1:2019/05/28(火) 00:13:23.247
主人「みんな、今夜は勇者様がここに宿泊する!」

主人「勇者様一行は魔王を倒すため旅をしていて、大変疲れている!」

主人「全力でおもてなしするぞ!」

妻・息子「応ッ!!!」

従業員「いつも通り接客した方がいいんじゃ? 絶対空回りしますよ」

主人「む!」

従業員「それにどんな客でも全力でもてなすのが、宿屋のあるべき姿だと思いますが」

主人「ええい、正論を吐くな!」

主人「もし、勇者様に気に入ってもらえたら評判も上がり、宿泊客も増えるというもの!」

主人「ゆえにいつも以上に全力でいかねばならんのだ!」

従業員「はぁ……まあ頑張りましょう」
葬送のフリーレン(13) (少年サンデーコミックス)
5:2019/05/28(火) 00:16:35.137
勇者一行――

勇者「今日の敵は手強かったな……」

戦士「ああ……なにしろ暗黒騎士の直属部隊だったからな。敵も本腰入れてきてやがる」

女魔法使い「あたし、もう魔力すっからかんよ……」

女僧侶「私もです……」

勇者「あそこが今日予約してある宿屋だ。ゆっくり休ませてもらおう」
6:2019/05/28(火) 00:19:06.699
パッパッパッ…

勇者「なんだこれ!?」

戦士「紙吹雪……!?」

主人・妻・息子「お待ちしておりましたーっ!!!」

勇者「ど、どうも……」

従業員(だから言わんこっちゃない)

