1:2019/04/13(土) 16:33:03.466
召喚士「よし、あとはこの魔法陣に血を捧げるだけだ……」

召喚士(かなりの量流さないといけないみたいだから、ザクッと……)

ザクッ

ボタボタボタ…

召喚士「うぐっ……出でよ、かつて世界を焼き尽くしたといわれる火魔神よ!」

ボワンッ!

召喚士「なんだ、この軽い音は」

暇人「…………?」

召喚士「あの……火魔神様、ですよね?」

暇人「暇人だけど?」


3:2019/04/13(土) 16:36:48.400
召喚士「暇人!? 火魔神じゃなくて!?」

暇人「ふぁぁ……暇だ」

召喚士(バカな……そんなはずはない!)

召喚士(僕はちゃんと書物に載ってた通りの方法でやったぞ! ミスってるわけが――)

暇人「うん? お前怪我してんじゃん。どれ、暇だし応急処置してやるよ」

暇人「この布で腕を縛って……止血して……」ギュッ

召喚士「ありがとう……」

召喚士「って、僕はんなこと望んでないんだよ!」

暇人「いきなり怒鳴るなよ。ビックリするだろ」
4:2019/04/13(土) 16:39:28.614
召喚士「……そうか、分かったぞ! ふざけてるけど、本当はお前、火魔神なんだろ!?」

召喚士「僕をからかってるだけなんだろ!?」

暇人「ハァ?」

召喚士「隠してるだけで、きっとすごい炎の力を持ってるに違いない!」

召喚士「ほれ、このイモを焼いてみろ!」ポイッ

暇人「…………」パシッ
5:2019/04/13(土) 16:42:27.954
暇人「よく分からんけど、これで料理すりゃいいのか?」

暇人「まあどうせ暇だし、やってやるけどさ」

召喚士(見れる……火魔神の力の一端を!)

暇人「台所借りるぞ」

暇人「お、火打石あった。これで……」カチカチッ

ボッ…

召喚士「えっ……道具で火起こしすんの」

暇人「ちょっと待ってろ。すぐおいしい料理作るから」

召喚士「あ、うん……」

グツグツ… コトコト…
6:2019/04/13(土) 16:43:55.920 ID:acEoMJ1ga.net
意外と有能
8:2019/04/13(土) 16:45:32.566
暇人「ほれ、できたぞ。イモとそこらの材料使って、シチュー作ってみた」

召喚士「うまそうな匂い……」

召喚士「いただきます」モグモグ

召喚士「――うまい!」

暇人「なにせ暇だからなぁ。料理もこんなに上手くなっちまった」

召喚士「って、だからこんなこと望んでないって!」

暇人「褒めたり怒ったり忙しい奴だな。羨ましいぞ」
11:2019/04/13(土) 16:48:37.096
召喚士「ちょっと待ってくれ……お前は本当に火魔神じゃないのか?」

