32:2019/05/17(金) 14:40:10.798
勇者「!?」

魔法使い「ごくごくごくごくっ!」

勇者「おまえ、何やってんだよ!?」

魔法使い「……ん……ぷはー。うぃー」

勇者「の、飲み干しやがった……」

魔法使い「うげぇ……苦いよぉ」

勇者「バカヤロウ!なんでそんなもん飲んでんだ!」

魔法使い「ふぇ? だって勇者様は強いし、不死になるなら弱いわたしかと思って!ほらわたし、虚弱体質で、きっと勇者様に叩かれたら死んじゃうくらい弱いんで!」

勇者「そういう問題じゃない!毒とかだったらどうするんだ!?」

魔法使い「だーいじょうぶですよ。ほら、わたしぴんぴんしてバタンキュー」

勇者「な!?おい、魔法使い!」

勇者「(まずい!白目向いてやがる!やっぱり毒だったのか!)」

魔法使い「ほえ?あ、勇者しゃんらぁー」

勇者「……」

魔法使い「わらひれふよー。おはななじみのまふぉーつかいでふよー」

勇者「(なんだこいつ……顔が赤いぞ?目も焦点が合ってない……)」

勇者「(まさか、酔っ払ってるのか!?)」

魔法使い「あいらかったよー、ゆーしゃしゃまー、だぁいしゅきー、ちゅーっ!」

勇者「ば、バカ!離れろ!」ガツン!

