もこの子たちのように、戦うヒロインに変身して活躍してみたいなぁ……)
テロップ「東京、新宿――」
夕方。「歌舞伎町一番街」の看板。歓楽街の中を行く大勢の通行人たち。
白黒混じりのゴス ファッションを着た麗子が道を歩く。
麗子(うわ~~、わくわくするなぁ~~)
ホストクラブ「新宿事変」。ゴス 姿の麗子が、美形のホストたちに囲まれている。
麗子「アハハハハハ!!」
酒に酔った麗子は、ホストたちにお世辞を言われて上機嫌になっている。
麗子「よ、よしっ……!!やったっ……!!」
立ち上がり、思わず声を上げる麗子。
アニメは終わり、エンディングテーマが流れる。テレビの画面を見つめる麗子。
麗子(私もこの子たちのように、戦うヒロインに変身して活躍してみたいなぁ……)
テロップ「東京、新宿――」
夕方。「歌舞伎町一番街」の看板。歓楽街の中を行く大勢の通行人たち。
白黒混じりのゴス ファッションを着た麗子が道を歩く。
麗子(うわ~~、わくわくするなぁ~~)
ホストクラブ「新宿事変」。ゴス 姿の麗子が、美形のホストたちに囲まれている。
麗子「アハハハハハ!!」
酒に酔った麗子は、ホストたちにお世辞を言われて上機嫌になっている。
8:2018/09/20(木) 02:44:28.824
ソファーを離れ、麗子は帰る準備をする。彼女の耳元で、ホストが何かをささやく。驚いた表情になる麗子。
麗子「え!?72万円払えって!?高すぎる!!今の私は、72万円なんて大金持ってないよ!!」
ホストA「じゃあ、身体で支払ってもらおうか!!」
ホストAが、麗子の身体を押し倒す。悲鳴を上げる麗子。
麗子「嫌っ!!やめて!!」
麗子たちの周りにホストたちが群がる。悪意のこもった表情で、ニヤニヤ笑うホストたち。
ホストB「お前の次は、俺にもさせろよ!!」
ホストA「おう、望むところだ!!」
ホストC「俺たちがたんと味わったら、売り飛ばしてやろうぜ!!」
麗子「だ、誰か……。助けてええええっ!!!」
ホストAに組み敷かれたまま、涙目で叫ぶ麗子。
喪黒「おっと、そこまで!!」
ホストたちが麗子を襲おうとしていたその時……。例の男――喪黒福造が店の中に姿を現す。
麗子「え!?72万円払えって!?高すぎる!!今の私は、72万円なんて大金持ってないよ!!」
ホストA「じゃあ、身体で支払ってもらおうか!!」
ホストAが、麗子の身体を押し倒す。悲鳴を上げる麗子。
麗子「嫌っ!!やめて!!」
麗子たちの周りにホストたちが群がる。悪意のこもった表情で、ニヤニヤ笑うホストたち。
ホストB「お前の次は、俺にもさせろよ!!」
ホストA「おう、望むところだ!!」
ホストC「俺たちがたんと味わったら、売り飛ばしてやろうぜ!!」
麗子「だ、誰か……。助けてええええっ!!!」
ホストAに組み敷かれたまま、涙目で叫ぶ麗子。
喪黒「おっと、そこまで!!」
ホストたちが麗子を襲おうとしていたその時……。例の男――喪黒福造が店の中に姿を現す。
10:2018/09/20(木) 02:47:28.125
ホストA「なんだ、おっさん!?」
ホストAが喪黒の姿に気を取られているすきに、麗子は喪黒の元へ駆け寄る。喪黒の左腕にしがみつく麗子。
ホストB「せっかくいいところなのに、邪魔すんじゃねぇよ……。おっさん……」
喪黒ににじり寄るホストたち。喪黒はホストたちに右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
ホストたち「ギャアアアアアアアアア!!!」
喪黒「お嬢さん、もう大丈夫ですよ。」
麗子が恐る恐る前を見ると……。異様に老化し、疲労困憊した状態でホストたちが床に横たわっている。
ホストたち「アーーー……。アーーー……。アーーー……」
白髪頭としわだらけの顔になり、うめき声を上げるホストたち。彼らは完全に廃人化してしまったようだ。
ホストクラブ「新宿事変」を出て、街を歩く喪黒と麗子。
麗子「あの、……。それにしても、あなたは一体……」