暇人「だから暇人だって」

召喚士「ウソだろ……苦労して学院の書庫にある禁術書を盗み見たのに……」

召喚士「やっと僕を落ちこぼれだっていじめる奴らを見返せると思ったのに……」

暇人「落ちこぼれが禁術なんて使っても、そら失敗するだけだろー」

召喚士「うるさいうるさいうるさぁい!」

暇人「暇だからゲームしようぜ」

召喚士「やらねえよ! お前もう帰れよ!」

暇人「暇だし、しばらくこっちに滞在するわ」

召喚士「ううう……」
12:2019/04/13(土) 16:51:50.212
次の日――

召喚士「じゃあ、行ってくる」

暇人「どこ行くんだ?」

召喚士「学校だよ」

暇人「へえ、お前学生だったのか」

召喚士「正確には召喚士専門の高等学院。ここを卒業しなきゃ正式な召喚士にはなれないのさ」

暇人「ふうん、面白そうだな。俺もついていくよ」

召喚士「なんでだよ!」

暇人「だって暇なんだもん」

召喚士「……勝手にしろ!」
13:2019/04/13(土) 16:56:27.253
―学院―

女術士「おはよう!」

召喚士「おはよう」

女術士「あら、そっちの人は?」

暇人「暇人だ。こいつに召喚されたんだが、暇なんでついてきた」

女術士「そうですか……」

召喚士(こんなの召喚しちゃっただなんて恥ずかしい……)
14:2019/04/13(土) 16:59:28.204
銀髪「やぁ、おはよう」

召喚士「!」ビクッ

生徒A「落ちこぼれが! もう学校来るなっつったろー!」

生徒B「ろくな魔物召喚できねーくせによ!」

召喚士「…………」

暇人「なんだこいつら?」

召喚士「僕をいじめてくる奴らさ。みんな、召喚術の腕前はすごいんだ」

召喚士「特にあの銀髪は、学校始まって以来の才能ともいわれている……」

暇人「ふうん」
15:2019/04/13(土) 17:03:08.736
生徒A「悔しかったらなにか召喚してみろよ! 落ちこぼれ!」

召喚士「……出でよ!」ボワンッ

クズ「クズーッ!」ピョンピョン

生徒A「ギャハハハッ、なんだそりゃ!」

生徒B「相変わらずクズみたいな魔物しか召喚できないのな!」

銀髪「ぷっ……」

召喚士「くそっ……おいクズ、こいつらをやっつけろーっ!!!」

クズ「クズ?」
16:2019/04/13(土) 17:06:18.532
クズ「クーズクーズクーズ」ピョンピョン

召喚士「ぐうう……!」

生徒A「全然ダメじゃねーか! こんな低級魔物にすらナメられてやがる!」

生徒A「いいか? 召喚ってのはこうやるんだよ! 出でよ!」ゴゴゴゴゴ…

使い魔「キシャァァァァァッ!」

召喚士「わっ!」

生徒A「ちょいと痛めつけてやれ!」

使い魔「キシャァッ!」

ドカッ! バシッ!

召喚士「ぐふっ! ぐあっ!」

生徒B「あーあ、情けない。見ちゃいられませんね」

銀髪「フッ……」
17:2019/04/13(土) 17:09:24.088
召喚士(こうなったら、あいつに助けを求めるのはシャクだけど……)

召喚士「暇人! 助けてくれーっ!」

暇人「んー、今忙しい」

召喚士「なんでだよ!? さっき暇だっていってたじゃん!」

暇人「いやほら、学校なんて初めて来たから、見学で忙しいんだよ」

召喚士「ふざけんなーっ!」

生徒A「あれ、お前の使い魔か? クソの役にも立たねーな! ほれもう一発だ!」

バキッ!

召喚士「ぎゃうっ!」

アハハハハ… ハハハハハ…
18:2019/04/13(土) 17:10:54.424 ID:NKuEygzlr.net
忙しいなら仕方ない
19:2019/04/13(土) 17:12:38.945
召喚士「ううう……」

銀髪「…………」ザッ

召喚士「?」

銀髪「いいかい? 召喚士っていうのは数ある魔法職の中でも最も高貴な職業なんだ」

銀髪「なんたって魔物や精霊を自在にしもべとして使役することができるんだからね」

銀髪「はっきりいって君みたいな奴が目指していい職業じゃないんだよ」

銀髪「もう一度……自分がどこへ向かうべきかよく考えるんだね。学院を退去することも視野に入れてさ」

召喚士「う、うぅ……」

生徒A「うへえ……きっつぅ~!」

生徒B「下手な暴力よりよっぽどこたえるぜ、ありゃ」
20:2019/04/13(土) 17:16:26.521
―召喚士の家―

召喚士(やっと一日が終わった……)

暇人「いやー、なかなか立派な学校だったな。キレイだし、メシはうまいし、女の子も……」

召喚士「……おいっ!」

暇人「なんだよ」

召喚士「なんで……僕を助けてくれなかったんだよっ!!!」

暇人「逆に聞くけど、なんで助けなきゃいけないの?」

召喚士「…………!」

召喚士「もういいっ! お前なんか当てにしない!」
21:2019/04/13(土) 17:19:27.758
召喚士「すごい魔物を召喚できるようになって、あいつらを……!」

召喚士「出でよ!」ボワンッ

クズ「クズーッ!」

召喚士「またクズみたいな魔物かよぉぉぉぉぉ!」

クズ「クズー、クズー!」ピョンピョン

召喚士「ううう……今度こそ!」

ボヨヨーンッ

ザッソー「雑草などという草はない!」

召喚士「変な草が出たぁ!」
23:2019/04/13(土) 17:22:17.614
召喚士「ううっ……ろくなのが出ない……」

召喚士「こんなに……こんなに頑張ってるのに……」

暇人「おーい、暇だからゲームしようぜ」

召喚士「誰がやるか!」

暇人「じゃあ一人でダイス転がして駒進めるボードゲームやるわ」コロコロ…

召喚士「楽しいのかよ?」

暇人「楽しいよ」
25:2019/04/13(土) 17:25:49.610
―学院―

生徒B「いけっ、大カマキリ!」

大カマキリ「キルーッ!」

ザンッ!