魔法使い「……っ、あ、きゅー…………」ばた

勇者「う……ちょっと強く殴りすぎたか。まあ、すぐ眼を覚ますだろ。……っ!?」

勇者「(な、なんだ!?急に視界が白く!?耳鳴りも酷いし意識がぼんやりとして……)」



33:2019/05/17(金) 14:40:29.446
勇者「(……ここはどこだ?知らない天井だな)」

勇者「(俺は確か、魔王の手から世界を救うため、伝説の聖剣を手に入れて故郷の王国に戻ってきたはず……)」

勇者「(そして幼馴染の魔法使いと再会し……王宮に謁見に行き、そして……)」

勇者「(はっ……!そして国王に餞別として不死の薬を貰ったんだ!それを飲んだ魔法使いが……!)」

魔法使い「勇者様!朝です!おはようございます!」

勇者「魔法使い!?」

魔法使い「はい!魔法使いです!貴方の幼馴染で引っ込み思案だけどちょっと大胆で、銀髪で碧眼の魔法使いです!」

勇者「(なんだその説明台詞は……)」

勇者「お、おまえ、無事なのか?」

魔法使い「はい?……あー、普段は修道服ですが、今は戦闘時じゃないので、ショートパンツにティーシャツ姿です!」

勇者「(だからなんの説明なんだ?)」

勇者「おまえ確か不死の薬を飲んで……」

魔法使い「んー?」

勇者「(いや、そんなはずはないか。悪い夢だ。俺も聖剣を手に入れる旅で疲れていたんだろう)」

勇者「すまん。なんでもない」

魔法使い「ですか!では支度してください!今日は防具を買いに行くんですよね!」

勇者「わかった。着替えるから少し出てろ」

魔法使い「きゃー///」

勇者「……」
34:2019/05/17(金) 14:40:42.484
勇者「(うーん……やっぱり町の武器屋だといい防具が見つからないなあ……)」

商人「悪いねぇ兄さん。前回の出兵の時に、いいものは全部騎士団が持ってったんだよ。今となっちゃあろくな剣も盾もありゃしねえ」

勇者「そうか。こんな下町の武器屋のものまで掻き集めて、必死だったんだな」

商人「ああ。何せ魔王はもう世界の半分近くを制圧してる。焦るのも無理はねえ……。俺だっていつまでこうしていられるか……」

勇者「心配ない。俺が必ず世界を救う」

勇者「(その為に俺は師匠の死を乗り越え、聖剣を手にして戻ってきたんだ……!)」

魔法使い「見て見てー、勇者様!このナイフ変な形ー!」

勇者「(む。なかなかいいナイフだ。デザインから見てベンズの中期型。あの形状……はっ!?)」

商人「いけねえ!お嬢ちゃん!そいつは毒ナイフだ!」

勇者「(あのバカ!指先を切りやがった!)」

魔法使い「ぐはぁッ!?……きゅー……」

勇者「魔法使いイイイイイイイイ!!」
35:2019/05/17(金) 14:40:55.975
勇者「(……ここはどこだ?知らない天井だな)」

勇者「(俺は確か、魔王の手から世界を救うため、伝説の聖剣を手に入れて故郷の王国に戻ってきたはず……)」

勇者「(そして幼馴染の魔法使いと再会し……王宮に謁見に行き、そして……)」

勇者「(はっ……!確か武器屋に行って魔法使いが毒ナイフの毒で……!)」

魔法使い「勇者様!朝です!おはようございます!」

勇者「……デジャヴ?」

魔法使い「違いますよ?わたしはそんな名前じゃありません!魔法使いです!ま、ほ、う、つ、か、い!」

勇者「お、おう……魔法使い、な……」

魔法使い「はい!魔法使いです!貴方の幼馴染で引っ込み思案だけどちょっと大胆で、銀髪で碧眼の魔法使いです!」

勇者「(このくどい説明台詞……夢に出てきたものと同じ……!?)」

勇者「(どういうことだ……まるで時間が戻ったみたいな……)」

魔法使い「お目覚めのところ早速ですが支度してください!今日は防具を買いに行くんですよね?」

勇者「(くそ……。なんだこの形容し難い既視感は……と、とにかく)」

勇者「わかった。着替えるからちょっと出てろ」

魔法使い「きゃー///」

勇者「……」
36:2019/05/17(金) 14:41:09.480
商人「悪いねぇ兄さん。前回の出兵の時に、いいものは全部騎士団が持ってったんだよ。今となっちゃあろくな剣も盾もありゃしねえ」

勇者「あ、ああ……仕方ないよ、なにせ魔王はもう世界の半分近くを制圧しちまってるからな……」

商人「そうさ。俺もいつまで――」

勇者「(はっ!確かこの辺で魔法使いがナイフを手に持って!)」

勇者「(振り返ると、そこにはナイフを手に取る魔法使いが……!)」

勇者「(右ストレートでぶっとばす!)」

魔法使い「きゃっ!勇者様どうして急にナイフを殴ったりして……」

勇者「(壁に突き刺さったナイフを見て安心した。あの形状、やはり毒か)」

商人「ば、バカな。ありゃあ毒ナイフじゃねえか!なんでこんなところに?嬢ちゃんすまねえ。危ないところだったな……」

勇者「(夢だとここで魔法使いは毒にやられる……)」

勇者「(あの夢は危険を教えてくれる予知夢だったのか……?)」

商人妻「あんたー、台所のナイフ知らないかーい?」

商人「あぁ?そんなもん知るか!どんなナイフだ?」

商人妻「形状はベンズの中期型よー」

勇者「……」

勇者「(もう何でもいいから防具買って出よう)」
37:2019/05/17(金) 14:41:21.850
勇者「(結局大したものじゃなかったが、こんなもんでもあるだけマシか。胸当てと、小手)」