従業員「お部屋へご案内いたします。こちらへどうぞ」
8:2019/05/28(火) 00:22:10.140
戦士「最初は面食らったが、なかなかいい宿だな」

勇者「うん、今夜は久々にくつろげそうだ」

妻「失礼します」

勇者「あ、女将さん」

妻「お風呂の準備ができましたので、どうぞ」

勇者「ありがとうございます!」
9:2019/05/28(火) 00:25:20.306
主人「息子よ、準備しろ!」

息子「うん!」

主人「自慢の斧で……高速薪割りだああああああああああっ!!!」

ココココココココココココココンッ

主人「どんどん薪をくべてけ!」

息子「分かったよ、父ちゃん!」ポポポポポイッ

ボワァァァァァ…
10:2019/05/28(火) 00:28:03.395
女魔法使い「いい湯だったねー」ホカホカ…

女僧侶「ええ、リラックスできました」ホカホカ…

戦士「混浴だったらさらに最高だったのによ!」ホカホカ…

女魔法使い「なにいってんのよ、このスケベ!」ホカホカ…

従業員「お食事の準備ができております。あちらの部屋にどうぞ」

勇者「はい」ホカホカ…
11:2019/05/28(火) 00:32:07.305
妻「当宿名物、ビーフシチューでございます」

勇者「これはおいしそうだ!」

妻「勇者様のお口に合うかどうか……」

勇者「いただきます」モグッ

勇者「……うまい!」

戦士「うめえぜ!」

女魔法使い「こんなにおいしいビーフシチューははじめて!」

女僧侶「濃厚でそれでいてまろやかで……おいしいです!」



妻「あなた、やったわぁ~!」

主人「よくやった、妻よ……!」

ガシッ!
12:2019/05/28(火) 00:34:29.011
従業員「ベッドメイキングが終わりました」

勇者「ありがとうございます」

主人「よろしければ」シュザッ

妻「子守唄を歌いましょうか?」シュザッ

息子「寝酒もあるよ!」

勇者「いえ、お気持ちだけで……」
13:2019/05/28(火) 00:36:55.808
勇者「じゃあ、みんなおやすみ!」

戦士「おう! 今夜はゆっくり休めそうだ!」

女魔法使い「また明日からも戦いは続くものね」

女僧侶「おやすみなさい、皆さん」



ぐぅ…… ぐぅ…… すやすや……
14:2019/05/28(火) 00:39:14.863
……

魔物「暗黒騎士様、どうやら勇者どもは寝静まったようです」

暗黒騎士「今日の昼、奴らはかなりの激戦を強いられている。今こそ絶好の好機だ」

暗黒騎士「この魔王軍幹部が一人、暗黒騎士が必ずや討ち取ってくれようぞ!」

暗黒騎士「さあ、あの宿屋に攻め込むぞ!」

魔物「はっ!」
16:2019/05/28(火) 00:42:22.915
主人「ちょっと待ったァ!!!」

暗黒騎士「……む?」

暗黒騎士「なんだ貴様らは……」

主人「私はこの宿屋の主人だ」

妻「妻よ」

息子「息子だ!」

従業員「えーっと、従業員です」

暗黒騎士「ほう……」
17:2019/05/28(火) 00:44:11.312
暗黒騎士「勇者一行どころか兵士ですらない者が、我々になんの用だ?」

主人「ここから先へは一歩も通さん!」

暗黒騎士「通さない? どういう意味かな?」

主人「分からんのか……勇者様たちに手は出させないという意味だ!」

暗黒騎士「これは面白い……おい、誰か相手をしてやれ」

怪物「ではオレ様にお任せを……」グヘヘヘ…
18:2019/05/28(火) 00:47:23.890
怪物「食い殺してやる!」グワァァァァァッ

主人「……」

主人「薪をカチ割るように……脳天をカチ割るッ!!!」


ガシュッ!!!


怪物「ぐぴゃっ!」ドズゥン…



暗黒騎士「……な!」

暗黒騎士(斧で一撃だと……!)
20:2019/05/28(火) 00:50:38.394
暗黒騎士「面白い……奴らを殺せ! 魔物どもよ!」


ウガァァァァ… キシャァァァァ… グオォォォォォ…


妻「こっちにも来たわよ!」

息子「よぉーし!」

主人「君まで戦うことはないんだぞ?」

従業員「そういうわけにもいかないでしょう。給料もらってますし」
21:2019/05/28(火) 00:52:35.064
妻「包丁乱舞!」

スパパパパパッ!


息子「薪を改造した棍棒でかっ飛ばしてやる!」

カキーンッ!


亜人「てめえは武器無しか! もらったァ!」

従業員「あいにく素手の方が強いもので」シュッ

ズドォッ!

亜人「ごふぅぅぅぅぅ!?」
23:2019/05/28(火) 00:55:48.524
魔物「あ、あいつら……強いです! ものすごく強いです!」

暗黒騎士「……ふむ」

暗黒騎士「宿屋の者ども! この暗黒騎士が直々に相手になってやろう!」チャキッ

主人「……!」

主人(雑魚どもとは格が違うようだ……さすがは幹部!)

主人「行くぞ、暗黒騎士!」ジャキッ
24:2019/05/28(火) 00:58:06.955
主人「でやああああっ!!!」

ガキィンッ!

主人(軽々と……!)

暗黒騎士「人間にしては大したものだ。だが、私の相手になれるレベルではない!」

ズバァッ!

主人「ぐおっ……!」

妻「あなた!」
25:2019/05/28(火) 01:00:28.815
妻「よくもやったわね! ――包丁乱舞!」

キキキキキンッ!

妻「全部捌かれた……!」


息子「だああっ!」ブオンッ

バキィッ!

息子「ぎゃぶっ!」


従業員(飛び蹴りで……!)バッ

ガシッ!

従業員(掴まれた!)

暗黒騎士「むんっ!」ブオンッ

ドゴォッ!

従業員「ぐわぁっ!」
26:2019/05/28(火) 01:03:22.464
主人「ま、まだだ……」ヨロッ

暗黒騎士「!」

暗黒騎士「どけ! 貴様ら如きにかまってる暇はないのだ!」

主人「どくわけには……いかん!」ヨロ…

主人「勇者様の……いや、お客様の安眠を妨げるわけにはいかん。宿屋の誇りにかけて!」

暗黒騎士「宿屋の誇り? 笑わせるなァ!」

ガキィンッ!