召喚士「僕の教科書を! ――なんてことするんだよ!」

生徒B「わるいわるい、召喚の練習してたらつい……」

生徒A「いいじゃねえか、そのくらいなら修復が得意な魔物を呼び出せば直せるだろ」
26:2019/04/13(土) 17:29:05.509
召喚士「うう……全然いい魔物が出ない」

クズ「クズーッ!」ピョンピョン

暇人「あーあ、キレイに破かれちゃって」

女術士「ちょっと、どうしたのそれ!?」

召喚士「あ、いや……」

女術士「修復アメーバを召喚して、すぐ直してあげる!」

召喚士(自力じゃ教科書も直せないだなんて情けない……)
27:2019/04/13(土) 17:33:23.277
―召喚士の家―

ボワンッ!

クズ「クズーッ!」

召喚士「またお前か!」

召喚士「こんな役立たずじゃダメだ! すごい魔物を召喚できるようにならなきゃ……!」

召喚士「あいつらを驚かせるような魔物を……!」

暇人「ふぁぁ……毎日毎日ご苦労なこって」

暇人「ところで、暇だから聞くんだけど」

召喚士「なんだよ!?」

暇人「お前ってなんで、そんな頑張って召喚術を練習してるわけ?」

召喚士「決まってるだろ! 僕をいじめてくる奴らを……見返すためだよ!」

暇人「ふうん、そうかい」
29:2019/04/13(土) 17:36:45.178
暇人「んじゃ聞くけど……」

暇人「お前、自分が召喚される側だったとして、そんな理由で呼び出されてやる気出るか?」

召喚士「…………!」

暇人「俺だったら出ないなぁ」

召喚士「僕だって……」

暇人「ん」

召喚士「僕だって……昔は、昔は……!」

召喚士「うっ……」ポロッ

召喚士「うぐぅぅぅぅぅ~~~~~~! うぅぅぅぅぅぅ~~~~~~!」
30:2019/04/13(土) 17:40:31.797
召喚士「どうして僕はこんな奴になっちゃったんだ……!」

召喚士「うっ、うっ、うっ……!」

暇人「自分でもずっと気にしてたみたいだな。ほら、メシ作ってやるよ」

召喚士「…………」コクッ

クズ「クズゥ……」

暇人「お、お前も食ってくか」

クズ「クズーッ!」

暇人「悔しくて泣けるってことは、まだまだ見込みがあるってことだ。諦めるんじゃねえぞ」

召喚士「……うん」
31:2019/04/13(土) 17:44:02.256
―学院―

生徒A「よう、落ちこぼれ」

生徒B「なんか召喚してみろよ! あのクズ魔物でもいいからよ!」

召喚士「……いや、誰かを見返すための召喚はしないって決めたんだ」

生徒A「ハァ? 落ちこぼれがなに気取ってやがる! 使い魔! やっちまえ!」

使い魔「キシャァァァァァッ!」

召喚士(これでいい……黙って耐えれば……!)

――ガシッ!

使い魔「ギ……!」グググ…

暇人「その辺にしとけよ」
32:2019/04/13(土) 17:47:24.934
暇人「ふんっ!」ドゴッ

使い魔「ギャウッ!」ドサッ

生徒A「ああっ……!」

生徒B「てめえ、よくも……!」

召喚士「ど、どうして……」

暇人「暇だったんでな」

生徒A「ぎ、銀髪さん!」

銀髪「へえ、なかなかの使い魔じゃないか」

銀髪「だったら次はボクが相手になってあげるよ。出でよ!」ゴゴゴゴゴ…

召喚士(何を召喚する気だ……!?)
33:2019/04/13(土) 17:50:16.093
小型竜「ギャオオオオオオンッ!」ズウンッ

生徒A「す、すげえ……!」

生徒B「小型とはいえ、もうドラゴンを召喚できるなんて……」

小型竜「グルルルルル……」

召喚士(レベルが違いすぎる……!)

小型竜「スゥゥゥゥゥ……」

召喚士「まずい、炎を吐いてくる! 暇人、逃げろ!」

暇人「…………」

召喚士(逃げない!? 暇人にはあの炎をどうにかする自信があるってのか!?)
35:2019/04/13(土) 17:52:36.175
小型竜「ギャオオッ!!!」ボォォォォォッ

暇人「フットワーク!」ススッ…

召喚士「かわした!」

暇人「ボディ! ボディ! ボディ!」ズンッズンッズンッ

小型竜「イダッ! イダイ……!」

銀髪「なにっ!?」

召喚士(ボディブロー連打……!? なんて地味な……)
37:2019/04/13(土) 17:56:06.910
小型竜「ガオオオッ!」ブオンッ

暇人「うおっとぉ!」サッ

召喚士(でもやっぱり危ない! 応援を――)ボワンッ

クズ「クズーッ!」

召喚士「お願いだ……暇人を助けてやってくれ!」

クズ「クズッ!」ピョーンッ

ドカッ!