魔法使い「ふふふ」

勇者「どうした?」

魔法使い「いいえ。勇者様が勇者みたいだなーと」

勇者「なんだそれ。おまえは何も買わなくてよかったのか?」

魔法使い「大丈夫です。わたしには魔法のローブがあります!魔法攻撃はもちろん、物理攻撃にもかなりの耐性があります!」

勇者「ほう……」

魔法使い「だから突然転んで頭を打ったりしない限りは、簡単にやられたりしませんよ!」

勇者「なんだそのフラグみたいな台詞は」

魔法使い「ふぇ?フラグてなんですか、ゆうしゃさ」

勇者「!!」

勇者「(バナナの皮を踏んだ魔法使いが正面に倒れる。なんでこんなところにバナナの皮が!?)」

魔法使い「きゅー」

勇者「魔法使いイイイイイイイイ!!」
40:2019/05/17(金) 14:41:37.452
勇者「(う……まただ。また、あの天井だ)」

勇者「(さっきまで身に着けていた胸当ても小手もない……)」

勇者「(これがもし、今朝の繰り返しというなら、直に魔法使いが部屋に入ってくるはず……!)」

魔法使い「勇者様!朝です!おはようございます!」

勇者「!!」

勇者「(これで確定だ。どういう理屈かわからないが、俺の一日は一定の地点で巻き戻されている……)」

勇者「(既に俺の存在が魔王にばれてなんらかの攻撃を受けているのか……それとも)」

魔法使い「ゆーしゃさーまー?」

勇者「(魔法使いが怪訝そうに俺の顔を覗き込んでいる。だが今は無視だ)」

勇者「(この不可解な現象を解き明かさない限り、俺はこの時間の牢獄に囚われ続けることになる)」

魔法使い「もしかして取り込み中ですか……?男の人は朝大変だって言うし……」

勇者「(まずは時間が巻き戻るきっかけを――ん?魔法使いがごそごそしてるぞ?)」

魔法使い「勇者様!お手伝いします!えいっ!」

勇者「な、おまえなんで急にモーフをはぎ取って……!?」

勇者「(まずい!今俺のエクスカリバーはぎんぎんに――!)」

魔法使い「?」

勇者「///」

魔法使い「なんていうか……思い過ごしでした……」

勇者「?」

魔法使い「勇者様……わたしだと、元気にならないんですね。ぐすん」

勇者「魔法使いイイイイイイイ!!」
41:2019/05/17(金) 14:42:25.835
勇者「(やはり、今回も毒ナイフを魔法使いが手にとった。俺は同じ胸当てと小手を買って装備した。大したものじゃないが、こんなもんでもあるだけマシか。)」