暗黒騎士「ぬ……」グググ…

主人「うおおおお……!」グググ…
28:2019/05/28(火) 01:05:23.153 ID:TkxXJZoMr.net
かっけえ
29:2019/05/28(火) 01:06:05.029
暗黒騎士「ハァッ!!!」ブオンッ

主人「ぐはぁっ!」ドサァッ

妻「あなた!」

息子「父ちゃん!」

従業員「旦那さん!」

主人「まだまだ……」ヨロ…

暗黒騎士「まだ立つか……」
30:2019/05/28(火) 01:08:39.344
暗黒騎士「よかろう。その健闘に免じてチャンスをやろう」

主人「なに!?」

暗黒騎士「少し暴れたので腹が減った。なにか食事を持ってこい」

暗黒騎士「もし美味ければ……こちらの気も変わるかもしれんぞ」

妻「……分かったわ!」

妻「私のビーフシチューを持ってくるから待ってなさい!」
31:2019/05/28(火) 01:11:42.131
妻「どうぞ」

暗黒騎士「……どれ」モグ…

暗黒騎士「ほう……これはなかなか……ふむ……」

魔物「あのー、一口いいですか?」

暗黒騎士「ダメだ」

魔物「あうう……」

妻「今日ははりきって作りすぎたから、少しずつでよければみんなに振る舞ってあげるわ!」

ワァァァァ…
33:2019/05/28(火) 01:14:54.592
暗黒騎士「ごちそうさま」

主人「……」

暗黒騎士「一つ質問をしよう」

妻「なによ?」

暗黒騎士「なぜ毒を盛らなかった?」

暗黒騎士「毒を盛っていれば、もしかしたら私を殺せたかもしれないのに」

妻「そんなの決まってるわよ。ねえ、あなた?」

主人「我々は宿屋だ!」

主人「たとえ魔族であろうと、食事を求めてきた相手に毒を盛るなど……そんなことできるかァ!!!」

暗黒騎士「……」
34:2019/05/28(火) 01:17:27.529
暗黒騎士「退くぞ」クルッ

魔物「暗黒騎士様!?」

魔物「まさか、あんな奴ら相手に約束を守るおつもりですか!?」

暗黒騎士「そうではない」

暗黒騎士「この四人を相手にし、なおかつ勇者一行をも倒そうとなると……かえって犠牲は大きくなりそうだ」

暗黒騎士「さらばだ」

暗黒騎士「……なかなかの宿屋だった」

ザッザッザッ…

主人「……」
35:2019/05/28(火) 01:21:11.654
妻「あなた、やったわね!」

息子「あいつら帰ってったよ!」

主人「……ああ。何とかなったな」

従業員「旦那さん、俺、この宿屋に勤めててよかったです」

従業員「皆さんの宿屋魂を見せてもらいました!」

主人「そんなこといっても給料は上げないぞ」

従業員「あ、バレました?」

アハハハハ… ワハハハハ…
36:2019/05/28(火) 01:24:42.282
……

翌朝――

勇者「昨夜は久々にぐっすり熟睡できました!」

勇者「ところで……俺たちが寝てる間は何もありませんでしたか?」

主人「はい、何もありませんでした。なぁ?」

妻「ええ、何もなかったわ」

息子「静かな夜だったよね!」

従業員「勇者様たちがぐっすり眠れて何よりですよ」
37:2019/05/28(火) 01:27:42.026
勇者「それじゃ、行ってきます!」

戦士「絶対魔王を倒してくるぜ!」

女魔法使い「その前に当面の敵はまず暗黒騎士だけどね。そろそろ本人が攻めてくるわよきっと」

女僧侶「皆さん、お世話になりました」

主人・妻・息子・従業員「またお越し下さいませー!!!」







―おわり―
38:2019/05/28(火) 01:29:52.666 ID:dY2OGh050.net
勇者より強い村人だっているけど、それでも魔王を倒せるのは勇者しかいないって話なんだろ
39:2019/05/28(火) 01:41:10.770 ID:TkxXJZoMr.net

いい宿屋だった
40:2019/05/28(火) 01:43:52.893 ID:DNRIlEzx0.net
いい話やん