小型竜「ギャウッ!?」

召喚士(はじめて僕のいうことを聞いてくれた!)

暇人「よっしゃ、もう一発ボディ!」ズンッ

小型竜「イダイッ……!」

銀髪「ちっ……」
40:2019/04/13(土) 17:59:15.513
ザワザワ… ザワザワ…

教師「コラ、なにをやっているんだ!」

銀髪「何でもありませんよ、召喚の訓練をしてただけです」

教師「……とにかくすぐ、教室に戻りなさい!」

銀髪「分かりました」

銀髪「なるほど、少しは腕を上げたようだね。こんなに手こずるとは思わなかった」

召喚士「!」
41:2019/04/13(土) 17:59:50.886 ID:dUIlXuJ+d.net
小型竜ちゃんかわいそう
42:2019/04/13(土) 18:01:41.554
銀髪「だったら、この決着は≪召喚術大会≫でつけることにしよう」

召喚士「…………!」

召喚士「いいだろう」

銀髪「じゃあね。そこで君との才能の差ってやつを思い知らせてあげるよ」

ザッザッザッ…



召喚士(召喚術大会、か……)
44:2019/04/13(土) 18:04:16.856
暇人「ふぅ、きわどかったな」

召喚士「ありがとう……暇人」

暇人「いいってことよ。ところで今、お前はあいつらを見返したわけだけど、どう思ってる?」

召喚士「うーん、なんだろ。不思議なことにそこまで嬉しくはないんだよな」

召喚士「むしろ、暇人とクズが無事だったことにホッとしてるよ」

クズ「クズゥ……」ピョンピョン

暇人「召喚される側としてもよ、そう思われた方が助けがいがあるってもんよ」

召喚士「うん……」

召喚士「それに、暇人って結構強かったんだな」

暇人「暇だったからずっとボクシング練習してたからな」シュッシュッ
46:2019/04/13(土) 18:08:14.039
暇人「そういや、召喚術大会ってのはなんだ?」