魔法使い「ふふふ」

勇者「どうした?」

魔法使い「いいえ。勇者様が勇者みたいだなーと」

勇者「(貧相な胸当てと小手を装備しただけだから、勇者というより雑兵感が増した気がするが……)」

勇者「まあ、防具はあれだが、俺にはこの聖剣があるからな」

魔法使い「聖剣///」

勇者「?」

魔法使い「その……勇者様の、それは……剣っていうよりペティナイフですね……///」

勇者「魔法使いイイイイイイ!!」

魔法使い「でもでも!わたしは嫌いじゃないです!その、あんまり大きいと、その……疲れちゃいますし///」

勇者「魔法使いイイイイイイ!!」

勇者「……え?」
42:2019/05/17(金) 14:42:36.942
勇者「(バカなやりとりをしてる場合じゃない)」

勇者「(本当ならペティナイフではなくサバイバルナイフだと訂正したいところだが、そろそろ2度目の巻き戻し地点だ……)」

勇者「(あの時は確か、魔法使いがバナナの皮で転んで頭を打って……)」

勇者「(はっ!前方からゴリラみたいな女がバナナを食いながら歩いてくる!?)」

勇者「(あの雌ゴリラ、あろうことか食い終わったバナナの皮をポイ捨てしやがった!!)」

勇者「魔法使い、危ない!!」

魔法使い「ふぇ? きゃっ!!」

勇者「(俺は魔法使いを抱きかかえるようにして進行方向を変更させた)」

勇者「(これでバナナの皮トラップは回避した。あの雌ゴリラ、まさか魔王軍の放った魔獣なんじゃないか?)」

魔法使い「あの……勇者様?」

勇者「どうした?」

魔法使い「胸……触ってます」

勇者「わ、す、すまん!!」

魔法使い「いいですよー。慣れてますから。あはは。そんなに慌てちゃって。勇者様だって初めてじゃないでしょう?」

勇者「いや、俺はそんな……」
43:2019/05/17(金) 14:42:59.437
勇者「(バカなやりとりをしてる場合じゃない)」

勇者「(本当ならペティナイフではなくサバイバルナイフだと訂正したいところだが、そろそろ2度目の巻き戻し地点だ……)」

勇者「(あの時は確か、魔法使いがバナナの皮で転んで頭を打って……)」

勇者「(はっ!前方からゴリラみたいな女がバナナを食いながら歩いてくる!?)」

勇者「(あの雌ゴリラ、あろうことか食い終わったバナナの皮をポイ捨てしやがった!!)」

勇者「魔法使い、危ない!!」

魔法使い「ふぇ? きゃっ!!」

勇者「(俺は魔法使いを抱きかかえるようにして進行方向を変更させた)」

勇者「(これでバナナの皮トラップは回避した。あの雌ゴリラ、まさか魔王軍の放った魔獣なんじゃないか?)」

魔法使い「あの……勇者様?」

勇者「どうした?」

魔法使い「胸……触ってます」

勇者「わ、す、すまん!!」

魔法使い「いいですよー。慣れてますから。あはは。そんなに慌てちゃって。勇者様だって初めてじゃないでしょう?」

勇者「いや、俺はそんな……」



勇者「え?」

魔法使い「え?」
44:2019/05/17(金) 14:43:20.140
勇者「少し街道に出てみるか」

魔法使い「何か用事でもあるんですか?」

勇者「そうだな。旅に出る前におまえの実力を確かめておきたい」

魔法使い「あー!勇者様わたしのこと舐めてますね!」

勇者「ほう……。自信あり気だな」

魔法使い「よゆうです!わたしの実力見せつけてやります!」

勇者「ふふ。楽しみだな。よし。装備を取りに戻って出発だ」

魔法使い「だいじょうぶです!この辺りならスライムくらいしかでませんしローブはなくても問題ありません!」

勇者「頼もしいじゃないか」

魔法使い「はい!わたし、意外とヌルヌルもいけるんです!」

勇者「魔法使いイイイイイ!!」
46:2019/05/17(金) 14:43:36.897
魔法使い「えいっ!えいっ!ええーいっ!」

スライム「ギャー、ヤラレライムー……」

勇者「(なるほど。複数の属性の魔法が使えるのか。少し火力不足だが後方支援は任せられそうだな)」

魔法使い「どうですか?わたしもなかなかやるでしょう?」

勇者「ふん。まだまだだな」

魔法使い「男はみんな、はじめはそういうんです!」

勇者「……」

魔法使い「勇者様に認めてもらうために、とことんやっちゃいますよー!」

勇者「おいおい。この辺りの魔獣を狩りつくす気か。ん?」

勇者「(スライム共が集まってなにかしている?)」

勇者「(半透明の体が内部から発光し始めた……?)」

勇者「(これは……!巨大な魔力がスライムの塊に凝縮されていく!)」

魔法使い「とっておきいっちゃいますよー!(以下、詠唱」

勇者「バカ!ちんたらするな、やばいぞ!」

スライム「 大 爆 発 」

魔法使い「きゃああああああああああ!」

勇者「くっ……魔法使い……ッ!!」

魔法使い「体中がヌルヌルです……こんなに熱くて量が多いなんて……だ、め……。きゅー」

勇者「魔法使いイイイイイ!!」
47:2019/05/17(金) 14:44:12.157
勇者「(これで3度目の天井……)」

勇者「(ここまでくればいくら何でも解る)」

勇者「(この繰り返しのトリガーは魔法使いの死)」

勇者「(魔法使いが死ぬと、どういう訳か時間が巻き戻される)」

勇者「(あいつ自身の魔法か……?いや、時間を逆行するなんて、それこそ魔王クラスの使い手でなければ不可能だ)」

勇者「(だとしたら、あの薬!不死になる薬!)」

勇者「(あの国王、なんてものを寄越しやがるんだ!死ぬ度に時間が巻き戻るなんて、とんだ不死だ!)」

勇者「(疑問が残るとすればなぜ俺は巻き戻された時間で記憶を引き継いでいるのか……いや、これは簡単か)」

勇者「(俺の聖剣は外部からの呪術、魔術的な干渉をシャットアウトする。それで俺は世界の逆光に取り残され、意識だけが残留しているんだ)」
48:2019/05/17(金) 14:44:23.519
魔法使い「勇者様!朝です!おはようございます!」