喪黒「私ですか?私はこういう者です」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
ホストAが喪黒の姿に気を取られているすきに、麗子は喪黒の元へ駆け寄る。喪黒の左腕にしがみつく麗子。
ホストB「せっかくいいところなのに、邪魔すんじゃねぇよ……。おっさん……」
喪黒ににじり寄るホストたち。喪黒はホストたちに右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
ホストたち「ギャアアアアアアアアア!!!」
喪黒「お嬢さん、もう大丈夫ですよ。」
麗子が恐る恐る前を見ると……。異様に老化し、疲労困憊した状態でホストたちが床に横たわっている。
ホストたち「アーーー……。アーーー……。アーーー……」
白髪頭としわだらけの顔になり、うめき声を上げるホストたち。彼らは完全に廃人化してしまったようだ。
ホストクラブ「新宿事変」を出て、街を歩く喪黒と麗子。
麗子「あの、……。それにしても、あなたは一体……」
喪黒「私ですか?私はこういう者です」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
11:2018/09/20(木) 02:49:28.225
麗子「ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「実はですね……。私、人々の心をお埋めするボランティアをしているのですよ」
麗子の目がみるみる涙でうるむ。喪黒の胸元にしがみつき、泣き崩れる麗子。2人を見つめる通行人たち。
BAR「魔の巣」。喪黒と麗子が席に腰掛けている。
麗子「さっきは、どうもありがとうございます……」
喪黒「いえいえ……。あなたのような人を救うのが、私の仕事なんです。なぜなら、見たところ……」
「あなたの心にもスキマがおありですよねぇ?だから、危険な歌舞伎町にわざわざ寄ったのでしょうなぁ」
麗子「ええ。そうですよ……。何しろ私は……」
身振り手振りを交え、今の自分の現状について話す麗子。
喪黒「ほう……。市役所職員のお仕事が嫌だとは……。市民のために役に立っていて、給料も待遇も安定している……」
「むしろ、喜ぶべきことですよ。それなのに、なぜ……」
麗子「そもそも私には、市民のために働きたいという気持ちなんか全くありません!」
「それに公務員の職業は、親に言われるまま、コネで採用されたに過ぎませんから!」
喪黒「そうですか……」
喪黒「実はですね……。私、人々の心をお埋めするボランティアをしているのですよ」
麗子の目がみるみる涙でうるむ。喪黒の胸元にしがみつき、泣き崩れる麗子。2人を見つめる通行人たち。
BAR「魔の巣」。喪黒と麗子が席に腰掛けている。
麗子「さっきは、どうもありがとうございます……」
喪黒「いえいえ……。あなたのような人を救うのが、私の仕事なんです。なぜなら、見たところ……」
「あなたの心にもスキマがおありですよねぇ?だから、危険な歌舞伎町にわざわざ寄ったのでしょうなぁ」
麗子「ええ。そうですよ……。何しろ私は……」
身振り手振りを交え、今の自分の現状について話す麗子。
喪黒「ほう……。市役所職員のお仕事が嫌だとは……。市民のために役に立っていて、給料も待遇も安定している……」
「むしろ、喜ぶべきことですよ。それなのに、なぜ……」
麗子「そもそも私には、市民のために働きたいという気持ちなんか全くありません!」
「それに公務員の職業は、親に言われるまま、コネで採用されたに過ぎませんから!」
喪黒「そうですか……」
12:2018/09/20(木) 02:51:30.356
麗子「周囲の人間に合わせながら、表向きは『いい子』を演じ……。進路も、大人たちに言われるまま選んだのだから……」
「私は自分の人生を、自分らしく生きていないんです!」
喪黒「烏丸さん。あなたのお悩み、よーーく分かりました……」