暇人「召喚した魔物で殴り合いでもすんのか?」

召喚士「武術系学校じゃあるまいし、そんな勝負しないよ」

召喚士「課題を出されて、それに適する魔物や精霊を召喚できるかを競う大会だよ」

召喚士「審査員は召喚術協会の偉い人がやるから、当然卒業後の進路に影響する」

暇人「奴らと決着つけるにはうってつけの舞台ってわけか」

召喚士「うん……だけど、勝ち負けはどうでもいいんだ」

召喚士「結果はどうあれ自分のベストを尽くして、あいつらに胸張れるようにするよ!」
48:2019/04/13(土) 18:13:05.748
……

暇人「おっとっと」ニュルニュル

召喚士「どうしたんだ、それ!?」

暇人「ウナギだ。暇だから釣ってきた」

暇人「暇だし、焼いて食おうぜ」

召喚士「う、うん」
50:2019/04/13(土) 18:15:06.079
暇人「食えよ」

召喚士「変わった料理だね……いただきます」モグモグ

召喚士「おお、うまい!」

暇人「ひつまぶしってんだ」

召喚士「暇潰し?」

暇人「ひ、つ、ま、ぶ、し」

召喚士「よくこんな料理知ってるな」

暇人「召喚される前は暇だったから、こういうのをいくらでも勉強できたんでな」
51:2019/04/13(土) 18:17:09.220
……

暇人「おーいカードゲームやろうぜ」

クズ「クズーッ!」

召喚士「今、忙しいんだけど……ま、いっか」

召喚士「ちょっとだけなら」

暇人「よっしゃ、三人でやれるゲームにしよう」

クズ「クズ、クズ!」ピョンピョン
53:2019/04/13(土) 18:19:46.082
召喚士「……もう一回!」

暇人「またー? もう真夜中だぞ……」

クズ「クズゥ……」

暇人「こいつももう帰りたいってよ」

召喚士「うるさい! もう一回だ! もう一回!」

暇人「お前、絶対ギャンブルとかやっちゃダメなタイプだな……」

クズ「クズーッ!」

召喚士「うるさい! 勝つまでやるんだ!」
55:2019/04/13(土) 18:23:33.646
……

女術士「このところ、なんか顔つき変わったね」

召喚士「そうかな」

女術士「うん、頼もしくなったっていうか、一皮むけたっていうか」

女術士「ごめんね……。私、あなたがあいつらにいじめられてたこと知ってたのに……」

召喚士「いや、そのことは自分の問題だから、君が気にすることじゃないよ」

召喚士「それより、お互い今後の召喚術大会、頑張ろう!」

女術士「うん!」
56:2019/04/13(土) 18:26:01.298
暇人「よっ」ニュッ

召喚士「おわっ! お前どこから出てきてんだよ!」

暇人「暇だったもんで、覗き見させてもらってたよ」

召喚士「趣味悪いなぁ……」

女術士「あなたは暇人さん、でしたっけ?」

暇人「そう、世界一暇な奴さ。暇なんで、今度デートでもどう?」

女術士「ええっと、私は……」

召喚士「相手しなくていいから」
57:2019/04/13(土) 18:29:16.675
……

召喚士「むむむ……出でよ!」

ズモモモモ…

スライム「プルルルル……」

召喚士「よし……だいぶ召喚の腕も上がってきた」

召喚士「これもお前のアドバイスがあったおかげだよ。心構えが変わったっていうか」

召喚士「自分のためだけに召喚したら、そりゃ召喚された側だって嫌だよな……」

暇人「よせよせ、俺は暇だったから指摘してやっただけだって」
58:2019/04/13(土) 18:31:36.571
暇人「そういや暇だから聞くんだけど」

召喚士「ん?」

暇人「なんでお前は召喚士になろうと思ったんだ?」

召喚士「暇だから聞くのかよ……まぁいいけど」

召喚士「僕、子供の頃、迷子になってしかも転んで怪我したことがあったんだ」

暇人「子供の頃から冴えなかったんだな」

召喚士「ほっといてくれ」

召喚士「そんな時、白いローブの術士が通りがかって……」
59:2019/04/13(土) 18:34:01.341
……

少年「えぐっ、えぐっ……」シクシク

白術士「坊や、大丈夫かい?」

少年「痛いよぉ……」ヒック

少年「いだいよぉぉぉぉぉ……!」

白術士「面白い物を見せてあげよう」

少年「……へ?」

白術士「出でよ!」ブワァァァッ
60:2019/04/13(土) 18:38:30.265
キラキラキラキラキラ…

白術士「見てごらん……ホシホタルだ!」

少年「わぁっ……」


……


召喚士「あんなに泣きわめいてたのに、気づいたら痛みなんか忘れてた」

召喚士「あの時のことが強烈に印象に残って、僕は人々の役に立つ召喚士になりたいと思ったんだ」

暇人「ふうん、いい話だな」

召喚士「といっても、近頃はあの時抱いた初心なんてすっかり忘れてたけどね」

暇人「……久しぶりだな」

召喚士「……え?」

暇人「あの時の子供が……立派になったもんだ」

召喚士「まさか……まさか!? お前……いや、あなたは――」
61:2019/04/13(土) 18:41:16.167
召喚士「あの時の召喚士……!」

暇人「いや、全然別人なんだけどね」

召喚士「なんだそりゃ!?」

暇人「暇だったからからかってみた」

召喚士「今のはかなり悪趣味だぞ、マジで!」