勇者「……」

魔法使い「浮かない顔ですが、どうしました?」

勇者「魔法使い、話がある」

魔法使い「え……そんな突然、心の準備が……」

勇者「(こいつ、なんでくねくねしてるんだ?)」

勇者「魔法使い……おまえを、旅に連れて行くわけにはいかない」

魔法使い「え……?」

勇者「(正直、魔法使いの耐久性はティッシュ以下だ。魔法使いを連れて魔王軍の連中と戦うのは厳しい。ここに置いていけば、そうそう死ぬこともないはずだ)」

魔法使い「そんな……わたし、勇者様の力になる為に……ずっと一人で修道院で修業してきたのに……」

勇者「ダメだ。おまえだと足手まといだ。実力不足なんだ。俺を困らせるな」

魔法使い「!!」

勇者「わかったらもう帰れ。俺の意見は変わらん」

魔法使い「勇者様の……バカ!」

勇者「(魔法使いのビンタが俺の頬を打つ。全然痛くない)」

魔法使い「バカぁ……」

勇者「(魔法使いは泣きながら、走り去っていった)」

勇者「(これでいいんだ)」

勇者「(あいつは言っても聞かない。俺が王国に帰った時、あんなにも嬉しそうに迎えてくれたんだ。俺の為に修業したと泣きながら語っていた。だから、こんな風に俺が悪者になって
嫌われなければあいつはついてくる)」

勇者「これで、よかったんだ……」

魔法使い「勇者様の、短小ぅぅぅぅぅぅ!」

勇者「ま、魔法使いぃぃぃぃぃ……」
53:2019/05/17(金) 14:46:40.627
勇者「(俺は魔法使いを連れずに王国の外に出た)」

勇者「(群がってくる魔獣達は聖剣の一振りで全滅した)」

勇者「こんな雑魚に手こずるなんて……やっぱり、あいつは連れてこなくて正解だ……」

勇者「ん?なんだ、王国の方から途轍もない魔力を感じる……!」

勇者「ば、バカな!」

勇者「(高い壁に囲まれた王国の各所から黒煙が空に立ち昇っているのを発見し、俺は急遽王国に引き返した)」
54:2019/05/17(金) 14:46:52.529
国民「きゃあああああああ!きゃああああああ!」

勇者「(街中が阿鼻叫喚の渦。立ち並ぶ民家や商店は業火に包まれ崩れ落ちていく。逃げ惑う民衆は皆、絶望と恐怖の表情をしていた)」

勇者「おい、これはどういうことだ!?」

国民「アンタは……最近王宮に出入りしていた勇者!?」

勇者「どうなってる?魔王軍が侵攻してきたのか?」

国民「どうもこうもねえ!とんでもねえ……あんたの連れの魔法使いがやったんだよ!」

勇者「なんだと!?」

勇者「(これほどの惨状を魔法使いが……?低級魔獣に後れを取るような奴だぞ!?)」

勇者「魔法使いは今どこだ!?」

国民「あ、あいつなら街を破壊しながら王城へ向かってるよお!」

勇者「(くそ!にわかには信じられないが急がねえと。このままだと魔法使いがテ口リストになっちまちまう!)」

勇者「(俺は大急ぎで王城へ向かった。途中、無残に四肢を失った子供の亡骸や、夫を失った女性の泣き顔を見た。これではまるで、魔王の所業だ……!)」
55:2019/05/17(金) 14:47:02.465
近衛兵「く……もうここまで進攻を……!」