「自分で考えて、自分で決める人生を送らず……。組織の中に埋もれ、ただ働くだけで飼い殺された人生を送る……」
「それじゃあ、あなたにとっては面白くないでしょうなぁ……」
麗子「そうですよ!!『一体、私は何のために生きているのか』と言いたくなりますよ!!」
喪黒「烏丸さんが奇抜なファッションをしたのも、歌舞伎町に足を踏み入れたのも……」
「日ごろのストレスを発散するために取った行動……。そうでしょう!?」
麗子「はい」
喪黒「周囲に合わせるだけの自分……。平凡でありながら退屈な日常……」
「それらからおさらばして、変身願望や非日常への憧れを味わってみたい……というわけですよね!?」
麗子「その通りです!!」
喪黒「分かりました。あなたのお悩みを解決するため、私が何とかしましょう」
テロップ「1週間後――」
ある駅の西口。腕時計を眺めながら、喪黒との待ち合わせをする麗子。麗子の前に姿を現す喪黒。
喪黒「やぁ、烏丸さん」
「私は自分の人生を、自分らしく生きていないんです!」
喪黒「烏丸さん。あなたのお悩み、よーーく分かりました……」
「自分で考えて、自分で決める人生を送らず……。組織の中に埋もれ、ただ働くだけで飼い殺された人生を送る……」
「それじゃあ、あなたにとっては面白くないでしょうなぁ……」
麗子「そうですよ!!『一体、私は何のために生きているのか』と言いたくなりますよ!!」
喪黒「烏丸さんが奇抜なファッションをしたのも、歌舞伎町に足を踏み入れたのも……」
「日ごろのストレスを発散するために取った行動……。そうでしょう!?」
麗子「はい」
喪黒「周囲に合わせるだけの自分……。平凡でありながら退屈な日常……」
「それらからおさらばして、変身願望や非日常への憧れを味わってみたい……というわけですよね!?」
麗子「その通りです!!」
喪黒「分かりました。あなたのお悩みを解決するため、私が何とかしましょう」
テロップ「1週間後――」
ある駅の西口。腕時計を眺めながら、喪黒との待ち合わせをする麗子。麗子の前に姿を現す喪黒。
喪黒「やぁ、烏丸さん」
13:2018/09/20(木) 02:54:14.908
麗子「喪黒さん……。ここは比企市の隣町ですよ。一体、何があるんですか?」
喪黒「烏丸さんの変身願望と、非日常への憧れを満たすためのものですよ……」
街の中を歩く喪黒と麗子。駅から10分ほど歩いた先にマンションがある。マンションの前に立つ喪黒と麗子。
喪黒「さあ、入りましょう」
マンションの中に入り、エレベーターに乗る喪黒と麗子。ある部屋のドアの前の2人。喪黒は、ドアの鍵を開ける。
喪黒「烏丸さん。この部屋で着替えを済ませてください。私はドアの前で待っていますよ」
部屋の中には、クローゼットと大型の棚がある。麗子がクローゼットの中を開けると……。
クローゼットの中に入っているのは……。黒色のゴス ドレス、黒色のブーツ、黒色の手袋、黒色のリボン、黒い仮面……。
麗子「こ、これに着替えろだって……!?」
外のドアの前で、麗子を待つ喪黒。玄関のドアが開くと、そこには黒ずくめの衣装を着た麗子が立っている。
麗子の目元には、黒色の仮面が装着されている。
喪黒「ホーッホッホッホ……。よく似合っていますよ。烏丸さん」
喪黒「烏丸さんの変身願望と、非日常への憧れを満たすためのものですよ……」
街の中を歩く喪黒と麗子。駅から10分ほど歩いた先にマンションがある。マンションの前に立つ喪黒と麗子。
喪黒「さあ、入りましょう」
マンションの中に入り、エレベーターに乗る喪黒と麗子。ある部屋のドアの前の2人。喪黒は、ドアの鍵を開ける。
喪黒「烏丸さん。この部屋で着替えを済ませてください。私はドアの前で待っていますよ」
部屋の中には、クローゼットと大型の棚がある。麗子がクローゼットの中を開けると……。
クローゼットの中に入っているのは……。黒色のゴス ドレス、黒色のブーツ、黒色の手袋、黒色のリボン、黒い仮面……。
麗子「こ、これに着替えろだって……!?」