暇人「悪い悪い」

暇人「初心に帰ったところで、もうひとふんばりだな!」

召喚士「うん!」

暇人「俺としてもこの大会だけは……なんとしても見届けたいしな」

召喚士「…………?」
62:2019/04/13(土) 18:44:04.076
大会当日――

―学院―

女術士「いよいよだね、召喚術大会!」

召喚士「うん、ベストを尽くそう!」



生徒A「ふん、あんな落ちこぼれがベスト尽くしたとこでたかが知れてるっての!」

生徒B「大恥かくだけですよねえ?」

銀髪「ああ……召喚士としての格の違いを思い知らせてやるよ」
63:2019/04/13(土) 18:46:37.660
教師「本日の順番を発表する!」


ワイワイ… ガヤガヤ…


召喚士「ゲッ、僕はだいぶ後の方かー」

暇人「後の方がいいじゃねえか。他の奴を見てからやれるんだから。むしろ有利じゃねえか」

召喚士「その分、より工夫を求められるからね。ああ……ついてないや」

暇人「そんなもんか」
64:2019/04/13(土) 18:49:40.781
会長「学院の皆さん、おはようございます」

会長「本日、審査委員長を務めさせて頂く、召喚術協会の会長です」

会長「さっそく本日の課題を発表いたします」

会長「本日の課題は……こちら!」

ゴースト「ヒッヒッヒ……」フワフワ

会長「このゴーストと出会ったら……です。皆さんの回答を期待しています」



暇人「よほど難しい課題かと思ったら、えらいシンプルだな」

召喚士「うん、シンプルだからこそ色んな答えが出る……難しい課題だよ」

暇人「こりゃいい暇潰しになりそうだ」

召喚士「ああ……今からドキドキしてきた」
65:2019/04/13(土) 18:52:17.991
……

生徒A「出でよ、石ゴーレム!」

ゴーレム「グオオオオオオオオッ!!!」

生徒A「うおおおおおお、ブン殴れぇ!」

ゴーレム「グオオオオオオオオオオオオオッ!」ブンブンブンッ

生徒A「当たらない!? 通り抜けちまう!」

ゴースト「ヒッヒッヒ……」



生徒B「大カマキリ! やれぇっ!」

大カマキリ「シャアッ!」ズバッ

ゴースト「ダメダメ」チッチッチッ

生徒B「手応えがない! くそっ!」
69:2019/04/13(土) 18:54:39.672
ゴースト「ヒッヒッヒ……」

女術士「出でよ!」ポンッ

女術士「キレイなお花を召喚しました。どうぞ」サッ

ゴースト「コレハドウモ」



暇人「お供えの花ってか? 女の子らしい答えじゃないか」

召喚士「うん、これも一つの答えだと思う」
70:2019/04/13(土) 18:57:41.122
教師「では、続いて銀髪君!」


銀髪「はいっ!」


会長「む……」ピクッ

教師「彼は我が学院期待の星でしてね」

会長「うむ、一目見ただけで優れた術士と分かった。どんな術を見せてくれるか楽しみだ」
71:2019/04/13(土) 19:01:04.040
ゴースト「ヒッヒッヒ……」フワフワ

銀髪「悪しきゴーストめ……ボクが成敗してやる」

銀髪「光の精霊よ! かの者を浄化せよ!」

光の精霊「承りました」パァァァァァァ…

ゴースト「ワッ!?」

ゴースト「ウアアアア……!」ジュワァァァァァ…



ザワッ…

暇人「うおっ、すげえ光!」

召喚士「あんな高等精霊を、しかもあのスピードで出せるなんて……!」

召喚士(でも……!)
72:2019/04/13(土) 19:05:42.067
会長「そこまで」

銀髪「!」

会長「その年で、すでに光の精霊を呼び出せるとは大したものだ」

会長「君はおそらく、十年に一度……いや五十年に一度の才能かもしれないな」

銀髪「ありがとうございます!」



暇人「おお、めっちゃ評価されてやがる。こりゃプレッシャーがかかりますなぁ?」

召喚士「勝ち負けなんか関係ない。僕は自分の役目をまっとうするだけだよ」

暇人「カードゲームでムキになって徹夜した奴の台詞とは思えねえな」

召喚士「それはいわないで」
73:2019/04/13(土) 19:08:06.899
……

教師「では続いては、召喚士君!」

召喚士「はいっ!」



召喚士「…………」ザッ

ゴースト「ヒッヒッヒ……」フワフワ

ゴースト「ヒーッヒッヒッヒ!」フワフワフワ

召喚士「…………」


ドヨドヨ…

「なんであいつ召喚しないんだ?」 「突っ立ったままだぞ」 「早くしろよー!」
74:2019/04/13(土) 19:10:21.631
ゴースト「ヒッヒッヒ……」

召喚士「…………」

ゴースト「モシモーシ?」



生徒A「あいつ、どうしちまったんだ?」

生徒B「大舞台にビビって、召喚術を使えねえのさ!」

銀髪「…………」
76:2019/04/13(土) 19:12:53.558
教師「君! なにやってるんだ!」

召喚士「あ、いや……じっくり観察してるんです。暇だから」

教師「暇ァ!? 今、大会中だぞ!」

ゴースト「オカシナヤツ……」





暇人(あいつ……)
77:2019/04/13(土) 19:16:58.274
召喚士「君は悪いゴーストじゃない。よく観察してると、多分まだ子供だってのが分かる」