近衛兵隊長「なんとしても食い止めろ!!魔導砲部隊!準備を急げ!」

魔導砲部隊「だ、ダメです隊長!ここら一体の魔力があの魔法使いに急速に集まっていきます!」

近衛隊長「なんだと……。あれは、前回の出撃に召集すらされなかった修道院の落ちこぼれだろ!?なぜここまで強力な魔法を……!」

近衛兵「隊長……我々ではもはや……」

近衛隊長「諦めるな!我々が諦めれば、誰が王城を守る!」

近衛兵「しかし……隊長……」

近衛隊長「この……この、この!!何か、何か手はないのか!?」

近衛兵「……!! 隊長! こちらに向かってくる人影が!」

近衛隊長「なに!?民衆は避難させたはず……!いや、あれは、勇者……!?」
56:2019/05/17(金) 14:47:21.778
勇者「魔法使い……」

魔法使い「アアアアアアア!!!!アアアアアア!!!」

勇者「(魔法使いの白い肌には深緑の光を放つ術式が浮かび上がっていた。狂気に曇った目と暴走する魔力を纏った姿はまるで異形の魔獣のようだ)」

勇者「魔法使い!落ち着け!俺だ、勇者だ!」

魔法使い「ユウ、シャ?」

勇者「そうだ!俺だ!」

魔法使い「アアアアアアア……ユウ、シャ、サ、マアアアアアア!!!」

勇者「!?」

勇者「(魔法使いの頭上に浮かぶ漆黒の雲が魔力を帯びる。雷鳴よりも先に俺は身をかわしたが、直前まで立っていた場所は落雷に抉られた)」

魔法使い「ドコ……ユウシャ、サマ……アアアアアア!!ヒトリ、ニ、シナイ、デ……アアアアアアアアアア!!」

勇者「(くそ!なんて魔力だ!魔法使いを中心に旋風が巻き起こり、放電が周囲を破壊する。足元から地面に亀裂が生まれ、避けた大地からは溶岩が噴出していた。このままだと王
国どころか、世界そのものが危ない!!!!)」

魔法使い「ワタシ私、わたし、ワ、タシハアアアアアアア!!ユウシャ、サマト、アアアアアアア、イッショ、ニアアアアアアア!!」

勇者「ぐ、くそ。魔法使いを置いていった結果がこれなら……どうすればいいんだ……!」

勇者「!!」

勇者「(城壁の上に何か……。あれは、巨大な槍……?)」
57:2019/05/17(金) 14:47:47.695
プロフェッサー「フェフェフェ。丁度よい機会にお披露目できそうですな……」

近衛隊長「貴方は……魔王軍に捕虜にされるも、魔の研究知識を蓄え王国に帰還した狂気のマッドサイエンティスト、!!」

プロフェッサー「フェフェフェ。説明ご苦労」

近衛隊長「こ、この兵器は……?」

プロフェッサー「わしの開発した新魔導兵器、グングニルEXバージョン3じゃ」

近衛隊長「プロフェッサー……お言葉ですが、あれに魔導兵器は通じません。起動するための魔力がすべてあの魔法使いに集中し、霧散してしまうのです……」

プロフェッサー「フェフェフェ。従来の魔導兵器は確かに空間に漂う魔力を集めて起動するがこいつは違う……」

近衛隊長「と、申しますと……?」

プロフェッサー「フェフェフェ。いつから魔力が大気中にしか存在しないと思い込んでいた?」
58:2019/05/17(金) 14:48:02.281
近衛兵「ちょ、ちょっとプロフェッサー!なにをするんですか」

プロフェッサー「フェフェフェ。電極ぶっさー」

近衛兵「うわああああああ、力が抜け……る……隊……長……」

プロフェッサー「フェフェフェ。こいつは大気中ではなく人間の中に存在する魔力を元に起動する。生命力を魔力に置換するおまけ付きでな」

近衛隊長「な、なんてことを……!」
プロフェッサー「シャラアップ!そら、充填が完了したぞ、放てええええ!!」

近衛隊長「ぐぉ……なんて魔力だ……これでは、あの魔法使いだけでなく魔力耐性の城壁に囲まれたこの城以外は……!」

プロフェッサー「!?」

近衛隊長「な、あの魔法使い……。槍を相殺して……いや、あれは……勇者を庇った……?」

プロフェッサー「フェフェフェ。あれを凌ぐとはなんと……データじゃ!素晴らしいデータじゃ!ほれ、次じゃ次、隊長殿、次のイケニエを用意せえ」

近衛隊長「だ、ダメだ!これ以上部下を無駄死にさせるわけにはいかない!もう止めるんだこのマッドサイエンティスト!!」

プロフェッサー「な、なにをしよるか!離せ小童!!!アーーーーーッ!!!!!!」
60:2019/05/17(金) 14:48:16.619
魔法使い「アアア……ウゥ」