外のドアの前で、麗子を待つ喪黒。玄関のドアが開くと、そこには黒ずくめの衣装を着た麗子が立っている。
麗子の目元には、黒色の仮面が装着されている。
喪黒「ホーッホッホッホ……。よく似合っていますよ。烏丸さん」
15:2018/09/20(木) 02:58:43.975
屋上に立つ麗子と喪黒。美術館の周囲に、パトカーが次々と停まる。スピーカー持って呼びかける刑事。
刑事「君たちは完全に包囲されている!!」
ハングライダーを背負った麗子が、絵画を持ちながら空を飛ぶ。喪黒もハングライダーを背負って、彼女につきそう。
夜空の彼方へ飛び去る麗子と喪黒。唖然とした表情で、2人の姿を見つめる刑事や警官たち。
マンション。一連の犯行を終えた麗子と喪黒が、例の部屋の中にいる。部屋の隅には、美術館から盗んだ絵画がある。
麗子「さっきは、とっても楽しかったです!!生きている実感を心から味わいました!!」
喪黒「2度目からは……。私の指導がなくても、あなたは怪盗として仕事をやりこなせそうですねぇ」
麗子「スリル満点で、もう癖になりそうです!喪黒さん、私、これからも世間を騒がせてやりますから!!」
喪黒「そりゃあ、結構なことです。ですがねぇ、あなたには私と約束していただきたいことがあります」
麗子「約束!?」
喪黒「はい。烏丸さん、怪盗になるのは週1回だけにしておいてください」
「まずは、普段のお仕事や日常生活を大切すべきです。変身願望や非日常は一時的なものですから……」
「いいですね、約束ですよ!?」
麗子「わ、分かりました……。喪黒さん」
刑事「君たちは完全に包囲されている!!」
ハングライダーを背負った麗子が、絵画を持ちながら空を飛ぶ。喪黒もハングライダーを背負って、彼女につきそう。
夜空の彼方へ飛び去る麗子と喪黒。唖然とした表情で、2人の姿を見つめる刑事や警官たち。
マンション。一連の犯行を終えた麗子と喪黒が、例の部屋の中にいる。部屋の隅には、美術館から盗んだ絵画がある。
麗子「さっきは、とっても楽しかったです!!生きている実感を心から味わいました!!」
喪黒「2度目からは……。私の指導がなくても、あなたは怪盗として仕事をやりこなせそうですねぇ」
麗子「スリル満点で、もう癖になりそうです!喪黒さん、私、これからも世間を騒がせてやりますから!!」
喪黒「そりゃあ、結構なことです。ですがねぇ、あなたには私と約束していただきたいことがあります」
麗子「約束!?」
喪黒「はい。烏丸さん、怪盗になるのは週1回だけにしておいてください」
「まずは、普段のお仕事や日常生活を大切すべきです。変身願望や非日常は一時的なものですから……」
「いいですね、約束ですよ!?」
麗子「わ、分かりました……。喪黒さん」
16:2018/09/20(木) 03:01:39.969
BAR「魔の巣」。喪黒と麗子が席に腰掛けている。
麗子「喪黒さん!見てください、これ!!」
バッグから新聞を取り出す麗子。新聞の社会面には、黒づくめの怪盗による美術館荒らしが大きく報道されている。
喪黒「首都圏内を股に掛ける神出鬼没の女怪盗……。マスコミや警察の関係者は、あなたを『カラス姫』と呼んでいますねぇ」
麗子「『カラス姫』なんてダサいネーミングだ、と思っていましたけど……。今では、その名前がすっかり気に入っています」
喪黒「あなたの変身願望と非日常への欲求は、これで間違いなく満たされたはずです」
麗子「ええ。もちろんですよ!」
喪黒「烏丸さんが満足していただいて何より……。まあ、ところで私との約束は守っていますよねぇ」
麗子「そ、そりゃあ……。もう……」
ある温泉旅館、宴会場。比企市役所の公務員たちが、浴衣姿で宴会を開いている。麗子も宴会に加わっている。
カラオケセットの側で、マイクを持ち演歌を歌う管理職の中年男性。拍手をする公務員たち。うつろな表情の麗子。
カラオケは、麗子の番になる。緊張した様子でマイクを持つ麗子。
麗子「喪黒さん!見てください、これ!!」