ゴースト「ヒ……」

召喚士「笑ってるのは僕らをからかってるわけじゃなく、今こうしてこの場にいることが楽しいからだ」

召喚士「もしかして君は……僕らと遊びたいんじゃないかな?」

ゴースト「…………」

召喚士「だから一緒に遊ぼうよ!」

召喚士「出でよ! 泡ボール!」

泡ボール「バブバブバブ」

召喚士「君は男の子そうだし、この泡ボールでキャッチボールでもやろう!」

ゴースト「…………」

ゴースト「……ウン!」
78:2019/04/13(土) 19:20:03.022
召喚士「そらっ!」ポーイッ

ゴースト「アハ……」ガシッ

ゴースト「ソレッ!」ポーイッ

召喚士「ナイス!」パシッ



教師「なにやってんだ、あいつ……! 召喚の腕を競い合う場だというのに……!」

会長「待ってくれ」

会長「もう少し、もう少しだけ……続けさせてくれないか」

教師「は、はいっ!」
80:2019/04/13(土) 19:23:22.137
ゴースト「タノシカッタ……」

召喚士「いやー、君の方がだいぶ上手かったね、キャッチボール」

召喚士「それじゃ、またね」

ゴースト「ウン、マタアソボウ!」



パチパチパチパチパチ… パチパチパチパチパチ…

女術士「よかったよー!」

生徒A「なんで、こんな拍手が……」

生徒B「大したことないですよ、こんなの! ねえ!」

銀髪「くっ……!」
81:2019/04/13(土) 19:29:02.810
総評――

会長「本日は、さまざまな召喚術を見せてもらいました」

会長「色々な解釈を見ることができて、私もいち召喚士として大変参考になりました」

会長「ところで、今日課題となったゴースト……実は彼は私の亡くなった息子なんです」

ゴースト「ヒッヒッヒ……」

ザワッ…

会長「亡くなった後、私のもとに化けて現れて、どうしても人の役に立ちたいというので」

会長「今回、課題となってもらいました。これで心おきなく旅立てると思います」

会長「それでは、最優秀賞を発表します」


ザワザワ… ドヨドヨ…


銀髪「ぐ……!」
82:2019/04/13(土) 19:33:34.293
会長「最優秀賞は……銀髪君!」

銀髪「…………!」

銀髪「ど、どうして……ボクが……。ご子息にとんでもないことを……」

会長「もし、ゴーストが悪性のものだったら、即座に浄化するのが正解だし――」

会長「その年で光の精霊を使役できる才能を、やはり評価しないわけにはいかないからね」

会長「しかし……召喚士というのは本当に難しい職業だ」

会長「強大な魔物や高位の精霊を召喚することが、常に正解だとは限らない」

会長「時と場合によっては、取り返しのつかない事態を引き起こすおそれもある」

会長「そのことをじっくり踏まえて、今後の道を歩んで下さい」

銀髪「……はい」

パチパチパチパチパチ…

会長「それともう一人、個人的にお礼をいいたい生徒さんがいます」
84:2019/04/13(土) 19:36:40.192
会長「召喚士君!」

召喚士「は、はいっ!」

会長「息子と遊んでくれて……ありがとう」

召喚士「え? あ、いえ……」

会長「賞こそあげられないが、君はすでに召喚士にとって必要なものを持っている」

会長「今後、より成長してくれることを期待していますよ」

召喚士「あ、ありがとうございます!」

パチパチパチパチパチ…

会長「ところで、君のことは……昔、どこかで見たことがあるような……」

召喚士「?」

会長「あ、いやなんでもない。こちらのことだ」
85:2019/04/13(土) 19:40:34.360
……

女術士「やったね!」

女術士「銀髪君のあの悔しそうな顔といったら! 全然嬉しそうじゃなかったもん!」

暇人「おう、スッキリしたぜ! 試合に負けて勝負に勝つってやつだ!」

暇人「あんなの実質勝ちみたいなもんだろ!」

クズ「クズーッ!」

召喚士「召喚術は勝ち負けじゃないよ……」

暇人「お?」

召喚士「といいたいとこだけど、やっぱり嬉しい」

暇人「いいんだ、いいんだ、それでいいんだ! 勝敗なんて気にしないなんて悟るにゃ早すぎるぜ!」
86:2019/04/13(土) 19:43:29.554
―召喚士の家―