勇者「(放たれた槍上のエネルギー体を魔法使いは自らが受け止める事で相殺した。あれだけ凄まじい威力をその身に受け、はじめて魔法使いの暴走が止まった)」

魔法使い「マモル……ワタシ、ガ、ユウシャサマ……ユウシャ……クン……ヲ……」

勇者「魔法使い、おまえ……」

魔法使い「ダイ、ジョウブ……ユウシャ、クンハ……ヒトリボッチ……ジャ、ナイ……」

勇者「ああ……ああ!!」

魔法使い「グガアアアアアアアアアアア」

勇者「(まずい!城壁周辺の魔力がまた高まっている!あれが来ることを察した魔法使いが術式を展開し始めた!)」

勇者「やめろ、魔法使い!もういいやめろ!」

勇者「(空には金色の魔法陣が数十――いや、数百、数千とその数を増やしながら展開させていく。高速回転を始めたそれが地上に収束した魔力を放つまでもう猶予が感じられない……!)」

勇者「(止めるには魔法使いを……だが、それは……)」

勇者「(いや、魔法使いが死ねば時間が戻る!)」

勇者「(この惨劇も……)」
61:2019/05/17(金) 14:48:28.160
勇者「……」

魔法使い「ユウシャクン……」

勇者「……できない」

勇者「たとえ時間が戻るとしても……俺にはそんなこと……!」

魔法使い「ユウシャクン……オネガイ……」

勇者「……!!」

魔法使い「セカイヲ、スクウ……ユウシャニ、ナッテ……」

勇者「う……魔法使い……」

勇者「(それは、幼いころに両親を失って塞ぎ込んでいた俺を立ち直らせてくれた、幼馴染の言葉だった)」

魔法使い「アアアアアアアア、アアアアアア、アアアアアッッッツッ!」

勇者「くそ……ちくしょおおおおおおおおおお!!!!」

勇者「(俺は……)」

勇者「(俺は、聖剣を抜き、魔法使いを切り裂いた。聖剣の力は魔法使いの体に刻まれた術式を破棄し、光を失ったそれは、魔法使いの命を散らすように瞬いて消失した。最後、倒
れこむ魔法使いと目が合う。彼女は血に濡れた唇で小さく笑っているようだった)」

勇者「(また、頭痛と眩暈が来る。視界を覆う光が俺の意識を連れ去った)」
62:2019/05/17(金) 14:48:38.662
勇者「(見慣れた天井だ……。この光景が目に映るということは、やり直しの朝が来たということだ)」

勇者「(頭でそれを理解していても、俺は勢いよく飛び起きて窓の外を確認した。喉かな朝の町。朝日に木漏れ日が揺れ、鳥が鳴きながら彼方へ飛んでいく。昼の喧騒にはまだ遠い、静かな街並み……)」

勇者「よかった……」

勇者「ま、魔法使いは――!?」

魔法使い「勇者様!朝です!おはようご――って、きゃあ!」

勇者「魔法使い……!魔法使いぃ……!」

魔法使い「な、なんですか、朝からそんな熱い抱擁……!え、勇者様、泣いてるの……?」

勇者「魔法使い……ごめん、ごめん俺、おまえを……!!」

魔法使い「……勇者様」

勇者「うううぅ……うう……」

魔法使い「大丈夫だよ、勇者くん。わたしだよ。わたしはここにいるよ」

勇者「ううぅ、あぁ……」

魔法使い「えへへ。やっぱり変わってない。強くなっても、勇者くんは勇者くんだ……。ずっと、わたしが好きだった男の子……」

勇者「魔法使い……俺……俺……」

魔法使い「どうしたんですか?勇者くん」

勇者「俺……守るから、必ず君を守るから……!」

魔法使い「うん。よろしくお願いします」

勇者「絶対、ずっと……俺が守るから……!」

魔法使い「うん」

勇者「魔法使いぃぃぃぃぃぃぃい……!!」


-旅立ち編-Fin
63:2019/05/17(金) 14:48:59.277 ID:PDhXGY9VM.net
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