バッグから新聞を取り出す麗子。新聞の社会面には、黒づくめの怪盗による美術館荒らしが大きく報道されている。
喪黒「首都圏内を股に掛ける神出鬼没の女怪盗……。マスコミや警察の関係者は、あなたを『カラス姫』と呼んでいますねぇ」
麗子「『カラス姫』なんてダサいネーミングだ、と思っていましたけど……。今では、その名前がすっかり気に入っています」
喪黒「あなたの変身願望と非日常への欲求は、これで間違いなく満たされたはずです」
麗子「ええ。もちろんですよ!」
喪黒「烏丸さんが満足していただいて何より……。まあ、ところで私との約束は守っていますよねぇ」
麗子「そ、そりゃあ……。もう……」
ある温泉旅館、宴会場。比企市役所の公務員たちが、浴衣姿で宴会を開いている。麗子も宴会に加わっている。
カラオケセットの側で、マイクを持ち演歌を歌う管理職の中年男性。拍手をする公務員たち。うつろな表情の麗子。
カラオケは、麗子の番になる。緊張した様子でマイクを持つ麗子。
18:2018/09/20(木) 03:04:40.955
麗子(うわあ……。私、今時のJ-POPに詳しくないし……。ましてや、年配層に受ける懐メロなんて全然知らない……)
公務員たち「何か歌ってくれよーー!!」「そうだーー、俺たちは待ってるぞーー!!」
麗子の頭の中に、怪盗『カラス姫』としての自分の姿が思い浮かぶ。
麗子(私は……、私だ……。私のやり方、私の生き方でいくんだ……。あの怪盗『カラス姫』のように……)
開き直り、何かの歌を熱唱する麗子。きょとんとした顔で麗子を見つめる公務員たち。
麗子のモノローグ「慰安旅行での宴会で、私はアニメソングを堂々とカラオケで歌った」
ある日の昼、比企市役所。一人で弁当を食べる麗子。遠くから公務員たちが麗子を指差し、内緒話をする。
公務員たち「烏丸さんって、オタクだったんだ」「キモーーイ」「あいつ頭おかしいから、関わるのやめようよ」
麗子のモノローグ「オタクバレした私は、職場の中ですっかり孤立してしまった……」
夕方。JR比企駅。プラットフォームから出発する電車。仕事を終えた麗子が、電車に乗り込んでいる。
麗子(傷ついた私の心と自尊心を、立ち直らせてくれるには……。あれをやるしかない……)
公務員たち「何か歌ってくれよーー!!」「そうだーー、俺たちは待ってるぞーー!!」
麗子の頭の中に、怪盗『カラス姫』としての自分の姿が思い浮かぶ。
麗子(私は……、私だ……。私のやり方、私の生き方でいくんだ……。あの怪盗『カラス姫』のように……)
開き直り、何かの歌を熱唱する麗子。きょとんとした顔で麗子を見つめる公務員たち。
麗子のモノローグ「慰安旅行での宴会で、私はアニメソングを堂々とカラオケで歌った」
ある日の昼、比企市役所。一人で弁当を食べる麗子。遠くから公務員たちが麗子を指差し、内緒話をする。
公務員たち「烏丸さんって、オタクだったんだ」「キモーーイ」「あいつ頭おかしいから、関わるのやめようよ」
麗子のモノローグ「オタクバレした私は、職場の中ですっかり孤立してしまった……」
夕方。JR比企駅。プラットフォームから出発する電車。仕事を終えた麗子が、電車に乗り込んでいる。
麗子(傷ついた私の心と自尊心を、立ち直らせてくれるには……。あれをやるしかない……)
19:2018/09/20(木) 03:07:08.187
例のマンション。部屋の中で、例のクローゼットを開ける麗子。
麗子のモノローグ「これ以降……。私が怪盗になるのは、週1回だけではなくなっていった……」
ある美術館。怪盗『カラス姫』の衣装をした麗子が庭にいる。
美術館の大型窓ガラスをガラスカッターで切り、建物の中に忍び込む麗子。
絵画を持った麗子が、ハングライダーを背負って夜空を飛ぶ。満たされた表情の麗子。
比企市役所。いつも通り、窓口で市民を相手に仕事をする麗子。
麗子(私は、この窓口にいる凡人とは違う……!私は特別なんだ……!)
(私は世間を股に掛ける女怪盗で、警察や法律も全く手出しができない存在なんだ……!)