暇人「ほーれ、出来たぞメシだ!」

召喚士「うまそう!」

クズ「クズーッ!」

ムシャムシャ… ガツガツ…

召喚士「相変わらずお前の料理の腕は天下一品だな!」

暇人「ありがとよ!」

暇人「…………」
88:2019/04/13(土) 19:46:17.978
召喚士「おいしかったー」

暇人「満腹になったところで、大事な話がある」

召喚士「なに?」

暇人「俺……そろそろ帰るわ」

召喚士「!?」

召喚士「な、なんで……!? なんでいきなり……!?」

暇人「忘れたのか? 俺は召喚された身だぞ? いつかいなくなる日が来るのは当たり前だろうが」

召喚士「そりゃそうだけど……」
89:2019/04/13(土) 19:50:37.985
暇人「俺は禁術で呼び出されたわけだが、時間切れってわけだ」

暇人「実はムリヤリ滞在してたが、もうそういうわけにもいかなくなった」

暇人「だから……お別れだ」

召喚士「だけどさ、永遠の別れってわけでもないだろ?」

召喚士「またあの術を使えば……」

暇人「いや、ダメだ」

暇人「あの術の代償は手間や血を流すだけじゃねえ。目に見えないところでもお前に大きな負担を強いてる」

暇人「一度ならいいが、二度も三度もやったら、確実にお前は蝕まれていく」

暇人「できれば二度と使うな! それがいいんだ!」

召喚士「う……」
91:2019/04/13(土) 19:53:05.613
暇人「それにな、お前はもう俺がいなくても大丈夫だ」

暇人「召喚術は人並みに上達したし、あのいじめっ子どもにも一泡吹かせてやった」

暇人「もう……なんにも心配はいらねえ。安心して帰れる」

召喚士「……ありがとう」

召喚士「あとどのくらいいられるんだ?」

暇人「明日の朝までってとこかな」

召喚士「分かった。最後に……めいっぱいゲームしよう!」

暇人「おう、手加減しねえぞ!」
93:2019/04/13(土) 19:57:14.959
次の日――

暇人「じゃあ、そろそろ行くわ」

召喚士「うん、元気でね」

暇人「そうだ、最後にイモをくれないか?」

召喚士「イモ? どうせならもっといい食べ物を……」

暇人「いや、イモがいいんだ」

召喚士「分かったよ……ほら」

暇人「…………」

暇人「返す」

召喚士「?」
94:2019/04/13(土) 20:00:16.348
召喚士「…………!」ホカホカ

召喚士(ホクホクだ……)

召喚士「暇人、お前もしかして本当は――」

暇人「じゃあな。おかげでたっぷり暇潰しできたぜ……親友」

召喚士「僕もだよ、親友……!」



…………

……
95:2019/04/13(土) 20:00:55.645 ID:acEoMJ1ga.net
ヒマジン…!!
96:2019/04/13(土) 20:05:11.069
―召喚士の家―

妻「ねえ、今朝の新聞見た?」

召喚士「ん?」

妻「一緒の学院だった銀髪君が、召喚術協会の幹部に推されたらしいけど、辞退したんだって」

召喚士「あいつも立派になったもんだ」

妻「あの大会の一件から、生まれ変わったように謙虚になったものね」

召喚士「天才に謙虚になられたら、もう勝ち目はないよ」

妻「なにいってんの。あの大会での一件は、学院では伝説になってるんだから」

妻「召喚士とはどういう心得であるべきかっていうのを示すお手本エピソードになってるんだってよ」

召喚士「ハハ、ありがとう。じゃ、行ってきまーす」

妻「今日も子供達に召喚術のなんたるかを教えてあげてね」

召喚士「ああ、うちの学院にも初等部ができたし、しっかり教えてくるよ」
97:2019/04/13(土) 20:08:41.617
―学院(初等部)―

児童「先生!」

召喚士「ん?」

児童「今、図書室で借りた魔神の本読んでるんだけど、魔神っておっかないね!」

児童「特にこの火魔神って魔神、かつて世界を焼き尽くしたんだって!」

児童「こんなの呼び出しちゃったら、世界はどうなっちゃうんだろう……」

召喚士「今では禁術の書は厳重に封印されてるから、そうなる恐れはないけど……そうだなぁ」
98:2019/04/13(土) 20:11:23.669
召喚士「もしかしたら、本当に世界を焼き尽くしちゃうかもしれないし」

召喚士「もしかしたら……案外暇してて、料理を作ったり、イモ焼いてくれるかもしれないぞ」

児童「アハハ、なにそれー!」







~おわり~
99:2019/04/13(土) 20:12:08.022 ID:DeUuInkt0.net
おつおつ

永らく封印されて暇だったんか
100:2019/04/13(土) 20:13:11.975 ID:k/slWPafd.net
イモに始まりイモに終わってた
101:2019/04/13(土) 20:13:17.012 ID:94StDTrS0.net
ほんとに火魔神だったのか
117:2019/04/13(土) 20:45:09.480 ID:uMbzwqryx.net

暇人いい奴すぎwww