昼休み。室内で、テレビを見つめる中年の男性公務員たち。部屋の中に入る麗子。
公務員A「怪盗『カラス姫』か……。最近、なぜかよく出没するようになったなぁ」
公務員B「泥棒やって、警察に追われて……。何が楽しいのか。まさに大バカとしか言いようがないよ!」
麗子(そんなことないっ!!あなたたちに私の……、いや、怪盗『カラス姫』の何が分かるんだ!!)
麗子のモノローグ「これ以降……。私が怪盗になるのは、週1回だけではなくなっていった……」
ある美術館。怪盗『カラス姫』の衣装をした麗子が庭にいる。
美術館の大型窓ガラスをガラスカッターで切り、建物の中に忍び込む麗子。
絵画を持った麗子が、ハングライダーを背負って夜空を飛ぶ。満たされた表情の麗子。
比企市役所。いつも通り、窓口で市民を相手に仕事をする麗子。
麗子(私は、この窓口にいる凡人とは違う……!私は特別なんだ……!)
(私は世間を股に掛ける女怪盗で、警察や法律も全く手出しができない存在なんだ……!)
昼休み。室内で、テレビを見つめる中年の男性公務員たち。部屋の中に入る麗子。
公務員A「怪盗『カラス姫』か……。最近、なぜかよく出没するようになったなぁ」
公務員B「泥棒やって、警察に追われて……。何が楽しいのか。まさに大バカとしか言いようがないよ!」
麗子(そんなことないっ!!あなたたちに私の……、いや、怪盗『カラス姫』の何が分かるんだ!!)
20:2018/09/20(木) 03:10:56.965
夕方。麗子は電車に乗って、例の場所へ向かう。マンションの例の部屋で、黒づくめの衣装に着替える麗子。
美術館。絵画を持った怪盗『カラス姫』こと麗子が、警官たちに追われている。
屋上から、美術品を持った麗子がハングライダーで夜空を飛ぶ。充実した表情の麗子。
麗子(やった……。私は今日も、警察に勝ったんだ……!!)
いつの間にか……。彼女の側に、ハングライダーを背負った喪黒が並んで飛んでいる。
喪黒「烏丸麗子さん……。あなた約束を破りましたね」
麗子「も、喪黒さん……!!」
喪黒「私はあなたに言ったはずです。怪盗になるのは週1回だけにしておけ……と」
「それにも関わらず……。ここのところ、ほぼ毎日、怪盗『カラス姫』が新聞を賑わせていますよねぇ」
麗子「ええ。最近の、連日に渡る美術館荒らしは……。全部、私の仕業ですよ」
喪黒「私との約束を破ったことを、潔く認めるのですね……」
麗子「はい。私は決めたんです!!私をつまはじきにした社会や世間に、復讐をしてやろうと……」
喪黒「ほう……、それがあなたの答えですか。今のあなたはもう……、怪盗になる資格がなくなりました!!」
美術館。絵画を持った怪盗『カラス姫』こと麗子が、警官たちに追われている。
屋上から、美術品を持った麗子がハングライダーで夜空を飛ぶ。充実した表情の麗子。
麗子(やった……。私は今日も、警察に勝ったんだ……!!)
いつの間にか……。彼女の側に、ハングライダーを背負った喪黒が並んで飛んでいる。
喪黒「烏丸麗子さん……。あなた約束を破りましたね」
麗子「も、喪黒さん……!!」
喪黒「私はあなたに言ったはずです。怪盗になるのは週1回だけにしておけ……と」
「それにも関わらず……。ここのところ、ほぼ毎日、怪盗『カラス姫』が新聞を賑わせていますよねぇ」
麗子「ええ。最近の、連日に渡る美術館荒らしは……。全部、私の仕業ですよ」
喪黒「私との約束を破ったことを、潔く認めるのですね……」
麗子「はい。私は決めたんです!!私をつまはじきにした社会や世間に、復讐をしてやろうと……」
喪黒「ほう……、それがあなたの答えですか。今のあなたはもう……、怪盗になる資格がなくなりました!!」
21:2018/09/20(木) 03:13:59.204
麗子「えっ!?」
喪黒「約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は麗子に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
麗子「キャアアアアアアアアアアア!!!」
喪黒のドーンを受け、ハングライダーを背負った麗子がバランスを崩す。麗子の手から滑り落ちる絵画。
強風に煽られたまま、麗子は……。遠くへ、遠くへと飛ばされていく。ある住宅街、道路の上に叩きつけられる麗子。
麗子の全身が光り輝く。『カラス姫』の姿から、スーツ姿に戻る麗子。彼女が背負っていたハングライダーも消える。
麗子「い、痛た……。ああっ……。私、元の姿に戻ってる……」
起き上がり、周囲を見渡す麗子。
麗子「そういえば、いつの間にか比企市に帰ってる。そうだ、早くアパートに戻らなくちゃ……」
麗子が住宅街を歩き、自宅アパートの方へ向かうとそこは……。
喪黒「約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は麗子に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
麗子「キャアアアアアアアアアアア!!!」
喪黒のドーンを受け、ハングライダーを背負った麗子がバランスを崩す。麗子の手から滑り落ちる絵画。
強風に煽られたまま、麗子は……。遠くへ、遠くへと飛ばされていく。ある住宅街、道路の上に叩きつけられる麗子。
麗子の全身が光り輝く。『カラス姫』の姿から、スーツ姿に戻る麗子。彼女が背負っていたハングライダーも消える。
麗子「い、痛た……。ああっ……。私、元の姿に戻ってる……」
起き上がり、周囲を見渡す麗子。
麗子「そういえば、いつの間にか比企市に帰ってる。そうだ、早くアパートに戻らなくちゃ……」
麗子が住宅街を歩き、自宅アパートの方へ向かうとそこは……。
22:2018/09/20(木) 03:17:06.934
麗子「わ、私が住んでいたアパートがなくなっているっ!!何で、ここが公園になってるの!?」
スマホを操作する麗子。
麗子「そうだ、親に電話しよう!!今日は実家に泊まることにして……」
麗子の耳元から聞こえたスマホの音声は……。
スマホ「お客様がおかけになった電話番号は、現在使われておりません……」
麗子「実家に電話がつながらない……。私の住むところも、実家も両親も……、何もかもなくなっている……」
「じゃあ、私は……。私の存在も、今までの日常も……、全部消えてしまったってこと!?」
スマホに握りしめたまま、麗子は地べたへと座り込む。目の焦点が定まっておらず、放心状態となった麗子。
ある美術館の前にいる喪黒。
喪黒「世の中にいる大人たちの大半は……、思い通りの人生を生きられず、挫折した人たちで溢れかえっています」
「しかも……、当たり前の日常には退屈さも付きものですから、人々は心の奥にうっ屈した感情を抱えています」
「だから、変身願望や非日常への憧れを誰もが持っていますし……。それらの物語がたくさんあるのも当然でしょう」
「しかしながら……。変身願望や非日常が魅力を持つのは、当たり前の日常が保障された上でのことですから……」
「日常がなくなった世界で、『透明な存在』に変身して……。果たして、どうやって生きていくつもりですかねぇ?烏丸さん……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
スマホを操作する麗子。
麗子「そうだ、親に電話しよう!!今日は実家に泊まることにして……」
麗子の耳元から聞こえたスマホの音声は……。
スマホ「お客様がおかけになった電話番号は、現在使われておりません……」
麗子「実家に電話がつながらない……。私の住むところも、実家も両親も……、何もかもなくなっている……」
「じゃあ、私は……。私の存在も、今までの日常も……、全部消えてしまったってこと!?」
スマホに握りしめたまま、麗子は地べたへと座り込む。目の焦点が定まっておらず、放心状態となった麗子。
ある美術館の前にいる喪黒。
喪黒「世の中にいる大人たちの大半は……、思い通りの人生を生きられず、挫折した人たちで溢れかえっています」
「しかも……、当たり前の日常には退屈さも付きものですから、人々は心の奥にうっ屈した感情を抱えています」
「だから、変身願望や非日常への憧れを誰もが持っていますし……。それらの物語がたくさんあるのも当然でしょう」
「しかしながら……。変身願望や非日常が魅力を持つのは、当たり前の日常が保障された上でのことですから……」
「日常がなくなった世界で、『透明な存在』に変身して……。果たして、どうやって生きていくつもりですかねぇ?烏丸さん……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
23:2018/09/20(木) 03:18:09.208 ID:j/aRdWeg0.net
乙
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